(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0028】
図1〜4は、本発明の実施形態に係る回転電機の制御装置を備えるハイブリッド駆動システムの構成の概略を示す図であり、
図1は全体構成の概略を示し、
図2〜4は回転電機10の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動システムは、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と駆動軸37(車輪38)との間に設けられ、変速比の変更が可能な変速機(機械式変速機)44と、エンジン36と変速機44との間に設けられ、動力(機械的動力)の発生及び発電が可能な回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動システムについては、例えば車両を駆動するための動力出力システムとして用いることができる。
【0029】
回転電機10は、図示しないステータケースに固定されたステータ(固定子)16と、ステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ(第1回転子)28と、ロータ回転軸と直交する径方向においてステータ16及び第1ロータ28と所定の空隙を空けて対向し、ステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ(第2回転子)18と、を有する。
図1〜4に示す例では、ステータ16は、第1ロータ28より径方向外側の位置に第1ロータ28と間隔を空けて配置されており、第2ロータ18は、径方向においてステータ16と第1ロータ28との間の位置に配置されている。つまり、第1ロータ28は第2ロータ18より径方向内側の位置で第2ロータ18と対向配置されており、ステータ16は第2ロータ18より径方向外側の位置で第2ロータ18と対向配置されている。第1ロータ28はエンジン36と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36からの動力が伝達される。一方、第2ロータ18は変速機44を介して駆動軸37に機械的に連結されていることで、駆動軸37(車輪38)には第2ロータ18からの動力が変速機44で変速されてから伝達される。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。
【0030】
ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線(固定子巻線)20と、を含む。ステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
図3,4に示す例では、3相のステータ巻線20が巻装された6つのティース51aあたり、1つの磁極が構成される。
【0031】
入力側ロータ28は、ロータコア(回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線(回転子巻線)30と、を含む。ロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
図3,4に示す例では、3相のロータ巻線30が巻装された3つのティース52aあたり、1つの磁極が構成される。
【0032】
出力側ロータ18は、ロータ周方向に互いに間隔をおいて(等間隔で)配置された複数(
図3,4に示す例では16個)の永久磁石33と、各々がロータ周方向に隣接する永久磁石33間に配置された複数(永久磁石33と同数、
図3,4に示す例では16個)の軟磁性材53と、を含む。ロータ周方向に等間隔で分割配置された複数の軟磁性材53の各々は、入力側ロータ28(ティース52a)と所定の空隙を空けて対向する内周面(第1面)61と、ステータ16(ティース51a)と所定の空隙を空けて対向する外周面(第2面)62と、隣接する一方の永久磁石33の磁極面に面する(接触する)側面(第3面)63と、隣接する他方の永久磁石33の磁極面に面する(接触する)側面(第4面)64と、を有し、内周面61と外周面62間で磁束を通す。
図3,4に示す例では、各永久磁石33の磁極面が径方向に対して傾斜して配置され、各軟磁性材53の側面63,64も径方向に対して傾斜して形成されている。そして、
図3,4に示す例では、各軟磁性材53において、内周面61のロータ周方向幅が、ロータ周方向に3個離れたティース52a間の間隔に等しく、外周面62のロータ周方向幅が、ロータ周方向に6個離れたティース51a間の間隔に等しい。以下の説明において、複数の永久磁石33を区別する必要があるときは、以降33−1,33−2,33−3の符号を用いて説明する。そして、複数の軟磁性材53を区別する必要があるときは、以降53−1,53−2の符号を用いて説明し、軟磁性材53の内周面61、外周面62、側面63,64についても、以降61−1,61−2,62−1,62−2,63−1,63−2,64−1,64−2の符号を用いて説明する。
【0033】
各軟磁性材53においては、側面63が面する永久磁石33の磁極面と側面64が面する永久磁石33の磁極面が互いに同じ極性であり、ロータ周方向に隣接する永久磁石33の同極同士が軟磁性材53を介して繋がっている。例えば軟磁性材53−1においては、側面63−1が接触する永久磁石33−1の磁極面がN極面であり、側面64−1が接触する永久磁石33−2の磁極面がN極面である。一方、永久磁石33−2を挟んで軟磁性材53−1とロータ周方向に隣接する軟磁性材53−2においては、側面63−2が面する永久磁石33−2の磁極面がS極面であり、側面64−2が接触する永久磁石33−3の磁極面がS極面である。そのため、ロータ周方向に隣接する軟磁性材53(例えば軟磁性材53−1,53−2)においては、側面63,64が面する永久磁石33の磁極面が互いに逆の極性であり、ロータ周方向において、側面63,64が永久磁石33のN極面に接触する軟磁性材53と、側面63,64が永久磁石33のS極面に接触する軟磁性材53が交互に配置される。また、ロータ周方向に隣接する軟磁性材53(例えば軟磁性材53−1,53−2)間には、永久磁石33の他に、磁気抵抗を高くするための空隙54が設けられている。空隙54に代えて非磁性材料を設けることも可能である。ただし、ロータ周方向に隣接する軟磁性材53(例えば軟磁性材53−1,53−2)同士がブリッジで繋がっていてもよい。
【0034】
永久磁石33による界磁磁束の流れを
図4に示す。
図4の矢印に示すように、軟磁性材53−1においては、永久磁石33−1による界磁磁束が側面63−1から内周面61−1及び外周面62−1へ流れるとともに、永久磁石33−2による界磁磁束が側面64−1から内周面61−1及び外周面62−1へ流れる。入力側ロータ28に対しては、軟磁性材53−1の内周面61−1がN極面として機能し、界磁磁束が軟磁性材53−1の内周面61−1から入力側ロータ28(ティース52a)に作用する。ステータ16に対しては、軟磁性材53−1の外周面62−1がN極面として機能し、界磁磁束が軟磁性材53−1の外周面62−1からステータ16(ティース51a)に作用する。一方、軟磁性材53−2においては、永久磁石33−2による界磁磁束が内周面61−2及び外周面62−2から側面63−2へ流れるとともに、永久磁石33−3による界磁磁束が内周面61−2及び外周面62−2から側面63−3へ流れる。入力側ロータ28に対しては、軟磁性材53−2の内周面61−2がS極面として機能し、界磁磁束が入力側ロータ28(ティース52a)から軟磁性材53−2の内周面61−2に作用する。ステータ16に対しては、軟磁性材53−2の外周面62−2がS極面として機能し、界磁磁束がステータ16(ティース51a)から軟磁性材53−2の外周面62−2に作用する。このように、同一の軟磁性材53における内周面61と外周面62が互いに同じ極性の磁極面として機能する。そして、ロータ周方向において、N極面として機能する内周面61とS極面として機能する内周面61が交互に配置され、N極面として機能する外周面62とS極面として機能する外周面62が交互に配置される。なお、各軟磁性材53の内部には、内周面61と外周面62間、側面63,64と内周面61間、及び側面63,64と外周面62間で磁束をそれぞれ通しやすくするために、空隙及び非磁性材料が設けられていないことが好ましく、磁気抵抗の高い部分が設けられていないことが好ましい。
【0035】
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。蓄電装置42とステータ巻線20との間で電力変換を行う第1電力変換装置として設けられたインバータ40は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の電力変換も可能である。このように、インバータ40は、蓄電装置42とステータ巻線20との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
【0036】
スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、さらに、ロータ巻線30の各相と電気的に接続されている。回転が固定されたブラシ96は、スリップリング95に押し付けられて電気的に接触する。スリップリング95は、ブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接触を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、インバータ41と電気的に接続されている。蓄電装置42及びインバータ40のいずれかとロータ巻線30との間で電力変換を行う第2電力変換装置として設けられたインバータ41は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ41は、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を直流に変換する方向の電力変換も可能である。その際には、ロータ巻線30の交流電力がスリップリング95及びブラシ96により取り出され、この取り出された交流電力がインバータ41で直流に変換される。インバータ41で直流に変換された電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、インバータ41からの直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、インバータ41で直流に変換された電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、インバータ41は、蓄電装置42及びインバータ40のいずれかとロータ巻線30との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
【0037】
電子制御ユニット50は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成され、処理プログラムを記憶したROMと、一時的にデータを記憶するRAMと、入出力ポートとを備える。電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御してインバータ40での電力変換を制御することで、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御し、インバータ41のスイッチング素子のスイッチング動作を制御してインバータ41での電力変換を制御することで、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御する。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速比の制御も行う。
【0038】
インバータ40のスイッチング動作により3相のステータ巻線20に3相の交流電流が流れることで、ステータ巻線20はステータ周方向に回転する回転磁界を発生し、ステータ巻線20の電流による磁束が出力側ロータ18に作用する。それに応じて、ステータ巻線20の交流電流により発生した回転磁界と、軟磁性材53の外周面62と側面63,64間を流れる永久磁石33による界磁磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、ステータ16と出力側ロータ18間にトルクT
outを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からインバータ40を介してステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができ、ステータ16及び出力側ロータ18を同期電動機(PMモータ部)として機能させることができる。さらに、出力側ロータ18の動力をステータ巻線20の電力に変換してインバータ40を介して蓄電装置42に回収することも可能である。電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作により例えばステータ巻線20に流す交流電流の振幅や位相角を制御することで、ステータ16と出力側ロータ18間に作用するトルク(PMモータトルク)T
outを制御することができる。
【0039】
また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流(交流電流)が流れることで回転磁界が生じ、ロータ巻線30の電流による磁束が出力側ロータ18に作用する。それに応じて、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と、軟磁性材53の内周面61と側面63,64間を流れる永久磁石33による界磁磁束との電磁気相互作用により、入力側ロータ28と出力側ロータ18間にトルクT
inを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18間で動力(機械的動力)を伝達することができ、入力側ロータ28及び出力側ロータ18を誘導電磁カップリング部として機能させることができる。
【0040】
ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18間にトルク(電磁カップリングトルク)T
inを発生させる際には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。その際には、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に流れる交流電流を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18間に作用する電磁カップリングトルクT
inを制御することができる。一方、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子をオフ状態に維持してスイッチング動作を停止させることで、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18間にトルクT
inは作用しなくなる。
【0041】
エンジン36が動力を発生している場合は、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。ロータ巻線30の電流による磁束が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクT
inが作用して出力側ロータ18がエンジン回転方向に回転駆動する。このように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。出力側ロータ18に伝達された動力は、変速機44で変速されてから駆動軸37(車輪38)へ伝達されることで、車両の前進駆動等、負荷の正転駆動に用いられる。したがって、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動することができ、車両を前進方向に駆動することができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはない。そのため、回転電機10を発進装置として機能させることができ、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。
【0042】
さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力はインバータ41で直流に変換される。そして、インバータ40のスイッチング動作により、インバータ41からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ巻線20に交流電流が流れ、ステータ16に回転磁界が形成される。ステータ巻線20の電流による磁束が出力側ロータ18に作用するのに応じて、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクT
outを作用させることができる。これによって、出力側ロータ18のエンジン回転方向のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができる。また、インバータ41からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。
【0043】
さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の正転方向の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石33との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。
【0044】
また、エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて負荷を駆動する(車輪38を回転駆動する)EV(Electric Vehicle)走行を行う場合は、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の駆動制御を行う。例えば、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力を交流に変換してステータ巻線20へ供給するように、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力をステータ巻線20と永久磁石33との電磁気結合によって出力側ロータ18の動力に変換し、駆動軸37(車輪38)を回転駆動する。このように、エンジン36が動力を発生していなくても、ステータ巻線20への電力供給により車輪38を回転駆動することができる。
【0045】
また、エンジン36の始動を行う場合は、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力を交流に変換してブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30へ供給するようインバータ41のスイッチング動作を制御することで、ロータ巻線30の交流電流により出力側ロータ18から入力側ロータ28にエンジン回転方向のトルクT
inを作用させる。これによって、エンジン36のクランキングを行う。
【0046】
ここで、ステータ16及び出力側ロータ18において、永久磁石33による起磁力がステータ16に作用する方向、より具体的には、軟磁性材53の外周面62のロータ周方向中央位置を通る磁石磁束の方向をd軸(磁束軸)とし、d軸と電気角で90°ずれた位置(外周面62のロータ周方向端部位置)をq軸(トルク軸)とする。そして、軟磁性材53の外周面62において、ロータ周方向中央位置を通るd軸磁束を最大にする(ロータ周方向端部位置を通るq軸磁束を最小にする)ためのステータ巻線20の電流をd軸電流とし、ロータ周方向端部位置を通るq軸磁束を最大にする(ロータ周方向中央位置を通るd軸磁束を最小にする)ためのステータ巻線20の電流をq軸電流とする。同様に、入力側ロータ28及び出力側ロータ18において、永久磁石33による起磁力が入力側ロータ28に作用する方向、より具体的には、軟磁性材53の内周面61のロータ周方向中央位置を通る磁石磁束の方向をd軸とし、d軸と電気角で90°ずれた位置(内周面61のロータ周方向端部位置)をq軸とする。そして、軟磁性材53の内周面61において、ロータ周方向中央位置を通るd軸磁束を最大にする(ロータ周方向端部位置を通るq軸磁束を最小にする)ためのロータ巻線30の電流をd軸電流とし、ロータ周方向端部位置を通るq軸磁束を最大にする(ロータ周方向中央位置を通るd軸磁束を最小にする)ためのロータ巻線30の電流をq軸電流とする。
【0047】
ロータ巻線30にd軸電流が流れた場合におけるd軸磁束の流れを
図5に示す。
図5の矢印に示すように、ロータ巻線30のd軸電流によるd軸磁束は、入力側ロータ28(ティース52a)から軟磁性材53−1の内周面61−1に作用し、軟磁性材53−1を内周面61−1から外周面62−1へ流れ、ステータ16(ティース51a)に作用してステータ巻線20に鎖交する。さらに、ステータ16を流れるd軸磁束は、ティース51aから軟磁性材53−2の外周面62−2に作用し、軟磁性材53−2を外周面62−2から内周面61−2へ流れ、入力側ロータ28(ティース52a)に戻る。
図4,5の矢印に示すように、ロータ巻線30のd軸電流によるd軸磁束が、入力側ロータ28にとっては永久磁石33による界磁磁束と逆方向に振る舞うとともに、ステータ16にとっては永久磁石33による界磁磁束と同方向に振る舞う。そのため、永久磁石33により入力側ロータ28に作用する界磁磁束を弱めるように、ロータ巻線30のd軸電流によりd軸磁束を発生させることで、永久磁石33によりステータ16に作用する界磁磁束を強めることができる。また、永久磁石33により入力側ロータ28に作用する界磁磁束を強めるように、ロータ巻線30のd軸電流によりd軸磁束を発生させることで、永久磁石33によりステータ16に作用する界磁磁束を弱めることもできる。このように、ロータ巻線30のd軸電流によるd軸磁束は、軟磁性材53の内周面61と外周面62間を流れてステータ16に作用することで、ステータ巻線20への鎖交磁束に影響を与える。
【0048】
一方、ロータ巻線30にq軸電流が流れた場合におけるq軸磁束の流れを
図6に示す。
図6に示すように、ロータ巻線30のq軸電流によるq軸磁束は、入力側ロータ28(ティース52a)から軟磁性材53−1の内周面61−1に作用し、軟磁性材53−1を流れる。ただし、d軸磁束と比較して、軟磁性材53−1の外周面62−2からステータ16(ティース51a)に作用するq軸磁束は少なく、軟磁性材53−1を流れるq軸磁束の多くが、軟磁性材53−1の内周面61−1から入力側ロータ28(ティース52a)に戻る。軟磁性材53−2におけるq軸磁束の流れも、軟磁性材53−1と同様である。したがって、d軸磁束と比較して、ロータ巻線30のq軸電流によるq軸磁束がステータ巻線20への鎖交磁束に与える影響は少ない。
【0049】
また、ステータ巻線20にd軸電流が流れた場合におけるd軸磁束の流れを
図7に示す。
図7の矢印に示すように、ステータ巻線20のd軸電流によるd軸磁束は、ステータ16(ティース51a)から軟磁性材53−1の外周面62−1に作用し、軟磁性材53−1を外周面62−1から内周面61−1へ流れ、入力側ロータ28(ティース52a)に作用してロータ巻線30に鎖交する。さらに、入力側ロータ28を流れるd軸磁束は、ティース52aから軟磁性材53−2の内周面61−2に作用し、軟磁性材53−2を内周面61−2から外周面62−2へ流れ、ステータ16(ティース51a)に戻る。
図4,7の矢印に示すように、ステータ巻線20のd軸電流によるd軸磁束が、ステータ16にとっては永久磁石33による界磁磁束と逆方向に振る舞うとともに、入力側ロータ28にとっては永久磁石33による界磁磁束と同方向に振る舞う。そのため、永久磁石33によりステータ16に作用する界磁磁束を弱めるように、ステータ巻線20のd軸電流によりd軸磁束を発生させることで、永久磁石33により入力側ロータ28に作用する界磁磁束を強めることができる。また、永久磁石33によりステータ16に作用する界磁磁束を強めるように、ステータ巻線20のd軸電流によりd軸磁束を発生させることで、永久磁石33により入力側ロータ28に作用する界磁磁束を弱めることもできる。このように、ステータ巻線20のd軸電流によるd軸磁束は、軟磁性材53の外周面62と内周面61間を流れて入力側ロータ28に作用することで、ロータ巻線30への鎖交磁束に影響を与える。
【0050】
一方、ステータ巻線20にq軸電流が流れた場合におけるq軸磁束の流れを
図8に示す。
図8に示すように、ステータ巻線20のq軸電流によるq軸磁束は、ステータ16(ティース51a)から軟磁性材53−1の外周面62−1に作用し、軟磁性材53−1を流れる。ただし、d軸磁束と比較して、軟磁性材53−1の内周面61−1から入力側ロータ28(ティース52a)に作用するq軸磁束は少なく、軟磁性材53−1を流れるq軸磁束の多くが、軟磁性材53−1の外周面62−1からステータ16(ティース51a)に戻る。軟磁性材53−2におけるq軸磁束の流れも、軟磁性材53−1と同様である。したがって、d軸磁束と比較して、ステータ巻線20のq軸電流によるq軸磁束がロータ巻線30への鎖交磁束に与える影響は少ない。
【0051】
したがって、ロータ巻線30及びステータ巻線20に交流電流を流す場合は、ロータ巻線30のd軸電流成分によるd軸磁束成分が、入力側ロータ28に作用する永久磁石33による界磁磁束を弱めるとともに、ステータ16に作用する永久磁石33による界磁磁束を強めることができる。つまり、ロータ巻線30のd軸電流成分によるd軸磁束成分を、自身の弱め界磁磁束とするとともに、ステータ巻線20の強め界磁磁束とすることができる。この強め界磁磁束がステータ巻線20のq軸電流成分と相互作用することで、ステータ16と出力側ロータ18間に磁石トルクやリラクタンストルクとは別に追加のトルクが発生し、トルク増幅効果が得られる。その際には、従来の強め界磁制御と異なり、ロータ巻線30自身の弱め界磁を利用しているため、ロータ巻線30の逆起電圧を抑制しつつ、ステータ16と出力側ロータ18間のトルクT
outを増幅させることができる。
【0052】
同様に、ロータ巻線30及びステータ巻線20に交流電流を流す場合は、ステータ巻線20のd軸電流成分によるd軸磁束成分が、ステータ16に作用する永久磁石33による界磁磁束を弱めるとともに、入力側ロータ28に作用する永久磁石33による界磁磁束を強めることができる。つまり、ステータ巻線20のd軸電流成分によるd軸磁束成分を、自身の弱め界磁磁束とするとともに、ロータ巻線30の強め界磁磁束とすることができる。この強め界磁磁束がロータ巻線30のq軸電流成分と相互作用することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18間にも追加のトルクが発生し、トルク増幅効果が得られる。その際には、従来の強め界磁制御と異なり、ステータ巻線20自身の弱め界磁を利用しているため、ステータ巻線20の逆起電圧を抑制しつつ、入力側ロータ28と出力側ロータ18間のトルクT
inを増幅させることができる。したがって、ロータ巻線30及びステータ巻線20の逆起電圧を抑制しつつ、入力側ロータ28と出力側ロータ18間のトルクT
inと、ステータ16と出力側ロータ18間のトルクT
outが相互に強め合う相乗効果が得られる。その結果、永久磁石33の量を低減することができる。
【0053】
また、ロータ巻線30及びステータ巻線20に交流電流を流す場合は、ロータ巻線30のd軸電流成分によるd軸磁束成分が、入力側ロータ28に作用する永久磁石33による界磁磁束を強めるとともに、ステータ16に作用する永久磁石33による界磁磁束を弱めることもできる。これによって、ステータ巻線20の逆起電圧を抑制しつつ、入力側ロータ28と出力側ロータ18間のトルクT
inを増幅させることができる。同様に、ステータ巻線20のd軸電流成分によるd軸磁束成分が、ステータ16に作用する永久磁石33による界磁磁束を強めるとともに、入力側ロータ28に作用する永久磁石33による界磁磁束を弱めることもできる。これによって、ロータ巻線30の逆起電圧を抑制しつつ、ステータ16と出力側ロータ18間のトルクT
outを増幅させることができる。
【0054】
このように、回転電機10においては、ロータ巻線30の電流による磁束とステータ巻線20の電流による磁束が互いに磁気干渉し合い、ロータ巻線30の電流によりステータ巻線20への鎖交磁束を調整することができるとともに、ステータ巻線20の電流によりロータ巻線30への鎖交磁束を調整することができる。ロータ巻線30の電流による磁束とステータ巻線20の電流による磁束との磁気干渉を利用する場合、入力側ロータ28と出力側ロータ18間のトルクT
in、及びステータ16と出力側ロータ18間のトルクT
outをそれぞれ要求値にするためのロータ巻線30の電流I
inとステータ巻線20の電流I
outの組み合わせは無数に存在する。例えばT
in=0,T
out=90Nmを発生するI
in,I
outの組み合わせの関係を
図9に示す。
図9においては、ロータ巻線30の電流進角β
in=90°、ステータ巻線20の電流進角β
out=30°とし、横軸のI
in及び縦軸のI
outについては、I
in=0でT
out=90Nmを発生するI
out(磁気干渉を利用しない電流値)で割って正規化している。
図9に示すように、磁気干渉を利用することで、T
in=0,T
out=90Nmを発生するI
in,I
outの組み合わせが無数に存在することがわかる。
【0055】
回転電機10のロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを制御するための電子制御ユニット50の機能ブロック図の一例を
図10に示す。カップリングトルク指令値演算部135は、例えばアクセル開度A(車輪38の要求駆動力)と車速V(車輪38の回転速度)とに基づいて、入力側ロータ28と出力側ロータ18間に作用する電磁カップリングトルクの指令値T
in_refを演算する。MGトルク指令値演算部155は、例えばアクセル開度A(車輪38の要求駆動力)と、カップリングトルク指令値演算部135で演算された電磁カップリングトルク指令値T
in_refとに基づいて、ステータ16と出力側ロータ18間に作用するMGトルクの指令値T
out_refを演算する。
【0056】
電流指令値設定部136は、カップリングトルク指令値演算部135で演算された電磁カップリングトルク指令値T
in_refと、MGトルク指令値演算部155で演算されたMGトルク指令値T
out_refとに基づいて、ロータ巻線30のd軸電流指令値I
in_d_ref及びq軸電流指令値I
in_q_refと、ステータ巻線20のd軸電流指令値I
out_d_ref及びq軸電流指令値I
out_q_refとを設定する。モデル記憶部172は、ロータ巻線30の鎖交磁束Φ
in及びステータ巻線20の鎖交磁束Φ
outを演算するためのモデル式(物理式)を記憶する。前述のように、回転電機10においては、ロータ巻線30の電流I
inによる磁束とステータ巻線20の電流I
outによる磁束が互いに磁気干渉し合うため、ロータ巻線30の鎖交磁束Φ
inは、ロータ巻線30の電流I
inによって変化するだけでなく、ステータ巻線20の電流I
outによっても変化し、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outの関数となる。同様に、ステータ巻線20の鎖交磁束Φ
outも、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outの関数となる。そこで、モデル記憶部172は、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outに対するロータ巻線30の鎖交磁束Φ
inの関係を表す磁気干渉モデル(第1磁気干渉モデル)と、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outに対するステータ巻線20の鎖交磁束Φ
outの関係を表す磁気干渉モデル(第2磁気干渉モデル)とを記憶する。電流指令値設定部136は、モデル記憶部172に記憶された第1及び第2磁気干渉モデルを読み出し、設定された制約条件を満たし、回転電機10の性能に関わる評価関数fを最適化するためのロータ巻線30の電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref及びステータ巻線20の電流指令値I
out_d_ref,I
out_q_refを、第1及び第2磁気干渉モデルを用いて演算する。ここでの制約条件は、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outの少なくとも1つ以上を用いた条件を含み、ここでの評価関数fは、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outの関数であり、例えばロータ巻線30とステータ巻線20の温度差に応じた重み付けでロータ巻線30の発熱量とステータ巻線20の発熱量を加算した重み付け発熱量を表す関数とすることが可能である。その際に、ロータ巻線30の温度τ
inはロータ巻線温度センサ81により検出され、ステータ巻線20の温度τ
outはステータ巻線温度センサ82により検出される。
【0057】
ロータ巻線電流制御部140は、ロータ巻線30のd軸電流I
in_d及びq軸電流I
in_qが電流指令値設定部136で設定されたd軸電流指令値I
in_d_ref及びq軸電流指令値I
in_q_refにそれぞれ一致するように、インバータ41のスイッチング動作(インバータ41での電力変換)を制御する。ステータ巻線電流制御部160は、ステータ巻線20のd軸電流I
out_d及びq軸電流I
out_qが電流指令値設定部136で設定されたd軸電流指令値I
out_d_ref及びq軸電流指令値I
out_q_refにそれぞれ一致するように、インバータ40のスイッチング動作(インバータ40での電力変換)を制御する。これによって、入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクT
inがトルク指令値T
in_refに一致するように制御されるとともに、ステータ16と出力側ロータ18間のMGトルクT
outがトルク指令値T
out_refに一致するように制御される。
【0058】
回転電機10において、入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクT
inは以下の(1)式で表され、ステータ16と出力側ロータ18間のMGトルクT
outは以下の(2)式で表され、ロータ巻線30の電圧V
inは以下の(3)式で表され、ステータ巻線20の電圧V
outは以下の(4)式で表され、ロータ巻線30の電流I
inは以下の(5)式で表され、ステータ巻線20の電流I
outは以下の(6)式で表される。そして、ロータ巻線30及びステータ巻線20の重み付け発熱量を表す評価関数fは、以下の(7)式で表される。(1)〜(7)式において、I
in_dはロータ巻線30のd軸電流、I
in_qはロータ巻線30のq軸電流、I
out_dはステータ巻線20のd軸電流、I
out_qはステータ巻線20のq軸電流、Φ
in_dはロータ巻線30のd軸鎖交磁束、Φ
in_qはロータ巻線30のq軸鎖交磁束、Φ
out_dはステータ巻線20のd軸鎖交磁束、Φ
out_qはステータ巻線20のq軸鎖交磁束、R
inはロータ巻線30の相抵抗、R
outはステータ巻線20の相抵抗、P
inは入力側ロータ28及び出力側ロータ18による誘導電磁カップリング部の極数、P
outはステータ16及び出力側ロータ18によるPMモータ部の極数、ω
inは入力側ロータ28の回転角速度、ω
outは出力側ロータ18の回転角速度である。(7)式において、α,1−αは、0≦α≦1を満たす重み係数であり、ステータ巻線20とロータ巻線30の温度差τ
out−τ
inに応じて設定される。
【0060】
第1磁気干渉モデルにおいて、ロータ巻線30のd軸鎖交磁束Φ
in_d(d軸鎖交磁束に関わるモデル)は、I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_qの関数である以下の(8)式で表すことが可能である。
【0062】
(8)式の右辺の分子において、C
d2はd軸の磁気干渉の度合いを表す係数、f
m’2は永久磁石33の起磁力によるd軸起磁力である。(I
in_d−C
d2*I
out_d−f
m’2)は、I
in_dとI
out_dを設定比率1:C
d2で合成したd軸起磁力に関わるモデル式であり、I
in_dによる起磁力とI
out_dによる起磁力との磁気干渉を考慮した、入力側ロータ28に作用するd軸の起磁力総和を表す。そして、L
dは誘導電磁カップリング部のd軸インダクタンス(I
in_d=I
out_d=0)、L
ddは誘導電磁カップリング部のd軸インダクタンスのI
out_dによる変化率を表し、(L
d+L
dd*|I
out_d|)は、誘導電磁カップリング部の無負荷時(I
in_d=0)のd軸インダクタンスを表す。したがって、(8)式の右辺の分子は、d軸の起磁力総和と誘導電磁カップリング部の無負荷時のd軸インダクタンスとの積に相当し、d軸磁気回路に磁気飽和が発生しない場合において、I
in_dによる磁束とI
out_dによる磁束との磁気干渉を考慮したロータ巻線30のd軸鎖交磁束を表す。
【0063】
一方、(8)式の右辺の分母において、C
d1はd軸の磁気干渉の度合いを表す係数、f
m’1は永久磁石33の起磁力によるd軸起磁力、kddは誘導電磁カップリング部固有の定数であり、|I
in_d−C
d1*I
out_d−f
m’1|は、d軸の起磁力総和の大きさを表す。そして、M
ddはd軸磁気回路の飽和係数、M
dddはd軸磁気回路の飽和係数のI
out_dによる変化率を表し、(M
dd+M
ddd*|I
out_d|)は、I
out_dによるd軸の磁気飽和度合いを表す係数に相当する。したがって、(M
dd+M
ddd*|I
out_d|)*|I
in_d−C
d1*I
out_d−f
m’1|
kddは、d軸起磁力に起因する磁気飽和によるd軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、d軸起磁力によるd軸の磁気飽和度に相当する。また、C
q1はq軸の磁気干渉の度合いを表す係数、kdqは誘導電磁カップリング部固有の定数であり、|I
in_q+C
q1*I
out_q|は、I
in_qによる起磁力とI
out_qによる起磁力との磁気干渉を考慮したq軸の起磁力総和の大きさを表す。そして、M
dqはq軸磁気回路の飽和係数、M
dqdはq軸磁気回路の飽和係数のI
out_dによる変化率を表し、(M
dq+M
dqd*|I
out_d|)は、I
out_dによるq軸の磁気飽和度合いを表す係数に相当する。したがって、(M
dq+M
dqd*|I
out_d|)*|I
in_q+C
q1*I
out_q|
kdqは、q軸起磁力に起因する磁気飽和によるd軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、q軸起磁力によるd軸の磁気飽和度に相当する。そして、(8)式の右辺の分母は、磁気飽和によるd軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、d軸及びq軸起磁力によるd軸の磁気飽和度に相当する。その結果、(8)式は、d軸磁気回路に磁気飽和が発生する場合において、I
in_dによる磁束とI
out_dによる磁束との磁気干渉を考慮したロータ巻線30のd軸鎖交磁束を表す。
【0064】
なお、(8)式の右辺の分母におけるf
m’1は、q軸電流起因の磁束によるd軸磁気回路の磁気飽和によってd軸起磁力が変化するため、q軸電流I
in_q,I
out_qの関数である以下の(9)式で表すことが可能である。同様に、(8)式の右辺の分子におけるf
m’2も、q軸電流I
in_q,I
out_qの関数である以下の(10)式で表すことが可能である。(9)、(10)式において、C
11,C
12,C
13,C
21,C
22,C
23は磁気干渉の度合いを表す係数であり、f
m’1,f
m’2は、q軸の起磁力総和を表す(I
in_q+C
q1*I
out_q)の指数関数となる。
【0066】
また、第1磁気干渉モデルにおいて、ロータ巻線30のq軸鎖交磁束Φ
in_q(q軸鎖交磁束に関わるモデル)は、I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_qの関数である以下の(11)式で表すことが可能である。
【0068】
(11)式の右辺の分子において、f
m’3は、I
out_qによる起磁力がI
in_qによる起磁力に磁気干渉する度合いを表し、永久磁石33の起磁力による影響を表す。(I
in_q−I
out_q*f
m’3)は、I
in_qとI
out_qを設定比率1:f
m’3で合成したq軸起磁力に関わるモデル式であり、I
in_qによる起磁力とI
out_qによる起磁力との磁気干渉を考慮した、入力側ロータ28に作用するq軸の起磁力総和を表す。そして、L
qは誘導電磁カップリング部のq軸インダクタンス(I
in_q=I
out_q=0)、L
qqは誘導電磁カップリング部のq軸インダクタンスのI
out_qによる変化率を表し、(L
q+L
qq*|I
out_q|)は、誘導電磁カップリング部の無負荷時(I
in_q=0)のq軸インダクタンスを表す。したがって、(11)式の右辺の分子は、q軸の起磁力総和と誘導電磁カップリング部の無負荷時のq軸インダクタンスとの積に相当し、q軸磁気回路に磁気飽和が発生しない場合において、I
in_qによる磁束とI
out_qによる磁束との磁気干渉を考慮したロータ巻線30のq軸鎖交磁束を表す。
【0069】
一方、(11)式の右辺の分母において、C
d3はd軸の磁気干渉の度合いを表す係数、f
0は永久磁石33の起磁力によるd軸起磁力、kqdは誘導電磁カップリング部固有の定数であり、|I
in_d+C
d3*I
out_d−f
0|は、d軸の起磁力総和の大きさを表す。そして、M
qdはd軸磁気回路の飽和係数、M
qdqはd軸磁気回路の飽和係数のI
out_qによる変化率を表し、(M
qd+M
qdq*|I
out_q|)は、I
out_qによるd軸の磁気飽和度合いを表す係数に相当する。したがって、(M
qd+M
qdq*|I
out_q|)*|I
in_d+C
d3*I
out_d−f
0|
kqdは、d軸起磁力に起因する磁気飽和によるq軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、d軸起磁力によるq軸の磁気飽和度に相当する。また、C
q3,C
q30はq軸の磁気干渉の度合いを表す係数、kqqは誘導電磁カップリング部固有の定数であり、|I
in_q+(C
q30+C
q3*|I
out_q|)*I
out_q|は、d軸の起磁力総和の大きさを表す。そして、M
qqはq軸磁気回路の飽和係数、M
qqqはq軸磁気回路の飽和係数のI
out_qによる変化率を表し、(M
qq+M
qqq*|I
out_q|)は、I
out_qによるq軸の磁気飽和度合いを表す係数に相当する。したがって、(M
qq+M
qqq*|I
out_q|)*|I
in_q+(C
q30+C
q3*|I
out_q|)*I
out_q|
kqqは、q軸起磁力に起因する磁気飽和によるq軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、q軸起磁力によるq軸の磁気飽和度に相当する。そして、(11)式の右辺の分母は、磁気飽和によるq軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、d軸及びq軸起磁力によるq軸の磁気飽和度に相当する。その結果、(11)式は、q軸磁気回路に磁気飽和が発生する場合において、I
in_qによる磁束とI
out_qによる磁束との磁気干渉を考慮したロータ巻線30のq軸鎖交磁束を表す。
【0070】
なお、(11)式の右辺の分母におけるf
0は、q軸電流起因の磁束によるd軸磁気回路の磁気飽和によってd軸起磁力が変化するため、q軸電流I
in_q,I
out_qの関数である以下の(12)式で表すことが可能である。(12)式において、C
o10,C
o1,C
o20,C
o2,C
o30,C
o3,C
q40,C
q4は磁気干渉の度合いを表す係数である。一方、(11)式の右辺の分子におけるf
m’3は、d軸電流起因の磁束によるq軸磁気回路の磁気飽和によってq軸起磁力が変化するため、d軸電流I
in_d,I
out_dの関数である以下の(13)式で表すことが可能である。(13)式において、C
31,C
32,C
33,C
34,C
d4は磁気干渉の度合いを表す係数である。
【0072】
同様に、第2磁気干渉モデルにおいて、ステータ巻線20のd軸鎖交磁束Φ
out_d(d軸鎖交磁束に関わるモデル)は、I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_qの関数である以下の(14)式で表すことが可能である。
【0074】
(14)式の右辺の分子において、(I
out_d−C
d2*I
in_d−f
m’2)は、I
out_dとI
in_dを設定比率1:C
d2で合成したd軸起磁力に関わるモデル式であり、I
out_dによる起磁力とI
in_dによる起磁力との磁気干渉を考慮した、ステータ16に作用するd軸の起磁力総和を表す。そして、L
dはPMモータ部のd軸インダクタンス(I
out_d=I
in_d=0)、L
ddはPMモータ部のd軸インダクタンスのI
in_dによる変化率を表し、(L
d+L
dd*|I
in_d|)は、PMモータ部の無負荷時(I
out_d=0)のd軸インダクタンスを表す。したがって、(14)式の右辺の分子は、d軸磁気回路に磁気飽和が発生しない場合において、I
out_dによる磁束とI
in_dによる磁束との磁気干渉を考慮したステータ巻線20のd軸鎖交磁束を表す。
【0075】
一方、(14)式の右辺の分母において、kddはPMモータ部固有の定数であり、|I
out_d−C
d1*I
in_d−f
m’1|は、d軸の起磁力総和の大きさを表す。そして、M
ddはd軸磁気回路の飽和係数、M
dddはd軸磁気回路の飽和係数のI
in_dによる変化率を表し、(M
dd+M
ddd*|I
in_d|)は、I
in_dによるd軸の磁気飽和度合いを表す係数に相当する。したがって、(M
dd+M
ddd*|I
in_d|)*|I
out_d−C
d1*I
in_d−f
m’1|
kddは、d軸起磁力に起因する磁気飽和によるd軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、d軸起磁力によるd軸の磁気飽和度に相当する。また、kdqはPMモータ部固有の定数であり、|I
out_q+C
q1*I
in_q|は、I
out_qによる起磁力とI
in_qによる起磁力との磁気干渉を考慮したq軸の起磁力総和の大きさを表す。そして、M
dqはq軸磁気回路の飽和係数、M
dqdはq軸磁気回路の飽和係数のI
in_dによる変化率を表し、(M
dq+M
dqd*|I
in_d|)は、I
in_dによるq軸の磁気飽和度合いを表す係数に相当する。したがって、(M
dq+M
dqd*|I
in_d|)*|I
out_q+C
q1*I
in_q|
kdqは、q軸起磁力に起因する磁気飽和によるd軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、q軸起磁力によるd軸の磁気飽和度に相当する。そして、(14)式の右辺の分母は、磁気飽和によるd軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、d軸及びq軸起磁力によるd軸の磁気飽和度に相当する。その結果、(14)式は、d軸磁気回路に磁気飽和が発生する場合において、I
out_dによる磁束とI
in_dによる磁束との磁気干渉を考慮したステータ巻線20のd軸鎖交磁束を表す。
【0076】
なお、(14)式の右辺の分母におけるf
m’1は、q軸電流起因の磁束によるd軸磁気回路の磁気飽和によってd軸起磁力が変化するため、q軸電流I
in_q,I
out_qの関数である以下の(15)式で表すことが可能である。同様に、(14)式の右辺の分子におけるf
m’2も、q軸電流I
in_q,I
out_qの関数である以下の(16)式で表すことが可能である。(15)、(16)式において、f
m’1,f
m’2は、q軸の起磁力総和を表す(I
out_q+C
q1*I
in_q)の関数となる。
【0078】
同様に、第2磁気干渉モデルにおいて、ステータ巻線20のq軸鎖交磁束Φ
out_q(q軸鎖交磁束に関わるモデル)は、I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_qの関数である以下の(17)式で表すことが可能である。
【0080】
(17)式の右辺の分子において、f
m’3は、I
in_qによる起磁力がI
out_qによる起磁力に磁気干渉する度合いを表し、永久磁石33の起磁力による影響を表す。(I
out_q−I
in_q*f
m’3)は、I
out_qとI
in_qを設定比率1:f
m’3で合成したq軸起磁力に関わるモデル式であり、I
out_qによる起磁力とI
in_qによる起磁力との磁気干渉を考慮した、ステータ16に作用するq軸の起磁力総和を表す。そして、L
qはPMモータ部のq軸インダクタンス(I
out_q=I
in_q=0)、L
qqはPMモータ部のq軸インダクタンスのI
in_qによる変化率を表し、(L
q+L
qq*|I
in_q|)は、PMモータ部の無負荷時(I
out_q=0)のq軸インダクタンスを表す。したがって、(17)式の右辺の分子は、q軸磁気回路に磁気飽和が発生しない場合において、I
out_qによる磁束とI
in_qによる磁束との磁気干渉を考慮したステータ巻線20のq軸鎖交磁束を表す。
【0081】
一方、(17)式の右辺の分母において、kqdはPMモータ部固有の定数であり、|I
out_d+C
d3*I
in_d−f
0|は、d軸の起磁力総和の大きさを表す。そして、M
qdはd軸磁気回路の飽和係数、M
qdqはd軸磁気回路の飽和係数のI
in_qによる変化率を表し、(M
qd+M
qdq*|I
in_q|)は、I
in_qによるd軸の磁気飽和度合いを表す係数に相当する。したがって、(M
qd+M
qdq*|I
in_q|)*|I
out_d+C
d3*I
in_d−f
0|
kqdは、d軸起磁力に起因する磁気飽和によるq軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、d軸起磁力によるq軸の磁気飽和度に相当する。また、kqqはPMモータ部固有の定数であり、|I
out_q+(C
q30+C
q3*|I
in_q|)*I
in_q|は、d軸の起磁力総和の大きさを表す。そして、M
qqはq軸磁気回路の飽和係数、M
qqqはq軸磁気回路の飽和係数のI
in_qによる変化率を表し、(M
qq+M
qqq*|I
in_q|)は、I
in_qによるq軸の磁気飽和度合いを表す係数に相当する。したがって、(M
qq+M
qqq*|I
in_q|)*|I
out_q+(C
q30+C
q3*|I
in_q|)*I
in_q|
kqqは、q軸起磁力に起因する磁気飽和によるq軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、q軸起磁力によるq軸の磁気飽和度に相当する。そして、(17)式の右辺の分母は、磁気飽和によるq軸鎖交磁束変化の度合いを表すモデル式であり、d軸及びq軸起磁力によるq軸の磁気飽和度に相当する。その結果、(17)式は、q軸磁気回路に磁気飽和が発生する場合において、I
out_qによる磁束とI
in_qによる磁束との磁気干渉を考慮したステータ巻線20のq軸鎖交磁束を表す。
【0082】
なお、(17)式の右辺の分母におけるf
0は、q軸電流起因の磁束によるd軸磁気回路の磁気飽和によってd軸起磁力が変化するため、q軸電流I
in_q,I
out_qの関数である以下の(18)式で表すことが可能である。一方、(17)式の右辺の分子におけるf
m’3は、d軸電流起因の磁束によるq軸磁気回路の磁気飽和によってq軸起磁力が変化するため、d軸電流I
in_d,I
out_dの関数である以下の(19)式で表すことが可能である。
【0084】
電子制御ユニット50により実行される処理の一例を
図11のフローチャートに示す。
図11のフローチャートの処理は、所定時間毎に繰り返し実行され、αの初期値としては、例えば0.5とすることが可能である。
【0085】
ステップS101では、トルク指令値(T
in_ref,T
out_ref)の組み合わせが設定される。ステップS102では、制約条件としてトルクT
inがトルク指令値(第1トルク指令値)T
in_refに等しく(T
in=T
in_ref)、且つトルクT
outがトルク指令値(第2トルク指令値)T
out_refに等しい(T
out=T
out_ref)条件が電流指令値設定部136で設定される。T
inは(8)式のΦ
in_d及び(11)式のΦ
in_q(第1磁気干渉モデル)を(1)式に代入することで得られ、T
outは(14)式のΦ
out_d及び(17)式のΦ
out_q(第2磁気干渉モデル)を(2)式に代入することで得られ、T
in,T
outはI=(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)の関数となる。
【0086】
ステップS103では、ステップS102で設定された制約条件を満たす範囲内で、ロータ巻線30及びステータ巻線20の重み付け発熱量を表す評価関数fを最小にする電流(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)の組み合わせが電流指令値設定部136で演算される。評価関数fは、ロータ巻線30の銅損による発熱量R
in*(I
in_d2+I
in_q2)とステータ巻線20の銅損による発熱量R
out*(I
out_d2+I
out_q2)をα:1−αの重み付けで加算した(7)式で表され、I=(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)の関数となる。電流指令値設定部136では、制約条件を満たす範囲内でI
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_qの値を変化させながら、評価関数fの値を算出する処理を繰り返すことで、評価関数fを最小にする電流(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)の組み合わせを探索する。その際に、評価関数fを最小化する電流を探索するアルゴリズムについては、公知技術を利用可能であるため詳細な説明を省略する。例えばT
in=T
in_ref=0、且つT
out=T
out_ref=90Nmの制約条件において、ロータ巻線30の電流I
inに対するロータ巻線30の発熱量及びステータ巻線20の発熱量の関係を
図12A,12Bに示す。
図12A,12Bにおいても、横軸のI
inについては、I
in=0でT
out=90Nmを発生するI
out(磁気干渉を利用しない電流値)で割って正規化している。
図12A,12Bの例では、I
in=0.6の場合に評価関数fが最小となる。
【0087】
ステップS104では、巻線温度上限値τ
limitとロータ巻線30の温度τ
inとの差e
in(=τ
limit−τ
in)、及び巻線温度上限値τ
limitとステータ巻線20の温度τ
outとの差e
out(=τ
limit−τ
out)が電流指令値設定部136で算出される。ステップS105では、e
in=e
out=0が成立するか否かが電流指令値設定部136で判定され、e
in=e
out=0が成立する場合はステップS110に進み、e
in=e
out=0が成立しない場合はステップS106に進む。ステップS106では、e
in>e
outが成立するか否かが電流指令値設定部136で判定される。e
in>e
outが成立する場合は、ステップS107において、αの値を減少させる処理が電流指令値設定部136で行われる。例えば(e
in−e
out)/e
outだけαの値を減少させる。一方、e
in>e
outが成立しない場合は、ステップS108において、αの値を増加させる処理が電流指令値設定部136で行われる。例えば(e
out−e
in)/e
outだけαの値を増加させる。
【0088】
ステップS109では、ステップS103で演算された電流(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)の組み合わせが電流指令値(I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_ref)の組み合わせとして電流指令値設定部136で決定される。ロータ巻線電流制御部140及びステータ巻線電流制御部160では、電流指令値設定部136で演算されたロータ巻線30の電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref及びステータ巻線20の電流指令値I
out_d_ref,I
out_q_refを基に、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outがそれぞれ制御される。これによって、トルクT
in,T
outがトルク指令値T
in_ref,T
out_refにそれぞれ追従するとともに、ロータ巻線30及びステータ巻線20の重み付け発熱量を表す評価関数fが最小になるように、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outが制御される。一方、ステップS110では、ロータ巻線30の温度τ
in及びステータ巻線20の温度τ
outが巻線温度上限値τ
limitを超えないように、I
in_d_ref=I
in_q_ref=I
out_d_ref=I
out_q_ref=0が電流指令値設定部136で設定され、ロータ巻線30及びステータ巻線20の電流停止が行われる。
【0089】
なお、電流指令値設定部136で決定される電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refとしては、必ずしも評価関数fが最小になる電流I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_qとする必要はない。例えば、評価関数fが最小になる電流I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_qに対し若干大きい(あるいは若干小さい)値を電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refとして設定することも可能である。
【0090】
図11のフローチャートの処理によれば、e
in>e
out(τ
in<τ
out)のときは、αの値を減少させる(1−αの値を増加させる)ことで、評価関数fにおいて、ロータ巻線30の発熱量の重み付けが減少し、ステータ巻線20の発熱量の重み付けが増加する。そのため、ステータ巻線20の温度τ
outが先に巻線温度上限値τ
limitに達しそうなときは、T
in=T
in_ref、且つT
out=T
out_refを達成するステータ巻線20の電流I
outが減少して発熱量が減少するとともにロータ巻線30の電流I
inが増加して発熱量が増加することで、ステータ巻線20とロータ巻線30の温度差τ
out−τ
inが減少する。一方、e
in<e
out(τ
in>τ
out)のときは、αの値を増加させる(1−αの値を減少させる)ことで、評価関数fにおいて、ロータ巻線30の発熱量の重み付けが増加し、ステータ巻線20の発熱量の重み付けが減少する。そのため、ロータ巻線30の温度τ
inが先に巻線温度上限値τ
limitに達しそうなときは、T
in=T
in_ref、且つT
out=T
out_refを達成するロータ巻線30の電流I
inが減少して発熱量が減少するとともにステータ巻線20の電流I
outが増加して発熱量が増加することで、ロータ巻線30とステータ巻線20の温度差τ
in−τ
outが減少する。このように、ロータ巻線30とステータ巻線20の発熱状況に応じてロータ巻線30の電流I
inとステータ巻線20の電流I
outの配分を変化させることで、ロータ巻線30の温度τ
inとステータ巻線20の温度τ
outの均等化を図りつつ、トルクT
in,T
outをトルク指令値T
in_ref,T
out_refにそれぞれ追従させることができる。
【0091】
前述のように、回転電機10においては、ロータ巻線30の電流I
inによる磁束とステータ巻線20の電流I
outによる磁束との磁気干渉を利用することで、トルクT
in,T
outをトルク指令値T
in_ref,T
out_refにそれぞれ一致させるための電流(I
in,I
out)の組み合わせは無数に存在する。これに対して本実施形態では、無数の組み合わせの中から、ロータ巻線30及びステータ巻線20の重み付け発熱量を表す評価関数fを最小化(あるいはほぼ最小化)する電流指令値(I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_ref)の組み合わせを第1及び第2磁気干渉モデルを利用して選択することができる。この電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基にロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを制御することで、磁気干渉を利用しない場合と比較して、ロータ巻線30及びステータ巻線20の発熱量を抑制することができる。さらに、評価関数fにおいては、ロータ巻線30及びステータ巻線20のうち、温度が高い巻線の発熱量の重み付けを増加させる(温度が低い巻線の発熱量の重み付けを減少させる)ことで、温度が高い巻線の電流の配分を減少させる(温度が低い巻線の電流の配分を増加させる)ことができ、ロータ巻線30とステータ巻線20の温度差を低減することができる。その結果、ロータ巻線30の温度τ
in及びステータ巻線20の温度τ
outのいずれかが巻線温度上限値τ
limitに達するまでの時間を長くすることができ、回転電機10の電流時間定格を延長することができ、回転電機10の性能を向上させることができる。
【0092】
例えばT
in=T
in_ref=0、且つT
out=T
out_ref≠0のときに、磁気干渉を利用しない場合は、ロータ巻線30及びステータ巻線20のうち、ステータ巻線20だけに電流I
outを流してステータ16と出力側ロータ18間にトルクT
outを発生させる。ただし、その場合は、ステータ巻線20の電流I
outが増加して発熱量が大きくなるため、例えば
図13の破線に示すように、ステータ巻線20の温度τ
outが大きく上昇して短時間で巻線温度上限値τ
limitに達する。その結果、T
out=T
out_refのトルクを発生可能な時間が短くなる。これに対して本実施形態では、T
in=T
in_ref=0、且つT
out=T
out_ref≠0のときに、磁気干渉を利用して、温度が高い巻線の電流の配分を減少させるようロータ巻線30及びステータ巻線20の両方に電流I
in,I
outを流すことで、ステータ16と出力側ロータ18間にトルクT
outを発生させる。これによって、磁気干渉を利用しない場合と比較して、ロータ巻線30及びステータ巻線20の電流I
in,I
outが減少して発熱量が小さくなり、例えば
図13の実線に示すように、ロータ巻線30の温度τ
in及びステータ巻線20の温度τ
outのいずれかが巻線温度上限値τ
limitに達するまでの時間が長くなる。その結果、T
out=T
out_refのトルクを発生可能な時間を延長することができる。同様に、T
in=T
in_ref≠0、且つT
out=T
out_ref=0のときにも、磁気干渉を利用して、温度が高い巻線の電流の配分を減少させるようロータ巻線30及びステータ巻線20の両方に電流I
in,I
outを流すことで、磁気干渉を利用しない場合と比較して、T
in=T
in_refのトルクを発生可能な時間を延長することができる。
【0093】
また、
図11のフローチャートのステップS102で設定される制約条件としては、T
in=T
in_ref、且つT
out=T
out_refの他に、ロータ巻線30の電圧V
inが制限値(第1制限値)V
in_limit以下である条件、ステータ巻線20の電圧V
outが制限値(第2制限値)V
out_limit以下である条件、ロータ巻線30の電流I
inが制限値(第3制限値)I
in_limit以下である条件、及びステータ巻線20の電流I
outが制限値(第4制限値)I
out_limit以下である条件の少なくとも1つ以上を追加することも可能である。例えば制約条件として、V
in≦V
in_limit、且つV
out≦V
out_limitの条件を追加することも可能である。V
inは、(8)式のΦ
in_d及び(11)式のΦ
in_q(第1磁気干渉モデル)を(3)式に代入することで得られ、I=(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)及びω
in,ω
outの関数となり、V
outは、(14)式のΦ
out_d及び(17)式のΦ
out_q(第2磁気干渉モデル)を(2)式に代入することで得られ、I及びω
outの関数となる。ω
in,ω
outについては、回転角速度センサによる検出値をそれぞれ用い、制限値V
in_limit,V
out_limitについては、例えば蓄電装置42の電圧より小さい値に設定される。V
in≦V
in_limit、且つV
out≦V
out_limitの制約条件を追加することで、ロータ巻線30の逆起電圧及びステータ巻線20の逆起電圧を抑制しつつ、回転電機10の電流時間定格を延長することができる。
【0094】
また、制約条件として、I
in≦I
in_limit、且つI
out≦I
out_limitの条件を追加することも可能である。I
inはI
in_d,I
in_qの関数である(5)式で表され、I
outはI
out_d,I
out_qの関数である(6)式で表される。制限値I
in_limitについては、例えばインバータ41の容量より小さい値に設定され、制限値I
out_limitについては、例えばインバータ40の容量より小さい値に設定される。I
in≦I
in_limit、且つI
out≦I
out_limitの制約条件を追加することで、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを抑制しつつ、回転電機10の電流時間定格を延長することができる。
【0095】
また、制約条件として、V
in≦V
in_limit、且つI
in≦I
in_limitの条件を追加することも可能であり、これによって、ロータ巻線30の逆起電圧及び電流I
inを抑制しつつ、回転電機10の電流時間定格を延長することができる。また、制約条件として、V
out≦V
out_limit、且つI
out≦I
out_limitの条件を追加することも可能であり、これによって、ステータ巻線20の逆起電圧及び電流I
outを抑制しつつ、回転電機10の電流時間定格を延長することができる。
【0096】
また、ロータ巻線30及びステータ巻線20の重み付け発熱量を表す(7)式の評価関数fにおいて、ロータ巻線30の温度τ
in及びステータ巻線20の温度τ
outに応じてロータ巻線30の相抵抗R
in及びステータ巻線20の相抵抗R
outをそれぞれ変化させることも可能である。その場合、電流指令値設定部136では、ロータ巻線温度センサ81で検出されたロータ巻線30の温度τ
inからロータ巻線30の相抵抗R
inを設定し、ステータ巻線温度センサ82で検出されたステータ巻線20の温度τ
outからステータ巻線20の相抵抗R
outを設定する。そして、温度τ
in,τ
outから設定された相抵抗R
in,R
outを用いて評価関数fの値を算出する。この構成例によれば、ロータ巻線30の温度τ
in及びステータ巻線20の温度τ
outに応じて変化する、ロータ巻線30及びステータ巻線20の重み付け発熱量を表す評価関数fをより精度よく最小化することが可能となり、回転電機10の電流時間定格をさらに延長することができる。
【0097】
なお、
図11のフローチャートのステップS103で用いられる回転電機10の性能に関わる評価関数fについては、上記に説明したものに限られるものではなく、様々な関数を用いることが可能である。例えばロータ巻線30及びステータ巻線20の発熱量については、銅損による発熱量に加え、鉄損によるコアの発熱が巻線への伝導する影響も考慮することが可能であり、その場合において、ロータ巻線30及びステータ巻線20の重み付け発熱量を表す評価関数fは、以下の(20)式で表すことが可能である。(20)式において、Rc
inは誘導電磁カップリング部の等価鉄損抵抗、Rc
outはPMモータ部の等価鉄損抵抗である。
【0099】
(20)式において、(ω
in−ω
out)
2*(Φ
in_d2+Φ
in_q2)/Rc
inは鉄損によるロータ巻線30の発熱量を表し、ω
out2*(Φ
out_d2+Φ
out_q2)/Rc
outは鉄損によるステータ巻線20の発熱量を表す。(20)式の評価関数fは、銅損及び鉄損によるロータ巻線30の発熱量と、銅損及び鉄損によるステータ巻線20の発熱量とをα:1−αの重み付けで加算した式で表される。(8)式のΦ
in_d及び(11)式のΦ
in_q(第1磁気干渉モデル)と、(14)式のΦ
out_d及び(17)式のΦ
out_q(第2磁気干渉モデル)とを(20)式に代入することで、評価関数fは、I=(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)及びω
in,ω
outの関数となる。
【0100】
その場合、ステップS103では、制約条件を満たす範囲内で、この評価関数fを最小化(あるいはほぼ最小化)する電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを第1及び第2磁気干渉モデルを用いて演算する。その際の制約条件としては、T
in=T
in_ref、且つT
out=T
out_refの条件を用い、さらに、前述した条件のいずれかを追加することも可能である。この電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基にロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを制御することで、銅損及び鉄損によるロータ巻線30及びステータ巻線20の発熱量を抑制することができる。さらに、この評価関数fにおいても、ステップS104〜S108に従ってαの値を変化させて、ロータ巻線30及びステータ巻線20のうち、温度が高い巻線の発熱量の重み付けを増加させることで、温度が高い巻線の電流の配分を減少させることができる。その結果、銅損による発熱及び鉄損による発熱の両方を考慮して、ロータ巻線30とステータ巻線20の温度差をさらに低減することができ、ロータ巻線30の温度τ
in及びステータ巻線20の温度τ
outのいずれかが巻線温度上限値τ
limitに達するまでの時間をさらに長くすることができる。
【0101】
また、評価関数fとして、回転電機10の銅損及び鉄損による総合損失を表す関数を用いることも可能である。その場合の評価関数fは、以下の(21)式で表すことが可能である。(21)式において、R
in*(I
in_d2+I
in_q2)はロータ巻線30の銅損を表し、R
out*(I
out_d2+I
out_q2)はステータ巻線20の銅損を表し、(ω
in−ω
out)
2*(Φ
in_d2+Φ
in_q2)/Rc
inは誘導電磁カップリング部の鉄損を表し、ω
out2*(Φ
out_d2+Φ
out_q2)/Rc
outはPMモータ部の鉄損を表す。(21)式の評価関数fは、これらの銅損と鉄損を加算した式で表され、(8)式のΦ
in_d及び(11)式のΦ
in_qと、(14)式のΦ
out_d及び(17)式のΦ
out_qとを(21)式に代入することで、I及びω
in,ω
outの関数となる。
【0103】
その場合、電流指令値設定部136は、制約条件を満たす範囲内で、回転電機10の銅損及び鉄損による総合損失を表す評価関数fを最小化(あるいはほぼ最小化)する電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを第1及び第2磁気干渉モデルを用いて演算する。その際の制約条件としては、T
in=T
in_ref、且つT
out=T
out_refの条件を用い、さらに、前述した条件のいずれかを追加することも可能である。また、
図11のフローチャートにおいて、ステップS104〜S108,S110による処理は省略する。この電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基にロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを制御することで、磁気干渉を利用しない場合と比較して、回転電機10の力率を向上させることができ、回転電機10の銅損及び鉄損による総合損失を低減することができ、回転電機10の性能を向上させることができる。なお、回転電機10の銅損及び鉄損による総合損失を表す評価関数fにおいても、ロータ巻線30の温度τ
in及びステータ巻線20の温度τ
outに応じてロータ巻線30の相抵抗R
in及びステータ巻線20の相抵抗R
outをそれぞれ変化させることが可能である。
【0104】
また、評価関数fとして、トルクT
inとトルクT
outを所定の重み付けで加算した重み付けトルクを表す関数とすることも可能である。その場合の評価関数fは、以下の(22)式で表すことが可能である。(22)式において、W
in,W
outは重み係数であり、(22)式の評価関数fは、トルクT
inとトルクT
outをW
in:W
outの重み付けで加算した式で表される。前述のように、T
in,T
outはI=(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)の関数であるため、評価関数fもIの関数となる。
【0105】
f=W
in×T
in+W
out×T
out (22)
【0106】
その場合、電流指令値設定部136は、制約条件を満たす範囲内で、重み付けトルクを表す評価関数fを最大(あるいはほぼ最大)にする電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを第1及び第2磁気干渉モデルを用いて演算する。その際の制約条件としては、例えばV
in≦V
in_limit、且つV
out≦V
out_limitの条件とすることが可能である。評価関数fを最大化する電流を探索するアルゴリズムについても、公知技術を利用可能であるため詳細な説明を省略する。この電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基にロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを制御することで、磁気干渉を利用しない場合と比較して、出力側ロータ18に発生可能なトルクを増加させることができ、回転電機10の性能を向上させることができる。その際には、V
in≦V
in_limit、且つV
out≦V
out_limitの制約条件とすることで、ロータ巻線30の逆起電圧及びステータ巻線20の逆起電圧を抑制することができる。また、I
in≦I
in_limit、且つI
out≦I
out_limitの制約条件とすることも可能であり、これによって、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを抑制することができる。さらに、V
in≦V
in_limit、V
out≦V
out_limit、I
in≦I
in_limit、且つI
out≦I
out_limitの制約条件とすることも可能である。
【0107】
また、評価関数fとしてトルクT
outを用いることも可能である。その場合の評価関数f=T
outは、I=(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)の関数となる。電流指令値設定部136は、制約条件を満たす範囲内で、評価関数f=T
outを最大(あるいはほぼ最大)にする電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを第1及び第2磁気干渉モデルを用いて演算する。その際の制約条件としては、例えばT
in=T
in_refの条件とすることが可能であり、さらに、V
in≦V
in_limit、V
out≦V
out_limit、I
in≦I
in_limit、及びI
out≦I
out_limitの少なくとも1つ以上の条件を追加することも可能である。例えばV
out≦V
out_limitの条件や、I
out≦I
out_limitの条件や、V
out≦V
out_limit、且つI
out≦I
out_limitの条件を追加することが可能である。また、V
in≦V
in_limit、且つV
out≦V
out_limitの条件や、I
in≦I
in_limit、且つI
out≦I
out_limitの条件を追加することも可能である。この電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基にロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18間のトルクT
inをトルク指令値T
in_refに追従させつつ、磁気干渉を利用しない場合と比較して、ステータ16と出力側ロータ18間に発生可能なトルクT
outを増加させることができる。例えばEV走行中にエンジン36の始動を行う場合、T
in=T
in_refの制約条件の範囲内で評価関数f=T
outを最大(あるいはほぼ最大)にする電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基に電流I
in,I
outを制御することで、エンジン36のクランキングトルクT
inをT
in_refに保ちつつ、車両の駆動トルクを増加させることができる。
【0108】
また、評価関数fとしてトルクT
outを用いる場合は、制約条件として、I
out≦I
out_limit−β(第5制限値)の条件を用いることも可能である。ここでのβは、インバータ40の電流の制限を表すパラメータである。電流指令値設定部136は、制約条件を満たす範囲内で、評価関数f=T
outを最大(あるいはほぼ最大)にする電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを第1及び第2磁気干渉モデルを用いて演算する。この電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基にロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを制御することで、例えばインバータ40の故障等によりインバータ40の電流を制限する必要がある場合でも、磁気干渉を利用して、ステータ16と出力側ロータ18間に発生可能なトルクT
outを増加させることができる。なお、制約条件としては、I
out≦I
out_limit−βの他に、V
in≦V
in_limit、V
out≦V
out_limit、及びI
in≦I
in_limitの少なくとも1つ以上の条件を追加することも可能である。例えばV
out≦V
out_limitの条件や、V
in≦V
in_limit、且つV
out≦V
out_limitの条件や、I
in≦I
in_limitの条件等を追加することが可能である。
【0109】
また、評価関数fとしてトルクT
inを用いることも可能である。その場合の評価関数f=T
inも、I=(I
in_d,I
in_q,I
out_d,I
out_q)の関数となる。電流指令値設定部136は、制約条件を満たす範囲内で、評価関数f=T
inを最大(あるいはほぼ最大)にする電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを第1及び第2磁気干渉モデルを用いて演算する。その際の制約条件としては、例えばI
in≦I
in_limit−β(第6制限値)の条件とすることが可能である。ここでのβは、インバータ41の電流の制限を表すパラメータである。この電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基にロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを制御することで、例えばインバータ41の故障等によりインバータ41の電流を制限する必要がある場合でも、磁気干渉を利用して、入力側ロータ28と出力側ロータ18間に発生可能なトルクT
inを増加させることができる。なお、制約条件としては、I
in≦I
in_limit−βの他に、V
in≦V
in_limit、V
out≦V
out_limit、及びI
out≦I
out_limitの少なくとも1つ以上の条件を追加することも可能である。例えばV
in≦V
in_limitの条件や、V
in≦V
in_limit、且つV
out≦V
out_limitの条件や、I
out≦I
out_limitの条件等を追加することが可能である。
【0110】
また、評価関数fとしてトルクT
inの絶対値を用いることも可能である。電流指令値設定部136は、制約条件を満たす範囲内で、評価関数f=|T
in|を最大(あるいはほぼ最大)にする電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを第1及び第2磁気干渉モデルを用いて演算する。その際の制約条件としては、例えばT
in+T
out=T
out_ref(第3トルク指令値)とすることが可能である。この電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基にロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outを制御することで、出力側ロータ18のトルクT
in+T
outをトルク指令値T
in_refに追従させつつ、磁気干渉を利用しない場合と比較して、入力側ロータ28と出力側ロータ18間に発生可能なトルクT
outを増加させることができる。例えばEV走行中にエンジン36の始動を行う場合、T
in+T
out=T
out_refの制約条件の範囲内で評価関数f=|T
in|を最大(あるいはほぼ最大)にする電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基に電流I
in,I
outを制御することで、出力側ロータ18のトルクT
in+T
out(車両の駆動トルク)をT
out_refに保ちつつ、エンジン36のクランキングトルクT
inを増加させることができる。なお、制約条件としては、T
in+T
out=T
out_refの他に、V
in≦V
in_limit、V
out≦V
out_limit、I
in≦I
in_limit、及びI
out≦I
out_limitの少なくとも1つ以上の条件を追加することも可能である。例えばV
in≦V
in_limitの条件や、I
in≦I
in_limitの条件や、V
in≦V
in_limit、且つI
in≦I
in_limitの条件を追加することが可能である。また、V
in≦V
in_limit、且つV
out≦V
out_limitの条件や、I
in≦I
in_limit、且つI
out≦I
out_limitの条件を追加することも可能である。
【0111】
なお、上記に説明した電流指令値(I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_ref)の組み合わせを演算する処理については、例えば
図14の機能ブロック図に示すように、情報処理装置70により実行することも可能である。情報処理装置70は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成可能であり、処理プログラムを記憶したROMと、一時的にデータを記憶するRAMと、入出力ポートとを備える。情報処理装置70において、電流指令値演算部174は、モデル記憶部172に記憶された第1及び第2磁気干渉モデルを読み出し、設定された制約条件と評価関数fとに基づき、ロータ巻線30の電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref及びステータ巻線20の電流指令値I
out_d_ref,I
out_q_refを、第1及び第2磁気干渉モデルを用いて演算する。情報処理装置70(電流指令値演算部174)で演算された電流指令値(I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_ref)の組み合わせは、電子制御ユニット50の電流特性記憶部137に記憶される。例えばT
in=T
in_refの制約条件、及びf=T
outの評価関数の場合は、電流指令値(I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_ref)の組み合わせがトルク指令値T
in_refと対応付けて電流特性記憶部137に記憶される。また、T
in+T
out=T
out_refの制約条件、及びf=|T
in|の評価関数の場合は、電流指令値(I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_ref)の組み合わせがトルク指令値T
out_refと対応付けて電流特性記憶部137に記憶される。
【0112】
電流指令値設定部136は、情報処理装置70で演算され電流特性記憶部137に記憶された電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを読み出して設定する。そして、ロータ巻線電流制御部140及びステータ巻線電流制御部160では、電流指令値設定部136で設定されたロータ巻線30の電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref及びステータ巻線20の電流指令値I
out_d_ref,I
out_q_refを基に、ロータ巻線30の電流I
in及びステータ巻線20の電流I
outがそれぞれ制御される。例えば(22)式の評価関数fを最大化(あるいはほぼ最大化)する電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基に電流I
in,I
outを制御することで、出力側ロータ18のトルク(車両の駆動トルク)を増加させることができる。また、EV走行中にエンジン36の始動を行う場合、T
in=T
in_refを満たす範囲内で評価関数f=T
outを最大化(あるいはほぼ最大化)する、トルク指令値T
in_refに対する電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refの関係を基に、電流I
in,I
outを制御することで、エンジン36のクランキングトルクT
inをT
in_refに保ちつつ、車両の駆動トルクを増加させることができる。また、インバータ40の故障等によりインバータ40の電流を制限する必要がある場合、I
out≦I
out_limit−βを満たす範囲内で評価関数f=T
outを最大化(あるいはほぼ最大化)する電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基に電流I
in,I
outを制御することで、トルクT
outを増加させることができる。また、インバータ41の故障等によりインバータ41の電流を制限する必要がある場合、I
in≦I
in_limit−βを満たす範囲内で評価関数f=T
inを最大化(あるいはほぼ最大化)する電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refを基に電流I
in,I
outを制御することで、トルクT
inを増加させることができる。また、EV走行中にエンジン36の始動を行う場合、T
in+T
out=T
out_refを満たす範囲内で評価関数f=|T
in|を最大化(あるいはほぼ最大化)する、トルク指令値T
out_refに対する電流指令値I
in_d_ref,I
in_q_ref,I
out_d_ref,I
out_q_refの関係を基に、電流I
in,I
outを制御することで、出力側ロータ18のトルク(車両の駆動トルク)をT
out_refに保ちつつ、エンジン36のクランキングトルクT
inを増加させることができる。
【0113】
なお、第1及び第2磁気干渉モデルについては、上記に説明したものに限られるものではなく、様々な変形や簡素化が可能である。例えば(8)式の右辺の分母において、kdd=1、kdq=1に簡素化し、(11)式の右辺の分母において、kqd=1、kqq=1に簡素化することも可能である。同様に、(14)式の右辺の分母において、kdd=1、kdq=1に簡素化し、(17)式の右辺の分母において、kqd=1、kqq=1に簡素化することも可能である。
【0114】
また、(9)、(10)、(12)、(13)式においては、指数関数部分を多項式に近似することも可能である。あるいは、永久磁石33の起磁力によるd軸起磁力が一定であるものとしてf
m’1,f
m’2,f
0を定数に簡素化することも可能であり、I
out_qによる起磁力がI
in_qによる起磁力に磁気干渉する度合いが一定であるものとしてf
m’3を定数に簡素化することも可能である。
【0115】
また、
図5〜8から、I
in_qによる起磁力とI
out_qによる起磁力のq軸での磁気干渉度合いが、I
in_dによる起磁力とI
out_dによる起磁力のd軸での磁気干渉度合いに比べて十分小さいものとして、(8)式の右辺の分母においてC
q1=0、(11)式の右辺の分母においてC
q3=C
q30=0、(11)式の右辺の分子においてf
m’3=0に簡素化することも可能である。同様に、(14)式の右辺の分母においてC
q1=0、(17)式の右辺の分母においてC
q3=C
q30=0、(17)式の右辺の分子においてf
m’3=0に簡素化することも可能である。
【0116】
また、(8)式の右辺の分子において、誘導電磁カップリング部のd軸インダクタンスが一定であるものとしてL
dd=0に簡素化することも可能であり、(11)式の右辺の分子において、誘導電磁カップリング部のq軸インダクタンスが一定であるものとしてL
qq=0に簡素化することも可能である。同様に、(14)式の右辺の分子において、PMモータ部のd軸インダクタンスが一定であるものとしてL
dd=0に簡素化することも可能であり、(17)式の右辺の分子において、PMモータ部のq軸インダクタンスが一定であるものとしてL
qq=0に簡素化することも可能である。
【0117】
また、(8)式の右辺の分母において、d軸磁気回路の飽和係数が一定であるものとしてM
ddd=0に簡素化することも可能であり、q軸磁気回路の飽和係数が一定であるものとしてM
dqd=0に簡素化することも可能である。(11)式の右辺の分母においても、d軸磁気回路の飽和係数が一定であるものとしてM
qdq=0に簡素化することも可能であり、q軸磁気回路の飽和係数が一定であるものとしてM
qqq=0に簡素化することも可能である。同様に、(14)式の右辺の分母において、d軸磁気回路の飽和係数が一定であるものとしてM
ddd=0に簡素化することも可能であり、q軸磁気回路の飽和係数が一定であるものとしてM
dqd=0に簡素化することも可能である。(17)式の右辺の分母においても、d軸磁気回路の飽和係数が一定であるものとしてM
qdq=0に簡素化することも可能であり、q軸磁気回路の飽和係数が一定であるものとしてM
qqq=0に簡素化することも可能である。
【0118】
さらに、(8)式の右辺の分母において、q軸起磁力によるd軸の磁気飽和への影響がd軸起磁力に比べて十分小さいものとしてM
dq=M
dqd=0に簡素化することも可能であり、(11)式の右辺の分母において、d軸起磁力によるq軸の磁気飽和への影響がq軸起磁力に比べて十分小さいものとしてM
qd=M
qdq=0に簡素化することも可能である。同様に、(14)式の右辺の分母において、q軸起磁力によるd軸の磁気飽和への影響がd軸起磁力に比べて十分小さいものとしてM
dq=M
dqd=0に簡素化することも可能であり、(17)式の右辺の分母において、d軸起磁力によるq軸の磁気飽和への影響がq軸起磁力に比べて十分小さいものとしてM
qd=M
qdq=0に簡素化することも可能である。
【0119】
さらに、d軸の磁気飽和を考慮せずに(8)式の右辺の分母を1(M
dd=M
ddd=M
dq=M
dqd=0)に簡素化することも可能であり、q軸の磁気飽和を考慮せずに(11)式の右辺の分母を1(M
qd=M
qdq=M
qq=M
qqq=0)に簡素化することも可能である。同様に、d軸の磁気飽和を考慮せずに(14)式の右辺の分母を1に簡素化することも可能であり、q軸の磁気飽和を考慮せずに(17)式の右辺の分母を1に簡素化することも可能である。
【0120】
さらに、第1及び第2磁気干渉モデルについては、上記に説明した数式モデルに限られるものではなく、磁場解析により得ることの可能な各電流に対する各鎖交磁束のマップや、分母、分子が各電流に対する任意の次数の多項式で表される有理関数モデルであってもよい。
【0121】
また、回転電機10についても、ロータ巻線30の電流によりステータ巻線20の鎖交磁束を調整可能で、ステータ巻線20の電流によりロータ巻線30の鎖交磁束を調整可能であれば、上記に説明した構成をはじめ、特許文献3の
図6の構造等、磁石配置構造に限られるものではない。例えばロータ周方向に隣接する軟磁性材53間に配置された永久磁石33については、
図15に示すように、磁極面の径方向に対する傾斜角度が90°になる状態で配置することも可能である。
図15には、
図4と同様に、永久磁石33による界磁磁束の流れも示してある。また、永久磁石33の磁極面を径方向に沿って配置することも可能である。
【0122】
また、例えば
図16〜19に示すように、出力側ロータ18が入力側ロータ28及びステータ16とロータ回転軸に対向するアキシャル型の回転電機10とすることも可能である。
図16はアキシャル型の回転電機10の構成例を示し、
図17はステータ16の構成例を示し、
図18は入力側ロータ28の構成例を示し、
図19は出力側ロータ18の構成例を示す。ロータ周方向に等間隔で分割配置された複数の軟磁性材53の各々は、入力側ロータ28(ティース52a)と所定の空隙を空けて対向する下面(第1面)61と、ステータ16(ティース51a)と所定の空隙を空けて対向する上面(第2面)62と、隣接する一方の永久磁石33の磁極面に面する(接触する)側面(第3面)63と、隣接する他方の永久磁石33の磁極面に面する(接触する)側面(第4面)64と、を有する。
図19に示す例では、各永久磁石33の磁極面が径方向に沿って配置されている。
【0123】
また、出力側ロータ18においては、例えば
図20に示すように、永久磁石33に代えて非磁性体35を設けることも可能である。
図20に示す構成例において、複数の軟磁性材53は、ロータ周方向に互いに間隔をおいて(等間隔で)分割配置されている。複数(軟磁性材53と同数)の非磁性体35は、ロータ周方向に互いに間隔をおいて(等間隔で)配置され、その各々がロータ周方向に隣接する軟磁性材53間に配置されている。ロータ周方向に隣接する非磁性体35間に配置された軟磁性材53の各々は、入力側ロータ28(ティース52a)と所定の空隙を空けて対向する内周面(第1面)61と、ステータ16(ティース51a)と所定の空隙を空けて対向する外周面(第2面)62と、隣接する一方の非磁性体35に面する(接触する)側面(第3面)63と、隣接する他方の非磁性体35に面する(接触する)側面(第4面)64と、を有し、内周面61と外周面62間で磁束を通す。なお、非磁性体35に代えて空隙を設けることも可能である。また、ロータ周方向に隣接する軟磁性材53同士がブリッジで繋がっていてもよい。
【0124】
図20に示すように、ロータ巻線30のd軸電流によるd軸磁束は、軟磁性材53の内周面61と外周面62間を流れてステータ16に作用することで、ステータ巻線20への鎖交磁束に影響を与える。そのため、ロータ巻線30のd軸電流によるd軸磁束は、ステータ16にとっては、非磁性体35の位置に永久磁石33が設けられている場合の界磁磁束と同様に振る舞う。したがって、ロータ巻線30の電流によりステータ巻線20の鎖交磁束を調整することができる。同様に、ステータ巻線20のd軸電流によるd軸磁束は、軟磁性材53の外周面62と内周面61間を流れて入力側ロータ28に作用することで、ロータ巻線30への鎖交磁束に影響を与える。そのため、ステータ巻線20のd軸電流によるd軸磁束は、入力側ロータ28にとっては、非磁性体35の位置に永久磁石33が設けられている場合の界磁磁束と同様に振る舞う。したがって、ステータ巻線20の電流によりロータ巻線30の鎖交磁束を調整することができる。
【0125】
なお、永久磁石33に代えて非磁性体35または空隙を設けた場合の第1及び第2磁気干渉モデルについては、上記の説明においてf
m’1=f
m’2=f
0=0としたものを考えればよい。
【0126】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。