(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237434
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】内燃機関のシリンダブロック
(51)【国際特許分類】
F02F 1/14 20060101AFI20171120BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20171120BHJP
F02F 1/10 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
F02F1/14 C
F01P3/02 S
F01P3/02 X
F02F1/10 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-85962(P2014-85962)
(22)【出願日】2014年4月18日
(65)【公開番号】特開2015-206271(P2015-206271A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】持田 浩明
【審査官】
櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−102924(JP,U)
【文献】
特開平05−321664(JP,A)
【文献】
特開平02−173314(JP,A)
【文献】
特開2012−117399(JP,A)
【文献】
特開2006−046081(JP,A)
【文献】
実開平02−139325(JP,U)
【文献】
特表2010−510438(JP,A)
【文献】
特開2010−096076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/14
F02F 1/10
F01P 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアの周囲を囲みかつ上端がトップデッキに開口したウォータジャケットと、このウォータジャケットの側方に隣接する冷却水入口室と、上記ウォータジャケットのトップデッキ寄りの位置と上記冷却水入口室とを連通するようにシリンダ中心線に対し斜めに延びた冷却水入口通路と、が設けられている内燃機関のシリンダブロックにおいて、
上記冷却水入口室との接続部にバリが残存しないように、上記冷却水入口通路が、上記トップデッキ側から上記ウォータジャケットの上端開口を通して斜めに挿入した工具の円筒面および端面によって機械加工されており、
上記トップデッキから上記冷却水入口通路までの上記ウォータジャケットの内壁面は機械加工されていない鋳造面として残っている、ことを特徴とする内燃機関のシリンダブロック。
【請求項2】
上記の機械加工は、上記冷却水入口通路とウォータジャケットとの接続部にもバリが残存しないように行われている、ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のシリンダブロック。
【請求項3】
シリンダブロックが、V型内燃機関のシリンダブロックであり、
上記冷却水入口室は、両バンクが共用するようにバンク間位置に配置され、
上記冷却水入口通路は、各バンクのトップデッキ付近から上記冷却水入口室へ延びている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関のシリンダブロック。
【請求項4】
上記ウォータジャケットは、上記冷却水入口通路との接続部に、半径方向外側へ部分的に拡大した膨出部を有する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関のシリンダブロック。
【請求項5】
上記冷却水入口通路が、上記膨出部を通して斜めに挿入した工具の円筒面および端面によって機械加工されている、ことを特徴とする請求項4に記載の内燃機関のシリンダブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関のシリンダブロックに関し、特に、冷却水入口室とウォータジャケットとを連通する冷却水入口通路が鋳造により形成されるシリンダブロックの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用内燃機関に代表される水冷式内燃機関のシリンダブロックは、アルミニウム合金等の金属材料を用いて鋳造するのが一般的であり、特許文献1に見られるように、シリンダの周囲を囲むウォータジャケットやこのウォータジャケットに冷却水を導く冷却水入口通路などが鋳造により形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−196449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにウォータジャケットに冷却水を導く冷却水入口通路などを鋳造にて形成した場合、鋳造時のばらつきによって通路断面積のばらつきが大きくなり、製品個々の冷却性能が安定して得られない、という不具合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、シリンダボアの周囲を囲
みかつ上端がトップデッキに開口したウォータジャケットと、このウォータジャケットの側方に隣接する冷却水入口室と、上記ウォータジャケットのトップデッキ寄りの位置と上記冷却水入口室とを連通するようにシリンダ中心線に対し斜めに延びた冷却水入口通路と、が
設けられている内燃機関のシリンダブロックにおいて、
上記冷却水入口室との接続部にバリが残存しないように、上記冷却水入口通路が、上記トップデッキ側から
上記ウォータジャケットの上端開口を通して斜めに挿入した工具の円筒面および端面によって機械加工されて
おり、
上記トップデッキから上記冷却水入口通路までの上記ウォータジャケットの内壁面は機械加工されていない鋳造面として残っている、ことを特徴としている。
【0006】
従って、ウォータジャケットと冷却水入口室とを斜めに接続する冷却水入口通路の通路壁面が、工具の円筒面および端面に沿った機械加工面から構成されることとなり、鋳造時のばらつきに影響されずに通路断面積が精度よく得られる。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、冷却水入口室からウォータジャケットへ冷却水を導く冷却水入口通路の通路断面積のばらつきが少なくなり、所期の冷却性能を安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】この発明に係るシリンダブロックの一実施例の平面図。
【
図4】一方のバンクの膨出部をシリンダ軸線に沿った方向から示した要部拡大図。
【
図5】第1バンクの冷却水入口通路の機械加工工程を示した説明図。
【
図6】第2バンクの冷却水入口通路の機械加工工程を示した説明図。
【
図7】機械加工後の第1バンクの冷却水入口通路を示す断面図。
【
図8】機械加工後の第2バンクの冷却水入口通路を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
図1および
図2は、この発明の一実施例としてV型6気筒内燃機関のシリンダブロック1を示している。このシリンダブロック1は、♯1,♯3,♯5気筒を含む第1バンク2と、♯2,♯4,♯6気筒を含む第2バンク3と、図示せぬクランクシャフトが収容されるクランクケース部4(
図2参照)と、から大略構成されており、例えばアルミニウム合金を用いて、各部一体に鋳造されている。なお、クランクケース部4の底面には、メインベアリングキャップを兼ねた図示せぬロアフレームが取り付けられる。
【0011】
上記第1バンク2および上記第2バンク3は、両者間で適宜なバンク角、例えば60°のバンク角をなすように、互いに傾いており、各バンク2,3においては、それぞれ3つのシリンダボア11が直列に配置されている。
図1に示すように、第2バンク3の3つのシリンダボア11の位置は、第1バンク2の3つのシリンダボア11の位置に対し、それぞれ半気筒分ずつ後方へオフセットしている。これらの第1バンク2および第2バンク3の上部には、図示せぬシリンダヘッドがそれぞれ取り付けられる。
【0012】
各シリンダボア11は、円筒状のシリンダ壁12によって構成されており、このシリンダ壁12の外周側には、同心状をなすようにウォータジャケット壁13が設けられている。そして、これらのシリンダ壁12とウォータジャケット壁13との間に、シリンダボア11を囲むウォータジャケット14が形成されている。このウォータジャケット14は、シリンダボア11の全周に亘ってほぼ一定の半径方向の幅寸法を有し、かつ3つの気筒に亘って連続したものとなるように、気筒列方向に連続している。このウォータジャケット14は、シリンダブロック1の鋳造の際にコアによって形成されるものであり、その上端は、シリンダヘッドの取付面となるトップデッキ15に開口している。
【0013】
2つのバンク2,3に挟まれたバンク間位置には、図示せぬウォータポンプの吐出ポートに接続される冷却水入口室21が設けられている。この冷却水入口室21は、シリンダブロック1の前端部に位置し、シリンダブロック1の前端面から気筒列方向に延びた円筒状の形状をなしている。つまり、基端がシリンダブロック1の前端面に開口し、かつ先端が封止された円形断面の通路状をなしている。この冷却水入口室21は、気筒列方向に、♯2気筒の気筒中心付近の位置まで延びている。なお、図示せぬウォータポンプは、シリンダブロック1前端面に開口した冷却水入口室21の開口部に直接に取り付けるようにしてもよく、あるいは、シリンダブロック1の他の部位に取り付けて、ウォータポンプハウジングなどにより上記冷却水入口室21に冷却水を導く構成としてもよい。
【0014】
上記冷却水入口室21は、第1バンク2および第2バンク3の双方に共通のものであり、冷却水は、この冷却水入口室21から各バンク2,3のウォータジャケット14へ分配される。以下、冷却水入口室21から各バンク2,3へ至る部分の通路構造を説明するが、第1バンク2と第2バンク3とで基本的に同一の構造を有しているので、先ず、第1バンク2について説明する。
【0015】
図1に示すように、冷却水入口室21は♯1気筒のシリンダボア11の側方へと延びており、また、
図3に示すように、シリンダ軸方向の位置として、シリンダボア11全長の中間点よりも僅かに上方(上死点)寄りの位置にある。この冷却水入口室21に対応して、♯1気筒を囲むウォータジャケット14の周方向の一部に、部分的に半径方向外側へ拡大した膨出部14aが形成されている。この膨出部14aは、冷却水入口室21に隣接するバンク内側に位置し、
図1のように略矩形状に半径方向外側へ拡がっているとともに、シリンダ軸方向には、ウォータジャケット14の他の部分と同じ深さを有している。上記膨出部14aは、ウォータジャケット14の一部として、鋳造により形成される。
【0016】
そして、上記膨出部14a内と上記冷却水入口室21とを互いに連通するように、冷却水入口通路23が形成されている。この冷却水入口通路23は、♯1気筒のシリンダ軸線に対し傾斜(詳しくはクランクシャフト中心軸に直交する平面内で上部が気筒中心寄りにかつ下部が気筒外側寄りとなるような傾斜)した方向の孔として形成されている。より詳しくは、鋳造時にコアによって膨出部14aと冷却水入口室21とを接続する傾斜した通路として形成された上で、鋳造後に、ウォータジャケット14との接続部や冷却水入口室21との接続部にバリが残存しないように、二次的に機械加工が施されている。機械加工の工具としては、例えば、円筒面および平坦な端面に刃面を有するエンドミルが用いられる。
【0017】
図5は、機械加工の工程を示す説明図であり、概略的に示した円筒形のエンドミル31を膨出部14aを通してシリンダ軸線に対し斜めに挿入し、円形断面をなす冷却水入口室21の接線方向に沿って加工を行う。これにより、エンドミル31の円筒面31aおよび端面31bによって冷却水入口通路23の円筒状内壁面23aおよび端面23bが加工される。図示のように、比較的大きな径のエンドミル31で加工を行うことにより、エンドミル31の円筒面31aの一部が膨出部14a内の空間と重なっており、実質的には、
図7に示すような略三角形の空間として冷却水入口通路23が形成される。この冷却水入口通路23は、膨出部14aの内壁面に開口し、特に、シリンダ軸方向に長く延びた開口として開口している。
【0018】
このように、鋳造後に機械加工を行うことにより、冷却水入口通路23の一端における冷却水入口室21との接続部や冷却水入口通路23の他端におけるウォータジャケット14との接続部において、鋳造時に残るバリが除去され、それぞれで所期の通路開口面積を確保することができる。
【0019】
ここで、機械加工を行う工具つまりエンドミル31の径や挿入角度は、鋳造時の寸法ばらつきがあったとしても、少なくとも冷却水入口通路23と冷却水入口室21との接続部(つまり冷却水入口通路23の端面23b)にバリが残存しないように設定されている。さらに望ましくは、鋳造時の寸法ばらつきに対し、冷却水入口通路23と冷却水入口室21との接続部および冷却水入口通路23とウォータジャケット14との接続部の双方においてバリが残存しないように、エンドミル31の径や挿入角度が設定される。
【0020】
従って、上記の冷却水入口通路23では、鋳造時の寸法ばらつきがあっても、冷却水入口室21からウォータジャケット14へ至る間で所期の通路断面積を確保でき、安定した冷却水流量ひいては冷却性能が得られる。
【0021】
また、冷却水入口通路23は、冷却水入口室21から斜め上方へ向かって冷却水を案内するので、ウォータジャケット14のトップデッキ15寄りへ冷却水が積極的に導かれ、冷却要求の高いシリンダ壁12のトップデッキ15寄り部分を確実に冷却することができる。
【0022】
以上、第1バンク2について説明したが、第2バンク3においても同様であり、第2バンク3の最前端に位置する♯2気筒のウォータジャケット14に、膨出部14aが形成されており、この膨出部14aと冷却水入口室21とを連通するように、シリンダ軸線に対し傾斜した冷却水入口通路23が形成されている(
図8参照)。この冷却水入口通路23は、やはり、
図6に示すように、円筒形のエンドミル31を膨出部14aから斜めに挿入することにより、接続部にバリが残存しないように機械加工されている。
【0023】
各バンク1,2のウォータジャケット14に設けられる膨出部14aは、上述のようにエンドミル31等の工具を角度を与えて挿入するための空間として利用できることに加えて、
図4(これは一例として第2バンク3側の膨出部14aを示す)に示すように、冷却水入口通路23から流入した冷却水を、さらに2方向に滑らかに分流することに寄与する。すなわち、冷却水入口通路23から膨出部14aに流れ込んだ冷却水は、
図4に矢印W1,W2として示すように、ウォータジャケット壁13に沿って周方向の一方へ向かう流れW1と周方向の他方へ向かう流れW2とに分かれて案内される。これにより、冷却水入口通路23からウォータジャケット14へ流入する冷却水の流れに対する通路抵抗が抑制される。
【0024】
以上、本発明をV型内燃機関に適用した一実施例を説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、例えば、V型内燃機関以外の直列多気筒内燃機関などにも適用することが可能である。また、機械加工の際の工具としてはエンドミルに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0025】
1…シリンダブロック
2…第1バンク
3…第2バンク
12…シリンダ壁
14…ウォータジャケット
14a…膨出部
15…トップデッキ
21…冷却水入口室
23…冷却水入口通路
31…エンドミル