(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、光源において発生する光を変調する光変調器には、マッハツェンダ干渉計が用いられることがある。このような光変調器においては、平行な光導波路に沿って信号電極及び接地電極が設けられる。近年では、光変調方式が多様化しているため、光変調器は、複数のマッハツェンダ干渉計を備えることが多くなっている。この場合、複数のマッハツェンダ干渉計を1チップに集積することにより、光変調器のサイズを小さくすることが可能である。
【0003】
複数のマッハツェンダ干渉計を備える光変調器は、複数の異なる電気信号が入力されることで多値変調信号を生成することができる。すなわち、それぞれのマッハツェンダ干渉計に対応する信号電極に、異なる電気信号が外部から入力されることにより、例えばDQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying)方式などの多値変調方式による光変調が可能となる。
【0004】
光変調器への電気信号の入力部には、コネクタが設けられることがある。しかしながら、複数の電気信号それぞれに関してコネクタが設けられると、光変調器のサイズが大きくなり、実装面積が増大する。そこで、電気信号の入力部に可撓性を有するフレキシブルプリント回路板(FPC:Flexible Printed Circuits)を用いることにより、装置の小型化が図られることがある。
【0005】
具体的には、FPCには、光変調器の複数の信号電極に対応する複数の配線パターンがプリントされており、ドライバから出力される電気信号が、FPCにプリントされた配線パターンを介して光変調器へ入力される。FPCのドライバ側の端部には、幅広の電極であるパッドが形成されており、ドライバから出力される電気信号を伝送する基板上の電極とパッドとがはんだ付けされることにより、FPCとドライバが電気的に接続される。一方、FPCの光変調器側の端部においては、例えば光変調器から延出するリードピンがFPCにプリントされた配線パターンにはんだ付けされることにより、FPCと光変調器が電気的に接続される。
【0006】
ところで、FPCにプリントされる配線パターンとしては、例えば数10GHz(ギガヘルツ)以上の高周波の電気信号を伝送するために、マイクロストリップラインが用いられることがある。したがって、FPCのドライバ側の端部においては、幅広のパッドとパッドよりも幅が狭いマイクロストリップラインとが接続される。そして、マイクロストリップラインを覆って保護するために、FPCの表面にカバーレイが設けられることがある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願が開示する光モジュール及び光送受信装置の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0016】
図1は、一実施の形態に係る光モジュールの構成を示す平面模式図である。
図1に示す光モジュールは、プリント回路板(PCB:Printed Circuits Board)110、光変調器120、FPC130及びドライバ140を有する。
【0017】
PCB110は、例えばガラスエポキシ基板などであり、光モジュールを構成する各種の部品を搭載する基板となる部品である。PCB110の表面には、各種の部品を電気的に接続するための電極がプリント可能になっている。
【0018】
光変調器120は、図示しない光源において発生する光を変調して出力する。このとき、光変調器120は、ドライバ140から出力される電気信号に基づいて光変調を行う。具体的には、光変調器120は、変調器チップ121及び中継基板122を有する。
【0019】
変調器チップ121は、平行な光導波路と信号電極及び接地電極とから構成され、光源からの光を光導波路によって伝搬しつつ、信号電極に供給される電気信号に基づく光変調を行う。具体的には、光導波路は、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO
3(LN))やタンタル酸リチウム(LiTaO
2)などの電気光学結晶を用いた結晶基板上の一部に、チタン(Ti)などの金属膜を形成し熱拡散することによって形成される。また、光導波路は、パターニング後に安息香酸中でプロトン交換することによって形成されても良い。一方、信号電極及び接地電極は、平行な光導波路に沿って形成されるコプレーナ電極である。信号電極及び接地電極は、例えばそれぞれの光導波路の上にパターニングされる。そして、光導波路中を伝搬する光が信号電極及び接地電極によって吸収されるのを防ぐために、結晶基板と信号電極及び接地電極との間にバッファ層が設けられる。バッファ層としては、例えば厚さ0.2〜2μm程度の二酸化ケイ素(SiO
2)等を用いることができる。
【0020】
中継基板122は、ドライバ140から出力された電気信号を変調器チップ121へ中継し、変調器チップ121の信号電極へ入力する。
図1においては、中継基板122は、変調器チップ121に形成される4組の光導波路に対応する4本の配線パターンを有する。変調器チップ121に形成された複数の信号電極に電気信号を入力する場合、すべての電気信号の入力部が光変調器120の片側に並んでいれば、実装が容易となり、実装面積が小さくてすむ。そこで、本実施の形態においては、光変調器120に中継基板122を配置し、光変調器120の片側から入力される電気信号を中継基板122が変調器チップ121へ中継する構成としている。
【0021】
FPC130は、可撓性を有するフレキシブル基板であり、ドライバ140から出力される電気信号を光変調器120へ供給する。すなわち、FPC130の一端は、光変調器120の中継基板122と電気的に接続され、FPC130の他端は、PCB110上の電極を介してドライバ140と接続される。
図1に示すように、FPC130のPCB110との接続する端部には、信号用のパッドと接地用のパッドとが形成されており、それぞれの信号用のパッドを1対の接地用のパッドが挟む構成となっている。
【0022】
後述するように、それぞれのパッドは、スルーホールを介してFPC130の両面に形成されている。そして、FPC130のPCB110に対向する面(すなわち、
図1では奥側の面)に形成されたパッドがPCB110上の電極にはんだ付けされる。また、FPC130のPCB110に対向する面には、信号用のパッドと中継基板122の配線パターンとを接続するマイクロストリップラインが形成されている。一方、FPC130のPCB110から遠い側の面(すなわち、
図1では手前側の面)には、各接地用のパッドに共通して接続する平面状の接地パターンが形成されている。なお、以下の説明においては、FPC130のPCB110に対向する面を「信号面」といい、PCB110から遠い側の面を「接地面」という。すなわち、マイクロストリップラインが形成される面を信号面といい、接地パターンが形成される面を接地面という。
【0023】
ドライバ140は、光源からの光を変調するための高周波の電気信号を生成する。すなわち、ドライバ140は、送信データに応じた振幅・位相の電気信号を生成し、この電気信号によって光変調器120を駆動する。ドライバ140は、PCB110上の電極に接続されている。
【0024】
次に、
図2を参照して、FPC130とPCB110上の電極との接続について説明する。
図2は、一実施の形態に係る光モジュールの構成を示す側面模式図である。
【0025】
図2の上図に示すように、PCB110には光変調器120及びドライバ140が搭載されており、PCB110の表面にはドライバ140から延びる電極がプリントされている。そして、この電極にFPC130の一端がはんだ付けされ、FPC130の他端が光変調器120に接続されることにより、ドライバ140から出力される電気信号が光変調器120へ伝送可能になっている。
【0026】
PCB110の表面にプリントされた電極とFPC130の一端との接続部分Aを拡大して
図2の下図に示す。この接続部分Aにおいては、PCB110の表面にプリントされた電極201とFPC130の端部に形成されたパッド202とがはんだ204によってはんだ付けされている。パッド202は、FPC130の信号面及び接地面に配置された幅広の電極であり、信号面と接地面とをスルーホール203によって接続している。このため、電極201と信号面のパッド202とのはんだ付けに用いられるはんだ204が、スルーホール203を介して接地面にまで溢れ出している。
【0027】
図2の下図に示すパッド202は、接地用のパッドであるため、接地面においてはパッド202に接地パターンが接続されている。一方、信号面においては、パッド202には他の電極が接続されておらず、FPC130の信号面を覆うカバーレイ205に隣接している。
【0028】
図3は、一実施の形態に係るカバーレイ205の形状を説明する図である。
図3においては、PCB110の表面310、FPC130の接地面320及びFPC130の信号面330における電極の配置が示されている。すなわち、PCB110の表面310に配置された電極311、312と、FPC130の信号面330に配置されたパッド331、332とがはんだ付けされる。なお、
図3において、「G」は接地用の電極又はパッドを示し、「S」は信号用の電極又はパッドを示している。カバーレイ205は、FPC130の信号面330のうちマイクロストリップライン333が配置された部分を覆っている。
【0029】
PCB110の表面310には、信号用の電極311がプリントされ、電極311を挟むように1対の接地用の電極312がプリントされている。接地用の電極312は、スルーホールを介して、PCB110の内部にある接地電極の層と接続されていても良い。
【0030】
FPC130の接地面320には、端部から中央に延伸する信号用のパッド321が配置され、パッド321を挟むように1対の接地用のパッド322が配置されている。接地用のパッド322もFPC130の接地面320の端部から中央に延伸し、その先端は、接地パターン323に接続する。
【0031】
FPC130の信号面330には、端部から中央に延伸する信号用のパッド331が配置され、パッド331を挟むように1対の接地用のパッド332が配置されている。信号用のパッド331の先端は、マイクロストリップライン333に接続する。また、信号用のパッド331のマイクロストリップライン333との接続部分331aはテーパ状になっており、マイクロストリップライン333に近づくにつれて先細りの形状となっている。
【0032】
カバーレイ205は、例えばポリイミド樹脂などを成形して製造された補強用の部材であり、FPC130の信号面330のマイクロストリップライン333が配置された範囲を覆っている。具体的には、カバーレイ205は、信号面330の光変調器120側(
図3では上方)の端部から接地用のパッド332の先端付近までを覆い、さらに信号用のパッド331近傍では、接続部分331aを覆うように突出部205aを有する。すなわち、突出部205aは、接地用のパッド332の先端付近からFPC130のPCB110側の端部に向かって突出し、信号用のパッド331の一部である接続部分331aを覆っている。
【0033】
カバーレイ205がこのような形状をしているため、カバーレイ205の製造誤差が比較的大きい場合でも、マイクロストリップライン333と接続部分331aの先端の細い部分とは確実にカバーレイ205によって覆われる。このため、接続部分331a付近が補強され、マイクロストリップライン333が断線する可能性を低減することができる。
【0034】
また、上記のカバーレイ205の形状により、接地用のパッド332の全体をPCB110の表面310にプリントされた接地用の電極312にはんだ付けすることができる。このため、接地用のパッド332全体がPCB110に固定され、FPC130を折り曲げる場合でも接続部分331a付近はほとんど曲がらない。結果として、接続部分331a付近にかかる曲げ応力が小さく、この付近でのマイクロストリップライン333の断線を抑止することができる。さらに、接続部分331aがテーパ状になっているため、一点に応力が集中することがなく、マイクロストリップライン333が断線する可能性をより低減することができる。
【0035】
カバーレイ205に突出部205aが設けられるため、信号用のパッド331は、接続部分331aを除く部分でPCB110の表面310にプリントされた信号用の電極311にはんだ付けされる。したがって、突出部205aの先端の位置と信号用の電極311の先端の位置とは、ほぼ一致している。このとき、接続部分331aがはんだ付けされないため、この部分での特性インピーダンスが50Ωからずれてインピーダンスミスマッチが発生する可能性がある。
【0036】
そこで、
図4に示すように、接地パターン323の大きさを調整し、接続部分331aに接地電圧の電極を近づけることにより、インピーダンス整合をとるようにすれば良い。なお、
図4においては、
図3と同じ部分に同じ符号を付している。
【0037】
図4において、カバーレイ205の突出部205aを除く部分の先端の位置よりも、接地パターン323が信号用のパッド321へ向かって延びる量Lを調整することにより、接続部分331aと接地パターン323の電気結合の強度を調整することができる。これにより、接続部分331aにおける特性インピーダンスを50Ωに調整し、インピーダンス整合をとることができる。
【0038】
このように、カバーレイ205に突出部205aを設けることにより、信号用のパッド331の一部を覆う一方で、接地用のパッド332を覆わないようにし、接続部分331aを補強するとともに、はんだ付けの面積を十分に広くすることができる。このため、断線が発生しやすい接続部分331aを保護することができ、マイクロストリップライン333の断線を抑止することができる。さらに、接地パターン323の大きさを調整することにより、接続部分331aと接地パターン323の電気結合の強度を調整してインピーダンス整合をとることができる。換言すれば、インピーダンス整合を維持しつつ、フレキシブル基板の配線パターンを補強することができる。
【0039】
次に、FPC130の接地面320及び信号面330における各電極の形状の具体例について、
図5〜8を参照しながら説明する。
図5〜8において、
図3と同じ部分には同じ符号を付す。
【0040】
まず、
図5に示すように、接地用のパッド322、332の突出部205aに隣接する位置にスルーホール401を形成し、接続部分331a付近を補強しても良い。すなわち、内部に電極が貼付された貫通孔であるスルーホール401は、内部に電極が貼付された分だけ強度が高い。そこで、接続部分331aと隣接する位置にスルーホール401を設けることにより、接続部分331a付近が補強される。この結果、FPC130を折り曲げる際に、接続部分331a付近がより曲がりにくくなり、マイクロストリップライン333の断線の可能性を低減することができる。
【0041】
同様に考えて、
図6に示すように、接地用のパッド332を延長して延長部332aがカバーレイ205に覆われるようにし、カバーレイ205によって覆われた延長部332aにスルーホール501を形成しても良い。これにより、接続部分331aの先端の細い部分やこの部分に接続するマイクロストリップライン333の一端部付近が曲がりにくくなり、マイクロストリップライン333の断線の可能性をさらに低減することができる。
【0042】
また、
図7に示すように、接地用のパッド332のカバーレイ205に覆われる延長部332bを接続部分331aに近接するように変形しても良い。これにより、接続部分331aと接地電圧の延長部332bとの間のギャップを小さくして、接続部分331aにおける特性インピーダンスを調整することができる。この場合には、延長部332bにスルーホール601を形成することで、
図5、6と同様に、接続部分331a付近を補強することができる。
【0043】
さらに、
図8に示すように、接地面320における接地用のパッド322aを、接地パターン323に近づくにつれて幅広となり信号用のパッド321側へ膨らむ形状としても良い。これにより、信号用のパッド321と接地用のパッド322aとの間のギャップが接地パターン323に近づくにつれて徐々に小さくなり、インピーダンスが急激に変化する箇所をなくすことができる。これは、インピーダンスが急激に変化する箇所では、マイクロ波の反射が発生する可能性があり、伝送される高周波の電気信号の品質が低下する可能性があるためである。
【0044】
以上のように、本実施の形態によれば、FPCの信号面においては、カバーレイに設けられた突出部によって信号用のパッドとマイクロストリップラインとの間のテーパ状の接続部分を覆う。そして、FPCの接地面においては、接地パターンの大きさを調整して、FPCの信号面における接続部分との間の電気結合の強度を調整することにより、インピーダンスを調整する。このため、インピーダンス整合を維持すると同時に、接地用のパッド全体をPCBの表面の電極とはんだ付けすることができ、接続部分にかかる曲げ応力を小さくして、マイクロストリップラインの断線の可能性を低減することができる。換言すれば、インピーダンス整合を維持しつつ、フレキシブル基板の配線パターンを補強することができる。
【0045】
なお、上記一実施の形態においては、FPC130のPCB110に対向する面が信号面であり、PCB110から遠い側の面が接地面であるものとしたが、信号面と接地面の関係は逆でも良い。すなわち、FPC130のPCB110に対向する面を接地パターンなどを含む接地面とし、PCB110から遠い側の面をマイクロストリップラインなどを含む信号面としても良い。この場合でも、信号面において突出部を有するカバーレイによって、カバーレイの製造誤差が大きくても信号用のパッドとマイクロストリップラインの接続部分を保護することができる。
【0046】
また、上記一実施の形態においては、信号用のパッドとマイクロストリップラインの接続部分をテーパ状にするものとしたが、接続部分は必ずしもテーパ状でなくても良い。すなわち、長方形状のパッドに細いマイクロストリップラインが直接接続されていても良い。この場合でも、カバーレイの突出部によってパッドの一部が覆われて、確実に接続部分が覆われるため、接続部分を保護することができる。
【0047】
さらに、FPCの信号面において、信号用のパッドよりも接地用のパッドを大きくし、PCBの表面の電極とはんだ付けされる面積を広くしても良い。これにより、信号用のパッドとマイクロストリップラインの接続部分付近の強度をさらに向上することができる。
【0048】
また、上記一実施の形態に係る光モジュールは、例えば光信号を送受信する光送受信装置に適用することが可能である。
図9は、このような光送受信装置900の構成例を示すブロック図である。
図9において、
図1と同じ部分には同じ符号を付す。
【0049】
図9に示すように、光送受信装置900は、光変調器120及びドライバ140に加えて、光受信回路910、DSP(Digital Signal Processor)920及び光源930を有する。
【0050】
光受信回路910は、光信号を受信して光電変換などの所定の光受信処理を実行し、得られた受信信号をDSP920へ出力する。
【0051】
DSP920は、光受信回路910から出力される受信信号に対して、例えばデジタル復調及び復号などの種々のデジタル信号処理を実行する。また、DSP920は、送信データに対して、例えば符号化及びデジタル変調などの種々のデジタル信号処理を実行し、得られた送信信号をドライバ140へ出力する。この送信信号は、ドライバ140によって、光を変調するための高周波の電気信号に変換され、光変調器120を駆動する。
【0052】
光源930は、例えばLED(Light Emitting Diode)などを備え、光変調器120によって光変調される光を供給する。この光は、光変調器120によって、ドライバ140から出力される電気信号に応じた光変調を施された後、光信号として送信される。
【0053】
このような光送受信装置900においては、上記一実施の形態において説明したように、光変調器120とドライバ140の間の接続にFPC130が用いられても良く、このFPC130の一方の面は上記のカバーレイ205によって覆われる。また、DSP920とドライバ140の間の接続や光受信回路910とDSP920の間の接続に、FPC130と同様のフレキシブル基板が用いられても良い。これらの接続にフレキシブル基板が用いられる際にも、上記一実施の形態におけるカバーレイ205を用いることにより、インピーダンス整合を維持しつつ、フレキシブル基板の配線パターンを補強することができる。結果として、電気信号の伝送品質を劣化させることが無く、受信信号におけるエラーレートを削減したり送信される光信号の精度を向上したりすることができる。