【0014】
(鉄含有ガラス)
本発明の光触媒ガラスを構成する上記鉄含有ガラスは、上記鉄供給源と上記ガラス形成成分とを用いて形成されてなり、常磁性の鉄イオンを含有するものである。
本明細書において、「常磁性」とは、外部磁場が無いときには磁化を持たず、磁場を印加するとその方向に磁化する磁性を意味し、本明細書においては、見かけ上外部磁場が無いときには磁化を持たないように見える超常磁性を含む。
上記常磁性の鉄イオンは、常磁性(超常磁性をふくむ)のものであれば特に限定されないが、3価の鉄イオン、2価の鉄イオンなどが挙げられ、中でも、触媒活性の点で3価の鉄イオンが好ましい。これらの常磁性の鉄イオンは、ガラス中において各種鉄化合物として存在することがあり、具体的にはマグネタイト、ヘマタイト(超常磁性体)等として存在するのが好ましい。なお、ヘマタイト等の強磁性化合物の場合には超常磁性体として含有されるのでその粒子径が数ナノメートル以下であると考えられる。
本発明の光触媒ガラスを構成する上記鉄含有ガラスにおける上記鉄成分の含有量は、鉄含有ガラスに含まれる鉄成分をFe
2O
3成分として含有量を換算した場合(FeとO以外の成分を含んでいたとしても、FeとOのみを算出し、算出した各元素の量をもってFe
2O
3に換算する)に、当該Fe
2O
3成分の含有量がガラス全体中35〜70重量%となる量であるのが触媒活性の点から好ましく、40〜60重量%であるのがさらに好ましい。
なお、本明細書において、鉄成分は、ガラスのマトリックスを形成するガラス形成成分、ガラス安定化成分、ガラス修飾成分などを含んでなる本発明の光触媒ガラスに含有される鉄の成分を意味し、本発明の光触媒ガラスにおける上記鉄成分の存在状態は、結晶構造を取っていない非晶質中の鉄イオン、鉄を含有する結晶構造を有する鉄など、特に制限されない。
ここで、本発明の光触媒ガラスは、上記鉄供給源と上記ガラス形成材料とを混合してなる混合物を、300℃以上600℃未満、さらには350〜500℃で、2〜4時間アニーリング処理してなるガラスであるのが、光触媒活性が最も高くなる点で好ましい。
上記鉄イオンの磁性、酸化数、存在量、結晶状態は、例えば、
57Feメスバウアースペクトル分析により、調べることができる。例えば、鉄の酸化数については異性体シフト(アイソマーシフト)値に現れ、磁性についてはスペクトルパターンに現れる。例えば、スペクトルパターンがセクステット(6本のピーク)のパターンは強磁性やフェリ磁性、反強磁性を示し、ダブレット(2本のピーク)は常磁性または超常磁性を示すものである。
また、結晶状態については、例えば、ガラス内でこの「常磁性鉄イオン」が集合して、そのサイズが10ナノメートル以上の結晶粒子(例えば、ナノ微粒子)を形成すると、メスバウアースペクトルの線幅が0.4mms
−1未満となり、セクステットが観測される。これにより、ガラス中の結晶を直接観測することができる。
57Feメスバウアースペクトル分析の測定方法などの詳細については、実験例等に記載する。
上記鉄含有ガラスにおける上記鉄成分以外の成分は、特に制限されず、例えば、ガラスのマトリックス成分(ガラス形成成分)として、SiO
2、B
2O
3、P
2O
5、GeO
2などを挙げることができる。また、ガラス安定化成分として通常のガラスに用いられるガラス安定化成分、ガラス修飾成分として、Li
2O、Na
2O、K
2O、MgO、CaO、SrO、BaOなどを挙げることができる。これらは単独または複数種混在していてもよい。
上記鉄含有ガラスにおける鉄成分の含有量以外の成分組成は、特に制限されないが、ガラス安定化成分やガラス修飾成分が存在する場合の使用量はガラス全体中1〜30重量%であるのが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してさらに具体的に説明するが本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
〔実施例1〕(光触媒ガラス(Fe
2O
3:SiO
2=50:50(重量%))の製造)
本明細書において、「Fe
2O
3:SiO
2=x:(100−x)(重量%)」は、ガラス構成元素(Fe、Si)を酸化物(Fe
2O
3、SiO
2)に換算した重量の比を意味し、そのガラスをxFSガラスと表記することもある。(Fe
2O
3:SiO
2=50:50(重量%)のガラスの場合は50FS)
本発明の光触媒ガラス(50FS)は、下記のゾルゲル法により製造した。
ガラス形成材料としてのテトラエトキシシラン(Si(OC
2H
5)
4)の液体を5.54mL、鉄供給源としての硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)の粉末7.58g、7.8Mの硝酸水溶液0.64mL、100%エタノール26.16mLをビーカーに投入し、マグネティックスターラを用いて室温で2時間の条件で十分に混合した。該混合溶液を、80℃、2時間の加熱還流でさらに撹拌した後、ガラスバイアルに注ぎ、60℃で3日間乾燥させ、暗褐色のガラス(以下、アニーリング処理前ガラスと呼ぶ。)を得た。得られたアニーリング処理前ガラスを、電気マッフル炉で400℃、3時間の条件でアニーリング処理を行い本発明の光触媒ガラス(50FS)を得た。
【0021】
〔実施例2〕(光触媒ガラス:30FS)の製造)
ガラス形成材料としてのテトラエトキシシラン(Si(OC
2H
5)
4)の液体を7.76mL、鉄供給源としての硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)の粉末4.56g、に変えた以外は、実施例1と同様にして、本発明の光触媒ガラス(30FS)を得た。
【0022】
〔実施例3〕(光触媒ガラス:10FS)の製造)
ガラス形成材料としてのテトラエトキシシラン(Si(OC
2H
5)
4)の液体9.97mL、鉄供給源としての硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)の粉末1.52g、に変えた以外は、実施例1と同様にして、本発明の光触媒ガラス(10FS)を得た。
【0023】
〔実験例1〕熱重量測定・示差熱分析
実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスの熱物理特性を明らかにするために、熱重量測定(TG)・示差熱(DTA)分析(TG−DTA)を行った。
TG−DTAは、差動型示差熱天秤(形式名:TG8120、Rigaku社製)により、下記条件で行った。
条件:
昇温速度:10℃/min
N
2ガス流量:100mL/min
標準試料:α−Al
2O
3
得られた結果を
図1に示す。
【0024】
〔実験例2〕フーリエ変換赤外分光分析
実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスの詳細な分子構造を明らかにするために、
フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)を行った。
FT−IRは、フーリエ変換赤外分光光度計(商品名:Spectrum-GX、Perkin-Elmer社製)により、下記条件で行った。
条件:
測定波数:370〜4000cm
−1
測定解像度:2cm
−1
測定方法:KBr錠剤法
また、比較実験として、アニーリング処理前ガラスにおいても、同時に実験を行った。
得られたアニーリング処理前ガラスにおける結果を
図2(A)に、アニーリング処理後における結果を
図2(B)に示す。
【0025】
〔実験例3〕
57Feメスバウアースペクトル分析
実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスにおける詳細なFe原子の挙動を明らかにするために、
57Feメスバウアースペクトル分析を行った。
メスバウアースペクトル分析は、解析装置として、Mossbauer driving unit MDU-1200(Wissenschaftliche Elektronik社製)、Digital function generator DFG-1000(Wissenschaftliche Elektronik社製)、High Voltage PowerSupply 456(ORTEC社製)、Amplifier 485(ORTEC社製)、Single channel analyzer SCA-550(ORTEC社製)、Multi-Channel Analyzer MCA-7700(SEIKO EG&G社製)を接続したものを使用した。
測定用試料は、本発明の光触媒ガラスをよく粉砕した後、該粉砕物をセロハンテープで挟み込んだものを使用した。
線源にはRhマトリックスに分散させた線量925Bqの
57Coを使用し、α−Feを基準物質とした。
なお、得られたスペクトルデータは、メスバウアー解析ソフトウェア(商品名:MossWin3.0iXP、トポロジックシステムズ社製)により、ローレンツ関数へフィッティングさせることによるカーブフィッティングを行った。
得られた結果を
図3に示す。
【0026】
〔実験例4〕X線回折分析
実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスにおける詳細な原子・分子構造を明らかにするために、X線回折(XRD)分析を行った。
XRD分析は、試料水平型強力X線回折装置(型式名:RINT-TTRIII、Rigaku社製)により、下記条件で行った。
条件:
回折角(2θ):10〜80°
インターバル:0.02°
スキャン速度:5°min
−1
X線源:CuKα線
X線波長(λ):1.54Å
管電流(mA):300
管電圧(kV):50
得られた結果を
図4に示す。
【0027】
〔実験例5〕走査電子顕微鏡による表面分析
実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスの構造を明らかにするために、走査電子顕微鏡による表面分析を行った。
走査電子顕微鏡による表面分析は、3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡(型式名:VE−9800、KEYENCE社製)を用い、加速電圧2.5kV、倍率400倍の条件で走査電子顕微鏡写真像を取得して行った。
また、比較実験として、アニーリング処理前ガラスにおいても、同時に実験を行った。
得られた結果を
図5に示す。
【0028】
〔実験例6〕光触媒活性試験
実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスの光触媒活性をメチレンブルー分解実験により評価した。
メチレンブルーの分解実験は、まず、実施例1〜3で得られた、それぞれの光触媒ガラス40mgを十分に粉砕し、別々の容器に入れ、31.8μMのメチレンブルー溶液10mLで浸漬させ、浸漬中、以下の条件で可視光照射を行った。
条件:
装置:装置名:MH−100 Illuminator(Edmund Optics社製)
光源:metal halide lamp
フィルター:UV cutoff FSAフィルター(Dolan-Jenner industries社製)
照射波長:420〜750nm
出力:100W
浸漬処理30分、60分、90分、120分後に、それぞれの容器からメチレンブルー水溶液を採取し、紫外可視分光光度計(装置名:UV−1700、SHIMADZU社製)を用いて下記条件によりの吸光スペクトルを測定した。
なお、光照射を行わない実験も合わせて行った。
条件:
測定波長:200〜800nm
測定波長間隔:1nm
光源:tungsten-deuterium lamp
出力:20W
メチレンブルーの濃度は、得られた664nmの吸光度、メチレンブルーのモル吸光係数(9.5×10
4Lmol
−1cm
−1)、及び光路長(1cm)から算出した。また、メチレンブルー濃度から、一時反応速度定数を算出した。
得られた浸漬処理120分におけるメチレンブルー溶液の吸光スペクトルの結果を
図6に、メチレンブルー濃度の経時変化の結果を
図7に示す。
なお、
図7において図中の実線は光照射時の結果、点線は光照射しなかった場合の結果を示す。
【0029】
〔実験例7〕アニーリング処理の温度による鉄原子の特性変化
アニーリング処理の温度による鉄原子の特性変化を
57Feメスバウアースペクトル分析で調べた。
(アニーリング処理ガラスの製造)
アニーリング処理の温度を600℃、800℃、1000℃に変えた以外は、実施例1と同様にして、アニーリング処理前ガラスを製造し、アニーリング処理を行い、アニーリング処理ガラスを製造した。
(
57Feメスバウアースペクトル分析)
得られたアニーリング処理ガラス、実施例1で製造した本発明の光触媒ガラス(アニーリング処理:400℃)、並びに、アニーリング処理前ガラスを、実験例3と同様にして、
57Feメスバウアースペクトル分析を行った。
得られたメスバウアースペクトルの結果のチャートを
図8、そのパラメータを表1に示す。
【表1】
【0030】
以下、結果を考察する。
(実施例1〜3で製造した光触媒ガラス)
実施例1〜3において製造した本発明の光触媒ガラスは、ガラスの一般的なマトリックス形成成分ではない鉄が、酸化物換算組成で全体重量に対して10〜50重量%という高い含有量であるが、均一なガラスであった。
【0031】
(TG−DTA)
図1は、本発明の光触媒ガラスの熱物理特性を明らかにするために行ったTG−DTAの結果である。その結果、TGでは室温から400℃の間に質量減少が見られ、DTAでは60℃付近に吸熱ピークが見られた。この結果は、製造に用いたFe(NO
3)
3・9H
2Oが約50℃で熱分解が始まり、その硝酸と水の蒸発が400℃までの温度で起こった結果であると考えられる。また、400〜1000℃において、TGではほとんど変化がみられなかったが、DTAにおいては幅広い吸熱ピークが見られた。このことから、400〜1000℃においてガラス構造の変化があることが判る。
この結果から、400℃でのアニーリング処理は、製造過程の水、硝酸等の除去等の観点から好ましいことがわかる。
【0032】
(FT−IR)
図2は本発明の光触媒ガラスの詳細な分子構造を明らかにするために行ったFT−IRの結果である。
結果における1386cm
−1の吸収バンドはすべての試料においてアニーリング処理前に存在しアニーリング処理後に消失していた。これは、残留した硝酸イオンとFT−IRの試料調製に用いたKBrの反応により形成されたKNO
3によるものである。
この結果は、TG−DTAの結果と合わせて考えると、アニーリング処理により硝酸イオンが消失していることがわかる。
また、500cm
−1付近のいくつかのバンドはFe−Oの伸縮振動のバンドに由来すると報告されているバンドであるが、本実験例においては、Siのバンドにカバーされ見られなかった。
また、炭化水素とエタノールに由来する吸収バンドは、すべての試料において見られなかった。
この結果から、ゾルゲル法で用いた本発明の光触媒ガラス中に有機化合物は存在しないことがわかる。また、ゾルゲル法の過程で用いたエタノールは、60℃、3日間の乾燥により蒸発したと言える。以上から、60℃、3日間の乾燥処理は、好ましい条件といえる。
【0033】
(
57Feメスバウアースペクトル分析・XRD)
図3は、実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスにおける詳細なFe原子の挙動を明らかにするために行った
57Feメスバウアースペクトル分析の結果である。
すべての試料において、0.37±0.01mm
−1に異性体シフト(δ)を示すダブレットがみられ、常磁性3価の鉄イオンを含有することがわかる。また、鉄含有量の増加に伴い四極分裂(Δ)が、1.10±0.01mm
−1(FS10)、0.71±0.01mm
−1(FS30)、0.82±0.01mm
−1(FS50)、と変化しており、3価の鉄イオンと酸素からなるFeO
4四面体の歪みが大きくなることが分かる。
また、メスバウアースペクトルがダブレットであり、セクステットがみられなかったことから、実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスにおける鉄は、強磁性、フェリ磁性、および反強磁性の結晶粒子の状態ではなく、鉄がガラス内で均一分散されてガラス骨格を構築しているもので、「常磁性」であると考えられる。また10ナノメートル以下の「微粒子」として存在する場合は「超常磁性」であると考えられる。
この結果から明らかなように、本発明の光触媒ガラスは、
図3に示すピークがダブレットであり、常磁性の鉄イオンを含有する化合物の存在が確認された。なお、この図からは、超常磁性のヘマタイト又は常磁性のマグネタイトが混在していることも考えられる。
そして、これらの常磁性の鉄イオン含有化合物を含有する本発明の光触媒ガラスは、
図6に示すように、優れた光触媒活性を示すものである。
また、これらの結果は、
図8及び表1に示す1000℃のアニーリング処理の結果におけるスペクトルパターンとは異なるものである。また、アニーリング処理前の結果とも異なるものであった。このことから、アニーリング処理により鉄原子に変化が見られることがわかる。
図4は光触媒ガラスにおける詳細な原子・分子構造を明らかにするために行ったXRD分析の結果である。
その結果、すべての試料において低強度のいくつかのピークと、ブロードなベースラインが見られた。この結果は、これらの試料の構造がアモルファス構造であることを示している。以上から、アニーリング処理の温度条件が400℃の場合、アモルファス構造が維持され、鉄はガラス中に拡散されることがわかる。
また、以上の結果から、実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスにおける
57Feメスバウアースペクトル分析及びXRDのパラメータは、非特許文献10に開示されるガラスにおけるパラメータとは異なるものであることがわかる。
【0034】
(SEM)
図5は、実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスの構造を明らかにするために、走査電子顕微鏡による表面分析を行った結果である。アニーリング処理後の50FS(B−c)のみ、平らでない表面パターンが見られ、アニーリング処理後の50FS以外の試料では平坦な表面パターンが見られた。
アニーリング処理後の50FSの表面パターンは、平らでないが、上述のXRDの結果からアモルファス構造であると考えられる。言い換えれば、化学的構造が異なるのではなく、立体構造が異なるものであると考えられる。また、アニーリング処理後の50FSの表面パターンからアニーリング処理後の50FSは他の試料よりも大きな表面積を持つと考えられる。
【0035】
(光触媒活性試験)
図6及び7は実施例1〜3で得られた本発明の光触媒ガラスの光触媒活性をメチレンブルー分解実験により評価した結果である。
図6及び7より本発明の光触媒ガラス(10FS、30FS、50FS)は、可視光により光触媒活性を有することがわかる。特に本発明の光触媒ガラス(50FS)において光触媒活性が高いことがわかる。これは、光触媒ガラス(50FS)の表面は、
図5のSEMの結果に示される大きな表面積に起因することが考えられる。
また、メチレンブルー濃度の経時変化から、一次反応速度定数を算出した、その結果、本発明の光触媒ガラス10FS、30FS、50FSにおける一次反応速度定数は、光照射時においては、それぞれ、1.37×10
−6s
−1、1.14×10
−5s
−1、3.30×10
−4s
−1であり、光照射を行わなかった時においては、それぞれ、−2.77×10
−6s
−1、8.42×10
−6s
−1、2.49×10
−4s
−1、であった。このことから、可視光照射により反応速度が大きくなり、本発明の光触媒ガラス(10FS、30FS、50FS)は、可視光照射により触媒活性が増強することがわかる。なお、光照射を行わなかった10FSにおける一次反応速度定数がマイナス値であったのは、この条件においてはメチレンブルー濃度変化より測定誤差の方が大きく、測定誤差によりマイナス値となったものである。このため、光照射を行なわない10FSにおける一時反応速度定数は、ほぼ0であると考えられる。
【0036】
(アニーリング処理の温度による鉄原子の特性変化)
図8及び表1は、アニーリング処理の温度によるガラス内の鉄原子の特性変化を
57Feメスバウアースペクトル分析で調べた結果である。
結果より、アニーリング処理前、及びアニーリング処理温度が400℃において、ダブレット(2本)のスペクトルと異性体シフト値から結晶構造を有さない常磁性の3価の鉄イオンを含有することがわかる。
また、アニーリング処理温度が600℃においては、ダブレットのスペクトルが減少し、磁気分裂を示すセクステット(6本)のスペクトルが現れた。
この結果から、反強磁性のα−Fe
2O
3が存在することがわかり、また、アニーリング処理温度が600℃であると常磁性の3価の鉄イオンがα−Fe
2O
3に変化することがわかる。表1に示した線幅(LW)の値は、常磁性3価の鉄イオン、および反強磁性α−Fe
2O
3のいずれにおいても0.40よりも大きい、0.60mm s
−1台の大きな値を示していることから、3価の鉄イオンはすべてガラス状態にあることが分かる。
また、アニーリング処理温度が800℃では、ダブレットとセクステットが混在した。このことから、常磁性3価の鉄イオンとα−Fe
2O
3とを含有するものであることがわかる。表1に示すように、800℃以上でアニーリングすると、線幅の値が0.30mm s
−1のオーダーとなり、多くの鉄イオンが結晶状態となり10ナノメートル以上の結晶粒子を形成していることが分かる。
また、1000℃ではダブレットのスペクトルが消失し、セクステットのスペクトルのみが見られ、鉄はすべて反強磁性のα−Fe
2O
3で存在することがわかる。
これらの結果から、常磁性3価の鉄イオンが反強磁性のα−Fe
2O
3に変化しないようにするためには、アニーリング処理温度が600℃未満であるのが好ましい。
また、このアニーリング処理温度が1000℃の条件は、非特許文献10に開示されるガラスの条件であり、非特許文献10においてはα−Fe
2O
3成分は光触媒活性を示すことが開示されている。
一方、400℃のアニーリング条件(実施例1)における光触媒ガラスでは、表1に示すようにα−Fe
2O
3成分は検出されず、鉄成分はすべて結晶構造を有さないガラス状態の常磁性3価の鉄イオンであった。この結果から、本発明の光触媒ガラスは、非特許文献10に開示されるガラスとは異なり、常磁性3価の鉄イオンにより光触媒活性を示すものである。
【0037】
以上の結果から、本発明の光触媒ガラスは、可視光領域で光触媒活性を示し、常磁性の3価の鉄イオン(Fe
3+)を含有し、光触媒活性が高いものであることがわかる。