特許第6237399号(P6237399)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237399
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】CeドープのPZT系圧電体膜
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/187 20060101AFI20171120BHJP
   H01L 41/318 20130101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01L41/187
   H01L41/318
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-65632(P2014-65632)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-191899(P2015-191899A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】土井 利浩
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
(72)【発明者】
【氏名】曽山 信幸
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−169400(JP,A)
【文献】 S.B.MAJUMDER(他3名),Effect of cerium doping on the micro-structure and electrical properties of sol-gel derived Pb1.05(Zr0.53-δCeδTi0.47)O3 (δ≦10at.%) thin films,Materials Science and Engineering B,NL,Elsevier,2003年 2月25日,Volume 98, Issue 1,pp.25-32
【文献】 Balgovind TIWARI,Study of Impedance Parameters of Cerium Modified Lead Zirconate Titanate Ceramics,IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation,2010年 2月,Vol. 17, No. 1,pp. 5−17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187,41/318
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:PbzCexZryTi1-y3で示されるCeドープの複合金属酸化物からなり、
前記一般式中のx、y及びzが、0.005≦x≦0.05、0.40≦y≦0.55、及び0.95≦z≦1.15をそれぞれ満たし、
分極量のヒステリシスがその中心から負側に4kV/cm以上シフトした、CeドープのPZT系圧電体膜。
【請求項2】
X線回折による(100)配向度が80%以上である請求項1記載のCeドープのPZT系圧電体膜。
【請求項3】
膜厚が1000nm以上かつ5000nm以下である請求項1又は2記載のCeドープのPZT系圧電体膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、IPD、焦電素子、ジャイロセンサ、振動発電素子、アクチュエータ等に用いられCeがドープされたPZT系圧電体膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、PLZT、PZT及びPTからなる群より選ばれた1種の強誘電体薄膜を形成するための強誘電体薄膜形成用組成物の一般式が(PbxLay)(ZrzTi(1-z))O3で示される複合金属酸化物Aに、Ceを含む複合金属酸化物Bが混合した混合複合金属酸化物の形態をとる薄膜を形成するための液状組成物であり、複合金属酸化物Aを構成するための原料並びに複合金属酸化物Bを構成するための原料が上記一般式で示される金属原子比を与えるような割合で有機溶媒中に溶解している有機金属化合物溶液からなる強誘電体薄膜形成用組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この強誘電体薄膜形成用組成物では、上記一般式中のx、y及びzが0.9<x<1.3、0≦y<0.1及び0≦z<0.9をそれぞれ満たす。
【0003】
このように構成された強誘電体薄膜形成用組成物を用いて強誘電体薄膜を形成すると、従来の強誘電体薄膜と同程度の比誘電率を有し、かつ低いリーク電流密度が得られる、高容量密度の薄膜キャパシタ用途に適した強誘電体薄膜を簡便な手法で得ることができる。従って、従来と同程度のリーク電流密度とする場合には、更なる薄膜化が可能となり、より高い比誘電率が得られるようになっている。
【0004】
一方、ゾルゲル法により形成されたPbZrxTi1-x3で表されるPZT薄膜に、Nbを添加することにより圧電特性が向上することが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。この論文では、化学溶液堆積(CSD:Chemical Solution Deposition)法により調製されたPbTiO3のシード層上に成長された{100}配向のPZT薄膜に、Nbをドープしたときに奏する効果が研究された。具体的には、{100}に配向された厚さ1μmのPb1.1Zr0.52Ti0.483薄膜において、Nbを0〜4原子%の範囲内でドーピングしたときの効果が研究された。厚さ数nmという薄いPb1.05TiO3のシード層の結合に起因して、97%という高い{100}配向が全ての膜で得られる。また全体として、PZT薄膜の最大分極、残留分極、直角度、及び飽和保持力はNbのドーピングレベルとともに減少する。更に、3%のNbがドープされたPZT薄膜は、他のドーピングレベルを持つそれらの薄膜より5〜15%高くなって、12.9C/cm2という最も高い圧電定数−e31.fを示した。その一方、誘電率はNbのドーピングレベルに大きな影響を受けないことが明らかとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−206151号公報(請求項1、段落[0022])
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jian Zhong et al.“Effect of Nb Doping on Highly[100]-Textured PZT Films Grown on CSD-Prepared PbTiO3 Seed Layers”,Integrated Ferroelectrics 130(2011)1-11.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の特許文献1に示された強誘電体薄膜形成用組成物では、この組成物を用いて形成された強誘電体薄膜の圧電定数を向上することができず、誘電率を低くすることができないという不具合があった。また、上記従来の非特許文献1に示されたNb添加によるPZT薄膜の圧電特性の向上技術では、NbをドープしたPZT薄膜(PNbZT薄膜)を湿式法、即ちゾルゲル液をCSD法で形成すると、圧電定数は向上するけれども、誘電率を低下させることができず、センサやエナジーハーベスターへの応用には不向きであった。一方、上記従来の特許文献1に示された強誘電体薄膜形成用組成物では、この組成物を用いて強誘電体薄膜を形成した直後に、圧電体として使用することができず、ジャイロセンサ等のデバイスとして使用するには、高い電圧を印加して使用するため、分極処理は必要であった。また、分極処理を行ったとしても、その後のリフロープロセスなどの熱処理時に脱分極してしまうおそれがあり、分極の安定性が低い問題点もあった。
【0008】
本発明の第1の目的は、Ceをドープすることにより、圧電体膜の圧電定数を向上することができ、誘電率を低くすることができる、CeドープのPZT系圧電体膜を提供することにある。本発明の第2の目的は、Ceのドープとともに膜配向性を制御することにより、成膜直後から分極方向が揃い、これによりデバイス化後の分極の安定性を向上でき、Ceのドープとともに膜配向性を制御することにより、成膜直後から分極方向が更に揃って、これにより分極の安定性を更に向上できる、CeドープのPZT系圧電体膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、一般式:PbzCexZryTi1-y3で示されるCeドープの複合金属酸化物からなり、一般式中のx、y及びzが、0.005≦x≦0.05、0.40≦y≦0.55、及び0.95≦z≦1.15をそれぞれ満たし、分極量のヒステリシスがその中心から負側に4kV/cm以上シフトした、CeドープのPZT系圧電体膜である。
【0011】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にX線回折による(100)配向度が80%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点のいずれかに基づく発明であって、更に.膜厚が1000nm以上かつ5000nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点のPZT系圧電体膜では、Ceのドープにより、圧電定数を向上することができるので、より大きな変位を得ることができるとともに、誘電率を低くすることができるので、センサとして使用する場合、利得が大きくなる。これは、下部電極の法線方向に対して(100)/(001)配向させた膜にCeをドープすることにより、ドメインがピニング(pinning)され、成膜直後から分極方向が下向きに揃ったためであると考えられる。この結果、本発明のCeドープのPZT系圧電体膜では、正側に電圧を印加することにより、分極せずにデバイスとして作動させることができる。また、本発明のCeドープのPZT系圧電体膜をジャイロセンサ等として使用した場合、分極処理を必要としないため、製造工数を低減できる。
【0014】
本発明の第2の観点のPZT系圧電体膜では、X線回折による(100)配向度を80%以上とすることにより、成膜直後から分極方向が更に揃った圧電体膜を形成でき、分極の安定性を更に向上できる。具体的には、(100)面に優先的に結晶配向が制御されたLNO膜上に、CeドープのPZT系圧電体膜をCSD法で形成することにより、この圧電体膜の配向が(100)面に制御され、成膜直後から分極方向が更に揃った圧電体膜を形成でき、分極の安定性を更に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明実施形態のCeドープのPZT系圧電体膜を形成するための組成物の液を用いて成膜しているときにボイドが発生しないメカニズムを示す模式図である。
図2】従来例のPZT系圧電体膜を形成するための組成物の液を用いて成膜しているときにボイドが発生するメカニズムを示す模式図である。
図3】本発明実施形態のCeドープのPZT系圧電体膜に電圧を印加したときの圧電体膜の挙動を示す模式図である。
図4】実施例15及び比較例2の圧電体膜のヒステリシス曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。本発明のCeドープのPZT系圧電膜は、一般式:PbzCexZryTi1-y3で示されるCeドープの複合金属酸化物からなる。そして、上記一般式中のx、y及びzが、0.005≦x≦0.05、0.40≦y≦0.55、及び0.95≦z≦1.15をそれぞれ満たす。このCeドープのPZT系圧電体膜は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等のPb含有のペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物にCe元素が添加された圧電体膜である。また上記CeドープのPZT系圧電体膜を形成するための組成物中に含まれるCeドープのPZT系前駆体は、形成後の圧電体膜において上記複合金属酸化物等を構成するための原料であり、これらが所望の金属原子比を与えるような割合で含まれる。具体的には、上記組成物中の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が、(1.00〜1.20):(0.005〜0.05):(0.40〜0.55):(0.60〜0.45)を満たし、かつZrとTiの金属原子比の合計割合が1となる割合で、PZT系前駆体を含む。ここで、一般式中のxを0.005≦x≦0.05の範囲内に限定したのは、0.005未満では成膜直後の圧電体膜の分極方向を十分に揃えることができず、0.05を超えると圧電体膜にクラックが発生し易いからである。また、一般式中のyを0.40≦y≦0.55の範囲内に限定したのは、0.40未満では圧電体の圧電定数が十分に大きくならず、0.55を超えると成膜直後の圧電体膜の分極方向が揃わないからである。更に、一般式中のzを0.95≦z≦1.15の範囲内に限定したのは、0.95未満では膜中にパイロクロア相が多量に含まれてしまい、圧電特性等の電気特性を著しく低下させてしまい、1.15を超えると焼成後の膜中に多量にPbOが残留し、リーク電流が増大して膜の電気的信頼性が低下してしまう、即ち膜中に過剰な鉛が残り易くなり、リーク特性や絶縁特性を劣化させてしまうからである。なお、一般式中のx、y及びzは、0.01≦x≦0.03、0.50≦y≦0.52、及び0.99≦z≦1.05をそれぞれ満たすことが好ましい。
【0017】
一方、上記CeドープのPZT系圧電体膜の分極量のヒステリシスはその中心から負側に4kV/cm以上シフトすることが好ましく、9〜15V/cmの範囲内にシフトすることが更に好ましい。また上記CeドープのPZT系圧電体膜のX線回折による(100)配向度は80%以上であることが好ましく、95%以上であることが更に好ましい。更に上記CeドープのPZT系圧電体膜の膜厚は1000nm以上かつ5000nm以下であることが好ましく、2000nm以上かつ3000nm以下であることが更に好ましい。ここで、CeドープのPZT系圧電体膜の分極量のヒステリシスのシフト量をその中心から負側に4kV/cm以上に限定したのは、4kV/cm未満では十分に分極方向が揃わないからである。また、CeドープのPZT系圧電体膜のX線回折による(100)配向度を80%以上に限定したのは、80%未満では十分なヒステリシスのシフトが見られないからである。更に、CeドープのPZT系圧電体膜の膜厚を1000nm以上かつ5000nm以下の範囲内に限定したのは、1000nm未満では十分な圧電特性が得られず、5000nmを超えると生産性が低下するからである。
【0018】
一方、CeドープのPZT系前駆体は、Pb、Ce、Zr及びTiの各金属元素に、有機基がその酸素又は窒素原子を介して結合している化合物が好適である。例えば、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属カルボン酸塩、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体、及び金属アミノ錯体からなる群より選ばれた1種又は2種以上が例示される。特に好適な化合物は、金属アルコキシド、その部分加水分解物、有機酸塩である。
【0019】
具体的には、Pb化合物としては、酢酸鉛:Pb(OAc)2等の酢酸塩や、鉛ジイソプロポキシド:Pb(OiPr)2等のアルコキシドが挙げられる。またCe化合物としては、2−エチルヘキサン酸セリウム、2−エチル酪酸セリウム等の有機酸塩や、セリウムトリn−ブトキシド、セリウムトリエトキシド等のアルコキシドや、トリス(アセチルアセトネート)セリウム等の金属β−ジケトネート錯体が挙げられる。またTi化合物としては、チタンテトラエトキシド:Ti(OEt)4、チタンテトライソプロポキシド:Ti(OiPr)4、チタンテトラn−ブトキシド:Ti(OnBu)4、チタンテトライソブトキシド:Ti(OiBu)4、チタンテトラt−ブトキシド:Ti(OtBu)4、チタンジメトキシジイソプロポキシド:Ti(OMe)2(OiPr)2等のアルコキシドが挙げられる。更にZr化合物としては、上記Ti化合物と同様のアルコキシド類が好ましい。金属アルコキシドはそのまま使用してもよいが、分解を促進させるためにその部分加水分解物を使用してもよい。
【0020】
組成物中に含まれるジオールは、組成物の溶媒となる成分である。具体的には、プロピレングリコール、エチレングリコール又は1,3―プロパンジオール等が挙げられる。このうち、プロピレングリコール又はエチレングリコールが好ましい。ジオールを必須の溶媒成分とすることにより、組成物の保存安定性を高めることができる。また、クラック抑制材としてポリビニルピロリドン(PVP)を加えてもよい。
【0021】
また、他の溶媒としては、カルボン酸、アルコール(例えば、エタノールや1−ブタノール、ジオール以外の多価アルコール)、エステル、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル)、シクロアルカン類(例えば、シクロヘキサン、シクロヘキサノール)、芳香族系(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、その他テトラヒドロフラン等が挙げられ、ジオールにこれらの1種又は2種以上を更に添加させた混合溶媒とすることもできる。
【0022】
カルボン酸としては、具体的には、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸、2−エチル酪酸、2,2−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸を用いるのが好ましい。
【0023】
また、エステルとしては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸sec−アミル、酢酸tert−アミル、酢酸イソアミルを用いるのが好ましく、アルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソ−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メトキシエタノールを用いるのが好適である。
【0024】
また、上記成分以外に、必要に応じて安定化剤として、β−ジケトン類(例えば、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等)、β−ケトン酸類(例えば、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等)、β−ケトエステル類(例えば、上記ケトン酸のメチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルエステル類)、オキシ酸類(例えば、乳酸、グリコール酸、α−オキシ酪酸、サリチル酸等)、上記オキシ酸の低級アルキルエステル類、オキシケトン類(例えば、ジアセトンアルコール、アセトイン等)、ジオール、トリオール、高級カルボン酸、アルカノールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン)、多価アミン等を、(安定化剤分子数)/(金属原子数)で0.2〜3程度添加してもよい。このうち、安定化剤としてはβ−ジケトン類のアセチルアセトンが好ましい。
【0025】
続いて、本発明のCeドープのPZT系圧電体膜形成用組成物の製造方法について説明する。先ず、上述したPb化合物等のPZT系前駆体をそれぞれ用意し、これらを上記所望の金属原子比を与える割合になるように秤量する。秤量した上記PZT系前駆体とジオールとを反応容器内に投入して混合し、好ましくは窒素雰囲気中、130〜175℃の温度で0.5〜3時間還流し反応させることで合成液を調製する。還流後は、常圧蒸留や減圧蒸留の方法により、脱溶媒させておくのが好ましい。また、アセチルアセトン等の安定化剤を添加する場合は、脱溶媒後の合成液にこれらを添加し、窒素雰囲気中、130〜175℃の温度で0.5〜5時間還流を行うのが好ましい。その後、室温下で放冷することにより、合成液を室温(25℃程度)まで冷却させる。
【0026】
冷却後の合成液に、直鎖状モノアルコールを添加してゾルゲル液を調製する。このとき組成物100質量%中に占めるPZT系前駆体の濃度が酸化物濃度で17〜35質量%となり、ジオールの割合が16〜56質量%となるように調整する。また上記ゾルゲル液にはジオール以外の溶媒を添加することが好ましい。次に上記ゾルゲル液を、所定の雰囲気中、例えば窒素雰囲気中、100〜175℃の温度で0.5〜10時間再び還流を行う。
【0027】
そして、PZT系前駆体1モルに対する割合がモノマー換算で0.01〜0.25モルとなる量のポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコールを添加し、撹拌することで均一に分散させる。これにより、本発明のCeドープのPZT系圧電体膜形成用組成物が得られる。
【0028】
なお、組成物の調製後、濾過処理等によってパーティクルを除去して、粒径0.5μm以上(特に0.3μm以上とりわけ0.2μm以上)のパーティクルの個数が組成物1ミリリットル当たり50個以下とするのが好ましい。組成物中の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数が組成物1ミリリットル当たり50個を超えると、長期保存安定性が劣るものとなる。この組成物中の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数は少ない程好ましく、特に組成物1ミリリットル当たり30個以下であることが好ましい。
【0029】
パーティクル個数が上記範囲内となるように調整した後の組成物を処理する方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のような方法が挙げられる。第1の方法としては、市販の0.2μm孔径のメンブランフィルタを使用し、シリンジで圧送する濾過法である。第2の方法としては、市販の0.05μm孔径のメンブランフィルタと加圧タンクを組合せた加圧濾過法である。第3の方法としては、上記第2の方法で使用したフィルタと溶液循環槽を組合せた循環濾過法である。
【0030】
いずれの方法においても、組成物の圧送圧力によって、フィルタによるパーティクル捕捉率が異なる。圧力が低いほど捕捉率が高くなることは一般的に知られており、特に、第1の方法又は第2の方法で、粒径0.5μm以上のパーティクルの個数を組成物1ミリリットル当たり50個以下とする条件を実現するためには、組成物を低圧で非常にゆっくりとフィルタに通すのが好ましい。
【0031】
次に、本発明のCeドープのPZT系圧電体膜の形成方法について説明する。この形成方法は、ゾルゲル法による圧電体膜の形成方法であり、原料溶液に、上述の本発明のCeドープのPZT系圧電体膜形成用組成物を使用する。
【0032】
先ず、上記CeドープのPZT系圧電体膜形成用組成物を基板上に塗布し、所望の厚さを有する塗膜(ゲル膜)を形成する。塗布法については、特に限定されないが、スピンコート、ディップコート、LSMCD(Liquid Source Misted Chemical Deposition)法又は静電スプレー法等が挙げられる。圧電体膜を形成する基板には、配向制御膜や下部電極が形成されたシリコン基板やサファイア基板等の耐熱性基板が用いられる。基板上に形成する配向制御膜は、(100)面に優先的に結晶配向が制御されたLNO膜(LaNiO3膜)等により形成される。また基板上に形成する下部電極は、Pt、TiOX、Ir、Ru等の導電性を有し、かつ圧電体膜と反応しない材料により形成される。例えば、下部電極を基板側から順にTiOX膜及びPt膜の2層構造にすることができる。上記TiOX膜の具体例としては、TiO2膜が挙げられる。更に基板としてシリコン基板を用いる場合には、この基板表面にSiO2膜を形成することができる。
【0033】
基板上に塗膜を形成した後、この塗膜を仮焼し、更に焼成して結晶化させる。仮焼は、ホットプレート又は急速加熱処理(RTA)等を用いて、所定の条件で行う。仮焼は、溶媒を除去するとともに金属化合物を熱分解又は加水分解して複合酸化物に転化させるために行うことから、空気中、酸化雰囲気中、又は含水蒸気雰囲気中で行うのが望ましい。空気中での加熱でも、加水分解に必要な水分は空気中の湿気により十分に確保される。なお、仮焼前に、特に低沸点溶媒や吸着した水分子を除去するため、ホットプレート等を用いて70〜90℃の温度で、0.5〜5分間低温加熱を行ってもよい。
【0034】
焼成は、仮焼後の塗膜を結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させるための工程であり、これにより圧電体膜が得られる。この結晶化工程の焼成雰囲気はO2、N2、Ar、N2O又はH2等或いはこれらの混合ガス等が好適である。焼成は、600〜700℃で1〜5分間程度行われる。焼成は、急速加熱処理(RTA)で行ってもよい。急速加熱処理(RTA)で焼成する場合、その昇温速度を2.5〜100℃/秒とすることが好ましい。
【0035】
以上の工程により、CeドープのPZT系圧電体膜が得られる。この圧電体膜は、Ceをドープすることにより、圧電定数を向上することができるので、より大きな変位を得ることができるとともに、誘電率を低くすることができるので、センサとして使用する場合、利得が大きくなる。このため、本発明のCeドープのPZT系圧電体膜は、圧電素子、IPD、焦電素子、ジャイロセンサ、振動発電素子、アクチュエータ等の複合電子部品における構成材料(電極)として好適に使用することができる。
【0036】
一方、PZT付近でCeを添加することにより、ドメインがピニング(pinninig)され、ヒステリシスが負側にシフトし、圧電体膜全体として成膜直後から分極が下向きに揃った膜を得ることができる。この結果、本発明のCeドープのPZT系圧電体膜では、正側に電圧を印加することにより、分極せずにデバイスとして作動させることができる。また、本発明のCeドープのPZT系圧電体膜をジャイロセンサ等として使用した場合、分極処理を必要としないため、製造工数を低減できる。更に、本発明のCeドープのPZT系圧電体膜は600〜700℃という高温の焼成を経て作製されているため、圧電体膜を用いたデバイスをリフロー方式のハンダ付けのために高温に曝しても圧電特性が失われることはない。
【0037】
具体的には、図3に示すように、圧電体膜11の両面にそれぞれ配置された電極12,13間に直流電圧14を印加する前から、圧電体膜11中の各分子11aが分極した状態に保たれる(図3(a))。また、(100)面に優先的に結晶配向が制御されたLNO膜上に、CeドープのPZT系圧電体膜をCSD法で形成することにより、この圧電体膜の配向が(100)面に制御され、成膜直後から分極方向の揃った圧電体膜を形成できる。この結果、分極の安定性を更に向上できるので、上記LNO膜上に形成された上記圧電体膜はジャイロセンサ等に適用できる。更に、図3(b)に示すように、圧電体膜11の両面にそれぞれ配置された電極12,13間に電圧を印加すると、圧電体膜11が電圧を印加した方向に伸び、この電圧をゼロにすると、電圧を印加した方向に伸びた圧電体膜11が縮んで元に戻るので(図3(a))、圧電素子等に適用できる。なお、この実施の形態では、電圧を印加した方向に伸びる特性を有する圧電体膜を挙げたが、電圧を印加した方向に直交する方向に伸びる特性を有する圧電体膜であってもよい。
【実施例】
【0038】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0039】
<実施例1>
先ず、反応容器に酢酸鉛三水和物(Pb源)とプロピレングリコール(ジオール)とを入れ、窒素雰囲気中、150℃の温度で1時間還流した後、この反応容器に2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)、チタンテトライソプロポキシド(Ti源)及びアセチルアセトン(安定化剤)を更に加え、窒素雰囲気中、150℃の温度で1時間還流して反応させることにより、合成液を調製した。ここで、上記酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.005:0.40:0.60となるように秤量した。またプロピレングリコール(ジオール)はCeドープのPZT系前駆体100質量%に対して35質量%となるように添加し、アセチルアセトン(安定化剤)はCeドープのPZT系前駆体1モルに対して2モルとなるように添加した。次いで上記合成液100質量%中に占めるCeドープのPZT系前駆体の濃度が、酸化物濃度で35%となるように減圧蒸留を行って不要な溶媒を除去した。ここで、合成液中に占めるCeドープのPZT系前駆体の濃度における酸化物濃度とは、合成液に含まれる全ての金属元素が目的の酸化物になったと仮定して算出した、合成液100質量%に占める金属酸化物の濃度をいう。
【0040】
次いで、合成液を室温で放冷することにより25℃まで冷却した。この合成液に1−オクタノール(炭素数8の直鎖状モノアルコール)とエタノール(溶媒)とを添加することにより、ゾルゲル液100質量%中に占めるCeドープのPZT系前駆体の濃度が、酸化物濃度で25質量%であるゾルゲル液を得た。換言すれば、上記目的濃度になるまで、合成液に1−オクタノール(炭素数8の直鎖状モノアルコール)とエタノール(溶媒)とを添加した。ここで、ゾルゲル液中に占めるCeドープのPZT系前駆体の濃度における酸化物濃度とは、ゾルゲル液に含まれる全ての金属元素が目的の酸化物になったと仮定して算出した、ゾルゲル液100質量%に占める金属酸化物の濃度をいう。
【0041】
次に、上記ゾルゲル液に、ポリビニルピロリドン(PVP:k値=30)をCeドープのPZT系前駆体1モルに対して0.02モルとなるように添加し、室温(25℃)で24時間撹拌することにより、CeドープのPZT系圧電体膜形成用の組成物を得た。この組成物は、市販の0.05μm孔径のメンブランフィルタを使用し、シリンジで圧送して濾過することにより粒径0.5μm以上のパーティクル個数がそれぞれ溶液1ミリリットル当たり1個であった。また、上記組成物100質量%中に占めるCeドープのPZT系前駆体の濃度は、酸化物濃度で25質量%であった。また、1−オクタノール(炭素数8の直鎖状モノアルコール)は、上記組成物100質量%に対して4質量%含まれていた。更に、プロピレングリコール(ジオール)は、上記組成物100質量%に対して30質量%含まれていた。
【0042】
得られた組成物を、SiO2膜、TiO2膜、Pt膜及びLNO膜(配向制御膜:(100)面に優先的に結晶配向が制御されたLaNiO3)が下から上に向ってこの順に積層されかつスピンコータ上にセットされたシリコン基板の最上層のLNO膜上に滴下し、2100rpmの回転速度で60秒間スピンコートを行うことにより、上記LNO膜上に塗膜(ゲル膜)を形成した。この塗膜(ゲル膜)が形成されたシリコン基板を、ホットプレートを用いて、65℃に2分間加熱保持(乾燥)することにより、低沸点溶媒や水を除去した後に、300℃のホットプレートで5分間加熱保持(一段目の仮焼)することにより、ゲル膜を加熱分解し、更に450℃のホットプレートで5分間加熱保持(二段目の仮焼)することにより、ゲル膜中に残存する有機物や吸着水を除去した。このようにして厚さ200nmの仮焼膜(CeドープのPZTアモルファス膜)を得た。上記と同様の操作を2回繰り返すことにより、厚さ400nmの仮焼膜を得た。次に、上記厚さ400nmの仮焼膜が形成されたシリコン基板を、急速加熱処理(RTA)により酸素雰囲気中で700℃に1分間保持することにより、焼成した。このときの昇温速度は10℃/秒であった。このようにしてLNO膜(配向制御膜)上に厚さ400nmのCeドープのPZT膜を形成した。更に上記操作を5回繰返すことにより最終膜厚が2000nmであるCeドープのPZT系圧電体膜を作製した。なお、圧電体膜の膜厚は、圧電体膜の断面の厚さ(総厚)を、SEM(日立社製:S4300)により測定した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.40:0.60であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.01:0.005:0.40:0.60となり、一般式:Pb1.01Ce0.005Zr0.40Ti0.603で表される。
【0043】
<実施例2>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.005:0.50:0.50となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.50:0.50であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.01:0.005:0.50:0.50となり、一般式:Pb1.01Ce0.005Zr0.50Ti0.503で表される。
【0044】
<実施例3>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.005:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.01:0.005:0.52:0.48となり、一般式:Pb1.01Ce0.005Zr0.52Ti0.483で表される。
【0045】
<実施例4>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.005:0.55:0.45となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.55:0.45であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.01:0.005:0.55:0.45となり、一般式:Pb1.01Ce0.005Zr0.55Ti0.453で表される。
【0046】
<実施例5>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.01:0.40:0.60となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.40:0.60であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.01:0.005:0.40:0.60となり、一般式:Pb1.01Ce0.005Zr0.40Ti0.603で表される。
【0047】
<実施例6>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.01:0.50:0.50となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.50:0.50であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.01:0.005:0.50:0.50となり、一般式:Pb1.01Ce0.005Zr0.50Ti0.503で表される。
【0048】
<実施例7>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.03:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.01:0.005:0.52:0.48となり、一般式:Pb1.01Ce0.005Zr0.52Ti0.483で表される。
【0049】
<実施例8>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.05:0.55:0.45となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.55:0.45であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.01:0.005:0.55:0.45となり、一般式:Pb1.01Ce0.005Zr0.55Ti0.453で表される。
【0050】
<実施例9>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.03:0.40:0.60となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.40:0.60であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.03:0.005:0.40:0.60となり、一般式:Pb1.03Ce0.005Zr0.40Ti0.603で表される。
【0051】
<実施例10>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.03:0.50:0.50となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.50:0.50であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.03:0.005:0.50:0.50となり、一般式:Pb1.03Ce0.005Zr0.50Ti0.503で表される。
【0052】
<実施例11>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.03:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.03:0.005:0.52:0.48となり、一般式:Pb1.03Ce0.005Zr0.52Ti0.483で表される。
【0053】
<実施例12>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.03:0.55:0.45となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.55:0.45であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.03:0.005:0.55:0.45となり、一般式:Pb1.03Ce0.005Zr0.55Ti0.453で表される。
【0054】
<実施例13>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.05:0.40:0.60となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.40:0.60であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.04:0.005:0.40:0.60となり、一般式:Pb1.04Ce0.005Zr0.40Ti0.603で表される。
【0055】
<実施例14>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.05:0.50:0.50となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.50:0.50であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.04:0.005:0.50:0.50となり、一般式:Pb1.04Ce0.005Zr0.50Ti0.503で表される。
【0056】
<実施例15>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.05:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.04:0.005:0.52:0.48となり、一般式:Pb1.04Ce0.005Zr0.52Ti0.483で表される。
【0057】
<実施例16>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.05:0.55:0.45となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.005:0.55:0.45であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.04:0.005:0.55:0.45となり、一般式:Pb1.04Ce0.005Zr0.55Ti0.453で表される。
【0058】
<実施例17>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.08:0.03:0.52:0.48となるように秤量し、ポリビニルピロリドン(PVP)の混合割合をCeドープのPZT系前駆体1モルに対して0.05モルとし、更にプロピレングリコール(ジオール)の混合割合を組成物100質量%に対して30質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.08:0.03:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が0.95:0.03:0.52:0.48となり、一般式:Pb0.95Ce0.03Zr0.52Ti0.483で表される。
【0059】
<実施例18>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.12:0.03:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例17と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.12:0.03:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が0.99:0.03:0.52:0.48となり、一般式:Pb0.99Ce0.03Zr0.52Ti0.483で表される。
【0060】
<実施例19>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.18:0.03:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例17と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.18:0.03:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.05:0.03:0.52:0.48となり、一般式:Pb1.05Ce0.03Zr0.52Ti0.483で表される。
【0061】
<実施例20>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.18:0.03:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例17と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.18:0.03:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.03:0.52:0.48となり、一般式:Pb1.15Ce0.03Zr0.52Ti0.483で表される。
【0062】
<比較例1>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.004:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.004:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.00:0.004:0.52:0.48となり、一般式:PbCe0.004Zr0.52Ti0.483で表される。
【0063】
<比較例2>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.06:0.40:0.60となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.06:0.40:0.60であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.00:0.06:0.40:0.60となり、一般式:PbCe0.06Zr0.40Ti0.603で表される。
【0064】
<比較例3>
2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)を添加しなかった、即ち酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.02:0:0.52:0.48となり、一般式:Pb1.02Zr0.52Ti0.483で表される。
【0065】
<比較例4>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.03:0.38:0.62となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.03:0.38:0.62であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.02:0.03:0.38:0.62となり、一般式:Pb1.02Ce0.03Zr0.38Ti0.623で表される。
【0066】
<比較例5>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.15:0.03:0.57:0.43となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.15:0.03:0.57:0.43であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.02:0.03:0.57:0.43となり、一般式:Pb1.02Ce0.03Zr0.57Ti0.433で表される。
【0067】
<比較例6>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.07:0.03:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例17と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.07:0.03:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が0.94:0.03:0.52:0.48となり、一般式:Pb0.94Ce0.03Zr0.52Ti0.483で表される。
【0068】
<比較例7>
酢酸鉛三水和物(Pb源)、2−エチルヘキサン酸セリウム(Ce源)、ジルコニウムテトラブトキシド(Zr源)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti源)は、CeをドープしたPZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.29:0.03:0.52:0.48となるように秤量したこと以外は、実施例17と同様にしてCeドープのPZT系圧電体膜を形成した。なお、PZT系前駆体の金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)は1.29:0.03:0.52:0.48であったけれども、Pbの一部が焼成により蒸発して飛んでしまい、焼成後のCeドープのPZT系圧電体膜は、金属原子比(Pb:Ce:Zr:Ti)が1.16:0.03:0.52:0.48となり、一般式:Pb1.16Ce0.03Zr0.52Ti0.483で表される。
【0069】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜20及び比較例1〜7で形成したCeドープのPZT系圧電体膜について、分極量のヒステリシスのずれ、配向度、圧電定数e31.f及びクラックの有無をそれぞれ測定した。圧電体膜の分極量のヒステリシスのずれは、TF-analyzer2000(aix ACCT社製)を用いて測定した。具体的には、先ずCeドープのPZT系圧電体膜の両面に、スパッタ法により200μmφの一対の電極をそれぞれ形成した後、RTAを用いて、酸素雰囲気中で700℃に1分間保持して、ダメージを回復するためのアニーリングを行い、MIM(Metal-Insulator-Metal)キャパシタ構造をそれぞれ作製した。次にこれらを試験用サンプルとし、1kHzの周波数で25Vの電圧を印加して圧電体膜の分極量のヒステリシスを測定し、更に得られた分極量のヒステリシスのずれを求めた。
【0070】
また、CeドープのPZT系圧電体膜の結晶の(100)面における配向度は、X線回折(XRD)装置(パナリティカル社製、型式名:Empyrean)を用いた集中法により得られた回折結果から、(100)面の強度/{(100)面の強度+(110)面の強度+(111)面の強度}を計算することにより算出した。
【0071】
また、圧電定数e31.fの測定は、圧電評価装置(aix ACCT社製:4-Point Bending System)を用いて測定した。なお、上記測定は1kHzの周波数で行った。
【0072】
更に、クラックの有無は、上記膜厚測定に用いた走査型電子顕微鏡により膜表面及び膜断面の組織を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を観察し、このSEM画像からクラックの有無を観察した。そして、クラックが観察されなかった状態であったときを『クラック無し』とし、クラックが観察された状態であったときを『クラック有り』とした。これらの結果を表1及び表2に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1から明らかなように、Ceのドープ量が0.004と少ない比較例1及びCeを全くドープしなかった比較例3では、圧電体膜にクラックが発生しなかったけれども、P−Vヒステリシスのずれが1kV/cm及び0kV/cmと小さく、圧電定数e31.fの絶対値が4.3C/m2及び0.3C/m2と小さかった。またCeのドープ量が0.06と多い比較例2では、P−Vヒステリシスのずれが15kV/cmと大きかったけれども、圧電体膜にクラックが発生し、圧電定数e31.fの絶対値が6.2C/m2と小さかった。これらに対し、Ceのドープ量が0.005〜0.05と適切な範囲内である実施例1〜16では、圧電体膜にクラックが発生せず、P−Vヒステリシスのずれが4〜16kV/cmと大きくなり、圧電定数e31.fの絶対値が8.2〜16.1C/m2と大きくなった。
【0076】
また、Zr/Tiの原子比が0.38/0.62と小さい比較例4及びZr/Tiの原子比が0.57/0.43と大きい比較例5では、P−Vヒステリシスのずれが8C/m2及び6C/m2と大きくなり、圧電体膜にクラックが発生しなかったけれども、圧電定数e31.fの絶対値が3.8C/m2及び5.2C/m2と小さかった。これらに対し、Zr/Tiの原子比が0.40/0.60〜0.55/0.45と適切な範囲内である実施例1〜16では、圧電体膜にクラックが発生せず、P−Vヒステリシスのずれが4〜16kV/cmと大きくなり、圧電定数e31.fの絶対値が8.2〜16.1C/m2と大きくなった。
【0077】
更に、表2から明らかなように、PZT系圧電体膜中のPbの含有割合が0.94と少ない比較例6では、圧電定数e31.fの絶対値が7.2C/m2と小さく、PZT系圧電体膜中のPbの含有割合が1.16と多い比較例7では、圧電定数e31.fの絶対値が8.0C/m2と小さかったのに対し、PZT系圧電体膜中のPbの含有割合が0.95〜1.15と適切な範囲内の実施例17〜20では、圧電定数e31.fの絶対値が11.8〜14.2C/m2と大きくなった。このことからPZT系圧電体膜中のPbの含有割合zが0.95≦z≦1.15になるように組成物中のPb濃度を制御することが重要であることが分かった。
【0078】
一方、実施例15及び比較例3で形成したCeドープのPZT系圧電体膜について、上記比較試験1でヒステリシスのずれを測定したときのヒステリシス曲線を図4に描いた。この図4に描かれたヒステリシス曲線から明らかなように、実施例15の圧電体膜が比較例3の圧電体膜より負側にシフトしていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のCeドープのPZT系圧電体膜は、圧電素子、IPD、焦電素子、ジャイロセンサ、振動発電素子、アクチュエータの複合電子部品における構成材料(電極)の製造に利用できる。
図1
図2
図3
図4