(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1ニップ部材と,前記第1ニップ部材に対して圧接される第2ニップ部材とを有し,トナー像を担持する記録媒体を前記第1ニップ部材と前記第2ニップ部材との間のニップ部に通すことでトナー像を記録媒体に定着させる定着装置であって,
前記第2ニップ部材を前記第1ニップ部材へ向けて押圧する第1弾性部材および第2弾性部材と,
前記第1弾性部材および第2弾性部材による前記第2ニップ部材の前記第1ニップ部材への押圧状態を変更する操作レバーと,
前記第2弾性部材の一端を保持する可動に設けられた可動部材とを有し,
前記操作レバーが取り得る位置に,
前記第1弾性部材による前記第2ニップ部材の押圧を有効化するとともに前記第2弾性部材による前記第2ニップ部材の押圧を無効化する第1位置と,
前記第2弾性部材による前記第2ニップ部材の押圧を有効化するとともに前記第1弾性部材による前記第2ニップ部材の押圧を無効化する第2位置とが含まれ,
前記操作レバーには,前記第2位置にあるときには前記可動部材と対面して前記可動部材を前記第2弾性部材へ向けて押し込み,前記第1位置にあるときには前記可動部材と対面しない凸部が設けられており,
前記第1位置での前記第2ニップ部材の前記第1ニップ部材への圧接力が,前記第2位置での前記第2ニップ部材の前記第1ニップ部材への圧接力とは異なることを特徴とする定着装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら前記した従来の技術には,次に述べるような問題点があった。すなわち,強い方の圧接力の,個体間でのばらつきが大きいのである。そのため,強い方の圧接力が,個体により強すぎたりあるいは逆に不十分だったりすることがあった。このため,トナー像の定着性や,定着装置における記録媒体の搬送性が,個体によっては狙い通りに得られない場合があった。
【0006】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,定着ニップにおけるニップ部材間の圧接力の変更が可能であるとともに,各水準の圧接力がいずれも高い精度で得られる定着装置,およびそれを用いた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様における定着装置は,第1ニップ部材と,第1ニップ部材に対して圧接される第2ニップ部材とを有し,トナー像を担持する記録媒体を第1ニップ部材と第2ニップ部材との間のニップ部に通すことでトナー像を記録媒体に定着させる装置であって,第2ニップ部材を第1ニップ部材へ向けて押圧する第1弾性部材および第2弾性部材と,第1弾性部材および第2弾性部材による第2ニップ部材の第1ニップ部材への押圧状態を変更する操作レバーと
,第2弾性部材の一端を保持する可動に設けられた可動部材とを有し,操作レバーが取り得る位置に,第1弾性部材による第2ニップ部材の押圧を有効化するとともに第2弾性部材による第2ニップ部材の押圧を無効化する第1位置と,第2弾性部材による第2ニップ部材の押圧を有効化するとともに第1弾性部材による第2ニップ部材の押圧を無効化する第2位置とが含まれ,
操作レバーには,第2位置にあるときには可動部材と対面して可動部材を第2弾性部材へ向けて押し込み,第1位置にあるときには可動部材と対面しない凸部が設けられており,第1位置での第2ニップ部材の第1ニップ部材への圧接力が,第2位置での第2ニップ部材の第1ニップ部材への圧接力とは異なるものである。
【0008】
上記態様における定着装置では,第1ニップ部材と第2ニップ部材との間のニップ部に記録媒体を通すことでトナー像を定着させる。このニップ部には,第2ニップ部材を第1ニップ部材へ向けて押圧する,第1弾性部材もしくは第2弾性部材による押圧力が掛かっている。この定着装置では,その第1弾性部材および第2弾性部材による押圧の状態を操作レバーで変更できるようになっている。すなわち,操作レバーが取り得る位置に,第1位置と第2位置とがある。第1位置では,第1弾性部材による押圧が有効化される一方で第2弾性部材による押圧は無効化される。第2位置では逆に,第2弾性部材による押圧が有効化される一方で第1弾性部材による押圧は無効化される。そして両位置での第2ニップ部材の第1ニップ部材への圧接力は異なっており,2水準の押圧力をとることができる。ここで,第1位置での押圧力の精度は第1弾性部材の弾力の精度のみで定まり,第2位置での押圧力の精度は第2弾性部材の弾力の精度のみで定まる。つまり,両弾性部材の固体ばらつきが加算されて押圧力の精度が低くなる状態はない。
【0009】
本発明の他の一態様における定着装置は,
第1ニップ部材と,第1ニップ部材に対して圧接される第2ニップ部材とを有し,トナー像を担持する記録媒体を第1ニップ部材と第2ニップ部材との間のニップ部に通すことでトナー像を記録媒体に定着させる装置であって,第2ニップ部材を第1ニップ部材へ向けて押圧する第1弾性部材および第2弾性部材と,第1弾性部材および第2弾性部材による第2ニップ部材の第1ニップ部材への押圧状態を変更する操作レバーと,第2ニップ部材を保持する可動に設けられた第1可動部材と,第1可動部材とともに第1弾性部材を保持する可動に設けられた第2可動部材と,第1可動部材とともに第2弾性部材を保持する可動に設けられた第3可動部材とを有す
る。この場合には,
操作レバーが取り得る位置に,第1弾性部材による第2ニップ部材の押圧を有効化するとともに第2弾性部材による第2ニップ部材の押圧を無効化する第1位置と,第2弾性部材による第2ニップ部材の押圧を有効化するとともに第1弾性部材による第2ニップ部材の押圧を無効化する第2位置とが含まれ,第1位置での第2ニップ部材の第1ニップ部材への圧接力が,第2位置での第2ニップ部材の第1ニップ部材への圧接力とは異なり,第2可動部材が取り得る位置に,第1弾性部材が第1可動部材を介して第2ニップ部材を第1ニップ部材へ向けて押圧する作用位置と,第1弾性部材による押圧が無効化される非作用位置とが含まれ,第3可動部材が取り得る位置に,第2弾性部材が第1可動部材を介して第2ニップ部材を第1ニップ部材へ向けて押圧する作用位置と,第2弾性部材による押圧が無効化される非作用位置とが含まれ
る。さらに操作レバーに第1部位と第2部位とが設けられることとなる。第1部位は,操作レバーが第1位置にあるときに第2可動部材を作用位置にするとともに,操作レバーが第1位置以外の位置にあるときには第2可動部材を非作用位置にするものであり,第2部位は,操作レバーが第2位置にあるときに第3可動部材を作用位置にするとともに,操作レバーが第2位置以外の位置にあるときには第3可動部材を非作用位置にするものである。
【0010】
この
「他の一態様」の場合には,操作レバーを第1位置にすると,操作レバーの第1部位が第2可動部材を作用位置にするとともに,第2部位が第3可動部材を非作用位置にする。これにより,第1弾性部材による押圧力のみが定着ニップに掛かる状態が実現される。一方,操作レバーを第2位置にすると,操作レバーの第2部位が第3可動部材を作用位置にするとともに,第1部位が第2可動部材を非作用位置にする。これにより,第2弾性部材による押圧力のみが定着ニップに掛かる状態が実現される。
【0011】
第1可動部材ないし第3可動部材を有する態様の定着装置では,第3可動部材は,第1可動部材に対して第1ニップ部材とは反対側に位置しており,第2弾性部材は,第1可動部材と第3可動部材との間に自由長よりも圧縮された状態で挟持されており,第1可動部材には,第3可動部材の第2弾性部材の弾力による移動を規制するストッパー部が設けられており,第3可動部材の,第2弾性部材の弾力によりストッパー部に押し付けられている状態での位置が,第3可動部材の非作用位置であり,第3可動部材の,第2部位により第2弾性部材の弾力に抗して第1可動部材へ向かって押し込まれている状態での位置が第3可動部材の作用位置であることとすることができる。
【0012】
このようになっている場合には,操作レバーを第2位置にすると,操作レバーの第2部位が,第3可動部材を,第2弾性部材の弾力に抗して第1可動部材へ向かって押し込む。この押し込まれた状態での第3可動部材の位置がその作用位置であり,第2弾性部材の弾力が第1可動部材を介して定着ニップに作用する。操作レバーを第2位置以外の位置にすると,第3可動部材は,第2部位により押し込みを受けないため,ストッパー部に押し付けられるまで第2弾性部材の弾力により移動することになる。この,ストッパー部に押し付けられている状態での第3可動部材の位置がその非作用位置である。この状態では第1可動部材の一部であるストッパー部が,第2弾性部材の反対側の端部を規制することになる。このため第2弾性部材の弾力は第1可動部材の内部で釣り合って打ち消されており,定着ニップに作用しない。
【0013】
第1可動部材にストッパー部を有する態様の定着装置では,第1可動部材と第3可動部材とは,共通の軸を中心に回転移動可能に設けられているものであることが好ましい。これにより,定着装置の構造を簡素化できる。
【0014】
第1可動部材ないし第3可動部材を有する態様の定着装置ではまた,第1弾性部材は,第1可動部材に対して第1ニップ部材の側に位置するとともに,第1可動部材および第2可動部材との間に架け渡されており,第2可動部材は,作用位置では第1弾性部材を自由長より伸長させた状態にするとともに,非作用位置では第1弾性部材を自由長より伸長させた状態にしないものであることとすることができる。
【0015】
このようになっている場合には,操作レバーを第1位置にすると,操作レバーの第1部位により第2可動部材が作用位置に移動する。この状態で第1弾性部材は自由長より伸長された状態になっており,元の自由長に戻ろうとする弾力で第1可動部材を付勢する。これにより定着ニップに押圧力が掛かる。操作レバーを第1位置以外の位置にすると,第2可動部材は非作用位置に移動する。この状態で第1弾性部材は自由長の状態になっており,弾力を生じない。このため定着
ニップに押圧力を及ぼさない。
【0016】
第1可動部材ないし第3可動部材を有する態様の定着装置ではまた,第1可動部材の動きをガイドするガイド部材を有し,ガイド部材は,第1可動部材の,第2ニップ部材を第1ニップ部材へ圧接し,またその圧接を解除する方向の動きを許容するとともに,第1可動部材の,それ以外の方向の動きを規制するものであることが好ましい。この定着装置では,第1弾性部材または第2弾性部材の弾力を受ける第1可動部材が,本来の移動方向と異なる方向へ倒れ込もうとする応力を受けることもあり得る。しかしそのような倒れ込みは,ガイド部材により防止される。
【0017】
上記のいずれかの定着装置ではさらに,操作レバーが取り得る位置に,第1弾性部材および第2弾性部材による第2ニップ部材の押圧をいずれも無効化する中立位置がさらに含まれ,中立位置は,操作レバーの操作上,第1位置と第2位置との間に位置することが好ましい。この中立位置では,定着装置からのジャム紙の除去を容易に行うことができる。そして,操作レバーにおける第1位置と第2位置とのいずれからでも,もう一方の位置を経由せず直接に中立位置へ移行できる。
【0018】
本発明の別の態様に係る画像形成装置は,記録媒体上にトナー像を担持させる画像形成部と,画像形成部でトナー像を担持させられた記録媒体のトナー像を定着させる定着部とを有している。ここでその定着部は,前述のいずれかの態様の定着装置である。
【発明の効果】
【0019】
本構成によれば,定着ニップにおけるニップ部材間の圧接力の変更が可能であるとともに,各水準の圧接力がいずれも高い精度で得られる定着装置,およびそれを用いた画像形成装置が提供されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は,本発明に係る画像形成装置の構成例を示す図である。
図1に示す画像形成装置1は,タンデム型デジタルカラープリンター(以下単に「プリンター」と記載する)である。もちろん,プリンターのほか,さらにスキャナを有する複写機又はそれらの機能を複合的に備えた複合機等にも本発明を適用することができる。
【0022】
画像形成装置1は,その内部のほぼ中央部に中間転写ベルト40を備えている。中間転写ベルト40は,駆動ローラー12,テンションローラー13,および従動ローラー14,15に掛け渡されている。中間転写ベルト40は,駆動ローラー12の回転駆動に伴って
図1中反時計回りに回転する。中間転写ベルト40の下方には,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),ブラック(K)の各色にそれぞれ対応する4つのイメージング部2Y,2M,2C,2Kが配置されている。イメージング部2Kは,感光体21と,帯電装置22と,露光装置23と,現像装置24と,クリーニング装置25と,イレーサー(除電装置)26と,1次転写ローラー30とを有している。他のイメージング部2Y,2M,2Cも,イメージング部2Kと同様に構成されている。これにより,中間転写ベルト40上にフルカラーのトナー像が形成されるようになっている。また,中間転写ベルト40における駆動ローラー12で支持された部分には,2次転写ローラー16が圧接されている。
【0023】
画像形成装置1の下部には,給紙カセット91が着脱可能に配置されている。給紙カセット91から,用紙Pが1枚ずつ引き出されて搬送路93を経て2次転写ローラー16へ供給されるようになっている。2次転写ローラー16へ供給された用紙Pには,トナー像が転写されることとなる。搬送路93における2次転写ローラー16より下流(
図1中では上方)の位置には,定着部94が配置されている。定着部94は,用紙P上の未定着のトナー像を用紙Pに定着させる装置である。定着部94よりさらに下流側の位置には,排紙トレイ98が設けられている。
【0024】
定着部94について説明する。
図2に定着部94の断面図を示す。
図2に示されるように定着部94は,加圧ローラー97と定着ローラー96と加熱ローラー92とを有している。加圧ローラー97と定着ローラー96とは,互いに圧接させられており,定着ニップ95を形成している。定着ローラー96と加熱ローラー92との間には,定着ベルト90が掛け渡されている。加熱ローラー92には,ヒーター99が内蔵されている。ヒーター99は,例えばハロゲンランプ等の発熱手段である。これにより,定着ニップ95に用紙Pを通すことで,未定着トナー像の定着を行うのである。
【0025】
画像形成装置1において,定着ローラー96および加熱ローラー92の位置は固定されている。一方,加圧ローラー97の位置は可動とされている。その目的は,加圧ローラー97と定着ローラー96との間の圧接力の強弱を切り替え可能とするためである。さらには,用紙Pのジャム発生時のために圧接を解除できるようにしておく必要があるからである。この,加圧ローラー97の可動機構を,
図3およびそれ以降の図により説明する。
【0026】
図3に,加圧ローラー97および定着ローラー96の斜視図を示す。
図3では,
図2に示したもののうち加熱ローラー92や定着ベルト90を省略して示している。
図3に示されるように,加圧ローラー97の両端は保持機構50,70により軸支されている。保持機構50と保持機構70とは,ほぼ鏡映対称の構成になっている。保持機構50,70において加圧ローラー97の軸27を支持しているのは,第1可動部材51,71である。第1可動部材51,71はいずれも,支持軸28を中心に回転移動可能に設けられている。支持軸28は,加圧ローラー97や定着ローラー96と平行に,かつ画像形成装置1に固定して設けられている。第1可動部材51,71が支持軸28を中心に回転移動することで,加圧ローラー97の定着ローラー96への圧接力の強弱切り替え,および圧接の解除が可能となっている。なお,第1可動部材51,71の回転角は,大きいものでなくてよい。
【0027】
保持機構50,70にはさらに,第2可動部材52,72,第1バネ53,73,第3可動部材54,74(第3可動部材74は
図3中では見えていない),操作部材55,75が設けられている。これらおよびさらに他の部品については順示説明する。なお,操作部材55と操作部材75とは,連結ロッド29で連結されており,一体的に動作するようになっている。連結ロッド29は,加圧ローラー97や定着ローラー96と平行に,かつ画像形成装置1に固定して設けられている。操作部材55には,手動操作のためのレバー部62が形成されている。操作部材75にはレバー部62が形成されていない。レバー部62を有する操作部材55と,連結ロッド29と,操作部材75との全体で操作レバーを構成している。
【0028】
保持機構50と保持機構70とは,操作部材55,75におけるレバー部62の有無を除いて同様の構成(ただし前述のように鏡映対称)とされている。保持機構50について,
図4および
図5の斜視図によりさらに説明する。
図4および
図5に示されるように第1可動部材51には,バネフック57が形成されている。第2可動部材52にもバネフック61が形成されている。バネフック57,61には,第1バネ53の両端が掛けられている。また,第2可動部材52には,支点56が設けられている。支点56は,画像形成装置1に対して固定した位置とされる。この支点56を中心にして,第2可動部材52は回転移動可能とされている。第2可動部材52の回転移動により,バネフック57とバネフック61との間の距離が変化する。
【0029】
この第2可動部材52の回転移動を操作するため,第2可動部材52には長穴63が形成されている。また,操作部材55には突起部64が形成されている。そして,突起部64は長穴63に嵌入させられた状態とされている。これにより,操作部材55を動かすことで,突起部64が長穴63内で移動して第2可動部材52が回転移動するようになっている。なお,操作部材55にはロッド取り付け穴65が形成されている。前述の連結ロッド29は,
図4および
図5では省略しているが,このロッド取り付け穴65に取り付けられる。よって,操作部材55は,ロッド取り付け穴65の位置を中心に回転移動する。操作部材55の回転移動は,レバー部62の手動操作による。
【0030】
このため,第1バネ53がその自由長から伸長されていない状態と,第1バネ53がその自由長から伸長されている状態とをとることができる。前者の状態では第1バネ53の弾力が第1可動部材51に作用することはないが,後者の状態では第1バネ53の弾力により第1可動部材51は引っ張られることとなる。その引っ張りの向きは,加圧ローラー97を定着ローラー96に押圧する向きである。この,第1バネ53の引っ張りにより加圧ローラー97が定着ローラー96に押圧される状態を,第1の押圧状態という。
【0031】
第1可動部材51にはさらに,バネ座58が形成されている。バネ座58と第3可動部材54との間に,第2バネ59が自由長より圧縮された状態で挟持されている。第2バネ59は,第1可動部材51の支持軸28から見てほぼ円周方向に配置されている。この第2バネ59に対して定着ローラー96がある側にバネ座58が位置し,定着ローラー96とは反対側に第3可動部材54が位置する。つまり第3可動部材54は,第1可動部材51の少なくともバネ座58よりは,定着ローラー96から遠い側に位置している。第1可動部材51にはさらに,壁部60が形成されている。壁部60は,定着ローラー96から見て第3可動部材54よりさらに遠い位置にある。結局,バネ座58と壁部60との間に第3可動部材54が位置し,その第3可動部材54とバネ座58との間に第2バネ59が挟持されている。
【0032】
したがって,特段の理由がない限り,第3可動部材54は第2バネ59の弾力により,壁部60に押し付けられてそこで停止している状態にある。この状態では,第2バネ59の弾力はバネ座58と壁部60とに掛かっており,第1可動部材51の内部で釣り合っている。このためこの状態で第2バネ59の弾力が,第1可動部材51を移動させるように作用することはない。
【0033】
しかしながら操作部材55には,凸部66が形成されている。操作部材55を大きく回転させると,凸部66で第3可動部材54を押し込む状態とすることができる。その押し込みは,第2バネ59をさらに圧縮する向きに作用する。その状態では,第2バネ59の弾力が,第1可動部材51のうち壁部60には掛からず,バネ座58にのみ掛かることになる。よってこの状態では,第2バネ59の弾力により,第1可動部材51は押し出されることとなる。その押し出しの向きは,加圧ローラー97を定着ローラー96に押圧する向きである。この,第2バネ59の押し出しにより加圧ローラー97が定着ローラー96に押圧される状態を,第2の押圧状態という。また,第1の押圧状態の方が第2の押圧状態よりも,加圧ローラー97の定着ローラー96への押圧力が強くなるようにされている。
【0034】
なお,第1可動部材51においては,バネフック57,バネ座58とも,支持軸28から見て加圧ローラー97の軸27より向こう側に位置する配置となっている。このため,支持軸を中心とする動径が,バネフック57,バネ座58とも,軸27より長い。これにより,第1バネ53や第2バネ59として過度に強力なものを用いなくてもよいようになっている。
【0035】
上記のように構成された保持機構50および保持機構70の動作について,
図6〜
図8により説明する。これらの図では,保持機構50を,加圧ローラー97および定着ローラー96の側から見て示している。すなわちこれらの図は,保持機構50を画像形成装置1における背面側から見た背面図である。
図6〜
図8の相互間の相違点は,操作部材55の状況にある。
【0036】
図6に示すのは,操作部材55をその可動範囲内の中間位置にした状態での図である。この状態では,第1バネ53と第2バネ59とのいずれもが,第1可動部材51を押圧していない状態にある。すなわち,第1バネ53は自由長から伸長されていない状態にあり,第2バネ59についてはその弾力が第3可動部材54と壁部60との当接により無効化されている状態にある。このため
図6の状態では,加圧ローラー97と定着ローラー96との間に圧接力がほとんど掛かっていない状態にある。保持機構50がこの状態にあるとき,保持機構70も同様の状態にある。このためこの状態を中立状態といい,この状態でのレバー部62の位置を中立位置という。この状態からレバー部62を,矢印Aの向きに,または矢印Bの向きに操作することができる。
【0037】
図6の状態からレバー部62を矢印Aの向きに操作すると,
図7の状態になる。
図7の状態では,レバー部62を含む操作部材55が,
図6の状態に対して,ロッド取り付け穴65(連結ロッド29)を中心に図中で反時計回りに半回転近く回転した位置にある。これに伴い突起部64の位置が
図6と
図7とで大きく違っている。すなわち,これらの図中での突起部64の位置は,
図6よりも
図7の方が高い。これにより
図6と
図7とでは,第2可動部材52の状態にも違いがある。
図7における第2可動部材52は,その長穴63の箇所が
図6の場合と比較して,突起部64により大きく持ち上げられた状態となっているからである。このため
図7中の第2可動部材52は,
図6中の第2可動部材52と比較して,図中で支点56を中心に時計回りに回転した状態となっている。なお,レバー部62を矢印Aの向きに操作するのに必要な操作力は,それほど強力なものではない。前述のように第1バネ53はそれほど強力なものでなくてよいからである。
【0038】
したがって,
図7中における第2可動部材52のバネフック61は,
図6の場合と比較して,第1可動部材51のバネフック57からやや遠ざかった位置にある。このため,
図6中では自由長から伸長されていなかった第1バネ53が,
図7中では自由長から伸長された状態となっている。これにより,
図7中の第1可動部材51は,
図6の場合と異なり,第1バネ53が縮もうとすることによる付勢を受ける状態となっている。このため
図7では,加圧ローラー97と定着ローラー96との間に圧接力が掛かっている状態にある。
【0039】
なお,
図7の状態でも,第2バネ59の状態については
図6の場合と変わりない。つまり,
図7の状態で加圧ローラー97と定着ローラー96との間に掛かっているのは,第1バネ53に起因する圧接力のみである。ここに第2バネ59の弾力は寄与していない。また,
図7の状態でレバー部62から手を離しても,ひとりでに
図6の状態に戻ることはなく,
図7の状態が維持される。保持機構50がこの状態にあるとき,保持機構70も同様の状態にある。この状態は,通常使用される印刷用紙を用紙P(記録媒体)として用いて画像形成を行う場合に適した状態である。そのため通常は,この状態で画像形成を行う。この状態が第1の押圧状態であり,この状態でのレバー部62の位置を第1位置という。なお,
図4および
図5に示した保持機構50も,この第1の押圧状態でのものである。
【0040】
図6の状態からレバー部62を矢印Bの向きに操作すると,
図8の状態になる。
図8の状態では,レバー部62を含む操作部材55が,
図6の状態に対して,ロッド取り付け穴65(連結ロッド29)を中心に図中で時計回りに少し回転した位置にある。これに伴い
図8の状態では,操作部材55の凸部66が,第3可動部材54に対面する状態となっている。この点が
図8の状態の特徴である。
図6でも
図7でも凸部66は第3可動部材54に対面していないからである。これにより
図8の状態では
図6の状態と比較して,第2バネ59がさらに縮んだ状態となっている。第3可動部材54が凸部66により第1可動部材51のバネ座58へ向かって押し込まれているからである。なお,レバー部62を矢印Bの向きに操作するのに必要な操作力は,それほど強力なものではない。前述のように第2バネ59はそれほど強力なものでなくてよいからである。
【0041】
このため
図8の状態では,第3可動部材54が第1可動部材51の壁部60から離間している。したがって
図8の状態では,第2バネ59が伸びようとすることによる弾力が,一端側では第1可動部材51のバネ座58に対して作用するが,もう一端側では第1可動部材51の壁部60に作用しない状況となっている。もう一端側の第2バネ59の付勢は,第3可動部材54を介して凸部66に受け止められるからである。これにより,
図8中の第1可動部材51は,
図6の場合と異なり,第2バネ59の弾力による付勢を受ける状態となっている。このため
図8では,加圧ローラー97と定着ローラー96との間に圧接力が掛かっている状態にある。ただしその圧接力は,
図7の場合の圧接力よりは弱い。
【0042】
なお,
図8の状態でも,第1バネ53は
図6の場合と変わらず自由長の状態のままである。つまり,
図8の状態で加圧ローラー97と定着ローラー96との間に掛かっているのは,第2バネ59に起因する圧接力のみである。ここに第1バネ53の弾力は寄与していない。また,
図8の状態でレバー部62から手を離しても,ひとりでに
図6の状態に戻ることはなく,
図8の状態が維持される。保持機構50がこの状態にあるとき,保持機構70も同様の状態にある。この状態は,通常使用される印刷用紙ではない,例えば封筒等の特殊な記録媒体に対する画像形成の場合に適した状態である。そのため,当該記録媒体を用いて画像形成を行う場合にこの状態とする。この状態が第2の押圧状態であり,この状態でのレバー部62の位置を第2位置という。
【0043】
なお
図6の中立状態は,定着部94で用紙Pのジャムが発生してその用紙Pを取り除く場合に適した状態である。
図7の第1の押圧状態で画像形成をしていてジャムが発生した場合には,レバー部62の操作により,
図8の第2の押圧状態を経由せずに
図6の中立状態にすることができる。
図8の第2の押圧状態から
図6の中立状態に切り換える場合も同様で,
図7の第1の押圧状態を経由することはない。これは,レバー部62の位置として,中立位置が第1位置と第2位置との間にあるからである。
【0044】
上記より,
図6の状態では第2可動部材52と第3可動部材54とがいずれも非作用位置にあり,
図7の状態では第2可動部材52のみが作用位置に切り替えられ第3可動部材54は非作用位置にとどまっているといえる。同様に
図8の状態では,第3可動部材54のみが作用位置に切り替えられ第2可動部材52は非作用位置にとどまっているといえる。
【0045】
上記の第1の押圧状態と第2の押圧状態とのいずれにおいても,第1バネ53,第2バネ59の弾力のうちいずれか一方のみが加圧ローラー97の圧接に寄与している。第1バネ53,第2バネ59の両方の弾力が同時に圧接に寄与することはない。このため第1の押圧状態と第2の押圧状態とのいずれでも,加圧ローラー97と定着ローラー96との間の圧接力の精度には,第1バネ53,第2バネ59のそれぞれ単独での精度がそのまま反映されることとなる。つまり,第1バネ53,第2バネ59の個体間でのばらつきが合計されて圧接力の個体間でのばらつきとなることがない。このため圧接力の精度が高い。したがって本形態の画像形成装置1では,第1の押圧状態と第2の押圧状態とのいずれでも,定着ニップでの圧接力の異常が起こりにくい。このため,用紙Pのしわ発生や後端跳ね上げ等が起こりにくい。
【0046】
ここで,レバー部62を
図6の中立位置から
図8の第2位置にするときに,第1バネ53が伸長されずに自由長状態のままとなる理由を,
図9により説明する。
図9には,中立状態での第2可動部材52の長穴63と,各状態での操作部材55の突起部64の位置を示している。レバー部62の操作による突起部64の軌跡67は,連結ロッド29(ロッド取り付け穴65)を中心とする円弧状である。ここで,突起部64を中立位置から第1位置へ向かわせる向きAと,第2位置Bへ向かわせる向きBとは逆向きである。ここで,第2可動部材52の支点56から見て,突起部64の第1位置は中立位置に対してかなり離れた方角にある(角θはある程度大きい,例えば25〜35°程度)が,第2位置は中立位置とほとんど同じ方角にある(角ψは角θより小さい,例えば3〜8°程度)。連結ロッド29や支点56など各部材の位置は,このように設定されている。このため,レバー部62を中立位置から第2位置に移動させても,それによる第2可動部材52の回転角度が小さく,第1バネ53の状態を変化させるに至らないのである。
【0047】
次に,第1可動部材51の横倒れ防止のための構成について説明する。ここまでの説明では言及しなかったが,保持機構50にはそのための構成が内蔵されている。
図5に示した保持機構50から第2可動部材52と第1バネ53とを取り除いた状態を
図10に示す。
図10に示されるように,保持機構50の内部には,ガイド部材31が設けられている。ガイド部材31には,スリット32が形成されている。このガイド部材31は,画像形成装置1に対して固定されている。保持機構50では,スリット32に第1可動部材51の一部が進入する配置となっている。スリット32は,第1可動部材51の支持軸28の回りの回転移動を許容しつつ,回転移動と交差する方向への横倒れ移動(
図10中の矢印C)を規制する方向に形成されている。
【0048】
このガイド部材31が設けられていることで,第1可動部材51の横倒れの防止が図られている。第1可動部材51は第1バネ53や第2バネ59の弾力を受けるので,ともすれば横倒れ方向の応力が生じることもある。しかし横倒れはガイド部材31により防止されている。このため,第1可動部材51や支持軸28を過度に高剛性に作る必要はない。なお,ガイド部材31は,
図3に示した保持機構50,70の両方に設けられていてもよいし,一方のみに設けられていてもよい。
【0049】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,定着ニップにおける2水準の圧接力の切替が可能な定着部94を備えた画像形成装置1において,当該2水準の圧接力を,2つの弾性部材(第1バネ53,第2バネ59)により実現するようにしている。しかも,2水準の圧接力のそれぞれにおいて,第1バネ53および第2バネ59のうちいずれか一方のみの弾力が作用するようにしている。これにより,各水準の圧接力の個体間ばらつきが過大となることのない定着装置およびそれを用いた画像形成装置が実現されている。さらに,ガイド部材31により,加圧ローラー97を支持する第1可動部材51の横倒れをも防止している。
【0050】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,前記実施の形態では,
図7の第1の押圧状態の方が
図8の第2の押圧状態よりも,定着ニップ95の圧接力が強いこととした。しかしこの強弱関係は逆でもよい。また,本形態では,第1の押圧状態を引きバネ(第1バネ53)で実現し,第2の押圧状態を圧縮バネ(第2バネ59)で実現している。しかしこれも引きバネと圧縮バネとを入れ替えてもよい。あるいは,両方とも引きバネで実現したり,両方とも圧縮バネで実現したりすることも可能である。また,圧接力の強弱は,第1バネ53や第2バネ59自体のバネレートと,これらの第1可動部材51への作用(力点はバネフック57,バネ座58)のレバー比との総合によ
り実現すればよい。
【0051】
さらに,3水準あるいはそれ以上の押圧力を切り替えられる構成とすることもできる。また,本発明は,
図1に示したカラープリンターに限らず,モノクロプリンターやコピー機にも適用できる。さらに,公衆回線経由で印刷ジョブを送受信する機能を備えた複合機に適用してもよい。