特許第6237688号(P6237688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6237688インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237688
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20171120BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20171120BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20171120BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20171120BHJP
   B41J 11/02 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C09D11/40
   C09D11/326
   B41M5/00 120
   B41M5/00 100
   B41J2/01 501
   B41J2/01 305
   B41J11/02
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-80892(P2015-80892)
(22)【出願日】2015年4月10日
(65)【公開番号】特開2016-199684(P2016-199684A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2017年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 範晃
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−018246(JP,A)
【文献】 特開2012−224738(JP,A)
【文献】 特開2007−098783(JP,A)
【文献】 特開2012−167222(JP,A)
【文献】 特開2014−210876(JP,A)
【文献】 特開2015−044954(JP,A)
【文献】 特開2014−024231(JP,A)
【文献】 特開2011−110776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
B41J 2/165−2/20
B41J 2/21−2/215
B41J 11/00−11/70
B41M 5/00
B41M 5/50−5/52
C09D 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれインクを吐出する複数の記録ヘッドと、搬送路の下方から負圧により吸引しながら前記搬送路上の記録シートを搬送する搬送ユニットとを備えるインクジェット記録装置であって、
前記複数の記録ヘッドには、前記記録シートの搬送方向において、最上流に位置する第1記録ヘッドと、最下流に位置する第2記録ヘッドと、前記第1記録ヘッドと前記第2記録ヘッドとの間に位置する他の記録ヘッドとが含まれ、
前記搬送ユニットは、前記他の記録ヘッドの下方よりも、前記第1記録ヘッド及び前記第2記録ヘッドの各々の下方において、より強い負圧で前記記録シートを吸引するように構成され、
前記複数の記録ヘッドの各々により吐出される前記インク中には、それぞれ樹脂で覆われた複数の顔料粒子が分散しており、
前記第1記録ヘッド及び前記第2記録ヘッドはそれぞれ、前記樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクを吐出するように構成され、
前記他の記録ヘッドは、前記樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である第2インクを吐出するように構成される、インクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項に記載のインクジェット記録装置を用いて前記記録シートに対して記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記第1記録ヘッドにより、前記樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクを吐出して前記記録シートに対して記録を行う第1工程と、
前記第1工程の後、前記他の記録ヘッドにより、前記樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である第2インクを吐出して前記記録シートに対して記録を行う第2工程と、
前記第2工程の後、前記第2記録ヘッドにより、前記樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクを吐出して前記記録シートに対して記録を行う第3工程と、
を含む、インクジェット記録方法。
【請求項3】
前記第1記録ヘッド及び前記第2記録ヘッドの各々の下方における前記負圧は400Pa以上であり、前記他の記録ヘッドの下方における前記負圧は300Pa以下である、請求項に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを用いて高画質の画像を形成するために、カラーブリードを抑制することが望まれている。カラーブリードは、インクで形成された画像において、異なる色のインク(ドット)が隣接する境界部(ドット間)で起こる画質劣化現象である。カラーブリードが起こった画像では、隣り合う一方のインクの顔料が他方のインクに混ざり、画像が不鮮明になる。
【0003】
特許文献1には、2色以上のインクを用いてカラー画像を形成する場合に、印字順序に従って色ごとにインクの浸透性を変化させるインクジェット記録方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−226999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のインクジェット記録方法では、高い記録速度(例えば、100枚/分以上)で印刷する場合に、記録ヘッドのミスト汚染を抑制しつつ高画質の画像を形成することは困難である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、記録ヘッドのミスト汚染を抑制しつつ、高画質の画像(例えば、カラーブリードのない画像)を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクセットは、複数種のインクを含む。前記インク中には、それぞれ樹脂で覆われた複数の顔料粒子が分散している。本発明に係るインクセットは、前記複数種のインクとして、前記樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクと、前記樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である第2インクとを含む。
【0008】
本発明に係るインクジェット記録装置は、それぞれインクを吐出する複数の記録ヘッドと、搬送路下の負圧により吸引しながら前記搬送路上の記録シートを搬送する搬送ユニットとを備える。前記複数の記録ヘッドには、前記記録シートの搬送方向において、最上流に位置する第1記録ヘッドと、最下流に位置する第2記録ヘッドと、前記第1記録ヘッドと前記第2記録ヘッドとの間に位置する他の記録ヘッドとが含まれる。前記搬送ユニットは、前記他の記録ヘッドの下方よりも、前記第1記録ヘッド及び前記第2記録ヘッドの各々の下方において、より強い負圧で前記記録シートを吸引するように構成される。前記複数の記録ヘッドの各々により吐出される前記インク中には、それぞれ樹脂で覆われた複数の顔料粒子が分散している。前記第1記録ヘッド及び前記第2記録ヘッドはそれぞれ、前記樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクを吐出するように構成される。前記他の記録ヘッドは、前記樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である第2インクを吐出するように構成される。
【0009】
本発明に係るインクジェット記録方法は、本発明に係るインクジェット記録装置を用いて前記記録シートに対して記録を行う。本発明に係るインクジェット記録方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程とを含む。前記第1工程では、前記第1記録ヘッドにより、前記樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクを吐出して前記記録シートに対して記録を行う。前記第2工程では、前記第1工程の後、前記他の記録ヘッドにより、前記樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である第2インクを吐出して前記記録シートに対して記録を行う。前記第3工程では、前記第2工程の後、前記第2記録ヘッドにより、前記樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクを吐出して前記記録シートに対して記録を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、記録ヘッドのミスト汚染を抑制しつつ、高画質の画像(例えば、カラーブリードのない画像)を形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るインクセットが用いられるインクジェット記録装置の一例を示す図である。
図2図1に示されるインクジェット記録装置の画像形成部(特に、記録ヘッド)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係るインクセットは、複数種のインクを含む。本実施形態に係るインクセットに含まれるインク(以下、本実施形態に係るインクと記載する)は、溶剤(例えば、水)と、着色剤とを含有する。また、本実施形態に係るインクは、任意の添加剤をさらに含有していてもよい。例えば、溶剤に対するインク成分の溶解状態を安定化させるために、溶解安定剤をインクに添加してもよい。また、インク中の粒子(例えば、後述する顔料粒子)の分散安定性を高めるために、界面活性剤をインクに添加してもよい。
【0013】
本実施形態に係るインク中には、それぞれ樹脂で覆われた複数の顔料粒子が分散している。顔料粒子が樹脂に覆われていることで、インク中での顔料粒子の分散安定性が向上する。以下、インク中に分散している複数の顔料粒子の集合体を、顔料分散体と称する。本実施形態に係るインクでは、顔料分散体が着色剤に相当する。
【0014】
本実施形態に係るインクセットは、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクと、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である第2インクとを含む。顔料粒子を覆う樹脂の酸価の測定方法は、「JIS(日本工業規格)K0070−1992」に準ずる方法である。また、顔料粒子を覆う樹脂の酸価は、例えば、樹脂を合成する際に使用するモノマーの量を変えることによって調整できる。例えば、酸性の官能基(例えば、カルボキシル基)を有するモノマー(例えば、アクリル酸又はメタクリル酸)を樹脂の合成に使用する場合には、酸性の官能基を有するモノマーの使用量(ひいては、材料全体における配合比率)を増やすことによって樹脂の酸価を高めることができる。なお、第1インクと第2インクとは、顔料粒子を覆う樹脂以外の成分に関して、互いに同一の成分を有していてもよいし、互いに異なる成分を有していてもよい。また、インクセットが複数種の第1インクを含む場合には、それら第1インクは、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であれば、互いに異なる酸価の樹脂を顔料分散体の成分として含有していてもよいし、互いに異なる組成を有していてもよい。また、インクセットが複数種の第2インクを含む場合には、それら第2インクは、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であれば、互いに異なる酸価の樹脂を顔料分散体の成分として含有していてもよいし、互いに異なる組成を有していてもよい。
【0015】
インクの拭き取り性を向上させるためには、インク(特に、第1インク及び第2インク)がN−メチルジエタノールアミンを含有することが好ましい。N−メチルジエタノールアミンは、有機アミン化合物の中でも、比較的沸点が高い化合物である。このため、N−メチルジエタノールアミンをインクに含有させることで、記録ヘッドに付着したインクの拭き取り性を向上させることが可能になる。
【0016】
以下、本実施形態に係るインク(第1インク及び第2インク)に含有される溶剤、着色剤、及び界面活性剤について、順に説明する。ただし、インクの用途等に応じて、必要のない成分(例えば、界面活性剤)は割愛してもよい。なお、粉体(より具体的には、顔料粒子等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、相当数の粒子について測定した値の個数平均である。また、粉体の粒子径は、何ら規定していなければ、一次粒子の円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)である。以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0017】
[溶剤]
インクに含有される溶剤としては、水を含む液を使用することが好ましく、水と、グリセリン及び/又はグリコールと、アルコール及び/又はグリコールエーテルとを含む混合液を使用することがより好ましい。グリセリン及び/又はグリコールをインクに含有させることで、インクの乾燥を抑制することが可能になる。また、アルコール及び/又はグリコールエーテルをインクに含有させることで、記録シートに対するインクの浸透性を向上させることが可能になる。グリコールエーテルの好適な例としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、又はジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルが挙げられる。適切な粘度を有するインクを調製するためには、インクにおける水の量が、インク全質量に対して20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0018】
[着色剤]
本実施形態に係るインクでは、着色剤として顔料分散体を使用する。顔料分散体は、複数の顔料粒子を含む。複数の顔料粒子はそれぞれ、樹脂に覆われている。顔料粒子が樹脂に覆われていることで、顔料粒子同士の凝集が抑制される。なお、インク中には、顔料粒子に付着している樹脂(以下、被覆樹脂と記載する)に加えて、顔料粒子に付着していない樹脂(以下、分散樹脂と記載する)が存在していてもよい。インク中には、樹脂で覆われる顔料粒子に加えて、樹脂で覆われない顔料粒子が存在していてもよい。顔料粒子同士の凝集を好適に抑制するためには、顔料分散体における樹脂の使用量(被覆樹脂及び分散樹脂の合計量)が、顔料100質量部に対して15質量部以上100質量部以下であることが好ましい。また、記録ヘッドのミスト汚染を抑制するためには、インク中の樹脂における被覆樹脂の割合が95質量%以上100質量%未満であることが好ましい。
【0019】
(顔料粒子)
顔料粒子は、実質的に顔料から構成される。インクの色濃度、色相、又は安定性を向上させるためには、顔料粒子の体積中位径(D50)が30nm以上200nm以下であることが好ましい。インクにより形成される画像のオフセットを抑制しつつ画像濃度を向上させるためには、インクにおける着色剤の量が、インク全質量に対して4質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
【0020】
顔料粒子を構成する顔料としては、例えば次に示す顔料を使用できる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、又は193)を好適に使用できる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、又は71)を好適に使用できる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122又は202)を好適に使用できる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15:3)を好適に使用できる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、又は33)を好適に使用できる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)を好適に使用できる。1種の顔料を単独で使用してもよいし、2種以上の顔料を混ぜて使用してもよい。インク中には、互いに異なる色の顔料粒子が存在していてもよい。
【0021】
(樹脂)
本実施形態に係る第1インクでは、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。本実施形態に係る第2インクでは、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である。こうした酸価を有する樹脂を合成するためには、顔料粒子を覆う樹脂の少なくとも1種が、スチレン系モノマーに由来する1種以上の繰返し単位と、アクリル酸系モノマーに由来する1種以上の繰返し単位とを含む共重合体(スチレン−アクリル酸系共重合体)であることが好ましい。スチレン−アクリル酸系共重合体の好適な例としては、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸アルキルエステル−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、又はビニルナフタレン−マレイン酸共重合体が挙げられる。
【0022】
インクにより形成される画像の質を向上させるためには、顔料粒子を覆う樹脂の質量平均分子量(Mw)が15000以上40000以下であることが好ましい。質量平均分子量(Mw)の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はその代替方法である。樹脂の分子量は、樹脂の重合条件(より具体的には、重合開始剤の使用量、重合温度、又は重合時間等)を変えることによって調整できる。例えば、重合温度(重合時の反応温度)を下げたり、樹脂の合成に使用する材料を溶かす溶媒の量を減らしたり、重合開始剤の使用量を減らしたりすれば、樹脂の分子量を小さくすることができる。なお、重合開始剤の使用量を減らし過ぎると、重合反応が停止して、残留モノマー(未反応のモノマー)が増えることがある。
【0023】
[界面活性剤]
本実施形態に係るインクは、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤は、分子内に親水性基及び疎水性基を有する化合物である。記録ヘッドのミスト汚染を抑制するためには、ノニオン界面活性剤をインクに含有させることが好ましい。
【0024】
インクがノニオン界面活性剤を含有する場合、インクにより形成される画像のオフセットを抑制しつつ画像濃度を向上させるためには、ノニオン界面活性剤が、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、及びジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールからなる群より選択される1種以上のモノマーに由来する親水性基と、炭素数12以上20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(より具体的には、アクリル酸ドデシル又はアクリル酸オクタデシル等)、及び(メタ)アクリル酸ベンジルからなる群より選択される1種以上のモノマーに由来する疎水性基とを有することが好ましく、ノニオン界面活性剤がジアクリル酸ポリエチレングリコール(PEGA)とメタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ベンジル(BA)との共重合体であることが特に好ましい。インクに含有されるノニオン界面活性剤の好適な例としては、ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)465」、成分:アセチレン系ジアルコールのエチレンオキサイド付加物)、又はノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」、成分:アセチレングリコール系化合物)が挙げられる。また、インクにより形成される画像のオフセットを抑制しつつ画像濃度を向上させるためには、ノニオン界面活性剤の量が、インク全質量に対して0.05質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0025】
[インクの製造方法]
以下、上記構成を有する本実施形態に係るインクを製造する方法の一例について説明する。
【0026】
まず、顔料分散液を調製する。詳しくは、液(例えば、イソプロピルアルコール及びメチルエチルケトンの混合液)に、樹脂を合成するための材料(例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル)と、重合開始剤とを添加し、所定の温度(70℃)で加熱還流を行って、樹脂(例えば、スチレン−アクリル酸系樹脂)を合成する。続けて、メディア型分散機を用いて、得られた樹脂と、顔料と、水性媒体(例えば、アルコール及び水の混合液)とを混練して、多数の顔料粒子を含む顔料分散液を得る。顔料分散液に含まれる顔料粒子の体積中位径(D50)は70nm以上130nm以下であることが好ましい。体積中位径(D50)の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はその代替方法である。メディア型分散機で用いるメディアの粒子径(例えば、ビーズの径)を変えることで、顔料粒子の分散度合、遊離樹脂(分散樹脂)の量、又は顔料粒子の粒子径などを調整することができる。例えば、メディアの粒子径を小さくするほど、顔料粒子の粒子径が小さくなる傾向がある。
【0027】
次に、得られた顔料分散液と、他のインク成分とを混合する。詳しくは、顔料分散液と、溶剤(例えば、グリコールエーテル、グリセリン、アルコール、及び2−ピロリドンの混合液)と、ノニオン界面活性剤(例えば、アクリル酸系オリゴマー)と、N−メチルジエタノールアミンと、イオン交換水とを混合する。その後、得られた混合液を、必要に応じてろ過する。その結果、インクが得られる。
【0028】
[インクジェット記録装置]
本実施形態に係るインクセットは、例えば長尺のインクジェット記録ヘッド(以下、ラインヘッドと記載する)を備えるインクジェット記録装置で、好適に使用できる。以下、図1を参照して、ラインヘッドを備えるインクジェット記録装置の一例(プリンター100)について説明する。
【0029】
プリンター100は、例えば外部コンピューターから受信した画像データ及び印刷条件(より具体的には、両面印刷の有無等)に基づいて、記録シート上にインクを吐出して画像を形成する。プリンター100は、例えばカラープリンターである。
【0030】
プリンター100は、給紙カセット101を備える。給紙カセット101には、記録シートとして紙P(例えば、普通紙)がセットされる。給紙カセット101には給紙装置102が設けられている。給紙装置102は、例えばモーターにより駆動されるローラー102aと、ローラー102aに圧接されて従動するローラー102bとを有する。給紙装置102は、給紙カセット101にセットされた紙Pを1枚ずつ分離して搬送ユニット10に送り出す。
【0031】
搬送ユニット10は、ローラー10a及び10bと、無端状の搬送ベルト10cとを備える。プリンター100では、搬送ベルト10cが搬送路を構成する。搬送ベルト10cは、互いに離間したローラー10a及び10bに巻き付けられることにより張設されている。搬送ベルト10cには、吸引用の通気孔(図示せず)が多数設けられている。搬送ベルト10cは、両端に位置するローラー10a及び10bの回転に応じて回転する。本実施形態では、ローラー10a及び10bのうち、搬送方向の下流側(X2側)のローラー10aのみが駆動される。ローラー10aにはエンコーダー10dが設けられている。エンコーダー10dは、ローラー10aの回転軸の回転変位量に応じたパルス列を出力する。
【0032】
搬送ユニット10は、さらに、搬送ベルト10cの内側に負圧発生部10eを備える。負圧発生部10eは、吸引ファンのような、負圧を発生させる装置を収容する減圧ケースを有する。減圧ケースは、吸引ファンが発生させた負圧が効率良く搬送ベルト10cに作用するように、吸引ファンの周囲を区画している。負圧発生部10eにより搬送ベルト10cの内側(搬送路下)に負圧を発生させることで、搬送ベルト10cの通気孔(図示せず)を介して、搬送ベルト10c上(搬送路上)の紙Pを吸引することができる。搬送ユニット10は、搬送ベルト10c上の紙Pを、搬送ベルト10c下の負圧により吸引しながら搬送する。搬送ベルト10c上に吸着された紙Pは、紙Pの搬送方向の上流(X1側)から下流(X2側)へ搬送される。
【0033】
搬送ユニット10の上方(Z1側)には画像形成部200が設けられている。画像形成部200は、ラインヘッド20a、20b、20c、20dを有する。また、画像形成部200は、ワイピングにより各ラインヘッドのノズル面(インク吐出面)をクリーニングするヘッドクリーニング装置(図示せず)を有する。ヘッドクリーニング装置は、例えば、洗浄液を吸収させたクリーニングローラーにより、各ラインヘッドのノズル面に付着したインクを拭き取るように構成される。プリンター100では、搬送ユニット10が紙Pを搬送しているときに、ラインヘッド20a、20b、20c、20dの各々から紙Pに向かってインクが吐出され、インクにより紙Pの片面(記録面)に画像が形成(記録)される。その後、各ラインヘッドは、ヘッドクリーニング装置によりクリーニングされる。また、画像形成後の紙Pは、搬送ユニット10により排出装置103に搬送され、排出装置103により排紙トレイ104へ排出される。排出装置103は、搬送ユニット10の下流端(X2側の端部)近傍に設けられている。排紙トレイ104は、排出装置103の下流側に設けられている。排出装置103は、例えばモーターにより駆動されるローラー103aと、ローラー103aに圧接されて従動するローラー103bとを有する。排紙トレイ104には、排出された紙Pが積載される。
【0034】
以下、主に図2を参照して、画像形成部200の一例について説明する。図2に示すように、紙Pの搬送方向の上流(X1側)から下流(X2側)に向かってラインヘッド20a、20b、20c、20dの順で配置され、この順でラインヘッドからインクが吐出される。以下、ラインヘッド20a、20b、20c、20dを区別する必要がない場合(共通の性質などについて述べる場合)は、ラインヘッド20a、20b、20c、20dの各々をラインヘッド20と記載する。
【0035】
画像形成部200は、4つのラインヘッド20を有することで、互いに異なる4色のインクを吐出することができる。ラインヘッド20a、20b、20c、20dには、例えば、Y(イエロー)インク、M(マゼンタ)インク、C(シアン)インク、Bk(ブラック)インクが充填される。これら4色のインクが吐出されることで、紙Pにフルカラー画像を形成(記録)することが可能になる。なお、インクの色は、インクに含有される顔料の種類等を変えることにより調整できる。
【0036】
図2の例では、各ラインヘッド20が、Y方向に配列された複数の吐出ユニット30(ノズル)を有する。各ラインヘッド20は、画像信号に応じて、各吐出ユニット30によりインクを吐出する。インクの吐出方式は、ピエゾ方式であってもよいし、サーマルインクジェット方式であってもよい。また、各ラインヘッド20は、紙Pの搬送方向(X方向)に対して直交する方向(Y方向)に延設されている。吐出ユニット30は、例えば各ラインヘッド20(1つのヘッド)に166個形成され、全体(4つのヘッドの合計)で664個形成される。各ラインヘッド20における吐出ユニット30間のピッチは、例えば150dpiである。また、ラインヘッド20全体(4つのヘッド)のドット密度は、例えば600dpiである。
【0037】
以上、本実施形態に係るインクセットを使用できるプリンターの一例(プリンター100)について説明した。しかし、本実施形態に係るインクは、上記装置以外のインクジェット記録装置でも使用できる。例えば、本実施形態に係るインクセットは、ラインヘッドを備えないインクジェット記録装置(より具体的には、シリアルヘッドを備えるインクジェット記録装置等)で使用してもよい。インクジェット記録装置は、電子制御装置(例えば、CPU及びメモリーその他の装置)、入力部(例えば、キーボード、マウス、又はタッチパネル)、及び通信装置を備えていてもよい。
【0038】
次に、本実施形態に係るインクジェット記録装置について説明する。本実施形態に係るインクジェット記録装置は、次に示す構成(1)〜(3)を有する。
【0039】
(1)インクジェット記録装置が、それぞれインクを吐出する複数の記録ヘッドと、搬送路の下方から負圧により吸引しながら、その搬送路上の記録シートを搬送する搬送ユニットとを備える。複数の記録ヘッドには、記録シートの搬送方向において、最上流に位置する第1記録ヘッドと、最下流に位置する第2記録ヘッドと、第1記録ヘッドと第2記録ヘッドとの間に位置する他の記録ヘッドとが含まれる。例えば、図1及び図2に示すプリンター100では、ラインヘッド20aが上記第1記録ヘッドに相当し、ラインヘッド20dが上記第2記録ヘッドに相当し、ラインヘッド20b及び20cがそれぞれ上記他の記録ヘッドに相当する。また、紙Pが上記記録シートに相当し、搬送ベルト10cが上記搬送路に相当し、搬送ユニット10が上記搬送ユニットに相当する。
【0040】
(2)搬送ユニットは、他の記録ヘッドの下方よりも、第1記録ヘッド及び第2記録ヘッドの各々の下方において、より強い負圧で記録シートを吸引するように構成される。負圧は、大気圧よりも低い圧力であり、式「負圧=大気圧−絶対圧」で表される。構成(2)における負圧(以下、吸引負圧と記載する)は、記録ヘッドと搬送路との間(詳しくは、記録ヘッド直近)で測定される圧力(ゲージ圧の絶対値)に相当する。例えば、図1及び図2に示すプリンター100において、負圧発生部10eが、ラインヘッド20b及び20cの各々の下方(Z2側)よりも、ラインヘッド20a及び20dの各々の下方(Z2側)において、より強い吸引負圧で記録シートを吸引するように構成されてもよい。負圧発生部10eは、複数の吸引ファンを有してもよい。記録ヘッドごとに吸引ファンを設けてもよい。吸引負圧の強さは、例えば、負圧発生部10eにおける減圧ケースの形態又は吸引ファンの回転速度を変えることで、調整することができる。
【0041】
(3)複数の記録ヘッドの各々により吐出されるインク中には、それぞれ樹脂で覆われた複数の顔料粒子が分散している。第1記録ヘッド及び第2記録ヘッドはそれぞれ、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクを吐出するように構成される。他の記録ヘッドは、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である第2インクを吐出するように構成される。
【0042】
本実施形態に係るインクセットを用いて高画質の画像を形成するためには、構成(1)〜(3)を有するインクジェット記録装置を用いて、本実施形態に係るインクジェット記録方法により、記録シートに対して記録を行うことが好ましい。本実施形態に係るインクジェット記録方法は、次に示す第1工程、第2工程、及び第3工程を含む。第1工程では、第1記録ヘッドにより、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクを吐出して記録シートに対して記録を行う。第2工程では、第1工程の後、他の記録ヘッドにより、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である第2インクを吐出して記録シートに対して記録を行う。第3工程では、第2工程の後(他の記録ヘッドが複数ある場合には、他の記録ヘッドの全てによるインクの吐出が終わった後)、第2記録ヘッドにより、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である第1インクを吐出して記録シートに対して記録を行う。なお、第1工程で使用する第1インクと第3工程で使用する第1インクとは、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であれば、互いに異なる酸価を有していてもよいし、互いに異なる組成を有していてもよい。また、他の記録ヘッドが複数ある場合、それら他の記録ヘッドから吐出される第2インクは、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であれば、互いに異なる酸価を有していてもよいし、互いに異なる組成を有していてもよい。
【0043】
例えば、図1及び図2に示すプリンター100では、ラインヘッド20a(第1記録ヘッド)、ラインヘッド20b(他の記録ヘッド)、ラインヘッド20c(他の記録ヘッド)、及びラインヘッド20d(第2記録ヘッド)が、この順でインクを吐出する。また、構成(2)を有するプリンター100では、負圧発生部10eが、ラインヘッド20b及び20cの各々の下方(Z2側)よりも、ラインヘッド20a及び20dの各々の下方(Z2側)において、より強い吸引負圧で記録シートを吸引する。これにより、ラインヘッド20a又は20dの下方において紙Pの一部(先端部又は後端部)しか搬送ベルト10cに載っていない(吸引されていない)状態でも、紙Pを搬送ベルト10cに吸着させることが可能になる。しかし、ラインヘッド20a又は20dの下方においては、吸引負圧を強くすることで、強い風が発生し、インクが乾燥し易くなると考えられる。記録ヘッドのノズル面に付着したインクミストが乾燥及び凝集すると、拭き取れなくなることがある。また、ノズル面に固着したインクミストはノズルにダメージを与えることがある。
【0044】
記録ヘッドのミスト汚染を抑制するためには、インクの顔料再分散性を向上させることが有効である。顔料再分散性に優れるインクは、いったん乾燥してインク中の顔料粒子が析出しても、再び水が供給されることで、顔料粒子が水中に再分散し易い。また、顔料再分散性に優れるインクは、ワイピングにより拭き取り易い。ワイピングによりノズル面から顔料粒子が取り除かれることで、記録ヘッドのミスト汚染が抑制されることになる。発明者は、インクにおける顔料粒子を覆う樹脂の酸価を100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下にすることで、インクの顔料再分散性を向上させることが可能になることを見出した。本実施形態に係るインクセットにおいて、第1インクは高い顔料再分散性を有する。
【0045】
しかしながら、隣り合う記録ヘッドから吐出されるインクの両方が高い顔料再分散性を有する場合には、形成される画像にカラーブリードが起こり易くなる。このため、高画質の画像を形成するためには、第1インクと共に、比較的低い顔料再分散性を有するインクを使用することが好ましい。本実施形態に係るインクセットに含まれる第2インクでは、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である。こうした第2インクが程よい顔料再分散性を有することを発明者が見出した。例えば、隣り合う記録ヘッドのうち、一方の記録ヘッドが、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g以上であるインクを吐出する場合には、他方の記録ヘッドが、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が90mgKOH/g以下であるインクを吐出することで、カラーブリードを的確に抑制することが可能になる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係るインクセットを使用することで、記録ヘッドのミスト汚染を抑制しつつ、高画質の画像(例えば、カラーブリードのない画像)を形成することが可能になる。
【0047】
記録ヘッドのミスト汚染を抑制しつつ高画質の画像を形成するためには、本実施形態に係るインクジェット記録方法において、第1記録ヘッド及び第2記録ヘッドの各々の下方における吸引負圧が400Pa以上であり、他の記録ヘッドの下方における吸引負圧が300Pa以下であることが好ましい。
【0048】
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、記録速度(スループット)を高めるために有効である。例えば、本実施形態に係るインクジェット記録方法は、記録シートに対する記録速度を100枚/分以上にするために有効である。また、インクジェット記録装置が、記録された記録シートが排出される排出部(例えば、図1に示される排出装置103及び排紙トレイ104)をさらに備える場合には、本実施形態に係るインクジェット記録方法は、第1記録ヘッドから吐出された第1インクが記録シートに付着してから、第1インクが付着した記録シートの部位が排出部(例えば、ローラー103a又は103b)に接触するまでの時間(以下、吐出−排出時間と記載する)を、1秒以内にするために有効である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。詳しくは、実施例に係るインクセットと参考例に係るインクセットとをそれぞれ下記方法に従って評価し、実施例に係るインクセットと参考例に係るインクセットとを対比する。
【0050】
[評価方法]
(画像濃度)
評価機として、4つの記録ヘッド(それぞれラインヘッド)を備えるインクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作評価機)を用いた。評価機の記録ヘッドに試料(インク)を充填し、記録ヘッドから吐出されるインクの量がインク一滴あたり11pLになるように、評価機を調整した。また、第1記録ヘッド(最上流)及び第2記録ヘッド(最下流)の各々の下方での吸引負圧が420Paになり、他の記録ヘッド(第1記録ヘッドと第2記録ヘッドとの間に位置する2つの記録ヘッド)の各々の下方での吸引負圧が280Paになるように、評価機を調整した。
【0051】
上記評価機を用いて、温度25℃かつ湿度60%RHの環境下で、記録速度150枚/分の条件で、記録シート(富士ゼロックス株式会社製「C2」、A4サイズの普通紙)にサイズ10cm×10cmのソリッド画像を形成した。続けて、画像が形成された記録シートを、温度25℃かつ湿度60%RHの環境下で24時間静置した。その後、反射濃度計(サカタインクスエンジニアリング株式会社販売「RD−19」)を用いて、同一画像内の10箇所の画像濃度を測定した。測定された10個の画像濃度の算術平均値を評価値とした。
【0052】
(第1の拭き取り性)
評価機として、クリーニングされた状態の記録ヘッド(ラインヘッド)を備えるインクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作評価機)を用いた。使用した記録ヘッド下方の吸引負圧を400Paに調整した。評価機のワイピングブレードの先端に試料(インク)0.1gを乗せて、常温(約25℃)かつ常湿(約60%RH)で10分間静置した。続けて、洗浄液0.3mLの条件でワイピング(往路ワイピング)を実行した。これにより、ワイピングブレード上の試料が記録ヘッドのノズル面に付着して、記録ヘッドのノズル面上に薄いインク塗布膜が形成された。続けて、インク塗布膜が形成された記録ヘッドを、温度40℃かつ湿度15%RHで所定の時間(1日間又は3日間)静置した。続けて、洗浄液0.3mLの条件でワイピング(復路ワイピング)を実行した。その後、記録ヘッドのノズル面の汚れを目視し、記録ヘッドのノズル面に付着したインクが拭き取られていれば試料(インク)の拭き取り性は「○(良い)」と評価し、記録ヘッドのノズル面に付着したインクが拭き取られていなければ試料(インク)の拭き取り性は「×(良くない)」と評価した。各試料について、上記所定の時間(静置時間)を、1日間にした場合と、3日間にした場合との各々の、評価結果を得た。
【0053】
(第2の拭き取り性)
評価機として、記録ヘッド(ラインヘッド)を備えるインクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作評価機)を用いた。評価機の記録ヘッドに試料(インク)を充填し、記録ヘッドから吐出されるインクの量がインク一滴あたり11pLになるように、評価機を調整した。また、使用した記録ヘッド下方の吸引負圧を所定の強さ(200Pa、300Pa、400Pa、又は500Pa)に調整した。
【0054】
上記評価機を用いて、温度25℃かつ湿度60%RHの環境下で、記録速度150枚/分の条件で、記録シート(富士ゼロックス株式会社製「C2」、A4サイズの普通紙)に5000枚連続印刷した後、洗浄液0.3mLの条件でワイピングを実行した。そして、記録ヘッドのノズル面の汚れを目視し、記録ヘッドのノズル面に付着したインクが拭き取られていれば試料(インク)の拭き取り性は「○(良い)」と評価し、記録ヘッドのノズル面に付着したインクが拭き取られていなければ試料(インク)の拭き取り性は「×(良くない)」と評価した。各試料について、上記所定の強さ(吸引負圧の強さ)を、200Paにした場合と、300Paにした場合と、400Paにした場合と、500Paにした場合との各々の、評価結果を得た。
【0055】
(第3の拭き取り性、耐カラーブリード性)
評価機として、4つの記録ヘッド(それぞれラインヘッド)を備えるインクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作評価機)を用いた。評価機の記録ヘッドに試料(インク)を充填し(詳しくは、表6参照)、記録ヘッドから吐出されるインクの量がインク一滴あたり11pLになるように、評価機を調整した。また、第1記録ヘッド(最上流)及び第2記録ヘッド(最下流)の各々の下方での吸引負圧が420Paになり、他の記録ヘッド(第1記録ヘッドと第2記録ヘッドとの間に位置する2つの記録ヘッド)の各々の下方での吸引負圧が280Paになるように、評価機を調整した。
【0056】
上記評価機を用いて、温度10℃かつ湿度80%RHの環境下、記録速度150枚/分の条件で、記録シート(富士ゼロックス株式会社製「C2」、A4サイズの普通紙)にサイズ10cm×10cm、印字率100%(各色25%で合計100%)のソリッド画像を5000枚連続印刷した後、洗浄液0.3mLの条件でワイピングを実行した。そして、記録ヘッドのノズル面の汚れを目視し、全ての記録ヘッドのノズル面に付着したインクが拭き取られていれば試料(インク)の拭き取り性は「○(良い)」と評価し、少なくとも1つの記録ヘッドのノズル面に付着したインクが拭き取られていなければ試料(インク)の拭き取り性は「×(良くない)」と評価した。また、形成された画像を目視し、ドット間で隣り合うインクが色分かれしていれば試料(インク)の耐カラーブリード性は「○(良い)」と評価し、ドット間で隣り合うインクが混ざり合っていれば試料(インク)の耐カラーブリード性は「×(良くない)」と評価した。
【0057】
以下、実施例に係るインクと参考例に係るインクとの各々の製造方法及び評価結果について説明する。なお、複数の粒子を含む粉体(より具体的には、顔料粒子等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、相当数の粒子について測定した値の個数平均である。誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。また、粉体の粒子径は、何ら規定していなければ、粒子の円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)である。また、酸価の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本工業規格)K0070−1992」に従って測定した値である。また、Mw(質量平均分子量)の測定方法は、何ら規定していなければ、次に示すとおりである。
【0058】
<Mwの測定条件>
測定装置として、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)装置(東ソー株式会社製「HLC−8020GPC」)を用いた。試料(例えば、樹脂)を測定装置に注入し、下記測定条件でゲルろ過クロマトグラフィーを行って、クロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムと、予め作成した検量線とに基づいて、試料のMw(質量平均分子量)を求めた。なお、検量線は、東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンから、F−40、F−20、F−4、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、及びn−プロピルベンゼンの8種を選択して作成した。
(測定条件)
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultiporeHZ−H」(4.6mmI.D.×15cmのセミミクロカラム)
・カラム本数:3本
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.35mL/分
・サンプル注入量:10μL
・測定温度:40℃
・検出器:IR(赤外吸収分析)検出器
【0059】
評価1
評価1では、実施例又は参考例に係るインクセットで用いられるインクを評価した。表1〜表3に、評価1に係るインクの組成を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
表1中の「顔料分散液」は、表2に示される組成を有する顔料分散液である。表1中の「アクリル酸系オリゴマー」は、ジアクリル酸ポリエチレングリコール(PEGA)とメタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ベンジル(BA)との共重合体(PEGA/MMA/BAの質量比:50/20/30、分子量:3000、水への溶解性:有り)である。表2中の「樹脂」は、顔料粒子を覆う樹脂であり、表3に示される樹脂A〜Gのいずれかである。
【0064】
評価1に係るインクA−1では、表2中の「顔料」として、シアン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)を使用した。また、表2中の「樹脂」として、以下に示される方法で合成されたスチレン−アクリル酸系樹脂(表3に示される樹脂A)を使用した。
【0065】
[インクA−1の製造方法]
(顔料分散液の調製)
容量1000mLの四つ口フラスコに、スターラー、窒素導入管、コンデンサー(攪拌機)、及び滴下ロートをセットした。続けて、フラスコ内に、イソプロピルアルコール100g及びメチルエチルケトン300gを入れた。そして、フラスコ内容物について、窒素ガスでバブリングしながら温度70℃で加熱還流を行った。
【0066】
また、スチレン(ST)40gと、メタクリル酸(MAA)10gと、アクリル酸ブチル(BA)10gと、メタクリル酸メチル(MMA)40gと、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.4gとを混合して、溶液を得た。続けて、得られた溶液を滴下ロートに入れた。続けて、滴下ロート内の溶液を、加熱還流中の上記フラスコ内容物に対して2時間かけて滴下した。そして、滴下終了後、フラスコ内容物について、さらに6時間の加熱還流を行った。
【0067】
続けて、AIBN0.2gを含むメチルエチルケトンを15分間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、フラスコ内容物について、さらに5時間の加熱還流を行った。その結果、質量平均分子量(Mw)20000、酸価40mgKOH/gのスチレン−アクリル酸系樹脂(表3に示される樹脂A)を得た。
【0068】
メディア型分散機(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製「DYNO(登録商標)−MILL」)の容量0.6Lのベッセルに、シアン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)15質量部と、樹脂(前述の手順で合成した樹脂A)6質量部と、1,2−オクタンジオール0.5質量部と、水(イオン交換水)78.5質量部とを入れた。また、樹脂Aの中和に必要な量の水酸化ナトリウム(NaOH)をベッセル内に加えた。
【0069】
上記樹脂Aの中和では、ベッセル内容物のpHが8になるようにNaOH水溶液を添加した。詳しくは、中和当量の1.1倍の質量のNaOH水溶液をベッセル内に加えた。ベッセル内に加えるべきNaの質量は、樹脂Aの質量に基づいて計算した。また、ベッセル内に加えるべき水の質量は、NaOH水溶液に含まれる水の質量と中和反応で生じた水の質量との合計に基づいて計算した。
【0070】
続けて、ベッセル容量に対して70体積%となるようにメディア(直径0.5mmのジルコニアビーズ)を上記分散機のベッセル内に充填した。続けて、メディアが充填された分散機を用いて、温度10℃かつ周速8m/秒の条件で、ベッセル内容物を混練した。その結果、多数の顔料粒子を含む顔料分散液Aが得られた。顔料分散液Aに含まれる顔料粒子の体積中位径(D50)は100nmであった。顔料分散液Aに含まれる顔料粒子の体積中位径(D50)の測定は、測定装置として動的光散乱式粒径分布装置(シスメックス株式会社製「ゼータサイザー ナノ」)を用いて、顔料分散液Aをイオン交換水で300倍に希釈した液を測定対象として行った。
【0071】
(顔料分散液と他の成分との混合)
顔料分散液(前述の手順で調製した顔料分散液A)40質量部と、ジエチレングリコールモノエチルエーテル3質量部と、トリエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル3質量部と、2−ピロリドン5質量部と、ノニオン界面活性剤(表1に示されるアクリル酸系オリゴマー)0.5質量部と、N−メチルジエタノールアミン0.4質量部と、1,2−オクタンジオール0.7質量部と、グリセリン10質量部と、1,3−プロパンジオール10質量部と、イオン交換水27.4質量部とを、攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL−600」)を用いて回転速度400rpmで攪拌して均一に混合した。続けて、得られた混合液を、孔径5μmのフィルターを用いてろ過して、混合液中の異物及び粗大粒子を除去した。その結果、インクA−1が得られた。
【0072】
[インクA−2〜A−7の製造方法]
インクA−2〜A−7の製造方法はそれぞれ、表2中の「樹脂」として、表3に示される樹脂A(スチレン−アクリル酸系樹脂)の代わりに、表3に示される樹脂B〜G(それぞれスチレン−アクリル酸系樹脂)を使用した以外は、インクA−1の製造方法と同じであった(詳しくは、後述する表4参照)。樹脂B〜Gの合成方法は、樹脂の分子量及び酸価が表3に示される値になるように、樹脂の合成に使用した材料(モノマー)の配合比、及び重合条件(より具体的には、重合温度、重合時間、及び開始剤の使用量等)を調整した以外は、樹脂Aの合成方法と同じであった。
【0073】
[評価結果]
インクA−1〜A−7の各々について、画像濃度及び第1の拭き取り性の評価結果を、表4に示す。また、インクA−3及びA−5の各々について、第2の拭き取り性の評価結果を、表5に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
インクA−4〜A−6ではそれぞれ、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であった。他方、インクA−1、A−2、A−3、及びA−7ではそれぞれ、顔料粒子を覆う樹脂の酸価が100mgKOH/g未満180mgKOH/g超であった。
【0077】
表4に示されるように、インクA−4〜A−6はそれぞれ、第1の拭き取り性の評価において、1日静置した後だけでなく4日静置した後でも拭き取り性に優れていた。一方、インクA−2及びA−3はそれぞれ、第1の拭き取り性の評価において、1日静置した後では拭き取り性に優れていたが、4日静置した後では十分な拭き取り性を有していなかった。また、インクA−1〜A−7のいずれを用いても、高い画像濃度(詳しくは、1.10以上の画像濃度)を有する画像を形成することができた。
【0078】
表5に示されるように、インクA−5は、第2の拭き取り性の評価において、吸引負圧を200Pa、300Pa、400Pa、及び500Paのいずれにした場合でも、拭き取り性に優れていた。一方、インクA−3は、第2の拭き取り性の評価において、吸引負圧を400Pa又は500Paにした場合には、十分な拭き取り性を有していなかった。
【0079】
評価2
[インクセットA〜Fの製造方法]
評価2に係るインクセットA〜Fを、表6に示す。表6中、酸価の単位は、mgKOH/gである。また、表6中の「色」に関して、Yはイエロー顔料を示し、Mはマゼンタ顔料を示し、Cはシアン顔料を示し、Bkはブラック顔料を示す。また、表6では、評価機の4つの記録ヘッドを、記録シートの搬送方向の上流に配置される記録ヘッドから順に、第1ヘッド、他のヘッド1、他のヘッド2、第2ヘッドと記載している。インクセットA〜Fを構成する各インクの製造方法は、表6に示す樹脂及び顔料を用いたことを除いて、インクA−1の製造方法と同じであった。インクセットA〜Fを構成する各インクでは、表2中の「樹脂」として、表3に示される樹脂B〜Fのいずれかを使用し(詳しくは、表6参照)、表2中の「顔料」として、シアン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)と、イエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー74)と、マゼンタ顔料(C.I.ピグメントバイオレット19)と、ブラック顔料(C.I.ピグメントブラック7)とのいずれかを使用した(詳しくは、表6参照)。
【0080】
【表6】
【0081】
[評価結果]
表6に示されるインクセットA〜Fの各々を用いて画像を形成した場合の第3の拭き取り性及び耐カラーブリード性の評価結果を、表7に示す。表7中、「1−2色間」は、第1ヘッドによるインクと他のヘッド1によるインクとのドット間を示し、「2−3色間」は、他のヘッド1によるインクと他のヘッド2によるインクとのドット間を示し、「3−4色間」は、他のヘッド2によるインクと第2ヘッドによるインクとのドット間を示す。
【0082】
【表7】
【0083】
表6に示されるように、インクセットD、E、及びFはそれぞれ、前述した本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用されている。他方、インクセットAでは、他のヘッド1及び2の各々で、酸価120の樹脂Eを含むインクが使用されている。また、インクセットBでは、第1ヘッド及び第2ヘッドの各々で、酸価80の樹脂Cを含むインクが使用されている。また、インクセットCでは、第2ヘッドで、酸価80の樹脂Cを含むインクが使用されている。
【0084】
表7に示されるように、インクセットD〜Fに係るインクジェット記録方法はそれぞれ、インクセットA及びCの各々に係るインクジェット記録方法と比べて、耐カラーブリード性に優れていた。また、インクセットD〜Fに係るインクジェット記録方法はそれぞれ、インクセットB及びCの各々に係るインクジェット記録方法と比べて、拭き取り性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係るインクセット、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法はそれぞれ、カラープリンター等において画像の形成に用いることに適している。
【符号の説明】
【0086】
10 搬送ユニット
10a、10b ローラー
10c 搬送ベルト
10d エンコーダー
10e 負圧発生部
20、20a〜20d ラインヘッド
30 吐出ユニット
100 プリンター
101 給紙カセット
102 給紙装置
102a、102b ローラー
103 排出装置
103a、103b ローラー
104 排紙トレイ
200 画像形成部
P 紙
図1
図2