特許第6237705号(P6237705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237705
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20171120BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   G03G9/08
   G03G9/08 365
   G03G9/08 331
   G03G9/08 381
   G03G9/08 325
   G03G9/08 375
【請求項の数】6
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2015-114247(P2015-114247)
(22)【出願日】2015年6月4日
(65)【公開番号】特開2017-3623(P2017-3623A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大西 隼也
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 達矢
(72)【発明者】
【氏名】春木 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】古川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】平野 史朗
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−006312(JP,A)
【文献】 特開2014−071333(JP,A)
【文献】 特開2010−249988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08−9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結着樹脂、着色剤、および離型剤を含む静電荷像現像用トナーであって、
トナー粒子の体積粒度分布の変動係数が18%以下であり、
フロー式粒子像測定装置による粒子形状分布測定において、
前記トナー粒子の円相当の平均粒子径をD(μm)、円相当の粒子径が(D−3)〜(D−2)(μm)の範囲のトナー粒子の平均アスペクト比をAR(L)、円相当の粒子径が(D+3)〜(D+4)(μm)の範囲のトナー粒子の平均アスペクト比をAR(H)としたとき、下記式(1)の関係を満たし、
前記AR(L)が0.90以上であることを特徴とする、静電荷像現像用トナー。
【数1】
【請求項2】
前記結着樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂を含有する、請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記トナー粒子の体積粒度分布の変動係数が15〜18%である、請求項1または2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記トナーが、少なくとも結着樹脂を含む結着樹脂微粒子分散液と、着色剤を含む着色剤粒子分散液とを、水系媒体中にて凝集し、融着させて得られるトナーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記結着樹脂は、スチレン−アクリル系樹脂を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
前記トナー粒子は、外添剤としてゾル・ゲル法で作製されたシリカ粒子をさらに含み、前記シリカ粒子の個数平均一次粒子径が70〜200nmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう)の分野では、市場からの要求に応じてそれに適した電子写真装置、およびこれに使用可能なトナーの開発が急ピッチで進められている。
【0003】
例えば、高画質化の観点から、トナーの小粒子径化が進んでいる。また生産性向上の観点からは高速化が進んでいる。一般的にトナーの粒子径が小さくなると、物理的付着力が増大し、さらに帯電量が増大することによる静電的な付着力も増大することにより、現像性や転写性の低下が起こり、特にハーフトーン画像における画質(粒状性)低下が課題となる。この場合、トナーの粒度分布を先鋭化することで、帯電量分布を先鋭化でき、現像性、転写性の均一性は向上する。ただし、完全に粒度分布をなくすことは困難であり、現像性と転写性を完全に均一にコントロールすることは難しい。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1には、小粒子径のトナー粒子の平均アスペクト比を所定の範囲に制御し、さらに、トナー中の異なる粒子径のトナー粒子におけるアスペクト比の差が一定以下の小さい値になるように制御する技術が示されている。このようにすることで、トナーの流動性が改善され、潜像担持体からトナー像を転写する際の中抜けが生じにくく、転写残トナーのクリーニング時のすり抜けに起因する画像不良が生じにくくなることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−071333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特に近年は、高画質化、高信頼化、高速化に対する市場の変化に伴い、現像、転写の均一性は現状よりも高いレベルが要求されており、改善を求められている。現像、転写の均一性が低いと、特定の印字モード、特に印字率が低い画像を出力した場合において選択的な現像が起こりやすい。また、長期間の連続使用時においては、現像、転写の均一性はさらに低下して、画像品質の低下が生じてしまう。上記特許文献1に記載の技術では、長期間にわたって連続印刷した場合、優れた画像品質を維持することが難しいことがわかった。
【0007】
そこで本発明は、長期間にわたって高画質な画像を形成できる、静電荷像現像用トナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、下記構成により本発明の目的が達成されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.少なくとも結着樹脂、着色剤、および離型剤を含む静電荷像現像用トナーであって、
トナー粒子の体積粒度分布の変動係数が18%以下であり、
フロー式粒子像測定装置による粒子形状分布測定において、
前記トナー粒子の円相当の平均粒子径をD(μm)、円相当の粒子径が(D−3)〜(D−2)(μm)の範囲のトナー粒子の平均アスペクト比をAR(L)、円相当の粒子径が(D+3)〜(D+4)(μm)の範囲のトナー粒子の平均アスペクト比をAR(H)としたとき、下記式(1)の関係を満たし、
前記AR(L)が0.90以上であることを特徴とする、静電荷像現像用トナー。
【0011】
【数1】
【0012】
2.前記結着樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂を含有する、前記1.に記載の静電荷像現像用トナー。
【0013】
3.前記トナー粒子の体積粒度分布の変動係数が15〜18%である、前記1.または2.に記載の静電荷像現像用トナー。
【0014】
4.前記トナーが、少なくとも結着樹脂を含む結着樹脂微粒子分散液と、着色剤を含む着色剤粒子分散液とを、水系媒体中にて凝集し、融着させて得られるトナーである、前記1.〜3.のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0015】
5.前記結着樹脂は、スチレン−アクリル系樹脂を含有する、前記1.〜4.のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0016】
6.前記トナー粒子は、外添剤としてゾル・ゲル法で作製されたシリカ粒子をさらに含み、前記シリカ粒子の個数平均一次粒子径が70〜200nmである、前記1.〜5.のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0017】
本発明の静電荷像現像用トナーによれば、長期間にわたって高画質な画像を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態は、少なくとも結着樹脂、着色剤、および離型剤を含む静電荷像現像用トナーであって、トナー粒子の体積粒度分布の変動係数が18%以下であり、フロー式粒子像測定装置による粒子形状分布測定において、前記トナー粒子の円相当の平均粒子径をD(μm)、円相当の粒子径が(D−3)〜(D−2)(μm)の範囲のトナー粒子の平均アスペクト比をAR(L)、円相当の粒子径が(D+3)〜(D+4)(μm)の範囲のトナー粒子の平均アスペクト比をAR(H)としたとき、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする、静電荷像現像用トナーである。
【0019】
【数2】
【0020】
本発明においては、結着樹脂、着色剤、および離型剤を含む静電荷像現像用トナーにおいて、トナー粒子の粒度分布とともに、トナー粒子の形状の分布までを精密にコントロールする。
【0021】
トナー粒子の小粒子径成分は、相対的に帯電性が高く、静電的な付着力が強いため、アスペクト比を高くする(1に近づける)ことによって物理的な付着力を弱めることができる。トナー粒子の大粒子径成分は、相対的に帯電性が低く、静電的な付着力が弱いため、アスペクト比を低くすることで、物理的な付着力を高くする。つまり上記式(1)のように制御することで、トナー粒子の粒度分布全体としての付着力分布を均一にすることができ、現像性、転写性の分布を均一にできる。加えて、選択現像を抑制し、さらに転写性の均一性が向上することで、長期にわたり高画質な画像を得ることができる。
【0022】
特に結着樹脂として結晶性ポリエステルを含むトナーの場合、低印字率モードにおける長期使用時においても、トナーの過剰帯電を抑制することが可能となり、選択現像性抑制の効果が非常に大きく、長期にわたって高画質な画像を得ることができる。
【0023】
以下、本発明の構成について説明する。
【0024】
(静電荷像現像用トナー)
本実施形態のトナーは、少なくとも結着樹脂、着色剤および離型剤を含んで構成されるものである。さらに、必要に応じてその他の内添剤、外添剤を含んでもよい。トナー粒子の体積平均粒子径および体積粒度分布の変動係数、ならびにフロー式粒子像測定装置による粒子形状分布測定における円相当の粒子径および平均アスペクト比は、これらの内添剤、外添剤の添加の有無によって変動しない。
【0025】
(1)トナー粒子の体積平均粒子径および体積粒度分布の変動係数
本実施形態のトナーは、高画質に必要な小粒子径トナーを用いるのが好ましいことから、トナーの体積平均粒子径としては、4〜10μmであることが好ましく、5〜8μmであることがより好ましい。トナーの体積平均粒子径が4μm以上であれば、流動性が悪化することもないため、電子写真プロセスにおける使いこなし(作業性、取扱い性等)が容易に行える点で好ましい。また、トナーの体積平均粒子径が10μm以下であれば、接触するトナー同士の表面積が小さくなることもないため、高画質化に必要な小粒子径トナーとして用いることができる。
【0026】
トナー粒子の体積平均粒子径は、例えば後述する乳化凝集法を採用して製造する場合には、使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、重合体の組成によって制御することができる。トナー粒子の体積平均粒子径が上記の範囲にあることにより、例えば1200dpi(dpi;1インチ(2.54cm)あたりのドット数)レベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することができる。
【0027】
本実施形態において、トナー粒子の体積粒度分布の変動係数(体積基準の粒子径の変動係数)は、18%以下である。本明細書中、トナー粒子の体積粒度分布の変動係数は、((体積平均粒子径の標準偏差)/(体積平均粒子径))×100(%)で表される。トナー粒子の体積粒度分布の変動係数が18%を超えると、トナーの帯電量が不均一になってしまい、現像性、転写性の不均一が生じうる。トナーの体積粒度分布の変動係数の下限値は特に制限されないが、15%以上であることが好ましい。トナーの体積粒度分布の変動係数が15%以上であれば、トナーの流動性に優れるため、高い現像性、転写性が得られるため好ましい。
【0028】
トナー粒子の体積平均粒子径は、例えば、乳化凝集法によりトナーを得る方法において凝集粒子の粒子径成長を制御することで調整できる。また、体積粒度分布の変動係数は、凝集・融着工程において、加熱する場合、昇温速度、加熱後放置する時間などを調節することで制御することができる。例えば昇温速度を遅くする、加熱後放置する時間を長くすると、体積粒度分布の変動係数が小さくなる傾向にある。
【0029】
本明細書中、トナー粒子の体積平均粒子径および体積粒度分布の変動係数は、後述の実施例に記載の方法で測定された値を採用するものとする。
【0030】
(2)トナー粒子の平均アスペクト比
本実施形態のトナーは、トナー粒子の粒度分布における小粒子径成分については、アスペクト比を相対的に高くして表面積を抑えて静電的付着力を抑え、一方、大粒子径成分については、アスペクト比を相対的に低くして表面積を増加させて静電的付着力を高め、粒度分布の全体にわたって静電的な付着力を均一にする。
【0031】
このような観点から、本実施形態のトナーにおいては、トナー粒子の円相当の平均粒子径をD(μm)としたとき、円相当の粒子径が(D−3)〜(D−2)(μm)の範囲のトナー粒子(小粒子径成分)の平均アスペクト比AR(L)は、好ましくは0.870〜0.970であり、より好ましくは0.890〜0.950である。上記範囲であれば上記式(1)を満たすトナーが好適に得られうる。
【0032】
また、円相当の粒子径が(D+3)〜(D+)(μm)の範囲のトナー粒子(大粒子径成分)の平均アスペクト比AR(H)は、好ましくは0.680〜0.850であり、より好ましくは0.700〜0.830である。上記範囲であれば上記式(1)を満たすトナーが好適に得られうる。
【0033】
本発明のトナーにおいて、上記式(1)で表される平均アスペクト比の差AR(L)−AR(H)は、0.110〜0.250である。AR(L)−AR(H)の値が0.110よりも小さい場合、または、0.250よりも大きい場合は、粒度分布全体としての静電的な付着力を一様にすることが難しい。そのため、長期間の連続使用時においては画像品質の低下が生じてしまう。上記AR(L)−AR(H)の値は、好ましくは0.150〜0.230である。
【0034】
式(1)で表される平均アスペクト比の差AR(L)−AR(H)の値は、乳化凝集法によりトナーを得る方法を用いる場合、粒子径成長を開始させる時点での粒度分布を粒度分布およびアスペクト比分布を制御することで調節することができる。粒子径成長を開始させる時点での粒度分布およびアスペクト比分布が最終的に得られるトナーの粒子の粒度分布およびアスペクト比分布に反映される。具体的には、凝集・融着工程における加熱温度、昇温速度、添加する界面活性剤の量などを制御することでアスペクト比分布を制御することができる。例えば界面活性剤の量を多くすると、粒子凝集が緩やかになり、粒度分布の大径側の粒子形状が球状に近づくため、全体としてアスペクト比分布が小さくなる。界面活性剤の量を少なくすると、急激な粒子凝集が起こり、粒度分布の大径側の形状が歪になり、全体としてアスペクト比分布が大きくなる。
【0035】
本明細書中、トナー粒子の円相当の平均粒子径および平均アスペクト比の値は、後述の実施例に記載の方法で測定された値を採用するものとする。
【0036】
(結着樹脂)
結着樹脂としては、トナーに用いられている従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、ポリエステル樹脂;ポリビニルトルエンなどのスチレンおよびその置換体の重合体;スチレン−p−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタレン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、エポキシポリオール樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、脂肪族または脂環族炭化水素樹脂、芳香族石油樹脂などが挙げられる。
【0037】
より低い温度でトナー像を定着させる低温定着性向上の観点から、本実施形態のトナーは、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含むことが好ましい。好ましくは、本実施形態のトナーは、結着樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を含む。結晶性ポリエステル樹脂を有することで、低温定着性がより向上しうる。また、低温定着性およびトナーの耐熱保存性の観点からは結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂および非晶性樹脂を組み合わせて用いることが好ましく、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0038】
<結晶性ポリエステル樹脂>
結晶性ポリエステル樹脂とは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、実施例に記載の示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
【0039】
結晶性ポリエステル樹脂は、上記定義したとおりであれば特に限定されず、例えば、結晶性ポリエステル樹脂による主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂について、この樹脂が上記のように明確な吸熱ピークを示すものであれば、本発明でいう結晶性ポリエステル樹脂に該当する。
【0040】
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000〜40,000である。かような範囲であると、得られるトナー粒子が粒子全体として融点の低いものにならず耐ブロッキング性に優れ、また、低温定着性にも優れる。該重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
【0041】
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、50℃以上120℃未満であることが好ましく、60℃以上90℃未満であることがより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点が上記の範囲にあることにより、低温定着性および定着分離性が適切に得られるため好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点は、具体的には、実施例に記載の方法により測定される吸熱ピーク温度を結晶性ポリエステル樹脂の融点とする。
【0042】
結晶性ポリエステル樹脂の酸価(AV)は5〜70mgKOH/gが好ましい。該酸価は、JIS K2501:2003に記載の方法に準拠して測定できる。
【0043】
結晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分および多価アルコール成分から生成される。多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の価数としては、好ましくはそれぞれ2〜3であり、特に好ましくはそれぞれ2であるため、特に好ましい形態として価数がそれぞれ2である場合(すなわち、ジカルボン酸成分、ジオール成分)について説明する。
【0044】
ジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましく、芳香族ジカルボン酸を併用してもよい。脂肪族ジカルボン酸としては、直鎖型のものを用いることが好ましい。直鎖型のものを用いることによって、結晶性が向上するという利点がある。ジカルボン酸成分は、一種類のものに限定されるものではなく、二種類以上を混合して用いてもよい。脂肪族ジカルボン酸としては、主鎖を構成する炭素原子の数が2〜22である直鎖型の脂肪族ジカルボン酸を用いることがより好ましい。
【0045】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸(1,10−ドデカン二酸)、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
【0046】
上記の脂肪族ジカルボン酸の中でも、入手容易性の観点から、炭素原子の数が6〜14である直鎖型の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、アジピン酸、1,8−オクタンジカルボン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸(1,10−ドデカン二酸)であることがより好ましい。
【0047】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、t−ブチルイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、入手容易性および乳化容易性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸、t−ブチルイソフタル酸を用いることが好ましい。
【0048】
脂肪族ジカルボン酸の使用量は、結晶性ポリエステル樹脂を形成するためのジカルボン酸成分全体を100構成モル%とした場合の80構成モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90構成モル%以上、さらに好ましくは100構成モル%である。脂肪族ジカルボン酸の使用量が80構成モル%以上であることにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を確保することができ、製造されるトナーとして優れた低温定着性が得られ、最終的に形成される画像に光沢性が得られると共に融点降下による画像保存性の低下が抑制される。さらに、当該結晶性ポリエステル樹脂を含む油相液を用いて油滴を形成させる際、確実に乳化状態とすることができる。
【0049】
また、ジオール成分としては、脂肪族ジオールを用いることが好ましく、必要に応じて脂肪族ジオール以外のジオールを含有させてもよい。ジオール成分としては、脂肪族ジオールの中でも、主鎖を構成する炭素原子の数が2〜22である直鎖型の脂肪族ジオールを用いることがより好ましい。
【0050】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−ドデカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、入手容易性の観点、確実な低温定着性の発現という観点から、主鎖を構成する炭素原子の数が2〜14のものが好ましい。
【0051】
ジオール成分としては、分岐型の脂肪族ジオールを用いることもできるが、この場合、結晶性の確保の観点から、直鎖型の脂肪族ジオールと共に使用し、かつ、当該直鎖型の脂肪族ジオールの割合を高めにして使用することが好ましい。このように直鎖型の脂肪族ジオールの割合を高めにして使用することによって、結晶性が確保されて製造されるトナーに優れた低温定着性が確実に得られ、最終的に形成される画像において融点降下による画像保存性の低下が抑制され、さらには耐ブロッキング性が確実に得られる。
【0052】
ジオール成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0053】
結晶性ポリエステル樹脂を形成するためのジオール成分としては、脂肪族ジオールの含有量が80構成モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90構成モル%以上であり、さらに好ましくは100構成モル%である。ジオール成分における脂肪族ジオールの含有量を80構成モル%以上とすることにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を確保することができて製造されるトナーに優れた低温定着性が得られると共に最終的に形成される画像に光沢性が得られる。
【0054】
脂肪族ジオール以外のジオールとしては、二重結合を有するジオール、スルホン酸基を有するジオールなどが挙げられ、具体的には、二重結合を有するジオールとしては、例えば、2−ブテン−1,4−ジオール、3−ブテン−1,6−ジオール、4−ブテン−1,8−ジオールなどが挙げられる。ジオール成分における二重結合を有するジオールの含有量は20構成モル%以下であることが好ましい。
【0055】
なお、必要に応じて、酸価や水酸基価の調整等の目的で、酢酸、安息香酸等の1価の酸、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等の1価のアルコール、ベンゼントリカルボン酸、ナフタレントリカルボン酸等、およびこれらの無水物やこれらの低級アルキルエステル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなど3価のアルコールも併用することができる。
【0056】
結晶性ポリエステル樹脂は、前記の構成成分の中から任意の組合せで、従来公知の方法を用いて合成することができ、エステル交換法や直接重縮合法等を単独で、また組み合せて用いることができる。
【0057】
具体的には、重合温度140℃以上270℃以下で行うことができ、必要に応じて反応系内を減圧にし、縮合の際に発生する水やアルコールを除去しながら反応させる。モノマーが、反応温度下で溶解または相溶しない場合は、高沸点の溶剤を溶解補助溶剤として加え溶解させてもよい。重縮合反応においては、溶解補助溶剤を留去しながら行う。共重合反応において相溶性の悪いモノマーが存在する場合は、あらかじめ相溶性の悪いモノマーと、そのモノマーと重縮合予定の酸またはアルコールとを縮合させておいてから主成分と共に重縮合させるとよい。
【0058】
上記のジオール成分とジカルボン酸成分との使用比率は、ジオール成分のヒドロキシル基[OH]とジカルボン酸成分のカルボキシル基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、1.5/1〜1/1.5とすることが好ましく、1.2/1〜1/1.2とすることがより好ましい。ジオール成分とジカルボン酸成分との使用比率が上記の範囲にあることにより、所望の分子量を有する結晶性ポリエステル樹脂を確実に得ることができる。
【0059】
結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒は、酢酸チタン、プロピオン酸チタン、ヘキサン酸チタン、オクタン酸チタンなどの脂肪族モノカルボン酸チタン、シュウ酸チタン、コハク酸チタン、マレイン酸チタン、アジピン酸チタン、セバシン酸チタンなどの脂肪族ジカルボン酸チタン、ヘキサントリカルボン酸チタン、イソオクタントリカルボン酸などの脂肪族トリカルボン酸チタン、オクタンテトラカルボン酸チタン、デカンテトラカルボン酸チタンなどの脂肪族ポリカルボン酸チタン、などの脂肪族カルボン酸チタン類、安息香酸チタンなどの芳香族モノカルボン酸チタン、フタル酸チタン、テレフタル酸チタン、イソフタル酸チタン、ナフタレンジカルボン酸チタン、ビフェニルジカルボン酸チタン、アントラセンジカルボン酸チタンなどの芳香族ジカルボン酸チタン;トリメリット酸チタン、ナフタレントリカルボン酸チタンなどの芳香族トリカルボン酸チタン;ベンゼンテトラカルボン酸チタン、ナフタレンテトラカルボン酸チタンなどの芳香族テトラカルボン酸チタン;などの芳香族カルボン酸チタン類、脂肪族カルボン酸チタン類や芳香族カルボン酸チタン類のチタニル化合物類およびそのアルカリ金属塩類、ジクロロチタン、トリクロロチタン、テトラクロロチタン、テトラブロモチタンなどのハロゲン化チタン類、テトラブトキシチタン(チタンテトラブトキサイド)、テトラオクトキシチタン、テトラステアリロキシチタンなどのテトラアルコキシチタン類、チタンアセチルアセトナート、チタンジイソプロポキシドビスアセチルアセトナート、チタントリエタノールアミネート、などのチタン含有触媒である。
【0060】
また結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂ユニットと、ポリエステル樹脂以外の非晶性樹脂ユニットとが化学的に結合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(ハイブリッド樹脂)であってもよい。非晶性樹脂ユニットを構成する樹脂成分は特に制限されないが、例えば、ビニル樹脂ユニット、ウレタン樹脂ユニット、ウレア樹脂ユニットなどが挙げられる。なかでも、熱可塑性を制御しやすいという理由から、ビニル樹脂ユニットが好ましい。
【0061】
ビニル樹脂ユニットとしては、ビニル化合物を重合したものであれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル樹脂ユニット、スチレン−アクリル酸エステル樹脂ユニット(スチレン−アクリル樹脂ユニット)、エチレン・酢酸ビニル樹脂ユニットなどが挙げられる。
【0062】
結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂の全量に対して好ましくは1〜20質量%であり、より好ましくは5〜20質量%である。結晶性ポリエステル樹脂の含有量が20質量%以下であると、外添剤の埋没やフィルミングなどの発生が少ない。また、1質量%以上であると低温定着性向上の効果が効果的に得られる。
【0063】
<非晶性樹脂>
(非晶性ポリエステル樹脂)
非晶性樹脂は特に限定されるものではないが、多価アルコール成分と多価カルボン酸成分とを縮合してなる非晶性ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。
【0064】
非晶性樹脂(特に非晶性ポリエステル樹脂)の含有量は、結着樹脂の全量(100質量%)に対して通常50〜95質量%、好ましくは50〜80質量%となる量とすることが好ましい。かような範囲であると得られるトナーが耐ブロッキング性に優れ、低温定着性も得ることができる。
【0065】
非晶性ポリエステル樹脂は、上記結晶性ポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂である。つまり、通常は融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有するものである。より具体的には、ガラス転移温度(Tg)は、40〜90℃であることが好ましく、特に45〜80℃であることが好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、実施例に記載の方法で測定する。
【0066】
非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3,000〜100,000、より好ましくは4,000〜70,000である。非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)がかかる範囲である場合、得られるトナーが耐ブロッキング性に優れ、低温定着性も得ることができる。
【0067】
上記多価アルコール成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−ドデカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオールなどの脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物などを挙げることができ、また、3価以上の多価アルコール成分としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられる。さらに、製造コストや環境性から、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルアルコールなどを用いてもよい。また、非晶性ポリエステル樹脂を形成しうる多価アルコール成分としては、2−ブチン−1,4−ジオール、3−ブチン−1,4−ジオール、9−オクタデン−7,12−ジオールなどの不飽和多価アルコールなども用いることができる。
【0068】
これらの中でも、帯電性やトナー強度の観点から、多価アルコール成分としてはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物および/またはビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を用いることが好ましい。
【0069】
これらの多価アルコール成分は1種単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。
【0070】
上記多価アルコール成分と縮合させる2価カルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アルケニルコハク酸、アジピン酸、スリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などの脂肪族カルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式カルボン酸類;およびこれらの酸の低級アルキルエステル、酸無水物などが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0071】
これら多価カルボン酸の中でも、特にアルケニルコハク酸、またはその酸無水物、酸塩化物、もしくは炭素数1〜3の低級アルキルエステルを用いると、他の官能基に比べ疎水性の高いアルケニル基が存在することにより、より容易に結晶性ポリエステル樹脂と相溶することができる。アルケニルコハク酸成分の例としては、n−ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、ならびにこれらの酸無水物、酸塩化物および炭素数1〜3の低級アルキルエステルを挙げることができる。
【0072】
さらに、3価以上のカルボン酸を含有することにより、高分子鎖が架橋構造をとることができ、該架橋構造をとることにより、高温側での弾性率の低下を抑制させることができ、高温側でのオフセット性を向上させることができる。
【0073】
上記3価以上のカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、ヘミメリット酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリット酸、メリット酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、ならびにこれらの酸無水物、酸塩化物および炭素数1〜3の低級アルキルエステルなどが挙げられるが、トリメリット酸またはその無水物が特に好適である。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
非晶性ポリエステル樹脂の軟化温度は、70〜140℃が好ましく、70〜125℃がより好ましい。また、非晶性ポリエステル樹脂の酸価は5〜70mgKOH/gが好ましい。
【0075】
(スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂)
本発明では、結着樹脂としての非晶性ポリエステル樹脂の少なくとも一部に、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。非晶性ポリエステル樹脂におけるスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂の含有割合は、非晶性ポリエステル樹脂100質量%中において70〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることがさらに好ましい。以下、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂について説明する。
【0076】
本発明において、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂とは、ポリエステル樹脂から構成されるポリエステルセグメントとスチレン−アクリル系重合体から構成されるスチレン−アクリル系重合体セグメントとが、両反応性モノマーを介して結合した樹脂をいう。スチレン−アクリル系重合体セグメントとは、芳香族ビニル系モノマーと(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを重合して得られる重合体部分をいう。
【0077】
スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂は、特に制限されないが、以下の構成のスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂であることが好ましい。なお、コア−シェル構造のトナーを作製する場合、コア粒子の結着樹脂に用いられるスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂とシェル層に用いられるスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂とは同じであっても異なっていてもよい。
【0078】
本発明において用いられるスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂におけるスチレン−アクリル系重合体セグメントの含有割合(以下、「スチレン−アクリル変性率」ともいう。)は、特に制限されないが、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0079】
スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂におけるスチレン−アクリル系重合体セグメントの含有割合、すなわちスチレン−アクリル変性率は、具体的には、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる樹脂材料の全質量、すなわち、ポリエステルセグメントとなる未変性のポリエステル樹脂を構成する重合性モノマーと、スチレン−アクリル系重合体セグメントとなる芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと、これらを結合させるための両反応性モノマーを合計した全質量に対する、芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの質量の割合をいう。
【0080】
スチレン−アクリル変性率が5質量%以上であれば、貯蔵弾性率が十分に高いトナーが得られるため、薄紙分離性がより向上しうる。また、スチレン−アクリル変性率が30質量%以下であれば、高いシャープメルト性が得られるため、低温定着性が向上しうる。また、特に、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂をコア−シェル構造を有するトナーのシェル層に用いる場合は、コア粒子との親和性が適正に制御され、薄層でありながらより均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を形成することができる。
【0081】
本発明に用いられるスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂は、低温定着性及び定着分離性などの定着性、並びに、耐熱保管性及び耐ブロッキング性などの耐熱性を確実に得る観点から、ガラス転移点が50〜70℃であることが好ましく、より好ましくは50〜65℃であり、かつ、軟化点が80〜110℃であることが好ましい。コア粒子の結着樹脂に用いた場合のガラス転移点は、40〜60℃であることが好ましく、軟化点は80〜110℃であることが好ましい。
【0082】
スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂のガラス転移点は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418−82に規定された方法(DSC法)によって測定された値である。
【0083】
具体的には、試料4.5mgを小数点以下2桁まで精秤し、アルミニウム製パンに封入して、示差走査カロリメーター「DSC8500」(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットした。リファレンスは、空のアルミニウム製パンを使用し、測定温度−0℃〜120℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分にて、Heat−Cool−Heatの温度制御を行い、その2nd.Heatにおけるデータを基に解析を行った。第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1の吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間における最大傾斜を示す接線との交点の値をガラス転移温度とする。
【0084】
また、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂の軟化点は、以下のように測定されるものである。
【0085】
まず、20℃±1℃・50%±5%RHの環境下において、樹脂1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所製)によって3820kg/cmの力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製し、次いで、この成型サンプルを、24℃±5℃・50%±20%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetが、樹脂の軟化点とされる。
【0086】
(スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂の作製方法)
以上のようなスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を製造する方法としては、既存の一般的なスキームを使用することができる。代表的な方法としては、次の4つが挙げられる。
【0087】
(A)ポリエステルセグメントを予め重合しておき、当該ポリエステルセグメントに両反応性モノマーを反応させ、さらに、スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するための芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを反応させることにより、スチレン−アクリル系重合セグメントを形成する方法。すなわち、スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するための芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを、ポリエステルセグメントを形成するための多価カルボン酸モノマー又は多価アルコールモノマーと反応し得る基と重合性不飽和基とを有する両反応性モノマー、及び未変性のポリエステル樹脂の存在下で重合させる方法。
【0088】
(B)スチレン−アクリル系重合体セグメントを予め重合しておき、当該スチレン−アクリル系重合体セグメントに両反応性モノマーを反応させ、さらに、ポリエステルセグメントを形成するための多価カルボン酸モノマー及び多価アルコールモノマーを反応させることにより、ポリエステルセグメントを形成する方法。
【0089】
(C)ポリエステルセグメント及びスチレン−アクリル系重合体セグメントをそれぞれ予め重合しておき、これらに両反応性モノマーを反応させることにより、両者を結合させる方法。
【0090】
(D)ポリエステルセグメントを予め重合し、そのポリエステルセグメントの重合性不飽和基にスチレン−アクリル系重合性モノマーを付加重合、あるいはスチレン−アクリル系重合体セグメント中のビニル基と反応させ両者を結合する方法。
【0091】
本発明において、両反応性モノマーとは、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂のポリエステルセグメントを形成するための多価カルボン酸モノマー及び/又は多価アルコールモノマーと反応し得る基と、重合性不飽和基とを有するモノマーである。
【0092】
(A)の方法について具体的に説明すると、
(1)ポリエステルセグメントを形成するための未変性のポリエステル樹脂と、芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと、両反応性モノマーとを混合する混合工程、
(2)芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを、両反応性モノマーと未変性のポリエステル樹脂の存在下で重合させる重合工程を経ることにより、ポリエステルセグメントの末端にスチレン−アクリル系重合体セグメントを形成させることができる。この場合、ポリエステルセグメントの末端のヒドロキシ基と両反応性モノマーのカルボキシ基とがエステル結合を形成し、両反応性モノマーのビニル基が芳香族系ビニルモノマー又は(メタ)アクリル酸系モノマーのビニル基と結合することによってスチレン−アクリル系重合体セグメントが結合される。上記合成法の中で(A)の方法が最も好ましい。
【0093】
この方法によれば、鎖状のポリエステルセグメントの末端にスチレン−アクリル系重合体セグメントを付加させることができ、このスチレン−アクリル系重合体セグメントが、コア粒子のスチレン−アクリル系樹脂と親和性を持って配向し、ポリエステルセグメントが、トナーの表面に露出する形となって、薄層で均一なシェル層を有するコア−シェル構造のトナーを形成することができるものと考えられる。
【0094】
上記(1)の混合工程においては、加熱することが好ましい。加熱温度としては、未変性のポリエステル樹脂、芳香族系ビニルモノマー、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー及び両反応性モノマーを混合させることができる範囲であればよく、良好な混合が得られると共に、重合制御が容易となることから、例えば80〜120℃とすることができ、より好ましくは85〜115℃、さらに好ましくは90〜110℃である。
【0095】
上述のように、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂におけるスチレン−アクリル系重合体セグメントの含有割合とは、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる樹脂材料の全質量を100質量%としたときの芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの合計の占める割合であり、5質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0096】
また、芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの相対的な
割合は、下記式(i)で表されるFOX式で算出されるガラス転移点(Tg)が35〜8
0℃、好ましくは40〜60℃の範囲となるような割合とされることが好ましい。
【0097】
式(i):1/Tg=Σ(Wx/Tgx)
(式(i)において、Wxはモノマーxの重量分率、Tgxはモノマーxの単独重合体のガラス転移点である。)
なお、本明細書においては、両反応性モノマーはガラス転移点の計算に用いないものとする。
【0098】
未変性のポリエステル樹脂、芳香族系ビニルモノマー、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー及び両反応性モノマーのうち、両反応性モノマーの使用割合は、用いられる樹脂材料の全質量、すなわち前記の4者の全質量を100質量%としたときの両反応性モノマーの割合が0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、特に、0.5質量%以上3.0質量%以下とされることが好ましい。
【0099】
(芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマー)
スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するための芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーは、ラジカル重合を行うことができるエチレン性不飽和結合を有するものである。
【0100】
芳香族系ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロロスチレンなど及びその誘導体が挙げられる。
【0101】
これらの芳香族系ビニルモノマーは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0102】
(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、及びメタクリル酸ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するための芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、優れた帯電性、画質特性などを得る観点から、スチレン又はその誘導体を多く用いることが好ましい。具体的には、スチレン又はその誘導体の使用量が、スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するために用いられる全モノマー(芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマー)中の50質量%以上であることが好ましい。
【0104】
(両反応性モノマー)
スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するための両反応性モノマーとしては、ポリエステルセグメントを形成するための多価カルボン酸モノマー及び/又は多価アルコールモノマーと反応し得る基と重合性不飽和基とを有するモノマーであればよく、具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸などを用いることができる。本発明においては両反応性モノマーとして、アクリル酸、又はメタクリル酸を用いることが好ましい。
【0105】
前記スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を作製するために用いるポリエステル樹脂については上述した通りである。
【0106】
(重合開始剤)
前述の芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを重合させる重合工程においては、ラジカル重合開始剤の存在下で重合を行うことが好ましく、ラジカル重合開始剤の添加の時期は特に制限されないが、ラジカル重合の制御が容易であるという点で、混合工程の後で添加することが好ましい。
【0107】
重合開始剤としては、公知の種々の重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、例えば過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化−tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸−tert−ブチルヒドロペルオキシド、過ギ酸−tert−ブチル、過酢酸−tert−ブチル、過安息香酸−tert−ブチル、過フェニル酢酸−tert−ブチル、過メトキシ酢酸−tert−ブチル、過N−(3−トルイル)パルミチン酸−tert−ブチルなどの過酸化物類;2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)塩酸塩、2,2’−アゾビス−(2−アミノジプロパン)硝酸塩、1,1’−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、及びポリ(テトラエチレングリコール−2,2’−アゾビスイソブチレート)などのアゾ化合物などが挙げられる。
【0108】
(連鎖移動剤)
前述の芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを重合させる重合工程においては、スチレン−アクリル系重合体セグメントの分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばアルキルメルカプタン、及びメルカプト脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
【0109】
連鎖移動剤は、上記の混合工程において樹脂形成材料と共に混合させておくことが好ましい。
【0110】
連鎖移動剤の添加量は、所望するスチレン−アクリル系重合体セグメントの分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、並びに両反応性モノマーの合計量に対して、0.1〜5質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0111】
前述の芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを重合させる重合工程における重合温度は、特に限定されず、芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマー間の重合及びポリエステル樹脂への結合が進行する範囲において適宜選択することができる。重合温度としては、例えば、85℃以上125℃以下であることが好ましく、90℃以上120℃以下であることがより好ましく、95℃以上115℃以下であることがさらに好ましい。
【0112】
スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂の作製においては、重合工程後の残留モノマー量など乳化物からの揮発性有機物質が、1,000ppm以下に抑制されることが実用上好ましく、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下である。
【0113】
(スチレン−アクリル系樹脂)
本実施形態のトナーにおいて、結着樹脂は、帯電の環境安定性を考慮すると、スチレン−アクリル系樹脂を含むことが好ましい。特に、スチレン−アクリル系樹脂を結晶性ポリエステル樹脂ともにコア−シェル構造を有するトナーのコア粒子に用い、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂をシェル層に用いると、コア粒子とシェル層の親和性が適正に制御され、薄層でありながら均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を形成することができる。
【0114】
スチレン−アクリル系樹脂の含有量は、結着樹脂の全量に対して通常40〜95質量%、好ましくは60〜95質量%となる量とすることが好ましい。かような範囲であると得られるトナーが熱定着時の可塑性に優れ、低温定着性も得ることができる。
【0115】
スチレン−アクリル系樹脂に用いられる重合性モノマーとしては、芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーであり、ラジカル重合を行うことができるエチレン性不飽和結合を有するものが好ましい。例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロロスチレンなど及びその誘導体が挙げられる。これらの芳香族系ビニルモノマーは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0116】
(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、及びメタクリル酸ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でもスチレン系モノマーとアクリル酸エステル系モノマー、及び/又はメタクリル酸エステル系モノマーとを組み合わせて使用することが好ましい。
【0117】
重合性モノマーとしては、第三のビニル系モノマーを使用することもできる。第三のビニル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、ビニル酢酸等の酸モノマー、及びアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、エチレン、プロピレン、ブチレン塩化ビニル、N−ビニルピロリドン、及びブタジエン等が挙げられる。
【0118】
重合性モノマーとしては、さらに多官能ビニルモノマーを使用してもよい。多官能ビニルモノマーとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のジアクリレート、ジビニルベンゼン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三級以上のアルコールのジメタクリレート及びトリメタクリレート等が挙げられる。多官能ビニル系モノマーの重合性モノマー全体に対する共重合比は通常、0.001〜5質量%、好ましくは0.003〜2質量%、より好ましくは、0.01〜1質量%である。多官能ビニル系モノマーの使用により、テトラヒドロフランに不溶のゲル成分が生成するが、ゲル成分の重合物全体に占める割合は通常40質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0119】
(スチレン−アクリル系樹脂の製造方法)
スチレン−アクリル系樹脂は乳化重合法で製造されることが好ましい。乳化重合は、水系媒体中にスチレン、アクリル酸エステルなどの重合性モノマーを分散し重合することによって得ることができる。水系媒体に重合性モノマーを分散するためには界面活性剤を用いることが好ましく、また重合には重合開始剤、連鎖移動剤を用いることができる。
【0120】
(重合開始剤)
スチレン−アクリル系樹脂の重合に使用される重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができ、前述のスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂のスチレン−アクリル系重合体セグメントの重合に用いられる重合開始剤が使用できる。重合に使用される重合開始剤としては、水溶性の重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、例えば過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化−tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸−tert−ブチルヒドロペルオキシド、過ギ酸−tert−ブチル、過酢酸−tert−ブチル、過安息香酸−tert−ブチル、過フェニル酢酸−tert−ブチル、過メトキシ酢酸−tert−ブチル、過N−(3−トルイル)パルミチン酸−tert−ブチル等の過酸化物類;2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)塩酸塩、2,2’−アゾビス−(2−アミノジプロパン)硝酸塩、1,1’−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、及びポリ(テトラエチレングリコール−2,2’−アゾビスイソブチレート)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0121】
(連鎖移動剤)
スチレン−アクリル系樹脂の製造においては、上記の重合性モノマーとともに連鎖移動剤を添加しても良い。連鎖移動剤を添加することによって重合体の分子量を制御できる。連鎖移動剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、前述のスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂のスチレン−アクリル系重合体セグメントの重合に用いられる連鎖移動剤を使用することができ、アルキルメルカプタン、及びメルカプト脂肪酸エステルが挙げられる。連鎖移動剤の添加量は、所望する分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には重合性モノマーに対して、0.1〜5質量%の範囲で添加するのが好ましい。
【0122】
(界面活性剤)
スチレン−アクリル系樹脂を水系媒体中に分散し乳化重合法により重合する場合は、分散した液滴の凝集を防ぐために通常、分散安定剤が添加される。分散安定剤としては、公知の界面活性剤が使用可能であり、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の中から選択される分散安定剤を用いることができる。これらの界面活性剤は2種以上を併用してもよい。なお、分散安定剤は着色剤やオフセット防止剤等の分散液にも使用できる。
【0123】
カチオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、及びヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0124】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ノルフェニルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル、スチリルフェニルポリオキシエチレンエーテル、及びモノデカノイルショ糖などが挙げられる。
【0125】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪族石鹸や、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、及びポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0126】
(結着樹脂の形態)
本発明のトナーに含まれる結着樹脂は、その形態(樹脂粒子の形態)は如何なるものであってもよい。
【0127】
たとえば、結着樹脂により構成される樹脂微粒子(結着樹脂微粒子)は、いわゆる単層構造を有するものであってもよいし、コア−シェル構造(コア粒子の表面にシェル部を形成する樹脂を凝集、融着させた形態)を有するものであってもよい。コア−シェル構造の樹脂微粒子は、着色剤や離型剤等を含有したガラス転移温度が比較的低めの樹脂微粒子(コア粒子)表面に、比較的高めのガラス転移温度を有する樹脂領域(シェル部)を有する。
【0128】
なお、コア−シェル構造は、シェル部がコア粒子を完全に被覆した構造のものに限定されるものではなく、例えば、シェル部がコア粒子を完全に被覆せず、所々コア粒子が露出しているものも含む。
【0129】
コア−シェル構造の断面構造は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型プローブ顕微鏡(SPM)等の公知の手段を用いて確認することが可能である。
【0130】
コア−シェル構造の樹脂微粒子とする場合、結晶性ポリエステル樹脂ユニットに起因する帯電性の低下を抑制し、帯電均一性をより向上させるという観点から、少なくとも、結晶性ポリエステル樹脂がコア粒子に含まれている形態であると好ましい。このとき、非晶性樹脂は、コア粒子およびシェル部のいずれに含まれていてもよいが、コア粒子において結晶性ポリエステル樹脂および非晶性樹脂を含み、シェル部において非晶性樹脂を含む形態であると特に好ましい。かような形態とすることにより、コア粒子において結晶性ポリエステル樹脂と非晶性樹脂との親和性が高くなり、かつ結晶性ポリエステル樹脂が表面により露出しにくくなるため、帯電均一性とともに機械的強度をさらに向上させることができる。
【0131】
コア部の含有量は、コア部とシェル部との合計の樹脂量を100質量%として、30〜95質量%が好ましい。
【0132】
(着色剤)
トナーに使用される着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、染料、顔料などを任意に使用することができ、カーボンブラックとしてはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、またはランプブラックなどが使用される。磁性体としては鉄、ニッケル、またはコバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、フェライト、またはマグネタイトなどの強磁性金属の化合物などを用いることができる。
【0133】
染料としてはC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などを用いることができ、またこれらの混合物も用いることができる。顔料としてはC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、又は同60などを用いることができ、これらの混合物も用いることができる。数平均一次粒子径は種類により多様であるが、概ね10〜200nm程度が好ましい。
【0134】
着色剤の含有割合は、特に制限されないが、結着樹脂に対して1〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜20質量%である。
【0135】
(離型剤(ワックス))
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスのような炭化水素系ワックス類、カルナウバワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニル、及びクエン酸ベヘニルなどのエステルワックス類などが挙げられる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0136】
離型剤の含有割合は、特に制限されないが、結着樹脂に対して、例えば2〜20質量%であり、好ましくは3〜18質量%であり、さらに好ましくは4〜15質量%である。
【0137】
また、離型剤の融点としては、電子写真におけるトナーの低温定着性と離型性との観点から、50〜95℃であることが好ましい。
【0138】
本実施形態のトナー中には、必要に応じて、荷電制御剤などの他の内添剤;無機微粒子、有機微粒子、滑材などの外添剤が含有されていてもよい。
【0139】
(荷電制御剤)
荷電制御剤としては、公知の種々の化合物を用いることができる。荷電制御剤としては、例えば、プラス帯電用としてニグロシン系の電子供与性染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩、アルキルアミド、金属錯体、顔料、フッ素処理活性剤等、マイナス帯電用として電子受容性の有機錯体、塩素化パラフィン、塩素化ポリエステル、銅フタロシアニンのスルホニルアミン等を挙げることができる。
【0140】
荷電制御剤の添加量は、最終的に得られるトナー粒子中における結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0141】
(外添剤)
トナーとしての帯電性能や流動性、あるいはクリーニング性を向上させる観点から、トナー粒子の表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの粒子、滑材を外添剤として添加することができる。
【0142】
無機微粒子としては、シリカ、チタニア、アルミナ、チタン酸ストロンチウムなどによる無機微粒子を好ましいものとして挙げられる。
【0143】
必要に応じてこれらの無機微粒子は疎水化処理されているのが望ましい。本発明では、疎水化処理された無機微粒子の中でも、高い帯電性の観点から、疎水性シリカが好ましい。かかる疎水性シリカは、作製(内製)してもよいし、疎水性フュームドシリカや疎水性ゾルゲルシリカなどの市販品を入手してよい。
【0144】
無機微粒子(疎水化処理されたものも含む)の数平均一次粒子径は10〜700nmが好ましく、10〜500nmがより好ましく、70〜200nmであることがさらに好ましい。かような範囲であると、耐久を通して安定した画像が得られる点で好ましい。また、無機微粒子(疎水化処理されたものも含む)の形状は、特に制限されるものではなく、球形や不定形状など任意の形状のものが利用できる。
【0145】
特には、外添剤は、ゾル・ゲル法で作製されたシリカ粒子(ゾルゲルシリカ)を含むことが好ましく、中でも数平均一次粒子径が70〜200nmであるものを用いることが好ましい。このようなシリカ粒子はトナーに流動性を付与する効果が特に高く、長期にわたって安定な印刷が可能になる。
【0146】
有機微粒子としては、数平均一次粒子径が10〜2000nm程度の球形の有機微粒子を使用することができる。具体的には、スチレンやメチルメタクリレートなどの単独重合体やこれらの共重合体による有機微粒子を使用することができる。
【0147】
無機微粒子(疎水化処理されたものも含む)または有機微粒子の数平均一次粒子径は、画像解析法により測定される。具体的には、走査型電子顕微鏡「JSM−7401(JEOL社製)」を用いて、倍率3万倍でトナーの写真を撮影し、この写真画像をスキャナーにより取り込み、画像処理解析装置「LUZEX(登録商標) AP」((株)ニレコ製)ソフトウェアバージョン Ver.1.32を用いて、写真画像上の無機微粒子または有機微粒子について2値化処理し、任意の100個についての水平方向フェレ径を算出、その平均値を数平均一次粒子径とする。ここで水平方向フェレ径とは、外添剤の画像を2値化処理したときの外接長方形のx軸に平行な辺の長さをいう。凝集体としてトナー表面に存在する場合は、該凝集体を形成する一次粒子の数平均一次粒子径を測定するものとする。なお、以下の各種粒子等の数平均一次粒子径は、上記と同様にして求めることができる。
【0148】
滑材は、クリーニング性や転写性をさらに向上させる目的で使用されるものであって、滑材としては、例えば、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウムなどの塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、リノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩などの高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。これらの外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
【0149】
外添剤の添加量は、トナー粒子全体に対して0.1〜10.0質量%であることが好ましい。
【0150】
外添剤の添加方法としては、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機などの公知の種々の混合装置を使用して添加する方法が挙げられる。
【0151】
(トナーの製造方法)
トナーを製造する方法としては、特に限定されず、混練粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法など公知の方法が挙げられる。本発明のトナーは、結着樹脂を含む樹脂微粒子分散液と、着色剤を含む着色剤粒子分散液とを水系媒体中にて凝集、融着させる工程を経ることにより得られるものであることが好ましい。これらの中でも、粒子径の均一性、形状の制御性、コア−シェル構造形成の容易性の観点からは、乳化会合法(乳化凝集法)を採用することが好ましい。以下、乳化会合法(乳化凝集法)によるトナーの製造方法について説明する。
【0152】
<乳化会合法(乳化凝集法)>
乳化会合法(乳化凝集法)は、界面活性剤や分散安定剤によって分散された(結着)樹脂の微粒子(以下、「樹脂微粒子」ともいう)の分散液を、着色剤の微粒子などのトナー粒子構成成分の分散液と混合し、凝集剤を添加することによって所望のトナーの粒子径となるまで凝集(会合)させ、その後または凝集(会合)と同時に、樹脂微粒子間の融着を行い、形状制御を行うことにより、トナー粒子を形成する方法である。
【0153】
ここで、樹脂微粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とする複数層で形成された複合粒子とすることもできる。
【0154】
樹脂微粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、転相乳化法などにより製造、またはいくつかの製法を組み合わせて製造することができる。
【0155】
トナー粒子中に内添剤を含有させる場合は、樹脂微粒子を内添剤を含有したものとしてもよく、また、別途内添剤のみよりなる内添剤微粒子の分散液を調製し、当該内添剤微粒子を、樹脂微粒子を凝集させる際に、共に凝集させてもよい。樹脂微粒子に内添剤を含有させる場合には、中でもミニエマルション重合法を用いることが好ましい。
【0156】
また、乳化会合法(乳化凝集法)によってはコア−シェル構造を有するトナー粒子を得ることもでき、具体的にコア−シェル構造を有するトナー粒子は、先ず、コア粒子用の結着樹脂微粒子と着色剤とを凝集(融着)させてコア粒子を作製し、次いで、コア粒子の分散液中にシェル層用の結着樹脂微粒子を添加して、コア粒子表面にシェル層用の結着樹脂微粒子を凝集、融着させてコア粒子表面を被覆するシェル層を形成することにより得ることができる。
【0157】
乳化会合法(乳化凝集法)によりトナーを製造する場合、好ましい実施形態によるトナーの製造方法は、樹脂微粒子分散液、ならびに着色剤分散液を調製する工程(以下、調製工程とも称する)(a)と、樹脂微粒子分散液および着色剤分散液を混合して凝集・融着させる工程(以下、凝集・融着工程とも称する)(b)と、を含む。
【0158】
以下、各工程について詳述する。
【0159】
(a)調製工程
工程(a)は、好ましくは、樹脂微粒子分散液調製工程(結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液調製工程、非晶性樹脂微粒子分散液調製工程)および着色剤分散液調製工程を含む。なお、樹脂微粒子分散液調製工程において、樹脂微粒子に離型剤を含有させてもよく、離型剤を含む離型剤微粒子分散液を別に調製して、凝集・融着工程において添加してもよい。
【0160】
(a1)結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液調製工程
結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液調製工程は、トナー粒子を構成する結晶性ポリエステル樹脂を合成し、この結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散させて結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液を調製する工程である。
【0161】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液は、例えば溶剤を用いることなく、水系媒体中において分散処理を行う方法、あるいは結晶性ポリエステル樹脂を酢酸エチルなどの溶剤に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶剤処理を行う方法などが挙げられる。
【0162】
結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、当該結晶性ポリエステル樹脂を有機溶媒(溶剤)中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒子径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0163】
上記水系媒体とは、少なくとも水が50質量%以上含有されたものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶剤であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶剤を使用することが好ましい。好ましくは、水系媒体として水のみを使用する。
【0164】
油相液の調製に使用される有機溶媒(溶剤)としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0165】
有機溶媒(溶剤)の使用量(2種類以上使用する場合はその合計使用量)は、樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部、より好ましくは10〜200質量部、さらに好ましくは25〜100質量部である。かような範囲であると、粒度分布が均一な樹脂微粒子の分散液を得ることができる点で好ましい。
【0166】
さらに、油相液中には、カルボキシル基をイオン乖離させて、水相に安定に乳化させて乳化を円滑に進めるためにアンモニア、水酸化ナトリウムなどを添加してもよい。
【0167】
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましく、100〜1,000質量部であることがより好ましい。水系媒体の使用量を上記の範囲とすることで、水系媒体中において油相液を所望の粒子径に乳化分散させることができる。
【0168】
水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
【0169】
分散安定剤としては、例えば、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、コロイダルシリカ、ヒドロキシアパタイトなどの無機化合物を挙げることができるが、得られるトナー粒子中から分散安定剤を除去する必要があることから、リン酸三カルシウムなどのように酸やアルカリに可溶性のものを使用することが好ましく、または環境面の視点からは、酵素により分解可能なものを使用することが好ましい。
【0170】
界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステル、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリンなどのアミン塩型や、アルキルトリメチルアンモニム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウムなどの4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤、脂肪酸アミド誘導体、多価アルコール誘導体などの非イオン界面活性剤、アラニン、ドデシルジ(アミノエチル)グリシン、ジ(オクチルアミノエチル)グリシンやN−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウムベタインなどの両性界面活性剤などが挙げられ、また、フルオロアルキル基を有するアニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤も使用することができる。
【0171】
また、分散安定性の向上のための樹脂微粒子としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリスチレン−アクリロニトリル樹脂微粒子などが挙げられる。
【0172】
このような油相液の乳化分散(上記分散処理)は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、乳化分散を行うための分散機としては、特に限定されるものではなく、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波ホモジナイザーなどの超音波分散機、高圧衝撃式分散機アルティマイザーなどが挙げられる。
【0173】
分散の際には、溶液を加熱することが好ましい。加熱条件は特に限定されるものではないが、通常50〜90℃程度である。
【0174】
油滴の形成後における有機溶媒の除去は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子が水系媒体中に分散された状態の分散液全体を、徐々に撹拌状態で昇温し、一定の温度域において強い撹拌を与えた後、脱溶媒を行うなどの操作により行うことができる。あるいは、エバポレータ等の装置を用いて減圧しながら除去することができる。
【0175】
このように準備された結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液における結晶性ポリエステル樹脂微粒子(油滴)の粒子径は、体積平均粒子径で、60〜1000nmとされることが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmである。かような範囲であると、安定したトナー製造の点で好ましい。なお、当該樹脂微粒子(油滴)(樹脂粒子)の体積平均粒子径は、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック粒度分布測定装置「UPA−150」(日機装社製)等)で測定することができる。なお、この微粒子(油滴)の体積平均粒子径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさによりコントロールすることができる。
【0176】
また、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液における結晶性ポリエステル樹脂微粒子の含有量(固形分濃度)は、分散液100質量%に対して10〜50質量%の範囲とすることが望ましく、より望ましくは15〜40質量%の範囲である。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
【0177】
(a2)非晶性樹脂微粒子分散液調製工程
非晶性樹脂微粒子分散液調製工程は、トナー粒子を構成する非晶性樹脂を合成し、この非晶性樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散させて非晶性樹脂微粒子の分散液を調製する工程である。
【0178】
非晶性樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、非晶性樹脂を得るための単量体から非晶性樹脂微粒子を形成し、当該非晶性樹脂微粒子の水系分散液を調製する方法(I)や、非晶性樹脂を有機溶媒(溶剤)中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒子径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒(溶剤)を除去する方法(II)が挙げられる。
【0179】
方法(I)では、まず、非晶性樹脂を得るための単量体を重合開始剤と共に水系媒体中に添加して重合し、基礎粒子を得る。次に、当該樹脂微粒子が分散している分散液中に、非晶性樹脂を得るためのラジカル重合性単量体および重合開始剤を添加し、上記基礎粒子にラジカル重合性単量体をシード重合する手法を用いることが好ましい。
【0180】
このとき、重合開始剤としては、水溶性重合開始剤を用いることができる。水溶性重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性ラジカル重合開始剤を好適に用いることができる。
【0181】
また、非晶性樹脂微粒子を得るためのシード重合反応系には、非晶性樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン;n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート、ステアリル-3-
メルカプトプロピオネートなどのメルカプトプロピオン酸;およびスチレンダイマーなどを用いることができる。これらは一種単独であるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
【0182】
方法(II)において、油相液の調製に使用される有機溶媒(溶剤)としては、上記と同様に、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは一種単独であるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
【0183】
有機溶媒(溶剤)の使用量(二種類以上使用する場合はその合計使用量)は、非晶性樹脂100質量部に対して、通常10〜500質量部、好ましくは100〜450質量部、さらに好ましくは200〜400質量部である。
【0184】
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましく、100〜1,000質量部であることがより好ましい。水系媒体の使用量を上記の範囲とすることで、水系媒体中において油相液を所望の粒子径に乳化分散させることができる。
【0185】
また、上記と同様に、水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
【0186】
このような油相液の乳化分散は、上記と同様に、機械的エネルギーを利用して行うことができ、乳化分散を行うための分散機としては、特に限定されるものではなく、上記(a1)において説明したものを用いることができる。
【0187】
油滴の形成後における有機溶媒の除去は、非晶性樹脂微粒子が水系媒体中に分散された状態の分散液全体を、徐々に撹拌状態で昇温し、一定の温度域において強い撹拌を与えた後、脱溶媒を行うなどの操作により行うことができる。あるいは、エバポレータ等の装置を用いて減圧しながら除去することができる。
【0188】
上記方法(I)または(II)によって準備された非晶性樹脂微粒子分散液における非晶性樹脂微粒子(油滴)の粒子径は、体積基準のメジアン径で、60〜1000nmとされることが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmである。なお、この体積平均粒子径は、実施例に記載の方法で測定する。なお、この油滴の体積平均粒子径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさによりコントロールすることができる。
【0189】
また、非晶性樹脂微粒子分散液における非晶性樹脂微粒子の含有量は、5〜50質量%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%の範囲である。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
【0190】
(a3)着色剤分散液調製工程
この着色剤分散液調製工程は、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤粒子の分散液を調製する工程である。
【0191】
当該水系媒体は上記(a1)で説明した通りであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、上記(a1)で示した界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
【0192】
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、上記で挙げたように、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波ホモジナイザーなどの超音波分散機、または高圧衝撃式分散機アルティマイザーなどが挙げられる。
【0193】
また、着色剤分散液における着色剤の含有量は、10〜50質量%の範囲とすることが好ましく、15〜40質量%の範囲とすることがより好ましい。このような範囲であると、色再現性確保の効果がある。
【0194】
(a4)離型剤微粒子分散液調製工程
この離型剤微粒子分散液調製工程は、離型剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて離型剤微粒子の分散液を調製する工程である。
【0195】
当該水系媒体は上記(a1)で説明した通りであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、上記(a1)で示した界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
【0196】
離型剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、上記で挙げたように、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波ホモジナイザーなどの超音波分散機、高圧衝撃式分散機アルティマイザー、または高圧ホモジナイザーなどが挙げられる。離型剤微粒子を分散させるにあたり、必要に応じて加熱を行ってもよい。
【0197】
(b)凝集・融着工程
この凝集・融着工程は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液、非晶性樹脂微粒子分散液、および着色剤粒子分散液、また必要に応じて、離型剤微粒子分散液、などの他の成分を添加、混合し、pH調整による微粒子表面の反発力と電解質体よりなる凝集剤の添加による凝集力とのバランスを取りながら緩慢に凝集させ、平均粒子径および粒度分布を制御しながら会合を行うと同時に、加熱撹拌することで微粒子間の融着を行って形状制御を行うことにより、トナー粒子を形成する工程である。この凝集・融着工程も必要に応じ機械的エネルギーや加熱手段を利用して行うことができる。
【0198】
凝集工程においては、まず得られた各分散液および界面活性剤を混合して混合液とし、非晶性樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱して凝集させ、凝集粒子を形成する。凝集粒子の形成は、攪拌下、混合液のpHを、8〜12の範囲に調整することが好ましく、9〜11の範囲にすることがより好ましい。このような範囲であると、粒度分布がシャープな凝集が可能となる点で好ましい。pHを調整するためには、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、重炭酸塩、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどを用いることができる。この際、凝集剤を使用することも有効である。
【0199】
この凝集・融着工程においては、水系媒体中に界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤を添加することで凝集系における各微粒子を安定に分散させることができる。また、界面活性剤の添加量でアスペクト比の分布を制御することができる。界面活性剤としては、上記結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液調製工程/非晶性樹脂微粒子分散液調製工程等で用いられる界面活性剤と同様の界面活性剤が用いられうるが、アニオン系界面活性剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステル、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ノニルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどのアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどが特に好ましく用いられうる。上記の界面活性剤を用いることでトナーの粒度分布およびアスペクト比分布を容易に制御できる。
【0200】
凝集・融着工程において、上記混合液中に添加される界面活性剤の添加量は特に制限されないが、上記混合液に含まれる樹脂微粒子(結晶性ポリエステル樹脂微粒子および非晶性樹脂微粒子)における結着樹脂の全量100質量%に対して0.2〜1.8質量%(固形分換算)であることが好ましく、0.5〜1.5質量%(固形分換算)であることがより好ましい。界面活性剤の添加量が混合液中に含まれる結着樹脂100質量%に対して0.2質量%以上であれば、得られるトナー粒子の、上記式(1)における大粒子径側の平均アスペクト比AR(H)と小粒子径側の平均アスペクト比AR(L)との差が小さくなり、上記式(1)における平均アスペクト比の差AR(L)−AR(H)が0.20以下になるトナーが容易に得られうる。また、界面活性剤の添加量が混合液中に含まれる結着樹脂100質量%に対して1.8質量%以下であれば、上記式(1)における平均アスペクト比の差AR(L)−AR(H)が0.110以上になるトナーが容易に得られうる。
【0201】
用いられる凝集剤は、無機金属塩の他、2価以上の金属を含む錯体を好適に用いることができる。
【0202】
無機金属塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン、硝酸カルシウムなどの金属塩、およびポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム、ポリシリカ鉄、多硫化カルシウム等の無機金属塩重合体などが挙げられる。よりシャープな粒度分布を得るためには、無機金属塩の価数が1価より2価、2価より3価、3価より4価の方がより適している。
【0203】
凝集工程においては、凝集剤を添加した後に放置する放置時間(加熱を開始するまでの時間)をできるだけ短くすることが好ましい。このように、凝集剤を添加した後に、凝集用分散液の加熱をできるだけ速やかに開始し、結晶性ポリエステル樹脂および非晶性樹脂のガラス転移温度以上とすることが好ましい。この理由は明確ではないが、放置時間の経過によって粒子の凝集状態が変動して、得られるトナー粒子の粒子径分布が不安定になったり、表面性が変動したりする問題が発生する虞があるからである。放置時間は、通常30分以内とされ、好ましくは10分以内である。凝集剤を添加する温度は特に限定されないが、結着樹脂である結晶性ポリエステル樹脂および非晶性樹脂のガラス転移温度以下であることが好ましい。
【0204】
凝集の際には、凝集剤を添加した後、加熱、昇温させることが好ましい。この際、加熱、昇温によって、融着温度以上になった場合には、融着工程も同時に進行することとなる。昇温速度としては0.1〜5℃/分の範囲で行うことが好ましい。このような範囲であると、粒度分布がシャープな凝集が可能となる点で好ましい。また、加熱温度(ピーク温度)は非晶性樹脂のガラス転移温度以上の温度であることが好ましく、40〜100℃の範囲で行うことが好ましい。このような範囲であると、粒度分布がシャープな凝集が可能となる点で好ましい。
【0205】
さらに、凝集用分散液(混合液)が加熱温度に到達した後、好ましくは1〜90分間、より好ましくは10〜60分間、上記加熱温度で放置する。1分間以上放置することで、粒度分布がシャープな凝集が可能となる点で好ましい。また、放置時間を90分以下とすることで粒径に依存したアスペクト比の分布を所望の範囲にすることができる。
【0206】
その後、当該凝集用分散液(混合液)の温度を一定時間、好ましくは体積基準のメジアン径が4.5〜7.0μmになるまで保持することにより、融着を継続させることが好ましい。
【0207】
これにより、粒子の凝集を効果的に進行させる(と同時に融着(粒子間の界面の消失)させる)ことができ、最終的に得られるトナー粒子の耐久性を向上することができる。
【0208】
なお、コア−シェル構造の結着樹脂を得る場合には、コア粒子を有する分散液に、上記凝集・融着工程での温度を維持した状態で、シェル部を形成する樹脂(好ましくは上記の非晶性樹脂)の水系分散液をさらに添加し、上記で得られた単層構造の結着樹脂の粒子(コア粒子)の表面にシェル部を形成する樹脂を凝集、融着させる。これにより、コア−シェル構造を有する結着樹脂が得られる(シェル化工程)。
【0209】
凝集粒子が所望の粒子径になったところで、非晶性樹脂微粒子を追添加することで、コア凝集粒子の表面を非晶性樹脂で被覆した構成のトナー(コア−シェル粒子)を作製することができる。追添加する場合、追添加前に凝集剤を添加したり、pH調整を行ってもよい。なお、コア−シェル粒子を形成しない場合には、当該操作を行う前の凝集粒子が所望の粒子径になったところで、以下の凝集停止工程を行えばよい。
【0210】
凝集粒子が、例えば、コールターカウンター等で測定を行い、所望の平均粒子径になったところで、例えば塩化ナトリウムなどの停止剤を添加して粒子成長を停止させる(凝集停止工程とも称する)。その後も必要に応じて凝集粒子を含む液を継続して加熱撹拌する。
【0211】
融着工程は、上記凝集停止工程を経た後または、上記凝集工程と同時に、反応系を所期の融着温度に加温することにより、凝集粒子を構成する各微粒子を融着させて凝集粒子を融合して、融合粒子を形成させる工程である。
【0212】
この融着工程における融着温度は、結晶性ポリエステル樹脂の融点以上であることが好ましく、融着温度は、結晶性ポリエステル樹脂の融点より0〜20℃高い温度であることが好ましい。加熱の時間としては、融着がされる程度に行えばよく、0.5〜10時間程度行えばよい。
【0213】
上記(凝集)融合後に上記トナー粒子の分散液を冷却し、融合粒子を得ることができるが、乳化会合法(乳化凝集法)によりトナーを得る場合、上記凝集・融着工程の後、冷却する前に、後述の円形度制御工程(c)をさらに有することが好ましい。
【0214】
冷却速度は好ましくは0.2〜20℃/分、より好ましくは2〜20℃/分である。このような範囲であると、冷却後のトナー表面が滑らかである点で好ましい。冷却方法としては特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法を例示することができる。
【0215】
(c)円形度制御工程
円形度制御処理としては、具体的には、凝集・融着工程で得られた粒子を加熱する加熱処理が挙げられる。加熱温度および保持時間により円形度を制御することができる。加熱温度を高くする、または保持時間を長くすることにより、円形度を1に近づけることができる。
【0216】
円形度制御処理における加熱温度としては、70〜95℃であることが好ましい。円形度の制御は、加温中に円形度測定装置にて2μm以上の粒子径の粒子の円形度を測定し、所望の円形度であるかどうかを適宜判断することによって制御が可能である。
【0217】
さらに、乳化会合法(乳化凝集法)におけるトナーの製造方法においては、(d)濾過・洗浄工程、(e)乾燥工程、(f)外添剤添加工程を含んでいてもよい。
【0218】
(d)濾過・洗浄工程
この濾過・洗浄工程では、得られたトナー粒子の分散液を冷却して冷却後のスラリーとし、この冷却されたトナー粒子の分散液から、水等の溶媒を用いて、トナー粒子を固液分離してトナー粒子を濾別する濾過処理と、濾別されたトナー粒子(ケーキ状の集合物)から界面活性剤などの付着物を除去する洗浄処理とが施される。具体的な固液分離および洗浄の方法としては、遠心分離法、アスピレータ、ヌッチェなどを使用する減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用する濾過法などが挙げられ、これらは特に限定されるものではない。この濾過・洗浄工程においては適宜、pH調整や粉砕などを行ってもよい。このような操作は繰り返し行ってもよい。
【0219】
(e)乾燥工程
この乾燥工程では、洗浄処理されたトナー粒子に乾燥処理が施される。この乾燥工程で使用される乾燥機としては、オーブン、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、攪拌式乾燥機などが挙げられ、これらは特に限定されるものではない。なお、乾燥処理されたトナー粒子中のカールフィッシャー電量滴定法にて測定される水分量は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0220】
また、乾燥処理されたトナー粒子同士が、弱い粒子間引力で凝集して凝集体を形成している場合には、当該凝集体を解砕処理してもよい。ここに、解砕処理装置としては、ジェットミル、コーミル、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサーなどの機械式の解砕装置を使用することができる。
【0221】
(f)外添剤添加工程
この外添剤添加工程は、乾燥処理されたトナー粒子に、流動性、帯電性の改良およびクリーニング性の向上などの目的で、荷電制御剤や種々の無機微粒子、有機微粒子、または滑剤などの外添剤を添加する工程であって、必要に応じて行われる。外添剤を添加するために使用される装置としては、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機、サンプルミルなどの種々の公知の混合装置を挙げることができる。また、トナーの粒度分布を適当な範囲とするため、必要に応じ篩分級を行ってもよい。
【0222】
(現像剤)
以上のようなトナーは、例えば磁性体を含有させて一成分磁性トナーとして使用する場合、いわゆるキャリアと混合して二成分現像剤として使用する場合、非磁性トナーを単独で使用する場合などが考えられ、いずれも好適に使用することができる。
【0223】
二成分現像剤を構成するキャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子を用いることが好ましい。
【0224】
キャリアとしては、さらに樹脂により被覆されているもの、または樹脂中に磁性粒子を分散させたいわゆる樹脂分散型キャリアを用いることが好ましい。被覆用の樹脂組成としては、特に限定はないが、例えば、オレフィン樹脂、シクロヘキシルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂あるいはフッ素樹脂などが用いられる。また、樹脂分散型キャリアを構成するための樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂など使用することができる。
【0225】
キャリアとしては、その体積平均粒子径としては15〜100μmのものが好ましく、25〜80μmのものがより好ましい。
【0226】
(画像形成方法)
本発明のトナーは、一般的な電子写真方式の画像形成方法に用いることができ、このような画像形成方法が行われる画像形成装置としては、例えば静電潜像担持体である感光体と、トナーと同極性のコロナ放電によって当該感光体の表面に一様な電位を与える帯電手段と、一様に帯電された感光体の表面上に画像データに基づいて像露光を行うことにより静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを感光体の表面に搬送して前記静電潜像を顕像化してトナー像を形成する現像手段と、当該トナー像を必要に応じて中間転写体を介して転写材に転写する転写手段と、転写材上のトナー像を定着させる定着手段を有するものを用いることができる。このような構成を有する画像形成装置の中でも、複数の感光体に係る画像形成ユニットが中間転写体に沿って設けられた構成のカラー画像形成装置、特に、感光体が中間転写体上に直列配置させたタンデム型カラー画像形成装置に好適に用いることができる。
【0227】
また、本発明のトナーは、定着温度(定着部材の表面温度)が100〜200℃とされる比較的低温のものにおいて好適に用いることができる。
【0228】
さらに、本発明のトナーは、静電潜像担持体の線速が100〜500mm/secとされる高速機に好適に用いることができる。
【実施例】
【0229】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではない。実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「質量部」あるいは「質量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行われる。
【0230】
実施例1:トナー1の調製
(結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の調製)
1,10−デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)315質量部、および1,9−ノナンジオール252質量部を、撹拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた反応容器に入れ、反応容器中を乾燥窒素ガスで置換した後、チタンテトラブトキサイド0.1質量部を添加し、窒素ガス気流下において180℃で撹拌しながら8時間重合反応を行った。さらにチタンテトラブトキサイド0.2質量部を添加し、温度を220℃に上げて撹拌しながら6時間重合反応を行った後、反応容器内を10mmHgまで減圧し、減圧下で反応を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂〔1〕を得た。ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の重量平均分子量(Mw)は14,000であった。
【0231】
また、結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の融点(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)により2回目の昇温過程時のDSC曲線における吸熱ピーク温度を融点とした。結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の融点は(Tm)は72℃であった。
【0232】
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液の調製)
結晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部を70℃に加温した酢酸エチル200質量部に溶解した後、イオン交換水800質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1質量%になるよう溶解させた水溶液と混合し、超音波ホモジナイザーを用い分散を行った。この溶液を減圧下、酢酸エチルを除去した後、固形分濃度を20質量%に調整した。また、アンモニアでpH=8.5とした。これにより、水系媒体中に結晶性ポリエステル樹脂〔1〕微粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂の水系分散液を調製した。結晶性ポリエステル樹脂〔1〕微粒子の平均粒子径は210nmであった。
【0233】
(非晶性樹脂微粒子の水系分散液(X1)の調製)
≪第1段重合≫
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの攪拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させたものを添加し、再度液温80℃とし、
スチレン 480質量部
n−ブチルアクリレート 250質量部
メタクリル酸 68.0質量部
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液(x1)を調製した。
【0234】
≪第2段重合≫
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱後、樹脂微粒子の分散液(x1)260質量部と、
スチレン(St) 295質量部
n−ブチルアクリレート(BA) 96質量部
メタクリル酸(MAA) 20質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 1.5質量部
離型剤:ベヘン酸ベヘニル(融点73℃) 190質量部
からなる単量体および離型剤を90℃にて溶解させた溶液を添加し、循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック社製)により、1時間混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。
【0235】
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液(x2)を調製した。
【0236】
≪第3段重合≫
さらに、上記で調製した樹脂微粒子の分散液(x2)にイオン交換水400質量部を添加し、よく混合したのち、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加し、82℃の温度条件下で、
スチレン(St) 450質量部
n−ブチルアクリレート(BA) 160質量部
メタクリル酸(MAA) 40質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8質量部
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、ビニル樹脂からなる非晶性樹脂微粒子の水系分散液(X1)を調製した。
【0237】
得られた非晶性樹脂微粒子の水系分散液(X1)について、非晶性樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は220nmであり、示差走査熱量測定装置(DSC)により測定したガラス転移温度(Tg)は55℃であり、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)は32,000であった。
【0238】
(シェル用非晶性樹脂微粒子の水系分散液(S1)の調製)
両反応性モノマーを含む、下記の付加重合系樹脂(スチレン−アクリル系樹脂:StAc)ユニットの原料モノマーおよびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
【0239】
スチレン 80質量部
n−ブチルアクリレート 20質量部
アクリル酸 10質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 16質量部。
【0240】
また、下記の重縮合系樹脂(非晶性ポリエステル樹脂)ユニットの原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、攪拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
【0241】
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 285.7質量部
テレフタル酸 66.9質量部
フマル酸 47.4質量部。
【0242】
次いで、撹拌下で付加重合系樹脂の原料モノマーを90分かけて滴下し、60分間熟成を行ったのち、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合モノマーを除去した。
【0243】
その後、エステル化触媒としてTi(OBu)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温し、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
【0244】
次に200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて所望の軟化点に達するまで反応を行った。次いで脱溶剤を行い、非晶性樹脂としてのシェル用樹脂(s1)を得た。得られたシェル用樹脂(s1)について、ガラス転移温度(Tg)は60℃であり、重量平均分子量(Mw)は30,000であった。
【0245】
得られたシェル用樹脂(s1)100質量部を、400質量部の酢酸エチル(関東化学社製)に溶解し、予め作製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(日本精機製作所製)でV−LEVEL 300μAで30分間超音波分散後した後、40℃に加温した状態でダイヤフラム真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が13.5質量%のシェル用非晶性樹脂微粒子の水系分散液(S1)を調製した。このとき、得られたシェル用非晶性樹脂微粒子の水系分散液(S1)に含まれる粒子は、体積基準のメジアン径が160nmであった。
【0246】
(着色剤粒子の水系分散液の調製)
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した。この溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子の水系分散液を調製した。得られた着色剤粒子の水系分散液における着色剤粒子の体積基準のメジアン径は110nmであった。
【0247】
(凝集・融着工程)
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、非晶性樹脂微粒子の水系分散液(X1)288質量部(固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液40質量部(固形分換算)、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを樹脂比で1質量%(固形分換算)、イオン交換水2000質量部を投入した後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
【0248】
その後、着色剤粒子の水系分散液30質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて80℃まで昇温し、80℃に到達後、30分間放置した後に、粒子径の成長速度を0.01μm/分になるように撹拌速度を調整しながら、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)にて会合粒子の粒子径を測定し、体積基準の粒子径(メジアン径)が6.0μmになるまで成長させた。
【0249】
その後、シェル用非晶性樹脂微粒子の水系分散液(S1)72質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。さらに、昇温を行い、90℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、トナーの平均円形度の測定装置「FPIA−3000」(シスメックス株式会社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.970になった時点で2.5℃/分の冷却速度で30℃に冷却した。
【0250】
次いで、固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄したのち、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー粒子を得た。
【0251】
なお、上記平均円形度は、「FPIA−3000」(シスメックス株式会社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出した値である。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
【0252】
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
ここで、本実施例における平均円形度は、洗浄工程前のトナー水分散液を測定しているが、外添剤添加後のトナーを測定しても同様の値が得られることを確認した。
【0253】
(外添剤の添加)
得られたトナー粒子100質量部に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機株式会社製)により回転翼周速35mm/sec、32℃で20分間混合した後、45μmの目開きの篩を用いて粗大粒子を除去する外添剤処理を施すことにより、トナー1を得た。
【0254】
実施例2:トナー2の調製
トナー1の製造において、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの投入量を1.5質量%としたこと以外は、トナー1と同様にしてトナー2を得た。
【0255】
実施例3:トナー3の調製
トナー1の製造において、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの投入量を0.5質量%としたこと以外は、トナー1と同様にしてトナー3を得た。
【0256】
実施例4:トナー4の調製
トナー1の製造において、80℃に到達後の放置時間を、15分間にしたこと以外は、トナー1と同様にしてトナー4を得た。
【0257】
実施例5:トナー5の調製
トナー1の製造において、80℃に到達後の放置時間を、45分間にしたこと以外は、トナー1と同様にしてトナー5を得た。
【0258】
実施例6:トナー6の調製
トナー1の製造において、非晶性樹脂微粒子の水系分散液328質量部(固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液0質量部(固形分換算)にしたこと以外はトナー1と同様にしてトナー6を得た。
【0259】
実施例7:トナー7の調製
トナー1の製造において、成長停止粒子径を、体積基準のメジアン径が5.0μmとしたこと以外はトナー1と同様にしてトナー7を得た。
【0260】
実施例8:トナー8の調製
トナー1の製造において、成長停止粒子径を、体積基準のメジアン径が7.0μmにしたこと以外はトナー1と同様にしてトナー8を得た。
【0261】
実施例9:トナー9の調製
トナー1の製造において、80℃に到達後の放置時間を、60分間にしたこと以外はトナー1と同様にしてトナー9を得た。
【0262】
実施例10:トナー10の調製
トナー1の製造において、外添剤として、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm)1.0質量部、ゾルゲルシリカ(数平均一次粒子径=110nm)1.0質量部にしたこと以外はトナー1と同様にしてトナー10を得た。
【0263】
比較例1:トナー11の調製
トナー1の製造において、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの投入量を2.0質量%としたこと以外は、トナー1と同様にしてトナー11を得た。
【0264】
比較例2:トナー12の調製
トナー1の製造において、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの投入量を0質量%としたこと以外は、トナー1と同様にしてトナー12を得た。
【0265】
比較例3:トナー13の調製
トナー1の製造において、80℃に到達後の放置時間をなくしたこと以外は、トナー1と同様にしてトナー13を得た。
【0266】
(現像剤の作製)
得られたトナー1〜13に対して、それぞれ、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒子径60μmのフェライトキャリアを、上記で得られたトナー1〜13の濃度が6質量%となるように添加して混合することにより、現像剤1〜13を製造した。
【0267】
〔結晶性ポリエステル樹脂の融点および非晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)〕
結晶性ポリエステル樹脂の融点(吸熱ピーク温度)および非晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ASTM D3418に準拠して、示差走査熱量計(株式会社島津製作所製:DSC−60A)を用いて得た。この装置(DSC−60A)の検出部の温度補正はインジウムと亜鉛との融点を用い、熱量の補正にはインジウムの融解熱を用いた。サンプルは、アルミニウム製パンを用い、対照用に空パンをセットし、昇温速度10℃/分で昇温し、200℃で5分間ホールドし、200℃から0℃まで液体窒素を用いて−10℃/分の速度で降温し、0℃で5分間ホールドし、再度0℃から200℃まで10℃/分で昇温を行った。2度目の昇温時の吸熱曲線から解析をおこない、非晶性樹脂についてはオンセット温度をTgとし、結晶性ポリエステル樹脂については極大ピークより吸熱ピーク温度とした。
【0268】
〔樹脂微粒子、着色剤粒子、離型剤等の平均粒子径〕
樹脂微粒子、着色剤粒子、離型剤等の平均粒子径は、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック粒度分布測定装置「UPA−150」(日機装株式会社製))で測定した。
【0269】
〔トナー粒子の体積平均粒子径、体積粒度分布の変動係数〕
上記実施例および比較例で得られたトナー1〜13について、トナー粒子の体積平均粒子径および体積粒度分布の変動係数は、精密粒度分布測定装置「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステム(ベックマン・コールター株式会社製)を接続した測定装置を用いて測定・算出した。
【0270】
具体的には、測定試料であるトナー0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナーの分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、十分に分散させ、トナー分散液を作製する。このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTON(登録商標)II」(ベックマン・コールター株式会社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を100μmにし、体積平均粒子径および体積粒度分布の変動係数を測定した。
【0271】
〔トナー粒子の平均アスペクト比〕
上記実施例および比較例で得られたトナー1〜13について、トナー粒子の平均アスペクト比はフロー式粒子像測定装置「FPIA−3000」(シスメックス株式会社製)を用いて測定した。具体的には、測定試料であるトナーを界面活性剤入り水溶液にてなじませ、十分に分散させた後、「FPIA−3000」(シスメックス株式会社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式に従ってアスペクト比を算出し、各トナー粒子のアスペクト比を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出した。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
アスペクト比=(最大長に平行な2本の直線で画像を挟んだとき2直線間を垂直に結ぶ直線の長さ)/(粒子画像の輪郭上の2点における最大の長さ(最大長))
〔トナー粒子の円相当平均粒子径〕
上記実施例および比較例で得られたトナー1〜13について、トナー粒子の円相当平均粒子径はフロー式粒子像測定装置「FPIA−3000」(シスメックス株式会社製)を用いて測定した値を用いた。具体的には、測定試料であるトナーを界面活性剤入り水溶液にてなじませ、十分に分散させた後、「FPIA−3000」(シスメックス株式会社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式に従って円相当の粒子径を算出し、各トナー粒子の円相当の粒子径を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出した。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
【0272】
円相当の粒子径=(粒子像の断面積/π)1/2×2
〔評価方法〕
粒状性〔GI値〕
市販のカラー複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社製)を用いて、低温低湿環境(温度10℃、湿度15%RH)で、A4版の上質紙(65g/m)上にテスト画像として印字率が5%の帯状ベタ画像を形成する印刷を10万枚行い、印刷初期と10万枚印刷後に階調率32段階の階調パターンを出力し、この階調パターンにCCDによる読み取り値にMTF(Modulation Transfer Function)補正を考慮したフーリエ変換処理を施し、人間の比視感度に合わせたGI値(Graininess Index)を測定し、最大のGI値を求め、印刷初期と10万枚印刷後のGI値の変動値Δについて下記の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0273】
評価基準
◎:印刷初期と10万枚印刷後で、GI値の変動値Δが0.02未満(合格)、
○:印刷初期と10万枚印刷後で、GI値の変動値Δが0.02以上0.04未満(合格)、
△:印刷初期と10万枚印刷後で、GI値の変動値Δが0.04以上0.06未満(合格)、
×:印刷初期と10万枚印刷後で、GI値の変動値Δが0.06以上(不合格)。
【0274】
実施例および比較例の構成および評価結果を下記表1に示す。なお、下記表1中、「Cpes」は結晶性ポリエステル樹脂を表す。
【0275】
【表1】
【0276】
上記表1に示す結果より、実施例1〜10のトナーを用いて形成された画像は、粒状性に優れ、連続使用後も画質の低下が生じにくいことがわかった。特に結晶性ポリエステル樹脂を含有するトナーを用いた実施例1〜5、7〜10では、連続使用後の画質の低下がより小さい。また、外添剤としてゾル・ゲル法で作製された所定の粒径のシリカ粒子を用いた実施例10のトナーでは、画質の低下がさらに改善された。
【0277】
一方、AR(L)−AR(H)の値が0.110よりも小さい比較例1のトナーや、0.250よりも大きい比較例2のトナーを用いて形成された画像は、長期間の連続印刷後の画質が低下した。また、トナーの体積粒度分布の変動係数が18%を超える比較例3のトナーでは、初期の画質が十分ではなく、連続印刷後の画質の低下も大きいことがわかった。