特許第6237311号(P6237311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6237311-カーボンナノチューブ合成用触媒 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237311
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ合成用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/75 20060101AFI20171120BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20171120BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20171120BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20171120BHJP
   C01B 32/162 20170101ALI20171120BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B01J23/75 M
   B01J37/08
   B01J37/04 101
   B01J35/10 301G
   C01B32/162
   B01J23/889 M
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-27130(P2014-27130)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-150515(P2015-150515A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】名畑 信之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 克己
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄
(72)【発明者】
【氏名】増田 幹
【審査官】 吉野 涼
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−338221(JP,A)
【文献】 特表2009−526726(JP,A)
【文献】 特開2009−090251(JP,A)
【文献】 特開2004−002182(JP,A)
【文献】 特開2010−201351(JP,A)
【文献】 特表2010−540220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00〜38/74
C01B 32/162
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(1)および(2)を順次行うことを特徴とするカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法であり、下記カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体中の水酸化コバルトの含有率が、40モル%以上であることを特徴とするカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
(1)水酸化コバルトと、担持成分としてのマグネシウムおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属塩(B)とを乾式混合し、カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を得る工程。
(2)カーボンナノチューブ触媒前駆体を酸素の存在下、焼成してカーボンナノチューブ合成用触媒を得る工程。
【請求項2】
カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体が、さらにマンガン化合物を含むことを特徴とする請求項記載のカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
【請求項3】
触媒の一次粒子の表面が、0.2〜10μm2の平面面積を有することを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
【請求項4】
カーボンナノチューブ合成用触媒の一次粒子の平均径が5〜10nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜いずれか記載のカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブ合成用触媒中において、活性成分として、少なくともコバルトを含有し、かつ鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、担持成分として、マグネシウムおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素との合計100モル%に対する、鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種である活性成分の含有割合が、40〜80モル%であることを特徴とする請求項1〜いずれか記載のカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
【請求項6】
下記の工程(1)、(2)および(3)を順次行うことを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
(1)水酸化コバルトと、担持成分としてのマグネシウムおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属塩(B)とを乾式混合し、カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を得る工程。
(2)カーボンナノチューブ触媒前駆体を酸素の存在下、焼成してカーボンナノチューブ合成用触媒を得る工程。
(3)カーボンナノチューブ合成用触媒と、炭化水素および/またはアルコールを含んでなる炭素源とを接触反応させ、カーボンナノチューブを得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ合成用触媒に関する。更に詳しくは、カーボンナノチューブ合成用触媒と、それを用いて製造されるカーボンナノチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
直径が1μm以下のカーボンナノチューブは、例えば樹脂へ配合され、導電性や強度等の特性を付与するフィラーとして、種々の検討がなされている。そして、このようなカーボンナノチューブは、従来、主にアーク放電法、レーザー蒸着法、気相成長法などで製造されていた。
【0003】
その中でも、気相成長法は、アーク放電法やレーザー蒸着法に比べて効率良く不純物の少ないカーボンナノチューブが得られるという利点がある。また、気体状態の原料を使用することによって、連続反応が可能であり、更には原料ガスとなる炭化水素や一酸化炭素等の炭素を含むガスが安価に入手できるので、カーボンナノチューブの量産化に適した技術といえる。
【0004】
気相成長法によりカーボンナノチューブを得る際に使用される触媒(以下、カーボンナノチューブ合成用触媒と称する)は、例えばシリカ、アルミナ、マグネシア、ゼオライト等の担持成分に、鉄、コバルト、ニッケル等の活性成分の金属を担持させたもの等が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
このようにして製造される微粒子状の触媒を用いて炭素繊維を気相成長させた場合、炭素繊維は曲がりくねって互いに絡み合った状態で成長する。カーボンナノチューブを樹脂中に分散させることにより絶縁性の樹脂に導電性を付与させることができることが一般に知られているが、このようにして得られる炭素繊維の絡まり凝集体は樹脂中での分散が悪く、その結果、所望の導電性を得るためには多量の炭素繊維を混入させる必要が生じることが多い。また、分散性の悪い多量の炭素繊維の絡まり凝集体を樹脂に混入させると、樹脂の強度劣化を引き起こすという課題を有していた。
【0006】
また、このように強固に凝集した炭素繊維の分散性を改良するために、粉砕等の後処理によって微細化を行う方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、粉砕処理はコスト増加及び炭素繊維の切断等を招く可能性がある。
【0007】
これに対して、炭素繊維が1本1本独立しているか、或いは複数本が寄り集まって束状に集合したものであれば、樹脂への分散性が良く、少ない分散量で導電性に優れた樹脂成形体を供給することができると紹介されている(特許文献3)。
【0008】
一方で、気相成長法により束状に集合した炭素繊維を製造する従来の方法としては、基盤法による方法が知られている。即ち、基盤の表面に触媒をスパッタ等で添着し、この基盤面から炭素繊維を直線状に成長させるという方法である。このような基盤法により、長さが2.5mmで1ないし2層の炭素繊維のチューブ壁を形成した、カーボンナノチューブを製造した実施例が開示されている(非特許文献1)。同様にシリコンもしくは石英基盤に触媒成分をパターン化添着して行う実施例も開示されている(特許文献4)。しかし、これらの方法では、成長点となる触媒の面積が絶対的に少なく、そこを基盤として成長するカーボンナノチューブの量も少ないことから産業的な量産には不向きである。
【0009】
これに対して、Co、Ni及びFeより選ばれる1種以上の金属を含む金属化合物と、Al及びMgより選ばれる1種以上の金属を含む金属化合物を、分解温度が300℃以下の有機化合物の存在下で焼成することで、表面に平面を有する金属含有材料から成る粉体を得る方法が提案されている。しかしながら、この方法では、多量の有機化合物を使用するため触媒焼成の際に高温になりやすく、焼結が進行してしまい、その結果、カーボンナノチューブの析出効率が低く、生成したカーボンナノチューブ中に触媒由来の不純物が多量に残留し、カーボンナノチューブの生産性が著しく低くなってしまうという問題があった。さらに、有機化合物が触媒焼成の際に灰分として残りやすいため、カーボンナノチューブ中に不純物として灰分が混入しやすいという問題があった(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2010−540220号公報
【特許文献2】特開平2−276839号公報
【特許文献3】特開2004−230690号公報
【特許文献4】特表2002−530805号公報
【特許文献5】特開2009−090251号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Science、第306巻、November、19(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、上記諸問題を解決できる、樹脂への分散が容易で、樹脂中での高い導電性を示すカーボンナノチューブと、それを製造するためのカーボンナノチューブ合成用触媒およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の実施態様は、下記の工程(1)および(2)を順次行うことを特徴とするカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法であり、下記カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体中の水酸化コバルトの含有率が、40モル%以上であることを特徴とするカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法に関する。
(1)水酸化コバルトと、担持成分としてのマグネシウムおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属塩(B)とを乾式混合し、カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を得る工程。
(2)カーボンナノチューブ触媒前駆体を酸素の存在下、焼成してカーボンナノチューブ合成用触媒を得る工程。
【0015】
また、本発明の実施態様は、カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体が、さらにマンガン化合物を含むことを特徴とする前記カーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法に関する。
【0018】
また、本発明の実施態様は、前記触媒の一次粒子の表面が、0.2〜10μm2の平面面積を有することを特徴とする前記カーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法に関する。
【0019】
また、本発明の実施態様は、カーボンナノチューブ合成用触媒の一次粒子の平均径が5〜10nmの範囲であることを特徴とする前記カーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法に関する。
【0020】
また、本発明の実施態様は、カーボンナノチューブ合成用触媒中において、活性成分として、少なくともコバルトを含有し、かつ鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、担持成分として、マグネシウムおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素との合計100モル%に対する、鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種である活性成分の含有割合が、40〜80モル%であることを特徴とする前記カーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法に関する。
【0021】
また、本発明の実施態様は、下記の工程(1)、(2)および(3)を順次行うことを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法に関する。
(1)水酸化コバルトと、担持成分としてのマグネシウムおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属塩(B)とを乾式混合し、カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を得る工程。
(2)カーボンナノチューブ触媒前駆体を酸素の存在下、焼成してカーボンナノチューブ合成用触媒を得る工程。
(3)カーボンナノチューブ合成用触媒と、炭化水素および/またはアルコールを含んでなる炭素源とを接触反応させ、カーボンナノチューブを得る工程。

【発明の効果】
【0024】
本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒を用いることにより、樹脂への分散性及び導電性に優れたカーボンナノチューブを効率的に製造することができるようになった。よって、少ない配合量で、樹脂成形体における導電性発現性にも優れ、従って、樹脂の成型性や樹脂成形体の機械的特性を損なうことなく、優れた導電性樹脂成形体を実現することができる。この導電性樹脂成形体は、帯電防止用電子部材、静電塗装用樹脂成形体、導電性透明樹脂組成物等への応用が可能である。また、本発明のカーボンナノチューブは成形体以外にも、シート、テープ、透明フィルム、インキ、導電塗料などの樹脂組成物へ適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施例4で製造したカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡写真の20000倍に拡大した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の態様を詳細に説明する。
【0027】
(カーボンナノチューブ合成用触媒とその製造方法)
まず、本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒とその前駆体について説明する。
【0028】
本発明の触媒は、水酸化コバルトを含むカーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を焼成して得ることができる。本明細書でいうカーボンナノチューブ合成用触媒前駆体とは、水酸化コバルトを主成分として含有する金属、金属酸化物、金属窒化物、金属ハロゲン化物、金属水酸化物、金属塩、およびそれらの混合物であり、焼成によってカーボンナノチューブ合成用触媒として機能するものであれば、特に限定されない。
【0029】
カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体の一成分である水酸化コバルトは、2、3または4価コバルトの水酸化物と複合水酸化物が知られており、焼成によってカーボンナノチューブ合成用触媒の活性成分として機能する。具体的には、水酸化コバルト(II)、水酸化コバルト(IV)コバルト(II)、水酸化コバルト(III)、炭酸コバルト(II)(塩基性)(2CoCO3・3Co(OH)2)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0030】
上記水酸化コバルトの内、水酸化コバルト(II)が好ましい。その理由として、焼成によってカーボンナノチューブ合成用触媒とした際に、表面が平面構造を有する触媒が得られやすく、そのような触媒を用いて製造されるカーボンナノチューブは、樹脂等への分散性や導電性が良好な束状のカーボンナノチューブが得られやすいことが挙げられる。
【0031】
カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体中の水酸化コバルトの含有率は、50質量%以上であることが好ましい。その理由として、表面が平面構造を有する触媒が得られやすく、また、触媒表面の平面構造の占める割合が大きくなることが挙げられる。
【0032】
本発明の態様の一つとして、水酸化コバルトの他に、さらに、マンガン化合物を含むカーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を焼成してカーボンナノチューブ合成用触媒を製造することが好ましい。マンガン化合物としては、金属マンガンおよびその酸化物、ハロゲン化物、塩ならびにそれらの水和物および混合物が挙げられ、具体的には、金属マンガン、酢酸マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、二酸化マンガン等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の態様の一つとして、触媒の担持成分として、マグネシウムおよび/または、アルミニウムおよび/または、タングステンおよび/または、ケイ素の酸化物を含んでも良い。これら担持成分の前駆体としては、マグネシウムおよびアルミニウム、タングステン、ケイ素の少なくともいずれか1つ以上の金属元素を含む金属塩(B)が挙げられ、具体的には、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、タングステン酸コバルト(II)、ケイ酸ナトリウム等が挙げられる。
【0034】
本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒は、表面に平面を有するものが好ましい。その平面の平坦さの程度は、本発明のカーボンナノチューブが得られる程度であれば任意である。尚、ここでいう「平面」とは、数学における厳密な平面のことではなく、巨視的な視点で見た時の、平面が平らな状態を有する面のことを指す。
【0035】
触媒のXY平面面積(平面方向、「表面面積」ともいう)は、0.2〜10μm2であることが好ましく、Z軸(厚み方向)は100nm以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、触媒が平面となり、かつ効率的に原料が触媒に接触できるため、束状カーボンナノチューブの生産効率が向上するため好ましい。
【0036】
また、カーボンナノチューブ合成用触媒は、平径が5〜10nmの範囲であることが好ましい。平径が10nmより小さいと、アモルファス成分が少なくなり、良好な分散性を有するカーボンナノチューブが得られ易いため好ましい。また、平径が5nmより大きいと、容易にシンタリングが起きにくくなり、触媒の機能が低下しづらくなるため好ましい。
【0037】
ここで、本明細書でいうカーボンナノチューブ合成用触媒の平径は、走査透過電子顕微鏡測定によるもので、任意に選択した約100個の一次粒子について、その径の長さを計測し、その数平均値より平径(μm)を求めたものである。
【0038】
カーボンナノチューブ合成用触媒中の活性成分の元素としては、鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が挙げられるが、本発明においては、これら活性成分の内、コバルトは必須成分である。また、カーボンナノチューブ合成用触媒中の担持成分の元素としては、マグネシウム、アルミニウム、タングステンおよびケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が挙げられる。本発明の実施態様の一つとして、上記活性成分と担持成分との合計100モル%に対する活性成分の含有割合(以下、この割合を単に「活性成分含有率」と称す)は、40〜80モル%であることが好ましく、50〜80モル%であることがより好ましく、50〜60モル%であることがさらに好ましい。
【0039】
触媒中の活性成分含有率が80%モルより小さいと、触媒活性が高く、カーボンナノチューブの生産効率が高くなり、活性成分含有率が40%より大きいと、活性成分の割合が大きくなるため、生産効率が向上するため好ましい。
【0040】
水酸化コバルトの他に、さらに、マンガン化合物を含むカーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を焼成して得られるカーボンナノチューブ合成用触媒の場合、前記活性成分と前記担持成分との合計100モル部に対して、マンガン元素が好ましくは2〜30モル部、より好ましくは2〜10モル部含まれていることが好ましい。マンガン金属元素を含む化合物の含有割合が30モル部より小さいほうが、カーボンナノチューブ製造の際に成長阻害物質になりにくく、またマンガン金属元素を含む化合物の含有割合が2モル部より大きいほうが、活性成分金属の粒子をより小さく制御しやすいため好ましい。
【0041】
本発明のカーボンナノチューブ製造用触媒は、下記の工程(1)および(2)を順次行い製造することが好ましい。
(1)水酸化コバルトと、担持成分としてのマグネシウム、アルミニウム、タングステン及びケイ素の少なくともいずれか1種以上の元素を含む金属塩(B)とを混合し、カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を得る工程。
(2)カーボンナノチューブ触媒前駆体を、焼成してカーボンナノチューブ合成用触媒を得る工程。
【0042】
まず、工程(1)について説明する。工程(1)は、カーボンナノチューブ合成用触媒中の活性成分の前駆体である水酸化コバルトと、前記担持成分の前駆体である金属塩(B)とを混合し、カーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を得る工程である。ここで、活性成分の前駆体としては、水酸化コバルト以外に、鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有する金属、金属酸化物、金属窒化物、金属ハロゲン化物、金属水酸化物、金属塩、およびそれらの混合物を含んでいてもよい。一方、担持成分の前駆体としては、上記のとおり、マグネシウムおよびアルミニウムの少なくともいずれか1つ以上の金属元素を含む金属塩(B)が挙げられる。
【0043】
「混合」は、ミキサー等を使用して乾式で行ってもよく、湿式で行っても良い。湿式で混合する場合、上記前駆体を混合した後、水等の溶媒に溶解および/または分散させてもよく、また、予め各々の前駆体を水等の溶媒に溶解させた後に混合してもよい。また、水等の溶媒に溶解させる場合には加熱してもよい。湿式で混合する場合、上記で得られる溶液および/または分散液は、乾燥させることによりカーボンナノチューブ合成用触媒前駆体を得ることができる。乾燥させる際の雰囲気は、空気あるいは、窒素、アルゴン等の不活性ガス下のいずれでもよい。また、乾燥温度は、特に限定されるものではないが、溶媒として水を使用する場合、150〜200℃が好ましく、さらに好ましくは180〜200℃がさらに好ましい。
【0044】
上記の如く乾式または湿式により得られるカーボンナノチューブ合成用触媒前駆体は、さらに粉砕機等を用いて粉砕して微細化処理を行なうのが好ましい。微細化処理することにより、適度な空隙を含むことになるため、後述の工程(2)において、触媒前駆体を焼成する際に、粒径を小さく均一に制御できるようになるためである。
【0045】
次に、工程(2)について説明する。工程(2)は、カーボンナノチューブ触媒前駆体を、焼成してカーボンナノチューブ合成用触媒を得る工程である。
【0046】
触媒前駆体を焼成するとき、焼成する際の雰囲気は、酸素の存在下であれば良いが、空気あるいは、空気と窒素との混合ガスであることが好ましい。また、焼成温度は、450〜550℃の範囲であることが好ましい。焼成温度が450〜550℃の範囲であれば、過度の焼結が起きにくいため一次粒子が大きくなりにくく、また、炭素質不純物が触媒中に残りにくいため好ましい。
【0047】
上記で得られた焼成物は、さらに微細化処理を行なうのが好ましい。焼成物を粉砕する場合、カーボンナノチューブ合成用触媒と、炭化水素および/またはアルコールを含んでなる炭素源とを接触させて、カーボンナノチューブを合成する際に、カーボンナノチューブ製造用触媒に炭素源が十分に接触することが出来るため好ましい。
【0048】
微粉化処理する手段は、特に制限はないが、少量の場合は乳鉢を用いて、一度に多量を処理する場合は、ピンミル、ハンマーミル、パルペライザー、ジェットミル等を用いることができる。
【0049】
本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒の好ましい平径は、走査透過電子顕微鏡による測定で20nm以下、より好ましくは5〜10nmである。
【0050】
(カーボンナノチューブとその製造方法)
次に、本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒を用いたカーボンナノチューブの製造方法について説明する。
【0051】
本発明のカーボンナノチューブを製造するためには、触媒として前記カーボンナノチューブ合成用触媒を用いて、炭素源としての原料ガスを加熱下、この触媒に接触反応させて、カーボンナノチューブを製造する。
【0052】
炭素源としての原料ガスとしては、従来公知の任意のものを使用でき、例えば、炭素を含むガスとしてメタンやエチレン、プロパン、ブタン、アセチレンなどの炭化水素や、一酸化炭素、アルコールなどを用いることが出来るが、特に使い易さの理由により、炭化水素および/またはアルコールが好ましい。
【0053】
また、必要に応じて、還元雰囲気下で触媒を活性化した後、又は還元性ガスと共にカーボンナノチューブ原料ガスと接触させて製造することが好ましい。活性化時における還元性ガスは、水素、アンモニア等を用いることができるが、水素が好ましく、その濃度は、原料ガス濃度100体積%に対して0.1〜100体積%が好ましく、1〜100体積%であることがより好ましい。1〜100体積%の範囲であれば、還元性ガスとしての効果が期待でき、かつ原料ガスのも適切な濃度となり、カーボンナノチューブが効率よく回収できるため好ましい。
【0054】
製造時の温度や原料ガスの供給量は、従来公知の任意の値から、適宜選択し決定すれば良いが、本発明の触媒においては、600〜850℃、特に650〜750℃が好ましく、反応圧力は大気圧以上40kPa以下、特に常圧以上30kPa以下とすることが好ましい。反応時間は反応温度や触媒と原料ガスとの触媒比率に応じて任意に設定されるが、通常0.5〜6時間程度である。本発明での反応速度は反応開始から約20分で最大となり、その後、徐々に失速して反応開始から5〜5.5時間で停止する。従って、反応時間は0.5〜6時間の範囲で管理することが好ましい。
【0055】
反応終了後の原料ガス置換には、アルゴンガスや窒素等の不活性ガスを用いることが好ましい。
【0056】
このような本発明のカーボンナノチューブ製造用触媒を用いるカーボンナノチューブの製造方法によれば、担持部分に均一に担持された微粒子の酸化鉄、酸化コバルト、および、酸化ニッケル部分を核として、触媒の平面部分よりカーボンナノチューブが析出、成長し配向性を有したバンドル状カーボンナノチューブが得られる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。例中、特に断わりのない限り、「部」とは「質量部」、「%」とは「質量%」をそれぞれ意味する。また、「カーボンナノチューブ」を「CNT」と略記することがある。
【0058】
なお、以下の実施例および比較例で用いた触媒は、次のように製造した。
【0059】
(実施例1)[触媒(a)の製造]
水酸化コバルト(II)75部、酢酸マグネシウム・四水和物172部を耐熱性容器に秤取り、電気オーブンを用いて、雰囲気温度180±5℃の温度で1時間乾燥させた後、80メッシュを通して粒径を整えて、触媒(a)の前駆体を得た。得られた触媒(a)の前駆体50部を耐熱容器に秤取り、マッフル炉にて、空気雰囲気下、450℃±5℃にて30分間焼成した後、乳鉢で粉砕して触媒(a)を得た。
【0060】
(実施例2)[触媒(b)の製造]
表1に記載した原料と仕込み量に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒(b)を得た。
【0061】
(実施例3)[触媒(c)の製造]
水酸化コバルト(II)75部、酢酸マグネシウム・四水和物172部、酢酸マンガン・四水和物20部を耐熱性容器に秤取り、電気オーブンを用いて、雰囲気温度180±5℃の温度で1時間乾燥させた後、80メッシュを通して粒径を整えて、触媒(c)の前駆体を得た。得られた触媒(c)の前駆体50部を耐熱容器に秤取り、マッフル炉にて、空気雰囲気下、450℃±5℃にて30分間焼成した後、乳鉢で粉砕して触媒(c)を得た。
【0062】
(比較例1)[触媒(d)の製造]
硝酸コバルト・六水和物175g、硝酸アルミニウム九水和物525g、L−グルタミン酸89gを秤量し、混合して乳鉢で均一になるまですりつぶした。この混合物を耐熱性容器に入れ、マッフル炉にて空気雰囲気下、450℃±5℃にて1.5時間焼成し、触媒(d)を得た。
【0063】
(比較例2)[触媒(e)の製造]
表1に記載した原料と仕込み量に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒(e)を得た。
【0064】
【表1】
【0065】
<カーボンナノチューブの製造>
(実施例4)
加圧可能で、外部ヒーターで加熱可能な、内容積が10リットルの横型反応管の中央部に、カーボンナノチューブ合成用触媒(a)1gを散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。アルゴンガスを注入しながら排気を行い、反応管内の空気をアルゴンガスで置換し、横型反応管中の雰囲気を酸素濃度1体積%以下にした。次いで、外部ヒーターにて、横型反応管内の中心部温度が700℃になるまで加熱した。700℃に到達した後、毎分0.1リットルの流速で1分間、水素ガスを反応管内に導入し、触媒を活性化処理した。その後、炭素源としてエタノールを毎分1リットルの流速で反応管内に導入し、4時間接触反応させた。反応終了後、反応管内のガスをアルゴンガスで置換し、反応管内の温度を100℃以下になるまで冷却し、得られたカーボンナノチューブを採取した。得られたカーボンナノチューブは、導電性、分散性を比較するため、80メッシュの金網で粉砕ろ過した。
【0066】
(実施例5〜8および比較例3、4)
表2に記載した触媒と合成条件にそれぞれ変更した以外は、実施例4と同様な方法により、それぞれカーボンナノチューブを得た。
【0067】
【表2】
【0068】
<物性の測定方法>
カーボンナノチューブ合成用触媒およびカーボンナノチューブの物性は、以下の方法により測定した。
【0069】
<走査型電子顕微鏡による観察と平径>
走査型電子顕微鏡(日本電子(JEOL)社製、JSM−6700M))によって、カーボンナノチューブ合成用触媒またはカーボンナノチューブの形態観察を実施した。観察は、カーボンナノチューブ合成用触媒またはカーボンナノチューブをカーボンペーパー上にそのままの状態で散布して実施した。100個のカーボンナノチューブ合成用触媒またはカーボンナノチューブ100個の短軸と長軸の径の長さを計測し、その数平均値をもってカーボンナノチューブ合成用触媒の平均径(nm)またはカーボンナノチューブの平均径(nm)とした。また束状のカーボンナノチューブについては、100本の束中のカーボンナノチューブの本数、束の長さを計測し、その数平均値をもってカーボンナノチューブの束中の平均本数(本)、束の長さ(μm)とした。
【0070】
さらに、カーボンナノチューブ合成用触媒について、走査型電子顕微鏡(株式会社エリオニクス社製ERA―9000)による三次元解析を行い、10個のカーボンナノチューブ合成用触媒について、平板状の平面の横軸に対してX軸、Y軸、高さ方向に対してY軸を測定し、その平均値をそれぞれX軸平均(μm)、Y軸平均(μm)、Z軸平均(μm)を求めた。またX軸平均(μm)、Y軸平均(μm)の面積を、XY平面面積(μm2)として求めた。
【0071】
表3に触媒の形状、X軸平均(μm)、Y軸平均(μm)、Z軸平均(μm)、XY平面面積(μm2)を示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3より、実施例1〜3の水酸化コバルトより作製した触媒(a)〜(c)は表面に平面を有することが明らかとなった。比較例1の従来方法により作製した触媒(d)は表面に平面を有するが、XY平面面積が大きいことが明らかとなった。また、比較例2の従来方法により作製した触媒(e)は、球状の微細な不定形かたまり構造を有することが明らかとなった。
【0074】
(生産効率)
カーボンナノチューブは、合成時に使用した触媒と混合した形で得られるため、触媒効率の指標として、生産効率によって比較した。生産効率は、式(1)によって算出した。

生産効率=(合成で得られたカーボンナノチューブ重量−仕込み触媒重量)÷(仕込み触媒量)・・・・・・式(1)
【0075】
<体積抵抗率>
粉体抵抗率測定装置((株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP粉体抵抗率測定システムMCP−PD−51)を用い、試料重量1.2gとし、粉体用プローブユニット(四探針・リング電極、電極間隔5.0mm、電極半径1.0mm、試料半径12.5mm)により、印加電圧リミッタを90Vとして、種々加圧下のカーボンナノチューブの体積抵抗率を測定した。密度1.0g/mLにおける値をカーボンナノチューブの体積抵抗率(Ω・cm)とした。
【0076】
<カーボンナノチューブ含有塗膜の体積抵抗率とカーボンナノチューブの導電性評価>
カーボンナノチューブの導電性を評価するために、カーボンナノチューブを分散した塗膜を作成し、その体積抵抗率を測定することにより導電性評価を行った。
三菱化学社製エポキシ樹脂グレード1256を、ブチルカルビトールアセテートに溶解して、固形分40%のエポキシ樹脂溶液を作製し、エポキシ樹脂溶液の固形分15gに対して、評価用のカーボンナノチューブ0.789gを混合し、フーバーマーラーで150lb、100回転の条件でそれぞれ1〜3回練り、評価用のカーボンナノチューブ分散体を得た。その後、東洋紡績社製PETフィルムに、アプリケーターを用いて、乾燥後の塗膜厚さが10±1μmとなるように塗工後、電気オーブン中で150±5℃にて60分間乾燥させて、カーボンナノチューブを含有する塗膜を得た。(株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP粉体抵抗率測定システムMCP−PD−51を用いて、上記塗膜の体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。
【0077】
カーボンナノチューブ含有塗膜の導電性の評価基準は、上記3回練りの塗膜の体積抵抗率が、101Ω・cm)以下の場合を○(良)、101Ω・cm)を超える場合を×(不良)とした。
【0078】
<カーボンナノチューブの分散性評価>
カーボンナノチューブの分散性の評価基準は、式(2)から求めた値で、2以下の場合を〇(良)、2(Ω・cm)を超える場合を×(不良)とした。

分散性=(樹脂分散体積抵抗率3回練り(Ω・cm)÷(樹脂分散体積抵抗率1回練り(Ω・cm)・・・・・・式(2)
【0079】
表4に、実施例4〜8、比較例3〜4で得られたカーボンナノチューブの形状、平均径(nm)、平均本数(本)、束の長さ(μm)を示す。
【0080】
【表4】
【0081】
表5に、実施例〜8、比較例3、4で得られたカーボンナノチューブの評価結果を示す。
【0082】
【表5】
【0083】
表3及び表4から、本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒は、比較例の触媒よりも、触媒の平径(nm)が小さく、それ故、カーボンナノチューブの平均径(nm)が小さい束状構造を有するカーボンナノチューブが得られることが明らかとなった。

【0084】
また、同表より、本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒は、特別な微細化処理を施すことなく、比較例の触媒と比較してX軸、Y軸、Z軸が小さく、つまり厚みが小さくコンパクトな平面触媒となっているため、カーボンナノチューブの生産効率が優れていることが明らかとなった。
【0085】
表5より、本発明の束状を形成しているカーボンナノチューブは、比較例のカーボンナノチューブと比較して、優れた体積抵抗率を有していることが明らかとなった。また、本発明の束状を形成しているカーボンナノチューブを含有する樹脂は、比較例の従来製法で作製した束状構造または球状構造を有するカーボンナノチューブを含有する樹脂と比較して、高い導電性を有することが明らかとなった。
【0086】
表5より、本発明の束状を形成しているカーボンナノチューブを含有する樹脂は、比較例の従来製法で作製した束状構造または球状構造を有するカーボンナノチューブを含有する樹脂と比較して、試行回数(練り回数)の少ない状態からそのカーボンナノチューブの性能を引き出した導電性を有しており、高い分散性を有することが明らかとなった。
【0087】
従来の束状を形成しているカーボンナノチューブは、樹脂にカーボンナノチューブを分散させた場合、カーボンナノチューブの平均径(nm)が大きいため、低添加の場合、分散体の導電性の要因となるカーボンナノチューブマトリックスが作りにくい。しかし、本発明のバンドル状を形成しているカーボンナノチューブは、平均径(nm)が小さいため、易分散で導電性が発揮できることが可能になったと推測される。
【0088】
すなわち、本発明の製造方法により得られるカーボンナノチューブ合成用触媒を用いることにより、分散性に優れ、高い導電性を有する材料を提供できるカーボンナノチューブを効率的に製造できることが明らかとなった。
【0089】
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
図1