特許第6237574号(P6237574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237574
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-223317(P2014-223317)
(22)【出願日】2014年10月31日
(65)【公開番号】特開2016-89681(P2016-89681A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 弘之
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐司
(72)【発明者】
【氏名】朝日 丈雄
(72)【発明者】
【氏名】榊原 徹
(72)【発明者】
【氏名】梶田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 秀行
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−222037(JP,A)
【文献】 特開2006−097492(JP,A)
【文献】 特開2003−247404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、弁開閉用のカムシャフトと同じ回転軸芯上で一体回転する従動側回転体と、
これら両回転体どうしの相対回転位相を進角方向又は遅角方向に変位させる流体圧式の位相制御機構と、
前記両回転体どうしの間に付勢力を作用させ、前記相対回転位相を所定方向に変位させる付勢機構とを備え、
前記付勢機構が、前記回転軸芯に沿って突出する状態で前記従動側回転体に連結されるスプリングホルダと、当該スプリングホルダと前記駆動側回転体とに亘って付勢力を与えるトーションスプリングとで構成され、
前記トーションスプリングが、巻回されるコイル部と、当該コイル部の一方の端部から延出し前記スプリングホルダに係合する第1アームと、前記コイル部の他方の端部から径方向に延出する第2アームとを備え、
前記駆動側回転体の外壁には、前記トーションスプリングの端部を支持する凹状のスプリング保持部と、前記第2アームを保持する溝状のアーム保持部とが形成され
前記スプリングホルダが、前記従動側回転体に形成された嵌合凹部に嵌め込まれた状態で固定される座部を備え、前記座部には前記嵌合凹部に嵌合して位置決めを行う複数の調芯部と、前記回転軸芯に沿って突出する複数の突出部とを備え、
前記駆動側回転体を構成するフロントプレートの中央位置に貫通孔が形成され、前記回転軸芯を中心として複数の前記突出部の外周を結ぶ円の外周径が前記貫通孔の内径より小さく、前記回転軸芯を中心として複数の前記調芯部を結ぶ円の外端径が前記貫通孔の内径より大きい弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記スプリング保持部が、前記トーションスプリングの前記コイル部の端部の形状に沿うように螺旋状に形成されている請求項1記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記スプリング保持部が、前記トーションスプリングの端部のうち一巻き分以下の部位を保持する形状である請求項1又は2記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動側回転体と従動側回転体との回転位相を、付勢力により所定方向に変位させるトーションスプリングを備えている弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された弁開閉時期制御装置として特許文献1には、従動側回転体(文献では内部ロータ)を、駆動側回転体(文献では外部ロータ)に対して進角方向に付勢するトーションスプリングを備えた技術が示されている。
【0003】
この特許文献1では、駆動側回転体の前面に固定されるフロントプレートに円筒部が形成され、この円筒部の内部にトーションスプリングを収容すると共に、トーションスプリングの一端をフロントプレートに係合させ、他端を従動側回転体に係合させている。また、円筒部の内面には、トーションスプリングの一巻目が接触するためのスロープ状となる螺旋状の溝が形成されている。
【0004】
また、特許文献2には、駆動側回転体(文献ではハウジング)と従動側回転体(文献ではベーン部材)とを備え、従動側回転体に支持部材を備え、この支持部材にトーションスプリングを支持する技術が示されている。
【0005】
この特許文献2では、支持部材においてトーションスプリングの倒れを規制するための規制部を、駆動側回転体の前面側のフロントプレートの外側に配置し、規制部とフロントプレートとの間にトーションスプリングを配置し、このトーションスプリングの一端をフロントプレートに支持し、他端を支持部材の規制部に支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003‐247404号公報
【特許文献2】特開2007‐278305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の構成のように、弁開閉時期制御装置の内部に形成した収容空間にトーションスプリングを備えるものでは、収容空間を形成するために加工工程を必要とすることや、この収容空間を形成するために金型が複雑化する。このような理由から、製造コストを上昇させるものとなる。
【0008】
更に、収容空間にトーションスプリングを備えるものでは、作動時にトーションスプリングとの接触によって生ずる摩擦粉が装置内部に侵入しやすい構成となる。
【0009】
このような不都合に対し、特許文献2に示されるように、トーションスプリングを支持部材に支持した構成(以下、付勢ユニットと称する)を弁開閉時期制御装置の本体部分(駆動側回転体と従動側回転体)に取り付けることも考えられる。
【0010】
このように付勢ユニットを弁開閉時期制御装置の本体部分に取り付ける構成では、本体部分を組み立てる工程と、付勢ユニットを組み立てる工程とを別個に行うことが可能となり、組み立てを容易にする。しかも、弁開閉時期制御装置の内部にトーションスプリングの収容空間の形成が不要となるため、低廉化が可能となり、装置内部への摩擦粉の侵入の防止も可能となる。
【0011】
弁開閉時期制御装置の本体部分の外面に付勢ユニットを備える構成では、トーションスプリングの一端を駆動側回転体に係合支持すると共に、回転時の振動を抑制する観点からもトーションスプリングを適正な位置に安定した姿勢で保持することも必要となる。
【0012】
ただし、特許文献2に示される構成では、フロントプレートに形成された3つの突起部に対してトーションスプリングの基端部分を巻き付けて支持する構成であるため、フロントプレートが複雑化しやすく改善の余地がある。
【0013】
本発明の目的は、外部位置に対してトーションスプリングを安定的に支持した弁開閉時期制御装置を構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の特徴は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、弁開閉用のカムシャフトと同じ回転軸芯上で一体回転する従動側回転体と、
これら両回転体どうしの相対回転位相を進角方向又は遅角方向に変位させる流体圧式の位相制御機構と、
前記両回転体どうしの間に付勢力を作用させ、前記相対回転位相を所定方向に変位させる付勢機構とを備え、
前記付勢機構が、前記回転軸芯に沿って突出する状態で前記従動側回転体に連結されるスプリングホルダと、当該スプリングホルダと前記駆動側回転体とに亘って付勢力を与えるトーションスプリングとで構成され、
前記トーションスプリングが、巻回されるコイル部と、当該コイル部の一方の端部から延出し前記スプリングホルダに係合する第1アームと、前記コイル部の他方の端部から径方向に延出する第2アームとを備え、
前記駆動側回転体の外壁には、前記トーションスプリングの端部を支持する凹状のスプリング保持部と、前記第2アームを保持する溝状のアーム保持部とが形成され
前記スプリングホルダが、前記従動側回転体に形成された嵌合凹部に嵌め込まれた状態で固定される座部を備え、前記座部には前記嵌合凹部に嵌合して位置決めを行う複数の調芯部と、前記回転軸芯に沿って突出する複数の突出部とを備え、
前記駆動側回転体を構成するフロントプレートの中央位置に貫通孔が形成され、前記回転軸芯を中心として複数の前記突出部の外周を結ぶ円の外周径が前記貫通孔の内径より小さく、前記回転軸芯を中心として複数の前記調芯部を結ぶ円の外端径が前記貫通孔の内径より大きい点にある。
【0015】
この構成によると、スプリングホルダを従動側回転体に連結し、スプリングホルダにトーションスプリングのコイル部を配置し、このトーションスプリングの第1アームをスプリングホルダに保持させる。また、トーションスプリングの一部を駆動側回転体の外壁に凹状に形成されたスプリング保持部に嵌め込み、トーションスプリングの第2アームを駆動側回転体の外壁に形成された溝状のアーム保持部に嵌め込む。この保持部は、第2アームを径方向に嵌め込むことができるため、トーションスプリングの保持状態を回転軸芯の方向に沿って短く収めることができる。
その結果、外部位置に対してトーションスプリングを安定的に支持することが可能な弁開閉時期制御装置が構成された。特に、第2アーム部が径方向に延出するため、例えば、第2アーム部が回転軸芯に沿う方向に突出する構成のように駆動側回転体に第2アーム部を保持するための孔部を形成する必要がなく、駆動側回転体の回転軸芯方向での寸法の拡大を抑制し、結果として装置の小型化を実現する。
【0016】
本発明は、前記スプリング保持部が、前記トーションスプリングの前記コイル部の端部の形状に沿うように螺旋状に形成されても良い。
【0017】
これによると、スプリング保持部にトーションスプリングの一部を嵌め込むことにより、このトーションスプリングのコイル部の軸芯を回転軸芯と一致させる姿勢で配置することが可能となる。また、トーションスプリングの回転軸芯方向での突出量の低減も可能となる。その結果、トーションスプリングの重心位置を回転軸芯上に配置し、回転時の振動の抑制が可能となる。更に、トーションスプリングのコイル部をスプリング保持部の傾斜面に対して広い面で接触するため、局部的な接触に起因する摩耗の低減も可能となる。
【0018】
本発明は、前記スプリング保持部が、前記トーションスプリングの端部のうち一巻き分以下の部位を保持する形状であっても良い。
【0019】
これによると、回転軸芯を中心として何れの方向へのトーションスプリングの変位も抑制できると共に、トーションスプリングの他の部分を、装置の構成物に接触させないで済むため相対回転位相の変化時における抵抗を低下させ、トーションスプリングとの接触による摩耗も抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】弁開閉時期制御装置の断面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】付勢ユニットとフロントプレートとの位置関係を示す図である。
図4】付勢ユニットをフロントプレートとの分解状態の断面図である。
図5】弁開閉時期制御装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1及び図2に示すように、駆動側回転体としての外部ロータ20と、従動側回転体としての内部ロータ30と、外部ロータ20及び内部ロータ30の相対回転位相を進角方向に付勢する付勢機構としての付勢ユニット40と、電磁制御弁50とを備えて弁開閉時期制御装置Aが構成されている。
【0022】
外部ロータ20(駆動側回転体の一例)は、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト1と同期回転するようにタイミングベルト7を介して連係しており、吸気カムシャフト5の回転軸芯Xと同軸芯上に配置されている。内部ロータ(従動側回転体)は、回転軸芯Xと同軸芯上に配置されることで外部ロータ20に内包され、吸気カムシャフト5に対して一体回転するように連結している。
【0023】
この弁開閉時期制御装置Aは、内部ロータ30の回転軸芯Xと同軸芯に電磁制御弁50を備えている。弁開閉時期制御装置Aは、電磁制御弁50による作動油(流体の一例)の制御により外部ロータ20と内部ロータ30との相対回転位相を変更し、これにより吸気バルブ5Vの開閉時期の制御を行う。尚、外部ロータ20と内部ロータ30とが位相制御機構として機能する。
【0024】
エンジンE(内燃機関の一例)は、乗用車などの車両に備えられるものである。このエンジンEは、下部にクランクシャフト1を備え、上部のシリンダブロック2に形成されたシリンダボアの内部にピストン3を収容し、このピストン3とクランクシャフト1とをコネクティングロッド4で連結した4サイクル型に構成されている。
【0025】
尚、クランクシャフト1の回転力を弁開閉時期制御装置Aに伝える伝動構成としては、タイミングチェーンを用いて良く、多数のギヤを有するギヤトレインによりクランクシャフト1の駆動力を伝える構成でも良い。
【0026】
また、エンジンEの上部には、吸気カムシャフト5と排気カムシャフトとを備え、クランクシャフト1の駆動力で駆動される油圧ポンプPを備えている。吸気カムシャフト5は回転により吸気バルブ5Vを開閉作動させる。油圧ポンプPは、エンジンEのオイルパンに貯留される潤滑油を、供給流路8を介して作動油(流体の一例)として電磁制御弁50に供給する。
【0027】
エンジンEのクランクシャフト1に形成した出力プーリ6と、タイミングプーリ23Pとに亘ってタイミングベルト7を巻回することで、外部ロータ20がクランクシャフト1と同期回転する。図面には示していないが、排気側のカムシャフトの前端にもタイミングプーリが備えられ、これにもタイミングベルト7が巻回されている。
【0028】
尚、この実施形態では、吸気カムシャフト5に弁開閉時期制御装置Aを備えているが、弁開閉時期制御装置Aを排気カムシャフトに備えることや、吸気カムシャフト5と排気カムシャフトとの双方に備えても良い。
【0029】
図2に示すように、弁開閉時期制御装置Aは、クランクシャフト1からの駆動力により外部ロータ20が駆動回転方向Sに向けて回転する。また、内部ロータ30が外部ロータ20に対して駆動回転方向Sと同方向に相対回転する方向を進角方向Saと称し、この逆方向を遅角方向Sbと称する。
【0030】
〔弁開閉時期制御装置〕
弁開閉時期制御装置Aは、図1図2図5に示すように外部ロータ20と内部ロータ30とを備えると共に、内部ロータ30と吸気カムシャフト5との間に挟み込まれる位置にブッシュ状のアダプタ37を備えている。
【0031】
外部ロータ20は、外部ロータ本体21と、フロントプレート22と、リヤプレート23とを有しており、これらが複数の締結ボルト24の締結により一体化されている。リヤプレート23の外周にはタイミングプーリ23Pが形成されている。
【0032】
フロントプレート22とリヤプレート23とに挟み込まれる位置に内部ロータ30が配置されている。外部ロータ本体21には、回転軸芯Xを基準にして径方向の内側に突出する複数の区画部21Tが一体的に形成されている。
【0033】
内部ロータ30は、外部ロータ本体21の区画部21Tの突出端に密接する円柱状の内部ロータ本体31と、外部ロータ本体21の内周面に接触するように内部ロータ本体31の外周に突出して備えた複数(4つ)のベーン部32とを有している。
【0034】
これにより、回転方向で隣接する区画部21Tの中間位置で、内部ロータ本体31の外周側に複数の流体圧室Cが形成される。そして、これらの流体圧室Cがベーン部32で仕切られることにより進角室Caと遅角室Cbとが形成される。
【0035】
また、連結ボルト38にはボルト頭部38Hと雄ネジ部38Sとが形成され、雄ネジ部38Sが吸気カムシャフト5の雌ネジ部に螺合することにより、内部ロータ30が吸気カムシャフト5に連結される。特に、この連結時には、ボルト頭部38Hと吸気カムシャフト5との間にアダプタ37と、内部ロータ30と、スプリングホルダ41の座部42とが挟み込まれる状態で一体化する。
【0036】
連結ボルト38は、回転軸芯Xを中心にする筒状に形成され、この内部空間に電磁制御弁50のスプール51と、これを突出方向に付勢するスプールスプリングとが収容されている。この電磁制御弁50の構成は後述する。
【0037】
この弁開閉時期制御装置Aでは、位相制御機構としての外部ロータ20と内部ロータ30との相対回転位相を最遅角位相にロック(固定)するロック機構Lを備えている。このロック機構Lは、1つのベーン部32に対し回転軸芯Xに沿う姿勢で形成されたガイド孔26に出退自在にガイドされるロック部材25と、このロック部材25を突出付勢するロックスプリングと、リヤプレート23に形成したロック凹部とを備えている。
【0038】
エンジンEの稼働時には吸気カムシャフト5から作用する変動トルクが遅角方向Sbに作用する。このような理由から、この変動トルクの作用を抑制するように付勢ユニット40による付勢方向を、内部ロータ30に対して進角方向Saに変位させるように設定している。この付勢ユニット40の構成は後述する。
【0039】
〔弁開閉時期制御装置:油路構成〕
作動油の供給により相対回転位相を進角方向Saに変位させる空間が進角室Caであり、これとは逆に、作動油の供給により相対回転位相を遅角方向Sbに変位させる空間が遅角室Cbである。ベーン部32が進角方向Saの作動端(ベーン部32の進角方向Saの作動端の近傍の位相を含む)に達した状態での相対回転位相を最進角位相と称し、ベーン部32が遅角方向Sbの作動端(ベーン部32の遅角方向Sbの作動端の近傍の位相を含む)に達した状態での相対回転位相を最遅角位相と称する。
【0040】
内部ロータ本体31には遅角室Cbに連通する遅角流路33と、進角室Caに連通する進角流路34とが形成されている。また、ロック凹部に対して進角流路34が連通している。
【0041】
この弁開閉時期制御装置Aでは、ロック機構Lがロック状態にある状態で進角室Caに作動油が供給される際にロック凹部に対して進角流路34から作動油が供給されることにより、ロックスプリングの付勢力に抗してロック部材25がロック凹部から離脱し、ロック状態が解除される。
【0042】
〔電磁制御弁・油路構成〕
図1に示すように、電磁制御弁50は、スプール51と、スプールスプリングと、電磁ソレノイド54とで構成されている。つまり、スプール51は、連結ボルト38の内部空間で回転軸芯Xに沿う方向にスライド移動自在に配置され、連結ボルト38にはスプール51の外端側の操作位置を決めるため止め輪で成るストッパー53が備えられている。また、スプールスプリングは、このスプール51を吸気カムシャフト5から離間する方向(突出方向)に付勢力を作用させる。
【0043】
電磁ソレノイド54は、内部のソレノイドに供給された電力に比例した量だけ突出作動するプランジャ54aを備えており、このプランジャ54aの押圧力によりスプール51を操作する。また、スプール51は、内部ロータ30と一体回転し、電磁ソレノイド54は、エンジンEに支持されることにより回転不能となる。
【0044】
電磁ソレノイド54は、プランジャ54aをスプール51の外端に接当可能な位置に配置され、非通電状態では非押圧位置に保持され、スプール51は遅角ポジションに保持される。また、電磁ソレノイド54に所定電力を通電する状態ではプランジャ54aが内端側の押圧位置に達しスプール51は進角ポジションに保持される。更に、電磁ソレノイド54に対して、進角ポジションに設定する電力より低い電力を通電することにより、プランジャ54aの突出量が制限され、スプール51は進角ポジションと遅角ポジションとの中間となる中立ポジションに保持される。
【0045】
また、連結ボルト38の内部には、スプール51のポジションにより、油圧ポンプPからの流体を制御して遅角流路33と進角流路34との何れかに供給するための流路が形成されている。従って、例えば、電磁ソレノイド54によりスプール51が遅角ポジションに操作され、次に、中立ポジションに操作され、更に、進角ポジションに操作された場合には、これに対応して、油圧ポンプPからの作動油を遅角室Cbに供給する状態と、作動油の給排を行わない状態と、進角室Caに作動油を供給する状態とが、この順序で作り出される。
【0046】
〔弁開閉時期制御装置:付勢ユニット〕
付勢ユニット40は、図1図3図5に示すように、スプリングホルダ41と、スプリングホルダ41に支持されるトーションスプリング46とで構成されている。
【0047】
スプリングホルダ41は、内部ロータ本体31に連結する座部42と、座部42から回転軸芯Xに沿って突出する姿勢で形成された複数(実施形態では3つ)の突出部43とが一体的に形成されている。尚、スプリングホルダ41は、座部42を備えなくても良い。また、ロータ本体31に連結され、回転軸芯Xに沿って突出する部材を突出部43として用いることも可能である。
【0048】
座部42の中心位置には締結ボルト24が挿通する挿通孔42Aが形成されている。座部42の外周のうち周方向で突出部43の中間には、外方に突出する姿勢の調芯部44が形成され、複数(実施形態では3つ)の調芯部44の1つには、更に、外端から外方に突出する回転規制部44Aが形成されている。
【0049】
スプリングホルダ41は、金属板のプレス加工により製造されるものであり、座部42と、複数の調芯部44と、回転規制部44Aとは、回転軸芯Xに対して直交する姿勢となる同一の仮想平面上に配置される。また、複数の突出部43は各々が設定幅に形成され、その外周面が回転軸芯Xを中心とする円周上に配置されるように円弧状に成形されている。更に、プレス加工において突出部43の折曲げを容易にするため、突出部43の基端部と、調芯部44の基端部との境界部分を座部42の方向に切り欠いた切込部42Bが形成されている。
【0050】
複数の突出部43の1つの側縁には、周方向に切り込んだ凹状となる第1係合部43A(係合支持部の一例)が形成されている。内部ロータ本体31の嵌合凹部31Aの内部に複数の調芯部44が嵌り込んだ状態で、各々の調芯部44の外端縁44Eが嵌合凹部31Aの円形の内周面31AEに当接して位置決めを行う。この位置決めを実現するため、各々の外端縁44Eを結ぶ仮想外周円が回転軸芯Xを中心とする円の円周に沿う円弧状に成形されている。後述するように、仮想外周円の直径が外端径D3となる。尚、この構成では、嵌合凹部31Aに調芯部44が嵌り込んだ状態では、各々の相対回転が許される程度の嵌合状態であり、規制凹部31Bに回転規制部44Aが嵌め込まれることにより、各々の回転が規制される。
【0051】
トーションスプリング46は、スプリングホルダ41を取り囲む領域に配置され、巻回されるコイル部46Aと、コイル部46Aで回転軸芯Xに沿う方向の外端位置から外方に延出する第1アーム46B(一端)と、外端位置から径方向外方に延出する第2アーム46C(他端)と、を備えている。尚、コイル部46Aは突出部43によって区画される空間内部に配置されても良い。
【0052】
図5に示すように、フロントプレート22の中央位置には、複数の突出部43の外周径D2より僅かに大径となる内径で回転軸芯Xを中心とする孔径D1(内径)となる貫通孔22Aが形成されている。回転軸芯Xに沿う方向視で複数の突出部43の外周を結ぶ仮想外周縁が外周径D2となる。尚、トーションスプリング46のコイル部46Aの内径は外周径D2より充分に大きい値に設定されている。
【0053】
回転軸芯Xに沿う方向視で複数の調芯部44の外端を結ぶ仮想外周縁の外端径D3は孔径D1より大きく設定されている。また、内部ロータ本体31の嵌合凹部31Aの内周径D4が外端径D3より僅かに大きい値に設定されている。これにより、外周径D2の突出部43が、孔径D1の貫通孔22Aに挿通可能となる。また、貫通孔22Aの孔径D1より外端径D3が大きい調芯部44が、フロントプレート22に対して抜け止め状態で保持される。更に、この外端径D3の調芯部44が、内周径D4の嵌合凹部31Aに嵌め込み可能となる。
【0054】
フロントプレート22の外壁で貫通孔22Aを取り囲む円周領域にはトーションスプリング46のコイル部46Aの内端位置の一部が嵌り込む凹状のスプリング保持部22Bが形成されている。スプリング保持部22Bに連なる位置には、このスプリング保持部22Bから外方に向けて溝状に連なる第2係合部22C(アーム保持部の一例)が形成されている。
【0055】
図4に示すように、スプリング保持部22Bは、トーションスプリング46のコイル部46Aの端部形状に沿うように螺旋状に形成されている。つまり、スプリング保持部22Bは、回転軸芯Xに直交する仮想平面に対して傾斜する傾斜面に形成されている。このようにスプリング保持部22Bが傾斜姿勢で形成されることにより、スプリング保持部22Bの深さ(回転軸芯Xに沿う方向での値)は一定の値ではないが、このスプリング保持部22Bは、トーションスプリング46の一巻き分を収容できる深さに設定されている。
【0056】
このようにスプリング保持部22Bの深さを制限することにより、フロントプレート22の厚みの増大を制限し、弁開閉時期制御装置Aの大型化を抑制する。尚、トーションスプリング46として、断面形状が円形となる線材を用いることも可能である。
【0057】
内部ロータ本体31のうちフロントプレート側となる外端面に対して、回転軸芯Xを中心とする領域を窪ませる形態で嵌合凹部31Aが形成されている。嵌合凹部31Aは回転軸芯Xを中心とした内周面31AEを有する円形に形成されている。この嵌合凹部31Aの内周径D4は、前述したように、複数の調芯部44の外端を結ぶ仮想外周縁の外端径D3より僅かに大きい値に設定され、その外周一部に凹状となる規制凹部31Bが形成されている。
【0058】
この嵌合凹部31Aには、スプリングホルダ41の座部42と調芯部44が嵌め込まれ、規制凹部31Bには回転規制部44Aが嵌め込まれる。そして、嵌合凹部31Aと、規制凹部31Bとの深さは、スプリングホルダ41の調芯部44の厚さと一致する値に設定されている。これにより、複数の締結ボルト24によりフロントプレート22を外部ロータ本体21に連結した場合に、スプリングホルダ41の調芯部44をフロントプレート22の貫通孔22Aの外周が押さえ込み、抜け止め状態にする。
【0059】
尚、規制凹部31Bは、嵌合凹部31Aの複数箇所に形成されても良い。また、スプリングホルダ41と内部ロータ30との相対回転を規制するために、調芯部44の外周の凹部を形成し、これに嵌合する凸部を嵌合凹部31Aの内周に形成しても良い。このように規制凹部31Bが径方向に形成されているため、例えば、回転軸芯Xに沿う孔状に形成されるものと比較して、内部ロータ30の厚さを増大させることもない。
【0060】
〔付勢ユニットの組み立て〕
外部ロータ本体21の背部にリヤプレート23を配置し、内部に内部ロータ本体31を嵌め込み、また、連結ボルト38の内部にスプール51等を収容する。
【0061】
次に、フロントプレート22の貫通孔22Aに対し裏面側からスプリングホルダ41の突出部43を挿通し、複数の突出部43を取り囲むようにトーションスプリング46を配置する。
【0062】
このようにトーションスプリング46を配置する場合に、コイル部46Aの一部をフロントプレート22のスプリング保持部22Bに嵌め込み、第2係合部22Cにトーションスプリング46の第2アーム46Cを嵌め込む。更に、トーションスプリング46の第1アーム46Bを突出部43の第1係合部43Aに係合して保持する。
【0063】
次に、スプリングホルダ41の調芯部44を、内部ロータ本体31の嵌合凹部31Aに嵌め込み、回転規制部44Aを規制凹部31Bに嵌め込む。これにより、嵌合凹部31Aの円周状の内周面31AEに、複数の調芯部44の外端縁44Eが接触し、スプリングホルダ41の重心位置を回転軸芯Xの位置に保持するように位置決めが行われる。これにより、内部ロータ本体31とスプリングホルダ41とが一体回転可能な状態に達する。
【0064】
次に、フロントプレート22を外部ロータ本体21に重ね合わせ、締結ボルト24により連結する。更に、スプリングホルダ41の座部42の挿通孔42Aに連結ボルト38を挿通し、この連結ボルト38の雄ネジ部38Sを吸気カムシャフト5の雌ネジ部に螺合させて締結を行う。
【0065】
これにより、吸気カムシャフト5と、内部ロータ30と、スプリングホルダ41とが一体化し、弁開閉時期制御装置Aが完成する。この完成状態では、スプリングホルダ41の調芯部44をフロントプレート22の貫通孔22Aの外周が押さえ込み、スプリングホルダ41の浮き上がりが阻止される。
【0066】
この完成状態では、付勢ユニット40のトーションスプリング46が、外部ロータ20に対して内部ロータ30を進角方向Saに変位させる付勢力を作用させる。また、トーションスプリング46のコイル部46Aのうち、フロントプレート22に隣接する部位が、傾斜姿勢のスプリング保持部22Bに嵌り込むことにより、トーションスプリング46のコイル部46Aの軸芯を、回転軸芯Xと一致させた状態でトーションスプリング46を支持できる。更に、トーションスプリング46のコイル部46Aの内周が突出部43の外周から離間した位置に配置されるため、相対回転位相の変化時に、これらの間で抵抗を作用させることがなく、突出部43の外周を摩耗させることもない。
【0067】
〔実施形態の作用・効果〕
付勢ユニット40が、弁開閉時期制御装置Aの本体部分(位相制御機構)から突出する構成では、回転時に付勢ユニット40の重心位置を、回転軸芯Xに一致させることが重要である。この課題に対し、本発明のようにスプリングホルダ41を内部ロータ本体31に装着する場合には、内部ロータ本体31の嵌合凹部31Aに対して、調芯部44を嵌め込んで位置決めを行うことによりスプリングホルダ41の重心位置を、回転軸芯Xと同軸芯上に配置することが可能となる。また、スプリングホルダ41の回転規制部44Aを嵌め込むだけで、スプリングホルダ41を内部ロータ30と一体回転させることが可能となる。
【0068】
スプリングホルダ41を内部ロータ30に対して圧入により固定するものと比較すると、内部ロータ30に変形がなく、この圧入時の変形に伴う摺動抵抗の増大もない。更に、例えば、トーションスプリング46の一端を外部ロータ20、あるいは、内部ロータ30に対して直接的に係合させるものでは、係合部分に強度を高める必要がある。これに対してスプリングホルダ41を用いることで両ロータの何れにも強度を高める必要がなく、スプリングが係合する部位の摩耗もない。
【0069】
本発明のようにトーションスプリング46のコイル部46Aの回転軸芯Xの方向での内端側をフロントプレート22の傾斜姿勢のスプリング保持部22Bに嵌め込む形態で支持する。これにより、トーションスプリング46のコイル部46Aの軸芯位置を、回転軸芯Xと一致させ、回転時にトーションスプリング46を振動させることもない。更に、トーションスプリング46のコイル部46Aの一部がスプリング保持部22Bの傾斜面に対して広い面で接触するため、局部的な接触に起因する摩耗の低減も実現する。
【0070】
フロントプレート22の貫通孔22Aの孔径D1を、複数の調芯部44の外端径D3より小さくしているため、フロントプレート22でスプリングホルダ41を押さえ込みスプリングホルダの浮き上がりを防止する。
【0071】
この構成の弁開閉時期制御装置Aでは、外部ロータ20と内部ロータ30との間で作動油がリークするものであり、このようにリークした作動油をフロントプレート22の貫通孔22Aから外部に流し出すことにより、作動油をトーションスプリング46とスプリング保持部22Bとの間に供給し、スプリング保持部22Bの摩耗の抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を所定の方向に付勢する機構を備えている弁開閉時期制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 クランクシャフト
5 カムシャフト(吸気カムシャフト)
20 駆動側回転体(外部ロータ)
22B スプリング保持部
22C アーム保持部(第2係合部)
30 従動側回転体(内部ロータ)
40 付勢機構(付勢ユニット)
41 スプリングホルダ
43A 第1係合部
46 トーションスプリング
46A コイル部
46B 第1アーム
46C 第2アーム
E 内燃機関(エンジン)
Sa 進角方向
Sb 遅角方向
X 回転軸芯
図1
図2
図3
図4
図5