(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコンと酸化シリコンを含有する負極活物質において、前記負極活物質はその一次粒子内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は他方の相よりもシリコンの元素濃度が低く、前記一方の相は、前記一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相であって、前記一方の相と前記他方の相は、共に非晶質であることを特徴とする負極活物質。
前記一次粒子断面において、単位面積あたりの網目構造を形成する繊維状の相の面積比率が19.6%以上51.6%以下であることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
前記一次粒子の断面において観察される網目構造を形成する繊維状の相の幅は、0.29nm以上9.72nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
前記他方の相のシリコンの元素濃度Cと網目構造を形成する繊維状の相のシリコンの元素濃度Dとの比(D/C)が、0.44以上0.97以下であることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載された方法では、反応性の高い金属リチウムを用いなければならないという問題があった。また、上記特許文献1及び2に記載された方法では、負極活物質そのものの改善にはなっていないため、本質的には改善されておらず、不十分であった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、初期充放電効率が高い、優れた負極活物質、これを用いた負極並びにリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる負極活物質は、シリコンと酸化シリコンを含有する負極活物質において、前記負極活物質はその一次粒子内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は他方の相よりもシリコンの元素濃度が低く、前記一方の相は、前記負極活物質の一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相であることを特徴とする負極活物質である。
【0010】
このような活物質の構成によれば、初期充放電効率を顕著に向上することが出来る。
【0011】
更に前記一方の相と前記他方の相は、共に非晶質であることが好ましい。
【0012】
これにより不可逆容量を十分に低減することができる。
【0013】
更に前記一次粒子断面において、単位面積あたりの前記網目構造を形成する繊維状の相の面積比率が19.6%以上51.6%以下であることが好ましい。
【0014】
これにより十分に初期充放電効率を高めることができる。
【0015】
また、負極活物質の一次粒子の断面において観察される前記網目構造を形成する繊維状の相の幅は、0.29nm以上9.72nm以下であることが好ましい。
【0016】
これにより顕著に不可逆容量を低減でき、初期充放電効率を向上できる。
【0017】
前記他方の相のシリコンの元素濃度Cと前記網目構造を形成する繊維状の相のシリコンとの元素濃度Dの比(D/C)が、0.44以上0.97以下であることが好ましい。
【0018】
これにより十分に初期充放電効率を高めることができる。
【0019】
前記一方の相は、Li
xSiO
y(2≦x≦4,3≦y≦4)で表される化合物を含有していることが好ましい。
【0020】
これにより十分に初期充放電効率を高めることができる。
【0021】
本発明にかかる負極は、集電体上にバインダーと、上述の負極活物質とを含有してなる負極とすることで初期充放電効率が顕著に向上した負極を得ることができる。
【0022】
本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、正極と、前記負極とその間に配置されるセパレータと、電解液とを有するリチウムイオン二次電池とすることで初期充放電効率が顕著に向上した電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、初期充放電効率が高い、優れた負極活物質、これを用いた負極並びにリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、場合により図面を参照にしつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
(リチウムイオン二次電池)
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す模式断面図である。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池100は、正極10と、正極10に対向する負極20と、正極10及び負極20の間に介在し、正極10の主面及び負極20の主面にそれぞれに接触するセパレータ18と、を備える積層体30と、リチウムイオンを含む電解液を備える。
【0027】
リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体30に接続された一対のリード60,62を備えている。
【0028】
正極10は、正極集電体12と、正極集電体12上に形成された正極活物質層14と、を有する。また、負極20は、負極集電体22と、負極集電体22上に形成された負極活物質層24と、を有する。セパレータ18は、負極活物質層24と正極活物質層14との間に位置している。ケース50は、例えば、金属ラミネートフィルムを利用することができる。
【0029】
(正極活物質層)
正極活物質層14は、正極集電体12上に形成される。正極活物質層14は、少なくとも下記の正極活物質と導電助剤とを含有する。導電助剤としては、カーボンブラック類等の炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属粉、炭素材料及び金属粉の混合物、ITOのような導電性酸化物が挙げられる。炭素材料は、タップ密度が0.03〜0.09g/mlであるカーボンと、タップ密度が0.1〜0.3g/mlであるカーボンと、を含むことが好ましい。
正極活物質層は活物質及び導電助剤を結着するバインダーを含んでもよい。正極活物質層14は、活物質と、バインダーと、溶媒と、導電助剤と、を含む塗料を正極集電体12上に塗布する工程によって形成される。
【0030】
(正極集電体)
正極集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル又はそれらの合金の金属薄板(金属箔)を用いることができる。
【0031】
(正極活物質)
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では正極活物質として下記のような化合物が挙げられる。リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF
6−)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知の電極活物質を使用できる。
【0032】
例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn
2O
4)、及び、一般式:LiNi
aCo
bMn
cM
dO
2(a+b+c+d=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、0≦d≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV
2O
5)、オリビン型LiMPO
4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn又はFe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素またはVOを示す)、チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)等の複合金属酸化物が挙げられる。
【0033】
(バインダー)
バインダーは、正極活物質同士を結合すると共に、正極活物質と正極集電体12とを結合している。バインダーは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。また、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBR)、セルロース、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)その水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子を用いてもよい。
【0034】
(負極活物質層)
負極活物質層24は、負極集電体22上に形成される。負極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス又はそれらの合金の金属薄板(金属箔)を用いることができる。負極活物質層24は、負極活物質、バインダー、及び、必要に応じた量の導電助剤から主に構成されるものである。
【0035】
(負極活物質)
本実施形態の負極活物質は、シリコンと酸化シリコンを含有する負極活物質において、前記負極活物質はその一次粒子内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は他方の相よりもシリコンの元素濃度が低く、前記一方の相は、前記負極活物質の一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相であることを特徴としている。
【0036】
このような負極活物質の構成によれば、初期充放電効率を顕著に向上することが出来る。これは初回充電時に、充放電に寄与しないシリコン元素濃度の低い網目構造を形成する繊維状の相が、負極活物質内を網羅することにより活物質の膨張によるクラックの発生を妨げ、電解液との反応面積を適度に制限し、皮膜形成を抑制することができると共に、この皮膜の形成に使用され、初回の充電時に不活性となるリチウムを低減することによるものであると推察している。
【0037】
更に前記一方の相と前記他方の相は、共に非晶質であることが望ましい。
【0038】
非晶質であることにより、強度が高く、膨張収縮を抑制することができる。
【0039】
本実施形態における負極活物質におけるシリコンに対する酸化シリコンの比率は1:1から1:10の範囲であることが好ましい。シリコンに対する酸化シリコンの比率が上記である場合、シリコンの持つ高い放電容量を十分に発現しつつ、充放電に伴うシリコンの体積膨張を抑制することができる。
【0040】
前記シリコンと酸化シリコンを含有する負極活物質の一次粒子径は、100nm以上15μm以下であることが好ましい。また、前記シリコンと酸化シリコンを含有する負極活物質の一次粒子は、1μm以上8μm以下の粒径であることがより好ましい。
【0041】
前記シリコンと酸化シリコンを含有する負極活物質の一次粒子径が上記の範囲内に満たない場合、網目構造を形成する繊維状の相の形成が不十分であり、反応面積がより十分に増加せず、高レートでの放電容量において最高の特性が得られない可能性がある。前記シリコンと酸化シリコンを含有する負極活物質の一次粒子径が上記の範囲を超える場合、Li拡散経路の増加によって一次粒子内部が充放電反応に寄与しにくくなり、サイクル特性が低下する可能性がある。
【0042】
更に単位面積あたりの前記網目構造を形成する繊維状の相の面積比率が19.6%以上51.6%以下であることが好ましい。また、前記断面において、単位面積あたりの前記網目構造を形成する繊維状の相の面積比率が29.4%以上45.1%以下であることがより好ましい。
【0043】
前記網目構造を形成する繊維状の相の面積比率が上記範囲に満たない場合、シリコン元素濃度の低い、網目構造を形成する繊維状の相の形成が不十分となり、膨張収縮を十分に抑制できず、サイクル特性が低下する可能性が生じてくる。前記網目構造を形成する繊維状の面積比率が上記範囲を超える場合、シリコン元素濃度の低い網目構造を形成する繊維状の相が増加するため、この層に不可逆的にトラップされるリチウムが増加し、初期充放電効率が最高の特性を得られない可能性がある。
【0044】
更に負極活物質の一次粒子の断面において観察される前記網目構造を形成する繊維状の相の幅は、0.29nm以上9.72nm以下であることが好ましい。また、前記負極活物質の一次粒子の断面において観察される網目構造を形成する繊維状の相の幅は2.89nm以上、5.17nm以下であることが更に好ましい。
【0045】
前記負極活物質の一次粒子の断面において観察される前記網目構造を形成する繊維状の相の幅が上記の範囲に満たない場合、シリコン元素濃度の低い、網目構造を形成する繊維状の相の形成が不十分となり、膨張収縮を十分に抑制できず、サイクル特性が低下する可能性が生じてくる。繊維状の相の幅が上記範囲を超える場合、シリコン元素濃度の低い網目構造を形成する繊維状の相が増加するため、この層に不可逆的にトラップされるリチウムが増加し、初期充放電効率が最高の特性を得られない可能性がある。
【0046】
前記負極活物質の一次粒子の断面において観察される前記他方の相のシリコンの元素濃度Cと前記網目構造を形成する繊維状の相のシリコンの元素濃度Dの比(D/C)が、0.44以上0.97以下であることが更に好ましい。また、前記D/Cが、0.61以上0.85以下であることが更に好ましい。
【0047】
前記他方の相のシリコンの元素濃度Cと前記網目構造を形成する繊維状の相のシリコンの元素濃度Dの比が上記範囲に満たない場合、前記他方の相の充放電時の膨張が比較的大きくなるため、膨張を抑制しきれず、サイクル特性が低下する可能性がある。前記他方の相のシリコンの元素濃度Cと前記一方の相のシリコンの元素濃度Dの比が上記範囲を超える場合、前記一方の相の充放電への寄与が大きくなり、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0048】
更に前記一方の相は、Li
xSiO
y(2≦x≦4,3≦y≦4)で表される化合物を含有していることが望ましい。
【0049】
シリコンの物質量が少ない領域にリチウムが含有されていることで、リチウムが不可逆的に反応し、初回の充電時に可逆容量が減少することを抑制できるからである。
【0050】
前記一方の相と、他方の相のシリコンの元素濃度は、EELS(電子エネルギー損失分光法)を行うことで測定することができる。
【0051】
前記網目構造を形成する繊維状の相は、負極活物質の断面をSTEMにより観察することで確認することができる。また、非晶質であるかどうかは、負極活物質断面の電子線回折により確認することができる。
【0052】
負極活物質の一次粒子の断面における単位面積あたりの前記一方の相の面積比率は以下の手順で測定できる。STEMを用いて負極活物質断面を撮影する。任意に選択した負極活物質の一粒子の断面において100nm×100nmの正方形の領域を任意に選び、当該領域内の網目構造を形成する繊維状の相の面積を測定する。面積比率=(網目構造を形成する繊維状の相の面積)/(100nm×100nmの正方形の面積)より算出する。上記の操作を同一粒子内で任意に10か所、任意の100粒子について行う。上記の方法により得られた面積比率を平均したものを負極活物質の断面における単位面積あたりの前記一方の相の面積比率とする。
【0053】
網目構造を形成する繊維状の相の幅の平均距離は、STEMを用いて負極活物質断面を撮影し、得られたSTEM像を用いて測長した。
図3に負極活物質断面の模式図を示す。網目構造を形成する繊維状の相の幅201は、一粒子内で任意に8か所、任意の100粒子について行い、平均したものとした。また、一粒子内の任意の8か所の取り方は、まず交点が粒子の略中心に位置し、粒子を8分割する、4本の線を引く。隣接する線間の角度は45度となる。この線を用いて、線が横断する前記網目構造を形成する繊維状の相の幅を繊維状の相の幅の値とした。
【0054】
負極活物質層に用いるバインダー及び導電助剤には、上述した正極10に用いる材料と同様の材料を用いることができる。また、バインダー及び導電助剤の含有量も、負極活物質の体積変化の大きさや箔との密着性を加味しなければならない場合をのぞいて、上述した正極10における含有量と同様の含有量を採用すればよい。
【0055】
電極10、20は、通常用いられる方法により作製できる。例えば、活物質、バインダー、溶媒、及び、導電助剤を含む塗料を集電体上に塗布し、集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去することにより製造することができる。
【0056】
溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0057】
塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0058】
集電体12、22上に塗布された塗料中の溶媒を除去する方法は特に限定されず、塗料が塗布された集電体12、22を、例えば80℃〜150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
【0059】
そして、このようにして活物質層14、24が形成された電極を、その後、必要に応じて例えば、ロールプレス装置等によりプレス処理すればよい。ロールプレスの線圧は例えば、10〜50kgf/cmとすることができる。
【0060】
(負極活物質の製造方法)
本実施形態における負極活物質は、以下のようにして作製することができる。例えば、非晶質のシリコン(Si)と酸化シリコン(SiO
2)の比が5:1の負極活物質を真空中、350℃で熱処理し、急冷することで、熱膨張率の違いから活物質内にクラックを発生させ、酸素雰囲気中で焼成することにより、クラック部が酸化し、クラック表面の酸素量が増加し、シリコンの元素濃度が低い組成の、シリコンと酸化シリコンからなる相となり、これを再び真空中350℃で焼結することで得ることが出来る。
【0061】
なお、負極活物質にリチウムをドープしたい場合には、例えばリチウムを含む溶液に負極活物質を含浸させリチウムドープすればよい。
【0062】
次に、リチウムイオン二次電池100の電極以外の他の構成要素を説明する。
【0063】
セパレータは、電解液に対して安定であり、保液性に優れていれば特に制限はないが、一般的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔質シート、又は不織布が挙げられる。
【0064】
(電解質)
電解質は、正極活物質層14、負極活物質層24、及び、セパレータ18の内部に含有させるものである。電解質としては、特に限定されず、例えば、本実施形態では、リチウム塩を含む電解液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。ただし、電解質水溶液は電気化学的に分解電圧が低いことにより、充電時の耐用電圧が低く制限されるので、有機溶媒を使用する電解液(非水電解質溶液)であることが好ましい。電解液としては、リチウム塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解したものが好適に使用される。リチウム塩としては特に限定されず、リチウムイオン二次電池の電解質として用いられるリチウム塩を用いることができる。例えば、リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、等の無機酸陰イオン塩、LiCF
3SO
3、(CF
3SO
2)
2NLi等の有機酸陰イオン塩等を用いることができる。
【0065】
また、有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、等の非プロトン性高誘電率溶媒や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、等の酢酸エステル類あるいはプロピオン酸エステル類等の非プロトン性低粘度溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性高誘電率溶媒と非プロトン性低粘度溶媒を適当な混合比で併用することが望ましい。更には、イミダゾリウム、アンモニウム、及びピリジニウム型のカチオンを用いたイオン性液体を使用することができる。対アニオンは特に限定されるものではないが、BF
4−、PF
6−、(CF
3SO
2)
2N
−等が挙げられる。イオン性液体は前述の有機溶媒と混合して使用することが可能である。
【0066】
電解液のリチウム塩の濃度は、電気伝導性の点から、0.5〜2.0Mが好ましい。なお、この電解質の温度25℃における導電率は0.01S/m以上であることが好ましく、電解質塩の種類あるいはその濃度により調整される。
【0067】
更に、本実施形態の電解液中には、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、サイクル寿命向上を目的としたビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート等や、過充電防止を目的としたビフェニル、アルキルビフェニル等や、脱酸や脱水を目的とした各種カーボネート化合物、各種カルボン酸無水物、各種含窒素及び含硫黄化合物が挙げられる。
【0068】
(ケース)
ケース50は、その内部に積層体30及び電解液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、ケース50として、
図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0069】
(リード)
リード60,62は、アルミ等の導電材料から形成されている。
そして、公知の方法により、リード60、62を負極集電体22、正極集電体12にそれぞれ溶接し、正極10の正極活物質層14と負極20の負極活物質層24との間にセパレータ18を挟んだ状態で、電解液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールすればよい。
【0070】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、リチウムイオン二次電池は
図1に示した形状のものに限定されず、コイン形状に打ち抜いた電極とセパレータとを積層したコインタイプや、電極シートとセパレータとをスパイラル状に巻回したシリンダータイプ等であってもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
(負極活物質の作製)
非晶質のシリコン(Si)と酸化シリコン(SiO
2)の比が5:1のシリコンと酸化シリコンからなる負極活物質を真空中、350℃で熱処理し、急冷することで、熱膨張率の違いから活物質内にクラックを発生させ、酸素雰囲気中(0.5atm)で焼成することにより、クラック部が酸化、クラック表面の酸素量が増加し、シリコンの元素濃度の低いSiOxとなり、これを再び真空中350℃で焼結することで負極活物質内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は他方の相よりもシリコンの元素濃度が低く、前記一方の相は、前記負極活物質の一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相からなる構造体を持つ負極活物質を得た。
【0073】
(負極活物質のSTEM観察)
得られた負極活物質のSTEM像を
図2に示す。STEM像にて明らかな様に活物質の一次粒子内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は断面において網目構造を形成する繊維状の相であり、負極活物質の一次粒子内に均一に広がっていることが確認できる。得られた負極活物質の単位面積あたりの網目構造を形成する繊維状の相の面積比率、繊維状の相の幅の平均距離を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
(負極活物質の電子線回折)
得られた負極活物質断面の網目構造を形成する繊維状の相と、他方の相の電子線回折を行った。その結果、繊維状の相と他方の相は、共に非晶質であることが確認できた。
【0075】
(負極活物質のEELS測定)
得られた負極活物質断面の網目構造を形成する繊維状の相と、他方の相のEELS測定を行い、他方の相のシリコンの元素濃度Cと前記網目構造を形成する繊維状の一方の相のシリコンの元素濃度Dとの比(D/C)を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
(負極の作製)
上記の方法で作製した負極活物質83質量部、アセチレンブラック2質量部、ポリアミドイミド15質量部、及びN−メチルピロリドン82質量部を混合し、活物質層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、厚さ14μmの銅箔の一面に、活物質の塗布量が2.0mg/cm
2となるように塗布し、100℃で乾燥することで活物質層を形成した。その後、ロールプレスにより負極を加圧成形し、真空中、350℃で3時間熱処理することで、活物質層の厚さが19μmである負極を得た。
【0077】
(評価用リチウムイオン二次電池の作製)
上記で作製したリチウム金属粉末分散負極と、銅箔にリチウム金属箔を貼り付けたものを対極とし、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで、アルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として1MのLiPF
6溶液(溶媒:EC/DEC=3/7(体積比))を注入した後、真空シールし、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0078】
[実施例2〜22]
熱処理の冷却速度を200℃/min、または800℃/minとし、水素圧を0.2atmから2.5atmの範囲で変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例2〜22の負極活物質を得た。得られた負極活物質をSTEM観察にて評価した結果、内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は、負極活物質の一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相からなることが確認された。また、得られた負極活物質の断面の電子線回折を行った結果、実施例1と同様に組成の異なる2つの相は共に非晶質であることを確認した。
【0079】
実施例1と同様にSTEM、EELSを用いて、単位面積あたりの網目構造を形成する繊維状の相の面積比率、繊維状の相の幅、他方の相のシリコンの元素濃度Cと前記網目構造を形成する繊維状の相のシリコンの元素濃度Dとの比(D/C)を測定した。
【0080】
得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様にして実施例2〜22の負極及び評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0081】
[比較例1]
上記活物質に対し真空熱処理等の処理を施さず、網目構造を形成しない負極活物質を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の負極及び評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0082】
(初期充放電効率の測定)
実施例及び比較例で作製した評価用リチウムイオン二次電池について、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用い、電圧範囲を0.005Vから2.5Vまでとし、1C=1600mAh/gとしたときの0.05Cでの電流値で充放電を行った。これにより、初期充電容量、初期放電容量及び初期充放電効率を求めた。なお、初期充放電効率(%)は、初期充電容量に対する初期放電容量の割合(100×初期放電容量/初期充電容量)である。結果を表1に示す。
【表1】
【0083】
表1の結果から、一次粒子内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は他方の相よりもシリコンの元素濃度が低く、前記一方の相は、前記一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相からなる負極活物質は、網目構造を形成しない負極活物質を用いた場合に比べて高レートにおいて高い初期充放電効率を示した。