【実施例】
【0030】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
(参考例1)
5−アミノサリチル酸 (活性成分)85.7%、結晶セルロース約8.5〜9.5%、デンプングリコール酸ナトリウム3%及びヒプロメロース1.5〜2.5%を湿式造粒後、乾燥してステアリン酸マグネシウム約0.3%と混合した。この混合物をロータリー打錠機で活性成分1200mgを含む約1400mgの錠剤に圧縮成形した。形状は長径20.5mm×短径9.5mmである。素錠の硬度(硬度計、PHARMA TEST社製、PTB302又は502により測定)は、約240Nであった。
【0032】
(比較例1)
参考例1に記載した素錠に次の処方のコーティング液をスプレーして、メタクリル酸コポリマーSの外側コーティング層を施した。
【0033】
【表1】
【0034】
ドラム容積約10Lのパンコーティング機でコーティングした結果を(表2)に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
メタクリル酸コポリマーの被膜は、強固で弾力性や可塑性が乏しいために、非常に大型錠剤の場合、コーティングパン内を錠剤が転動する際に錠剤間又は装置への衝突時の衝撃が大きいことから、少量スケールであっても素錠が露出した欠け錠やフィルムのヒビ等の破損錠が多く発生する問題が生じた。
また、得られたコーティング錠の外観良品をpH1.2の日本薬局方崩壊試験第1液で2時間崩壊試験し、試験後の錠剤を観察したところ、4mg/cm
2コーティング品では3錠中3錠、8mg/cm
2コーティング品でも3錠中1錠が開口し、腸溶性製剤に要求される耐酸性を満たさないことが確認された。このことは、大型の素錠に直接メタクリル酸コポリマーの腸溶性被膜をコーティングする場合、均一な被膜が形成されずに品質のバラつきが大きくなること及び外観上問題が無いようであっても品質基準を満たさない錠剤が混入するリスクが高いことを示している。また、同時に特許文献2に記載された技術をそのまま大型の錠剤に適用するのは困難であることが示唆された。
一方、この錠剤10錠を30cmの高さからステンレス製容器に繰返し10回落下させ、落下後の外観を観察したところ、良品率は10〜20%程度と非常に脆い錠剤であることが確認されたことから、素錠に直接メタクリル酸コポリマー層をコーティングする方法は、実生産スケールでのコーティング工程や包装工程での機械的ストレス、運搬、日常の取扱いを考慮すると実用に適さないと考えられた。
【0037】
(参考例2)
参考例1に記載した素錠に次の処方のコーティング液をスプレーして、ヒプロメロースの内側コーティング層を施した。
【0038】
【表3】
【0039】
(実施例1)
参考例2に記載したヒプロメロースの内側コーティング層を施した錠剤に(表1)の処方のコーティング液をスプレーして、メタクリル酸コポリマーSの外側コーティング層を施した。
ドラム容積約10Lのパンコーティング機でコーティングした錠剤をステンレス製容器に所定の高さから繰返し10回落下させ、落下後の外観を観察したところ、内側コーティング量が素錠の表面積に対してヒプロメロース4〜8mg/cm
2の範囲では、コーティング量によって耐衝撃性が増してゆき、外側層のメタクリル酸コポリマーSの量4mgでは内側層のヒプロメロース量が6mg/cm
2以上で、外側層のメタクリル酸コポリマーS量が3mgでは、内側層のヒプロメロースが8mg/cm
2以上で十分な耐衝撃性を示すことが確認された(表4)及び(
図1)。このとき、錠剤の硬度(硬度計、PHARMA TEST社製、PTB502により測定)は、それぞれ約370N、及び約400Nであった。
【0040】
【表4】
【0041】
また、得られたコーティング錠をpH1.2の日本薬局方崩壊試験第1液で2時間崩壊試験し、試験後の錠剤を観察したところ、ヒプロメロース4mg/cm
2内側コーティング品はメタクリル酸コポリマーSの量が4mg/cm
2で、ヒプロメロース6mg/cm
2内側コーティング品ではメタクリル酸コポリマーSの量が3mg/cm
2より、腸溶性製剤に要求される耐酸性を満した(表5)。
【0042】
【表5】
【0043】
一方、消化管のpH変化により消化管内での薬物放出部位を制御するpH依存型の放出調節製剤の場合、標的とする消化管部位のpH領域に達し次第、速やかに被膜が溶解して薬物を放出することが要求される。pH7.2の薄めたMcIlvine緩衝液における溶出試験での製剤のラグ時間(溶出に必要な時間)を
図2に示す。製剤のラグ時間は、メタクリル酸コポリマーSの量に大きく依存して遅延することが確認され、本剤の場合、6mg/cm
2を超えるとラグ時間は60分以上となることから、外側コーティング層におけるメタクリル酸コポリマーSの量は、3〜6mg/cm
2が望ましいと考えられた。
【0044】
実生産を想定してドラム容積約550Lのパンコーティング機でコーティングを実施した結果、各層のコーティングに要した時間は、(表6)の通りである。コーティング液の調製時間やスプレー後の乾燥操作に必要な作業を考慮すると、1日以内でコーティング作業を終えるには、スプレー時間は最大でも6時間程度が望ましい。よって、内側コーティング量の上限値は、ヒプロメロースとして12mg/cm
2とした。
【0045】
【表6】
【0046】
上記の耐衝撃性、耐酸性、腸溶性及びスプレー時間を総合すると、被膜(B)(内側コーティング(水溶性高分子))と被膜(C)(外側コーティング(pH7以上で溶解する被膜))との合計量は10〜18mg/cm
2が好ましく、被膜(B)は6〜12mg/cm
2、被膜(C)は3〜6mg/cm
2が好ましいことがわかる。
【0047】
(実施例2)
ドラム容積約550Lのパンコーティング機に参考例1に記載した素錠を約140kg仕込み、(表7)の処方のコーティング液をスプレーして、素錠の表面積に対してヒプロメロースが8mg/cm
2となるよう内側コーティング層を施した。
【0048】
【表7】
【0049】
続いて、上述のヒプロメロースの内側コーティング層を施した錠剤に(表1)の処方のコーティング液をスプレーして、素錠の表面積に対してメタクリル酸コポリマーSが4mg/cm
2となるよう外側コーティング層を施した。このとき、得られた錠剤の硬度(硬度計、PHARMA TEST社製、PTB502により測定)は、約405Nであった。
得られたコーティング錠の試験結果は、(表8)に示した通り、腸溶性製剤に要求される耐酸性を有し、かつ、耐衝撃性の改善によって、コーティング後の錠剤破損は実生産スケールにおいても不良率0.1%未満となり、生産性に優れた製剤であることを確認した。
【0050】
【表8】
【0051】
(参考例3)
5−アミノサリチル酸 (活性成分)85.7%及びヒプロメロース約2%を湿式造粒後、乾燥して、結晶セルロース約9.2%、デンプングリコール酸ナトリウム約3%及びステアリン酸マグネシウム約0.5%と混合した。この混合物をロータリー打錠機で活性成分1200mgを含む約1400mgの錠剤に圧縮成形した。形状は長径21mm×短径10mmである。素錠の硬度(硬度計、PHARMA TEST社製、PTB302により測定)は、約170Nであった。
【0052】
(実施例3)
参考例1に記載した素錠に(表3)の処方のコーティング液をスプレーして、素錠の表面積に対してヒプロメロースが6mg/cm
2となるよう内側コーティング層を施した。
【0053】
続いて、上述のヒプロメロースの内側コーティング層を施した錠剤に(表9)の処方のコーティング液をスプレーして、素錠の表面積に対してメタクリル酸コポリマーS及びLの総量が6mg/cm
2となるよう外側コーティング層を施した。このとき、得られた錠剤の硬度(硬度計、PHARMA TEST社製、PTB502により測定)は、約280N〜約320Nであった。
得られたコーティング錠の試験結果は、(表10)に示した通り、腸溶性製剤に要求される耐酸性を有し、かつ、耐衝撃性を示した。
【0054】
【表9】
【0055】
【表10】
【0056】
(実施例4)
参考例1に記載した素錠に(表11)の処方のコーティング液をスプレーして、素錠の表面積に対してポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーが8mg/cm
2となるよう内側コーティング層を施した。
【0057】
【表11】
【0058】
続いて、上述のポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーの内側コーティング層を施した錠剤に(表1)の処方のコーティング液をスプレーして、素錠の表面積に対してメタクリル酸コポリマーSが3〜6mg/cm
2となるよう外側コーティング層を施した。このとき、得られた錠剤の硬度(硬度計、PHARMA TEST社製、PTB502により測定)は、約270N〜約300Nであった。
得られたコーティング錠の試験結果は、(表12)に示した通り、腸溶性製剤に要求される耐酸性を有し、かつ、耐衝撃性を示した。
【0059】
【表12】
【0060】
(参考例4)
ポラプレジンク(活性成分)60%、結晶セルロース24%、マンニトール10%、クロスポビドン3%及びヒドロキシプロピルセルロース約2%を湿式造粒後、乾燥してステアリン酸マグネシウム約1%と混合した。この混合物をロータリー打錠機で活性成分700mgを含む約1167mgの錠剤に圧縮成形した。形状は長径20.5mm×短径9.5mmである。素錠の硬度(硬度計、PHARMA TEST社製、PTB502により測定)は、約220Nであった。
【0061】
(実施例5)
参考例4に記載した素錠に(表3)の処方のコーティング液をスプレーして、素錠の表面積に対してヒプロメロースが8mg/cm
2となるよう内側コーティング層を施した。
【0062】
続いて、上述のヒプロメロースの内側コーティング層を施した錠剤に(表1)の処方のコーティング液をスプレーして、素錠の表面積に対してメタクリル酸コポリマーSが4mg/cm
2、6mg/cm
2となるよう外側コーティング層を施した。このとき、得られた錠剤の硬度(硬度計、PHARMA TEST社製、PTB502により測定)は、それぞれ約380N、約430Nであった。
得られたコーティング錠の試験結果は、(表13)に示した通り、腸溶性製剤に要求される耐酸性を有し、かつ、耐衝撃性を示した。
【0063】
【表13】