特許第6237329号(P6237329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237329
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】直噴ガソリンエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 11/00 20060101AFI20171120BHJP
   C01B 13/11 20060101ALI20171120BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20171120BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20171120BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20171120BHJP
   F02D 41/38 20060101ALI20171120BHJP
   F02M 25/12 20060101ALI20171120BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20171120BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F02B11/00 A
   C01B13/11 A
   F02B23/10 N
   F02B23/10 S
   F02B23/10 V
   F02B23/10 K
   F02B23/10 320
   F02D41/02 351
   F02D41/04 385Z
   F02D41/38 B
   F02M25/12 D
   F02D45/00 314H
   F02D19/12 Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-35629(P2014-35629)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-161195(P2015-161195A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】原田 雄司
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 祐利
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋幸
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−216270(JP,A)
【文献】 特開2010−101206(JP,A)
【文献】 特開2011−007158(JP,A)
【文献】 特開平10−205397(JP,A)
【文献】 特開2001−003771(JP,A)
【文献】 特開2002−309941(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0195078(US,A1)
【文献】 特開2003−003873(JP,A)
【文献】 特開2003−003897(JP,A)
【文献】 特開2011−007154(JP,A)
【文献】 特開2012−154194(JP,A)
【文献】 特開2012−241590(JP,A)
【文献】 特開2013−148098(JP,A)
【文献】 特開2014−025374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00−23/10
F02B 47/00−47/06
F02D 13/00−28/00
F02D 41/00−41/40
F02D 43/00−45/00
F02M 25/00−25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガソリンを含む混合気を圧縮行程で自着火させるCI燃焼が行われる直噴ガソリンエンジンであって、
ピストンの昇降によって容積が変化する気筒と、
前記気筒の内部に少なくともガソリンを含有する燃料を噴射するインジェクタと、
吸気口を通じて前記気筒の内部に吸気を導入する吸気ポートと、
排気口を通じて前記気筒の内部から排気を排出する排気ポートと、
前記吸気口及び前記排気口の各々を開閉する吸気弁及び排気弁と、
前記気筒の内部でオゾンを生成するオゾン生成装置と、
を備え、
前記オゾン生成装置は、
前記気筒から電気的に絶縁された状態で当該気筒の内部に突出する電極と、
制御されたパルス状の電圧を前記電極に印加する高電圧制御装置と、
を有し、
前記高電圧制御装置が作動して前記電極に電圧を印加することにより、当該電極と前記気筒との間に放電が生じ、当該放電の作用で当該気筒の内部にオゾンが生成されるように構成されており、
圧縮行程で前記インジェクタが前記燃料を噴射する圧縮行程噴射を少なくとも行う燃焼パターンを有し、
前記燃焼パターンが行われる場合に、吸気行程前記高電圧制御装置が作動し前記圧縮行程噴射よりも少量の前記燃料が、当該高電圧制御装置の作動に連動して噴射される直噴ガソリンエンジン。
【請求項2】
ガソリンを含む混合気を圧縮行程で自着火させるCI燃焼が行われる直噴ガソリンエンジンであって、
ピストンの昇降によって容積が変化する気筒と、
前記気筒の内部に少なくともガソリンを含有する燃料を噴射するインジェクタと、
吸気口を通じて前記気筒の内部に吸気を導入する吸気ポートと、
排気口を通じて前記気筒の内部から排気を排出する排気ポートと、
前記吸気口及び前記排気口の各々を開閉する吸気弁及び排気弁と、
前記気筒の内部でオゾンを生成するオゾン生成装置と、
を備え、
前記オゾン生成装置は、
前記気筒から電気的に絶縁された状態で当該気筒の内部に突出する電極と、
制御されたパルス状の電圧を前記電極に印加する高電圧制御装置と、
を有し、
前記高電圧制御装置が作動して前記電極に電圧を印加することにより、当該電極と前記気筒との間に放電が生じ、当該放電の作用で当該気筒の内部にオゾンが生成されるように構成されており、
圧縮行程で前記インジェクタが前記燃料を噴射する圧縮行程噴射を少なくとも行う燃焼パターンを有し、
前記燃焼パターンが行われる場合に、吸気行程及び圧縮行程の少なくともいずれか一方で前記高電圧制御装置が作動し、
前記燃料の噴射量が相対的に少ない場合に、吸気行程で前記高電圧制御装置が作動し、
前記燃料の噴射量が相対的に多い場合に、圧縮行程で前記高電圧制御装置が作動する直噴ガソリンエンジン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の直噴ガソリンエンジンにおいて、
前記圧縮行程噴射が、前記気筒の内部の中央部分に混合気が偏在するように行われる直噴ガソリンエンジン。
【請求項4】
請求項3に記載の直噴ガソリンエンジンにおいて、
前記混合気と前記気筒の内面との間に空気層が形成されている直噴ガソリンエンジン。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一つに記載の直噴ガソリンエンジンにおいて、
前記圧縮行程噴射に連動して前記高電圧制御装置が作動する直噴ガソリンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンを含有する燃料を気筒の内部に直接噴射する自動車等のエンジンであって、圧縮自己着火燃焼(Compression Ignition Combustion:CI燃焼)を行うエンジンに関し、特にオゾンの利用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
CI燃焼は、ガソリンを含む混合気を、気筒内で圧縮して高温高圧にすることにより、自着火させる燃焼形態である。火花点火によって混合気に着火し、その火炎が伝播することによって燃焼させる従来の燃焼方式(火花点火)とは異なり、CI燃焼では、気筒内の各所で同時多発的に混合気が着火する。火花点火と比べると、CI燃焼は燃焼期間が短く、低燃費や低NOx等が期待できる。
【0003】
一方、CI燃焼は、安定的に行える駆動領域が狭いという難点がある。そこで、CI燃焼を促進させるために、CI燃焼では、所定の駆動領域で火花点火を行って同時多発的な着火を誘発させる着火アシストなどが行われている(例えば、特許文献1)。ただし、着火アシストを行うためには、点火プラグの設置やその制御が必要になる。
【0004】
また、CI燃焼を促進させる他の手段に、オゾン添加がある。筒内の混合気にオゾンを適切に混合させることで、自着火を誘発することができるので、特に低温でのCI燃焼の促進が期待できる。オゾンによるCI燃焼の促進については、例えば、特許文献2に開示されている。
【0005】
特許文献2のエンジンでは、オゾン発生装置で発生させたオゾンを気筒内に供給している。詳細には、オゾンを効率的に気筒内に供給しながら混合気と良好に混合できるように、圧縮行程中に、燃料とオゾンを気筒内に供給している。
【0006】
特許文献2では、オゾン発生装置の詳細については開示されていないが、従来のオゾン発生装置のオゾン発生機構は、誘電体バリア放電を利用した無声放電方式が一般的である。
【0007】
図1に、無声放電方式を採用したオゾン発生装置の主要部(セル100)の基本構造を示す。セル100は、高周波高圧電源に接続された一対の電極101,101と、ガラスなどの、電気的絶縁性を有する誘電体102とで構成されている。
【0008】
一対の電極101,101は、隙間を隔てて互いに対向するように配置されており、その対向面の一方又は双方に誘電体102が設置されている。電極101等の形状により、プレート状やチューブ状のセル100がある。
【0009】
オゾン発生時には、電極101,101間の隙間で放電が生じるように、両電極101,101間にパルス状の高電圧が印加され、空気等の酸素を含む原料ガスが、放電が生じている隙間に供給される。そうして、原料ガスが隙間を通過することによってオゾンが生成される。印加される電圧は、一般的に、パルス幅が数μs〜数10μs(マイクロ秒)程度、電圧が数kV〜数10kV程度である。
【0010】
誘電体102は、高電圧の印加によって電極101,101間に火花や熱等が発生しないように、電極101,101間に大きな電流が流れるのを阻止している。しかしながら、誘電体102によって電圧損失が生じるため、無声放電方式は、オゾン生成効率やエネルギーの利用効率の面では不利がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012−241590号公報
【特許文献2】特開2002−309941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、オゾン発生装置でオゾンを発生させる場合、既にオゾン生成効率やエネルギーの利用効率の不利があるうえに、オゾン発生装置から気筒内へオゾンを供給すると、その過程においてもオゾンの減少やエネルギーロスが生じる。
【0013】
従って、オゾン発生装置で発生させたオゾンを気筒内に供給するエンジンは、オゾン生成効率やエネルギーの利用効率の面で不利がある。また、オゾンと吸気とを適切に混合する必要があるし、供給に時間を要するため、制御のレスポンスの面でも不利がある。
【0014】
そのような不利を改善するために、特許文献2のエンジンでは、オゾンを圧縮行程中に気筒内に供給しているが、オゾンは気体であるため、気筒の内圧以上に高めて供給する必要があり、装置構造や制御の複雑化は避けられない。
【0015】
そこで、本発明の目的は、オゾンを効果的に利用でき、安定したCI燃焼が実現できる直噴ガソリンエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
開示する直噴ガソリンエンジンでは、ガソリンを含む混合気を圧縮行程で自着火させるCI燃焼が行われる。このエンジンは、ピストンの昇降によって容積が変化する気筒と、前記気筒の内部に少なくともガソリンを含有する燃料を噴射するインジェクタと、吸気口を通じて前記気筒の内部に吸気を導入する吸気ポートと、排気口を通じて前記気筒の内部から排気を排出する排気ポートと、前記吸気口及び前記排気口の各々を開閉する吸気弁及び排気弁と、前記気筒の内部でオゾンを生成するオゾン生成装置と、を備えている。
【0017】
前記オゾン生成装置は、前記気筒から電気的に絶縁された状態で当該気筒の内部に突出する電極と、制御されたパルス状の電圧を前記電極に印加する高電圧制御装置と、を有している。前記高電圧制御装置が作動して前記電極に電圧を印加することにより、当該電極と前記気筒との間に放電が生じ、当該放電の作用で当該気筒の内部にオゾンが生成されるように構成されている。
【0018】
圧縮行程で前記インジェクタが前記燃料を噴射する圧縮行程噴射を少なくとも行う燃焼パターンを有している。そして、前記燃焼パターンが行われる場合に、吸気行程及び圧縮行程の少なくともいずれか一方で前記高電圧制御装置が作動する。
【0019】
すなわち、このエンジンでは、電極と気筒との間で生じる放電の作用により、気筒の内部で直接オゾンを生成することができるため、オゾン生成効率やエネルギーの利用効率の向上、吸気との適切な混合、制御のレスポンスの向上などが図れ、安定したCI燃焼が実現できるようになっている。
【0020】
そして、圧縮行程でガソリン、ないし、ガソリンを含む燃料を噴射する圧縮行程噴射を少なくとも行う燃焼パターンを有しており、その燃焼パターンが行われる場合には、吸気行程及び圧縮行程の少なくともいずれか一方で高電圧制御装置が作動して、気筒の内部にオゾンが生成されるようになっている。
【0021】
このエンジンでは、電極に電圧を印加するだけでオゾンが生成できるため、密閉される圧縮行程でも制御パターンを変更するだけで気筒の内部にオゾンが生成できる。従って、このエンジンによれば、圧縮行程噴射が行われる前の吸気行程及び圧縮行程の全域において、圧縮行程噴射で噴射される燃料量に応じた適切なタイミングで、気筒の内部にオゾンを生成できるので、よりいっそう、オゾン生成効率やエネルギーの利用効率の向上などが図れ、より安定したCI燃焼が実現できる。
【0022】
特に、前記圧縮行程噴射は、前記気筒の内部の中央部分に混合気が偏在するように行うのが好ましく、前記混合気と前記気筒の内面との間に空気層が形成されるようにするのがよりいっそう好ましい。
【0023】
低負荷領域などで噴射される燃料量が減少すると、混合気の濃度が薄くなって着火安定性が悪化し易いが、気筒の内部の中央部分に混合気が偏在するように圧縮行程噴射を行うことで、混合気のガソリンの濃度の保持が可能になって着火安定性の悪化を抑制することができる。煤等の付着も抑制することもできる。
【0024】
混合気と気筒の内面との間に空気層が介在すると、燃焼時の放熱を空気層によって妨げることができ(空気層断熱)、エネルギー効率の向上が図れる。
【0025】
更には、吸気行程で前記高電圧制御装置が作動する場合に、前記圧縮行程噴射よりも少量の前記燃料が、当該高電圧制御装置の作動に連動して噴射されるようにするのが好ましい。
【0026】
そうすれば、吸気行程でオゾンを効率的に生成できるので、圧縮行程に入る前に、吸気の全体に、比較的高濃度でオゾンを分布させることができる。
【0027】
その結果、オゾンが全体的に行き渡って自着火が誘発されるので、不完全燃焼が効果的に抑制できる。
【0028】
その場合、特に、前記高電圧制御装置の作動期間が、吸気の導入量が最大となる期間を含むようにするのが好ましい。
【0029】
そうすれば、よりいっそうオゾンの生成や混合を促進させることができる。
【0030】
また、前記圧縮行程噴射に連動して前記高電圧制御装置が作動するようにしてあってもよい。
【0031】
そうすれば、圧縮行程でもオゾンが生成できるので、よりいっそう着火安定性を向上させることができる。特に、このエンジンでは、電極に電圧を印加するだけでオゾンが生成できるため、制御パターンを変更するだけで、密閉されている圧縮行程の気筒の内部でもオゾンを生成できる。密閉されていても、噴射される燃料の勢いによって吸気が流動するので、高いオゾン生成効率が得られる。
【0032】
例えば、前記燃料の噴射量が相対的に少ない場合に、吸気行程で前記高電圧制御装置が作動し、前記燃料の噴射量が相対的に多い場合に、圧縮行程で前記高電圧制御装置が作動するようにするとよい。
【0033】
そうすれば、燃料の噴射量に応じて、適切にオゾンを生成することができるので、エンジンの駆動領域の広い範囲で安定したCI燃焼が実現できる。
【発明の効果】
【0034】
開示する直噴ガソリンエンジンによれば、オゾンを効果的に利用でき、安定したCI燃焼が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一般的なオゾン発生装置の主要部を示す模式図である。
図2】極短パルス放電の説明図である。
図3】本実施形態のエンジンの基本構造を示す概略図である。
図4】圧縮行程でピストンがTDCに達した状態を示す概略図である。
図5】高電圧制御装置が出力する短パルス高電圧を例示した概略図である。
図6】ECUの要部構成を概略的に示すブロック図である。
図7】圧縮行程での所定の過程を示す概略図である。
図8】吸気行程での所定の過程を示す概略図である。
図9】制御パターンの一例を表した概略図である。
図10】エンジンの駆動領域を簡略化して表した概略図である。
図11】制御パターンの他の一例を表した概略図である。
図12図11に示した制御パターンの圧縮行程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0037】
開示する直噴ガソリンエンジン(単にエンジン1ともいう)は、燃焼に際してオゾンを利用するが、そのオゾンは、オゾン発生装置で発生させたオゾンを気筒2の内部に供給するのではなく、特殊な放電技術の応用により、気筒2の内部で直接生成される。そこで、まずその放電技術について説明する。
【0038】
(気筒内での放電)
オゾン生成効率を高めるために、例えば数10ナノ秒の極短パルス幅で数10kVの高電圧を印加して放電を発生させ、誘電体の介在無しにオゾンを発生させる技術(ここでは極短パルス放電と称する)の開発が進められている。
【0039】
図2に、高電圧を極短時間で印加した時の電流及び電圧の変化の一例を模式的に示す。ちなみに図2では、50ナノ秒以下の所定の時間で10kV以上の所定の高電圧を印加している。
【0040】
電流は、電圧に遅れて増加する。そのため、電圧が所定の高電圧に達した時点では、電流は、ほとんど流れていない。その後、電圧は高電圧でしばらく維持されて、電流は僅かに流れるようになる。更にその後、電流が急増し、電極間に高電流が流れるようになると、電圧は降下する。
【0041】
電圧が所定の高電圧に達するまでの初期領域では、ストリーマ放電が発生し(ストリーマ放電発生領域SD)、電圧の降下及び電流の急増が生じる後期領域では、アーク放電が発生する(アーク放電発生領域AD)。これら両領域SD,ADの間の中期領域は、遷移領域となっている。
【0042】
電流が流れる遷移領域やアーク放電発生領域ADでは、火花や熱等が発生する可能性があるが、電流がほとんど流れないストリーマ放電発生領域SDでは、その可能性が無い。そのため、ストリーマ放電発生領域SDを超えない極短パルス幅の高電圧を印加することで、電極間に誘電体を介在させ無くてもオゾンを安定して発生させることができ、オゾン生成効率の向上が図れる。
【0043】
開示するエンジン1では、この極短パルス放電を応用している。それにより、気筒の内部で火花等を生じることなくストリーマ放電を安定して発生させることが可能になり、気筒の内部で吸気から直接オゾンが生成できるようになっている。
【0044】
(エンジンの基本構成)
図3に、エンジン1の基本的な構成を示す。このエンジン1は、自動車に搭載される4サイクルの多気筒エンジンである。気筒2の内部に、燃料であるガソリンを直接噴射して燃焼が行われる。なお、各気筒2の主な構成は同様であるため、図では1つの気筒2のみを表す。
【0045】
また、このエンジン1は、全ての駆動領域でCI燃焼が行えるように設計されている。従って、点火プラグは装備されていない。具体的には、エンジン1は、シリンダブロック3やシリンダヘッド4、ピストン5、クランク軸6、インジェクタ7、吸気弁8、排気弁9、オゾン生成装置11、ECU11などで構成されている。
【0046】
シリンダブロック3、シリンダヘッド4、ピストン5等は、アルミニウム合金等、電気伝導性を有する金属で形成されていて、接地(アース)処理が施されている。
【0047】
上下に接合して一体化されたシリンダヘッド4及びシリンダブロック3の内部に、円筒状の気筒2がクランク軸6に沿って並ぶように形成されている。気筒2の上部はシリンダヘッド4によって塞がれ、気筒2の下部はピストン5の頂面5aによって塞がれている。そうして、気筒2の内部に、気密状の空間(燃焼室12)が形成されている。
【0048】
燃焼室12の上面12aは、上方に膨出した球面形状に形成されている(ドーム型)。その形状に対応して、ピストン5の頂面5aもドーム型に形成されている。ピストン5の頂面5aの中央部には、円盤状に凹むキャビティ13が形成されている。
【0049】
ピストン5は、コネクティングロッド14を介してクランク軸6に連結されており、気筒2の中心軸に沿って昇降する。詳しくは、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程からなる一連のサイクルの過程で、ピストン5の頂面5aが燃焼室12の上面12aに最も接近する上死点(TDC)と、ピストン5の頂面5aが燃焼室12の上面12aから最も離れる下死点(BDC)との間を、ピストン5が往復運動する。
【0050】
例えば、図4は、圧縮行程でピストン5がTDCに達した状態を概略的に示している。この状態では、ガソリンと吸気を含む混合気(このエンジン1ではオゾンが含まれる場合もある)は、高度に圧縮されて高温高圧になる。
【0051】
従って、混合気は、圧縮行程で自発火し、それによって燃焼する(CI燃焼)。その燃焼によるエネルギーの利用により、燃焼室12の容積が連続的に変化するとともに、クランク軸6が回転し、その回転力が駆動力としてエンジン1から出力される。
【0052】
インジェクタ7は、シリンダヘッド4に設置されている。インジェクタ7の先端に設けられた噴射口7aは、燃焼室12の内部にガソリンを直接噴射できるように、燃焼室12の上面12aの頂である中央部から燃焼室12の内部に臨んでいる。インジェクタ7は、燃焼室12の上面12aの中央部から、燃焼室12の下部に向かって放射状に拡がるようにガソリンを噴射する。
【0053】
このインジェクタ7には、噴射口7aの高度な開度制御が可能なピアゾインジェクタ7が用いられている。従って、このエンジン1では、高回転時でも、単位時間当たりの噴霧量や噴霧タイミングなどの高精度な制御が可能となっている。
【0054】
このインジェクタ7に隣接して、燃焼室12の上面12aに、吸気口15と排気口16が開口している。燃焼室12は、吸気口15を通じて、シリンダヘッド4に形成された吸気ポート17に連通している。吸気ポート17は、図外の吸気経路と接続されており、これら吸気ポート17及び吸気口15を通じて燃焼室12に吸気(車外から取り込まれる空気)が導入される。なお、エンジン1にEGRシステムが設置されている場合には、排気ガスが吸気に含まれる場合もある。
【0055】
また、燃焼室12は、排気口16を通じて、シリンダヘッド4に形成された排気ポート18に連通している。排気ポート18は、図外の排気経路と接続されており、これら排気口16及び排気ポート18を通じて燃焼室12から排気経路に、排気(燃焼後のガス)が導出される。排気経路に導出された排気は、例えば、触媒コンバータで浄化された後、マフラーを通じて車外に排出される。
【0056】
吸気弁8及び排気弁9は、シリンダヘッド4に設置されている。吸気弁8及び排気弁9の各々は、動弁装置により、所定のタイミングで吸気口15及び排気口16の各々を開閉するように構成されている。
【0057】
吸気弁8が有する動弁装置8aには、吸気弁8のリフト量(燃焼室12の内部に出退する量)を連続的に変化させることができる可変動弁機構(CVVL)が付設されている。従って、このエンジン1では、可変動弁機構により、燃焼室12に導入する吸気量や吸気のタイミングなどが、高精度に制御できるようになっている。
【0058】
オゾン生成装置11は、燃焼室12でオゾンを生成するために設置された装置であり、放電プラグ21や高電圧制御装置22などで構成されている。
【0059】
放電プラグ21は、シリンダヘッド4に設置されており、その先端部は、燃焼室12の上面における噴射口7aの隣接部位から燃焼室12に突出している。放電プラグ21の先端部には、碍子21aで周囲が電気的に絶縁された棒状の電極21bが設置されている。それにより、電極21bは、シリンダヘッド4やシリンダブロック3から電気的に絶縁された状態で、燃焼室12に突出している。
【0060】
高電圧制御装置22は、放電プラグ21と電気的に接続されており、燃焼室12で極短パルス放電が生じるように、制御されたパルス状の高電圧を電極21bに印加する機能を有している。
【0061】
具体的には、図5に示すように、50ナノ秒以下のパルス幅PWで10kV以上の高電圧からなる電圧(短パルス高電圧)を、所定期間、断続的に電極21bに印加する機能を有している。
【0062】
ECU11は、CPUやROM、RAMなどのハードウエアと、各種制御プログラムなどのソフトウエアとを有し、エンジン1に設置されている各装置を総合的に制御する機能を有している。
【0063】
すなわち、図6に示すように、ECU11には、インジェクタ7と協働して燃料噴射を制御する燃料噴射制御部11a、吸気弁8と協働して吸気を制御する吸気制御部11b、高電圧制御装置22と協働して放電を制御する放電制御部11cが備えられている。なお、排気弁9と協働して排気を制御する排気制御部等もECU11には備えられているが、便宜上省略している。
【0064】
そして、ECU11は、クランク角センサ、アクセルセンサ、ブレーキセンサなどの各種センサ23から入力される情報と、設置されている制御マップとに基づいてエンジン1の駆動状態を判定し、その駆動状態に対応した燃料噴射や吸気、放電が行われるように制御する。
【0065】
(エンジンの詳細構成)
このエンジン1では、低温でも駆動領域の広い範囲でCI燃焼が安定して行えるように、工夫されている。
【0066】
すなわち、自着火を誘発するオゾンを、燃焼室12で吸気から直接生成することで、オゾン生成効率やエネルギーの利用効率の向上、燃焼室内での吸気との適切な混合、制御のレスポンスの向上などを実現している。
【0067】
具体的には、気筒2を形成しているシリンダヘッド4やシリンダブロック3等にはアースが施されているため、電極21bに短パルス高電圧が印加されると、気筒2の内面(具体的には、燃焼室12の内面)と、電極21bとによってアノード及びカソードが構成され、これらの間で放電が生じる(電極21bがアノードに相当し、気筒2がカソードに相当する)。
【0068】
印加される電圧は、所定の短パルス高電圧に制御されているので、燃焼室12では、ストリーマ放電のみが発生する。従って、火花や熱が生じるおそれはない。誘電体も介在していないし、燃焼室12で直接生成されるため、高いオゾン生成効率やエネルギーの利用効率が得られる。
【0069】
更に、このエンジン1には、圧縮行程でインジェクタ7がガソリンを噴射する制御パターンが設定されている(圧縮行程噴射)。そして、その圧縮行程噴射が行われる場合に、吸気行程及び圧縮行程の少なくともいずれか一方で高電圧制御装置22が作動して、CI燃焼が安定して行えるように工夫されている。
【0070】
まず、このエンジン1には、圧縮行程噴射の際に、燃焼室12の中央部分に混合気が偏在するように、燃料噴射制御部11aに、インジェクタ7の噴射口7aの開度制御を行う制御パターンが設定されている。そうすることにより、燃焼室12の内面への煤等の付着等を抑制するとともに、混合気と燃焼室12の内面との間に空気層を形成している。
【0071】
混合気と燃焼室12の内面との間に空気層が介在すると、混合気の燃焼熱がシリンダブロック3等に放熱されるのを、空気層によって妨げることができる(空気層断熱)。従って、エネルギー効率の向上が図れる。
【0072】
また、低負荷領域などでは、圧縮行程噴射でのガソリンの噴射量が少なくなるため、吸気に対するガソリン量が減少し、混合気の濃度が薄くなって着火安定性が悪化し易いが、このエンジン1の場合、ピアゾインジェクタ7と燃料噴射制御部11aとの組み合わせにより、ガソリンの噴射量が少ない場合には、噴射圧を下げてガソリンの拡散を抑制する制御パターンが設定されている。
【0073】
それにより、図7に示すように、燃焼室12の中央部分の上部に小さな混合気の塊りを形成することができるため、ガソリンの噴射量が少なくても、混合気を高濃度に保持することができ、着火安定性の悪化を抑制することができる。
【0074】
ところが、そうした場合には、空気層が相対的に大きくなるため、混合気と空気層との境界部分での燃焼が不完全になるおそれがある。そこで、そのような場合でも完全な燃焼を実現するために、このエンジン1では、燃焼室12に吸気が流入する吸気行程で、高電圧制御装置22が作動して燃焼室12で放電を生じる制御パターンが設定されている。
【0075】
具体的には、図8に示すように、吸気弁8が開かれて、燃焼室12に吸気が導入される時に同期して、電極21bに短パルス高電圧が印加される。そうすることで、放電が生じる電極21bの近傍(放電空間)では、絶えず吸気(酸素)が供給され、生成されたオゾンと吸気とが入れ替わる。
【0076】
その結果、オゾンの飽和濃度の影響をほとんど受けることなく、オゾンを生成できるので、より高度なオゾン生成効率やエネルギーの利用効率を得ることができる。また、オゾンと吸気との混合も促進される。
【0077】
その際、高電圧制御装置22の作動期間が、吸気の導入量が最大となる期間を含むようにするのが好ましい。具体的には、吸気弁8のリフト量が最も大きくなるタイミング(90ATDC)の前後にわたって電極21bに短パルス高電圧が印加されるようにする。そうするれば、よりいっそうオゾンの生成や混合を促進させることができる。
【0078】
更に、このエンジン1では、その吸気行程での高電圧制御装置22の作動に連動して、インジェクタ7が少量のガソリンを補助的に噴射するように設定されている。
【0079】
吸気行程では、ピストン5が下降するため、電極21bからピストン5の頂面5aが離れていく。ピストン5が離れるに従ってカソードとして機能する面積が減少するため、放電空間が縮小してオゾン生成効率の低下を招くおそれがある。
【0080】
ガソリンの液滴は、空気よりも電気抵抗が低い。そのため、放電によって生じる電子は、液滴側に沿って流れ易い傾向がある。そこで、このエンジン1では、電極21bに短パルス高電圧が印加される時に同期して、補助的にガソリンを噴射することで、放電空間を燃焼室12の内部に拡張し、ピストン5が下降する状況でも、オゾン生成効率の向上が図れるようにしている。
【0081】
なお、ここで噴射されるガソリンは、燃焼エネルギーの獲得ではなく、オゾン生成のアシストを目的としている。従って、圧縮行程噴射のガソリンよりも少量で足りる。また、ここでの補助的噴射では、圧縮行程噴射のガソリンよりも噴射圧を大きくして、ガソリンを、より拡散させるのが好ましい。
【0082】
それにより、圧縮行程に入る前に、吸気の全体に、比較的高濃度でオゾンを分布させることができる。その結果、圧縮行程で形成される混合気の塊りと空気層との境界部分にも、オゾンが行き渡って自着火が誘発されるので、不完全燃焼が効果的に抑制できる。従って、圧縮行程噴射でのガソリンの噴射量が少なくなる場合においても安定した自着火が可能になり、低負荷領域でのエンジン1の駆動領域を拡張できるようになる。
【0083】
このような制御パターンの具体例を図9に示す。この制御パターンでは、燃焼室12の中央部分の上部に小さな混合気の塊りを形成するため、圧縮行程の後半にガソリンが噴射される。
【0084】
そして、吸気行程では、吸気弁8のリフト量が最も大きくなるタイミング(90ATDC)の前後にわたって、電極21bに短パルス高電圧が印加されるように、高電圧制御装置22が作動する。それと同期して、少量のガソリンが噴射されるように制御されている。
【0085】
この制御パターンは、上述したように、ガソリンの噴射量が相対的に少ない場合に用いられる。図10は、エンジン1の駆動領域を簡略化して表したものであり、縦軸はエンジン1の負荷(トルク)、横軸はエンジン1の回転数である。図中、WCは負荷量の中央値を表している。
【0086】
ここでは、エンジン1の駆動領域のうち、負荷がその中央値RCよりも小さい領域(斜線で示す領域)を低負荷領域とし、負荷がその中央値WCよりも大きい領域を高負荷領域としている。
【0087】
このエンジン1では、低負荷領域では、ガソリンの噴射量が相対的に少なくなるため、上述したような制御パターンが設定されており、更に、高負荷領域では、圧縮行程噴射でのガソリンの噴射量が相対的に多くなるため、圧縮行程の燃焼室12で直接オゾンを生成する制御パターンが設定がされている。
【0088】
すなわち、このエンジン1では、電極21bに電圧を印加するだけでオゾンが生成できるため、制御パターンの変更だけで、密閉されている圧縮行程の燃焼室12でオゾンの生成が行われる。
【0089】
具体的には、図11に示すように、圧縮行程噴射に同期して高電圧制御装置22が作動する。そうすることで、図12に示すように、密閉された燃焼室12であっても、噴射されるガソリンの勢いによって吸気が流動する。それにより、放電空間ではオゾンと吸気とが入れ替わり、高いオゾン生成効率を維持した状態でオゾンが生成される。
【0090】
そして、双方共に比較的高濃度なオゾンと混合気との組み合わせにより、安定した効率的な自着火が得られるので、混合気の完全燃焼が促進される。
【0091】
(その他)
本発明にかかる直噴ガソリンエンジンは、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0092】
例えば、燃料のガソリンは、純正品にかぎらない。ガソリンを含有するものであれば、他成分を含むものであってもよい。
【0093】
吸気行程で高電圧制御装置22を作動させて補助的にガソリンを噴射するのと合わせて、圧縮行程噴射でも、そのガソリンの噴射に連動して高電圧制御装置22を作動させてもよい。
【0094】
そうすれば、よりいっそうオゾンによる着火安定性を向上させることができる。例えば、圧縮行程噴射でのガソリンの噴射量が多い高負荷領域以外、具体的には、中負荷領域から低負荷領域に至る領域でそのような制御パターンを用いれば、エンジン1の駆動領域の広い範囲で安定したCI燃焼が実現できる。
【符号の説明】
【0095】
1 エンジン
2 気筒
5 ピストン
7 インジェクタ
8 吸気弁
9 排気弁
10 オゾン生成装置
15 吸気口
16 排気口
17 吸気ポート
18 排気ポート
21b 電極
22 高電圧制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12