特許第6237528号(P6237528)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237528
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ファーサイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20171120BHJP
   B60R 21/2334 20110101ALI20171120BHJP
   B60N 2/427 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B60R21/207
   B60R21/2334
   B60N2/427
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-161792(P2014-161792)
(22)【出願日】2014年8月7日
(65)【公開番号】特開2016-37182(P2016-37182A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2016年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山中 孝之
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】松崎 雄士
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−007902(JP,A)
【文献】 特開2014−031096(JP,A)
【文献】 特開2014−054956(JP,A)
【文献】 特開2011−031867(JP,A)
【文献】 特開2008−302897(JP,A)
【文献】 特開2008−137458(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02322338(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
B60N 2/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグと、同エアバッグを展開膨張させる膨張流体を噴出する膨張流体発生源とを備え、車両用シートの背もたれのシートフレームに固定されて車室の中央側に前記エアバッグを展開膨張するファーサイドエアバッグ装置において、
前記エアバッグは、前記膨張流体発生源が収容されている第1膨張室を含む複数の膨張室に区画されており、
前記エアバッグの表面における前記第1膨張室を区画しているステッチの位置に一端が連結されて、他端が前記シートフレームに連結されるテンションベルトを備えており、
前記第1膨張室を区画しているステッチの位置に連結された前記テンションベルトに加えて、他の膨張室を区画しているステッチの位置に一端が連結されて他端が前記シートフレームに連結されている他のテンションベルトが設けられている
ことを特徴とするファーサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
エアバッグと、同エアバッグを展開膨張させる膨張流体を噴出する膨張流体発生源とを備え、車両用シートの背もたれのシートフレームに固定されて車室の中央側に前記エアバッグを展開膨張するファーサイドエアバッグ装置において、
前記エアバッグは、前記膨張流体発生源が収容されている第1膨張室を含む複数の膨張室に区画されており、
前記エアバッグの表面における前記第1膨張室を区画しているステッチの位置に一端が連結されて、他端が前記シートフレームに連結されるテンションベルトを備えており、
前記第1膨張室と、同第1膨張室と隣り合う他の膨張室との間には、前記第1膨張室から膨張用ガスが吹き出すガス通路が形成されており、
前記ガス通路は、前記第1膨張室を区画している区画部と前記エアバッグの周縁部との間に形成されている
ことを特徴とするファーサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項に記載のファーサイドエアバッグ装置において、
前記ガス通路は、前記区画部の両端部に形成され、互いに異なる方向に膨張用ガスを吹き出す2つのガス通路を有している
ことを特徴とするファーサイドエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のファーサイドエアバッグ装置において、
前記区画部は、その中央部が両端部より前方へ突出した形状とされている
ことを特徴とするファーサイドエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項〜4のいずれか一項に記載のファーサイドエアバッグ装置において、
前記第1膨張室は、前記エアバッグの表面を構成する一対のパネル布同士を縫いつけることによって区画されており、
前記区画部は、前記パネル布同士を縫いつけるステッチで形成されており、
前記ステッチの両端部は円形状とされている
ことを特徴とするファーサイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車室の中央側にエアバッグを展開膨張するファーサイドエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車室の中央側にエアバッグを展開膨張させるファーサイドエアバッグ装置として、運転席や助手席に配設される車両用シート内に搭載され、運転席と助手席との間を仕切るように車室の中央側にエアバッグを展開膨張させて乗員を保護するファーサイドエアバッグ装置が知られている。
【0003】
また、こうしたファーサイドエアバッグ装置として、エアバッグの先端に連結されて展開膨張したエアバッグに張力を付与し、展開膨張したエアバッグの姿勢を維持するテンションベルトを備えたものも知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008‐137458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エアバッグの先端に連結されているテンションベルトは、エアバッグの展開膨張がほぼ完了するまで、たるんだ状態である。そのため、上記のようにエアバッグの先端に連結されたテンションベルトを備えるファーサイドエアバッグ装置では、エアバッグの展開膨張がほぼ完了するまで、テンションベルトによってエアバッグの姿勢を制御する効果が得られないことになる。
【0006】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エアバッグの展開膨張が完了する前のエアバッグが展開膨張している過程においても、エアバッグの姿勢を制御することのできるファーサイドエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するためのファーサイドエアバッグ装置は、エアバッグと、同エアバッグを展開膨張させる膨張流体を噴出する膨張流体発生源とを備えている。このファーサイドエアバッグ装置では、車両用シートの背もたれのシートフレームに固定されて車室の中央側に前記エアバッグを展開膨張するようにしている。そして、このファーサイドエアバッグ装置において、前記エアバッグは、前記膨張流体発生源が収容されている第1膨張室を含む複数の膨張室に区画されている。また、このファーサイドエアバッグ装置は、前記エアバッグの表面における前記第1膨張室を区画しているステッチの位置に一端が連結されて、他端が前記シートフレームに連結されるテンションベルトを備えており、前記第1膨張室を区画しているステッチの位置に連結された前記テンションベルトに加えて、他の膨張室を区画しているステッチの位置に一端が連結されて他端が前記シートフレームに連結されている他のテンションベルトが設けられている。
【0008】
上記構成によれば、エアバッグの先端よりも膨張流体発生源に近い第1膨張室の先端にテンションベルトが連結されていることになる。そのため、このテンションベルトは、エアバッグの膨張過程において、第1膨張室が展開膨張した時点でたるんだ状態が解消され、エアバッグに張力を付与するようになる。したがって、エアバッグの展開膨張が完了する前のエアバッグが展開膨張している過程においても、エアバッグの姿勢を制御することができるようになる。
また、エアバッグの展開膨張時にあっては、第1膨張室を区画しているステッチの位置に連結されたテンションベルトに加え、他のテンションベルトによっても張力がエアバッグに付与される。そのため、エアバッグの姿勢の制御性をさらに高めることができる。
【0009】
上記ファーサイドエアバッグ装置の一態様において、前記複数の膨張室は、前記エアバッグの表面を構成する一対のパネル布同士を縫いつけることによって区画されている。そして、前記テンションベルトは、前記パネル布同士を縫いつけるステッチによって前記パネル布に縫いつけられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のファーサイドエアバッグ装置によれば、エアバッグの展開膨張が完了する前のエアバッグが展開膨張している過程においても、エアバッグの姿勢を制御することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、一実施形態のファーサイドエアバッグ装置が設けられている車両用シートについて、図1図10を参照して説明する。なお、図1では、図面の左側が車両前方になっており、図面の上側が車両上方になっている。
【0018】
図1に示すように、この車両用シート10の座部11には、背もたれ13が連結されている。車両用シート10の背もたれ13には、図1に破線で示すように、ファーサイドエアバッグ装置100が搭載されている。また、図1の下方に示すように、ファーサイドエアバッグ装置100には制御装置150が接続されており、制御装置150には衝撃センサ160が接続されている。
【0019】
衝撃センサ160は車両のサイドピラーなどに取り付けられた加速度センサからなり、側面衝突などによる車両側方からの衝撃を検出する。制御装置150は衝撃センサ160から出力された検出信号に基づき、ファーサイドエアバッグ装置100にエアバッグ110を展開させるための制御指令を出力する。
【0020】
背もたれ13には、後述するようにファーサイドエアバッグ装置100のエアバッグ110が折り畳まれた状態で収容されており、制御装置150から制御指令が出力されると、エアバッグ110が、図1及び図2に二点鎖線で示すように展開膨張する。なお、図1に示すように、エアバッグ110が展開膨張したときにその下端がセンターコンソールボックス300の上端よりも下方に位置するように、エアバッグ110の配設位置や、高さ方向における寸法が設定されている。そのため、エアバッグ110が展開膨張したときには、エアバッグ110の下端が車両用シート10に着座している乗員とセンターコンソールボックス300との間に入り込んだ状態になる。
【0021】
なお、図2は車両用シート10の上面図である。図2では、図面の左側が車両前方になっており、図面の下側が車室中央側になっている。また、車両には、車両用シート10に着座した乗員を拘束するシートベルト装置が装備されているが、図1及び図2ではこのシートベルト装置の図示が省略されている。
【0022】
車室側壁200と乗員との間にエアバッグを展開膨張するサイドエアバッグ装置、すなわち車室側壁200に近いニアサイドにエアバッグを展開膨張するニアサイドエアバッグ装置と異なり、ファーサイドエアバッグ装置100は、図2に破線で示すように、車両用シート10の背もたれ13における車室中央側の部分に収容されている。これにより、衝撃センサ160によって車両側方からの衝撃が検出されると、エアバッグ110は図2に二点鎖線で示すように、隣の座席との間を仕切るように展開膨張して乗員を保護する。
【0023】
次に図3を参照して、ファーサイドエアバッグ装置100の構成と、ファーサイドエアバッグ装置100が収容されている背もたれ13の構造について説明する。なお、図3は、背もたれ13の、車室中央側のサイドサポート近傍の断面図であり、図3では図面の上側が車両前方になっており、図面の左側が車室中央側になっている。
【0024】
図3に示すように、背もたれ13の内部には、背もたれ13の骨格をなすシートフレーム130が配置されている。シートフレーム130は金属板を曲げ加工することによって溝型の断面を有する形状に形成されている。シートフレーム130は、溝の内側をシート中央側に向けて配設されている。そして、背もたれ13におけるシートフレーム130の周囲、すなわち乗員がもたれかかる部分には、ウレタンフォームなどの弾性材からなるパッド131が充填されている。なお、パッド131はシート表皮によって被覆されているが図3ではシート表皮の図示を省略している。一方で、背もたれ13における車両後方側の部分、すなわち背もたれ13の裏面は合成樹脂などによって形成された硬質の背板132で覆われている。
【0025】
図3に示すように、背もたれ13の車室中央側のサイドサポートの内部にはファーサイドエアバッグ装置100を収容する空間が設けられている。そして、この空間にファーサイドエアバッグ装置100が収容されている。パッド131には、この空間の車両前方側の先端部分からサイドサポートの先端に向かって延びるスリット133が設けられている。これにより、このスリット133とサイドサポートの先端部とによって挟まれた部分(図3における二点鎖線で囲まれた部分X)は、エアバッグ110が展開膨張する際に破断するようになっている。
【0026】
ファーサイドエアバッグ装置100は、折り畳まれたエアバッグ110と、エアバッグ110を展開膨張させる膨張流体を噴出する膨張流体発生源であるインフレータ121とを含んでいる。この実施形態では、インフレータ121として、パイロタイプと呼ばれるタイプのものが採用されている。インフレータ121は略円柱状をなしており、その内部には、エアバッグ110を膨張させる膨張流体として膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。なお、インフレータ121としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬などによって破断して膨張用ガスを噴出させるハイブリッドタイプが用いられてもよい。
【0027】
インフレータ121には、シートフレーム130に固定するためのボルト123が2つ設けられている。ファーサイドエアバッグ装置100は、図3に示すように、このボルト123をシートフレーム130に挿通させた状態で、ボルト123にナット124を螺合させることにより、シートフレーム130の車室中央側の面に固定される。こうして背もたれ13内に固定されるファーサイドエアバッグ装置100は、折り畳んだエアバッグ110を図3に示すようにインフレータ121の前方に配置することより、コンパクトな収容形態にされている。なお、エアバッグ110には、後述する外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117が取り付けられている。一端がエアバッグ110に連結されてエアバッグ110とともに折り畳まれた外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117の他端は、図3に示すように、シートフレーム130に巻きつけられている。
【0028】
具体的には、外側テンションベルト116は、エアバッグ110におけるインフレータ121が収容されている部分と、シートフレーム130の後端とを包むように、シートフレーム130の後端に巻き回されている。一方、内側テンションベルト117は、シートフレーム130の前端を包むように、シートフレーム130の前端に巻き回されている。
【0029】
そして、シートフレーム130の溝の内側まで巻き回された外側テンションベルト116の端部及び内側テンションベルト117の端部は、ファーサイドエアバッグ装置100をシートフレーム130に固定しているボルト123及びナット124によってシートフレーム130の溝の内側に連結されている。すなわち、ファーサイドエアバッグ装置100をシートフレーム130に取り付ける際には、ボルト123にナット124を締結する前に、外側テンションベルト116の端部及び内側テンションベルト117の端部にボルト123を挿通させ、これらの端部をシートフレーム130の溝の内側に重ねて配置しておく。そして、シートフレーム130とナット124との間に外側テンションベルト116の端部及び内側テンションベルト117の端部を挟んだ状態で、上述したようにボルト123とナット124とを締結し、ファーサイドエアバッグ装置100をシートフレーム130に固定する。外側テンションベルト116の端部及び内側テンションベルト117の端部は、このような方法で、ファーサイドエアバッグ装置100をシートフレーム130に固定しているボルト123及びナット124によってシートフレーム130の溝の内側に連結されている。
【0030】
次に、図4及び図5を参照してエアバッグ110の構成を説明する。
図4に示すように、エアバッグ110では、線対称な形状に形成された一枚の基布114を、その中央に設定した折り線に沿って二つ折りにして重ねあわせ、この一枚の基布114によってシート中央側の面になるパネル布である内側パネル114aと車室中央側の面になるパネル布である外側パネル114bとを構成している。なお、基布114としては強度が高く、且つ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸などを用いて形成した織布などが適している。また、図4では折り線を一点鎖線で示している。
【0031】
このエアバッグ110では、内側パネル114aと外側パネル114bとを上記のように重ね合わせた状態で、図5に二重の破線で示すステッチS1によって内側パネル114aと外側パネル114bとの周縁部を縫合することにより、同エアバッグ110を袋状に形成している。なお、図5では、図面の左側が車両前方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、図5における紙面の手前方向が車室中央側になっており、紙面の奥側がシート中央側になっている。
【0032】
図5に示すように、エアバッグ110では、車両後方側で基布114が折り返されている。
また、図4に示すように、基布114の中央には、インフレータ121を収容するインナーチューブ115が設けられている。インナーチューブ115は、基布114と同じ素材で形成された四角い布材を半分に折って長方形にし、これを基布114に重ねた状態で、短辺の一方と、折り山と平行な長辺とを基布114とともに縫い合わせることによって筒状に形成されている。なお、このエアバッグ110では、筒状のインナーチューブ115の車両上方側の端部が閉塞されている。すなわち、インナーチューブ115は、車両下方に向かって開口するように、内側パネル114aに縫いつけられている。
【0033】
エアバッグ110の図5における右下隅の部分、すなわち車両後方側の下端部はインフレータ121を挿入するための開口になっており、この部分からインフレータ121がエアバッグ110の内部に挿入される。
【0034】
エアバッグ110では、内側パネル114aと外側パネル114bとを縫い合わせることにより複数の膨張室が区画されている。
図5に示すように、エアバッグ110では、ステッチS2によって内側パネル114aと外側パネル114bとを縫い合わせることにより、インフレータ121を収容している部分を含む第1膨張室110Aが区画されている。また、エアバッグ110では、ステッチS3によって内側パネル114aと外側パネル114bとに縫い合わせることにより、第3膨張室110Cが区画されている。
【0035】
そして、エアバッグ110では、第1膨張室110Aと第3膨張室110Cとの間に第2膨張室110Bが設けられている。したがって、ステッチS2は第1膨張室110Aと第2膨張室110Bとの境界に位置しており、ステッチS3は第2膨張室110Bと第3膨張室110Cとの境界に位置していることになる。なお、ステッチS2の端部S21,S22は、補強のために円形になっている。また、ステッチS3の端部S31,S32も補強のために円形になっている。
【0036】
図5に示すように、エアバッグ110では、ステッチS2の端部S21,S22のうち、車両上方側に位置する端部S21が、ステッチS1から離間している。これにより、第1膨張室110Aに収容されているインフレータ121から膨張用ガスが噴出してエアバッグ110が展開膨張する際には、エアバッグ110内で、ステッチS1と端部S21との間を通じて第1膨張室110Aから車両上方に向かって膨張用ガスが吹き出す。すなわち、エアバッグ110では、ステッチS1と端部S21との間の部分が、第1膨張室110Aから上方に膨張用ガスを吹き出す上方通路118になっている。
【0037】
また、図5に示すように、エアバッグ110では、ステッチS2の端部S21,S22のうち、車両下方側に位置する端部S22も、ステッチS1から離間している。これにより、第1膨張室110Aに収容されているインフレータ121から膨張用ガスが噴出してエアバッグ110が展開膨張する際には、エアバッグ110内で、ステッチS1と端部S22との間を通じて第1膨張室110Aから車両前方に向かって膨張用ガスが吹き出す。すなわち、エアバッグ110では、ステッチS1と端部S22との間の部分が第1膨張室110Aから前方に膨張用ガスを吹き出す前方通路119になっている。
【0038】
なお、エアバッグ110では、ステッチS1と端部S21との距離L1よりも、ステッチS1と端部S22との距離L2が長くなっている。これにより、前方通路119の通路断面積が、上方通路118の通路断面積よりも大きくなっている。
【0039】
また、上述したようにエアバッグ110には、シートフレーム130に巻きつけられる外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117が取り付けられている。
図5に示すように、外側テンションベルト116の先端は、第1膨張室110Aを区画しているステッチS2によって外側パネル114bの表面に縫いつけられている。これにより、外側テンションベルト116は、エアバッグ110の外側パネル114bの表面におけるステッチS2の位置に、先端が連結されている。外側テンションベルト116は車両後方側に延び、上述したようにシートフレーム130に巻きつけられる。なお、外側テンションベルト116は、図5に示すように、展開した状態のエアバッグ110において、インフレータ121が収容されている部分よりも上方に上端が位置するように、高さ方向の寸法が設定されている。
【0040】
また、内側テンションベルト117の先端は、第1膨張室110Aを区画しているステッチS2によって内側パネル114aの表面に縫いつけられている。これにより、内側テンションベルト117は、エアバッグ110の内側パネル114aの表面におけるステッチS2の位置に、先端が連結されている。内側テンションベルト117は車両後方側に延び、上述したようにシートフレーム130に巻きつけられる。
【0041】
次に、このように構成されたエアバッグ110の折り畳み方について、図6図8を参照して説明する。なお、図6図8においては、説明の便宜上、外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117や各ステッチS1,S2,S3を省略してエアバッグ110を模式的に図示している。
【0042】
なお、図6(a)では、図面の右側が車両後方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、図6(a)における紙面の手前側が車室中央側になっており、紙面の奥側がシート中央側になっている。また、図6(b)は、エアバッグ110を車両後方側から見た状態を示す模式図である。
【0043】
図6(a)及び図6(b)に示すように、このエアバッグ110は、まず、インフレータ121が収容されている部分に向かって、上方から、シート中央側の面、すなわち内側パネル114aを内側に巻き込むように一方向に繰り返し折り畳むロール折りによって折り畳まれる。こうして途中までロール折りによって折り畳んだ後は、図7(a)及び図7(b)に示すように、ロール折りによって折り畳まれて棒状になった部分の端部のうち、インフレータ121が収容されている部分に近い端部を中心にして、残った部分が蛇腹折りによって扇状に車両後方側に向かって折り畳まれる。すなわち、ロール折りによって折り畳まれて棒状になった部分の他方の端部をインフレータ121に近づけるように、残った部分が蛇腹折りによって折り畳まれる。なお、図7(a)でも、図面の右側が車両後方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、図7(a)における紙面の手前側が車室中央側になっており、紙面の奥側がシート中央側になっている。また、図7(b)は、エアバッグ110を車両後方側から見た状態を示す模式図である。
【0044】
こうしてエアバッグ110が折り畳まれると、図8(a)及び図8(b)に示すような状態になる。この図8(a)でも、図面の右側が車両後方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、図8(a)における紙面の手前側が車室中央側になっており、紙面の奥側がシート中央側になっている。また、図8(b)は、エアバッグ110を車両下方側から見た状態を示す模式図である。
【0045】
このようにエアバッグ110が折り畳まれたファーサイドエアバッグ装置100は、上述したように車両用シート10のシートフレーム130に固定され、図3に示すように車両用シート10の背もたれ13内に収容される。
【0046】
なお、このファーサイドエアバッグ装置100では、ロール折りによって折り畳まれる部分の長さが、蛇腹折りによって折り畳まれる部分の長さよりも長くなっている。ロール折りによって折り畳まれた部分は、蛇腹折りによって折り畳まれた部分よりも折りがほどける際にエアバッグ110が展開する方向が安定しやすい。一方で、蛇腹折りによって折り畳まれた部分は、ロール折りによって折り畳まれた部分よりも折りがほどけやすく、速やかに展開する。こうした折り方の違いによる特徴を考慮して、このファーサイドエアバッグ装置100では、蛇腹折りによって前方への展開を促進するとともに、長い部分をロール状に折り畳み、エアバッグ110を適切な位置に展開膨張させるようにしている。
【0047】
次に、こうしたファーサイドエアバッグ装置100を備える車両用シート10の作用について説明する。
衝撃センサ160により側面衝突などによる車両側方からの衝撃が検知されると、衝撃センサ160から出力された検出信号に基づき、制御装置150からファーサイドエアバッグ装置100にエアバッグ110を展開させるための制御指令が出力される。制御装置150から制御指令が出力されると、図9に矢印で示すように、インフレータ121から膨張用ガスが噴出する。
【0048】
図9に示すように、インフレータ121の長さ方向における一方の端部には、インフレータ121に制御信号を入力する配線であるワイヤ120が接続されている。そのため、膨張用ガスは、インフレータ121の長さ方向における他方の端部から噴出するが、インフレータ121はワイヤ120の取り回しの関係上、ワイヤ120が接続されている端部を下方に向ける一方で、膨張用ガスを噴出する端部を上方に向けたかたちでインナーチューブ115内に収容されている。
【0049】
上述したようにインナーチューブ115は上方の端部が閉塞されている。そのため、図9に矢印で示すように、インフレータ121から噴出した膨張用ガスは開口しているインナーチューブ115の下方の端部を通じてエアバッグ110内の下方に向かって噴出する。
【0050】
こうしてインフレータ121から膨張用ガスが噴出し、インナーチューブ115を介してエアバッグ110内に膨張用ガスが噴射されると、各膨張室110A,110B,110C内の圧力が上昇し、図6図8を参照して説明した折り畳み方とは逆の順序で、エアバッグ110が展開膨張する。
【0051】
具体的には、まず、図7(a)及び図7(b)に示すように、蛇腹折りによって扇状に折り畳まれていた部分の折りがほどけてエアバッグ110が展開膨張する。そのため、エアバッグ110は車両前方に向かって展開膨張する。なお、車両前方への展開膨張の過程において、背もたれ13における、スリット133とサイドサポートの先端部とによって挟まれた部分(図3における二点鎖線で囲まれた部分X)が破断し、エアバッグ110がサイドサポートから車両前方に向かって飛び出す。
【0052】
そして、次に、図6(a)及び図6(b)に示すように、ロール折りによって棒状に折り畳まれていた部分の折りがほどけてエアバッグ110が車両上方に向かって展開膨張する。なお、このエアバッグ110は、内側パネル114aを内側に巻き込むように一方向に繰り返し折り畳むロール折りによって折り畳まれている。すなわち、エアバッグ110は、シート中央側の面を内側に巻き込むように一方向に繰り返し折り畳むロール折りによって折り畳まれている。そのため、ロール折りによって棒状に折り畳まれていた部分の折りがほどけてエアバッグ110が車両上方に向かって展開膨張する際には、エアバッグ110が、車両用シート10に着座している乗員側に湾曲したかたちで展開膨張し、乗員を包み込むように展開膨張する。
【0053】
また、このようにエアバッグ110が展開膨張する過程において、インナーチューブ115を介して噴射された膨張用ガスは、第1膨張室110A内に拡散し、上方通路118と前方通路119を通じて第2膨張室110Bへと流れ込む。このエアバッグ110では、上述したように前方通路119の通路断面積が、上方通路118の通路断面積よりも大きくなっている。そのため、前方通路119を通じて車両前方に向かって吹き出して第2膨張室110Bに流入する膨張用ガスの量が、上方通路118を通じて車両上方に向かって吹き出して第2膨張室110Bに流入する膨張用ガスの量よりも多くなる。
【0054】
また、膨張用ガスは開口しているインナーチューブ115の下方の端部から第1膨張室110Aの下方に向かって噴出する。そのため、膨張用ガスは、第1膨張室110Aの上方に位置する上方通路118よりも、第1膨張室110Aの下方に位置する前方通路119を通じて第2膨張室110Bに流れやすくなる。
【0055】
これにより、このファーサイドエアバッグ装置100では、車両上方への展開膨張よりも、車両前方への展開膨張が促進される。すなわち、エアバッグ110が展開膨張する際には、まず車両前方に向かって速やかにエアバッグ110が展開膨張する。そして、車両前方に展開されたエアバッグ110が車両上方に向かって展開することになる。
【0056】
そのため、車両用シート10に着座している乗員の車室中央側に速やかにエアバッグ110を展開膨張させて、エアバッグ110を隣の座席との間を仕切るように的確に展開させ、乗員を保護する上で適切な位置にエアバッグ110を展開膨張させることができる。
【0057】
また、エアバッグ110が展開膨張する過程において、第1膨張室110Aが膨張すると、第1膨張室110Aを区画しているステッチS2の位置に連結されている外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117による張力がエアバッグ110に作用するようになる。
【0058】
図10は、エアバッグ110が展開膨張し、外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117に張力が作用するようになった状態を示す模式図である。なお、図10で示している断面の位置は、図5に10−10線で示されている位置である。
【0059】
図10に示すように、エアバッグ110の第1膨張室110Aはインフレータ121が収容されている部分を中心に、車両後方や、車室中央側にも膨らむ。
外側テンションベルト116は、エアバッグ110におけるインフレータ121が収容されている部分と、シートフレーム130の後端とを包むように、シートフレーム130の後端に巻き回されている。そのため、第1膨張室110Aが膨張することにより、エアバッグ110における外側テンションベルト116が連結されている部分には外側テンションベルト116を介して車室中央側及び車室後方側に向かう張力が作用する。なお、外側テンションベルト116の長さは、第1膨張室110Aが膨張したときに外側テンションベルト116が撓むことなく外側パネル114bに沿って延びきった状態になり、必要な張力を発生させることができるように設定されている。
【0060】
一方、内側テンションベルト117は、シートフレーム130の前端を包むように、シートフレーム130の前端に巻き回されている。そのため、エアバッグ110が展開膨張して内側テンションベルト117に張力が作用するようになったときに、内側テンションベルト117がシートフレーム130の前端におけるシート中央側の端部とエアバッグ110のシート中央側の面との間に張り渡された状態になる。そのため、第1膨張室110Aが膨張することにより、エアバッグ110における内側テンションベルト117が連結されている部分には内側テンションベルト117を介してシート中央側及び車室後方側に向かう張力が作用する。なお、内側テンションベルト117の長さは、第1膨張室110Aが膨張したときに内側テンションベルト117がシートフレーム130の前端におけるシート中央側の端部とエアバッグ110のシート中央側の面との間に張り渡された状態になり、必要な張力を発生させることができるように設定されている。
【0061】
また、エアバッグ110の後方は、図10に示すように、シートフレーム130とともに外側テンションベルト116によって包まれた状態になる。そのため、エアバッグ110は、ボルト123によってシートフレーム130に固定された部分以外に、外側テンションベルト116によって包まれた部分においても、シートフレーム130に支えられた状態になる。
【0062】
以上説明したファーサイドエアバッグ装置100によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)エアバッグ110の先端よりもインフレータ121に近い第1膨張室110Aの前端にテンションベルト116,117が連結されていることになる。そのため、このテンションベルト116,117は、エアバッグ110の膨張過程において、第1膨張室110Aが展開膨張した時点でたるんだ状態が解消され、エアバッグ110に張力を付与するようになる。したがって、エアバッグ110の展開膨張が完了する前のエアバッグ110が展開膨張している過程においても、エアバッグ110の姿勢を制御することができる。
【0063】
(2)テンションベルト116,117は、内側パネル114aと外側パネル114bとを縫い合わせるステッチS2によって基布114に縫いつけられることとなる。したがって、第1膨張室110Aを形成する際に、テンションベルト116,117も基布114に縫いつけることができる。
【0064】
(3)展開膨張しているエアバッグ110には、一対のテンションベルト116,117によって、同エアバッグ110よりも車室中央側とシート中央側の双方から張力が付与される。そのため、エアバッグ110の何れか一方の面にのみテンションベルトが設けられている場合と比較して、エアバッグ110の姿勢の安定性を向上させることができる。
【0065】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・ファーサイドエアバッグ装置100は、テンションベルト116,117以外の他のテンションベルトがエアバッグ110に接続された構成であってもよい。他のテンションベルトとして、例えば、図11に示すように第2膨張室110Bと第3膨張室110Cとを区画するステッチS3の位置に一端が連結されて他端がシートフレーム130に連結されたテンションベルト400を挙げることができる。このテンションベルト400は、第1膨張室110A及び第2膨張室110Bの展開膨張が完了すると、張力をエアバッグ110に付与するようになっている。こうした構成によれば、一対のテンションベルト116,117に加え、他のテンションベルト(例えば、テンションベルト400)によっても張力がエアバッグ110に付与されることとなる。そのため、エアバッグ110の姿勢の制御性を高めることができる。
【0066】
なお、図11に示す例では、テンションベルト400のエアバッグ110との連結部位は、テンションベルト116,117のエアバッグ110との連結部位よりも車両上方に位置している。すなわち、テンションベルト400は、エアバッグ110の上部に対して張力を付与することができる。したがって、テンションベルト116,117に加えてテンションベルト400を設けることにより、エアバッグ110の上部の姿勢の制御性を特に高めることができる。
【0067】
・ファーサイドエアバッグ装置100は、テンションベルト116,117の何れか一方のみを備えた構成であってもよい。こうした構成であっても、何れか一方のテンションベルトのたるみが解消されると、当該テンションベルトによって展開膨張中におけるエアバッグ110に対して張力が付与される。その結果、エアバッグ110が展開膨張している課程においても、エアバッグ110の姿勢を制御することができる。
【0068】
・エアバッグ110の折り畳み方は、上記実施形態で開示した折り畳み方に限らず、適宜変更することができる。例えば、ロール折りの方向を上記実施形態とは反対にすることもできる。
【0069】
・インナーチューブ115を設け、インナーチューブ115の中にインフレータ121を収容する構成を例示したが、インナーチューブ115を設けずに、エアバッグ110の中にインフレータ121を直接収容する構成を採用することもできる。
【0070】
・エアバッグ110の構成は一枚の基布114を袋状に折り畳むものに限らず、二枚の基布を重ね合わせてそれらを縫い合わせることによって形成してもよい。また、三枚以上の基布をつなぎ合わせて袋状に形成する構成を採用することもできる。
【0071】
・基布114を縫い合わせるのではなく、接着剤を用いて基布を接着することによりエアバッグ110を形成する構成を採用することもできる。
・エアバッグ110に第1膨張室110A,第2膨張室110B,第3膨張室110Cを設けた例を示したが、各膨張室の形状や、区画の仕方、膨張室の数などは適宜変更することができる。
【0072】
例えば、図12に示すように、内側パネル114aと外側パネル114bとの間にテザー布111を張り渡し、このテザー布111によって各膨張室を区画する隔壁を形成するようにしてもよい。なお、図12は、図5における破線で囲まれた部分Yにおけるエアバッグ110内部の状態を、白抜き矢印で示す方向から見た状態を示す破断斜視図である。
【0073】
そして、図12に示すようにテザー布111によって各膨張室を区画する場合にあっては、図13に示すように、外側テンションベルト116の先端を、第1膨張室110Aを区画しているテザー布111とともにステッチS2によって外側パネル114bの表面に縫いつけられることとなる。同様に、内側テンションベルト117の先端を、第1膨張室110Aを区画しているテザー布111とともにステッチS2によって内側パネル114aの表面に縫いつけられることとなる。
【0074】
・エアバッグ110は、上記実施形態のようにその略全体が膨張するものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0075】
・本発明のサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
【符号の説明】
【0076】
10…シート、11…座部、13…背もたれ、100…ファーサイドエアバッグ装置、110…エアバッグ、110A…第1膨張室、110B…第2膨張室、110C…第3膨張室、111…テザー布、114…基布、115…インナーチューブ、116…外側テンションベルト、117…内側テンションベルト、118…上方通路、119…前方通路、120…ワイヤ、121…インフレータ、123…ボルト、124…ナット、130…シートフレーム、131…パッド、132…背板、133…スリット、150…制御装置、160…衝撃センサ、200…車室側壁、300…センターコンソールボックス、400…テンションベルト、S1…ステッチ、S2…ステッチ、S3…ステッチ、S21…端部、S22…端部、S31…端部、S32…端部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13