【実施例】
【0050】
以下、実験例を挙げ、本発明の実施例をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0051】
(実験例1)
[負極の作製]
負極活物質として、黒鉛粉末95質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)1.5質量部と、水と、を混合し、負極合剤スラリー(1)を調製した。つまり、負極活物質:CMC:SBR=100:1:1.5の質量比である。
【0052】
また、黒鉛粉末95質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)0.5質量部と、水と、を混合し、負極合剤スラリー(2)を調製した。つまり、負極活物質:CMC:SBR=100:1:0.5の質量比である。
【0053】
次に、
図1に示すように、負極合剤スラリー(1)を、厚みが8μmの銅箔製の負極集電体14a(
図1参照)に両面に塗布、乾燥して第1の負極合剤層14bを形成した。この後、負極合剤スラリー(1)による層の上に、負極合剤スラリー(2)を、両面に塗布、乾燥して第2の負極合剤層14cを形成した。
【0054】
この際、負極合剤スラリー(1)による層に含まれる負極活物質の質量と、負極合剤スラリー(2)による層に含まれる負極活物質の質量とを同じとした。合剤塗布量は両面合計で、282g/m
2であった。
【0055】
そして、圧延ローラーを用いて極板厚みで175μmまで圧延し、所定の電極サイズに切り取り、負極を作製した。
【0056】
[正極の作製]
LiNi
0.82Co
0.15Al
0.03O
2で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの粒子100質量部に、炭素導電剤としてのカーボンブラック0.8質量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン0.7質量部とを混合し、さらに、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を適量加えることにより正極合剤スラリーを調製した。次に、該正極合剤スラリーを、アルミニウムを含んでなる厚み15μmの正極集電体の両面に塗布、乾燥した。合剤塗布量は両面合計で、578g/m
2とした。そして、ローラーを用いて極板厚みで164μmまで圧延し、所定の電極サイズに切り取り、正極を作製した。
【0057】
[電極体の作製]
偏平状の巻回電極体の作製には、上記正極を1枚、上記負極を1枚、ポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを2枚用いた。まず、正極と負極とをセパレータを介して互いに絶縁した状態で対向させた。次に、円柱型の巻き芯を用いて、渦巻き状に巻回した。この際、正極集電タブ、及び負極集電タブは、共にそれぞれの電極内における最外周側に位置するように配置した。その後、巻き芯を引き抜いて巻回電極体を作製した後、押し潰して、偏平状の巻回電極体を得た。この偏平状の巻回電極体は、正極と負極とがセパレータを介して積層された構造を有している。
【0058】
[非水電解液の調製]
EC(エチレンカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)を20:60:20の体積比で混合した混合溶媒に、VC(ビニレンカーボネート)が3質量%となるように加え、そして溶質としてのLiPF
6を1.3モル/リットルの割合で溶解させて、非水電解液を調製した。
【0059】
[電池の作製]
このようにして調製された非水電解液及び上述の偏平状の巻回電極体を、アルゴン雰囲気下のグローブボックス中にて、アルミニウム製のラミネート外装体11内に挿入し、
図2及び
図3に示される構造を有する、厚さd=3.6mm、幅3.5cm、長さ6.2cmのラミネート形非水電解質二次電池10を作製した。実験例1に係る非水電解質二次電池を電池電圧が4.2Vとなるまで充電した場合の電池の設計容量は、1250mAhであった。このようにして作製した電池を、以下、電池A1と称する。
【0060】
ここで、実験例1で作製したラミネート形の非水電解質二次電池10の構成について、
図2及び
図3を用いて説明する。非水電解質二次電池10は、外周囲を覆うラミネート外装体11と、偏平状の巻回電極体12と、非水電解液とを備えている。巻回電極体12は、正極13と、負極14とがセパレータ15を介して互いに絶縁された状態で偏平状の巻回された構成を有している。巻回電極体12の正極13には正極集電タブ16が接続され、同じく負極14には負極集電タブ17が接続されている。巻回電極体12は、外周囲を覆うラミネート外装体11の内部に非水電解液とともに封入されており、ラミネート外装体11の外周縁部はヒートシール部18により密閉されている。
【0061】
尚、実験例1で作製した非水電解質二次電池10では、巻回電極体12のサイド側の一方に非水電解液を注入し易くするために形成されたラミネート外装体11の延在部19が残された状態とされている。この延在部19は、充放電時に発生したガスの成分や非水電解液中に形成した成分の分析等に利用するためのものであり、製品として非水電解質二次電池とするには、
図2におけるA−A線に沿った位置でヒートシールすればよい。
【0062】
(実験例2)
負極合剤スラリー(2)を作製する際に、黒鉛粉末95質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、導電剤としてのカーボンブラック2質量部を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)0.5質量部と、水と、を混合したこと以外は、実験例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下電池A2と称する。
【0063】
(実験例3)
負極合剤スラリー(1)を作製する際に、黒鉛粉末95質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、導電剤としてのカーボンブラック1質量部を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)1.5質量部と、水と、を混合した。
【0064】
また、負極合剤スラリー(2)を作製する際に、黒鉛粉末95質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、導電剤としてのカーボンブラック1質量部を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)0.5質量部と、水と、を混合した。
【0065】
上記負極合剤スラリー(1)と上記負極合剤スラリー(2)を用いたこと以外は、実験例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A3と称する。
【0066】
(実験例4)
負極合剤スラリー(1)を作製する際に、黒鉛粉末95質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、導電剤としてのカーボンブラック2質量部を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)1.5質量部と、水と、を混合したこと以外は、実験例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A4と称する。
【0067】
(実験例5)
負極合剤スラリー(1)を作製する際に、黒鉛粉末92.5質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)7.5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、導電剤としてのカーボンブラック1質量部を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)1.5質量部と、水と、を混合した。
【0068】
また、負極合剤スラリー(2)を作製する際に、黒鉛粉末97.5質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)2.5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、導電剤としてのカーボンブラック1質量部を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)0.5質量部と、水と、を混合した。
【0069】
上記負極合剤スラリー(1)と上記負極合剤スラリー(2)を用いたこと以外は、実験例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A5と称する。
【0070】
(実験例6)
負極合剤スラリー(1)を作製する際に、黒鉛粉末92.5質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)7.5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、導電剤としてのカーボンブラック2質量部を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)1.5質量部と、水と、を混合した。
【0071】
また、負極合剤スラリー(2)を作製する際に、黒鉛粉末97.5質量部と、炭素の被覆層を有するSiO
x(x=1)2.5質量部と、結着剤Bであるカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、水と、を混合した。この混練物に結着剤Aであるスチレンブタジエンゴム(SBR)0.5質量部と、水と、を混合した。
【0072】
上記負極合剤スラリー(1)と上記負極合剤スラリー(2)を用いたこと以外は、実験例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A6と称する。
【0073】
(実験)
<サイクル特性試験>
[容量維持率の算出]
上記電池A1〜A6を、25℃の温度条件下、以下の条件で充放電し、下記式(1)により150サイクル目の容量維持率を求めた。その結果を表1に示す。
【0074】
(充放電条件)
・初期の充放電条件
0.5It(625mA)の電流で電池電圧が4.2Vとなるまで、定電流充電を行った。さらに、4.2Vの電圧で電流値が0.02It(25mA)となるまで定電圧充電を行った。そして、0.5It(625mA)の電流で電池電圧が2.5Vとなるまで定電流放電を行った。
・2サイクル目〜200サイクル目の充放電条件
0.3It(375mA)の電流で電池電圧が4.2Vとなるまで、定電流充電を行った。さらに、4.2Vの電圧で電流値が0.02It(25mA)となるまで定電圧充電を行った。そして、0.5It(625mA)の電流で電池電圧が2.5Vとなるまで定電流放電を行った。
(150サイクル目の容量維持率の算出式)
容量維持率(%)=(150サイクル目の放電容量/4サイクル目の放電容量)×100・・・(1)
【0075】
<出力特性試験>
[DCIR上昇率の算出]
上記電池A1〜A6について、上記初期充放電の後に、以下の条件で充放電を行い、下記式(2)により初期の直流内部抵抗(DCIR)の値を調べた。また、上記200サイクル目の充放電後に、以下の条件で充放電を行い、下記式(2)により200サイクル目の直流内部抵抗(DCIR)の値を求めた。
【0076】
(充放電条件)
25℃の温度条件下、0.3It(375mA)の電流で電池電圧が3.79Vとなるまで、定電流充電を行った。さらに、3.79Vの定電圧で電流値が0.02It(25mA)となるまで定電圧充電を行った。そして、2時間休止した後、0.2It(250mA)の電流で10秒間放電した。
(DCIRの算出式)
抵抗値(mΩ)=(放電開始直前の電圧−放電開始10秒後の電圧)/(放電電流密度×電極面積)・・・(2)
【0077】
そして、初期の抵抗値と、200サイクル目の抵抗値から、下記式(3)によりDCIR上昇率を求めた。その結果を表1に示す。
(200サイクル後のDCIR上昇率の算出式)
DCIR上昇率(%)=((200サイクル目の抵抗値−初期の抵抗値)/初期の抵抗値)×100・・・(3)
【0078】
[SBR存在比率]
上記電池A1〜A6の負極極板の状態解析を行った。負極極板それぞれにおいて、クロスセクションポリッシャ(日本電子製)にて断面を作製した。断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、500倍の画像を得た。次に、四酸化オスミウムで染色し、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(略称:EDX,EDS)を用いて、負極合剤層を負極合
剤層の厚み方向に半分に分割したときの、表面側領域と集電体側領域それぞれの同一面積での結着剤A(SBR)の含有量を求め、負極合剤層全体に対しての存在比率を算出した。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
上記表1から明らかなように、導電剤を集電体側にのみ添加した電池A4及びA6は、導電剤を添加しなかった電池A1、導電剤を表面側にのみ添加した電池A2、導電剤を表面側と集電体側に同量添加した電池A3及びA5に比べて容量維持率が高く、サイクル特性に優れていることが認められる。加えて、電池A4及びA6は、電池A1〜A3及びA5に比べて、DCIR上昇率が小さくなっており、サイクル後の出力特性に優れていることが認められる。
【0081】
また、導電剤を集電体側にのみ添加した電池A4と電池A6を比較した場合には、ケイ素を含む材料を表面側よりも集電体側に多く混合した電池A6は、ケイ素を含む材料を表面側と集電体側とで同量混合した電池A4に比べて、高い容量維持率を示しており、DCIR上昇率も小さくなっていることが認められる。このことからわかるように、ケイ素を含む材料は、導電剤と同様に、表面側より集電体側に多く混合することが好ましい。
【0082】
導電剤を表面側にのみ添加した電池A2は、導電剤を添加しなかった電池A1に比べて、容量維持率が低下しており、DCIR上昇率も大幅に大きくなっている。また、導電剤を表面側と集電体側に同量添加した電池A3及びA5は、導電剤を添加しなかった電池A1に比べて、容量維持率は向上しているものの、DCIR上昇率が大きくなっている。
【0083】
上記結果が得られた理由について定かではないが、以下の説明によるものと推察される。電池A4及びA6では、導電剤と結着剤Aの量を、電極表面側に共に少なくし、電極集電体側に共に多くしている。電池A4及びA6では、集電体側に多く配置された導電剤と結着剤Aとが絡み合い分散することで、塗工乾燥時に結着剤Aが表面側に移動する現象が抑制される。そして、集電体側に捕液性を有する結着剤Aが保持されるようになると、集電体側で不足しがちな電解液の捕液性能が高められるために、集電体側でリチウムイオンの移動が円滑になったと考えられる。また、電池A4及びA6では、表面側に配置された導電剤と結着剤Aが少ないことで、電極の厚さ方向への電解液の液浸透性が高められるために、電極の厚さ方向でリチウムイオンの移動が円滑になったと考えられる。さらに、電池A4及びA6では、集電体側に多く配置された導電剤と結着剤Aとが絡み合い分散することで、集電体側で電子の移動が円滑になり、集電性が改善したと考えられる。
【0084】
上記により、集電体側で電子伝導性(電子の移動)が向上したことと、電極内においてイオン拡散性(リチウムイオンの移動)が向上したことで、電極表面側と電極集電体側で負極活物質の充放電反応が均一になったこと、即ち、電極全体で負極活物質の充放電反応が均一になったことにより、他の電池に比べて高い容量維持率が得られ、結果、サイクル特性が向上したと考えられる。
【0085】
加えて、電池A4及びA6では、上述した電極全体で負極活物質の充放電反応が均一になったことと、表面側に配置された導電剤が少ないことで、表面側で導電剤と電解液による副反応が抑制されたことにより、他の電池に比べてサイクル後のDCIR上昇率が大きくなるのが抑制され、結果、サイクル後の出力特性が向上したと考えられる。
【0086】
電池A1では、結着剤Aの量を表面側に少なく、集電体側に多くしており、導電剤は添加していない。電池A1では、電極内に導電剤が添加されていないので、集電体側で結着剤Aが凝集し、これが抵抗となるため、集電体側で電子伝導性が阻害されて集電性が低下する。また、塗工乾燥時に捕液性を有する結着剤Aが表面側に移動する現象を抑制できないために、集電体側で電解液の捕液性能が低下し、集電体側においてイオン拡散性が阻害される。これらにより、電極内における電子伝導性及びイオン拡散性が阻害されたことで、電極全体における負極活物質の充放電反応が、電池A4及びA6に比べて不均一化したと考えられる。これにより、電池A4及びA6に比べて低い容量維持率と大きなDCIR上昇率を示したと考えられる。
【0087】
電池A2では、結着剤Aの量を表面側に少なく、集電体側に多くしており、導電剤を表面側に多く配置している。電池A2では、導電剤が表面側に多く配置されているので、上記電池A1で説明した理由により、電子伝導性とイオン拡散性の向上による効果は得られない。加えて、電池A2では、表面側に多く配置された導電剤により、結着剤Aが表面側に移動する現象が加速されるために、電池A1に比べて集電体側に存在する結着剤量が少なくなっていることがわかる。集電体側に存在する結着剤量が減少すると、電極厚さ方向への電解液の液浸透性が低下するため、電極厚さ方向でイオン拡散性が低下する。これにより、電極全体で負極活物質の充放電反応が電池A1よりもさらに不均一化したことで、電池A1よりも容量維持率が小さく、DCIR上昇率が大きくなったと考えられる。さらに、電池A2では、表面側に導電剤が多く配置されているので、表面側に配置された導電剤と電解液による副反応が生じ、抵抗が上昇したことで、電池A1に比べてDCIR上昇率が大幅に大きくなったと考えられる。
【0088】
電池A3及びA5では、結着剤Aの量を表面側に少なく、集電体側に多くしており、導電剤を表面側と集電体側とで同量配置している。電池A3及びA5では、集電体側に配置された導電剤と結着剤Aにより、集電体側において電子伝導性とイオン拡散性が向上する。しかしながら、集電体側に配置されたのと同量の導電剤が表面側にも配置されているので、電極の厚さ方向への電解液の液浸透性が低下し、電極厚さ方向でイオン拡散性が阻害される。これらにより、電極全体における負極活物質の充放電反応は、電池A1よりは均一になっていると考えられるが、電池A4及びA6よりは不均一であると考えられる。従って、容量維持率は電池A1より高く、電池A4及びA6より低い結果となっている。一方、DCIR上昇率は、電池A1や電池A4及びA6に比べて大きくなっている。これは、電池A3及びA5では、表面側に導電剤が配置されているので、表面側に配置された導電剤と電解液による副反応が生じ、抵抗が上昇するためであると考えられる。