(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第3溝は、前記ガイド部材が案内可能な各サイズの前記被記録媒体がそれぞれ通過する領域の端の内側及び外側に設けられる、請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。また、以下の各実施形態で示す材質や形状、寸法等は、一例であって特に限定されるものではない。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の構成を示す図である。インクジェット記録装置1はインク滴を吐出して、用紙P(被記録媒体の一例)に画像を記録する。インクジェット記録装置1は、装置筐体100と、装置筐体100の内部の下方に配置された給紙部2と、給紙部2の上方に配置された記録部3と、記録部3の一側方(
図1では右側)に配置された用紙搬送部4と、記録部3の他側方(
図1では左側)に配置された用紙排出部5とを備える。
【0013】
給紙部2は、用紙Pを用紙搬送部4へ給紙する。給紙部2は、装置筐体100に着脱自在の給紙カセット21と、給紙ローラー22と、ガイド板23とを備える。給紙ローラー22は給紙カセット21の一端側(
図1では右側端)の上方に配置される。ガイド板23は給紙ローラー22と用紙搬送部4との間に配置される。
【0014】
給紙カセット21は、複数枚の用紙Pを収納可能である。給紙ローラー22(ピックアップローラー)は、用紙Pを給紙カセット21から1枚ずつ取り出し、ガイド板23へ向けて送る。ガイド板23は、給紙ローラー22が取り出した用紙Pを用紙搬送部4へ案内する。
【0015】
用紙搬送部4は、用紙Pを記録部3へ搬送する。用紙搬送部4は、略C字形の用紙搬送路41と、用紙搬送路41の入口側に設けられた第1搬送ローラー対42と、用紙搬送路41の途中に設けられた第2搬送ローラー対43と、用紙搬送路41の出口側に設けられたレジストローラー対44とを備える。
【0016】
用紙搬送路41は、ガイド板によって構成される。第1搬送ローラー対42は、給紙部2から給紙される用紙Pを挟んで用紙搬送路41内に送出する。第2搬送ローラー対43は、第1搬送ローラー対42が送出した用紙Pを挟んでレジストローラー対44へ向けて送出する。
【0017】
レジストローラー対44は、第2搬送ローラー対43が送出した用紙Pの斜行補正を行う。また、レジストローラー対44は、用紙Pへの画像の記録タイミングと、記録部3への用紙Pの搬送タイミングとを同期させるために、用紙Pを一時的に停止させた後、用紙Pを画像記録タイミングに合わせて記録部3に送出する。具体的には、用紙Pがレジストローラー対44に当接して停止する。この当接により、用紙Pの斜行補正が行われる。その後、レジストローラー対44が、用紙Pを画像記録タイミングに合わせて記録部3へ送出する。
【0018】
記録部3は、用紙Pを搬送しつつ、用紙Pに画像を記録する。記録部3は、搬送部31と、搬送板32(ガイド部材の一例)と、搬送ガイド33と、4種類の記録ヘッド34a、34b、34c、34dと、板状部材35(空間形成部材の一例)と、ヘッドベース36と、吸引部37とを備える。4種類の記録ヘッド34a、34b、34c、34dは、略同一の構成を有するため、記録ヘッド34と総称することもある。
【0019】
搬送部31は、レジストローラー対44から送出された用紙Pを搬送する。搬送部31は、搬送ベルト310(無端ベルトの一例)を備える。搬送部31は、搬送ベルト310を所定の回転方向(
図1では反時計回り方向)に回転させる。レジストローラー対44が送出した用紙Pは、搬送ベルト310上に導かれる。搬送ベルト310が回転することにより、用紙Pが搬送される。
【0020】
搬送板32は、搬送ベルト310を支持すると共に、搬送ベルト310を介して用紙Pを支持する。搬送板32は、搬送部31(搬送ベルト310)が搬送する用紙Pを、矢印Xで示す方向(副走査方向)へ案内する。以下、搬送部31(搬送ベルト310)によって用紙Pが搬送される方向を、用紙搬送方向Xと記載する。
【0021】
搬送ガイド33は、用紙搬送方向Xに対して搬送板32よりも下流側(
図1では左側)に配置される。したがって搬送板32は、用紙Pを搬送ガイド33へ案内する。つまり、搬送部31は、用紙Pを搬送ガイド33へ送出する。搬送ガイド33は、搬送部31が送出した用紙Pを用紙排出部5に案内する。
【0022】
記録ヘッド34は、ヘッドベース36に保持されて搬送部31の上方に配置され、搬送ベルト310を介して搬送板32に対向する。記録ヘッド34は、搬送部31(搬送ベルト310)が用紙Pを搬送している間に、用紙Pに画像を記録する。詳しくは、記録ヘッド34は、記録ヘッド34に対向する位置を通過する用紙Pへ向けてインク滴を吐出する。これにより、用紙Pに文字、図形のような画像が記録される。
【0023】
板状部材35は、ヘッドベース36の搬送部31側(搬送板32側)の面に固定されて、搬送部31の上方に配置される。つまり、板状部材35は、搬送ベルト310を介して搬送板32に対向する。板状部材35をヘッドベース36に固定することにより、板状部材35を所定位置に容易に配置することができる。
【0024】
板状部材35は、用紙搬送方向Xに対して記録ヘッド34よりも上流側(
図1では右側)に配置される。詳しくは、記録ヘッド34a、34b、34c、34dのうち、用紙搬送方向Xに対して最も上流側に位置する記録ヘッド34aよりも上流側に板状部材35が配置される。したがって用紙Pは、板状部材35の下方を通過した後、記録ヘッド34の下方を通過して、搬送ガイド33に至る。以下、記録ヘッド34aを最上流記録ヘッド34aと記載する場合がある。
【0025】
吸引部37は、搬送板32の下方に配置される。吸引部37は、搬送板32及び搬送ベルト310を介して、用紙Pを搬送ベルト310へ向けて吸引する。その結果、用紙Pが搬送ベルト310に吸着される。
【0026】
用紙排出部5は、用紙Pを装置筐体100の外部に排出する。用紙排出部5は、排出ローラー対51と、排出トレイ52とを備える。排出トレイ52は、装置筐体100に形成された排出口11から外部に突出するように装置筐体100に固定される。排出口11は、装置筐体100の一方側面(
図1では左側面)に形成されている。
【0027】
排出ローラー対51は、搬送ガイド33を通過した用紙Pを排出口11の方向に送出する。排出ローラー対51が送出した用紙Pは、排出トレイ52によって案内されて、排出口11を介して装置筐体100の外部に排出され、排出トレイ52上に載置される。複数枚の用紙Pに連続して画像が記録された場合、複数枚の用紙Pは、排出トレイ52上に積載される。
【0028】
図2は、搬送ベルト310を示す平面図である。
図2に示すように、搬送ベルト310には複数の吸引孔311が穿孔されている。吸引孔311の直径は、2mmであり得る。また、隣接する吸引孔311間の間隔は、8mmであり得る。
【0029】
複数の吸引孔311は、用紙搬送方向X、及び、用紙搬送方向Xに直交する方向(主走査方向)に沿って配列される。以下、用紙搬送方向X(第1方向)に直交する方向(第2方向)を用紙幅方向と記載する。複数の吸引孔311は、
図2に示すように、千鳥状に配置され得る。
【0030】
図3は、搬送板32を示す平面図である。詳しくは、
図3は、搬送板32の記録ヘッド34(
図1参照)側の面320の一部を示す。以下、搬送板32の記録ヘッド34側の面320を支持面320と記載する場合がある。搬送板32は支持面320により、搬送ベルト310(
図1参照)を介して用紙Pを支持する。
【0031】
搬送板32は、金属材料から構成される。具体的には、搬送板32の材料として、アルミダイキャスト、プレス加工板等を使用できる。あるいは、搬送板32の材料として、搬送ベルト310との摺動性に優れた樹脂を選択することも可能である。搬送板32が金属材料から構成される場合、搬送板32は接地され得る。
【0032】
図3に示すように、支持面320に複数の溝321が形成されている。各溝321は、記録ヘッド34(
図1参照)側が開口する長溝である。詳しくは、各溝321の形状は、用紙搬送方向Xに延伸する長円状である。
【0033】
複数の溝321は、用紙搬送方向X及び用紙幅方向に沿って配列される。複数の溝321は、
図3に示すように、千鳥状に配置され得る。詳しくは、複数の溝321は、搬送ベルト310の吸引孔311(
図2参照)と対向し得る位置に配列される。つまり複数の溝321は、吸引孔311と連通できる位置に配列される。この配列により、搬送ベルト310の進行(回転)に伴って、各溝321に対向する吸引孔311が1つずつ入れ替わってゆく。各溝321は、少なくとも2つの吸引孔311と対向し得るように形成される。
【0034】
また搬送板32には、複数の貫通孔322が形成されている。複数の貫通孔322は、複数の溝321内に位置する。詳しくは、各溝321内に少なくとも1つの貫通孔322が位置する。各貫通孔322は、対応する溝321に連通する。各貫通孔322の断面は、円形状であり得る。複数の貫通孔322は、
図3に示すように、千鳥状に配置され得る。
【0035】
図4(a)は、搬送板32の溝321及び貫通孔322を示す平面図であり、
図4(b)は、
図4(a)に示すA−A線に沿った溝321及び貫通孔322の断面図である。
図4(a)及び
図4(b)に示すように、貫通孔322は、搬送板32をその厚み方向(
図4(b)では上下方向)に貫通しており、貫通孔322の一方端は、対応する溝321内に開口する。
【0036】
続いて
図5を参照して、搬送部31(搬送ベルト310)によって搬送される用紙Pが通過する領域(位置)について説明する。
図5は、記録部3の一部を拡大して示す図である。詳しくは、
図5は、ヘッドベース36の周辺の構成を示す。また
図5は、理解を容易にするために、搬送板32の断面を示している。
【0037】
図5に示すように、用紙Pは、搬送板32の支持面320(
図3参照)に沿って、第1領域Aから第2領域Bへ搬送される。換言すれば、搬送板32は、第1領域Aから第2領域Bへ用紙Pを案内する。第1領域Aは板状部材35の下方の領域であり、板状部材35は第1領域Aにおいて、搬送ベルト310を介して搬送板32(支持面320)に対向する。第2領域Bは記録ヘッド34の下方の領域であり、記録ヘッド34は第2領域Bにおいて、搬送ベルト310を介して搬送板32(支持面320)に対向する。
【0038】
続いて、
図1、
図2、
図5及び
図6を参照して、記録部3の構成を説明する。
図6は、記録部3の構成を示す図である。
図6は、理解を容易にするために、搬送板32の断面及び吸引部37の一部(箱状部材371)の断面を示している。
【0039】
搬送部31は、装置筐体100(
図1参照)内において、記録ヘッド34に対向する。搬送部31は、搬送ベルト310の内周側に配置された駆動ローラー312、ベルト速度検知ローラー313、テンションローラー314、及び一対のガイドローラー315を備える。搬送部31は更に、搬送ベルト310の外周側に配置された吸着ローラー316を備える。
【0040】
搬送ベルト310は、駆動ローラー312、ベルト速度検知ローラー313、テンションローラー314、及び一対のガイドローラー315に張架される。張架された搬送ベルト310の内周側に、搬送板32及び吸引部37が配置される。搬送板32は、搬送ベルト310を介して、記録ヘッド34及び板状部材35に対向する。吸引部37は、搬送ベルト310の内周側において、搬送板32の下方に配置される。
【0041】
駆動ローラー312は、用紙搬送方向Xに対して搬送板32よりも下流側(
図6では左側)に配置される。駆動ローラー312はモーター(図示せず)によって回転駆動され、所定の回転方向(
図6では反時計回り方向)に搬送ベルト310を回転させる。搬送ベルト310が回転することにより、用紙Pが用紙搬送方向Xに搬送される。
【0042】
ベルト速度検知ローラー313は、用紙搬送方向Xに対して搬送板32よりも上流側(
図6では右側)に配置され、搬送ベルト310との間に発生する摩擦によって回転する。好ましくは、ベルト速度検知ローラー313は、駆動ローラー312と共に、記録ヘッド34と対面する箇所の搬送ベルト310の平面性を維持するように配置される。
【0043】
ベルト速度検知ローラー313はパルス板(図示せず)を含み、パルス板は、ベルト速度検知ローラー313と一体になって回転する。パルス板の回転速度を測定することにより、搬送ベルト310の回転速度が検知される。
【0044】
テンションローラー314は、搬送ベルト310が撓まないように、搬送ベルト310に張力を与える。一対のガイドローラー315は、搬送ベルト310が吸引部37の下方を通過するように、搬送ベルト310を案内する。
【0045】
吸着ローラー316は従動ローラーである。吸着ローラー316は、用紙搬送方向Xにおける搬送板32の上流側の端部に、搬送ベルト310を介して対向する。吸着ローラー316は、レジストローラー対44(
図1参照)が送出した用紙Pを搬送ベルト310上へ誘導して、搬送ベルト310に吸着させる。
【0046】
吸引部37は、搬送板32の溝321及び貫通孔322と、搬送ベルト310の吸引孔311(
図2参照)とを介して、空気を吸引する。この吸引により、ヘッドベース36の下方の空間に風が発生する。用紙Pが搬送ベルト310上に案内されて搬送ベルト310の一部を覆うと、用紙Pに吸引力(負圧)が作用して、用紙Pが搬送ベルト310に吸着される。吸引部37は、上面が開口した箱状部材371と、第1吸引装置372aと、第2吸引装置372bと、第1ダクト373aと、第2ダクト373bとを備える。
【0047】
搬送板32は、箱状部材371の上面開口を覆うように配置される。搬送板32と箱状部材371とにより、圧力室374が区画される。圧力室374は、搬送板32の貫通孔322及び溝321を介して、搬送ベルト310の吸引孔311に連通する。
【0048】
第1吸引装置372aと第2吸引装置372bとは、箱状部材371の下面に固定される。詳しくは、箱状部材371の底壁に、第1開口375aと第2開口375bとが形成されており、第1吸引装置372aは、第1開口375aに対応して配置され、第2吸引装置372bは、第2開口375bに対応して配置される。
【0049】
また、第1開口375aは、板状部材35の下方に形成され、第2開口375bは、記録ヘッド34の下方に形成される。つまり、第1吸引装置372aは、板状部材35の下方(
図5に示す第1領域Aの下方)に位置し、第2吸引装置372bは、記録ヘッド34の下方(
図5に示す第2領域Bの下方)に位置する。したがって、第1吸引装置372aは、第1領域Aの下方において負圧(吸引力)を発生させ、第2吸引装置372bは、第2領域Bの下方において負圧(吸引力)を発生させる。
【0050】
第1ダクト373aは、第1吸引装置372aの下面に接続される。第2ダクト373bは、第2吸引装置372bの下面に接続される。
【0051】
第1吸引装置372a及び第2吸引装置372bが駆動することによって、圧力室374内に、500Paの負圧(ゲージ圧)が発生する。この負圧により、貫通孔322を介して溝321に吸引力が発生し、溝321を介して搬送ベルト310の吸引孔311に吸引力が発生する。その結果、搬送ベルト310の吸引孔311、搬送板32の溝321、及び搬送板32の貫通孔322を介して、圧力室374内に空気が吸引される。圧力室374内に吸引された空気は、第1吸引装置372a、第2吸引装置372b、第1ダクト373a、及び第2ダクト373bを介して排気される。また、用紙Pが搬送ベルト310上に案内されて、複数の吸引孔311のうちの一部を塞ぐと、用紙Pによって塞がれた吸引孔311から用紙Pに吸引力(負圧)が作用して、用紙Pが搬送ベルト310に吸着される。
【0052】
第1吸引装置372a及び第2吸引装置372bは、ファンである。但し、第1吸引装置372a及び第2吸引装置372bはファンに限定されるものではなく、例えば真空ポンプであってもよい。
【0053】
本実施形態では、第1吸引装置372aの吸引力が、第2吸引装置372bの吸引力よりも大きい。このため、板状部材35の下方(第1領域A)に形成されている溝321の吸引力が、記録ヘッド34の下方(第2領域B)に形成されている溝321の吸引力よりも大きい。したがって、第1領域Aを通過中の吸引孔311の吸引力が、第2領域Bを通過中の吸引孔311の吸引力よりも大きくなる。その結果、第1領域Aにおいて吸引孔311に流れ込む空気流の速さ(風速)が、第2領域Bにおいて吸引孔311に流れ込む空気流の速さ(風速)よりも大きくなる。つまり、板状部材35の下方に発生する風の風速が、記録ヘッド34の下方に発生する風の風速よりも大きくなる。
【0054】
4種類の記録ヘッド34a、34b、34c、34dはそれぞれ、互いに異なる色のインク滴を吐出し得る。具体的には、ブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの各色のインク滴が、それぞれ、各記録ヘッド34a、34b、34c、34dから吐出され得る。
【0055】
また、記録ヘッド34はヘッドベース36に保持されて、搬送ベルト310との間に所定の間隔(1mm)が形成されるような高さに支持され得る。なおインクジェット記録装置1は、搬送ベルト310によって搬送される用紙P(被記録媒体)の厚みに応じてヘッドベース36を昇降させる機構を備え得る。斯かる構成により、記録ヘッド34と用紙Pとの間に所定の距離(1mm)が形成されるような高さに、記録ヘッド34を支持することが可能となる。
【0056】
4種類の記録ヘッド34a、34b、34c、34dは、用紙搬送方向Xの上流側から下流側に向けて(
図6では左向きに)並設される。記録ヘッド34は、用紙幅方向(
図6では、紙面に直交する方向)に配列された複数のノズル(図示せず)を備える。複数のノズルからインク滴が吐出されて、用紙Pに文字、図形のような画像が記録される。
【0057】
なお、記録ヘッド34はラインヘッドと呼ばれる。即ち、インクジェット記録装置1は、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置である。本実施形態において、記録ヘッド34の用紙幅方向の長さは、搬送板32が案内可能な(つまり、インクジェット記録装置1が記録可能な)被記録媒体の最大幅以上である。
【0058】
板状部材35は、ヘッドベース36に固定されて、最上流記録ヘッド34aと吸着ローラー316との間に配置される。板状部材35の用紙搬送方向Xの長さは、60mmである。板状部材35の少なくとも下面は、導電体から構成され得る。導電体としては、ステンレス等を使用し得る。板状部材35の全部、又は板状部材35を部分的に構成する導電体は、接地され得る。板状部材35は、搬送ベルト310との間に狭隙空間351(異物回収空間の一例)を形成する。狭隙空間351は、第1領域Aに形成される。
【0059】
板状部材35は、用紙搬送方向Xに対して最上流記録ヘッド34aよりも上流に狭隙空間351を形成して、狭隙空間351に風を発生させる。その風によって、紙粉のような異物を用紙Pから剥離させることができる。つまり、レジストローラー対44から記録部3へ送出された用紙Pには異物が付着している可能性がある。これに対し、板状部材35を設けることにより、第2領域Bに用紙Pが進入するよりも前に、第1領域Aにおいて用紙Pから異物を剥離させることができる。第1領域Aにおいて用紙Pから異物を剥離させることにより、記録ヘッド34の下方(第2領域B)へ搬送される異物の量を減らすことができる。その結果、記録ヘッド34のノズルへの異物の付着を抑制することができる。
【0060】
異物は、製紙工程中に発生する可能性がある。具体的には、裁断工程において用紙Pの切断面に切り粉(紙粉)が発生して、用紙Pに付着する可能性がある。また、梱包時に用紙Pの表面同士が擦れて、紙粉や炭酸カルシウム、タルクのような異物が用紙Pから剥離し、用紙Pに付着する可能性がある。
【0061】
また紙粉は、インクジェット記録装置1内で用紙Pを搬送する際に発生する可能性がある。例えば、用紙Pが給紙ローラー22と摺擦することにより、用紙Pから繊維や填料が剥離し、紙粉となって用紙Pに付着する可能性がある。同様に、用紙Pが第1搬送ローラー対42等の搬送ローラーと摺擦して紙粉が発生する可能性がある。また、用紙搬送部4を構成するガイド板に用紙Pが摺擦して紙粉が発生する可能性がある。また、給紙ローラー22が用紙Pをピックアップする際に、ピックアップされる用紙Pが、給紙カセット21に収納されている用紙Pと摺擦して紙粉が発生する可能性がある。
【0062】
また、用紙Pに付着している紙粉のような異物が、第1搬送ローラー対42等の搬送ローラーに付着する可能性がある。この場合、搬送ローラーに付着した異物が、後から搬送される用紙Pに再度付着し、その結果、用紙Pによって一度に搬送される異物の量が多くなる可能性がある。
【0063】
またインクジェット記録装置1の装置筐体100の内部には、様々な空気の流れが発生している。例えば、搬送ベルト310の上方から圧力室374へ空気が流れる。また、用紙Pが搬送されることで、用紙搬送方向Xへの空気の流れが発生する。したがって、用紙Pは風に当たりながら記録ヘッド34の下方を通過する。また、記録ヘッド34と搬送ベルト310との間の空間は狭いため、記録ヘッド34と搬送ベルト310との間では、比較的強い風が発生し易い。したがって、記録ヘッド34の下方は、風によって用紙Pから異物が吹き飛ばされやすい(舞い上がりやすい)環境になっている。そのため、用紙Pから吹き飛ばされた異物が記録ヘッド34のノズルに付着する可能性がある。
【0064】
また、紙粉の付着力は、一般的にクーロン力が支配的となる。このため、搬送板32と記録ヘッド34との間に電界が生じた場合、その電気的な力によって、紙粉が飛翔し、記録ヘッド34へ引き寄せられる可能性がある。その結果、紙粉が記録ヘッド34のノズルに付着する可能性がある。
【0065】
本実施形態では、狭隙空間351に風を発生させることによって、紙粉のような異物を用紙Pから剥離させる。狭隙空間351に流れる空気は、用紙Pから異物を剥離させるために十分な風速で流れる必要がある。本実施形態では、板状部材35の厚みを調整することによって、狭隙空間351の空気流入口の断面積を小さく設定する。これにより、狭隙空間351内に、用紙Pから異物を剥離させるために十分な風速の風を発生させる。具体的には、用紙Pが狭隙空間351に進入した際に、狭隙空間351の空気流入口に6.0m/秒以上の風速の風(空気の流れ)を発生させることにより、用紙Pから異物を剥離することができる。剥離した異物は、圧力室374内へ吸引され、主に第1吸引装置372aを介して第1ダクト373aから排出される。
【0066】
ヘッドベース36には、第1孔361が形成されている。第1孔361は、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも上流(
図6では右側)に位置する。またヘッドベース36には、第2孔362が形成されている。第2孔362は、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも下流(
図6では左側)に位置する。換言すれば、用紙搬送方向Xにおいて板状部材35を挟むように第1孔361及び第2孔362が設けられる。
【0067】
第1孔361及び第2孔362はそれぞれ、用紙幅方向に延びた長孔である。圧力室374が負圧になると、第1孔361及び第2孔362を介して狭隙空間351に空気が流入する。なお、本実施形態では、用紙幅方向に延びた第1孔361及び第2孔362がヘッドベース36に形成される場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。ヘッドベース36に形成される孔は、長孔以外の形状であってもよい。例えば、用紙幅方向に沿って略円柱状の孔が複数個形成されてもよい。
【0068】
続いて
図7を参照して、板状部材35と用紙P(被記録媒体)との間の距離TDについて説明する。
図7は、板状部材35の近傍の構成を示す図である。
【0069】
本実施形態において、板状部材35と用紙Pとの間の距離TDは、1.5mm以上3.0mm以下である。距離TDは、例えば2mmである。距離TDをこのように設定し、圧力室374内に500Paの負圧(ゲージ圧)を発生させることで、狭隙空間351の空気流入口(具体的には、板状部材35と用紙Pとの間)に6.0m/秒以上の風速の風を発生させることができる。
【0070】
続いて
図8を参照して、板状部材35と、搬送板32の溝321及び貫通孔322との位置関係について説明する。
図8は、板状部材35と、搬送板32の溝321及び貫通孔322との位置関係を示す図である。
【0071】
図8に示すように、複数の溝321は、最上流記録ヘッド34aへ向けて、板状部材35の下方から板状部材35の外側へ延伸する複数の第1溝321aを含む。つまり、各第1溝321aは、板状部材35の下方から、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも下流側に延伸(突出)する。
【0072】
用紙搬送方向Xにおける各第1溝321aの下流端は、板状部材35と最上流記録ヘッド34aとの間に位置する。即ち、各第1溝321aの下流端は、第1領域Aと第2領域Bとの間に位置する(
図5参照)。したがって、各第1溝321aは、用紙搬送方向Xに対して最上流記録ヘッド34a(第2領域B)よりも上流側の位置まで延伸(突出)する。換言すれば、各第1溝321aは、第2領域B(記録ヘッド34の下方)まで届いていない。
【0073】
各第1溝321a内の貫通孔322は、板状部材35の下方(第1領域A内)に設けられる。以下、第1溝321a内の貫通孔322を第1貫通孔322aと記載する。なお、各第1貫通孔322aは、板状部材35(第1領域A)と最上流記録ヘッド34a(第2領域B)との間において、最上流記録ヘッド34a(第2領域B)よりも板状部材35(第1領域A)に近い位置に設けられてもよい。
【0074】
斯かる構成によれば、記録ヘッド34の下方における吸引力を高めることなく、異物回収効率を高めることができる。即ち、各第1貫通孔322aには、主に第1吸引装置372a(
図6参照)によって吸引力が発生するため、各第1溝321aの吸引力を高めることができる。したがって、用紙Pから異物を剥離させるために十分な風速の風を狭隙空間351内に発生させることができる。
【0075】
また、各第1溝321aは、記録ヘッド34の下方には届いていない。よって、各第1溝321aの吸引力が記録ヘッド34の下方の空間に作用することを抑制できる。つまり、各第1溝321aの吸引力によって、記録ヘッド34の下方の空間にまで風速の大きな空気の流れ(風)が発生することを抑制できる。
【0076】
これに対し、例えば
図9に示すように、各第1溝321aが最上流記録ヘッド34aの下方まで延伸している場合、最上流記録ヘッド34aの下方の吸引力が大きくなる。最上流記録ヘッド34aの下方における吸引力が大きくなると、最上流記録ヘッド34aの下において異物が飛散して、最上流記録ヘッド34aのノズルに付着し、ノズル詰まり(インク不吐出)が発生し易くなる。
【0077】
また本実施形態では、
図8に示すように、複数の溝321が、複数の第2溝321bを含む。各第2溝321bは、板状部材35へ向けて、最上流記録ヘッド34aの下方から最上流記録ヘッド34aの外側に延伸する。用紙搬送方向Xにおける各第2溝321bの上流端は、板状部材35の下方(第1領域)に位置する。換言すると、各第2溝321bは、最上流記録ヘッド34aの下方(第2領域B)から板状部材35の下方(第1領域A)まで延伸する。
【0078】
各第2溝321b内の貫通孔322は、板状部材35(第1領域A)と最上流記録ヘッド34a(第2領域B)との間において、板状部材35よりも最上流記録ヘッド34aに近い位置に設けられる。以下、第2溝321b内の貫通孔322を第2貫通孔322bと記載する。なお、各第2貫通孔322bは、最上流記録ヘッド34aの下方(第2領域B内)に設けられてもよい。
【0079】
このように各第2溝321bが板状部材35の下方(第1領域A)まで延伸していても、最上流記録ヘッド34aの下方における吸引力を高めることなく、異物回収効率を高めることができる。各第2貫通孔322bには、主に第2吸引装置372b(
図6参照)によって吸引力が発生するためである。また、各第2貫通孔322bに、主に第2吸引装置372bによって吸引力が発生するため、各第2溝321bの吸引力を弱めて、最上流記録ヘッド34aの下方(第2領域B)での異物の飛散を抑えることができる。
【0080】
なお、第1貫通孔322aが、最上流記録ヘッド34a(第2領域B)から離れているほど、板状部材35の下方の吸引力が大きくなり、異物回収効率が向上する。また、第1貫通孔322aが、最上流記録ヘッド34a(第2領域B)から離れているほど、記録ヘッド34の下方の空間に、第1貫通孔322aの吸引力が作用することを抑制できる。
【0081】
続いて
図1〜
図8、
図10、及び
図11を参照して、記録部3の動作について説明する。
図10は、狭隙空間351に用紙Pが進入する際の様子を示す図である。詳しくは、
図10は、用紙Pが狭隙空間351に進入する際に、用紙Pの前端部(
図10では左側の端部)から異物mが剥離する様子を示す。
図11は、狭隙空間351から用紙Pが離れる際の様子を示す図である。詳しくは、
図11は、用紙Pが狭隙空間351から離れる際に、用紙Pの後端部(
図11では右側の端部)から異物mが剥離する様子を示す。
【0082】
用紙Pに画像を記録する際には、駆動ローラー312が回転駆動されるとともに、第1吸引装置372a及び第2吸引装置372bが駆動される。これにより、搬送ベルト310が回転し、圧力室374に負圧が発生する。この負圧により、各貫通孔322を介して各溝321に吸引力が発生する。そして、回転する搬送ベルト310の各吸引孔311に、各溝321を介して吸引力が発生する。詳しくは、回転する搬送ベルト310のうち、搬送板32によって支持される箇所に位置する各吸引孔311(搬送板32の上に位置する各吸引孔311)に吸引力が発生する。その結果、搬送板32及び搬送ベルト310を介して圧力室374へ空気が吸引される。また、第1孔361及び第2孔362から狭隙空間351に空気が流入する。
【0083】
レジストローラー対44により記録部3へ送出された用紙Pは、吸着ローラー316によって搬送ベルト310上に導かれる。この際、用紙Pの用紙幅方向の中心が、搬送ベルト310の用紙幅方向の中心と一致するように、用紙Pが搬送ベルト310に導かれることが好ましい。用紙Pは、搬送ベルト310の一部を覆う。換言すれば、複数の吸引孔311の一部を覆う。その結果、吸引力(負圧)が用紙Pに作用して、用紙Pが搬送ベルト310に吸着される。そして、用紙Pは、搬送ベルト310の回転に伴って用紙搬送方向Xに搬送される。
【0084】
用紙Pは、搬送ベルト310によって、第1領域A(板状部材35の下方)を通過した後、第2領域B(記録ヘッド34の下方)を通過する。板状部材35の下方、つまり狭隙空間351に用紙Pが進入すると、
図10に示すように、用紙Pの前端部が、矢印D1で示す風に曝される。矢印D1で示す風は、第1孔361から狭隙空間351へ向けて流入する空気の流れであり、用紙搬送方向Xの上流側から下流側に向けて(
図10では左向きに)吹く。この風によって、用紙Pの前端部に付着している異物mが、用紙Pから剥離される。剥離された異物mは、板状部材35の下方に位置する吸引孔311から、板状部材35の下方に位置する溝321へ導かれ、対応する貫通孔322を介して圧力室374内へ導かれる。そして、圧力室374を通り、主に第1吸引装置372a及び第1ダクト373aを通過して、外部に排出される。
【0085】
また、用紙Pが狭隙空間351から離れる際には、
図11に示すように、用紙Pの後端部が、矢印D2で示す風に曝される。矢印D2で示す風は、第2孔362から狭隙空間351へ向けて流入する空気の流れであり、用紙搬送方向Xの下流側から上流側に向けて(
図11では右向きに)吹く。この風によって、用紙Pの後端部に付着している異物mが、用紙Pから剥離される。剥離された異物mは、板状部材35の下方に位置する吸引孔311から、板状部材35の下方に位置する溝321へ導かれ、対応する貫通孔322を介して圧力室374内へ導かれる。そして、圧力室374を通り、主に第1吸引装置372a及び第1ダクト373aを通過して、外部に排出される。
【0086】
用紙Pが第2領域Bを通過する際には、4種類の記録ヘッド34a、34b、34c、34dにそれぞれ対向する位置へ用紙Pの各部分が連続して搬送される。この間に、4種類の記録ヘッド34a、34b、34c、34dから、それぞれ、各色のインク滴が用紙Pへ向けて吐出される。これによって、用紙Pに画像が記録される。
【0087】
以上説明した第1実施形態によれば、簡易な構成で記録ヘッド34のノズルへの異物の付着を抑制できる。
【0088】
また、板状部材35の下方に配置された溝321の吸引力が、記録ヘッド34の下方に配置された溝321の吸引力よりも大きい。斯かる構成によれば、異物回収効率を高めることができる。
【0089】
また、各第1溝321aが、第2領域B(記録ヘッド34の下方)まで届いていないことから、記録ヘッド34の下方における吸引力を高めることなく、異物回収効率を高めることができる。
【0090】
また、板状部材35の少なくとも下面が導電体から構成される。斯かる構成によれば、帯電している紙粉が板状部材35に付着し難くなる。また、板状部材35を構成する導電体を接地することにより、帯電している紙粉が板状部材35に更に付着し難くなる。
【0091】
また、ヘッドベース36に第1孔361及び第2孔362が形成されているため、狭隙空間351に空気をスムーズに流れ込ませることができる。
【0092】
また、吸引部37が独立した2つの吸引装置372a、372bを備えているため、板状部材35の下方に配置された溝321の吸引力を、記録ヘッド34の下方に配置された溝321の吸引力よりも大きくすることが容易に可能となる。したがって、容易に異物回収効率を高めることができる。また、異物回収効率を低下させることなく、記録ヘッド34の下方に配置された溝321の吸引力を、板状部材35の下方に配置された溝321の吸引力よりも小さくすることができる。よって、記録ヘッド34の下方での異物の飛散を容易に抑えることができる。
【0093】
なお、本実施形態では、板状部材35がヘッドベース36に固定されている場合について説明しているが、板状部材35が装置筐体100内に設けられた他の固定部材に固定されている形態でもよい。例えば、板状部材35の用紙幅方向の両端を固定部材に固定する形態でもよい。斯かる構成によれば、用紙搬送方向Xに対して板状部材35の下流側及び上流側から狭隙空間351内に流入する空気の流れを阻害する部材が存在しないため、狭隙空間351における風速を更に増大することができる。したがって、紙粉を更に効果的に除去することができる。
【0094】
また、本実施形態では、各第2溝321bが、最上流記録ヘッド34aの下方(第2領域B)から板状部材35の下方(第1領域A)まで延伸する場合について説明しているが、本発明はこれに限定されない。以下、
図12及び
図13を参照して、板状部材35と、搬送板32の溝321及び貫通孔322との位置関係の他の例について説明する。
【0095】
図12は、板状部材35と、搬送板32の溝321及び貫通孔322との位置関係の他の例1を示す図である。
図12に示すように、用紙搬送方向Xにおける各第2溝321bの上流端は、板状部材35と最上流記録ヘッド34aとの間に位置してもよい。即ち、各第2溝321bの上流端は、第1領域A(
図5参照)と第2領域B(
図5参照)との間に位置してもよい。したがって、各第2溝321bは、用紙搬送方向Xに対して第1領域A(板状部材35)よりも下流側の位置まで延伸(突出)してもよい。換言すれば、各第2溝321bは、板状部材35の下方(第1領域A)まで届いていなくてもよい。
【0096】
斯かる構成によれば、各第2溝321bが板状部材35の下方に届いていないため、
図8に示す構成と比べて、狭隙空間351における吸引力を大きくすることができ、異物回収効率を更に高めることができる。
【0097】
図13は、板状部材35と、搬送板32の溝321及び貫通孔322との位置関係の他の例2を示す図である。
図8及び
図12に示す構成では、用紙搬送方向Xにおける各溝321の長さが互いに等しい。これに対し、
図13に示す構成では、用紙搬送方向Xにおける各第1溝321aの長さが、同一ではない。具体的には、用紙搬送方向Xにおける長さが相対的に長い第1溝321aと、用紙搬送方向Xにおける長さが相対的に短い第1溝321aとが存在する。このように、用紙搬送方向Xの長さが互いに異なる複数種類の第1溝321aを形成することにより、板状部材35と最上流記録ヘッド34aとの間の距離を縮めることができ、装置の小型化を図ることができる。
【0098】
更に、
図13に示す構成では、用紙搬送方向Xにおける各第2溝321bの長さも同一ではない。即ち、用紙搬送方向Xにおける長さが相対的に長い第2溝321bと、用紙搬送方向Xにおける長さが相対的に短い第2溝321bとが存在する。このように、用紙搬送方向Xの長さが互いに異なる複数種類の第2溝321bを形成することにより、板状部材35と最上流記録ヘッド34aとの間の距離を更に縮めることができ、装置の更なる小型化を図ることができる。
【0099】
(第2実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第2実施形態について、第1実施形態と異なる点を説明する。第2実施形態は、搬送板32に形成された溝321の配列、及び、搬送板32に形成された貫通孔322の位置が、第1実施形態と異なる。
【0100】
図14は、第2実施形態に係る板状部材35の下方の溝321及び貫通孔322を示す図である。第2実施形態において、板状部材35の下方には、第1溝321aのみが配置される。第1溝321aは、板状部材35の下方から、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも下流側に延伸(突出)する。更に第2実施形態では、第1溝321aが、板状部材35の下方から、用紙搬送方向Xに対して板状部材35の上流側にも延伸(突出)する。
【0101】
なお、用紙搬送方向Xにおける各第1溝321aの下流端は、第1実施形態で説明した第1溝321aと同様に、板状部材35(第1領域A)と最上流記録ヘッド34a(第2領域B)との間に位置する。換言すれば、各第1溝321aは、第2領域B(記録ヘッド34の下方)まで届いていない。
【0102】
また第2実施形態において、各第1溝321a内にはそれぞれ2つの第1貫通孔322aが設けられる。2つの第1貫通孔322aのうちの一方は、用紙搬送方向Xに対して板状部材35の上流側の端部35a(以下、上流側端部35aと記載する。)の下方に設けられる。つまり、2つの第1貫通孔322aのうちの一方は、板状部材35の上流側端部35aに対向する。2つの第1貫通孔322aのうちの他方は、用紙搬送方向Xに対して板状部材35の下流側の端部35b(以下、下流側端部35bと記載する。)の下方に設けられる。つまり、2つの第1貫通孔322aのうちの他方は、板状部材35の下流側端部35bに対向する。
【0103】
斯かる構成によれば、板状部材35の上流側端部35a及び下流側端部35bの直下の吸引力を大きくすることができる。その結果、カールした用紙Pが板状部材35に接触し難くなる。
【0104】
カールは、例えば、用紙Pが水に湿潤して用紙Pの片面が伸長することにより発生する。したがって、環境湿度が高い程、カールは発生し易い。また、カールによる用紙Pの歪みは、用紙Pの四隅において特に大きくなる。これは、用紙Pの四隅において、用紙搬送方向Xのカールによる歪みと、用紙幅方向のカールによる歪みとが重なるためである。したがって、板状部材35の上流側端部35a及び下流側端部35bの直下の吸引力が弱いと、カールした用紙Pが搬送される際に、用紙Pの四隅が板状部材35に接触し易くなる。用紙Pが板状部材35に接触すると、板状部材35に付着している紙粉のような異物が用紙Pに付着(移動)するおそれがある。また、用紙Pが板状部材35に接触すると、狭隙空間351(
図6参照)において、用紙詰まり(用紙ジャム)が発生するおそれがある。
【0105】
例えば、
図15(a)及び
図15(b)に示す構成においては、板状部材35の上流側端部35a及び下流側端部35bの直下の吸引力が小さくなる。具体的には、
図15(a)及び
図15(b)に示す構成では、板状部材35の下方に配置される溝321が、用紙搬送方向Xに対して板状部材35の上流側及び下流側のいずれにも延伸(突出)していない。また、その溝321内に1つの貫通孔322が設けられ、その貫通孔322が、用紙搬送方向Xにおける板状部材35の中央の直下に位置する。このような構成に対し、カールした用紙Pが搬送されると、用紙Pが板状部材35の下方(
図5に示す第1領域A)に進入する際に、用紙Pの前端側の隅が板状部材35に接触し易い(
図15(a))。また、カールした用紙Pが板状部材35の下方(第1領域A)から離れる際に、用紙Pの後端側の隅が板状部材35に接触し易い(
図15(b))。
【0106】
また例えば、
図16(a)及び
図16(b)に示す構成においては、板状部材35の上流側端部35aの直下の吸引力が比較的大きくなる一方で、板状部材35の下流側端部35bの直下の吸引力は比較的小さくなる。具体的には、
図16(a)及び
図16(b)に示す構成では、板状部材35の下方に配置される溝321が、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも上流側にのみ延伸(突出)している。また、その溝321内に1つの貫通孔322が設けられ、その貫通孔322が、板状部材35の上流側端部35aの直下に位置する(上流側端部35aに対向する)。この構成によれば、カールした用紙Pが搬送されても、用紙Pが板状部材35の下方(第1領域A)に進入する際に用紙Pが板状部材35に接触する不具合は起こり難い(
図16(a))。しかしながら、カールした用紙Pが板状部材35の下方(第1領域A)から離れる際に、用紙Pの後端側の隅が板状部材35に接触し易い(
図16(b))。
【0107】
逆に、
図17(a)及び
図17(b)に示す構成においては、板状部材35の上流側端部35aの直下の吸引力が比較的小さくなる一方で、板状部材35の下流側端部35bの直下の吸引力が比較的大きくなる。具体的には、
図17(a)及び
図17(b)に示す構成では、板状部材35の下方に配置される溝321が、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも下流側にのみ延伸(突出)している。また、その溝321内に1つの貫通孔322が設けられ、その貫通孔322が、板状部材35の下流側端部35bの直下に位置する(下流側端部35bに対向する)。この構成によれば、カールした用紙Pが搬送されても、用紙Pが板状部材35の下方(第1領域A)から離れる際に用紙Pが板状部材35に接触する不具合は起こり難い(
図17(b))。しかしながら、カールした用紙Pが板状部材35の下方(第1領域A)に進入する際に、用紙Pの前端側の隅が板状部材35に接触し易い(
図17(a))。
【0108】
図15〜
図17に示す構成に対して、本実施形態では、
図18(a)及び
図18(b)に示すように、各第1溝321aが、板状部材35の下方から、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも上流側及び下流側にそれぞれ延伸(突出)する。また、第1溝321a内に、2つの第1貫通孔322aが設けられる。2つの第1貫通孔322aのうちの一方は、板状部材35の上流側端部35aの直下に位置する(上流側端部35aに対向する)。2つの第1貫通孔322aのうちの他方は、板状部材35の下流側端部35bの直下に位置する(下流側端部35bに対向する)。よって、板状部材35の上流側端部35a及び下流側端部35bの直下のいずれにおいても吸引力が大きくなる。したがって、カールした用紙Pが搬送されても、用紙Pが板状部材35の下方(第1領域A)に進入する際に用紙Pが板状部材35に接触する不具合は起こり難い(
図18(a))。また、カールした用紙Pが板状部材35の下方(第1領域A)から離れる際にも、用紙Pが板状部材35に接触する不具合は起こり難い(
図18(b))。換言すれば、カールした用紙Pを搬送ベルト310(
図6参照)に確実に吸着することができる。
【0109】
次に
図19を参照して、第2実施形態に係る板状部材35の下方の溝321及び貫通孔322の他の例1について説明する。
図19は、第2実施形態に係る板状部材35の下方の溝321及び貫通孔322の他の例1を示す図である。
【0110】
図19に示す構成では、板状部材35の下方に、複数の第1溝321aと複数の第3溝321cとが形成される。各第1溝321aは、第1実施形態と同様に、板状部材35の下方から、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも下流側にのみ延伸(突出)する。各第3溝321cは、板状部材35の下方から、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも上流側にのみ延伸(突出)する。第1溝321aと第3溝321cとは、用紙幅方向に沿って交互に配置される。
【0111】
また
図19に示す構成では、第1実施形態と同様に各第1溝321a内に1つの貫通孔322(第1貫通孔322a)が設けられる。また各第3溝321c内にも、1つの貫通孔322が設けられる。以下、第3溝321c内の貫通孔322を第3貫通孔322cと記載する。各第1貫通孔322aは、板状部材35の下流側端部35bの下方に設けられる。つまり、各第1貫通孔322aは、板状部材35の下流側端部35bに対向する。各第3貫通孔322cは、板状部材35の上流側端部35aの下方に設けられる。つまり、各第3貫通孔322cは、板状部材35の上流側端部35aに対向する。
【0112】
斯かる構成によっても、板状部材35の上流側端部35a及び下流側端部35bの両方の直下の吸引力が大きくなる。また、
図14に示すように、1つの溝321(第1溝321a)内に2つの貫通孔322(第1貫通孔322a)が開口する場合、1つの溝321内に1つの貫通孔322が開口する場合に発生する溝321の吸引力と同等の吸引力を得るには、第1吸引装置372a(
図6参照)の吸引力を大きくする必要がある。つまり、第1吸引装置372aへ供給する電力を大きくする必要がある。これに対し、
図19に示す構成では、1つの溝321(第1溝321a及び第3溝321c)内に1つの貫通孔322(第1貫通孔322a及び第3貫通孔322c)が開口する。したがって、
図19に示す構成は、
図14に示す構成に対して、第1吸引装置372aの吸引力を小さくすることができる。換言すれば、
図19に示す構成によれば、
図14に示す構成と比べて、第1吸引装置372aの吸引力を大きくすることなく、カールした用紙Pを搬送ベルト310(
図6参照)に確実に吸着することができる。
【0113】
次に
図20を参照して、第2実施形態に係る板状部材35の下方の溝321及び貫通孔322の他の例2について説明する。
図20は、第2実施形態に係る板状部材35の下方の溝321及び貫通孔322の他の例2を示す図である。
【0114】
図20に示す構成では、第1溝321aよりも第3溝321cの数が多くなっている。斯かる構成によれば、板状部材35の上流側端部35aの直下の貫通孔322(第3貫通孔322c)の数が多くなるため、カールした用紙Pを搬送ベルト310に確実に吸着することができる。なお、板状部材35の下流側端部35bの直下における吸引力が若干低下するが、板状部材35の上流側端部35aの直下で用紙Pが搬送ベルト310に一旦吸いつけられているため、板状部材35の下流側端部35bの直下では、板状部材35の上流側端部35aの直下よりも小さい吸引力で、カールした用紙Pを搬送ベルト310に吸着することができる。
【0115】
次に
図21を参照して、第2実施形態に係る板状部材35の下方の溝321及び貫通孔322の他の例3について説明する。
図21は、第2実施形態に係る板状部材35の下方の溝321及び貫通孔322の他の例3を示す図である。
【0116】
図21には、搬送板32(
図6参照)が案内可能な(つまり、インクジェット記録装置1が記録可能な)用紙Pの各サイズの一例を示している。具体的には、
図21において、「12×18」は、「12インチ×18インチ」のサイズの用紙P(所謂、A3ノビ)の短辺を用紙搬送方向Xに直交させた場合に用紙Pが通過する領域の端の位置を示す。つまり、「12インチ×18インチ」のサイズの用紙Pの4隅が通過する位置を示す。同様に、「A3」は、A3サイズの用紙Pの短辺を用紙搬送方向Xに直交させた場合に用紙Pの4隅が通過する位置を示す。「A4R」は、A4サイズの用紙Pの短辺を用紙搬送方向Xに直交させた場合に用紙Pの4隅が通過する位置を示す。
【0117】
図21に示す構成では、各サイズの用紙Pの4隅がそれぞれ通過する位置(用紙Pが通過する領域の端)の内側及び外側に第3溝321cが設けられる。換言すれば、各サイズの用紙Pがそれぞれ通過する領域の端を挟んで第3溝321cが設けられる。斯かる構成によれば、カールに起因する歪みが特に大きくなる用紙Pの四隅を搬送ベルト310(
図6参照)に効率よく吸着することができる。
【0118】
以上説明した第2実施形態によれば、第2領域B(
図5参照)に用紙Pが進入するよりも前に、第1領域A(
図5参照)において用紙Pから異物を剥離させることができる。更に、第2実施形態によれば、カールに起因する用紙Pの四隅の板状部材35への接触(衝突)や、狭隙空間351(
図6参照)での用紙ジャムを抑制することができる。
【0119】
なお、
図14に示す構成では、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも上流側及び下流側にそれぞれ延伸する第1溝321aのみが板状部材35の下方に配置されたが、本発明はこれに限定されない。用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも上流側及び下流側にそれぞれ延伸する第1溝321aと、用紙搬送方向Xに対して板状部材35よりも下流側にのみ延伸する第1溝321a(例えば
図19参照)と、第3溝321c(例えば
図19参照)とが1つの搬送板32に形成されてもよい。
【0120】
また、
図19〜
図21に示す構成では、少なくとも1つの第1溝321aと、少なくとも1つの第3溝321cとが、用紙幅方向に沿って交互に配置されたが、本発明はこれに限定されない。例えば
図22に示すように、板状部材35の下方に、用紙搬送方向Xに沿って第1溝321aと第3溝321cとが同列に形成されてもよい。
図22は、第1実施形態の
図8に示す溝321の配列において、第2実施形態と同様に、板状部材35の上流側端部35a及び下流側端部35bの直下に(上流側端部35a及び下流側端部35bに対向する位置に)貫通孔322(第1貫通孔322a及び第3貫通孔322c)を設けた構成を示している。
【0121】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【0122】
例えば、本発明の実施形態では、搬送ベルト310が用紙Pを搬送する形態について説明したが、その他の方法で用紙Pを搬送する形態でもよい。例えば、複数の搬送ローラーによって用紙Pを搬送する形態でもよい。この場合には、互いに隣接する搬送ローラーの間から空気の吸引を行うことが好ましい。
【0123】
また、本発明の実施形態では、狭隙空間351が板状部材35によって形成される形態について説明したが、狭隙空間351をその他の方法で形成する形態でもよい。例えば、用紙搬送方向Xに対して記録ヘッド34の上流側において、ヘッドベース36が搬送ベルト310側に突出して形成され、狭隙空間351を形成する形態でもよい。この場合には、構造を簡略化することができる。
【0124】
あるいは、板状部材35に替えて、2つのローラーに張架されたベルトによって狭隙空間351を形成する形態でもよい。具体的には、空間形成部材として、駆動ローラーと従動ローラーとに張架された無端ベルトを使用し得る。この場合、無端ベルトのうち、搬送ベルト310又は搬送板32に対向する面が、搬送ベルト310又は搬送板32と平行になるように、駆動ローラー及び従動ローラーを配置することが好ましい。斯かる構成によれば、無端ベルトに紙粉が付着した場合であっても、無端ベルトを回転駆動させて、無端ベルトのうち、紙粉が付着していない面を、搬送ベルト310又は搬送板32に対向させることができる。よって、サービスマン等が無端ベルトに付着した紙粉を除去する頻度を減少させることができる。
【0125】
また、本発明の実施形態では、ヘッドベース36に第1孔361が形成される場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。用紙搬送方向Xにおけるヘッドベース36の長さを短くして、用紙搬送方向Xにおけるヘッドベース36の上流側の端と、吸着ローラー316との間の隙間を大きくする形態でもよい。
【0126】
また、本発明の実施形態では、搬送板32と箱状部材371とが別部材である場合について説明したが、搬送板32と箱状部材371とが一体に形成されている形態でもよい。この場合には、圧力室374からの負圧のリーク、即ち搬送板32と箱状部材371との間の隙間からの圧力室374への空気の流入を防止することができる。
【0127】
また、本発明の実施形態では、独立した2つの吸引装置372a、372bによって1つの圧力室374に負圧を発生させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図23に示すように、吸引部37に2つの圧力室374a、374bが設けられてもよい。
【0128】
図23は、記録部3の構成の他の例1を示す図である。
図23に示す構成では、吸引部37が仕切り板376を更に含む。仕切り板376は、搬送板32と箱状部材371とによって区画される空間内に立設している。詳しくは、仕切り板376は、搬送板32と箱状部材371とによって区画される空間を2つに分けて、2つの圧力室374a、374bを形成する。
【0129】
仕切り板376は、
図24に示すように、第1貫通孔322aと第2貫通孔322bとの間に設けられる。
図24は、仕切り板376の位置を示す図である。詳しくは、
図24は、第1実施形態の
図8に示す構成に対して設ける仕切り板376の位置を示す。
図24に示すように仕切り板376を設けることで、搬送板32と箱状部材371とによって区画される空間を、第1吸引装置372aの吸引力が作用する圧力室374aと、第2吸引装置372bの吸引力が作用する圧力室374bとに分けることができる。したがって、狭隙空間351における吸引力と、記録ヘッド34の下方の空間における吸引力とを個別に調節することが可能となる。その結果、狭隙空間351における吸引力を、記録ヘッド34の下方の空間における吸引力よりも大きくすることが容易となる。
【0130】
また、本発明の実施形態では、狭隙空間351における吸引力を、記録ヘッド34の下方の空間における吸引力よりも大きくするために、独立した2つの吸引装置372a、372bを使用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0131】
例えば
図25に示すように、吸引装置372が1つだけ使用されてもよい。
図25は、記録部3の構成の他の例2を示す図である。
図25に示すように、吸引装置372を1つだけ使用する場合、板状部材35の下方の圧力室374の深さH1を、記録ヘッド34の下方の圧力室374の深さH2よりも深くする。そして、板状部材35の下方に吸引装置372を配置する。斯かる構成によっても、狭隙空間351における吸引力を、記録ヘッド34の下方の空間における吸引力よりも大きくすることができる。
【0132】
あるいは、3つ以上の吸引装置が使用されてもよい。例えば、板状部材35の下方に2つの吸引装置が配置され、記録ヘッド34の下方に1つの吸引装置が配置されてもよい。つまり、板状部材35の下方に配置する吸引装置の数を、記録ヘッド34の下方に配置する吸引装置の数よりも多くしてもよい。斯かる構成によれば、各吸引装置に対して互いに等しい電力を供給することができ、電源系統の簡素化を図ることができる。
【0133】
また、本発明の実施形態では、フルカラーで画像を記録可能なインクジェット記録装置に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、モノクロで画像を記録するインクジェット記録装置にも適用可能である。
【0134】
なお、本発明の実施形態で説明された各事項は適宜組み合わせることが可能である。