特許第6237736号(P6237736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237736
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】加工方法および加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20171120BHJP
   B23Q 15/08 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B23Q17/09 A
   B23Q15/08
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-180903(P2015-180903)
(22)【出願日】2015年9月14日
(65)【公開番号】特開2016-87781(P2016-87781A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2016年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-221282(P2014-221282)
(32)【優先日】2014年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】廣池 承一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 嵩淳
(72)【発明者】
【氏名】白▲崎▼ 公人
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩二
【審査官】 青山 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−120452(JP,A)
【文献】 特開昭55−5252(JP,A)
【文献】 実開昭53−036585(JP,U)
【文献】 特開2007−222997(JP,A)
【文献】 特開2012−232387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/09
B23Q 15/08
G05B 23/00 − 23/02
G05B 19/18 − 19/416
G05B 19/42 − 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と、主軸に装着され、ワークに対して加工を行う工具と、工具を主軸とともに回転させる回転モータと、主軸および回転モータを収容する主軸台と、主軸台を主軸と平行な方向に移動させる送りモータとを有する加工装置を用いてワークを加工する加工方法であって、
前記ワークの材料に応じて事前に変動値の閾値および限界回数を設定し、
加工時に前記送りモータの負荷に対応する電気的パラメータを測定手段にて測定し、
その電気的パラメータの波形から電気的パラメータの変動値を求め、
その変動値が事前に設定された前記閾値を超えた回数を閾値超過回数として計数し、
閾値超過回数が事前に設定された前記限界回数を超えた場合に、前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させることを特徴とする加工方法。
【請求項2】
前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させた後に、前記閾値超過回数が前記限界回数を超えた場合に、さらに加工速度を所定の割合で減速させる操作を行うとともに、その減速回数を計数し、前記減速回数が事前に設定された限界減速回数を超えた場合に加工を中断することを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記工具によるワークの加工速度を所定の割合で減速させた後に、所定の時間、電気的パラメータの変動値が前記閾値を超過しなかった場合、加工速度を減速前の速度に戻すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加工方法。
【請求項4】
前記閾値および限界回数を一組とした制御数値を複数設定し、これら閾値の閾値超過回数を個別に計数し、いずれかの閾値超過回数が対応する限界回数を超えた場合に前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項5】
前記電気的パラメータは、前記送りモータの負荷電流であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項6】
前記変動値を、所定のサンプリング時間における前記送りモータの負荷電流値の|最大値−最小値|と定義することを特徴とする請求項5に記載の加工方法。
【請求項7】
主軸と、
主軸に装着され、ワークに対して加工を行う工具と、
工具を主軸とともに回転させる回転モータと、
主軸および回転モータを収容する主軸台と、
主軸台を主軸と平行な方向に移動させる送りモータと、
加工時に前記送りモータの負荷に対応する電気的パラメータを測定する測定手段と、
少なくとも前記工具によるワークに対する加工速度を制御する制御部と
を有し、
前記制御部は、
前記ワークの材料に応じて事前に変動値の閾値および限界回数を設定し、
前記測定手段が測定した電気的パラメータの波形から電気的パラメータの変動値を求め、
その変動値が事前に設定された閾値を超えた回数を閾値超過回数として計数し、
閾値超過回数が事前に設定された限界回数を超えた場合に、前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させることを特徴とする加工装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させた後に、前記閾値超過回数が前記限界回数を超えた場合に、さらに加工速度を所定の割合で減速させる操作を行うとともに、その減速回数を計数し、前記減速回数が事前に設定された限界減速回数を超えた場合に加工を中断することを特徴とする請求項7に記載の加工装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記工具によるワークの加工速度を所定の割合で減速させた後に、所定の時間、電気的パラメータの変動値が前記閾値を超過しなかった場合、加工速度を減速前の速度に戻すことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の加工装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記閾値および限界回数を一組とした制御数値が複数設定され、これら閾値の閾値超過回数を個別に計数し、いずれかの閾値超過回数が対応する限界回数を超えた場合に前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項11】
前記電気的パラメータは、前記送りモータの負荷電流であることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項12】
前記変動値を、所定のサンプリング時間における前記送りモータの負荷電流値の|最大値−最小値|と定義することを特徴とする請求項11に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴あけ加工に好適な加工方法および加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
穴あけ加工等の加工を行う場合には、主軸と、主軸に装着された工具と、工具を主軸とともに回転させる回転モータと、主軸および回転モータを収容する主軸台と、主軸台を主軸と平行な方向に移動させる送りモータとを有する加工装置が一般的に用いられる。
【0003】
このような加工装置において、工具破損を防止する方法としては工具を回転させる回転モータの電力波形を測定し、新品刃の波形を基準波形とし、加工中の電力波形をパターン認識にすることによりチッピングを検出する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−245846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被削材であるワーク内部に空隙が分布している場合や、切削箇所によって被削性がばらつくため再現性が不確定な場合(例えば鋳造物)は、基準波形を取得することは困難である。また、空隙が工具の回転軸に対応する部分に分布している場合、空隙の有無や状態は主軸の回転モータの電流波形には反映されない。これは工具中心付近では刃とワークの相対速度が小さくなり、回転モータの負荷への寄与が小さくなるためである。
【0006】
図7は、空隙部を加工した際の送りモータの負荷(Z軸負荷)を示す図である。加工開始初期から波形が大きく振動しており、空隙の影響を反映しているが、この段階で加工を中断し刃先を確認したところチッピングや刃先摩耗は発生していなかった。しかし、この振動が継続し、切削刃への負荷が蓄積、あるいは切削刃を取り付けているネジが緩むことによりチッピングへと発展する。
【0007】
このように、ある程度刃先が摩耗してからチッピングが発生するのではなく、ワーク側の要因で突発的にチッピングが発生するため、チッピング発生後に加工を停止したのでは工具費用の増大が避けられない。また、一旦加工を中断すると工具刃先のチェックなどの段取りが必要となり生産性の低下となる。さらに、チッピングが発生してから加工を停止する手法は、一部のフライス加工や旋盤加工など、刃先の消失分だけ切削量が減少する加工方法には有効であるが、ドリル加工などの穴あけ加工では刃先の消失が工具本体の破損につながるため、加工停止が間に合わないケースがある。
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、被削性が異なる部分を含むワークであっても、工具にチッピング等の破損が生じる前にその兆候を検出可能であり、加工中断や工具の破損を最小限に抑えることができる加工方法および加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、主軸と、主軸に装着され、ワークに対して加工を行う工具と、工具を主軸とともに回転させる回転モータと、主軸および回転モータを収容する主軸台と、主軸台を主軸と平行な方向に移動させる送りモータとを有する加工装置を用いてワークを加工する加工方法であって、加工時に前記送りモータの負荷に対応する電気的パラメータを測定手段にて測定し、その電気的パラメータの波形から電気的パラメータの変動値を求め、その変動値が事前に設定された閾値を超えた回数を閾値超過回数として計数し、閾値超過回数が事前に設定された限界回数を超えた場合に、前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させることを特徴とする加工方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、主軸と、主軸に装着され、ワークに対して加工を行う工具と、工具を主軸とともに回転させる回転モータと、主軸および回転モータを収容する主軸台と、主軸台を主軸と平行な方向に移動させる送りモータと、加工時に前記送りモータの負荷に対応する電気的パラメータを測定する測定手段と、少なくとも前記工具によるワークに対する加工速度を制御する制御部とを有し、前記制御部は、前記測定手段が測定した電気的パラメータの波形から電気的パラメータの変動値を求め、その変動値が事前に設定された閾値を超えた回数を閾値超過回数として計数し、閾値超過回数が事前に設定された限界回数を超えた場合に、前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させることを特徴とする加工装置を提供する。
【0011】
本発明において、前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させた後に、前記閾値超過回数が前記限界回数を超えた場合に、さらに加工速度を所定の割合で減速させる操作を行うとともに、その減速回数を計数し、前記減速回数が事前に設定された限界減速回数を超えた場合に所定の加工深さまで加工が完了していなくても加工を中断するようにすることができる。
【0012】
本発明において、前記工具によるワークの加工速度を所定の割合で減速させた後に、所定の時間、電気的パラメータの変動値が前記閾値を超過しなかった場合、加工速度を減速前の速度に戻すようにすることができる。
【0013】
また、前記閾値および限界回数を一組とした制御数値を複数設定し、これら閾値の閾値超過回数を個別に計数し、いずれかの閾値超過回数が対応する限界回数を超えた場合に前記工具によるワークの加工中に加工速度を所定の割合で減速させてもよい。
【0014】
前記電気的パラメータとして、前記送りモータの負荷電流を好適に用いることができる。また、このとき、前記変動値を、前記送りモータの負荷電流値の|最大値−最小値|と定義することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、工具に及ぼされる負荷の指標として送りモータの電気的パラメータの変動値を求め、ワークの材料等に応じて事前に変動値の閾値および限界回数を設定することにより、工具にチッピング等の破損が生じる前にその兆候を検出することが可能となる。また、限界回数を超えた場合に加工速度を減速させることにより、加工中断や工具のチッピング等の破損を最小限に抑えた加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る加工装置の構成を示す図である。
図2】送りモータの負荷電流波形の一例を示す図である。
図3】負荷振幅と送り速度との関係を示す図である。
図4】本発明の一実施形態の加工装置における制御フローの概略を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態の加工装置における制御ロジックの一例を示す図である。
図6】本発明の実施例において穴あけ加工を行った際の負荷電流波形(Z軸負荷波形)を示す図である。
図7】従来の方法で空隙部を加工した際の送りモータの負荷(Z軸負荷)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る加工装置の構成を示す図である。この加工装置はワークに対して粗加工穴を形成する穴あけ加工装置として構成される。なお、粗加工穴とは穴内壁の粗さや加工径精度を問わない加工穴を示すものとする。
【0018】
加工装置1は、主軸2と、主軸2に装着された工具3と、工具3を主軸とともに回転させる回転モータ4と、主軸2および回転モータ4を収容する主軸台5と、主軸台5を主軸2と平行な方向(Z軸方向)に移動させる送りモータ6と、ワーク10をセットする架台7と、送りモータ6の負荷電流を測定する測定装置8と、測定装置8で測定された測定値に基づき、加工を制御する制御部9とを有する。送りモータ6は、移動機構(送り機構)11内に設けられ、送りモータ6の送りは移動機構11内の適宜の伝達機構(図示せず)により主軸台5に伝達される。また、図示してはいないが、加工装置1は、ワーク10に対する工具3の位置合わせを行う位置合わせ機構も有している。
【0019】
測定装置8は、工具3によりワーク10に穴加工を施す際に、送りモータ6にかかる負荷(Z軸負荷)を負荷電流として計測するものである。この負荷電流は、工具3にかかる送り方向の負荷に相当するものである。
【0020】
制御部9は、測定装置8により計測された負荷電流信号を受信し、負荷電流の変動値(変動割合)を求め、その変動値(変動割合)が事前に設定された閾値を超えた回数を閾値超過回数として計数し、閾値超過回数が事前に設定された限界回数を超えた場合に、加工速度を減速させる。加工速度は、Z軸方向の工具の移動速度(工具送り速度)である。また、制御部9は、減速後に一定時間、変動値が閾値を超えなければ元の速度を上限とした加工速度に増速させる。この一定時間を判定時間と定義する。
【0021】
負荷電流の変動値(変動割合)は、例えば図2に基づいて以下のように定義する。図2は、ワーク加工時に送りモータ6に流れる負荷電流の一例である。縦軸は加工時に流れる送りモータ6の電流であって、基準値に対して規格化した値で示す。基準値は、例えば無負荷、すなわちワークを加工していない状態での電流値とすることができる。ここで図2の上側の領域を領域Xとし、下側の領域を領域Yとした場合に、領域Xでの電流値のピークを最大値(Imax)、領域Yでの電流値のピークを最小値(Imin)とし、負荷電流の変動値(変動割合)を|Imax−Imin|(ImaxとIminの差の絶対値)と定義する。
【0022】
以上のように構成された加工装置1においては、まず、架台7にワーク10をセットし、次いで、位置合わせ機構によりワーク10に対する工具3の位置合わせを行う。次いで、回転モータ4により主軸2とともに工具3を回転させ、送りモータ6により主軸台5を下方に移動させながら、回転する工具3によりワーク10に穴加工を施す。
【0023】
このとき、被削性が異なる部分が存在する場合、例えば、ワーク内部に空隙が分布している場合や、切削箇所によって被削性が均一でない場合(例えば鋳造物の場合)は、工具3に及ぼされる送り方向の負荷が大きく変動(振動)する場合がある。このような状態が続くと、工具3にチッピング等の破損が生じてしまう。
【0024】
そこで、本実施形態では、測定装置8により送りモータ6の負荷電流を計測し、その計測信号に基づいて、制御部9が加工速度を制御し、工具3のチッピング等の破損を未然に防止する。例えば、図3に示すように、負荷電流の変動が大きくなってその変動値(変動割合)が所定値を超えた場合(負荷振幅が大きい場合)に、超えた回数を計測し、所定の回数を超えた場合に加工速度を減速させる。
【0025】
この場合の制御部9の制御フローの概略は、図4に示すようになる。ここでは、加工速度として、送りモータ6の送り速度を制御する場合を示す。最初に、負荷電流波形から変動値を計算する(ステップ1)。変動値としては、上述の|Imax−Imin|を用いる。|Imax−Imin|は所定のサンプリング時間において、電流を継続的に測定し、測定された電流値Inをその時点のImaxおよびIminと比較する。InがImaxよりも大きければ、Inを新しいImaxの値とし、変動値(変動割合)|Imax−Imin|を求める。InがIminよりも小さければ、Inを新しいIminの値として、変動値(変動割合)|Imax−Imin|を求める。このとき、ImaxおよびIminの初期値を例えば0とする。また、負荷電流の変動値は、ワーク10の材質や加工条件等に応じて、所定の固定値に設定してもよい。また、波形の平均値をIaveとし、変動値を|Imax−Imin|/Iaveと無次元化して定義しても良い。
【0026】
次に、変動値(変動割合)が閾値を超過したか否かを判断し(ステップ2)、閾値を超過した場合には閾値超過回数としてカウントする(ステップ3)。次に、閾値超過回数が限界回数を超えたか否かを判断し(ステップ4)、限界回数を超えたら加工速度を所定の割合で減速させる(ステップ5)。その後、同様にして変動値(変動割合)を計算して変動値(変動割合)が閾値以下か否かを判断し(ステップ6)、閾値を超えていればステップ2から同様の動作を繰り返す。また、閾値以下であれば、加工している時間が判定時間を超過しているか否かを判断する(ステップ7)。判定時間を超過すれば、加工速度を元の速度を上限として増速して加工を継続する。また、判定時間以下では、速度を減速したまま加工を継続する。
【0027】
このように、工具に及ぼされる負荷の指標として負荷電流の変動値(変動割合)を求め、ワーク10の材料に応じて事前に変動値(変動割合)の閾値および限界回数を設定することにより、工具3にチッピング等の破損が生じる前にその兆候を検出することが可能となる。また、限界回数を超えた場合に送り速度を減速させることにより、加工中断や工具3のチッピング等の破損を最小限に抑えた加工が可能となる。
【0028】
このような制御に際し、閾値および限界回数は、一組の制御数値として設定され、この制御数値は、ワーク10の材料等に応じて制御部9に複数記憶されている。1回の加工時に複数の制御数値を設定してもよい。
【0029】
また、制御部9において、加工速度を所定割合で減速させても、変動値(変動割合)が閾値を超える場合に、再度閾値を超えた回数を閾値超過回数として計数し、それが限界回数を超えた場合にさらに加工速度を所定割合で減速させるという操作を繰り返し、その減速回数が事前に設定された減速限界回数を超えると加工を中断するという制御を行ってもよい。これにより、工具3のチッピング等の破損を、より効果的に抑制することができる。
【0030】
次に、上記閾値および限界回数を一組とする制御数値を二組設定し、さらに、減速限界回数を超えると加工を中断するという制御を加えた場合の制御ロジックの一例について、図5を参照して詳細に説明する。ここでは、移動機構の送り速度を制御する場合を示す。なお、制御数値の組の数は一組であっても三組以上であってもよい。
【0031】
ここでは、加工開始後に、測定装置8で測定した送りモータ6の負荷電流値から負荷電流の変動値(変動割合)を、図2を参照して説明した|Imax−Imin|と定義して計算する(ステップ11)。
【0032】
次に、|Imax−Imin|が第1の閾値AA(例えば15)を超えるか否かを判断し(ステップ12)、超えた場合に、第1の閾値を超過する回数(第1の閾値超過回数)Naのカウント(カウントNa)を開始する(ステップ13)。
【0033】
一方、ステップ12において、|Imax−Imin|が第1の閾値AAを超過しない場合、|Imax−Imin|が第2の閾値BB(例えば9)を超えるか否かを判断し(ステップ15)、超えた場合に、第2の閾値を超過する回数(第2の閾値超過回数)Nbのカウント(カウントNb)を開始する(ステップ16)。なお、Na、Nbは加工開始時に、またImax、IminはNbへカウントした後に、0にリセットされる。
【0034】
第1の閾値超過回数が限界回数aa回(例えば5回)を超えたか否か(ステップ14)、または第2の閾値超過回数が限界回数bb回(例えば10回)を超えたか否か(ステップ17)を判断し、いずれかに該当する場合、送り速度を減速(加工条件を変更)する(ステップ18)。このとき、減速回数Ncのカウント(カウントNc)を開始する。なお、Ncは加工開始時には0にリセットされる。また、送り速度の減速後には、Na,Nbが0にリセットされる。
【0035】
ステップ12〜18を繰り返し、カウントNcが限界回数cc回(例えば3回)を超えたか否かを判断し(ステップ19)、超えた場合には加工を中断する。
【0036】
ステップ15において、|Imax−Imin|が第2の閾値BBを超えていない場合、送り速度を減速しているか否かを判断し(ステップ20)、減速していれば、閾値超過のカウントが行われない時間Tc(例えばカウントの規定回数/工具の回転周期)を計測し(ステップ21)、ステップ22において一定時間閾値のカウントが行われなければ(時間Tcが一定時間(時間Tb)を超過すれば)、送り速度を増速し(ステップ23)、元の速度に戻す。
【0037】
なお、ステップ20において送り速度が減速していない場合、およびステップ22でTcがTbを超過していない場合は、元の条件で加工を継続する。
【0038】
以上のように2つの閾値を用いて限界回数を超えた場合に送り速度を減速させ、さらに減速回数が限界減速回数を超えた場合に加工を中断するので、工具3のチッピング等の破損を確実に防止することが可能となる。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、送りモータの軸方向の負荷に対応する電気的パラメータとして負荷電流を用いたが、これに限らず負荷電圧や負荷電力を用いてもよい。また、空隙が工具の回転軸に対応する部分に分布していない場合は、回転モータの負荷をパラメータとして用いてもよい。また、上記実施の形態では、閾値超過回数が限界回数を超えた際に、送り速度を減速させたが、これに限らず回転モータの回転速度を減速させるようにしてもよい。さらに、上記実施形態では、負荷電流値から、|Imax−Imin|のような演算を行って変動割合を計算し、その変動割合に閾値を設定したが、最大値に上限の閾値を設定し、最小値に下限の閾値を設定する等、所定の値を変動値として用いてもよい。さらにまた、本発明は穴あけ加工に限らず、切削加工等の他の加工に適用することもできる。
【実施例】
【0040】
(第1の実施例)
本実施例では、実際に上記のような加工装置を適用して、空隙を有するワークに穴あけ加工を施した場合の実施例について説明する。
図6は、本実施例の穴あけ加工を行った際の送りモータの負荷電流波形(Z軸負荷波形)と主軸の回転モータの負荷電流波形(主軸回転負荷波形)を示す図である。この図に示すように、主軸回転負荷は工具送り速度に比例して変動するが、Z軸負荷波形は異なる挙動を示している。加工開始後のZ軸負荷波形は、負荷電流波形のピーク値の最小値・最大値が比較的小さい、すなわち振幅の小さい波形が確認される。その後振幅の大きく、|Imax−Imin|が閾値である18を超える波形が現れ、閾値超過回数のカウントを開始した。その後、閾値超過回数が限界回数を超えたため、送り速度を減速させた(減速1回目)。減速1回目の後、やはり振動が止まらず閾値超過回数が再び限界回数を超えたため、送り速度をさらに減速させた(減速2回目)。減速2回目でも振動が止まらないため、送り速度をさらに減速させた(減速3回目)。その結果、3回目の減速で、負荷電流の振幅が低減され、閾値を超過しなくなったので、加工を継続し、予定の加工深さまで穴あけ加工を実施することができた。
【0041】
(第2の実施例)
本実施例では、切削工具として、JIS規格のP10相当の超硬製ドリルを使用し、表1に示す異常検知条件(図5に示す制御ロジック)で加工を行い、振動発生状況と異常検知の精度および低減効果を評価した。ドリル径はΦ20mm、ドリル長さは200mmとした。切削条件は、周速100m/min、回転送り1.0mm/rev、加工長150mmとした。被削材はFC300を用いた。評価結果を表1に併記する。
【0042】
表1中、電流値差分閾値AA、電流値差分閾値BB、カウント閾値aa、カウント閾値bb、および減速回数ccは、図5で説明した値である。また、「減速率」とは、加工中に送り速度を落とす割合である。減速は、切削速度を減速する場合と、切削速度⇒送り速度のように交互に減速する場合とを含む。
【0043】
表1における「検知成功」とは、閾値を超える負荷電流値が所定の回数検知されたことを意味する。「検知成功」の結果を、所定の深さ(150mm)まで加工せずに中断する「加工中断」、または減速し異常を抑止した状態で加工を完了する「加工完了」とした。また、表1における「検知失敗」とは、異常が生じたまま加工を継続した状態を意味し、「検知失敗」の結果を、加工途中でチッピングが発生もしくは異常が抑止されないまま加工を完了する「チッピング/加工完了」とした。
【0044】
表1中の各条件ともに、異常が発生した状態について100穴分データ取得を行い、それぞれ「検知成功×加工中断」、「検知成功×加工完了」、「検知失敗×チッピング/加工完了」の3パターンを百分率で評価した。これらの中で最も望ましい結果は「検知成功×加工完了」である。
【0045】
表1に示すように、負荷電流値の閾値AAが70%以上と大きい条件では検知が成功すれば「検知成功×加工完了」となる割合が大きいが、一方で検知失敗となる割合も増える。また、負荷電流値の閾値AAが40%以下と小さい条件では検知成功自体の割合は増えるが、過検知となり加工中断してしまうケースも増える。また、カウント閾値aaおよびbbをaa>bbとすることにより、「検知成功×加工完了」が増えることがわかる。
【0046】
なお、本実施例では減速率と減速回数は固定としたが、これらを調整することによりさらなる改善が見込まれる。
【0047】
【表1】
【符号の説明】
【0048】
1 加工装置
2 主軸
3 工具
4 回転モータ
5 主軸台
6 送りモータ
7 架台
8 測定装置
9 制御部
10 ワーク
11 送り機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7