(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
破壊じん性試験は、破壊に対する材料の破壊抵抗性を求める試験である。破壊じん性試験では、破壊特性に応じた多様な試験方法が用いられており、これらの多くは、アメリカ材料試験協会や日本機械学会等により規格化されている。したがって、破壊じん性試験は、各規格に決められている約束ごとに準じて実施されることが必要である。例えば、構造物の安全性を定量的に評価するために、CT(Compact Tension)試験片と呼称される切欠が形成された試験片に予き裂を導入した後に一定荷重を繰り返し負荷し、き裂の進展速度を求めるき裂進展試験がある。
【0003】
このような試験を実行する材料試験機は、試験片を固定する試験治具と、試験片に荷重を負荷するアクチュエータと、試験片に負荷された荷重を検出するロードセルと、試験片に荷重が負荷されているときの切欠開口部の開口変位を検出するクリップゲージと、を備えている。そして、ロードセルにより検出された荷重とクリップゲージにより検出された開口変位とに基づいて、コンプライアンス法により試験片のき裂長さを算出している(特許文献1参照)。
【0004】
なお、き裂進展試験では、一般的に予き裂導入時から本試験にいたるまで試験片の開口変位をクリップゲージにより計測している。これは、試験片の開口変位と荷重との関係から、予き裂として予定していた所定の長さにき裂が達したときに、荷重を調整したり、試験片に繰り返し荷重を負荷する負荷機構の動作を停止したりするためである。
【0005】
コンプライアンス法においては、荷重―開口変位曲線の傾きであるコンプライアンスλを算出し、さらに、コンプライアンスλ、試験片の厚さおよび弾性率、試験片の形状により定まる定数を用いて、試験片のき裂長さを推定している。なお、コンプライアンスλは、切欠開口部の距離の最大値と最小値の差である開口変位幅Cと試験片にかける荷重検出値の最大値と最小値の差である荷重変化幅Pにより、下記式(1)で表され、CT試験片においては、コンプライアンスλとき裂長さの関係が定式化されている。
【0006】
λ=C/P ・・・ (1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
き裂進展試験の効率向上の観点から、予き裂の導入時間や本試験の実行時間を短くすることが要請されている。この予き裂を導入する時間を短縮するには、試験片に繰り返し負荷する荷重を大きくすることが考えられる。しかしながら、き裂を進展させる本試験に比べて予き裂導入時の荷重が大きすぎると、き裂先端の塑性変形により本試験でき裂が進展しなくなり、正確に試験を行うことができない。
【0009】
また、予き裂を導入する時間を短縮するために、繰り返し荷重を負荷するときの繰り返し周波数を高くすることが考えられる。しかしながら、き裂進展試験では、予き裂導入時からクリップゲージで試験片の開口変位を計測しており、繰り返し周波数を高くすると、クリップゲージによる計測が周波数に追従することができない。すなわち、試験片に形成された切欠の開口部に差し込まれるクリップゲージの一対のバネの戻り速度の限界により、繰り返し周波数に対して位相遅れやノイズが発生する。このように、クリップゲージのバネの戻り速度が、試験片に荷重を負荷するときの繰り返し周波数に追従できないと、正確にき裂長さを推定できなくなる。
【0010】
さらに、一定荷重を試験片に繰り返し負荷してき裂を進展させる本試験において、き裂長さaと繰り返し数Nにより求められるき裂進展速度da/dNと応力拡大係数範囲ΔKとの関係から、材料のき裂進展特性を評価する場合、き裂が進展しないとみなすことができる下限界応力拡大係数範囲ΔKthを求めるために、き裂進展速度da/dNが10−10m/cycle程度になるまで試験を行う必要がある。このときに、設定できる繰り返し周波数がクリップゲージによる開口変位の測定が可能な周波数に制限されると、試験時間も長くなるという問題がある。
【0011】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、CT試験片を用いたき裂進展試験において全体の試験時間を短くするために、予き裂導入時および本試験実行時においてクリップゲージによる計測を行わない場合でも、正確にき裂長さを推定することが可能な材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、切欠が形成された試験片に荷重を負荷するアクチュエータと、前記試験片に負荷された荷重を検出する荷重検出器と、前記アクチュエータのストローク変位を検出するストローク変位検出器と、荷重が負荷された前記試験片において進展するき裂のき裂長さを算出するき裂長さ演算部を有する制御装置と、を備え、前記制御装置は、予めクリップゲージにより計測した前記試験片における切欠開口部の開口変位と、そのときのストローク変位との関係を
、予備試験片を用いてクリップゲージにより開口変位を計測する予備試験により取得した複数のき裂長さ測定点における開口変位とストローク変位との関係から導かれる係数を用いて、開口変位とストローク変位との関係を規定する関係式として記憶する記憶部と、試験中に前記ストローク変位検出器が検出したストローク変位を、前記記憶部に記憶させた前記関係式を用いて開口変位に変換する変位変換部と、を有し、前記き裂長さ演算部は、前記荷重検出器により検出された荷重と、前記変位変換部において算出された開口変位に基づいて、前記試験片のき裂長さを算出することを特徴とする。
【0013】
請求項
2に記載の発明は、
切欠が形成された試験片に荷重を負荷するアクチュエータと、前記試験片に負荷された荷重を検出する荷重検出器と、前記アクチュエータのストローク変位を検出するストローク変位検出器と、荷重が負荷された前記試験片において進展するき裂のき裂長さを算出するき裂長さ演算部を有する制御装置と、を備え、前記制御装置は、予めクリップゲージにより計測した前記試験片における切欠開口部の開口変位と、そのときのストローク変位との関係を、予備試験により取得した少なくとも1のき裂長さ計測点における、前記試験片における切欠開口部のクリップゲージによる変位計測位置と、前記アクチュエータにより前記試験片に荷重を作用させる負荷軸との間の距離と、前記負荷軸と仮想的な回転中心との間の距離を利用した開口変位とストローク変位との関係から導かれる係数を用いて、開口変位とストローク変位との関係を規定する
関係式として記憶する記憶部と、試験中に前記ストローク変位検出器が検出したストローク変位を、前記記憶部に記憶させた前記関係式を用いて開口変位に変換する変位変換部と、を有し、前記き裂長さ演算部は、前記荷重検出器により検出された荷重と、前記変位変換部において算出された開口変位に基づいて、前記試験片のき裂長さを算出することを特徴とする。
【0014】
請求項
3に記載の発明は、
切欠が形成された試験片に荷重を負荷するアクチュエータと、前記試験片に負荷された荷重を検出する荷重検出器と、前記アクチュエータのストローク変位を検出するストローク変位検出器と、荷重が負荷された前記試験片において進展するき裂のき裂長さを算出するき裂長さ演算部を有する制御装置と、を備え、前記制御装置は、予めクリップゲージにより計測した前記試験片における切欠開口部の開口変位と、そのときのストローク変位との関係を、予備試験により取得した少なくとも1のき裂長さ計測点における開口変位とストローク変位との関係から導かれる一定値を係数として、開口変位とストローク変位との関係を規定する
関係式として記憶する記憶部と、試験中に前記ストローク変位検出器が検出したストローク変位を、前記記憶部に記憶させた前記関係式を用いて開口変位に変換する変位変換部と、を有し、前記き裂長さ演算部は、前記荷重検出器により検出された荷重と、前記変位変換部において算出された開口変位に基づいて、前記試験片のき裂長さを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1から請求項
3に記載の発明によれば、予めクリップゲージにより計測した試験片における切欠開口部の開口変位と、そのときのストローク変位との関係を関係式として記憶部に記憶させ、さらに、制御装置に変位変換部を備えたことにより、試験中にストローク変位検出器が検出したストローク変位を、記憶部に記憶させた関係式を用いて開口変位に変換できることから、予き裂導入および本試験を実行する試験中においてクリップゲージによる計測を行わなくても、正確にき裂長さを推定することが可能となる。これにより、従来では、クリップゲージによる計測が困難であったために行うことができなかった、より高周波数での予き裂導入および本試験が可能となり、試験時間を短縮することができる。
【0016】
請求項
1に記載の発明によれば、試験中にストローク変位検出器が検出したストローク変位を開口変位に変換する関係式が、予備試験により取得した複数のき裂長さ測定点における開口変位とストローク変位との関係から導かれる係数を用いて、開口変位とストローク変位との関係を規定していることから、より正確にき裂長さを推定することが可能となる。
【0017】
請求項
2に記載の発明によれば、試験中にストローク変位検出器が検出したストローク変位を開口変位に変換する関係式が、クリップゲージによる変位計測位置と試験片に荷重を作用させる負荷軸との間の距離と、負荷軸と仮想的な回転中心との間の距離を利用して導かれる係数を用いて、開口変位とストローク変位との関係を規定していることから、正確にき裂長さを推定することが可能である。また、関係式の係数の値を決めるためには、少なくとも1のき裂長さを計測すればよいことから、予備試験を簡便に行うことができる。
【0018】
請求項
3に記載の発明によれば、試験中にストローク変位検出器が検出したストローク変位を開口変位に変換する関係式の係数が、予備試験により取得した少なくとも1のき裂長さを計測点とした開口変位とストローク変位との関係から一定値に定まることから、簡便な予備試験で関係式を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る材料試験機の概要図である。
図2は、試験片10の斜視図である。
図3は、制御系の主要な構成を示すブロック図である。
【0021】
この材料試験機は、テーブル11により支持された一対のコラム12と、これらのコラム12により支持された架台13とを備える。テーブル11には、試験片10に試験力を負荷するためのアクチュエータである油圧シリンダ21が配設されている。この油圧シリンダ21は、作動油の供給量を弁開度等により決定するサーボバルブ22と、シリンダロッド25の変位を検出するストローク変位検出器26とに接続されている。油圧シリンダ21のシリンダロッド25には、試験片10を取り付ける試験治具29が接続されている。
【0022】
架台13の下面には、荷重を検出するための荷重検出器としてのロードセル27と、試験片10を取り付けるための試験治具29とが配設されている。また、テーブル11の下方には、油圧シリンダ21を動作させるための作動油を供給する油圧供給部30が配置されている。
【0023】
油圧シリンダ21は、油圧供給部30から供給される作動油によって動作する。この油圧供給部30からの作動油は、管路37からサーボバルブ22を介して油圧シリンダ21に供給される。また、油圧シリンダ21から排出された作動油は、サーボバルブ22を通過した後、配管38を介して油圧供給部30に戻される。
【0024】
ストローク変位検出器26の出力信号と、ロードセル27の出力信号とは、材料試験の実行中に、所定時間ごとに制御部40に取り込まれる。
【0025】
試験片10は、切欠15が形成されたCT試験片と呼称されるものであり、一対の貫通孔17の各々に挿入されるピン51(
図3参照)を介して、試験治具29に連結されることにより、材料試験機における試験位置に固定される。コンプライアンス法によりき裂長さaを算出する際には、貫通孔17の中心から切欠15が形成されている側とは反対となる側端部までの距離を試験片幅Wとし、この試験片幅Wを基準として、き裂進展試験において推奨される試験片厚さBおよび予き裂長さa
0が定まる。
【0026】
また、この材料試験機は、装置全体を制御するための制御部40を備える。この制御部40は、論理演算を実行するCPUおよび記憶装置を有し、表示部41および入力部42を備えた入出力用コンピュータ43と接続されている。制御部40と入出力用コンピュータ43は、この発明の制御装置である。サーボバルブ22は、制御部40からD/A変換器63を介して供給される制御信号によってその弁開度が制御される。ストローク変位検出器26の出力信号はA/D変換器64を介して、ロードセル27の出力信号はA/D変換器61を介して、材料試験の実行中に制御部40に取り込まれる。
【0027】
後述する予備試験を実行するときには、試験片10の切欠15の開口部において開口変位を計測する変位計であるクリップゲージ28が配設される。クリップゲージ28の出力信号は、A/D変換器62を介して制御部40に取り込まれる。
【0028】
制御部40は、機能的構成として、予めクリップゲージ28により計測した開口変位と、そのときのストローク変位との関係を関係式として記憶する記憶部47と、記憶部47に記憶させた関係式を用いて試験実行中のストローク変位検出器26が検出したストローク変位を開口変位に変換する変位変換部45と、ロードセル27の検出値と開口変位とに基づいて試験片10のき裂長さaを算出するき裂長さ演算部46を備える。
【0029】
き裂長さaは、下記式(2)に示すように、コンプライアンスλの関数で表され、き裂長さ演算部46においては、下記式(2)を利用して、き裂長さaを算出している。この式(2)での関数f(λ)は、コンプライアンスλとき裂長さaとの関係を表す公知の関係式である。
【0031】
次に、記憶部47に記憶させる関係式と予備試験について説明する。なお、この予備試験は、クリップゲージ28により計測した開口変位と、そのときにストローク変位検出器26により検出されたストローク変位との関係を規定する関係式を得るための試験である。通常のき裂進展試験においては、試験治具29により試験片10を固定し、予き裂導入を実行してから、き裂を進展させるために負荷を与える本試験へと移行する。この予備試験は、試験片10への予き裂導入前に、クリップゲージ28を試験片10の切欠15の開口部に配置して行う試験であり、そのときの試験周波数はクリップゲージ28が追従可能な任意の周波数である。
【0032】
クリップゲージ28により計測した開口変位と、そのときにストローク変位検出器26により検出されたストローク変位との関係、すなわち、クリップゲージ変位幅Gとストローク変位幅Sとの関係は、Kを係数とする下記式(3)と表すことができる。
【0034】
この式(3)の係数Kは、予備試験により計測したき裂長さに基づいて、定義することができる。いくつかの係数Kの求め方について以下に説明する。
【0035】
まず、式(3)の係数Kを、K=K
B(K
Bは一定値)と定義した関係式を記憶部47に記憶させる場合の予備試験について説明する。
【0036】
この予備試験では、予き裂を導入して本試験に供する試験片10を使用することができる。そして、クリップゲージ28を試験片10の切欠開口部に配置し、クリップゲージ28が追従可能な任意の周波数(例えば10Hz〜20Hz)で任意のある荷重を試験片10に繰り返し負荷する。この予備試験においては、試験開始時に切欠15の先端位置より先にき裂が生じていないことから、最初は切欠15の先端位置をき裂長さa
0としておく。そして試験片10に対して繰り返し負荷を与え、所定のタイミングでそのときの荷重変化幅Pと開口変位幅Cによりコンプライアンスλを求め、式(2)を利用してき裂長さ計算が行われる。ここで、少なくとも1の測定点でのき裂長さaを取得する。
【0037】
この予備試験では、き裂を切欠15の先端位置から試験片10内に中に進入させる必要はなく、少なくとも1の測定点であるき裂長さaでクリップゲージ28が検出したクリップゲージ変位とストローク変位検出器26が検出したストローク変位とを取得すればよい。そして、き裂長さaでのクリップゲージ変位幅Gとストローク変位幅Sがわかれば、上記式(3)からKの値が定まる。ここで、測定点とされるき裂長さaは、き裂が切欠15の先端から試験片10の中に進入していない場合も含むものであり、き裂の進入がゼロのときの貫通孔17の中心から切欠15の先端までの長さである場合を含む概念である。したがって、予備試験は、き裂が試験片10の中に進入するほど長時間行わなくてもよい。
【0038】
このようにして、記憶部47にクリップゲージ変位とストローク変位との関係を表す関係式として式(3)のK=K
B(一定値)とする式を記憶させると、試験片10からクリップゲージ28を取り外し、予き裂導入を行い、さらに、本試験を実行する。予き裂導入時および本試験の実行時には、変位変換部45において先に記憶させた関係式を用いて、ストローク変位検出器26が検出したストローク変位をクリップゲージ変位に変換している。そして、き裂長さ演算部46において、式(1)によりコンプライアンス法におけるコンプライアンスλが算出され、式(2)により、き裂長さaが算出される。
【0039】
また、式(3)のクリップゲージ変位幅Gは、予備試験では、クリップゲージ28の検出値に基づく切欠15の開口部における開口変位幅Cそのものである。予き裂導入時および本試験の実行時では、式(3)のクリップゲージ変位幅Gはストローク変位を用いて計算により求められる値であるが、これを開口変位幅Cに相当する値として扱う。
【0040】
なお、上述した一定値である式(3)の係数Kを得る予備試験では、少なくとも1のき裂長さaを測定点として、その測定点におけるクリップゲージ28が検出したクリップゲージ変位とストローク変位検出器26が検出したストローク変位とを取得すればよいことから、予備試験終了後に、予備試験により生じた1点のき裂長さaを実測するようにしてもよい。き裂長さaでのクリップゲージ変位幅Gとストローク変位幅Sがわかれば、上記式(3)を利用してKの値が定まり、そのときに得られたKの値がK
Bであったとすると式(3)においてK=K
Bとする式を、関係式として記憶部47に記憶させればよい。このように、予備試験におけるき裂長さaの測定点が1点でもよいため、ストローク変位幅Sを開口変位幅C相当のクリップゲージ変位幅Gに換算するための係数Kを、短時間で簡便に求めることができる。
【0041】
次に、式(3)の係数Kを、き裂長さaの関数M(a)とする場合の予備試験について説明する。ここでの関数M(a)としては、き裂長さaを変数として係数Kを数式で表したものだけでなく、表の形でき裂長さaと係数Kの関係を示すものを含むものとする。
【0042】
この関数M(a)は、き裂長さaの値が定まれば、ストローク変位幅Sからクリップゲージ変位幅Gを算出するときの係数Kが定まる関数である。すなわち、M(a)は、き裂長さaの変化にともなって変動する係数でもある。このため、式(3)における係数Kを関数M(a)とする関係式を記憶部47に記憶させるときには、本試験に供する試験片10と材質および形状が同じ予備試験片を用いて、複数のき裂長さa
0〜a
nを測定点として、各測定点におけるクリップゲージ28が検出したクリップゲージ変位とストローク変位検出器26が検出したストローク変位とを取得する予備試験を行う。各測定点におけるクリップゲージ変位幅G
0〜G
nとストローク変位幅S
0〜S
nがわかれば、き裂長さa
0〜a
nに応じた値(係数)が求まる関数M(a)が定義される。この予備試験では、クリップゲージ28が追従可能な任意の周波数で任意のある荷重が予備試験片に繰り返し負荷される。
【0043】
この予備試験においては、試験開始時には切欠15の先端位置より先にき裂が生じていないことから、切欠15の先端位置をき裂長さa
0として、所定のタイミングで各測定点でのき裂長さa
1、a
2・・・a
nを計測する。すなわち、き裂長さがa
1のときを第1測定点として、クリップゲージ変位幅G
1とストローク変位幅S
1との関係が式(3)を利用して定まる。そして、クリップゲージ変位幅G
1は開口変位幅C
1と等価であるので、クリップゲージ変位幅G
1(すなわち、開口変位幅C
1)と、そのときに測定された荷重変化幅P
1により式(1)を利用してコンプライアンスλ
1=G
1/P
1が計算され、さらに式(2)を利用して、a
2=f(λ
1)が計算される。次に、き裂長さがa
2のときを第2測定点として、クリップゲージ変位幅G
2とストローク変位幅S
2との関係が式(3)を利用して定まる。そして、求められたクリップゲージ変位幅G
2(開口変位幅C
2)とそのときに測定された荷重変化幅P
2により式(1)を利用してコンプライアンスλ
2=G
2/P
2が計算され、さらに式(2)を利用して、a
3=f(λ
2)が計算される。
【0044】
このように、1つ前の測定点でのき裂長さaのときのクリップゲージ変位幅Gとストローク変位幅Sを利用して、次の測定点でのき裂長さaを算出する計算が繰り返される。そして、き裂長さaの各測定点での開口変位幅Cとストローク変位幅Sとの関係が規定された関係式、すなわち、式(3)における係数K=M(a)とする関係式が記憶部47に記憶される。
【0045】
予備試験を終了し、定義された関数M(a)を係数Kとする式(3)を記憶部47に記憶させると、試験片10を試験治具29により試験位置に取り付け、予き裂導入を行った後に、本試験を実行する。なお、予き裂導入時および本試験の実行時には、試験片10にクリップゲージ28は装着しない。また、式(3)のクリップゲージ変位幅Gは、予き裂導入時および本試験の実行時では、ストローク変位幅Sを用いて計算により求められる値であるが、これを開口変位幅Cに相当する値として扱う。
【0046】
式(3)においてK=M(a)とする式を関係式として記憶部47に記憶させておけば、予き裂導入時および本試験実施時に、クリップゲージ28を試験片10に装着しなくても、変位変換部45において、式(3)を用いてストローク変位検出器26の検出に基づくストローク変位幅Sが開口変位幅C相当のクリップゲージ変位幅Gに変換される。これにより、クリップゲージ28では追従することが困難な高い周波数(例えば、100Hz)で一定荷重を繰り返し試験片10に負荷するき裂進展試験であっても、
図2に示す予き裂長さa
0およびき裂長さaを、クリップゲージ28で開口変位を計測した場合と同等の精度で算出することが可能となる。
【0047】
また、式(3)においてK=M(a)とする関係式では、き裂長さaにともなって変化する関数M(a)を用いて、ストローク変位幅Sを開口変位幅C相当のクリップゲージ変位幅Gに換算することから、き裂長さ演算部46において算出されるき裂長さaによって、その値に含まれる誤差(計算値と実測値の差)が変動することを低減することができる。
【0048】
記憶部47に記憶させる関係式における、係数Kを定める他の手法についてさらに説明する。この手法は係数Kがき裂長さaの関数であると考えたときの関数M(a)を以下で説明する数式で表すものである。この手法では、試験片の変形は仮想的な回転中心を中心として回転するもの見なせるとの考え方に立っている。
図4は、クリップゲージ28による開口変位の計測位置と負荷軸Lとの関係を説明するための試験片10の正面図である。なお、
図4においては、負荷軸Lに沿って荷重がかかる方向を白抜き矢印で示している。
【0049】
このときの予備試験は、上述した式(3)における係数Kを、K=(r+d)/rとした場合の関係式を記憶部47に記憶させるためのものである。rは、予備試験により導入された任意のき裂さaを測定点としたときの回転半径であり、dはそのときの負荷軸Lと線Eの間の距離である(
図4参照)。なお、回転半径rは下記式(4)で表される。
【0050】
r=a+(W−a)×α ・・・ (4)
【0051】
式(4)におけるWは試験片幅であり(
図4参照)、αは0〜1までの係数であり、経験的に適当な値(例えば0.5)に設定する。このき裂長さaは、所定のタイミングで式(2)を利用して計算される。
【0052】
この予備試験では、上述した式(3)における係数Kを一定値(K
B)とする関係式を記憶部47に記憶させるときに行う予備試験と同様に、本試験に供する試験片10をそのまま使用する。そして、クリップゲージ28を試験片10の切欠15の開口部に配置し、クリップゲージ28が追従可能な任意の周波数で任意の一定荷重を試験片10に繰り返し負荷する。この予備試験では、少なくとも1のき裂長さaを取得すればよい。
【0053】
この予備試験におけるき裂長さaは、予き裂(例えば、試験片幅Wの50%)ほどに導入する必要はない。また、ここで1の測定点とされるき裂長さaは、き裂が切欠15の先端から試験片10の中に進入していない場合も含むものであり、き裂の進入がゼロのときの一対の貫通孔17の中心を通る負荷軸Lから切欠15の先端までの長さである場合を含む概念である。したがって、予備試験は、き裂が試験片10の中に進入するほど長時間行わなくてもよい。
【0054】
図4に示すように、試験片10に形成された一対の貫通孔17の中心をとおり、油圧シリンダ21により試験片10に荷重を作用させる負荷軸Lと、試験片10の切欠15の開口部に配設するクリップゲージ28による開口変位の測定位置を示す負荷軸Lと平行な線Eとは、距離dだけ離れている。したがって、荷重が負荷されるときに、半径rの円の中心Oから負荷軸Lまでの垂線の長さと、半径rの円と同心円となる半径(r+d)の円の中心Oから線Eまでの垂線の長さとの比であるr/(r+d)は、
図4において中心Oから延びる2本の破線で切り取られる負荷軸Lの長さと線Eの長さの比、すなわち、負荷軸L上の変位/線E上の変位(クリップゲージ変位)と同じ値となる。なお、中心Oの位置は、この例では、負荷軸Lから0.5×(W−a)により求まる距離にある位置である。シリンダロッド25の上下変位によっておこる試験片10の変形が、試験片10の上部と下部が回転中心Oを中心としてそれぞれ回転することと等価であると見なせば、r/(r+d)は、ストローク変位幅S/クリップゲージ変位幅Gと等しくなる。すなわち、き裂長さaにより定まる円の中心Oから負荷軸Lまでの距離と、き裂長さaにより定まる円の中心Oから線Eまでの距離との関係は、ストローク変位幅Sとクリップゲージ変位幅Gの関係を示すことになる。
【0055】
予備試験によりき裂長さaがわかれば、式(4)により回転半径rが決まり、式(3)における、クリップゲージ28による変位計測位置と負荷軸Lとの間の距離を利用したストローク変位とクリップゲージ変位との関係から導きだされる係数Kが定まる。そして、式(3)における係数Kの値が定まった式を関係式として記憶部47に記憶させることによりストローク変位幅Sを開口変位幅C相当のクリップゲージ変位幅Gに変換することが可能となる。
【0056】
上述したように、式(3)における係数Kをr/(r+d)とする式を関係式として記憶部47に記憶させる場合は、式(3)における係数Kを実験的に求めた関数M(a)を記憶させる場合と異なり、予備試験において予備試験片を準備する必要がなく、予備試験におけるき裂長さaの測定点が1点でもよいため、ストローク変位をクリップゲージ変位に変換するための係数Kを簡便に求めることができる。
【0057】
このようにして、記憶部47にクリップゲージ変位幅Gとストローク変位幅Sとの関係を表す関係式として係数Kが定まった式(3)を記憶させると、試験片10からクリップゲージ28を取り外し、予き裂導入を行い、さらに、本試験を実行する。予き裂導入時および本試験の実行時には、変位変換部45において式(3)を用いて、ストローク変位検出器26の検出値に基づくストローク変位幅Sをクリップゲージ変位幅Gに変換している。そして、き裂長さ演算部46において、式(1)を用いてコンプライアンス法におけるコンプライアンスλが算出された後、式(2)を用いて、き裂長さaが算出される。
【0058】
具体的な試験の進行としては、先に説明した手法と同様に、次のように行う。クリップゲージ変位幅G
1と、そのときに測定された荷重変化幅P
1により式(1)を利用してコンプライアンスλ
1=G
1/P
1が計算され、さらに式(2)を利用して、a
2=f(λ
1)が計算される。次に、き裂長さがa
2のときを第2測定点として、クリップゲージ変位幅G
2とストローク変位幅S
2との関係が式(3)を利用して定まる。そして、求められたクリップゲージ変位幅G
2(開口変位幅C
2)とそのときに測定された荷重変化幅P
2により式(1)を利用してコンプライアンスλ
2=G
2/P
2が計算され、さらに式(2)を利用して、a
3=f(λ
2)が計算される。以後もこの手順を繰り返す。
【0059】
この材料試験機では、クリップゲージ28により計測した開口変位であるクリップゲージ変位と、ストローク変位検出器26により検出したストローク変位との関係を規定した関係式、すなわち、上述した予備試験により式(3)における係数Kが定義された関係式のいずれかを記憶部47に記憶させた状態であれば、予き裂導入時および本試験の実行時においては、クリップゲージ28を試験片10の切欠15の開口部に配置する必要がない。そして、式(3)における係数Kを決定し、記憶させるための予備試験は、材質、形状が同じ試験片10について、複数回の試験を行う場合には、最初の試験を行う前に1度行っておけばよい。
【0060】
この材料試験機では、上述した予備試験により係数Kを定めた関係式(3)を用いて、ストローク変位幅Sを開口変位幅Cに相当するクリップゲージ変位幅Gに換算できることから、予き裂導入時および本試験の実行時に、クリップゲージ28から制御部40への検出値の入力がなくても、関係式を用いて、ストローク変位検出器26から制御部40への検出値の入力があれば、開口変位幅C相当のクリップゲージ変位幅Gを計算により求めることができ、き裂長さaを算出することが可能となる。そして、本試験中にクリップゲージ28による計測を行う必要がないことから、試験片10に負荷する繰り返し周波数を高くでき、試験時間を大幅に短縮することができる。例えば、従来では1週間〜10日かかっていたき裂進展試験を、2〜3日で行うことも可能となる。