(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コア部はクロム(Cr)、鉄およびニッケル(Ni)のうちの少なくとも1種を含有すると共にその含有量(酸素を除いた原子比)は1原子%以上50原子%以下である、
請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
前記コア部はホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、インジウム(In)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、鉛(Pb)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プロセオジム(Pr)およびネオジウム(Nd)のうちの少なくとも1種を含有すると共に、その含有量(酸素を除いた原子比)は0.01原子%以上30原子%以下である、
請求項3記載のリチウムイオン二次電池。
前記被覆部に含有されるケイ素系材料において、非結晶性のケイ素系材料は非結晶領域だけを有し、低結晶性のケイ素系材料は非結晶領域および結晶領域(結晶粒)を有する、
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記被覆部に含有される低結晶性のケイ素系材料において、ケイ素(Si)の(111)面および(220)面に起因する前記結晶粒の平均面積占有率は35%以下である、
請求項10記載のリチウムイオン二次電池。
前記被覆部に含有される低結晶性のケイ素系材料において、ケイ素の(111)面および(220)面に起因する前記結晶粒に関して、前記被覆部を厚さ方向において二等分したとき、内側部分における前記結晶粒の平均面積占有率および平均粒径は、外側部分における前記結晶粒の平均面積占有率および平均粒径と同じであるか、それよりも大きい、
請求項10ないし請求項12のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記コア部において、X線回折により得られるケイ素の(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は0.6°以上であると共に、その(111)結晶面に起因する結晶子サイズは90nm以下である、
請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.リチウムイオン二次電池用負極活物質およびリチウムイオン二次電池用負極
2.リチウムイオン二次電池
2−1.角型
2−2.円筒型
2−3.ラミネートフィルム型
3.リチウムイオン二次電池の用途
【0019】
<1.リチウムイオン二次電池用負極活物質およびリチウムイオン二次電池用負極>
図1は、本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に「負極」という。)の断面構成を表している。
図2は、負極活物質粒子の断面構造を表すSEM写真であり、
図3〜
図6は、負極活物質粒子の断面構造を拡大して表すHAADF STEM写真(以下、単に「TEM写真」という。)である。
【0020】
[負極の全体構成]
負極は、例えば、
図1に示したように、負極集電体1の上に負極活物質層2を有している。この負極活物質層2は、負極集電体1の両面に設けられていてもよいし、片面だけに設けられていてもよい。ただし、負極集電体1はなくてもよい。
【0021】
[負極集電体]
負極集電体1は、例えば、電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度に優れた導電性材料により形成されている。このような導電性材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)あるいはステンレスなどが挙げられる。中でも、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しないと共に負極活物質層2と合金化する材料が好ましい。
【0022】
この負極集電体1は、炭素(C)および硫黄(S)を構成元素として含んでいることが好ましい。負極集電体1の物理的強度が向上するため、充放電時に負極活物質層2が膨張収縮しても負極集電体1が変形しにくくなるからである。このような負極集電体1としては、例えば、炭素および硫黄がドープされた金属箔などが挙げられる。炭素および硫黄の含有量は、特に限定されないが、中でも、いずれも100ppm以下であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0023】
負極集電体1の表面は、必要に応じて粗面化されていてもよい。粗面化されていない負極集電体1は、例えば、圧延金属箔などであり、粗面化された負極集電体1は、例えば、電解処理あるいはサンドブラスト処理された金属箔などである。電解処理とは、電解槽中において電解法で金属箔などの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法で作製された金属箔は、一般に電解箔(例えば電解銅箔など)と呼ばれている。
【0024】
中でも、負極集電体1の表面は、粗面化されていることが好ましい。アンカー効果により負極集電体1に対する負極活物質層2の密着性が向上するからである。負極集電体1の表面粗さ(例えば十点平均粗さRz)は、特に限定されないが、アンカー効果により負極活物質層2の密着性を向上させるためにはできるだけ大きいことが好ましい。ただし、表面粗さが大きすぎると、かえって負極活物質層2の密着性が低下する可能性がある。
【0025】
[負極活物質層]
負極活物質層2は、
図2に示したように、リチウムイオンを吸蔵放出可能である複数の粒子状の負極活物質(本技術のリチウムイオン二次電池用負極活物質である負極活物質粒子200)を含んでおり、必要に応じて、さらに負極結着剤あるいは負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0026】
負極活物質粒子200は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部201および被覆部202を含んでおり、その被覆部202は、コア部201の表面の少なくとも一部を被覆している。このように被覆部202がコア部201の表面を被覆している様子は、
図2および
図6に示したように、SEM写真およびTEM写真により確認される。また、コア部201および被覆部202の結晶状態は、
図3〜
図5に示したように、HAADF STEM写真により確認される。
【0027】
コア部201は、ケイ素系材料(SiO
x :0≦x<0.5、好ましくは0≦x≦0.45)のいずれか1種類あるいは2種類以上を含有している。被覆部202は、ケイ素系材料(SiO
y :0.5≦y≦1.8)のいずれか1種類あるいは2種類以上を含有している。
【0028】
コア部201のケイ素系材料は、上記した化学式(SiO
x :0≦x<0.5)から明らかなように、ケイ素の単体(x=0)でもよいし、酸化ケイ素(0<x<0.5)でもよい。中でも、ケイ素系材料の組成としては、xができるだけ小さいことが好ましく、x=0であること(ケイ素の単体)がより好ましい。高いエネルギー密度が得られるため、電池容量が高くなるからである。また、ケイ素系材料が劣化しにくいため、充放電サイクルの初期から放電容量が低下しにくくなるからである。なお、本技術における単体とは、あくまで一般的な意味での単体(微量の不純物(酸素以外の元素)を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0029】
被覆部202のケイ素系材料は、上記した化学式(SiO
y :0.5≦y≦1.8)から明らかなように、酸化ケイ素である。中でも、ケイ素系材料の組成としては、0.7≦y≦1.3、さらにy=1であることが好ましい。以下で説明する被覆部202の保護機能が効果的に発揮されるからである。
【0030】
コア部201がケイ素系材料(SiO
x :0≦x<0.5)を含有しているのは、他のケイ素系材料(SiO
x :0.5≦x)を含有している場合よりも、充放電時にリチウムイオンが吸蔵放出されやすいからである。これにより、高い電池容量などが得られる。
【0031】
被覆部202がケイ素系材料(SiO
y :0.5≦y≦1.8)を含有しているのは、他のケイ素系材料(SiO
y :y<0.5)を含有している場合よりも、コア部201におけるリチウムイオンの出入りを確保しつつ、被覆部202によりコア部201が化学的および物理的に保護されるからである。
【0032】
詳細には、コア部201と電解液との間に被覆部202が介在すると、高反応性のコア部201が電解液と接触しにくくなるため、その電解液の分解反応が抑制される。この場合には、被覆部202がコア部201と同系統の材料(ケイ素を構成元素として含む材料)により形成されているため、そのコア部201に対する被覆部202の密着性も高くなる。
【0033】
また、被覆部202のケイ素系材料(SiO
y :0.5≦y≦1.8)は、コア部201のケイ素系材料(SiO
x :0≦x<0.5)よりも柔軟性(変形しやすい性質)を有する。これにより、充放電時にコア部201が膨張収縮すると、それに追随して被覆部202も膨張収縮するため、被覆部202によるコア部201の被覆状態が充放電を経ても維持される。すなわち、コア部201が膨張収縮しても、被覆部202が破損(断裂等)しにくくなる。よって、充放電時にコア部201が割れても新生面が露出しにくくなると共に、その新生面が電解液と接触しにくくなるため、電解液の分解反応が抑制される。
【0034】
なお、被覆部202は、コア部201の表面の一部だけを被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。前者の場合には、被覆部202がコア部201の表面を複数箇所で被覆していてもよい。被覆部202がコア部201の表面の一部だけでも被覆していれば、全く被覆していない場合とは異なり、被覆部202の保護機能による利点が得られるからである。
【0035】
ここで、負極活物質粒子200がコア部201および被覆部202を含んでいることを確認するためには、例えば、SEMあるいはTEMなどで負極活物質粒子200を観察すればよい。また、例えば、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)あるいはエネルギー分散型X線分析法(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)で負極活物質粒子200を分析してもよい。
【0036】
この場合には、負極活物質粒子200の中心部および表層部の酸化度(xおよびyの値)を測定すれば、コア部201および被覆部202の組成(ケイ素系材料の種類)を確認できる。なお、被覆部202により被覆されているコア部201の組成を調べるためには、フッ化水素酸などで被覆部202を溶解除去すればよい。
【0037】
酸化度の測定に関する詳細な手順は、例えば、下記の通りである。最初に、燃焼法で負極活物質粒子200(被覆部202により被覆されたコア部201)を定量し、全体のケイ素量および酸素量を算出する。続いて、フッ化水素酸で被覆部202を洗浄除去したのち、燃焼法でコア部201を定量してケイ素量および酸素量を算出する。最後に、全体のケイ素量および酸素量からコア部201のケイ素量および酸素量を差し引いて、被覆部202のケイ素量および酸素量を算出する。これにより、コア部201および被覆部202についてケイ素量および酸素量が特定されるため、それぞれの酸化度を特定できる。なお、被覆部202を洗浄除去する代わりに、被覆部202により被覆されたコア部201と共に未被覆のコア部201を用いて酸化度を測定してもよい。
【0038】
特に、被覆部202は、非結晶性(非晶質)あるいは低結晶性である。結晶性(高結晶性)である場合よりもリチウムイオンが拡散されやすいため、コア部201の表面が被覆部202により被覆されていても、そのコア部201ではリチウムイオンが円滑に吸蔵放出されやすいからである。すなわち、被覆部202によりコア部201が被覆されていても、そのコア部201でリチウムイオンの出入りが阻害されにくくなる。
【0039】
中でも、被覆部202は、非結晶性であることが好ましい。被覆部202の柔軟性が向上するため、充放電時にコア部201の膨張収縮に追随しやすくなるからである。また、被覆部202がリチウムイオンをトラップしにくくなるため、コア部201においてリチウムイオンの出入りが阻害されにくくなるからである。
【0040】
なお、
図3および
図6では、コア部201が高結晶性のケイ素(Si)であると共に被覆部202が非結晶性の酸化ケイ素(SiO)である場合を示している。一方、
図4および
図5では、コア部201が高結晶性のケイ素であると共に被覆部202が低結晶性の酸化ケイ素(SiO)である場合を示している。
【0041】
「低結晶性」とは、上記したように、被覆部202のケイ素系材料が非結晶領域および結晶領域の双方を有することを意味しており、非結晶領域だけを有する「非結晶性」とは異なっている。被覆部202が低結晶性であるかどうかを確認するためには、例えば、HAADF STEMなどで被覆部202を観察すればよい。TEM写真から非結晶領域と結晶領域とが混在している様子を確認できれば、その被覆部202は低結晶性である。なお、非結晶領域と結晶領域とが混在している場合、その結晶領域は、粒状の輪郭を有する領域(結晶粒)として観察される。この結晶粒の内部には、結晶性に起因する縞状の模様(結晶格子縞)が観察されるため、その結晶粒を非結晶領域から識別できる。
【0042】
非結晶性と低結晶性との違いは、
図3および
図4に示したTEM写真から明らかである。被覆部202が非結晶性である場合には、
図3に示したように、非結晶領域だけが観察され、結晶領域(結晶格子縞を有する結晶粒)が観察されない。これに対して、被覆部202が低結晶性である場合には、
図4に示したように、非結晶領域の中に結晶粒(矢印で指した部分)が点在している様子が観察される。この結晶粒は、ケイ素の格子面間隔dに応じた所定の間隔の結晶格子縞を有しているため、その周辺の非結晶領域から明確に区別される。なお、
図4に示したTEM写真をフーリエ変換した(電子回折図に相当する図を得た)ところ、スポットがリング状に並んでいたため、被覆部202の内部に多数の結晶領域が存在していることが確認された。
【0043】
なお、HAADF STEMによる被覆部202の観察手順は、例えば、以下の通りである。最初に、銅製のTEM用グリッドの表面に接着剤を塗布したのち、その接着剤の上にサンプル(負極活物質粒子)をふりかけた。続いて、真空蒸着法で粉体サンプルの表面に炭素材料(黒鉛)を堆積させた。続いて、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)法で炭素材料の表面に薄膜(Pt/W)を堆積させたのち、さらに薄膜加工(加速電圧=30kV)した。最後に、HAADF STEM(加速電圧=200kV)で負極活物質粒子の断面を観察した。この観察方法は、サンプルの組成に敏感な手法であり、一般に原子番号のほぼ2乗に比例した明るいコントラストの画像が得られる。
【0044】
図3および
図4に示したTEM写真では、線Lを境界として結晶状態の異なる領域が観察される。この結晶状態の異なる領域をEDXで分析したところ、線Lよりも内側に位置する領域は結晶性のコア部(Si)であると共に、線Lよりも外側に位置する領域は非結晶性あるいは低結晶性の被覆部(SiO)であることが確認された。
【0045】
被覆部202の低結晶性の程度は、特に限定されないが、中でも、ケイ素の(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均面積占有率は、35%以下であることが好ましく、25%以下、さらに20%以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
図4に示したように、(111)面に起因する結晶粒とは、格子面間隔d=0.31nmの結晶格子縞を有する結晶領域であり、(220)面に起因する結晶粒とは、格子面間隔d=0.19nmの結晶格子縞を有する結晶領域である。
【0046】
この平均面積占有率の算出手順は、以下の通りである。最初に、
図5に示したように、HAADF STEMで被覆部202の断面を観察してTEM写真を得る。この場合には、観察倍率=1.2×10
6 倍、観察エリア=65.6nm×65.7nmとする。なお、
図5は、
図4と同じTEM写真である。続いて、結晶格子縞の有無および格子面間隔dの値などを調べて、ケイ素の(111)面に起因する結晶粒および(220)面に起因する結晶粒が存在する範囲を特定したのち、それらの結晶粒の輪郭をTEM写真中に描画する。続いて、各結晶粒の面積を算出したのち、面積占有率(%)=(結晶粒の面積の和/観察エリアの面積)×100を算出する。これらの輪郭の描画および面積占有率の算出については、人為的に行ってもよいし、専用の処理ソフトなどで機械的に行ってもよい。最後に、面積占有率の算出作業を40エリアで繰り返したのち、各エリアにおいて算出した面積占有率の平均値(平均面積占有率)を算出する。この場合には、結晶粒の分布傾向を加味して平均面積占有率を算出するために、被覆部202を厚さ方向において二等分し、その内側部分および外側部分において20エリアずつ面積占有率を算出することが好ましい。
【0047】
また、上記した(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均粒径は、特に限定されないが、中でも、55nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。この平均粒径の算出手順は、エリアごとに平均粒径を算出したのち、その平均粒径の平均値(最終的な平均粒径)を算出することを除き、平均面積占有率を算出した場合と同様である。なお、結晶粒の粒径を測定する場合には、例えば、結晶粒の輪郭を円に変換(結晶粒の輪郭により画定される形状と同等の面積を有する円を特定)したのち、その円の直径を粒径とする。この粒径の算出は、平均面積占有率を算出した場合と同様に、人為的でも機械的でもよい。
【0048】
また、上記したように被覆部202を厚さ方向において二等分したとき、平均面積占有率は、内側部分と外側部分とで同じでも違ってもよい。中でも、内側部分における結晶粒の平均面積占有率は、外側部分における結晶粒の平均面積占有率と同じであるか、それよりも大きいことが好ましい(内側部分の平均面積占有率≧外側部分の平均面積占有率)。より高い効果が得られるからである。このことは、平均粒径についても同様である。なお、内側部分および外側部分における平均面積占有率および平均粒径は、上記したように、それぞれ20エリアずつ算出されることとする。
【0049】
さらに、被覆部202は、単層でも多層でもよいが、中でも、
図6に示したように、多層であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。詳細には、単層では、厚さによっては被覆部202の内部応力が逃げにくいため、充放電時にコア部201が膨張収縮した際に被覆部202が破損(割れおよび剥がれなど)する可能性があるが、多層では、内部応力が逃げやすいため、被覆部202が破損しにくくなる。
図6に示した破線は、各層の境界の目安を表している。ただし、被覆部202は、全体に渡って多層でもよいし、一部だけ多層でもよい。
【0050】
なお、
図6では、被覆部202が表層近傍で繊維状(毛羽立った形状)になっているが、必ずしもそれに限られない。繊維状であるか否かは、被覆部202の保護機能にそれほど大きな影響を及ぼさないからである。
【0051】
コア部201は、結晶性(高結晶性)、低結晶性あるいは非結晶性のいずれでもよいが、中でも、高結晶性あるいは低結晶性であることが好ましく、高結晶性であることがより好ましい。充放電時にリチウムイオンが吸蔵放出されやすくなるため、高い電池容量などが得られるからである。また、充放電時にコア部201が膨張収縮しにくくなるからである。中でも、コア部201において、X線回折により得られるケイ素の(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は20°以下であると共に、その(111)結晶面に起因する結晶子サイズは10nm以上であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0052】
コア部201のメジアン径は、特に限定されないが、中でも、0.5μm〜20μmであることが好ましい。充放電時にコア部201においてリチウムイオンが吸蔵放出されやすくなると共に、そのコア部201が割れにくくなるからである。詳細には、メジアン径が0.5μmよりも小さいと、コア部201の総表面積が大きくなりすぎるため、充放電時に膨張収縮しやすくなる可能性がある。一方、メジアン径が20μmよりも大きいと、充放電時にコア部201が割れやすくなる可能性がある。
【0053】
被覆部202の平均厚さは、特に限定されないが、中でも、できるだけ薄いことが好ましく、1nm〜5000nm、さらに100nm〜5000nmであることがより好ましい。コア部201においてリチウムイオンが吸蔵放出されやすくなると共に、被覆部202による保護機能が効果的に発揮されるからである。詳細には、平均厚さが1nmよりも小さいと、被覆部202がコア部201を保護しにくくなる可能性がある。一方、平均厚さが5000nmよりも大きいと、電気抵抗が高くなると共に、充放電時にコア部201においてリチウムイオンイオンが吸蔵放出されにくくなる可能性がある。被覆部202のケイ素系材料(SiO
y :0.5≦y≦1.8)は、リチウムイオンを吸蔵しやすい一方で、いったん吸蔵したリチウムイオンを放出しにくい性質を有するからである。
【0054】
この被覆部202の平均厚さは、以下の手順により算出される。まず、
図2に示したように、SEMで1個の負極活物質粒子200を観察する。この観察時の倍率は、被覆部202の厚さTを測定するために、コア部201と被覆部202との境界を目視で確認(決定)できるような倍率であることが好ましい。続いて、任意の10点で被覆部202の厚さTを測定したのち、その平均値(1個当たりの平均厚さT)を算出する。この場合には、できるだけ特定の場所周辺に集中せずに広く分散されるように測定位置を設定することが好ましい。続いて、SEMによる観察個数の総数が100個になるまで、上記した平均値の算出作業を繰り返す。最後に、100個の負極活物質粒子200について算出された平均値(1個当たりの平均厚さT)の平均値(平均厚さTの平均値)を算出して、被覆部202の平均厚さとする。
【0055】
被覆部202の平均被覆率は、特に限定されないが、できるだけ大きいことが好ましく、中でも、10%以上、さらに30%以上であることがより好ましい。被覆部202の保護機能がより向上するからである。
【0056】
この被覆部202の平均被覆率は、以下の手順により算出される。まず、平均厚さを算出した場合と同様に、SEMで1個の負極活物質粒子200を観察する。この観察時の倍率は、コア部201のうち、被覆部202により被覆されている部分と被覆されていない部分とを目視で識別できるような倍率であることが好ましい。続いて、コア部201の外縁(輪郭)のうち、被覆部202により被覆されている部分の長さと被覆されていない部分の長さとを測定する。そして、被覆率(1個当たりの被覆率:%)=(被覆部202により被覆されている部分の長さ/コア部201の外縁の長さ)×100を算出する。続いて、SEMによる観察個数の総数が100個になるまで、上記した被覆率の算出作業を繰り返す。最後に、100個の負極活物質粒子200について算出された被覆率(1個当たりの被覆率)の平均値を算出して、被覆部202の平均被覆率とする。
【0057】
なお、コア部201は、鉄(Fe)を含有していることが好ましく、その鉄の含有量は、0.01重量%以上であることが好ましい。コア部201の電気抵抗が低下するからである。コア部201に含有される鉄の少なくとも一部は、ケイ素系材料と合金化していてもよい。この鉄を含有するコア部201の組成については、例えば、EDXで確認できる。
【0058】
また、コア部201は、鉄と共に他の金属材料のいずれか1種類あるいは2種類以上を含有していてもよい。コア部201の電気抵抗がより低下するからである。このような他の金属材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)あるいはニッケル(Ni)などが挙げられる。他の金属材料の含有量は、任意である。
【0059】
あるいは、コア部201は、鉄に代えてアルミニウムを含有していることが好ましく、そのアルミニウムの含有量(酸素を除いた原子比)は、0.1原子%〜50原子%であることが好ましい。コア部201が低結晶化するため、充放電時においてコア部201が膨張収縮しにくくなると共に、リチウムイオンの拡散性が向上するからである。また、コア部201の電気抵抗が低下するからである。コア部201に含有されるアルミニウムの少なくとも一部は、ケイ素系材料と合金化していてもよい。このことは、後述するクロム等の金属材料についても同様である。
【0060】
また、コア部201は、アルミニウムと共に他の金属材料のいずれか1種類あるいは2種類以上を含有していてもよい。コア部201の電気抵抗がより低下するからである。このような他の金属材料としては、例えば、クロム、鉄およびニッケルのうちの少なくとも1種などが挙げられる。この金属材料の含有量(酸素を除いた原子比)は、1原子%〜50原子%であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0061】
さらに、コア部201は、上記したアルミニウムおよび他の金属材料と共に、それら以外のさらに他の金属材料等を含有していてもよい。充放電時においてコア部201がより膨張収縮しにくくなるからである。このような他の金属材料等としては、例えば、ホウ素(B)、マグネシウム、カルシウム、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン、コバルト(Co)、銅、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、インジウム(In)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、鉛(Pb)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プロセオジム(Pr)およびネオジウム(Nd)のうちの少なくとも1種などが挙げられる。この金属材料等の含有量(酸素を除いた原子比)は、0.01原子%〜30原子%であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0062】
上記したアルミニウム等を含有するコア部201の組成については、例えば、EDXで確認できる。なお、「酸素を除いた原子比」とは、コア部201を構成する一連の元素のうち、酸素を除いた残りの全元素における特定元素の割合(原子比)を表している。例えば、コア部201がアルミニウムだけを含有する場合、そのアルミニウムの含有量とは、ケイ素およびアルミニウムにおけるアルミニウムの割合(原子%)を意味している。
【0063】
上記したようにコア部201がアルミニウムおよび他の金属材料(クロム等)と共にさらに他の金属材料等(ホウ素等)を含有する場合、そのコア部201におけるケイ素の含有量(酸素を除いた原子比)は、特に限定されないが、中でも、20原子%〜80原子%であることが好ましい。負極の容量を確保しつつ、充放電時においてコア部201が膨張収縮しにくくなるからである。
【0064】
上記したアルミニウム等を含有するコア部201において、X線回折により得られるケイ素の(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は0.6°以上であると共に、その(111)結晶面に起因する結晶子サイズは90nm以下であることが好ましい。この半値幅を調べる場合には、フッ化水素酸などで被覆部202を溶解除去してからコア部201を分析することが好ましい。
【0065】
コア部201がアルミニウムを含有しておらず、そのコア部201が高結晶性であると、上記したように、充放電時においてコア部201が膨張収縮しにくくなる。これに対して、コア部201がアルミニウムを所定量含有していると、コア部201が高結晶性であるか低結晶性であるかに依存せずに、充放電時においてコア部201が膨張収縮しにくくなる。この場合には、コア部201が低結晶性であると、コア部201の膨張収縮が抑制されるだけでなく、リチウムイオンの拡散性も向上する。
【0066】
ここで、被覆部202はコア部201に隣接していることが好ましいが、コア部201と被覆部202との間に自然酸化膜(二酸化ケイ素:SiO
2 )を含有する中間膜が介在していてもよい。この中間膜は、例えば、コア部201が表層近傍において酸化されたものである。負極活物質粒子200の中心にコア部201が存在すると共に外側に被覆部202が存在すれば、中間膜の存在はコア部201および被覆部202の役割にほとんど影響を及ぼさない。
【0067】
なお、被覆部202に含有される非結晶性のケイ素系材料(SiO
y )において、ケイ素原子の酸素原子に対する結合状態(価数)としては、0価(Si
0+)、1価(Si
1+)、2価(Si
2+)、3価(Si
3+)および4価(Si
4+)の5種類が存在することが知られている。各結合状態のケイ素原子の有無およびそれらの存在比については、例えば、XPSでケイ素系材料を分析することで確認できる。被覆部202の最表層が意図せずに酸化されている(二酸化ケイ素が形成されている)場合には、フッ化水素酸などで二酸化ケイ素を溶解除去してから分析することが好ましい。
【0068】
この非結晶性のケイ素系材料(SiO
y :0.5≦y≦1.8)において、ケイ素原子の酸素原子に対する結合状態は、上記した全て(0価〜4価の5種類)の結合状態が存在しており、それらが混在した状態にあることが好ましい。一部の結合状態だけが存在する場合と比較して、被覆部202の電気抵抗が低下すると共に、コア部201に対する被覆部202の保護機能が確保されるからである。詳細には、価数が最小である0価の結合状態は、充放電時においてコア部201を膨張収縮させて、被覆部202によるコア部201の化学的および物理的な保護機能を低下させる傾向にある。また、価数が最大である4価の結合状態は、被覆部202の電気抵抗を高くする傾向にある。よって、被覆部202の電気抵抗を低くしつつ、その被覆部202の保護機能を確保するためには、0価および4価の結合状態だけでなく1価〜3価の結合状態も存在しており、0価および4価の結合状態の存在比が大きくなりすぎないように価数(結合状態)が分散されていることが好ましい。
【0069】
ケイ素原子の結合状態の存在比(原子比)は、特に限定されない。5種類の結合状態が存在していれば、その存在比に依存せずに、上記した利点が得られるからである。中でも、存在比は、Si
0+≦Si
1++Si
2++Si
3++Si
4+の関係を満たすことが好ましい。0価の結合状態の割合が少ないほど、被覆部202による保護機能が発揮されやすいからである。また、存在比は、Si
1+≦Si
3+、Si
2+≦Si
3+、Si
1+≦Si
4+およびSi
2+≦Si
4+の関係を満たすことが好ましい。価数の大きなケイ素原子の割合が多いほど、被覆部202による保護機能が発揮されやすいからである。
【0070】
上記したように、被覆部202による保護機能を確保するためには、価数の大きなケイ素原子の割合が多いことが好ましい。このため、価数が最大である4価の結合状態の存在比は、20原子%以上であることが好ましく、30原子%以上であることがより好ましい。
【0071】
負極活物質粒子200は、さらに、被覆部202の表面の少なくとも一部を被覆する追加被膜を含んでいてもよい。コア部201が電解液とより接触しにくくなるからである。この追加被膜は、例えば、炭素材料、金属材料あるいは無機化合物などのいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでいる。炭素材料は、例えば、黒鉛などである。金属材料は、例えば、鉄、銅あるいはアルミニウムなどである。無機化合物は、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2 )などである。中でも、コア部201および被覆部202よりも電気抵抗が低い炭素材料あるいは金属材料が好ましい。負極活物質粒子200全体の電気抵抗が低下するからである。
【0072】
負極結着剤としては、例えば、合成ゴムあるいは高分子材料などのいずれか1種類あるいは2種類以上が挙げられる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸あるいはポリアクリル酸リチウムなどである。
【0073】
負極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料のいずれか1種類あるいは2種類以上が挙げられる。なお、負極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などでもよい。
【0074】
なお、負極活物質層2は、必要に応じて、追加の負極活物質として炭素材料を含んでいてもよい。負極活物質層2の電気抵抗が低下すると共に、その負極活物質層2が充放電時に膨張収縮しにくくなるからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、あるいは(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。なお、負極活物質層2における炭素材料の含有量は、特に限定されないが、中でも、60%重量%以下、さらに10重量%〜60重量%であることが好ましい。
【0075】
また、負極活物質層2は、必要に応じて、上記したコア部201および被覆部202を含む負極活物質粒子200と共に、他の種類の負極活物質粒子を含んでいてもよい。このような他の種類の負極活物質粒子としては、例えば、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料(上記したケイ素系材料を除く)、金属酸化物あるいは高分子化合物などが挙げられる。ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料は、例えば、ケイ素化合物、ケイ素合金、スズの単体、スズ化合物あるいはスズ合金などである。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
【0076】
負極活物質層2は、例えば、塗布法、焼成法(焼結法)あるいはそれらの2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、負極活物質粒子を負極結着剤などと混合したのち、有機溶剤などに分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順で塗布したのち、負極結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法については、公知の手法を用いることができる。一例としては、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法などが挙げられる。
【0077】
[負極の製造方法]
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。
【0078】
最初に、例えば、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法あるいは溶融粉砕法などを用いて、ケイ素系材料(SiO
x :0≦x<0.5)を含有する粒子状(粉末状)のコア部201を得る。なお、コア部201に鉄あるいはアルミニウムなどの金属材料等を含有させる場合には、原材料と一緒に金属材料等を溶融させる。
【0079】
続いて、例えば、蒸着法あるいはスパッタ法などの気相成長法を用いて、コア部201の表面にケイ素系材料(SiO
y :0.5≦y≦1.8)を含有する被覆部202を形成する。このように気相成長法でケイ素系材料を堆積させた場合には、そのケイ素系材料が非結晶性になりやすい傾向がある。この場合には、ケイ素系材料を加熱しながら堆積させて被覆部202を形成し、あるいは被覆部202を形成後に加熱して、そのケイ素系材料を低結晶性にしてもよい。低結晶性の程度は、例えば、加熱時の温度および時間などの条件に応じて制御される。この加熱処理により、被覆部202中の水分が除去されると共に、コア部201に対する被覆部202の密着性が向上する。なお、被覆部202を形成する際に、チャンバ内に導入する酸素(O
2 )および水素(H
2 )などの導入量を調整したり、コア部201の温度を調整することで、ケイ素原子の酸素原子に対する結合状態の存在比を制御できる。これにより、被覆部202によりコア部201が被覆されるため、負極活物質粒子200が得られる。
【0080】
なお、負極活物質粒子200を形成する場合には、蒸着法、スパッタ法あるいは化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition )法などの気相成長法、または湿式コート法などを用いて、被覆部202の表面に追加被膜を形成してもよい。
【0081】
蒸着法を用いる場合には、例えば、負極活物質粒子200の表面に蒸気を直接吹き付けて追加被膜を堆積させる。スパッタ法を用いる場合には、例えば、アルゴンガス(Ar)を導入しながら粉体スパッタ法を用いて追加被膜を堆積させる。CVD法を用いる場合には、例えば、金属塩化物を昇華させたガスと水素および窒素などの混合ガスとを、金属塩化物のモル比が0.03〜0.3となるように混合したのち、1000℃以上に加熱して被覆部202の表面に追加被膜を堆積させる。湿式コート法を用いる場合には、例えば、負極活物質粒子200を含むスラリーに含金属溶液を添加しながらアルカリ溶液を添加して金属水酸化物を形成したのち、450℃で水素による還元処理を行って被覆部202の表面に追加被膜を堆積させる。なお、追加被膜の形成材料として炭素材料を用いる場合には、負極活物質粒子200をチャンバ内に投入し、そのチャンバ内に有機ガスを導入したのち、10000Paおよび1000℃以上の条件で加熱処理を5時間行って被覆部202の表面に追加被膜を堆積させる。この有機ガスの種類は、加熱分解により炭素を生じさせるものであれば特に限定されないが、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレンあるいはプロパンなどである。
【0082】
続いて、負極活物質粒子200と負極結着剤などの他の材料とを混合して負極合剤としたのち、有機溶剤などの溶媒に溶解させて負極合剤スラリーとする。最後に、負極集電体1の表面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層2を形成する。こののち、必要に応じて負極活物質層2を圧縮成型および加熱(焼成)してもよい。
【0083】
[本実施形態の作用および効果]
この負極によれば、負極活物質粒子200は、コア部201および被覆部202を含んでいる。コア部201は、ケイ素系材料(SiO
x :0≦x<0.5)を含有しており、被覆部202は、非結晶性あるいは低結晶性のケイ素系材料(SiO
y :0.5≦y≦1.8)を含有している。これにより、コア部201においてリチウムイオンが円滑に吸蔵放出されると共に、その円滑な吸蔵放出を維持したまま充放電時に新生面が露出しないようにコア部201が被覆部202により保護される。よって、負極を用いたリチウムイオン二次電池の性能向上、具体的にはサイクル特性および初回充放電特性などの向上に寄与することができる。
【0084】
特に、被覆部202における低結晶性のケイ素系材料において、ケイ素の(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均面積占有率が35%以下、あるいは結晶粒の平均粒径が55nm以下であれば、より高い効果を得ることができる。また、被覆部202を厚さ方向において二等分したとき、上記した平均面積占有率および平均粒径が内側部分≧外側部分、あるいは被覆部202が多層であれば、より高い効果を得ることができる。
【0085】
また、コア部201においてX線回折により得られるケイ素の(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が20°以下であると共に結晶子サイズが10nm以上であれば、より高い効果を得ることができる。
【0086】
また、コア部201のメジアン径が0.5μm〜20μm、あるいはコア部201が鉄を0.01重量%以上含んでいれば、より高い効果を得ることができる。被覆部202の平均厚さが1nm〜5000nm、あるいは被覆部202の平均被覆率が30%以上であっても、より高い効果を得ることができる。
【0087】
また、負極集電体1が炭素および硫黄を100ppm以下含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0088】
また、コア部201がアルミニウムなどの金属材料等を所定量含んでいれば、より高い効果を得ることができる。この場合には、特に、サイクル特性および初回充放電特性だけでなく、負荷特性の向上に寄与することもできる。なお、コア部201におけるケイ素の含有量が20原子%〜80原子%であり、あるいはコア部201においてX線回折により得られるケイ素の(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が20°以下であると共に結晶子サイズが10nm以上であれば、より高い効果を得ることができる。
【0089】
また、被覆部202における非結晶性のケイ素系材料において、ケイ素原子の酸素原子に対する結合状態が0価〜4価の混在状態であれば、被覆部202の電気抵抗を低下させつつ、コア部201に対する被覆部202の保護機能を確保することができる。この場合には、結合状態の存在比(原子比)がSi
0+≦Si
1++Si
2++Si
3++Si
4+の関係、あるいはSi
1+≦Si
3+、Si
2+≦Si
3+、Si
1+≦Si
4+およびSi
2+≦Si
4+の関係を満たしていれば、高い効果を得ることができる。4価の結合状態の存在比が20原子%以上、好ましくは30原子%以上である場合においても、同様である。
【0090】
また、負極活物質粒子200がコア部201および被覆部202よりも電気抵抗が低い追加被膜を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0091】
<2.リチウムイオン二次電池>
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
【0092】
<2−1.角型>
図7および
図8は、角型二次電池の断面構成を表しており、
図8では、
図7に示したVIII−VIII線に沿った断面を示している。また、
図9は、
図8に示した正極21および負極22の平面構成を表している。
【0093】
[角型二次電池の全体構成]
角型二次電池は、主に、電池缶11の内部に電池素子20が収納されたものである。この電池素子20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回積層体であり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。
【0094】
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の外装部材は、
図8に示したように、長手方向における断面が矩形型あるいは略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有しており、矩形状だけでなくオーバル形状の角型電池にも適用される。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状あるいは円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型あるいは有底長円形状型の器状部材である。なお、
図8では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。
【0095】
この電池缶11は、例えば、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの導電性材料により形成されており、電極端子としての機能を有している場合もある。中でも、充放電時に固さ(変形しにくさ)を利用して電池缶11の膨れを抑えるためには、アルミニウムよりも固い鉄が好ましい。なお、電池缶11が鉄製である場合、その表面にニッケルなどが鍍金されていてもよい。
【0096】
また、電池缶11は、一端部が開放されると共に他端部が閉鎖された中空構造を有しており、その開放端部に取り付けられた絶縁板12および電池蓋13により密閉されている。絶縁板12は、電池素子20と電池蓋13との間に設けられていると共に、例えば、ポリプロピレンなどの絶縁性材料により形成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されており、その電池缶11と同様に電極端子としての機能を有していてもよい。
【0097】
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどの絶縁性材料により形成されている。電池蓋13のほぼ中央には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁性材料により形成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0098】
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して電池の内圧が一定以上となった場合に、電池蓋13から切り離されて内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球からなる封止部材19Aにより塞がれている。
【0099】
正極21の端部(例えば内終端部)には、アルミニウムなどの導電性材料により形成された正極リード24が取り付けられている。負極22の端部(例えば外終端部)には、ニッケルなどの導電性材料により形成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接され、端子板14と電気的に接続されていると共に、負極リード25は、電池缶11に溶接され、それと電気的に接続されている。
【0100】
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを有している。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0101】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの導電性材料により形成されている。
【0102】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極材料のいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤あるいは正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、正極結着剤あるいは正極導電剤に関する詳細は、例えば、既に説明した負極結着剤および負極導電剤と同様である。
【0103】
正極材料としては、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有する複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを構成元素として有するリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄のいずれか1種類あるいは2種類以上を有する化合物が好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Li
x M1O
2 あるいはLi
y M2PO
4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態に応じて異なるが、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0104】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
x CoO
2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Li
x NiO
2 )、あるいは式(1)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物などが挙げられる。リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1-u Mn
u PO
4 (u<1))などが挙げられる。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。なお、正極材料は、上記以外の材料でもよい。例えば、Li
x M1
y O
2 (M1はニッケルおよび式(1)に示したM(コバルト等)からなる群(ニッケルおよびコバルト等を含む29種類の金属元素)のうちの少なくとも1種、x>1であり、yは任意である。)で表される材料などである。
【0105】
LiNi
1-x M
x O
2 …(1)
(Mはコバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、バナジウム、スズ、マグネシウム、チタン、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、タンタル、タングステン、レニウム、イッテルビウム、銅、亜鉛、バリウム、ホウ素、クロム、ケイ素、ガリウム、リン、アンチモンおよびニオブのうちの少なくとも1種である。xは0.005<x<0.5である。)
【0106】
この他、正極材料としては、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物あるいは導電性高分子などが挙げられる。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどである。
【0107】
[負極]
負極22は、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを有している。負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成は、それぞれ負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。この負極22において、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極材料における充電可能な容量は、正極21の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。充放電時に意図せずにリチウム金属が析出することを防止するためである。
【0108】
図9に示したように、正極活物質層21Bは、例えば、正極集電体21Aの表面の一部(例えば長手方向における中央領域)に設けられている。これに対して、負極活物質層22Bは、例えば、負極集電体22Aの全面に設けられている。これにより、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aのうち、正極活物質層21Bと対向する領域(対向領域R1)および対向しない領域(非対向領域R2)に設けられている。この場合には、負極活物質層22Bのうち、対向領域R1に設けられている部分が充放電に関与するが、非対向領域R2に設けられている部分は充放電にほとんど関与しない。なお、
図9では、正極活物質層21Bおよび負極活物質層22Bに網掛けしている。
【0109】
上記したように、負極活物質層22Bに含まれる負極活物質粒子は、コア部(SiO
x :0≦x<0.5)と非結晶性あるいは低結晶性の被覆部(SiO
y :0.5≦y≦1.8)とを含んでいる。しかしながら、充放電時の膨張収縮に起因して負極活物質層22Bが変形あるいは破損する可能性があるため、コア部および被覆部の形成状態が負極活物質層22Bの形成時の状態から変動し得る。しかしながら、非対向領域R2では、充放電の影響をほとんど受けず、負極活物質層22Bの形成状態が維持されるため、コア部および被覆部の有無および組成などについては、非対向領域R2の負極活物質層22Bにおいて調べることが好ましい。充放電の履歴(充放電の有無および回数など)に依存せずに、コア部および被覆部の有無および組成などを再現性よく正確に調べることができるからである。このことは、ケイ素原子の結合状態の存在比を調べる場合においても同様である。
【0110】
この負極22の満充電状態における最大利用率(以下、単に「負極利用率」という。)は、特に限定されず、正極21の容量と負極22の容量との割合に応じて任意に設定可能である。
【0111】
上記した「負極利用率」は、利用率Z(%)=(X/Y)×100で表される。ここで、Xは、負極22の満充電状態における単位面積当たりのリチウムイオンの吸蔵量であり、Yは、負極22の単位面積当たりにおける電気化学的に吸蔵可能なリチウムイオンの量である。
【0112】
吸蔵量Xについては、例えば、以下の手順で求めることができる。最初に、満充電状態になるまで二次電池を充電させたのち、その二次電池を解体して、負極22のうちの正極21と対向している部分(検査負極)を切り出す。続いて、検査負極を用いて、金属リチウムを対極とした評価電池を組み立てる。最後に、評価電池を放電させて初回放電時の放電容量を測定したのち、その放電容量を検査負極の面積で割って吸蔵量Xを算出する。この場合の「放電」とは、検査負極からリチウムイオンが放出される方向へ通電することを意味しており、例えば、0.1mA/cm
2 の電流密度で電池電圧が1.5Vに達するまで定電流放電する。
【0113】
一方、吸蔵量Yについては、例えば、上記した放電済みの評価電池を電池電圧が0Vになるまで定電流定電圧充電して充電容量を測定したのち、その充電容量を検査負極の面積で割って算出する。この場合の「充電」とは、検査負極にリチウムイオンが吸蔵される方向へ通電することを意味しており、例えば、電流密度が0.1mA/cm
2 であると共に電池電圧が0Vである定電圧充電において、電流密度が0.02mA/cm
2 に達するまで行う。
【0114】
中でも、負極利用率は、35%〜80%であることが好ましい。優れたサイクル特性、初回充放電特性および負荷特性が得られるからである。
【0115】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、合成樹脂あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜でもよい。合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどが挙げられる。
【0116】
[電解液]
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒に電解質塩が溶解されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0117】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでいる。非水溶媒としては、例えば、以下の材料などが挙げられる。炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタンあるいはテトラヒドロフランである。2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサンあるいは1,4−ジオキサンである。酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルあるいはトリメチル酢酸エチルである。アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノンあるいはN−メチルオキサゾリジノンである。N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルあるいはジメチルスルホキシドである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0118】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた特性が得られるからである。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0119】
特に、非水溶媒は、ハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0120】
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素、塩素あるいは臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。保護膜を形成する能力が高くなると共に、より強固で安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0121】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。このハロゲン化環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。非水溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜50重量%である。
【0122】
また、非水溶媒は、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとは、不飽和炭素結合を有する(いずれかの箇所に不飽和炭素結合が導入された)環状炭酸エステルである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。非水溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜10重量%である。
【0123】
また、非水溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられる。非水溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0124】
さらに、非水溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物あるいはカルボン酸スルホン酸無水物などが挙げられる。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などである。非水溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0125】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでいる。リチウム塩としては、例えば、以下の材料などが挙げられる。六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4 )、過塩素酸リチウム(LiClO
4 )あるいは六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF
6 )である。テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C
6 H
5 )
4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH
3 SO
3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3 SO
3 )あるいはテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl
4 )である。六フッ化ケイ酸二リチウム(Li
2 SiF
6 )、塩化リチウム(LiCl)あるいは臭化リチウム(LiBr)である。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0126】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのいずれか1種類あるいは2種類以上が好ましい。さらに、六フッ化リン酸リチウムおよび四フッ化ホウ酸リチウムが好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より優れた特性が得られるからである。
【0127】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0128】
[角型二次電池の動作]
この角型二次電池では、例えば、充電時に正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵されると共に、放電時に負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0129】
[角型二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0130】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤などに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどのコーティング装置で正極集電体21Aに正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などで正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0131】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の作製手順により、負極集電体22Aに負極活物質層22Bを形成して負極22を作製する。
【0132】
次に、電池素子20を作製する。最初に、溶接法などで正極集電体21Aに正極リード24を取り付けると共に負極集電体22Aに負極リード25を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層させたのち、それらを長手方向において巻回させる。最後に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。
【0133】
最後に、角型二次電池を組み立てる。最初に、電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20の上に絶縁板12を載せる。続いて、溶接法などで正極リード24を正極ピン15に取り付けると共に負極リード25を電池缶11に取り付ける。この場合には、レーザ溶接法などで電池缶11の開放端部に電池蓋13を固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。
【0134】
[角型二次電池の作用および効果]
この角型二次電池によれば、負極22が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しているので、充放電時に電解液の分解反応が抑制される。よって、サイクル特性および初回充放電特性を向上させることができる。これ以外の効果は、リチウムイオン二次電池用負極と同様である。
【0135】
<2−2.円筒型>
図10および
図11は、円筒型二次電池の断面構成を表しており、
図11では、
図10に示した巻回電極体40の一部を拡大している。以下では、既に説明した角型二次電池の構成要素を随時引用する。
【0136】
[円筒二次電池の構成]
円筒型二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に巻回電極体40および一対の絶縁板32,33が収納されたものである。この巻回電極体40は、セパレータ43を介して正極41と負極42とが積層および巻回された巻回積層体である。
【0137】
電池缶31は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を上下から挟むと共にその巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0138】
電池缶31の開放端部には電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)36がガスケット37を介してかしめられており、その電池缶31は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の材料により形成されている。安全弁機構35および熱感抵抗素子36は電池蓋34の内側に設けられており、その安全弁機構35は熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子36は、温度上昇に応じた抵抗増加により、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面にはアスファルトが塗布されていてもよい。
【0139】
巻回電極体40の中心には、センターピン44が挿入されていてもよい。正極41には、アルミニウムなどの導電性材料により形成された正極リード45が接続されていると共に、負極42には、ニッケルなどの導電性材料により形成された負極リード46が接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接などされ、電池蓋34と電気的に接続されていると共に、負極リード46は電池缶31に溶接などされ、それと電気的に接続されている。
【0140】
正極41は、例えば、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを有している。負極42は、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを有している。正極集電体41A、正極活物質層41B、負極集電体42A、負極活物質層42Bおよびセパレータ43の構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。また、セパレータ35に含浸されている電解液の組成は、角型二次電池における電解液の組成と同様である。
【0141】
[円筒型二次電池の動作]
この円筒型二次電池では、例えば、充電時に正極41から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極42に吸蔵されると共に、放電時に負極42から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極41に吸蔵される。
【0142】
[円筒型二次電池の製造方法]
この円筒型二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。最初に、例えば、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを形成して負極42を作製する。続いて、溶接法などで正極41に正極リード45を取り付けると共に負極42に負極リード46を取り付ける。続いて、セパレータ43を介して正極41と負極42とを積層および巻回させて巻回電極体40を作製したのち、その巻回中心にセンターピン44を挿入する。続いて、一対の絶縁板32,33で挟みながら巻回電極体40を電池缶31の内部に収納する。この場合には、溶接法などで正極リード45を安全弁機構35に取り付けると共に負極リード46の先端部を電池缶31に取り付ける。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36を取り付けたのち、それらをガスケット37を介してかしめる。
【0143】
[円筒型二次電池の作用および効果]
この円筒型二次電池では、負極42が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有している。よって、角型二次電池と同様の理由により、サイクル特性および初回充放電特性を向上させることができる。これ以外の効果は、リチウムイオン二次電池用負極と同様である。
【0144】
<2−3.ラミネートフィルム型>
図12は、ラミネートフィルム型二次電池の分解斜視構成を表しており、
図13は、
図12に示した巻回電極体50のXIII−XIII線に沿った断面を拡大している。
【0145】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
ラミネートフィルム型二次電池は、主に、フィルム状の外装部材60の内部に巻回電極体50が収納されたものである。この巻回電極体50は、セパレータ55および電解質層56を介して正極53と負極54とが積層および巻回された巻回積層体である。正極53には正極リード51が取り付けられていると共に、負極54には負極リード52が取り付けられている。巻回電極体50の最外周部は、保護テープ57により保護されている。
【0146】
正極リード51および負極リード52は、例えば、外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード51は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード52は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの導電性材料により形成されている。これらの材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0147】
外装部材60は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。このラミネートフィルムでは、例えば、融着層が巻回電極体50と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、あるいは接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、アルミニウム箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンあるいはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0148】
中でも、外装部材60としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材60は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムでもよい。
【0149】
外装部材60と正極リード51および負極リード52との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード51および負極リード52に対して密着性を有する材料により形成されている。このような材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
【0150】
正極53は、例えば、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを有している。負極54は、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを有している。正極集電体53A、正極活物質層53B、負極集電体54Aおよび負極活物質層54Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。また、セパレータ55の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
【0151】
電解質層56は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層56は、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電解液の漏液が防止されるので好ましい。
【0152】
高分子化合物としては、例えば、以下の高分子材料のいずれか1種類あるいは2種類以上などが挙げられる。ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサンあるいはポリフッ化ビニルである。ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートである。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などである。中でも、ポリフッ化ビニリデン、あるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0153】
電解液の組成は、例えば、角型二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層56において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。このため、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0154】
なお、ゲル状の電解質層56に代えて、電解液を用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ55に含浸される。
【0155】
[ラミネートフィルム型二次電池の動作]
このラミネートフィルム型二次電池では、例えば、充電時に正極53から放出されたリチウムイオンが電解質層56を介して負極54に吸蔵されると共に、放電時に負極54から放出されたリチウムイオンが電解質層56を介して正極53に吸蔵される。
【0156】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
このゲル状の電解質層56を備えたラミネートフィルム型二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0157】
第1手順では、最初に、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極53および負極54を作製する。この場合には、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを形成して正極53を作製すると共に、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを形成して負極54を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などとを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極53および負極54に塗布してゲル状の電解質層56を形成する。続いて、溶接法などで正極集電体53Aに正極リード51を取り付けると共に負極集電体54Aに負極リード52を取り付ける。続いて、電解質層56が形成された正極53と負極54とをセパレータ55を介して積層および巻回させて巻回電極体50を作製したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させる。最後に、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回電極体50を挟み込んだのち、熱融着法などで外装部材60の外周縁部同士を接着させて、その外装部材60に巻回電極体50を封入する。この場合には、正極リード51および負極リード52と外装部材60との間に密着フィルム61を挿入する。
【0158】
第2手順では、最初に、正極53に正極リード51を取り付けると共に、負極54に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ55を介して正極53と負極54とを積層および巻回させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させる。続いて、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、熱融着法などで一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材60の内部に注入したのち、熱融着法などで外装部材60の開口部を密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質層56を形成する。
【0159】
第3手順では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ55を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材60の内部に収納する。このセパレータ55に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体など)が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体、あるいはフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種類あるいは2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材60の内部に注入したのち、熱融着法などで外装部材60の開口部を密封する。最後に、外装部材60に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ55を正極53および負極54に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸するため、その高分子化合物がゲル化して電解質層56が形成される。
【0160】
この第3手順では、第1手順よりも電池膨れが抑制される。また、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーあるいは有機溶剤などが電解質層56中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極53、負極54およびセパレータ55と電解質層56との間において十分な密着性が得られる。
【0161】
[ラミネートフィルム型二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型二次電池では、負極54が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有している。よって、角型二次電池と同様の理由により、サイクル特性および初回充放電特性を向上させることができる。これ以外の効果は、リチウムイオン二次電池用負極と同様である。
【0162】
<3.リチウムイオン二次電池の用途>
次に、上記したリチウムイオン二次電池の適用例について説明する。
【0163】
リチウムイオン二次電池の用途は、それを駆動用の電源あるいは電力蓄積用の電力貯蔵源などとして用いることが可能な機械、機器、器具、装置あるいはシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。リチウムイオン二次電池が電源として用いられる場合、それは主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、あるいは主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。この主電源の種類は、リチウムイオン二次電池に限られない。
【0164】
リチウムイオン二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノートパソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビあるいは携帯用情報端末(PDA:Personal Digital Assistant)などの携帯用電子機器である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源あるいはメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルあるいは電動のこぎりなどの電動工具である。ペースメーカーあるいは補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、上記以外の用途でもよい。
【0165】
中でも、リチウムイオン二次電池は、電動工具、電気自動車あるいは電力貯蔵システムなどに適用されることが有効である。優れた電池特性(サイクル特性、保存特性および負荷特性など)が要求されるため、本技術のリチウムイオン二次電池を用いることにより、有効に特性向上を図ることができるからである。なお、電動工具は、リチウムイオン二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動する工具である。電気自動車は、リチウムイオン二次電池を駆動用電源として作動(走行)する自動車であり、上記したように、リチウムイオン二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、リチウムイオン二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源であるリチウムイオン二次電池に電力が蓄積されており、その電力が必要に応じて消費されるため、家庭用電気製品などの各種機器が使用可能になる。
【実施例】
【0166】
本技術の実施例について、詳細に説明する。
【0167】
(実験例1−1〜1−15,2−1〜2−18)
以下の手順で、ラミネートフィルム型の二次電池(
図12および
図13)を作製した。
【0168】
最初に、正極53を作製した。まず、正極活物質(リチウムコバルト複合酸化物:LiCoO
2 )91質量部と、正極導電剤(グラファイト)6質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)3質量部とを混合して正極合剤とした。続いて、正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置で正極集電体53Aの両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層53Bを形成した。この正極集電体53Aとしては、帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)を用いた。最後に、ロールプレス機で正極活物質層53Bを圧縮成型した。なお、正極活物質層53Bを形成する場合には、満充電時において負極54にリチウム金属が析出しないように厚さを調整した。
【0169】
次に、負極54を作製した。最初に、ガスアトマイズ法で結晶性のケイ素系材料(コア部)を得たのち、その表面に粉体蒸着法で非結晶性のケイ素系材料(被覆部)を堆積させて負極活物質粒子を得た。この場合には、表1および表2に示したようにケイ素系材料(SiO
x およびSiO
y )の組成を変化させた。コア部では半値幅=0.6°、結晶子サイズ=90nm、メジアン径=4μmとし、被覆部では平均厚さ=500nm、平均被覆率=70%とした。なお、ケイ素系材料(SiO
x )を得る場合には、原材料(ケイ素)の溶融凝固時に酸素導入量を調整して組成(酸化状態)を制御した。ケイ素系材料(SiO
y )を堆積させる場合には、原材料(ケイ素)の堆積時に酸素あるいは水素の導入量を調整して組成を制御した。粉体蒸着法では、偏向式電子ビーム蒸着源を用いると共に、堆積速度=2nm/秒とし、ターボ分子ポンプで圧力=1×10
-3Paの真空状態とした。続いて、負極活物質粒子と負極結着剤の前駆体とを80:20の乾燥重量比で混合したのち、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、ポリアミック酸の溶媒としてNMPおよびN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)を用いた。続いて、コーティング装置で負極集電体54Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体54Aとしては、圧延銅箔(厚さ=15μm,十点平均粗さRz<0.5μm)を用いた。最後に、結着性を高めるために塗膜を熱プレスしたのち、真空雰囲気中で400℃×1時間焼成した。これにより、負極結着剤(ポリイミド)が形成されたため、負極活物質粒子および負極結着剤を含む負極活物質層54Bが形成された。なお、負極活物質層54Bを形成する場合には、負極利用率が65%となるように負極活物質層54Bの厚さを調整した。
【0170】
次に、溶媒(炭酸エチレン(EC)および炭酸ジエチル(DEC))に電解質塩(LiPF
6 )を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を重量比でEC:DEC=50:50とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0171】
最後に、二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体53Aの一端にアルミニウム製の正極リード51を溶接すると共に、負極集電体54Aの一端にニッケル製の負極リード52を溶接した。続いて、正極53、セパレータ55、負極54およびセパレータ55をこの順に積層してから長手方向に巻回させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成したのち、その巻き終わり部分を保護テープ57(粘着テープ)で固定した。この場合には、セパレータ55として、多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた積層フィルム(厚さ=20μm)を用いた。続いて、外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納した。この場合には、外装部材60として、外側からナイロンフィルム(厚さ=30μm)、アルミニウム箔(厚さ=40μm)および無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)が積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、外装部材60の開口部から電解液を注入し、セパレータ55に含浸させて巻回電極体50を作製した。最後に、真空雰囲気中で外装部材60の開口部を熱融着して封止した。
【0172】
二次電池のサイクル特性および初回充放電特性を調べたところ、表1および表2に示した結果が得られた。
【0173】
サイクル特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中で1サイクル充放電したのち、再び充放電して放電容量を測定した。続いて、サイクル数の総数が100サイクルになるまで充放電して放電容量を測定した。最後に、サイクル維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充電時には、3mA/cm
2 の定電流密度で電圧が4.2Vに達するまで充電したのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm
2 に達するまで充電した。放電時には、3mA/cm
2 の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0174】
初回充放電特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために1サイクル充放電した。続いて、再び充電して充電容量を測定したのち、放電して放電容量を測定した。最後に、初回効率(%)=(放電容量/充電容量)×100を算出した。雰囲気温度および充放電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
【0175】
【表1】
【0176】
【表2】
【0177】
結晶性のコア部および非結晶性の被覆部の組成を変化させたところ、それらの組成に応じてサイクル維持率および初回効率が変化した。この場合には、コア部(SiO
x )の組成が0≦x<0.5であると共に被覆部(SiO
y )の組成が0.5≦y≦1.8であると、高いサイクル維持率および初回効率が得られた。これらの結果は、以下のことを表している。コア部では、酸化度(xの値)が小さくなるにしたがってサイクル維持率および初回効率が高くなり、ケイ素系材料は酸化ケイ素でもケイ素の単体でもよい。一方、被覆部では、酸化度(yの値)が小さすぎないと共に大きすぎないとサイクル維持率および初回効率が高くなり、ケイ素系材料は酸化ケイ素でなければならない。
【0178】
(実験例3−1〜3−9)
表3に示したようにコア部の物性(半値幅および結晶子サイズ)を変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、原材料(ケイ素)の溶融後の冷却温度を調整してケイ素系材料の結晶性を制御した。
【0179】
【表3】
【0180】
コア部の物性を変更しても高いサイクル維持率および初回効率が得られ、特に、半値幅が20°以下であると共に結晶子サイズが10nm以上であるとサイクル維持率および初回効率がより高くなった。
【0181】
(実験例4−1〜4−25)
被覆部を形成する際に、アルゴンガスの雰囲気中でケイ素系材料を加熱しながら堆積させて、そのケイ素系材料を低結晶性にしたことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、加熱時の温度および時間を調整して、表4に示したように被覆部の物性(平均面積占有率、平均粒径、大小関係および層構造)を変化させた。大小関係とは、被覆部を厚さ方向において二等分したときの内側部分および外側部分における平均面積占有率および平均粒径の大小関係であり、層構造とは、多層あるいは単層の別である。
【0182】
【表4】
【0183】
被覆部の物性を変化しても高いサイクル維持率および初回効率が得られ、特に、平均面積占有率が35%以下であると共に平均粒径が55μm以下であるとサイクル維持率および初回効率がより高くなった。また、平均面積占有率および平均粒径が外側≧内側であり、あるいは被覆部が多層であると、サイクル維持率および初回効率がより高くなった。
【0184】
(実験例5−1〜5−4)
参考までに、表5に示したように被覆部の形成材料としてケイ素系材料に代えて炭素材料(黒鉛)を用いたことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、真空蒸着法で炭素材料(厚さ=100nm)を堆積させた。
【0185】
【表5】
【0186】
被覆部の形成材料として炭素材料を用いると、ケイ素系材料を用いた場合よりもサイクル維持率が著しく低くなった。この結果は、コア部の膨張収縮に追随可能なケイ素系材料の柔軟性(保護機能)が炭素材料では得られないことを表している。
【0187】
(実験例6−1〜6−9)
表6に示したようにコア部のメジアン径を変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、メジアン径が異なる原材料(ケイ素)を用いてコア部のメジアン径を調整した。
【0188】
【表6】
【0189】
コア部のメジアン径が0.5μm〜20μmであるとサイクル維持率および初回効率がより高くなった。
【0190】
(実験例7−1〜7−8)
表7に示したように被覆部の平均厚さを変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、被覆部を形成する際に堆積速度および堆積時間を変化させて平均厚さを調整した。
【0191】
【表7】
【0192】
被覆部を形成すると、それを形成しない場合よりもサイクル維持率が著しく高くなり、特に、平均厚さが1nm〜5000nmであるとサイクル維持率がより高くなった。
【0193】
(実験例8−1〜8−9)
表8に示したように被覆部の平均被覆率を変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、被覆部を形成する際に投入電力および堆積時間を変化させて平均被覆率を調整した。
【0194】
【表8】
【0195】
被覆部の平均被覆率が10%以上、さらに30%以上であるとサイクル維持率および初回効率がより高くなった。
【0196】
(実験例9−1〜9−8,10−1〜10−9)
表9および表10に示したようにコア部に鉄などの金属材料を含有させたことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、コア部を形成する際にケイ素系材料の原材料と一緒に金属材料を溶融させた。
【0197】
【表9】
【0198】
【表10】
【0199】
コア部に鉄を0.01重量%以上含有させると共に、コア部に鉄と共にアルミニウムなどの他の金属材料を含有させると、サイクル維持率および初回効率がより高くなった。
【0200】
(実験例11−1〜11−3)
表11に示したように負極集電体54Aに炭素および硫黄を含有させたことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、負極集電体54Aとして炭素および硫黄が含有された圧延銅箔を用いた。
【0201】
【表11】
【0202】
負極集電体54Aに炭素および硫黄を含有させるとサイクル維持率および初回効率がより高くなり、特に、炭素および硫黄の含有量が100ppm以下であるとサイクル維持率および初回効率がさらに高くなった。
【0203】
(実験例12−1〜12−4)
負極集電体54Aとして圧延銅箔に代えて電解銅箔を用いたことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、表12に示した表面粗さ(十点平均粗さRz)を有する電解銅箔を用いた。
【0204】
【表12】
【0205】
粗面化された負極集電体54Aを用いても高いサイクル維持率および初回効率が得られ、特に、粗面化された負極集電体54Aを用いるとほぼ同等以上のサイクル維持率が得られると共に初回効率がより高くなった。
【0206】
(実験例13−1〜13−6)
表13に示したように負極活物質層54Bに炭素材料を含有させたことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、負極合剤を準備したのち、それに炭素材料(鱗片状黒鉛)を加えた。
【0207】
【表13】
【0208】
負極活物質層54Bに炭素材料を含有させても高いサイクル維持率および初回効率が得られ、特に、炭素材料を含有させるとほぼ同等以上のサイクル維持率が得られると共に初回効率がより高くなった。
【0209】
(実験例14−1〜14−12)
表14に示したように被覆部の表面に追加被膜を形成したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、被覆部を形成した場合と同様の手順で追加被膜を形成した。
【0210】
【表14】
【0211】
追加被膜を形成しても高いサイクル維持率および初回効率が得られ、特に、追加被膜を形成するとほぼ同等以上のサイクル維持率が得られると共に初回効率がより高くなった。この場合には、追加被膜の形成材料が負極活物質粒子(コア部および被覆部)よりも電気抵抗が低い炭素等であると、初回効率がより高くなった。
【0212】
(実験例15−1〜15−20)
表15に示したように負極結着剤の種類を変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。ポリアクリル酸あるいはポリアクリル酸リチウムを用いる場合には、それらが溶解された17体積%の水溶液を用いて負極合剤スラリーを準備すると共に熱プレスしたのちに焼成しないで負極活物質層54Bを形成した。
【0213】
【表15】
【0214】
負極結着剤の種類を変更しても高いサイクル維持率および初回効率が得られた。
【0215】
(実験例16−1〜16−12)
表16に示したように正極活物質の種類を変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。
【0216】
【表16】
【0217】
正極活物質の種類を変更しても高いサイクル維持率および初回効率が得られた。
【0218】
(実験例17−1〜17−9)
表17に示したように電解液の組成を変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。溶媒の組成(重量比)は、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC):DEC=50:50、EC:DEC:4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)、またはEC:炭酸ジメチル(DMC):DFEC=25:70:5とした。溶媒中における炭酸ビニレン(VC)、炭酸ビニルエチレン(VEC)、プロパンスルトン(PRS)、無水スルホ安息香酸(SBAH)あるいは無水スルホプロピオン酸(SPAH)の含有量は、1重量%とした。溶媒に対する電解質塩の含有量は、LiPF
6 =0.9mol/kgおよびLiBF
4 =0.1mol/kgとした。
【0219】
【表17】
【0220】
電解液の組成に依存せずに高いサイクル維持率が得られ、特に、他の溶媒(ハロゲン化環状炭酸エステル等)あるいは電解質塩(LiBF
4 )を用いるとサイクル維持率がより高くなると共にほぼ同等以上の初回効率が得られた。
【0221】
(実験例18−1,18−2)
表18に示したように電池構造を変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。角型二次電池を作製する場合には、アルミニウム製あるいは鉄製の電池缶を用いた。
【0222】
【表18】
【0223】
電池構造に依存せずに高いサイクル維持率が得られ、特に、角型ではサイクル維持率および初回効率がより高くなり、電池缶が鉄製であるとサイクル維持率がさらに高くなった。
【0224】
(実験例19−1〜19−64)
表19〜表23に示したようにコア部にアルミニウムなどの金属材料等を含有させたことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、コア部を形成する際にケイ素系材料の原材料と一緒に金属材料等を溶融させた。なお、表19〜表23に示したコア部の組成(原子%)は、酸素を除いた残りの全元素の原子比を表している。
【0225】
この場合には、サイクル特性(サイクル維持率)および初回充放電特性(初回効率)だけでなく、負荷特性(負荷維持率)も調べた。負荷特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために、23℃の雰囲気中で1サイクル充放電した。続いて、0.2Cの電流で再び充電して充電容量を測定したのち、1Cの電流で放電して放電容量を測定した。最後に、負荷維持率(%)=(1Cの放電容量/0.2Cの充電容量)×100を算出した。なお、0.2Cおよび1Cとは、それぞれ理論容量を5時間および1時間で放電しきる電流値である。これ以外の充放電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様である。
【0226】
【表19】
【0227】
【表20】
【0228】
【表21】
【0229】
【表22】
【0230】
【表23】
【0231】
コア部にアルミニウムを0.1原子%〜50原子%含有させると、初回効率がほぼ維持されたままサイクル維持率がより高くなると共に、高い負荷維持率も得られた。この場合におけるコア部の半値幅および結晶子サイズは、それぞれ0.6°以上および90nm以下であった。
【0232】
この場合には、コア部にさらにクロム等を1原子%〜50原子%含有させると、初回効率および負荷維持率がほぼ維持されたまま、サイクル維持率がより高くなった。また、コア部にさらにホウ素等を0.01原子%〜30原子%含有させると、サイクル維持率がより高くなった。
【0233】
なお、コア部がアルミニウム等を含有する場合には、ケイ素の含有量が20原子%〜80原子%以下であると、サイクル維持率、初回効率および負荷維持率がいずれも高くなった。
【0234】
(実験例20−1〜20−9)
正極活物質層53Bおよび負極活物質層54Bのそれぞれの厚さを調整して、表24に示したように負極利用率を変更したことを除き、実験例1−2,19−24と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。
【0235】
【表24】
【0236】
負極利用率が35%〜80%であると、サイクル維持率、初回効率および負荷維持率がいずれも高くなった。
【0237】
(実験例21−1〜21−10)
チャンバ内に導入するガス(酸素および水素)の導入量を調整すると共にコア部の温度を調整して、表25に示したように被覆部におけるケイ素原子の酸素原子に対する結合状態の存在比(原子比)を変更したことを除き、実験例1−3と同様の手順で二次電池を作製して諸特性を調べた。
【0238】
【表25】
【0239】
5種類(0価〜4価)の結合状態が存在していると、一部の結合状態だけが存在している場合と比較して、サイクル維持率が著しく高くなった。この場合には、存在比がSi
0+≦Si
1++Si
2++Si
3++Si
4+の関係、あるいはSi
1+≦Si
3+、Si
2+≦Si
3+、Si
1+≦Si
4+およびSi
2+≦Si
4+の関係を満たすと、高いサイクル維持率が得られた。これらの良好な結果は、概ね、4価(Si
4+)の結合状態の存在比が20原子%以上、さらに30原子%以上である場合において得られた。なお、大きな価数(3価および4価)の結合状態だけが存在する場合には、電池として機能し得なかったため、サイクル維持率および初回効率を求めることができなかった。
【0240】
表1〜表25の結果から、以下の結果が導き出される。本技術において、負極活物質粒子は、ケイ素系材料(SiO
x :0≦x<0.5)を含有するコア部と、非結晶性あるいは低結晶性のケイ素系材料(SiO
y :0.5≦y≦1.8)を含有する被覆部とを含んでいる。このため、コア部のメジアン径あるいは被覆部の平均厚さなどに依存せずに、サイクル特性および初回充放電特性が向上する。
【0241】
以上、実施形態および実施例を挙げて本技術を説明したが、本技術はそれらで説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出により表される場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。本技術は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出による容量とリチウム金属の析出溶解による容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される場合についても適用可能である。この場合には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵放出可能な負極材料が用いられると共に、負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0242】
また、電池構造が角型、円筒型あるいはラミネートフィルム型であると共に電池素子が巻回構造を有する場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。本技術は、電池構造がボタン型などである場合、または、電池素子が積層構造などを有する場合についても適用可能である。