特許第6237716号(P6237716)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドヴィックスの特許一覧

<>
  • 特許6237716-車両用制御装置 図000002
  • 特許6237716-車両用制御装置 図000003
  • 特許6237716-車両用制御装置 図000004
  • 特許6237716-車両用制御装置 図000005
  • 特許6237716-車両用制御装置 図000006
  • 特許6237716-車両用制御装置 図000007
  • 特許6237716-車両用制御装置 図000008
  • 特許6237716-車両用制御装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237716
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/14 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   B60W30/14
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-127631(P2015-127631)
(22)【出願日】2015年6月25日
(65)【公開番号】特開2017-7596(P2017-7596A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】浅野 誠之
(72)【発明者】
【氏名】森 雪生
(72)【発明者】
【氏名】大森 陽介
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−018681(JP,A)
【文献】 特開2002−225689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00−50/16
B60K 31/00−31/18
B60T 7/12−8/96
G08G 1/00−99/00
F02D 29/00−29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に正負の駆動力を付与する駆動源と、
前記駆動源とは別に設けられて、前記車両に制動力を発生させる制動機構と、
目標速度または目標加速度に基づいて前記駆動源または/および制動機構を制御することにより、前記車両の加速度を制御する加減速度制御部と、を有し、
前記加減速度制御部は、運転者の操作にかかわらず前記車両を自動運転する自動運転モード中において、前記運転者の所定操作によって前記自動運転モードが一旦停止されて前記運転者の操作に従って前記車両が運転される通常運転モードになった後、前記通常運転モードから前記自動運転モードへ復帰をする際に、前記復帰後の前記自動運転モードにおいて前記復帰前の前記通常運転モード中の前記車両の運転状態に基づいて設定される特定制御を実施し、
前記加減速度制御部は、前記復帰前の前記通常運転モード中の前記車両の運転状態から、前記復帰後の前記自動運転モード中における前記車両の加速度を推定する車両加速度推定部を有し、
前記特定制御は、前記復帰をした復帰時点以降から、前記車両加速度推定部によって推定された前記車両の加速度と目標加速度との偏差である差加速度が判定閾値以下となるまでの間においては、前記車両の速度または加速度に係るフィードバック制御を禁止することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記加減速度制御部は、
目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御する駆動源制御部と、
前記目標速度および前記目標加速度の少なくとも何れか一方に基づいて前記目標駆動力の基準である基準目標駆動力を演算する基準目標駆動力演算部と、を有し、
前記特定制御は、前記復帰時点では、前記目標駆動力をゼロとし、前記フィードバック制御禁止中においては前記基準目標駆動力まで所定の変化速度で前記目標駆動力を変化させることを特徴とする請求項1記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記加減速度制御部は、目標駆動力に基づいて前記制動機構の制動力を制御する制動機構制御部を有し、
前記特定制御は、前記復帰の直前時点に発生させていた制動力を前記復帰の直後時点の目標制動力として設定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動運転制御の一例であるクルーズコントロール制御において、クルーズコントロール制御中(自動運転モード中)に、運転者のアクセル操作によって自動運転モード(クルーズコントロール制御中)から通常運転モードに移行したのち、アクセル操作の終了(アクセル操作の解除)により、自動運転モードに復帰をする場合がある。この際、復帰直前の操作や車両の運転状態によっては、車両に過度の加速度変化が発生することがある。これに対処するため、特許文献1では、復帰した復帰時点から所定時間の間、ブレーキ制御を抑制するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−018680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載されている車両用制御装置においては、減速中の場合にアクセル操作による復帰時にブレーキ制御を抑制したため、かえってブレーキ抜けによる減速度の急変が生じる可能性があった。一方、加速中の場合にアクセル操作による復帰時には、車両に発生する過度の加速度変化をさらに抑制する要請があった。
【0005】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、車両用制御装置において、自動運転モード中において、通常運転モードから自動運転モードへの復帰をスムーズに行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る車両用制御装置の発明は、車両に正負の駆動力を付与する駆動源と、駆動源とは別に設けられて、車両に制動力を発生させる制動機構と、目標速度または目標加速度に基づいて駆動源または/および制動機構を制御することにより、車両の加速度を制御する加減速度制御部と、を有し、加減速度制御部は、運転者の操作にかかわらず車両を自動運転する自動運転モード中において、運転者の所定操作によって自動運転モードが一旦停止されて運転者の操作に従って車両が運転される通常運転モードになった後、通常運転モードから自動運転モードへ復帰をする際に、復帰後の自動運転モードにおいて復帰前の通常運転モード中の車両の運転状態に基づいて設定される特定制御を実施し、加減速度制御部は、復帰前の通常運転モード中の車両の運転状態から、復帰後の自動運転モード中における車両の加速度を推定する車両加速度推定部を有し、特定制御は、復帰をした復帰時点以降から、車両加速度推定部によって推定された車両加速度と目標加速度との偏差である差加速度が判定閾値以下となるまでの間においては、車両の速度または加速度に係るフィードバック制御を禁止することである。
【発明の効果】
【0007】
これによれば、車両用制御装置の加減速度制御部は、自動運転モード中において、通常運転モードから自動運転モードへ復帰をする際に、復帰後の自動運転モードにおいて復帰前の通常運転モード中の車両の運転状態に基づいて設定される特定制御を実施する。その結果、自動運転モード中において、通常運転モードから自動運転モードへの復帰をスムーズに行うことが可能となる。
さらに、自動運転モード中において、通常運転モードから自動運転モードへの復帰する際に、過度の加速度変化が車両に発生するのを抑制することができる。よって、通常運転モードから自動運転モードへの復帰をよりスムーズに行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明による車両用制御装置の一実施形態を示すブロック図である。
図2】本発明による車両用制御装置の一実施形態の詳細を示すブロック図である。
図3図1に示した車両用制御装置にて実行される制御プログラムのフローチャートである。
図4図1に示した車両用制御装置にて実行される制御プログラム(復帰制御)のフローチャートである。
図5】定常走行からACCに復帰した場合の本発明による車両用制御装置のタイムチャートである。
図6】定常走行からACCに復帰した場合の比較例による車両用制御装置のタイムチャートである。
図7】車両の減速中にアクセル操作をし、ACCに復帰した場合の本発明による車両用制御装置のタイムチャートである。
図8】車両の減速中にアクセル操作をし、ACCに復帰した場合の比較例(従来技術)による車両用制御装置のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両用制御装置を適用した一実施形態を図面を参照して説明する。図1に示すように、自車M(車両M)は、ACCスイッチ11、アクセル開度センサ12、加速度センサ13、車速センサ14、車間距離センサ15、ブレーキ油圧センサ16、パワートレイン17、ブレーキ機構18および車両用制御装置20を備えている。
【0010】
ACCスイッチ11は、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)のオン・オフスイッチである。ACCスイッチ11のオン・オフ状態は、車両用制御装置20に出力されている。ACCスイッチ11は、ACCを開始・停止させるためのスイッチである。ACCは、先行車との車間距離を一定に保って、すなわち先行車に対して所定距離を保持して追従走行するように自車の走行を制御するものである。ACCは、自車の速度を設定した速度(設定速度)に一定に保持するように自車の走行を制御するクルーズコントロールも含んでいる。なお、車間距離設定スイッチが設けられるようにしてもよい。車間距離設定スイッチは、ACC中の先行車と自車との車間距離を設定するためのスイッチであり、複数の距離に応じた複数段の設定を有する。
【0011】
なお、ACCは、運転者の操作にかかわらず車両Mを自動で運転する自動運転の一例である。他の自動運転としては、車両Mを自動で駐車する運転もある。また、運転車の操作に従って車両Mが運転(走行)されることが通常運転である。また、自動運転モードは、車両の運転方法が自動運転方法(様式)であることであり、通常運転モードは、通常運転方法(様式)であることである。
【0012】
アクセル開度センサ12は、図示しないアクセルペダルの近くに設けられ、アクセルペダルの操作量を検出し、その検出結果は車両用制御装置20に出力されている。
【0013】
加速度センサ13は、自車Mの加速度を検出するセンサである。加速度センサ13は少なくとも車両の前後方向の加速度を検出する。加速度センサ13の検出信号は、車両用制御装置20に出力されている。
車速センサ14は、自車Mの車速を検出するセンサである。車速センサ14は、例えば、車両Mの車輪の速度である車輪速を検出する車輪速センサ、駆動輪に駆動を出力する出力軸の回転速度を検出する車速センサにより構成されている。車速センサ14の検出信号は、車両用制御装置20に出力されている。なお、本実施形態では、以降、特に指定しない限り「加速度」とは「車両の前後方向の加速度」として扱う。
【0014】
車間距離センサ15は、自車から物標までの車間距離を検出して、その検出信号を車両用制御装置20に出力するものである。車間距離センサ15は、例えば、ミリ波を用いたスキャンレーダあるいは半導体レーザを用いたスキャンレーザレーダ、CCDカメラ等により構成されている。
【0015】
ブレーキ油圧センサ16は、ブレーキ機構18のブレーキ液圧を検出して、その検出信号を車両用制御装置20に出力するものである。ブレーキ機構18のブレーキ液圧は、例えば、マスタシリンダの液圧、ホイールシリンダの液圧である。なお、正の駆動力とは車両を加速させる方向の駆動力であり、負の駆動力とは車両を減速させる方向の駆動力である。負の駆動力としては、例えば、エンジンブレーキや回生制動力等があげられる。
【0016】
パワートレイン17は、車両Mに正負のいずれかの駆動力を付与する駆動源である。この駆動源は、例えば内燃機関であるエンジンや、モータであり、エンジンとモータとで構成されるハイブリッドでもよい。
【0017】
ブレーキ機構18は、パワートレイン17とは別に設けられて、車両Mに制動力を発生させる制動機構である。ブレーキ機構18は、いわゆる液圧式のブレーキ機構であり、マスタシリンダ、ホイールシリンダ、ABSやESCが実施可能であるブレーキアクチュエータなどにより構成されている。なお、ブレーキ機構18は、運転者がブレーキペダルを踏まなくても、車両M(または車輪)に制動力を発生させることが可能に構成されている。ブレーキ機構18は、ブレーキペダルの操作の有無によらず、全車輪に対して独立かつ能動的に制動力を与える装置である。
【0018】
車両用制御装置20は、車両状態取得部21、車両加速度推定部22、目標加速度演算部(目標速度演算部)23、実加速度取得部24、差加速度演算部25、比較部26、フィードバック制御(以下、FB制御と称する場合もある。)許否決定部27、基準目標駆動力演算部28、ブレーキ残圧取得部29、要求トルク演算部30、および要求トルク出力部31を備えている。
車両用制御装置20は、目標速度または目標加速度に基づいてパワートレイン17または/およびブレーキ機構18を制御することにより、車両Mの加速度を制御する加減速度制御部である。車両用制御装置20は、運転者の操作にかかわらず車両Mを自動運転する自動運転モード中において、運転者の所定操作によって自動運転モードが一旦停止されて運転者の操作に従って車両Mが運転される通常運転モードになった後、通常運転モードから自動運転モードへ復帰をする制御を行う。なお、本実施形態では、所定操作は、アクセルペダルを操作するアクセル操作である。
【0019】
また、車両用制御装置20は、復帰後の自動運転モードにおいて復帰前の通常運転モード中の車両Mの運転状態に基づいて設定される特定制御を実施する。前記特定制御は、復帰をした復帰時点以降から、車両加速度推定部22によって推定された車両加速度(推定加速度)と目標加速度との偏差である差加速度が判定閾値以下となるまでの間においては、車両Mの速度または加速度に係るフィードバック制御を禁止する。
また、前記特定制御は、復帰時点では、基準目標駆動力(後述する)をゼロとし、フィードバック制御禁止中においては基準目標駆動力まで所定の変化速度で目標駆動力を変化させる。
また、前記特定制御は、復帰の直前時点に発生させていた制動力(後述するブレーキ残圧)を復帰の直後時点の目標制動力として設定する。
【0020】
車両状態取得部21は、車両Mの走行状態または運転状態である車両状態を取得する。例えば、車両状態取得部21は、加速度センサ13から車両Mの加速度を取得したり、車速センサ14から車両の速度を取得したりする。車両Mの加速度や速度は、車両状態である。
【0021】
アクセル操作が大きく変化した後は、車両の加速度が速やかに追従せずエンジントルクと車両加速度の関係が通常の場合と異なる状態となる。例えば、アクセルを閉じてエンジントルクが素早く低下しているにも関わらず、車両の加速度の減少が追従しないことがある。車両加速度推定部22は、復帰前の通常運転モード中の車両Mの運転状態から、復帰後の自動運転モード中における車両Mの加速度を推定する。すなわち、車両加速度推定部22は、車両Mの推定加速度を演算するものである。
【0022】
例えば、車両加速度推定部22は、アクセル開度センサ12からアクセル開度を入力し、車両状態取得部21から車両状態を入力して、車両応答モデルにこれら入力したパラメータを使用して車両Mの推定加速度を演算する。なお、車両応答モデルは、自車両からその直前の前方車両までの車間距離応答特性を数式化したモデルである。すなわち、この車両応答モデルは、運転者が自車両を前方車両に追従させる際の運転操作が、前方車両との車間距離を車間時間に応じた値にし、かつ前方車両との相対速度が0となるように、調整すると仮定した、いわゆる運転者追従をモデル化したものである。
【0023】
あるいは、運転者追従モデルに代わって、トルクコンバータの特性や車両質量や走行に伴って回転する回転部材(車輪、ドライブシャフト、プロペラシャフトなど)の回転慣性等に基づいた駆動系の動特性モデルを用いて、推定加速度を求めてもよい。より具体的には、トルクコンバータのエンジン側回転数およびミッション側回転数とトルクコンバータの特性等に基づいて、ミッション側に入力されるトルクを推定し、推定した入力トルクと、ブレーキによる制動力がある場合は制動力と、車両質量やあらかじめ求めた回転慣性等に基づいて車両の加速度を演算するようにしてもよい。
【0024】
実加速度取得部24は、加速度センサ13から車両Mの加速度(実際の加速度である実加速度)を取得する。なお、実加速度取得部24は、車両状態取得部21から車両Mの加速度(実際の加速度である実加速度)を取得するようにしてもよい。
差加速度演算部25は、車両加速度推定部22から入力した推定加速度と、目標加速度演算部23から入力した目標加速度とから、両加速度の差である差加速度を演算する。なお、差加速度演算部25は、車両加速度推定部22から入力した推定加速度と、実加速度取得部24から入力した実加速度とから、両加速度の差である差加速度を演算するようにしてもよい。
【0025】
比較部26は、差加速度演算部25から入力した差加速度と判定閾値とを比較して、比較結果をFB制御許否決定部27に出力する。比較部26は、例えば差加速度と判定閾値との大小を判断する。
FB制御許否決定部27は、比較部26から入力した比較結果に基づいてFB制御を禁止するか否かを決定する。例えば、FB制御許否決定部27は、差加速度が判定閾値より大きい場合(すなわち目標加速度に対して推定加速度が離れている場合)、FB制御を禁止する。一方、FB制御許否決定部27は、差加速度が判定閾値より小さい場合(すなわち目標加速度に対して推定加速度が接近している場合)、FB制御を許可するという決定をする。FB制御は、車両Mの速度または加速度に係るフィードバック制御である。
【0026】
基準目標駆動力演算部28は、目標加速度演算部23から入力した目標加速度、および目標速度演算部から入力した目標速度の少なくとも何れか一方に基づいて目標駆動力の基準である基準目標駆動力を演算する。なお、目標駆動力は、パワートレイン機構17およびブレーキ機構に対してそれぞれ要求する各要求トルクと等価である。パワートレイン機構17に対して要求する要求トルクが要求駆動トルクである。ブレーキ機構に対して要求する要求トルクが要求制動トルクである。
ブレーキ残圧取得部29は、ブレーキ油圧センサ16からブレーキ機構18のブレーキ液圧を入力している。ブレーキ残圧取得部29は、前記復帰の直前時点に発生させていたブレーキ液圧(すなわち制動力に相当するブレーキ液圧)をブレーキ残圧として取得する。
【0027】
要求トルク演算部30は、目標加速度演算部23から入力した目標加速度、および目標速度演算部から入力した目標速度の少なくとも何れか一方と、実加速度取得部24から入力した実加速度と、車両状態取得部21から入力した車速と、から目標駆動力を演算する。このとき、要求トルク演算部30は、FB制御用のFB制御量、フィードフォワード制御(以下、FF制御と称する場合もある。)用のFF制御量を演算する。そして、要求トルク演算部30は、演算されたFB制御量およびFF制御用から目標駆動力を演算する。例えば目標駆動力は、FB制御量とFF制御用との和である。
【0028】
FB制御は、車両の速度または加速度に係るフィードバック制御であり、例えば、実加速度を目標加速度に一致させるFB制御である。FB制御量は、実加速度と目標加速度との差に基づいて演算される値である。FF制御は、車両の速度または加速度に係るフィードフォワード制御であり、例えば、予め定められた演算ルールに従って基準となる所定の状態で目標加速度を発生させる目標駆動力を算出する制御である。FF制御量は、例えば、車両の速度と目標加速度とに基づいて演算される値である。
【0029】
要求トルク出力部31は、要求トルク演算部30から入力した要求トルク(目標駆動力および/または目標制動力)を、パワートレイン機構17および/またはブレーキ機構18に出力する。すなわち、要求トルク出力部31は、要求トルク演算部30から入力した要求トルクに基づいて、パワートレイン機構17を制御する駆動源制御部である。また、要求トルク出力部31は、要求トルク演算部30から入力した要求トルクに基づいて、ブレーキ機構18を制御する制動機構制御部である。
【0030】
なお、上述した特定制御のうち、復帰時点では、基準目標駆動力をゼロとし、フィードバック制御禁止中においては基準目標駆動力まで所定の変化速度で目標駆動力を変化させる特定制御において演算される、要求トルクは、要求トルク演算部30において演算される。
また、上述した特定制御のうち、復帰の直前時点に発生させていた制動力(後述するブレーキ残圧)を復帰の直後時点の目標制動力として設定する特定制御において演算される、要求トルクも、要求トルク演算部30において演算される。
【0031】
さらに、上述した車両用制御装置20による作動について図3に示すフローチャートに沿って説明する。車両用制御装置20は、そのフローチャートに沿ったプログラムを所定の短時間毎に実行する。
車両用制御装置20は、ステップS102において、ACCフラグF1がオンであるか否かを判定する。ACCフラグF1は、車両Mの運転方法がACCに設定されているか否かを示すフラグである。ACCフラグF1がオンである場合、車両の運転方法がACCに設定されており、ACCフラグF1がオフである場合、車両の運転方法がACCに設定されていない(解除されている)。ACCフラグF1がオフである場合、車両用制御装置20は、ステップS102にて「NO」と判定し、ステップS104において、通常運転を実施する。
【0032】
また、ACC中(自動運転モード中)において、運転者が所定操作(アクセル操作)を行わない場合、車両用制御装置20は、ACCを実施する(ステップS124)。具体的には、アクセル操作が行われていない場合、アクセルオーバーライド解除フラグF2はオフであり、アクセルオーバーライドフラグF3もオフであるため、車両用制御装置20は、ステップS106,108にてそれぞれ「NO」と判定し、プログラムをステップS124に進める。
【0033】
なお、アクセルオーバーライド解除フラグF2は、ACC中に開始されたアクセル操作が解除されたか否かを示すフラグである。アクセルオーバーライド解除フラグF2がオンである場合、ACC中に開始されたアクセル操作が解除されていることを示す。ACC中に開始されたアクセル操作が解除されると、アクセルオーバーライド解除フラグF2がオンに設定される。アクセルオーバーライド解除フラグF2がオフである場合、ACC中に開始されたアクセル操作が解除されていないことを示す。ACC中にアクセル操作が実施されていない場合、アクセルオーバーライド解除フラグF2はオフに設定されている。
【0034】
また、アクセルオーバーライドフラグF3は、ACC中にアクセル操作が実施されているか否かを示すフラグである。アクセルオーバーライドフラグF3がオンである場合、ACC中にアクセル操作が実施されていることを示す。ACC中にアクセル操作が実施されると、アクセルオーバーライドフラグF3はオンに設定される。ACC中に実施されたアクセル操作が解除されると、アクセルオーバーライドフラグF3はオフに設定される。
【0035】
一方、ACC中(自動運転モード中)において、運転者が所定操作(アクセル操作)を行うと、その操作中(所定操作が解除されるまで)、車両用制御装置20は、その操作に従って通常運転を実施する(ステップS110)。具体的には、アクセル操作が行われると、アクセルオーバーライド解除フラグF2はオフであり、アクセルオーバーライドフラグF3はオンであるため、車両用制御装置20は、ステップS106,108にて「NO」、「YES」と判定し、プログラムをステップS110に進める。
【0036】
運転者が所定操作(アクセル操作)を終了するまで、アクセルオーバーライドは解除されないので、車両用制御装置20は、ステップS112にて「NO」と判定する。運転者が所定操作(アクセル操作)を終了すると、アクセルオーバーライドは解除されるので、車両用制御装置20は、ステップS112にて「YES」と判定する。そして、車両用制御装置20は、ステップS114において、アクセルオーバーライド解除フラグF2をオンに設定し、ステップS116において、復帰制御を実行する。復帰制御については、図4を参照して詳述する。
【0037】
アクセルオーバーライド解除フラグF2がオンに設定されるため、車両用制御装置20は、次回の制御サイクル以降において、ステップS106にて「YES」と判定するので、プログラムをステップS106からステップS116に進めることができる。
【0038】
復帰制御が完了(終了)し、かつ、運転者の操作によってACCが解除されるまでは、車両用制御装置20は、ステップS118,120にてそれぞれ「NO」と判定し、本フローチャートを一旦終了する。
復帰制御が完了(終了)したが、運転者の操作によってACCが解除されていない場合は、車両用制御装置20は、ステップS118にて「YES」と判定し、ステップS124においてACCを実施する。車両用制御装置20は、通常制御からACCに復帰をする。
運転者の操作によってACCが解除されると、車両用制御装置20は、ステップS120にてそれぞれ「YES」と判定し、ACCフラグF1をオフに設定して、本フローチャートを一旦終了する。
【0039】
復帰制御について図4を参照して詳述する。
車両用制御装置20は、ステップS202において、復帰制御開始時点(復帰後)から制御サイクルが初回であるか否かを判定する。復帰後初回である場合、車両用制御装置20は、ステップS202にて「YES」と判定し、プログラムをステップS204以降に進めて、目標駆動力および目標制動力(各要求トルク)の初期値を設定する。
【0040】
具体的には、ブレーキ機構18にブレーキ残圧がある場合すなわち車両Mが減速走行である場合には、車両用制御装置20は、ステップS206において、復帰直前のブレーキ残圧を、復帰の直前時点に発生させていた制動力として取得する(上述したブレーキ残圧取得部29と同様に取得する)。そして、車両用制御装置20は、その取得したブレーキ残圧を復帰の直後時点の目標制動力の初期値として設定する。
【0041】
その後、車両用制御装置20は、ステップS208において、パワートレインに対する目標駆動力の初期値を設定する。例えば、この場合の目標駆動力の初期値は、駆動源がエンジンである場合、エンジンのアイドル回転に相当する値が好ましく、またゼロでもよい。
【0042】
また、ブレーキ機構18にブレーキ残圧がない場合すなわち車両Mが加速走行または定速走行である場合には、車両用制御装置20は、制動力の発生の必要がない可能性が高いため、目標制動力は設定しない。しかし、車両用制御装置20は、駆動力の発生の必要があるため、目標駆動力は設定する。よって、車両用制御装置20は、ステップS204にて「NO」と判定し、ステップS208において、パワートレインに対する目標駆動力の初期値を設定する。
【0043】
車両用制御装置20は、初期値を設定した後、復帰後の自動運転モードにおいて復帰前の通常運転モード中の車両Mの運転状態に基づいて設定される特定制御を実施する。前記特定制御は、復帰をした復帰時点以降から、車両加速度推定部22によって推定された車両加速度(推定加速度)と目標加速度との偏差である差加速度が判定閾値以下となるまでの間においては、車両Mの速度または加速度に係るフィードバック制御を禁止する。
【0044】
具体的には、制御サイクルが二回目以上であるため、車両用制御装置20は、ステップS202にて「NO」と判定し、プログラムをステップS212以降に進める。
車両用制御装置20は、ステップS212において、上述した車両加速度推定部22と同様に、復帰前の通常運転モード中の車両Mの運転状態から、復帰後の自動運転モード中における車両Mの推定加速度を演算する。
【0045】
車両用制御装置20は、ステップS214において、上述した差加速度演算部25と同様に、推定加速度と目標加速度とから、両加速度の差である差加速度を演算する。
車両用制御装置20は、ステップS216において、上述した比較部26と同様に、差加速度と判定閾値とを比較する。差加速度が判定閾値より大きい場合、車両用制御装置20は、ステップS216にて「YES」と判定し、プログラムをステップS218に進める。車両用制御装置20は、ステップS218において、上述したFB制御許否決定部27と同様に、FB制御を禁止するとともにFB制御量を演算しない。
【0046】
一方、差加速度が判定閾値より小さい場合、車両用制御装置20は、ステップS216にて「NO」と判定し、プログラムをステップS222に進める。車両用制御装置20は、ステップS222において、上述したFB制御許否決定部27と同様に、FB制御を許可するとともに、上述した要求トルク演算部30と同様にFB制御量を演算する。
【0047】
また、車両用制御装置20は、ステップS220,224において、上述した要求トルク演算部30と同様に、FF制御量を演算する。
そして、車両用制御装置20は、ステップS210において、上述した要求トルク出力部31と同様に、ステップS220〜224にて演算された要求トルク(目標駆動力および/または目標制動力)を、パワートレイン機構17および/またはブレーキ機構18に出力する。
【0048】
さらに、上述した車両用制御装置20の作動を図5のタイムチャートを参照して説明する。図5は、定常走行からACCに復帰した場合のタイムチャートを示している。図5には、上から順番に車両速度、車両加速度(推定加速度および目標加速度)、アクセル操作量、および目標駆動力(目標エンジントルク)が記載されている。
【0049】
時刻t1までは、ACCモードである。ACCモード中に時刻t1にアクセル操作が開始されると、通常運転モードが開始される。
時刻t1から時刻t2までの間は、通常運転モードである。このとき、アクセル操作量に応じて目標エンジントルクが設定される。時刻t2にアクセル操作が解除されると、上述した復帰制御が時刻t3まで実施される。すなわち、時刻t2が復帰時点であり、時刻t2から時刻t3までは、復帰制御中である。
【0050】
復帰制御中(復帰後の自動運転モード)において、車両用制御装置20は、復帰前の通常運転モード中の車両の運転状態に基づいて設定される特定制御を実施する。すなわち、車両用制御装置20は、時刻t1から時刻t2までの車両加速度などから推定加速度を演算するとともに、時刻t2から時刻t3までの車両加速度などから推定加速度を演算する。車両用制御装置20は、この推定加速度と目標加速度との偏差が所定の閾値以下となるまでフィードバック制御を禁止する(特定制御)。
【0051】
また、特定制御は、復帰時点(時刻t2)では、目標駆動力をゼロとし、フィードバック制御禁止中においては基準目標駆動力(FF制御に係る目標駆動力)まで所定の変化速度で目標駆動力を変化させる、制御である。
時刻t3にて、差加速度が判定閾値より小さくなると、復帰制御が終了する。時刻t3以降であってACCが解除されるまでは、ACCが実施される。
【0052】
なお、図6は、定常走行からACCに復帰した場合の比較例に係るタイムチャートを示す。この比較例では、本発明に係る実施形態のように、復帰後に特定制御を実施しておらず、エンジントルクと実加速度との関係が通常の場合と異なる移行期間にFB制御を禁止していない。図6には、上から順番に車両速度、車両加速度(実加速度および目標加速度)、アクセル操作量、および目標駆動力(目標エンジントルク)が記載されている。
【0053】
本発明に係る実施形態と異なる点のみ説明する。比較例では、時刻t2に通常運転モードからACCに復帰がされるが、復帰後の車両加速度と目標加速度が大きく乖離した状態でFB制御が実施される。その結果、目標駆動力は、時刻t2以降大きく変動する。本発明に係る実施形態によれば、このような駆動力の大きな変動を抑制することができる。
【0054】
さらに、車両Mの減速中にアクセル操作をし、ACCに復帰した場合について説明する。この場合も、車両用制御装置20は、図4のフローチャートに沿った処理を実施する。この場合の車両用制御装置20の作動を図7のタイムチャートを参照して説明する。図7には、上から順番に車両速度、車両加速度(実加速度および目標加速度)、アクセル操作量、ブレーキ油圧、および目標駆動力(目標エンジントルク)が記載されている。
【0055】
時刻t11までは、ACCモードである。ACCモード中に時刻t11にアクセル操作が開始されると、通常運転モードが開始される。
時刻t11から時刻t12までの間は、通常運転モードである。このとき、アクセル操作量に応じて目標エンジントルクが設定される。時刻t11にてアクセル操作の開始に伴って自動ブレーキが解除される。時刻t12にアクセル操作が解除されると、上述した復帰制御が時刻t13まで実施される。すなわち、時刻t12が復帰時点であり、時刻t12から時刻t13までは、復帰制御中である。
【0056】
復帰制御中(復帰後の自動運転モード)において、車両用制御装置20は、復帰前の通常運転モード中の車両の運転状態に基づいて設定される特定制御を実施する。すなわち、車両用制御装置20は、復帰の直前時点に発生させていた制動力(後述するブレーキ残圧) を復帰の直後時点の目標制動力として設定し、復帰制御中はFB制御を禁止する(特定制御)。さらに、車両用制御装置20は、その後はブレーキ残圧を開始値(初期値) として目標ブレーキ油圧まで所定の変化速度でブレーキ油圧を変化させる(特定制御)。車両用制御装置20は、目標減速度となるようにブレーキ機構18を制御する(特定制御)。
【0057】
時刻t13にて、推定加速度が目標加速度との偏差が所定の閾値以下となると、復帰制御が終了する。時期t13以降であってACCが解除されるまでは、ACCが実施される。
【0058】
なお、図8は、定常走行からACCに復帰した場合の比較例に係るタイムチャートを示す。この比較例では、本発明に係る実施形態のように、復帰後に特定制御を実施しておらず、所定時間の間、制動制御を禁止している。図8には、上から順番に車両速度、車両加速度(実加速度および目標加速度)、アクセル操作量、ブレーキ油圧、および目標駆動力(目標エンジントルク)が記載されている。
【0059】
本発明に係る実施形態と異なる点のみ説明する。比較例では、時刻t12に通常運転モードからACCに復帰がされるが、所定時間の間、制動制御が禁止されるため、ブレーキ油圧はゼロまで減少し、制動制御禁止が解除された時点からFB制御が開始されるため、ブレーキ抜けが発生する。その結果、ブレーキフィーリングが悪化する。本発明に係る実施形態によれば、このようなブレーキフィーリングの悪化を抑制することができる。
【0060】
上述した説明から明らかなように、本実施形態の車両用制御装置20は、車両Mに正負の駆動力を付与するパワートレイン17(駆動源)と、パワートレイン17とは別に設けられて、車両Mに制動力を発生させるブレーキ機構18(制動機構)と、目標速度または目標加速度に基づいてパワートレイン17または/およびブレーキ機構18を制御することにより、車両Mの加速度を制御する加減速度制御部(車両用制御装置20)と、を有し、車両用制御装置20は、運転者の操作にかかわらず車両Mを自動運転する自動運転モード中において、運転者の所定操作によって自動運転モードが一旦停止されて運転者の操作に従って車両Mが運転される通常運転モードになった後、通常運転モードから自動運転モードへ復帰をする際に、復帰後の自動運転モードにおいて復帰前の通常運転モード中の車両Mの運転状態に基づいて設定される特定制御を実施する。
【0061】
これによれば、車両用制御装置20は、自動運転モード中において、通常運転モードから自動運転モードへ復帰をする際に、復帰後の自動運転モードにおいて復帰前の通常運転モード中の車両Mの運転状態に基づいて設定される特定制御を実施する。その結果、自動運転モード中において、通常運転モードから自動運転モードへの復帰をスムーズに行うことが可能となる。
【0062】
また、車両用制御装置20は、復帰前の通常運転モード中の車両Mの運転状態から、復帰後の自動運転モード中における車両Mの加速度を推定する車両加速度推定部22を有し、特定制御は、復帰をした復帰時点以降から、車両加速度推定部22によって推定された車両加速度と目標加速度との偏差である差加速度が判定閾値以下となるまでの間(時刻t2からt3までの間)においては、車両Mの速度または加速度に係るフィードバック制御を禁止する。
これによれば、自動運転モード中において、通常運転モードから自動運転モードへの復帰する際に、過度の加速度変化が車両Mに発生するのを抑制することができる。よって、通常運転モードから自動運転モードへの復帰をよりスムーズに行うことが可能となる。
【0063】
また、車両用制御装置20は、目標駆動力に基づいてパワートレイン17の駆動力を制御する要求トルク出力部31(駆動源制御部)と、目標速度と目標加速度の少なくとも何れか一方に基づいて目標駆動力の基準である基準目標駆動力を演算する基準目標駆動力演算部28と、を有し、特定制御は、復帰時点では、目標駆動力をゼロとし、フィードバック制御禁止中においては基準目標駆動力まで所定の変化速度で目標駆動力を変化させる。
これによれば、自動運転モード中において、通常運転モードから自動運転モードへの復帰する際に、過度の加速度変化が車両Mに発生するのを確実に抑制することができる。よって、通常運転モードから自動運転モードへの復帰をより確実かつスムーズに行うことが可能となる。
【0064】
また、車両用制御装置20は、目標駆動力に基づいてブレーキ機構18の制動力を制御する要求トルク出力部31(制動機構制御部)を有し、特定制御は、復帰の直前時点に発生させていた制動力を復帰の直後時点の目標制動力として設定する。
これによれば、自動運転モード中において、通常運転モードから自動運転モードへの復帰する際に、減速度の急変が生じるのを抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
11…ACCスイッチ、12…アクセル開度センサ、13…加速度センサ、14…車速センサ、15…車間距離センサ、16…ブレーキ油圧センサ、17…パワートレイン(駆動源)、18…ブレーキ機構(制動機構)、20…車両用制御装置、21…車両状態取得部、22…車両加速度推定部、23…目標加速度演算部(目標速度演算部)、24…実加速度取得部、25…差加速度演算部、26…比較部、27…フィードバック制御許否決定部、28…基準目標駆動力演算部、29…ブレーキ残圧取得部、30…要求トルク演算部、31…要求トルク出力部、M…車両。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8