【実施例】
【0013】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両用構造部材を示し、
図1は当該車両用構造部材の断面図である。なお、
図1において、矢印Fは衝突荷重とその入力方向を示す。
【0014】
図1において、車両用構造部材10は、車体の一部を構成し、車両の衝突時に荷重が作用して曲げ変形が生ずるもので、この車両用構造部材10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の押出し成形部材にて構成されている。
【0015】
図1に示すように、車両用構造部材10は、上述の衝突荷重が作用した時に圧縮方向の力が作用する直線状の第1面部11と、この第1面部11に対して平行または略平行で衝突荷重が作用した時に引張方向の力が作用する直線状の第2面部12と、上述の第1面部11と第2面部12との間に直交状に配設され、第1面部11の両端部11a,11bおよび第2面部12の両端部12a,12bよりも内方で両者11,12を略直線的に連結する複数(
図1の実施例では上下一対)の第3面部13,13とを備えている。
【0016】
ここで、上述の上下一対の第3面部13,13は互いに平行に配設されている。また、上述の第1面部11と第3面部13との連結により、連結部J1,J2が形成されると共に、上述の第2面部12と第3面部13との連結により、連結部J3,J4が形成されている。
【0017】
さらに、上述の第1面部11と第3面部13との連結部J1,J2の近傍において、両者11,13を略直線的に連結する第1連結部14,15が設けられている。これらの第1連結部14,15のうちの一方の第1連結部14は、断面視で、第1面部11と第3面部13との連結部J1,J2近傍における第1面部11の端部11a,11b側に配設された外側の第1連結部14であって、この第1連結部14により連結部J1,J2近傍において両者13,11を斜交状に連結している。
【0018】
上述の第1連結部14,15のうちの他方の第1連結部15は、断面視で、第1面部11と第3面部13との連結部J1,J2近傍における第1面部11の反端部側、つまり、第1面部11の中央側に配設された内側の第1連結部15であって、この第1連結部15により連結部J1,J2近傍において両者13,11を斜交状に連結している。
【0019】
そして、第3面部13の外側に位置する第1連結部14を設けることで、各要素11,13,14によって形成される三角形状部T1,T1と、各要素11,13,14により囲繞された直角三角形状の閉断面部s1,s1とが形成されている。
【0020】
同様に、第3面部13の内側に位置する第1連結部15を設けることで、各要素11,13,15によって形成される三角形状部T2,T2と、各要素11,13,15により囲繞された直角三角形状の閉断面部s2,s2とが形成されている。
【0021】
さらに、上述の第2面部12と第3面部13との連結部J3,J4の近傍において、両者12,13を略直線的に連結する第2連結部16,17が設けられている。これらの第2連結部16,17のうちの一方の第2連結部16は、断面視で、第2面部12と第3面部13との連結部J3,J4近傍における第2面部12の端部12a,12b側に配設された外側の第2連結部16であって、この第2連結部16により連結部J3,J4近傍において両者13,12を斜交状に連結している。
【0022】
上述の第2連結部16,17のうちの他方の第2連結部17は、断面視で、第2面部12と第3面部13との連結部J3,J4近傍における第2面部12の反端部側、つまり、第2面部12の中央側に配設された内側の第2連結部17であって、この第2連結部17により連結部J3,J4近傍において両者13,12を斜交状に連結している。
【0023】
そして、第3面部13の外側に位置する第2連結部16を設けることで、各要素12,13,16によって形成される三角形状部T3,T3と、各要素12,13,16により囲繞された直角三角形状の閉断面部s3,s3とが形成されている。
【0024】
同様に、第3面部13の内側に位置する第2連結部17を設けることで、各要素12,13,17によって形成される三角形状部T4,T4と、各要素12,13,17により囲繞された直角三角形状の閉断面部s4,s4とが形成されている。
【0025】
要するに、
図1で示す実施例においては、上述の第1連結部14,15が、断面視で、第1面部11と第3面部13との連結部J1,J2近傍の両側に配設されると共に、上述の第2連結部16,17も、断面視で、第2面部12と第3面部13との連結部J3,J4近傍の両側に配設されたものである。
【0026】
さらに、
図1に示すように、この実施例においては、第1面部11、第2面部12、第3面部13,13および、第1、第2の各連結部15,17で囲繞された横長八角形状の閉断面部s5が形成されており、この閉断面部s5は直角三角形状の各閉断面部s1〜s4に対して断面積が相対的に大きくなるよう設定されている。
【0027】
特に、この実施例においては、上述の第1連結部14,15のうちの少なくとも何れか一方と、上述の第2連結部16,17のうちの少なくとも何れか一方とにより、第3面部13が面外変形するのを抑制して、当該第3面部13の面内変形を促進し、曲げ強度の向上を図るように構成したものである。ここに、面外変形とは、部材がその平面と垂直な方向へ曲げ変形されることで、面外曲げとも云われる。また、面内変形とは、部材が、その部材の含む平面内において曲げ変形されることで、面内曲げとも云われる。
【0028】
図1で示した実施例の車両用構造部材10(実施例1とする)と、
図2の(a)に示す比較例1の車両用構造部材60と、
図2の(b)に示す比較例2の車両用構造部材70との曲げ強度の重量効率および圧縮曲げ強度の重量効率とを比較する。
【0029】
図2の(a)に示す比較例1の車両用構造部材60は、実施例1(
図1参照)のものに対して第1連結部14,15および第2連結部16,17が存在しないものである。
【0030】
図2の(b)に示す比較例2の車両用構造部材70は、実施例1(
図1参照)のものに対して第1連結部14,15および第2連結部16,17が存在しないうえ、第1面部11および第2面部12の各連結部J1,J2,J3,J4よりも端部側の部材が存在しないもので、単純な方形枠状の構造部材である。なお、
図2の(a)、(b)において、
図1と同一の部分には図示の便宜上、同一符号を付している。
【0031】
図5は曲げ強度の評価方法を示す説明図であって、剛体で変形しない一対の支持点部材18,19と同様に、剛体で変形しない一対の負荷点部材20,21とを設け、上述の一対の支持点部材18,19の上部に車両用構造部材(実施例1の車両用構造部材10、または、比較例1の車両用構造部材60、または比較例2の車両用構造部材70)の第2面部12の両端部が位置するよう上載し、一対の負荷点部材20,21を離間させて、これら各負荷点部材20,21で車両用構造部材(10,60または70)の第1面部11に対して、
図5の矢印方向に曲げ荷重を与え、荷重および、たわみを測定して、曲げに関する試験を行なうものである。
【0032】
図5で示した曲げ強度の評価方法による試験結果からその重量効率を求めた結果を、
図3に示す。
【0033】
図3に示す曲げ強度の重量効率の特性図は、
図2の(b)で示した比較例2の車両用構造部材70の当該重量効率を100%として、実施例1の車両用構造部材10と、比較例1の車両用構造部材60との曲げ強度の重量効率をそれぞれ示している。同図において、数値が大きい程、効率が高いことを表している。
【0034】
図3から明らかなように、実施例1の車両用構造部材10の曲げ強度の重量効率は約152%であり、比較例1の車両用構造部材60の曲げ強度の重量効率は約126%であって、実施例1のものが曲げ強度の重量効率が優れている。これは、第1連結部14,15と第2連結部16,17、特に、第1連結部14,15により、第3面部13が面外変形するのを抑制して、当該第3面部13の面内変形を促進させるからである。
【0035】
一方、圧縮曲げ強度の重量効率を求めた結果を、
図4に示す。
図4に示す圧縮曲げ強度の重量効率の特性図は、
図2の(b)で示した比較例2の車両用構造部材70の当該重量効率を100%として、実施例1の車両用構造部材10と、比較例1の車両用構造部材60との圧縮曲げ強度の重量効率をそれぞれ示している。同図において、数値が大きい程、効率が高いことを表している。
【0036】
図4から明らかなように、実施例1の車両用構造部材10の圧縮曲げ強度の重量効率は約183%であり、比較例1の車両用構造部材60の圧縮曲げ強度の重量効率は約112%であって、実施例1のものが圧縮曲げ強度の重量効率においても優れている。
【0037】
このように、上記実施例の車両用構造部材は、車体の一部を構成し、車両の衝突時に荷重が作用して曲げ変形が生ずる車両用構造部材10であって、上記荷重が作用した時に圧縮方向の力が作用する第1面部11と、引張方向の力が作用する第2面部12と、上記第1、第2面部11,12の間に配設され、該第1、第2面部11,12の両端部11a,11b,12a,12bより内方で両者11,12を略直線的に連結する複数の第3面部13,13とを有し、上記第1面部11と上記第3面部13との連結部J1,J2近傍において、両者11,13を略直線的に連結する第1連結部14,15(詳しくは、これら第1連結部14,15のうちの少なくとも一方)が設けられ、上記第2面部12と上記第3面部13との連結部J3,J4近傍において、両者12,13を略直線的に連結する第2連結部16,17(詳しくは、これら第2連結部16,17のうちの少なくとも一方)が設けられたものである(
図1参照)。
【0038】
この構成によれば、上述の第1連結部14,15と第2連結部16,17とにより、第3面部13が面外変形するのを抑制して、当該第3面部13の面内変形を促進し、曲げ強度の向上を図ることができると共に、車両用構造部材10の曲げ強度および圧縮曲げ強度の向上を、高い重量効率にて達成することができる。
また、上述の第1面部11は第3面部13と第1連結部14,15とで面分割(
図1の実施例では、7分割)されるので、この面分割された第1面部11の弾性座屈を抑制することもできる。
【0039】
この発明の一実施形態においては、上記第1連結部14,15が、断面視で、上記第1面部11と上記第3面部13との連結部J1,J2近傍の両側に配設されたものである(
図1参照)。
【0040】
この構成によれば、第3面部13の第1面部11の端部側への面外変形を、第1連結部14による外側からの押さえと、第1連結部15による内側からの引っ張りとの両方により抑制し、さらに一層第3面部13の面外変形を抑制し、曲げ強度をより一層高めることができる。
【0041】
図6の(a)、(b)、(c)は車両用構造部材の他の実施例を示すものである。
図6の(a)に示す車両用構造部材30は、
図1で示した車両用構造部材10に対して第1連結部14,15のうちの内側に位置する第1連結部15と、第2連結部16,17のうちの内側に位置する第2連結部17とを省略したものである。
【0042】
すなわち、この車両用構造部材30は、
図6の(a)に示すように、第1連結部14が、断面視で、第1面部11と第3面部13との連結部J1,J2近傍における第1面部11の端部11a,11b側にのみ配設されると共に、第2連結部16が、断面視で、第2連結部12と第3面部13との連結部J3,J4近傍における第2面部12の端部12a,12b側にのみ配設されたものである。
【0043】
特に、この実施例においては、上記第1連結部14が、断面視で、上記第1面部11と上記第3面部13との連結部J1,J2近傍における上記第1面部11の端部側にのみ配設されたものであって、この構成により、第3面部13の第1面部11の端部側への面外変形を、上記第1連結部14が外側から押さえることにより抑制し、より一層第3面部13の面外変形を抑制し、曲げ強度を高めることができるものである。
【0044】
図6の(b)に示す車両用構造部材40は、
図1で示した車両用構造部材10に対して第1連結部14,15のうちの外側に位置する第1連結部14と、第2連結部16,17のうちの外側に位置する第2連結部16とを省略したものである。
【0045】
すなわち、この車両用構造部材40は、
図6の(b)に示すように、第1連結部15が、断面視で、第1面部11と第3面部13との連結部J1,J2近傍における第1面部11の中央側にのみ配設されると共に、第2連結部17が、断面視で、第2面部12と第3面部13との連結部J3,J4近傍における第2面部12の中央側にのみ配設されたものである。
【0046】
図6の(b)に示すこの構成によれば、特に、第3面部13の第1面部11の端部側への面外変形を、上記第1連結部15がその内側から引っ張ることにより抑制し、第3面部13の面外変形を抑えて、曲げ強度を高めることができる。
【0047】
図6の(c)に示す車両用構造部材50は、
図1で示した車両用構造部材10の上下の第3面部13,13間に、これら第3面部13,13と平行になるよう別の第3面部13´を追加形成したものである。
【0048】
また、
図6の(c)において中間に位置する第3面部13´と第1面部11との連結部J5近傍において、両者11,13´を略直線的に連結する第1連結部22,22を、当該連結部J5の両側に配設し、各要素11,13´,22によって形成される三角形状部T5と、各要素11,13´,22により囲繞された直角三角形状の閉断面部s6とを、連結部J5の両側に形成している。
【0049】
さらに、同図において中間に位置する第3面部13´と第2面部12との連結部J6近傍において、両者12,13´を略直線的に連結する第2連結部23,23を、当該連結部J6の両側に配設し、各要素12,13´,23によって形成される三角形状部T6と、各要素12,13´,23により囲繞された直角三角形状の閉断面部s7とを、連結部J6の両側に形成したものである。
【0050】
このように構成すると、車両用構造部材50の曲げ強度および圧縮曲げ強度のさらなる向上を図ることができる。
なお、
図6の(a)、(b)、(c)において
図1と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
【0051】
図7は
図1で示した車両用構造部材10をサイドシル1に採用した実施例を示すものである。
図7に示すように、上述のサイドシル1は、鋼板プレス成形部材で形成されたサイドシルアウタ2と、同様に鋼板プレス成形部材で形成されたサイドシルインナ3とを有し、サイドシルアウタ2の上下の接合フランジ部2a,2bと、サイドシルインナ3の上下の接合フランジ部3a,3bとを接合固定して、車両の前後方向に延びる閉断面部4を備えている。
【0052】
図1で示した車両用構造部材10を、車両のサイドシル1に適用する場合には、
図7に示すように、上述の閉断面部4内に当該車両用構造部材10を配設する。
【0053】
この場合、側突荷重が作用した時に圧縮方向の力が作用する第1面部11を車幅方向外側に位置させ、側突荷重が作用した時に引張方向の力が作用する第2面部12を車幅方向内側に位置させ、両側の第3面部13,13をそれぞれ上側および下側に位置させるよう車両用構造部材10が配設されている。
【0054】
この実施例においては、
図7に示すように、サイドシルインナ3と第2面部12との間に接着剤5を介設した状態で、三角形状部T3外端と第2面部12の端部12a,12bとの間における当該第2面部12と、サイドシルインナ3とをリベット6,6にて固定すると共に、サイドシルインナ3と第2面部12の上下方向中間部とをスクリュ7で固定している。
【0055】
この実施例の車両用構造部材10は、従前のサイドシルレインフォースメントの機能を有するものであり、また、上述の接着剤5の介設により、サイドシルインナ3に対する車両用構造部材10の取付け強度の向上と、電食防止効果の確保との両立を図ることができる。
【0056】
このように、
図7で示した実施例においては、上記車両用構造部材10が、サイドシル1の一部を構成し、該サイドシル1が、サイドシルアウタ2とサイドシルインナ3とから形成される閉断面部4を有し、該閉断面部4内に上記車両用構造部材10が配設され、上記第1面部11が車幅方向外側に、上記第2面部12が車幅方向内側にそれぞれ位置するよう配設され、両側の上記第3面部13,13がそれぞれ上側および下側に位置するよう配設されたものである(
図7参照)。
【0057】
この構成によれば、第1連結部14,15と第2連結部16,17とにより、第3面部13が面外変形するのを抑制して、面内変形を促進するのを、第1面部11を車幅方向外側に、第2面部12を車幅方向内側に、各第3面部13,13を上側、下側にそれぞれ位置するよう配設することで達成でき、サイドシル1の側突荷重に対する曲げ強度と、サイドシル1のスモールオーバラップ衝突(フロントサイドフレームに衝突荷重が入力されず、フロントサイドフレームよりも車幅方向外側に衝突荷重が入力されるような衝突)に対する圧縮曲げ強度とを向上させることができる。
なお、
図7において、矢印INは車幅方向の内方を示し、矢印OUTは車幅方向の外方を示し、矢印UPは車両上方を示す。
【0058】
図8は車両用構造部材10の適用範囲を示す車体側面図であって、該車両用構造部材10を
図7で示したようにサイドシル1に適用する場合には、
図8に適用範囲αで示すように、ヒンジピラー8下部とセンタピラー9下部との間におけるストレートまたはストレートに近い範囲が適している。
【0059】
上記実施例においては、車両用構造部材10をサイドシル1に適用した場合を例示したが、該車両用構造部材10は、サイドシルの他に、バンパレインフォースメントやシャシーフレーム等の、断面サイズが比較的大きく(閉断面s1〜s4が押出し成形時に潰れない程度に大きいことを意味する)、かつストレートに近い車両用部材に適用することができる。
【0060】
また、上記実施例においては、車両用構造部材10をアルミニウムまたはアルミニウム合金の押出し成形部材にて構成したが、該車両用構造部材10はマグネシウムまたはマグネシウム合金の押出し成形部材にて構成してもよい。