(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記包含部の前記電力伝送用コイルの面に沿う方向の外径(d1[cm])と、前記電力伝送用コイルの外径(d2[cm])とが、d1/d2>1.2の関係を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の電力伝送装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
(第一の実施形態)
以下、本発明の第一の実施形態による電力伝送装置を、図面を参照して説明する。
図1は本実施形態による電力伝送装置の構成を示す図である。
【0019】
図1において、電力伝送装置1は、送電部11及び受電部12を備えている。また、送電部11及び受電部12は、導体媒質13に覆われている。送電部11は、送電用コイル111及び送電用コイル111を覆う誘電体からなる送電側包含部112を備えている。また、受電部12は、送電部11と同じく、受電用コイル121及び受電側包含部122を備えている。送電用コイル111、受電用コイル121は、銅線などの導体を複数回巻いたものであり、一般的に、ヘリカルコイル、スパイラルコイル等が用いられるが、本実施形態においては、これらに限定されることはない。
【0020】
なお、本明細書においては、電力伝送装置における送電部及び受電部を総称して電力伝送部とする。また、送電用コイル及び受電用コイルを総称して電力伝送用コイルとする。ここで、送電部は、受電部としての機能を備えていてもよいし、受電部は送電部としての機能を備えていてもよい。また、送電部と受電部が、同一の構成であってもよい。
【0021】
送電側包含部112、受電側包含部122は、例えば、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリルなどの、比誘電率が2〜10程度で、誘電正接が0.01以下の誘電体で構成する。
【0022】
また、本明細書では、各実施形態における導体媒質は海水であるとして説明するが、本発明はこれに限定されない。例として、
図27の表に示す河川、淡水、水道水、土、コンクリートのように、導電率が1×10
−4S/m以上で、比誘電率が1より大きな物質であってもよい。
【0023】
ここで、送電部11から送出された無線電力が受電部12へと伝搬する際の等価回路を
図2に示す。
図2は、無線電力が送電部11から受電部12へ伝搬する際の、当該無線電力にとっての等価回路図である。
【0024】
送電部11及び受電部12は、さらに、送電用コイル111又は受電用コイル121のインピーダンスを調整する送電側インピーダンス調整部113、受電側インピーダンス調整部123を備えている。ここで、送電部11における送電用コイル111のインピーダンスは、主に、誘導成分(インダクタンス成分)L1及び容量成分(キャパシタンス成分)C1からなり、これらは、コイルの形状、巻き数、銅線の太さ、及び、送電側包含部112を構成する誘電体の誘電率やそのサイズ等によって一意に定まる。同様に、受電部12における受電用コイル121のインピーダンスも、誘導成分L2及び容量成分C2からなる。
【0025】
なお、本明細書においては、送電側インピーダンス調整部及び受電側インピーダンス調整部を総称して、単にインピーダンス調整部とする。
【0026】
送電部11に供給された交流電力は、上述したL1、L2、C1、C2と、L3、C3からなる等価回路を伝搬し、受電部12へと伝搬する。ここで、L3は、送電用コイル111と受電用コイル121における相互インダクタンス成分であり、C3は、送電部11と受電部12及び導体媒質13で構成される容量成分である。
【0027】
伝搬する際の伝送効率は、その伝搬路において、伝搬する交流電力の周波数でインピーダンス整合(共振)がとれているか否かが肝要である。そこで、
図2に示すように、送電側インピーダンス調整部113として可変容量の容量成分C1’と位相器D1を、受電側インピーダンス調整部123として可変容量の容量成分C2’と位相器D2をそれぞれ付加して、任意の周波数でインピーダンス整合が得られるように調整することができる。このようにすれば、送電中に送電部11と受電部12の位置関係が変わり、C3の値が変動したとしても、その変動を補償するようにC1’、C2’、D1、D2を適宜調整すれば、共振を維持して安定的な電力を供給することができる。
【0028】
容量の可変手段には、バラクタダイオード(可変容量ダイオード)を用いることができるし、複数の容量をスイッチトランジスタと組み合わせて構成することもできる。位相器D1、D2は、オペアンプ、トランジスタ、ダイオード、伝送線路、可変容量、可変インダクタ、あるいは、それらの組み合わせにより構成できる。
【0029】
ここで、以降の説明においては、位相器D1、および、位相器D2の位相回転量が0°である場合に関し、送電用コイル111自身が有する容量成分と可変容量の容量成分の合成容量成分を改めてC1とおき、これを、送電部11のインピーダンスを構成している容量成分C1として説明する。同様に、受電用コイル121自身が有する容量成分と可変容量の容量成分の合成容量成分を改めてC2とおき、これを、受電部12のインピーダンスを構成している容量成分C2として説明する。
【0030】
本実施形態の電力伝送装置1においては、送電部11のインピーダンスを構成している容量成分C1、受電部12のインピーダンスを構成している容量成分C2、送電部11、受電部12、及び、その間に存在する導体媒質13で形成される容量成分C3、送電部と受電部との間隔距離dに関して、所定の条件を満たす場合に、特に高い電力伝送効率を得ることができる。
【0031】
図3は、送電部11、受電部12の容量成分及び送受電部間に生じる容量成分が、電力伝送効率に与える影響を示す図である。
図3に示す図によると、上記C1[pF]、C2[pF]、C3[pF]、d[cm]は以下の条件を満たす場合に、特に高い電力伝送効率が得られることがわかる。
30>C3×d/(C1+C2)>0.5 式(1)
なお、3次元電磁界シミュレーションによれば、本実施形態においては、送電用コイル111、受電用コイル121が10cm
2〜30cm
2程度、送電部11と受電部12の距離dが5cm〜30cm程度の条件で、式(1)を満たすことができる。
【0032】
また、本実施形態においては、送電用コイル111と送電側包含部112の寸法比、及び、受電用コイル121と受電側包含部122の寸法比が所定の条件を満たす場合に、特に高い電力伝送効率を得ることができる。
【0033】
図4Aは、送電用コイル111の外径と、送電側包含部112の寸法比が電力伝送効率に与える影響を示すグラフ図である。
図4Aによると、送電側包含部112のコイル面に沿う方向の大きさd1と、送電用コイル111の外径d2(
図4B)の関係が、比d1/d2を1.2以上にすることで、作製可能な最小比である1よりも5%以上の高い電力伝送効率を得ることができる。さらに、10%以上の高い電力伝送効率を得たい場合には、比d1/d2の値は1.4以上が好ましい。
【0034】
なお、受電部12における受電用コイル121の径、及び、受電側包含部122の寸法比についても同様の効果を得ることができる。また、送電部11、受電部12ともに上記の条件を満たせば、より高い効果を得ることができる。
【0035】
次に、本実施形態による電力伝送装置1の具体的な動作について順を追って説明する。まず、送電部11において、交流電源(図示せず)が所定の周波数で交流電力を出力する。次に、出力された交流電力は送電用コイル111に供給され、送電用コイル111は、当該交流電力を、電磁エネルギーとして外部(導体媒質13)へと送出する。次に、受電部12は、送出された電磁エネルギーを、受電用コイル121において送入する。ここで、送電側インピーダンス調整部113及び受電側インピーダンス調整部123は、送電部11、受電部12、導体媒質13の各インピーダンスの合成インピーダンスが、伝送電力の周波数で共振するように調整されている。受電用コイル121によって送入された電力は、目的とする負荷(例えば、バッテリー等)に供給され、電力伝送が完了する。
【0036】
本実施形態による電力伝送装置1では、送電部11、受電部12、導体媒質13の各インピーダンスの合成インピーダンスで共振させることで、受電用コイル121に送入される電力を最大とすることができる。また、送電側包含部112及び受電側包含部122は、導体媒質13中への電界の拡がりを抑え、これにより、導体媒質13中に拡散して消滅する電磁エネルギーを抑える効果がある。
【0037】
図5は、本実施形態による電力伝送装置1における電界ベクトルと磁界ベクトルを示す図であり、
図6は、電界ベクトルと磁界ベクトルに基づいて生じるポインティングベクトル(エネルギーの流れ)を示す図である。ここで、電力伝送時において、送電部11と受電部12の間に生じる電界と磁界のシミュレーション結果を示す模式図を
図5及び
図6に示す。
図5に示すとおり、本実施形態の電力伝送装置1では、コイル面に対して、その電界と磁界をほぼ平行にすることができる。その結果、
図6に示すとおり、送電部11から受電部12へのポインティングベクトル(電磁エネルギーの流れ)をほぼ垂直に生じさせることが可能となる。
【0038】
以上より、本実施の形態による電力伝送装置1は、送電部11と受電部12が比較的離れた場合であっても、導体媒質に拡散して消滅してしまう電磁エネルギーを抑えることができ、かつ、誘電率の高い海水中における、送受電器の相対位置ずれによる共振周波数のずれやインピーダンス整合のずれを補償することができる。結果として、海水等の、高誘電率を有し、かつ、導体である媒質中における無線電力伝送で長距離化と高効率化の両立が可能となる。
(第二の実施形態)
図7は本発明の第二の実施形態による電力伝送装置の構成を示す図である。次に、同実施形態による電力伝送装置を、図面を参照しながら説明する。
【0039】
図7において、電力伝送装置2は、送電部21及び受電部22を備えている。また、送電部21及び受電部22は、導体媒質23に覆われている。送電部21は、送電用コイル211、送電用コイル211を覆う第一誘電体からなる第一送電側包含部212、及び、さらに第一送電側包含部212を覆う第二誘電体からなる第二送電側包含部213を備えている。また、受電部22は、送電部21と同じく、受電用コイル221及び第一受電側包含部222、第二受電側包含部223を備えている。なお、本明細書においては、第一送電側包含部及び第一受電側包含部を総称して第一包含部とし、第二送電側包含部及び第二受電側包含部を総称して第二包含部とする。
【0040】
第一送電側包含部212、第二送電側包含部213、第一受電側包含部222及び第二受電側包含部223は、例えば、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリルなどの、比誘電率が2〜10程度で、誘電正接が0.01以下の誘電体で構成する。
【0041】
また、本実施形態の電力伝送装置2においては、第一送電側包含部212を構成する第一誘電体の比誘電率及び第二送電側包含部213を構成する第二誘電体の比誘電率は、異なっていてもよいし、同一であってもよい。また、第一送電側包含部212を構成する第一誘電体の誘電正接及び第二送電側包含部213を構成する第二誘電体の誘電正接は、異なっていてもよいし、同一であってもよい。第一受電側包含部222を構成する第一誘電体及び第二受電側包含部223を構成する第二誘電体についても同様である。
【0042】
また、電力伝送装置2の構成を示す
図7では、送電部21及び受電部22の両方を、第一包含部及び第二包含部を有する構造として記載しているが、本実施の形態においては、送電部21か、受電部22のいずれか一方のみを第一包含部及び第二包含部を有する構造としてもよい。
【0043】
また、本実施形態の電力伝送装置2においても、第一の実施形態で説明したインピーダンス調整部を備えている。
【0044】
ここで、本実施形態の電力伝送装置2においては、第一送電側包含部212及び第二送電側包含部213を構成する各誘電体の誘電正接が所定の条件を満たす場合に、さらに高い電力伝送効率を得ることができる。
【0045】
図8は、第一誘電体の誘電正接及び第二誘電体の誘電正接の比が電力伝送効率に与える影響を示した図である。
図8が示すところによると、第二誘電体の誘電正接を第一誘電体の誘電正接よりも大きくすることで、より高い電力伝送効率が得られることがわかる。これは、第二送電側包含部213(第二受電側包含部223)を構成する第二誘電体によって、導体媒質23への電界の拡がりを抑制する効果を得るとともに、第一送電側包含部212(第一受電側包含部222)を構成する第一誘電体の誘電正接を小さくすることで、送電用コイル211(受電用コイル221)近傍における誘電損失を低減させることができる効果に基づくものである。
【0046】
また、本実施形態の電力伝送装置2においては、第一送電側包含部212及び第二送電側包含部213を構成する各誘電体の誘電率が所定の条件を満たす場合にも、さらに高い電力伝送効率を得ることができる。
【0047】
図9は、第一誘電体の比誘電率及び第二誘電体の比誘電率が電力伝送効率に与える影響を示した図である。
図9が示すところによると、第二誘電体の比誘電率を第一誘電体の比誘電率よりも大きくすることで、より高い電力伝送効率が得られることがわかる。
【0048】
次に、本実施形態による電力伝送装置2の具体的な動作について順を追って説明する。まず、送電部21において、交流電源(図示せず)が所定の周波数で交流電力を出力する。次に、出力された交流電力は送電用コイル211に供給され、送電用コイル211は、当該交流電力を、電磁エネルギーとして外部(導体媒質23)へと送出する。次に、受電部22は、送出された電磁エネルギーを、受電用コイル221において送入する。ここで、送電部21、受電部22、導体媒質23の各インピーダンスの合成インピーダンスは、伝送電力の周波数で共振し、インピーダンス整合のずれを補償するように調整されている。受電用コイル221によって送入された電力は、目的とする負荷(例えば、バッテリー等)に供給され、電力伝送が完了する。
【0049】
本実施形態による電力伝送装置2では、送電部21、受電部22、導体媒質23の各インピーダンスの合成インピーダンスで共振させることで、受電用コイル221に送入される電力を最大とすることができる。また、第二送電側包含部213及び第二受電側包含部223は、導体媒質23中への電界の拡がりを抑え、これにより、導体媒質13中に拡散して消滅する電磁エネルギーを抑える効果がある。そして、第一送電側包含部212及び第一受電側包含部222は、送電用コイル211及び受電用コイル221近傍における誘電損失を低減させる効果がある。そして、インピーダンス調整部が誘電率の高い海水中における、送受電器の相対位置ずれによる共振周波数のずれやインピーダンス整合のずれを補償する。
【0050】
以上より、本実施の形態による電力伝送装置2は、第一の実施形態による電力伝送装置1よりもさらに高い電力伝送効率を得ることができる。
(第三の実施形態)
図10は本発明の第三の実施形態による電力伝送装置の構成を示す図である。次に、同実施形態による電力伝送装置を、図面を参照しながら説明する。
【0051】
図10において、電力伝送装置3は、送電部31及び受電部32を備えている。また、送電部31及び受電部32は、導体媒質33に覆われている。送電部31は、送電用コイル311、送電用コイル311を覆う第一誘電体からなる第一送電側包含部312、第一送電側包含部312を覆う第二誘電体からなる第二送電側包含部313、及び、第二送電側包含部313を覆う第三誘電体からなる第三送電側包含部314を備えている。また、受電部32は、送電部31と同じく、受電用コイル321及び第一受電側包含部322、第二受電側包含部323及び第三受電側包含部324を備えている。なお、本明細書においては、第三送電側包含部及び第三受電側包含部を総称して、被覆部とする。
【0052】
第一送電側包含部312、第三送電側包含部314、第一受電側包含部322及び第三受電側包含部324は、例えば、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリルなどの、比誘電率が2〜10程度で、誘電正接が0.01以下の誘電体で構成する。
【0053】
また、第二送電側包含部313及び第二受電側包含部323は、導体媒質33(海水)の比重と等しく、導電率の低い液体(例えば、純水、蒸留水)からなる。このようにすることで、第二送電側包含部313、第二受電側包含部323が、導体媒質33中(海水中)において、中性浮力として働かせることができる。第二送電側包含部313又は第二受電側包含部323を中性浮力とすることができれば、例えば、電力伝送装置3を海水中に浮沈させる際に、特別な比重調整用の機構を設ける必要がなくなるため、低コスト化を図ることができる。また、第三誘電体からなる第三送電側包含部314、第三受電側包含部324は、液体である第二送電側包含部313、第二受電側包含部323を物理的に閉じ込める。
【0054】
また、本実施形態の電力伝送装置3においては、第一送電側包含部312を構成する第一誘電体の比誘電率、第二送電側包含部313を構成する第二誘電体の比誘電率、並びに、第三送電側包含部314を構成する第三誘電体の比誘電率は、それぞれ異なっていてもよいし、同一であってもよい。また、第一送電側包含部312を構成する第一誘電体の誘電正接、第二送電側包含部313を構成する第二誘電体の誘電正接、並びに、第三送電側包含部314を構成する第三誘電体の誘電正接は、それぞれ異なっていてもよいし、同一であってもよい。第一受電側包含部322を構成する第一誘電体、第二受電側包含部323を構成する第二誘電体、並びに、第三受電側包含部324を構成する第三誘電体についても同様である。
【0055】
また、電力伝送装置3の構成を示す
図10では、送電部31及び受電部32の両方を、上記に説明した第一包含部、第二包含部及び第三包含部を有する構造として記載しているが、本実施の形態においては、送電部31か、受電部32のいずれか一方のみを第一包含部、第二包含部及び第三包含部を有する構造としてもよい。
【0056】
また、本実施の形態による電力伝送装置3においても、第一の実施形態で説明したインピーダンス調整部を備えている。
【0057】
次に、本実施形態による電力伝送装置3の具体的な動作について順を追って説明する。まず、送電部31において、交流電源(図示せず)が所定の周波数で交流電力を出力する。次に、出力された交流電力は送電用コイル311に供給され、送電用コイル311は、当該交流電力を、電磁エネルギーとして外部(導体媒質33)へと送出する。次に、受電部32は、送出された電磁エネルギーを、受電用コイル321において送入する。ここで、送電部31、受電部32、導体媒質33の各インピーダンスの合成インピーダンスは、伝送電力の周波数で共振するように調整されている。誘電率の高い海水中における、送受電器の相対位置ずれによる、共振周波数のずれやインピーダンス整合のずれは、インピーダンス調整部により補償される。
【0058】
本実施形態による電力伝送装置3では、送電部31、受電部32、導体媒質33の各インピーダンスの合成インピーダンスで共振させることで、受電用コイル321に送入される電力を最大とすることができる。また、第二送電側包含部313及び第二受電側包含部323は、導体媒質33中への電界の拡がりを抑え、これにより、導体媒質33中に拡散して消滅する電磁エネルギーを最小限に抑える効果がある。そして、第一送電側包含部312及び第一受電側包含部322は、送電用コイル311及び受電用コイル321近傍における誘電損失を低減させる効果がある。また、誘電率の高い海水中における、送受電器の相対位置ずれによる、共振周波数のずれやインピーダンス整合のずれによる、電力伝送効率の低下を抑える効果がある。
【0059】
さらに、本実施の形態による電力伝送装置3では、第三送電側包含部314、第三受電側包含部324を具備しているので、第二送電側包含部313及び、第二受電側包含部323に、導体媒質33(海水)の比重と等しく、導電率の低い液体(例えば、純水、蒸留水)を用いることができる。したがって、送電部31及び受電部32は、第二送電側包含部313及び第二受電側包含部323を中性浮力として働かせることができる。
【0060】
以上より、本実施の形態による電力伝送装置3は、特別な比重調整用の機構を設ける必要がないので、第一の実施形態による電力伝送装置1及び第二の実施形態による電力伝送装置2よりもさらに低コスト化を図ることができる。
(実施例1)
次に、
図11に、第一の実施形態について、第一の実施例を示す。
図11では、電力伝送装置1の送電部11が電力供給源14に具備され、受電部12が潜水艇15に具備されている。本発明を用いることで、潮流が起こって電力供給源14と潜水艇15の位置関係が変動した場合であっても、安定して電力供給を行うことが可能になる。
(実施例2)
また、
図12に、第一の実施形態について、第二の実施例を示す。
図12では、電力伝送装置1の送電部11が潜水艇16に具備され、受電部12が潜水艇17に具備されている。本発明を用いることで、潮流が起こって潜水艇16と潜水艇17の位置関係が変動した場合であっても、安定して電力供給を行うことが可能になる。
【0061】
また、潜水艇16と潜水艇17は、送電部11を受電部として用い、受電部12を送電部として用いることで、双方向に電力供給を行うことが可能である。あるいは、潜水艇16及び潜水艇17は、送電部11と受電部12の両方を具備しても良い。なお、受電部12を備える潜水艇17は、船舶または海底に敷設されたセンサー装置等であってもよい。
(実施例3)
次に、
図13に、第一の実施形態について、第三の実施例を示す。送電部11が電源ケーブル18の接続部に具備され、受電部12が電源ケーブル19の接続部に具備されている。本発明を用いることで、海水中であっても、無線で電力供給をすることで、ケーブル間を非接触で接続することが可能になり、電源ケーブルの交換が容易になり、磨耗することなく信頼性も向上する。
【0062】
また、電源ケーブル18と電源ケーブル19は、送電部11を受電部として用い、受電部12を送電部として用いることで、双方向に電力供給を行うことが可能である。さらに、前記電源ケーブル18と前記電源ケーブル19は、送電部11と受電部12を両方具備しても良い。
【0063】
また、送電部11及び受電部12に無線で情報伝送する機能を搭載してもよい。送電部11を送信機として用い、受電部12を受信器として用いることで、無線通信用の機構を別途設ける必要がないため、小型で低コストのシステムとすることができる。
(実施例4)
図14は、第三の実施形態による電力伝送装置4の効果を実証するためのシミュレーション用のモデル図である。次に、本発明の第三の実施形態の第一の実施例として、その効果を実証した具体的なシミュレーションモデルについて、
図14を参照しながら説明する。
図14において、電力伝送装置4は、送電部41及び受電部42を備えている。また、送電部41及び受電部42は、導体媒質として海水43に覆われている。前記送電部41は、ヘリカルコイル(送電用コイル)411、内部誘電体(第一送電側包含部)412、外部誘電体(第二送電側包含部)413、被覆誘電体(第三送電側包含部)414を備えている。前記受電部42は、ヘリカルコイル(受電用コイル)421、内部誘電体(第一受電側包含部)422、外部誘電体(第二受電側包含部)423、被覆誘電体(第三受電側包含部)424を備えている。
【0064】
図15は、本実施例の送電部41の上面概略図である。
図15に示すヘリカルコイル411は、直径2mmの導線を、外径220mm、内径100mmで29巻きした単層コイルを2枚、距離3mm離して対向させた構造からなる。この対抗させたヘリカルコイルに対して給電ポートから交流電力を印加する。内部誘電体412はフッ素樹脂で構成し、被覆誘電体414はアクリルで構成する。被覆誘電体414のサイズは、縦255mm、横255mm、高さ19mmである。前記電力伝送装置4の共振周波数は約1MHzである。ここで、本実施例では、ヘリカルコイルの外径のサイズd2と、被覆誘電体のサイズd1の比d1/d2が、1より大きい1.16であっても、充分高い電力伝送効率が得られている。ただし、d1/d2の比を、1.16より大きくすれば、さらに高い電力伝送効率が得られる。
【0065】
受電部42は、送電部41と同じ構成としている。ただし、ここで示した構成は一例であって、送電部41と受電部42が同じ構成でなくても、同様の効果が得られる。
【0066】
図16は、本実施例における電力伝送効率のシミュレーション結果を示す図である。送電部41と受電部42との間の距離dを10cmとし、海水中において電力伝送効率のシミュレーションを行ったところ、
図16に示すとおり、伝送電力の周波数fが1MHz付近において、40%以上の高い電力伝送効率を得ることができた。
【0067】
図17A、B及び
図18A、Bは、それぞれ、本実施例における送電部41、受電部42近傍の電界ベクトル及び磁界ベクトルを示す図であり、
図19A、Bは、本実施例における送電部41、受電部42近傍のポインティングベクトルを示す図である。上述した実施例による電力伝送装置4における電界、磁界、並びにポインティングベクトルに関して、詳細な三次元電磁界シミュレーションを行った結果について、
図17〜
図19を参照しながら説明する。
【0068】
本実施例では、
図17A、Bに示すとおり、電界の流れがコイル面と平行な面に沿って回転しており、かつ、
図18A、Bで示すとおり、磁界の流れがコイル面と平行な面に沿って放射状に生成されている。このような電界と磁界の流れに基づいて、コイル面とほぼ垂直な方向にポインティングベクトル(エネルギーの流れ)が発生する(
図19A、B)。この結果、送電部41と受電部42との間の距離が10cm程度離れた海水中であっても、コイル面に対してほぼ垂直な方向にエネルギーの流れが形成され、海水中での長距離化が可能となる。
【0069】
図20A、Bは、本実施例による電力伝送装置4の、大気中におけるポインティングベクトルを示す図である。本実施例による電力伝送装置4の送電部41と受電部42を、大気中において、10cmの距離を離してシミュレーションを行った結果について、
図20A、Bを参照しながら説明する。
【0070】
図20A、Bに示すとおり、送受電部面に対して垂直なエネルギーの流れは生じず、エネルギーは螺旋を描くような流れとなっている。すなわち、コイル面に対してほぼ垂直なエネルギーの流れが生じる現象は、導体媒質中を伝搬するエネルギー特有の現象であり、大気中を伝搬する際には生じない現象である。すなわち、本発明は、コイル面に対してほぼ垂直なエネルギーの流れが生じるという特有の現象を利用している。
【0071】
図21A、Bは、従来の磁界共鳴技術を用いた場合の、大気中におけるポインティングベクトルを示す図である。次に、この磁界共鳴技術を用いた、大気中でのシミュレーションを行った結果について、
図21A、Bを参照しながら説明する。
【0072】
図21A、Bに示すとおり、この場合も、
図20A、Bと同様、コイル面に対して垂直なエネルギーの流れは生じずに、エネルギーは螺旋を描くような流れとなっている。この場合における電力伝送効率は90%である。なお、既に述べたように、従来の技術による電力伝送装置を用いて、海水中において、無線電力伝送を試みても高い電力伝送効率は得られず、シミュレーションの結果では、10cmの距離で10%程度の電力伝送効率しか得られないことが分かった。
【0073】
図18A、Bは、
図14と
図15とに示す送電部41と受電部42のヘリカルコイル411、ヘリカルコイル421を貫く鎖交磁束が最大となる位相条件における磁界の様子を示している。従来の磁界共鳴技術と、本実施例による電力伝送装置4との物理的な相違点について、
図18A、Bを参照しながら説明する。
図18A、Bに示すとおり、送電部41のヘリカルコイル411を貫く鎖交磁束と、受電部42のヘリカルコイル421を貫く鎖交磁束が互いに逆方向の向きとなることで、磁界が最大となり、コイル面に対して平行な磁界を生成している。
【0074】
一方、磁界共鳴を用いた無線電力伝送技術では、密結合にした場合に共振周波数が2つに分割し、高い方の共振周波数において、送電部と受電部のコイルを貫く鎖交磁束の位相が逆相となることが一般に知られている。また、同技術において、共振周波数が分割しない疎結合の状態においては、送電部と受電部のコイルを貫く鎖交磁束の位相が同相となることが知られている。
【0075】
本発明は、密結合状態ではなく、共振周波数が分割しない疎結合の状態で、送電部と受電部のアンテナ・コイルを貫く鎖交磁束の位相が逆相となることが、従来の磁界共鳴技術との本質的な違いである。
(実施例5)
図22は、第三の実施形態による電力伝送装置5の効果を実証するためのシミュレーション用のモデル図である。次に、本発明の第三の実施形態の第二の実施例として、その効果を実証した具体的なシミュレーション結果について、
図22を参照しながら説明する。
【0076】
図22において、電力伝送装置5は、送電部51及び受電部52を備えている。また、送電部51及び受電部52は、導体媒質として海水53に覆われている。前記送電部51は、スパイラルコイル5111、ループコイル5112、内部誘電体(第一送電側包含部)512、外部誘電体(第二送電側包含部)513、被覆誘電体(第三送電側包含部)514を備えている。前記受電部52は、スパイラルコイル5211、ループコイル5212、内部誘電体(第一受電側包含部)522、外部誘電体(第二受電側包含部)523、被覆誘電体(第三受電側包含部)524を備えている。
【0077】
図23及び
図24は、それぞれ、本実施例におけるスパイラルコイル5111(スパイラルコイル5211)を上面及び側面から見たモデル図である。スパイラルコイル5111は、フッ素樹脂からなる誘電体基板5113と金属配線からなるスパイラル配線5114で構成される。誘電体基板5113は厚さ1mm、縦270mm、横270mmで構成される。スパイラル配線5114は、縦260mm、横260mm、配線幅6mm、厚さ50μm、10巻きで構成される。
【0078】
図25及び
図26は、それぞれ、本実施例におけるループコイル5112(ループコイル5212)を、上面及び側面から見たモデル図である。ループコイル5112は、フッ素樹脂からなる誘電体基板5115と金属配線からなるループ配線5116で構成される。誘電体基板5115は厚さ1mm、縦270mm、横270mmで構成される。ループ配線5116は、縦260mm、横260mm、配線幅6mm、厚さ50μmで構成される。
【0079】
スパイラルコイル5111とループコイル5112は、内部誘電体512内において3mmの距離を離している。前記送電部51と前記受電部52を、海水中で10cmの距離を離してシミュレーションしたところ、55%以上の高い電力伝送効率が得られた。なお、共振周波数は約1MHzである。本実施例では、受電部52は、送電部51と同じ構成としている。ただし、ここで示した構成は一例であって、送電部51と受電部52が同じ構成でなくても、同様の効果が得られる。
【0080】
本実施例のように、誘電体基板上にコイルを形成することで量産性が増すとともに、作製精度が高まり、個体ごとの特性ばらつきを低減することができる。そうすると、送電部と受電部の共振周波数を同一にすることができ、より高い電力伝送効率を得ることが可能となる。
(実施例6)
図28は本発明の第三の実施形態による電力伝送装置6の効果を実証するためのシミュレーション用のモデル図である。次に、本発明の第三の実施形態の第三の実施例として、その効果を実証した具体的なシミュレーション結果について、
図28を参照しながら説明する。
【0081】
図28において、電力伝送装置6は、送電部61及び受電部62を備えている。また、送電部61及び受電部62は、海水63に覆われている。送電部61は、スパイラルコイル6111とスパイラルコイル6112からなる送電用コイル、送電用コイルを覆う第一誘電体からなる第一送電側包含部612、第一送電側包含部612を覆う第二誘電体からなる第二送電側包含部613、及び、第二送電側包含部613を覆う第三誘電体からなる第三送電側包含部614を備えている。また、受電部62は、送電部61と同じく、スパイラルコイル6211とスパイラルコイル6212からなる受電用コイル及び第一受電側包含部622、第二受電側包含部623及び第三受電側包含部624を備えている。
【0082】
ここで、本実施例におけるシミュレーションモデルは、
図28に示すとおり、第二送電側包含部613(第二受電側包含部623)が、第一送電側包含部612(第一受電側包含部622)の上面及び下面(コイル面と平行な面)のみを覆う構造となっている。すなわち、第一送電側包含部612(第一受電側包含部622)を、第二送電側包含部613(第二受電側包含部623)で挟み込むような態様となっている。一方、第一送電側包含部612(第一受電側包含部622)の側面(コイル面と垂直な面)は、直接、第三送電側包含部614(第三受電側包含部624)によって覆われる構造となっている。
【0083】
図29は、本実施例における送電部61を側面から見たモデル図である。第一送電側包含部612は、縦250mm、横250mm、高さ4.5mmのフッ素樹脂で構成される。比誘電率は10.2、誘電正接は0.0023である。また、第二送電側包含部613は、2つの、縦250mm、横250mm、高さ6mmのフッ素樹脂で構成される。比誘電率は6.2、誘電正接は0.0019である。また、第三送電側包含部614は、縦260mm、横260mm、高さ26.5mm、厚さ5mmのアクリルで構成される。アクリルの比誘電率は3.3、誘電正接は0.04である。なお、本実施例においては、受電部62も、上述した送電部61と同じ構成としてシミュレーションを行っている。
【0084】
図30及び
図31は、それぞれ、本実施例における送電部61のスパイラルコイル6111と6112を受電部側から見たモデル図である。スパイラルコイル6111は、外周辺208mm、50巻の導体からなる配線で構成される。前記配線の直径は1mm、前記配線の間隔は1mmである。スパイラルコイル6112は、スパイラルコイル6111と同サイズとした。スパイラルコイル6111とスパイラルコイル6112は、0.5mmの距離を離して配置される。スパイラルコイル6111の最外周の端部と、スパイラルコイル6112の最外周の端部が、高周波電力の給電ポートとなる。スパイラルコイル6111の螺旋の向きと、スパイラルコイル6112の螺旋の向きは、給電ポートを介して、同じ方向に磁界が発生する向きで構成する。
【0085】
図32及び
図33は、それぞれ、本実施例における受電部62のスパイラルコイル6211と6212を送電部側から見たモデル図である。スパイラルコイル6211は、外周辺208mm、50巻の導体からなる配線で構成される。前記配線の直径は1mm、前記配線の間隔は1mmである。スパイラルコイル6212は、スパイラルコイル6211と同サイズとした。スパイラルコイル6211とスパイラルコイル6212は、0.5mmの距離を離して配置される。スパイラルコイル6211の最外周の端部と、スパイラルコイル6212の最外周の端部が、高周波電力の受電ポートとなる。スパイラルコイル6211の螺旋の向きと、スパイラルコイル6212の螺旋の向きは、受電ポートを介して、同じ方向に磁界が発生する向きで構成する。
【0086】
前記送電部61と前記受電部62を、海水中で10cmの距離を離してシミュレーションしたところ、
図34で示すように、72%以上の高い電力伝送効率が得られた。なお、共振周波数は約140kHzである。本実施例では、受電部62は、送電部61と同じ構成としている。ただし、ここで示した構成は一例であって、送電部61と受電部62が同じ構成でなくても、同様の効果が得られる。
【0087】
本実施例によるシミュレーションで示されたように、コイルを被覆する誘電体を複数で構成することで、誘電体内の損失を増加させずに、高い電力伝送効率が得られる。
【0088】
ここまでは、海中で送受電器が固定され、その相対位置関係が変化しない場合、すなわち理想的な状態に関して述べた。しかしながら、前述したように、海中においては潮流や浮力の影響により、送受電器の相対位置が変化することが有り得る。そのため、共振周波数の変化やインピーダンス整合条件が悪化により電力伝送効率が悪化する。その課題に対し、本発明ではインピーダンス調整部によってインピーダンスの不整合を補償することにより、高い電力伝送効率を実現できる。以下では、その構成、動作、効果について詳細に説明する。
【0089】
図35は本実施例の等価回路図である。この図を用いて、本実施例における、インピーダンス調整部の構成、動作、および、効果に関して説明する。
【0090】
まず、本実施例の構成について説明する。本実施例においては、
図35に示すように、電力伝送装置6を構成する送電部61、および、受電部62が、送電側インピーダンス調整部615、および、受電側インピーダンス調整部625を有している。送電側インピーダンス調整部615は、送電部61に交流電力を入力する交流電源(図示せず)と、スパイラルコイル6112間に直列に接続されている。受電側インピーダンス調整部625は、スパイラルコイル6212と、受電された電力を消費する負荷(図示せず)間に直列に接続されている。
【0091】
この送電側インピーダンス調整部615は、回路に対して直列に接続された位相器D3、および、並列に接続された可変容量C4’で構成され、受電側インピーダンス調整部625は、回路に対して直列に接続された位相器D4、および、並列に接続された可変容量C7’で構成されている。
【0092】
この位相器D3、および、D4は、例えば、
図39A〜C、
図40A、Bに示すような、伝送線路、トランジスタ、ダイオード、可変容量、可変インダクタ、又はそれらを組み合わせた回路によって実現できる。
図39Aに示した回路は、伝送線路と、伝送線路間に並列に接続されたトランジスタにより構成されている。伝送線路の電気長に応じて、動作周波数の位相が回転する。トランジスタに印加されるバイアス電圧に応じて、トランジスタの入力容量が変化し、その入力容量によって生じる反射により、位相が回転する。適切な伝送線路の長さ、および、トランジスタに印加されるバイアス電圧を選択することで、位相回転を実現することができる。
図39Bに示した回路は、伝送線路と、伝送線路間に並列に接続されたダイオードで構成されている。この回路においても、
図39Aに示した回路と同様に、伝送線路の電気長、ダイオードに印加されるバイアスに応じて位相回転を得ることができる。
図39Cに示した回路は、可変インダクタと、可変インダクタに並列に接地されたトランジスタで構成されている。この回路においても、可変インダクタとトランジスタに印加されるバイアス電圧に応じて、位相回転を得ることができる。このように、伝送線路を用いなくても、位相回転を得ることが可能である。また、
図40Aや
図40Bに示した通り、機械的に伝送線路の長さを切り替える機構を設けても良い。さらに、
図39A〜Cや
図40A、Bに示した回路を多段化して位相回転を得てもよい。
【0093】
また、
図38に示すようなオペアンプを用いることで、MHz程度以下の周波数帯においては、より小型に位相器D3、および、D4を実現できる。
図38に示した回路においては、C_1、および、R_1で決まる以下の周波数fcを中心(fcにおける位相回転は90°)として、DCから任意の周波数の間で、0°から180°までの位相回転が得られる。
fc=1/(2πC_1×R_1) (式2)
すなわち、C_1、および、R_1の選択により、任意の周波数で任意の位相回転が得られる。この回路は、前述の伝送線路、可変インダクタ、可変容量等の、低周波帯においてサイズが増加する素子を用いない。そのため、伝送線路を用いた場合よりも小型に実現可能である。
【0094】
なお、
図35で図示したとおり、スパイラルコイル6111、6112、6211、6212の等価回路は、並列に接続された誘導成分、容量成分、抵抗成分で構成されている。また、C8は、スパイラルコイル6111と、スパイラルコイル6112間の第一送電側包含部612により形成される容量成分であり、C9は、スパイラルコイル6211と、スパイラルコイル6212間の第一受電側包含部622により形成される容量成分である。また、L3’は、送電用コイル6112と受電用コイル6211における相互インダクタンス成分であり、C3’は、送電部61と受電部62及び導体媒質である海水63で構成される容量成分である。
【0095】
次に、本実施例におけるインピーダンス調整部の動作について順を追って説明する。送電部61、および、受電部62を構成する、スパイラルコイル6111、6112、6211、6212は、前述の通り、海水63を通じて電力伝送を行う。次に、送電側インピーダンス調整部615、および、受電側インピーダンス調整部625を構成する位相器D3、および、位相器D4が電力伝送装置6により送受電される電力の位相を回転させる。次に、送電側インピーダンス調整部615、および、受電側インピーダンス調整部625を構成する可変容量C4’、可変容量C7’が容量を可変させる。ここで、D3、D4、C4’、C7’は電力の反射条件、すなわち、共振周波数条件、あるいは、インピーダンス整合条件を補償するように位相量、容量を可変させる。
【0096】
次に、本実施例の効果について説明する。
図36はインピーダンス調整部を付加した場合と、付加していない場合の、送電部61の入力端から見たS11のシミュレーション結果を示した図である。
図37はインピーダンス調整部を付加した場合と、付加していない場合の、電力伝送効率(S21)のシミュレーション結果を示した図である。シミュレーションでは、スパイラルコイル間の距離は20cmとした。また、位相器D3、位相器D4の位相回転量は動作周波数、すなわち、約140KHzの周波数に対して130°とした。また、可変容量C4’、可変容量C7’の容量は4nFとした。また、S11、および、S21を計算するためのポートインピーダンス(規格化インピーダンス)は50Ohmとした。
【0097】
図36で示したように、インピーダンス調整部を付加した場合においては、S11、すなわち、電力の反射量が改善されていることが分かる。また、
図37で示したように、インピーダンス調整部を付加した場合においては、動作周波数である約140KHz近辺における電力伝送効率が改善していることが分かる。
【0098】
図42に、海中において、潮流や浮力の影響により、送受電コイル間の距離が変化した場合に起こる、C3’の変化による入力ポートの入力インピーダンスの変化を示す。送受電コイル間の距離が近くなった場合、基準点(図中に黒丸で示した)に対して入力ポートの入力インピーダンスは、負の方向42aに変化し、送受電コイル間の距離が遠くなった場合、基準点に対して入力ポートの入力インピーダンスは、正の方向42bに変化する。
【0099】
本技術を用いた場合、
図43A、Bに示した通り、C3’の増加、あるいは、減少に係らず補償を行うことが可能である。すなわち、図の例では、入力ポートインピーダンスが負の方向に変化した場合、位相器によりおよそ150°の位相回転によるインピーダンス補償43Aaを行ったのち、並列に接続された可変容量によるインピーダンス補償43Abにより、整合を取ることができる。入力インピーダンスが正の方向に変化した場合、位相器によりおよそ330°の位相回転によるインピーダンス補償43Baを行ったのち、並列に接続された可変容量によりインピーダンス補償43Bbにより、整合を取ることができる。
【0100】
このインピーダンス調整部によるインピーダンス補償の効果は、無線で送受される電力の周波数fが高くなるほど大きくなる。
図35で示した通り、送電部61と受部62は、相互インダクタンス成分L3’、および容量成分C3’を介して結合しており、C3’の周波数fに与える影響は、周波数が高くなるほど大きくなるためである。これらのL3’、および、C3’によるインピーダンスZは以下の式で表すことができる。
Z=jω×L3’/(−ω
2×L3’×C3’+1) (式3)
周波数fが低い場合には、ω
2×L3’×C3’が1に対して小さくなるため、C3’の影響が小さくなり、Zは、ω×L3’に近づく。一方周波数fが高い場合には、ω
2×L3’×C3’が1より大きくなり、Zに対して影響を与える。すなわち、C3’の影響が大きくなる。本補償回路はC3’の変化を補償するため、特に、ω
2×L3’×C3’が1に対して大きい場合に、高い効果が得られる。発明者らが、シミュレーションにより検証を行った結果、dを10cmから5cmに変化させた場合において、動作周波数130KHzの場合はS21の改善量が1dBであったのに対し、動作周波数1MHzの場合は3dBであり、より高い効果が得られた。
【0101】
なお、本実施例においては、送電部、受電部が共にインピーダンス調整部を有する構成に関して述べたが、
図41に示すように、送電部、あるいは、受電部の一方のみがインピーダンス調整部を有する構成に関しても同様に、前述のインピーダンス補償の効果が得られる。
【0102】
すなわち、本実施例によるシミュレーションで示されたように、インピーダンス調整部の働きにより、インピーダンス整合条件を改善することが可能になり、海水中等の導電性、かつ、高い誘電率を有する媒質中においても、高い電力伝送効率が得られる。
【0103】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
【0104】
また、上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記)
(付記1)
導体媒質中において無線で電力伝送する電力伝送装置において、無線で電力を送信する送電部と、前記送電部から送信された電力を受信する受電部と、を備え、前記送電部及び前記受電部は、電力伝送用コイルと、前記電力伝送用コイルを覆う誘電体を有する包含部と、を備え、前記送電部と前記受電部の少なくとも一方は、各々のインピーダンスを可変にするインピーダンス調整部を備え、前記送電部のインピーダンスと、前記受電部のインピーダンスと、前記導体媒質のインピーダンスとで定まる周波数で共振させて前記電力伝送を行うことを特徴とする、電力伝送装置。
(付記2)
前記送電部のインピーダンスを構成するキャパシタンス成分(C1[pF])と、前記受電部のインピーダンスを構成するキャパシタンス成分(C2[pF])と、前記送電部と前記受電部と前記導体媒質とで形成されるキャパシタンス成分(C3[pF])と、前記送電部と前記受電部との間隔(d[cm])とが、30>C3・d/(C1+C2)>0.5の関係を満たすことを特徴とする、付記1に記載の電力伝送装置。
(付記3)
前記包含部の前記電力伝送用コイルの面に沿う方向の外径(d1[cm])と、前記電力伝送用コイルの外径(d2[cm])とが、d1/d2>1.2の関係を満たすことを特徴とする、付記1または付記2に記載の電力伝送装置。
(付記4)
前記包含部は、前記電力伝送用コイルを覆う第一誘電体を有する第一包含部と、前記第一包含部を覆う第二誘電体を有する第二包含部と、を備えることを特徴とする、付記1から付記3の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記5)
前記包含部は、前記第二包含部を覆う第三誘電体を有する被覆部を備えることを特徴とする、付記4に記載の電力伝送装置。
(付記6)
前記第二誘電体は、前記導体媒質と比重が等しい誘電体からなることを特徴とする、付記4または付記5に記載の電力伝送装置。
(付記7)
前記第一誘電体の誘電正接は、前記第二誘電体の誘電正接よりも低い、もしくは、同一であることを特徴とする、付記4から付記6の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記8)
前記第一誘電体の比誘電率は、前記第二誘電体の比誘電率よりも低い、もしくは、同一であることを特徴とする、付記4から付記7の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記9)
前記導体媒質は、導電率が1×10
−4より高く、かつ、比誘電率が1より高いことを特徴とする、付記1から付記8の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記10)
前記位相器は、オペアンプを用いて構成されていることを特徴とする、付記1から付記9の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記11)
前記導体媒質は、海水、河川、淡水、水道水、土、コンクリートのいずれかを有することを特徴とする、付記1から付記10の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記12)
前記導体媒質中に発生した電界の一部もしくは全部は、前記送電部または前記受電部の電力伝送用コイル面に対して略平行に回転し、前記導体媒質中に発生した磁界の一部もしくは全部は、前記送電部または前記受電部の電力伝送用コイル面に対して略平行であることを特徴とする、付記1から付記11の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記13)
前記送電部の電力伝送用コイルを貫く磁束と、前記受電部の電力伝送用コイルを貫く磁束とを、互いに逆方向とすることで前記電力伝送用コイル面に対して平行な磁界を生成することを特徴とする、付記12に記載の電力伝送装置。
(付記14)
海水中に設置した電力供給源または船舶または潜水艇に前記送電部を搭載し、海水中に設置したセンサーまたは船舶または潜水艇に前記受電部を搭載したことを特徴とする、付記1から付記13の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記15)
海水中に敷設された電源ケーブルの接続部に、前記送電部と前記受電部とを搭載したことを特徴とする、付記1から付記13の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記16)
前記送電部を情報伝送する送信機として用い、前記受電部を情報伝送する受信器として用いることで、電力伝送及び無線通信を同時に行うことを特徴とする、付記1から付記15の何れか一に記載の電力伝送装置。
(付記17)
導体媒質中において、各々が誘電体で覆われた電力伝送用コイルを備えた送電部と受電部とが、無線で電力伝送する電力伝送方法において、前記送電部が、無線で電力を送信し、前記受電部が、前記送信された電力を受信し、前記送電部と前記受電部の少なくとも一方のインピーダンス補償を行い、前記送電部のインピーダンスと、前記受電部のインピーダンスと、前記導体媒質のインピーダンスとで定まる周波数で共振させて前記電力伝送を行うことを特徴とする、電力伝送方法。
(付記18)
前記送電部のインピーダンスを構成するキャパシタンス成分(C1[pF])と、前記受電部のインピーダンスを構成するキャパシタンス成分(C2[pF])と、前記送電部と前記受電部と前記導体媒質とで形成されるキャパシタンス成分(C3[pF])と、前記送電部と前記受電部との間隔(d[cm])が、30>C3・d/(C1+C2)>0.5の関係を満たすことを特徴とする、付記17に記載の電力伝送方法。
【0105】
この出願は、2012年11月8日に出願された日本出願特願2012−245907を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。