特許第6237764号(P6237764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6237764光学フィルム、円偏光板及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237764
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】光学フィルム、円偏光板及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20171120BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20171120BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   G02B5/30
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   G09F9/30 365
   H01L27/32
【請求項の数】11
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2015-506718(P2015-506718)
(86)(22)【出願日】2014年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2014056422
(87)【国際公開番号】WO2014148327
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2016年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-57528(P2013-57528)
(32)【優先日】2013年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 幸仁
(72)【発明者】
【氏名】木暮 翠
(72)【発明者】
【氏名】谷原 範江
(72)【発明者】
【氏名】三島 賢治
(72)【発明者】
【氏名】れん 理英子
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−132764(JP,A)
【文献】 特開2007−052079(JP,A)
【文献】 特開2013−001042(JP,A)
【文献】 特開2008−095027(JP,A)
【文献】 特開2009−114397(JP,A)
【文献】 特開2007−099876(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/025397(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度23℃、相対湿度55%の環境下、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が120〜160nmの範囲内であり、波長450nm及び550nmでそれぞれ測定したフィルム面内の位相差値Ro450とRo550との比の値Ro450/Ro550が0.65〜0.99の範囲内であるセルロース誘導体を含有する光学フィルムであって、
当該セルロース誘導体のグルコース骨格が有する置換基が、下記要件(a)〜(c)を満た
かつ、前記グルコース骨格の、2位、3位及び6位に存在する多重結合を有する置換基の平均置換度が、下式(1)の関係を満たすことを特徴とする光学フィルム。
(a)前記置換基の一部が多重結合を有する置換基であり、かつ当該多重結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、0.1〜3.0の範囲内である。
(b)前記多重結合を有する置換基の極大吸収波長が、220〜400nmの範囲内である。
(c)グルコース骨格が有する置換基の少なくとも一部は、当該グルコース骨格とエーテル結合しており、当該エーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.0〜3.0の範囲内である。
式(1)
0<(2位の平均置換度+3位の平均置換度)−6位の平均置換度
【請求項2】
前記グルコース骨格とエーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.7〜3.0の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記多重結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、0.2〜3.0の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記グルコース骨格とエーテル結合する置換基が、前記グルコース骨格と脂肪族炭化水素基がエーテル結合した置換基であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記グルコース骨格とエーテル結合する脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜6の範囲内である無置換の脂肪族炭化水素基であることを特徴とする請求項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記グルコース骨格が有する多重結合を有する置換基の少なくとも一部が、当該グルコース骨格とエーテル結合で結合されていることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記多重結合を有する置換基が、芳香族構造を有することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
膜厚が、20〜60μmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項9】
長尺状フィルムであり、長手方向に対し40〜50°の範囲内に遅相軸を有することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項10】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の光学フィルムと、偏光子とが貼合されていることを特徴とする円偏光板。
【請求項11】
請求項10に記載の円偏光板が具備されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光における広い帯域の光に対してλ/4位相差を発現し、様々な使用環境における性能安定性が向上した光学フィルムと、それを具備した円偏光板及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般的な表示装置として普及している液晶表示装置に対し、表示性能や耐久性に関する要求が高くなっており、表示画像における良好なコントラストや色調バランスを広い視野角で得られることが求められている。これらの要求に対し、液晶表示装置の表示形式として、VA(Vertical Alignment)方式、OCB(Optical Compensated Bend)方式、及びIPS(In−Plane Switching)方式等の液晶パネルが開発されており、従来のTN(Twist Nematic)方式の液晶パネルに対して、幅広い視野角を有し、優れた表示性能が達成されている。
【0003】
一方、昨今では、省電力化への要望が高まるとともに、視野角特性や表示性能に対する要求も一層高まりつつあり、このような観点から、新たな方式の表示装置として、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する。)をバックライトとして用いた表示装置、すなわち、有機EL表示装置が、次世代の表示装置として注目されている。
【0004】
有機EL表示装置は、光源自体が画素毎に独立してON/OFF駆動が可能であり、画像表示時に常時バックライトが点灯している液晶表示装置に対して消費電力が小さくなる。更に、画像表示の画素毎の光の透過及び非透過を制御する際、液晶表示装置では、液晶セルとその両面に設けられた偏光板が必須であるのに対し、有機EL表示装置では光源自体のON/OFFにより画像の形成が可能であるため、液晶表示装置のような構成が不要となり、非常に高い正面コントラストを得ることが可能となるとともに、視野角特性に優れた表示装置とすることが期待されている。特に、B、G、Rのそれぞれの色に発光する有機EL素子を用いることで、液晶表示装置において必須であったカラーフィルターも不要となるため、有機EL表示装置では、より高いコントラストが得られるものとして期待されている。
【0005】
一方、有機EL表示装置においては、発光層からの光を視認側に効率よく取り出すため、陰極を構成する電極層としては光反射性の高い金属材料を用いること、あるいは別途反射部材として金属板を設けることにより、鏡面を有する反射部材を光取り出し面とは反対側の面に設ける方式が、一般的となっている。
【0006】
しかしながら、有機EL表示装置では、上述のように液晶表示装置と異なりクロスニコルに配置された偏光板を具備していないため、光取り出し用の反射部材に外光が反射して、写り込みが発生し、照度の高い環境下ではコントラストが大きく低下するという問題がある。
【0007】
このような問題を解決するため、例えば、鏡面の外光反射防止に円偏光素子を使用する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載されている円偏光素子は、吸収型直線偏光板と、λ/4位相差フィルムとを、それぞれの光軸が45°あるいは135°で交差するように積層して形成されている。
【0008】
しかし、従来の位相差板では、単色光に対しては、光線波長のλ/4又はλ/2の位相差に調整することは可能であるが、可視光域の光線が混在している合成波である白色光に対しては、各波長での偏光状態に分布が生じ、有色の偏光に変換されるという問題がある。これは、位相差板を構成する材料が、位相差について波長分散性を有することに起因している。
【0009】
このような問題を解決するため、広い波長域の光に対して均一な位相差を与え得る広帯域位相差板について様々な検討がなされている。例えば、複屈折光の位相差が1/4波長であるλ/4波長板と、複屈折光の位相差が1/2波長であるλ/2波長板とを、それぞれの光軸が交差した状態で貼り合わせた位相差板が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
しかしながら、上記提案されている位相差板を製造するには、二枚の高分子フィルムの光学的方向(光軸や遅相軸)を調節するという煩雑な工程が必要になるとともに、複数のフィルムを接着層で貼り合わせる必要があるため、薄型化が可能であるという有機EL表示装置の長所を損なう結果となるため、積層を必要としない単層構成による広帯域λ/4位相差板の開発が求められている。
【0011】
また、液晶表示装置の場合と同様に、円偏光板に用いられる上記吸収型直線偏光板には、一般的に二色性色素を吸着させたポリビニルアルコール樹脂(以下、PVAと略記する。)を、高倍率で延伸して得られる偏光子が用いられ、このような偏光子フィルムは外部環境からの影響を非常に受けやすく、偏光子フィルムとともに、保護フィルムが必須となる。偏光子の保護フィルムとしては、偏光子として用いられるPVAとの接着性に優れ、かつ優れた全光透過率を有するセルロースエステル等のセルロース樹脂を用いた偏光板保護フィルムが広範囲で用いられている。したがって、偏光板は、偏光子の両面をこの偏光板保護フィルムで挟持した形態となるが、円偏光板として機能させるためには、更に、これにλ/4位相差フィルムを積層させる必要がある。
【0012】
しかしながら、偏光板保護フィルムにλ/4位相差フィルムを積層させると、偏光板保護フィルムが持つ僅かな位相差特性により、所望の光学特性であるλ/4の位相差から乖離が生じ、構成部材の増加に伴い、厚膜化する原因ともなるため、偏光板保護フィルムとしての機能も果たしながら、広帯域λ/4板としても機能する光学フィルムの開発が求められているのが現状である。
【0013】
単層構成で、広帯域λ/4位相差フィルムを得るための技術として、正の屈折率異方性を有する高分子のモノマー単位と、負の複屈折性を有するモノマー単位を共重合させた高分子フィルムを用い、一軸延伸によってλ/4位相差フィルムとする方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この一軸延伸した高分子フィルムは、波長分散が逆分散性を有するために、1枚の位相差フィルムで広帯域λ/4板を作製することが可能となる。しかし、偏光板保護フィルムとして求められる偏光子への接着性に問題があるとともに、全光線透過率が十分に得られないという問題を抱えている。
【0014】
また、液晶表示装置用の光学フィルムとしては、光学補償機能と偏光板保護フィルムとしての機能を兼ね備えた光学フィルムの検討が進められている。このようなフィルムとしては、セルロースエステルフィルムに所望の位相差を付与した光学フィルムが検討されており、例えば、VA方式の位相差フィルムとして、面内位相差Roが50nm程度、厚さ方向の位相差Rtが130nm程度の位相差フィルムを、セルロースエステル樹脂を用いて製造した光学フィルムが開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0015】
しかしながら、セルロースエステル樹脂は、置換度を下げることにより、比較的位相差発現性が高まる一方で、波長分散特性は逆波長分散性が弱まる傾向にあり、置換度を上げると逆波長分散性は高まるものの、位相差発現性が低下するという特性を有している。そのため、単層で広帯域のλ/4板を得るためには膜厚を厚くせざるを得ないという問題があった。
【0016】
その他の方法としては、セルロースエステル樹脂に位相差(リタデーション)上昇剤や波長分散調整剤等、様々な添加剤を加えることにより、位相差発現性や波長分散性を高める技術も検討されているが、添加剤を多量に添加すると、フィルム膜質が低下し、耐久性や透明性の劣化を引き起こすという問題があり、改善が求められていた。
【0017】
上記課題に対し、セルロースエステル樹脂に特定の芳香族エステル基を導入することにより、セルロースエステル樹脂フィルムの波長分散特性を改善する技術が検討されている(例えば、特許文献5参照。)。特許文献5で提案されている方法によれば、セルロースエステル樹脂フィルムの位相差発現性を低下させることなく、波長分散特性を自由に制御することができるとされている。
【0018】
しかしながら、本発明者は、特許文献5で提案している技術内容について詳細に検討を進めた結果、特許文献5に記載されているようなセルロースエステル樹脂の置換基を調整することで、位相差及び位相差の波長分散特性を調整して、広帯域λ/4位相差フィルムを製造し、これを有機EL表示装置用の円偏光板として用いた場合、使用環境によって、表示画像の色調ムラや反射ムラ等が発生するという問題があることが判明した。有機EL表示装置の使用環境の中でも、特に、湿度が変動した場合において上記問題が発生しやすくなることが明らかになり、早急な改良が必要であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平8−321381号公報
【特許文献2】特開平10−68816号公報
【特許文献3】国際公開第2000/026705号
【特許文献4】特開2007−47537号公報
【特許文献5】特開2008−95026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置で反射防止部材として用いられる円偏光板に用いた場合に、可視光における広い帯域の光に対して、実質的にλ/4の位相差を付与することができ、更に、湿度変動による光学性能の変動が抑制され、偏光板保護フィルムとしての機能も併せ持つ光学フィルムと、当該光学フィルムを具備した円偏光板及び当該円偏光板を反射防止部材として具備した有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を進めた結果、温度23℃、相対湿度55%の環境下、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が120〜160nmの範囲内であり、波長450nm及び550nmでそれぞれ測定したフィルム面内の位相差値Ro450とRo550との比の値Ro450/Ro550が0.65〜0.99の範囲内であるセルロース誘導体を含有する光学フィルムであって、
当該セルロース誘導体のグルコース骨格が有する置換基が、後述する要件(a)〜(c)を満たし、かつ前記グルコース骨格の、2位、3位及び6位に存在する多重結合を有する置換基の平均置換度が、後述する式(1)の関係を満たすことを特徴とする光学フィルムにより、可視光における広い帯域の光に対して、実質的にλ/4の位相差を付与することができ、更に、湿度変動による光学性能の変動が抑制され、偏光板保護フィルムとしての機能も併せ持つ光学フィルムを実現することができることを見出し、本発明に至った次第である。
【0022】
すなわち、本発明の上記課題は、下記の手段により解決される。
【0023】
1.温度23℃、相対湿度55%の環境下、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が120〜160nmの範囲内であり、波長450nm及び550nmでそれぞれ測定したフィルム面内の位相差値Ro450とRo550との比の値Ro450/Ro550が0.65〜0.99の範囲内であるセルロース誘導体を含有する光学フィルムであって、
当該セルロース誘導体のグルコース骨格が有する置換基が、下記要件(a)〜(c)を満た
かつ、前記グルコース骨格の、2位、3位及び6位に存在する多重結合を有する置換基の平均置換度が、下式(1)の関係を満たすことを特徴とする光学フィルム。
(a)前記置換基の一部が多重結合を有する置換基であり、かつ当該多重結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、0.1〜3.0の範囲内である。
(b)前記多重結合を有する置換基の極大吸収波長が、220〜400nmの範囲内である。
(c)グルコース骨格が有する置換基の少なくとも一部は、当該グルコース骨格とエーテル結合しており、当該エーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.0〜3.0の範囲内である。
式(1)
0<(2位の平均置換度+3位の平均置換度)−6位の平均置換度
【0024】
2.前記グルコース骨格とエーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.7〜3.0の範囲内であることを特徴とする第1項に記載の光学フィルム。
【0025】
3.前記多重結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、0.2〜3.0の範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の光学フィルム。
【0027】
.前記グルコース骨格とエーテル結合する置換基が、前記グルコース骨格と脂肪族炭化水素基がエーテル結合した置換基であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【0028】
.前記グルコース骨格とエーテル結合する脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜6の範囲内である無置換の脂肪族炭化水素基であることを特徴とする第項に記載の光学フィルム。
【0029】
.前記グルコース骨格が有する多重結合を有する置換基の少なくとも一部が、当該グルコース骨格とエーテル結合で結合されていることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【0030】
.前記多重結合を有する置換基が、芳香族構造を有することを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【0031】
.膜厚が、20〜60μmの範囲内であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【0032】
.長尺状フィルムであり、長手方向に対し40〜50°の範囲内に遅相軸を有することを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【0033】
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の光学フィルムと、偏光子とが貼合されていることを特徴とする円偏光板。
【0034】
.第1項に記載の円偏光板が具備されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【発明の効果】
【0035】
本発明の上記手段により、可視光における広い帯域の光に対して、実質的にλ/4の位相差を付与することができ、更に、湿度変動に対する光学性能(色味性能、反射特性)の変化が抑制され、偏光板保護フィルムとしての機能も併せ持つ光学フィルムと、当該光学フィルムを具備した円偏光板及び当該円偏光板を反射防止部材として具備した有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することができる。
【0036】
本発明で規定する構成により、上記問題を解決することができるのは、以下の理由によるものと推測している。
【0037】
本発明者らは、上述のようなセルロースエステル樹脂の置換基を調整することで、位相差及び位相差の波長分散特性を調整することにより、広帯域のλ/4位相差フィルムを製造し、これを有機EL用の円偏光板として用いた際に、それを使用する環境によっては、表示画像の色調ムラや反射ムラ等が発生するという問題について、その要因の鋭意検討を行った。
【0038】
前記特許文献5に記載されているような構成では、面内位相差をλ/4となるように調整し、波長分散特性を逆波長分散性とした場合には、セルロースエステル樹脂が、大きな面内位相差を発現させる位相差調整機能と、逆波長分散性とする波長分散調整機能との二つの機能を担保することになる。その結果、セルロースエステル樹脂自身が僅かに吸湿した場合でも、位相差変動及び波長分散変動が相乗的に発生することになると推測される。
【0039】
光学フィルムのこのような吸湿による位相差変動の要因としては、セルロースエステル樹脂が有するエステル基に水分子が配位することで発生しやすいと推測され、波長分散調整機能を担う芳香環を有するエステル基及び位相差発現性に寄与する非芳香環エステル基にそれぞれ水分子が配位することで、位相差変動及び波長分散変動が発生するものと考えられる。更に、有機EL表示装置は、上述のように非常にコントラストが高く画像性能が高いがゆえに、液晶表示装置では認識されない程度の僅かな位相差変動や波長分散変動でも、色ムラや反射ムラが認識されやすくなる環境にある。
【0040】
上記の理由により、有機EL表示装置の円偏光板に用いられるλ/4位相差フィルムを得るためには、前記特許文献5で開示されているような技術を採用した場合に、上記の問題が極めて顕在化しやすくなくものと考えられる。
【0041】
本発明者らは、更に詳細な検討を進めた結果、セルロース誘導体に220〜400nmの範囲に極大吸収波長を有する多重結合(例えば、二重結合あるいは三重結合。)を有する置換基を、平均置換度として0.1〜3.0の範囲内で導入することで、位相差の波長分散性を、逆波長分散性を示すように調整する共に、エーテル基の総平均置換度を1.0〜3.0の範囲内とすることで、位相差発現性を低下させることなく、上述のように、主にエステル基に水分子が配向することで発生する位相差の変動を効果的に抑制することが可能となり、結果として、広帯域でλ/4の面内位相差を発現する光学フィルムを得ることができるとともに、この光学フィルムを有機EL表示装置に具備した場合においても、表示の際の色ムラや反射ムラを十分に抑制することができることを見出したものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】斜め延伸における収縮倍率を説明する模式図
図2】本発明のλ/4位相差フィルムの製造方法に適用可能な斜め延伸機のレールパターンの一例を示した概略図
図3A】本発明の実施形態に係る製造方法の一例(長尺フィルム原反ロールから繰り出してから斜め延伸する例)を示す概略図
図3B】本発明の実施形態に係る製造方法の他の一例(長尺フィルム原反ロールから繰り出してから斜め延伸する例)を示す概略図
図3C】本発明の実施形態に係る製造方法の他の一例(長尺フィルム原反ロールから繰り出してから斜め延伸する例)を示す概略図
図4A】本発明の実施形態に係る製造方法の一例(長尺フィルム原反を巻き取らずに連続的に斜め延伸する例)を示す概略図
図4B】本発明の実施形態に係る製造方法の他の一例(長尺フィルム原反を巻き取らずに連続的に斜め延伸する例)を示す概略図
図5】本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の構成の一例を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の光学フィルムは、温度23℃、相対湿度55%の環境下、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が120〜160nmの範囲内であり、波長450nm及び550nmでそれぞれ測定したフィルム面内の位相差値Ro450とRo550との比の値Ro450/Ro550が0.65〜0.99の範囲内であるセルロース誘導体を含有し、当該セルロース誘導体のグルコース骨格が有する置換基が、前記要件(a)〜(c)を満たし、かつ前記グルコース骨格の、2位、3位及び6位に存在する多重結合を有する置換基の平均置換度が、前記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
【0044】
この特徴は、請求項1から請求項1に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0045】
本発明の実施態様としては、本発明の目的とする効果をより発現できる観点から、前記グルコース骨格とエーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.7〜3.0の範囲内であることが、更に湿度変化に起因する有機EL表示装置の色味変化や反射性能変化を抑制することができる観点から好ましい。
【0046】
これは、セルロース誘導体において、大部分の置換基がエステル基で構成される場合、エステル基と水との相互作用により複屈折変化を引き起こしやすくなるため、湿度変化に対する色味変化や反射性能変化を助長するが、エーテル基を導入することにより、セルロース誘導体の疎水性が向上し、また、エーテル基はエステル基のような水との相互作用性が低く、複屈折変化を引き起こしにくいため、湿度変化に対する色味変化や反射性能変化が改良されるものと推測している。
【0047】
また、前記多重結合、例えば、二重結合や三重結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、0.2〜1.7の範囲内であることが、外光下における有機EL表示装置の色味変化や反射性能変化を更に抑制できる観点から好ましい。
【0049】
前記式(1)の関係を満たすことにより、多重結合を有する置換基による波長分散調整効果が発現しやすいため、多重結合を有する置換基の置換度が低くても、十分な波長分散調整効果を得ることができる。従って、多重結合を有する置換基をグルコース単位に導入する際の反応時間を短くすることができるため、他の置換基の脱離等の影響を抑制することが可能となり、生産の安定性が高まる。また、多重結合を有する置換基を小さい置換度とすることが可能となるため、グルコース骨格単位当たりの、ヒドロキシ基数を増やすことができ、結果として、樹脂間の水素結合性を高めることによるフィルム脆性を改良することも可能となる。
【0050】
また、前記グルコース骨格とエーテル結合する置換基が、前記グルコース骨格と脂肪族炭化水素基がエーテル結合した置換基であることが、更に湿度変化に対する有機EL表示装置の色味変化や反射性能変化を抑制することができる観点から好ましい。
【0051】
これは、脂肪族炭化水素基をエーテル結合させることにより、セルロース誘導体の疎水性がより高まり、光学フィルム内への水分の侵入を抑制することができるため、湿度変化に対する色味変化や反射性能変化を抑制することができると推測している。
【0052】
また、前記グルコース骨格とエーテル結合する脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜6の範囲内である無置換の脂肪族炭化水素基であることが、より薄いフィルム膜厚で、外光下における有機EL表示装置の色味変化や反射性能変化を抑制できる観点から好ましい。
【0053】
脂肪族炭化水素基の炭素数が、6を超えるような長い脂肪族炭化水素基の場合、樹脂の配向性を低下させ、λ/4位相差フィルムとして必要な面内位相差を発現させるためには、厚膜化する必要が生じる懸念がある。
【0054】
前記グルコース骨格が有する多重結合を有する置換基の少なくとも一部が、当該グルコース骨格とエーテル結合で結合されていることが、更に湿度変化に対する有機EL表示装置の色味変化や反射性能変化が抑制することができる観点から好ましい。
【0055】
多重結合を有する置換基がアシル基の場合、すなわちエステル結合を有する場合、多重結合を有する置換基は、波長分散特性への寄与が大きいため、前記のような水との相互作用により、複屈折がわずかに変化した場合であっても、色味変化や反射性能変化を発生しやすい傾向にある。そのため、多重結合を有する置換基の少なくとも一部をエーテル基とすることで、色味変化や反射性能変化を大きく改善することができる。
【0056】
また、前記多重結合を有する置換基の極大吸収波長が、220〜300nmの範囲内であることが、光学フィルムを偏光子と貼合して偏光板を製造する際に、紫外線硬化性接着剤又は紫外線硬化性の粘着剤が用いられた場合における接着性や粘着性を向上させることができるとともに、可視光における透明性を改善することができる観点から好ましい。
【0057】
具体的には、300nm以下の極大吸収を持つ場合、可視光に吸収端がかかることがなく、光学フィルムの着色性を防止することができる。また、紫外線硬化性の接着剤や粘着剤において、波長として300〜400nmの範囲内で硬化される場合、接着性や粘着性への影響を引き起こすことがなく、偏光子等の接着あるいは粘着させた層とも密着性を良化することができる。
【0058】
本発明でいう吸収極大波長とは、置換基をCH−O−R、CH−O−CO−R、CH−O−CONH−R、CH−O−CO−O−Rとした場合に、ジクロロメタン溶液でのモル吸光係数が最も大きくなる吸収極大の波長のことである。なお、Rは多重結合を有する置換基を表す。
【0059】
また、前記多重結合を有する置換基が、芳香族基を有することが、優れた生産性を達成することができる観点から好ましい。
【0060】
これは、多重結合を有する置換基を、波長に対する複屈折変化が大きい芳香族構造とすることで、多重結合を有する置換基による波長分散調整効果が発現し易い為、多重結合を有する置換基の置換度が低くても、十分な波長分散調整効果を得ることができる。従って、多重結合を有する置換基をグルコース単位に導入する際の反応時間を短くすることができるため、他の置換基の脱離等の影響を抑制することが可能となり生産の安定性が高まる。また、多重結合を有する置換基を小さい置換度とすることが可能となるため、グルコース骨格単位当たりの、ヒドロキシ基数を増やすことができ、結果として、樹脂間の水素結合性を高めることによるフィルム脆性を改良することも可能となる。
【0061】
更には、光学フィルムの膜厚が、20〜60μmの範囲内であること、あるいは光学フィルムが長尺状フィルムであり、長手方向に対し40〜50°の範囲内に遅相軸を有することが、好ましい態様である。
【0062】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本発明において示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0063】
以下、本発明の光学フィルム、円偏光板及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置の詳細について説明する。
【0064】
《光学フィルム》
本発明の光学フィルムは、温度23℃、相対湿度55%の環境下、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が120〜160nmの範囲内であり、波長450nm及び550nmでそれぞれ測定したフィルム面内の位相差値Ro450とRo550との比の値Ro450/Ro550が0.65〜0.99の範囲内であるセルロース誘導体を含有し、当該セルロース誘導体のグルコース骨格が有する置換基が、(a)前記置換基の一部は多重結合を有する置換基であり、かつ当該多重結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、0.1〜3.0の範囲内であること、(b)前記多重結合を有する置換基の極大吸収波長が、220〜400nmの範囲内であること、及び(c)グルコース骨格が有する置換基の少なくとも一部は、当該グルコース骨格とエーテル結合しており、当該エーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.0〜3.0の範囲内であることを特徴とする。
【0065】
また、本発明の光学フィルムにおいては、長尺状フィルムであり、長手方向に対し40〜50°の範囲内に遅相軸を有すること、あるいは膜厚が20〜60μmの範囲内であることが好ましい。
【0066】
本発明の光学フィルムは、樹脂成分としてセルロース誘導体を含有して構成され、長尺方向に対して遅相軸が40〜50°の範囲内の角度を有することが好ましい。このように長尺方向に対する遅相軸の角度を40〜50°の範囲内とする方法としては、製膜された延伸前のフィルムに対して、後述する斜め延伸を行う方法を挙げることができる。なお、本発明において「光学フィルム」とは、透過光に対して所望の位相差を付与する光学的な機能を有するフィルムをいい、光学的機能としては、例えば、ある特定の波長の直線偏光を楕円偏光や円偏光に変換する、あるいは楕円偏光や円偏光を直線偏光に変換する機能等が挙げられる。また、特に「λ/4位相差フィルム」とは、所定の光の波長(通常、可視光領域)に対して、フィルムの面内位相差が約1/4となる特性を備えた光学フィルムをいう。
【0067】
〔光学フィルムの特性〕
本発明の光学フィルム(以下、本発明の位相差フィルムともいう。)は、円偏光を得るため、可視光の波長の範囲において、おおむね波長の1/4の位相差を有する広帯域λ/4位相差フィルムであることが好ましい。
【0068】
本発明の位相差フィルムの面内位相差Roλ及び膜厚方向の位相差Rtλは、下記式(i)で表される。なお、λは各位相差を測定する波長(nm)を表す。本発明で用いる位相差の値は、例えば、Axometrics社製のAxoscanを用いて、23℃、相対湿度55%の環境下で、各波長における複屈折率を測定し、下式(i)に従って算出することができる。
【0069】
式(i)
Roλ=(nxλ−nyλ)×d
Rtλ=〔(nxλ+nyλ)/2−nzλ〕×d
上記式(i)において、λは測定に用いた波長(nm)を表し、n、n、nは、それぞれ23℃、55%RHの環境下で測定され、nはフィルムの面内の最大の屈折率(遅相軸方向の屈折率)を表し、nはフィルム面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を表し、nはフィルム面内に垂直な厚さ方向の屈折率を表し、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。
【0070】
ここで、波長λ(nm)における位相差フィルムの面内位相差をRoλとしたとき、本発明の位相差フィルムでは、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が120〜160nmの範囲内で、波長450nm及び550nmでそれぞれ測定したフィルム面内の位相差値Ro450とRo550との比の値Ro450/Ro550が0.65〜0.99の範囲内であることを特徴とする。
【0071】
本発明で規定する位相差値Ro550は、120〜160nmの範囲内であることを特徴とし、好ましくは130〜150nmの範囲内であり、より好ましくは135〜145nmの範囲内である。本発明の光学フィルムにおいて、Ro550が120〜160nmの範囲内であれば、波長550nmにおける位相差がおおむね1/4波長となり、このような特性を備えた光学フィルムを用いて円偏光板を作製し、例えば、有機EL表示装置にこの円偏光板を具備することにより、室内照明の映り込みなどを防止でき、明所環境下での黒色表示特性を向上させることができる。
【0072】
また、本発明の光学フィルムにおいては、波長分散特性の指針であるフィルム面内の位相差値Ro450とRo550との比の値であるRo450/Ro550が、0.65〜0.99の範囲内であることを特徴とし、好ましくは0.70〜0.94の範囲内であり、より好ましくは0.75〜0.89の範囲内である。Ro450/Ro550が0.65〜0.99の範囲内であれば、位相差が適度な逆波長分散特性を発現し、長尺の円偏光板を作製した場合には、広い帯域の光に対して反射防止効果が得られる。
【0073】
一方、膜厚方向の位相差Rtλは、波長550nmで測定した位相差Rt550が±0〜200nmの範囲内であることが好ましく、±0〜150nmの範囲内であることがより好ましく、±0〜100nmの範囲内であることが更に好ましい。Rt550が±0〜200nmの範囲内であれば、大画面で斜めから見た時の色相の変化を防止することができる。
【0074】
〔セルロース誘導体〕
本発明の光学フィルムを構成するセルロース誘導体では、セルロース誘導体のグルコース骨格が有する置換基が、下記要件(a)〜(c)を満たすことを特徴とする。
【0075】
本発明に係るセルロース誘導体のグルコース骨格が有する置換基の第1の要件(a)は、置換基の一部が多重結合を有する置換基であり、この多重結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、0.1〜3.0の範囲内であることを特徴としている。また、この多重結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、0.2〜1.7の範囲内であることが好ましい。また、前記グルコース骨格の、2位、3位及び6位に存在する多重結合を有する置換基の平均置換度が、式(1)で表す「0<(2位の平均置換度+3位の平均置換度)−6位の平均置換度の関係を満たすことを特徴の一つとする。更には、グルコース骨格が有する多重結合を有する置換基の少なくとも一部が、当該グルコース骨格とエーテル結合で結合されていること、多重結合を有する置換基が芳香族構造を有することが好ましい態様である。本発明でいう多重結合とは、多重度が二以上の結合で、例えば、二重結合や三重結合等をいう。
【0076】
本発明に係るセルロース誘導体のグルコース骨格が有する置換基の第2の要件(b)は、前記多重結合を有する置換基の極大吸収波長が220〜400nmの範囲内であることを特徴としている。更には、多重結合を有する置換基の極大吸収波長が220〜300nmの範囲内であることが好ましい。
【0077】
本発明に係るセルロース誘導体のグルコース骨格が有する置換基の第3の要件(c)は、グルコース骨格が有する置換基の少なくとも一部は、当該グルコース骨格とエーテル結合しており、当該エーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.0〜3.0の範囲内であることを特徴とする。更には、グルコース骨格とエーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.7〜3.0の範囲内であることが好ましい。また、グルコース骨格とエーテル結合する置換基が、前記グルコース骨格と脂肪族炭化水素基がエーテル結合した置換基であることが好ましく、当該脂肪族炭化水素基が、炭素数が1〜6の範囲内の無置換の脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。
【0078】
すなわち、本発明に係るセルロース誘導体は、セルロース誘導体を構成するグルコース骨格(β−グルコース環)の2位、3位及び6位のヒドロキシ基の一部が、前述の多重結合を有する置換基で置換されるとともに、少なくとも一部がグルコース骨格とエーテル結合する置換基で置換されており、当該置換基の置換度が特定の関係を満足するセルロース誘導体である。
【0079】
更に、本発明に係るセルロース誘導体の詳細について説明する。
【0080】
本発明に係るセルロース誘導体のグルコース骨格としては、下記一般式(1)で表されるグルコース骨格単位を有するセルロース誘導体である。
【0081】
【化1】
【0082】
上記一般式(1)において、Rはグルコース骨格の2位に位置する置換基であり、Rはグルコース骨格の3位に位置する置換基であり、Rはグルコース骨格の6位に位置する置換基である。R、R及びRは、前述の要件(a)〜(c)を満たす限り特に限定されず、各々水素原子又は置換基を表す。
【0083】
(多重結合を有する置換基)
本発明に係るセルロース誘導体は、多重結合を有する置換基を有することを特徴とする。多重結合を有する置換基としては、少なくとも一つの二重結合又は三重結合を有する置換基であり、極大吸収波長が、220〜400nmの範囲内であれば特に限定されないが、例えば、芳香族構造を有する置換基が挙げられる。また芳香族基と二重結合、三重結合の組み合わせで有っても良い。芳香族基には、電子吸引性、電子供与性の官能基が結合していても良い。波長分散性の改良には、電子供与性基を芳香族基に結合させることが好ましい。
【0084】
本発明に係るセルロース誘導体は、このような多重結合を有する置換基を、平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、0.1〜3.0となる範囲内で有する。ここでいう平均置換度とは、グルコース骨格における2位、3位、6位の位置における多重結合を有する置換基の総和のセルロース誘導体全量における平均値を意味する。
【0085】
多重結合を有する置換基を、前記一般式(1)を用いて説明すると、R、R及びRとしては、−R、−OC−R、−OCNH−R、−OC−O−R等として表すことができ、Rは芳香族基を表す。また、R、R及びRが上記の−Rである場合、多重結合を有する置換基は、グルコース骨格にエーテル結合することとなり、当該多重結合を有する置換基は、本発明におけるグルコース骨格とエーテル結合を有する置換基にも含まれる。
【0086】
本発明における芳香族基とは、理化学辞典(岩波書店)第4版1208頁に芳香族化合物として定義されており、本発明における芳香族基としては芳香族炭化水素基でも芳香族ヘテロ環基でもよく、より好ましくは芳香族炭化水素基である。
【0087】
芳香族炭化水素基としては、炭素原子数が6〜24のものが好ましく、6〜12のものがより好ましく、6〜10のものがもっとも好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基が好ましく、より好ましくはフェニル基である。
【0088】
芳香族ヘテロ環基としては、酸素原子、窒素原子あるいは硫黄原子のうち少なくとも1つを含むものが好ましい。そのヘテロ環の具体例としては、例えば、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデン等が挙げられる。芳香族ヘテロ環基としては、ピリジル基、チオフェニル基、トリアジニル基、キノリル基が特に好ましい。
【0089】
グルコース骨格とエーテル結合で結合している芳香族基の具体的な例として、ベンジルエーテル、4−フェニルベンジルエーテル、4−チオメチルベンジルエーテル、4−メトキシベンジルエーテル、2,4,5−トリメチルベンジルエーテル、2,4,5−トリメトキシベンジルエーテル等が挙げられる。
【0090】
また、グルコース骨格とエーテル結合で結合している芳香族基の他の例としては、例えば、2−チエニルエーテル、3−チエニルエーテル、4−チアゾリルエーテル、2−チアゾリルエーテル、2−フリルエーテル、3−フリルエーテル、4−オキサゾリルエーテル、2−オキサゾリルエーテル、2−ピロリルエーテル、3−ピロリルエーテル、3−イミダゾリルエーテル、2−トリアゾリルエーテル、1−ピロリルエーテル、1−イミダゾリルエーテル、1−ピラゾリルエーテル、2−ピリジルエーテル、3−ピリジルエーテル、4−ピリジルエーテル、2−ピラジルエーテル、4−ピリミジルエーテル、2−ピリミジルエーテル、2−キノリルエーテル、2−キノキサリルエーテル、7−キノリルエーテル、9−カルバゾリルエーテル、2−ベンゾチエニルエーテル、2−ベンゾフリルエーテル、2−インドリルエーテル、2−ベンゾチアゾリルエーテル、2−ベンゾオキサゾリルエーテル、2−ベンゾイミダゾリルエーテル等を挙げることができる。
【0091】
芳香族アシル基の好ましい例としては、ベンゾイル基、フェニルベンゾイル基、4−メチルベンゾイル、4−チオメチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基、4−ヘプチルベンゾイル基、2,4,5−トリメトキシベンゾイル基、2,4,5−トリメチルベンゾイル基、3,4,5−トリメトキシベンゾイル基及びナフトイル基等が挙げられる。
【0092】
また、芳香族アシル基の他の例としては、例えば、2−チオフェンカルボン酸エステル、3−チオフェンカルボン酸エステル、4−チアゾールカルボン酸エステル、2−チアゾールカルボン酸エステル、2−フランカルボン酸エステル、3−フランカルボン酸エステル、4−オキサゾールカルボン酸エステル、2−オキサゾールカルボン酸エステル、2−ピロールカルボン酸エステル、3−ピロールカルボン酸エステル、3−イミダゾールカルボン酸エステル、2−トリアゾールカルボン酸エステル、1−ピロールカルボン酸エステル、1−イミダゾールカルボン酸エステル、1−ピラゾールカルボン酸エステル、2−ピリジンカルボン酸エステル、3−ピリジンカルボン酸エステル、4−ピリジンカルボン酸エステル、2−ピラジンカルボン酸エステル、4−ピリミジンカルボン酸エステル、2−ピリミジンカルボン酸エステル、2−キノリンカルボン酸エステル、2−キノキサリンカルボン酸エステル、7−キノリンカルボン酸エステル、9−カルバゾールカルボン酸エステル、2−ベンゾチオフェンカルボン酸エステル、2−ベンゾフランカルボン酸エステル、2−インドールカルボン酸エステル、2−ベンゾチアゾールカルボン酸エステル、2−ベンゾオキサゾールカルボン酸エステル、2−ベンゾイミダゾールカルボン酸エステル等を挙げることができる。
【0093】
これらの芳香族基は、更に置換基を有していてもよいが、カルボキシ基(−C(=O)O−)を含む置換基を有していないことが好ましい。カルボキシ基を含んでいると、親水性が増大し、光学特性の湿度依存性が悪化する傾向がある。前記芳香族基は、芳香族部位が、無置換であるか、又はアルキル基もしくはアリール基で置換されているのが好ましい。
【0094】
(グルコース骨格とエーテル結合した置換基)
本発明に係るセルロース誘導体は、グルコース骨格とエーテル結合した置換基を有しており、当該エーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.0〜3.0の範囲内であることを特徴とする。
【0095】
グルコース骨格とエーテル結合した置換基としては特に限定はなく、グルコース骨格とエーテル結合した置換基を、前記一般式(1)を用いて説明すると、R、R及びRとしては、脂肪族炭化水素基又は芳香族基が挙げられる。R、R及びRが芳香族基である場合は、前述の多重結合を有する置換基に含まれる場合がある。
【0096】
グルコース骨格とエーテル結合した置換基としては、グルコース骨格と脂肪族炭化水素基がエーテル結合した置換基であることが好ましい。また、脂肪族炭化水素基の中でも無置換の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1〜6の無置換の脂肪族炭化水素基であることが更に好ましい。
【0097】
無置換の脂肪族炭化水素基とは、炭素原子及び水素原子以外の原子を含まない脂肪族基であり、直鎖、分岐及び環状の基のいずれでもよい。当該脂肪族炭化水素基は、アルキル基であるのが好ましく、直鎖アルキル基であるのがより好ましい。前記脂肪族炭化水素基の炭素原子数は、1〜20が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6が最も好ましく、前記範囲の炭素原子数の直鎖のアルキル基であるのがより好ましい。中でも、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
【0098】
脂肪族炭化水素基が置換基を有する場合、カルボキシ基(−C(=O)O−)を含む置換基を有していないことが好ましい。カルボキシ基を含んでいると、親水性が増大し、光学特性の湿度依存性が悪化する傾向がある。置換基を有する脂肪族炭化水素基としては具体的には、ヒドロキシプロピル基、等が挙げられる。
【0099】
なお、本発明において、エーテル結合を有する置換基の平均置換度とは、ここでいう平均置換度とは、グルコース骨格における2位、3位、6位の位置におけるグルコース骨格とエーテル結合で結合している置換基の総和のセルロース誘導体全量における平均値を意味する。グルコース骨格とエーテル結合で結合している置換基の平均置換度が高いほど、湿度変動に対する抑制効果は高く、逆に低いほどその効果は低くなる。従って、グルコース骨格とエーテル結合で結合している置換基の平均数が1.0以上であれば、湿度環境下での位相差変動や波長分散変動を抑制することができ、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の黒表示の色や反射率の変化を小さく押さえることができる。
【0100】
(その他の置換基)
上記一般式(1)においては、前述の要件(a)〜(c)を満たす限りにおいては、上記の多重結合を有する置換基やグルコース骨格とエーテル結合した置換基以外の置換基を有していてもよい。
【0101】
このような置換基として、R、R及びRが脂肪族アシル基である場合が挙げられる。
【0102】
脂肪族アシル基は、−(C=O)RのRが脂肪族基である基をいう。脂肪族基部位は、直鎖、分岐及び環状の脂肪族基のいずれであってもよい。脂肪族アシル基の炭素原子数は、1〜20の範囲内が好ましく、1〜12の範囲内がより好ましく、1〜6の範囲内が特に好ましい。
【0103】
前記脂肪族アシル基の脂肪族基部位は、置換基を1以上有していてもよい。
【0104】
前記脂肪族アシル基は無置換であるのが好ましく、中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が好ましい。
【0105】
本発明に係るセルロース誘導体は、公知の方法、例えば、「セルロースの事典」131頁〜164頁(朝倉書店、2000年)等に記載の方法を参考にして製造することができる。具体的には、2位、3位及び6位のヒドロキシ基の一部がエーテル基に置換されたセルロースエーテルを原料として用い、ピリジン等の塩基存在下、酸クロリド若しくは酸無水物を原料として用いるセルロースエーテルの原料綿は、公知の原料を用いることができる。
【0106】
なお、本発明において、グルコース骨格の置換基の置換度は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)及びChrality 12(9),670−674に記載の方法を利用して、H−NMRあるいは13C−NMRにより、決定することができる。
【0107】
《光学フィルムの各種添加剤》
本発明の光学フィルムには、様々な機能を付与する目的で、各種添加剤を含有させることができる。
【0108】
本発明に適用可能な添加剤は、特に制限はなく、本発明の目的効果を損なわない範囲で、例えば、位相差上昇剤、波長分散改良剤、劣化抑制剤、紫外線吸収剤、マット剤、可塑剤等が用いることができる。
【0109】
以下に、本発明の光学フィルムに適用可能な代表的添加剤について示す。
【0110】
(紫外線吸収剤)
本発明の光学フィルムにおいては、紫外線吸収剤を含有することができる。
【0111】
紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。本発明の光学フィルムを、位相差フィルムのほかに、偏光板の保護フィルムとして用いる場合、紫外線吸収剤としては、偏光子や有機EL素子の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ有機EL素子の表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ない特性を備えていることが好ましい。
【0112】
本発明に有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0113】
また、市販品として、「チヌビン(TINUVIN)109」、「チヌビン(TINUVIN)171」、「チヌビン(TINUVIN)326」、「チヌビン(TINUVIN)328」(以上、BASFジャパン社製、商品名)を好ましく使用できる。
【0114】
紫外線吸収剤の添加量は、セルロース誘導体に対して0.1〜5.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜5.0質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0115】
(劣化抑制剤)
本発明の光学フィルムには、必要に応じて、劣化防止剤、例えば、酸化防止剤、光安定剤、過酸化物分解剤、ラジカル重合禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン類等を添加してもよい。劣化抑制剤については、例えば、特開平3−199201号公報、同5−197073号公報、同5−194789号公報、同5−271471号公報、同6−107854号公報等に記載がある。劣化防止剤の添加量は、劣化防止剤の添加による効果が発現し、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)を抑制する観点から、光学フィルムの作製に用いるセルロース溶液(ドープ)の0.01〜1質量%の範囲内であることが好ましく、0.01〜0.2質量%の範囲内であることが更に好ましい。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(略称:BHT)、トリベンジルアミン(略称:TBA)を挙げることができる。
【0116】
(マット剤微粒子)
本発明の光学フィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。当該マット剤微粒子としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。これらのマット剤微粒子の中では、ケイ素を含むものが、濁度(ヘイズ)が低くなる点で好ましく、特に、二酸化ケイ素が好ましい。二酸化ケイ素の微粒子は、一次平均粒子サイズが1〜20nmの範囲内であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。一次平均粒子サイズは、更には5〜16nmの範囲内のものが光学フィルムのヘイズを下げることができる観点から好ましい。見かけ比重は、更には90〜200g/リットルの範囲内であることが好ましく、100〜200g/リットルの範囲内であることが特に好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0117】
これらの微粒子は、通常、これらの微粒子は、平均粒子サイズが0.05〜2.0μmの範囲内となる二次粒子を形成する。これら二次粒子は、光学フィルム中では、一次粒子の凝集体として存在し、光学フィルム表面に0.05〜2.0μmの凹凸を形成させる。二次平均粒子サイズは0.05〜1.0μmの範囲内が好ましく、0.1〜0.7μmの範囲内が更に好ましく、0.1〜0.4μmの範囲内が特に好ましい。一次粒子及び二次粒子サイズは、光学フィルム中の微粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子サイズとする。
【0118】
二酸化ケイ素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製、商品名)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上、日本アエロジル(株)製、商品名)で市販されており、使用することができる。
【0119】
これらの中でも、アエロジル200V及びアエロジルR972Vが、一次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化ケイ素の微粒子であり、光学フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましい。
【0120】
前記マット剤微粒子は、以下の方法により調製して、光学フィルムに適用することが好ましい。すなわち、溶媒とマット剤微粒子を撹拌、混合、分散したマット剤微粒子分散液をあらかじめ調製し、このマット剤微粒子分散液を、別途用意したセルロース誘導体濃度が5質量%未満である各種添加剤溶液に添加して撹拌溶解した後、更にメインのセルロース誘導体ドープと混合する方法が好ましい。
【0121】
マット剤微粒子の表面は疎水化処理が施されているため、疎水性を有する添加剤が添加されると、マット剤微粒子表面に添加剤が吸着され、これを核として、添加剤の凝集物が発生しやすい。したがって、相対的に親水的な添加剤をあらかじめマット剤微粒子分散液と混合したのち、疎水性を有する添加剤と混合することにより、マット剤表面での添加剤の凝集を抑制することができ、ヘイズが低く、有機EL表示装置に組み込んだ際の黒表示における光漏れが少なく好ましい。
【0122】
マット剤微粒子分散剤と添加剤溶液の混合、及びセルロース誘導体ドープ液との混合にはインラインミキサーを使用することが好ましい。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化ケイ素微粒子を溶媒などと混合して分散するときの二酸化ケイ素の濃度は5〜30質量%の範囲内が好ましく、10〜25質量%の範囲内が更に好ましく、15〜20質量%の範囲内が特に好ましい。分散濃度が高い方が同量の添加量に対する濁度が低くなり、ヘイズや凝集物の発生を抑制することができるため好ましい。最終的なセルロース誘導体のドープ溶液中でのマット剤の添加量は0.001〜1.0質量%の範囲内が好ましく、0.005〜0.5質量%の範囲内が更に好ましく、0.01〜0.1質量%の範囲内が特に好ましい。
【0123】
〔セルロース誘導体を含有する光学フィルムの製造〕
本発明の光学フィルムを製造する方法としては、特段の制限はないが、ソルベントキャスト法(溶液製膜法)により製造する方法が好ましい。ソルベントキャスト法は、セルロース誘導体を有機溶媒に溶解した溶液(以下、ドープともいう。)を用いて光学フィルムを製造する。
【0124】
(溶液流延法)
本発明の光学フィルムは、上述のように溶液流延法によって製造することが好ましい態様である。溶液流延法では、本発明で規定する特性を満たすセルロース誘導体及び各種添加剤等を有機溶媒に加熱溶解させてドープを調製する工程、調製したドープをベルト状又はドラム状の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、剥離したウェブを延伸又は収縮する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻き取る工程等が含まれる。
【0125】
ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%の範囲内となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が10℃以下のドラム又はバンド上に流延することが好ましい。
【0126】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許第2,336,310号明細書、同第2,367,603号明細書、同第2,492,078号明細書、同第2,492,977号明細書、同第2,492,978号明細書、同第2,607,704号明細書、同第2,739,069号明細書及び同第2,739,070号明細書、英国特許第640,731号明細書及び同第736,892号明細書、並びに特公昭45−4554号公報、同49−5614号公報、特開昭60−176834号公報、同60−203430号公報及び同62−115035号公報等に記載がある。ドラム又はバンド上での乾燥は、流延膜に対して、空気、あるいは窒素などの不活性ガスを送風することにより行うことができる。
【0127】
調製したセルロース誘導体溶液(ドープ)を用いて2層以上の流延を行い、フィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロース誘導体フィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が5〜40%の範囲内となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0128】
(延伸工程)
本発明の光学フィルム(位相差フィルム)は、上記のとおり、波長550nmで測定した面内位相差Ro550が120〜160nmの範囲内であることを特徴とし、上記のようにして製膜した光学フィルムを延伸することによって付与することができる。
【0129】
本発明に適用が可能な延伸方法は、特に限定されず、例えば、複数のローラーに周速差をつけ、その間で、複数のローラー間での周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に従って広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法を、単独又は組み合わせて採用することができる。
【0130】
すなわち、製膜方向に対して横方向に延伸しても、縦方向に延伸しても、両方向に延伸してもよく、更に両方向に延伸する場合は同時延伸であっても、逐次延伸であってもよい。なお、いわゆるテンター方式の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0131】
延伸工程としては、通常、幅手方向(TD方向)に延伸し、搬送方向(MD方向)に収縮する場合が多いが、収縮させる際、斜め方向に搬送させると主鎖方向を合わせ易くなるため、位相差発現効果は更に大きい。収縮率は搬送させる角度によって決めることができる。
【0132】
図1は、斜め延伸における収縮倍率を説明する模式図である。
【0133】
図1において、光学フィルムFを符号12の方向に斜め延伸する際に、光学フィルムFは、斜め屈曲されることでMに収縮する。すなわち、光学フィルムFを把持した把持具が屈曲角度θで屈曲せずにそのまま進行する場合、所定の時間で長さM′だけ進行するはずである。しかしながら、実際には、屈曲角度θで屈曲し、M(ただし、M=M′)だけ進行する。このとき、フィルムの入り方向(延伸方向(TD方向)と直交する方向)には、把持具はMだけ進行しているため、光学フィルムFは、長さM(ただし、M=M−M)だけ収縮したこととなる。
【0134】
このとき、収縮率(%)は、
収縮率(%)=(M−M)/M×100で表される。屈曲角度をθとすると、
=M×sin(90−θ)となり、収縮率は、
収縮率(%)=(1−sin(90−θ))×100で表される。
【0135】
図1において、符号11は延伸方向(TD方向)であり、符号13は搬送方向(MD方向)であり、符号14は遅相軸を示している。
【0136】
長尺円偏光板の生産性を考慮すると、本発明の光学フィルム(位相差フィルム)は、搬送方向に対する配向角が45°±2°であることが、偏光フィルムとのロール・トゥ・ロールでの貼合が可能となり好ましい。
【0137】
(斜め延伸装置による延伸)
次いで、45°の方向に延伸する斜め延伸方法について、更に説明する。本発明の光学フィルムの製造方法において、延伸にする光学フィルムに斜め方向の配向を付与する方法として、斜め延伸装置を用いることが好ましい。
【0138】
本発明に適用可能な斜め延伸装置としては、レールパターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、フィルムの配向軸をフィルム幅方向にわたって左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚さやリタデーションを制御できるフィルム延伸装置であることが好ましい。
【0139】
図2は、本発明の光学フィルムの製造に適用可能な斜め延伸装置のレールパターンの一例を示した概略図である。なお、ここに示す図2は一例であって、本発明にて適用可能な斜め延伸装置はこれに限定されるものではない。
【0140】
一般的に、斜め延伸装置では、図2に示されるように、長尺のフィルム原反F1の繰出方向D1は、延伸後の延伸フィルムF2の巻取方向D2と異なっており、繰出角度θiを成している。繰出し角度θiは0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。なお、本発明において、長尺とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有するものをいう。
【0141】
長尺のフィルム原反F1は、斜め延伸装置入口(図2中のAの位置)において、その両端を左右の把持具Ci、Co(テンター)によって把持され、把持具Ci、Coの走行に伴い、フィルム原反F1は走行される。左右の把持具Ci、Coは、斜め延伸装置入口(図2中のAの位置)で、フィルムの進行方向(繰出方向D1)に対して略垂直な方向に相対している左右の把持具Ci、Coは、左右非対称なレールRi、Ro上を走行し、延伸終了時の位置(図2中のBの位置)で、テンターで把持したフィルムを解放する。
【0142】
このとき、斜め延伸装置入口(図中Aの位置)で相対していた左右の把持具は、左右非対称なレールRi、Ro上を走行するにつれて、Ri側を走行する把持具Ciは、Ro側を走行する把持具Coに対して進行する位置関係となる。
【0143】
すなわち、斜め延伸装置入口(フィルムの把持具による把持開始位置)Aで、フィルムの繰出方向D1に対してほぼ垂直な方向に相対していた把持具Ci、Coが、フィルムの延伸終了時の位置Bにある状態で、該把持具Ci、Coを結んだ直線がフィルムの巻取方向D2に対してほぼ垂直な方向に対して角度θLだけ傾斜している。
【0144】
以上の方法に従って、フィルム原反が斜め延伸されることとなる。ここでほぼ垂直とは、90±1°の範囲にあることを示す。
【0145】
更に詳しく説明すると、本発明の光学フィルムを製造する方法においては、上記で説明した斜め延伸可能なテンターを用いて斜め延伸を行うことが好ましい。
【0146】
この延伸装置は、フィルム原反F1を、延伸可能な任意の温度に加熱し、斜め延伸する装置である。この延伸装置は、加熱ゾーンと、フィルムを搬送するための把持具が走行する左右で一対のレールと、該レール上を走行する多数の把持具とを備えている。延伸装置の入口部に順次供給されるフィルムの両端を、把持具で把持し、加熱ゾーン内にフィルムを導き、延伸装置の出口部で把持具からフィルムを開放する。把持具から開放されたフィルムは巻芯に巻き取られる。一対のレールは、それぞれ無端状の連続軌道を有し、延伸装置の出口部でフィルムの把持を開放した把持具は、外側を走行して順次入口部に戻されるようになっている。
【0147】
なお、延伸装置のレールパターンは左右で非対称な形状となっており、製造すべき長尺延伸フィルムに与える配向角、延伸倍率等に応じて、そのレールパターンは手動で、又は自動で調整できるようになっている。本発明で用いられる斜め延伸装置では、各レール部及びレール連結部の位置を自由に設定し、レールパターンを任意に変更できることが好ましい(図2中の○部は連結部の一例を示している)。
【0148】
本発明において、延伸装置の把持具は、前後の把持具と一定間隔を保って、一定速度で走行する。把持具の走行速度は適宜選択できるが、通常、1〜100m/分である。左右一対の把持具の走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。これは、延伸工程出口でフィルムの左右に進行速度差があると、延伸工程出口においてシワや寄りが発生するため、左右の把持具の速度差は、実質的に同速度であることが求められるためである。一般的な延伸装置等では、チェーンを駆動するスプロケットの歯の周期、駆動モーターの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本発明で述べる速度差には該当しない。
【0149】
本発明に適用可能な延伸装置において、特にフィルムの搬送が斜めになる箇所には、把持具の軌跡を規制するレールにしばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、あるいは局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が曲線を描くようにすることが好ましい。
【0150】
本発明において、長尺フィルム原反F1は、斜め延伸装置入口(図2のAで示す位置)において、その両端を左右の把持具によって順次把持されて、把持具の走行に伴い走行される。斜め延伸装置入口(図2のAで示す位置)で、フィルム進行方向(繰出方向D1)に対してほぼ垂直な方向に相対している左右の把持具は、左右非対称なレール上を走行し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーンを有する加熱ゾーンを通過する。
【0151】
予熱ゾーンとは、加熱ゾーン入口部において、両端を把持した把持具の間隔が一定の間隔を保ったまま走行する区間をさす。
【0152】
延伸ゾーンとは、両端を把持した把持具の間隔が開きだし、所定の間隔になるまでの区間をさす。延伸ゾーンでは、上記のような斜め延伸が行われるが、必要に応じて斜め延伸前後において、縦方向あるいは横方向に延伸してもよい。斜め延伸の場合、屈曲時に遅相軸とは垂直の方向であるMD方向(進相軸方向)への収縮を伴う。
【0153】
本発明の光学フィルムにおいて、延伸処理に続いて、収縮処理を施すことにより、例えば、マトリックス樹脂であるセルロース誘導体の主鎖からずれた光学調整剤(例えば、位相差上昇剤、波長分散改良剤等)の配向を、延伸方向と垂直な方向(進相軸方向)に収縮させることにより、光学調整剤の配向状態を回転させ、光学調整剤の主軸をマトリックス樹脂であるセルロース誘導体の主鎖に合わせることができる。その結果、紫外線領域280nmにおける進相軸方向の屈折率ny280を高めることが可能となり、可視光領域のn順波長分散の傾きを急峻にすることができる。
【0154】
熱固定ゾーンとは、延伸ゾーンより後の把持具の間隔が再び一定となる期間において、両端の把持具が互いに平行を保ったまま走行する区間をさす。熱固定ゾーンを通過した後に、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下に設定される区間(冷却ゾーン)を通過してもよい。このとき、冷却によるフィルムの縮みを考慮して、あらかじめ対向する把持具間隔を狭めるようなレールパターンとしてもよい。
【0155】
各ゾーンの温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンの温度は(Tg)〜(Tg+30℃)の範囲内で、延伸ゾーンの温度は(Tg)〜(Tg+30℃)の範囲内で、冷却ゾーンの温度は(Tg−30℃)〜(Tg)の範囲内で設定することが好ましい。
【0156】
なお、幅方向の厚さムラを制御するために、延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけてもよい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差をつけるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の方法を用いることができる。
【0157】
予熱ゾーン、延伸ゾーン、収縮ゾーン及び冷却ゾーンの長さは適宜選択でき、延伸ゾーンの長さに対して、予熱ゾーンの長さは通常100〜150%の範囲内であり、固定ゾーンの長さは、通常50〜100%の範囲内である。
【0158】
延伸工程における延伸倍率(W/Wo)は、好ましくは1.3〜3.0の範囲内であり、より好ましくは1.5〜2.8の範囲内である。延伸倍率がこの範囲にあると、幅方向における厚さムラを小さくすることができる。斜め延伸装置の延伸ゾーンにおいて、幅方向で延伸温度に差をつけると幅方向厚さムラを更に改善することができる。なお、Woは延伸前のフィルムの幅、Wは延伸後のフィルムの幅を表す。
【0159】
本発明において適用可能な斜め延伸方法としては、上記図2に示した方法のほかに、図3A図3C図4A及び図4Bに示す延伸方法を挙げることができる。
【0160】
図3A図3Cは、本発明に適用可能な製造方法の一例(長尺フィルム原反ローラーから繰り出してから斜め延伸する例)を示す概略図であり、一旦ロール状に巻き取られた長尺フィルム原反を繰り出して斜め延伸するパターンを示す。図4A及び図4Bは、本発明に適用可能な他の製造方法の一例(長尺フィルム原反を巻き取らずに連続的に斜め延伸する例)を示す概略図であり、長尺フィルム原反を巻き取ることなく連続的に斜め延伸工程を行うパターンを示す。
【0161】
図3A図3C図4A及び図4Bにおいて、符号15は斜め延伸装置、符号16はフィルム繰り出し装置、符号17は搬送方向変更装置、符号18は巻取り装置、符号19は製膜装置を示している。それぞれの図において、同じものを示す符号については省略している場合がある。
【0162】
フィルム繰り出し装置16は、斜め延伸装置15の入口に対して所定角度でフィルムを送り出せるように、スライド及び旋回可能となっているか、スライド可能となっており搬送方向変更装置17により斜め延伸装置15の入口にフィルムを送り出せるようになっていることが好ましい。図3A図3Cは、フィルム繰り出し装置16及び搬送方向変更装置17の配置をそれぞれ変更したパターンを示している。図4A及び図4Bは、製膜装置19により製膜されたフィルムを直接延伸装置15に繰り出すパターンを示している。フィルム繰り出し装置16及び搬送方向変更装置17をこのような構成とすることにより、より製造装置全体の幅を狭くすることが可能となるほか、フィルムの送り出し位置及び角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺延伸フィルムを得ることが可能となる。また、フィルム繰り出し装置16及び搬送方向変更装置17を移動可能とすることにより、左右のクリップのフィルムへの噛込み不良を有効に防止することができる。
【0163】
巻取り装置18は、斜め延伸装置15の出口に対して所定角度でフィルムを引き取れるように配置することにより、フィルムの引取り位置及び角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺の延伸フィルムを得ることが可能となる。そのため、フィルムのシワの発生を有効に防止することができるとともに、フィルムの巻取り性が向上するため、フィルムを長尺で巻き取ることが可能となる。本発明において、延伸後のフィルムの引取り張力T(N/m)は、100(N/m)<T<300(N/m)、好ましくは150(N/m)<T<250(N/m)の範囲内で調整することである。
【0164】
(溶融製膜法)
本発明の光学フィルム(位相差フィルム)は、上記説明した溶液流延法のほかに、溶融製膜法によって製膜してもよい。溶融製膜法は、セルロース誘導体及び可塑剤などの添加剤を含む組成物を、流動性を呈する温度まで加熱溶融した後、流動性の熱可塑性樹脂を含む溶融物として流延して製膜する方法である。
【0165】
加熱溶融する成形法としては、例えば、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類することができる。これらの成形法の中では、機械的強度及び表面精度などの点から、溶融押出成形法が好ましい。
【0166】
溶融押出し法に用いる複数の原材料は、通常、あらかじめ混錬してペレット化しておくことが好ましい。ペレット化は、公知の方法で行うことができ、例えば、乾燥セルロース誘導体や可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出機に供給し、一軸や二軸の押出機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押し出し、水冷又は空冷し、カッティングすることで得ることができる。
【0167】
添加剤は、押出機に供給する前に混合しておいてもよく、あるいはそれぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。なお、マット剤微粒子や酸化防止剤等の少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておく方法が好ましい。
【0168】
ペレット化に用いる押出機は、剪断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないように、ペレット化可能でなるべく低温で加工する方式が好ましい。例えば、二軸押出機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させる方法が好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
【0169】
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。もちろん、ペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーに投入して押出機に供給し、加熱溶融した後、そのままフィルム製膜することも可能である。
【0170】
上記ペレットを一軸や二軸タイプの押出機を用いて、押し出す際の溶融温度としては200〜300℃の範囲内とし、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過して異物を除去した後、Tダイからフィルム状に流延し、冷却ローラーと弾性タッチローラーでフィルムをニップし、冷却ローラー上で固化させる。
【0171】
供給ホッパーから押出機へ導入する際は、真空下又は減圧下や不活性ガス雰囲気下で行って、酸化分解等を防止することが好ましい。
【0172】
押し出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体が複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し、接触箇所を焼結して一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、濾過精度を調整できる。
【0173】
可塑剤や微粒子などの添加剤は、あらかじめ樹脂と混合しておいてもよいし、押出機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
【0174】
冷却ローラーと弾性タッチローラーでフィルムをニップする際のタッチローラー側のフィルム温度は、フィルムの(Tg)〜(Tg+110℃)の範囲内とすることが好ましい。このような目的で使用する弾性体表面を有する弾性タッチローラーとしては、公知の弾性タッチローラーを使用することができる。弾性タッチローラーは、挟圧回転体ともいい、市販されているものを用いることもできる。
【0175】
冷却ローラーからフィルムを剥離する際は、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
【0176】
上記のようにして得られたフィルムは、冷却ローラーに接する工程を通過した後、延伸操作により延伸及び収縮処理を施すことができる。延伸及び収縮する方法は、公知のローラー延伸装置や上述の溶液流延法で説明したような斜め延伸装置などを好ましく用いることができる。延伸温度は、通常フィルムを構成する樹脂の(Tg)〜(Tg+60℃)の温度範囲で行われることが好ましい。
【0177】
巻き取る前に、製品となる幅に端部をスリットして裁ち落とし、巻き中の貼り付きや擦り傷防止のために、ナール加工(エンボッシング加工)を両端に施してもよい。ナール加工の方法は、凸凹のパターンを側面に有する金属リングを加熱や加圧により加工することができる。なお、フィルム両端部のクリップの把持部分は通常、フィルムが変形しており製品として使用できないので切除されて、その切除部は、上記説明した各製膜法で再利用される。
【0178】
本発明の位相差フィルムは、遅相軸と、後述する偏光子の透過軸もしくは吸収軸との角度が実質的に45°になるように積層することにより、円偏光板とすることができる。なお、本発明でいう「実質的に45°」とは、40〜50°の範囲内であることをいう。
【0179】
本発明の位相差フィルムの面内の遅相軸と、偏光子の透過軸もしくは吸収軸との角度とは、41〜49°の範囲内であることが好ましく、42〜48°の範囲内であることがより好ましく、43〜47°の範囲内であることが更に好ましく、44〜46°の範囲内であることが特に好ましい。
【0180】
《円偏光板》
本発明の円偏光板は、長尺状の保護フィルム、長尺状の偏光子及び長尺状の本発明の位相差フィルムをこの順に有する長尺ロールを断裁して作製されることが好ましい。本発明の円偏光板は、本発明の位相差フィルムを用いて作製されるため、後述する有機EL表示装置等に適用することにより、可視光の全波長において、有機EL素子の金属電極の鏡面反射を遮蔽する効果を発現させることができる。その結果、鑑賞時の映り込みを防止することができるとともに、黒色表現を向上させることができる。
【0181】
また、本発明の円偏光板は、紫外線吸収機能を備えていることが好ましい。視認側の保護フィルムが紫外線吸収機能を備えていると、偏光子と有機EL素子の両方に対し、紫外線に対する保護効果を発現できる観点から好ましい。更に、発光側(例えば、有機EL素子側)の位相差フィルムも紫外線吸収機能を備えていると、後述する有機EL表示装置に用いた場合に、より有機EL素子の劣化を抑制し得る。
【0182】
また、本発明の円偏光板は、遅相軸の角度(すなわち配向角θ)を長手方向に対して「実質的に45°」となるように調整した本発明の位相差フィルムを用いることにより、一貫した製造ラインにより接着剤層の形成及び偏光子と位相差フィルムとの貼り合わせが可能となる。具体的には、偏光膜を延伸して偏光子を作製する工程を終えた後、続いて行われる乾燥工程中又は乾燥工程後に、偏光子と位相差フィルムを貼合する工程を組み込むことでき、それぞれを連続的に供給することができ、かつ、貼合後もロール状態で巻き取ることにより、次工程に一貫したオンラインの製造ラインとすることができる。なお、偏光子と位相差フィルムを貼合する際に、同時に保護フィルムもロール状態で供給し、連続的に貼合することもできる。性能及び生産効率の観点からは、偏光子に位相差フィルムと保護フィルムとを同時に貼合する方が好ましい。すなわち、偏光膜を延伸して偏光子を作製する工程を終えた後、続いて行われる乾燥工程中又は乾燥工程後に、両側の面にそれぞれ保護フィルムと位相差フィルムを接着剤により貼合し、ロール状態の円偏光板を得ることも可能である。
【0183】
本発明の円偏光板は、偏光子を本発明の位相差フィルムと保護フィルムによって挟持されることが好ましく、該保護フィルムの視認側に硬化層が積層されることが好ましい。
【0184】
本発明においては、本発明の円偏光板が、有機エレクトロルミネッセンス表示装置に具備することを特徴とする。本発明の円偏光板を有機エレクトロルミネッセンス表示装置に適用することにより、有機エレクトロルミネッセンス発光体の金属電極の鏡面反射を遮蔽する効果を発現する。
【0185】
(保護フィルム)
本発明の円偏光板は、偏光子を本発明の光学フィルム(位相差フィルム)と保護フィルムとによって挟持した構成を有することが好ましい。このような円偏光板に適用可能な保護フィルムとしては、他のセルロースエステル含有フィルムが好適に用いられ、例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタックKC8UX、KC5UX、KC4UX、KC8UCR3、KC4SR、KC4BR、KC4CR、KC4DR、KC4FR、KC4KR、KC8UY、KC6UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC2UA、KC4UA、KC6UAKC、2UAH、KC4UAH、KC6UAH(以上、コニカミノルタ(株)製)、フジタックT40UZ、フジタックT60UZ、フジタックT80UZ、フジタックTD80UL、フジタックTD60UL、フジタックTD40UL、フジタックR02、フジタックR06(以上、富士フイルム(株)製))が好ましく用いられる。保護フィルムの厚さは、特に制限されないが、10〜200μm程度とすることができ、好ましくは10〜100μmの範囲であり、より好ましくは10〜70μmの範囲である。
【0186】
(偏光子)
偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、その例には、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが含まれる。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
【0187】
偏光子は、ポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸した後、染色するか;あるいはポリビニルアルコールフィルムを染色した後、一軸延伸して、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理をさらに行って得ることができる。偏光子の膜厚は、5〜30μmの範囲内が好ましく、5〜15μmの範囲内であることがより好ましい。
【0188】
ポリビニルアルコールフィルムとしては、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量が1〜4モル%、重合度が2000〜4000、ケン化度が99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。また、特開2011−100161号公報、特許第4691205号公報、特許第4804589号公報に記載の方法で、偏光子を作製し、本発明の光学フィルムと貼り合わせて偏光板を作製することが好ましい。
【0189】
(接着剤)
本発明の光学フィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、当該光学フィルムを鹸化処理した後、完全鹸化型のポリビニルアルコール系接着剤を用いて行うことができる。また、活性光線硬化性接着剤などを用いて貼り合わせることもできるが、得られる接着剤層の弾性率が高く、偏光板の変形を抑制しやすい点などから、光硬化性接着剤を用いる貼合方法が好ましい。
【0190】
光硬化性接着剤の好ましい例としては、特開2011−028234号公報に開示されているような、(α)カチオン重合性化合物、(β)光カチオン重合開始剤、(γ)380nmより長い波長の光に極大吸収を示す光増感剤、及び(δ)ナフタレン系光増感助剤の各成分を含有する光硬化性接着剤組成物が挙げられる。ただし、これ以外の光硬化性接着剤が用いられてもよい。
【0191】
以下、光硬化性接着剤を用いた偏光板の製造方法の一例を説明する。偏光板は、
(1)光学フィルムの偏光子を接着する面を易接着処理する前処理工程、
(2)偏光子と光学フィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、上記の光硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程、
(3)得られた接着剤層を介して偏光子と光学フィルムとを貼り合わせる貼合工程、
(4)接着剤層を介して偏光子と光学フィルムとが貼り合わされた状態で接着剤層を硬化させる硬化工程、
を含む製造方法によって製造することができる。なお、(1)の前処理工程は、必要に応じて実施すればよい。
【0192】
〈前処理工程〉
前処理工程では、光学フィルムの、偏光子との接着面に対し易接着処理を行う。偏光子の両面にそれぞれ光学フィルムを接着させる場合は、それぞれの光学フィルムの、偏光子との接着面に易接着処理を施すことが好ましい。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
【0193】
〈接着剤塗布工程〉
接着剤塗布工程では、偏光子と光学フィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、上記光硬化性接着剤を塗布する。偏光子又は光学フィルムの表面に直接光硬化性接着剤を塗布する場合、その塗布方法に特別な限定はない。例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子と光学フィルムの間に、光硬化性接着剤を流延させた後、ローラー等で加圧して均一に押し広げる方法も利用できる。
【0194】
〈貼合工程〉
こうして光硬化性接着剤を塗布した後、貼合工程に供される。この貼合工程では、例えば、先の塗布工程で偏光子の表面に光硬化性接着剤を塗布した場合、そこに光学フィルムが重ね合わされる。先の塗布工程で光学フィルムの表面に光硬化性接着剤を塗布した場合は、そこに偏光子が重ね合わされる。また、偏光子と光学フィルムの間に光硬化性接着剤を流延させた場合は、その状態で偏光子と光学フィルムとが重ね合わされる。偏光子の両面に光学フィルムを接着する場合であって、両面とも光硬化性接着剤を用いる場合は、偏光子の両面にそれぞれ、光硬化性接着剤を介して光学フィルムが重ね合わされる。そして通常は、この状態で両面(偏光子の片面に光学フィルムを重ね合わせた場合は、偏光子側と光学フィルム側、また偏光子の両面に光学フィルムを重ね合わせた場合は、その両面の光学フィルム側)からロール等で挟んで加圧することになる。ロールの材質は、金属やゴム等を用いることが可能である。両面に配置されるローラーは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
【0195】
〈硬化工程〉
硬化工程では、未硬化の光硬化性接着剤に活性エネルギー線を照射して、エポキシ化合物やオキセタン化合物を含む接着剤層を硬化させる。それにより、光硬化性接着剤を介して重ね合わせた偏光子と光学フィルムとを接着させる。偏光子の片面に光学フィルムを貼合する場合、活性エネルギー線は、偏光子側又は光学フィルム側のいずれから照射してもよい。また、偏光子の両面に光学フィルムを貼合する場合、偏光子の両面にそれぞれ光硬化性接着剤を介して光学フィルムを重ね合わせた状態で、いずれか一方の光学フィルム側から活性エネルギー線を照射し、両面の光硬化性接着剤を同時に硬化させるのが有利である。
【0196】
活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、X線、電子線等を用いることができ、取扱いが容易で硬化速度も十分であることから、一般的には、電子線又は紫外線が好ましく用いられる。
【0197】
電子線の照射条件は、前記接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。例えば、電子線照射は、加速電圧が好ましくは5〜300kVの範囲内であり、さらに好ましくは10〜250kVの範囲内である。加速電圧が5kV以上であれば、電子線が接着剤まで到達し、所望の硬化度を得ることができ、加速電圧が300kV以下であれば、試料を通る浸透力が適正となり電子線が浸透し、透明光学フィルムや偏光子にダメージを与えることを防止することができる。照射線量としては、5〜100kGyの範囲内、さらに好ましくは10〜75kGyの範囲内である。照射線量が5kGy以上であれば、接着剤の硬化が十分となり、100kGy以下であれば、透明光学フィルムや偏光子にダメージを与えることがなく、機械的強度の低下や黄変を防止でき、所定の光学特性を得ることができる。
【0198】
また、活性エネルギー線として紫外線を用いた場合の照射条件は、前記接着剤を硬化することができる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。紫外線の照射量は、積算光量で50〜1500mJ/cmの範囲内であることが好ましく、100〜500mJ/cmの範囲内であるのがさらに好ましい。
【0199】
以上のようにして得られた偏光板において、接着剤層の厚さは、特に限定されないが、通常0.01〜10μmの範囲内であり、好ましくは0.5〜5.0μmの範囲内である。
【0200】
《有機EL表示装置》
本発明の有機EL表示装置は、上記でその詳細を説明した本発明の円偏光板を具備して作製される。
【0201】
より詳細には、本発明の有機EL表示装置は、本発明の光学フィルム(位相差フィルム)を用いた円偏光板と、有機EL素子とを備える。そのため、有機EL表示装置は、鑑賞時の外光の映り込みが防止され、黒色表示性を向上させることができる。有機EL表示装置の画面サイズは、特に限定されず、50.8cm(20インチ)以上とすることができる。
【0202】
図5は、本発明の有機EL表示装置の構成の概略的な説明図である。本発明の有機EL表示装置Aの構成は、図5に示されるものに何ら限定されるものではない。
【0203】
図5に示されるように、有機EL表示装置Aは、ガラスやポリイミド等を用いた透明基板101上に、順に金属電極102、TFT103、有機発光層104、透明電極(ITO等)105、絶縁層106、封止層107、フィルム108(省略可)を有する有機EL素子B上に、偏光子110を、本発明の位相差フィルム109と保護フィルム111によって挟持した長尺の本発明の円偏光板Cを設けて構成する。保護フィルム111には硬化層112が積層されていることが好ましい。硬化層112は、有機EL表示装置の表面のキズを防止するだけではなく、長尺の円偏光板による反りを防止する効果を有する。更に、硬化層112上には、反射防止層113を有していてもよい。上記有機EL素子B自体の厚さは1μm程度である。
【0204】
一般に、有機EL表示装置Aは、透明基板101上に金属電極102と有機発光層104と透明電極105とを順に積層して発光体である素子(有機EL素子B)を形成している。ここで、有機発光層104は、種々の薄膜の有機機能層の積層体であり、例えば、トリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、及び電子注入層の積層体等、種々の組み合わせを持った積層体が知られている。
【0205】
有機EL表示装置Aは、透明電極105と金属電極102とに電圧を印加することによって、有機発光層104に正孔と電子と注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0206】
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明であることが必要であり、通常、酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いていることが好ましい。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0207】
本発明の位相差フィルムを有する円偏光板は、画面サイズが20インチ以上、すなわち対角線距離が50.8cm以上の大型画面からなる有機EL表示装置に適用することができる。
【0208】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、層厚が10nm程度の極めて薄い膜で形成されている。そのため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように観察される。
【0209】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備える有機EL素子を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側(視認側)に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0210】
位相差フィルム及び偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差フィルムをλ/4位相差フィルムで構成し、かつ偏光子と位相差フィルムとの偏光方向のなす角を45°又は135°に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0211】
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光子により直線偏光成分のみが透過し、この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが、特に位相差フィルムがλ/4位相差フィルムでしかも偏光子と位相差フィルムとの偏光方向のなす角が45°又は135°のときには円偏光となる。
【0212】
この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差フィルムに再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【実施例】
【0213】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。また、以下に示す置換度、置換基数は、いずれも平均値を表す。
【0214】
実施例1
《セルロース誘導体の合成》
〔セルロース誘導体A−1の合成〕
(第1工程:セルロースエーテル1の合成)
広葉樹前加水分解クラフト法パルプ(αセルロース含量98.4%)の100gに、60%の水酸化ナトリウム溶液140gを加え混合した。次に、ブロモブタンの400gを加え、撹拌しながら0〜5℃の温度範囲に約1時間保った後、30〜40℃の温度範囲で加温して6時間反応させた。内容物を濾別して、沈殿物を取除いた後、これに温水を加えた。1%のリン酸水溶液で中和した後、アセトン中に滴下して反応生成物を析出させた。濾別により分離し、アセトン:水=9:1(体積比)の混合溶液で数回洗浄を繰り返し、60℃で真空乾燥を行い、ブチルセルロースを得た。生成物のブロモブタンによる置換度(MS)は、NMRによる測定の結果、1.1であり、これをセルロースエーテルAとした。
【0215】
(第2工程:セルロースエーテルAへの多重結合を有する置換基及びアセチル基の導入)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、第1工程で得られたセルロースエーテルAを200g、ピリジンを90mL、アセトンを2000mL添加し、室温で撹拌した。ここに350gのアセチルクロリドをゆっくりと滴下し、添加後、更に50℃で8時間撹拌した。次いで、反応後、室温に戻るまで放冷し、反応溶液をメタノール20L中へ激しく撹拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引濾過により濾別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で一昼夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することによりセルロース誘導体A−1を得た。
【0216】
上記調製したセルロース誘導体A−1のグルコース骨格の置換基の置換度について、Cellulose Communication 6,73−79(1999)及びChrality 12(9),670−674に記載の方法に準じて、H−NMR及び13C−NMRにより測定し、その平均値を求めた結果、セルロース誘導体A−1におけるエーテル結合を有する置換基であるブトキシ基の置換基数は1.1であり、多重結合を有する置換基であるベンゾエート基の置換基数は0.6であり、アセチル基の置換基数は1.3であり、総置換度は3.0であった。
【0217】
〔セルロース誘導体A−2〜A−6の合成〕
上記セルロース誘導体A−1の合成において、第1工程及び第2工程における各構成材料の比率、及び反応条件を適宜選択して、表1に記載のグルコース骨格の各置換基の構成となるように合成して、セルロース誘導体A−2〜A−6を得た。
【0218】
〔セルロース誘導体A−7の合成〕
(第1工程)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、アセチル基置換度が2.15のセルロースアセテートを250g、ピリジンを114mL、アセトンを3000mL、それぞれ添加し、室温で撹拌した。ここに、160gのベンゾイルクロリドをゆっくりと滴下し、添加した後、更に50℃にて8時間撹拌した。反応後、室温に戻るまで放冷し、反応溶液をメタノール20L中へ激しく撹拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引濾過により濾別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で一昼夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することにより中間体化合物を得た。
【0219】
(第2工程)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、上記第1工程で得られた中間体化合物を40g、ピリジンを400mL、アセトンを100mL添加し、室温で撹拌した。ここに、2,4,6−トリメトキシベンゾイルクロリドの20.5gをゆっくりと滴下し、添加後、更に50℃で8時間撹拌した。次いで、反応後、室温に戻るまで放冷し、反応溶液をメタノール10L中へ激しく撹拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引濾過により濾別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で一昼夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体A−7を得た。
【0220】
上記調製したセルロース誘導体A−7のグルコース骨格の置換基の置換度について、Cellulose Communication 6,73−79(1999)及びChrality 12(9),670−674に記載の方法に準じて、H−NMR及び13C−NMRにより測定し、その平均値を求めた結果、多重結合を有する置換基であるベンゾエート基の置換基数は0.33であり、同じく多重結合を有する置換基である2,4,5−トリメトキシベンゾエート基の置換基数は0.08であり、アセチル基の置換基数は2.15であり、総置換度は、2.56であった。ただし、セルロース誘導体A−7は、エーテル結合を有する置換基は有していない。
【0221】
〔セルロース誘導体A−8の合成〕
上記セルロース誘導体A−7の合成において、下記の第1工程に変更した以外は同様にして、セルロース誘導体A−8を合成した。
【0222】
(第1工程)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、メチルセルロース(メトキシ基置換度:1.8)を40g、メチレンクロリドを500mL、ピリジンを500mL添加し、室温で撹拌した。ここにベンジルクロリド160gをゆっくりと滴下し、更にジメチルアミノピリジン(略称:DMAP)約0.1gを加えて、3時間還流した。反応後、室温に戻し、氷冷下、メタノール100mLを加えてクエンチした。反応溶液をメタノール/水(5L/5L)へ激しく撹拌しながら投入すると、固体が析出した。固体を吸引濾過により濾別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより中間体を得た。
【0223】
上記調製したセルロース誘導体A−8のグルコース骨格の置換基の置換度について、Cellulose Communication 6,73−79(1999)及びChrality 12(9),670−674に記載の方法に準じて、H−NMR及び13C−NMRにより測定し、その平均値を求めた結果、エーテル結合を有する置換基であるメトキシ基の置換基数は2.15であり、多重結合を有する置換基であるベンゾエート基の置換基数は0.33であり、同じく多重結合を有する置換基である2,4,5−トリメトキシベンゾエート基の置換基数は0.08であり、総置換度は2.56であった。
【0224】
《位相差フィルムの作製》
〔位相差フィルムA1の作製〕
(微粒子分散液の調製)
微粒子(アエロジル R812、一次粒子径:約7nm、日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
上記微粒子とエタノールをディゾルバーで50分間撹拌混合した後、超高圧式ホモジナイザーであるマントンゴーリン分散機(ゴーリン社製)を用いて分散を行い、微粒子分散液を調製した。
【0225】
(微粒子添加液1の調製)
溶解タンクにジメチルクロライドを50質量部入れ、ジメチルクロライドを十分に撹拌しながら上記調製した微粒子分散液50質量部をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が、所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のステンレス製焼結フィルターであるファインメットNFで濾過して、微粒子添加液1を調製した。
【0226】
(ドープの調製)
はじめに、加圧溶解タンクに下記に示すジメチルクロライドとエタノールを添加した。有機溶媒を添加した加圧溶解タンクに、上記合成したセルロース誘導体A−1及びエステル化合物を撹拌しながら投入した。これを加熱・撹拌しながら、完全に溶解した。次いで、微粒子添加液1を添加した後、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、ドープを調製した。
【0227】
〈ドープの組成〉
ジメチルクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロース誘導体A−1 100質量部
エステル化合物(下記参照) 5質量部
微粒子添加液1 2質量部
〈エステル化合物の調製〉
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中で230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温した。15時間脱水縮合反応させ、反応終了後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、エステル化合物を得た。酸価は0.10mgKOH/g、数平均分子量は450であった。
【0228】
(製膜)
上記調製したドープを、ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)した後、ステンレスベルト支持体上から原反フィルムとして剥離した。
【0229】
剥離した原反フィルムを、加熱しながらテンターを用いて、幅手方向(TD方向)にのみ一軸延伸し、搬送方向(MD方向)には収縮しないように搬送張力を調整した。
【0230】
次いで、乾燥ゾーンを多数のローラーを介して搬送させながら乾燥を終了させ、ロール状の原反フィルムを作製した。
【0231】
(延伸工程)
この原反フィルムを、図2に記載の構成からなる斜め延伸装置を用いて、搬送方向に対して、フィルムの光学遅相軸が45°となるよう斜め方向に延伸することでロール状の位相差フィルムA1を作製した。
【0232】
なお、延伸条件としては、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が140nm、膜厚が50μm、Ro450/Ro550が0.81となるように、原反フィルムの膜厚、延伸温度、幅手方向(TD方向)及び搬送方向(MD方向)の延伸倍率を適宜調整して行った。
【0233】
〔位相差フィルムA2〜A8の作製〕
上記位相差フィルムA1の作製において、セルロース誘導体A−1に代えて、それぞれセルロース誘導体A−2〜A−8を用いた以外は同様にして、位相差フィルムA2〜A8を作製した。
【0234】
なお、延伸条件としては、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が140nm、膜厚が50μm、Ro450/Ro550が表1に記載の値となるように、原反フィルムの膜厚、延伸温度、幅手方向(TD方向)及び搬送方向(MD方向)の延伸倍率を適宜調整して行った。
【0235】
《円偏光板の作製》
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥して偏光子を得た。
【0236】
上記作製した各位相差フィルムの遅相軸と、偏光子の吸収軸とが45°となるように、接着剤を用いて貼合し、偏光子の裏面側には保護フィルム(コニカミノルタタックKC4UY、厚さ40μm、コニカミノルタ(株)製)を水糊によって貼り合せ、円偏光板A1〜A8を作製した。
【0237】
《有機ELセルの作製》
厚さ3mmの50インチ(127cm)サイズの無アルカリガラスを用いて、特開2010−20925号公報の実施例に記載されている方法に準じて、特開2010−20925号公報の図8に記載された構成からなる有機ELセルを作製した。
【0238】
《有機EL表示装置の作製》
上記作製した各円偏光板の位相差フィルムの表面に接着剤を塗工した後、上記有機ELセルの視認側と貼合することで、有機EL表示装置A1〜A8を作製した。
【0239】
《有機EL表示装置の評価》
上記作製した各有機EL表示装置について、以下の評価を行った。
【0240】
〔湿度安定性の評価1:黒の色味安定性の評価〕
23℃、20%RHの低湿環境下で、各有機EL表示装置の最表面から5cm高い位置での照度が1000Lxとなる条件下で、有機EL表示装置に黒画像を表示した。次いで、23℃、80%RHの高湿環境下で、同様に黒画像を表示した。
【0241】
上記二つの環境下で、各有機EL表示装置の正面位置(面法線に対し0°)と、面法線に対し40°の斜め角度からの黒画像の色味を比較観察し、湿度による黒味への影響の有無を一般モニター10人により以下の基準に従って評価した。なお、△以上であれば、黒味の湿度安定性としては実用上許容される範囲であると判断した。
【0242】
◎:9人以上のモニターが、表示された黒の湿度影響はなしと判定した
○:7〜8人のモニターが、表示された黒の湿度影響はなしと判定した
△:5〜6人のモニターが、表示された黒の湿度影響はなしと判定した
×:表示された黒の湿度影響はなしと判定したモニターが、4人以下である
〔湿度安定性の評価2:反射性能(視認性)安定性の評価〕
上記有機EL表示装置の作製において、有機ELセルを作製した段階で、視認側表面にマジックインキ(登録商標)で赤、青、緑の線を付与した以外は同様にして、評価用の有機EL表示装置を作製した。
【0243】
作製した赤、青、緑の線を有する有機EL表示について、23℃、20%RHの低湿環境下で、各有機EL表示装置の最表面から5cm高い位置での照度が1000Lxとなる条件下で、有機EL表示装置に付したマジックインキの線の視認性(反射性能)を評価した。次いで、23℃、80%RHの高湿環境下で、同様にマジックインキの線の視認性(反射性能)を、一般モニター10人により以下の基準に従って評価した。なお、△以上であれば、反射性能の湿度安定性としては実用上許容される範囲であると判断した。ここでいう反射性能とは、円偏光板の表面の反射でなく、円偏光板の内部に入った有機ELセルにおける反射をいう。
【0244】
◎:9人以上のモニターが、湿度によるマジックインキの線の視認性に影響はなしと判定した
○:7〜8人のモニターが、湿度によるマジックインキの線の視認性に影響はなしと判定した
△:5〜6人のモニターが、湿度によるマジックインキの線の視認性に影響はなしと判定した
×:湿度によるマジックインキの線の視認性への影響はなしと判定したモニターが、4人以下である
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0245】
【表1】
【0246】
表1に記載の結果より明らかなように、本発明で規定する構成からなる位相差フィルムを有する円偏光板を具備した本発明の有機EL表示装置は、比較例に対し、湿度環境が大きく変化しても、黒の色味安定性及び反射性能(視認性)安定性に優れていることが分かる。
【0247】
すなわち、エーテル結合を有する置換基の平均置換度が、グルコース骨格単位当たり、1.0〜3.0の範囲内であるセルロース誘導体を用いた光学フィルムを有する有機EL表示装置は、黒の色味性及び反射性の湿度変動が小さいが、エーテル結合を有する置換基数が本発明で規定する条件以下であるセルロース誘導体A−2を用いた有機EL表示装置A2は、いずれの特性も湿度依存性が大きいことが分かる。また、エーテル結合を有していないセルロース誘導体A−7を用いた有機EL表示装置A7も、いずれの特性も湿度依存性が大きいことが分かる。
【0248】
実施例2
《セルロース誘導体の合成》
〔セルロース誘導体B−1の合成〕
(第1工程)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、メチルセルロース(メトキシ基置換度:1.8、信越アステック社製 SM−15)を40g、メチレンクロリドを500mL、ピリジンを500mL添加し、室温で撹拌した。ここに、無水酢酸を500mLゆっくりと滴下し、更にジメチルアミノピリジン(DMAP)約0.1gを加えて、3時間還流した。反応後、室温に戻し、氷冷下、メタノール100mLを加えてクエンチした。反応溶液をメタノール/水(5L/5L)中へ激しく撹拌しながら投入すると、白色固体が析出した。析出した白色固体を吸引濾過により濾別し、大量の水で3回洗浄を行った。100℃で6時間真空乾燥することにより、中間体を得た。
【0249】
得られた中間体は、アルカリによる加水分解によってアセチル基置換度が0.6となるよう調整した。
【0250】
(第2工程)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、上記第1工程で得られた中間体200g、ピリジン90mL、アセトン2000mLを添加し、室温で撹拌した。ここに30gのベンゾイルクロリドをゆっくりと滴下し、添加後、更に50℃にて8時間撹拌した。反応後、室温に戻るまで放冷し、反応溶液をメタノール20L中へ激しく撹拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引濾過により濾別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で一昼夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することにより、セルロース誘導体B−1を得た。
【0251】
上記調製したセルロース誘導体B−1のグルコース骨格の置換基の置換度について、Cellulose Communication 6,73−79(1999)及びChrality 12(9),670−674に記載の方法に準じて、H−NMR及び13C−NMRにより測定し、その平均値を求めた結果、エーテル結合を有する置換基であるメトキシ基の置換基数は1.8であり、多重結合を有する置換基であるベンゾエート基の置換基数は0.05であり、アセチル基の置換基数は0.6であり、総置換度は2.45であった。
【0252】
〔セルロース誘導体B−2〜B−5の合成〕
上記セルロース誘導体B−1の合成において、第1工程及び第2工程における各構成材料の比率、加水分解条件及び反応条件を適宜選択して、表2に記載のグルコース骨格の各置換基構成となるように合成して、セルロース誘導体B−2〜B−5を得た。
【0253】
〔セルロース誘導体B−6及びB−7の合成〕
上記セルロース誘導体B−1の合成において、第1工程のメチルセルロースの代りに、エチルセルロース(エトキシ基置換度:2.35 ダウケミカル社製 MED−70)を選択し、第1工程及び第2工程における、各構成材料の比率及び反応条件を適宜選択して、表2に記載のグルコース骨格の置換基構成となるように合成して、セルロース誘導体B−6及びB−7を得た。
【0254】
〔セルロース誘導体B−8の合成〕
(第1工程:セルロースエーテルBの合成)
広葉樹前加水分解クラフト法パルプ(αセルロース含有率:98.4%)の100gに、60%の水酸化ナトリウム溶液140gを加え混合した。次に、ブロモブタンの380gを加え、撹拌しながら0〜5℃の温度範囲で約1時間保った後、30〜40℃の温度範囲で加温して6時間反応させた。内容物を濾別して、沈殿物を取除いた後、これに温水を加えた。1%のリン酸水溶液で中和した後、アセトン中に滴下して反応生成物を析出させた。濾別により分離し、アセトン/水(9:1(体積比))の混合溶液で数回洗浄を繰り返し、60℃で真空乾燥を行い、ブチルセルロースを得た。生成物のブロモブタンによる置換度(MS)は、NMRによる測定の結果、1.1であり、これをセルロースエーテルBとした。
【0255】
(第2工程:セルロースエーテルBのチオフェンカルボキシレート化)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、第1工程で得られたセルロースエーテルBを200g、ピリジンを90mL、アセトンを2000mL添加し、室温で撹拌した。ここに350gのチオフェンカルボキシクロリドをゆっくりと滴下し、添加後更に50℃にて8時間撹拌した。反応後、室温まで放冷し、冷却した反応溶液をメタノール20L中へ激しく撹拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引濾過により濾別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で一昼夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することによりセルロース誘導体B−8を得た。
【0256】
上記調製したセルロース誘導体B−8のグルコース骨格の置換基の置換度について、Cellulose Communication 6,73−79(1999)及びChrality 12(9),670−674に記載の方法に準じて、1H−NMR及び13C−NMRにより測定し、その平均値を求めた結果、エーテル結合を有する置換基であるブトキシ基の置換基数は1.0であり、多重結合を有する置換基であるチオフェンカルボキシレート基の置換基数は1.6であり、総置換度は2.60であった。
【0257】
〔セルロース誘導体B−9〜B−11の合成〕
上記セルロース誘導体B−8の合成において、第1工程及び第2工程における各構成材料の比率、及び反応条件を適宜選択して、表2に記載のグルコース骨格の各置換基の構成となるように合成した以外は同様にして、セルロース誘導体B−9〜B−11を得た。
【0258】
《位相差フィルムの作製》
〔位相差フィルムB1〜B11の作製〕
実施例1に記載の位相差フィルムA1の作製において、セルロース誘導体A−1に代えて、それぞれセルロース誘導体B−1〜B−11を用い、ドープ調製の際の溶媒比率は、成膜可能な範囲となるように適宜調整した以外は同様にして、位相差フィルムB1〜B11を作製した。
【0259】
なお、延伸条件としては、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が140nm、膜厚が50μm、Ro450/Ro550が表2に記載の値となるように、原反フィルムの膜厚、延伸温度、幅手方向(TD方向)及び搬送方向(MD方向)の延伸倍率を適宜調整して行った。
【0260】
《円偏光板の作製》
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。次いで、水洗及び乾燥して偏光子を得た。
【0261】
上記作製した各位相差フィルムの遅相軸と、偏光子の吸収軸とが45°となるように、接着剤を用いて貼合し、偏光子の裏面側には保護フィルム(コニカミノルタタックKC4UY、厚さ40μm、コニカミノルタ(株)製)を水糊によって貼り合せ、円偏光板B1〜B11を作製した。
【0262】
《有機EL表示装置の作製》
上記作製した円偏光板B1〜B11の各位相差フィルムの表面に接着剤を塗工した後、実施例1に記載の有機ELセルの視認側面と貼合することにより、有機EL表示装置B1〜B11を作製した。
【0263】
《有機EL表示装置の評価》
〔黒の色味の評価〕
23℃、55%RHの常湿環境下で、各有機EL表示装置の最表面から5cm高い位置での照度が1000Lxとなる条件下で、有機EL表示装置に黒画像を表示した。
【0264】
次いで、各有機EL表示装置の正面位置(面法線に対し0°)と、面法線に対し40°の斜め角度からの黒画像の色味を一般モニター10人により観察評価を行い、以下の基準に従って評価した。なお、△以上であれば、黒の色味としては実用上許容される範囲内であると判断した。
【0265】
◎:9人以上のモニターが、表示された画像が黒であると判定した
◎○:8人のモニターが、表示された画像が黒であると判定した
○:7人のモニターが、表示された画像が黒であると判定した
△:5〜6人のモニターが、表示された画像が黒であると判定した
×:表示された画像が黒であると判定したモニターが、4人以下である
〔反射性の評価〕
上記有機EL表示装置の作製において、有機ELセルを作製した段階で、視認側表面にマジックインキ(登録商標)で赤、青、緑の線を付与した以外は同様にして、評価用の有機EL表示装置を作製した。
【0266】
作製した赤、青、緑の線を有する各有機EL表示について、23℃、55%RHの常湿環境下で、各有機EL表示装置の最表面から5cm高い位置での照度が1000Lxとなる条件下で、有機EL表示装置に付したマジックインキの線の視認性(反射性能)を、一般モニター10人により以下の基準に従って評価した。なお、△以上であれば、反射性能としては実用上許容される範囲内であると判断した。ここでいう反射性能とは、円偏光板の表面の反射でなく、円偏光板の内部に入った有機ELセルにおける反射をいう。
【0267】
◎:9人以上のモニターが、マジックの線はいずれの色も見えないと判定した
◎○:8人のモニターが、マジックの線はいずれの色も見えないと判定した
○:7人のモニターが、マジックの線はいずれの色も見えないと判定した
△:5〜6人のモニターが、マジックの線が2本は見えないと判定した
×:マジックの線が2本は見えないと判定したモニターが、4人以下である
以上により得られた結果を、表2に示す。
【0268】
【表2】
【0269】
表2に記載の結果より明らかなように、多重結合を有する置換基の平均置換度がグルコース骨格単位当たり、0.1〜3.0の範囲内であるセルロース誘導体を用いた光学フィルムを有する有機EL表示装置B2〜B11は、黒の色味性及び反射性に優れていることが分かる。この多重結合を有する置換基の平均置換度が、本発明で規定する範囲外になると、Ro450/Ro550として所望の特性値を得ることができない。
【0270】
実施例3
《セルロース誘導体の合成》
〔セルロース誘導体C−1〜C−5の合成〕
実施例2に記載のセルロース誘導体B−1の合成において、第2工程で用いたベンゾイルクロリドに代えて、チオメチルベンゾイルクロリド、メトキシベンゾイルクロリド、2,4,5−トリメチルベンゾエート、4−ピリジルカルボン酸クロリド、4−メトキシシンナモイルクロリドをそれぞれ用いた以外は同様にし、表3に記載の多重結合を有する置換基の置換度(置換基数)となるように材料の添加量を適宜変更して、セルロース誘導体C−1〜C−5を合成した。
【0271】
〔セルロース誘導体C−6の合成〕
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、メチルセルロース(メトキシ置換度1.8)を40g、メチレンクロリドを500mL、ピリジンを500mL添加し、室温で撹拌した。これに、ベンジルクロリド450gをゆっくりと滴下し、更にジメチルアミノピリジン(DMAP)約0.1gを加えて、3時間還流した。反応後、室温に戻し、氷冷下、メタノール100mLを加えてクエンチした。反応溶液をメタノール/水(5L/5L)へ激しく撹拌しながら投入すると、固体が析出した。固体を吸引濾過により濾別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより、目的のセルロース誘導体C−6を得た。
【0272】
《位相差フィルムの作製》
〔位相差フィルムC1〜C6の作製〕
実施例1に記載の位相差フィルムA1の作製において、セルロース誘導体A−1に代えて、それぞれセルロース誘導体C−1〜C−6を用いた以外は同様にして、位相差フィルムC1〜C4を作製した。
【0273】
なお、延伸条件としては、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が140nm、膜厚が50μm、Ro450/Ro550が表3に記載の値となるように、原反フィルムの膜厚、延伸温度、幅手方向(TD方向)及び搬送方向(MD方向)の延伸倍率を適宜調整して行った。
【0274】
《円偏光板の作製》
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。次いで、水洗及び乾燥して偏光子を得た。
【0275】
上記作製した各位相差フィルムの遅相軸と、偏光子の吸収軸とが45°となるように、接着剤を用いて貼合し、偏光子の裏面側には保護フィルム(コニカミノルタタックKC4UY、厚さ40μm、コニカミノルタ(株)製)を水糊によって貼り合せ、円偏光板C1〜C6を作製した。
【0276】
《有機EL表示装置の作製》
上記作製した円偏光板C1〜C6の各位相差フィルムの表面に接着剤を塗工した後、実施例1に記載の有機ELセルの視認側面と貼合することで有機EL表示装置C1〜C6を作製した。
【0277】
《有機EL表示装置の評価》
上記作製した有機EL表示装置C1〜C6について、実施例1に記載の方法と同様にして、湿度安定性の評価1(黒の色味安定性の評価)及び湿度安定性の評価2(反射性能(視認性)安定性の評価)を行い、得られた結果を表3に示す。
【0278】
【表3】
【0279】
表3に記載の結果より明らかなように、本発明の有機EL表示装置の中でも、セルロース誘導体として、グルコース骨格が有する多重結合を有する置換基が、グルコース骨格とエーテル結合で結合されているセルロース誘導体を用いることが、より優れた効果を発現することができることが分かる。
【0280】
実施例4
《セルロース誘導体の合成》
〔セルロース誘導体D−1の合成〕
(第1工程)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、メチルセルロース(メトキシ基置換度:1.8)を40g、メチレンクロリドを500mL、ピリジンを500mL添加し、室温で撹拌した。これに、ベンゾイルクロリド350gをゆっくりと滴下し、更にジメチルアミノピリジン(DMAP)約0.1gを加えて、3時間還流した。反応後、室温に戻し、氷冷下、メタノール100mLを加えてクエンチした。反応溶液を、メタノール/水(5L/5L)の混合溶液中へ激しく撹拌しながら投入すると、固体が析出した。固体を吸引濾過により濾別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより、中間体化合物を得た。
【0281】
(第2工程)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管及び滴下ロートを装着した3Lの三ツ口フラスコに、上記調製した中間体化合物を40g、メチレンクロリドを500mL、ピリジンを500mL添加し、室温で撹拌した。ここに、無水酢酸500mLをゆっくりと滴下し、更にジメチルアミノピリジン(DMAP)約0.1gを加えて、3時間還流した。反応後、室温に戻し、氷冷下、メタノール100mLを加えてクエンチした。反応溶液をメタノール/水(5L/5L)の混合溶液中へ激しく撹拌しながら投入すると、白色固体が析出した。析出した白色固体を吸引濾過により濾別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色個体を、100℃で6時間真空乾燥することにより、セルロース誘導体D−1を得た。
【0282】
上記調製したセルロース誘導体D−1のグルコース骨格の各置換基の置換度について、Cellulose Communication 6,73−79(1999)及びChrality 12(9),670−674に記載の方法に準じて、H−NMR及び13C−NMRにより測定し、その平均値を求めた結果、多重結合を有する置換基であるベンゾエート基の置換基数は、6位に置換しているベンゾエート基の置換基数は0.3で、2位+3位に置換しているベンゾエート基の置換基数は0.3で、アセチル基の置換基数は0.6であり、エーテル結合を有する置換基であるメトキシ基の置換基数は1.8であり、総置換度は3.0であった。
【0283】
〔セルロース誘導体D−2の合成〕
上記セルロース誘導体D−1の合成において、第1工程及び第2工程における各構成材料の比率、加水分解条件及び反応条件を適宜選択して、6位に置換しているベンゾエート基の置換基数を0.1で、2位+3位に置換しているベンゾエート基の置換基数を0.5、〔(2位の平均置換基数+3位の平均置換基数)−6位の平均置換基数〕を0.4に変更した以外は同様にして、セルロース誘導体D−2を合成した。
【0284】
《位相差フィルムの作製》
〔位相差フィルムD1及びD2の作製〕
実施例1に記載の位相差フィルムA1の作製において、セルロース誘導体A−1に代えて、それぞれセルロース誘導体D−1及びD−2をそれぞれ用いた以外は同様にして、位相差フィルムD1及びD2を作製した。
【0285】
なお、延伸条件としては、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が140nm、膜厚が50μm、となる延伸条件で作製した。
【0286】
《円偏光板の作製》
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。次いで、水洗及び乾燥して偏光子を得た。
【0287】
上記作製した各位相差フィルムの遅相軸と、偏光子の吸収軸とが45°となるように、接着剤を用いて貼合し、偏光子の裏面側には保護フィルム(コニカミノルタタックKC4UY、厚さ40μm、コニカミノルタ(株)製)を水糊によって貼り合せ、円偏光板D1及びD2を作製した。
【0288】
《有機EL表示装置の作製》
上記作製した円偏光板D1及びD2の各位相差フィルムの表面に接着剤を塗工した後、実施例1に記載の有機ELセルの視認側面と貼合することで、有機EL表示装置D1及びD2を作製した。
【0289】
《有機EL表示装置の評価》
上記作製した有機EL表示装置D1及びD2について、実施例2に記載の方法と同様にして、黒の色味及び反射性の評価を行い、得られた結果を表4に示す。
【0290】
【表4】
【0291】
表4に記載の結果より明らかなように、本発明の有機EL表示装置の中でも、セルロース誘導体のグルコース骨格の2位、3位及び6位に存在する多重結合を有する置換基の平均置換基数として、0<(2位の平均置換基数+3位の平均置換基数)−6位の平均置換基数の関係を満たすセルロース誘導体D−2を用いた有機EL表示装置が、更に優れた性能を発現していることが分かる。このことにより、Ro450/Ro550の関係が良化し、同じRo450/Ro550とする際には、多重結合を有する置換基の置換度を下げることが可能となり、合成コストをより低減することができ、経済性として有利である。
【0292】
実施例5
《セルロース誘導体の合成》
〔セルロース誘導体E−1〜E−5の合成〕
実施例1に記載のセルロース誘導体A−1の合成において、合成に用いたブロモブタンを、表5に記載の炭素数の異なる5種のそれぞれの置換基(メトキシ基、エトシキ基、プロピオキシ基、シクロヘキシルエーテル基、オクタノキシ基、置換度は、全て2.4)に変更し、更にアセチル化工程を除いた以外は同様にして、セルロース誘導体E−1〜E−5を合成した。
【0293】
《位相差フィルムの作製》
〔位相差フィルムE1〜E5の作製〕
実施例1に記載の位相差フィルムA1の作製において、セルロース誘導体A−1に代えて、それぞれセルロース誘導体E−1〜E−5を用いた以外は同様にして、位相差フィルムE1〜E5を作製した。
【0294】
なお、延伸条件としては、波長550nmで測定したフィルム面内の位相差値Ro550が140nm、膜厚が50μm、Ro450/Ro550が表5に記載の値となるように、原反フィルムの膜厚、延伸温度、幅手方向(TD方向)及び搬送方向(MD方向)の延伸倍率を適宜調整して行った。
【0295】
《円偏光板の作製》
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。次いで、水洗及び乾燥して偏光子を得た。
【0296】
上記作製した各位相差フィルムの遅相軸と、偏光子の吸収軸とが45°となるように、接着剤を用いて貼合し、偏光子の裏面側には保護フィルム(コニカミノルタタックKC4UY、厚さ40μm、コニカミノルタ(株)製)を水糊によって貼り合せ、円偏光板E1〜E5を作製した。
【0297】
《有機EL表示装置の作製》
上記作製した円偏光板E1〜E5の各位相差フィルムの表面に接着剤を塗工した後、実施例1に記載の有機ELセルの視認側面と貼合することで、有機EL表示装置E1〜E5を作製した。
【0298】
《有機EL表示装置の評価》
上記作製した有機EL表示装置E1〜E5について、実施例1に記載の方法と同様にして、湿度安定性の評価1(黒の色味安定性の評価)及び湿度安定性の評価2(反射性能(視認性)安定性の評価)と、実施例2に記載の方法と同様にして、黒の色味及び反射性の評価を行い、得られた結果を表5に示す。
【0299】
【表5】
【0300】
表5に記載の結果より明らかなように、本発明の有機EL表示装置E1〜E5において、セルロース誘導体のグルコース骨格とエーテル結合する脂肪族炭化水素基の炭素数を、1〜6の範囲内とすることにより、本発明の効果が好ましい範囲にあることが分かる。
【0301】
(多重結合を有する置換基の吸収極大波長の測定)
220〜800nmまでの波長領域において、実施例1〜5で用いた多重結合を有する置換基の吸収極大波長を、日本分光社製のV−650にて測定を行い、得られた結果を下記に示す。なお、多重結合を有する置換基は、いずれもメチル基を結合させた構造とし、メチレンクロリドに溶解し、最大の吸収極大の吸光度が1.0となるよう濃度調整して、吸収極大波長の測定を行った。
【0302】
1)ベンゾエート基 最大吸収極大波長:230nm
2)チオフェンカルボキシレート基 最大吸収極大波長:290nm
3)2,4,5−トリメチルベンゾエート基 最大吸収極大波長:220nm
4)メトキシベンゾエート基 最大吸収極大波長:240nm
5)ピリジルカルボキシレート基 最大吸収極大波長:270nm
6)4−メトキシシンナメート基 最大吸収極大波長:310nm
7)ベンジル基 最大吸収極大波長:220nm
上記の測定結果より、4−メトキシシンナメート基の最大吸収極大波長は、300nm以上、400nm以下であり、他の多重結合を有する置換基の吸収極大波長は220nm以上、300nm以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0303】
本発明の光学フィルムは、可視光における広い帯域の光に対して、実質的にλ/4の位相差を付与することができ、更に、湿度変動に対する光学性能(色味性能、反射特性)の変化が抑制され、偏光板保護フィルムとしての優れた機能を備え、有機エレクトロルミネッセンス表示装置で反射防止部材として用いられる円偏光板用の光学フィルム(位相差フィルム)として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0304】
11 延伸方向
13 搬送方向
14 遅相軸
D1 繰出方向
D2 巻取方向
F 光学フィルム
F1 フィルム原反
F2 延伸フィルム
θi 屈曲角度(繰出し角度)
Ci、Co 把持具
Ri、Ro レール
Wo 延伸前のフィルムの幅
W 延伸後のフィルムの幅
16 フィルム繰り出し装置
17 搬送方向変更装置
18 巻取り装置
19 製膜装置
A 有機エレクトロルミネセンス表示装置
B 有機エレクトロルミネセンス素子
C 円偏光板
101 透明基板
102 金属電極
103 TFT
104 有機発光層
105 透明電極
106 絶縁層
107 封止層
108 フィルム
109 λ/4位相差フィルム
110 偏光子
111 保護フィルム
112 硬化層
113 反射防止層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5