(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モータを走行駆動源とし、電動車両の加減速及び停止を指示するためのアクセルペダルを有し、前記モータの回生制動力により、車両の減速から停車までを制御可能な電動車両の制御方法であって、
前記アクセルペダルの操作状態であるアクセル操作量を検出するステップと、
前記モータに作用する外乱トルクを推定するステップと、
モータトルク指令値を算出するステップと、
前記モータトルク指令値に基づいて、前記モータを制御するステップと、
を備え、
前記外乱トルクを推定するステップでは、車両へのトルク入力と前記モータの回転速度の伝達特性のモデルGp(s)に基づいて前記外乱トルクを推定し、
前記モータトルク指令値を算出するステップでは、前記アクセルペダルが操作されることによって前記アクセル操作量が所定値以下となり、かつ、電動車両が停車間際になると、前記モータの回転速度または前記モータの回転速度に比例する車両パラメータの低下とともに前記モータトルク指令値を前記外乱トルクに収束させる、
電動車両の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、一実施の形態における電動車両の制御装置を備えた電気自動車の主要構成を示すブロック図である。本発明の電動車両の制御装置は、車両の駆動源の一部または全部として電動モータを備え、電動モータの駆動力により走行可能な電動車両に適用可能である。電動車両には、電気自動車だけでなく、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車も含まれる。特に、本実施形態における電動車両の制御装置は、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御することができる車両に適用することができる。この車両では、ドライバは、加速時にアクセルペダルを踏み込み、減速時や停止時には、踏み込んでいるアクセルペダルの踏み込み量を減らすか、または、アクセルペダルの踏み込み量をゼロとする。なお、車両の減速とは、車速がゼロに近づくことをいう。
【0009】
モータコントローラ2は、車速V、アクセル開度AP、電動モータ(三相交流モータ)4の回転子位相α、電動モータ4の電流iu、iv、iw等の車両状態を示す信号をデジタル信号として入力し、入力された信号に基づいて、電動モータ4を制御するためのPWM信号を生成する。また、モータコントローラ2は、生成したPWM信号に応じてインバータ3の駆動信号を生成する。
【0010】
インバータ3は、例えば、各相ごとに2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)を備え、駆動信号に応じてスイッチング素子をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流の電流を交流に変換し、電動モータ4に所望の電流を流す。
【0011】
電動モータ4は、インバータ3から供給される交流電流により駆動力を発生し、減速機5およびドライブシャフト8を介して、左右の駆動輪9a、9bに駆動力を伝達する。また、電動モータ4は、車両の走行時に駆動輪9a、9bに連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることで、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ3は、電動モータ4の回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ1に供給する。
【0012】
電流センサ7は、電動モータ4に流れる3相交流電流iu、iv、iwを検出する。ただし、3相交流電流iu、iv、iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。
【0013】
回転センサ6は、例えば、レゾルバやエンコーダであり、電動モータ4の回転子位相αを検出する。
【0014】
図2は、モータコントローラ2によって行われるモータ電流制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【0015】
ステップS201では、車両状態を示す信号を入力する。ここでは、車速V(km/h)、アクセル開度AP(%)、電動モータ4の回転子位相α(rad)、電動モータ4の回転速度Nm(rpm)、電動モータ4に流れる三相交流電流iu、iv、iw、バッテリ1とインバータ3間の直流電圧値Vdc(V)を入力する。
【0016】
車速V(km/h)は、図示しない車速センサや、他のコントローラより通信にて取得する。または、回転子機械角速度ωmにタイヤ動半径Rを乗算し、ファイナルギアのギア比で除算することにより車速v(m/s)を求め、3600/1000を乗算することにより単位変換して、車速V(km/h)を求める。
【0017】
アクセル開度AP(%)は、図示しないアクセル開度センサから取得するか、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから通信にて取得する。
【0018】
電動モータ4の回転子位相α(rad)は、回転センサ6から取得する。電動モータ4の回転速度Nm(rpm)は、回転子角速度ω(電気角)を電動モータ4の極対数pで除算して、電動モータ4の機械的な角速度であるモータ回転速度ωm(rad/s)を求め、求めたモータ回転速度ωmに60/(2π)を乗算することによって求める。回転子角速度ωは、回転子位相αを微分することによって求める。
【0019】
電動モータ4に流れる電流iu、iv、iw(A)は、電流センサ7から取得する。
【0020】
直流電圧値Vdc(V)は、バッテリ1とインバータ3間の直流電源ラインに設けられた電圧センサ(不図示)、または、バッテリコントローラ(不図示)から送信される電源電圧値から求める。
【0021】
ステップS202では、第1のトルク目標値Tm1
*を設定する。具体的には、ステップS201で入力されたアクセル開度APおよびモータ回転速度ωmに基づいて、
図3に示すアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、第1のトルク目標値Tm1
*を設定する。上述したように、本実施形態における電動車両の制御装置は、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御することができる車両に適用可能であり、少なくともアクセルペダルの全閉によって車両を停止させることを可能とするために、
図3に示すアクセル開度−トルクテーブルでは、アクセル開度が0(全閉)の時のモータ回生量が大きくなるように、モータトルクが設定されている。すなわち、モータ回転数が正の時であって、少なくともアクセル開度が0(全閉)の時には、回生制動力が働くように、負のモータトルクが設定されている。ただし、アクセル開度−トルクテーブルは、
図3に示すものに限定されることはない。
【0022】
ステップS203では、停止制御処理を行う。具体的には、電動車両の停車間際を判断し、停車間際以前は、ステップS202で算出した第1のトルク目標値Tm1
*をモータトルク指令値Tm
*に設定し、停車間際以降は、モータ回転速度の低下とともに外乱トルク推定値Tdに収束する第2のトルク目標値Tm2
*をモータトルク指令値Tm
*に設定する。この第2のトルク目標値Tm2
*は、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロである。これにより、後述するように、路面の勾配に関わらず、停車状態を維持することができる。停止制御処理の詳細については、後述する。
【0023】
ステップS204では、ステップS203で算出したモータトルク目標値Tm
*、モータ回転速度ωmおよび直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流目標値id
*、q軸電流目標値iq
*を求める。例えば、トルク指令値、モータ回転速度、および直流電圧値と、d軸電流目標値およびq軸電流目標値との関係を定めたテーブルを予め用意しておいて、このテーブルを参照することにより、d軸電流目標値id
*、q軸電流目標値iq
*を求める。
【0024】
ステップS205では、d軸電流idおよびq軸電流iqをそれぞれ、ステップS204で求めたd軸電流目標値id
*およびq軸電流目標値iq
*と一致させるための電流制御を行う。このため、まず初めに、ステップS201で入力された三相交流電流値iu、iv、iwと、電動モータ4の回転子位相αとに基づいて、d軸電流idおよびq軸電流iqを求める。続いて、d軸、q軸電流指令値id
*、iq
*と、d軸、q軸電流id、iqとの偏差から、d軸、q軸電圧指令値vd、vqを算出する。なお、算出したd軸、q軸電圧指令値vd、vqに対して、d−q直交座標軸間の干渉電圧を相殺するために必要な非干渉電圧を加算するようにしてもよい。
【0025】
次に、d軸、q軸電圧指令値vd、vqと、電動モータ4の回転子位相αから、三相交流電圧指令値vu、vv、vwを求める。そして、求めた三相交流電圧指令値vu、vv、vwと直流電圧値Vdcから、PWM信号tu(%)、tv(%)、tw(%)を求める。このようにして求めたPWM信号tu、tv、twにより、インバータ3のスイッチング素子を開閉することによって、電動モータ4をトルク指令値Tm
*で指示された所望のトルクで駆動することができる。
【0026】
ここで、ステップS203で行われる停止制御処理について説明する前に、本実施形態における電動車両の制御装置において、モータトルクTmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gp(s)について説明する。
【0027】
図4は、車両の駆動力伝達系をモデル化した図であり、同図における各パラメータは、以下に示すとおりである。
J
m:電動モータのイナーシャ
J
w:駆動輪のイナーシャ
M:車両の重量
K
d:駆動系の捻り剛性
K
t:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N:オーバーオールギヤ比
r:タイヤの荷重半径
ω
m:電動モータの角速度
T
m:トルク目標値
T
d:駆動輪のトルク
F:車両に加えられる力
V:車両の速度
ω
w:駆動輪の角速度
【0028】
そして、
図4より、以下の運動方程式を導くことができる。ただし、式(1)〜(3)中の符号の右上に付されているアスタリスク(
*)は、時間微分を表している。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0029】
式(1)〜(5)で示す運動方程式に基づいて、電動モータ4のトルク目標値Tmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gp(s)を求めると、次式(6)で表される。
【数6】
【0030】
ただし、式(6)中の各パラメータは、次式(7)で表される。
【数7】
【0031】
式(6)に示す伝達関数の極と零点を調べると、次式(8)の伝達関数に近似することができ、1つの極と1つの零点は極めて近い値を示す。これは、次式(8)のαとβが極めて近い値を示すことに相当する。
【数8】
【0032】
従って、式(8)における極零相殺(α=βと近似する)を行うことにより、次式(9)に示すように、Gp(s)は、(2次)/(3次)の伝達特性を構成する。
【数9】
【0033】
続いて、
図2のステップS203で行われる停止制御処理の詳細について説明する。
図5は、停止制御処理を実現するためのブロック図である。
【0034】
モータ回転速度F/Bトルク設定器501は、検出されたモータ回転速度ωmに基づいて、電動車両を電動モータ4の回生制動力によって停止させるためのモータ回転速度フィードバックトルクTω(以下、モータ回転速度F/BトルクTωと呼ぶ)を算出する。
【0035】
図6は、モータ回転速度ωmに基づいて、モータ回転速度F/BトルクTωを算出する方法を説明するための図である。モータ回転速度F/Bトルク設定器501は、乗算器601を備え、モータ回転速度ωmにゲインKvrefを乗算することにより、モータ回転速度F/BトルクTωを算出する。ただし、Kvrefは、電動車両の停止間際に電動車両を停止させるのに必要な負(マイナス)の値であり、例えば、実験データ等により適宜設定される。すなわち、モータ回転速度F/BトルクTωは、モータ回転速度ωmが大きいほど、大きい回生制動力が得られるトルクとして設定される。
【0036】
なお、モータ回転速度F/Bトルク設定器501は、モータ回転速度ωmにゲインKvrefを乗算することにより、モータ回転速度F/BトルクTωを算出するものとして説明したが、モータ回転速度ωmに対する回生トルクを定めた回生トルクテーブルや、モータ回転速度ωmの減衰率を予め記憶した減衰率テーブル等を用いて、モータ回転速度F/BトルクTωを算出してもよい。
【0037】
外乱トルク推定器502は、検出されたモータ回転速度ωmとモータトルク指令値Tm
*に基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出する。
【0038】
図7は、モータ回転速度ωmとモータトルク指令値Tm
*に基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出する方法を説明するためのブロック図である。
【0039】
制御ブロック701は、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、モータ回転速度ωmを入力してフィルタリング処理を行うことにより、第1のモータトルク推定値を算出する。Gp(s)は、車両へのトルク入力とモータの回転速度の伝達特性のモデルであり、H(s)は、分母次数と分子次数との差分が、モデルGp(s)の分母次数と分子次数との差分以上となる伝達特性を有するローパスフィルタである。
【0040】
制御ブロック702は、H(s)なる伝達特性を有するローパスフィルタとしての機能を担っており、モータトルク指令値Tm
*を入力してフィルタリング処理を行うことにより、第2のモータトルク推定値を算出する。
【0041】
減算器703は、第2のモータトルク推定値から第1のモータトルク推定値を減算することにより、外乱トルク推定値を算出する。
【0042】
本実施形態では、第2のモータトルク推定値と第1のモータトルク推定値との偏差に対して、制御ブロック704によりフィルタリング処理を施すことにより、外乱トルク推定値Tdを算出する。制御ブロック704は、Hz(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、第2のモータトルク推定値と第1のモータトルク推定値との偏差を入力してフィルタリング処理を行うことにより、外乱トルク推定値Tdを算出する。
【0043】
ここで、伝達特性Hz(s)について説明する。式(9)を書き換えると、次式(10)が得られる。ただし、式(10)中のξ
z、ω
z、ξ
p、ω
pはそれぞれ、式(11)で表される。
【数10】
【数11】
【0044】
以上より、Hz(s)を次式(12)で表す。ただし、ξ
c>ξ
zとする。また、ギアのバックラッシュを伴う減速シーンで振動抑制効果を高めるために、ξ
c>1とする。
【数12】
【0045】
なお、本実施形態では、外乱トルクは、
図7に示す通り、外乱オブザーバにより推定するが、車両前後Gセンサ等の計測器を使って推定してもよい。
【0046】
ここで、外乱としては、空気抵抗、乗員数や積載量に起因する車両質量の変動によるモデル化誤差、タイヤの転がり抵抗、路面の勾配抵抗等が考えられるが、停車間際で支配的となる外乱要因は勾配抵抗である。外乱要因は運転条件により異なるが、外乱トルク推定器502は、モータトルク指令値Tm
*とモータ回転速度ωmと車両モデルGp(s)に基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出するので、上述した外乱要因を一括して推定することができる。これにより、いかなる運転条件においても、減速からの滑らかな停車を実現することができる。
【0047】
図5に戻って説明を続ける。加算器503は、モータ回転速度F/Bトルク設定器501によって算出されたモータ回転速度F/BトルクTωと、外乱トルク推定器502によって算出された外乱トルク推定値Tdとを加算することによって、第2のトルク目標値Tm2
*を算出する。
【0048】
トルク比較器504は、第1のトルク目標値Tm1
*と第2のトルク目標値Tm2
*の大きさを比較し、値が大きい方のトルク目標値をモータトルク指令値Tm
*に設定する。車両の走行中、第2のトルク目標値Tm2
*は第1のトルク目標値Tm1
*よりも小さく、車両が減速して停車間際(車速が所定車速以下)になると、第1のトルク目標値Tm1
*よりも大きくなる。従って、トルク比較器504は、第1のトルク目標値Tm1
*が第2のトルク目標値Tm2
*より大きければ、停車間際以前と判断して、モータトルク指令値Tm
*を第1のトルク目標値Tm1
*に設定する。また、トルク比較器504は、第2のトルク目標値Tm2
*が第1のトルク目標値Tm1
*より大きくなると、車両が停車間際と判断して、モータトルク指令値Tm
*を第1のトルク目標値Tm1
*から第2のトルク目標値Tm2
*に切り替える。なお、停車状態を維持するため、第2のトルク目標値Tm2
*は、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロに収束する。
【0049】
図8は、一実施の形態における電動車両の制御装置による制御結果の一例を示す図である。
図8(a)〜(c)はそれぞれ、登坂路、平坦路、降坂路で停車する場合の制御結果であり、各図において、上から順にモータ回転速度、モータトルク指令値、車両前後加速度を表している。
【0050】
時刻t0では、
図2のステップS202で算出される第1のトルク目標値Tm1
*に基づいて、電動モータ4の減速が行われる。
【0051】
時刻t1では、
図5のS504において、第2のトルク目標値Tm2
*が第1のトルク目標値Tm1
*より大きくなって停車間際と判断されることにより、モータトルク指令値Tm
*が第1のトルク目標値Tm1
*から第2のトルク目標値Tm2
*に切り替わる。この後、モータ回転速度ωmの低下に応じて、モータトルク指令値Tm
*は、外乱トルク推定値Tdに少しずつ近づいていく。
【0052】
時刻t3では、
図8(a)〜(c)に示すように、登坂路、平坦路、降坂路によらず、モータトルク指令値Tm
*は外乱トルク推定値Tdに収束する。これにより、停車時に前後方向の加速度振動のない滑らかな停車を実現することができる。時刻t3以後は、登坂路、平坦路、降坂路によらず、モータ回転速度ωmは0であり、停車状態が維持されていることが分かる。
【0053】
続いて、
図9〜11を参照して、アクセル操作量を加味した、より具体的な一実施の形態における電動車両の制御装置による制御結果について説明する。
【0054】
図9〜11は、
図8と同様、一実施の形態における電動車両の制御装置による制御結果の一例を示す図である。
図9は、アクセル操作量をゼロとした場合の制御結果、
図10は、アクセル操作量を一定とした場合の制御結果、
図11は、アクセル操作量を徐々に増加させた場合の制御結果を示している。
図9(a)〜(c)、
図10(a)〜(c)、
図11(a)〜(c)はそれぞれ、登坂路、平坦路、降坂路で停車する場合の制御結果を表している。また、各図において、上から順にモータ回転速度、モータトルク指令値、車両前後加速度、および、アクセル開度を表している。
【0055】
また、
図9〜11においてモータトルク指令値を示す図には、モータトルク指令値(実線)および外乱トルク推定値(一点鎖線)に加えて、第1のトルク目標値(点線)、および、第2のトルク目標値(破線)を示している。
【0056】
時刻t0では、
図2のステップS202で算出される第1のトルク目標値Tm1
*に基づいて、電動モータの減速が行われる。
【0057】
時刻t1では、
図5のS504において、第2のトルク目標値Tm2
*が第1のトルク目標値Tm1
*より大きくなって停車間際と判断されることにより、モータトルク指令値Tm
*が第1のトルク目標値Tm1
*から第2のトルク目標値Tm2
*に切り替わる。この後、モータ回転速度ωmの低下に応じて、モータトルク指令値Tm
*は、外乱トルク推定値Tdに少しずつ近づいていく。この間、
図9〜11で示すとおり、モータトルク指令値Tm
*は、アクセル操作量に依存せず、外乱トルク推定値Tdに収束していく。
【0058】
時刻t3では、
図9〜11の各図の(a)〜(c)に示すように、アクセル開度、および路面状況(登坂路、平坦路、降坂路)によらず、モータトルク指令値Tm
*は、外乱トルク推定値Tdに収束する。これにより、停車時に前後方向の加速度振動のない滑らかな停車を実現することができる。時刻t3以後は、アクセル開度、路面状況によらず、モータ回転速度ωmは0であり、停車状態が維持されていることが分かる。
【0059】
このように、S504において停車間際と判断する場合は、アクセル操作量によらず、モータトルク指令値Tm
*は、第1のトルク目標値Tm1
*から第2のトルク目標値Tm2
*に切り替わり、モータ回転速度の低下とともに外乱トルク推定値に収束する。
【0060】
ここで、登坂路では、ギアのバックラッシュを跨ぐ区間(
図8〜11の各図(a)の時刻t2の直前)が発生する。モータ回転速度に、ギアのバックラッシュを跨ぐシーン等に発生するGp(s)とのモデル化誤差に起因する外乱が印加されると、Gp(s)のゼロ点の特性により減衰係数ξ
zが1より小さいと、伝達特性H(s)/Gp(s)のフィルタ(制御ブロック701)によるフィルタ処理にて、1〜3Hz程度の振動が励起されてモータトルク指令値に伝播する。この1〜3Hz程度の振動は、加速度振動として車両に現れ、滑らかな停車を損なうことになるが、本実施形態では、第2のモータトルク推定値と第1のモータトルク推定値との偏差に対して、伝達特性Hz(s)を有するフィルタ(制御ブロック703)によるフィルタ処理を施すことによって、外乱トルク推定値Tdを算出するので、
図8〜11の各図(a)に示すように、ギアのバックラッシュを跨ぐシーンにおいても滑らかに減速および停車することができる。
【0061】
ここで、上述した説明では、モータ回転速度F/BトルクTωと外乱トルク推定値Tdとを加算することによって、第2のトルク目標値Tm2
*を算出したが、モータ回転速度F/BトルクTωを第2のトルク目標値Tm2
*として設定してもよい。
図12は、モータ回転速度F/BトルクTωを第2のトルク目標値Tm2
*として設定する場合において、停止制御処理を実現するためのブロック図である。
図12において、
図5に示す構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付している。
【0062】
モータ回転速度F/BトルクTωを第2のトルク目標値Tm2
*として設定した場合も、第2のトルク目標値Tm2
*が第1のトルク目標値Tm1
*より大きくなって停車間際と判断されることにより、モータトルク指令値Tm
*が第1のトルク目標値Tm1
*から第2のトルク目標値Tm2
*に切り替わる。このとき、第2のトルク目標値Tm2
*は、モータ回転速度F/BトルクTωと同一値であるため、モータ回転速度ωmの低下に応じて、モータトルク指令値Tm
*はゼロに収束する。
【0063】
以上、一実施の形態における電動車両の制御装置は、電動モータ4を走行駆動源とし、電動モータ4の回生制動力により減速する電動車両の制御装置であって、アクセル操作量を検出するとともに、モータトルク指令値Tm
*を算出し、算出したモータトルク指令値Tm
*に基づいて、電動モータ4を制御する。特に、アクセル操作量が所定値以下であり、かつ、電動車両が停車間際になると、電動モータ4の回転速度の低下とともにモータトルク指令値Tm
*をゼロに収束させるので、平坦路において、前後方向における加速度振動のない滑らかな減速を停車間際で実現することができ、かつ、停車状態を保持することができる。また、フットブレーキなどの機械的制動手段によるブレーキ制動力を使わなくても車両を停車状態まで減速させることができるので、停車間際においても電動モータ4を回生運転させることができ、電費を向上させることができる。さらに、アクセル操作のみで車両の加減速および停車を実現することができるので、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み替え操作が必要なく、ドライバの負担を軽減することができる。なお、アクセル操作量が所定値以下とは、車両が、回生制動とは別に、制動装置が介入することなく、十分に低速(例えば15km/h以下の速度)で走行しているときのアクセル操作量を意図している。なお、例に挙げた車速は一例であることは言うまでもない。
【0064】
ドライバがブレーキペダルを用いて車両を停車させる場合、運転に慣れていないドライバはアクセルペダルを強く踏みすぎて、停車時に車両の前後方向に加速度振動が発生する。また、アクセル操作のみで車両の加減速および停車を実現する車両において、一定の減速度で減速および停車を実現しようとすると、減速時に十分な減速を実現するためには減速度を大きくする必要があるため、停車時に車両の前後方向に加速度振動が発生する。しかしながら、一実施の形態における電動車両の制御装置によれば、どのようなドライバであっても、上述したように、アクセル操作のみで滑らかな減速および停車を実現することができる。
【0065】
また、一実施の形態における電動車両の制御装置では、モータ回転速度ωmを検出し、検出したモータ回転速度ωmに所定のゲインKvrefを乗算して、モータ回転速度フィードバックトルクTωを算出する。そして、アクセル操作量が所定値以下であり、かつ、電動車両が停車間際になると、モータ回転速度フィードバックトルクTωをモータトルク指令値Tm
*として設定する。モータ回転速度フィードバックトルクTωは、粘性(ダンパ)として働くため、停車間際においてモータ回転速度ωmは滑らか(漸近的に)にゼロに収束する。これにより、前後加速度にショックのない滑らかな停車を実現することができる。
【0066】
さらに、一実施の形態における電動車両の制御装置では、車両情報に基づいて第1のトルク目標値Tm1
*を算出するとともに、モータ回転速度フィードバックトルクTωを第2のトルク目標値Tm2
*として算出し、第1のトルク目標値Tm1
*と第2のトルク目標値Tm2
*のうち、大きい方の値をモータトルク指令値Tm
*に設定する。これにより、車両情報に基づいた第1のトルク目標値Tm1
*で減速した後に、停車間際において第2のトルク目標値Tm2
*に切り替えて、減速からの滑らかな停車を実現することができる。また、第1のトルク目標値Tm1
*と第2のトルク目標値Tm2
*のうちの大きい方の値をモータトルク指令値Tm
*に設定するので、いかなる勾配においても、トルク目標値の切り替えタイミングにおいてトルク段差が発生することがなく、滑らかな減速を実現することができる。
【0067】
また、一実施の形態における電動車両の制御装置では、外乱トルクを推定し、アクセル操作量が所定値以下であり、かつ、電動車両が停車間際になると、モータ回転速度の低下とともにモータトルク指令値Tm
*を外乱トルク推定値Tdに収束させるので、登坂路、平坦路、降坂路によらず、前後方向における加速度振動のない滑らかな減速を停車間際で実現することができ、かつ、停車状態を保持することができる。
【0068】
外乱トルク推定値Tdは、登坂路では正の値、降坂路では負の値として推定するので、坂路においても滑らかに停車し、フットブレーキを必要とせずに停車状態を保持することができる。また、平坦路では外乱トルク推定値Tdをゼロとして推定するので、平坦路において、滑らかに停車し、フットブレーキを必要とせずに停車状態を保持することができる。
【0069】
一実施の形態における電動車両の制御装置では、モータ回転速度ωmを検出し、検出したモータ回転速度ωmに所定のゲインKvrefを乗算して、モータ回転速度フィードバックトルクTωを算出する。そして、アクセル操作量が所定値以下であり、かつ、電動車両が停車間際になると、モータ回転速度フィードバックトルクTωと外乱トルクTdとの加算値を、モータトルク指令値Tm
*として算出する。モータ回転速度フィードバックトルクTωは、モータトルクからモータ回転速度までの動特性に対して粘性(ダンパ)として働くため、停車間際においてモータ回転速度ωmは滑らか(漸近的に)にゼロに収束する。これにより、前後加速度の振動を抑制した滑らかな停車を実現することができる。
【0070】
また、車両へのトルク入力とモータの回転速度の伝達特性のモデルGp(s)に基づいて、外乱トルクを推定するので、精度良く外乱トルク推定値Tdを求めることができる。
【0071】
特に、モデルGp(s)と、分母次数と分子次数との差分が、モデルGp(s)の分母次数と分子次数との差分以上となる伝達特性H(s)とで構成されるH(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタにモータ回転速度ωmを入力して第1のモータトルク推定値を算出するとともに、伝達特性H(s)を有するフィルタにモータトルク指令値Tm
*を入力して第2のモータトルク推定値を算出し、第2のモータトルク推定値と第1のモータトルク推定値との偏差を演算することにより、外乱トルク推定値Tdを求める。これにより、精度良く外乱トルク推定値Tdを求めることができる。
【0072】
また、モデルGp(s)の分子が2次式で表される場合に、2次式の分子と2次式の分母で構成されるフィルタHz(s)を用いて第2のモータトルク推定値と第1のモータトルク推定値との偏差に対してフィルタリング処理を施すことにより、外乱トルク推定値Tdを求める。このフィルタHz(s)の分子の2次式は、モデルGp(s)の分子の2次式であり、フィルタHz(s)の分母の2次式は、モデルGp(s)の分子の2次式から演算される第1の減衰係数ξ
zよりも大きい値に設定された第2の減衰係数ξ
cを有する2次式である。モータ回転速度ωmに、ギアのバックラッシュを跨ぐシーン等で発生するGp(s)とのモデル化誤差を含む外乱が印加されると、Gp(s)のゼロ点の特性により、ξ
zが1より小さいと、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタによるフィルタ処理で1〜3Hz程度の振動が励起され、モータトルク指令値に伝播してしまう。このため、第2のモータトルク推定値と第1のモータトルク推定値との偏差に対して、フィルタHz(s)によりフィルタ処理を施すことで、ギアのバックラッシュを跨ぐシーン等においても、滑らかに減速および停車することができる。
【0073】
また、第2の減衰係数ξ
cを1よりも大きい値に設定するので、振動抑制効果を高めることができる。
【0074】
一実施の形態における電動車両の制御装置によれば、車両情報に基づいて第1のトルク目標値Tm1
*を算出するとともに、モータ回転速度ωmの低下とともに外乱トルク推定値Tdに収束する第2のトルク目標値Tm2
*を算出し、第1のトルク目標値Tm1
*より第2のトルク目標値Tm2
*が大きくなると、電動車両が停車間際であると判断して、第2のトルク目標値Tm2
*をモータトルク指令値Tm
*として設定する。これにより、車両情報に基づいた第1のトルク目標値Tm1
*で減速した後に、停車間際において第2のトルク目標値Tm2
*に切り替えて、減速からの滑らかな停車を実現することができる。
【0075】
本発明は、上述した一実施の形態に限定されることはない。例えば、上述した説明では、アクセル操作量が所定値以下であり、かつ、電動車両が停車間際になると、電動モータ4の回転速度の低下とともにモータトルク指令値Tm
*を外乱トルク推定値Td(またはゼロ)に収束させるものとして説明した。しかし、車輪速や車体速度、ドライブシャフトの回転速度などの車両パラメータ(速度パラメータ)は、電動モータ4の回転速度と比例関係にあるため、電動モータ4の回転速度に比例する車両パラメータの低下とともにモータトルク指令値Tm
*を外乱トルク推定値Td(またはゼロ)に収束させるようにしてもよい。
【0076】
本願は、2013年11月29日に日本国特許庁に出願された特願2013−247407に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。