【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るクロマトグラフ用データ処理装置は、
目的成分を含む試料について実行された3次元クロマトグラフにより得られた時間、分析パラメータ及び信号強度の3次元データを処理するデータ処理装置であって、
a) 前記3次元データに基づき、目的成分のピークのピークトップを通過するスペクトルにおいて、該ピークトップの分析パラメータP1と、該ピークに属する、前記分析パラメータP1とは別の分析パラメータP2を設定する設定手段と、
b) 前記ピークに属する各時間のスペクトルにおいて、前記分析パラメータP2における信号強度に対する、前記分析パラメータP1における信号強度の比を算出する算出手段と、
c) 前記算出手段により算出された各時間の信号強度比から補正値を設定する補正値設定手段と、
d) 前記補正値と、前記分析パラメータP2におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度とに基づき、前記ピークトップの分析パラメータP1におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度の推定値を求め、該推定値に乗じたとき、その値が、前記3次元クロマトグラフの所定の下限強度値から上限強度値までの範囲内となるような濃度調整係数を決定する係数決定手段と
を備えることを特徴とする。
ここで、「分析パラメータ」とは、波長やm/z(質量電荷比)等を意味する。
また、所定の下限強度値か上限強度値までの範囲とは、信号処理上の限界、及び3次元クロマトグラフ分析に用いる検出器の定量精度上の限界から決まる、いわゆるダイナミックレンジを指す。
【0009】
本発明の別の態様に係るクロマトグラフ用データ処理装置は、
目的成分を含む試料について実行された3次元クロマトグラフにより得られた時間、分析パラメータ及び信号強度の3次元データを処理するデータ処理装置であって、
a) 前記3次元データに基づき、目的成分のピークのピークトップを通過するスペクトルにおいて、該ピークトップの分析パラメータP1と、該ピークに属する、前記分析パラメータP1とは別の分析パラメータP2を設定する設定手段と、
b) 前記ピークに属する各時間のスペクトルにおいて、前記分析パラメータP2における信号強度に対する、前記分析パラメータP1における信号強度の比を算出する算出手段と、
c) 前記信号強度比と該信号強度比を求めたスペクトルの時間との関係を図に示す図示手段と、
d) 前記図に示される信号強度比のうち1つの値を補正値としてユーザに選択させる補正値選択手段と、
e) 前記補正値と、前記分析パラメータP2におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度とに基づき、前記ピークトップの分析パラメータP1におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度の推定値を求め、該推定値に乗じたとき、その値が、前記3次元クロマトグラフの所定の下限強度値から上限強度値までの範囲内となるような濃度調整係数を決定する係数決定手段と
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るクロマトグラフ用データ処理方法は、
目的成分を含む試料について実行された3次元クロマトグラフにより得られた時間、分析パラメータ及び信号強度の3次元データを処理する方法であって、
a) 前記3次元データに基づき、目的成分のピークのピークトップを通過するスペクトルにおいて、該ピークトップの分析パラメータP1と、該ピークに属する、前記分析パラメータP1とは別の分析パラメータP2を設定し、
b) 前記ピークに属する各時間のスペクトルにおいて、前記分析パラメータP2における信号強度に対する、前記分析パラメータP1における信号強度の比を算出し、
c) 前記算出された各時間の信号強度比から補正値を設定し、
d) 前記補正値と、前記分析パラメータP2におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度とに基づき、前記分析パラメータP1におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度の推定値を求め、
e) 該推定値に乗じた値が、前記3次元クロマトグラフの所定の下限強度値から上限強度値までの範囲内となるような濃度調整係数を決定する
ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の別の態様に係るクロマトグラフ用データ処理方法は、
目的成分を含む試料について実行された3次元クロマトグラフにより得られた時間、分析パラメータ及び信号強度の3次元データを処理する方法であって、
a) 前記3次元データに基づき、目的成分のピークのピークトップを通過するスペクトルにおいて、該ピークトップの分析パラメータP1と、該ピークに属する、前記分析パラメータP1とは別の分析パラメータP2を設定し、
b) 前記ピークに属する各時間のスペクトルにおいて、前記分析パラメータP2における信号強度に対する、前記分析パラメータP1における信号強度の比を算出し、
c) 前記信号強度比と該信号強度比を求めたスペクトルの時間との関係を表示画面に図示させ、
d) 前記表示画面に示される信号強度比のうち1つの値を補正値としてユーザに選択させ、
e) 前記補正値と、前記分析パラメータP2におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度とに基づき、前記分析パラメータP1におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度の推定値を求め、
f) 該推定値に乗じた値が、前記3次元クロマトグラフの所定の下限強度値から上限強度値までの範囲内となるような濃度調整係数を決定する
ことを特徴とする。
【0012】
或る成分のスペクトルは、本来、成分固有の形状をしており、その濃度の大小によってその形状が変化するものではない。このスペクトル形状の相似性により、同じピークに属する各分析パラメータのクロマトグラムピークの信号強度は、互いに一定の関係を有することになる。従って、この関係を用いれば、ピークトップの分析パラメータP1のクロマトグラムピーク強度を、同じピークに属する別の分析パラメータP2のクロマトグラムピーク強度から推定することができる。この場合、ピークトップの分析パラメータP1における信号強度や、分析パラメータP2における信号強度がダイナミックレンジから外れている場合等、分析パラメータP1における強度又は分析パラメータP2における強度に誤差が大きく含まれると、その時間のスペクトルの形状は本来のものから崩れたものとなり、その時間で算出される両者の関係も前記一定の関係から外れたものとなる。そこで、予め所定の基準を設けて、誤差が小さい時間領域での関係を用いる。
【0013】
例えば分析パラメータが波長である場合、本発明では、まず、3次元データ上の目的成分のピークのピークトップを通過するスペクトルにおいて、ピークトップ波長λ1と、目的成分のピークに属する、前記波長λ1とは別の波長λ2を設定する。この波長λ2は、その強度がダイナミックレンジの範囲内にある波長とする。なお、目的成分のピークのピークトップ強度がダイナミックレンジの上限値を超えているときのみ、前記波長λ1及び波長λ2を設定し、後述するようにして補正値を算出し、ピークトップ強度が該上限値を超えていない場合には、ピークトップ波長λ1のクロマトグラムピークから、通常の方法にて目的成分の定量値を算出するようにしても良い。
【0014】
次に、目的成分のピークに属する各時間のスペクトルにおいて、ピークトップ波長λ1における強度と波長λ2における強度の比を算出する。そして、所定の選択基準により、波長λ1における強度及び/又は波長λ2における強度の誤差が小さい時間領域での強度比の値を補正値として選択する。そして、補正値と波長λ2のクロマトグラムにおける目的成分のピーク強度を用いることにより、波長λ1のクロマトグラムにおける前記ピーク強度を推定する。続いて、波長λ1のクロマトグラムにおける前記ピーク強度の推定値に乗じたときに、その値がダイナミックレンジ内に収まるような濃度調整係数を求める。この濃度調整係数は、前記3次元クロマトグラムを取得する際に用いた試料中の目的成分の濃度を反映する。つまり、濃度調整係数が1の試料は、試料中の目的成分濃度が適切な範囲にある。このため、該試料について実行された3次元クロマトグラフにより得られた3次元クロマトグラムにおける目的成分のピーク強度はダイナミックレンジ内に収まる。
【0015】
一方、濃度調整係数が1よりも大きい試料は、該試料中の目的成分の濃度がクロマトグラフ分析に適切な濃度を下回っており、濃度調整係数が1よりも小さい試料は、該試料中の目的成分の濃度がクロマトグラフ分析に適切な濃度を超えている。従って、このような場合は、濃度調整係数に対応する倍率で試料を濃縮したり希釈したりする前処理を行う。そうすれば、前処理後の試料について得られる3次元クロマトグラムにおける目的成分のピーク強度はダイナミックレンジから外れることはないの上限値を超えたり下限値を下回ったりすることが無く、目的成分の定量値を正確に求めることができる。
【0016】
この場合、クロマトグラフ用データ処理装置が求めた濃度調整係数に基づき、クロマトグラフ装置が自動的に試料を濃縮/希釈する前処理を実行し、前処理後の試料について3次元クロマトグラフ分析を実行するようにすれば、試料をセットしてから試料中の目的成分の定量値を算出するまでの一連の作業を自動化することができる。
【0017】
すなわち、本発明に係るクロマトグラフ分析システムは、試料をカラムに導入する試料導入装置を備えたクロマトグラフ装置と、該クロマトグラフ装置により実行された3次元クロマトグラフにより得られた時間、分析パラメータ及び信号強度の3次元データを処理するクロマトグラフ用データ処理装置とを備えるシステムであって、
前記クロマトグラフ用データ処理装置が、
a) 前記3次元データに基づき、目的成分のピークのピークトップを通過するスペクトルにおいて、該ピークトップの分析パラメータP1と、該ピークに属する、前記分析パラメータP1とは別の分析パラメータP2を設定する設定手段と、
b) 前記ピークに属する各時間のスペクトルにおいて、前記分析パラメータP2における信号強度に対する、前記分析パラメータP1における信号強度の比を算出する算出手段と、
c) 前記算出手段により算出された各時間の信号強度比から補正値を設定する補正値設定手段と、
d) 前記補正値と、前記分析パラメータP2におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度とに基づき、前記ピークトップの分析パラメータP1におけるクロマトグラムでの前記目的成分のピーク強度の推定値を求め、該推定値に乗じたとき、その値が、前記3次元クロマトグラフの所定の下限強度値から上限強度値までの範囲内となるような濃度調整係数を決定する係数決定手段と、
e) 前記濃度調整係数を出力する出力手段とを備え、
前記液体クロマトグラフ分析装置が、
f) 前記クロマトグラフ用データ処理装置から出力された濃度調整係数に基づき前記試料を前処理する前処理部と、前処理を行った試料について3次元クロマトグラフを実行するクロマトグラフ分析実行部とを備えることを特徴とする。