【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、平坦路を走行中の産業車両が登坂路に進入すると、車速が低下して平坦路での走行時における十分な車速を出すことができないという問題が生じるおそれがある。
例えば、平坦路を一定速度により走行している産業車両が高勾配の登坂路に進入すると、登坂路において一定速度を出すことができないという場合である。
因みに、特許文献1に開示された車両の制御装置は、勾配路における発進時の応答性を向上する技術に過ぎず、産業車両が平坦路から登坂路へ進入して平坦路での走行時における車速を出すことができないという問題を解決するものではない。
そこで、登坂路に進入した場合には、産業車両の駆動装置に対して登坂路の勾配に応じた出力制御を行う必要がある。例えば、産業車両に勾配検出センサを設けておき、勾配検出センサの勾配検出値に基づいて、駆動装置に対する出力制御を行えばよい。
しかしながら、産業車両が旋回すると、勾配検出センサは旋回による加速度の影響を受け、平坦路であっても登坂路としての勾配を示す勾配検出値を出力し、平坦路を登坂路として誤検出するという問題がある。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、車体の旋回により勾配検出センサが勾配を誤検出しても、駆動装置に対する出力制御を変更することのない産業車両の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、車体に搭載される走行用の駆動装置と、前記駆動装置に対する出力制御を行う制御装置とを備えた産業車両において、路面の勾配を検出する勾配検出センサと、前記車体の旋回を検出する旋回検出手段と、を備え、前記制御装置は
、前記勾配検出センサが検出する勾配検出値が予め設定した勾配設定値以上
で、前記旋回検出手段が前記車体の旋回を検出しなかった場合、前記駆動装置に対する出力を増大させる出力制御を行い
、前記勾配検出センサが検出する勾配検出値が前記勾配設定値以上で、前記旋回検出手段が前記車体の旋回を検出した
場合、および、前記勾配検出センサが検出する勾配検出値が前記勾配設定値未満の場合、前記駆動装置に対する出力を変更せず現状維持とする
ことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、制御装置は、
勾配検出センサが検出する勾配検出値が予め設定した勾配設定値以上で、旋回検出手段が車体の旋回を検
出した場合、および、勾配検出センサが検出する勾配検出値が勾配設定値未満の場合、駆動装置に対して出力制御を変更せず現状維持する出力制御を行う。
一方、制御装置は
、勾配検出センサが検出する勾配検出値が予め設定した勾配設定値以上
で、前記旋回検出手段が前記車体の旋回を検出しなかった場合、駆動装置に対する出力を増大させる出力制御を行なう。
その結果、勾配検出センサが旋回に伴う加速度の影響により勾配を誤検出しても、駆動装置に対する出力制御が変更されることはない。
また、車体の旋回が検出されず、勾配検出センサが検出する勾配検出値が予め設定した勾配設定値以上のとき、路面の勾配に応じた駆動装置に対する出力制御を行うことができる。
【0009】
また、上記の産業車両において、前記車体は操舵可能な操舵輪を備え、前記旋回検出手段は、前記操舵輪のタイヤ角を検出するタイヤ角検出センサを備え、前記タイヤ角検出センサにより検出されるタイヤ角検出値に基づいて前記車体の旋回を検出する構成としてもよい。
この場合、タイヤ角検出センサが操舵輪のタイヤ角検出値を検出し、タイヤ角検出値に基づいて、車体の旋回の有無を判別することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車体の旋回により勾配検出センサが勾配を誤検出しても、駆動装置に対する出力制御を変更することのない産業車両を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る産業車両としてのフォークリフトを図面に基づいて説明する。
なお、方向を特定する「前後」、「左右」および「上下」については、フォークリフトのオペレータが運転席の運転シートに着座して、フォークリフトの前進側を向いた状態を基準として示す。
【0013】
図1に示すように、産業車両としてのフォークリフト10は、車体11の前部に荷役手段としての荷役装置12を備えている。
車体11の中央付近には運転席13が設けられており、車体11における運転席13の下方にはバッテリ14が収容されている。
車体11の前部には前輪としての駆動輪15が設けられ、車体11の後部には後輪としての操舵可能な操舵輪16が設けられている。
車体11には、走行駆動力を生じる走行用の駆動装置としての走行モータ17が設けられている。
走行モータ17と駆動輪15との間には、動力伝達機構(図示せず)が設けられ、動力伝達機構は走行モータ17の走行駆動力を駆動輪15へ伝達する。
本実施形態のフォークリフト10は、車体11に搭載されたバッテリ14の電力により作動するバッテリフォークリフトである。
【0014】
荷役装置12はアウタマスト19およびインナマスト(図示せず)を有するマスト18を備えている。
左右一対のアウタマスト19には、アウタマスト19の内側にてスライド可能なインナマストが備えられている。
アウタマスト19には油圧により作動するティルトシリンダ20が設置されており、ティルトシリンダ20の作動により、マスト18が前後方向に傾動する。
インナマストには油圧により作動するリフトシリンダ21が設けられており、リフトシリンダ21の作動により、インナマストがアウタマスト19内でスライドして昇降する。
マスト18には左右一対のフォーク22がリフトブラケット23を介して設けられ、リフトブラケット23はインナマストに対して昇降するように設けられている。
【0015】
車体11における運転席13には、オペレータが着座可能な運転シート24が設けられている。
運転シート24は車体
11に設けられたシートスタンド25上に配置されている。
運転シート24の前方には、操舵のためのステアリングホイール26が設けられている。
運転席13の床にはアクセルペダル27が設けられており、アクセルペダル27はフォークリフト10の車速を調整するためのものである。
フォークリフト10は、オペレータによるアクセルペダル27の踏み込み量に応じた車速となるように走行モータ17の駆動を制御する。
車体11は、フォークリフト10の各種制御を行うコントローラ29を搭載している。
ステアリングホイール26の前部にはディスプレイユニット28が設けられている。
ディスプレイユニット28は、車体11において着座したオペレータから視認しやすい位置に設置されている。
【0016】
図2に示すように、車体11には操舵輪16のタイヤの角度(タイヤ角)θを検出するタイヤ角検出センサ31が設けられている。
タイヤ角検出センサ31は、例えば、操舵輪16の操舵軸(図示せず)に設けられたポテンショメータである。
このタイヤ角検出センサ31は、ステアリングホイール26の右操舵または左操舵に対応する操舵輪16のタイヤ角θを検出する。
なお、操舵輪16のタイヤ角θは、フォークリフト10が直進するときの状態を基準とした角度である。
タイヤ角θは、例えば、右側操舵時のタイヤ角範囲(0〜+90゜)および左側操舵時のタイヤ角範囲(0〜−90゜)が設定されている。
タイヤ角検出センサ31は、進行方向に対する操舵輪16のタイヤ角θを常に検出する。
【0017】
図2に示すように、車体11には、勾配検出センサ32が設けられている。
勾配検出センサ32は、車体11の前後の傾斜から路面の勾配を検出し、勾配検出値の信号を出力するセンサである。
本実施形態の勾配検出センサ32は、センサ本体(図示せず)の内部に封入された液体の液面とセンサ本体との傾斜により路面の勾配を検出する液面式のセンサである。
【0018】
次に、フォークリフト10における走行モータ17の出力制御の概略構成について説明する。
図3に示すように、本実施形態のコントローラ29は、走行モータ17の駆動制御を行う駆動回路30と接続されている。
走行モータ17は駆動回路30を介してバッテリ14の電力供給を受けることができるように接続されている。
走行モータ17はコントローラ29の指令に基づいて駆動回路30が作動することにより駆動される。
この実施形態では、コントローラ29は制御装置に相当し、図示はしないが各種の制御を所定の手順で実行するCPU、各種のデータを記憶するメモリ等を備えている。
コントローラ29に備えられたメモリ(図示せず)には、走行モータ17の駆動トルクの制御を行うためのプログラムが格納されている。
【0019】
コントローラ29は、運転席13に設けられたディスプレイユニット28と通信可能に接続されている。
ディスプレイユニット28は、各種情報を表示する表示手段としての表示部(図示せず)を有するほか、入力手段としてのキーボード部(図示せず)を備えている。
また、コントローラ29はタイヤ角検出センサ31と接続されており、タイヤ角検出センサ31の検出値の信号の伝達を受ける。
【0020】
本実施形態では、コントローラ29は、タイヤ角比較手段としてのタイヤ角比較部33を備えている。
タイヤ角比較部33は、操舵輪16のタイヤ角θについて予め設定されたタイヤ角設定値とタイヤ角検出センサ31により検出されるタイヤ角検出値とを比較する。
コントローラ29には、操舵輪16のタイヤ角θについて予め設定された設定値が記憶されている。
コントローラ29では、タイヤ角比較部33によるタイヤ角設定値とタイヤ角検出値との比較結果に基づいて車体11の旋回の有無を認識する。
タイヤ角検出センサ31がタイヤ角設定値未満(右側操舵時のタイヤ角設定値および左側操舵時のタイヤ角設定値)のタイヤ角検出値を検出したとき、コントローラ29は車体11が旋回していると認識しない。
タイヤ角検出センサ31がタイヤ角設定値以上のタイヤ角検出値を検出したとき、コントローラ29は車体11が旋回していると認識する。
つまり、コントローラ29は、タイヤ角検出センサ31が検出するタイヤ角検出値に基づいて車体11の旋回の有無を判定する。
従って、本実施形態では、タイヤ角検出センサ31およびコントローラ29は、車体11の旋回を検出する旋回検出手段に相当する。
【0021】
また、コントローラ29は、車体11に設けた勾配検出センサ32と接続されており、勾配検出センサ32により検出される勾配検出値の信号の伝達を受ける。
本実施形態のコントローラ29は、勾配比較手段としての勾配検出値比較部34を備えている。
勾配検出値比較部34は、予め設定された勾配設定値と勾配検出値とを比較する。
本実施形態では、コントローラ29に予め設定した勾配設定値が記憶されている。
車体11の旋回が検出されず、勾配検出センサ32により検出された勾配検出値が勾配設定値以上のときに、コントローラ29は、勾配検出値に基づいて駆動回路30に対して走行モータ17の駆動トルクを所定割合で増大させる出力制御を指令する。
一方
、勾配検出値が勾配設定値未満のときには、コントローラ29は、勾配検出値に基づいて駆動回路30にして走行モータ17の駆動トルクを増大させる出力制御は行わず、走行モータ17の駆動トルクの出力制御を現状維持とする。
なお、勾配設定値は、ディスプレイユニット28のキーボード部の入力操作により変更可能である。
【0022】
図4に示すコントローラ29による出力制御の手順について具体的に説明すると、まず、コントローラ29は、勾配検出センサ32の勾配検出値が勾配設定値以上であるか否かを判定する(ステップS1を参照)
勾配検出センサ32の勾配検出値が勾配設定値以上である場合はステップS2へ進む。
勾配検出センサ32の勾配検出値が勾配設定値未満である場合は、ステップS4へ進み、走行モータ17に対する出力制御を変更せず現状維持とする。
ステップS2では、タイヤ角検出センサ
31のタイヤ角検出値がタイヤ角設定値未満か否かを判定するが、タイヤ角検出センサ
31のタイヤ角検出値がタイヤ角設定値未満の場合は、ステップS3へ進む。
タイヤ角検出センサ31のタイヤ角検出値が設定値以上の場合は、ステップS4へ進み、走行モータ17に対する出力制御を変更せず現状維持とする。
ステップS3では、勾配検出値に基づいて駆動回路30に対して走行モータ17の駆動トルクを所定の割合で増大させる出力制御を指令する。
図4に示す出力制御の一連の手順を実行するプログラムは、コントローラ29に備えられたメモリに格納されている。
【0023】
例えば、平坦路の発進時において車体11が旋回する場合、勾配検出センサ32は旋回時の加速度の影響を受けて勾配を誤検出し、例えば、
図5に示すように、時間経過とともに勾配を示す勾配検出値を示す。
この場合、コントローラ29ではステップS2において、タイヤ角検出センサ31のタイヤ角検出値がタイヤ角設定値以上と判定されるため、ステップS4へ進み、走行モータ17に対する出力制御は変更されず現状維持のままである。
つまり、コントローラ29は、勾配検出センサ32の誤検出に基づく走行モータ17に対する駆動トルクの所定割合を増大する出力制御の指令を出さない。
【0024】
次に、平坦路を走行中のフォークリフト10が勾配設定値以上に勾配を有する登坂路に直進により進入する場合について考える。
この場合、ステップS1において、勾配検出センサ32の勾配検出値が勾配設定値以上であると判定されてステップS2へ進む。
ステップS2において、タイヤ角検出センサ31のタイヤ角検出値がタイヤ角設定値未満と判定される。
このため、ステップS3へ進み、勾配検出値に基づいて駆動回路30に対して走行モータ17の駆動トルクを所定割合で増大させる出力制御を行う。
つまり、コントローラ29は、フォークリフト10が車体11の旋回はなく勾配のある登坂路を走行していると認識でき、勾配に応じて走行モータ17の駆動トルクを所定の割合で増大させる出力制御を行うことができる。
従って、平坦路を走行中のフォークリフト10が登坂路に進入しても、平坦路での走行時における車速(例えば、最高速度)を出すことができる。
なお、勾配設定値以上の勾配を有する登坂路を直進して走行するフォークリフト10が登坂路の走行中にタイヤ角設定値以上のタイヤ角にて旋回すると、勾配に応じて走行モータ17の駆動トルクを所定の割合で増大させる出力制御は中止される。
この場合、フォークリフト10は平坦路の走行における通常の駆動トルクの出力制御により走行する。
【0025】
本実施形態によれば以下の作用効果を奏する。
(1)タイヤ角検出値に基づいて車体11の旋回が検出されると、コントローラ29は駆動回路30に対して走行モータ17の駆動トルクを変更せず現状維持とする出力制御を行う指令を出す。一方、コントローラ29は、車体11の旋回が検出されず、勾配検出センサ32が検出する勾配検出値が予め設定した勾配設定値以上のとき、駆動回路30に対して走行モータ17に対する駆動トルクを所定割合にて増大させる出力制御の指令を出す。その結果、勾配検出センサ32が車体11の旋回に伴う加速度の影響を受けて勾配を誤検出しても、走行モータ17に対する出力制御を変更することなく現状維持とすることができる。また、車体11の旋回が検出されず、勾配検出センサ32が検出する勾配検出値が予め設定した勾配設定値以上のとき、路面の勾配に応じて走行モータ17の駆動トルクを所定割合にて増大する出力制御を行うことができる。そして、平坦路を走行中のフォークリフト10が登坂路に進入しても、平坦路での走行時における車速(例えば、最高速度)を出すことができる。
【0026】
(2)旋回検出手段をタイヤ角検出センサ31とコントローラ29としているため、車体11の旋回を簡単に検出することができるほか、車体11の旋回を検出するための手段を他に設ける必要がない。また、タイヤ角検出センサ31のタイヤ角検出値が予め設定したタイヤ角設定値未満では車体11の旋回が検出されず、タイヤ角設定値以上では車体11の旋回が検出されるように設定されている。このため、完全な直進だけでなくほぼ直進状態の場合に対しても、路面の勾配に応じて走行モータ17の駆動トルクを所定割合にて増大させる出力制御ができる。
【0027】
(3)勾配設定値は、ディスプレイユニット28への入力により簡単に変更することができるから、例えば、フォークリフト10のオペレータ毎の希望に応じることも可能であり、フォークリフト10の使用条件や使用環境に合わせて勾配設定値を設定できる。
【0028】
(4)勾配設定値以上の勾配を有する登坂路を直進して走行するフォークリフト10が登坂路の走行中に旋回すると勾配に応じて走行モータ17の駆動トルクを所定の割合で増大させる出力制御は中止される。フォークリフト10が登坂路を旋回しつつ走行する場合には走行モータ17の動力を抑制することができる。
【0029】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0030】
○ 上記の実施形態では、車体の旋回を検出する旋回検出手段の一部としてタイヤ角検出センサを用いたがこの限りではない。車体の旋回を検出する旋回検出手段の一部としてはタイヤ角検出センサ以外の手段、例えば、ステアリングホイールのステアリング角度を検出するステアリング角検出センサや、角速度の検出により車体の旋回を検出するジャイロセンサを用いてもよい。
○ 上記の実施形態では、勾配検出センサとして液面式のセンサを採用したが、勾配検出センサは液面式のセンサに限定されない。勾配検出センサは、例えば、センサ本体の内部に振り子を備えた振り子式であってもよい。
○ 上記の実施形態では、勾配設定値をディスプレイユニットの入力により変更可能としたが、勾配設定値は固定してもよい。また、予め、通常パワーモードと通常パワーモードと比べて駆動トルクが増大されるハイパワーモードといった走行モードを設定してもよい。この場合、勾配補正値が勾配設定値以上の場合には、走行モードを通常パワーモードからハイパワーモードに切り替えるようにして出力制御を行ってもよい。
○ 上記の実施形態では、コントローラが旋回検出手段の一部と制御装置に相当するとしたが、旋回検出手段の一部と制御装置を個別に設けるようにしてもよい。
○ 上記の実施形態では、産業車両としてのバッテリフォークリフトについて説明したが、本発明は、例えば、エンジンフォークリフトに適用することも可能である。また、産業車両はフォークリフト以外に牽引車や建設車両を含む。