(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237412
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】磁石埋込型回転電気機械のロータ構造
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20060101AFI20171120BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
H02K1/27 501A
H02K1/27 501M
H02K1/27 501K
H02K1/22 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-71448(P2014-71448)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-195650(P2015-195650A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 能成
(72)【発明者】
【氏名】安田 善紀
(72)【発明者】
【氏名】木藤 敦之
(72)【発明者】
【氏名】大澤 康彦
【審査官】
田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−044920(JP,A)
【文献】
特開平05−236687(JP,A)
【文献】
特開2013−070505(JP,A)
【文献】
特開2003−061283(JP,A)
【文献】
特開2011−188685(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0150282(US,A1)
【文献】
国際公開第2009/063350(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00−1/34,15/02−15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコア(21)に設けられた所定数の永久磁石孔(50)の全体に永久磁石(28)を射出成形してなるロータ(20)を備えた磁石埋込型回転電気機械のロータ構造であって、
上記ロータコア(21)は、上記永久磁石孔(50)が形成されたコアシート(P)を単位スキュー角度(Δθ)ずつコアシート(P)の周方向にずらして積層して成り、
上記コアシート(P)の上記永久磁石孔(50)は、各々、所定形状の本体部(50m)と、上記本体部(50m)の長手方向の両端から各々上記コアシート(P)の周縁近傍にまで延びる延在部(50e)とを有し、
上記周方向に単位スキュー角度(Δθ)ずれた上下のコアシート(P)間において、延在部(50e)同士が積層方向に重なる延在部(50e)の実効幅(We’)と、本体部(50m)同士が積層方向に重なる本体部(50m)の実効幅(Wm’)とは、
We’≧Wm’の関係に設定されている
ことを特徴とする磁石埋込型回転電気機械のロータ構造。
【請求項2】
上記請求項1記載の磁石埋込型回転電気機械のロータ構造において、
上記周方向に単位スキュー角度(Δθ)ずれた上下のコアシート(P)間において、コアシート(P)の延在部(50e)の幅(We)と上記実効幅(We’)とのズレ量(We-We’=ΔWe)と、コアシート(P)の本体部(50m)の幅(Wm)と上記実効幅(Wm’)とのズレ量(Wm-Wm’=ΔWm)とは、
ΔWm<ΔWeの関係にある
ことを特徴とする磁石埋込型回転電気機械のロータ構造。
【請求項3】
上記請求項1又は2記載の磁石埋込型回転電気機械のロータ構造において、
上記永久磁石孔(50)の本体部(50m)は、
該本体部(50m)の位置でのコアシート(P)周縁の接線方向に沿う一文字の形状、又は、上記ロータコア(P)の径方向外方に向かって凸な形状に形成される
ことを特徴とする磁石埋込型回転電気機械のロータ構造。
【請求項4】
上記請求項3記載の磁石埋込型回転電気機械のロータ構造において、
上記永久磁石孔(50)の本体部(50m)は、
上記ロータコア(21)の回転中心(O)を中心とする円弧状の形状に形成される
ことを特徴とする磁石埋込型回転電気機械のロータ構造。
【請求項5】
上記請求項1〜4の何れか1項に記載の磁石埋込型回転電気機械のロータ構造において、
上記ロータコア(21)全体のスキュー角度は、360°を、磁石埋込型回転電気機械のステータ(10)のスロット数と上記ロータコア(21)の磁極数との最小公倍数で除した角度に設定される
ことを特徴とする磁石埋込型回転電気機械のロータ構造。
【請求項6】
上記請求項1〜5の何れか1項に記載の磁石埋込型回転電気機械のロータ構造を備えたロータ(20)と、
上記ロータ(20)の外方に配置されるステータ(10)とを備えた磁石埋込型回転電気機械であって、
上記ステータは(10)、ステータ巻線(16)が集中巻で巻回されている
ことを特徴とする磁石埋込型回転電気機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石埋込型回転電気機械のロータ構造に関し、特に、コアシートを所定枚数毎に所定角度ずつ周方向にずらして積層したスキュー構造を備えたものの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁石埋込型回転電気機械として、ロータコアに設けられた所定数の永久磁石孔にボンド磁石を射出成形し、着磁して、ロータコア内に永久磁石を埋め込んだモータが知られている。この磁石埋込型モータでは、例えば特許文献1、2及び3に開示されるように、所定数の永久磁石孔を形成した1枚の電磁鋼板から成るコアシートを1枚又は複数枚毎に所定スキュー角度ずつコアシートの周方向にずらして積層してロータコアを形成し、ロータ回転時のトルク変動を抑制する技術が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−098108号公報
【特許文献2】特開平8−223832号公報
【特許文献3】特開平9−168247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、磁石埋込型回転電気機械では、コアシートの各永久磁石孔を、本体部と、その本体部の長手方向の両端部からコアシートの周縁部にまで延びる延在部とで構成し、この延在部を本体部からの主磁束の漏れ低減部として機能させて、本体部の永久磁石からステータに向かう主磁束の一部が本体部の側方に漏れるのを抑制する構成を採用することが望ましい。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、上記延在部がなく、永久磁石の側方への漏れ磁束が増大する。特に、永久磁石孔に射出成形されるボンド磁石が磁力の弱い磁石である場合には、漏れ磁束量が多くなる欠点がある。
【0006】
また、特許文献3では、永久磁石孔の全体がコアシートの周縁近傍に位置しているため、磁石埋込型モータの回転数制御においては、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスとの差が小さく、このため、リラクタンストルクをほとんど利用できない欠点がある。
【0007】
更に、特許文献2では、上記延在部が存在するものの、ロータコアのスキュー構造に起因して、漏れ磁束の増加や減磁が発生し易い欠点がある。以下、この欠点を詳述する。
【0008】
上記永久磁石孔の延在部は、その先端がコアシートの周縁部近傍に位置するため、モータの回転時には延在部での永久磁石の磁束を減じるステータからの逆磁束がこの延在部を通過し易い。従って、延在部は、コアシート周縁よりも内方に位置する本体部に比べて減磁し易い。しかも、延在部の実効幅は、コアシートのスキューによってスキュー角度に応じたズレ分だけ短くなる。特に、延在部の先端はコアシートの周縁に位置するため、コアシートを周方向に所定スキュー角度ずらすと、コアシート周縁より内方に位置する本体部よりもズレ分が大きい。このように延在部の実効幅が短くなると、延在部での永久磁石の磁気抵抗が小さくなる。その結果、起磁力ループで一定の起磁力が存在するとき、延在部での磁気抵抗の減少に伴いステータから延在部を通過する逆磁束が増大して、延在部ではより一層に減磁し易くなる。
【0009】
そこで、例えば、コアシート1枚での延在部の幅を大きく設定しておくことが考えられるが、この考えでは、ボンド磁石量が増大する欠点が生じる。
【0010】
本発明は係る点に鑑み、その目的は、磁石埋込型回転電気機械でスキューを施したロータ構造において、コアシートの永久磁石孔を、本体部と、その本体部側方への磁束漏れを低減する延在部とで構成した上で、スキューを施した上下2つのコアシート間での延在部の実効幅と本体部の実効幅との関係を特定して、スキューを施しても、少ない磁石量で延在部を減磁に対して強くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、第1の発明の磁石埋込型回転電気機械のロータ構造は、ロータコア(21)に設けられた所定数の永久磁石孔(50)の全体に永久磁石(28)を射出成形してなるロータ(20)を備えた磁石埋込型回転電気機械のロータ構造であって、上記ロータコア(21)は、上記永久磁石孔(50)が形成されたコアシート(P)を単位スキュー角度(Δθ)ずつコアシート(P)の周方向にずらして積層して成り、上記コアシート(P)の上記永久磁石孔(50)は、各々、所定形状の本体部(50m)と、上記本体部(50m)の長手方向の両端から各々上記コアシート(P)の周縁近傍にまで延びる延在部(50e)とを有し、上記周方向に単位スキュー角度(Δθ)ずれた上下のコアシート(P)間において、延在部(50e)同士が積層方向に重なる延在部(50e)の実効幅(We’)と、本体部(50m)同士が積層方向に重なる本体部(50m)の実効幅(Wm’)とは、We’≧Wm’の関係に設定されていることを特徴とする。
【0012】
上記第1の発明では、1枚のコアシートの永久磁石孔が本体部と延在部とを有するので、この延在部により本体部側方への磁束漏れを抑制できると共に、本体部を延在部よりもコアシートの周縁より内方に位置させて、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスとの差を大きくでき、リラクタンストルクを有効に利用することができる。また、ロータコアがスキューされているので、回転電気機械の回転駆動時でのトルク変動(コギング変動)を抑制できる。
【0013】
しかも、上下のコアシート間が周方向に単位スキュー角度ずれた状態においても、延在部の実効幅(We’)は、本体部の実効幅(Wm’)以上の幅に設定されている(We’>Wm’)ので、永久磁石孔の延在部では、永久磁石の磁気抵抗が十分高く確保されて、延在部での永久磁石を通過する逆磁束の量が少なくなり、延在部では減磁に対して強くなる。
【0014】
第2の発明は、上記磁石埋込型回転電気機械のロータ構造において、上記周方向に単位スキュー角度(Δθ)ずれた上下のコアシート(P)間において、コアシート(P)の延在部(50e)の幅(We)と上記実効幅(We’)とのズレ量(We- We’=ΔWe)と、コアシート(P)の本体部(50m)の幅(Wm)と上記実効幅(Wm’)とのズレ量(Wm- Wm’=ΔWm)とは、ΔWm<ΔWeの関係にあることを特徴とする。
【0015】
上記第2の発明では、上下のコアシート間が周方向に単位スキュー角度ずれた状態では、コアシートの本体部の幅(Wm)と実効幅(Wm’)とのズレ量、すなわち本体部の幅の減少量(Wm-Wm’=ΔWm)は、延在部の幅の減少量(We-We’=ΔWe)よりも小さい。従って、スキューに起因して上下のコアシート間で本体部の上下に生じる段差を小さく制限できる。しかも、コアシート間での本体部の永久磁石の磁化方向のズレが小さいので、ロータコア全体では磁化方向に対して直交方向に発生する磁束量が減少して、発生する渦電流を有効に低減できる。
【0016】
第3の発明は、上記磁石埋込型回転電気機械のロータ構造において、上記永久磁石孔(50)の本体部(50m)は、該本体部(50m)の位置でのコアシート(P)周縁の接線方向に沿う一文字の形状、又は、上記ロータコア(P)の径方向外方に向かって凸な形状に形成されることを特徴とする。
【0017】
上記第3の発明では、永久磁石孔の本体部の形状が、本体部の位置でのコアシート周縁の接線方向に沿う一文字の形状、又は、ロータコアの半径方向外方に向かって凸な形状であるので、スキューに起因する本体部の幅の減少量(Wm-Wm’=ΔWm)を延在部の幅の減少量(We- We’=ΔWe)よりも小さくすることができる。従って、上記第2の発明と同様に、スキューに起因する上下のコアシート間での本体部の段差を小さく制限できると共に、発生する渦電流を有効に低減できる。
【0018】
第4の発明は、上記磁石埋込型回転電気機械のロータ構造において、上記永久磁石孔(50)の本体部(50m)は、上記ロータコア(21)の回転中心(O)を中心とする円弧状の形状に形成されることを特徴とする。
【0019】
上記第4の発明では、永久磁石孔の本体部の形状が、ロータコアの回転中心を中心とする円弧状の形状であるので、スキューに起因する本体部の幅の減少量(Wm-Wm’=ΔWm)を零値(ΔWm=0)にできる。従って、スキューに起因する本体部の段差をなくすことが可能であるし、渦電流の発生をなくすことができる。
【0020】
第5の発明は、上記磁石埋込型回転電気機械のロータ構造において、上記ロータコア(21)全体のスキュー角度は、360°を、磁石埋込型回転電気機械のステータ(10)のスロット数と上記ロータコア(21)の磁極数との最小公倍数で除した角度に設定されることを特徴とする。
【0021】
上記第5の発明では、ロータコア全体でのスキュー角度を回転電気機械のトルク変動(コギングトルク)の周期に合わせたので、コギングトルクが効果的に低減される。
【0022】
第6の発明の磁石埋込型回転電気機械は、上記磁石埋込型回転電気機械のロータ構造を備えたロータ(20)と、上記ロータ(20)の外方に配置されるステータ(10)とを備えた磁石埋込型回転電気機械であって、上記ステータは(10)、ステータ巻線(16)が集中巻で巻回されていることを特徴とする。
【0023】
上記第6の発明では、ステータの巻線が集中巻きであるので、ステータのティース部からの磁束がその隣に位置する逆極性のティース部に向って流れるに際しては、分布巻きに比して、ロータコアのより周縁部側を通り易いものの、上記の通り延在部の実効幅(We’)を本体部の実効幅(Wm’)以上の幅に確保できるので、集中巻きのステータ巻線を有する回転電気機械であっても、延在部を減磁に対して強く確保することが可能である。
【発明の効果】
【0024】
上記第1の発明の磁石埋込型回転電気機械のロータ構造によれば、スキューが施されたロータコアであっても、永久磁石の使用量を最小限にしつつ、永久磁石孔の延在部を減磁に対して強くすることが可能である。
【0025】
また、第2及び第3の発明によれば、永久磁石孔の本体部のスキューに起因する段差を小さく制限でき、また発生する渦電流を有効に低減できる。特に、第4の発明によれば、スキューに起因する本体部の段差をなくすことが可能であり、また渦電流の発生をなくすことができる。
【0026】
更に、第5の発明によれば、回転電気機械のコギングトルクを効果的に低減できる。
【0027】
加えて、第6の発明によれば、ステータ巻線が集中巻きの磁石埋込型回転電気機械に対しても、延在部を減磁に対して強くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は実施形態1に係るロータ構造を有する磁石埋込型モータの構成を示す横断面図である。
【
図2】
図2は同磁石埋込型モータに備えるロータの斜視図である。
【
図3】
図3は同ロータを構成する1枚のコアシートの永久磁石孔の構造を示す平面図である。
【
図4】
図4はコアシート上に他のコアシートをその周方向に単位スキュー角度ずらして積層したときの1磁極の永久磁石孔の位置変化を示す図である。
【
図5】
図5は同1磁極の永久磁石孔の延在部の位置変化を示す
図3のVIV線断面図である。
【
図6】
図6は実施形態2に係るロータ構造を構成する1枚のコアシートの永久磁石孔の構造を示す平面図である。
【
図7】
図7は実施形態2における永久磁石孔の位置変化を示す
図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、又はその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0030】
(実施形態1)
本発明の回転電気機械の一例として、磁石埋込型のモータを説明する。
図1は、実施形態1のモータ(1)の横断面図である。モータ(1)は、ステータ(10)、ロータ(20)、駆動軸(30)、及びケーシング(2)を備えている。尚、以下の説明において、軸方向とは駆動軸(30)の軸心の方向をいい、径方向とは前記軸心と直交する方向をいう。また、外周側とは前記軸心からより遠い側をいい、内周側とは前記軸心により近い側をいう。
【0031】
〈ステータ〉
ステータ(10)は、円筒状のステータコア(11)と、ステータ巻線(16)を備えている。
【0032】
ステータコア(11)は、電磁鋼板をプレス加工によって打ち抜いて積層板を作成し、複数の積層板を軸方向に積層した積層コアである。ステータコア(11)は、1つのバックヨーク部(12)、複数(この例では6つ)のティース部(13)、及び複数のツバ部(14)を備えている。ステータコア(11)は、バックヨーク部(12)の外周でケーシング(2)の内面に固定されている。
【0033】
バックヨーク部(12)は、ステータコア(11)の外周側の円環状の部分である。また、それぞれのティース部(13)は、ステータコア(11)において径方向に伸びる直方体状の部分である。各ティース部(13)の間の空間が、ステータ巻線(16)が収容されるステータ巻線用スロット(15)である。ティース部(13)には、集中巻方式でステータ巻線(16)が巻回される。これにより各ティース部(13)において電磁石が形成される。
【0034】
ツバ部(14)は、それぞれのティース部(13)の内周側に連なる部分である。ツバ部(14)は、ティース部(13)よりも幅(周方向の長さ)が大きく構成されている。ツバ部(14)は、内周側の面が円筒面である。その円筒面は、ロータコア(21)の外周面(円筒面)と所定の距離(エアギャップ(G))をもって対向している。
【0035】
〈ロータ〉
図2は、実施形態1のロータ(20)の構成を説明する斜視図である。
図1及び
図2に示すように、ロータ(20)は、ロータコア(21)及び4つの永久磁石孔(50)に入った永久磁石(28)を備えている。すなわち、この例ではロータ(20)は、4つの磁極を備えている。磁石(28)は、いわゆるボンド磁石である。すなわち、ロータ(20)は、製造時に磁石材料が永久磁石孔(50)に射出成形機によって注入され、同時に、成形金型中で磁石材料の着磁が行われる。尚、着磁は射出成形時でなくても、ロータコア(21)の製造後に着磁器を用いて行っても良い。
【0036】
ロータコア(21)は、いわゆる積層コアである。具体的には、ロータコア(21)は、電磁鋼板よりなるコアシート(P)をプレス加工して形成した多数の積層板を、軸方向(上下方向)に積層して形成してある。ロータコア(21)の中心には、軸穴(22)を形成してある。この軸穴(22)には、駆動軸(30)が固定される。尚、駆動軸(30)は、負荷(例えば空調装置のロータリ式圧縮機)を駆動するためのものである。
【0037】
上述の通り、ロータコア(21)には、
図2に示すように、永久磁石(28)をそれぞれ挿入する4つの永久磁石孔(50)が形成されている。それぞれの永久磁石孔(50)は、ロータコア(21)の軸心回りに90°ピッチで配置されている。各永久磁石孔(50)は、軸方向から見て概ね英文字Wの形状を有し、ロータコア(21)を軸方向に貫通している。
【0038】
<コアシートの構成>
次に、上記ロータコア(21)を構成する多数枚のコアシート(P)のうち1枚を
図3に示す。同図において、コアシート(P)は、4つの磁極に対応して4つの永久磁石孔(50)が互いに等間隔隔てて形成される。各永久磁石孔(50)は互いに同一形状である。以下、同図で右上に位置する永久磁石孔(50)を代表として説明する。
【0039】
上記永久磁石孔(50)は、逆V字形状の本体部(50m)と、この本体部(50m)の上端及び下端の両端から各々コアシート(P)の周縁にまで延びる2つの延在部(50e)とを有する。上記本体部(50m)は、コアシート(P)の略径方向に向かう主磁束を発生する機能を担う。一方、2つの延在部(50e)は、磁束を発生すると共に、上記本体部(50m)からコアシート(P)の略径方向に向う主磁束が本体部(50m)の側方に漏れるのを低減する機能を担う。本体部(50m)は延在部(50e)に比してコアシート(P)の周縁よりも回転中心(O)側に位置している。この構成により、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスとの差を大きくできて、リラクタンストルクを有効利用できる。
【0040】
ここで、複数枚のコアシート(P)を
図2に示すように駆動軸(30)の軸方向に積層するに際し、各コアシート(P)は1枚ずつコアシート(P)の周方向に単位スキュー角度(Δθ)だけずらして積層されており、ロータコア(21)はスキューが施される。
【0041】
スキューが施されたロータコア(21)の回転に伴うトルク変動(コギングトルク)の周期は、ステータ(10)のスロット数とロータ(20)の磁極数で定まり、ステータ(10)のスロット数(
図1では6)とロータコア(20)の磁極数(
図1では4)との最小公倍数(=12)で360°を除した角度(本実施形態では30°)である。このため、本実施形態では、ロータコア(20)全体でのスキュー角度を上記コギングトルクの周期(30°)に設定している。従って、磁石埋込型モータ(1)のコギングトルクを効果的に低減することが可能である。
【0042】
上記スキュー角度(30°)を持つロータコア(20)では、最上部に位置するコアシート(p)と最下部に位置するコアシート(p)との間では、永久磁石孔(50)同士の幅方向の重なりがなくなる場合がある。このような場合であっても、スキューされたロータコア(20)の永久磁石孔(50)には、ボンド磁石が射出成形により注入されて着磁されるので、永久磁石を永久磁石孔(50)に良好に配置することが可能になる。
【0043】
上記永久磁石孔(50)に射出成形された磁石材料の着磁、すなわち、各永久磁石孔(50)の永久磁石(28)の磁化方向は、永久磁石孔(50)の各所での幅方向に設定される。
【0044】
上記永久磁石孔(50)において、本体部(50m)は、逆V字形状を構成する2つの長方形部(50m-1)から成る。この逆V字形状の本体部(50m)は、上記主磁束発生機能から、概ねその位置でのコアシート(P)の周方向に沿うように配置されると共に、その幅は所定幅(Wm)に設定される。一方、各延在部(50e)は、コアシート(P)の周縁に向って延びる長方形状に形成され、その幅は所定幅(We)に設定される。この2つの延在部(50e)は、その長手方向に延びる線とその延在部(50e)の位置でのコアシート(P)周縁の接線(T)となす角度(φ)が大きい(90°に近い)ように配置される。同図では、この角度(φ)はほぼ90°である。この延在部(50e)の接線(T)となす角度(φ)は、延在部(50e)の磁束漏れ低減機能を考慮すると、90°を含んだ所定角度範囲が存在し、その角度範囲内では、90°未満の角度でも良いし、90°を超える大きな角度でも良いが、90°に近い角度が望ましい。
【0045】
<延在部の実効幅に関する構成>
図4は、上記2枚のコアシート(P)間にスキューを施した場合の1磁極の永久磁石孔(50)の位置変化の様子を示している。同図において、上側のコアシート(P)の永久磁石孔(50)は、下側のコアシート(P)の永久磁石孔(50)に対してコアシート(P)の中心(O)周りに時計方向に単位スキュー角度(Δθ)回転移動している。このため、この2枚のコアシート(P)間では、上下のコアシート(P)の延在部(50e)同士が積層方向に重なる延在部(50e)の実効幅(We’)は1枚のコアシート(P)での延在部(50e)の幅(We)より狭くなる。この延在部(50e)の実効幅(We’)は、延在部(50e)の先端部であるコアシート(P)周縁近傍で最も短い。すなわち、延在部(50e)のコアシート(P)周縁近傍では、延在部(50e)のコアシート(P)の周方向の移動量は、コアシート(P)の半径をRとすると、下記式
RsinΔθ
で表現されるので、延在部(50e)の実効幅(We’)は、
図4のV−V線断面を示す
図5からも判るように、下記式
We’=We−RsinΔθ
である。
【0046】
ここで、上下2枚のコアシート(P)間での2つの本体部(50m)同士が積層方向に重なる本体部(50m)の実効幅をWm’とすると、上記延在部(50e)の実効幅(We’)と、本体部(50m)の実効幅(Wm’)とは、下記式の関係
We’≧Wm’
に設定される。ここで、本体部(50m)の実効幅(Wm’)は、本体部(50m)での永久磁石による主磁束量が所望量になるように設計される。
【0047】
<本体部の形状に関する構成>
上記の通り、コアシート(P)において、逆V字形状の本体部(50m)は、その位置でのコアシート(P)の周方向に沿うように配置される。一方、延在部(50e)は、その位置でのコアシート(P)周縁の法線方向(T)に延びるように配置される。これらの本体部(50m)及び延在部(50e)の配置では、
図4に示したように、本体部(50m)及び延在部(50e)が各々それ等の幅方向に磁化されている場合に(すなわち、幅方向と磁化方向とが一致するとき)、本体部(50m)の磁化方向を延ばした線(破線で示す)と、延在部(50e)の磁化方向を延ばした線(一点鎖線で示す)とは、永久磁石孔(50)の外方で且つ磁極角度(
図4では90°)内で交差する。このとき、単位スキュー角度(Δθ)ずらした上側及び下側のコアシート(P)間では、延在部(50e)先端での幅のズレ量(ΔWe)は、上記RsinΔθ(=We−We’)であり、本体部(50m)の幅のズレ量(ΔWm=Wm−Wm’)は、上記延在部(50e)先端でのズレ量(RsinΔθ)よりも極めて少ない(ΔWm<ΔWe)。
―本実施形態の効果―
本実施形態では、ロータコア(20)において、単位スキュー角度(Δθ)ずらした上下2枚のコアシート(P)間であっても、永久磁石孔(50)の延在部(50e)の実効幅(We’)は、本体部(50m)の実効幅(Wm’)以上に設定されている(We’≧Wm’)ので、延在部(50e)の磁気抵抗は高く確保される。従って、永久磁石孔(50)の延在部(50e)、特に、ステータ(10)のティース部(13)のギャップ面(G)近傍に位置する先端部においても、ティース部(13)からの逆磁束が通過し難くなって、延在部(50e)での逆磁束量が減少する。よって、この延在部(50e)を減磁に対して強くすることができる。
【0048】
しかも、コアシート(P)を周方向にずらして積層した場合にも、永久磁石孔(50)の本体部(50m)の幅のズレ量(ΔWm=Wm−Wm’)が、延在部(50e)先端でのズレ量(ΔWe=RsinΔθ)よりも極めて少ないので、上下のコアシート(P)間に生じる本体部(50m)の段差は小さくなる。従って、各コアシート(P)の本体部(50m)での永久磁石の磁化方向間の差が小さくなるので、2つの延在部(50e)間で磁力に差が生じたり、主磁束の方向とは直交の方向に生じる磁束を少なく制限して、コアシート(P)に流れる渦電流を少なく抑制することができる。特に、本体部(50m)の2つの長方形部(50m-1)が逆V字形状であって、コアシート(P)の径方向外方に向って凸な形状、すなわちコアシート(P)の外周に沿う形状であるので、コアシート(P)を周方向にずらしても、本体部(50m)の幅のズレ量(ΔWm=Wm−Wm’)を極く小さく制限することが可能である。
【0049】
また、ステータ(20)の巻線(16)の巻回方式が、集中巻きであるので、モータ運転時にティース部(13)から反対極のティース部(13)に向かう磁束は、分布巻方式の場合に比して、ロータコア(20)の周縁近傍を通り易いものの、本実施形態では既述の通り延在部(50e)の実効幅(We’)が厚くて磁気抵抗が十分高いので、この集中巻き方式のステータ(10)を持つモータであっても、この延在部(50e)を減磁に対して強くすることが可能である。
【0050】
尚、本実施形態では、本体部(50m)の形状を逆V字形状に形成したが、その他、3つ以上の長方形部をコアシート(P)の外周に沿うように連続的に配置した多角形状に形成しても良い。この多角形状では、スキューされた2つのコアシート(P)間での本体部(50m)の幅のズレ量(ΔWm)を延在部(50e)での幅のズレ量(ΔWe)よりもより一層少なくすることができる。また、上記ΔWm<ΔWeの関係を保持するためには、少なくとも本体部(50m)の形状をその中心位置でのコアシート(P)周縁の接線方向に平行な一文字(長方形)の形状にすれば良い。
【0051】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2を示す。
【0052】
本実施形態では、永久磁石孔(50)の本体部(50m)の形状を変更したものである。
【0053】
図6に示すコアシート(P)では、永久磁石孔(50)の延在部(50e)の形状は上記実施形態1と同様に長方形状であるが、本体部(50m)はコアシート(P)の中心(O)を中心とする円弧状に形成されている。
【0054】
従って、本実施形態では、本体部(50m)に成形される円弧状の永久磁石の磁化方向と延在部(50e)の磁化方向(すなわち、幅方向であり、各々同図に破線と一点鎖線で示す)とは、永久磁石孔(50)のコアシート(P)の径方向外方で且つ磁極角度(90°)内で交差する。
【0055】
そして、このような円弧状の本体部(50m)を持つコアシート(P)では、スキューを施しても、延在部(50e)の実効幅(We’)は
図7に破線で示すように幅(We)からズレ量(RsinΔθ=ΔWe)分減少するが、本体部(50m)の実効幅(Wm’)は1枚のコアシート(P)の幅(Wm)に等しく確保される。
【0056】
従って、本実施形態では、複数枚のコアシート(P)をスキューしても、本体部(50m)では上下方向の段差が全くなくなる。その結果、各コアシート(P)での本体部(50m)の永久磁石の磁化方向が同一方向に揃って、2つの延在部(50e)間の磁力を等しくできると共に、各コアシート(P)に渦電流が流れることを確実に防止できる。
【0057】
(その他の実施形態)
本発明は、上記各実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0058】
上記実施形態では、コアシート(P)を1枚ずつ単位スキュー角度(Δθ)ずらしながら複数枚のコアシート(P)を上下に積層したが、その他、2枚以上の複数枚のコアシート(P)を1組として、各組間で単位スキュー角度(Δθ)ずらして積層しても良い。この場合には、上限2組のコアシート(P)において、下側の組の最上部のコアシート(P)と上側の組の最下部のコアシート(P)との間で、延在部(50e)同士が上下方向(積層方向)に重なる実効幅(We’)と本体部(50m)同士が上下方向(積層方向)に重なる実効幅(Wm’)との関係について、本発明を適用する。
【0059】
また、上記各実施形態では、ロータコア(20)の磁極数を「4」、ステータスロット数を「6」としたが、他の磁極数及びスロット数のモータに適用しても良いのは勿論のこと、本発明は磁石埋込型モータに限らず、磁石埋込型発電機に適用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明は、コアシートに形成した永久磁石孔の延在部を減磁に対して強くできるので、磁石埋込型のモータや発電機に適用して、有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 磁石埋込型モータ
10 ステータ
13 ティース部
16 ステータ巻線
20 ロータ
21 ロータコア
P コアシート
28 永久磁石
30 駆動軸
50 永久磁石孔
50m 本体部
50m−1 長方形部
50e 延在部
O コアシートの中心