【実施例】
【0016】
以下に、ガスセンサにかかる実施例について、図面を参照して説明する。
本例のガスセンサ1は、
図1に示すごとく、筒形状のハウジング2と、ハウジング2の内周穴21に挿入され、ガスセンサ素子3が挿通された素子体としてのインシュレータ4と、ガスセンサ素子3の一部を覆い、ハウジング2の内周穴21とインシュレータ4との間に挟持されるインナーカバー51及びアウターカバー52とを備えている。ハウジング2の内周穴21は、インシュレータ4の先端側に位置する先端側穴部211と、先端側穴部211よりも後端側に位置して、先端側穴部211よりも拡径した後端側穴部212と、後端側穴部212と先端側穴部211との境界部分に、傾斜状に形成された段差部213とを有している。
図2に示すように、インナーカバー51は、先端側穴部211内に挿入される筒状部511と、筒状部511よりも拡径して段差部213に対面する拡径部513とを有している。インシュレータ4は、その外周から突出して段差部213との間に拡径部513を挟持するための鍔部41を有している。拡径部513の表面には、段差部213の表面に向けて突出する凸部としてのバリ514が設けられている。
【0017】
以下に、本例のガスセンサ1について、
図1〜
図7を参照して詳説する。
ガスセンサ1は、車両の排気管に取り付けられて、排気管から排気される排気ガス中の酸素濃度を測定するものである。ガスセンサ1のインナーカバー51及びアウターカバー52は、排気管内に配置される。
図1に示すように、インナーカバー51及びアウターカバー52には、インナーカバー51内に配置されるガスセンサ素子3の測定部位31に、被測定ガスとしての排気ガスを到達させるための貫通孔515,525が形成されている。インナーカバー51は、アウターカバー52の内周側に重ねられて配置されている。アウターカバー52において貫通孔525が設けられた軸方向Lの位置は、インナーカバー51において貫通孔515が設けられた軸方向Lの位置と異なっている。
【0018】
なお、軸方向Lとは、ハウジング2の内周穴21の形成方向のことをいい、中心軸線とは、ハウジング2の内周穴21の中心を通る仮想線のことをいう。
また、先端側とは、ハウジング2からインナーカバー51及びアウターカバー52が突出する側、あるいはインシュレータ4からガスセンサ素子3の測定部位31が突出する側のことをいい、後端側とは先端側とは反対側のことをいう。
【0019】
図1に示すように、本例の拡径部513は、インナーカバー51の筒状部511の後端部において、後端側に行くほど拡径する傾斜状に形成されている。拡径部513は、軸方向Lに平行な筒状部511の後端部から、傾斜する状態に折れ曲がったフランジ部として形成されている。インナーカバー51及びアウターカバー52は、有底円筒形状に形成されており、円筒形状の筒状部511,521と、筒状部511,521の先端部に形成された底部512,522とを有している。貫通孔515,525は、筒状部511,521及び底部512,522に形成されている。
【0020】
インシュレータ4の中心部には挿通穴42が形成されており、ガスセンサ素子3は挿通穴42に挿通されている。ガスセンサ素子3における、酸素濃度を測定するための測定部位31は、インシュレータ4から軸方向Lの先端側に突出して配置されている。インシュレータ4における鍔部41は、全周が拡径する状態に突出して形成されている。鍔部41における先端側面411は、拡径部513が形成された傾斜角度と略同じ傾斜角度で形成されている。
ハウジング2の内周穴21における先端側穴部211には、インナーカバー51の筒状部511における軸方向Lの後端側部分及びアウターカバー52の筒状部521における軸方向Lの後端側部分が挿入配置される。また、ハウジング2における段差部213の表面は、後端側に行くほど拡径する傾斜状に形成されている。
【0021】
図3に示すように、本例のインナーカバー51の拡径部513の表面に設けられたバリ514は、インナーカバー51を加工する際に、拡径部513の表面から先が尖った形状に突出して形成されたバリ514である。バリ514は、拡径部513の後端部の表面から、先端側に突出して形成されている。このバリ514は、インナーカバー51の素材を母材から切断して切り出す際に、この素材の端部に形成される突起とすることができる。
【0022】
また、
図1に示すように、インナーカバー51の筒状部511とアウターカバー52の筒状部521とは、部分的に設けられた溶接部6によって互いに溶接されている。溶接部6は、ハウジング2の先端側穴部211に接触可能な状態で、アウターカバー52の外周から膨らむ形状に形成されている。溶接部6は、インナーカバー51の筒状部511及びアウターカバー52の筒状部521の周方向の全周に一巡して設けられている。ここで、周方向とは、軸方向Lに平行な、インナーカバー51及びアウターカバー52の中心軸線の周りの方向のことをいう。
【0023】
また、
図3に示すように、インナーカバー51の筒状部521に対して拡径部513が折り曲げられた内側部分の折曲起点P1から、アウターカバー52の後端面526までの距離Bは、インナーカバー51の厚みをtとしたとき、B>2tとすることが好ましい。
図4は、距離Bと、インナーカバー51に発生する応力との関係を示すグラフである。同図において、距離Bが大きくなるに連れて、応力が減少していることがわかる。この応力は、アウターカバー52の後端部から、インナーカバー51の折曲起点に作用する。そして、B>2tとすることにより、インナーカバー51に発生する応力を低減することができる。
【0024】
次に、本例のガスセンサ1を組み付ける方法と、本例のガスセンサ1の作用効果について説明する。
図1、
図2に示すように、ガスセンサ1を組み付ける際には、ハウジング2の内周穴21にインナーカバー51及びアウターカバー52を挿入し、インナーカバー51の内周側にインシュレータ4を挿入する。このとき、ハウジング2の内周穴21における先端側穴部211にインナーカバー51の筒状部511が挿入され、ハウジング2の内周穴21における段差部213にインナーカバー51の拡径部513が対面する。また、インナーカバー51の拡径部513における後端側面に、インシュレータ4の鍔部41における先端側面411が対面する。
【0025】
また、ハウジング2の内周穴21にインナーカバー51、アウターカバー52及びインシュレータ4が挿入された状態において、ハウジング2の内周穴21における後端側穴部212とインシュレータ4の外周との間には、タルク等の絶縁性粉末23が充填される。後端側穴部212とインシュレータ4の外周との間における、絶縁性粉末23の後端側には絶縁碍子24が配置される。そして、ハウジング2の後端部に形成されたかしめ部22を先端側にかしめることによって、インシュレータ4の鍔部41の後端側面412とかしめ部22との間に、絶縁性粉末23及び絶縁碍子24を挟み込みながら、ハウジング2の段差部213とインシュレータ4の鍔部41の先端側面411との間にインナーカバー51の拡径部513が挟持される。
【0026】
このかしめを行うときには、拡径部513を段差部213に押し付ける力が作用し、拡径部513の後端部の表面に設けられたバリ514が、弾性変形及び塑性変形をしながら段差部213の表面に食い込む。このバリ514の食い込みにより、ハウジング2の内周穴21に対してインナーカバー51及びアウターカバー52が平行に挿入された状態を維持することができる。これにより、ハウジング2の内周穴21の中心軸線に対して、インナーカバー51及びアウターカバー52の中心軸線が傾いてしまうことが防止される。
また、バリ514の食い込みによって、インナーカバー51及びアウターカバー52が、その中心軸線の回りに回転してしまうことを抑制することができる。
【0027】
また、上記かしめを行うときには、拡径部513におけるバリ514が弾性変形又は塑性変形をすることにより、インシュレータ4が受ける反力が低減される。また、このバリ514が弾性変形又は塑性変形をすることにより、インシュレータ4が受ける反力が低減されながら、インナーカバー51及びアウターカバー52の傾きが矯正される。そのため、インナーカバー51の拡径部513がインシュレータ4に不適切に干渉することが防止される。
それ故、本例のガスセンサ1によれば、ハウジング2の内周穴21に対するインナーカバー51及びアウターカバー52の傾きを防止して、インシュレータ4に損傷又は破損が生じることを防止することができる。
【0028】
また、ハウジング2の段差部213とインナーカバー5の拡径部513との少なくとも一方に形成される凸部は、インナーカバー51を加工する際に形成されるバリ514とする以外にも、次の種々の構成とすることもできる。
例えば、
図5に示すように、ハウジング2の段差部213の先端部の表面から、先が尖った形状の凸部214を形成することもできる。
また、
図6に示すように、凸部は、インナーカバー51の拡径部513に加工を行って形成した複数の突起514Aとすることもできる。また、凸部としての複数の突起214Aは、ハウジング2の段差部213の表面に形成することもできる。この場合、ハウジング2の段差部213の表面に加工を行って複数の突起214Aを形成することができる。
【0029】
さらに、複数の突起514Aは、
図6、
図7(a)に示すように、インナーカバー51の拡径部513の径方向に凹凸が繰り返し形成される形状とすることができる。また、
図7(b)に示すように、複数の突起514Bは、インナーカバー51の拡径部513の周方向に凹凸が繰り返し形成される形状とすることもできる。また、
図7(c)に示すように、複数の突起514Cは、インナーカバー51の拡径部513の周方向に並ぶ、複数のディプル状の突起(複数の独立した島形状の突起)とすることもできる。また、
図7(b)、
図7(c)の場合においても、ハウジング2の段差部213の表面に、凸部としての複数の突起が形成されていてもよい。なお、
図7(a)〜(c)においては、凹部を符号516によって示す。
【0030】
図7(a)〜(c)の場合においては、上記かしめを行う際に、インナーカバー51の拡径部513をハウジング2の段差部213に押し付ける力が作用したときに、拡径部513における複数の突起514B,514Cと段差部213とが接触する部分には、面圧が高い部分が形成される。これにより、インナーカバー51に押付力が付与されるときに、インナーカバー51が、内周側にずれにくく、かつ中心軸線の回りに回転しにくくすることができる。
【0031】
また、素子体はインシュレータ4とする以外にも、ガスセンサ素子を構成する固体電解質体とすることもできる。この固体電解質体は、有底円筒形状とし、インシュレータ4の鍔部41と同様の形状の鍔部を有するものとする。この固体電解質体の内周面及び外周面には、排気ガス中の酸素濃度を測定するための一対の電極が設けられる。
【0032】
また、
図8に示すように、インナーカバー51には拡径部513を形成せず、アウターカバー52に拡径部523を形成してもよい。この場合、アウターカバー52の拡径部523に凸部524が設けられる。また、ガスセンサ1において、インナーカバー51とアウターカバー52との二重構造を採用する以外にも、一重構造のカバーを採用することもできる。この場合には、一重構造のカバーの後端部に拡径部513を形成することができる。
【0033】
また、
図9(a)〜(c)に示すように、インナーカバー51及びアウターカバー52に、互いに重なる拡径部513A,523Aをそれぞれ形成することもできる。この場合には、
図9(a)に示すように、拡径部513A,523Aの先端部は互いに揃えることができる。また、
図9(b)に示すように、拡径部523Aの先端部を拡径部513Aの先端部よりも外周側に突出させることもできる。さらに、
図9(c)に示すように、拡径部513Aの先端部を拡径部523Aの先端部よりも外周側に突出させることもできる。