(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のアルミニウム基材が焼結された多孔質アルミニウム体と、金属又は金属合金からなるバルク体とを有する多孔質アルミニウム熱交換部材であって、前記アルミニウム基材の外表面には、外方に向けて突出する複数の柱状突起が形成されており、前記多孔質アルミニウム体の気孔は、熱媒体の流路を成すことを特徴とする多孔質アルミニウム熱交換部材。
前記アルミニウム基材同士が結合された基材結合部に、Ti−Al系化合物が存在しており、前記柱状突起に前記基材結合部が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の多孔質アルミニウム熱交換部材。
前記アルミニウム基材は、アルミニウム繊維及びアルミニウム粉末のいずれか一方又は両方であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか一項記載の多孔質アルミニウム熱交換部材。
前記多孔質アルミニウム体と前記アルミニウムバルク体とが互いに焼結により結合されていることを特徴とする請求項2ないし6いずれか一項記載の多孔質アルミニウム熱交換部材。
前記アルミニウム基材と前記アルミニウムバルク体とが結合された結合部に、Ti−Al系化合物が存在しており、前記柱状突起に前記結合部が形成されていることを特徴とする請求項7記載の多孔質アルミニウム熱交換部材。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の多孔質アルミニウム熱交換部材のいくつかの具体例について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
また、以下の説明における「熱媒体」という文言は、熱を保持して流動する流動体(流体)を示し、特に断りの無い場合、液体や、この液体が気化した気体(ガス)、液体と気体とが混在したミストなどを含む。
【0023】
(第一実施形態:ループヒートパイプ)
本発明の多孔質アルミニウム熱交換部材の一例として、ループヒートパイプについて説明する。
図1は本発明の多孔質アルミニウム熱交換部材の一例であるループヒートパイプを示す断面図である。
ループヒートパイプ(多孔質アルミニウム熱交換部材)10は、蒸発器11と、凝縮器12と、この蒸発器11および凝縮器12の間で熱媒体Mを移動させる蒸気管13および液管14と、を備えている。
【0024】
蒸発器11は、液化された熱媒体Mを気化(蒸発)させる。この過程で、熱媒体Mの気化熱によって蒸発器11周辺の熱を吸熱する。凝縮器12は、気化された熱媒体Mを液化(凝縮)させる。この過程で、蒸気管13は、蒸発器11によって気化された熱媒体Mを凝縮器12に送り込む。また、液管14は、凝縮器12によって液化された熱媒体Mを蒸発器11に送り込む。熱媒体Mは、水、フロン、代替フロン、二酸化炭素、アンモニアなど、各種熱媒体を使用目的に応じて選択すればよい。
【0025】
このようなループヒートパイプ10は、蒸発器11と凝縮器12との間で熱交換を行うことができる。即ち、蒸発器11と凝縮器12との間で熱媒体Mを循環させて、熱媒体Mの気化と液化とを繰り返すことによって、蒸発器11で熱を吸収して凝縮器12で熱を放出する循環サイクルが形成される。
なお、蒸発器11の前段側には、リザーバと称される気液バランス調整器が設けられていてもよい。
【0026】
こうしたループヒートパイプ10の蒸発器11は、例えば、熱源の排熱を吸収し、気化熱により周辺の環境を冷却するなどの熱交換部材として用いることができる。
蒸発器11は、バルク体である中空のアルミニウムパイプ(アルミニウムバルク体)21と、このアルミニウムパイプ(アルミニウムバルク体)21の内周面21aに沿って配される多孔質アルミニウム体22と、からなる。
【0027】
アルミニウムパイプ(アルミニウムバルク体)21は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、本実施形態では、A3003等のAl−Mn系合金で構成されている。このアルミニウムパイプ21は、例えば押出し加工によって成形されており、例えば、外径が5mm〜150mm、肉厚が0.8mm〜10mm程度のものが用いられる。
【0028】
多孔質アルミニウム体22は、複数のアルミニウム基材31が焼結されて一体化されたものであり、比表面積が0.025m
2/g以上であり、かつ気孔率が30%以上90%以下の範囲内に設定されたものとされている。
図2は、多孔質アルミニウム体22を示す概念図である。多孔質アルミニウム体22は、アルミニウム基材31として、アルミニウム繊維31aとアルミニウム粉末31bとが用いられている。
【0029】
このアルミニウム基材31(アルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末31b)の外表面には、外方に向けて突出する複数の柱状突起32が形成されており、複数のアルミニウム基材31(アルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末31b)同士が、この柱状突起32を介して結合した構造とされている。なお、
図2に示すように、アルミニウム基材31、31同士の基材結合部35は、柱状突起32同士が結合した部分や柱状突起32とアルミニウム基材31の側面とが接合した部分、さらにはアルミニウム基材31、31の側面同士が接合した部分がある。
【0030】
そして、本実施形態であるループヒートパイプ10を構成する蒸発器11においては、
図3に示すように、アルミニウムパイプ(アルミニウムバルク体)21及び多孔質アルミニウム体22の一方又は両方の外表面に、外方に向けて突出する複数の柱状突起32が形成されており、これら柱状突起32を介して、アルミニウムパイプ21の内壁面と多孔質アルミニウム体22とが接合されている。すなわち、柱状突起32により、アルミニウムパイプ21の内壁面と多孔質アルミニウム体22との結合部39が形成されているのである。
【0031】
ここで、
図4に示すように、柱状突起32を介して結合されたアルミニウムパイプ21の内壁面と多孔質アルミニウム体22の結合部39には、Ti−Al系化合物36及びAlと共晶反応する共晶元素を含む共晶元素化合物37が存在している。本実施形態では、
図4に示すように、Ti−Al系化合物36は、TiとAlの化合物とされており、より具体的には、Al
3Ti金属間化合物とされている。すなわち、本実施形態では、Ti−Al系化合物36が存在している部分において、アルミニウムパイプ21と多孔質アルミニウム体22とが結合しているのである。
【0032】
なお、Alと共晶反応する共晶元素としては、例えば、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cd、Ce、Co、Cu、Fe、Ga、Gd、Ge、In、La、Li、Mg、Mn、Nd、Ni、Pd、Pt、Ru、Sb、Si、Sm、Sn、Sr、Te、Y、Zn等が挙げられる。本実施形態では、
図4に示すように、共晶元素化合物37は、共晶元素としてNiを含有している。
【0033】
また、多孔質アルミニウム体22においても、柱状突起32を介して結合されたアルミニウム基材31、31同士の基材結合部35に、Ti−Al系化合物及びAlと共晶反応する共晶元素を含む共晶元素化合物が存在している。本実施形態では、Ti−Al系化合物は、TiとAlの化合物とされており、より具体的には、Al
3Ti金属間化合物とされている。また、共晶元素化合物は、共晶元素としてNiを含有している。すなわち、本実施形態では、Ti−Al系化合物が存在している部分において、アルミニウム基材31、31同士が結合しているのである。
【0034】
ここで、ループヒートパイプ10を構成する蒸発器11の製造方法の一例について、
図5から
図8を参照して説明する。
まず、多孔質アルミニウム体22の原料となる焼結用アルミニウム原料40について説明する。この焼結用アルミニウム原料40は、
図6に示すように、アルミニウム基材31と、このアルミニウム基材31の外表面に固着された複数のチタン粉末粒子42及び共晶元素粉末粒子(ニッケル粉末粒子)43と、を備えている。
【0035】
なお、チタン粉末粒子42としては、金属チタン粉末粒子及び水素化チタン粉末粒子のいずれか一方又は両方が用いることができる。また、共晶元素粉末粒子(ニッケル粉末粒子)43としては、金属ニッケル粉末粒子が用いられている。
【0036】
ここで、焼結用アルミニウム原料40においては、チタン粉末粒子42の含有量が0.1質量%以上20質量%以下の範囲内とされており、本実施形態では、0.5〜10質量%とされている。
【0037】
チタン粉末粒子42の粒径は、1μm以上50μm以下の範囲内とされており、好ましくは、2μm以上30μm以下の範囲内とされている。なお、水素化チタン粉末粒子は、金属チタン粉末粒子よりも粒径を細かくすることが可能であることから、アルミニウム基材31の外表面に固着するチタン粉末粒子42の粒径を微細にする場合には、水素化チタン粉末粒子を用いることが好ましい。
さらに、アルミニウム基材31の外表面に固着された複数のチタン粉末粒子42、42同士の間隔は、5μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
また、焼結用アルミニウム原料40においては、共晶元素粉末粒子(ニッケル粉末粒子)43の含有量が0.1質量%以上5質量%以下の範囲内とされており、本実施形態では、1.0〜2.0質量%とされている。
共晶元素粉末粒子(ニッケル粉末粒子)43の粒径は、0.5μm以上20μm以下の範囲内とされており、好ましくは、1μm以上10μm以下の範囲内とされている。
【0039】
アルミニウム基材31としては、上述したように、アルミニウム繊維31aとアルミニウム粉末31bとが用いられている。なお、アルミニウム粉末31bとしては、アトマイズ粉末を用いることができる。
【0040】
ここで、アルミニウム繊維31aの繊維径は40μm以上300μm以下の範囲内とされており、好ましくは50μm以上200μm以下の範囲内とされている。また、アルミニウム繊維31aの繊維長さは0.2mm以上20mm以下の範囲内、好ましくは1mm以上10mm以下の範囲内とされている。
また、アルミニウム粉末31bの粒径は10μm以上300μm以下の範囲内とされており、好ましくは20μm以上100μm以下の範囲内とされている。
【0041】
さらに、アルミニウム基材31としては、純度が95質量%以上の高アルミニウム合金で構成されていることが好ましく、さらには、純度が99.5質量%以上の高純度アルミニウムで構成されていることが好ましい。
【0042】
また、アルミニウム繊維31aとアルミニウム粉末31bとの混合比率を調整することで気孔率を調整することが可能となる。すなわち、アルミニウム繊維31aの比率を増やすことにより多孔質アルミニウム体22の気孔率を向上させることが可能となるのである。
【0043】
なお、ここで多孔質アルミニウム体22の気孔率Pは、多孔質アルミニウム体22の重量:X(g)、多孔質アルミニウム体22の体積:Y(cm
3)、多孔質アルミニウム体22の密度:X/Y=C(g/cm
3)、アルミニウム基材31の密度:D(g/cm
3)とした時に、次式(1)で定義される。
P=(D−C)/D×100(%)・・・(式1)
【0044】
本実施形態では、多孔質アルミニウム体22の気孔率は、30%以上90%以下の範囲内とされている。
また、本実施形態では、多孔質アルミニウム体22の比表面積が0.025m
2/g以上とされている。比表面積Sは、多孔質アルミニウム体22の体積:V(cm
3)、多孔質アルミニウム体22の密度:ρ(g/cm
3)、多孔質アルミニウム体22の表面積: A(m
2)とした時に、次式(2)で定義される。
S=A/(ρ×V)(m
2/g)・・・(式2)
こうした比表面積が大きいほど熱媒体Mの保持量が高められる。
【0045】
こうした気孔率および比表面積の調整のため、アルミニウム基材31としては、アルミニウム繊維31aを用いることが好ましく、アルミニウム粉末31bを混合する場合にはアルミニウム粉末31bの比率を、例えば10〜15質量%以下とすることが好ましい。
【0046】
ループヒートパイプ10を構成する蒸発器11の製造にあたっては、
図5に示すように、上述した焼結用アルミニウム原料40を製造する。
常温にて、アルミニウム基材31とチタン粉末と共晶元素粉末(ニッケル粉末)を混合する(混合工程S01)。このとき、バインダー溶液を噴霧する。なお、バインダーとしては、大気中で500℃に加熱した際に燃焼・分解されるものが好ましく、具体的には、アクリル系樹脂、セルロース系高分子体を用いることが好ましい。また、バインダーの溶剤としては、水系、アルコール系、有機溶剤系の各種溶剤を用いることができる。
【0047】
この混合工程S01においては、例えば、自動乳鉢、パン型転動造粒機、シェーカーミキサー、ポットミル、ハイスピードミキサー、V型ミキサー等の各種混合機を用いて、アルミニウム基材31とチタン粉末と共晶元素粉末(ニッケル粉末)とを流動させながら混合する。
【0048】
次に、混合工程S01で得られた混合体を乾燥する(乾燥工程S02)。この乾燥工程S02においては、アルミニウム基材31の表面に酸化膜が厚く形成されないように、40℃以下の低温乾燥、又は、1.33Pa以下(10
−2Torr以下)の減圧乾燥を行うことが好ましい。
【0049】
この混合工程S01及び乾燥工程S02により、
図6に示すように、アルミニウム基材31の外表面にチタン粉末粒子42及び共晶元素粉末粒子(ニッケル粉末粒子)43が分散させて固着されることになり、本実施形態である焼結用アルミニウム原料40が製造される。
【0050】
次に、
図8(a)に示すように、アルミニウムパイプ(アルミニウムバルク体)21を用意し、このアルミニウムパイプ21の一方の開放面から他方の開放面に向けて貫通するように、円筒形の治具Gを配置する(アルミニウムバルク体配置工程S03)。こうした円筒形の治具Gとしては、後述する焼結工程後に引き抜くことが可能な材料、即ち、多孔質アルミニウム体22と固着しない材料を選択する。治具Gとしては、例えば、カーボンやタングステン合金(アンビロイ)を用いることができる。
【0051】
次に、アルミニウムパイプ21の他方の開放面を適宜閉塞した後、
図8(b)に示すように、アルミニウムパイプ21の内壁面と治具Gとの間に、焼結用アルミニウム原料40を散布してかさ充填する(原料散布工程S04)。
【0052】
これを、脱脂炉内に装入して、大気雰囲気で加熱してバインダーを除去する(脱バインダー工程S05)。
その後、焼成炉内に装入して、不活性ガス雰囲気で600〜660℃の温度範囲で0.5〜60分間保持する(焼結工程S06)。なお、保持時間は1〜20分間とすることが好ましい。
【0053】
ここで、焼結工程S06における焼結雰囲気をArガス等の不活性ガス雰囲気とすることにより、露点を十分に下げることができる。水素雰囲気又は水素と窒素の混合雰囲気では、露点が下がりにくいため好ましくない。また、窒素は、Tiと反応してTiNを形成することからTiの焼結促進効果を失うため、好ましくない。
そこで、本実施形態では、雰囲気ガスとして、露点−50℃以下のArガスを用いている。なお、雰囲気ガスの露点は−65℃以下とすることがさらに好ましい。
【0054】
この焼結工程S06においては、焼結用アルミニウム原料40中のアルミニウム基材31は溶融することになるが、アルミニウム基材31の表面には酸化膜が形成されていることから、溶融したアルミニウムが酸化膜によって保持され、アルミニウム基材31の形状が維持される。
【0055】
そして、アルミニウム基材31の外表面のうちチタン粉末粒子42が固着された部分においては、チタンとの反応によって酸化膜が破壊され、内部の溶融アルミニウムが外方へと噴出する。噴出された溶融アルミニウムはチタンとの反応によって融点の高い化合物を生成して固化することになる。
【0056】
これにより、
図7に示すように、アルミニウム基材31の外表面に、外方に向けて突出する複数の柱状突起32が形成される。ここで、柱状突起32の先端には、Ti−Al系化合物36が存在しており、このTi−Al系化合物36によって柱状突起32の成長が抑制されているのである。
なお、チタン粉末粒子42として水素化チタンを用いた場合には、300〜400℃付近で水素化チタンが分解し、生成したチタンがアルミニウム基材31の表面の酸化膜と反応することになる。
【0057】
また、本実施形態では、アルミニウム基材31の外表面に固着された共晶元素粉末粒子(ニッケル粉末粒子)43によって、アルミニウム基材31には局所的に融点が低くなる箇所が形成される。よって、640〜650℃といった比較的低温条件でも、柱状突起32が確実に形成されることになる。
【0058】
このとき、隣接するアルミニウム基材31,31同士が、互いの柱状突起32を介して溶融状態で一体化あるいは固相焼結することによって結合され、
図2に示すように、柱状突起32を介して複数のアルミニウム基材31、31同士が結合された多孔質アルミニウム体22が製造されることになる。
【0059】
なお、柱状突起32を介してアルミニウム基材31、31同士が結合された基材結合部35には、Ti−Al系化合物(本実施形態では、Al
3Ti金属間化合物)及び共晶元素化合物が存在することになる。
【0060】
そして、
図3及び
図4に示すように、多孔質アルミニウム体22を構成するアルミニウム基材31の柱状突起32がアルミニウムパイプ(アルミニウムバルク体)21の内壁面と結合することにより、アルミニウムパイプ21と多孔質アルミニウム体22とが、柱状突起32を介して接合されることになる。
【0061】
なお、アルミニウムパイプ21の表面にチタン粉末粒子42及び共晶元素粉末粒子(ニッケル粉末粒子)43が接触するように配置されている場合には、アルミニウムパイプ21の表面からも柱状突起32が形成され、アルミニウムパイプ21と多孔質アルミニウム体22とが接合される。
【0062】
ここで、柱状突起32を介してアルミニウムパイプ21と多孔質アルミニウム体22とが結合された結合部39には、Ti−Al系化合物36(本実施形態では、Al
3Ti金属間化合物)及び共晶元素化合物37が存在する。
【0063】
この後、
図8(c)に示すように、アルミニウムパイプ21に接合された多孔質アルミニウム体22から治具Gを引き抜く。これによって、多孔質アルミニウム体22の中心部分には円筒形の空洞が形成される。こうした空洞は、ループヒートパイプ10の蒸発器11として用いた際に、液管14から液化された熱媒体Mが流入する空間となる。
上述した各工程によって、ループヒートパイプ10の蒸発器11を得ることができる。
また焼成後に引き抜くことが出来る形状であれば治具Gの外形形状は、単純な凹凸やらせん状の凹凸を有していても構わない。
【0064】
以上のような蒸発器11を備えたループヒートパイプ10によれば、蒸発器11の多孔質アルミニウム体22として、表面に多数の柱状突起32が形成され、かつこの柱状突起32同士を介して結合されたアルミニウム基材31、31を用いることによって、圧縮率を大きくしなくても微細な空間が形成されるので、毛管力を高めることができる。これにより、多孔質アルミニウム体22は熱媒体Mの吸液力が高められ、効率的に熱交換を行うことができる。
【0065】
なお、ここでいう毛管力とは、液体の吸上げ力であり、指標として、液体の吸上げ高さHは、多孔質アルミニウム体22の単位体積当たりの表面積:Y、液体の表面張力:Z、液体のアルミニウムに対する濡れ角度θ、液体の密度E、多孔質アルミニウム体22の気孔率:P、重力加速度:Jとした時に、次式(3)で定義される。
H=Y×Z×cosθ/E×P×J・・・(式3)
【0066】
また、多孔質アルミニウム体22の圧縮率を大きくすることにより気孔率を小さくしなくても毛管力が高められるので、多孔質アルミニウム体22の比表面積を0.025m
2/g以上、かつ気孔率を30%以上90%以下の範囲に維持することが可能になる。これにより、多孔質アルミニウム体22は熱媒体Mの保持力(保持液量)が高められ、大容量の熱交換を行うことができる。なお、気孔率が30%以下では、熱媒体Mの保持力が低すぎて、十分な熱の輸送(伝搬)を行えない懸念がある。また、気孔率が90%以上では、機械的な強度が低くなり、衝撃などによって多孔質アルミニウム体22が損傷する懸念がある。
【0067】
また、本実施形態のループヒートパイプ10によれば、蒸発器11の多孔質アルミニウム体22として、表面に多数の柱状突起32が形成され、かつこの柱状突起32同士を介して結合されたアルミニウム基材31、31を用いることによって、高い毛管力によって吸液性が高められるため、多孔質アルミニウム体22内の液体の移動性が高い。
【0068】
これによって、多孔質アルミニウム体22の表面に親水性を持たせるための親水処理を行わなくても、熱媒体Mを効率よく吸い上げて保持することが可能になり、効率的に熱交換を行うことができる。また、多孔質アルミニウム体22は、親水処理を行わなくても熱媒体Mを効率よく吸い上げて保持することができるので、親水処理に係るコストが不要になり、低コストでループヒートパイプ10を製造することができる。
【0069】
また、本実施形態のループヒートパイプ10によれば、アルミニウムパイプ21の内周面21aと、多孔質アルミニウム体22とが、結合部39を介して結合している。これによって、アルミニウムパイプ21と多孔質アルミニウム体22との間で効率的に熱伝導ができる。よって、蒸発器11における熱吸収性を向上させることができ、効率的に熱交換を行うことが可能なループヒートパイプ10を実現できる。
【0070】
(第二実施形態:ループヒートパイプ)
上述した第一実施形態においては、ループヒートパイプ10の蒸発器11を構成するアルミニウムパイプ21と多孔質アルミニウム体22とは、結合部39を介して互いに結合されているが、アルミニウムパイプ21と多孔質アルミニウム体22とを特に結合せずに、アルミニウムパイプ21の内部に多孔質アルミニウム体22を配置する構成であってもよい。
図9は、第二実施形態のループヒートパイプを構成する蒸発器の製造方法を示す説明図である。なお、蒸発器以外の構成は第一実施形態のループヒートパイプと同様である。
【0071】
第二実施形態のループヒートパイプの蒸発器51を製造する際には、まず、
図9(a)に示すように、中空円筒形の成型空間を備えた金型Q1を用意して、この成型空間に焼結用アルミニウム原料40を充填する。そして、成型空間を象ったプレス部Q2を、充填した焼結用アルミニウム原料40に押し付けてプレス成型を行う。
【0072】
次に、
図9(b)に示すように、プレス成型された焼結用アルミニウム原料40の成型品を金型Q1(
図9(a)参照)から取り出して、これを、脱脂炉内に装入して、大気雰囲気で加熱してバインダーを除去する。
その後、焼成炉内に装入して、不活性ガス雰囲気で640〜660℃の温度範囲で0.5〜60分間保持する。なお、保持時間は1〜20分間とすることが好ましい。
【0073】
こうした焼成によって、
図7に示すように、アルミニウム基材31の外表面に、外方に向けて突出する複数の柱状突起32が形成される。ここで、柱状突起32の先端には、Ti−Al系化合物36が存在しており、このTi−Al系化合物36によって柱状突起32の成長が抑制されているのである。
なお、チタン粉末粒子42として水素化チタンを用いた場合には、300〜400℃付近で水素化チタンが分解し、生成したチタンがアルミニウム基材31の表面の酸化膜と反応することになる。
【0074】
このとき、隣接するアルミニウム基材31,31同士が、互いの柱状突起32を介して溶融状態で一体化あるいは固相焼結することによって結合され、柱状突起32を介して複数のアルミニウム基材31、31同士が結合された多孔質アルミニウム体52が製造されることになる。
さらに焼結された多孔質アルミニウム体52を金型に入れて、矯正加工を行ってもよい。
【0075】
次に、
図9(c)に示すように、焼成によって得られた多孔質アルミニウム体52を、バルク体であるアルミニウムパイプ21の内側に挿入して固定する。これによって、第二実施形態のループヒートパイプを構成する蒸発器51を得ることができる。
【0076】
(第三実施形態:蒸発器、凝縮器)
次に、本発明の第三実施形態である多穴管を用いた多孔質アルミニウム熱交換部材について説明する。
図10は、本発明の多孔質アルミニウム熱交換部材を示す要部拡大斜視図である。この多孔質アルミニウム熱交換部材60は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる多孔質アルミニウム体22と、バルク体であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム多穴管(アルミニウムバルク体)62と、が接合された構造とされている。
【0077】
詳述すると、
図10に示すように、本実施形態である多孔質アルミニウム熱交換部材60は、例えば蒸発器や凝縮器として用いられるものであり、第一の熱媒体となる流体Maが流通される流路を備えたアルミニウム多穴管(アルミニウムバルク体)62と、このアルミニウム多穴管62の外周面の少なくとも一部に接合された多孔質アルミニウム体22と、を備えている。
【0078】
アルミニウム多穴管62は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、本実施形態では、A3003等のAl−Mn系合金で構成されている。このアルミニウム多穴管62は、例えば押出し加工によって成形されており、
図10に示すように、扁平形状をなし、内部に流体Maが流通される流路となる複数の貫通孔63,63…を備えている。
【0079】
多孔質アルミニウム体22は、
図2に示すように、複数のアルミニウム基材31が焼結されて一体化されたものであり、比表面積が0.025m
2/g以上であり、かつ気孔率が30%以上90%以下の範囲内に設定されている。このような多孔質アルミニウム体22は、第一実施形態に示した多孔質アルミニウム体22と同様のものを用いている。
【0080】
このような構成の多孔質アルミニウム熱交換部材60を蒸発器として用いる場合、多孔質アルミニウム体22に蒸発可能な液体が含まれており、多孔質アルミニウム体22の周囲に乾燥した流体Mb1が流れており、また、アルミニウム多穴管62の貫通孔63,63を高温の流体Maの流路とする。
【0081】
これによって、流体Maがアルミニウム多穴管62の多孔質アルミニウム体22が形成された領域を流れる間に、流体Maの熱が多孔質アルミニウム体22を通して、多孔質アルミニウム体22に含まれた液体を加熱・蒸発させ、乾燥した流体Mb1が気化した液体を含んだMb2となる。一例として多孔質アルミニウム体22に含まれる液体をフロン、流体Maを温水、流体Mb1を乾燥したアルゴン雰囲気とすれば、フロンを蒸発(気化)させ流体Mb1中にフロンの蒸気を含ませることのできる蒸発器として用いることができる。
このとき
図7に示すような柱状突起32が蒸発のための沸騰核となるため、より効率的に蒸気を供給することができる。
【0082】
一方、このような構成の多孔質アルミニウム熱交換部材60を凝縮器として用いる場合、多孔質アルミニウム体22を蒸気を含んだ高温の流体Mb1の流路とし、また、アルミニウム多穴管62の貫通孔63,63を低温の流体Maの流路とする。
【0083】
これによって、流体Maがアルミニウム多穴管62の多孔質アルミニウム体22が形成された領域を流れる間に、多孔質アルミニウム体22が流体Maによって冷却され、流体Mbに含まれる蒸気が多孔質アルミニウム体22表面上に凝縮される。一例として流体Maを冷却水、流体Mbに含まれる蒸気をフロンの蒸気とすれば、冷却水によってフロンが液化する凝縮器として用いることが出来る。
このとき
図7に示すような柱状突起32が凝縮のための凝縮核となるため、より効率的に蒸気を液化することが可能となる。
【0084】
(第四実施形態:蒸発器、凝縮器)
次に、本発明の第四実施形態である複数本のアルミニウム管を用いた多孔質アルミニウム熱交換部材について説明する。
図11は、本発明の多孔質アルミニウム熱交換部材を示す要部拡大斜視図である。この多孔質アルミニウム熱交換部材70は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる多孔質アルミニウム体22と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる複数のアルミニウム管(アルミニウムバルク体)72,72…と、が接合された構造とされている。
【0085】
詳述すると、
図11に示すように、本実施形態である多孔質アルミニウム熱交換部材70は、例えば蒸発器や凝縮器として用いられるものであり、流体Maが流通される流路となる、バルク体であるアルミニウム管(アルミニウムバルク体)72(
図11においては6本を2段に配置した)と、このアルミニウム管72の外周面の少なくとも一部に接合された多孔質アルミニウム体22とを備えている。即ち、
図11においては12本のアルミニウム管(アルミニウムバルク体)72が直方体状の多孔質アルミニウム体22を貫通するように形成されている。
【0086】
アルミニウム管72,72…は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、本実施形態では、A3003等のAl−Mn系合金で構成されている。
【0087】
多孔質アルミニウム体22は、
図2に示すように、複数のアルミニウム基材31が焼結されて一体化されたものであり、比表面積が0.025m
2/g以上であり、かつ気孔率が30%以上90%以下の範囲内に設定されている。このような多孔質アルミニウム体22は、第一実施形態に示した多孔質アルミニウム体22と同様のものを用いている。
【0088】
このような構成の多孔質アルミニウム熱交換部材70を蒸発器として用いる場合、多孔質アルミニウム体22に蒸発可能な液体が含まれており、多孔質アルミニウム体22の周囲に乾燥した流体Mb1が流れており、また、アルミニウム管72を高温の流体Maの流路とする。
【0089】
これによって、流体Maがアルミニウム管72の多孔質アルミニウム体22が形成された領域を流れる間に、流体Maの熱が多孔質アルミニウム体22を通して、多孔質アルミニウム体22に含まれた液体を加熱・蒸発させ、乾燥した流体Mb1が気化した液体を含んだMb2となる。一例として多孔質アルミニウム体22に含まれる液体をフロン、流体Maを温水、流体Mb1を乾燥したアルゴン雰囲気とすれば、フロンを蒸発(気化)させ流体Mb1中にフロンの蒸気を含ませることのできる蒸発器として用いることができる。
このとき
図7に示すような柱状突起32が蒸発のための沸騰核となるため、より効率的に蒸気を供給することができる。
【0090】
一方、このような構成の多孔質アルミニウム熱交換部材70を凝縮器として用いる場合、多孔質アルミニウム体22を蒸気を含んだ高温の流体Mb1の流路とし、また、アルミニウム管72を低温の流体Maの流路とする。
【0091】
これによって、流体Maがアルミニウム管72の多孔質アルミニウム体22が形成された領域を流れる間に、多孔質アルミニウム体22が流体Maによって冷却され、流体Mbに含まれる蒸気が多孔質アルミニウム体22表面上に凝縮される。一例として流体Maを冷却水、流体Mbに含まれる蒸気をフロンの蒸気とすれば、冷却水によってフロンが液化する凝縮器として用いることが出来る。
このとき
図7に示すような柱状突起32が凝縮のための凝縮核となるため、より効率的に蒸気を液化することが可能となる。
【0092】
(第五実施形態:蒸発器、凝縮器)
次に、本発明の第五実施形態である屈曲させたアルミニウム管を用いた多孔質アルミニウム熱交換部材について説明する。
図12は、本発明の多孔質アルミニウム熱交換部材を示す要部拡大斜視図である。この多孔質アルミニウム熱交換部材80は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる多孔質アルミニウム体22と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム管(アルミニウムバルク体)82と、が接合された構造とされている。
【0093】
詳述すると、
図12に示すように、本実施形態である多孔質アルミニウム熱交換部材80は、例えば蒸発器や凝縮器として用いられるものであり、流体Maが流通される流路となる、バルク体であるアルミニウム管(アルミニウムバルク体)82をU字型に屈曲させ、屈曲部分を含むアルミニウム管82の外周面の少なくとも一部に多孔質アルミニウム体22を接合してなる。
【0094】
アルミニウム管82の屈曲部分に多孔質アルミニウム体22を形成することによって、アルミニウム管82と多孔質アルミニウム体22との接触領域が大きくできるとともに、外形形状をコンパクトにすることができる。アルミニウム管82は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、本実施形態では、A3003等のAl−Mn系合金で構成されている。
【0095】
多孔質アルミニウム体22は、
図2に示すように、複数のアルミニウム基材31が焼結されて一体化されたものであり、比表面積が0.025m
2/g以上であり、かつ気孔率が30%以上90%以下の範囲内に設定されている。このような多孔質アルミニウム体22は、第一実施形態に示した多孔質アルミニウム体22と同様のものを用いている。
【0096】
このような構成の多孔質アルミニウム熱交換部材80を蒸発器として用いる場合、多孔質アルミニウム体22に蒸発可能な液体が含まれており、多孔質アルミニウム体22の周囲に乾燥した流体Mb1が流れており、また、アルミニウム管82を高温の流体Maの流路とする。
【0097】
これによって、流体Maがアルミニウム管82の多孔質アルミニウム体22が形成された領域を流れる間に、流体Maの熱が多孔質アルミニウム体22を通して、多孔質アルミニウム体22に含まれた液体を加熱・蒸発させ、乾燥した流体Mb1が気化した液体を含んだMb2となる。一例として多孔質アルミニウム体22に含まれる液体をフロン、流体Maを温水、流体Mb1を乾燥したアルゴン雰囲気とすれば、フロンを蒸発(気化)させ流体Mb1中にフロンの蒸気を含ませることのできる蒸発器として用いることができる。
このとき
図7に示すような柱状突起32が蒸発のための沸騰核となるため、より効率的に蒸気を供給することができる。
【0098】
一方、このような構成の多孔質アルミニウム熱交換部材80を凝縮器として用いる場合、多孔質アルミニウム体22を蒸気を含んだ高温の流体Mb1の流路とし、また、アルミニウム管82を低温の流体Maの流路とする。
【0099】
これによって、流体Maがアルミニウム管82の多孔質アルミニウム体22が形成された領域を流れる間に、多孔質アルミニウム体22が流体Maによって冷却され、流体Mbに含まれる蒸気が多孔質アルミニウム体22表面上に凝縮される。一例として流体Maを冷却水、流体Mbに含まれる蒸気をフロンの蒸気とすれば、冷却水によってフロンが液化する凝縮器として用いることが出来る。
このとき
図7に示すような柱状突起32が凝縮のための凝縮核となるため、より効率的に蒸気を液化することが可能となる。
【0100】
(第六実施形態:蒸発器、凝縮器)
次に、本発明の第六実施形態の多孔質アルミニウム熱交換部材について説明する。
図13は、本発明の多孔質アルミニウム熱交換部材を示す斜視図(
図13(a))および断面図(
図13(b))である。この多孔質アルミニウム熱交換部材90は、所定の間隔を空けて並列に配置された複数のフィン91,91…と、このフィン91,91…を貫通するように形成された、バルク体であるアルミニウム管(アルミニウムバルク体)92と、から構成されている。フィン91,91…は、基板(アルミニウムバルク体)93と、この基板93の表面に接合された多孔質アルミニウム体22とから構成されている。
【0101】
詳述すると、
図13に示すように、本実施形態である多孔質アルミニウム熱交換部材90は、例えば蒸発器や凝縮器として用いられるものであり、等間隔で並べられたアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板(アルミニウムバルク体)93,93…の中心を貫通するように、流体Maが流通される流路となるアルミニウム管(アルミニウムバルク体)92が配置され、これら基板93,93…とアルミニウム管(アルミニウムバルク体)92とは互いに接合されている。
【0102】
また、それぞれの基板93の表面を覆うように、多孔質アルミニウム体22が接合されている。そして、この多孔質アルミニウム体22や、隣り合う多孔質アルミニウム体22同士の間が、流体Mbが流通される流路となる。
【0103】
多孔質アルミニウム体22は、
図2に示すように、複数のアルミニウム基材31が焼結されて一体化されたものであり、比表面積が0.025m
2/g以上であり、かつ気孔率が30%以上90%以下の範囲内に設定されている。このような多孔質アルミニウム体22は、第一実施形態に示した多孔質アルミニウム体22と同様のものを用いている。
【0104】
このような構成の多孔質アルミニウム熱交換部材90を蒸発器として用いる場合、多孔質アルミニウム体22に蒸発可能な液体が含まれており、多孔質アルミニウム体22の周囲に乾燥した流体Mb1が流れており、また、アルミニウム管92を高温の流体Maの流路とする。
【0105】
これによって、流体Maがアルミニウム管92の多孔質アルミニウム体22が形成された領域を流れる間に、流体Maの熱が多孔質アルミニウム体22を通して、多孔質アルミニウム体22に含まれた液体を加熱・蒸発させ、乾燥した流体Mb1が気化した液体を含んだMb2となる。一例として多孔質アルミニウム体22に含まれる液体をフロン、流体Maを温水、流体Mb1を乾燥したアルゴン雰囲気とすれば、フロンを蒸発(気化)させ流体Mb1中にフロンの蒸気を含ませることのできる蒸発器として用いることができる。
このとき
図7に示すような柱状突起32が蒸発のための沸騰核となるため、より効率的に蒸気を供給することができる。
【0106】
一方、このような構成の多孔質アルミニウム熱交換部材90を凝縮器として用いる場合、多孔質アルミニウム体22を蒸気を含んだ高温の流体Mb1の流路とし、また、アルミニウム管92を低温の流体Maの流路とする。
【0107】
これによって、流体Maがアルミニウム管92の多孔質アルミニウム熱交換部材90のフィン91の領域を流れる間に、多孔質アルミニウム体22がフィン91を通して流体Maによって冷却され、流体Mbに含まれる蒸気が多孔質アルミニウム体22表面上に凝縮される。一例として流体Maを冷却水、流体Mbに含まれる蒸気をフロンの蒸気とすれば、冷却水によってフロンが液化する凝縮器として用いることが出来る。
このとき
図7に示すような柱状突起32が凝縮のための凝縮核となるため、より効率的に蒸気を液化することが可能となる。
【0108】
以上、本発明の多孔質アルミニウム熱交換部材の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
多孔質アルミニウム体とアルミニウムバルク体との接合において、実施形態ではTi−Al系化合物及び共晶元素化合物を含む結合部を形成しているが、こうした結合部に、さらに、MgやMg酸化物が存在していることも好ましい。この場合、結合部に存在するMg酸化物は、多孔質アルミニウム体及びアルミニウムバルク体の表面に形成された酸化膜の一部がMgによって還元されることによって生成されたものと推測される。このように、Mgによって多孔質アルミニウム体及びアルミニウムバルク体の表面の酸化膜が還元されることにより、上述の結合部が数多く形成されやすくなり、多孔質アルミニウム体とアルミニウムバルク体との接合強度をさらに向上させることができる。
【0109】
また、多孔質アルミニウム体とアルミニウムバルク体との接合において、実施形態では、接合部の共晶元素化合物としてNiを含んでいるが、こうしたNiなどの共晶元素化合物は、特に含まない構成であってもよい。
【0110】
また、多孔質アルミニウム体とアルミニウムバルク体との接合において、実施形態では柱状突起を介して接合した例を挙げているが、これ以外にも、例えば、ろう材を用いたろう付け、拡散接合、ハンダを用いたハンダ付けなど、各種接合方法を適用して多孔質アルミニウム体とアルミニウムバルク体とを接合することができる。
【0111】
また、実施形態では多孔質アルミニウム体とアルミニウムバルク体の接合を例として挙げているが、ろう付け等各種接合できる材料であれば、バルク体はアルミニウムに限定されない。またパイプに多孔質アルミニウム体を挿入するだけの場合は、接合可否に関わらず任意の金属又は金属合金からなるバルク体を選定することができる。
【0112】
また、実施形態では、多孔質アルミニウム体に対して特に親水処理は行っていないが、多孔質アルミニウム体に対して更に親水処理を行うことによって、多孔質アルミニウム体の熱媒体の保持力を一層高めることもできる。
【実施例】
【0113】
以下、本発明の効果を検証した検証結果について説明する。
本発明例、参考例として、アルミニウムバルク体としてA1070、A3003、A5052からなる外形12mm、肉厚1mmのアルミニウムパイプを用意した。そして、このアルミニウムパイプの内部に
図2のような柱状突起をもつ多孔質アルミニウム体を焼結形成した。多孔質アルミニウム体の組成は、表1に示す組成とした。これら本発明例1〜8、参考例について気孔率、比表面積、水の引上高さ、単位体積当たりの保水量を測定した。本発明例1〜3はパイプ材質を変えた例、本発明例4はアルミニウム焼結体中の共晶元素をMgとした例、本発明例5は比表面積を小さくした例、本発明例6は親水処理を行った例、本発明例7は比表面積を大きくした例、本発明例8は気孔率を小さくした例である。また、参考例1は、比表面積を0.025m
2/gよりも小さくした例である。
【0114】
比表面積の測定は、不活性気体の低温低湿物理吸着によるBET(Brunauer−Emmett−Teller)法に基づき、試料を一定量ガラス管の中に入れ、200℃で60分間の真空脱気を行い、その後、徐々に窒素ガスを導入し、その際の圧力変化とBET式(3点法)から、それぞれのサンプルの比表面積を算出した。
【0115】
水引上げ高さの測定は、30mm×200mm×5mmの大きさの多孔質アルミニウム体を作製し、200mmの方向を高さ方向として、多孔質アルミニウム体を水面から深さ方向に5mm浸漬して、10分後の水の到達高さを測定した。水槽は多孔質アルミニウム体のサイズに比べて十分に大きく、多孔質アルミニウム体への水の引上げによる水面位置の変化は無視できるほど小さい。
【0116】
保水量の測定は、多孔質アルミニウム体を水に充分に浸漬し、浸漬前との浸漬後の重量の差分を焼結体体積で割ったものを保水量とした。
【0117】
従来の比較として、アルミニウムバルク体としてA1070からなる外形12mm、肉厚1mmのアルミニウムパイプを用意した。そして、このアルミニウムパイプの内部に、柱状突起の無い公知のアルミニウム繊維を充填した。比較例1はアルミ繊維を拡散焼結した例、比較例2は拡散焼結したアルミ繊維に親水処理を施した例、比較例3はアルミ繊維を圧縮・拡散焼結した例、比較例4はアルミ繊維を圧縮しただけの例である。これら比較例1〜4について気孔率、比表面積、水の引上高さ、単位体積当たりの保水量を測定した。それぞれの測定項目の測定条件は、本発明例と同様である。
これら本発明例と比較例の検証結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に示す検証結果によれば、本発明例の多孔質アルミニウム熱交換部材は、比較例のアルミニウム熱交換部材と比較して、いずれも比表面積が優れていた。また親水処理を施していない例において、水引上げ高さに関して本発明例は、本発明例5を除き比較例よりも優れているが、本発明例5は比較例よりも高い単位体積当たりの保水量を有する。また単位体積当たりの保水量に関して本発明例は、本発明例8を除き比較例よりも優れているが、本発明例8は比較例よりも水引上げ高さが優れている。親水処理を施した本発明例6と比較例2を比較した場合、比表面積、水引上げ高さ、単位体積当たりの保水量のすべてにおいて本発明例が優れている。こうした結果から、本発明例の多孔質アルミニウム熱交換部材は、従来のアルミニウム熱交換部材と比較して、熱媒体との熱交換効率を高められることが確認された。