(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237731
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/861 20060101AFI20171120BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20171120BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
H01L29/91 J
H01L29/91 D
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-167311(P2015-167311)
(22)【出願日】2015年8月27日
(62)【分割の表示】特願2013-232191(P2013-232191)の分割
【原出願日】2004年5月27日
(65)【公開番号】特開2016-1754(P2016-1754A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】松井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】星 保幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 靖
【審査官】
棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−106368(JP,A)
【文献】
特開平06−314801(JP,A)
【文献】
特開平04−314367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/06
H01L 29/86−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層の表面層に選択的に設けられた第2導電型半導体領域よりなる12.6μm以上30μm以下の深さの拡散領域と、
前記拡散領域と前記第1導電型半導体層との接合界面であるPN接合面の最も深い位置d1よりも浅い位置d2から、該PN接合面の最も深い位置d1よりも深い位置d3までの深さにわたり、前記拡散領域の底面に平行な方向の全面にわたって、Heイオンの照射により形成されたライフタイムキラーを含むことによって、他の領域よりもキャリアのライフタイムが短い低ライフタイム領域と、を備え、
前記低ライフタイム領域の前記Heイオンのピーク位置が前記d1の深さの80%以上120%以下の範囲であり、
前記d1の深さが前記Heイオンの照射半値幅よりも深く、
前記拡散領域は、主電流が流れる前記半導体領域の周囲に設けられたガードリング領域を含み、
該ガードリング領域の底面は前記低ライフタイム領域の内部に位置し、
前記拡散領域および前記ガードリング領域の深さは同じであり、
前記位置d2から前記位置d1までの深さの値が、前記拡散領域の表面から前記位置d2までの深さの値よりも小さく、
前記低ライフタイム領域が、前記PN接合面の最も深い位置d1を挟んで、上下にそれぞれ5μmの幅を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層の表面層に選択的に設けられた第2導電型半導体領域よりなる12.6μm以上30μm以下の深さの拡散領域と、
前記拡散領域と前記第1導電型半導体層との接合界面であるPN接合面の最も深い位置d1よりも浅い位置d2から、該PN接合面の最も深い位置d1よりも深い位置d3までの深さにわたり、Heイオンの照射により形成されたライフタイムキラーを含むことによって、他の領域よりもキャリアのライフタイムが短い低ライフタイム領域と、を備え、
前記低ライフタイム領域の前記Heイオンのピーク位置が前記d1の深さの80%以上120%以下の範囲であり、
前記d1の深さが前記Heイオンの照射半値幅よりも深く、
前記拡散領域は、主電流が流れる前記半導体領域の周囲に設けられたガードリング領域を含み、
該ガードリング領域の底面は前記低ライフタイム領域の内部に位置し、
前記低ライフタイム領域の底面は前記半導体層の表面に平行であり、
前記位置d2から前記位置d1までの深さの値が、前記拡散領域の表面から前記位置d2までの深さの値よりも小さく、
前記低ライフタイム領域が、前記PN接合面の最も深い位置d1を挟んで、上下にそれぞれ5μmの幅を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
前記低ライフタイム領域は、前記拡散領域の底面に平行な方向の全面にわたって前記ライフタイムキラーを含むことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記低ライフタイム領域の前記Heイオンのピーク位置が前記Heイオンの照射半値幅よりも深いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記d3の位置よりも深い位置の前記第1導電型半導体層は、前記ライフタイムキラーを含まないことにより、前記低ライフタイム領域よりもライフタイムが長いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記キャリアのライフタイムが前記低ライフタイム領域においてのみ低減されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記拡散領域の深さが14μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記Heイオンのピーク位置が16μm以上20μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記半導体装置がPINダイオードであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記半導体装置がコンバータダイオードであることを特徴とする請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記位置d1から前記位置d3までの深さの値が、前記拡散領域の表面から前記位置d2までの深さの値よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パワーモジュール等に搭載される半導体装置およびその製造方法に関し、特に半導体モジュールに印加された雷サージ等に対して高い耐量を有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、パワーモジュールの一例を示す図である。
図6に示すように、このパワーモジュールは、コンバータ部1、ブレーキ部2、インバータ部3およびサーミスタ4を備えている。通常、コンバータ部1のコンバータダイオード5は、PINダイオードにより構成される。例えば、モジュール定格が1200Vまたは600Vである場合、コンバータダイオード5として、それぞれ1600V以上または800V以上の耐圧を有するPINダイオードが用いられる。
【0003】
このように定格以上の耐圧が要求される理由は、モジュールに定格以上の耐圧がかかることがあり、そのような場合にPINダイオードの破壊が起こらないようにするためである。また、コンバータダイオード5として用いられるPINダイオードでは、順電圧VFが低いことが要求される。例えば、モジュール定格が1200Vであるコンバータダイオード5では、順電圧VFの要求値は、1.2〜1.5V程度である。
【0004】
図7は、従来のプレーナ型PINダイオードの構成を示す断面図である。
図7に示すように、n
+半導体層11の上に、カソード領域となるn
-半導体層12が設けられている。n
-半導体層12の表面層には、アノード領域となるp
+拡散領域13と、ガードリング領域となるp
+拡散領域14,15が設けられている。
【0005】
p
+拡散領域14,15の表面は、SiO
2等の絶縁膜16により覆われている。p
+拡散領域13には、アノード電極17が接触している。n
+半導体層11は、カソード電極18に電気的に接続されている。なお、本明細書および添付図面において、nまたはpを冠記した層や領域は、それぞれ電子または正孔がキャリアであることを意味する。また、nやpに付す
+、または
-もしくは
--は、それぞれ比較的高不純物濃度または比較的低不純物濃度であることを表す。
【0006】
従来のコンバータダイオード5の各部の寸法等は、次のとおりである。モジュール定格が1200Vであり、耐圧が1600Vである場合、比抵抗約120ΩcmのFZウェハよりなるn
-半導体層12の厚さは、300μmである。そして、p
+拡散領域13の深さは、6〜8μmであり、そのドーズ量は、1×10
15cm
-2である。
【0007】
また、モジュール定格が600Vであり、耐圧が800Vである場合には、比抵抗約40Ωcmの拡散ウェハよりなるn
-半導体層12の厚さは、80μm程度である。そして、p
+拡散領域13については、モジュール定格1200Vの場合と同じである。
【0008】
上述したパワーモジュールにおいて、コンバータ動作時に雷サージ等が入ると、コンバータ部1に逆回復電流の減衰率(以下、di/dtと表す)の高いサージが印加される。そのため、コンバータダイオード5は、激しい逆回復動作モードとなり、高いdi/dtに耐えられずに、
図8に示すように、破壊してしまうことがある。
図8は、従来のコンバータ部1に高いdi/dtのサージが入り、コンバータダイオード5が破壊したときの波形図である。
図8では、電流については1目盛りが100Aであり、電圧については1目盛りが200Vであり、時間については1目盛りが1μ秒である。
【0009】
このような不具合が起こるのを防ぐため、近年、パワーモジュールに搭載されるコンバータ部1に対して、雷サージ等の高いdi/dtのサージに耐えられることが要求されている。以下、本明細書では、このdi/dtに対する耐量をdi/dt耐量と表記する。
【0010】
ところで、ダイオードの逆回復動作モード時に、チップの外周部に電流が過度に集中して発熱すると、ダイオードが破壊してしまう。これを避けるため、Heイオンの照射によりダイオードの電極端部にのみライフタイムの短い領域を形成して、逆回復耐量を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。Heイオンの照射によりライフタイムの短い領域を形成することは、別の文献にも記載されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
また、接合深さが4〜8μmのPN接合付近にライフタイムキラーを導入して、PN接合付近のライフタイムを短くした高速ダイオードが公知である(例えば、特許文献3参照。)。また、接合深さが3μm程度のPN接合を有するダイオードに対して、深さが10〜30μmの範囲内にHeイオンを照射して、p層の下のn
-層中にライフタイムの短い領域を導入した半導体装置が公知である(例えば、特許文献4参照。)。さらに、ライフタイムキラーとして重金属を熱拡散させて導入する半導体素子の製造方法が公知である(例えば、特許文献5参照。)。
【0012】
なお、インバータ部3のフリーホイーリングダイオード6(
図6参照)の各部の寸法等は、次のとおりである。耐圧が1200Vである場合、n
--半導体層およびn
-半導体層よりなるエピタキシャルウェハにおいて、比抵抗約65Ωcmのn
--半導体層の厚さは、約70μmである。比抵抗約40Ωcmのn
-半導体層の厚さは、約50μmである。
【0013】
耐圧が600Vである場合には、同様のエピタキシャルウェハにおいて、比抵抗約25Ωcmのn
--半導体層の厚さは、約45μmである。比抵抗約15Ωcmのn
-半導体層の厚さは、約25μmである。そして、いずれの耐圧でも、p
+拡散領域の深さは、3〜4μmであり、そのドーズ量は、10
13cm
-2程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−135831号公報
【特許文献2】特開平10−116998号公報
【特許文献3】特開平10−200132号公報
【特許文献4】特開2003−249662号公報
【特許文献5】特開2004−6664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記各特許文献に記載されている技術は、半導体装置として動作しているときの逆回復時のソフトリカバリー特性と、ソフトリカバリー化による逆回復時の破壊防止に関するものである。通常のリカバリー特性におけるdi/dtは、500〜1000A/μ秒程度である。
【0016】
それに対して、コンバータ部に入ることが予想される雷サージのdi/dtは、約3500A/μ秒である。そのため、上記各特許文献に記載されている技術によって得られるdi/dt耐量は、雷サージ等の高いdi/dtに対しては、不十分である。実際に本発明者らが実験したところ、上記各特許文献に記載されている技術では、雷サージ等に対して有効な高いdi/dt耐量を得ることができないことが判明した。
【0017】
例えば、ダイオードの全面にライフタイムキラーを導入し、チップの全面にわたってライフタイムを低下させることによって、di/dt耐量がある程度、改善されることがわかっているが、そのためには順電圧VFを大幅に増大させる必要がある。しかし、上述したように、コンバータダイオードでは、順電圧VFを低くしなければならないので、順電圧VFを増大させることは好ましくない。
【0018】
また、チップの外周部や端部において局所的にライフタイムを低下させることによっても、di/dt耐量がある程度、改善されるが、雷サージに耐え得る程度に十分に高いdi/dt耐量を得ることはできない。また、この場合、局所的にライフタイムキラーを導入するための導入しない部分への厚い遮蔽膜を形成したり、その遮蔽膜を除去する必要があるため、製造工程が複雑になり、チップコストが上昇してしまうという不都合がある。
【0019】
また、チップ表面またはその近傍に、Heイオンやプロトン等を用いて深さ方向に局所的にライフタイムの短い領域を形成しても、十分なdi/dt耐量を得ることはできない。また、ライフタイムキラーとして重金属を拡散させる場合には、その拡散深さを制御するのは難しい。
【0020】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、雷サージに耐え得る程度に十分に高いdi/dt耐量と、低い順電圧VFを有する半導体装置を提供することを目的とする。また、この発明は、雷サージに耐え得る程度に十分に高いdi/dt耐量と、低い順電圧VFを有する半導体装置を容易に作製することができる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、チップ全面にわたってPN接合面よりも浅い位置から深い位置までの領域にライフタイムの短い領域を存在させることによって、雷サージ等に対して十分に高いdi/dt耐量が得られることを見出した。また、本発明者らは、PN接合面がある程度深くなると、雷サージ等に対して十分に高いdi/dt耐量が得られることも見出した。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0022】
この発明にかかる半導体装置は、
第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層の表面層に選択的に設けられた第2導電型半導体領域よりなる12.6μm以上30μm以下の深さの拡散領域と、
前記拡散領域と前記第1導電型半導体層との接合界面であるPN接合面の最も深い位置d1よりも浅い位置d2から、該PN接合面の最も深い位置d1よりも深い位置d3までの深さにわたり、前記拡散領域の底面に平行な方向の全面にわたって、Heイオンの照射により形成されたライフタイムキラーを含むことによって、他の領域よりもキャリアのライフタイムが短い低ライフタイム領域と、を備え、
前記低ライフタイム領域の前記Heイオンのピーク位置が前記d1の深さの80%以上120%以下の範囲であり、
前記d1の深さが前記Heイオンの照射半値幅よりも深く、
前記拡散領域は、主電流が流れる前記半導体領域の周囲に設けられたガードリング領域を含み、
該ガードリング領域の底面は前記低ライフタイム領域の内部に位置し、
前記拡散領域および前記ガードリング領域の深さは同じであり、
前記位置d2から前記位置d1までの深さの値が、前記拡散領域の表面から前記位置d2までの深さの値よりも小さ
く、
前記低ライフタイム領域が、前記PN接合面の最も深い位置d1を挟んで、上下にそれぞれ5μmの幅を有する半導体装置とする。
【0023】
この発明にかかる半導体装置は、
第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層の表面層に選択的に設けられた第2導電型半導体領域よりなる12.6μm以上30μm以下の深さの拡散領域と、
前記拡散領域と前記第1導電型半導体層との接合界面であるPN接合面の最も深い位置d1よりも浅い位置d2から、該PN接合面の最も深い位置d1よりも深い位置d3までの深さにわたり、Heイオンの照射により形成されたライフタイムキラーを含むことによって、他の領域よりもキャリアのライフタイムが短い低ライフタイム領域と、を備え、
前記低ライフタイム領域の前記Heイオンのピーク位置が前記d1の深さの80%以上120%以下の範囲であり、
前記d1の深さが前記Heイオンの照射半値幅よりも深く、
前記拡散領域は、主電流が流れる前記半導体領域の周囲に設けられたガードリング領域を含み、
該ガードリング領域の底面は前記低ライフタイム領域の内部に位置し、
前記低ライフタイム領域の底面は前記半導体層の表面に平行であり、
前記位置d2から前記位置d1までの深さの値が、前記拡散領域の表面から前記位置d2までの深さの値よりも小さ
く、
前記低ライフタイム領域が、前記PN接合面の最も深い位置d1を挟んで、上下にそれぞれ5μmの幅を有する半導体装置とする。
【0024】
前記低ライフタイム領域は、前記拡散領域の底面に平行な方向の全面にわたって前記ライフタイムキラーを含めてもよい。
前記低ライフタイム領域の前記Heイオンのピーク位置が前記Heイオンの照射半値幅よりも深くてもよい。
【0025】
前記d3の位置よりも深い位置の前記第1導電型半導体層は、前記ライフタイムキラーを含まないことにより、前記低ライフタイム領域よりもライフタイムが長くてもよい
。
【0026】
前記拡散領域の深さが14μm以上20μm以下であってもよい。
前記Heイオンのピーク位置が16μm以上20μm以下の範囲であってもよい
。
【0028】
前記半導体装置がPINダイオードであってもよい。
前記半導体装置がコンバータダイオードであってもよい。
前記位置d1から前記位置d3までの深さの値が、前記拡散領域の表面から前記位置d2までの深さの値よりも小さくてもよい。
【0029】
この発明によれば、チップの全面にHeイオンを照射するので、チップの全面にわたって、12.6μm以上の深さのPN接合面よりも浅い位置から深い位置までの領域にライフタイムの短い領域を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明にかかる半導体装置によれば、順電圧VFを大幅に増大させなくても、雷サージ等に対して十分に高いdi/dt耐量が得られるので、雷サージに耐え得る程度に十分に高いdi/dt耐量と、低い順電圧VFを有する半導体装置が得られるという効果を奏する。また、本発明にかかる半導体装置の製造方法によれば、チップの全面にわたって、12.6μm以上の深さのPN接合面よりも浅い位置から深い位置までの領域にライフタイムの短い領域を容易に形成することができるので、雷サージに耐え得る程度に十分に高いdi/dt耐量と、低い順電圧VFを有する半導体装置を容易に作製することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施の形態にかかるプレーナ型PINダイオードの構成を示す断面図である。
【
図2】実施の形態にかかるPINダイオードのサージ波形を示す波形図である。
【
図3】実施の形態にかかるPINダイオードのdi/dt耐量と順電圧VFとの関係を示す特性図である。
【
図4】実施の形態にかかるPINダイオードのdi/dt耐量とPN接合深さとの関係を示す特性図である。
【
図5】実施の形態にかかるPINダイオードのdi/dt耐量とHeイオンのピーク位置との関係を示す特性図である。
【
図6】自動車用パワーモジュールの一例を示す回路図である。
【
図7】従来のプレーナ型PINダイオードの構成を示す断面図である。
【
図8】従来のコンバータ部にサージが入ったときの波形を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置およびその製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかるプレーナ型PINダイオードの構成を示す断面図である。
図1に示すように、n
+半導体層21の上に、カソード領域となるn
-半導体層22が設けられている。ダイオードとして電流が流れる活性領域において、n
-半導体層22の表面層には、アノード領域となるp
+拡散領域23が選択的に設けられている。
【0033】
また、活性領域の外側の耐圧構造部において、n
-半導体層22の表面層には、ガードリング領域となるp
+拡散領域24,25が設けられている。耐圧構造部の表面は、SiO
2等の絶縁膜26により覆われている。アノード電極27は、p
+拡散領域23に接触している。カソード電極28は、n
+半導体層21に電気的に接続されている。
【0034】
また、低ライフタイム領域32が、n
-半導体層22とp
+拡散領域23との接合界面であるPN接合面31の最も深い位置d1よりも浅い位置d2から、このPN接合面31の最も深い位置d1よりも深い位置d3まで、チップ全体にわたって設けられている。低ライフタイム領域32は、Heイオンやプロトン等の軽イオン(以下、Heイオン等とする)の照射により形成されたライフタイムキラーを含んでおり、他の領域よりもキャリアのライフタイムが短い領域である。
【0035】
低ライフタイム領域32は、ガードリング領域となるp
+拡散領域24,25とn
-半導体層22との接合界面であるPN接合面33,34の最も深い部分も含んでいる。このように低ライフタイム領域32が設けられていることによって、ダイオードの逆回復時に、端部への電流集中が抑えられるので、高いdi/dt耐量が得られる。
【0036】
ここで、p
+拡散領域23の深さ、すなわちn
-半導体層22とp
+拡散領域23とからなるPN接合面31の最も深い位置d1は、p
+拡散領域23の表面から12.6μm以上22μm以下の範囲にあるのが好ましい。d1の設計上の値は、14μm以上20μmであるが、±10%の結晶公差を見込むと、実際にできあがったダイオードでは、d1はこのような値となる。
【0037】
図1に示す構成のダイオードを作製するにあたっては、まず、n
-半導体層22の表面層にp
+拡散領域23,24,25を選択的に形成する。その際、ガードリング領域となるp
+拡散領域24,25や、アノード領域となるp
+拡散領域23の終端部分のみを局所的に深くする必要はない。つまり、1回の拡散で同時にp
+拡散領域23,24,25を形成することができる。従って、チップコストが増大することはない。
【0038】
そして、p
+拡散領域23,24,25およびn
-半導体層22の全面にHeイオン等を照射して、結晶中にHeイオン等を導入する。その後、350℃程度の温度でアニールを行う。このようにして、ライフタイムキラーを導入し、低ライフタイム領域32を形成する。
【0039】
上記プロセスにおいてHeイオン等を照射する際には、p
+拡散領域23の深さ、すなわち前記d1の深さがHeイオン等の照射半値幅以上になるようにする。また、Heイオン等のピーク位置がHeイオン等の照射半値幅よりも深くなるようにする。さらに、Heイオン等のピーク位置が前記d1の深さの80%以上120%以下の範囲になるようにする。
【0040】
照射する軽イオンとしては、Heイオンが効果的である。具体的にHeイオンの照射条件の一例を挙げれば、例えば、23MeVの加速電圧で3He
2+を照射する。この場合には、前記d1の位置を挟んで上下にそれぞれ5μm程度の幅を有する低ライフタイム領域32が形成される。このようにすることによって、効果的に逆回復時のキャリアを消滅させることができる。
【0041】
一例として、実施の形態にかかるPINダイオードの各部の寸法等は、次のとおりである。モジュール定格が1200Vであり、耐圧が1600Vである場合、比抵抗120ΩcmのFZウェハよりなるn
-半導体層22の厚さは、300μmである。そして、p
+拡散領域23の深さは、結晶公差を含めると20±2μmであり、そのドーズ量は、1×10
15cm
-2である。
【0042】
次に、本発明者らが、実施の形態にかかるPINダイオードの特性を調べた結果について説明する。
図2は、サージ波形を調べた結果を示す波形図である。
図2より、di/dtが4000A/μ秒であるが、ダイオードは破壊していないことがわかる。
【0043】
図3は、di/dt耐量と順電圧VFとの関係を示す特性図である。
図3に示すように、順電圧VFの増加を最小限に抑えつつ、4000A/μ秒を超えるdi/dt耐量が確保されていることがわかる。
図3に示す例では、Heイオンを照射した後、350℃程度の温度でアニールを実施することにより、順電圧VFとサージに対する高いdi/dt耐量の両方が達成されている。
【0044】
図4は、di/dt耐量とPN接合深さ(前記d1)、すなわちp
+拡散領域23の深さとの関係を示す特性図である。
図4に示すように、PN接合深さを14μm以上にすることによって、低ライフタイム領域32が半導体結晶の内部に形成されるので、4000A/μ秒以上の高いdi/dt耐量が得られることがわかる。なお、
図4において、白抜きの丸印で示すプロットは、PN接合深さが8μmである従来のPINダイオードのものである。
【0045】
図5は、PN接合深さ(前記d1)を16μmまたは20μmとしたときのdi/dt耐量とHeイオンのピーク位置、すなわち低ライフタイム領域32の深さとの関係を示す特性図である。
図5に示すように、低ライフタイム領域32がPN接合面31を含み、かつHeイオンのピーク位置がPN接合深さの±20%以内であれば、その実力値が同等であることがわかる。また、このときに、順電圧VFを最小限に抑えることができる。
【0046】
以上説明したように、実施の形態によれば、低ライフタイム領域32が、チップの全面にわたって、14〜20μm(設計値)の深さにあるPN接合面31よりも浅い位置(d2)から深い位置(d1)までの領域に設けられているので、端部において消滅しきれずに残ったキャリアを効果的に消滅させることができる。従って、順電圧VFを大幅に増大させなくても、雷サージ等に対して十分に高いdi/dt耐量を有するダイオードが得られる。
【0047】
以上において、本発明は、上述した実施の形態に限らず、種々変更可能である。例えば、上述した寸法やドーズ量などは一例であり、これに限定されるものではない。また、上述した実施の形態では、第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は、第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明にかかる半導体装置およびその製造方法は、パワーモジュール等に搭載される半導体装置に有用であり、特に、コンバータに用いられるPINダイオードや、インバータに用いられるフリーホイーリングダイオードに適している。
【符号の説明】
【0049】
22 第1導電型半導体層(n
-半導体層)
23,24,25 第2導電型拡散領域(p
+拡散領域)
31 PN接合面
32 低ライフタイム領域