特許第6237279号(P6237279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6237279保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237279
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20171120BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01L29/78 619A
   H01L29/78 618B
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-17619(P2014-17619)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-146332(P2015-146332A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(73)【特許権者】
【識別番号】511293803
【氏名又は名称】アーゼッド・エレクトロニック・マテリアルズ(ルクセンブルグ)ソシエテ・ア・レスポンサビリテ・リミテ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】石 河 泰 明
(72)【発明者】
【氏名】浦 岡 行 治
(72)【発明者】
【氏名】野 中 敏 章
【審査官】 市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/026400(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/108301(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/151167(WO,A1)
【文献】 特開2013−089971(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/075233(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/161025(WO,A1)
【文献】 特開2011−150324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体からなる半導体層を有する薄膜トランジスタと、
前記薄膜トランジスタを被覆する感光性シロキサン組成物の硬化物からなる保護膜と
を含んでなる薄膜トランジスタ基板の製造方法であって、
アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサンと、
感光剤と、
溶剤と
を含有する感光性シロキサン組成物を用意する工程と、
前記感光性シロキサン組成物を薄膜トランジスタに塗布し、前記溶剤を乾燥して保護膜前駆体層を形成する工程と、
前記保護膜前駆体層を露光する工程と、
露光した前記保護膜前駆体層を現像する工程と、
現像した前記保護膜前駆体層を加熱硬化させて保護膜を形成する工程と、
加熱硬化させた前記保護膜を具備する薄膜トランジスタを少なくとも1回アニーリングする工程と
を含んでなる製造方法。
【請求項2】
前記ポリシロキサンが、
下記式(1)で表わされるシラン化合物と、下記式(2)で表わされるシラン化合物とを塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合して得られるポリシロキサンであって、プリベーク後の膜が5重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に可溶であり、その溶解速度が1000Å/秒以下であるポリシロキサン(I)と、
RSi(OR1 3 ・・・(1)
Si(OR1 4 ・・・(2)
(式中、Rは炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状アルキル基、若しくは少なくとも1つのメチレンが酸素で置換されてもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状アルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基、若しくは少なくとも1つの水素がフッ素で置換されてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、R1 は炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
少なくとも前記一般式(1)のシラン化合物を酸性若しくは塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合して得られるポリシロキサンであって、プリベーク後の膜が2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に可溶であり、その溶解速度が100Å/秒以上であるポリシロキサン(II)と、
を含んでなる、請求項1に記載の製造方法
【請求項3】
前記感光性シロキサン組成物が、アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサン、ジアゾナフトキノン誘導体、及び溶剤を含有するポジ型感光性シロキサン組成物である、請求項1または2に記載の製造方法
【請求項4】
前記感光性シロキサン組成物が、アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサン、光によって酸あるいは塩基を発生させることができる硬化助剤、及び溶剤を含有するネガ型感光性シロキサン組成物である、請求項1または2に記載の製造方法
【請求項5】
前記ポリシロキサン(I)およびポリシロキサン(II)における、前記一般式(2)のシラン化合物の含有量が、それぞれのポリシロキサン化合物中、3モル%から40モル%である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項6】
前記保護膜上に第二の保護膜を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項7】
前記アニーリングが、250℃以上450℃以下で行われることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アニーリングが、酸素雰囲気下で250℃以上400℃以下の温度で行われることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高解像度ディスプレイ向けに、アモルファスInGaZnOに代表される酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの開発が活発に行われている。酸化物半導体は、液晶ディスプレイに使用されているアモルファスシリコン薄膜トランジスタと比較して、電子移動度が大きく、大きなON/OFF比など優れた電気特性を示すことから、有機ELディプレイの駆動素子や、省電力素子として期待されている。ディスプレイ向けの開発においては、特にトランジスタとしてのデバイス動作安定性と大面積基板上での均一性を保つことが重要な課題となっている。デバイス動作安定性に極めて重要な要素としては、酸化物半導体層を外部雰囲気から保護する絶縁膜がある。しかし、このような絶縁膜としては、従来のアモルファスシリコンを用いた薄膜トランジスタに利用されてきた保護用絶縁膜が主に使用されており(特許文献1および2)、酸化物半導体が本質的に持つ物性を十分活かせていない虞がある。そして、このことが酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの性能が制限される要因の一つとなっていると考えられている。
【0003】
酸化物半導体における保護膜は、水分や水素、酸素等の侵入を抑制するものでなければならない。これら不純物の侵入は、酸化物半導体の導電性を著しく変化させ、閾値の変動など動作安定性を阻害する。このような点から従来の保護用絶縁膜は、主に化学気相成長法(CVD)やスパッタリングなどの物理気相成長法(PVD)を利用したSiOx、SiNx、SiONxなどが、単層あるいは複層で適用される。これら高バリア性の無機膜を成膜するためのCVD等の製造プロセスは、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの下地層である酸化物半導体にダメージが与えられる虞がある。具体的には、真空蒸着装置を利用して形成させた従来の保護膜として、SiO膜やSiN膜があるが、これらの膜は原料ガスをプラズマなどにより分解して成膜するため、この作製プロセスにおいて、プラズマにより発生するイオン種が酸化物半導体表面にダメージを与え、膜特性を劣化させる場合がある。また、酸化物半導体素子の製造の際には、さまざまな薬液やドライエッチング等のプロセスで酸化物半導体がさらに劣化することが懸念される。したがって、工程からの保護として、エッチストッパー等の保護膜が併せて適用されたりしている(特許文献3)。
【0004】
また、このようなガスを原料とする成膜方法を用いた場合、大画面のディスプレイを作成する際に、均一な保護膜を成膜することが困難であった。そのため、このような点を解消するために、塗布法で保護膜を成膜することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-211410号公報
【特許文献2】特開2013-207247号公報
【特許文献3】特開2012-235105号公報
【特許文献4】特開2013-89971号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Juan Paolo Bermundo、Yasuaki Ishikawa、Haruka Yamazaki、Toshiaki Nonaka、Yukiharu Uraoka、"Effect of polysilsesquioxane passivation layer on the dark and illuminated negative bias stress of amorphous InGaZnO thin-film transistors"、第60回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、2013年3月29日、29p-F1-5
【非特許文献2】Juan Paolo Bermundo、Yasuaki Ishikawa、Haruka Yamazaki、Toshiaki Nonaka、Yukiharu Uraoka、" Effect of reactive ion etching and post-annealing conditions on the characteristics and reliability of a-InGaZnO thin-film transistors with polysilsesquioxane based passivation layer"、The 13th International Meeting on Information Display (IMID)講演予稿集、2013年8月26日、431頁(P2-30)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでそのような塗布法に用いられている保護膜形成用溶液は、主にポリイミド樹脂やアクリル樹脂を含んでおり、その溶液を用いて形成された膜は高温でアニーリングを行うことができないために十分な性能を発揮できないことが多く、改良の余地があった。また、シロキサン樹脂を用いた塗布型保護膜も提案されている(特許文献4)が、この文献にはその保護膜を具備した半導体素子初期のトランジスタ特性は示されているものの、駆動安定性については十分な開示がなされておらず、改良の余地があるものと考えられる。また、シロキサン樹脂を塗布型保護膜として使用し、ドライエッチングで保護膜を加工した際に劣化した酸化物半導体素子を、酸素雰囲気下で300℃、2時間アニーリングすることにより、半導体素子特性を回復し、信頼性の高い素子を製造する方法が提案されている(非特許文献1および2)。しかしながら、保護膜をドライエッチで加工する方法や、高温における半導体素子の長時間アニーリングは、高コストであり、また生産効率の観点からもさらなる改良の余地がある。
【0008】
本発明者らは上記のような課題を解決する方法について検討し、アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサンと、感光剤と、溶剤とを含有する感光性シロキサン組成物から、簡便な方法で保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板を形成することができるとの知見を得た。さらには、このような保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板では、薄膜トランジスタの劣化が抑えられ、比較的緩やかなアニーリングで薄膜トランジスタ基板に高い駆動安定性を付与することができるとの知見を得た。本発明は、係る知見に基づいてなされたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板であって、高い駆動安定性を付与することができる薄膜トランジスタ基板を提供することである。
【0010】
また、本発明の別の目的は、保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板の製造方法であって、露光現像により保護膜の加工が可能であり、さらに薄膜トランジスタ基板のアニーリングによって、薄膜トランジスタに高い駆動安定性を付与することができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、
薄膜トランジスタと、
前記薄膜トランジスタを被覆する感光性シロキサン組成物の硬化物からなる保護膜と
を含んでなる薄膜トランジスタ基板であって、
前記薄膜トランジスタが酸化物半導体からなる半導体層を有し、
前記感光性シロキサン組成物が、
アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサンと、
感光剤と、
溶剤と
を含有する
ことを特徴とする、薄膜トランジスタ基板が提供される。
【0012】
また、本発明の好ましい態様によれば、
前記ポリシロキサンが、
下記式(1)で表わされるシラン化合物と、下記式(2)で表わされるシラン化合物とを塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合して得られるポリシロキサンであって、プリベーク後の膜が5重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に可溶であり、その溶解速度が1000Å/秒以下であるポリシロキサン(I)と、
RSi(OR1 3 ・・・(1)
Si(OR1 4 ・・・(2)
(式中、Rは炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状アルキル基、若しくは少なくとも1つのメチレンが酸素で置換されてもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状アルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基、若しくは少なくとも1つの水素がフッ素で置換されてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、R1 は炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
少なくとも前記一般式(1)のシラン化合物を酸性若しくは塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合して得られるポリシロキサンであって、プリベーク後の膜が2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に可溶であり、その溶解速度が100Å/秒以上であるポリシロキサン(II)と
を含んでなる感光性シロキサン組成物から形成される、上記の薄膜トランジスタ基板が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、上記の薄膜トランジスタ基板の製造方法において、
アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサンと、
感光剤と、
溶剤と
を含有する感光性シロキサン組成物を用意する工程と、
前記感光性シロキサン組成物を薄膜トランジスタに塗布し、前記溶剤を乾燥して保護膜前駆体層を形成する工程と、
前記保護膜前駆体層を露光する工程と、
露光した前記保護膜前駆体層を現像する工程と、
現像した前記保護膜前駆体層を加熱硬化させて保護膜を形成する工程と、
加熱硬化させた前記保護膜を具備する薄膜トランジスタを少なくとも1回アニーリングする工程と
を含んでなる製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電圧ストレス、光ストレス、光・電圧ストレスに対して高い安定性を示す、保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板を提供することができる。従来の塗布型保護膜では、ストレスに対して高い安定性を薄膜トランジスタに与えるのは非常に困難であった。また、本発明によれば、より簡便に安定動作が可能な薄膜トランジスタが実現される。しかも、真空装置等が必要ないため、生産性も大幅に向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板の一態様(実施例1)を示す模式図である。
図2】本発明による保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板の他の一態様を示す模式図である。
図3】本発明による保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板の他の一態様を示す模式図である。
図4】本発明による薄膜トランジスタ基板の伝達特性を示すグラフである。
図5】比較例2による薄膜トランジスタ基板のアニーリングによる性能回復を表わすグラフである。
図6】比較例2による薄膜トランジスタ基板の伝達特性を示すグラフである。
図7】参考例1による薄膜トランジスタ基板のアニーリングによる性能回復を表わすグラフである。
図8】参考例1による薄膜トランジスタ基板の伝達特性を示すグラフである。
図9】参考例2による薄膜トランジスタ基板のアニーリングによる性能回復を表わすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しつつ詳細に説明すると以下の通りである。
【0017】
まず、図1に本発明による製造方法によって形成した保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板1の一態様を示した。図1において、ゲート層2の上にゲート絶縁層3が形成され、その上に金属酸化物半導体層4が形成されている。さらに金属酸化物半導体層4の両端にソース電極5とドレイン電極6がゲート絶縁層3と接するようにそれぞれ形成される。また、図示していないが、金属酸化物半導体層4の上にはエッチストッパーが形成されていてもよい。保護膜7はこれらの金属酸化物半導体層4、ソース電極5、およびドレイン電極6を覆うように形成される。他の態様としては、例えば、保護膜7上のコンタクトホール9を介して、酸化物半導体層4とコンタクトするソース電極5、およびドレイン電極6を形成させた構造を有する薄膜トランジスタ基板(図2)、あるいはトップゲート構造の薄膜トランジスタ基板についても同様に適用することができる。なお、ここに示した構造は単に例示したものであり、本発明による製造方法によってここに示した以外の構造を有する薄膜トランジスタ基板を製造することもできる。
【0018】
図3に保護膜上7に画素電極8を形成した薄膜トランジスタ基板の一態様を示した。保護膜に形成されたコンタクトホール9を介して画素電極8とドレイン電極6がコンタクトしている。
【0019】
[保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板]
本発明による薄膜トランジスタ基板は、薄膜トランジスタと、その薄膜トランジスタを被覆するシロキサン組成物の硬化物からなる保護膜とを含む。本発明による薄膜トランジスタ基板は、保護膜を複数具備していてもよく、薄膜トランジスタを被覆する保護膜の上に、第二の保護膜を有していてもよい。本明細書において、薄膜トランジスタとは、たとえば表面に電極、電気回路、半導体層及び絶縁層などを具備した基板など、薄膜トランジスタ基板を構成する素子全般をいう。また、基板上に配置される配線としては、ゲート配線、データ配線、2種類以上の配線層接続のためのビア配線等が挙げられる。半導体層としてはアモルファスシリコン半導体、多結晶シリコン半導体、および酸化物半導体が一般的である。本発明による保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板は、特に酸化物半導体とアニーリングプロセスによって高い保護特性を得ることができる点で好ましい。従来は、高温アニーリングを可能にするために、保護膜としてPE−CVD法で形成されたシリコン酸化膜や窒化シリコンなどの無機膜が適用されてきたが、これら無機膜にコンタクトホールを形成するためには反応性イオンエッチング等が必要であった。しかし、反応性イオンエッチングは酸化物半導体への劣化を著しく促進させるため、加工後に半導体の性能を回復させるためには後述のアニーリング温度を高くする必要があった。本発明では、保護膜が半導体の劣化を抑え、比較的緩やかなアニーリングで薄膜トランジスタに高い駆動安定性を付与することができる。
【0020】
本発明による薄膜トランジスタ基板における保護膜は、アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサンと、感光剤と、溶剤とを含有する感光性シロキサン組成物から形成される。このような感光性シロキサン組成物を用いることで、露光現像により保護膜の加工が可能であり、ドライエッチング等でパターン加工を行わずに済むため、薄膜トランジスタ性能へのダメージが比較的小さく、アニーリング時間が短くて済むという利点がある。このような感光性シロキサン組成物について、以下に詳細に説明する。
【0021】
[感光性シロキサン組成物]
感光性シロキサン組成物は、感光剤の種類によってポジ型感光性シロキサン組成物と、ネガ型感光性シロキサン組成物とに分類される。本発明による薄膜トランジスタ基板における保護膜を形成するのに用いる好ましいポジ型感光性シロキサン組成物は、アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサン(I)および(II)、感光剤としてのジアゾナフトキノン誘導体、ならびに溶剤を含有する。このようなポジ型感光性シロキサン組成物は、露光部が、アルカリ現像液に可溶になることにより現像によって除去されるポジ型感光層を形成する。一方、本発明による薄膜トランジスタ基板における保護膜を形成するのに用いる好ましいネガ型感光性シロキサン組成物は、アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサン(I)および(II)、光で酸あるいは塩基を発生させることができる硬化助剤、ならびに溶剤を含んでなることを特徴とする。このようなネガ型感光性シロキサン組成物は、露光部が、アルカリ現像液に不溶になることにより現像後に残るネガ型感光層を形成する。
【0022】
<ポリシロキサン>
ポリシロキサンとは、Si−O−Si結合(シロキサン結合)を主鎖とするポリマーのことを言う。また本明細書において、ポリシロキサンには、一般式(RSiO1.5で表わされるシルセスキオキサンポリマーも含まれるものとする。
【0023】
本発明において、保護膜を形成するのに用いる感光性シロキサン組成物に含まれるポリシロキサンとして、アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサンを用いるのが好ましい。このようなアルカリ溶解速度の異なるポリシロキサンとしては、下記のポリシロキサン(I)および(II)を用いることが好ましい。ポリシロキサン(I)は、下記式(1)で表わされるシラン化合物と、下記式(2)で表わされるシラン化合物とを塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合して得られるポリシロキサンである。ポリシロキサン(I)のプリベーク後の膜は5重量%TMAH溶液に可溶であり、その溶解速度が1000Å/秒以下、好ましくは10〜700Å/秒である。溶解性が10Å/秒以上の場合、現像後に不溶物が残存する可能性が極めて低くなり、断線などを防止する上で好ましい。
RSi(OR1 3 ・・・(1)
Si(OR1 4 ・・・(2)
(式中、Rは炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状アルキル基、若しくは少なくとも1つのメチレンが酸素で置換されてもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状アルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基、若しくは少なくとも1つの水素がフッ素で置換されてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、R1 は炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【0024】
ポリシロキサン(II)は、少なくとも一般式(1)のシラン化合物を酸性若しくは塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合して得られるポリシロキサンである。ポリシロキサン(II)のプリベーク後の膜は、2.38重量%TMAH水溶液に可溶であり、その溶解速度が100Å/秒以上、好ましくは100〜15,000Å/秒である。ポリシロキサン(II)の溶解速度は、目的とする保護膜の厚みによって、100Å/秒から15,000Å/秒の範囲で選定することができる。さらに好ましくは、100Å/秒から10,000Å/秒である。15,000Å/秒以下とすることで、ポリシロキサン(I)との溶解速度差が大きすぎず、均一な現像を行うことができる。
【0025】
ポリシロキサン(I)は、現像後のパターンが加熱硬化時に「パターン」だれを起こしづらいが、アルカリ溶解性が極めて小さいため、単独で使用することができない。また、ポリシロキサン(I)あるいは、ポリシロキサン(II)を、単独で使用するためにアルカリ溶解性を調整しても、本発明において保護膜を形成するのに用いる感光性シロキサン組成物が示すようなパターンの安定性は得られないため、ポリシロキサン(I)および(II)を組み合わせて用いるのが好ましい。なお、溶解速度差が大きい場合は、溶解速度の異なる複数のポリシロキサン(II)を使用することが好ましい。
【0026】
上記ポリシロキサン(I)およびポリシロキサン(II)における前記一般式(2)のシラン化合物の含有量は、用途に応じて適宜設定することができるが、それぞれのポリシロキサン化合物中、3モル%〜40モル%であるのが好ましく、5モル%から30モル%であるのが、膜の硬度やパターンの熱安定をコントロールする上でより好ましい。この含有量を3モル%以上とすることで、高温でのパターン安定性がより良好となり、40モル以下とすることで反応活性が抑えられ、貯蔵時の安定性がより良好となる。
【0027】
<アルカリ溶解速度(ADR)の測定、算出法>
ポリシロキサン(I)および(II)のTMAH水溶液に対する溶解速度は、次のようにして測定し、算出する。
【0028】
まず、ポリシロキサンをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に35重量%程度になるように溶解する。この溶液をシリコンウエハ上に乾燥膜厚が約2μmの厚さになるようにスピンコーティングし、その後100℃のホットプレート上で60秒間加熱することによりさらに溶剤を除去する。分光エリプソメーター(Woollam社)で、塗布膜の膜厚測定を行う。次に、この膜を有するシリコンウエハを、ポリシロキサン(I)については5%TMAH水溶液、ポリシロキサン(II)については、2.38%TMAH水溶液に室温(25℃)で浸漬し、被膜が消失するまでの時間を測定する。溶解速度は、初期膜厚を被膜が消失するまでの時間で除して求める。溶解速度が著しく遅い場合は、一定時間浸漬した後の膜厚測定を行い、浸漬前後の膜厚変化量を浸漬時間で除し、溶解速度を算出する。
【0029】
ポリシロキサン(I)、(II)どちらのポリマーにおいても、ポリスチレン換算の重量平均分子量は一般に700〜10,000、好ましくは1,000〜4,000である。分子量が上記の範囲内であれば、現像残差が生じるのを防止して十分な解像度が得られ、感度も良好となるため、分子量を上記範囲内に調整することが好ましい。
【0030】
ポリシロキサン(I)、(II)の混合割合は、層間絶縁膜の膜厚や感光性組成物の感度、解像度等によって任意の割合で調整することが可能であるが、ポリシロキサン(I)を20重量%以上含むことで加熱硬化中の「パターン」だれ防止効果があるため好ましい。ここで「パターン」だれとは、パターンを加熱した際にパターンが変形し、例えば断面が矩形であり、稜線が明確であったパターンが、加熱後に稜線部分が丸くなったり、垂直に近かった矩形形状の側面が傾斜したりする現象をいう。
【0031】
<感光剤>
本発明における、光によってパターンを形成する感光性シロキサン組成物は、その成分として種々の感光剤を含む。ポジ型感光性シロキサン組成物に用いられる感光剤としては、ジアゾナフトキノン誘導体が挙げられ、ネガ型感光性シロキサン組成物に用いられる感光剤としては、光を照射すると分解してシラノール基の縮合を促進させる硬化助剤が挙げられる。以下、それぞれの感光剤について説明する。
【0032】
<ジアゾナフトキノン誘導体>
本発明におけるジアゾナフトキノン誘導体は、フェノール性水酸基を有する化合物にナフトキノンジアジドスルホン酸がエステル結合した化合物であり、特に構造について制限されないが、好ましくはフェノール性水酸基を1つ以上有する化合物とのエステル化合物であることが好ましい。ナフトキノンジアジドスルホン酸としては、4−ナフトキノンジアジドスルホン酸、あるいは5−ナフトキノンジアジドスルホン酸を用いることができる。4−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物はi線(波長365nm)領域に吸収を持つため、i線露光に適している。また、5−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物は広範囲の波長領域に吸収が存在するため、広範囲の波長での露光に適している。露光する波長によって4−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物、5−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物を選択することが好ましい。4−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物と5−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物を混合して用いることもできる。
【0033】
フェノール性水酸基を有する化合物としては特に限定されないが、例えば、以下の化合物が挙げられる(商品名、本州化学工業株式会社製)。
【化1】
【化2】
【化3】
【0034】
ジアゾナフトキノン誘導体の添加量は、ナフトキノンジアジドスルホン酸のエステル化率、あるいは使用されるポリシロキサンの物性、要求される感度、露光部と未露光部との溶解コントラストにより最適量は異なるが、本発明の層間絶縁膜として、好ましくはポリシロキサン混合物100重量部に対して3〜20重量部であり、さらに好ましくは5〜15重量部である。ジアゾナフトキノン誘導体の添加量が3重量部以上であると、露光部と未露光部との溶解コントラストが高くなり、良好な感光性を有する。また、さらに良好な溶解コントラストを得るためには5重量部以上が好ましい。一方、ジアゾナフトキノン誘導体の添加量が20重量部以下であると、硬化膜の無色透明性が向上する。
【0035】
<硬化助剤>
本発明に用いられる硬化助剤としては、光を照射すると分解してシラノール基の縮合を促進させるものがある。組成物を光硬化させる活性物質である酸を放出する光酸発生剤、塩基を放出する光塩基発生剤等があげられる。ここで、光としては、可視光、紫外線、または赤外線等を挙げることができる。特に、薄膜トランジスタの製造に用いられる紫外線によって、酸あるいは塩基を発生させるものが好ましい。
【0036】
硬化助剤の添加量は、硬化助剤が分解して発生する活性物質の種類、発生量、要求される感度、露光部と未露光部との溶解コントラストにより最適量は異なるが、ポリシロキサン混合物100重量部に対して、好ましくは0.001〜10重量部であり、さらに好ましくは0.01〜5重量部である。添加量が0.001重量部以上であると、露光部と未露光部との溶解コントラストが高くなり、添加効果が良好となる。一方、硬化助剤の添加量が10重量部以下であれば、形成される被膜へのクラックが抑制され、硬化助剤の分解による着色も抑制されるため、被膜の無色透明性が向上する。
【0037】
光酸発生剤の例としては、ジアゾメタン化合物、ジフェニルヨードニウム塩、トリフェニルスルホニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホンイミド化合物等が挙げられる。これら光酸発生剤の構造は、一般式(A)で表すことができる。
(A)
ここで、Rは水素、炭素原子もしくはその他ヘテロ原子で修飾されたアルキル基、アリール基、アルケニル基、アシル基、およびアルコキシル基からなる群から選択される有機イオン、例えばジフェニルヨードニウムイオン、トリフェニルスルホニウムイオンを表す。
【0038】
また、Xは、下記一般式で表されるいずれかの対イオンであるものが好ましい。
SbY
AsY
PY6−p
BY4−q
GaY4−q
SO
(RSO
(RSO
COO
SCN
(式中、Yはハロゲン原子であり、Rは、フッ素、ニトロ基、およびシアノ基から選択された置換基で置換された、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基であり、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、pは0〜6の数であり、qは0〜4の数である。)
【0039】
具体的な対イオンとしてはBF、(C、((CF、PF、(CFCFPF、SbF、(CGa、((CFGa、SCN、(CFSO、(CFSO、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ノナフルオロブタンスルホン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ブタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、およびスルホン酸イオンからなる群から選択されるものが挙げられる。
【0040】
本発明に用いられる光酸発生剤の中でも特に、スルホン酸類またはホウ酸類を発生させるものが良く、例えば、トリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸(ローディア社製PHOTOINITIATOR2074(商品名))、ジフェニルヨードニウムテトラ(パーフルオロフェニル)ホウ酸、カチオン部がスルホニウムイオン、アニオン部がペンタフルオロホウ酸イオンから構成されるものなどが挙げられる。そのほか、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホン酸、トリフェニルスルホニウムカンファースルホン酸、トリフェニルスルホニウムテトラ(パーフルオロフェニル)ホウ酸、4−アセトキシフェニルジメチルスルホニウムヘキサフルオロヒ酸、1−(4−n−ブトキシナフタレン−1−イル)テトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホン酸、1−(4,7−ジブトキシ−1−ナフタレニル)テトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホン酸、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホン酸、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロヒ酸などが挙げられる。さらには、下記式で表される光酸発生剤も用いることができる。
【化4】
式中、Aはそれぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルキルカルボニル基、炭素数6〜20のアリールカルボニル基、水酸基、およびアミノ基から選ばれる置換基であり、pはそれぞれ独立に0〜5の整数であり、Bは、フッ素化されたアルキルスルホネート基、フッ素化されたアリールスルホネート基、フッ素化されたアルキルボーレート基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基などが挙げられる。これらの式に示されたカチオンおよびアニオンを相互に交換した化合物や、これらの式に示されたカチオンまたはアニオンと、前記した各種のカチオンまたはアニオンとを組み合わせた光酸発生剤を用いることもできる。例えば、式により表されたスルホニウムイオンのいずれかとテトラ(パーフルオロフェニル)ホウ酸イオンとを組み合わせたもの、式により表されたヨードニウムイオンのいずれかとテトラ(パーフルオロフェニル)ホウ酸イオンとを組み合わせたものも光酸発生剤として用いることができる。
【0041】
前記光塩基発生剤の例としては、アミド基を有する多置換アミド化合物、ラクタム、イミド化合物もしくは該構造を含むものが挙げられる。
【0042】
前記熱塩基発生剤の例としては、N−(2−ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾール、N−(3−ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾール、N−(4−ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾール、N−(5−メチル−2−ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾール、N−(4−クロロ−2−ニトロベンジルオキシカルボニル)イミダゾールなどのイミダゾール誘導体、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、第三級アミン類、第四級アンモニウム塩、これらの混合物が挙げられる。これら塩基発生剤は、酸発生剤と同様、単独又は混合して使用することが可能である。
【0043】
<溶剤>
溶剤としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのジエチレングリコールジアルキルエーテル類、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどのエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、PGMEA、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などが挙げられる。これらの溶剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。溶剤の配合比は、塗布方法や塗布後の膜厚の要求によって異なる。例えば、スプレーコートの場合は、ポリシロキサンと任意の成分との総重量を基準として、90重量%以上になったりするが、ディスプレイの製造で使用される大型ガラス基板のスリット塗布では、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、通常90重量%以下、好ましくは85重量%以下とされる。
【0044】
<任意成分>
また、本発明による感光性シロキサン組成物は必要に応じてその他の任意の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、界面活性剤などが挙げられる。
【0045】
これらのうち、塗布性を改善するために界面活性剤を用いることが好ましい。本発明における感光性シロキサン組成物に使用することのできる界面活性剤としては、例えば非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0046】
上記非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシ脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールのポリエトキシレート、アセチレングリコールのポリエトキシレートなどのアセチレングリコール誘導体、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード(商品名、住友スリーエム株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製)、又は有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。前記アセチレングリコールとしては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0047】
またアニオン系界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩などが挙げられる。
【0048】
さらに両性界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタインなどが挙げられる。
【0049】
これら界面活性剤は、単独で又は2種以上混合して使用することができ、その配合比は、感光性シロキサン組成物の総重量に対し、通常50〜10,000ppm、好ましくは100〜5,000ppmである。
【0050】
[保護膜を具備する薄膜トランジスタの製造方法]
感光性シロキサン組成物を、薄膜トランジスタに塗布し、加熱することによって保護膜(硬化膜)を具備する薄膜トランジスタ基板が得られる。その際、所望のマスクを介して露光、現像を行うことによりコンタクトホールなどのパターンが形成される。
【0051】
酸化物半導体層を有する薄膜トランジスタ基板の製造方法として、図1に示すボトムゲート型のTFTを例に挙げて説明する。ガラス等によりなる基板上にゲート電極2をパターン形成する。ゲート電極材としては、モリブデン、アルミニウムおよびアルミニウム合金、銅および銅合金、チタンなどの材料が単層あるいは2種類以上の積層膜として構成される。ゲート電極上にゲート絶縁膜3を形成する。ゲート絶縁膜としては、一般にシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン窒化酸化膜などが、PE−CVD法により形成される。ゲート絶縁膜の厚みは、通常100から300nmである。ゲート絶縁膜上の酸化物半導体層4は、酸化物半導体と同じ組成のスパッタリングターゲットをDCスパッタリングあるいはRFスパッタリングで成膜するスパッタリング法や、金属アルコキシド、金属有機酸塩、塩化物などのプレカーサー溶液や酸化物半導体ナノ粒子の分散液を塗布して焼成することよって酸化物半導体層を形成する液相法がある。酸化物半導体層4のパターン形成をした後、ソース・ドレイン電極5および6をパターン形成する。ソース・ドレイン電極材料としては、モリブデン、アルミニウムおよびアルミニウム合金、銅および銅合金、チタンなどの材料が単層あるいは2種類以上の積層膜として構成される。
【0052】
保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板の製造方法は、上記酸化物半導体層を有する薄膜トランジスタ上に感光性シロキサン組成物を塗布しプリベーク等で乾燥後、露光し、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(一般に、2.38%水溶液が使用される)で現像してコンタクトホールなどのパターンを形成した後、塗布した感光性シロキサン組成物(保護膜前駆体層)を硬化させて保護膜7を形成する。さらに、保護膜上に例えばスパッタリング法によりITO膜を形成し、パターニングすることにより図3の素子を形成する。また、この保護膜上に、CVDやPVDで無機膜を形成したり、塗布法により有機材料を保護膜や平坦化の目的で有することも可能である。
【0053】
本発明による製造方法の各工程について、以下に説明する。
【0054】
<感光性シロキサン組成物を用意する工程>
本発明による保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板の製造方法において、アルカリ溶解速度の異なる少なくとも2種類のポリシロキサンと、感光剤と、溶剤とを含有する感光性シロキサン組成物を用意する。感光性シロキサン組成物の各構成成分の詳細については、上述の通りである。
【0055】
<塗布工程>
本発明における塗布工程は、上記の感光性シロキサン組成物を薄膜トランジスタ表面に塗布することで行われる。この塗布工程は、一般的な塗布方法、即ち、浸漬塗布、ロールコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ドクターコート、フローコート、スピンコート、スリット塗布等、従来感光性組成物の塗布方法として知られた任意の方法により行うことができる。必要に応じて1回又は2回以上繰り返して塗布することにより、保護膜前駆体層を所望の膜厚とすることができる。
【0056】
<プリベーク工程>
保護膜前駆体層を形成した後、該層をさらに乾燥させ、且つ溶剤残存量を減少させるため、該層をプリベーク(加熱処理)することが好ましい。プリベーク工程は、一般に70〜150℃、好ましくは90〜130℃の温度で、ホットプレートによる場合には10〜180秒間、好ましくは30〜90秒間、クリーンオーブンによる場合には1〜5分間実施することができる。プリベークの前にスピンや真空による溶剤除去工程が含まれることが好ましい。
【0057】
<露光工程>
保護膜前駆体層を形成させた後、その表面に光照射を行う。光照射に用いる光源は、パターン形成方法に従来使用されている任意のものを用いることができる。このような光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライド、キセノン等のランプやレーザーダイオード、LED等を挙げることができる。照射光としてはg線、h線、i線などの紫外線が通常用いられる。半導体のような超微細加工を除き、数μmから数十μmのパターニングでは360〜430nmの光(高圧水銀灯)を使用することが一般的である。中でも、液晶表示装置の場合には430nmの光を使用することが多い。照射光のエネルギーは、光源や保護膜前駆体層の膜厚にもよるが、一般にジアゾナフトキノン誘導体のポジ型の場合、20〜2000mJ/cm、好ましくは50〜1000mJ/cmとする。照射光エネルギーが20mJ/cmよりも低いと十分な解像度が得られないことがあり、反対に2000mJ/cmよりも高いと、露光過多となり、ハレーションの発生を招く場合がある。また、ネガ型の場合、1〜500mJ/cm、好ましくは10〜100mJ/cmとする。照射光エネルギーが1mJ/cmよりも低いと膜べりが大きく、反対に500mJ/cmよりも高いと、露光過多となり、解像度が得られなくなることがある。
【0058】
光をパターン状に照射するためには一般的なフォトマスクを使用することができる。そのようなフォトマスクは周知のものから任意に選択することができる。照射の際の環境は、特に限定されないが、一般に周囲雰囲気(大気中)や窒素雰囲気とすればよい。また、基板表面全面に膜を形成する場合には、基板表面全面に光照射すればよい。本発明においては、パターン膜とは、このような基板表面全面に膜が形成された場合をも含むものである。
【0059】
<露光後加熱工程>
露光後、露光個所に発生した反応開始剤により膜内のポリマー間反応を促進させるため、必要に応じて露光後加熱(Post Exposure Baking)を行うことができる。この加熱処理は、保護膜前駆体層を完全に硬化させるために行うものではなく、現像後に所望のパターンだけが基板上に残し、それ以外の部分が現像により除去することが可能となるように行うものである。
【0060】
<現像工程>
露光後、必要に応じて露光後加熱を行ったあと、保護膜前駆体層を現像処理する。現像の際に用いられる現像液としては、従来周知の感光性シロキサン組成物の現像に用いられている任意の現像液を用いることができる。本発明においてはポリシロキサンの溶解速度を特定するために水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を用いるが、硬化膜を形成させるときに用いる現像液はこれに限定されない。好ましい現像液としては、水酸化テトラアルキルアンモニウム、コリン、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属メタ珪酸塩(水和物)、アルカリ金属燐酸塩(水和物)、アンモニア、アルキルアミン、アルカノールアミン、複素環式アミンなどのアルカリ性化合物の水溶液であるアルカリ現像液が挙げられ、特に好ましいアルカリ現像液は、TMAH水溶液である。これらアルカリ現像液には、必要に応じ更にメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶剤、あるいは界面活性剤が含まれていてもよい。現像方法も従来知られている方法から任意に選択することができる。具体的には、現像液への浸漬(ディップ)、パドル、シャワー、スリット、キャップコート、スプレーなどの方法挙げられる。この現像によって、パターンを得ることができる。現像液により現像が行われた後には、水洗がなされることが好ましい。なお、本発明による製造方法においては、図3に示すように、現像によって形成したコンタクトホール9を介して、ドレイン電極6と保護膜7の上に形成した透明電極(画素電極8)とを導通させることもできる。
【0061】
<現像後照射工程>
ポジ型の組成物を使用し、形成される保護膜を透明膜として使用する場合は、ブリーチング露光と呼ばれる光照射を行うことが好ましい。ブリーチング露光を行うことによって、膜中に残存する未反応のジアゾナフトキノン誘導体が光分解して、膜の光透明性がさらに向上する。ブリーチング露光の方法としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯などを用い、膜厚によって100〜2,000mJ/cm程度(波長365nm露光量換算)を全面に露光する。また、ネガ型の場合光照射によって、現像後残膜中の硬化助剤を活性化させることにより、後の加熱硬化をより容易に行うことができる。膜厚によって100〜2,000mJ/cm程度(波長365nm露光量換算)を全面に露光する。
【0062】
<加熱硬化(焼成)工程>
保護膜前駆体層硬化時の焼成温度は、保護膜が硬化する温度であれば任意に選択できる。しかし、焼成温度が低すぎると反応が十分に進行せず十分に硬化しないことがある。このために焼成温度は200℃以上であることが好ましく、250℃以上がより好ましい。また、温度が過度に高いと製造コストが上昇すること、ポリマーが分解することがあることなどから500℃以下であることが好ましく。400℃以下がより好ましい。また、焼成時間は特に限定されないが、一般に10分以上、好ましくは20分以上である。焼成は不活性ガスまたは大気中において行われる。
【0063】
<アニーリング工程>
さらに、保護膜を具備する薄膜トランジスタの形成後に、薄膜トランジスタのアニーリングを行う。特に、酸化物半導体を用いた素子は、PVDやCVDによる膜形成、ドライエッチングやウエットエッチングのパターン加工、レジストの剥離工程などにより、薄膜トランジスタ性能の劣化が発生するため、アニーリングによって性能を回復することが望ましい。本発明における保護膜形成後に250℃以上でアニーリングを行うことにより、加工時に一旦低下した薄膜トランジスタの性能が回復する。特に、本発明においては、大きく劣化した酸化物半導体層を有する薄膜トランジスタが、酸素存在下でのアニーリングによって大幅な性能回復が起こるという特徴がある。酸化物半導体の劣化の度合いによっては、アニーリング温度を上げたり、アニーリング時間を長くすることによる薄膜トランジスタの性能回復と素子の信頼性を向上させることができる。アニーリング温度は、250℃以上450℃以下、好ましくは300℃以上400℃以下である。アニーリング時間は、30分以上好ましくは60分以上であるが、コスト及び生産効率の観点から60分以上120分未満とするのがより好ましい。アニーリングは、酸素の存在下で行うことが好ましい。従来の有機系塗布膜により形成される保護膜を具備した薄膜トランジスタ基板の場合には、このような高温でのアニーリングが行えなかったため、アニーリングによる大幅な性能回復は達成できなかった。ただし、酸素存在下でのアニーリングでは、電極の酸化や本発明の保護膜の酸化による着色等の影響を考慮して、400℃以下で行うのが好ましい。また、本発明における感光性シロキサン組成物によって形成される保護膜は、感光性を有するため、ドライエッチング等でパターン加工を行わずに済むため、薄膜トランジスタ性能へのダメージが比較的小さく、アニーリング時間が短くて済むという利点がある。
【実施例】
【0064】
本発明を諸例により具体的に説明すると以下の通りである。
【0065】
合成例1(ポリシロキサン(I)の合成)
撹拌機、温度計、冷却管を備えた2Lのフラスコに、25重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液36.5g、イソプロピルアルコール(IPA)300ml、水1.5gを仕込み、次いで滴下ロートにフェニルトリメトキシシラン44.6g、メチルトリメトキシシラン34.1g、テトラメトキシシラン3.8gの混合溶液を調整した。その混合溶液を60℃にて滴下し、同温で3時間撹拌した後、10%HCl水溶液を加え中和した。中和液にトルエン200ml、水300mlを添加し、2層に分離させ、得られた有機層を減圧下濃縮することで溶媒を除去し、濃縮物に固形分濃度40重量%なるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を添加調整した。得られたポリシロキサン(I)の分子量(ポリスチレン換算)は重量平均分子量(Mw)=1,420であった。得られた樹脂溶液をシリコンウエハにプリベーク後の膜厚が2μmになるように塗布し、5%TMAH水溶液に対する溶解速度を測定したところ、950Å/秒であった。
【0066】
合成例2(ポリシロキサン(II)の合成)
撹拌機、温度計、冷却管を備えた2Lのフラスコに、25重量%TMAH水溶液36.5g、IPA800ml、水2.0gを仕込み、次いで滴下ロートにフェニルトリメトキシシラン39.7g、メチルトリメトキシシラン34.1g、テトラメトキシシラン7.6gの混合溶液を調整した。その混合溶液を10℃にて滴下し、同温で24時間撹拌したのち、10%HCl水溶液を加え中和した。中和液にトルエン400ml、水100mlを添加し、2層に分離させ、得られた有機層を減圧下濃縮することで溶媒を除去し、濃縮物に固形分濃度40重量%なるようにPGMEAを添加調整した。得られたポリシロキサン(II)の分子量(ポリスチレン換算)は、Mw=2,200であった。得られた樹脂溶液をシリコンウエハにプリベーク後の膜厚が2μmになるように塗布し、2.38%TMAH水溶液に対する溶解速度を測定したところ、490Å/秒であった。
【0067】
ポジ型感光性シロキサン組成物A
ポリシロキサン(I):(II)=(80重量%):(20重量%)の割合で混ぜた後、ポリシロキサン混合物を35%のPGMEA溶液に調整し、4−4’−(1−(4−(1−(4−ヒドロキシフェノール)−1−メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノールのジアゾナフトキノン2.0モル変性体(以下「PAC」と略す。)を、ポリシロキサンに対して12重量%添加した。また界面活性剤として信越化学工業社製 KF−53を、ポリシロキサンに対して0.3重量%加え、感光性シロキサン組成物Aを得た。
【0068】
実施例1(本発明による保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板)
nドープしたシリコンウエハ上に、100nmのシリコン酸化膜をゲート絶縁膜として設置した。ゲート絶縁膜上にアモルファスInGaZnOをRFスパッタリング法により成膜した(70nm)。アモルファスInGaZnO膜のパターン形成後、ソース・ドレイン電極をパターン形成した。ソース・ドレイン電極材料としては、モリブデンを利用した。その後、300℃、1時間、該薄膜トランジスタのアニーリングを行った。次に、保護膜として、ポジ型感光性シロキサン組成物Aをスピンコート法により塗布した。100℃、90秒のプリベーク後、露光および現像によりコンタクトホールを形成した。
【0069】
次いで、250℃、60分の窒素雰囲気下で、硬化させて保護膜を形成した。当該保護膜を具備する薄膜トランジスタをアニーリングした。アニーリングは、250℃、酸素雰囲気下で1時間行った。保護膜厚さは400nmであった。図4に、アニーリング後の当該保護膜を具備する薄膜トランジスタの伝達特性を示す。正電圧印加ストレスに対してほとんど特性が変化しない、良好な薄膜トランジスタの伝達特性が得られた。
【0070】
比較例1(感光剤及び1種類のポリシロキサンを含む保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板)
ポリシロキサン(II)を35%のPGMEA溶液に調整し、4−4’−(1−(4−(1−(4−ヒドロキシフェノール)−1−メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノールのジアゾナフトキノン2.0モル変性体(以下「PAC」と略す。)を、ポリシロキサン(II)に対して12重量%添加した。また界面活性剤として信越化学工業社製 KF−53を、ポリシロキサンに対して0.3重量%加え、感光性シロキサン組成物Bを得た。実施例1と同様に、保護膜として感光性シロキサン組成物Bをスピンコート法により塗布した。100℃、90秒のプリベーク後、露光および現像によりコンタクトホールを形成した。次いで、250℃、60分の窒素雰囲気下で硬化させたところ、現像によって形成したコンタクトホールが熱フローにより消失し、トランジスタ特性を測定することができなかった。
【0071】
比較例2(保護膜を有しない薄膜トランジスタ基板)
ゲート電極の上に、100nmのシリコン酸化膜をゲート絶縁膜として設置した。ゲート絶縁膜上にアモルファスInGaZnOをRFスパッタリング法により成膜した。アモルファスInGaZnO膜をパターン形成をした後、ソース・ドレイン電極をパターン形成した。ソース・ドレイン電極材料としては、モリブデンを利用した。保護膜は設置せず、該保護膜を有しない薄膜トランジスタをアニーリングした。アニーリングは、300℃、2時間行った。図5に示すように、アニーリングによる性能回復が不十分であった。図6に薄膜トランジスタの伝達特性を示す。正電圧印加ストレスに対して大きく特性が変化し、不安定な薄膜トランジスタの伝達特性が得られた。
【0072】
参考例1(1種類のポリシロキサンを含む保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板)
メチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=60モル:40モル)を塩基性触媒の存在下で合成した。分子量(ポリスチレン換算)は、Mw=1,800であった。5%TMAH水溶液に対してほとんど溶解せず、溶解速度はほぼ0Å/秒であった。得られたポリマーを35%のPGMEA溶液に調整し、界面活性剤として信越化学工業社製 KF−53をポリシロキサンに対して0.3重量%加え、シロキサン組成物Cを得た。実施例1と同様にして作成したアモルファスInGaZnO上に、シロキサン組成物Cをスピンコートで塗布した後、100℃、90秒のプリベーク、硬化(300℃、1時間、窒素中)させて保護膜を形成した。ドライエッチングでコンタクトホールを形成した後、酸素雰囲気下、300℃で1時間、薄膜トランジスタのアニーリングを行った。図7に薄膜トランジスタの伝達特性を示す。保護膜塗布後のドライエッチングにより特性劣化が見られた。また、アニーリングにより初期特性に近い特性を示した。ストレス印加による特性変化を検証したところ、図8に示すように大きな特性変化が確認された。
【0073】
参考例2(アクリル材料を含む保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板)
メタクリル酸2-ヒドロキシエチルとビニル基含有シランモノマー(信越化学 KBM-5103)の重合体からなるアクリル樹脂と、比較例3で合成したメチルフェニルシルセスキオキサンからなる組成物を調整した。アクリル樹脂は、メチルフェニルシルセスキオキサン100重量%に対して、30重量%添加した。実施例と同様に、界面活性剤を添加して35%の溶液を調整した。比較例3と同様にしてアモルファスInGaZnO上に保護膜を形成し、ドライエッチでコンタクトホールを形成した後酸素雰囲気下、300℃で1時間、薄膜トランジスタのアニーリングを行った。図9に薄膜トランジスタのアニーリング前後での伝達特性を示す。アニーリング後でもマイナス電圧領域で高い電流が流れてしまうなど良好なトランジスタ特性は得られなかった。
【符号の説明】
【0074】
1 保護膜を具備する薄膜トランジスタ基板
2 ゲート層
3 ゲート絶縁層
4 金属酸化物半導体層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 保護膜
8 画素電極
9 コンタクトホール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9