(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術では、雪面硬度の測定精度に改善の余地がある。
より詳細には、特許文献1では、路面の不整を考慮しておらず、路面の不整が沈下量検出の誤差となる可能性があり、また、柔らかい路面や新雪が積もった路面では、路面硬度が過小評価され、測定結果が正確でない可能性がある。
また、特許文献2は、路面の変形を直接計測せずに牽引時の前後力から推定するため、測定結果が路面−タイヤの摩擦特性に大きく影響され、路面硬度の推定精度が低い。また、タイヤにスリップ率を与えるので、雪が移動して路面性状が大きく変化し、試験が困難となる可能性がある。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、雪面硬度を精度よく測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した問題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明にかかる雪面硬度測定装置は、雪面に一定の接地圧を加えながら前記雪面上を移動する車輪状の押圧部材と、前記押圧部材の通過前における前記押圧部材の通過位置周辺の前記雪面の断面形状と、前記押圧部材の通過後における前記通過位置周辺の前記断面形状と、を連続的に測定する雪面形状測定手段と、前記押圧部材の通過前後における前記断面形状の変化に基づいて、前記押圧部材の前記通過位置の各点における前記雪面の鉛直方向の変位量を推定するとともに、当該変位量に基づいて前記通過位置の各点における雪面硬度を算出する処理手段と、
前記押圧部材の移動方向の前方に設けられ、前記押圧部材の通過前の前記雪面に接地圧を加えて当該雪面を予圧縮する予圧縮手段と、を備えることを特徴とする。
請求項
2の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記予圧縮手段は、前記押圧部材の移動方向に対して所定長さを有する平面状の接地面を有する部材である、ことを特徴とする。
請求項
3の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記予圧縮手段は、前記押圧部材と同方向に回転する車輪状の部材である、ことを特徴とする。
請求項
4の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記予圧縮手段によって前記雪面に加えられる接地圧は、前記押圧部材によって前記雪面に加えられる接地圧より小さい、ことを特徴とする。
請求項
5の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記予圧縮手段の接地面の幅は、前記押圧部材の接地面の幅よりも大きい、ことを特徴とする。
請求項
6の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記押圧部材および前記予圧縮手段によって前記雪面に加えられる接地圧は、0.1MPa以上1MPa以下である、ことを特徴とする。
請求項
7の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記押圧部材と前記雪面形状測定手段とは、同一の筐体に取着されており、前記押圧部材の移動方向に対する前記筐体の傾きを測定する筐体姿勢測定手段をさらに備え、前記処理手段は、前記筐体姿勢測定手段によって測定された前記筐体の傾きに基づいて前記断面形状を補正して前記変位量を推定する、ことを特徴とする。
請求項
8の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記押圧部材は、空気入りタイヤである、ことを特徴とする。
請求項
9の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記押圧部材および前記予圧縮手段は、共に空気入りタイヤである、ことを特徴とする。
請求項
10の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記押圧部材および前記予圧縮手段は、同一の筐体に取着されており、前記押圧部材である前記空気入りタイヤおよび前記予圧縮手段である前記空気入りタイヤの両方を駆動輪として前記筐体を移動させる、ことを特徴とする。
請求項
11の発明にかかる雪面硬度測定装置は、前記押圧部材である前記空気入りタイヤと前記予圧縮手段である前記空気入りタイヤとを逆位相で操舵する、ことを特徴とする。
請求項
12の発明にかかる雪面硬度測定装置は、
車輪状の押圧部材の移動方向の前方に設けられた予圧縮手段によって、前記押圧部材の通過前の雪面に接地圧を加えて当該雪面を予圧縮するステップと、前記押圧部材を用いて
前記雪面に一定の接地圧を加えながら前記雪面上を移動するとともに、前記押圧部材の通過前における前記押圧部材の通過位置周辺の前記雪面の断面形状を連続的に測定するステップと、前記押圧部材の通過後における前記通過位置周辺の前記断面形状を連続的に測定するステップと、前記押圧部材の通過前後における前記断面形状の変化に基づいて、前記押圧部材の前記通過位置の各点における前記雪面の鉛直方向の変位量を推定するステップと、前記変位量に基づいて前記通過位置の各点における雪面硬度を算出するステップと、を含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車輪状の押圧部材の通過位置周辺の雪面の断面形状を測定し、押圧部材の通過前後における雪面の鉛直方向の変位量に基づいて雪面硬度を算出する。雪面の位置を点ではなく断面形状で測定することによって、雪面の不整による影響を最小限にして雪面硬度の測定精度を向上させることができる。また、押圧部材の通過位置(轍内)のみならず通過位置周辺の雪面の断面形状を測定するので、連続して測定される断面形状のうち同一地点を特定しやすくすることができ、雪面硬度の測定精度を向上させることができる。
本発明によれば、押圧部材の移動方向の前方に予圧縮手段を設けたので、新雪のように密度が低い雪面であっても再現性の高い測定結果を得ることができる。また、予圧縮をおこなった雪面では予圧縮をおこなわない雪面と比較して、雪面の変位量と硬度との間の相関が高くなるため、雪面硬度の測定精度を向上させることができる。
本発明によれば、予圧縮手段を平面状の接地面を有する部材としたので、予圧縮手段のピッチング等が生じにくく、押圧部材の進行方向に対して均等に接地圧を与えることができる。
本発明によれば、予圧縮手段を車輪状の部材としたので、2輪車または4輪車等を雪面硬度測定装置とすることができる。
本発明によれば、予圧縮手段によって雪面に加えられる接地圧は、押圧部材によって雪面に加えられる接地圧より小さいので、過剰な予圧縮を防いで測定感度を向上させることができる。
本発明によれば、予圧縮手段の接地面の幅は押圧部材の接地面の幅よりも大きいので、押圧部材の接地面を全て予圧縮された状態にすることができ、測定の再現性を向上させることができる。
本発明によれば、押圧部材および予圧縮手段によって雪面に加えられる接地圧は、0.1MPa以上1MPa以下であるので、雪を変形(圧縮)させるのに必要な接地圧かつ通常の車輪状部材の接地圧範囲内にすることができる。
本発明によれば、押圧部材および雪面形状測定手段が取着された筐体の傾きに基づいて断面形状を補正して変位量を推定するので、筐体のローリングやピッチング、路面勾配の影響による測定誤差を補正することができ、雪面硬度の推定精度を向上させることができる。
本発明によれば、押圧部材として空気入りタイヤを用いるので、空気入りタイヤの性能評価試験における走行路面(走行雪面)の状態を把握するのに適したレンジの雪面硬度を測定することができる。
本発明によれば、押圧部材および予圧縮手段は、共に空気入りタイヤであるので、空気入りタイヤを装着した一般的な2輪車または4輪車等を雪面硬度測定装置とすることができる。
本発明によれば、押圧部材である空気入りタイヤおよび予圧縮手段である空気入りタイヤの両方を駆動輪として筐体を移動させるので、駆動時にかかる力の影響による測定誤差を最小にすることができる。
本発明によれば、押圧部材である空気入りタイヤと予圧縮手段である空気入りタイヤとを逆位相で操舵するので、旋回中も前輪(予圧縮手段である空気入りタイヤ)と後輪(押圧部材である空気入りタイヤ)の轍を同一位置にすることができ、曲路における雪面硬度の測定が可能となる。
本発明によれば、車輪状の押圧部材の通過位置周辺の雪面の断面形状を測定し、押圧部材の通過前後における雪面の鉛直方向の変位量に基づいて雪面硬度を算出する。雪面の位置を点ではなく断面形状で測定することによって、雪面の不整による影響を最小限にして雪面硬度の測定精度を向上させることができる。また、押圧部材の通過位置(轍内)のみならず通過位置周辺の雪面の断面形状を測定するので、連続して測定される断面形状のうち同一地点を特定しやすくすることができ、雪面硬度の測定精度を向上させることができる。
本発明によれば、押圧部材の移動方向の前方に予圧縮手段を設けたので、新雪のように密度が低い雪面であっても再現性の高い測定結果を得ることができる。また、予圧縮をおこなった雪面では予圧縮をおこなわない雪面と比較して、雪面の変位量と硬度との間の相関が高くなるため、雪面硬度の測定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる雪面硬度測定装置および雪面硬度測定方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる雪面硬度測定装置10の構成を示す説明図である。
実施の形態1にかかる雪面硬度測定装置10は、車輪状の押圧部材102と、雪面形状測定手段104(104A,104B)と、処理部(処理手段)106と、姿勢角センサ(筐体姿勢測定手段)108と、筐体120と、によって構成される。
雪面硬度測定装置10による測定結果は、たとえばスノータイヤの性能評価試験における走行路面(走行雪面)の状態を把握するために使用される。
【0011】
押圧部材102は、雪面Gに一定の接地圧L1を加えながら雪面G上を移動する。
本実施の形態では、押圧部材102は空気入りタイヤである。
図1では押圧部材102を1つのみ図示しているが、中心軸Oを共通する2つの空気入りタイヤを進行方向に対して左右に並べて配置してもよい。その場合、後述する雪面硬度の測定は、一方の押圧部材102(空気入りタイヤ)のみでおこなってもよいし、両方の押圧部材102(空気入りタイヤ)でおこなってもよい。
雪面硬度測定装置10において、押圧部材102を車輪状としたのは、他の移動動兼接地圧維持手段の一例であるソリや無限軌道などでは、雪面Gに対する接地圧が不足し、上記のようなタイヤの性能評価試験時における雪面硬度測定に適したレンジの測定値が得られない可能性があるためである。
なお、押圧部材102からの接地圧L1とは、押圧部材102から雪面Gに対する荷重(接地荷重)を、押圧部材102の接地面積(平面接地形状の輪郭に含まれる範囲の面積)で除した値である。
【0012】
本実施の形態では、押圧部材102は、矢印R方向(紙面左方向)に移動するものとする。
押圧部材102および筐体120の移動は、たとえば筐体120を他の車両やウインチ等で牽引したり、モータなどによって押圧部材102を駆動することによっておこなわれる。
なお、雪面硬度測定装置20の測定中における移動速度は一定にするのが好ましい。これは、雪面硬度測定装置20の移動速度に応じて雪面Gに対する押圧部材102からのインパクト(接地圧のかかり方)が変化し、雪面Gの圧縮量が変化する可能性があるためである。
また、押圧部材102を駆動して雪面硬度測定装置20を移動させる場合には、最小限の駆動力で駆動させることが好ましい。これは、駆動輪から雪面Gに対してせん断応力が加わるため、雪面Gの状態が変化して測定に影響を与える可能性があるためである。駆動輪の駆動力を最小限にすることによって、駆動時にかかる力が雪面Gに与える影響を最小限にすることができる。
【0013】
雪面形状測定手段104(104A,104B)は、押圧部材102の通過前における押圧部材102の通過位置周辺の雪面Gの断面形状と、押圧部材102の通過後における通過位置周辺の断面形状と、を連続的に測定する。
本実施の形態では、雪面形状測定手段104としてレーザーラインスキャナ104A,104Bを用いる。
押圧部材102の進行方向に対して前側にはレーザーラインスキャナ104Aが設置され、押圧部材102の通過前における通過位置周辺の雪面Gの断面形状を測定する。また、押圧部材102の進行方向に対して後側にはレーザーラインスキャナ104Bが設置され、押圧部材102の通過後における通過位置周辺の雪面Gの断面形状を測定する。
なお、雪面形状測定手段104として、たとえばステレオカメラなどを用いてもよい。また、レーザーラインスキャナとステレオカメラを組み合わせるなど、複数の測定装置を組み合わせて雪面形状測定手段104としてもよい。
押圧部材102の通過位置周辺とは、押圧部材102の通過によってできた轍およびその周辺を含む雪面Gである。轍のみならず轍周辺の雪面Gの形状を測定することにより、2つのレーザーラインスキャナ104A,104Bで得られた測定値の対応(同一地点における測定値の特定)を精度よく取ることができる。
また、連続的に測定とは、たとえば雪面硬度測定装置10に対する硬度測定の開始指示を受けてから硬度測定の終了指示を受けるまで、との意味である。
なお、本実施の形態では、押圧部材102と雪面形状測定手段104とは、同一の筐体120に取着されている。また、雪面形状測定手段104による測定結果は、処理部106に出力される。
【0014】
姿勢角センサ108は、押圧部材102の移動方向に対する筐体120の傾きを測定する筐体姿勢測定手段である。
姿勢角センサ108は、慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)などであり、筐体120のローリングやピッチング、路面勾配による傾きなどを検知する。
姿勢角センサ108による測定値は、処理部106に出力される。
【0015】
処理部106は、押圧部材102の通過前後における雪面Gの断面形状の変化に基づいて、押圧部材102の通過位置の各点における雪面Gの鉛直方向の変位量を推定するとともに、当該変位量に基づいて通過位置の各点における雪面硬度を算出する。
処理部106は、具体的には、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成される。
なお、本実施の形態では、処理部106を筐体120内に設けることとしたが、処理部106を筐体120の外部に設けてもよい。この場合、たとえば雪面形状測定手段104に通信機能を持たせて測定結果を処理部106送信させるようにする。
【0016】
図2は、処理部106の機能的構成を示すブロック図である。
処理部106は、上記CPUが上記制御プログラムを実行することにより、変位量推定部1062および硬度算出部1064を実現する。
変位量推定部1062は、押圧部材102の通過前後における雪面Gの断面形状の変化に基づいて、押圧部材102の通過位置の各点における雪面Gの鉛直方向の変位量を推定する。
【0017】
ここで、変位量推定部1062は、雪面形状測定手段104によって得られる雪面Gの断面形状の測定結果を用いて、雪面Gの鉛直方向の変位量を推定する。
図3は、雪面形状測定手段104によって得られる雪面Gの断面形状の測定値の一例を示す説明図である。
図3Aはレーザーラインスキャナ104Aで得られる押圧部材102の通過前における断面形状P1であり、
図3Bはレーザーラインスキャナ104Bで得られる押圧部材102の通過後における断面形状P2であり、
図3Cは断面形状P1およびP2を重ね合わせたものである。
図3Aに示す押圧部材102の通過前の断面形状P1は略平面であるのに対して、
図3Bに示す押圧部材102の通過後の断面形状P2は中央部に轍Fが形成されている。
【0018】
図3Aや
図3Bに示す断面形状は連続的に測定されているため、変位量推定部1062では、まず、レーザーラインスキャナ104Aで得られた測定値とレーザーラインスキャナ104Bで得られた測定値とから、同一箇所で得られた断面形状を特定する。
具体的には、たとえばレーザーラインスキャナ104Aおよびレーザーラインスキャナ104Bで得られた測定値にそれぞれ測定時刻を示すタイムスタンプを付与しておく。
変位量推定部1062は、たとえばレーザーラインスキャナ104Aとレーザーラインスキャナ104Bとの間の距離、および押圧部材102の移動速度から、レーザーラインスキャナ104Aの測定範囲が所定地点Yを通過した時刻T1およびレーザーラインスキャナ104Bの測定範囲が所定地点Yを通過した時刻T2を特定する。
そして、時刻T1にレーザーラインスキャナ104Aで得られた測定値と、時刻T2にレーザーラインスキャナ104Bで得られた測定値とが、同一箇所で得られた断面形状と特定する。
なお、押圧部材102の移動速度が一定であれば、一度2つのレーザーラインスキャナ104A,104Bの測定値の対応をとれば、その後は測定値を同時刻分ずらしていけばよい。
【0019】
つぎに、変位量推定部1062は、
図3Cに示すように、同一箇所で得られた断面形状P1,P2を重ね合わせて変位量Dを推定する。
このとき、押圧部材102の通過後の断面形状P2を用いて轍Fの幅である押圧部材102の接地幅W1(轍Fの幅)を特定し、轍F外部の断面形状の位置を揃えることにより、2つの断面形状における雪面Gの位置を揃える。たとえば、2つの断面形状における轍F外部の形状を、相互相関関数などを用いてパターンマッチングするとよい。
そして、変位量推定部1062は、接地幅W1の範囲における断面形状P1,P2の平均位置をそれぞれ算出する。
すなわち、
図3Cの点線V1は接地幅W1の範囲における断面形状P1の平均位置、点線V2は接地幅W1の範囲における断面形状P2の平均位置である。
これにより、断面形状P1,P2の微小な凹凸などが平滑化される。
そして、変位量推定部1062は、接地幅W1の範囲における断面形状P1,P2の平均位置の差を、雪面Gの鉛直方向の変位量Dとして推定する。
【0020】
なお、押圧部材102の接地面(空気入りタイヤの場合、トレッド面)に模様(トレッドパターン)がある場合、
図4に示すように、轍Fの断面形状に凹凸パターンMが形成されることがある。
このような場合、単に断面形状P2の平均位置を算出すると、轍Fの底面よりも高い位置が断面形状P2の平均位置となり、変位量Dの推定精度が低下する。
よって、押圧部材102の接地面に模様が設けられている場合には、
図4に示すように、接地幅W1内における断面形状P2の包絡線P2’を平均位置とする。
【0021】
また、変位量推定部1062において、姿勢角センサ108の測定値を用いて断面形状(レーザーラインスキャナ104A,104Bの測定値)の補正をおこなってもよい。
より詳細には、姿勢角センサ108で測定された筐体120の姿勢角(ロール角、ピッチ角等)を用いて鉛直方向以外の成分を除去することにより、レーザーラインスキャナ104A,104Bの測定値の補正をおこなう。
この場合、筐体120の姿勢のずれに伴う断面形状の測定誤差を補正することができ、路面硬度の測定精度を向上させることができる。
【0022】
図2の説明に戻り、硬度算出部1064は、雪面Gの変位量Dに基づいて押圧部材102の通過位置の各点における雪面硬度を算出する。
硬度算出部1064は、たとえば回帰式を用いて変位量Dを硬度値(CTI値等)に換算する。この回帰式では、路面硬度は変位量Dに反比例し、押圧部材102からの接地圧L1に比例する。なお、接地圧L1が一定であれば路面硬度の回帰式は変位量Dのみを説明変数とすればよい。
【0023】
図5は、雪面硬度測定装置10による処理を示すフローチャートである。
図5のフローチャートでは、雪面G上の一地点Iに対する処理について説明するが、実際は雪面硬度測定装置10では連続的に下記の処理をおこない、雪面Gの硬度を連続的に測定する。
雪面硬度測定装置10は、まず、レーザーラインスキャナ104Aによって押圧部材102の通過前の地点Iの断面形状P1を測定する(ステップS10)。
押圧部材102が地点Iを通過すると(ステップS12)、レーザーラインスキャナ104Bによって押圧部材102の通過後の地点Iの断面形状P2を測定する(ステップS14)。
つぎに、処理部106において、レーザーラインスキャナ104A,104Bから連続的に出力される断面形状の中から地点I(同一地点)の断面形状P1,P2を特定し(ステップS16)、接地幅W1内の断面形状P1,P2を平均化する(ステップS18)。つづいて、処理部106は、平均化した断面形状P1,P2の位置の差分を変位量Dとして推定する(ステップS20)。
そして、変位量Dを硬度に変換する回帰式を用いて地点Iの雪面硬度を算出して(ステップS22)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0024】
以上説明したように、実施の形態1にかかる雪面硬度測定装置10は、車輪状の押圧部材102の通過位置周辺の雪面Gの断面形状を測定し、押圧部材102の通過前後における雪面Gの鉛直方向の変位量Dに基づいて雪面硬度を算出する。雪面Gの位置を点ではなく断面形状で測定することによって、雪面Gの不整による影響を最小限にして雪面硬度の測定精度を向上させることができる。
また、押圧部材102の通過位置(轍内)のみならず通過位置周辺の雪面Gの断面形状を測定するので、連続して測定される断面形状のうち同一地点を特定しやすくすることができ、雪面硬度の測定精度を向上させることができる。
また、雪面硬度測定装置10は、押圧部材102および雪面形状測定手段104が取着された筐体120の傾きに基づいて断面形状を補正して変位量Dを推定するので、筐体120のローリングやピッチング、路面勾配の影響による測定誤差を補正することができ、雪面硬度の推定精度を向上させることができる。
また、雪面硬度測定装置10は、押圧部材102として空気入りタイヤを用いるので、空気入りタイヤの性能評価試験における走行路面(走行雪面)の状態を把握するのに適したレンジの雪面硬度を測定することができる。
【0025】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1の構成に加えて、押圧部材102の通過前の雪面Gを予圧縮する予圧縮手段を設けた例について説明する。
なお、以下の説明において、実施の形態1と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
図6は、実施の形態2にかかる雪面硬度測定装置20の構成を示す説明図である。
実施の形態2にかかる雪面硬度測定装置20は、
図1に示す雪面硬度測定装置10の構成に加えて、押圧部材102の移動方向の前方に設けられ、押圧部材102の通過前の雪面Gに接地圧を加えて当該雪面Gを予圧縮する予圧縮手段110をさらに備える。
本実施の形態では、押圧部材102および予圧縮手段110は、同一の筐体120に取着されている。
予圧縮手段110を用いて押圧部材102の通過前に雪面Gを予圧縮することによって、新雪のように密度が低い雪面Gであっても再現性の高い測定結果を得ることができる。また、後述するように、予圧縮をおこなった雪面Gでは予圧縮をおこなわない雪面と比較して、変位量Dと硬度との間の相関が高くなるため、雪面硬度の測定精度を向上させることができる。
【0026】
図6では、予圧縮手段110としてソリ110Aを採用している。予圧縮手段110は、雪面Gに対して一定の接地圧L2を加えながら雪面G上を移動できる構成であればよく、ソリ110Aの他、たとえば無限軌道などであってもよい。すなわち、この場合の予圧縮手段110は、押圧部材102の移動方向に対して所定長さを有する平面状の接地面を有する部材である。
予圧縮手段110として無限軌道を用いる場合、無限軌道を駆動輪とし、押圧部材102を従動輪とするのが好ましい。これは、押圧部材102を駆動輪とした場合に、押圧部材102と雪面Gとの摩擦等によって測定精度が低下する可能性があるためである。
また、予圧縮手段110がソリ110Aの場合は、たとえば筐体120を他の車両やウインチ等で牽引したり、モータなどによって押圧部材102を駆動することによって押圧部材102および筐体120を移動させる。
【0027】
なお、雪面硬度測定装置20の測定中における移動速度は一定にするのが好ましい。これは、雪面硬度測定装置20の移動速度に応じて雪面Gに対する予圧縮手段110および押圧部材102からのインパクト(接地圧のかかり方)が変化し、雪面Gの圧縮量が変化する可能性があるためである。
また、予圧縮手段110または押圧部材102を駆動して雪面硬度測定装置20を移動させる場合には、最小限の駆動力で駆動させることが好ましい。これは、駆動輪から雪面Gに対してせん断応力が加わるため、雪面Gの状態が変化して測定に影響を与える可能性があるためである。駆動輪の駆動力を最小限にすることによって、駆動時にかかる力が雪面Gに与える影響を最小限にすることができる。
【0028】
また、予圧縮手段110によって雪面Gに加えられる接地圧L2は、押圧部材102によって雪面Gに加えられる接地圧L1より小さくする。
これは、予圧縮手段110によって雪面Gに加えられる接地圧L2が、押圧部材102によって雪面Gに加えられる接地圧L1より大きくなると、予圧縮が過剰となり測定感度が低下する(押圧部材102による雪面Gの圧縮がごく小さくなる)ためである。
なお、予圧縮手段110からの接地圧L2とは、予圧縮手段110から雪面Gにかかる荷重(接地荷重)を、押圧部材102の接地面積(平面接地形状の輪郭に含まれる範囲の面積)で除した値である。
【0029】
また、予圧縮手段110の接地面の幅(接地幅)は、押圧部材102の接地面の幅(接地幅)よりも大きくする。
これは、予圧縮手段110の接地幅が押圧部材102の接地幅よりも小さいと、予圧縮がなされない領域を押圧部材102が圧縮することになり、測定の再現性が低下するためである。
【0030】
また、押圧部材102および予圧縮手段110によって雪面Gに加えられる接地圧は、0.1MPa以上1MPa以下とする。
接地面圧を0.1MPa以上とするのは、雪面Gが破壊性変形(塑性変形)をおこすために必要な接地圧が一般的に0.1MPa以上であることによる。
また、接地面圧を1MPa以下とするのは、通常の空気入りタイヤの接地面圧が1MPa以下程度であることによる。
なお、雪面Gの硬度が特に高い場合には、接地面圧を大きくすると測定感度が向上する。また、雪面Gの硬度が特に低い場合には、接地面圧を小さくすると測定の再現性が向上する。
すなわち、測定対象となる雪面Gの硬度の概算値を用いて押圧部材102および予圧縮手段110からの接地面圧を変更することにより、より信頼性の高い測定をおこなうことができる。
なお、押圧部材102および予圧縮手段110からの接地面圧を変更した場合は(たとえば押圧部材102または予圧縮手段110からの接地圧を変更した場合や、押圧部材102または予圧縮手段110の接地面積を変更した場合など)、変位量Dを硬度に変換する回帰式を再度計算する。
【0031】
図7は、実施の形態2にかかる雪面硬度測定装置20の他の構成を示す説明図である。
図7では、予圧縮手段110として押圧部材102と同様に空気入りタイヤ110Bを採用した例を示している。すなわち、この場合の予圧縮手段110は、押圧部材102でと同方向に回転する車輪状の部材であり、押圧部材102および予圧縮手段110は、共に空気入りタイヤである。
このように、予圧縮手段110および押圧部材102の両方を空気入りタイヤとした場合、押圧部材102である空気入りタイヤおよび予圧縮手段110である空気入りタイヤの両方を駆動輪として筐体120を移動させることが望ましい。
これにより、空気入りタイヤの駆動による測定誤差を最小にすることができる。
【0032】
また、押圧部材102である空気入りタイヤと予圧縮手段110である空気入りタイヤとを逆位相で操舵することが望ましい。
これにより、筐体120の旋回中も前輪と後輪の轍が同一位置となり、測定対象の雪面Gが曲路等である場合にも測定が可能となる。
【0033】
実施の形態2における雪面硬度測定方法について説明する。
雪面硬度測定装置20に予圧縮手段110を設けた場合には、
図5のフローチャートのステップS10の前に、押圧部材102の移動方向の前方に設けられた予圧縮手段110によって、押圧部材102の通過前の雪面Gに接地圧を加えて当該雪面Gを予圧縮するステップをおこなう。
【0034】
以上説明したように、実施の形態2にかかる雪面硬度測定装置20は、押圧部材102の移動方向の前方に予圧縮手段110を設けたので、新雪のように密度が低い雪面Gであっても再現性の高い測定結果を得ることができる。また、予圧縮をおこなった雪面Gでは予圧縮をおこなわない雪面Gと比較して、雪面Gの変位量Dと硬度との間の相関が高くなるため、雪面硬度の測定精度を向上させることができる。
また、雪面硬度測定装置20において、予圧縮手段110を平面状の接地面を有する部材とすれば、予圧縮手段110のピッチング等が生じにくく、押圧部材102の進行方向に対して均等に接地圧を与えることができる。
また、雪面硬度測定装置20において、予圧縮手段110を車輪状の部材とすれば、2輪車または4輪車等を雪面硬度測定装置とすることができる。
また、雪面硬度測定装置20において、予圧縮手段110によって雪面Gに加えられる接地圧を押圧部材102によって雪面に加えられる接地圧より小さくすれば、過剰な予圧縮を防いで測定感度を向上させることができる。
また、雪面硬度測定装置20において、予圧縮手段110の接地面の幅を押圧部材102の接地面の幅よりも大きくすれば、押圧部材102の接地面を全て予圧縮された状態にすることができ、測定の再現性を向上させることができる。
また、雪面硬度測定装置20において、押圧部材102および予圧縮手段110によって雪面Gに加えられる接地圧を、0.1MPa以上1MPa以下とすれば、雪面Gを変形(圧縮)させるのに必要な接地圧かつ通常の車輪状部材の接地圧範囲内にすることができる。
また、雪面硬度測定装置20において、押圧部材102および予圧縮手段110を共に空気入りタイヤにすれば、空気入りタイヤを装着した一般的な2輪車または4輪車等を雪面硬度測定装置とすることができる。
また、雪面硬度測定装置20において、押圧部材102である空気入りタイヤおよび予圧縮手段110である空気入りタイヤの両方を駆動輪として筐体120を移動させるので、駆動時にかかる力の影響による測定誤差を最小にすることができる。
また、雪面硬度測定装置20において、押圧部材102である空気入りタイヤと予圧縮手段110である空気入りタイヤとを逆位相で操舵するようにすれば、旋回中も前輪(予圧縮手段である空気入りタイヤ)と後輪(押圧部材である空気入りタイヤ)の轍を同一位置にすることができ、曲路における雪面硬度の測定が可能となる。
【実施例1】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。
図8および
図9は、共に本発明にかかる雪面硬度測定装置を用いて雪面硬度を一定距離間連続測定した結果を示すグラフであり、
図8は予圧縮手段110による予圧縮をおこなった場合の測定結果(実施の形態2に対応:予圧縮あり条件)、
図9は予圧縮手段110による予圧縮をおこなわない場合の測定結果(実施の形態1に対応:予圧縮なし条件)を示している。
図8および
図9において、縦軸は雪面硬度(CTI換算値)、横軸は測定開始点からの距離を示す。また、
図8および
図9には、本発明にかかる雪面硬度測定装置で測定した雪面硬度の他、先行技術にかかる雪面硬度測定装置で測定した雪面硬度、およびペネトロメータで単点測定した雪面硬度がプロットされている。
なお、先行技術については、引用文献1の請求項11相当の雪上硬度測定装置を用いた。
【0036】
また、
図10は、各測定条件における測定結果(雪面硬度)の標準偏差を示すグラフ、
図11は、各測定条件における測定結果(雪面硬度)の平均値を示すグラフである。
本測定は、排気量1.6L、AWDの4輪車(ハッチバック車)の車両に空気入りタイヤを装着しておこなっている。空気入りタイヤのタイヤサイズは、F:225/45R17、R:195/65R15(ともにスタッドレスタイヤ)であり、トレッド幅は、F:1400mm、R:1400mmとし、ホイールスペーサーを利用して前後を整列させている。
押圧部材102とする車輪(測定車輪)は、予圧縮あり条件では後輪(R)、予圧縮なし条件では前輪(F)とした。
空気入りタイヤの空気圧は、F:180kPa、R:350kPaとし、単輪荷重は、F:4kN、R:4kNとし、接地圧は、F:0.20MPa、R:0.34MPaとした。
雪面形状測定手段104として、レーザーラインスキャナを測定車輪の前後に計2個設置した。また、筐体姿勢測定手段(姿勢角センサ108)として慣性計測装置(IMU)を使用した。また、車両の走行速度と走行距離を測定するためにGPS距離・速度計を使用した。
走行方法は、速度10±2km/hを維持し、直進走行をおこなうものとした。
【0037】
本測定に用いた雪面は、雪面硬度を一定としている。すなわち、雪上硬度測定装置で測定される雪面硬度が一定であるほど、真の雪面硬度に近いと推定できる。
図8および
図9における雪面硬度の値を比較すると、先行技術と本願発明とでは本願発明の方が値が一定しており、実際の路面状態(硬度一定)と一致度が高いことがわかる。
また、
図8に示す予圧縮あり条件と
図9に示す予圧縮なし条件とを比較すると、
図8に示す予圧縮あり条件の方が測定値が安定しており、実際の路面状態(硬度一定)と一致度が高いことがわかる。
また、
図10に示す測定値の標準偏差を比較すると、先行技術における測定値の標準偏差が最も高く、雪面硬度一定である実際の路面との差異が最も大きい。
一方、本願発明は、予圧縮あり条件および予圧縮なし条件のいずれも先行技術と比較して標準偏差が半分以下となっており、本願発明は先行技術と比較して実際の雪面硬度をより正確に測定できていることがわかる。
また、予圧縮あり条件における標準偏差は、単点計測とほぼ同値となっており、予圧縮なし条件と比較して予圧縮あり条件の方が実際の雪面硬度をより正確に測定できていることがわかる。
また、
図11に示すように、本願発明における測定値は、予圧縮あり条件および予圧縮なし条件のいずれも、先行技術と比較して単点計測で得られた測定値に近く、本願発明は先行技術と比較して実際の雪面硬度をより正確に測定できていることがわかる。
【0038】
図12は、雪面硬度測定装置で測定した雪面硬度と、単点測定した雪面硬度とを比較するグラフである。
図12において、縦軸は本発明および先行技術にかかる雪面硬度測定装置で測定した雪面硬度(CTI換算値)、横軸はペネトロメータで単点測定した雪面硬度(CTI)である。
本発明にかかる雪面硬度測定装置の測定値のうち、予圧縮あり条件の測定値は、幅広いレンジで単点測定値と一致している。
また、本発明にかかる雪面硬度測定装置の測定値のうち、予圧縮なし条件の測定値は、予圧縮あり条件と比較してCTIが低い領域(雪が柔らかい状態)での精度がやや低下している。
一方、先行技術にかかる雪面硬度測定装置で測定した測定値は、CTIが低い領域(雪が柔らかい状態)において単点測定値より大幅に低い値となっている。
上述のように、本発明および先行技術にかかる雪面硬度測定装置では、変位量Dを回帰式を用いて硬度値(CTI値等)に換算しているが、先行技術にかかる雪面硬度測定装置では、特にCTIが低い領域において誤差が生じやすく、本発明のような幅広いレンジでの雪面硬度の測定が困難である。
【0039】
以上のように、本発明にかかる雪上硬度測定装置は、先行技術にかかる雪上硬度測定装置と比較して、実際の雪面硬度をより正確に測定することができる。
また、実施の形態2のように予圧縮をおこなった方が、実施の形態1のように予圧縮をおこなわない場合と比較して、実際の雪面硬度をより正確に測定することができる。