特許第6237845号(P6237845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6237845縦型MOSFETおよび縦型MOSFETの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6237845
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】縦型MOSFETおよび縦型MOSFETの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20171120BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 29/417 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01L29/78 652J
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 652K
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 658A
   H01L29/78 652G
   H01L21/28 301B
   H01L29/50 M
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-163995(P2016-163995)
(22)【出願日】2016年8月24日
【審査請求日】2016年9月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人 科学技術振興機構のスーパークラスタープログラム事業の「GaN系半導体のパワーデバイス応用に関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝典
【審査官】 杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−042595(JP,A)
【文献】 特開2015−126080(JP,A)
【文献】 特開2007−087985(JP,A)
【文献】 特開2015−126085(JP,A)
【文献】 特表2005−510061(JP,A)
【文献】 特開2013−034031(JP,A)
【文献】 特表2008−543048(JP,A)
【文献】 特開昭56−058267(JP,A)
【文献】 特開平06−013621(JP,A)
【文献】 特開平07−078978(JP,A)
【文献】 特開2008−130959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 29/06
H01L 21/336
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体層を有する縦型MOSFETであって、
ゲート電極と、
前記ゲート電極と前記化合物半導体層との間に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の少なくとも一部に直接接して設けられ、前記化合物半導体層の一部であるドリフト領域と、
少なくとも前記ドリフト領域に設けられ、前記ゲート絶縁膜の少なくとも一部の下に位置し、前記ドリフト領域よりも単位長さ当たりの抵抗値が高い高抵抗領域と
を備え、
前記ゲート電極は、前記化合物半導体層に設けられたトレンチ部に埋め込まれたトレンチ型のゲート電極であり、
前記高抵抗領域は、前記トレンチ部の底部に隣接し、
前記高抵抗領域は、前記ゲート絶縁膜の少なくとも一部の下において前記ゲート絶縁膜から離間しており、
前記高抵抗領域の幅は、前記トレンチ部の幅よりも広く、
高抵抗領域は、10Ω・cm以上の単位長さ当たりの抵抗値を有し、
前記化合物半導体層は、窒化ガリウム層である
縦型MOSFET。
【請求項2】
化合物半導体層を有する縦型MOSFETであって、
ゲート電極と、
前記ゲート電極と前記化合物半導体層との間に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の少なくとも一部に直接接して設けられ、前記化合物半導体層の一部であるドリフト領域と、
少なくとも前記ドリフト領域に設けられ、前記ゲート絶縁膜の少なくとも一部の下に位置し、前記ドリフト領域よりも単位長さ当たりの抵抗値が高い高抵抗領域と
を備え、
前記ゲート電極は、前記化合物半導体層のおもて面の上方に設けられたプレーナ型のゲート電極であり、
前記高抵抗領域は、前記化合物半導体層の一部である一対のベース領域の間に設けられ、
前記ドリフト領域は、前記一対のベース領域と前記高抵抗領域との間に残存しており、
前記高抵抗領域の幅は、前記一対のベース領域の幅よりも小さく、
前記化合物半導体層が窒化ガリウム層である場合に、前記高抵抗領域における高抵抗化元素は窒素であり、
前記化合物半導体層が炭化ケイ素層である場合に、前記高抵抗領域における高抵抗化元素はシリコンであり、
前記高抵抗領域は、前記ゲート絶縁膜の少なくとも一部の下において前記ゲート絶縁膜から離間している
縦型MOSFET。
【請求項3】
前記高抵抗領域の単位長さ当たりの抵抗値は、前記化合物半導体層の一部であるベース領域の単位長さ当たりの抵抗値よりも高い
請求項1または2に記載の縦型MOSFET。
【請求項4】
前記高抵抗領域は、1E+16cm−3以上1E+19cm−3以下の濃度の高抵抗化元素を有する
請求項1から3のいずれか一項に記載の縦型MOSFET。
【請求項5】
前記高抵抗化元素は、前記ドリフト領域において多数キャリアを形成する不純物元素とは異なる
請求項4に記載の縦型MOSFET。
【請求項6】
前記高抵抗化元素は、前記化合物半導体層の一部であるベース領域において多数キャリアを形成する不純物元素と同じ不純物元素である
請求項1を引用する請求項4または5に記載の縦型MOSFET。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦型MOSFETおよび縦型MOSFETの製造方法に関する。
【0002】
化合物半導体装置にトレンチゲート電極を設けることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、トレンチゲート電極の下に絶縁膜を設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
[先行技術文献]
[非特許文献]
[非特許文献1] Tohru Oka et al.,"Vertical GaN‐based trench metal oxide semiconductor field‐effect transistors on a free‐standing GaN substrate with blocking voltage of 1.6 kV",Applied Physics Express,published 28 January 2014,Volume 7,Number 2,021002
[特許文献]
[特許文献1] 特表2011−512677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
トレンチの底部(特に角部)には、ゲートのターンオフ時にソース・ドレイン間に高電圧が印加されると電界が集中する。これにより、ゲート絶縁膜が破壊または劣化するという問題がある。この問題に対処するべく、トレンチの底部に比較的厚い絶縁膜を設けることが考えられる。ただし、絶縁膜に生じるアバランシェ・ブレークダウンは非可逆的な破壊現象であるので、絶縁膜が一旦破壊されると二度と使用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、化合物半導体層を有する縦型MOSFETを提供する。縦型MOSFETは、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、ドリフト領域と、高抵抗領域とを備えてよい。ゲート絶縁膜は、ゲート電極と化合物半導体層との間に設けられてよい。ドリフト領域は、ゲート絶縁膜の少なくとも一部に直接接して設けられてよい。ドリフト領域は、化合物半導体層の一部であってよい。高抵抗領域は、少なくともドリフト領域に設けられてよい。高抵抗領域は、ゲート絶縁膜の少なくとも一部の下に位置してよい。高抵抗領域は、ドリフト領域よりも単位長さ当たりの抵抗値が高くてよい。
【0005】
ゲート電極は、トレンチ型のゲート電極であってよい。ゲート電極は、化合物半導体層に設けられたトレンチ部に埋め込まれてよい。高抵抗領域は、トレンチ部の底部に隣接してよい。
【0006】
高抵抗領域は、ゲート絶縁膜の少なくとも一部の下においてゲート絶縁膜から離間してよい。高抵抗領域の幅は、トレンチ部の幅よりも広くてよい。
【0007】
ゲート電極は、プレーナ型のゲート電極であってよい。ゲート電極は、化合物半導体層のおもて面の上方に設けられてよい。高抵抗領域は、一対のベース領域の間に設けられてよい。一対のベース領域は、化合物半導体層の一部であってよい。
【0008】
高抵抗領域の単位長さ当たりの抵抗値は、ベース領域の単位長さ当たりの抵抗値よりも高くてよい。ベース領域は、化合物半導体層の一部であってよい。
【0009】
高抵抗領域は、1E+16cm−3以上1E+19cm−3以下の濃度の高抵抗化元素を有してよい。
【0010】
高抵抗化元素は、ドリフト領域において多数キャリアを形成する不純物元素とは異なってよい。
【0011】
高抵抗化元素は、ベース領域において多数キャリアを形成する不純物元素と同じ不純物元素であってよい。ベース領域は、化合物半導体層の一部であってよい。
【0012】
化合物半導体層は、窒化ガリウム層および炭化ケイ素層のいずれか一方であってよい。
【0013】
本発明の第2の態様においては、縦型MOSFETの製造方法を供する。縦型MOSFETは、化合物半導体層と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、ドリフト領域とを有してよい。ゲート絶縁膜は、ゲート電極と化合物半導体層との間に設けられてよい。ドリフト領域は、ゲート絶縁膜の少なくとも一部に直接接して設けられてよい。ドリフト領域は、化合物半導体層の一部であってよい。縦型MOSFETの製造方法は、高抵抗領域を形成する段階を備えてよい。高抵抗領域は、ドリフト領域に高抵抗化元素をイオン注入して、イオン注入の後に化合物半導体層をアニールすることにより形成してよい。高抵抗領域は、ドリフト領域よりも単位長さ当たりの抵抗値が高くてよい。高抵抗領域は、ゲート絶縁膜の少なくとも一部の下に位置してよい。
【0014】
高抵抗領域を形成する段階におけるアニールにおいて、化合物半導体層が窒化ガリウム層の場合には化合物半導体層を700℃以上1300℃以下の温度でアニールしてよい。また、高抵抗領域を形成する段階におけるアニールする段階において、化合物半導体層が炭化ケイ素層の場合には化合物半導体層を1000℃以上1500℃以下の温度でアニールしてよい。
【0015】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態における縦型MOSFET100の断面を示す概要図である。
図2】縦型MOSFET100の製造段階を示すフロー図である。
図3A】段階S10を示す概要図である。
図3B】段階S20を示す概要図である。
図3C】段階S25を示す概要図である。
図3D】段階S30を示す概要図である。
図3E】段階S40を示す概要図である。
図3F】段階S45を示す概要図である。
図3G】段階S50を示す概要図である。
図3H】段階S60を示す概要図である。
図4】第1変形例における縦型MOSFET120の断面を示す概要図である。
図5】第2変形例における縦型MOSFET140の断面を示す概要図である。
図6】第2実施形態における縦型MOSFET160の断面を示す概要図である。
図7】第2実施形態の変形例における縦型MOSFET170の断面を示す概要図である。
図8】第3実施形態における縦型MOSFET200の断面を示す概要図である。
図9】ゲートのターンオフ時の電位分布を説明する図である。
図10】縦型MOSFET200の製造段階を示すフロー図である。
図11A】段階S12を示す概要図である。
図11B】段階S14を示す概要図である。
図11C】段階S20を示す概要図である。
図11D】段階S25を示す概要図である。
図11E】段階S40を示す概要図である。
図11F】段階S45を示す概要図である。
図11G】段階S50を示す概要図である。
図11H】段階S60を示す概要図である。
図12】第1実験例における縦型半導体装置400の断面を示す概要図である。
図13】第2実験例における縦型半導体装置500の断面を示す概要図である。
図14】縦型半導体装置400および500における電圧‐電流特性を示す図である。
図15】第4実施形態における縦型MOSFET260の断面を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
図1は、第1実施形態における縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)100の断面を示す概要図である。図1は、半導体チップの活性領域における縦型MOSFET100のX‐Z断面図である。図1は、縦型MOSFET100の単位構成であってよい。なお、本例において、X方向とY方向とは互いに垂直な方向であり、Z方向はX‐Y平面に垂直な方向である。X方向、Y方向およびZ方向は、いわゆる右手系を成す。
【0019】
本例の縦型MOSFET100は、化合物半導体基板であるn型の窒化ガリウム(以下、GaNと略記する)基板10と、化合物半導体層としてのGaN層20とを含む。なお、nまたはpは、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。nまたはpの右肩に記載した+または−について、+はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が高く、−はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が低いことを意味する。
【0020】
本例の化合物半導体は、GaNである。ただし、他の例において化合物半導体は、炭化ケイ素(以下、SiCと略記する)であってもよい。つまり、当該他の例においては、化合物半導体基板がn型のSiC基板であってよく、化合物半導体層がSiC層であってもよい。化合物半導体がGaNである本例の技術的内容は、化合物半導体がSiCである上記他の例に適用してもよい。本例と上記他の例との間において特に相違点がある場合には、その都度記述する。
【0021】
GaNに対するn型不純物のイオン種は、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、およびO(酸素)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、n型不純物としてSiを用いる。また、GaNに対するp型不純物のイオン種は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Be(ベリリウム)およびZn(亜鉛)の一種類以上の元素であってよい。これに対して、SiCに対するn型不純物のイオン種は、N(窒素)およびP(リン)のうち一種類以上の元素であってよい。また、SiCに対するp型不純物のイオン種はB(ボロン)およびAl(アルミニウム)のうち一種類以上の元素であってよい。
【0022】
本例のGaN基板10は、貫通転位密度が1E+7cm−2未満の自立基板である。GaN基板10を低転位密度とすることにより、GaN基板10上にエピタキシャル形成されるGaN層20の転位密度も低減することができる。なお、本例において、上および上方とは+Z方向を意味し、下とは−Z方向を意味する。±Z方向は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。±Z方向は、基板、層、領域および膜等の相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎない。
【0023】
本例では、貫通転位密度が1E+7cm−2以上である場合と比較して、パワーデバイスのリーク電流を少なくすることができる。また、イオン注入された不純物がアニール時に転移に沿って深く拡散することを防止できるので、不純物注入領域を設計プロファイルにより近づけることができる。このように、パワーデバイスをより高い良品率で製造することができる。
【0024】
本例において、GaN基板10とGaN層20との接合面を境界面12と称する。境界面12は、GaN基板10およびGaN層20における一の主面であってよい。本例において、境界面12の反対側におけるGaN基板10の他の主面を、GaN基板10の裏面16と称する。また、境界面12の反対側におけるGaN層20の他の主面を、GaN層20のおもて面14と称する。本例において、境界面12、おもて面14および裏面16は、X‐Y平面に平行である。
【0025】
本例のGaN層20は、n型のドリフト領域22と、n型のソース領域24と、p型のベース領域26と、高抵抗領域30と、トレンチ部50とを有する。本例において、ドリフト領域22、ソース領域24、ベース領域26および高抵抗領域30は、GaN層20の一部である。本例のトレンチ部50は、GaN層20の凹部である。トレンチ部50は、主にドリフト領域22に接する底部52と、主にベース領域26に接する側部54とを有する。
【0026】
縦型MOSFET100は、トレンチ部50に埋め込まれたゲート絶縁膜42およびゲート電極44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲート電極44とGaN層20との間に設けられる。本例のゲート絶縁膜42は、トレンチ部50の底部52および側部54上に直接接して設けられる。ゲート絶縁膜42の一部は、GaN層20のおもて面14にも設けられてよい。なお、側部54上に設けられるゲート絶縁膜42とは、側部54の最表面を覆うことを意味し、側部54の+Z方向に位置することを意味しない。
【0027】
本例のゲート電極44は、トレンチ型である。ゲート電極44の一部は、GaN層20のおもて面14よりも上に位置してもよい。ゲート絶縁膜42およびゲート電極44の最上部には層間絶縁膜48が設けられる。層間絶縁膜48は、ゲート電極44とソース電極64とを電気的に分離する。
【0028】
本例のドリフト領域22は、高抵抗領域30を有する。ドリフト領域22中の高抵抗領域30が、Z方向においてトレンチ部50の底部52に隣接してよい。つまり、本例の高抵抗領域30は、ゲート絶縁膜42の少なくとも一部の下に位置し、ゲート絶縁膜42に直接接する。本例の高抵抗領域30は、底部52に設けられたゲート絶縁膜42と直接接する。なお、ドリフト領域22は、X方向およびY方向において底部52に設けられたゲート絶縁膜42と直接接してもよい。
【0029】
ソース領域24は、おもて面14およびトレンチ部50の側部54に接して設けられる。ソース領域24は、ベース領域26の一部に設けられる。ソース領域24は、おもて面14から予め定められた深さまで設けられてよい。ソース領域24の少なくとも一部は、Z方向においてソース電極64と直接接してよい。ソース領域24は、電子に対する低抵抗領域であってよい。本例のソース領域24は、ソース電極64およびベース領域26間における電子の出入りを可能にする。
【0030】
ベース領域26の一部は、チャネル形成領域25として機能する。チャネル形成領域25は、X方向においてトレンチ部50の側部54に隣接してよい。また、チャネル形成領域25は、Z方向においてドリフト領域22とソース領域24との間に位置してよい。チャネル形成領域25には、ゲート電極44に予め定められた閾値以上の電圧が与えられた場合に、反転層が形成されてよい。
【0031】
例えば、ソース電極64およびドレイン電極74間に予め定められた電圧が印加され、ゲート端子40からゲート電極44に閾値電圧以上の電圧が与えられる(ゲートがターンオンする)と、チャネル形成領域25に反転層が形成される。これにより、ドレイン端子70からソース端子60へ電流が流れる。また、ゲート電極44に閾値電圧よりも低い電圧が与えられる(ゲートがターンオフする)とチャネル形成領域25における反転層が消滅する。これにより、電流が遮断される。このように、縦型MOSFET100は、ソース端子60およびドレイン端子70間の電流をスイッチングすることができる。
【0032】
本例の高抵抗領域30は、化合物半導体の領域でありながら、絶縁体と見なすことができる程度に自由キャリアが少ない領域である。高抵抗領域30は、ゲートのターンオフ時に底部52(その角部を含む)におけるゲート絶縁膜42を保護する機能を有してよい。本例の高抵抗領域30は、底部52とドリフト領域22との間に設けられる。本例の高抵抗領域30は、底部52下のドリフト領域22に高抵抗化元素がイオン注入された領域である。
【0033】
本例の高抵抗領域30は、酸化シリコンまたは窒化シリコン等の絶縁体ではなく、イオン注入が施されたGaN層20の一部である。つまり、高抵抗領域30は、化合物半導体層の一部である。それゆえ、高抵抗領域30は、アバランシェ・ブレークダウンが生じても絶縁体のようには非可逆的に破壊されないという点が有利である。
【0034】
なお、本例とは異なり、トレンチ部50の底部52に比較的厚い絶縁膜を形成するためには、例えば、絶縁膜堆積後のリフロー等の特別なプロセスを必要とする。これに対して、本例においては、高抵抗化元素のイオン注入およびイオン注入後のアニールという単純な工程により高抵抗領域30を形成することができる。
【0035】
本例の高抵抗化元素とは、高抵抗領域30を形成するべくドリフト領域22にイオン注入されるイオン種である。高抵抗化元素は、ベース領域26において多数キャリアを形成する不純物元素と同じ不純物元素であってよい。当該高抵抗化元素により、ドリフト領域22の一部をカウンタードープすることができる。また、ドリフト領域22の一部の結晶性を破壊することもできる。これにより、高抵抗化元素がイオン注入された領域の抵抗を上昇させることができる。本例では、ベース領域26において多数キャリアを形成する不純物元素はMgであるので、高抵抗化元素はMgであってよい。なお、化合物半導体がSiCである他の例では、ベース領域26において多数キャリアを形成する不純物元素はAlであるので、高抵抗化元素はAlであってよい。
【0036】
高抵抗化元素は、ドリフト領域22において多数キャリアを形成する不純物元素とは異なってもよい。当該高抵抗化元素により、ドリフト領域22の一部の結晶性を破壊して高抵抗にすることができる。本例では、ドリフト領域22において多数キャリアを形成する不純物元素はSiであり、高抵抗化元素はMg、Ar(アルゴン)またはNである。なお、化合物半導体がSiCである他の例では、ドリフト領域22において多数キャリアを形成する不純物元素はNまたはPであり、高抵抗化元素はAl、ArまたはSiである。なお、高抵抗化元素は、上述した複数の元素の一以上を有してもよい。
【0037】
高抵抗領域30は、1E+16cm−3以上1E+19cm−3以下の濃度の高抵抗化元素を有してよい。本例の高抵抗領域30は、上記範囲の不純物濃度を有しているが、p型領域と定義できるほどに正孔キャリアが存在しない。本例においては、高抵抗化元素をイオン注入した後に、p型不純物が活性化しない温度範囲でGaN層20をアニールする。それゆえ、高抵抗領域30においては、p型特性が発現しない。また、本例の高抵抗領域30は、上記濃度範囲の不純物を有しているが、n型領域でもない。高抵抗領域30は、特定の導電型(p型およびn型)を有しない(仮に有したとしても非常に低濃度)領域であるので、絶縁体のような電気的特性を有してよい。
【0038】
本例の高抵抗領域30は、ドリフト領域22よりも単位長さ当たりの抵抗値が高い。本例において、単位長さ当たりの抵抗値とは、線抵抗を意味する。ドリフト領域22の線抵抗は耐圧クラスによるが、例えば1Ω・cmである。これに対して、高抵抗領域30の線抵抗は、例えば10Ω・cmかそれ以上である。高抵抗領域30の線抵抗は、ドリフト領域22の線抵抗の2倍以上であってよく、5倍以上、10倍以上または20倍以上であってもよい。
【0039】
また、本例の高抵抗領域30の単位長さ当たりの抵抗値は、ベース領域26の単位長さ当たりの抵抗値よりも高いことが望ましい。ベース領域26の線抵抗は、例えば3Ω・cmである。高抵抗領域30の線抵抗は、ベース領域26の線抵抗の2倍以上であってよく、5倍以上、10倍以上または20倍以上であってもよい。
【0040】
図2は、縦型MOSFET100の製造段階を示すフロー図である。本例の製造段階は、S10からS60の順に行われる。本例の製造段階は、ドリフト領域22およびベース領域26をエピタキシャル形成する段階(S10)、ベース領域26にn型不純物をイオン注入する段階(S20)、GaN層20をアニールしてソース領域24を形成する段階(S25)、トレンチ部50を形成する段階(S30)、トレンチ底部52からドリフト領域22に高抵抗化元素をイオン注入する段階(S40)、GaN層20をアニールして高抵抗領域30を形成する段階(S45)、ゲート絶縁膜42等を形成する段階(S50)、ならびに、層間絶縁膜48等を形成する段階(S60)を備える。
【0041】
図3Aは、段階S10を示す概要図である。段階S10においては、有機金属成長法(MOCVD)またはハライド気相成長法(HVPE)等により、GaN基板10上にドリフト領域22をエピタキシャル形成する。この後に、ドリフト領域22上にベース領域26をエピタキシャル形成する。
【0042】
ドリフト領域22は、耐圧に応じた適切な厚みを有してよい。例えば、ドリフト領域22は、Z方向において1μm以上50μm以下の厚みを有する。本例のドリフト領域22は、1.0E+15cm−3以上5.0E+16cm−3以下のn型不純物を有するn型領域である。なお、Eは10のべき乗を意味する。例えば、1.0E+16は1.0×1016を意味する。ベース領域26は、Z方向において0.5μm以上2μm以下の厚みを有してよい。ベース領域26は、1.0E+17cm−3以上1.0E+18cm−3以下のp型不純物を有するp型領域である。
【0043】
図3Bは、段階S20を示す概要図である。本例の段階S20においては、イオン注入によりソース領域24を形成する。本例では、マスク80‐1を介してベース領域26にn型不純物をイオン注入する。本例では、加速電圧10、20、40、70、110および150(単位は全てkeV)ならびにドーズ量1E+15cm−2以上1E+16cm−2以下の多段注入により、Siをベース領域26にイオン注入する。加速電圧が小さい程ドーズ量を低くし、加速電圧が大きい程ドーズ量を高くすることで、ボックスプロファイルを形成する。本例のイオン注入深さは、おもて面14から0.1μm以上0.5μm以下とする。本例のソース領域24は、1.0E+18cm−3以上1.0E+19cm−3以下のSi濃度を有するn型領域である。
【0044】
本例のマスク80‐1は、n型不純物をイオン注入する位置に開口82‐1を有する。マスク80の材料は、GaNに対して選択的に除去可能な二酸化シリコン(以下、SiOと略記する。)であってよい。他の例において、マスク80の材料はフォトレジストであってもよい。本例のマスク80‐1は、イオン注入後にGaN層20上から選択的に除去する。
【0045】
図3Cは、段階S25を示す概要図である。本例の段階S25においては、アニール装置300を用いて、1000℃以上1200℃以下の温度でGaN層20をアニールする。本例において、GaN層20をアニールするとは、GaN基板10およびGaN層20の積層体をアニール装置300の処理室でアニールすることを意味する。当該アニールにより、イオン注入により生じた欠陥をある程度回復し、かつ、n型不純物を活性化する。なお、他の例においては、ベース領域26のおもて面14側を部分的にエッチング除去して、除去された領域にn型のソース領域24を選択的に再成長させてもよい。再成長させる場合は、段階S25のアニー ルを省略してよい。
【0046】
図3Dは、段階S30を示す概要図である。本例の段階S30においては、マスク80‐2を介して、GaN層20を部分的にエッチング除去してトレンチ部50を形成する。本例では、マスク80‐2の開口82‐2下のベース領域26を完全に除去し、かつ、ドリフト領域22の上部を部分的に除去する。
【0047】
図3Eは、段階S40を示す概要図である。本例の段階S40においては、段階S30のマスク80‐2を引き続き利用して、ドリフト領域22に高抵抗化元素をイオン注入する。本例の高抵抗化元素はMgである。本例では、加速電圧30、80および180(単位は全てkeV)、ならびに、ドーズ量1E+12cm−2以上1E+15cm−2以下の多段注入によりMgをドリフト領域22にイオン注入する。本例のイオン注入深さは、底部52から0.5μm以上2.0μm以下とする。
【0048】
本例において、イオン注入が施された領域は1.0E+16cm−3以上1.0E+19cm−3以下の不純物濃度のMgを有する。当該領域は、ベース領域26よりも高いp型不純物濃度を有してもよい。当該領域は、アニールを経て高抵抗領域30となる。
【0049】
図3Fは、段階S45を示す概要図である。本例の段階S45においては、アニール装置300を用いて、GaN層20をアニールする。これにより、高抵抗領域30を形成する。なお、アニール時には、アニール装置300の処理室に窒素ガス(Nガス)を充填してよい。
【0050】
GaN層20は、700℃以上1300℃以下、より好ましくは、1000℃以上1300℃以下の温度でアニールされてよい。これに対して、化合物半導体層がSiC層の場合には、SiC層は1000℃以上1500℃以下、より好ましくは、1300℃以上1500℃以下の温度でアニールされてよい。上記の温度範囲でアニールすることにより、イオン注入により破壊された結晶性をある程度回復することができる。つまり、アモルファス状態をある程度結晶状態に戻すことができる。
【0051】
イオン注入が施された領域をアモルファス状態のままにしておくと、縦型MOSFET100の動作中に発生した熱により縦型MOSFET100の特性が変化する恐れがある。本例においては、ある程度結晶性を回復することにより、動作中の特性の変化を防ぐことができる。これにより、縦型MOSFET100の動作信頼性を確保することができる。勿論、上記の温度範囲であれば、GaN層20またはSiC層にイオン注入された高抵抗化元素としてのp型不純物はp型特性を発現しない。
【0052】
なお、比較例として半導体層がSiの場合、1.0E+16cm−3以上1.0E+19cm−3以下の不純物濃度のB(p型不純物)をイオン注入した後、結晶回復を目的とした温度で半導体層をアニールすると、イオン注入が施された領域はp型領域となる。つまり、半導体層がSiの場合には、本例のような高抵抗領域30を得ることができない。また、半導体層がSiの場合には、p型不純物濃度に比例してp型領域の抵抗は低くなる。
【0053】
図3Gは、段階S50を示す概要図である。本例の段階S50においては、ゲート絶縁膜42およびゲート電極44を形成する。ゲート絶縁膜42は、100nmの厚みを有してよい。ゲート絶縁膜42は、SiO膜であってよく、酸化アルミニウム(Al)膜であってもよい。ゲート電極44はポリシリコンであってよい。既知のフォトリソグラフィー技術により、ゲート絶縁膜42およびゲート電極44を所望の形状にパターニングしてよい。
【0054】
図3Hは、段階S60を示す概要図である。本例の段階S60においては、層間絶縁膜48、ソース電極64およびドレイン電極74を形成する。層間絶縁膜48はBPSG(Borophosphosilicate glass)であってよい。ソース電極64、Ti(チタン)層と当該Ti層上のAl層とを有する積層電極であってよい。ドレイン電極74は、裏面16下のTi層と当該Ti層下のAl層とを有する積層電極であってよい。
【0055】
図4は、第1変形例における縦型MOSFET120の断面を示す概要図である。本例の高抵抗領域30は、底部52から境界面12までドリフト領域22のZ方向全体に渡って設けられる。係る点において、第1実施形態と異なる。本例においても、第1実施形態における有利な効果を享受することができる。
【0056】
図5は、第2変形例における縦型MOSFET140の断面を示す概要図である。本例の高抵抗領域30は、底部52から境界面12を経てGaN基板10内部まで設けられる。係る点において、第1実施形態と異なる。本例においても、第1実施形態における有利な効果を享受することができる。
【0057】
図6は、第2実施形態における縦型MOSFET160の断面を示す概要図である。本例の高抵抗領域30は、ゲート絶縁膜42の少なくとも一部の下において、ゲート絶縁膜42から離間している。トレンチ部50を有する本例において、高抵抗領域30は底部52の下において底部52から離れて設けられる。なお、高抵抗領域30を形成するときの加速電圧を制御することにより、高抵抗領域30の形成位置を制御することができる。係る点が第1実施形態と異なるが、他の点は第1実施形態と同じである。
【0058】
ゲート絶縁膜42と高抵抗領域30とが直接接する場合、高抵抗化元素をイオン注入する際の化合物半導体層へのダメージにより、MOS界面特性が影響を受けやすい。例えば、ゲート絶縁膜42に電荷が蓄積されやすくなることにより、ゲート絶縁膜42の劣化および破壊が引き起こされる場合がある。それゆえ、本例の様に、高抵抗領域30を底部52から離間して設けることにより、イオン注入時のダメージの影響を低減することができる。なお、第1変形例のように、本例の高抵抗領域30をドリフト領域22のZ方向全体に渡って境界面12まで設けてもよい。これに代えて、第2変形例のように、本例の高抵抗領域30をドリフト領域22のZ方向全体に渡って、かつ、境界面12を経てGaN基板10内部まで設けてもよい。
【0059】
なお、本例の高抵抗領域30の幅は、トレンチ部50の幅と同じである。本例において、高抵抗領域30の幅とは、高抵抗領域30のx方向の長さである。また、本例において、トレンチ部50の幅とは、トレンチ部50の側部54間のx方向の長さである。
【0060】
図7は、第2実施形態の変形例における縦型MOSFET170の断面を示す概要図である。本例の高抵抗領域30の幅は、トレンチ部50の幅よりも広い。なお、イオン注入の方向をおもて面14に対して傾けることにより、高抵抗領域30の幅をトレンチ部50の幅よりも広くすることができる。係る点が第2実施形態と異なるが、他の点は第2実施形態と同じである。
【0061】
図7は、縦型MOSFET170の単位構造であり、x方向に同じ単位構造が設けられる。高抵抗領域30は、隣接する単位構造の高抵抗領域30と接続しなければ、x方向にさらに拡張してもよい。このように、高抵抗領域30の幅をトレンチ部50の幅よりも広くすることにより、高抵抗領域30がトレンチ部50と同じ幅を有する場合と比較して、半導体装置の耐圧を向上させることができる。
【0062】
なお、他の変形例においては、高抵抗領域30の幅をトレンチ部50の幅より狭くしてもよい。高抵抗領域30の幅がトレンチ部50の幅よりも狭いほど、オン抵抗を低減することができるので、ターンオン損失を低減することができる。
【0063】
図8は、第2実施形態における縦型MOSFET200の断面を示す概要図である。説明を簡潔にすることを目的として、第1実施形態と共通する事項については説明を省略する。本例の縦型MOSFET200は、トレンチ部50を有しない。本例のゲート電極44は、プレーナ型であり、おもて面14の上方に設けられる。また、本例のゲート絶縁膜42は、ゲート電極44およびおもて面14の間に設けられる。本例の高抵抗領域30は、一対のベース領域26の間であって、おもて面14に隣接して設けられる。なお、図6の断面図においては一対のベース領域26が図示されているが、ベース領域26はY方向に延在した環状の領域であってよい。チャネル形成領域25は、ゲート電極44の直下のベース領域26内に位置する。
【0064】
図9は、ゲートのターンオフ時の電位分布を説明する図である。ターンオフ時には、ベース領域26の底部および側部、ならびに、一対のベース領域26間のおもて面14は等電位となる(等電位線を太線にて示す)。ただし、ゲート電極44のX方向の中央部の下におけるおもて面14近傍(一対のベース領域26のX方向の中央部のおもて面14近傍)においては、ドレイン電極74の電圧の影響により等電位線が下に突出しやすい。下に突出した等電位線とおもて面14との間では等電位線の間隔が密になるので、電界が比較的強い領域(領域Aとして示す)となる。つまり、本例のゲート絶縁膜42は、領域Aにおいて破壊または劣化しやすい。
【0065】
そこで、本例においては、ゲート電極44のX方向の中央部の下に、高抵抗領域30を設ける。本例の高抵抗領域30も、イオン注入によってドリフト領域22中に設ける。本例の高抵抗領域30は、ゲート絶縁膜42の少なくとも一部の下に直接接して設けられる。高抵抗領域30は、X方向において所定の幅を有してよい。高抵抗領域30は、ゲート電極44のX方向の中央部を中心として±X方向にL/2の幅を有してよい。
【0066】
ソース端子60およびドレイン端子70間の電流Iの導通経路を確保するべく、高抵抗領域30のX方向の幅Lは、一対のベース領域26間のX方向の幅Lよりも小さいことが望ましい。本例において、高抵抗領域30の幅Lは、一対のベース領域26間の幅Lの20%以上80%以下としてよく、30%以上70%以下としてもよい。
【0067】
Lxが広くなると、ベース領域26間に残存するドリフト領域22が狭くなるので、JFET効果によりオン抵抗が増加する。なお、JFET効果とは、MOSFET動作時のソース・ドレイン間電界により、隣接するチャネル形成領域25から空乏層が伸びて電流の通路を狭めることをいう。これに対して、Lxが広くなると、ゲート絶縁膜42がより保護される。それゆえ、Lxは、ゲート絶縁膜42の保護の必要性に応じて定めてよい。
【0068】
図10は、縦型MOSFET200の製造段階を示すフロー図である。本例の製造段階は、S12からS60の順に行われる。本例の製造段階は、ドリフト領域22をエピタキシャル形成し、ドリフト領域22の一部を除去する段階(S12)、ベース領域26を選択的に再成長させる段階(S14)、ベース領域26にn型不純物をイオン注入する段階(S20)、GaN層20をアニールしてソース領域24を形成する段階(S25)、ドリフト領域22に高抵抗化元素をイオン注入する段階(S40)、GaN層20をアニールして高抵抗領域30を形成する段階(S45)、ゲート絶縁膜42等を形成する段階(S50)、ならびに、層間絶縁膜48等を形成する段階(S60)を備える。
【0069】
図11Aは、段階S12を示す概要図である。本例の段階S12においては、GaN基板10上に直接接してn型のドリフト領域22をエピタキシャル形成する。その後、エッチング装置において、ドリフト領域22の上部の一部をエッチングにより除去する。これにより、ドリフト領域22に凹部27を形成する。
【0070】
図11Bは、段階S14を示す概要図である。本例の段階S14においては、ドリフト領域22の凹部27上にp型のベース領域26を選択的に再成長させる。当該選択的再成長において、ベース領域26がエピタキシャル形成される。
【0071】
図11Cは、段階S20を示す概要図である。段階S20においては、第1実施形態と同様に、マスク80‐3を用いてベース領域26にn型不純物をイオン注入する。
【0072】
図11Dは、段階S25を示す概要図である。段階S20においては、第1実施形態と同様に、GaN層20をアニールする。これにより、n型のソース領域24を形成する。
【0073】
図11Eは、段階S40を示す概要図である。段階S40においては、第1実施形態と同様に、マスク80‐4を用いてベース領域26に高抵抗化元素をイオン注入する。本例においては、一対のベース領域26間のおもて面14から所定の深さ範囲においてボックスプロファイルとなるように、高抵抗化元素をイオン注入する。
【0074】
図11Fは、段階S45を示す概要図である。段階S45においては、第1実施形態と同様に、GaN層20をアニールする。
【0075】
図11Gは、段階S50を示す概要図である。段階S50においては、ゲート絶縁膜42およびゲート電極44を形成する。
【0076】
図11Hは、段階S60を示す概要図である。段階S60においては、ゲート電極44の側部および上部を覆うように層間絶縁膜48を形成する。また、第1実施形態と同様に、ソース電極64およびドレイン電極74を形成する。
【0077】
図12は、第1実験例における縦型半導体装置400の断面を示す概要図である。第1実験例は、高抵抗領域430が絶縁体として振る舞うことを確認するための実験である。縦型半導体装置400は、GaN基板410、GaN層420、絶縁膜448、コンタクト用金属462、低電圧側電極464および高電圧側電極474を有する。GaN層420は、GaN基板410との境界面412、および、おもて面414を有する。GaN層420は、ドリフト領域422および高抵抗領域430を有する。
【0078】
ドリフト領域422は、GaN基板10上にエピタキシャル形成されたn型GaNの領域である。ドリフト領域422のZ方向における厚みは、11μmとした。また、ドリフト領域22のn型不純物濃度は、1.5E+16cm−3とした。高抵抗領域430は、ドリフト領域422に高抵抗化元素としてのMgをイオン注入して、その後、GaN層420をアニールすることにより形成した。アニール温度は1300℃とした。高抵抗領域430の深さは、0.5μmとし、Mgの不純物濃度は1E+18cm−3とした。
【0079】
GaN層420のおもて面414上には絶縁膜448を設けた。絶縁膜448は、SiO膜とした。絶縁膜448には、コンタクト用の開口449を設けた。X‐Y平面における開口449の全体には、高抵抗領域430を露出させた。
【0080】
絶縁膜448上には、コンタクト用金属462を設けた。コンタクト用金属462の下面は、開口449を通じて高抵抗領域430のみに接触させた。コンタクト用金属462には、Ni(ニッケル)を用いた。なお、コンタクト用金属462は、Pd(パラジウム)またはPt(プラチナ)からなっても第1実験例と同じ結果が得られると考えてよい。コンタクト用金属462上面には、低電圧側電極464を設けた。本実験の低電圧側電極464には、Alを用いた。なお、低電圧側電極464を高抵抗領域430よりも±X方向に延伸させることにより、低電圧側電極464の当該延伸した一部をフィールドプレートとして利用した。
【0081】
高電圧側電極474は、GaN基板410に直接接して、裏面416の下に設けた。低電圧側電極464を接地して、高電圧側電極474の電圧を0Vから1300V超まで増加させた。このとき、低電圧側電極464および高電圧側電極474間に流れる電流を測定した。
【0082】
図13は、第2実験例における縦型半導体装置500の断面を示す概要図である。縦型半導体装置500は、高抵抗領域430を有さない。つまり、縦型半導体装置500においては、コンタクト用金属462とドリフト領域422とをショットキー接合させた。また、低電圧側電極464を接地して、高電圧側電極474の電圧を0Vから1200Vまで増加させた。係る点において、第1実験例と異なる。
【0083】
図14は、縦型半導体装置400および500における電圧‐電流特性を示す図である。横軸は、高電圧側電極474に付与する電圧(V)を示す。縦軸は、電流密度(A/cm−2)を示す。電流密度は、低電圧側電極464および高電圧側電極474間に流れる電流を、開口449のX‐Y平面における面積で除すことにより算出した。
【0084】
第1実験例の結果を実線で示す。第1実験例において、電圧が0V以上100V以下の範囲においては、電流密度が1.0E−7未満となった。電圧の上昇に伴い、電流密度は増加傾向を示した。電圧=1000Vにおいても電流密度は1.0E−6未満であった。電圧=1200V近傍において電流密度が急激に増加した。電圧=1300V超にてアバランシェ・ブレークダウンが発生し、電流密度がさらに急激に増加した。なお、なお、電圧=0Vにおける1.0E−7台の電流密度は理想的に期待される電流よりも多い。その理由はエピタキシャル形成したGaN層420中の点欠陥および転移欠陥、ならびに高抵抗領域430の形成時のイオン注入ダメージが完全に除去できないことによるものと考えられる。
【0085】
第2実験例の結果を、ひし形で示す複数のプロットおよびこれらをつなぐ点線で示す。第2実験例において、電圧が0V以上100V以下の範囲においては、電流密度が1.0E−6未満となった。電圧の上昇に伴い電流密度は増加傾向を示した。電圧=1000Vにおいて電流密度は1.0E−5以上となった。電圧0V以上1200V以下における電流密度は、第2実験例の方が第1実験例よりも概ね約1桁以上大きかった。第2実験例の縦型半導体装置500は金属電極とn型ドリフト領域422とのショットキー接合であるので、第1実験例の縦型半導体装置400よりも電流密度が高いことは予想通りであった。
【0086】
図15は、第4実施形態における縦型MOSFET260の断面を示す概要図である。本例の高抵抗領域30は、第2実施形態と同様に、ゲート絶縁膜42の少なくとも一部の下において、ゲート絶縁膜42から離間している。係る点において、第3実施形態とことなるが、他の点は第3実施形態と同じである。本例においても、イオン注入時のダメージの影響を低減することができる点が有利である。
【0087】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0088】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0089】
10・・GaN基板、12・・境界面、14・・おもて面、16・・裏面、20・・GaN層、22・・ドリフト領域、24・・ソース領域、25・・チャネル形成領域、26・・ベース領域、27・・凹部、30・・高抵抗領域、40・・ゲート端子、42・・ゲート絶縁膜、44・・ゲート電極、48・・層間絶縁膜、50・・トレンチ部、52・・底部、54・・側部、60・・ソース端子、64・・ソース電極、70・・ドレイン端子、74・・ドレイン電極、80・・マスク、82・・開口、100、120、140、160、170、200、260・・縦型MOSFET、300・・アニール装置、400・・縦型半導体装置、410・・GaN基板、412・・境界面、414・・おもて面、416・・裏面、420・・GaN層、422・・ドリフト領域、430・・高抵抗領域、448・・絶縁膜、449・・開口、462・・コンタクト用金属、464・・低電圧側電極、474・・高電圧側電極、500・・縦型半導体装置
【要約】
【課題】トレンチの底部(特に角部)には、ゲートのターンオフ時にソース・ドレイン間に高電圧が印加されると電界が集中する。これにより、ゲート絶縁膜が破壊または劣化するという問題がある。この問題に対処するべく、トレンチの底部に比較的厚い絶縁膜を設けることが考えられる。ただし、絶縁膜に生じるアバランシェ・ブレークダウンは非可逆的な破壊現象であるので、絶縁膜が一旦破壊されると二度と使用することができない。
【解決手段】化合物半導体層を有する縦型MOSFETであって、ゲート電極と、ゲート電極と化合物半導体層との間に設けられたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜の少なくとも一部に直接接して設けられ、化合物半導体層の一部であるドリフト領域と、少なくとも前記ドリフト領域に設けられ、ゲート絶縁膜の少なくとも一部の下に位置し、ドリフト領域よりも単位長さ当たりの抵抗値が高い高抵抗領域とを備える縦型MOSFETを提供する。
【選択図】図1
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H
図12
図13
図14
図15