(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237776
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】絞り加工装置
(51)【国際特許分類】
B29C 43/32 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
B29C43/32
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-539065(P2015-539065)
(86)(22)【出願日】2014年9月5日
(86)【国際出願番号】JP2014073464
(87)【国際公開番号】WO2015045797
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-199584(P2013-199584)
(32)【優先日】2013年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100092071
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】笹井 英一
(72)【発明者】
【氏名】中尾 治
【審査官】
今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−290162(JP,A)
【文献】
スイス国特許出願公開第00213959(CH,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C43/00−43/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状材料を、絞り加工により、所定の形状に形成するために用いられる絞り加工装置であって、
パンチと、
前記パンチの一部が入り込む凹部を備えたダイと、
前記パンチおよび前記ダイを用いて絞り加工を行なうために第1の押圧力を発生させる第1のアクチュエータと、
前記ダイの前記凹部の周囲領域において、前記フィルム状材料を押圧するために第2の押圧力を発生させる第2のアクチュエータと、
前記フィルム状材料を前記ダイに向かって前記第2の押圧力で押圧することにより、前記フィルム状材料のしわの発生を抑制するしわ押さえ部材と、
前記第2の押圧力を前記しわ押さえ部材に伝達するための押圧力伝達プレートと、
前記しわ押さえ部材と前記押圧力伝達プレートの間に配設され、かつ、前記第1のアクチュエータの押圧方向から見て、前記ダイの前記凹部の周囲領域に対応する領域に複数配設される押圧位置調整ブロックと、
を備えることを特徴とする絞り加工装置。
【請求項2】
前記押圧位置調整ブロックが、前記しわ押さえ部材および前記押圧力伝達プレートの少なくとも一方に、着脱可能に取り付けられるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の絞り加工装置。
【請求項3】
前記押圧位置調整ブロックが、螺合の方法により、前記しわ押さえ部材および前記押圧力伝達プレートの少なくとも一方に着脱可能に取り付けられるように構成されていることを特徴とする請求項2記載の絞り加工装置。
【請求項4】
前記押圧位置調整ブロックの形状は、前記第1のアクチュエータの押圧方向から見たとき、円形、正方形、長方形のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の絞り加工装置。
【請求項5】
前記第1のアクチュエータの押圧方向から見たときに、前記第2のアクチュエータが、前記ダイの前記凹部を囲むように複数配設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の絞り加工装置。
【請求項6】
前記パンチと前記ダイとにより絞り加工が行われる成形加工部を複数備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の絞り加工装置。
【請求項7】
前記第1のアクチュエータの押圧方向から見た場合における前記成形加工部の形状が、凹部、凸部、曲折部のいずれかを有するものであることを特徴とする請求項6に記載の絞り加工装置。
【請求項8】
前記第2のアクチュエータが、前記パンチを保持するパンチホルダーよりも上側に着脱可能に配設されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の絞り加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り加工装置に関し、詳しくは、リチウムイオン二次電池などに代表される蓄電デバイス用の外装体(ラミネートケース)を、ラミネートフィルムなどのフィルム状材料を絞り加工して製造する場合などに用いられる絞り加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスの外層体として用いられるラミネートケースは、例えば、熱可塑性樹脂層間にアルミニウム箔が挟み込まれたラミネートフィルムを絞り加工(プレス加工)することにより形成された成形体を熱溶着する工程を経て製造されている。
【0003】
ところで、この絞り加工の方法としては、例えば、特許文献1に記載されているような方法がある。
すなわち、特許文献1には、
図9に示すように、プレス成形金型の凹側であるダイ102と、しわ押さえ105との間にフィルム状材料Sを挟み込み、その中央部のダイ102の凹部102aに対しパンチ101を突入させ、挟み込み部分での滑りによりフィルム状材料Sがダイ102の凹部102aへ引き込まれることによって、フィルム状材料Sが立体的に成形されるようにした方法が示されている。
【0004】
ところで、フィルム状材料Sがダイ102の凹部102aに引き込まれる状態が進行すると、それに伴って、ダイ102の凹部102a周辺のフィルム状材料Sが凹部102aに向かって寄せ集められ、パンチ101が突入するダイ102の凹部102a周辺には、フィルム状材料Sが波打つことにより形成されるしわが発生しやすい。
【0005】
そのため、絞り加工の成形の良否は、ダイ102の凹部102a周辺の、フィルム状材料Sのしわが発生しやすい領域を押さえるために加える圧力の大きさや、圧力分布に大きな影響を受ける。
【0006】
そして、特許文献1では、しわ押さえの圧力付与手段として空気圧シリンダー103を用い、ロッド130、ベースプレート110を通過する複数本の支持ピン104aを有する支持板104を介して、しわ押さえ部材105を、フィルム状材料Sのしわの発生しやすい領域に押し付けることで、全体に均等なしわ押さえ圧を加えることを可能にし、かつ、空気圧を利用することにより、しわ押さえ圧を容易に調整できるようにして、しわの少ない加工を行うことができるようにしている。
【0007】
また、特許文献2には、成形加工の対象である板材を成形加工する際に、成形形状や寸法によって異なる最適な加圧位置や圧力分布に対し、加圧点を調整することを可能にするため、
図10に示すように、パンチ209の近傍の調整領域の複数の位置に押圧用のシリンダー(アクチュエータ)205を配置する方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1および2の場合、以下に説明するような問題点がある。
上記特許文献1の方法の場合、フィルム状材料の成形形状や寸法によって、最適なしわ押さえ圧の分布が異なり、調整を要する。これに対し、特許文献1の構造の場合、支持ピンを介してしわ押さえ圧を加えているので、支持ピンの位置を変えることで加圧位置を変更し、圧力分布を調整することは可能ではあるが、ベースプレート110の下に支持ピン104aが配設されているため、支持ピン104aの位置変更は困難であり、また、パンチやダイなどを含む金型の乗せ降ろし作業も容易ではない。
【0009】
したがって、特許文献1の方法では、しわ押さえ圧を最適に調整して、形状精度が高く、しわのない成形体を得ることは困難であるのが実情である。
また、支持ピンの取付位置の自由度を高めるため、ベースプレートに、支持ピンを貫通させるための貫通孔を予め複数加工しておくことが考えられるが、その場合には、ベースプレートの剛性が低下するという問題点がある。
【0010】
また、特許文献2の方法の場合、上述のように、しわ押さえの圧力分布を調整する機構を有してはいるが、所定の領域を押圧するためのシリンダー(アクチュエータ)205の寸法上の制約などにより、シリンダー205の配設数には制約がある。また、整形すべき材料の成形形状や寸法によっては、必要な箇所にシリンダー205を配することができず、しわ押さえの圧力分布を十分に調整できない場合が生じる。すなわち、成型対象物の押圧したい部分を真上から押圧できない場合や、そのため必要な位置にシリンダー205を配置すること自体ができない場合がある。
【0011】
また、シリンダー(アクチュエータ)を金型と一体的に配置するようにしているため、金型が大型化し、構造が複雑になるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−212995号公報
【特許文献2】特開2008−207251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、設備の大型化や、大幅なコストの増大を招いたりすることなく、フィルム状材料を絞り加工する際に、しわの発生を抑制、防止して、形状精度の高い成形体を得ることが可能な絞り加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の絞り加工装置は、
フィルム状材料を、絞り加工により、所定の形状に形成するために用いられる絞り加工装置であって、
パンチと、
前記パンチの一部が入り込む凹部を備えたダイと、
前記パンチおよび前記ダイを用いて絞り加工を行なうために第1の押圧力を発生させる第1のアクチュエータと、
前記ダイの前記凹部の周囲領域において、前記フィルム状材料を押圧するために第2の押圧力を発生させる第2のアクチュエータと、
前記フィルム状材料を前記ダイに向かって前記第2の押圧力で押圧することにより、前記フィルム状材料のしわの発生を抑制するしわ押さえ部材と、
前記第2の押圧力を前記しわ押さえ部材に伝達するための押圧力伝達プレートと、
前記しわ押さえ部材と前記押圧力伝達プレートの間に配設され、かつ、前記第1のアクチュエータの押圧方向から見て、前記ダイの前記凹部の周囲領域に対応する領域に複数配設される押圧位置調整ブロックと、
を備えることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の絞り加工装置においては、前記押圧位置調整ブロックが、前記しわ押さえ部材および前記押圧力伝達プレートの少なくとも一方に、着脱可能に取り付けられるように構成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成とすることにより、アクチュエータの配設位置などによる制約を受けずに、しわが発生しやすく、絞り加工で重要なダイの凹部周囲領域、すなわち、大きな押圧力を加えたい位置に押圧位置調整ブロックを配置することが可能になり、しわの発生を抑制して、精度の高い絞り加工を行うことが可能な絞り加工装置を提供することが可能になる。
【0017】
また、前記押圧位置調整ブロックが、螺合の方法により、前記しわ押さえ部材および前記押圧力伝達プレートの少なくとも一方に着脱可能に取り付けられるように構成されていることが好ましい。
【0018】
螺合の方法で押圧位置調整ブロックを取り付けることにより、押圧位置調整ブロックを容易かつ確実に、着脱可能に任意の位置の配設することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0019】
また、前記押圧位置調整ブロックの形状は、前記第1のアクチュエータの押圧方向から見たとき、円形、正方形、長方形のいずれかであることが好ましい。
【0020】
押圧位置調整ブロックの形状には特別の制約はないが、第1のアクチュエータの押圧方向から見た形状を、円形、正方形、長方形のいずれかとすることにより、押圧位置調整ブロックが配設された領域において、しわ押さえ部材を介してフィルム状材料に確実に大きな押圧力を加えることが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0021】
また、前記第1のアクチュエータの押圧方向から見たときに、前記第2のアクチュエータが、前記ダイの前記凹部を囲むように複数配設されていることが好ましい。
【0022】
第1のアクチュエータの押圧方向から見たときに、第2のアクチュエータが、ダイの凹部を囲むように複数配設された構成とすることにより、押圧位置調整ブロックに加える荷重(しわ押さえ力)を、複数配設された第2のアクチュエータごとに(部分的に)設定することが可能になり、より精度よくしわの発生を防止しつつ絞り加工を行うことが可能になる。
【0023】
また、本発明の絞り加工装置においては、前記パンチと前記ダイとにより絞り加工が行われる成形加工部を複数備えた構成とすることができる。
【0024】
成形加工部を複数備えた構成とした場合、フィルム状材料の加工時の挙動が複雑に変化して、しわが発生しやすくなる場合があるが、本発明によれば、そのような場合にも、フィルム状材料のしわの生じやすい領域を確実に押圧してしわの発生を抑制することが可能になり、精度の高い絞り加工を行うことができる。
【0025】
また、本発明の絞り加工装置は、前記第1のアクチュエータの押圧方向から見た場合における前記成形加工部の形状が、凹部、凸部、曲折部のいずれかを有するものである場合に特に有意義である。
【0026】
成形加工部の形状が、凹部、凸部、曲折部などを有するものである場合、しわがより発生しやすくなるが、本発明によれば、そのような場合にも、フィルム状材料のしわの生じやすい領域を確実に押圧して、しわの発生を抑制して、精度の高い絞り加工を行うことが可能になる。
【0027】
また、前記第2のアクチュエータが、前記パンチを保持するパンチホルダーよりも上側に着脱可能に配設されていることが好ましい。
【0028】
第2のアクチュエータが、パンチを保持するパンチホルダーよりも上側に着脱可能に配設された構成とすることにより、押圧位置の調整などに伴うパンチやダイなどの金型構成部材の乗せ降ろしを容易にして、押圧位置の調整を効率よく行うことが可能になる。また、汎用のプレス設備を適用することが可能になる点でも有利である。
【発明の効果】
【0029】
本発明の絞り加工装置は、上述のように、パンチおよびダイを用いて絞り加工を行なうために第1のアクチュエータと、ダイの凹部の周囲領域において、フィルム状材料を押圧するために第2の押圧力を発生させる第2のアクチュエータと、フィルム状材料をダイに向かって第2の押圧力で押圧することにより、フィルム状材料のしわの発生を抑制するしわ押さえ部材と、第2の押圧力をしわ押さえ部材に伝達するための押圧力伝達プレートと、しわ押さえ部材と押圧力伝達プレートの間に配設され、かつ、第1のアクチュエータの押圧方向から見て、ダイの凹部の周囲領域に対応する領域に複数配設される押圧位置調整ブロックとを備えているので、押圧位置調整ブロックを、しわの生じやすい所定の位置に配設して、フィルム状材料の意図する位置(しわの生じやすい位置)に、上方から大きな押圧力(第2の押圧力)を加えることが可能になる。
【0030】
したがって、本発明によれば、フィルム状材料の所定の領域が確実に押圧されるように、必要に応じた圧力分布の調整を容易かつ確実に行うことが可能になり、しわを発生させることなく、精度の高い絞り加工を行うことが可能な絞り加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態(実施形態1)にかかる絞り加工装置の構成を示す正面断面図である。
【
図2】本発明の絞り加工装置を用いて成形された成形体(ラミネートフィルム成形体)を熱溶着することにより形成されたラミネートケース用いたリチウムイオン二次電池を示す図である。
【
図3】本発明の絞り加工装置を構成するしわ押さえ部材を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【
図4】本発明の絞り加工装置を構成する押圧位置調整ブロックを示す図であって、(a)は正面断面図、(b)は平面図である。
【
図5】本発明の実施形態(実施形態1)にかかる絞り加工装置を用いてフィルム状材料の絞り加工を行う方法を説明する図である。
【
図6】変形例にかかるしわ押さえ部材の構成を示す平面図である。
【
図7】他の変形例にかかるしわ押さえ部材の構成を示す平面図である。
【
図8】さらに他の変形例にかかる押圧位置調整ブロックの構成を示す平面図である。
【
図9】従来の絞り加工の方法(電池ケースの成形方法)を示す図である。
【
図10】スタンピング用プレス内での板押え力を調整するためのシステムにおいて用いられている板押さえ保持ピースを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0033】
[実施形態1]
図1は本発明の実施形態(実施形態1)にかかる絞り加工装置(絞り金型)の構成を示す図である。
【0034】
また
図2は、ラミネートフィルムを絞り加工して形成した、ラミネートフィルム成形体51a,51bを熱溶着することにより形成されたラミネートケース51内に、特に図示しない電池要素が電解液とともに収容され、電極端子52a,52bがラミネートケース51から外部に引き出された構造を有するリチウムイオン二次電池50を示す図である。
【0035】
そして、この実施形態1にかかる絞り加工装置Aは、
図2に示すような、ラミネートフィルム成形体51a,51bを成形するために用いられる絞り加工装置(絞り金型)である。
【0036】
なお、
図1に示す、この実施形態1にかかる絞り加工装置Aは、フィルム状材料(この実施形態1ではラミネートフィルム)1を絞り加工して、上記ラミネートケース51を構成する一対のラミネートフィルム成形体51a,51b(
図2)を形成するために用いられる絞り加工装置である。
【0037】
この絞り加工装置Aは、絞り加工を行うためのパンチ11と、このパンチ11の一部(下端部)11aが入り込む凹部12aを備えたダイ12とを備えている。パンチ11は、第1のアクチュエータ10により上下方向に駆動する。第1のアクチュエータ10は、図示しないベース板に固定されている。この第1のアクチュエータ10の駆動により、絞り加工を行なうための第1の押圧力F1が発生する。なお、このパンチ11とダイ12がフィルム状材料1を所定の形状に成形(絞り加工)する成形加工部を形成する。
【0038】
また、絞り加工装置Aは、ダイ12の凹部12aの周囲領域において、フィルム状材料(ラミネートフィルム)1をダイ12に向かって押圧することにより、フィルム状材料1へのしわの発生を抑制するしわ押さえ部材13を備えている。しわ押さえ部材13は、ダイ12の凹部12aの周囲領域に対向して配置される。絞り加工装置Aでは、フィルム状材料1をダイ12に向かって押圧するために、後述する第2の押圧力F2が発生させられる。
【0039】
なお、しわ押さえ部材13には、パンチ11が通過する貫通孔13aが形成され、押圧力伝達プレート15にも、パンチ11が通過する貫通孔15aが形成されている。
【0040】
そして、この加工装置Aは、フィルム状材料1を押圧する第2の押圧力F2を発生させる第2のアクチュエータ14と、第2の押圧力F2をしわ押さえ部材13に伝達するための押圧力伝達プレート15と、しわ押さえ部材13と押圧力伝達プレート15の間に配設される押圧位置調整ブロック20とを備えている。
【0041】
すなわち、第2のアクチュエータ14による第2の押圧力F2は、ロッド16を介して押圧力伝達プレート15に伝えられ、さらに、押圧力伝達プレート15から押圧位置調整ブロック20およびしわ押さえ部材13を介してフィルム状材料1に伝えられるように構成されている。第1の押圧力F1および第2の押圧力F2は、F1>(F2の合計値)、という関係となるように設定される。
【0042】
押圧力調整部ブロック20は、しわ押さえ部材13に取り付けられており、具体的には第1のアクチュエータ10の押圧方向から見て、ダイ12の凹部12aの周囲領域に対応する領域(すなわち、しわ押さえ部材13の、パンチ11が通過する貫通孔13aの周囲領域)における所定の複数の位置に着脱可能に取り付けられている。
【0043】
具体的には、この実施形態1では、押圧位置調整ブロック20として、
図4(a),(b)に示すように、第1のアクチュエータ10の押圧方向から見た形状(平面形状)が円形に形成された形状の部材が用いられており、意図する位置(すなわち、所定の複数の位置に設けられたねじ穴22のうちの所定のねじ穴)に、ねじ21を螺合させることにより、着脱可能に取り付けられている。
【0044】
これにより、押圧位置調整ブロック20が配設された位置およびその近傍領域においては、しわ押さえ部材13を介して、他の領域よりも大きな押圧力が、ダイ12の凹部12aの周囲領域に位置するフィルム状材料1に加わり、しわの発生が抑制されることになる。
【0045】
なお、パンチ11、ダイ12、しわ押さえ部材13、押圧位置調整ブロック20などの構成材料としては、例えば、金型材料として広く用いられている焼入鋼を用いることができるが、これに限られるものではない。
【0046】
また、この実施形態1の絞り加工装置Aにおいては、ダイ12が下側ベース部材31上に配設されており、第2のアクチュエータ14が上側ベース部材32の上側から上側ベース部材32を貫通するように配設されている。また、パンチ11は、パンチ11を保持するためのパンチホルダー11bを介して、上側ベース部材32上に取り付けられている。
【0047】
なお、この実施形態1では、押圧位置調整ブロック20をしわ押さえ部材13に取り付けるようにしているが、押圧位置調整ブロック20はしわ押さえ部材13ではなくて、押圧力伝達プレート15の、所定の複数個の位置のうちの任意の位置に着脱可能に取り付けることができるように構成することも可能である。
【0048】
また、場合によっては、複数の押圧位置調整ブロック20のうちの一部をしわ押さえ部材13に取り付け、他を押圧力伝達プレート15に取り付けるように構成することも可能である。
【0049】
押圧位置調整ブロック20の取り付け方法についても、上述のような螺合の方法に限らず、他の方法により取り付けることも可能である。
【0050】
さらに、この実施形態1の絞り加工装置Aでは、第1のアクチュエータ10の押圧方向から見たときに、第2のアクチュエータ14が、ダイ12の凹部12aを囲むように複数配設されている。これにより、押圧位置調整ブロック20に加える荷重(しわ押さえ力)を、第2のアクチュエータ14ごとに設定して、より精度よくしわの発生を防止しつつ、精度の高い絞り加工を行うことができる。
【0051】
また、第2のアクチュエータ14は、パンチ11を保持するパンチホルダー11bよりも上側に着脱可能に配設されている。これにより、押圧位置の調整などに伴うパンチ11やダイ12などの金型構成部材の乗せ降ろしが容易で、押圧位置の調整を効率よく行うことができる。
【0052】
上述のように構成された絞り加工装置Aを用いて絞り加工を行うにあたっては、
図1に示したパンチ11とダイ12が係合していない「金型開」の状態から、
図5に示すように、パンチ11とダイ12が係合し、フィルム状材料1が絞り加工される「金型閉」の状態となるように、パンチ11を降下させるともに、第2のアクチュエータ14により、押圧力伝達プレート15を押圧し、押圧位置調整ブロック20を介して、しわ押さえ部材13に第2の押圧力F2を伝達し、しわ押さえ部材13により、ダイ12の凹部12aの周囲領域に位置するフィルム状材料1を押圧する。
【0053】
図5に示すように、絞り加工の際に、フィルム材料1の端部がダイ12の凹部12a側に移動する。このとき、フィルム材料1の周縁において、しわが発生しやすくなる。しかし、実施形態1の絞り加工装置Aでは、フィルム状材料1の、押圧位置調整ブロック20が配設されている領域に対応する領域とその近傍において、しわ押さえ部材13を介して、フィルム状材料1に大きな押圧力が加わることから、しわの生じやすい領域に押圧位置調整ブロック20を配置して絞り加工を行うことにより、しわの発生を抑制して、精度の高い絞り加工を行うことができる。
【0054】
この実施形態1の絞り加工装置Aにおいては、押圧位置調整ブロック20がしわ押さえ部材13の所定の位置に、着脱可能に取り付けられているため、フィルム状材料1の成形形状に応じてしわの発生を抑制するために大きな押圧力を加えるべき領域に押圧位置調整ブロック20を取り付けることが可能で、圧力分布をしわの発生を抑制するのに必要な態様に、容易かつ確実に調整することができる。
【0055】
また、この実施形態1の絞り加工装置Aでは、しわ押さえ部材13への押圧位置調整ブロック20の配設位置を調整することにより、強く押圧したい位置を調整するようにしているので、第2のアクチュエータ14の位置を変えて意図する位置を押圧するようにした場合のように、第2のアクチュエータ14の大きさや形状による押圧位置の制約がなく、押圧位置調整ブロック20の配設位置を調整するだけで、意図する領域を、真上から確実に押圧することが可能で、フィルム状材料1の形状や寸法、成形形状などに関わらず、しわの発生を抑制して、精度の高い絞り加工を行うことができる。
【0056】
また、この実施形態1の絞り加工装置Aでは、しわ押さえ力を発生する第2のアクチュエータ14が、金型構成部材の上側に、着脱可能に配設されているので、押圧位置の調整などに伴うパンチ11やダイ12などの部材の乗せ降ろしが容易で、その点でも押圧位置の調整を効率よく行うことができる。
【0057】
<変形例1>
上記実施形態1では、パンチ11とダイ12とにより絞り加工が行われる成形加工部が単一で、ダイ12の凹部12a、しわ押さえ部材13のパンチ11が通過する貫通孔13aがそれぞれ一つである場合について説明したが、本発明の絞り加工装置は、パンチ11とダイ12とにより絞り加工が行われる成形加工部が複数である場合にも適用することができる。
【0058】
図6は、成形加工部が複数(4つ)である場合に用いられるしわ押さえ部材13を示す図である。このしわ押さえ部材13には、パンチが通過する貫通孔13aが成形加工部の数に対応して4つ形成されている。そして、各貫通孔13aの周囲領域、すなわち、ダイ12の凹部12a(
図1参照)の周囲領域に対応する領域の所定の複数の位置には、平面形状が円形の押圧位置調整ブロック20が着脱可能に配設されている。
【0059】
このように、成形加工部を複数備えた構成とした場合、フィルム状材料の加工時の挙動が複雑に変化して、よりしわが発生しやすくなることが考えられるが、上述のような構成とすることにより、フィルム状材料のしわの生じやすい領域を確実に押圧して、しわの発生を抑制し、精度の高い絞り加工を行うことが可能になる。
【0060】
<変形例2>
上記実施形態1および変形例1では、パンチ11とダイ12とにより絞り加工が行われる成形加工部の平面形状が方形である場合を例にとって説明したが、本発明の絞り加工装置は、パンチ11とダイ12とにより絞り加工が行われる成形加工部の形状が、凹部、凸部、曲折部のいずれかを有する異形状である場合にも適用することができる。
【0061】
図7は、成形加工部が曲折部を有する形状である場合であって、成形加工部が複数(2つ)である場合におけるしわ押さえ部材13の構成を示す図である。このしわ押さえ部材13には、パンチが通過する貫通孔13aが成形加工部の数に対応して2つ形成されている。そして、各貫通孔13aの周囲領域、すなわち、ダイ12の凹部12a(
図1参照)の周囲領域に対応する領域の、所定の複数の位置には、平面形状が円形の押圧位置調整ブロック20が着脱可能に配設されている。
【0062】
このように、成形加工部の形状が、凹部、凸部、曲折部などを有するものである場合、しわがより発生しやすくなることが考えられるが、上述のような構成とすることにより、フィルム状材料のしわの生じやすい領域を確実に押圧して、しわの発生を抑制し、精度の高い絞り加工を行うことができる。
【0063】
<変形例3>
上記実施形態1および変形例1,2では、平面形状が円形の押圧位置調整ブロック20を用いた場合について説明したが、押圧位置調整ブロック20は、平面形状が円形の形状ものに限定されず、例えば、
図8に示すように、平面形状が長方形の押圧位置調整ブロック20を用いることも可能であり、その場合にも、フィルム状材料のしわの生じやすい領域を確実に押圧して、しわの発生を抑制することができる。
【0064】
すなわち、本発明においては、押圧位置調整ブロックは、十分に押圧したい領域(しわの発生しやすい領域)に応じて、自由度の高い押圧位置調整ブロックの形状を採用することができる。
【0065】
なお、押圧位置調整ブロックは、具体的には、正方形や、楕円形など、さらに他の平面形状を有するものとすることも可能である。
【0066】
本発明は、上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、さらにその他の点においても上記実施形態に限定されるものではなく、パンチやダイの形状は寸法、しわ押さえ部材や押圧力伝達プレートの具体的な構造や、構成材料などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
A 絞り加工装置
1 フィルム状材料(ラミネートフィルム)
10 第1のアクチュエータ
11 パンチ
11a パンチの下端部
11b パンチホルダー
12 ダイ
12a ダイの凹部
13 しわ押さえ部材
13a しわ押さえ部材のパンチが通過する貫通孔
14 第2のアクチュエータ
15 押圧力伝達プレート
15a 押圧力伝達プレートのパンチが通過する貫通孔
16 ロッド
20 押圧位置調整ブロック
21 ねじ
22 ねじ穴
31 下側ベース金型
32 上側ベース金型
50 リチウムイオン二次電池
51 ラミネートケース
51a,51b ラミネートフィルム成形体
52a,52b 電極端子
F1 第1の押圧力
F2 第2の押圧力