(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献2に開示される技術は、ジエン系ゴムのリサイクル性を高める点で有利であるものの、ジエンを含まないエチレン−αオレフィン共重合体を用いてリサイクル性を高める技術については、未だ改善の余地が残されている。なお、特許文献3は、αオレフィンとエチレン型不飽和カルボン酸との共重合体を用いるものであり、エチレン−αオレフィン共重合体を用いてリサイクル性を高める技術について教示するものではない。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エチレン−αオレフィン共重合体を用いて、ゴム弾性とリサイクル性とを発揮させることのできるゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するゴム組成物は、酸変性共重合体を含有するゴム組成物であって、前記酸変性共重合体は、エチレン含有量が40〜60質量%であり、密度が0.850〜0.920g/cm
3のエチレン−αオレフィン共重合体100質量部と、カルボキシル基を有する酸無水物4〜9質量部と、1分半減期温度が160〜200℃の有機過酸化物を0.32〜0.64質量部との反応生成物であり、前記酸変性共重合体100質量部と、水酸化ナトリウム1〜5質量部とを含有する。
【0007】
上記の酸変性共重合体は、エチレン−αオレフィン共重合体にカルボキシル基を有する酸無水物が化学結合した構造を有している。その酸変性共重合体と水酸化ナトリウムとを含有ゴム組成物では、酸変性共重合体と、ナトリウムイオン及び水から構成されるナトリウムクラスターとにより高次構造が形成されている。このようなゴム組成物によれば、例えば、加硫ゴムと同等のゴム弾性が発揮される。また、酸変性共重合体とナトリウムクラスターとの高次構造は、例えば、加硫ゴムのような共有結合ではなく、イオン結合及び水素結合により構成されている。こうした結合の結合エネルギーは、共有結合よりも小さいため、上記のゴム組成物においては、熱可塑性が発揮される。
【0008】
上記ゴム組成物においては、前記エチレン−αオレフィン共重合体におけるαオレフィンの炭素数が3〜10であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エチレン−αオレフィン共重合体を用いて、ゴム弾性とリサイクル性とを発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、ゴム組成物の実施形態について説明する。
ゴム組成物は、酸変性共重合体と水酸化ナトリウムとを含有する。
<酸変性共重合体>
酸変性共重合体は、エチレン−αオレフィン共重合体100質量部と、カルボキシル基を有する酸無水物4〜9質量部と、有機過酸化物0.32〜0.64質量部との反応生成物である。
【0011】
エチレン−αオレフィン共重合体のエチレン含有量は、40〜60質量%である。エチレン含有量は、ASTM D3900に準拠して測定される。エチレン−αオレフィン共重合体の密度は、0.850〜0.920g/cm
3である。このようなエチレン含有量及び密度を有するエチレン−αオレフィン共重合体を用いることで、ゴム組成物のゴム弾性が高まり易くなる。
【0012】
エチレン−αオレフィン共重合体としては、一種を単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
エチレン−αオレフィン共重合体におけるαオレフィンの炭素数は、3〜10であることが好ましい。エチレン−αオレフィン共重合体は、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、及びエチレン−オクテン共重合体から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0013】
酸変性共重合体の生成に用いる上記酸無水物の含有量が4質量部未満の場合、ゴム組成物のゴム弾性が得られ難い。酸変性共重合体中の上記酸無水物の含有量が9質量部を超える場合、ゴム組成物の熱可塑性が得られ難い。カルボキシル基を有する酸無水物としては、例えば、マロン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物、フタル酸無水物、マレイン酸無水物、及びフマル酸無水物が挙げられる。
【0014】
カルボキシル基を有する酸無水物の一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。カルボキシル基を有する酸無水物は、無水マレイン酸を含むことが好ましい。
【0015】
有機過酸化物の1分半減期温度は、160〜200℃である。酸変性共重合体を生成するために用いる有機過酸化物が0.32質量部未満の場合、ゴム組成物のゴム弾性が得られ難い。酸変性共重合体を生成するために用いる有機過酸化物が0.64質量部を超える場合、ゴム組成物の熱可塑性が得られ難い。
【0016】
1分半減期温度が160〜200℃の有機過酸化物としては、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
1分半減期温度が160〜200℃の有機過酸化物としては、例えば、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、パーオキシケタール、及びパーオキシエステルが挙げられる。
【0017】
上記の1分半減期温度を有するジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、2,5‐ジメチル−2,5−ビス(tert‐ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、ビス(2−tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチル(1−フェニル−1−メチルエチル)パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジ−tert−ヘキシルパーオキサイド、及びジクミルパーオキサイドが挙げられる。上記の1分半減期温度を有するハイドロパーオキサイドとしては、例えば、p−メンタンハイドロパーオキサイドが挙げられる。上記の1分半減期温度を有するパーオキシケタールとしては、例えば、4,4−ビス(tert−ブチルペルオキシ)吉草酸n−ブチルが挙げられる。上記の1分半減期温度を有するパーオキシエステルとしては、例えば、ペルオキシマレイン酸tert−ブチル、3,5,5−トリメチルヘキサンペルオキシ酸tert−ブチル、ペルオキシ炭酸tert−ブチル2−エチルヘキシル、過安息香酸1,1−ジメチルブチル、及び過安息香酸tert−ブチルが挙げられる。
【0018】
酸変性共重合体は、エチレン−αオレフィン共重合体と、上記の酸無水物と、上記の有機過酸化物とを溶融混練することで得られる。酸変性共重合体の溶融混練には、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー等を用いることができる。
【0019】
<ゴム組成物>
ゴム組成物は、酸変性共重合体100質量部と、水酸化ナトリウム1〜5質量部とを含有する。ゴム組成物における水酸化ナトリウムが1質量部未満の場合、ゴム組成物のゴム弾性が得られ難い。ゴム組成物における水酸化ナトリウムが5質量部を超える場合、ゴム組成物の熱可塑性が得られ難い。
【0020】
酸変性共重合体としては、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
ゴム組成物には、各種添加剤を含有させることもできる。添加剤としては、例えば、無機又は有機フィラー、老化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、難燃剤等を添加することもできる。
【0021】
ゴム組成物は、酸変性共重合体と水酸化ナトリウムとを溶融混練することで得られる。ゴム組成物の溶融混練には、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー等を用いることができる。
【0022】
ゴム組成物は、周知の方法で成形され、例えば、車両用部品として用いることができる。成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、及びプレス成形が挙げられる。
ゴム組成物のゴム弾性は、例えば、圧縮永久歪(JIS K6262)の値で表される。すなわち、ゴム組成物の圧縮永久歪の値が低いほど、ゴム弾性がより発揮される。ゴム組成物の圧縮永久歪は、40%以下であることが好ましい。この圧縮永久歪の下限は、特に限定されないが、1%以上である。
【0023】
ゴム組成物の熱可塑性は、250℃における絶対粘度で表される。すなわち、ゴム組成物の絶対粘度が低いほど、熱可塑性が発揮されるため、リサイクル性の観点で有利である。ゴム組成物の250℃における絶対粘度は、80000Pa・s以下であることが好ましい。この絶対粘度の下限は、特に限定されないが、成形に適するという観点から、例えば、5000Pa・s以上である。
【0024】
次に、ゴム組成物の作用について説明する。
酸変性共重合体は、エチレン−αオレフィン共重合体にカルボキシル基を有する酸無水物が化学結合した構造を有している。その酸変性共重合体と水酸化ナトリウムとを含有ゴム組成物では、酸変性共重合体と、ナトリウムイオン及び水から構成されるナトリウムクラスターとにより高次構造が形成されている。なお、ナトリウムクラスターは、水酸化ナトリウムを構成するナトリウムイオンと、例えば空気中の水分や酸変性共重合体に含まれる水分とにより形成される。このようなゴム組成物によれば、例えば、加硫ゴムと同等のゴム弾性が発揮される。また、酸変性共重合体とナトリウムクラスターとの高次構造は、例えば、加硫ゴムのような共有結合ではなく、イオン結合及び水素結合により構成されている。こうした結合の結合エネルギーは、共有結合よりも小さいため、上記のゴム組成物においては、熱可塑性が発揮される。
【0025】
上述した実施形態によって発揮される効果について以下に記載する。
(1)ゴム組成物は、酸変性共重合体100質量部と、水酸化ナトリウム1〜5質量部とを含有する。酸変性共重合体は、エチレン−αオレフィン共重合体100質量部と、カルボキシル基を有する酸無水物4〜9質量部と、有機過酸化物を0.32〜0.64質量部との反応生成物である。エチレン−αオレフィン共重合体のエチレン含有量は、40〜60質量%である。エチレン−αオレフィン共重合体の密度は、0.850〜0.920g/cm
3である。有機過酸化物の1分半減期温度が160〜200℃である。
【0026】
この構成によれば、エチレン−αオレフィン共重合体を用いて、ゴム弾性とリサイクル性とを発揮させることができる。
例えば、本実施形態のゴム組成物をリサイクルする場合、未使用のゴム組成物に対する配合量を高めることができる。
【0027】
(2)エチレン−αオレフィン共重合体におけるαオレフィンの炭素数は、3〜10であることが好ましい。この場合、例えば、成形に適した粘度特性が得られ易くなる。
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0028】
(イ)前記カルボキシル基を有する酸無水物が、無水マレイン酸を含むゴム組成物。
(ロ)前記有機過酸化物が、ジアルキルパーオキサイドを含むゴム組成物。
(ハ)前記ゴム組成物の圧縮永久歪が、40%以下であるゴム組成物。
【0029】
(ニ)前記ゴム組成物の250℃における絶対粘度が、80000Pa・s以下であるゴム組成物。
【実施例】
【0030】
次に、実施例及び比較例を説明する。
<酸変性共重合体>
表1に示すように、エチレン−αオレフィン共重合体、酸無水物、及び有機過酸化物を二軸押出機で溶融混練することで酸変性共重合体1〜4を調製した。
【0031】
表1に示されるエチレン−αオレフィン共重合体、酸無水物、及び有機過酸化物の配合量を示す数値の単位は質量部であり、各成分の詳細は以下のとおりである。
エチレン−αオレフィン共重合体(A1):エチレン−プロピレン共重合体(エチレン含有量51質量%、密度0.86g/cm
3、三井化学株式会社製、商品名:三井EPT 0045M)
エチレン−αオレフィン共重合体(A2):エチレン−ブテン共重合体(エチレン含有量54%、密度0.86g/cm
3、三井化学株式会社製、商品名:TAFMER DF610)
エチレン−αオレフィン共重合体(A3):エチレン−オクテン共重合体(エチレン含有量58%、密度0.87g/cm
3、ダウエラストマー社製、商品名:ENGAGE 8100)
酸無水物(B1):無水マレイン酸
有機過酸化物(C1):2,5‐ジメチル−2,5−ビス(tert‐ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン(1分半減期温度:194.3℃、日油株式会社製、商品名:パーヘキシン25B)
有機過酸化物(C2):ビス(2−tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(1分半減期温度:175.4℃、日油株式会社製、商品名:パーブチルP)
<ゴム組成物>
(実施例1〜3及び比較例1,2)
表2に示すように、実施例1〜3及び比較例1,2では、酸変性共重合体と水酸化ナトリウムとを二軸押出機で混練することでゴム組成物を調製した。
【0032】
表2に示される酸変性共重合体と水酸化ナトリウムの配合量を示す数値の単位は、質量部である。
<物性の測定>
実施例1〜3及び比較例1,2の各ゴム組成物について、引張強度、引張伸び、ゴム硬度、圧縮永久歪、及び粘度を測定した。表2に示される引張強度及び引張伸びは、JIS K6251に準拠して測定した値である。また、ゴム硬度は、JIS K6253に準拠してタイプAデュロメータを用いて測定した値である。また、圧縮永久歪は、JIS K6262に準拠して測定した値である。絶対粘度は、レオメーターを用いて温度250℃、せん断ひずみ0.1%、周波数1Hzの条件で測定した値である。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
比較例1のゴム組成物における酸変性共重合体中の有機過酸化物は、エチレン−αオレフィン共重合体100質量部に対して0.32質量部未満である。各実施例のゴム組成物は、圧縮永久歪の値が低く、ゴム弾性がより発揮されるという観点で、比較例1のゴム組成物よりも有利である。
【0035】
比較例2のゴム組成物中に水酸化ナトリウムは、酸変性共重合体100質量部に対して1質量部未満である。各実施例のゴム組成物は、圧縮永久歪の値が低く、ゴム弾性がより発揮されるという観点で、比較例2のゴム組成物よりも有利である。
【0036】
なお、表2には、参考例1としてTPV(動的架橋型熱可塑性エラストマー)の物性値を示すとともに、参考例2として加硫ゴムの物性値を示している。
各実施例のゴム組成物は、圧縮永久歪の値が低く、ゴム弾性がより発揮されるという観点で、参考例1のTPVよりも有利である。
【0037】
また、各実施例のゴム組成物は、絶対粘度が低く、熱可塑性がより発揮されるという観点で、参考例2の加硫ゴムよりも有利である。