特許第6237862号(P6237862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6237862ヘキサフルオロイソプロパノール及び、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6237862
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ヘキサフルオロイソプロパノール及び、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/145 20060101AFI20171120BHJP
   C07C 31/38 20060101ALI20171120BHJP
   C07C 43/12 20060101ALI20171120BHJP
   C07C 41/06 20060101ALI20171120BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   C07C29/145
   C07C31/38
   C07C43/12
   C07C41/06
   !C07B61/00 300
【請求項の数】13
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-223593(P2016-223593)
(22)【出願日】2016年11月16日
【審査請求日】2017年2月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152593
【弁理士】
【氏名又は名称】楊井 清志
(72)【発明者】
【氏名】森野 譲
(72)【発明者】
【氏名】藤井 茂
(72)【発明者】
【氏名】中道 利弘
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 進也
(72)【発明者】
【氏名】武田 将彰
(72)【発明者】
【氏名】藤原 昌生
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−089666(JP,A)
【文献】 特公昭39−013060(JP,B1)
【文献】 特開平06−184025(JP,A)
【文献】 特開昭56−139436(JP,A)
【文献】 米国特許第04250334(US,A)
【文献】 米国特許第06235950(US,B1)
【文献】 特開昭57−081424(JP,A)
【文献】 特開昭59−204142(JP,A)
【文献】 特開昭60−069047(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/026679(WO,A1)
【文献】 特開2002−275107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサフルオロイソプロパノールの製造方法であって、
アセトンを塩素(Cl)により塩素化してヘキサクロロアセトンを含む混合物を得た(第1工程)後、
該混合物に対しフッ化水素を接触させて、フッ素化することにより、「ヘキサフルオロアセトンと、120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物」を製造(第2工程)し、
次いで、
前記「ヘキサフルオロアセトンと120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物から1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量を、精製することにより120ppm以下となるように低減させ、それによって「1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が120ppm以下であるヘキサフルオロアセトン(以下、精製済みのヘキサフルオロアセトンと呼ぶ)」を得る工程(第3工程)と、
触媒の存在下、前記精製済みのヘキサフルオロアセトンに水素(H)を接触させて水素化することにより、ヘキサフルオロイソプロパノールを合成する工程(第4工程)と、
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
第3工程において、精製を蒸留することにより行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第3工程において、精製を、前記「ヘキサフルオロアセトンと120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物」に水を接触させることにより該混合物中に含まれるヘキサフルオロアセトンをヘキサフルオロアセトン・3水和物に変換した後に、該混合物を蒸留することにより行う、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
蒸留を、精留搭にヘキサフルオロアセトン・3水和物を供給し、理論段数を2以上、50以下とし、かつ、還流比を0.5〜8.0とすることにより行う、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
第3工程において、精製の実施中に、ガスクロマトグラフィーにより前記ヘキサフルオロアセトンの定量分析を行い、1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が120ppm以下であることを確認する工程を更に含む、請求項1乃至4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
第4工程において、触媒がパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウムおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属からなる触媒またはその金属を担体に担持した触媒である、請求項1乃至5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
第4工程において、触媒が、「パラジウム及びルテニウムを同一担体に担持させた触媒」及び「パラジウムを担体に担持させた触媒とルテニウムを担体に担持させた触媒を混合させた触媒」からなる群より選ばれる、少なくとも1種である、請求項1乃至5の何れかに記載の製造方法。
【請求項8】
第4工程において、水素化を行う際、受酸剤を反応系内に共存させる、請求項1乃至7の何れかに記載の製造方法。
【請求項9】
受酸剤として、「アルカリ金属の炭酸塩もしくは炭酸水素塩」と、「周期表13族に属する金属の水酸化物」を共に用いる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
ヘキサフルオロイソプロパノールから触媒を含まない液体成分を取り出し、さらに、その液体成分から蒸留によりヘキサフルオロイソプロパノールを分離回収する工程を更に含む、請求項1乃至の何れかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載の方法によりヘキサフルオロイソプロパノールを製造し、次いで、当該ヘキサフルオロイソプロパノールと、ホルムアルデヒド及びフッ化水素とを、ルイス酸またはブレンステッド酸の存在下で反応させる(第5工程)ことを特徴とする、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)の製造方法。
【請求項12】
以下の工程を含む、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)の製造方法。
[第1工程]
アセトンを塩素(Cl)によって塩素化してヘキサクロロアセトンを含む混合物を得る工程。
[第2工程]
第1工程により得られた該混合物に対しフッ化水素を接触させて、フッ素化することにより、ヘキサフルオロアセトンと、120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物を製造する工程。
[第3a工程]
第2工程により得られた該混合物に水を接触させることにより、該混合物中に含まれるヘキサフルオロアセトンをヘキサフルオロアセトン・3水和物に変換し、続いて、精留搭に該混合物を供給し、理論段数を2以上、50以下、かつ、還流比を0.5〜8.0として蒸留を実施し、ガスクロマトグラフィーにより該混合物に含まれる1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が5ppm以上、40ppm以下となることを確認するまで蒸留を続け、1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が5ppm以上、40ppm以下である「精製済みのヘキサフルオロアセトン・3水和物」を得る工程。
[第4a工程]
第3a工程により得られた、「精製済みのヘキサフルオロアセトン・3水和物」に対し、「パラジウム及びルテニウムを同一担体に担持させた触媒」及び「パラジウムを担体に担持させた触媒とルテニウムを担体に担持させた触媒を混合させた触媒」からなる群より選ばれる、少なくとも1種の触媒の存在下、
かつ、受酸剤の存在下、
水素(H2)を接触させて水素化することにより、
ヘキサフルオロイソプロパノールを製造する工程。
[第5工程]
第4a工程で得られた該ヘキサフルオロイソプロパノールと、ホルムアルデヒド及びフッ化水素とを、ルイス酸またはブレンステッド酸の存在下で反応させることで、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)を製造する工程。
【請求項13】
第4a工程において、ヘキサフルオロイソプロパノールから触媒を含まない液体成分を取り出し、さらに、その液体成分から蒸留によりヘキサフルオロイソプロパノールを分離回収する工程を更に含む、請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサフルオロイソプロパノール及び吸入麻酔剤「セボフルラン」として知られる、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサフルオロイソプロパノール(以下、明細書において、ヘキサフルオロイソプロパノールを「HFIP」と表すことがある。)は、ポリマーに対して特異な溶解性を示す溶媒として、また、吸入麻酔剤「セボフルラン」の製造の為の中間体として大量に生産されている。HFIPは、通常ヘキサフルオロアセトン(以下、明細書において、「HFA」と表すことがある。)の水素化反応により製造されるが、原料であるHFAの形態、反応形態、還元剤、触媒の種類などの組み合わせにより各種の方法が提案されている。
【0003】
気相法では、HFAに対し、アルミナに担持したパラジウム触媒(Pd/Al23)(特許文献1)存在下、そして、活性炭に担持したパラジウム触媒(Pd/C)(特許文献2)の存在下、それぞれ水素(H2)により水素化する方法が、そして、HFAの水和物に対し、ニッケル触媒またはアルミナに担持したパラジウム触媒の存在下、水素化する方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
液相での水素ガスによるHFIPの製造方法については、HFAの水和物を用いる方法とHFAの無水物を用いる方法が知られている。無水物を用いるものとしては酸化白金を触媒として圧力20.0〜90.0MPa(200〜900気圧)、110℃〜150℃で6時間にわたり反応させる方法(特許文献4)などが報告されている。
【0005】
また、HFAの水和物を液相で水素化する方法には、パラジウム/炭素を触媒として圧力0.35〜0.7MPa(3.5〜7kg/cm2)、70℃〜75℃で3.5時間にわたり反応させる方法(特許文献5)、パラジウム/Al23を触媒として圧力0.5MPa(5kg/cm2)、100℃で6時間にわたり反応させる方法(特許文献6)などがある。
【0006】
また、水素(H2)以外の還元剤を用いる方法として、HFAの無水物をメタノール溶媒中で水素化ホウ素ナトリウムを還元剤とする方法、同様にジエチルエーテル、メタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランなどの酸素含有溶媒中で水素化リチウムアルミニウム、水素化カルシウム、水素化ナトリウムなどを還元剤とする方法が報告されている(特許文献4)。
【0007】
なお、特許文献7によれば、HFAの水和物をパラジウム触媒の存在下、水素と接触させて水素化分解を行なうと、目的物HFIPの他に、水素化が過剰に進行した1,1,1−トリフルオロアセトン(TFA)が生成し、当該TFAは、目的物HFIPと沸点が近いため、蒸留による分離が困難とされている。しかし、水素化触媒として「パラジウムとルテニウムの併用触媒」を用いることによって、目的物HFIPが十分な選択率で生成する一方、たとえTFAが少量生成しても、この化合物は速やかに1,1,1−トリフルオロイソプロパノール(分離の容易な化合物。以下TFIPと略記することがある。)に変換されるので、反応終了後、純度の高いヘキサフルオロイソプロパノールを、格段に得やすくなったと、当該特許文献7には報じられている(以下、参照)。
【0008】
【化1】
【0009】
一方、特許文献8には、HFAを触媒の存在下、水素と接触させ、得られた粗HFIPを、有機アミン化合物で処理すると、分離の難しいTFAを、「アミン化合物との会合体」の形で系外に除去でき、次いで蒸留することで、TFAを実質的に含有しないHFIPが得られることが報告されている。
【0010】
さらに、フッ化水素溶媒中、パラジウムやルテニウムなどの金属触媒またはそれを担持した触媒の存在下、−20〜60℃でHFAに水素ガスを接触させて水素化することで、過剰に水素化された1,1,1−トリフルオロアセトンを実質的に含まないHFIPが得られることも報告されている(特許文献9)。
【0011】
HFIP製造用の原料である、ヘキサフルオロアセトン(HFA)の製造に関しては、ヘキサフルオロプロペンをエポキシ化し(特許文献10)、それに続いて該エポキシ化合物を触媒の存在下、異性化してHFAに誘導する(特許文献11)方法が知られている。また、アセトンを塩素化してヘキサクロロアセトンとし(特許文献12)、続いて該ヘキサクロロアセトンに対し、クロム/活性炭担持触媒等の存在下、フッ化水素で置換フッ素化する(特許文献13)方法も、知られている。
【0012】
前述の通り、HFIPは、吸入麻酔薬セボフルラン(化学名:フルオロメチル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルエーテル)を製造するための原料としてきわめて重要である。すなわち特許文献14に開示される通り、パラホルムアルデヒドに対し、濃硫酸、フッ化水素を添加し、得られた混合物を所定の温度に加熱した上で、HFIPを滴下することによって、吸入麻酔薬セボフルランが製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第3468964号明細書
【特許文献2】米国特許第3702872号明細書
【特許文献3】特開昭57−81424号公報
【特許文献4】米国特許第3418337号明細書
【特許文献5】特開昭59−204142号公報
【特許文献6】特開平1−301631号公報
【特許文献7】特開平6−184025号公報
【特許文献8】特開平6−184026号公報
【特許文献9】特開2009−051798号公報
【特許文献10】米国特許第3321515号明細書
【特許文献11】米国特許第3213134号明細書
【特許文献12】特開昭56−139436号公報
【特許文献13】特公昭39−13060号公報
【特許文献14】米国特許4250334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1〜3,5〜9に開示された方法によれば、重要な有機中間体化合物であるHFIPを、HFAを原料として、触媒反応によって量産できる。この水素化反応で必要となる金属触媒は、パラジウム、白金等の貴金属を有効成分とするが、触媒活性は高く、原料のHFAに比べごく少量であっても、HFAを高い変換率(conversion)でHFIPに誘導できる(つまり触媒のturnoverが高い)のが、大きな特長である。
【0015】
ところが、この触媒水素化反応によるHFIPの製造方法には、「反応が進むにつれて次第に反応速度が低下する」という、看過できない問題が存在していた。すなわち、ヘキサフルオロアセトンの水素化反応を開始し、概ね3時間は反応が速いものの、その後は徐々に遅くなる。反応が停止することはなく、また製品の品質に影響を及ぼすことはないものの、反応中盤以降、開始時に比べると不相応に反応が遅くなる。ここで、ヘキサフルオロアセトン(HFA)は高価な試薬である。この為、当該水素化反応はヘキサフルオロアセトンの変換率が80%から100%(好ましくは90%〜100%、特に好ましくは98%〜100%)に達するまで反応を行うことが望まれる。前記の通り、終盤付近の反応が非常に遅くなるために、こうした高い反応変換率を達成させる為には、比較的長い反応時間が必要となり(後述の比較例参照)、改善が求められていた(なお、本明細書において、「水素化反応の中盤〜終盤」とは、必ずしも限定はされないが、反応開始からHFAの変換率が概ね70%以降の状態のことを言う)。
【0016】
また、後に“第4工程”の項で説明する通り、「HFAの水素化反応」においては、反応が進むにつれて、塩化水素、フッ化水素等の酸成分が生成し、反応系内のpHは次第に下がってくる。ここで、反応系内にあらかじめ少量の「受酸剤(塩基性物質)」を加えておくと、水素化反応時に副生してくる酸性物質を直ちに中和でき、その結果、反応速度は有意に増大することが分かっている(例えば特許文献7を参照。事実、後述の実施例に示す通り、受酸剤を添加して水素化反応を行うと、受酸剤を添加しない場合に比べて、有意に短い時間で反応は完結する)。しかしながら、「受酸剤を添加した場合」であっても、「反応が進むにつれて反応速度が低下する」という現象は避けられず、たとえ受酸剤を増量しても、この現象は十分には改善されなかった(後述の実施例・比較例を参照)。
【0017】
本発明では、ヘキサフルオロアセトンを原料とし、ヘキサフルオロイソプロパノールを製造する方法において、水素化反応の中盤から終盤における反応速度の低下を抑制できる新規の方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、ヘキサフルオロアセトンに含まれる不純物のうち、1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタン(CF3CHCl2;以下、本明細書中で「HCFC−123」と表すことがある)の、水素化反応開始時点での含有量が、水素化の「中盤以降の反応速度」と、密接に相関しているという事実を見出した。
【0019】
すなわち発明者らは、HCFC−123の濃度を120ppm以下に減らしたヘキサフルオロアセトンを用いて水素化反応を開始すると、前述の「反応が進むにつれて反応速度が低下する現象」を有意に抑制できるという、驚くべき知見を得た。その結果として、水素化触媒の量や、受酸剤の量が同じであっても、水素化反応を、より短い時間で、望まれる反応変換率にまで到達させることが可能となった。
【0020】
このHCFC−123は、ヘキサクロロアセトンにフッ化水素と反応させてHFAを製造する際に、副生成物として、120ppmを超える量、認められる化合物である(ヘキサクロロアセトンのフッ素化反応によってHFAを合成した直後は、反応混合物中に数千ppm、含まれ、後に示すように単蒸留を行っても1000ppm〜2000ppm程度含まれる)。出発原料であるアセトンにはこのような「炭素数が2個」である化合物は通常含まれないので、塩素化やフッ素化の過酷な条件下では、炭素間の結合が切断され、「炭素数2の化合物」が一部生成したものと、考えられる。(なお、別法でHFAを合成する場合であっても、そこには必ず塩素化工程とフッ素化工程が介在することになるから、HCFC−123が副生することは、想定される)。
【0021】
HCFC−123は、沸点が28℃であり、HFAやHFA・3水和物とは沸点を異にする。しかしながら、HFA・3水和物を単蒸留に付す程度では、HCFC−123はHFA・3水和物から完全には分離できない(後述の参考例を参照)。なおかつ、HCFC−123それ自体は、HFAやHFIPと反応するような活性官能基を有しないし、水素化反応が終わってHFIPを得た後に、該HFIPから、蒸留によって十分に分離除去できる。こうしたことから、敢えてHFAあるいはHFA・3水和物の状態で、HCFC−123を高度に分離除去しようという考え方は、これまでになかった。
【0022】
HCFC−123が120ppmを超えて存在することによって、何故反応時間の長期化が起こるのか、その原因、理由は定かではない。後述の実施例1に明らかなように、「HCFC−123」のピークは、水素化反応を開始すると、比較的早い段階で消失する一方、「反応速度の低下現象」は、それよりもかなり遅れて発生するという傾向が認められる。こうしたことから、「HCFC−123」それ自体が、水素化反応を直接阻害しているわけではないという可能性も十分考えられる。
【0023】
これに関連して、HFA中に、HCFC−123が含まれる場合、HCFC−123が水素化を受ければ、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタン(CF3CH2Cl;以下、本明細書で「HCFC−133a」と表すことがある)が生じ、さらに水素化を受ければ、1,1,1−トリフルオロエタン(CF3CH3)が生じると考えられる。どちらの反応も塩化水素(HCl)の副生を伴う。
【0024】
【化2】
【0025】
この反応で発生する塩化水素が、触媒毒となって金属触媒の活性を低下させ、それが「反応時間の長期化」を誘発しているという可能性もある。しかし、後述の実施例・比較例に示す通り、HCFC−123が120ppmを超えて存在する場合、受酸剤の量を増やして反応を開始すれば、反応速度は全般的には上がるものの、「反応中盤以降の反応速度の低下現象」は解消しない。こうしたことから、以上の説明では説明し切れない何らかの要因があるものと推測される。
【0026】
また「中盤以降の反応速度の低下」が、「HCFC−123の含有量を制御すること」によって抑制できるという現象は、受酸剤の有無とは関係なく認められた(後述の実施例及び比較例参照)。
【0027】
こうしたことから、本発明における「HCFC−123の低減」の効果(反応中盤以降の反応速度低下の抑制)は、「水素化反応における受酸剤の添加」の効果(反応速度の全般的な増大)と、別個独立のものであると考えている。
【0028】
そして、本発明の水素化は、「受酸剤を添加」し、かつ、「HCFC−123の含有量を所定の量以下に低減する」、という2つの条件が両立する場合に、特に好ましく実施できることも、発明者らは見出した。
【0029】
いずれにしても、「水素化反応を開始する時点におけるHCFC−123の量」が重要な指標となり、これを120ppm以下に制御することによって、水素化反応の中盤以降の反応速度の低下を抑えられる、ということは、意外かつ有用な知見である。当該知見によって、HFIPがこれまでよりも一層、経済的に製造できるようになった。
【0030】
本発明によってヘキサフルオロイソプロパノールをより短時間で合成できることとなった為、本発明で製造したヘキサフルオロイソプロパノールを用いてセボフルランの合成を行うことにより、総合的に見て従前よりも吸入麻酔薬セボフルランが、格段に有利に製造できることとなった。その点においても、本発明の優位性は非常に高いものと言える。
【0031】
すなわち本発明は、以下の[発明1]−[発明13]に記載する、ヘキサフルオロイソプロパノール及びセボフルランの製造方法を提供する。
[発明1]
ヘキサフルオロイソプロパノールの製造方法であって、
ヘキサフルオロアセトンと120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物から1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量を、精製することにより120ppm以下となるように低減させ、それによって「1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が120ppm以下であるヘキサフルオロアセトン(以下、精製済みのヘキサフルオロアセトンと呼ぶ)」を得る工程(第3工程)と、
触媒の存在下、前記精製済みのヘキサフルオロアセトンに水素(H2)を接触させて水素化することにより、ヘキサフルオロイソプロパノールを合成する工程(第4工程)と、
を含む、前記製造方法。
[発明2]
第3工程において、精製を蒸留することにより行う、発明1に記載の製造方法。
[発明3]
第3工程において、精製を、前記「ヘキサフルオロアセトンと120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物」に水を接触させることにより該混合物中に含まれるヘキサフルオロアセトンをヘキサフルオロアセトン・3水和物に変換した後に、該混合物を蒸留することにより行う、発明1または2に記載の製造方法。
[発明4]
蒸留を、精留搭にヘキサフルオロアセトン・3水和物を供給し、理論段数を2以上、50以下とし、かつ、還流比を0.5〜8.0とすることにより行う、発明3に記載の製造方法。
[発明5]
第3工程において、精製の実施中に、ガスクロマトグラフィーにより前記ヘキサフルオロアセトンの定量分析を行い、1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が120ppm以下であることを確認する工程を更に含む、発明1乃至4の何れかに記載の製造方法。
[発明6]
第4工程において、触媒がパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウムおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属からなる触媒またはその金属を担体に担持した触媒である、発明1乃至5の何れかに記載の製造方法。
[発明7]
第4工程において、触媒が、「パラジウム及びルテニウムを同一担体に担持させた触媒」及び「パラジウムを担体に担持させた触媒とルテニウムを担体に担持させた触媒を混合させた触媒」からなる群より選ばれる、少なくとも1種である、発明1乃至5の何れかに記載の製造方法。
[発明8]
第4工程において、水素化を行う際、受酸剤を反応系内に共存させる、発明1乃至7の何れかに記載の製造方法。
[発明9]
受酸剤として、「アルカリ金属の炭酸塩もしくは炭酸水素塩」と、「周期表13族に属する金属の水酸化物」を共に用いる、発明8に記載の製造方法。
[発明10]
アセトンを塩素(Cl2)により塩素化してヘキサクロロアセトンを含む混合物を得た(第1工程)後、
該混合物に対しフッ化水素を接触させて、フッ素化することにより、ヘキサフルオロアセトンと、120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物を製造(第2工程)し、
次いで、該混合物を第3工程の原料に用いる、発明1乃至9の何れかに記載の製造方法。
[発明11]
ヘキサフルオロイソプロパノールから触媒を含まない液体成分を取り出し、さらに、その液体成分から蒸留によりヘキサフルオロイソプロパノールを分離回収する工程を更に含む、発明1乃至10の何れかに記載の製造方法。
[発明12]
発明1乃至11の何れかに記載の方法によりヘキサフルオロイソプロパノールを製造し、次いで、当該ヘキサフルオロイソプロパノールと、ホルムアルデヒド及びフッ化水素とを、ルイス酸またはブレンステッド酸の存在下で反応させる(第5工程)ことを特徴とする、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)の製造方法。
[発明13]
以下の工程を含む、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)の製造方法。
[第1工程]
アセトンを塩素(Cl2)によって塩素化してヘキサクロロアセトンを含む混合物を得る工程。
[第2工程]
第1工程により得られた該混合物に対し、フッ化水素にてフッ素化することにより、ヘキサフルオロアセトンと、120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物を製造する工程。
[第3a工程]
第2工程により得られた該混合物に水を接触させることにより、該混合物中に含まれるヘキサフルオロアセトンをヘキサフルオロアセトン・3水和物に変換し、続いて、精留搭に該混合物を供給し、理論段数を2以上、50以下、かつ、還流比を0.5〜8.0として蒸留を実施し、ガスクロマトグラフィーにより該混合物に含まれる1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が120ppm以下となることを確認するまで蒸留を続け、1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が120ppm以下である「精製済みのヘキサフルオロアセトン・3水和物」を得る工程。
[第4a工程]
第3a工程により得られた、「精製済みのヘキサフルオロアセトン・3水和物」に対し、「パラジウム及びルテニウムを同一担体に担持させた触媒」及び「パラジウムを担体に担持させた触媒とルテニウムを担体に担持させた触媒を混合させた触媒」からなる群より選ばれる、少なくとも1種の触媒の存在下、
かつ、受酸剤の存在下、
水素(H2)を接触させて水素化することにより、
ヘキサフルオロイソプロパノールを製造する工程。
[第5工程]
第4a工程で得られた該ヘキサフルオロイソプロパノールと、ホルムアルデヒド及びフッ化水素とを、ルイス酸またはブレンステッド酸の存在下で反応させることで、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)を製造する工程。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ヘキサフルオロアセトンを原料とし、ヘキサフルオロイソプロパノールを製造する方法において、水素化反応の中盤〜終盤における反応速度の低下を抑制できるという効果を奏する。これによりヘキサフルオロイソプロパノールをより短時間で合成できることとなり、当該ヘキサフルオロイソプロパノールを用いてセボフルランの合成を行えば、セボフルランを、より有利に製造できるという効果も奏する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0034】
なお、明細書において、ヘキサフルオロアセトン水和物は水和数を限定しない水和物またはその水溶液をいい、ヘキサフルオロアセトン・3水和物を含む概念である。また、明細書において、ヘキサフルオロアセトン・3水和物を「HFA・3W」と表すことがある。
【0035】
なお、従来技術で開示されているように、ヘキサフルオロアセトンはそれ自体、いくつかの化学種で現すことができる。例えば、水溶液中では、「ヘキサフルオロアセトン・3水和物」として存在する。
【0036】
ヘキサフルオロアセトンは、沸点が−28℃(大気圧)であり、常温・常圧下で気体(ガス)として存在するが、取り扱い上の便宜を図るため、106℃〜108℃の定沸点組成物として得られるヘキサフルオロアセトン・3水和物が、多くの反応において原料として使用されており、あるいは保存に供される。
なお、本発明において、「ヘキサフルオロアセトン」の記載は、ヘキサフルオロアセトン水和物をも包合するものとして扱う。
【0037】
ここで本発明をより明確に説明するため、本発明に関わる各工程を以下にまとめる。
【0038】
【化3】
【0039】
これらのうち、第3工程と第4工程が、発明1〜13までの全発明にわたる必須の工程である。発明によっては、これらに加えて第5工程、或いは第1〜第2工程が加わる。また、第3工程のうち、特に好ましい態様の1つを「第3a工程」、第4工程のうち、特に好ましい態様の1つを「第4a工程」と表記することがある。以下の説明はこれらも含めて行う。
【0040】
[第1工程]
第1工程は、アセトンを塩素(Cl2)で塩素化してヘキサクロロアセトンを含む混合物を得る工程である。
なお、本工程と、続く第2工程は、従来公知の方法であるが、本発明を理解する上で重要であるため、以下、説明する。
【0041】
本工程は、アセトンに対し、塩素(塩素ガス)を接触させることにより実施できる。本工程の塩素化は、触媒の存在下、行うことが好ましい。触媒は、いわゆる塩素化触媒として知られているものが使用でき、具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ドデカノイル、過酸化ジラウロイル、t−ブチルパーオキシピバレートなどの過酸化物などのラジカル開始剤、赤燐、五塩化燐、三塩化燐、トリフェニルフォスフィン、亜リン酸トリフェニルなどの燐化合物、ピリジン、キノリンなどの複素環芳香族化合物、トリエチルアミンなどが使用できる。また、光を照射することによっても塩素化は進行する。これらの中でもキノリン触媒は、特に好ましい。
【0042】
触媒の量は、原料のアセトンを基準にして、概ね0.001〜0.5当量であるが、当業者が適宜調整できる。
【0043】
塩素化が進行するのに伴い、アセトンが部分的に塩素化された、塩素数1〜5のクロロアセトン類(モノクロロアセトン、ジクロロアセトン等。本明細書で「低次塩素化物」とも言うことがある)が、徐々に生成する。アセトンの全ての水素原子が塩素原子に置き換わるまで、後述する反応圧力や反応温度等の条件を採用し、ガスクロマトグラフィー等の分析手段を利用し、アセトンの変換率、塩素化度の進行を見ながら、反応を行うのが良い。ここで言う「塩素化度」は、その時点における反応混合物の組成から計算される、アセトン1分子当たりに導入された塩素原子数の平均値を示す。
【0044】
すなわち、アセトン1分子に対し、該アセトンの水素原子の全てを塩素原子に置き換える(すなわち、ヘキサクロロアセトンに変換する)ためには、必要な塩素(Cl2)の理論モル数は「6」となる。そこで、ガスクロマトグラフィーで塩素化度を見ながら概ね20℃〜260℃の範囲を維持して塩素化を続けることにより、低次塩素化物も徐々に塩素化され、高い選択性でヘキサクロロアセトンを製造することが可能となる。
【0045】
なお、本工程において、過剰な塩素は、未反応のまま反応系外に放出されるので、回収して再利用することができる。
【0046】
反応圧力としては、通常、0.05MPa〜5.0MPa(絶対圧。以下、本明細書にて同じ)の範囲が好ましい。常圧(0.1MPa)から0.3MPa程度の微加圧の範囲が、より簡便であり、好ましい。なお、5.0MPaを超える圧力で反応を行うことも妨げられないが、あまり過剰な圧力条件は設備に負荷がかかる為、前記圧力範囲で行うのが好ましい。
【0047】
反応温度は、通常20℃〜260℃の範囲であるが、ガスクロマトグラフィーで塩素化度を見ながら適宜反応温度を調整するのが好ましい。反応温度が20℃を下回ると反応速度に影響を与え、低次塩素化物の割合が増加し、また、ヘキサクロロアセトンへの変換に時間がかかり、その結果、生産性が低下することがある。一方、260℃を超える温度では、ヘキサクロロアセトンの沸点が常温・常圧で204℃であることから、該アセトンが蒸気となり、系外に排出させる負担が大きくなり、それを制御するための設備が必要となり、工業的にも、経済的にも負荷がかかる為、採用してもメリットはない。
【0048】
塩素化における仕込み方法については連続式、バッチ式、特に制限はなく、何れの方法も採用できる。
【0049】
反応器は、耐熱性と、塩素、塩化水素等に対する耐食性を有する材質で作られれば良く、ステンレス鋼、ハステロイTM、モネルTM、ニッケル、白金などの金属製容器や、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、そしてガラスなどを内部にライニングしたもの等、常圧又は加圧下で十分反応を行うことができる反応器を使用することができる。
【0050】
本工程で得られたヘキサクロロアセトンを含む反応混合物は、ヘキサクロロアセトン以外に、塩素数1〜5のクロロアセトン類、塩化水素、塩素等が含まれるので、高純度のヘキサクロロアセトンを得る為には蒸留等の精製手段を用いるのが好ましい。なお、蒸留を行う前に塩素や塩化水素については分離しておくことが、装置全体の腐食等の負荷を減らす意味で、好ましい。
【0051】
この方法により高純度のヘキサクロロアセトンが得られ、続いてフッ素化工程における原料として利用できる。なお、蒸留時における初留として分離回収した塩素数1〜5のクロロアセトン類については、再び塩素化の原料として再利用することができる。
【0052】
蒸留装置については、塩素及び塩化水素に耐えうる材質の装置であれば特に制限はない。
【0053】
[第2工程]
次に、第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で製造したヘキサクロロアセトンを含む混合物に対し、フッ化水素にてフッ素化することにより、ヘキサフルオロアセトンと、120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタン(HCFC−123)を含む混合物を製造する工程である。
【0054】
フッ素化反応は、気相法、液相法の2通りがあるが、後述のように本反応は比較的高い温度で好適に進行するため、高温で実施しやすい方法である気相法が好ましい。
【0055】
第2工程は、いわゆる「フッ素化触媒」の存在下、実施することが好ましい。本工程で用いるフッ素化触媒は、金属の酸化物、フッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物、オキシフッ化塩化物であり、具体的な金属はクロム、チタン、アルミニウム、マンガン、ニッケル、コバルト、ジルコニウムの中からなる群より選ばれる少なくとも1種である。フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、塩化第二クロムなどが、特に好適なフッ素化触媒であり、これらを併用することもできる。
【0056】
触媒の量はヘキサクロロアセトン1モルに対し概ね0.001〜0.5モル程度であるが、当業者が適宜調整できる。
【0057】
フッ素化における反応温度は250〜450℃であり、260〜400℃が好ましく、260〜350℃がより好ましい。250℃未満ではヘキサクロロアセトンの反応率が低下し、また450℃を超えると過剰にフッ素化した生成物が増加したり、また、設備に負荷がかかるので好ましくない。
【0058】
本工程で用いる反応容器としては、ステンレス鋼、モネルTM、ハステロイTM、ニッケルなどの金属製容器や、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ポリプロピレン樹脂、そしてポリエチレン樹脂などを内部にライニングしたもの等、常圧又は加圧下で十分反応を行うことができる反応器が好ましい。
【0059】
本工程において、ヘキサクロロアセトンに対するフッ化水素のモル比は、化学量論的には「6」であるが、効率的で、高変換率かつ高収率でヘキサフルオロアセトンを製造するためには、それよりも過剰量のフッ化水素を使用することが好ましい。従って、通常、ヘキサクロロアセトン1モルに対し、フッ化水素は8モル以上、好ましくは10モル以上、より好ましくは12モル以上で、反応を行う。フッ化水素の量には上限はないが、50モル以上使用しても、フッ素化の速度がそれ以上増大することは通常なく、未反応のフッ化水素を回収する手間が過大になるだけであるから、あまり多量に用いることは好ましくない。なお、反応終了後、未反応のまま残ったフッ化水素は、有機相から分離し、反応系へリサイクルできる。
【0060】
本工程の反応圧力は、通常0.05〜10MPaであり、常圧近傍である0.08〜1MPaがより好ましい。
【0061】
本工程を気相反応で行う場合、反応の接触時間は、通常1〜300秒であり、好ましくは10〜60秒である。しかしながら、最適な接触時間はフッ化水素の量や反応温度、触媒量、反応圧力等の反応条件により変化するため、当業者が適宜調整すれば良い。
【0062】
フッ素化工程についても、前述の塩素化工程と同様、ヘキサクロロアセトンから徐々にヘキサフルオロアセトンに変換される為、ガスクロマトグラフィー等の分析手段を利用し、ヘキサクロロアセトンの変換率、並びにフッ素化の進行を見ながら行うのが良い。
【0063】
前述の通り、第2工程で得られる反応混合物中には、目的物であるHFAの他に、副生物であるHCFC−123が120ppmを超えて(典型的には数千ppm)含まれている。これを単蒸留しても当該化合物はHFA中に1000ppm〜2000ppmは、残存してしまう。
【0064】
[第3工程]
次に、第3工程について説明する。第3工程は、第2工程で製造した「ヘキサフルオロアセトンと120ppmを超える1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物」に対し、精製を行うことにより、該混合物に含まれる1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量を120ppm以下となるように低減させ、「精製済みのヘキサフルオロアセトン」を得る工程である。精製の手段については特段の制限はないが、蒸留(精密蒸留)が、特に好ましい。
【0065】
第2工程の方法で製造したヘキサフルオロアセトンには、通常、フッ化水素、塩化水素が残存し、さらに、単蒸留を行った後のHFAであっても、本発明で問題となるHCFC−123が通常1000ppm〜2000ppm含まれ、それらの混合物が形成されている。第3工程は当該HCFC−123を120ppm以下に低減する工程であり、この工程を行うことによって、次の第4工程(水素化工程)の、「中盤以降の反応速度の低下」現象が、顕著に抑制できることとなる。
【0066】
本工程における具体的な態様としては、ヘキサフルオロアセトンを水に吸収させて水和物(沸点106℃のHFA・3水和物)に変換させた後、蒸留(精密蒸留)操作を行うのが、取り扱いが簡便であり、好ましい。
【0067】
ヘキサフルオロアセトンの水和物を製造する際、反応条件に特に制限はないが、水(氷水)を入れた反応容器にヘキサフルオロアセトンのガスを混合させて吸収させれば良い。ヘキサフルオロアセトンは、取り扱いが容易な「ヘキサフルオロアセトン・3水和物」に誘導するのが好ましく、そのためにはHFA 1モルに対し、水が3モル以上となるように、両者を混合させることが好ましい(HFAに対する水のモル比は、例えば3.0:1〜20:1とすることができる)。
【0068】
なお、ヘキサフルオロアセトン1モルに対して、水を、3モルを超えて混合すれば、得られるものは、「ヘキサフルオロアセトン・3水和物(沸点106℃)」と「水(沸点100℃)」の混合物である。この操作において水が過剰に加えられても、この後行う「蒸留操作」で除くことができるし、たとえ過剰の水が残存しても、第4工程の「水素化反応」に影響を及ぼすことはない。一方、水がHFA 1モルに対し、3モル未満であると、「HFA無水物」「HFA・1水和物」「HFA・3水和物」といった、沸点を異にする複数化学種の混合物が得られる。このような場合、その後の工程の取扱いが煩雑になるので、好ましくない。
【0069】
次に、第3工程における「HCFC−123を120ppm以下に低減するための精製手段」として特に好ましい「蒸留(精密蒸留)」について、前記「HFA・3水和物」を蒸留する場合を例に、説明する。
【0070】
本「蒸留」は、ヘキサフルオロアセトン・3水和物を精留搭に供給し、好ましくは後述する理論段数、還流比でもって分別蒸留(fractional distillation)(なお、ここで言う「分別蒸留」についての説明を行うにあたり、便宜上、「蒸留」または「精密蒸留」と言うことがある)を行う操作である。これによって、HCFC−123の量を効率的に低減でき「HCFC−123が120ppm以下のHFA・3水和物(精製済みのHFA・3水和物)」を得ることができる。
【0071】
本蒸留工程によれば、「HFA・3水和物」よりも沸点の低い、「過剰に存在していた水」と共に、本発明で問題となるHCFC−123が、留分の形で、HFA・3水和物から除去できる。但し、先に述べたように、HCFC−123をHFA・3水和物から完全に分離・除去することは容易ではなく、あまり完全に除去しようとすると、蒸留の負荷が過大にかかることになる。そしてこれまでも述べてきたように、HCFC−123を120ppm以下に低減できれば、本発明の効果(すなわち、第4工程の水素化における「反応中盤以降の反応速度低下の抑制」)は十分に得ることができる。HCFC−123の量が110ppm以下であると、当該効果はより大きく、60ppm以下であると特に好ましく、40ppm以下であるとさらに好ましい効果が得られる。反面、HCFC−123の量があまり減りすぎても、それ以上の効果は得にくい。したがって、「HCFC−123」を例えば3ppm未満、特に1ppm未満にまで低減する、といったことは、通常必要ない。
【0072】
こうしたことから、第3工程の「精製」は、HCFC−123の含有量を例えば5ppm〜110ppmの範囲内の何れかの値を目標に定め、その値に達した時点で精製操作を終了することが、最も無理がなく、特に好ましい実施態様の1つと言える。この目標値は、例えば10〜60ppmの範囲にあってもよく、5〜40ppmの範囲にあってもよい。精製操作(特に蒸留)の性能を考慮した上で、当業者が適宜、この目標値を設置すればよい。
【0073】
蒸留搭の段数は、目標とするHCFC−123の量に応じて変わるが、例えば、2以上、50以下であればよい。中でも、3以上、30以下が好ましく、5以上、20以下がより好ましい。
【0074】
蒸留塔に充填する充填物としては、規則性充填物、不規則性充填物の何れも利用できる。規則性充填物としては、通常用いられるもので良く、例えば、スルザーパッキング、メラパック、テクノパック、フレキシパック等が挙げられる。不規則性充填物としては、通常用いられるもので良く、例えば、ヘリパック、ラシヒリング、ディクソンパッキング等が挙げられる。
【0075】
還流比は0.5〜8.0、好ましくは0.5〜7.0、より好ましくは0.5〜6.0である。
【0076】
なお、ヘキサフルオロアセトンとしてHFA・3水和物を用いる場合には、当該成分はボトム成分となるので、ボトム中に含まれるHCFC−123の量を、ガスクロマトグラフィーにより定量分析しながら蒸留等の精製を行い、HCFC−123の含有量が、予め定めた120ppm以下の目標値にまで低減されたのを確認するまで、精製操作を続けるのが好ましい。
【0077】
ガスクロマトグラフィーで定量分析を行う際のカラムの種類は、カラム充填剤としてシリカゲル、活性炭、ゼオライト等の吸着作用のある固体、もしくは合成シリカなどに不揮発性の液体を吸着させて含浸させたものを固定相としてカラムに充填させた「パックドカラム」と、または、溶融シリカ等の中空細管の内周面に吸着剤等の固定相を塗布もしくは化学結合した「キャピラリーカラム」を用いると良い。
【0078】
なお、本工程では、パックドカラムを用いる際は、カラム充填剤としてシリカゲル、活性炭、またはゼオライトを、キャピラリーカラムを用いる際は、ポリジメチルシロキサン等の無極性の固定相や、ポリエチレングリコール等の高極性の固定相を用いると良い。
【0079】
なお、HCFC−123の含有量は、ガスクロマトグラフィーでの定量分析により求められる、“ピーク面積値”から計算できる。例えば、水素炎イオン化検出器(Flame Ionization Detector; FID)を備えたガスクロマトグラフィー装置を用いて分析し、全てのピーク面積の合計(100%)に対するHCFC−123のピーク面積の割合(%)として計算できる。
【0080】
ガスクロマトグラフィーで定量分析を行うにあたり、移動相については慣用の気体(窒素、アルゴン、水素、ヘリウム等)が利用できる、また、カラム温度、移動相のガスの圧力、移動相の流量、カラムの長さ等は特に制限はなく、当業者が適宜調整できる。
【0081】
なお、「第3工程」に関するこれまでの説明では、HFAを、取り扱いが最も容易な「HFA・3水和物」に変換(水和処理)してから、精密蒸留を行う方法を提示したが、水和処理を行わず、無水HFAの状態のまま、そこからHCFC−123を除去する、という態様も、本発明の範囲から除外されるものではない。但しこの場合、無水HFA(沸点−28℃)の方が、HCFC−123(沸点28℃)よりも沸点が低いという点に留意する必要がある。つまり、無水HFAとHCFC−123を蒸留によって分離しようという場合、留分が目的物(無水HFA)であり、HCFC−123がボトムに濃縮される。そして、このような低沸点化合物どうしを蒸留で分離するためには、加圧条件で蒸留を行う、或いは、低温に制御した条件で蒸留を行うなど、特別な工夫が必要となる。つまり、無水HFAを用いて第3工程を実施するという態様は、操作上、設備上の負担の大きいものであるから、本発明の最適な実施形態とは言えない。
【0082】
本発明では、「第3工程」のうちでも、特に好ましい実施態様の一つを「第3a工程」と呼ぶ。「第3a工程」は以下の通りである。
【0083】
[第3a工程]
第2工程により得られた該混合物に水を接触させることにより、該混合物中に含まれるヘキサフルオロアセトンをヘキサフルオロアセトン・3水和物に変換し、続いて、精留搭に該混合物を供給し、理論段数を2以上、50以下、かつ、還流比を0.5〜8.0として蒸留を実施し、ガスクロマトグラフィーにより該混合物に含まれる1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が120ppm以下となることを確認するまで蒸留を続け、1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量が120ppm以下である「精製済みのヘキサフルオロアセトン・3水和物」を得る工程。
【0084】
[第4工程]
次に、第4工程について説明する。第4工程は、第3工程で得られた「精製済みのヘキサフルオロアセトン」に対し、触媒の存在下、水素(H2)を接触させて水素化すること
によりヘキサフルオロイソプロパノールを合成する工程である。
【0085】
第4工程の水素化反応は、従来既知の操作法、条件をそのまま適用して実施できる。従来と異なっているのは、原料のHFA中に、HCFC−123が120ppm以下しか含まれていないということである。そしてそれによって、他の条件が全く同一であっても、反応中盤〜終盤にかけての反応速度の低下が有意に抑制されるので、特に、HFAの反応変換率の高い状態まで反応を続行する場合に、反応の所用時間が、大きく短縮できるという効果を生じる。
【0086】
本工程は、ヘキサフルオロアセトンを3水和物として、液相反応として行うと、穏和にしかも、触媒活性高く、実施できるため、好ましい。前記第3工程では、HFAが「無水HFA」であることも想定して記載を行ったが、第4工程では、「精製済みのHFA」が仮に無水HFAであれば、第3工程のところに記載した方法に倣って、3水和物に変換してから、第4工程の水素化を行うことが好ましい。
【0087】
以下では、原料として用いる「精製済みのヘキサフルオロアセトン」を「HFA・3水和物」として、液相反応につき、説明を行う。
【0088】
本工程においては、触媒としては、いわゆる「水素化触媒」として知られる各種触媒を使用できる。具体的には、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)およびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を担体に担持した「担持触媒(不均一触媒、あるいは固相触媒とも呼ばれる)」が、触媒活性が高く、特に好ましい。これらの金属成分が液相に溶解あるいは懸濁状態で分散した、いわゆる「均一触媒」も使用可能であるが、「担持触媒」の使用がより好ましい。「担持触媒」を使用する場合、反応終了後の反応混合物(液体)から触媒(固体)を分離・再利用する操作が容易であるというメリットもある。
【0089】
前記金属としては、パラジウム、ルテニウムが、活性が高いことから、特に好ましい。金属の化学的な形態としては、ゼロ価金属、または酸化物、水酸化物、塩化物などが挙げられ、またはこれらの金属を含む錯体であってもよく、金属の酸化数は限定されない。
【0090】
担体としては、活性炭やアルミナが取り扱いやすく、入手も容易であるので好ましい。
【0091】
担持量は、触媒質量に対し金属換算して0.0001〜30質量%であり、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。具体的には、市販されている0.1〜5質量%程度のパラジウム担持活性炭触媒または0.1〜5質量%担持ルテニウム担持活性炭触媒が特に好ましいものとして挙げることができる。
【0092】
触媒の粒径は特に限定されないが、触媒を懸濁させるのに適した形状が好ましく、触媒の系内での分布の均一化を容易にし、反応物と触媒の接触を多くするように、微粉末状の触媒を使用するのが好ましい。また、反応後触媒を回収して再使用し、または生成物から分離するのにも微粒子であることが好ましい。これらの触媒の調製方法は公知の方法を採用でき、市販されている触媒をそのまま又は乾燥もしくは活性化処理(例えば、調製された触媒に対して、25〜200℃で、H2ガスを接触させる処理)をして使用してもよい。
【0093】
触媒の量には特段の制限はなく、HFAの無水物1質量部に対して、触媒(金属成分と担体の合計の量。また複数の触媒を用いるときはその合計の量)は通常0.00001〜0.1質量部であり、0.0005〜0.03質量部が好ましく、0.001〜0.01質量部がより好ましい。
【0094】
本工程においては、PdやRuなどの有効金属成分の量(ヘキサフルオロアセトンに対するモル%)が、より重要な尺度である。但し、この水素化反応では触媒の完全な失活は生じにくいから、この有効金属成分の量にも特段の制限はなく、求められる反応時間との兼ね合いで、当業者が設定できる。例えばヘキサフルオロアセトンに対し、これらの金属の量(複数種の金属が用いられている場合は、その合計)は、0.0001モル%〜50モル%の範囲で設定することができ、0.001モル%〜1モル%であるとより好ましく、0.002モル%〜0.5モル%であるとさらに好ましい。
【0095】
既に述べたように、この水素化反応を、過水素化物であるTFAの副生を伴わないように実施するためには、パラジウムとルテニウムを有効成分として併用した触媒を用いることが好ましい。具体的には、第4工程の水素化は、「パラジウム及びルテニウムを同一担体に担持させた触媒」及び「パラジウムを担体に担持させた触媒とルテニウムを担体に担持させた触媒を混合させた触媒」からなる群より選ばれる、少なくとも1種の触媒の存在下、行うことが好ましい。例えば、Pd/アルミナ担持触媒(Pd/活性炭担持触媒でも良い)とRu/アルミナ担持触媒(Ru/活性炭担持触媒でも良い)を、「HFAに対してPdが0.001mol%〜0.25mol%、かつRuが0.001mol%〜0.25mol%になる」ように、添加量を調整するのは、特に好ましい態様の1つである(後述の実施例も参照)。
【0096】
尤も、こうした「触媒の種類の最適化」「触媒量の最適化」と、「HCFC−123の量」はお互い、全く別個独立のものであり、触媒の種類や量を最適化した場合であっても、水素化反応開始時におけるHCFC−123の量が120ppmを超えている場合と、120ppm以下の場合とでは、「反応中盤〜終盤の反応速度」には、有意な差異が生じる(このことを、後に実施例と比較例によって、例証する)。
【0097】
本工程は、反応系内にあらかじめ少量の「受酸剤(塩基性物質)」を加えて反応を開始すると、反応速度は有意に増大するため、好ましい。HFAの水素化反応が進行するにつれて、反応液中に塩化水素、フッ化水素等の酸成分(触媒毒になりうる)が増えてくるが、受酸剤はこれらを速やかに中和するため、触媒失活が起こりにくくなり、速度の増大につながったと考えられる。
【0098】
塩化物イオンを効率的に低減させる為の受酸剤としては、アルカリ金属の炭酸塩もしくは該金属の炭酸水素塩、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられるが、アルカリ金属の炭酸塩もしくは該金属の炭酸水素塩が好ましい。
【0099】
また、フッ化物イオンの低減に対しては、周期表13族に属する金属の水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩等が挙げられる。
【0100】
アルカリ金属の炭酸塩もしくは該金属の炭酸水素塩の具体例としては炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウムなどが挙げられる。また、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0101】
これらのうち、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウムが好ましく、炭酸水素ナトリウムが特に好ましい。
【0102】
一方、周期表13族に属する金属の水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、水酸化アルミニウム、水酸化ガリウム、水酸化インジウム、炭酸アルミニウム、炭酸水素アルミニウム、炭酸ガリウム、炭酸水素ガリウム等が挙げられる。
【0103】
なお、フッ化物イオンを効率よく低減させる方法として、マグネシウムアルミネート等の複合金属水酸化物(例えば、化学式で「MgxAly(OH)z・X・nH2O」(Xは陰イオン源、nは正の整数、x、y、zは各イオンの数)で示されるもの等)の利用も効果的である。例えば、「ハロゲンキラー」(登録商標;ホーリュウ化学株式会社製)は、商用的にも入手しやすい為、これを用いるのが簡便である。
【0104】
本工程においては、受酸剤として「アルカリ金属の炭酸塩もしくは該金属の炭酸水素塩」と「周期表13族に属する金属の水酸化物」を併用することが、特に好ましい態様の1つである。
【0105】
これらの受酸剤の添加量については特に制限はなく、反応の進行を見計らいながら、また、原料のヘキサフルオロアセトンに含まれるHCFC−123の量に応じて当業者が適宜調整できるが、ヘキサフルオロアセトン1モルに対して、添加量は0.005モル〜0.1モルの範囲で加えることが好ましい。なお、これらは単独または1種以上を組み合わせて用いることができる(なお、複数種の受酸剤を用いる場合は、前記「添加量」は、全ての受酸剤の合計量を意味する)。
【0106】
また、これらの受酸剤は、均一に反応させるため、及び発熱による温度上昇を防ぐため、ヘキサフルオロアセトン・3水和物の液体に対し、攪拌を行いながら、少しずつ添加することが好ましい。
【0107】
繰り返しになるが、「受酸剤の存在」による反応速度の向上効果と、本発明者らが見出した「HCFC−123低減」による「反応中盤〜終盤の反応速度」低下の抑制効果」は、全く別個独立のものであり、両者のうち一方だけでも反応速度増大効果はあるが、両方とも備わっていると、さらに反応速度は増大し、一層好ましい(後の、実施例・比較例を参照)。
【0108】
本工程の反応温度は、通常80℃〜110℃であり、85℃〜105℃が特に好ましい。
【0109】
80℃未満では反応速度が小さくなり、110℃を超えると副反応が生じる恐れがあり、触媒寿命が短くなる恐れもある。
【0110】
また、本工程の反応圧力は0.05〜5MPaであり、0.1〜1MPaが好ましく、0.1〜0.5MPaがより好ましい。0.05MPaより小さい場合は、反応速度が小さくなることがある。一方、5MPaより高い圧力で反応を行うと、反応容器に制約が生じることがある。
【0111】
本工程は、溶媒を用いて反応を行うことが可能である。本工程の原料や生成物と反応することがなければ特段の制限はなく、例えば、本発明の方法の生成物であるヘキサフルオロイソプロパノールや、水、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類などが例示できる。また、これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0112】
しかし、後述の実施例に示すように、第4工程の原料としてヘキサフルオロアセトン・3水和物を用いる場合、このヘキサフルオロアセトン・3水和物自体が、流動性の高い安定な液体であるので、溶媒を別途添加しなくとも、水素化は十分に進行する。したがって、通常は、第4工程は、溶媒を添加することなく、実施すれば良い。尤も、たとえ溶媒を添加しなくとも、水素化反応が進行し、ヘキサフルオロアセトン・3水和物がヘキサフルオロイソプロパノールに変換するにつれ、ヘキサフルオロアセトン・3水和物の水分子が系内に開放され、結果的に系内には水が存在することになる。
【0113】
本工程のヘキサフルオロイソプロパノールの合成については、バッチ式、半バッチ式、連続式または流通式のいずれかの形式でも実施できる。装置の材質は、ステンレス鋼、ニッケル合金鋼、銀、フッ素樹脂、炭素、ポリウレタンまたはこれらの材質でライニングされもしくはクラッドされた金属材料が使用できる。
【0114】
なお、反応器は、攪拌機を備えたものが好ましいが、必須ではない。通常は温度調節可能なように加熱装置および/または冷却装置を備えることが好ましく、特に冷却装置を備えるのが好ましい。
【0115】
反応器への原料の投入の順序は限定されないが、前述のヘキサフルオロアセトンと触媒を投入し、アルカリ金属の炭酸塩もしくは該金属の炭酸水素塩を反応系内に加えた後、攪拌しながら水素ガスを導入して所定の圧力に保ち、かつ上述した温度範囲を維持しながら、水素ガスの導入を続ければよい。
【0116】
反応の終了時期は、水素の所定量の消費または吸収停止で確認してもよい。しかしながら、初めに記した通り、本反応の原料であるHFAは大変高価な試薬であるので、HFAの変換率が98〜100%に至るまで反応を続行することが、特に好ましい。このような「終盤期」になると、どれだけ優れた条件であっても、反応の進行が非常に遅くなることは避けられない。すなわち、見かけ上「水素の消費が非常に遅くなった」というだけでは、「反応が完結した」ことの確実な証拠とはなりにくい。したがって、とりわけ大量規模で第4工程を実施するに際しては、反応混合物の採取を随時行いながら、HFAの変換率をガスクロマトグラフィー等で測定し、当該変換率が予め定めた数値に達したところで、反応を停止することが、より好ましい。
【0117】
反応完了後、反応器内の内容物は目的物であるヘキサフルオロイソプロパノールと他の有機物、触媒とを含む反応混合物であるが、該混合物から触媒を含まない液体成分を取り出し、さらに、その液体成分から蒸留によりヘキサフルオロイソプロパノールを分離回収することができる。
【0118】
なお、該反応混合物からの触媒の分離は、これまで詳述してきた「担持触媒」の場合には、ろ過によるのが好ましい。また、通常、触媒は再使用できるため、反応器から内容物を移液する際に反応器内に残存させるのが効率的で好ましい。
【0119】
第4工程の中でも、特に好ましい実施態様の1つを[第4a工程]と呼ぶ。その内容は次の通りである。
【0120】
[第4a工程]
第3a工程により得られた、「精製済みのヘキサフルオロアセトン・3水和物」に対し、「パラジウム及びルテニウムを同一担体に担持させた触媒」及び「パラジウムを担体に担持させた触媒とルテニウムを担体に担持させた触媒を混合させた触媒」からなる群より選ばれる、少なくとも1種の触媒の存在下、
アルカリ金属の炭酸塩もしくは炭酸水素塩を、ヘキサフルオロアセトン水和物1モルに対し0.005モル〜0.1モル共存させ、
水素(H2)を接触させて水素化することにより、
ヘキサフルオロイソプロパノールを製造する工程。
【0121】
[第5工程]
次に、第5工程について説明する。第5工程は、第4工程で製造したヘキサフルオロイソプロパノールに対し、ホルムアルデヒドとフッ化水素とを、ブレンステッド酸またはルイス酸の存在下で反応させることで、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)を製造する工程である。
【0122】
本工程で用いるホルムアルデヒドは、パラホルムアルデヒド(ホルムアルデヒド重合体、HO−(CH2O)n−H、n=2〜100)およびトリオキサン(ホルムアルデヒドが3分子重合したもの、1,3,5−トリオキサン)等の等価体も含む概念である。
【0123】
ホルムアルデヒドはそれ自身、常温・常圧で気体(ガス)であり、少量の不純物の存在で直ちに重合する等、取り扱いに制限も多い。その為、取り扱いが容易なパラホルムアルデヒドまたはトリオキサンが好ましく用いられるが、パラホルムアルデヒドが特に好ましい。
【0124】
本発明で用いるブレンステッド酸は、プロトン(H+)供与体のことを言うが、おおむね、酸解離定数(pKa)が3以下であり、好ましくは2以下のものである。
【0125】
具体的には、硫酸、発煙硫酸、硝酸、無水硫酸、臭化水素、ヨウ化水素、プロピオン酸、p−トルエンスルホン酸、トリクロロ酢酸、トリブロモ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸またはトリフルオロメタンスルホン酸等である。これらの中でも、硫酸、発煙硫酸、無水硫酸、臭化水素、ヨウ化水素、トリフルオロ酢酸またはトリフルオロメタンスルホン酸が好ましく、硫酸、発煙硫酸、またはトリフルオロメタンスルホン酸がより好ましい。
【0126】
また、本工程で用いるルイス酸は、電子対受容体のことを言い、四塩化チタン、五フッ化リン、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、五フッ化アンチモン、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル錯体等である。
【0127】
ヘキサフルオロイソプロパノール1モルに対するホルムアルデヒドと、フッ化水素と、ブレンステッド酸もしくはルイス酸とのモル数は、それぞれ、ホルムアルデヒド0.5〜2.0モル、フッ化水素3.0〜12.0モル、ブレンステッド酸もしくはルイス酸0.7〜3.0モルであるが、目的物の収率を高め、副反応を抑制するためには、それぞれ、ホルムアルデヒド0.78〜1.65モル、フッ化水素6.05〜9.50モル、ブレンステッド酸もしくはルイス酸0.90〜1.74モルで反応を行うのが好ましい。
【0128】
これらのブレンステッド酸やルイス酸の中から、複数種類のものを併用することもできる。
【0129】
フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの製造工程は、バッチ式、半バッチ式、連続式または流通式のいずれかの形式でも実施できる。
【0130】
反応器については、本工程で用いる反応容器としては、ステンレス鋼、モネルTM、ハステロイTM、ニッケルなどの金属製容器や、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ポリプロピレン樹脂、そしてポリエチレン樹脂などを内部にライニングしたもの等、常圧又は加圧下で十分反応を行うことができる反応器を使用することができる。
【0131】
なお、本工程では、攪拌機を備えた反応器を用いることができ、それが好ましい。
【0132】
本工程における反応圧力は、概ね0.05〜5.0MPaの範囲であるが、設備の面でも負荷がかからない常圧付近で行うことが好ましい。すなわち、上記圧力範囲のうち、0.05〜2.0MPaが好ましく、0.08〜0.5MPaがより好ましい。なお、開放系(つまり常圧)で反応を行うことは、本工程の特に簡便で好ましい実施態様と言える。
【0133】
本工程における反応温度は、概ね40℃〜100℃の範囲であるが、50〜80℃が好ましく、50℃〜70℃が特に好ましい。
【0134】
なお、本工程を常圧開放系で実施する場合、HFIPやセボフルランの常圧における沸点が57〜58℃であるので、反応のごく終盤を除くと、反応温度は、HFIPとセボフルランの沸点(57〜58℃)よりも大幅には上げにくい。そして実施例に示す通り、HFIPとセボフルランでは、セボフルランの方が先に留分となる。こうしたことから、第5工程を常圧開放条件で行う場合は、室温程度から反応を開始し、徐々に昇温していき、「セボフルランは留出するが、HFIPは留出しない温度(反応進行度によって異なるが、概ね50〜60℃の範囲内)」を保つようにし、その間生成するセボフルランを留分としてトラップに回収する、という方法が好ましい。終盤に近づいたら、温度をこれより徐々に上げ、70〜75℃にまで昇温することができ、そうすることによって反応変換率を一層高められる。尤もこのような反応温度の設定は、当業者が適宜調整できる。
【0135】
なお、反応試剤の仕込み時もしくは反応直後は、やや大きな熱が発生することがある為、温度調節可能なように加熱装置および/または冷却装置を備えることが好ましく、特に冷却装置を備えるのが好ましい。
【0136】
本工程における反応時間は、通常、2〜24時間の範囲であるが、反応温度や反応試剤の当量にも依存するため、必ずしもこの範囲に限られるものではない。上記のように、常圧開放条件で反応を行う場合は、セボフルランの留出が終わった時点で反応を終了しても良い。一方、核磁気共鳴装置(NMR)ガスクロマトグラフィー(GC)等の分析機器を使用し、反応変換率が所定の値に達したのを確認した時点で、反応の終点とすることもできる。
【0137】
本工程では、得られたフルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルは、蒸留操作を用いて精製するのが好ましい。すなわち、得られた反応混合物を水洗することで、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノールを含む水層と、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルとを含む有機相とを含む二層混合液を得、続いて、該混合液より1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノールを含む水層を分離除去し、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを含む有機層を蒸留することで、高純度のフルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを単離できる。
【0138】
[実施例]
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。なお、後述する実施例及び表中、「HCFC−123」は「1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタン(CF3CHCl2)」を、「TFIP」は「1,1,1−トリフルオロイソプロパノール」を、「HFA」は「ヘキサフルオロアセトン」を、「HFIP」は「ヘキサフルオロイソプロパノール」を、「TeFIP」は「テトラフルオロイソプロパノール」を、「PFIP」は「ペンタフルオロイソプロパノール」を表す。
【0139】
[調製例]ヘキサフルオロアセトン・3水和物の製造
ジャケットを備えた1dm3のGL製(グラスライニング製)反応器にアセトン300g(5.17mol)、キノリン1.85g(0.01431mol)を入れ、塩素ガス2262g(31.90mol)を徐々に吹き込みつつ、反応容器を185℃まで徐々に加温し、そのまま数時間攪拌した。得られた反応液を蒸留し、ヘキサクロロアセトンを1268g(4.79mol)得た(純度 99.5%;塩素化反応収率92.6%;なお、当該アセトンの他、ペンタクロロアセトンが少量検出されたが、このまま次のフッ素化工程にそのまま用いた)。
【0140】
続いて、ジャケットを備えたステンレス製反応器に酸化クロム(III)(Cr23)触媒を充填させ、上記で得られたヘキサクロロアセトン1268g(4.79mol)と、無水フッ化水素酸1013g(50.65mol)を40時間かけて導入して360℃でフッ素化反応を行った。得られた粗ヘキサフルオロアセトンを水に吸収させることにより粗ヘキサフルオロアセトン・3水和物を959g(4.36mol)得た(フッ素化反応収率91.0%)。このときの粗ヘキサフルオロアセトン・3水和物中のHCFC−123の含有量は3550ppmであった。
【0141】
なお、この調製例で製造する粗ヘキサフルオロアセトン・3水和物の合成を、後述する実施例及び比較例で出発原料として用いる為、それぞれ複数回行った。
【0142】
次に、このようにして得た粗ヘキサフルオロアセトン・3水和物に対し、単蒸留及び精密蒸留を行った。精密蒸留については、粗ヘキサフルオロアセトン・3水和物に含まれるHCFC−123の、水素化反応における速度の影響を確認する為、蒸留条件として理論段数10、還流比0.2〜5.0とし、実施例及び比較例に示すように、予め定めた目標値にまでHCFC−123が低減されるのを確認するまで、ガスクロマトグラフィーにより定量分析を行いながら蒸留操作を継続させ、「所定量(7ppm〜198ppm)のHCFC−123を含むヘキサフルオロアセトン・3水和物」を調製した。
【0143】
実施例及び比較例の、精密蒸留における還流比とHCFC−123の含有量を以下の表1に示す。
【0144】
【表1】
【0145】
これらをヘキサフルオロイソプロパノールの合成における出発原料に利用した。
【実施例1】
【0146】
攪拌装置を備えた5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)4.1kg[(18.63mol)、該水和物及び他の不純物の組成は後述の表2に示す。なお、反応開始前のHCFC−123の含有量は119ppmである。]を入れ、5%−Pd/アルミナ担持触媒(8g) 0.195質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(5g)0.122質量%、水酸化アルミニウム(5g)0.122質量%、そして炭酸水素ナトリウム(0.6g)0.0146質量%を添加した。容器内を水素で置換し温水にて95℃に昇温すると共に水素圧力を0.7MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。
【0147】
12時間後に反応液を分析したところHFA水和物の変換率は95.46%であった。また、HFIPのGC純度は94.76%、TFIPが0.6275%、HFAが4.54%であった。
【0148】
引き続き、反応液を分析しながら反応を行い、開始から18時間後に、HFAのGC純度が0.95%(HFA水和物の変換率は99.05%)となったので、加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。このときのHFIPのGC純度は98.23%、TFIPが0.7544%、HFAが0.95%であった。なお、実施例1、2、比較例1では、HCFC−123の量以外の条件を揃えて反応を行い、「HFAの反応変換率99%」を確認した時点を以って反応終了と扱い、それまでに要した時間を比較することとした。
【0149】
結果を以下の表2に示す。本実施例のように、HCFC−123の量が119pppmと、120ppmの境界を僅かに下回る場合、終点までに要した時間は「18時間」であった。後述の実施例2と比べると反応時間が長くなっているとは言え、後述の比較例1(26時間)と比べると、反応時間は相当に短縮されていることが分かる。
【0150】
【表2】
【0151】
なお、ここで得た粗HFIPを常圧蒸留したところ、純度99.99%以上のHFIPが2974g回収された。この時の総収率は95.0%であった。
【実施例2】
【0152】
攪拌装置を備えた5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)4.1kg[(18.63mol)、該水和物及び他の不純物(HCFC−123も含む)の組成比は後述の表3に示す。なお、反応開始前のHCFC−123の含有量は7ppmである。]を入れ5%−Pd/アルミナ担持触媒(8g) 0.195質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(5g)0.122質量%および水酸化アルミニウム(5g)0.122質量%、炭酸水素ナトリウム(0.2g)0.0488質量%を添加した。容器内を水素で置換し温水にて95℃に昇温すると共に水素圧力を0.7MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。8時間後に反応液を分析したところHFA水和物の変換率は95.45%であった。また、HFIPのGC純度は94.71%、TFAが0.0039%、TFIPが0.6800%、HFAが4.55%であった。
【0153】
引き続き、反応液を分析しながら反応を行い、HFAのGC純度が1.00%となった時点で加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。ここまでの反応時間(反応開始〜反応終了時)は12時間であり、HFA水和物の変換率は99.00%であった。また、HFIPのGC純度は98.09%、TFIPが0.7643%、HFAが1.00%であった。
【0154】
結果を以下の表3に示す。HFA水和物に含まれるHCFC−123の量が7ppmの場合、前述の実施例1と比べ、「反応終盤における反応速度の低下」が、HCFC−123の含有量の低減により、さらに顕著に抑制され、その結果、12時間という短時間で、反応は終了した。「HCFC−123が120ppm以下で水素化を開始すること」かつ「受酸剤を共存させること」をともに満たす場合には、反応速度は特に増大することを示す結果である。
【0155】
【表3】
【0156】
ここで得た粗HFIPを常圧蒸留したところ、純度99.99%以上のHFIPが2985g回収された。この時の総収率は95.35%であった。
【0157】
次に、以下の[実施例3]〜[実施例8]については、8時間で反応を終了し、終了後のGC純度(%)を基に、後述の[比較例2]〜[比較例3]と効果を比べるものとする。
【実施例3】
【0158】
攪拌装置を備えた0.5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)200g[(0.91mol)、HCFC−123は12ppm含まれる]を入れ、5%−Pd/アルミナ担持触媒(0.4g) 0.2質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(0.24g)0.12質量%を添加した。容器内を水素で置換しオイルバスにて95〜99℃に昇温させ、水素圧力を0.70〜0.71MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。
【0159】
反応時間が8時間のところで加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。
HFA水和物の変換率は95.5%であった。また、反応液のGC純度は、TFIPが0.366%、HFIPが92.584%、PFIPが0.108%、TeFIPが0.040%、及びHFAが4.49%であった。また、この反応におけるHFIPの選択率は99.4%であった。
【0160】
実施例3は、受酸剤を添加しないで、水素化反応を行った例であるが、ヘキサフルオロアセトン水和物中に含まれるHCFC−123が12ppmの場合、後述の[比較例2]〜[比較例3]と比べ、HFA水和物の変換率が向上していることが判る。つまり、受酸剤を加えなくとも、HCFC−123の含有量を低減することにより「反応終盤における反応速度の低下」を、抑制できることが確認できた。
【実施例4】
【0161】
攪拌装置を備えた0.5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)200g[(0.91mol)、HCFC−123は12ppm含まれる]を入れ、5%−Pd/アルミナ担持触媒(0.4g) 0.2質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(0.24g)0.12質量%、水酸化アルミニウム(0.24g)0.12質量%、炭酸水素ナトリウム(0.004g)0.002質量%を添加した。容器内を水素で置換しオイルバスにて94〜97℃に昇温させ、水素圧力を0.70〜0.71MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。
【0162】
反応時間が8時間のところで加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。
HFA水和物の変換率は96.4%であった。また、反応液のGC純度は、TFIPが0.573%、HFIPが95.662%、PFIPが0.140%、TeFIPが0.066%、及びHFAが3.559%であった。また、この反応におけるHFIPの選択率は99.2%であった。
【0163】
このように、後述の[比較例2]〜[比較例3]と比べ、HFA水和物の変換率が非常に高いことが確認できる。
【0164】
また、本実施例4は、受酸剤が存在するという点だけで実施例3と相違するが、受酸剤の存在によって、実施例3よりもさらに反応速度が増大していることが認められる。(実施例5〜8との対比を行っても、HFA水和物の変換率が非常に高いのは言うまでもなく)。受酸剤の添加による「反応速度の増大」と、HCFC−123の含有量を12ppmまで低減させたことによる「反応終盤における反応速度の低下の抑制」は、別個独立の効果であることが、強く示唆される。
【実施例5】
【0165】
攪拌装置を備えた0.5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)200g[(0.91mol)、HCFC−123は52ppm含まれる]を入れ、5%−Pd/アルミナ担持触媒(0.4g) 0.2質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(0.24g)0.12質量%を添加した。容器内を水素で置換しオイルバスにて95〜97℃に昇温させ、水素圧力を0.70〜0.71MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。
【0166】
反応時間が8時間のところで加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。
HFA水和物の変換率は93.6%であった。また、反応液のGC純度は、TFIPが0.331%、HFIPが93.061%、PFIPが0.112%、TeFIPが0.042%、及びHFAが6.449%であった。また、この反応におけるHFIPの選択率は99.5%であった。
【実施例6】
【0167】
攪拌装置を備えた0.5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)197.52g[(0.90mol)、HCFC−123は46ppm含まれる]を入れ、5%−Pd/アルミナ担持触媒(0.4g) 0.2質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(0.24g)0.12質量%、水酸化アルミニウム(0.24g)0.12質量%、炭酸水素ナトリウム(0.004g)0.002質量%を添加した。容器内を水素で置換しオイルバスにて94〜98℃に昇温させ、水素圧力を0.71〜0.72MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。
【0168】
反応時間が8時間のところで加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。
HFA水和物の変換率は94.6%であった。また、反応液のGC純度は、TFIPが0.655%、HFIPが93.775%、PFIPが0.129%、TeFIPが0.063%、及びHFAが5.378%であった。また、この反応におけるHFIPの選択率は99.1%であった。
【実施例7】
【0169】
攪拌装置を備えた0.5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)200.02g[(0.91mol)、HCFC−123は106ppm含まれる]を入れ、5%−Pd/アルミナ担持触媒(0.4g) 0.2質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(0.24g)0.12質量%を添加した。容器内を水素で置換しオイルバスにて95〜96℃に昇温させ、水素圧力を0.70〜0.71MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。
【0170】
反応時間が8時間のところで加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。
HFA水和物の変換率は91.9%であった。また、反応液のGC純度は、TFIPが0.332%、HFIPが91.420%、PFIPが0.109%、TeFIPが0.041%、及びHFAが8.097%であった。また、この反応におけるHFIPの選択率は99.5%であった。
【実施例8】
【0171】
攪拌装置を備えた0.5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)200.02g[(0.91mol)、HCFC−123は106ppm含まれる]を入れ、5%−Pd/アルミナ担持触媒(0.4g) 0.2質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(0.24g)0.12質量%、水酸化アルミニウム(0.24g)0.12質量%、炭酸水素ナトリウム(0.004g)0.002質量%を添加した。容器内を水素で置換し温水にて95〜97℃に昇温させ、水素圧力を0.70〜0.71MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。
【0172】
反応時間が8時間のところで加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。
HFA水和物の変換率は94.9%であった。また、反応液のGC純度は、TFIPが0.515%、HFIPが94.196%、PFIPが0.126%、TeFIPが0.057%、及びHFAが5.108%であった。また、この反応におけるHFIPの選択率は99.3%であった。
【0173】
以上、[実施例3]〜[実施例8]については、後述の[比較例2]〜[比較例3]と比較することで、HFA水和物の変換率が高いことが確認できる。また、[実施例3]〜[実施例4]は、[実施例5]〜[実施例8]と比べて更にHFA水和物の変換率が高い。これは「受酸剤を添加」し、「HCFC−123の含有量を所定の量以下に低減する」という条件を採用し、かつ、HCFC−123の量を、より好ましい範囲(5ppm〜40ppm)まで低減させることで、反応の終盤における反応速度の低下を効果的に抑制できているものと考えられる。
【0174】
[比較例1]
実施例1で用いた出発原料のうち、HFA水和物(3水和物)としてHCFC−123の含有量が144ppmであるものを用い、また、炭酸水素ナトリウムを反応系内に0.2gを加えた他は、実施例1と同様の条件、操作を行った。
【0175】
反応液を分析しながら反応を行い、HFAのGC純度が1.00%となった時点(反応変換率=99%)で加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。ここまでの反応時間(反応開始〜反応終了時)は26時間であり、実施例1,2と、HCFC−123の量以外は、同一の条件なのにも関わらず、反応時間はかなり長くなっている。また、HFIPのGC純度は98.38%、TFIPが0.5473%、HFAが1.00%であった。
【0176】
結果を以下の表4に示す。このように、仮に受酸剤を添加したとしても、HCFC−123の量が120ppmを超えている場合、実施例1や実施例2と比べて反応時間が長くなっていることがわかる。このことは、本発明の課題で述べた「反応終盤における反応速度の低下」が、「水素化反応における受酸剤の添加」とは関係なく、HCFC−123の含有量に左右されることがわかる。
【0177】
【表4】
【0178】
次に、以下の比較例2と比較例3については、前述の実施例3〜実施例8と同様、8時間で反応を終了し、終了後のGC純度(%)を基に効果を比べるものとする。
【0179】
[比較例2]
攪拌装置を備えた0.5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)200g[(0.91mol)、HCFC−123は130ppm含まれる]を入れ、5%−Pd/アルミナ担持触媒(0.4g) 0.2質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(0.24g)0.12質量%を添加し、容器内を水素で置換しオイルバスにて96℃に昇温すると共に水素圧力を0.7MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。
【0180】
反応時間が8時間のところで加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。
HFA水和物の変換率は86.78%であった。また、反応液のGC純度は、TFIPが0.285%、HFIPが86.30%、HFAが13.22%であった。
【0181】
このように、HCFC−123が130ppmの場合、反応時間が8時間のところでの反応液のGC純度は、実施例3〜実施例8と比べてHFA水和物の変換率が下がっていることがわかる。このことは、「水素化反応における受酸剤の添加」の有無とは関係なく、HCFC−123の含有量が120ppmを超えると、反応終盤における反応速度が低下することを示唆している。
【0182】
[比較例3]
攪拌装置を備えた0.5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブにヘキサフルオロアセトン水和物(3水和物)196.55g[(0.91mol)、HCFC−123は198ppm含まれる]を入れ、5%−Pd/アルミナ担持触媒(0.4g) 0.2質量%(HFA水和物に対する質量%。以下同じ。)と5%−Ru/アルミナ担持触媒(0.24g)0.12質量%および水酸化アルミニウム(0.24g)0.12質量%、炭酸水素ナトリウム(0.004g)0.002質量%を添加した。容器内を水素で置換しオイルバスにて93〜96℃に昇温すると共に水素圧力を0.7MPaに保ち攪拌を開始すると水素の吸収が始まった。
【0183】
反応時間が8時間のところで加熱、攪拌を止め冷却し反応を終了させた。
HFA水和物の変換率は84.50%であった。また、反応液のGC純度は、TFIPが0.505%、HFIPが83.85%、HFAが15.50%であった。
【0184】
このように、HCFC−123が198ppmの場合、仮に受酸剤を加えたとしても、反応時間が8時間のところでの反応液のGC純度は、実施例3〜実施例8と比べてHFA水和物の変換率が下がっていることがわかる。このことは、HCFC−123の含有量が120ppmを大幅に超えると、反応終盤における反応速度がより低下していくことを示唆している。
【0185】
[参考例]ヘキサフルオロアセトン・3水和物の製造(粗ヘキサフルオロアセトン・3水和物に対し、単蒸留で精製した例)
攪拌装置を備えた0.5dm3のステンレス鋼(SUS−316製)オートクレーブに、前記調製例で製造した粗ヘキサフルオロアセトン・3水和物200g(0.91mol)を入れ、単蒸留装置を設置して、圧力0.05MPa、内温70℃〜75℃の温度で単蒸留を行った。
【0186】
その結果、ヘキサフルオロアセトン・3水和物の留分を170g得た。得られた留分についてガスクロマトグラフによりフッ化物イオンを定量分析したところ、ヘキサフルオロアセトン・3水和物中に含まれるHCFC−123は1504ppmであった。
【0187】
このように、ヘキサフルオロアセトン水和物を合成した後、単蒸留を行っても、HCFC−123は120ppm以下とはならないことがわかる。
【実施例9】
【0188】
95%パラホルムアルデヒド14.13g(0.42mol)、97%硫酸132.4g(1.35mol)、フッ化水素53.02g(2.65mol)、そして実施例1で得られたヘキサフルオロイソプロパノール43.69g(0.26mol)を、−15℃前後に冷却した捕集器(トラップ)を接続した反応容器に導入し、20℃で2〜3時間攪拌し、その後、5〜6時間かけて昇温させ、最終的に65℃〜75℃となるようにし、攪拌を続けた。この間、攪拌しながら、反応器内の生成物は徐々に留出してくる為、系外のトラップに生成物を捕集した。
【0189】
留出分がなくなった時点で反応を止め、生成物を集めたトラップ(フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルとを含む有機相)に対し、水、酸性水溶液、塩基性水溶液で洗浄し、未反応のヘキサフルオロイソプロパノール、フッ化水素が含まれる水層と、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルとを含む有機層とを含む二層混合液を得、続いて、該混合液より1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノールを含む水層を分離除去し、フルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルとを含む有機層を蒸留したところ、純度>99%でフルオロメチル ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを、34g(0.17mol)、収率65.06%で得た。
なお、HFIPの変換率は72.51%であった。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明の対象化合物であるヘキサフルオロイソプロパノールは、医農薬中間体、また、分析用溶媒、電子材料等の洗浄用溶剤等に利用できる。また、ヘキサフルオロイソプロパノールから誘導したセボフルランは、吸入麻酔薬等の医薬品として利用できる。
【要約】      (修正有)
【課題】ヘキサフルオロアセトンを原料とし、短い反応時間で高い変換率でヘキサフルオロイソプロパノールを製造できる方法、及び、それを用いたフルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテル(セボフルラン)の製造方法を提供する。
【解決手段】ヘキサフルオロイソプロパノールの製造方法であって、ヘキサフルオロアセトンと少なくとも1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物から1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの含有量を、精製することにより120ppm以下となるように低減させる工程と、触媒の存在下、ヘキサフルオロアセトンと少なくとも1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンを含む混合物に水素(H2)を接触させて水素化することによりヘキサフルオロイソプロパノールを合成する工程と、を含む、製造方法。
【選択図】なし