特許第6237377号(P6237377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 豊田合成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6237377-表皮付き製品の端末部の構造 図000002
  • 特許6237377-表皮付き製品の端末部の構造 図000003
  • 特許6237377-表皮付き製品の端末部の構造 図000004
  • 特許6237377-表皮付き製品の端末部の構造 図000005
  • 特許6237377-表皮付き製品の端末部の構造 図000006
  • 特許6237377-表皮付き製品の端末部の構造 図000007
  • 特許6237377-表皮付き製品の端末部の構造 図000008
  • 特許6237377-表皮付き製品の端末部の構造 図000009
  • 特許6237377-表皮付き製品の端末部の構造 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237377
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】表皮付き製品の端末部の構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/02 20060101AFI20171120BHJP
   B60K 37/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B60R13/02 Z
   B60K37/00 Z
   B60K37/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-60444(P2014-60444)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-182590(P2015-182590A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】朝熊 俊太
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 千春
(72)【発明者】
【氏名】戸田 稔
【審査官】 高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−153227(JP,A)
【文献】 実開平05−051630(JP,U)
【文献】 特開平04−222260(JP,A)
【文献】 特開平11−129852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B60K 37/00
B60R 13/02
13/04
21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
表皮本体の裏側にクッション層を積層することにより形成され、かつ前記基材に貼着される表皮と
を備える表皮付き製品に適用される構造であり、
前記クッション層の端末部は、押し潰された状態に塑性変形させられていない一般部と、前記一般部の周囲に位置し、かつ押し潰された状態に塑性変形させられた周縁部とを備え、
前記周縁部における前記一般部との境界部分には、同一般部から遠ざかるに従い厚みが徐々に小さくなる徐変部が形成され、
前記基材の端末部は、本体部と、前記本体部よりも表側へ突出した状態で同本体部を取り囲み表側ほど幅の小さくなる形状を有するフランジ部とを備え、
前記表皮は、前記一般部において前記本体部に貼着され、前記周縁部において前記フランジ部の少なくとも表面及び側面に沿って折り曲げられた状態で同フランジ部に貼着されている表皮付き製品の端末部の構造。
【請求項2】
前記フランジ部の前記本体部からの突出長さは、前記一般部の厚みよりも短く設定されている請求項1に記載の表皮付き製品の端末部の構造。
【請求項3】
前記周縁部は、その厚み方向についての少なくとも一方から熱プレスされることにより、押し潰された状態に塑性変形させられている請求項1又は2に記載の表皮付き製品の端末部の構造。
【請求項4】
前記クッション層として、表編地層及び裏編地層と、前記表編地層及び前記裏編地層を連結糸で連結してなる連結層とを備える立体編クッション層が用いられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の表皮付き製品の端末部の構造。
【請求項5】
前記周縁部では、前記連結層の少なくとも一部の前記連結糸が倒された状態に塑性変形させられている請求項4に記載の表皮付き製品の端末部の構造。
【請求項6】
前記表皮付き製品はエアバッグ装置の一部を構成するものであり、
前記表皮本体の厚みは、前記エアバッグ装置において展開及び膨張するエアバッグにより押圧されることで破断され得る厚みに設定されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の表皮付き製品の端末部の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮付き製品の端末部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のインストルメントパネル、コンソール等の内装品として、図8に示すように、基材51に表皮55を貼着してなるもの(以下、「表皮付き製品50」という)が知られている。表皮55は、表皮本体56と、表皮本体56の裏側(図8の下側)に積層されたクッション層57とによって構成されている。なお、図8では、クッション層57の一部の図示が省略されている。この表皮付き製品50の端末部では、基材51の端末部52に対する表皮55の貼着が、同端末部52の表面、側面及び裏面に沿って圧縮させられて折り曲げられた状態、すなわち、裏面側まで巻き込まれた状態で行なわれている(例えば、特許文献1参照)。そして、表皮付き製品50は、同図8において二点鎖線で示す隣接部品60に近接した箇所に配置される。
【0003】
しかし、上記のようにクッション層57を有する表皮55を基材51の端末部52の表面及び側面に沿って圧縮させて折り曲げて貼着すると、クッション層57の弾性復元力により、表皮付き製品50の表側の角部50aにおいて表皮55が膨らみ、大きな曲率半径(例えば5mm以上)で湾曲する。その結果、表皮付き製品50の隣接部品60との境界部がぼやけて見えて、意匠品質が損なわれる。
【0004】
そこで、上記角部50aの曲率半径を小さくすることが考えられている。例えば、図9に示すように、基材51の端末部52を、本体部53と、本体部53よりも表側(図9の上側)へ突出した状態で同本体部53を取り囲むフランジ部54とにより構成し、本体部53には表皮55のクッション層57を貼着するが、フランジ部54に対しては同表皮55の表皮本体56のみを貼着するようにしたものが知られている。この表皮付き製品50では、クッション層57がフランジ部54に沿って折り曲げられず、表皮付き製品50の表側の角部50aにおいて表皮本体56が小さな曲率半径で湾曲させられるため、表皮付き製品50の隣接部品60との境界部がはっきり見える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−26413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、後者(図9)の表皮付き製品50では、その表側の角部50aに指等を触れたときには硬く、触感が損なわれる。表皮本体56の裏側に硬質のフランジ部54が位置しているからである。また、手作業による表皮55の基材51への貼着作業では、クッション層57とフランジ部54との間に少なからず隙間G1が生ずる。表皮本体56として厚みの薄いものが用いられた場合には、上記隙間G1に面した箇所で表皮本体56が指等によって押されると伸びてしまい、緩んだり隙間G1側へ凹んだりして見栄えを損なうおそれがある。
【0007】
なお、表皮本体56として厚みの大きなものを用いることで上記の問題を解消することも考えられるが、コストが上昇するといった新たな問題が生ずる。また、表皮付き製品50がエアバッグ装置の一部を構成する場合には、展開及び膨張するエアバッグによって押圧されたときに表皮本体56を破断させる必要があり、厚みが大きく、かつテアラインを有しない表皮本体ではこの要求に応えることが難しい。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、触感及び見栄えを向上させることのできる表皮付き製品の端末部の構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する表皮付き製品の端末部の構造は、基材と、表皮本体の裏側にクッション層を積層することにより形成され、かつ前記基材に貼着される表皮とを備える表皮付き製品に適用される構造であり、前記クッション層の端末部は、押し潰された状態に塑性変形させられていない一般部と、前記一般部の周囲に位置し、かつ押し潰された状態に塑性変形させられた周縁部とを備え、前記周縁部における前記一般部との境界部分には、同一般部から遠ざかるに従い厚みが徐々に小さくなる徐変部が形成され、前記基材の端末部は、本体部と、前記本体部よりも表側へ突出した状態で同本体部を取り囲み表側ほど幅の小さくなる形状を有するフランジ部とを備え、前記表皮は、前記一般部において前記本体部に貼着され、前記周縁部において前記フランジ部の少なくとも表面及び側面に沿って折り曲げられた状態で同フランジ部に貼着されている。
【0010】
上記の構成によれば、基材に表皮が貼着された表皮付き製品の端末部では、基材の本体部と表皮本体との間に、クッション層の端末部のうち、押し潰された状態に塑性変形させられていない一般部が介在し、これが表皮付き製品の端末部に必要なクッション性(弾力性)を付与する。また、基材におけるフランジ部の表側の角部と表皮本体の間には、クッション層の端末部のうち押し潰された状態に塑性変形させられた周縁部が介在している。この周縁部は、弾性復元しようとせず押し潰された状態を維持しようとするため、単に圧縮されている場合とは異なり膨らみにくい。そのため、フランジ部の表側の角部において表皮が膨らんで大きな曲率半径で湾曲することが起こりにくく、表皮付き製品の隣接部品との境界部がはっきり見える。
【0011】
また、押し潰されているとはいえ周縁部は少なからずクッション性(弾力性)を有している。そのため、フランジ部の表側の角部の近傍で表皮に指等を触れた場合には、クッション層(周縁部)がない場合よりも柔らかく(ソフトに)感じられる。
【0012】
さらに、押し潰された周縁部は、表皮本体の剛性を補う。そのため、フランジ部と一般部との間で表皮が指等で押されても、表皮本体が伸びにくく、緩んだり凹んだりしにくい。
【0013】
上記表皮付き製品の端末部の構造において、前記フランジ部の前記本体部からの突出長さは、前記一般部の厚みよりも短く設定されていることが好ましい。
上記の構成によれば、押し潰された周縁部は、フランジ部の表面と表皮本体との間にも介在する。ここで、仮に、フランジ部の本体部からの突出長さが一般部の厚みと同程度に設定されていると、フランジ部の表側では、周縁部の厚み分、表皮本体が他の箇所よりも表側へ膨出し、フランジ部の表側で表皮に段差が生ずる。しかし、上記突出長さを、一般部の厚みよりも短く設定することで、突出長さと一般部の厚みとの差分が上記周縁部による表皮の膨出の少なくとも一部を吸収する。そのため、表皮の上記段差が小さくなって目立ちにくくなり、表皮付き製品の端末部の見栄えがさらに向上する。
【0014】
上記表皮付き製品の端末部の構造において、前記周縁部は、その厚み方向についての少なくとも一方から熱プレスされることにより、押し潰された状態に塑性変形させられてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、クッション層の周縁部が、その厚み方向についての少なくとも一方から熱プレスされると、同周縁部に対し熱と圧力とが加えられる。周縁部が、熱をかけられた状態で圧縮させられることで塑性変形し、圧縮された(押し潰された)状態に保持される。
【0016】
上記クッション層としては、例えば、表編地層及び裏編地層と、前記表編地層及び前記裏編地層を連結糸で連結してなる連結層とを備える立体編クッション層が用いられてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、クッション層が織物によって形成された場合に比べてクッション層、ひいては表皮の伸縮性や柔軟性を高めることが可能である。また、立体編クッション層からなるクッション層は、発泡ウレタン等によりクッション層が形成された場合よりもクッション性能を高め、表皮付き製品の触感を向上させることが可能である。
【0018】
上記表皮付き製品の端末部の構造において、前記周縁部では、前記連結層の少なくとも一部の前記連結糸が倒された状態に塑性変形させられていることが好ましい。
クッション層が立体編クッション層によって構成される場合、上記の構成によるように、連結層の少なくとも一部の連結糸が倒された状態に塑性変形させられることで、周縁部が押し潰された状態に保持される。
【0019】
上記表皮付き製品の端末部の構造において、前記表皮付き製品はエアバッグ装置の一部を構成するものであり、前記表皮本体の厚みは、前記エアバッグ装置において展開及び膨張するエアバッグにより押圧されることで破断され得る厚みに設定されていることが好ましい。
【0020】
表皮本体として、上記の条件を満たす厚みを有するものが用いられることで、エアバッグ装置のエアバッグが展開及び膨張した場合には、テアラインを有しない場合であっても、エアバッグにより押圧されることで表皮本体が破断される。
【発明の効果】
【0021】
上記表皮付き製品の端末部の構造によれば、同端末部の触感及び見栄えを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】表皮付き製品の端末部の構造を自動車用のインストルメントパネルに具体化した一実施形態を示す図であり、同インストルメントパネルの外観を示す斜視図。
図2】一実施形態において、基材に表皮を貼着する前の状態を示す部分断面図。
図3】一実施形態におけるインストルメントパネルの端末部の構造を示す部分断面図。
図4】一実施形態において、クッション層における端末部の周縁部を熱プレスする様子を説明する略図。
図5】一実施形態において、クッション層を表皮本体に貼着する前の状態を示す部分断面図。
図6】クッション層の周縁部に徐変部を形成した変形例を示す部分断面図。
図7図6の徐変部を形成する様子を説明する図であり、(a)は上熱伝導板の部分底面図、(b)は(a)の上熱伝導板により端末部の周縁部が押し潰されて徐変部が形成される様子を示す部分断面図。
図8】従来の表皮付き製品の端末部を隣接部品とともに示す部分断面図。
図9図8とは異なるタイプの従来の表皮付き製品の端末部を隣接部品とともに示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、表皮付き製品の端末部の構造を具体化した一実施形態について、図1図5を参照して説明する。
ここでは、表皮付き製品として、自動車用内装品であるインストルメントパネルを例に説明する。
【0024】
図1に示すように、インストルメントパネル(以下、単に「インパネ10」という)は、自動車の前席(運転席及び助手席)の前方に配置されている。また、自動車には、前方から衝撃が加わった場合に、助手席に着座している乗員の前方でエアバッグを展開及び膨張させて乗員を衝撃から保護する助手席用のエアバッグ装置(図示略)が設けられている。インパネ10の一部は、このエアバッグ装置の一部であるエアバッグドア12を構成している。エアバッグドア12は、エアバッグ装置の作動時に展開及び膨張するエアバッグによって押圧されて助手席側へ開き、エアバッグの展開を許容する開口を画成する。
【0025】
インパネ10の車幅方向についての中央部、両側部等には、空調用レジスタ11が組込まれている。空調用レジスタ11は、空調装置から送られてきて車室内に吹き出す空調用空気の向きを変更したり、空調用空気の吹出しを遮断したりするためのものである。本実施形態では、この空調用レジスタ11がインパネ10の隣接部品とされている。
【0026】
図2及び図3に示すように、インパネ10は、心材としての基材15と、基材15に貼着される表皮20とを備えている。
基材15は、サーモプラスチックオレフィン(TPO)、ポリプロピレン等の樹脂材料からなり、射出成形法によって形成されている。基材15の端末部16は、本体部17と、本体部17よりも表側(図2及び図3では上側)へ突出した状態で同本体部17を取り囲むフランジ部18とを備えている。フランジ部18は、先端側ほど幅の小さくなる形状を有している。フランジ部18のうち本体部17よりも表側へ突出した部分では、基端部が2.0mm程度の幅W1を有し、先端部が0.5mm程度の幅W2を有している。
【0027】
また、フランジ部18の本体部17からの突出長さL1は、後述するクッション層24における一般部31の厚みよりも短く設定されている。本実施形態では、突出長さL1は一般部31から周縁部32の厚みを減じた値に設定されている。
【0028】
表皮20は、表皮本体21と、その表皮本体21の裏側に積層されたクッション層24とによって構成されている。なお、図2では、表皮20がその一部を破断した状態で図示されている。後述する図5についても同様である。
【0029】
表皮本体21は、主にインパネ10の質感向上、触感向上等を図る目的で設けられており、本実施形態では合皮によって構成されている。合皮からなる表皮本体21は、基布層22と、その基布層22の表側に配置された表皮層23とによって構成された二層構造をなしている。基布層22は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維の編物又は織物からなり、その生地を加工することによって形成されている。表皮層23は、インパネ10の意匠面を構成するものであり、例えばポリウレタンによって形成されていて、基布層22に接着されている。
【0030】
ここで、展開及び膨張するエアバッグにより押圧された場合に破断の起点となるテアラインが形成されたタイプの表皮本体は、一般的に、1.0mm程度の厚みを有している。これに対し、本実施形態の表皮本体21はテアラインを有していないが、エアバッグにより押圧されることで破断し得るように、厚みが0.4±0.1mmに、すなわち、上記一般的なものの半分程度に設定されている。
【0031】
クッション層24は、インパネ10に必要なクッション性(弾力性)を付与して触感を向上させるためのものであり、本実施形態では立体編クッション層によって構成されている。図5に示すように、立体編クッション層からなるクッション層24は、ダブルラッセル編物等の立体編物からなり、表皮本体21の基布層22に対し、接着剤等により貼着されている。
【0032】
図3に示すように、クッション層24は、表編地層25、裏編地層26及び連結層27を備えており、ダブルラッセル編機等を用いて形成されている。表編地層25及び裏編地層26は、ともに平面的で規則正しい編目で形成されている。表編地層25及び裏編地層26を形成する糸としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、リヨセル等の再生繊維からなるものが用いられている。
【0033】
表編地層25及び裏編地層26の編地の編み組織は特に限定されず、例えば、平坦な組織(例えば、経編みの三原組織であるトリコット編、コード編、アトラス編)が挙げられる。そのほかにも、四角、六角等のメッシュ編地や、マーキゼット編地等が挙げられる。表編地層25及び裏編地層26の編組織の組合わせとしては、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
連結層27は、表編地層25及び裏編地層26を連結糸28で連結することによって形成されている。連結糸28は、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル系エラストマー繊維等によって形成されている。なお、繰り返しや長時間圧縮後のクッション性の耐久性を良好にするために、連結糸28の少なくとも一部に、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を用いることが好ましい。また、繊維の断面形状については、クッション性の耐久性を良好にする観点からは、丸型断面が好ましい。さらに、連結糸28としては、ずれ力の緩和の観点からモノフィラメント糸であることが好ましい。本実施形態では、連結糸28として、ポリエチレンテレフタレート繊維によって形成されたものが用いられている。なお、図3では、連結層27(連結糸28)が一部を省略した状態で図示されている。後述する図6及び図7(b)についても同様である。
【0035】
連結糸28は、表編地層25及び裏編地層26の編地中にループ状の編目を形成してもよい。また、連結糸28は、両編地層25,26に挿入状態やタック状態で引っ掛けられてもよい。なかでも、少なくとも2本の連結糸28が両編地層25,26を互いに逆方向の斜めに傾斜してクロス状(X状)又はトラス状に連結することが、クッション層24の形態安定性を向上させ、良好なクッション性を得るうえで好ましい。トラスは、三角形を基本単位としてその集合体で構成する構造形式であり、連結糸28と表編地層25とによって、又は連結糸28と裏編地層26とによって略三角形状を形成する。この場合、クロス状についてもトラス状についても、連結糸28が、2本の糸によって構成されてもよいし、1本の同一の連結糸28が表編地層25及び裏編地層26で折り返され、見かけ上2本となっていてもよい。
【0036】
このようなクッション層24は、積層構造となっていないため、通気性、クッション性等の点で優れている。クッション層24の厚みは、連結糸28の長さを調整することで変更可能である。本実施形態では、クッション層24は2.5mm以上の厚みに形成されている。
【0037】
なお、基材15と表皮本体21との間の層(クッション層24)を立体編クッション層によって構成したのは、同クッション層24が次の特徴を有しているからである。その特徴とは、クッション層24が織物によって形成されたものよりも伸縮性や柔軟性が高く、また、クッション層24が発泡ウレタン等によって形成されたものよりもクッション性能が高いことである。
【0038】
上記クッション層24の端末部29は、押し潰された状態に塑性変形させられていない一般部31と、一般部31の周囲に位置し、かつ熱プレスにより押し潰された状態に塑性変形させられた周縁部32とによって構成されている。
【0039】
上記熱プレスの実施に際しては、図4に示す熱プレス機35が用いられる。熱プレス機35は、固定熱プレス板36と、その固定熱プレス板36の上方に昇降可能に配置された可動熱プレス板37とを備えている。固定熱プレス板36上には、同固定熱プレス板36よりも熱伝導率の高い材料、例えばアルミニウム等によって形成された下熱伝導板38が配置される。この下熱伝導板38の上には、クッション層24が上下を逆にされた状態で、すなわち、裏編地層26が上側に位置し、かつ表編地層25が下側に位置する姿勢にされて配置される。さらに、クッション層24の端末部29のうち、押し潰される予定の箇所(周縁部32)の上には、可動熱プレス板37よりも熱伝導率の高い材料、例えば上記下熱伝導板38と同様、アルミニウム等によって形成された上熱伝導板39が載置される。クッション層24の端末部29のうち、押し潰されない予定の箇所(一般部31)の上には、上記上熱伝導板39は載置されない。
【0040】
そして、固定熱プレス板36が加熱されるとともに、可動熱プレス板37が加熱された状態で下降され、上熱伝導板39に所定の圧力で、所定の時間にわたり押付けられる。ここで、連結糸28がポリエチレンテレフタレート繊維によって形成されている本実施形態では、固定熱プレス板36及び可動熱プレス板37は、連結糸28の融点(220℃)よりも若干低い200°C程度に加熱されることが好ましい。
【0041】
この押し付けにより、図5に示すように、クッション層24の周縁部32が、その厚み方向についての両側から熱プレスされる。この熱プレスにより、上記周縁部32に対し熱と圧力とが加えられる。周縁部32が、熱をかけられた状態で圧縮させられることで、同周縁部32では連結層27の少なくとも一部の連結糸28が倒された状態に塑性変形させられる。
【0042】
上記クッション層24を有する表皮20は、図3に示すように、そのクッション層24において基材15に貼着されている。より詳しくは、クッション層24の一般部31が基材15の本体部17に貼着され、周縁部32がフランジ部18の表面18a、側面18b及び裏面18cに沿って折り曲げられた状態で、すなわち基材15の裏面側まで巻き込まれた状態で、同基材15に貼着されている。フランジ部18の表側の角部18dに沿って折り曲げられることで、表皮本体21は、従来(図8)の半分程度である2.5〜3.0mm程度の曲率半径で湾曲している。
【0043】
基材15に対する表皮20の貼着は手作業によって行なわれる。この貼着作業では、一般部31とフランジ部18との間に少なからず隙間G1が生ずる。この点は、従来(図9)と同様である。
【0044】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。
図3に示すように、基材15に表皮20が貼着されたインパネ10の端末部では、基材15の本体部17と表皮本体21との間に、クッション層24の端末部29のうち、押し潰された状態に塑性変形させられていない一般部31が介在し、これがインパネ10の端末部に必要なクッション性(弾力性)を付与する。
【0045】
また、基材15におけるフランジ部18の表側の角部18dと表皮本体21の間には、クッション層24の端末部29のうち押し潰された状態に塑性変形させられた周縁部32が介在している。この周縁部32は弾性復元しようとせず、押し潰された状態を維持しようとするため、単に圧縮されているにすぎず、自身の弾性復元力によって膨らもうとする場合(図8参照)とは異なり、膨らみにくい。そのため、フランジ部18の表側の角部18dにおいて表皮20が膨らんで大きな曲率半径で湾曲することが起こりにくい。
【0046】
また、押し潰された周縁部32は、フランジ部18の表面18a(先端面)と表皮本体21との間にも介在する。ここで、仮に、フランジ部18の本体部17からの突出長さL1が一般部31の厚みと同程度に設定されていると、フランジ部18の表側では、周縁部32の厚み分、表皮20が他の箇所よりも多く表側へ膨出し、フランジ部18の表側で表皮20に段差が生ずる。しかし、突出長さL1が、一般部31の厚みよりも短く設定されている本実施形態では、同突出長さL1と一般部31の厚みとの差分が、上記周縁部32による表皮20の膨出の少なくとも一部を吸収するため、表皮20の上記段差が小さくなる。
【0047】
また、押し潰されているとはいえ周縁部32は少なからずクッション性(弾力性)を有している。そのため、フランジ部18の表側の角部18dの近傍で表皮20に指等を触れた場合には、クッション層24(周縁部32)がない場合よりも柔らかく(ソフトに)感じられる。
【0048】
さらに、押し潰された周縁部32は、表皮本体21の剛性を補う。そのため、フランジ部18と一般部31との間であって隙間G1に面した箇所で表皮本体21が指等で押されても、同表皮本体21が伸びにくい。
【0049】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)基材15に表皮20を貼着してなるインパネ10にあって、クッション層24の端末部29を、押し潰された状態に塑性変形させられていない一般部31と、一般部31の周囲に位置し、かつ押し潰された状態に塑性変形させられた周縁部32とにより構成する。また、基材15の端末部16を、本体部17と、本体部17よりも表側へ突出した状態で同本体部17を取り囲むフランジ部18とにより構成する。そして、表皮20を、一般部31において本体部17に貼着し、周縁部32においてフランジ部18の少なくとも表面18a及び側面18bに沿って折り曲げた状態で同フランジ部18に貼着している(図3)。
【0050】
そのため、フランジ部18の表側の角部18dにおいて表皮20が膨らんで大きな曲率半径で湾曲するのを抑制し、インパネ10(表皮付き製品)の空調用レジスタ11(隣接部品)との境界部をはっきり見えるようにすることができる。
【0051】
また、押し潰された周縁部32のクッション性(弾力性)により、インパネ10の表側の角部に指等を触れたときの触感を向上させることができる。また、表皮本体21のうち、一般部31とフランジ部18との間であって、隙間G1に面した箇所が指等で押されても伸びにくくし、同表皮本体21が緩んだり隙間G1側へ凹んだりするのを抑制することができる。
【0052】
このようにして、インパネ10の端末部の触感及び見栄えを向上させることができる。
(2)フランジ部18の本体部17からの突出長さL1を、一般部31の厚みよりも短く設定している(図3)。
【0053】
そのため、フランジ部18の表側に現れる表皮20の段差を小さくして目立ちにくくし、インパネ10の端末部の見栄えをさらに向上させることができる。
(3)周縁部32をその厚み方向についての両側から熱プレスすることにより、押し潰された状態に塑性変形させている(図4)。
【0054】
そのため、周縁部32に熱及び圧力を加えることで、同周縁部32を圧縮させて塑性変形させ、同周縁部32を押し潰された状態に保持することができる。
(4)クッション層24として、表編地層25及び裏編地層26と、表編地層25及び裏編地層26を連結糸28で連結してなる連結層27とを備える立体編クッション層を用いている(図5)。
【0055】
そのため、クッション層24が織物によって形成された場合に比べてクッション層、ひいては表皮20の伸縮性や柔軟性を高めることが可能である。また、発泡ウレタン等によりクッション層24が形成された場合よりもクッション性能を高め、インパネ10の触感を向上させることができる。
【0056】
(5)周縁部32では、連結層27の少なくとも一部の連結糸28を倒された状態に塑性変形させている。
そのため、連結糸28を倒された状態に保持することで、クッション層24の周縁部32を押し潰した状態にすることができる。
【0057】
(6)自身の一部がエアバッグ装置の一部(エアバッグドア12)を構成するインパネ10にあって、表皮本体21の厚みを、エアバッグ装置において展開及び膨張するエアバッグにより押圧されることで破断され得る厚みに設定している。
【0058】
そのため、テアラインを有しない表皮本体21でありながら、エアバッグ装置のエアバッグにより押圧されることで破断させることができる。
また、テアラインを有するタイプの表皮本体よりも薄い表皮本体21を用いることで、表皮本体21、ひいてはインパネ10のコストを低減することができる。
【0059】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<表皮20について>
・表皮20は、周縁部32においてフランジ部18の少なくとも表面18a及び側面18bに沿って折り曲げられた状態で同フランジ部18に貼着されればよい。従って、表皮20は、必ずしもフランジ部18の裏面18cに沿って折り曲げられて貼着されなくてもよい。
【0060】
<表皮本体21について>
・表皮本体21は、上記実施形態とは異なり基布層22がなく、表皮層23のみからなる単層構造をなすものであってもよい。本革の場合がこれに該当する。
【0061】
<クッション層24について>
図6に示すように、周縁部32の一般部31との境界部分に、同一般部31から遠ざかるに従い厚みが徐々に小さくなる徐変部41が形成されてもよい。この場合、徐変部41では、表編地層25に対し裏編地層26が傾斜する。
【0062】
周縁部32の一部に徐変部41を形成するために、図7(b)に示すように、裏編地層26に沿って傾斜した傾斜面42を有する上熱伝導板39が用いられてもよい。
この場合、図7(a)に示すように、上熱伝導板39には、傾斜面42において開口する凹部43が、互いに離間した複数箇所に設けられてもよい。これらの凹部43は、開口面積が、上熱伝導板39の厚みの小さい箇所(図7(b)では右側の箇所)では大きく、同厚みが増大するに従い(図7(b)の左側ほど)小さくなるように形成されている。
【0063】
上記の構成を有する上熱伝導板39が用いられることで、周縁部32が熱プレスされる際に、開口面積の大きな凹部43のある箇所では周縁部32がわずかしか押し潰されず、開口面積の小さな凹部43のある箇所では周縁部32が大きく押し潰される。そのため、周縁部32のうち一般部31との境界部分に徐変部41を形成することが可能となる。
【0064】
・クッション層24は、図5に示すように、周縁部32が熱プレスにより押し潰されて塑性変形させられた後に表皮本体21に貼着されてもよい。これとは逆に、クッション層24が表皮本体21に貼着された後に、周縁部32が熱プレスにより押し潰されて塑性変形させられてもよい。
【0065】
前者の場合には、熱プレスによる熱が表皮本体21に加わらないため、表皮本体21の外観が熱による影響を受けにくい反面、表皮本体21にクッション層24を貼着する際の位置合わせが難しい。
【0066】
これに対し、後者の場合には、表皮本体21にクッション層24を貼着した後に所定の形状に打ち抜くようにすれば、クッション層24の表皮本体21に対する位置合わせが不要となる。反面、その後に行なわれる熱プレスにより、表皮本体21の外観が熱の影響を受けて低下するおそれがある。従って、熱プレスを行なう際の熱の管理が難しくなる。
【0067】
そのため、熱プレスと貼着の実施順は、上記の得失を考慮したうえで決定することが好ましい。
・クッション層24の端末部29に周縁部32を形成するために、熱プレスに代え、熱を加えずに加圧する通常のプレスによって周縁部32の形成予定箇所が押し潰されてもよい。この場合には、外力が取り去られても押し潰された状態を維持させる処理も併せて行なわれる。例えば、端末部29のうち周縁部32の形成予定箇所に薬品、接着剤等が塗布され、その状態で同箇所がプレスされてもよい。
【0068】
・周縁部32では、連結層27の連結糸28の一部のみが倒された状態に塑性変形させられてもよいし、同連結糸28の全てが倒された状態に塑性変形させられてもよい。
・クッション層24を構成する立体編クッション層は、ダブルラッセル編物とは異なる編物、例えばトリコット編物によって形成されてもよい。
【0069】
・クッション層24として、立体編クッション層に代えて、ウレタンフォーム、エチレンフォーム、プロピレンフォーム等の発泡材からなるものが用いられてもよい。これらの発泡材には、気泡が連通していて柔らかく、復元性を有するという特徴がある。
【0070】
<熱プレスについて>
・クッション層24の周縁部32は、その厚み方向についての一方のみから熱プレスされることで押し潰されて塑性変形させられてもよい。
【0071】
<その他>
・上記表皮付き製品の端末部の構造は、インパネ10以外の自動車用内装品にも適用可能である。
【0072】
・上記表皮付き製品の端末部の構造は、自動車用内装品に限らず、表皮を表面に有する表皮付き製品であれば広く適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10…インストルメントパネル(表皮付き製品)、15…基材、16,29…端末部、17…本体部、18…フランジ部、18a…表面、18b…側面、20…表皮、21…表皮本体、24…クッション層、25…表編地層、26…裏編地層、27…連結層、28…連結糸、31…一般部、32…周縁部、L1…突出長さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9