特許第6237756号(P6237756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237756
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】エンジンの停止制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20171120BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20171120BHJP
   F02N 15/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F02D29/02 321C
   F02D29/02 321A
   F02D17/00 Q
   F02N15/00 E
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-253697(P2015-253697)
(22)【出願日】2015年12月25日
(62)【分割の表示】特願2012-64159(P2012-64159)の分割
【原出願日】2012年3月21日
(65)【公開番号】特開2016-41942(P2016-41942A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】照屋 洋志
【審査官】 神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−030217(JP,A)
【文献】 特開2009−228637(JP,A)
【文献】 特開2004−263566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 11/04〜11/08
F02N 15/00
F02D 13/00〜29/06
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸に接続されるモータと、
所定のエンジン停止条件下で前記エンジンの停止制御を開始した後、前記モータを一時的に駆動させて未だ正転中の前記クランク軸の回転を補助すること、および前記モータを停止させたまま未だ正転中の前記クランク軸の回転を補助しないことのいずれか一方によって前記クランク軸を圧縮行程で停止させる制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記クランク軸の角速度が圧縮行程に到達可能な角速度より小さくなった場合には前記モータの一時的な駆動の実行を判断して前記クランク軸の回転を補助し、その他の場合には前記モータの駆動の不実行を判断して前記クランク軸の回転を補助せず、
前記モータは一方向にのみ駆動できることを特徴とするエンジンの停止制御装置。
【請求項2】
エンジンのクランク軸に接続されるモータと、
所定のエンジン停止条件下で前記エンジンの停止制御を開始した後、前記モータを一時的に駆動させて未だ正転中の前記クランク軸の回転を補助すること、および前記モータを停止させたまま未だ正転中の前記クランク軸の回転を補助しないことのいずれか一方によって前記クランク軸を圧縮行程で停止させる制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記クランク軸の角速度が圧縮行程に到達可能な角速度より小さくなった場合には前記モータの一時的な駆動の実行を判断して前記クランク軸の回転を補助し、その他の場合には前記モータの駆動の不実行を判断して前記クランク軸の回転を補助せず、
前記制御装置は、前記エンジンのピストンが圧縮上死点に達してから前記クランク軸が約270度回転する期間中、前記クランク軸の角速度を監視して前記モータの一時的な駆動を行うか否かを判断することを特徴とするエンジンの停止制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記モータの一時的な駆動によって、圧縮行程に到達可能な角速度以上、かつ圧縮上死点を乗り越える角速度より小さい角速度になるまで前記クランク軸の回転を補助することを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの停止制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、排気行程から吸気行程にかかる少なくともいずれかの区間で前記モータの一時的な駆動を行うことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のエンジンの停止制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの停止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、信号待ち等で車両が一時停止した時に、所定のエンジン停止条件が成立するとエンジンを一旦停止させた後、再発進時のスロットル操作に応じてエンジンを再始動させるアイドルストップ(アイドリングストップ)制御が知られている。
【0003】
このアイドルストップ制御では、エンジンを一旦停止させるとき、再始動時の始動性を向上させるために、クランク軸を所定のクランク角に配置させることが好ましい。
【0004】
そこで、従来のエンジン始動制御装置は、エンジンの「停止後」にモータを駆動させてクランク軸を所定のクランク角まで逆転させる「巻き戻し制御」を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−21588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のエンジン始動制御装置は、一旦停止したクランク軸を逆転させて「巻き戻し制御」を実行するため、クランク軸を逆転させられるモータが必要になる。
【0007】
このクランク軸逆転用モータをスタータモータで兼用する場合、スタータモータを逆転させるための回路が追加的に必要になる。他方、スタータモータとは独立にクランク軸逆転用モータを設ける場合、モータ自体の数量が増加するとともに、モータとクランク軸とを接続する部品の点数も増加する。
【0008】
ところで、アイドルストップ制御において、圧縮行程、爆発行程、排気行程、吸気行程のいずれの行程でエンジンが停止しているのか不明な場合、再始動時に行程を判別するためにクランク軸を正転させる必要が余分に生じてしまい、再始動までに掛かる時間が長くなる。
【0009】
他方、アイドルストップ制御において、エンジンが停止する都度、停止する行程が変わってしまうと、行程の判別が付いていたとしても、再始動までに掛かる時間が不規則に異なってしまう。
【0010】
そこで、本発明は、クランク軸の正転を補助することによってエンジンを常に圧縮行程で停止させて、再始動に係る時間を短く、かつ略一定にできるエンジンの停止制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するため本発明に係るエンジンの停止制御装置は、エンジンのクランク軸に接続されるモータと、所定のエンジン停止条件下で前記エンジンの停止制御を開始した後、前記モータを一時的に駆動させて未だ正転中の前記クランク軸の回転を補助すること、および前記モータを停止させたまま未だ正転中の前記クランク軸の回転を補助しないことのいずれか一方によって前記クランク軸を圧縮行程で停止させる制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記クランク軸の角速度が圧縮行程に到達可能な角速度より小さくなった場合には前記モータの一時的な駆動の実行を判断して前記クランク軸の回転を補助し、その他の場合には前記モータの駆動の不実行を判断して前記クランク軸の回転を補助せず、前記モータは一方向にのみ駆動できることを特徴とする。また、本発明に係るエンジンの停止制御装置は、エンジンのクランク軸に接続されるモータと、所定のエンジン停止条件下で前記エンジンの停止制御を開始した後、前記モータを一時的に駆動させて未だ正転中の前記クランク軸の回転を補助すること、および前記モータを停止させたまま未だ正転中の前記クランク軸の回転を補助しないことのいずれか一方によって前記クランク軸を圧縮行程で停止させる制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記クランク軸の角速度が圧縮行程に到達可能な角速度より小さくなった場合には前記モータの一時的な駆動の実行を判断して前記クランク軸の回転を補助し、その他の場合には前記モータの駆動の不実行を判断して前記クランク軸の回転を補助せず、前記制御装置は、前記エンジンのピストンが圧縮上死点に達してから前記クランク軸が約270度回転する期間中、前記クランク軸の角速度を監視して前記モータの一時的な駆動を行うか否かを判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クランク軸の正転を補助することによってエンジンを常に圧縮行程で停止させて、再始動に係る時間を短く、かつ略一定にできるエンジンの停止制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るエンジンの停止制御装置を適用する自動二輪車を示す左側面図。
図2】本発明の実施形態に係る自動二輪車の制御装置を示すブロック図。
図3】本発明の実施形態に係る停止制御装置が行う停止行程制御を示す概念図。
図4】本発明の実施形態に係る停止制御装置が行う停止行程制御機能を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るエンジンの停止制御装置の実施形態について図1から図4を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るエンジンの停止制御装置を適用する自動二輪車を示す左側面図である。
【0016】
なお、本実施形態において、前後、上下、左右の表現は、自動二輪車1のユーザであり、自動二輪車1に乗車するライダーを基準にする。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る自動二輪車1はスクータ型である。自動二輪車1は、所謂アンダーボーン形式の車体フレーム2と、車体フレーム2の前方に配置された前輪5と、車体フレーム2に対して左右方向に揺動可能に支持されて前輪5を回転可能に支持するステアリング機構6と、車体フレーム2の後方に配置される後輪7と、車体フレーム2に対して上下方向に揺動可能に支持されて後輪7を回転可能に支持するとともにエンジン8と伝導装置9とを一体に有するパワーユニット11と、車体フレーム2を覆う車体カバー12と、ライダーが着座可能なシート13と、を備える。
【0018】
車体フレーム2は、一体に組み合わされる複数の鋼鉄製中空管を備える。具体的には、車体フレーム2は、前上部に配置されるヘッドパイプ15と、ヘッドパイプ15に接続されるダウンチューブ16と、ダウンチューブ16の後端部に接続される交差部材17と、交差部材17の左右それぞれの端部近傍に接続される左右一対のシートレール18と、を備える。
【0019】
ヘッドパイプ15はステアリング機構6を車両の左右方向へ操舵可能に支持する。ダウンチューブ16は、ヘッドパイプ15に接続される前上端部から後方下向きに傾斜して延びつつ側面視においてL文字形状に曲折して後方へ延びる。交差部材17は、ダウンチューブ16に接続される中央部分から車両の左右それぞれの方向へ延びる。左右のシートレール18は、交差部材17に接続される前下端部から後方上向きに傾斜して延び、傾斜の大きい前半部分と傾斜の小さい後半部分とを備える。
【0020】
ステアリング機構6は、内装されるサスペンション機構(図示省略)と、前輪5を回転可能に支持する左右一対のフロントフォーク19と、前輪5の上方に覆い被さるフロントフェンダ20と、フロントフォーク19の頂部に接続する左右一対のハンドル21と、を備える。自動二輪車1は、ライダーがハンドル21を左右に操舵することによって旋回する。車両の右側にあるハンドル21はアクセルグリップ21aである。
【0021】
パワーユニット11はスイングアームを兼ねている。また、パワーユニット11は、リンク部材22を介して交差部材17に連結されている。リンク部材22は、ピボット軸23に対してパワーユニット11を揺動可能に支持している。リアクッションユニット25は、互いに離間されるパワーユニット11と車体フレーム2との間に架設されて、後輪7から車体フレーム2に伝わる力を緩衝する。
【0022】
エンジン8は、50ccクラスや125ccクラスの小排気量で、例えば4サイクルの内燃機関であり、シリンダ(図示省略)の中心線を自動二輪車1の前後方向に向ける。
【0023】
吸気系統26は、パワーユニット11の上方に配置されて、エンジン8へ混合気(燃料と空気の混合気)を供給する。吸気系統26は、上流側から順にエアクリーナ27、アウトレットパイプ28、燃料噴射装置29、吸気管31を備える。
【0024】
後輪7は、エンジン8から伝導装置9を介して駆動力を得る。
【0025】
車体カバー12は、車体フレーム2を覆い隠す意匠面であり、自動二輪車1の外観を整える。車体カバー12は、それぞれが合成樹脂製で相互に連接されるハンドルカバー33、フロントレッグシールド35、フットボード36、フレームセンターカバー37、フレームサイドカバー38およびフレームロアカバー39を備える。
【0026】
フロントレッグシールド35は、後方側にシート13を臨み、走行風を遮ってライダーの脚部を保護する。
【0027】
フットボード36は、フロントレッグシールド35、フレームセンターカバー37およびフレームロアカバー39に連接する大型のカバーであり、シート13に跨がるライダーが膝を曲げて足を置く足載部41を備える。
【0028】
フレームサイドカバー38は、左右一対あり、シート13下方のそれぞれの側面を覆う。
【0029】
フレームロアカバー39は、フットボード36の下方を覆う。
【0030】
シート13は、足載部41に足や膝を揃えたまま膝を曲げてライダーが座る前半部13aと、パッセンジャーが座る後半部13bと、を備える。また、シート13は、収納ボックス42および燃料タンク43の上部を覆ってフレームサイドカバー38に連接する。
【0031】
リヤフェンダ45は、燃料タンク43の下方から後方へ向かって延び、後輪7の上方を覆う。
【0032】
次に、エンジン8の停止制御装置51について詳細に説明する。
【0033】
図2は、本発明の実施形態に係る自動二輪車の制御装置を示すブロック図である。
【0034】
図2に示すように、本実施形態に係る自動二輪車1は、制御装置52を中心に、イグニッションキー(図示省略)の抜き差しで開閉するイグニッションスイッチ53と、電源供給を遮断してエンジン8を停止させるキルスイッチ55と、スロットルバルブ(図示省略)の開度を測定するスロットルポジションセンサ56と、エンジン8の冷却水の水温を測定する水温センサ57と、エンジン8の始動操作に基づいて始動指令を出力するスタータスイッチ58と、ブレーキ(図示省略)の操作の有無を検知するブレーキスイッチ59と、を備える。
【0035】
また、自動二輪車1は、エンジン8のクランク軸61のクランク角を計測するクランク角センサ62と、伝導装置9で後輪7の角速度を計測する車速センサ63と、クランク軸61に接続されるスタータモータ65と、スタータモータ65へ電力供給またはその遮断を行うスタータモータリレー66と、エンジン8内の混合気に点火する点火プラグ67と、エンジン8に混合気を供給する燃料噴射器68、バッテリ69と、を備える。
【0036】
制御装置52は、マイクロコンピュータからなり、中央処理部(図示省略)、メモリ(図示省略)およびI/O部(図示省略)を備える。メモリは、中央処理部で実行される制御プログラムや、制御プログラムの実行に必要な定数などのデータを予め記憶する。また、メモリは、中央処理部の演算データなどを一時記憶しておくデータ記憶領域ならびに作業領域として使用される。制御装置52は、制御プログラムの1つとしてアイドルストップ制御を行うアイドルストップ制御機能を有する。
【0037】
制御装置52の電力供給は、バッテリ69から直接的に、また、バッテリ69からイグニッションスイッチ53、キルスイッチ55を順次に経て間接的に行われる。また、制御装置52は、スロットルポジションセンサ56、水温センサ57、スタータスイッチ58、ブレーキスイッチ59、クランク角センサ62、車速センサ63から信号を受ける。さらに、制御装置52は、これら電力供給および入力信号に基づいてスタータモータリレー66、点火プラグ67、燃料噴射装置29へ制御信号を出力する。
【0038】
クランク角センサ62は、クランク軸61やクランク軸61に連動するカム軸(図示省略)の回転を測定してクランク角を測定するとともに、エンジン8が圧縮行程、爆発行程、排気行程、吸気行程のいずれの行程にあるか検知して制御装置52へ測定結果、検知結果を出力する。なお、エンジン8がいずれの行程にあるかの判断は、クランク角の測定結果に基づいて制御装置52側で行っても良い。
【0039】
スタータモータリレー66は、スタータモータ65とバッテリ69とを電気的に接続する電路を開閉してスタータモータ65に対する電力供給またはその遮断を行う。
【0040】
スタータモータ65は、停止しているクランク軸61を正転させてエンジン8を始動させる。なお、スタータモータ65は、クランク軸61を逆転させる方向へ駆動できる必要は無く、そのための電気回路やクランク軸61との機械的な接続を仲介する機構を必要としない。
【0041】
そして、停止制御装置51は、スタータモータ65と、クランク角センサ62と、スタータモータリレー66と、制御装置52と、を備える。停止制御装置51は、制御装置52がアイドルストップ制御を行う際に、クランク角センサ62、スタータモータ65、スタータモータリレー66を制御することによって、クランク軸61の正転を補助してエンジン8を常に圧縮行程で停止させる。停止制御装置51が行うこの一連の制御を「停止行程制御」と呼ぶ。停止行程制御は、アイドルストップ制御の一部であっても、アイドルストップ制御と連携して協働する個別の機能であっても良い。停止行程制御は、停止行程制御機能として制御装置52に組み込まれている。
【0042】
つまり、停止制御装置51は、エンジン8のクランク軸61に接続されるスタータモータ65と、クランク軸61のクランク角を計測するクランク角センサ62と、スタータモータ65へ電力供給またはその遮断を行うスタータモータリレー66と、所定のエンジン停止条件下でエンジン8の停止制御を開始した後、スタータモータ65を一時的に駆動させて未だ正転中のクランク軸61の角速度を加速または維持させる(回転を補助する)ことによってクランク軸61を圧縮行程で停止させる制御装置52と、を備える。
【0043】
次に、停止制御装置51が行う停止行程制御について説明する。
【0044】
図3は、本発明の実施形態に係る停止制御装置が行う停止行程制御を示す概念図である。
【0045】
図3に示すように、本実施形態に係るエンジン8は、シリンダ(図示省略)に混合気を吸気した後、混合気を圧縮し、この圧縮した混合気に着火して爆発させ、燃焼ガスを排気するまでの一連の動作(サイクル)を、ピストン(図示省略)の上昇と下降が2回ずつ、つまり1サイクル中にクランク軸61を2回転させる4ストローク機関である。
【0046】
そして、停止行程制御は、制御装置52が所定のエンジン停止条件下でアイドルストップ制御を開始させた後、圧縮行程の最後、つまりピストンが圧縮上死点(a1)に達してから、排気行程の半ば、つまりクランク軸61が約270度(a2)回転する期間中、クランク軸61の角速度ωを監視する(図3中の区間A)。このとき、停止行程制御は、クランク軸61の角速度ωが圧縮行程に到達可能な角速度α1より小さくなったか否かを判断する。
【0047】
そして、停止行程制御は、区間Aにおけるクランク軸61の角速度ωが圧縮行程に到達可能な角速度α1より小さくなった場合、排気行程から吸気行程にかかる少なくともいずれかの区間、より具体的には排気行程の前半(b1)から吸気行程の最後(b2)に至るまでの区間中、スタータモータ65の一時的な駆動を行う(図3中の区間B)。このとき、停止行程制御は、スタータモータ65の一時的な駆動によって、圧縮行程に到達可能な角速度α1以上、かつ圧縮上死点を乗り越える角速度α2より小さい角速度になるまでクランク軸61の回転を補助する。
このクランク軸61の回転補助は、行程区間Bの期間中にクランク軸61の角速度ωが圧縮行程に到達可能な角速度α1以上、かつ圧縮上死点を乗り越える角速度α2より小さい角速度になれば良いので、角速度ωを加速させるものでも、維持させるものでも、減速を緩和させる(負の角加速度を緩和させる)ものでも良い。また、クランク軸61の回転補助は、スタータモータ65の一時的な駆動を複数回に分けて行っても良い。このクランク軸61の回転補助の制御は、クランク角センサ62が測定するクランク角の単位時間当たりの変化に基づく。
【0048】
このように回転を補助されたクランク軸61は圧縮行程に至る。そして、圧縮行程に至った後に、クランク軸61はピストンに加わる圧縮反力によって制動されるため、遂には反転を始めて圧縮行程のいずれかのクランク角で停止する。
【0049】
なお、停止行程制御は、アイドルストップ制御の期間中、エンジン8の毎サイクルで繰り返し行われる。
【0050】
停止行程制御についてさらに説明する。
【0051】
図4は、本発明の実施形態に係る停止制御装置が行う停止行程制御機能を示すフローチャートである。
【0052】
図4に示すように、本実施形態に係る停止制御装置51の制御装置52は、エンジン8のピストン(図示省略)が圧縮上死点に達してからクランク軸61が約270度回転する期間中、クランク軸61の角速度を監視してスタータモータ65の一時的な駆動を行うか否かを判断する。
【0053】
また、制御装置52は、クランク軸61の角速度が圧縮行程に到達可能な角速度より小さくなった場合にスタータモータ65の一時的な駆動の実行を判断する。
【0054】
さらに、制御装置52は、排気行程から吸気行程にかかる少なくともいずれかの区間でスタータモータ65の一時的な駆動を行う。
【0055】
さらにまた、制御装置52は、スタータモータ65の一時的な駆動によって、圧縮行程に到達可能な角速度以上、かつ圧縮上死点を乗り越える角速度より小さい角速度になるまでクランク軸61の回転を補助する。
【0056】
制御装置52による停止行程制御機能について具体的に詳述する。
【0057】
なお、以下の説明を簡単にするために、ピストンが圧縮上死点にあるときをクランク角=0度の基準とし、0度より大きく次の下死点(クランク角180度)以下の区間を圧縮行程、180度より大きく次の上死点(クランク角360度)以下の区間を排気行程、360度より大きく次の下死点(クランク角540度)以下の区間を吸気行程、540度より大きく次の下死点(クランク角720度)以下の区間を圧縮行程とする。また、クランク軸61が2回転してクランク角が720度に達する、つまり、再びピストンが圧縮上死点に至るとクランク角を0度に戻す。
【0058】
先ず、制御装置52は、自動二輪車1が信号待ちなどで一時停車した後、所定のエンジン停止条件が成立するとアイドリングストップ制御を開始する。このとき、停止制御装置51は、停止行程制御を開始する。
【0059】
そして、停止行程制御が開始すると、ステップS1において、制御装置52は、クランク角センサ62から現在のクランク角θを取得して、クランク角θが0度以上かつ270度以下(つまり、圧縮上死点から排気行程半ば)にあるか否かを判断する。制御装置52は、クランク角θが0度以上かつ270度以下であればステップS2へ制御を進める。その他であれば、制御装置52はステップS5へ制御を進める。
【0060】
ステップS2において、制御装置52は現在のクランク軸61の角速度ωを算出して、算出した現在のクランク軸61の角速度ωが圧縮行程に到達可能な角速度α1より小さいか否かを判断する。制御装置52は、現在のクランク軸61の角速度ωが圧縮行程に到達可能な角速度α1より小さければステップS3へ制御を進める。その他であれば、制御装置52はステップS4へ制御を進める。なお、制御装置52は現在のクランク軸61の角速度ωを算出するために、クランク角センサ62の測定結果を逐次取得している。
【0061】
ステップS3において、制御装置52はクランク軸61の回転を補助する必要が有る旨の情報(回転補助ON情報)を記憶してステップS6へ制御を進める。
【0062】
ステップS4において、制御装置52はクランク軸61の回転を補助する必要が無い旨の情報(回転補助OFF情報)を記憶してステップS6へ制御を進める。
【0063】
他方、ステップS5において、制御装置52は、クランク角センサ62から現在のクランク角θを取得して、取得したクランク角θが540度を超えているか否か(つまり、吸気行程を超えて圧縮行程にあるか否か)を判断する。制御装置52は、クランク角θが540度を超えていればステップS4へ制御を進める。その他であれば、制御装置52はステップS6へ制御を進める。
【0064】
次いで、ステップS6において、制御装置52は、スタータモータ65を駆動させるか否かを判断する。具体的には、制御装置52は、クランク角センサ62から現在のクランク角θを取得して、クランク角θが225度以上かつ540度以下(つまり、排気行程の前半から吸気行程)にあるか否か、かつ回転補助ON情報が記憶されているか否かを判断する。制御装置52は、クランク角θが225度以上かつ540度以下であり、かつ回転補助ON情報が記憶されていればステップS7へ制御を進める。その他であれば、制御装置52はステップS8へ制御を進める。
【0065】
ステップS7において、制御装置52はスタータモータリレー66を閉じてスタータモータ65を駆動させて、ステップS9へ制御を進める。
【0066】
ステップS8において、制御装置52は、スタータモータリレー66を開いてスタータモータ65への電力供給を遮断して停止行程制御を終了する。
【0067】
ステップS9において、制御装置52は現在のクランク軸61の角速度ωを算出して、算出した現在のクランク軸61の角速度ωが圧縮上死点を乗り越える角速度α2より小さいか否かを判断する。制御装置52は、現在のクランク軸61の角速度ωが圧縮上死点を乗り越える角速度α2より小さければ停止行程制御を終了する。その他であれば、制御装置52はステップS8へ制御を進める。
【0068】
本実施形態に係るエンジン8の停止制御装置51は、従来のエンジン始動制御装置のように一旦停止したクランク軸61を逆転させて「巻き戻し制御」を行うのではなく、未だ正転中のクランク軸61の回転をスタータモータ65で補助することによってエンジン8を圧縮行程で停止させることができる。これによって、エンジン8の停止制御装置51は、クランク軸逆転用モータをスタータモータ65で兼用する必要が無くなり、スタータモータ65を逆転させるための回路も必要としない。また、スタータモータ65とは独立にクランク軸逆転用モータを設ける必要も無く、モータ自体の数量が増加することもなく、クランク軸逆転用モータとクランク軸61とを接続する部品の点数が増加することもない。つまり、エンジン8の停止制御装置51は、エンジン8を始動させるスタータモータ65に停止行程制御を適用することでエンジン8を圧縮行程で停止させることができる。
【0069】
また、本実施形態に係るエンジン8の停止制御装置51は、クランク軸61の回転をスタータモータ65で補助することによってエンジン8を圧縮行程で停止させるため、アイドルストップ制御における再始動時に行程を判別するための余計な動作を必要とせず、再始動までに掛かる時間を短くできる。
【0070】
さらに、本実施形態に係るエンジン8の停止制御装置51は、クランク軸61の回転をスタータモータ65で補助することによってエンジン8を常に圧縮行程で停止させるため、再始動までに掛かる時間が略一定になる。
【0071】
さらにまた、本実施形態に係るエンジン8の停止制御装置51は、スタータモータ65の一時的な駆動を行うか否かについて、圧縮上死点からクランク軸61が約270度回転する期間中に判断するため、1サイクルの早期(爆発行程、排気行程の前半)のうちにクランク軸61の回転補助の要否を、余裕を持って判断することができる。
【0072】
また、本実施形態に係るエンジン8の停止制御装置51は、スタータモータ65の一時的な駆動を行うか否かについて、クランク軸61の角速度ωが圧縮行程に到達可能な角速度α1より小さくなったか否かに基づき判断するため、クランク軸61を確実に圧縮行程へ到達させることができる。
【0073】
さらに、本実施形態に係るエンジン8の停止制御装置51は、排気行程から吸気行程にかかる区間でスタータモータ65の一時的な駆動を行うこと、つまり圧縮行程に極力近い行程区間でクランク軸61の回転補助を行うことによって、クランク軸61をより確実に圧縮行程へ到達させることができる。
【0074】
さらにまた、本実施形態に係るエンジン8の停止制御装置51は、圧縮行程に到達可能な角速度α1以上、かつ圧縮上死点を乗り越える角速度α2より小さい角速度になるまでクランク軸61の回転を補助することによって、クランク軸61をより確実に圧縮行程へ到達させるとともに、クランク軸61が圧縮行程を乗り越えてしまい停止に係る時間が長くなることを防ぐことができる。
【0075】
また、本実施形態に係るエンジン8の停止制御装置51は、一方向にのみ駆動できるスタータモータ65によって停止行程制御を実施することが可能であるため、逆転させる回路や機構の無い安価なスタータモータ65利用することができる。
【0076】
したがって、本実施形態に係るエンジン8の停止制御装置51によれば、クランク軸61の正転を補助することによってエンジン8を常に圧縮行程で停止させて、再始動に係る時間を短く、かつ略一定にできる。
【0077】
なお、停止制御装置51は、スクータ型の自動二輪車1のエンジン8に限らず、スーパースポーツやオフロードタイプであっても良い。
【符号の説明】
【0078】
1…自動二輪車、2…車体フレーム、5…前輪、6…ステアリング機構、7…後輪、8…エンジン、9…伝導装置、11…パワーユニット、12…車体カバー、13…シート、13a…前半部、13b…後半部、15…ヘッドパイプ、16…ダウンチューブ、17…交差部材、18…シートレール、19…フロントフォーク、20…フロントフェンダ、21…ハンドル、21a…アクセルグリップ、22…リンク部材、23…ピボット軸、25…リアクッションユニット、26…吸気系統、27…エアクリーナ、28…アウトレットパイプ、29…燃料噴射装置、31…吸気管、33…ハンドルカバー、35…フロントレッグシールド、36…フットボード、37…フレームセンターカバー、38…フレームサイドカバー、39…フレームロアカバー、41…足載部、42…収納ボックス、43…燃料タンク、45…リヤフェンダ、51…停止制御装置、52…制御装置、53…イグニッションスイッチ、55…キルスイッチ、56…スロットルポジションセンサ、57…水温センサ、58…スタータスイッチ、59…ブレーキスイッチ、61…クランク軸、62…クランク角センサ、63…車速センサ、65…スタータモータ、66…スタータモータリレー、67…点火プラグ、68…燃料噴射器、69…バッテリ。
図1
図2
図3
図4