特許第6237466号(P6237466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237466
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/30 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   B60N2/30
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-106666(P2014-106666)
(22)【出願日】2014年5月23日
(65)【公開番号】特開2015-221620(P2015-221620A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三橋 篤敬
(72)【発明者】
【氏名】林 耕治
【審査官】 渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0056459(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0001394(US,A1)
【文献】 特開平07−117540(JP,A)
【文献】 特開平07−144564(JP,A)
【文献】 特開2000−247170(JP,A)
【文献】 米国特許第06079763(US,A)
【文献】 独国特許出願公開第102005056570(DE,A1)
【文献】 特開2010−264954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00− 2/72
A47C 1/00− 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックを前に倒し込む動きによってシートクッションを下方側へ沈み込ませるチルトダウン機構を備えた乗物用シートであって、
前記チルトダウン機構は、前記シートクッションの後部をフロア上のベースに回転可能に連結する回転軸、前記シートクッションの前部と前記ベースと繋ぐフロントリンク記フロントリンクと前記シートバックとを繋ぐ動力伝達部材と、を有し、前記シートバックが前に倒し込まれる動きによって前記動力伝達部材が前記フロントリンクを倒して前記シートクッションの前部を前記回転軸を中心に下方側へ沈み込ませる構成となっており、
前記動力伝達部材が、可撓性の柔軟部材により構成されて前記シートバックが前に倒し込まれる動きを前記フロントリンクに後側へ倒し込む引張り力として伝達するよう所定箇所が曲げられた形にガイドされて設けられ、
当該乗物用シートが、更に、前記シートバックと前記シートクッションとの間に繋がれて、前記シートバックを前倒れ位置から後側に起こし上げる動きによって前記シートクッションを沈み込み位置から引き上げるリンク部材を有することを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートであって、
前記フロントリンクの前記シートクッションの前部に対する連結が前記シートクッションの前部に形成された前後方向に延びる長孔に前記フロントリンクに設けられたピンが回転可能かつスライド可能に組み付けられた連結とされると共に、前記ピンに前記長孔の前端に当てられるスライド方向のバネ付勢力が掛けられた構成とされ、
前記フロントリンクが、前記シートバックの前に倒し込まれる動きによって前記ピンを前記長孔の前端からバネ付勢力に抗して後側へとスライドさせながら後側へ倒し込まれ、前記シートバックの前倒れ位置からの起こし上げに伴う前記シートクッションの引き上げにより前記ピンをバネ付勢力により前記長孔の前端に押し当てる回転位置まで起こし上げられることを特徴とする乗物用シート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の乗物用シートであって、
更に、前記可撓性の柔軟部材から成る動力伝達部材の途中箇所を前記シートクッションの前後方向の略中央箇所にて山状に曲げる形にあてがうガイドを有することを特徴とする乗物用シート。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の乗物用シートであって、
更に、前記可撓性の柔軟部材から成る動力伝達部材を前記シートバックに取り付けて該シートバックが前に倒し込まれる動きによって前記動力伝達部材を周囲に巻き付ける取付部を有することを特徴とする乗物用シート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の乗物用シートであって、
前記動力伝達部材は、前記シートバックが背凭れ角度の調整領域内を前に越えた所定の前傾角度から先の倒れ込み領域において前記シートバックの前に倒し込まれる動きを前記フロントリンクに倒し込むための力として伝達し、前記倒れ込み領域から後側の領域では前記シートバックから前記フロントリンクへの動力の伝達を逃がす構成となっていることを特徴とする乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに関する。詳しくは、シートバックを前に倒し込む動きによってシートクッションを下方側へ沈み込ませるチルトダウン機構を備えた乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用のシートにおいて、シートバックを前に倒し込む動きによってシートクッションを下方側へ沈み込ませて、シート全体を低く沈み込ませるようにする、いわゆるチルトダウン機構を備えたものが知られている(特許文献1)。上記チルトダウン機構は、シートクッションの後部をリンクによってシートバックに吊持させた構成となっており、シートバックが前に倒し込まれる動きによってシートクッション全体を前下方向に斜めに押し下げる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−154682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術は、シートクッション全体が下方側に沈み込まれる構成のため、床下領域にハイブリッド用バッテリが埋設されているなど、沈み込みスペースを深く取れない構成に対して不適である。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、シートクッションを狭い沈み込みスペースでも効果的に沈み込ませることのできるチルトダウン機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の乗物用シートは次の手段をとる。
【0006】
第1の発明は、シートバックを前に倒し込む動きによってシートクッションを下方側へ沈み込ませるチルトダウン機構を備えた乗物用シートである。チルトダウン機構は、シートクッションの後部をフロア上のベースに回転軸により連結し、シートクッションの前部をフロントリンクを介して上記ベースに連結し、更にフロントリンクとシートバックとを繋ぐ動力伝達部材を備えて、シートバックが前に倒し込まれる動きによって動力伝達部材がフロントリンクを倒してシートクッションの前部を回転軸を中心に下方側へ沈み込ませる構成となっている。
【0007】
この第1の発明によれば、チルトダウン機構により、シートクッションは、その後部の回転軸を中心に、前部が落とし込まれる態様でフロア上に沈み込まれる。一般に、シートクッションは、その後部領域では、着座圧の高い尻部を支えるためにパッド厚が厚めに設定され、大腿部を支える前部領域では、上記に比べてパッド厚が薄めに設定されると共に尻部の前滑りを防止するために前上がり形状とされているものが多い。したがって、シートクッションを上記のように後部の回転軸を中心に前部を落とし込む態様でフロア上に沈み込ませる構成とすることで、シートクッションを狭い沈み込みスペースでも効果的に沈み込ませることができる。このような構成は、シートクッションの沈み込みスペースが狭いものへの適用に限らず、広いものへの適用も可能であり、シートクッションの沈み込ませ方の1つとして様々なタイプの構成に適用することができるものである。
【0008】
第2の発明は、上述した第1の発明において、次の構成とされているものである。動力伝達部材が、可撓性の柔軟部材によって構成されており、シートバックの前に倒し込まれる動きをフロントリンクに倒し込むための引張り力として伝達するように、所定箇所が曲げられた形にガイドされて設けられている。
【0009】
この第2の発明によれば、可撓性の柔軟部材を用いることで、動力伝達部材を簡単でかつ設置スペースの自由度の高い構成とすることができる。
【0010】
第3の発明は、上述した第1又は第2の発明において、次の構成とされているものである。動力伝達部材は、シートバックが背凭れ角度の調整領域内を前に越えた所定の前傾角度から先の倒れ込み領域においてシートバックの前に倒し込まれる動きをフロントリンクに倒し込むための力として伝達し、上記倒れ込み領域から後側の領域ではシートバックからフロントリンクへの動力の伝達を逃がす構成となっている。
【0011】
この第3の発明によれば、シートバックの背凭れ角度を調整する際に、フロントリンクが誤って倒されるといった不測の事態を起こりにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の乗物用シートの構成を表した斜視図である。
図2】シートバックの側面図である。
図3】シートバックの背凭れ角度を後傾させた状態を表した側面図である。
図4】シートバックを前傾位置まで倒し込んだ状態を表した側面図である。
図5】シートバックを前傾位置から更に前に倒し込んでいく途中の状態を表した側面図である。
図6】シートバックを前に倒し込んでシートクッションを下方側に沈み込ませた状態を表した側面図である。
図7】シートバックを前に倒した位置から起こし上げていく途中の状態を表した側面図である。
図8図2のVIII部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0014】
始めに、実施例1のシート1の構成について、図1図8を用いて説明する。本実施例のシート1は、図1に示すように、自動車のリヤシートとして構成されており、その背後には車両のラゲージスペースLSが形成された構成となっている。上記シート1は、着座乗員の背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、を有する。上記シート1は、シートバック2の背凭れ角度を調整することのできるリクライニング機構RECと、シートバック2を前に倒し込む動きによってシートクッション3を下方側へ沈み込ませるチルトダウン機構TD(図4図6)と、を備えている。
【0015】
前者のリクライニング機構RECは、シートバック2の背凭れ角度を車体側部に対して固定する構成となっており、シートバック2の車体側部に対する固定位置を変えることでシートバック2の背凭れ角度を変える構成となっている。後者のチルトダウン機構TDは、図4図6に示すように、シートバック2を前に倒し込む動きに連動させてシートクッション3をフロアF上に落とし込んで、シートバック2を図6に示すようにラゲージフロアLFと面一状となる低い位置まで倒し込めるようにする構成となっている。
【0016】
本実施例のシート1は、上記チルトダウン機構TDにより、シートバック2を前に倒し込む動きに合わせてシートクッション3を下方側に落とし込める構成となっていても、シートバック2を背凭れ角度の調整領域内で傾動させる時にはシートクッション3を動かさないようにすることができる構成となっている。このような構成となっていることにより、シートバック2の背凭れ角度を変化させても、シートクッション3を常に定位置に保持して、良好な乗り心地を維持することができるようになっている。以下、上述したシート1の各部の具体的な構成について詳しく説明する。
【0017】
シートバック2は、図1に示すように、その左右両サイドの下端部が、フロアF上に固定された左右一対の各リヤベースFBに対して、それぞれ回転軸2Aにより前後方向に回転可能となるように連結された状態とされている。具体的には、上記シートバック2は、その骨格を成すバックフレーム2Fの左右両サイドの下端部に結合された各ブラケット2Bが、それぞれ、フロアF上に固定された左右一対の各リヤベースFBに対して、シート幅方向に軸方向を向ける各回転軸2Aにより回転可能に連結された構成となっている。
【0018】
そして、上記シートバック2は、図示は省略されているが、その図示向かって左側となる車両外側の肩口部に設けられたロック装置が、車体側部に設けられたストライカにロックされることにより、その背凭れ角度が固定された状態とされている。上記不図示のストライカは、車体側部に対して前後方向にスライド可能に取り付けられており、スライドさせた各位置でロックできるようになっている。これにより、上記ストライカによって固定されるシートバック2の背凭れ角度を、ストライカのスライド位置を変えることで調整することができるようになっている(リクライニング機構REC)。
【0019】
上記不図示のストライカの可動範囲は、図2図3に示すように、シートバック2を直立姿勢から後傾させる角度範囲の間に設定されている。これにより、上記ストライカの可動範囲内において、シートバック2の背凭れ角度を車体側部に対して調整可能に固定することができるようになっている。なお、上述したリクライニング機構REC(図1参照)の具体的な構成は、特許第5382709号等の文献に開示された公知の構成と同じとなっているため、これについての詳細な説明は省略することとする。上記シートバック2は、上記ストライカに対するロック状態を外すことにより、図4図6に示すように、上述した背凭れ角度の調整可能範囲を越えて前方側に倒れ込むことができるようになっている。
【0020】
シートクッション3は、図1に示すように、その左右両サイドの後端部が、上述したフロアF上に固定された左右一対の各リヤベースFBに対して、それぞれシート幅方向に長尺な1本の回転軸3Aにより高さ方向に回転可能となるように連結された状態とされている。具体的には、上記シートクッション3は、その骨格を成す丸パイプをU字状に折り曲げて形成したクッションフレーム3Fの左右両サイドの後端部が、それぞれ、フロアF上に固定された左右一対の各リヤベースFBに対して、シート幅方向に軸方向を向ける1本の長尺な回転軸3Aにより回転可能に連結された構成となっている。
【0021】
そして、上記シートクッション3は、その左右両サイドの前部分が、フロアF上に固定された左右一対の各フロントベースFAに対して、それぞれフロントリンク4を介して底上げされた位置に連結された状態とされている。ここで、各フロントベースFAと各リヤベースFBとがそれぞれ本発明の「ベース」に相当する。具体的には、上記シートクッション3は、そのクッションフレーム3Fの前フレーム部に結合された、後方側に延びる左右一対のガイドプレート3Gに対して、それぞれ各フロントリンク4の上端部がスライド軸4Aを介して回転可能かつ前後スライド可能な状態に連結された状態とされている。上記各スライド軸4Aは、それぞれ、シート幅方向に軸方向を向けて、各ガイドプレート3Gに形成された前後方向に延びる形に貫通した各長孔3G1内に回転可能かつ前後スライド可能な状態に連結された状態とされている。
【0022】
上記各フロントリンク4の下端部は、それぞれ、上述した各フロントベースFAに対して、シート幅方向に軸方向を向ける各連結軸4Bにより回転可能に連結された状態とされている。これにより、各フロントリンク4は、それらの下端側の各連結軸4Bを中心に、上端側の各スライド軸4Aが上述した各ガイドプレート3Gの長孔3G1内で前後スライド可能とされる範囲内において、前後方向に起倒回転することができるようになっている。
【0023】
上述した各フロントリンク4は、図2に示すように、それらの下端側の各連結軸4Bを中心とした前起こし方向の回転により、それらの上端側の各スライド軸4Aがそれぞれ各ガイドプレート3Gの長孔3G1内の前端部位置までスライドした状態となることにより、各フロントベースFAから垂直に近い角度位置まで起立した姿勢となって、シートクッション3の前部を前上がり状の角度姿勢で支えた状態となる。
【0024】
この状態(各スライド軸4Aが各ガイドプレート3Gの長孔3G1内の前端部位置までスライドした状態)では、各フロントリンク4は、それらの上端側のスライド軸4Aと下端側の連結軸4Bとを結ぶ線4Lが、シートクッション3の後端側の回転軸3Aまわりに描かれる円Ciの接線を形成した姿勢状態とされるようになっている。これにより、各フロントリンク4が、シートクッション3から負荷を受けても倒されない安定した姿勢で、シートクッション3を下方側から支持した状態に保持されるようになっている。
【0025】
また、上述した各フロントリンク4とシートバック2との間には、シートバック2を前に倒すことによって各フロントリンク4を後に倒すように引き込む引込みベルト5が繋げられている。上記引込みベルト5は、可撓性の帯状部材によって形成されており、各フロントリンク4の間に架橋された架橋軸4Cと、シートバック2の骨格を成すバックフレーム2Fの下フレーム部と、の間に繋げられている。ここで、上記引込みベルト5が本発明の「動力伝達部材」に相当する。
【0026】
詳しくは、上記引込みベルト5は、シートクッション3のシート幅方向中央の下部領域を通って上記架橋軸4Cとの連結部から後方側へ伸びて、シートクッション3の前後方向の略中央箇所で、第1のベルトガイド3D1により山状に曲げ返されるように下側からあてがえられて支えられた状態とされている。更に、上記引込みベルト5は、シートクッション3の後端箇所で、第2のベルトガイド3D2により上側に曲げ返されるように上側からあてがえられて支持された状態とされている。そして、上記引込みベルト5は、バックフレーム2Fの下フレーム部に取り付けられたベルト取付部2D3に取り付けられた状態とされている。
【0027】
上述した第1のベルトガイド3D1は、図1に示すように、シートクッション3の骨格を成すクッションフレーム3Fの両サイドフレーム部間に架橋された前後の架橋フレーム3B間に架橋されている、左右一対の支持ワイヤ3W間に取り付けられて設けられている。なお、上述したクッションフレーム3Fの前フレーム部に結合された、左右一対の各ガイドプレート3Gは、それらの上縁部が上記前側の架橋フレーム3Bにも一体的に結合されて強く支えられた状態とされている。
【0028】
第2のベルトガイド3D2は、上述したシートクッション3の後端部を各リヤベースFBに対して軸支するシート幅方向に長尺な回転軸3Aの中央部に取り付けられて設けられている。上記第2のベルトガイド3D2は、ホイール状の形に形成されており、引込みベルト5を回転軸3Aの下側の領域から後側の領域を経由させて上側へと曲げ返す形に案内する形状となっている。ベルト取付部2D3も、ホイール状の形に形成されており、図2図3に示すように、シートバック2が背凭れ角度の調整領域にある状態において、バックフレーム2Fの下フレーム部の下側の位置に引込みベルト5の端部を取り付けた状態となっている。
【0029】
上記引込みベルト5は、詳しくは、図2図3に示すように、シートバック2が背凭れ角度の調整領域内にある状態では、弛緩した状態とされており、シートバック2の背凭れ角度を調整領域内で変化させても、各フロントリンク4にその変化移動量に伴う引張力を伝達しないようになっている。上記引込みベルト5は、図4に示すように、シートバック2が着座乗員のヒップポイントHPとして設定されている位置まで前に倒し込まれることにより、上述したベルト取付部2D3に巻き取られる形でシートバック2側に引き込まれて、弛みが取られた緊張状態とされるようになっている。
【0030】
そして、上記引込みベルト5は、図5図6に示すように、シートバック2が上記図4に示した前傾位置から更に前に倒し込まれる移動によって、更にベルト取付部2D3に巻き取られていき、シートバック2が前に倒し込まれる動きを各フロントリンク4に伝達して、各フロントリンク4を後側へ倒し込む。これにより、シートクッション3が、その後端側の回転軸3Aを中心に前部をフロアF上に落とし込むように押し下げられ、それにより空いたスペース内にシートバック2が倒し込まれて、シート1全体が下方側に深く沈み込まれた状態となる。
【0031】
また、図1に示すように、上述した各フロントリンク4と各フロントベースFAとの間には、2本の引張バネ4Sが掛着されている。これら引張バネ4Sは、各フロントリンク4の間に架橋された架橋軸4Dと、各フロントベースFAの間に架橋された掛ワイヤFA1と、の間に左右1本ずつ掛着されている。これら引張バネ4Sは、図2図3に示すように、各フロントリンク4が起立した回転角度領域にある時には、各フロントリンク4の下端側の連結軸4Bの上側の領域を横切るように位置して、各フロントリンク4に対して前起こし方向の回転附勢力を作用させるようになっている。
【0032】
しかし、各引張バネ4Sは、図5図6に示すように、シートバック2の前倒しにより各フロントリンク4が後倒しされて、各引張バネ4Sが各フロントリンク4の下端側の連結軸4Bの下側の領域を横切る状態に切り換えられることにより、各フロントリンク4に作用させる回転附勢方向が切り換えられて、各フロントリンク4に対して後倒し方向の回転附勢力を作用させるようになっている。
【0033】
このようなターンオーバ式の引張バネ4Sが各フロントリンク4と各フロントベースFAとの間に掛着されていることにより、各フロントリンク4は、それぞれ図2図3に示すように起立した回転姿勢となる時には、それらの上端側の各スライド軸4Aが、各ガイドプレート3Gの長孔3G1の前端部位置に押し付けられた状態に保持されるようになっている。これにより、各フロントリンク4は、前述したように、シートクッション3から負荷を受けても倒されない起立姿勢状態に安定して保持されるようになっている。
【0034】
また、各フロントリンク4は、図5図6に示すように、シートバック2の前倒しによって引込みベルト5により後側に引き込まれて倒されることで、各引張バネ4Sの附勢力によって後倒しされた状態に押し付けられて保持されるようになっている。これにより、各フロントリンク4は、フロアF上でバタつくことなくフロアF上に押し付けられた状態に安定して保持されるようになっている。
【0035】
図1に示すように、上述したシートバック2とシートクッション3との両サイド部間には、シートバック2を図6に示した前倒しした位置から後側に起こし上げる動きによって、シートクッション3をフロアF上に沈み込ませた位置から引き上げるように操作する引張リンク6がそれぞれ連結されている。これら引張リンク6は、図1に示すように、それぞれ、シート幅方向にクランク状に折り曲げられた高さ方向に長尺な板部材によって形成されている。
【0036】
これら引張リンク6は、それらの上端部が、シートバック2の骨格を成すバックフレーム2Fの左右両サイドの下端部に結合された各ブラケット2Bに対して、それぞれ、シート幅方向に軸方向を向ける各連結軸6Aにより回転可能に連結された状態とされている。これら連結軸6Aは、それぞれ、図2図3に示すように、シートバック2が背凭れ角度の調整領域内にある状態では、シートバック2の回転中心となる各回転軸2Aの上後側の領域に位置するように配設されている。
【0037】
また、各引張リンク6は、それらの下端部が、シートクッション3の骨格を成すクッションフレーム3Fの左右の両サイドフレーム部に形成された各長孔3F1内にそれぞれスライド軸6Bを介して回転可能かつ前後スライド可能な状態に連結された状態とされている。上述したクッションフレーム3Fの各サイドフレーム部に形成された各長孔3F1は、それぞれ、各サイドフレーム部の延びる前後方向に真っ直ぐに延びる形に貫通して形成された構成とされている。
【0038】
上述した各引張リンク6は、図2図3に示すように、シートバック2が背凭れ角度の調整領域内にある状態では、それらの下端側のスライド軸6Bを上述した各長孔3F1内の後部側領域に位置させた状態として、シートバック2やシートクッション3の側部形状に沿った形に設けられた状態とされるようになっている。これにより、各引張リンク6は、シートバック2から前方側に張り出したりシートクッション3から上方側に張り出したりすることなく、着座乗員にとって邪魔とならない位置に設けられた状態とされるようになっている。
【0039】
上述した各引張リンク6は、図4図6に示すように、シートバック2が前に倒し込まれる動きにより、それらの下端側の各スライド軸6Bが上端側の各連結軸6Aによって後側から押される態様で各長孔3F1内を前方側にスライドしていくようになっている。そして、各引張リンク6は、図6に示すように、シートバック2が完全に前に倒し込まれた状態となる時には、それらの上端側の各連結軸6Aがシートバック2の回転中心である各回転軸2Aの正面領域に位置した状態となると共に、それらの下端側の各スライド軸6Bが上述した各長孔3F1内の前端側領域に位置した状態とされるようになっている。
【0040】
上述した各引張リンク6は、図7に示すように、シートバック2が図6にて前述した、フロアF上に倒し込まれた状態から後側に起こし上げられることにより、それらの下端側の各スライド軸6Bが上端側の各連結軸6Aによって後ろ上方側へ引き上げられるように操作される。これにより、各引張リンク6は、それらの下端側の各スライド軸6Bに連結されたシートクッション3を後端側の回転軸3Aまわりに引き上げて、フロアF上に沈み込ませる前の初期の着座使用位置へと戻すようになっている。詳しくは、上記各引張リンク6は、それらの下端側の各スライド軸6Bが各長孔3F1内を後方側へスライドしていきながらシートクッション3を引き上げていくようになっている。
【0041】
その際、各引張リンク6は、シートバック2が図6にて前述したフロアF上に倒し込まれた状態では、それらの下端側の各スライド軸6Bがシートクッション3の各長孔3F1内の前端側領域に位置した状態となっているため、シートバック2が後側へ起こし上げられる力によってシートクッション3を後端側の回転軸3Aまわりに比較的軽い力で持ち上げることができるようになっている。各スライド軸6Bがシートクッション3の後端側の回転軸3Aから前方側に遠ざかった位置(各長孔3F1の前端側領域)に配置されているためである。
【0042】
また、各引張リンク6は、シートバック2が図6にて前述したフロアF上に倒し込まれた状態では、それらの上端側の各連結軸6Aがシートバック2の回転中心である各回転軸2Aの正面領域に位置した状態となっているため、シートバック2が後側へ起こし上げられる操作移動量によってシートクッション3を上方側へ効率的に引き上げることができるようになっている。各連結軸6Aがシートバック2の後側への起こし上げによって、シートバック2の回転中心である各回転軸2Aまわりに上方向に大きく移動する領域を通るようになっているためである。
【0043】
上記シートバック2の起こし上げに伴うシートクッション3の引き上げにより、各フロントリンク4もそれらの上端側の各スライド軸4Aがシートクッション3の各ガイドプレート3Gに形成された各長孔3G1の形状による案内によって前方側にスライド操作されて前方側に起こされていく。そして、各フロントリンク4は、シートバック2が図2に示すような背凭れ使用される位置(背凭れ角度の調整領域)まで戻されることにより、それらの上端側の各スライド軸4Aが前述した各引張バネ4Sの附勢力を受けてシートクッション3の各長孔3G1の前端部位置に押し付けられた状態に戻されて、シートクッション3を初期の着座使用位置にて下方側から安定して支持した状態となる。
【0044】
そして、上記の移動により、各引張リンク6の下端側の各スライド軸6Bは、各長孔3F1内の後部側領域まで後方側にスライドした状態となるが、各長孔3F1が図8に示すように各スライド軸6Bを更に後方側へスライドさせることのできる後方側への延長代Aを有した形状となっていることで、各長孔3F1の後端部位置までは達しない状態とされるようになっている。このような構成となっていることにより、図2図3に示すように、シートバック2を前述した背凭れ角度の調整領域内で前後方向に角度変化させても、各スライド軸6Bが各長孔3F1の延長代A内をスライドすることで、その動きを逃がせるようになっている。したがって、上記シートバック2の背凭れ角度調整の動きによって、各引張リンク6がシートクッション3を更に引き上げたり落とし込んだりすることがなく、シートクッション3を常に定位置に保持することができる。
【0045】
詳しくは、上記シートバック2の背凭れ角度の調整領域内では、各引張リンク6は、それらの上端側の各連結軸6Aが、シートバック2の傾動する動きによって主にシートバック2の回転中心である各回転軸2Aまわりに前後方向に大きく移動する領域を通るようになっている。これにより、各引張リンク6は、上記の動きに対して、それらの下端側の各スライド軸6Bがシートクッション3の各長孔3F1の延長代A内を前後方向にスライドするように動かされることとなる。そのため、各引張リンク6は、高さ方向には大きく動かされることがなく、各連結軸6Aがシートバック2の回転中心である各回転軸2Aのまわりに前後方向に動かされる動きを、各スライド軸6Bが各長孔3F1内を前後方向にスライドするスライダクランクの動きによって、シートクッション3を定位置に保持したまま吸収することができるようになっている。
【0046】
以上をまとめると、本実施例のシート1は、次のような構成となっている。すなわち、シート1は、シートバック2を前に倒し込む動きによってシートクッション3を下方側へ沈み込ませるチルトダウン機構TDを備えた構成となっている。チルトダウン機構TDは、シートクッション3の後部をフロアF上のベース(リヤベースFB)に回転軸3Aにより連結し、シートクッション3の前部をフロントリンク4を介してフロアF上のベース(フロントベースFA)に連結し、更にフロントリンク4とシートバック2とを繋ぐ動力伝達部材(引込みベルト5)を備えて、シートバック2が前に倒し込まれる動きによって動力伝達部材(引込みベルト5)がフロントリンク4を倒してシートクッション3の前部を回転軸3Aを中心に下方側へ沈み込ませる構成となっている。
【0047】
このような構成となっていることにより、シートクッション3は、チルトダウン機構TDによって、その後部側の回転軸3Aを中心に、前部が落とし込まれる態様でフロアF上に沈み込まれる。一般に、シートクッション3は、図2に示すように、その後部領域では、着座圧の高い尻部を支えるためにクッションパッド3Pの高さ方向のパッド厚が厚めに設定され、大腿部を支える前部領域では、上記に比べてクッションパッド3Pの高さ方向のパッド厚が薄めに設定されると共に尻部の前滑りを防止するために前上がり形状とされているものが多い。したがって、シートクッション3を上記のように後部側の回転軸3Aを中心に前部を落とし込む態様でフロアF上に沈み込ませる構成とすることで、シートクッション3を狭い沈み込みスペースでも効果的に沈み込ませることができる。
【0048】
また、上記動力伝達部材(引込みベルト5)が、可撓性の柔軟部材によって構成されており、シートバック2の前に倒し込まれる動きをフロントリンク4に倒し込むための引張り力として伝達するように、所定箇所が第1のベルトガイド3D1や第2のベルトガイド3D2により曲げられた形にガイドされて設けられている。このように、可撓性の柔軟部材を用いることで、動力伝達部材(引込みベルト5)を簡単でかつ設置スペースの自由度の高い構成とすることができる。
【0049】
また、動力伝達部材(引込みベルト5)は、シートバック2が背凭れ角度の調整領域内を前に越えた所定の前傾角度(図4に示す前傾位置)から先の倒れ込み領域においてシートバック2の前に倒し込まれる動きをフロントリンク4に倒し込むための力として伝達し、上記倒れ込み領域から後側の領域ではシートバック2からフロントリンク4への動力の伝達を逃がす構成となっている(引込みベルト5が動力伝達不能に弛む構成となっている。)。このような構成となっていることにより、シートバック2の背凭れ角度を調整する際に、フロントリンク4が誤って倒されるといった不測の事態を起こりにくくすることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、本発明の「乗物用シート」は、自動車のリヤシート以外のシートにも適用することができる他、鉄道等の自動車以外の車両や、航空機、船舶等の様々な乗物用に供されるシートにも広く適用することができるものである。
【0051】
また、動力伝達部材は、可撓性のワイヤやケーブル等のベルト以外の柔軟部材から成るものであってもよい。また、動力伝達部材は、剛体のリンクにより構成されて、シートバックを前に倒す動きによってフロントリンクを倒すようになっていてもよい。また、フロントリンクは、下端側の連結部が前後スライドして倒される構成となっていてもよい。また、フロントリンクは、後ろに倒されるのではなく前に倒されるようになっていてもよい。また、シートバックの前部や後部を連結するフロア上のベースは、スライドレール等のフロア上に固定されて設けられる部材であってもよい。
【0052】
また、本発明の構成は、シートクッションの沈み込みスペースが狭いものへの適用に限らず、広いものへの適用も可能であり、シートクッションの沈み込ませ方の1つとして様々なタイプの構成に適用することができるものである。
【符号の説明】
【0053】
1 シート
2 シートバック
2F バックフレーム
2A 回転軸
2B ブラケット
2D3 ベルト取付部
3 シートクッション
3F クッションフレーム
3F1 長孔
3A 回転軸
3P クッションパッド
3G ガイドプレート
3G1 長孔
3B 架橋フレーム
3W 支持ワイヤ
3D1 第1のベルトガイド
3D2 第2のベルトガイド
4 フロントリンク
4A スライド軸
4B 連結軸
4C 架橋軸
4D 架橋軸
4S 引張バネ
4L 結ぶ線
5 引込みベルト(動力伝達部材)
6 引張リンク
6A 連結軸
6B スライド軸
TD チルトダウン機構
REC リクライニング機構
F フロア
FA フロントベース(ベース)
FA1 掛ワイヤ
FB リヤベース(ベース)
LS ラゲージスペース
LF ラゲージフロア
HP ヒップポイント
Ci 円
A 延長代
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8