特許第6237883号(P6237883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237883
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】動力伝達装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/344 20060101AFI20171120BHJP
   F16F 15/126 20060101ALI20171120BHJP
   F16D 3/10 20060101ALI20171120BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B60K17/344 B
   F16F15/126 B
   F16D3/10
   F16D1/02 210
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-510069(P2016-510069)
(86)(22)【出願日】2015年1月14日
(86)【国際出願番号】JP2015050767
(87)【国際公開番号】WO2015146225
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年9月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-66678(P2014-66678)
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】大川 裕三
(72)【発明者】
【氏名】三戸 英治
(72)【発明者】
【氏名】日高 誠二
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−337562(JP,A)
【文献】 実開昭60−126756(JP,U)
【文献】 特開昭63−046924(JP,A)
【文献】 特開昭63−110031(JP,A)
【文献】 実開昭62−174136(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/344
F16D 1/02
F16D 3/10
F16F 15/126
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源に連絡されたトランスファ入力軸と、
上記トランスファ入力軸と直交する方向に延びるトランスファ出力軸と、
上記トランスファ入力軸の外周に設けられたトランスファドライブギヤと、
上記トランスファ出力軸の外周に設けられ、上記トランスファドライブギヤと噛み合うトランスファドリブンギヤとを有し、
前輪側から後輪側又は後輪側から前輪側へ動力を伝達する動力伝達装置であって、
上記トランスファ入力軸に入力される動力源側からのトルクの変動を吸収するダンパ機構が備えられ、
上記ダンパ機構は、少なくともその一部が平面視で上記トランスファ出力軸の延設方向に上記トランスファドリブンギヤとオーバーラップするように配置され、且つ上記トランスファ入力軸を挿通する車軸の外周と上記トランスファ入力軸の内周との間の空間に設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項に記載の動力伝達装置において、
上記トランスファ入力軸は、
動力源側からのトルクが入力される第1軸部材と、
上記第1軸部材の一端部から軸方向に延び、上記第1軸部材と周方向に相対回転可能に連結され、上記トランスファドライブギヤが外周に設けられた第2軸部材とを含み、
上記ダンパ機構は、
上記第2軸部材の径方向内側で上記第1軸部材の一端部から軸方向に延び、上記第1軸部材と一体に連結された内筒と、
上記第2軸部材の内周面に上記第2軸部材と一体に連結された外筒と、
上記内筒と上記外筒との間に介設された弾性部材とを含むことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項に記載の動力伝達装置において、
上記第1軸部材と上記第2軸部材との連結部に、両部材が所定の基準角度を超えて相対回転することを規制する規制部が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項に記載の動力伝達装置において、
上記第1軸部材と上記第2軸部材とはスプライン係合により連結され、第1軸部材のスプライン歯と第2軸部材のスプライン歯との間に回転方向に所定の基準量の間隙が形成され、第1軸部材と第2軸部材とが上記基準角度相対回転したときは第1軸部材のスプライン歯と第2軸部材のスプライン歯とが相互に当接することにより、上記規制部が構成されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の動力伝達装置において、
上記外筒の外周面に第1嵌合部が設けられ、
上記第2軸部材の内周面に第2嵌合部が設けられ、
上記第1嵌合部と上記第2嵌合部とが相互に嵌合することにより、上記外筒を含むダンパ機構の内筒に上記第1軸部材が一体に連結されたときに上記第1軸部材と上記第2軸部材との連結部に上記規制部が設けられるように、上記外筒と上記第2軸部材とが一体に連結されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1に記載の動力伝達装置において、
上記ダンパ機構は、少なくともその一部が平面視で上記トランスファ出力軸の延設方向に上記トランスファ出力軸とオーバーラップするように配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1又はに記載の動力伝達装置において、
上記ダンパ機構は、上記トランスファ入力軸の外周に設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項8】
動力源に連絡されたトランスファ入力軸と、
上記トランスファ入力軸と直交する方向に延びるトランスファ出力軸と、
上記トランスファ入力軸の外周に設けられたトランスファドライブギヤと、
上記トランスファ出力軸の外周に設けられ、上記トランスファドライブギヤと噛み合うトランスファドリブンギヤとを有し、
前輪側から後輪側又は後輪側から前輪側へ動力を伝達する動力伝達装置であって、
上記トランスファ入力軸に入力される動力源側からのトルクの変動を吸収するダンパ機構が備えられ、
上記ダンパ機構は、少なくともその一部が平面視で上記トランスファ出力軸の延設方向に上記トランスファドリブンギヤとオーバーラップするように配置され、且つ上記トランスファ入力軸の外周に設けられており、
上記ダンパ機構の上記トランスファ入力軸の軸方向の一方の側に差動装置が配置され、他方の側に上記トランスファドライブギヤが配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の動力伝達装置において、
上記ダンパ機構は、その外周端部が上記トランスファドライブギヤの内周端部よりも径方向内側に配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項10】
動力源に連絡されたトランスファ入力軸と、
上記トランスファ入力軸と直交する方向に延びるトランスファ出力軸と、
上記トランスファ入力軸の外周に設けられたトランスファドライブギヤと、
上記トランスファ出力軸の外周に設けられ、上記トランスファドライブギヤと噛み合うトランスファドリブンギヤとを有し、
前輪側から後輪側又は後輪側から前輪側へ動力を伝達する動力伝達装置であって、
上記トランスファ入力軸に入力される動力源側からのトルクの変動を吸収するダンパ機構が備えられ、
上記ダンパ機構は、少なくともその一部が平面視で上記トランスファ出力軸の延設方向に上記トランスファドリブンギヤとオーバーラップするように配置され、且つ上記トランスファ入力軸の外周に設けられており、
上記ダンパ機構は、
上記トランスファ入力軸の外周面に上記トランスファ入力軸と一体に連結された内筒と、
上記トランスファドライブギヤの内周面に上記トランスファドライブギヤと一体に連結された外筒と、
上記内筒と上記外筒との間に介設された弾性部材とを含み、
上記トランスファ入力軸の外周面に第1係合部が設けられ、
上記トランスファドライブギヤの内周面に第2係合部が設けられ、
上記第1係合部と上記第2係合部とが相互に周方向に相対回転可能に連結され、
上記第1係合部と上記第2係合部とが所定の基準角度を超えて相対回転することを規制する規制部が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項11】
請求項に記載の動力伝達装置の製造方法であって、
上記第1嵌合部と上記第2嵌合部とを相互に嵌合させることにより上記外筒と上記第2軸部材とを一体に連結する第1連結工程と、
上記第1連結工程の後、上記第1軸部材と上記第2軸部材との連結部に上記規制部が設けられるように、上記外筒を含むダンパ機構の内筒と上記第1軸部材とを一体に連結する第2連結工程とを有することを特徴とする動力伝達装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪側から後輪側又は後輪側から前輪側へ動力を伝達する動力伝達装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4輪駆動車には、前輪側から後輪側又は後輪側から前輪側へ動力を伝達する動力伝達装置が備えられる。例えば、エンジンが車体前部に搭載されている場合、エンジンの出力トルクはクラッチ又はトルクコンバータと変速機とを経由して前輪用差動装置(フロントデフ)に入力される。フロントデフに入力されたトルクは、左右の前輪用車軸を介して左右の前輪に伝達されると共に、フロントデフのデフケースを介して動力伝達装置に入力される。
【0003】
動力伝達装置(トランスファ)は、車幅方向に延びるトランスファ入力軸と車体前後方向に延びるトランスファ出力軸とを有する。トランスファ入力軸の外周にトランスファドライブギヤが設けられ、トランスファ出力軸の外周にトランスファドリブンギヤが設けられて、両ギヤが相互に噛み合っている。トランスファ入力軸は中空であり、その内部を上記前輪用車軸が挿通すると共に、トランスファ入力軸に上記デフケースが連結されてエンジン側からのトルクが入力される。トランスファ入力軸に入力されたトルクは、上記トランスファドライブギヤ及びトランスファドリブンギヤを経由してトランスファ出力軸に伝達され、トランスファ出力軸に連結されたプロペラシャフトを介して後輪側へ取り出される。
【0004】
このような動力伝達装置において、エンジンの出力トルクが変動すると、上記トランスファドライブギヤとトランスファドリブンギヤとの間で歯打ち音が発生し、騒音が生じるという問題がある。この問題に対処するため、特許文献1には、エンジン側からのトルクが入力される回転部材とトランスファドライブギヤとの間の動力伝達経路上に、金属製の圧縮コイルスプリングとゴム部材とを有するダンパ機構を介設することが記載されている。そして、コイルスプリングによりエンジン側からのトルク変動が吸収され、ゴム部材により後輪側からのトルク変動が吸収されて、いずれの場合もトランスファドライブギヤとトランスファドリブンギヤとの間で歯打ち音が発生することが抑制されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−337562号公報
【発明の概要】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の動力伝達装置では、ダンパ機構、トランスファドライブギヤ、及びトランスファドリブンギヤがこの順にトランスファ入力軸の軸方向に並んで配置されているため、当該動力伝達装置が上記軸方向に長くなり、大型化し、車載性が低下するだけでなく、ダンパ機構を備えない動力伝達装置との間でトランスファケースの互換性が失われるという不具合がある。
【0007】
以上は前輪側から後輪側へ動力が伝達される場合であったが、後輪側から前輪側へ動力が伝達される場合についても事情は同じである。
【0008】
本発明は、動力伝達装置における上記のような現状に鑑みてなされたもので、軸方向寸法の大型化が抑制された動力伝達装置の提供を目的とする。
【0009】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、動力源に連絡されたトランスファ入力軸と、上記トランスファ入力軸と直交する方向に延びるトランスファ出力軸と、上記トランスファ入力軸の外周に設けられたトランスファドライブギヤと、上記トランスファ出力軸の外周に設けられ、上記トランスファドライブギヤと噛み合うトランスファドリブンギヤとを有し、前輪側から後輪側又は後輪側から前輪側へ動力を伝達する動力伝達装置であって、上記トランスファ入力軸に入力される動力源側からのトルクの変動を吸収するダンパ機構が備えられ、上記ダンパ機構は、少なくともその一部が平面視で上記トランスファ出力軸の延設方向に上記トランスファドリブンギヤとオーバーラップするように配置されていることを特徴とする。
【0010】
以上のように、本発明は、軸方向寸法の大型化が抑制された動力伝達装置を提供するので、前輪側から後輪側又は後輪側から前輪側へ動力を伝達する動力伝達装置の技術の発展・向上に寄与する。
【0011】
上記並びにその他の本発明の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な記載と添付図面とから明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る4輪駆動車の動力伝達経路を示す骨子図である。
図2】上記第1実施形態に係る動力伝達装置の具体的構成を示す平断面図である。
図3】上記動力伝達装置のトランスファ入力軸の第1軸部材と第2軸部材とのスプライン係合部を示す図2のIII−III線矢視断面図である。
図4】上記動力伝達装置に備えられるダンパ機構の断面図である。
図5】上記ダンパ機構を上記第2軸部材の内周面に圧入する工程を示す断面図である。
図6】上記トランスファ入力軸の内周面に上記ダンパ機構が組み付けられた状態を示す断面図である。
図7】上記ダンパ機構を備えない動力伝達装置の図2に対応する平断面図である。
図8】(a)はせん断タイプのダンパ機構の説明図、(b)は圧縮タイプのダンパ機構の説明図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る動力伝達装置の図2に対応する平断面図である。
図10図9のX−X線矢視断面図である。
図11図9のXI−XI線矢視断面図である。
図12】本発明の第3実施形態に係る動力伝達装置の図2に対応する平断面図である。
図13】本発明の第4実施形態に係る動力伝達装置の図2に対応する平断面図である。
図14図13のXIV−XIV線矢視断面図である。
図15】上記第4実施形態に係る動力伝達装置の組立前の分解断面図である。
図16】上記動力伝達装置の組立時の第1連結工程を示す断面図である。
図17】上記動力伝達装置の組立時の第2連結工程を示す断面図である。
図18】本発明の第5実施形態に係る動力伝達装置の図2に対応する平断面図である。
図19図18のXIX−XIX線矢視断面図である。
図20】上記第5実施形態に係る動力伝達装置の組立前の分解断面図である。
図21】上記動力伝達装置の組立時の第1連結工程を示す断面図である。
図22】上記動力伝達装置の組立時の第2連結工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0014】
<第1実施形態>
(1)全体構成
図1は、本実施形態に係る4輪駆動車の動力伝達経路を示す骨子図である。図1中、記号「▽」及び「△」は軸受を示している。
【0015】
本実施形態に係る4輪駆動車では、車体前部のエンジンルーム内にエンジン(本発明の「動力源」に相当する)1が横置きに搭載され、クランクシャフト2が車幅方向に延びている。クランクシャフト2にトルクコンバータ3が直列に連結され、トルクコンバータ3のタービンシャフト4に自動変速機6が直列に連結されている。自動変速機6の出力軸7が車幅方向に延設され、出力軸7に出力ギヤ8が設けられている。自動変速機6により変速されたエンジン1の出力トルクは出力ギヤ8を介して前輪用差動装置(フロントデフ)10に伝達される。
【0016】
フロントデフ10はデフケース11を有する。デフケース11に組み付けられたリングギヤ12が出力ギヤ8と噛み合っている。デフケース11に左右のサイドギヤ13L,13Rが収容され、サイドギヤ13L,13Rに対応して左右のシャフト挿通部18L,18Rがデフケース11に設けられている。シャフト挿通部18L,18Rに車幅方向に延びる左右の前輪用車軸(ドライブシャフト)14L,14Rが挿通され、前輪用車軸14L,14Rの一端部がサイドギヤ13L,13Rにスプライン係合されている。前輪用車軸14L,14Rの他端部に左右の自在継手15L,15Rを介して左右の前輪軸16L,16Rが連結され、前輪軸16L,16Rの先端に左右の車輪(図示略)が接続されている。
【0017】
図1中、符号「5」は、自動変速機6とフロントデフ10とからなるトランスアクスルを示している。トランスアクスル5はトルクコンバータ3と共にトランスアクスルケース9に収容されている。
【0018】
図2は、本実施形態に係る動力伝達装置(トランスファ)20の具体的構成を示す断面図である。図2も参照して説明を続ける。
【0019】
デフケース11の右シャフト挿通部18Rに車幅方向に延びる中空のトランスファ入力軸22がスプライン係合により連結されている。トランスファ入力軸22の内部を右前輪用車軸14Rが挿通する。トランスファ20は、トランスファ入力軸22と、トランスファ入力軸22の外周に設けられたトランスファドライブギヤ27と、車体前後方向に延びるトランスファ出力軸25と、トランスファ出力軸25の前端部で外周に設けられたトランスファドリブンギヤ28とを有する。トランスファドリブンギヤ28はトランスファ出力軸25よりも径が大きく形成されている。トランスファドライブギヤ27は環状に形成され、トランスファ入力軸22にスナップリング27aで結合されている。トランスファドライブギヤ27及びトランスファドリブンギヤ28はそれぞれ傘歯歯車であり、軸心が相互に直交して噛み合っている。
【0020】
本実施形態では、トランスファドライブギヤ27及びトランスファドリブンギヤ28として、軸心が相互に上下方向にオフセットされ、ギヤノイズ抑制及び強度向上の面で有利なハイポイドギヤが用いられている。トランスファ20を構成する各種部材はトランスファケース21に収容されている。
【0021】
トランスファ出力軸25の後端部に自在継手31を介してプロペラシャフト32が連結されている。自動変速機6の出力ギヤ8及びフロントデフ10のリングギヤ12を経由してデフケース11に伝達されたエンジン1側からのトルクは、デフケース11の右シャフト挿通部18Rを介してトランスファ入力軸22に入力され(すなわちトランスファ入力軸22はエンジンに連絡されている)、トランスファドライブギヤ27及びトランスファドリブンギヤ28を経由してトランスファ出力軸25に伝達された後、プロペラシャフト32を介して後輪側へ取り出される。すなわち、本実施形態に係るトランスファ20は前輪側から後輪側へ動力を伝達する。
【0022】
(2)実施形態の特徴
図2に示すように、トランスファ入力軸22を挿通する右前輪用車軸14Rの外周とトランスファ入力軸22の内周との間の内部空間Xにダンパ機構223が設けられている。ダンパ機構223は、トランスファ入力軸22に入力されるエンジン1側からのトルクの変動を吸収するためのものである。これにより、トランスファドライブギヤ27とトランスファドリブンギヤ28との間の歯打ち音の発生が抑制される。
【0023】
具体的に、トランスファ入力軸22は第1軸部材221と第2軸部材222との2部材で構成されている。第1軸部材221はトランスファ入力軸22の左部分を構成し、第2軸部材222はトランスファ入力軸22の右部分を構成する。
【0024】
第1軸部材221は、図2図3及び図6に示すように、内周面が面一の円筒状であり、内周面の径(内径)が右前輪用車軸14Rの外径よりも若干大きく形成されている。第1軸部材221は左端部の外周面にスプライン外歯221y(図6参照)を有する。このスプライン外歯221yはデフケース11の右シャフト挿通部18Rとスプライン係合するためのものである。第1軸部材221は右端部の外周面にスプライン外歯221x(図3及び図6参照)を有する。このスプライン外歯221xは第2軸部材222の左端部のスプライン内歯222xとスプライン係合するためのものである。第1軸部材221は右端部の先端面に櫛歯221a(図6参照)を有する。この櫛歯221aはダンパ機構223の内筒223aの左端部の先端面の櫛歯223dと圧入嵌合するためのものである。
【0025】
第2軸部材222は、図2図5及び図6に示すように、内周面の径(内径)が左端部と軸方向(より詳しくはトランスファ入力軸22の軸方向)中央部ないし右端部とで相違している円筒状である。左端部の内径は第1軸部材221の外径よりも若干大きく形成されている。特に、図2及び図6に符号Aで示すように、第1軸部材221と第2軸部材222とを組み合わせてトランスファ入力軸22としたときに、第1軸部材221の軸方向中央部と対接する部分の内径は、第1軸部材221の軸方向中央部の外径と略同じに形成されている。これにより、上記部分Aにおいて、第1軸部材221と第2軸部材222との芯出し(センタリング又は軸合わせ)が行われる。第2軸部材222の中央部ないし右端部の内径は左端部の内径よりも所定量大きく形成されている。これに伴い、第2軸部材222の中央部ないし右端部の外径も左端部の外径よりも大きく形成されている。第2軸部材222の中央部における右端部寄りの外周面にトランスファドライブギヤ27が設けられる。
【0026】
第2軸部材222は、上記部分Aに隣接して、左端部の内周面にスプライン内歯222x(図3及び図6参照)を有する。このスプライン内歯222xは第1軸部材221の右端部のスプライン外歯221xとスプライン係合するためのものである。
【0027】
第1軸部材221には、デフケース11の右シャフト挿通部18Rとのスプライン係合部(スプライン外歯221y)を介して、エンジン1側からのトルクが入力される。第2軸部材222は、第1軸部材221と第2軸部材222とを組み合わせてトランスファ入力軸22としたときに、第1軸部材221の右端部からトランスファ入力軸22の軸方向、つまり車幅方向の右側に延びる。その場合、第2軸部材222は、第1軸部材221とのスプライン係合部(第1軸部材221のスプライン外歯221x及び第2軸部材222のスプライン内歯222x)を介して、第1軸部材221と周方向(すなわち回転方向)に相対回転可能に連結される。
【0028】
すなわち、図3に示すように、第1軸部材221と第2軸部材222とはスプライン係合により連結される。その場合、第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとの間に回転方向(すなわち周方向)に所定の基準量の間隙が形成されている。これにより、第1軸部材221と第2軸部材222とは周方向に相対回転可能に連結されている。
【0029】
また、図3に示すように、第1軸部材221と第2軸部材222とが所定の基準角度α相対回転したときは、第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとが相互に当接する。そして、このことにより、第1軸部材221と第2軸部材222との連結部、すなわち第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとのスプライン係合部に、第1軸部材221と第2軸部材222とが上記基準角度αを超えて相対回転することを規制する規制部が構成されている。
【0030】
次に説明するように、第1軸部材221はダンパ機構223の内筒223aと一体に連結され、第2軸部材222はダンパ機構223の外筒223bと一体に連結され、内筒223aと外筒223bとの間にゴム部材(本発明の「弾性部材」に相当する)223cが介設されている。そして、エンジン1側からのトルク変動がなく、ゴム部材223cが回転方向に捩り変位していないときは、第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとが互いに他方のスプライン谷部の周方向中央に位置する。図3はそのときの状態を示している。そして、この状態から、エンジン1側からのトルク変動があり、ゴム部材223cが回転方向に捩り変位したときは、その捩り変位の方向に応じて、第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとが互いに他方のスプライン谷部を周方向右側又は周方向左側に相対回転する。そして、そのときに、周方向右側に相対回転したときも、あるいは周方向左側に相対回転したときも、共に、第1軸部材221と第2軸部材222とが同じ基準角度αを超えて相対回転することが規制されることを図3は示している。
【0031】
図4に示すように、ダンパ機構223は、内筒223aと外筒223bとゴム部材223cとを含む。このダンパ機構223は、図8(a)に示すせん断タイプのダンパ機構である。
【0032】
内筒223aは、図2図4及び図6に示すように、内周面が面一の円筒状であり、内周面の径(内径)が右前輪用車軸14Rの外径よりも若干大きく形成されている(第1軸部材221の内径と略同じに形成されている)。内筒223aは左端部の先端面に櫛歯223d(図6参照)を有する。この櫛歯223dはトランスファ入力軸22の第1軸部材221の右端部の先端面の櫛歯221aと圧入嵌合するためのものである。これにより、第1軸部材221と内筒223aとが一体に連結される。内筒223aは、第1軸部材221と第2軸部材222とを組み合わせてトランスファ入力軸22としたときに、第2軸部材222の径方向内側で第1軸部材221の右端部からトランスファ入力軸22の軸方向、つまり車幅方向の右側に延びる。
【0033】
外筒223bは、図2図4及び図6に示すように、外周面が面一の円筒状であり、外周面の径(外径)がトランスファ入力軸22の第2軸部材222の内径よりも若干大きく形成されている。これにより、外筒223bは第2軸部材222の内周面に圧入され、第2軸部材222と外筒223bとが一体に連結される。
【0034】
ゴム部材223cは、図2図4及び図6に示すように、所定の厚みを有する円筒状であり、内周面が内筒223aの外周面に結合され、外周面が外筒223bの内周面に結合されて、内筒223aと外筒223bとの間に介設されている。ゴム部材223cは、周方向に応力が負荷されたとき、その弾性により周方向に捩り変位し、上記応力が除去されたとき、その弾性復元力により上記捩り変位がなくなる。すなわち、円筒状のゴム部材223cは内筒223a及び外筒223bに固着され、図8(a)に矢印で示すように、ゴム部材223cの周方向のせん断によりトルク変動が吸収される。
【0035】
ダンパ機構223は、トランスファ入力軸22の第1軸部材221及び第2軸部材222と、次のように周方向の位相が合わせられて、トランスファ入力軸22に組み付けられている。すなわち、図6に示すように、内筒223aの櫛歯223dを第1軸部材221の櫛歯221aに圧入嵌合したときに、図3に示すように、外筒223bと一体に連結された第2軸部材222のスプライン内歯222xが、第1軸部材221のスプライン谷部の周方向中央に位置するように、ダンパ機構223がトランスファ入力軸22に組み付けられている。
【0036】
そのための組み付け方法を図5を参照して説明する。図5は、ダンパ機構223を第2軸部材222の内周面に圧入する工程を示している。ダンパ機構223を内筒223aの櫛歯223dが左に位置するようにセットし、第2軸部材222の右端部から治具J2を用いて図6に示す位置までダンパ機構223を右から左へ所定の押圧力Pで押圧し、第2軸部材222の内周面に圧入する。このとき、ダンパ機構223の周方向の位相がずれていると、次に第1軸部材221を第2軸部材222の左端部から挿入したときに、第1軸部材221の櫛歯221aが内筒223aの櫛歯223dと当接して嵌合させることができない場合がある。というのは、第1軸部材221を第2軸部材222に挿入するとき、第1軸部材221を第2軸部材222にスプライン係合(第1軸部材221のスプライン外歯221x及び第2軸部材222のスプライン内歯222x)させるので、第1軸部材221の周方向の位置が決まってしまうからである。あるいは、第1軸部材221を第2軸部材222に挿入したときに、第1軸部材221の櫛歯221aを内筒223aの櫛歯223dと嵌合させることができたとしても、第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとが互いに他方のスプライン谷部の周方向中央に位置せず、ずれる可能性がある。つまり、図3において、周方向右側に相対回転したときと、周方向左側に相対回転したときとで、基準角度αが異なってしまう状態である。
【0037】
そこで、ダンパ機構223の周方向の位相を合わせるように、治具J1を用いる。治具J1は、第2軸部材222のスプライン内歯222xと相対回転不能にスプライン係合する。かつ、治具J1は、内筒223aの櫛歯223dと圧入嵌合する櫛歯J1aを有する。ダンパ機構223を圧入するときは、まず、治具J1の櫛歯J1aと内筒223aの櫛歯223dとを圧入嵌合させておく。この状態で、治具J1を先頭にして、第2軸部材222の右端部から挿入し、治具J1を第2軸部材222のスプライン内歯222xとスプライン係合させる。これにより、治具J1及び内筒223aの周方向の回転Rが阻止される。この状態で、治具J2を用いて図6に示す位置までダンパ機構223を押圧し、第2軸部材222の内周面に圧入する。
【0038】
次いで、治具J1を内筒223aから取り外す。図5に示すように、治具J1の周壁が相対的に厚く、治具J1の周壁がダンパ機構223の内筒223aよりも径方向内側に突出しているので、この突出部分を右側から叩くことによって、治具J1を簡単に取り外すことができる。そして、代わりに、第1軸部材221を第2軸部材222に挿入して、第1軸部材221の櫛歯221aを内筒223aの櫛歯223dと圧入嵌合させる。これにより、第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとが互いに他方のスプライン谷部の周方向中央に位置する。
【0039】
なお、図6中、符号「225」は、第1軸部材221の抜け止めのためのスナップリングである。また、図5及び図6中、符号「224」は、いったん圧入したダンパ機構223を治具J1を用いて左から押圧し、第2軸部材222から取り外すためのスペーサである。つまり、図5に示すように、治具J1はこのスペーサ224を介してダンパ機構223を押圧することにより、ダンパ機構223の内筒223aだけを押圧するのではなく、第2軸部材222の内周面に圧入されている外筒223bも同時に押圧する。これにより、内筒223aと外筒223bとの間に介設されているゴム部材223cに過度の軸方向(より詳しくはトランスファ入力軸22の軸方向)のせん断応力が作用することが回避され、ゴム部材223cの保護が図られる。
【0040】
図2に示すように、ダンパ機構223は、トランスファ入力軸22に組み付けられ、トランスファ20に備えられた状態で、少なくともその一部、より詳しくは、その右端部側部分を除く中間部分及び左端部側部分が、平面視で、上記トランスファ出力軸25の延設方向(すなわち車体前後方向)に、上記トランスファドリブンギヤ28とオーバーラップするように配置されている。特に、本実施形態では、ダンパ機構223は、その中間部分及び左端部側部分が、平面視で、上記トランスファ出力軸25の延設方向に、上記トランスファドリブンギヤ28よりも径が小さいトランスファ出力軸25とオーバーラップするように配置されている。
【0041】
具体的に、本実施形態では、上述したように、トランスファドライブギヤ27は、第2軸部材222の中央部における右端部寄りの外周面(トランスファ入力軸22としては右端部)に設けられている。言い換えると、トランスファドライブギヤ27は、トランスファ入力軸22の左端部から比較的離間して配置されている。そのため、トランスファ入力軸22の左端部とトランスファドライブギヤ27との間の軸方向の距離が比較的長く設定されている。そして、その比較的長い空間部にトランスファ出力軸25及びトランスファドリブンギヤ28が配置され、このトランスファドリブンギヤ28と平面視で車体前後方向にオーバーラップするようにダンパ機構223が配置されているのである。特に、ダンパ機構223は、トランスファドリブンギヤ28よりも径が小さいトランスファ出力軸25とオーバーラップするように配置されているのである。
【0042】
(3)実施形態の作用
以上のように、本実施形態では、前輪側から後輪側へ動力を伝達するトランスファ20は、エンジン1に連絡され、右前輪用車軸14Rが内部を挿通する中空のトランスファ入力軸22と、トランスファ入力軸22と直交する方向に延びるトランスファ出力軸25と、トランスファ入力軸22の外周に設けられたトランスファドライブギヤ27と、トランスファ出力軸25の外周に設けられ、トランスファドライブギヤ27と噛み合うトランスファドリブンギヤ28とを有する。そして、トランスファ入力軸22に入力されるエンジン1側からのトルクの変動を吸収するダンパ機構223が備えられ、上記ダンパ機構223は、その右端部側部分を除く中間部分及び左端部側部分が平面視で上記トランスファ出力軸25の延設方向に上記トランスファドリブンギヤ28とオーバーラップするように配置されている。
【0043】
この構成によれば、ダンパ機構223の中間部分及び左端部側部分が平面視でトランスファ出力軸25の延設方向にトランスファドリブンギヤ28とオーバーラップしているので、例えば、上記特許文献1のように、ダンパ機構223とトランスファドリブンギヤ28とがトランスファ入力軸の軸方向(すなわち車幅方向)に並んで配置される場合と比べて、トランスファ20の上記軸方向の長大化が抑制される。そのため、車載性の低下が抑制されるだけでなく、ダンパ機構223を備えないトランスファ20との間でトランスファケース21の互換性が保たれるという利点がある。また、上記構成によれば、トランスファケース21を軸方向に大きくすることなく、ダンパ機構223のレイアウトスペースを確保することができる。そのため、トランスファドライブギヤ27とトランスファドリブンギヤ28との間の歯打ち音の発生をコンパクトな構成で抑制できる。以上のことから、本実施形態によれば、軸方向寸法の大型化が抑制されたトランスファ20が提供される。
【0044】
すなわち、ダンパ機構223を備えない場合のトランスファ20の占有スペースからはみ出すことなくダンパ機構223をトランスファ20に備えることができる。言い換えると、ダンパ機構223のレイアウトスペースを確保するためにトランスファ入力軸22を軸方向に長くすることがない。そのため、トランスファケース21の軸方向の大型化が回避される。
【0045】
特に、本実施形態では、ダンパ機構223は、その中間部分及び左端部側部分が平面視でトランスファ出力軸25の延設方向にトランスファドリブンギヤ28よりも径が小さいトランスファ出力軸25とオーバーラップするように配置されている。
【0046】
この構成によれば、トランスファ20の軸方向寸法のより一層のコンパクト化が図られる。
【0047】
本実施形態では、上記ダンパ機構223は、トランスファ入力軸22を挿通する右前輪用車軸14Rの外周と上記トランスファ入力軸22の内周との間の内部空間Xに設けられている。
【0048】
この構成によれば、ダンパ機構223が中空のトランスファ入力軸22の内部空間Xに設けられるので、ダンパ機構223がトランスファ入力軸22の外周に配設される場合と比べて、トランスファケース21を径方向外側に大きくすることなく、ダンパ機構223のレイアウトスペースをトランスファ入力軸22の内部空間Xを利用して確保することができる。そのため、トランスファドライブギヤ27とトランスファドリブンギヤ28との間の歯打ち音の発生をコンパクトな構成で抑制できる。
【0049】
しかも、トランスファ入力軸22の内部空間Xにはトランスファドライブギヤのような部材が配設されていないので、ダンパ機構223を軸方向に十分長くすることができ、ダンパ機構223に負荷される応力を十分低減することができる。
【0050】
以上のことから、本実施形態によれば、中空のトランスファ入力軸22の内部空間Xを利用してダンパ機構223をトランスファ20にコンパクトに備えることができる。その結果、トランスファケース21の大型化を招くことなく、ダンパ機構223を十分大きくして、ギヤ27,28間の歯打ち音の発生を十分抑制することが可能なトランスファ20が提供される。
【0051】
本実施形態では、トランスファ入力軸22は、エンジン1側からのトルクが入力される第1軸部材221と、第1軸部材221の右端部から軸方向に延びる第2軸部材222とを含む。第2軸部材222は、第1軸部材221と周方向に相対回転可能に連結され、トランスファドライブギヤ27が外周に設けられている。加えて、ダンパ機構223は、第2軸部材222の径方向内側で第1軸部材221の右端部から軸方向に延び、第1軸部材221と一体に連結された内筒223aと、第2軸部材222の内周面に第2軸部材222と一体に連結された外筒223bと、内筒223aと外筒223bとの間に介設されたゴム部材223cとを含む。
【0052】
この構成によれば、トランスファ入力軸22の第1軸部材221と第2軸部材222とがゴム部材223cを介して相対回転可能に連結されるので、ゴム部材223cの回転方向の捩り変位(すなわちせん断)によって、エンジン1側からのトルク変動が吸収される。また、ゴム部材223cを軸方向に長くすることができ、ゴム部材223cに負荷される応力を低減することができる。このとき、第1軸部材221に入力されたトルクは、トランスファ入力軸22の内部空間Xで軸方向に流れてダンパ機構223の内筒223aに伝達された後、ダンパ機構223のゴム部材223c及び外筒223bを径方向内側から外側に流れて第2軸部材222に伝達される。このトルクの流れの向きは、ダンパ機構がトランスファ入力軸の外周に設けられた上記特許文献1のトルクの流れの向きと大幅に異なるものである。
【0053】
本実施形態では、第1軸部材221と第2軸部材222との連結部、すなわち第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとのスプライン係合部に、両部材221,222が所定の基準角度αを超えて相対回転することを規制する規制部が設けられている。
【0054】
この構成によれば、ゴム部材223cの過度の捩り変位が防止される。そのため、ゴム部材223cの破損が抑制され、結果として、ダンパ機構223の耐久性が向上する。
【0055】
本実施形態では、第1軸部材221と第2軸部材222とはスプライン係合により連結され、第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとの間に回転方向に所定の基準量の間隙が形成され、第1軸部材221と第2軸部材222とが基準角度α相対回転したときは第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとが相互に当接する。そして、このことにより、第1軸部材221と第2軸部材222とが所定の基準角度αを超えて相対回転することを規制する規制部が構成されている。
【0056】
この構成によれば、スプライン歯221x,222x同士の当接により、第1軸部材221と第2軸部材222とが基準角度αを超えて相対回転することが安定、確実に規制される。また、スプライン歯221x,222xを軸方向に長くすることができ、スプライン歯221x,222xに負荷される応力を低減することができる。スプライン歯221x,222x同士が当接しているとき、第1軸部材221に入力されたトルクは、トランスファ入力軸22の内部空間Xで第1軸部材221と第2軸部材222とのスプライン係合部を径方向内側から外側に流れて第2軸部材222に伝達される。このトルクの流れの向きもまた、ダンパ機構がトランスファ入力軸の外周に設けられた上記特許文献1のトルクの流れの向きと大幅に異なるものである。
【0057】
上述したように、本実施形態では、ダンパ機構223をトランスファ20に備えながら、トランスファケース21が大型化することがない。そのため、ダンパ機構223を備えないトランスファ20との間でトランスファケース21を共有化することができる。つまり、トランスファケース21の互換性が保たれる。
【0058】
具体的に、図7は、ダンパ機構223を備えないトランスファ20の図2対応図である。図2図7とを比較して明らかなように、図2の第1軸部材221、第2軸部材222、及びダンパ機構223に相当する部分、つまり、ダンパ機構223が組み付けられたトランスファ入力軸22の部分が、図7では、単一のトランスファ入力軸22に置き換わっているだけで、その他の構成は何も変わっていない。
【0059】
すなわち、トランスファケース21が共有化できるだけでなく、例えば、デフハウジング10aを油密にシールするためのシール部材S1、トランスファケース21の左端部を油密にシールするためのシール部材S2、トランスファケース21の右端部を油密にシールするためのシール部材S3,S4、トランスファケース21の右端部を気密にシールするためのシール部材S5、トランスファ入力軸22を左右端部で軸方向中央部に向かうスラスト力を発生させつつ軸支する左右一対のスラストベアリングB1,B2、及び、上記スラストベアリングB1,B2ひいてはトランスファドライブギヤ27の軸方向の位置を調整することによりトランスファドリブンギヤ28との噛み合いを調整するためのシム101,102といった、種々様々な部材がそのまま共通使用できるのである。そのため、ダンパ機構223を備えるトランスファ20と備えないトランスファ20との間で仕様変更を行う場合と比べて、大幅なコスト削減が図られる。
【0060】
本実施形態では、トランスファドライブギヤ27をトランスファ入力軸22の外周に結合するためのスナップリング27a(図2参照)は、テーパ面を有している。このテーパ面は、スナップリング27aが拡径するほど、スナップリング27aの厚みが増大して、トランスファドライブギヤ27をより強固にトランスファ入力軸22に結合するように形成されている。
【0061】
したがって、動力の伝達中はトランスファ入力軸22が回転し、スナップリング27aに拡径方向の遠心力が生じるので、スナップリング27aの取付部には、スナップリング27aの拡径方向の付勢力と遠心力とが作用し、これにより、スナップリング27aの脱落防止が図られる。
【0062】
(4)変形例
上記実施形態では、トランスファ20は前輪側から後輪側へ動力を伝達するものであったが、これとは逆に、後輪側から前輪側へ動力を伝達するトランスファにも本発明は適用可能である。
【0063】
上記実施形態では、トランスファドライブギヤ27をトランスファ入力軸22の右端部(右側のスラストベアリングB2の近傍)に設けたが、ダンパ機構223の少なくとも一部が平面視でトランスファ出力軸25の延設方向にトランスファドリブンギヤ28とオーバーラップする限り、これとは逆に、トランスファ入力軸22の左端部(左側のスラストベアリングB1の近傍)に設けることも可能である。
【0064】
上記実施形態では、トランスファドライブギヤ27及びトランスファドリブンギヤ28としてハイポイドギヤを用いたが、これに限定されず、ハイポイドギヤ以外の傘歯歯車を用いてもよい。
【0065】
上記実施形態では、ダンパ機構223としてせん断タイプのダンパ機構を用いたが、これに限定されず、例えば、図8(b)に示す圧縮タイプのダンパ機構を用いてもよい。図8(a)と同じ又は類似する構成要素には同じ符号を用いて説明を加える。圧縮タイプのダンパ機構も、せん断タイプと同様、内筒223aと外筒223bとゴム部材223cとを含む。ただし、内筒223aの外周面に複数(図例では3つ)の壁部(内筒押圧壁部)223xが周方向に等間隔(図例では120°間隔)で外方に突出するように立設され、外筒223bの内周面に複数(図例では3つ)の壁部(外筒押圧壁部)223yが周方向に等間隔(図例では120°間隔)で内方に突出するように立設される。内筒押圧壁部223x及び外筒押圧壁部223yは軸方向に延び、周方向に交互に配置される。
【0066】
ゴム部材223cは軸方向に延びる棒状であり、内筒押圧壁部223xと外筒押圧壁部223yとが周方向に交互に等間隔(図例では60°間隔)で配置されたときに隣り合う内筒押圧壁部223xと外筒押圧壁部223yとの間に生成する空間を充填するような断面形状及び断面積を有する。ゴム部材223cは若干圧縮された状態で内筒押圧壁部223xと外筒押圧壁部223yとの間に固着されることなく介装される。すなわち、1つの圧縮タイプのダンパ機構223に複数(図例では6つ)の棒状のゴム部材223cが用いられ、図8(b)に矢印で示すように、各ゴム部材223cの周方向の圧縮によりトルク変動が吸収される。
【0067】
<第2実施形態>
次に、図9図11を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。第1実施形態と同じ又は類似する構成要素には同じ符号を用い、第1実施形態と相違する構成のみ説明を加え、第1実施形態と同様の構成は説明を省略する。
【0068】
この第2実施形態は、図9に示すように、ダンパ機構223がトランスファ入力軸22の外周に設けられている点で、第1実施形態と構成が相違する。ただし、ダンパ機構223の少なくとも一部(図例では全部)が平面視でトランスファ出力軸25の延設方向にトランスファドリブンギヤ28とオーバーラップする点は、第1実施形態と構成が同様である。
【0069】
ダンパ機構223をトランスファ入力軸22の外周に設けることにより、第1実施形態のようにトランスファ入力軸22の内部空間Xに設けるよりも、組立てが容易という利点がある。
【0070】
第2実施形態では、トランスファ入力軸22は単一の部品である。そして、ダンパ機構223のトランスファ入力軸22の軸方向の一方の側(図例では左側)にフロントデフ10が配置され、他方の側(図例では右側)にトランスファドライブギヤ27が配置されている。すなわち、ダンパ機構223は、トランスファ入力軸22上において、左方のフロントデフ10と右方のトランスファドライブギヤ27との間に配置されている。
【0071】
ダンパ機構223を上記のように配置することにより、ダンパ機構223を、平面視でフロントデフ10とトランスファドライブギヤ27との間に配置されるトランスファドリブンギヤ28と容易にオーバーラップさせることができる。
【0072】
なお、フロントデフ10をダンパ機構223の右側に配置し、トランスファドライブギヤ27をダンパ機構223の左側に配置してもよい。
【0073】
第2実施形態では、ダンパ機構223は、その外周端部(図例では外筒223bの外周面)がトランスファドライブギヤ27の内周端部(図例では円筒ボス部27bの内周面)よりも径方向内側に配置されている。具体的に、トランスファドライブギヤ27は、トランスファ入力軸22の外周に組み付けるための円筒ボス部27bを有し、その円筒ボス部27bの内周面が、トランスファドライブギヤ27の最も径方向内側に位置する部分である。
【0074】
ダンパ機構223を上記のように配置することにより、ダンパ機構223及びその周辺の径方向のコンパクト化が図られる。
【0075】
第2実施形態では、ダンパ機構223は、第1実施形態と同様、図8(a)に示すせん断タイプのダンパ機構である。ダンパ機構223の内筒223aは、トランスファ入力軸22の外周面に、例えば圧入により、トランスファ入力軸22と一体に連結される。ダンパ機構223の外筒223bは、トランスファドライブギヤ27の内周面(より詳しくは円筒ボス部27bの内周面)に、図10に示すように、スプライン係合により、トランスファドライブギヤ27と一体に連結される。具体的に、図10は、トランスファドライブギヤ27の円筒ボス部27bとダンパ機構223の外筒223bとの相対回転不能なスプライン係合の様子を示している。ダンパ機構223のゴム部材223cは、上記内筒223aと外筒223bとの間に介設される。
【0076】
図11に示すように、トランスファ入力軸22の外周面(より詳しくはトランスファドライブギヤ27の円筒ボス部27bに対応する段部22bの外周面)にスプライン外歯(本発明の「第1係合部」に相当する)22aが設けられ、トランスファドライブギヤ27の内周面(より詳しくは円筒ボス部27bの内周面)にスプライン内歯(本発明の「第2係合部」に相当する)27cが設けられ、これらのスプライン外歯22aとスプライン内歯27cとが相互に周方向に相対回転可能に連結されている。具体的に、図11は、トランスファドライブギヤ27の円筒ボス部27bとトランスファ入力軸22との相対回転可能なスプライン係合の様子を示している。そして、スプライン外歯22aとスプライン内歯27cとが所定の基準角度αを超えて相対回転することを規制する規制部が第1実施形態と同様に設けられている。
【0077】
この構成によれば、トランスファドライブギヤ27を利用して、トランスファ入力軸22とトランスファドライブギヤ27とが上記基準角度αを超えて相対回転することを規制する規制部が構成され、ゴム部材223cの過度の捩り変位が防止される。そのため、ゴム部材223cの破損が抑制され、結果として、ダンパ機構223の耐久性が向上する。
【0078】
<第3実施形態>
次に、図12を参照して、本発明の第3実施形態を説明する。第2実施形態と同じ又は類似する構成要素には同じ符号を用い、第2実施形態と相違する構成のみ説明を加え、第2実施形態と同様の構成は説明を省略する。
【0079】
この第3実施形態は、ダンパ機構223が図8(b)に示す圧縮タイプである点で、第2実施形態と構成が相違する。ただし、ダンパ機構223がトランスファ入力軸22の外周に設けられる点は、第2実施形態と構成が同様である。
【0080】
図12に示すように、ダンパ機構223の左端部に円環状のワッシャ223eが配設され、スナップリング223fによりトランスファ入力軸22の外周面に固定されている。このようなワッシャ223eを用いるのはおよそ次のような理由による。上述したように、圧縮タイプのダンパ機構223では、ゴム部材223cは内筒押圧壁部223xと外筒押圧壁部223yとの間に固着されることなく介装される。そのため、トルク変動時に圧縮されない側のゴム部材223cが上記両壁部223x,223yの間隔が広がって両壁部223x,223yの間から抜け出たり、あるいは、圧縮される側のゴム部材223cが軸方向にスラスト力を受けて両壁部223x,223yの間から飛び出る可能性がある。そこで、それを防ぐために、開放状態にあるダンパ機構223の左端部をワッシャ223eで塞いでいるのである(ダンパ機構223の右端部はスプライン外歯22aが設けられるトランスファ入力軸22の段部22bで塞がれている)。
【0081】
第3実施形態では、規制部により、ゴム部材223cの過度の圧縮が防止される。そのため、ゴム部材223cの変形量が大きくなり過ぎず、寿命の低下が抑えられ、結果として、ダンパ機構223の特性劣化や破損が低減されて、信頼性が維持される。
【0082】
<第4実施形態>
次に、図13図17を参照して、本発明の第4実施形態を説明する。第1実施形態と同じ又は類似する構成要素には同じ符号を用い、第1実施形態と相違する構成のみ説明を加え、第1実施形態と同様の構成は説明を省略する。
【0083】
この第4実施形態は、組立性が向上したトランスファ20の提供を目的としたものである。また、生産性に優れたトランスファ20の製造方法の提供を目的としたものである。
【0084】
第4実施形態では、ダンパ機構223は、第3実施形態と同様、図8(b)に示す圧縮タイプのダンパ機構である。図13及び図14に示すように、ダンパ機構223の外筒223bの外周面の右端部に外周スプライン(本発明の「第1嵌合部」に相当する)223zが設けられ、トランスファ入力軸22の第2軸部材222の内周面の右端部に内周スプライン(本発明の「第2嵌合部」に相当する)222aが設けられ、これらの外周スプライン223zと内周スプライン222aとが相互に相対回転不能に嵌合することにより、上記外筒223bと第2軸部材222とが一体に連結されている。その場合、上記外筒223bを含むダンパ機構223の内筒223aにトランスファ入力軸22の第1軸部材221が一体に連結されたときに上記第1軸部材221と上記第2軸部材222との連結部(第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとのスプライン係合部)に規制部が設けられるように、言い換えると、第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとの間に基準量の間隙が形成されるように、上記外筒223bと第2軸部材222とが一体に連結されている。
【0085】
以下、図15図17の組立工程図に基き、第4実施形態に係るトランスファ20の製造方法を説明することにより、上記点をさらに詳しく説述する。本実施形態に係るトランスファ20の製造方法は、ダンパ機構223の外筒223bの外周スプライン223zと、トランスファ入力軸22の第2軸部材222の内周スプライン222aとを相互に嵌合させることにより、外筒223bと第2軸部材222とを一体に連結する第1連結工程(図16)と、上記第1連結工程の後、第1軸部材221と第2軸部材222との連結部(スプライン外歯221x及びスプライン内歯222x)に規制部が設けられるように、上記外筒223bを含むダンパ機構223の内筒223aと第1軸部材221とを一体に連結する第2連結工程(図17)とを有する点に特徴がある。
【0086】
まず、図15に示すように、ダンパ機構223の内筒223aを櫛歯223dが左に位置するようにセットし、ダンパ機構223の左端部を塞ぐためのワッシャ223eを介して、第2軸部材222の内部に第2軸部材222の右端部から挿入する。
【0087】
次いで、図16に示すように、ダンパ機構223の外筒223bを外周スプライン223zが右に位置するようにセットし、第2軸部材222の内部に第2軸部材222の右端部から挿入する。その際、外筒223bの外周スプライン223zと第2軸部材222の内周スプライン222aとを相互に嵌合させる。これにより、外筒223bと第2軸部材222とが一体に連結される(第1連結工程)。
【0088】
次いで、図16に示すように、ゴム部材223cを内筒押圧壁部223xと外筒押圧壁部223yとの間に介装する。上述したように、ゴム部材223cは若干圧縮された状態で内筒押圧壁部223xと外筒押圧壁部223yとの間に介装される。そのため、ゴム部材223cの介装により、内筒223aの周方向の位置が決まる。この内筒223aの周方向の位置は、第1連結工程における外周スプライン223z及び内周スプライン222aの周方向の位置に応じて所定の位置に設定することが可能である。
【0089】
次いで、図16に示すように、ダンパ機構223の右端部を塞ぐためのワッシャ223gをスナップリング223hで固定する。これにより、ダンパ機構223が第2軸部材222の内周面に組み付けられる。
【0090】
次いで、図17に示すように、第1軸部材221を櫛歯221aが右に位置するようにセットし、第2軸部材222の内部に第2軸部材222の左端部から挿入する。その際、第1軸部材221の櫛歯221aと上記ダンパ機構223の内筒223aの櫛歯223dとを相互に圧入嵌合させる。これにより、内筒223aと第1軸部材221とが一体に連結される(第2連結工程)。ここで、上述したように、内筒223aの周方向の位置が既に決まっている。そのため、内筒223aと一体に連結された第1軸部材221の周方向の位置も決まる。これにより、第1軸部材221のスプライン外歯221xと第2軸部材222のスプライン内歯222xとが互いに他方のスプライン谷部の周方向中央に位置する。すなわち、第1軸部材221と第2軸部材222との連結部(スプライン外歯221x及びスプライン内歯222x)に規制部が設けられる。外筒223bの外周スプライン223z及び第2軸部材222の内周スプライン222aは、予め、上記規制部が設けられるように形成されているのである。
【0091】
したがって、この第4実施形態によれば、トランスファ20の製造工程において、治具を用いることなく、トランスファ入力軸22の第1軸部材221と第2軸部材222との周方向の位相が合わせられるので、治具を用いる工程を削減することができる。すなわち、第1実施形態では、ダンパ機構223の内筒223aに連結される第1軸部材221と、外筒223bに連結される第2軸部材222との周方向の位相を合わせるために、治具J1を用いたが、この第4実施形態では、外筒223bに設けられた外周スプライン223zと、第2軸部材222に設けられた内周スプライン222aとにより、最終的に第1軸部材221と第2軸部材222との周方向の位相を合わせることができるので、治具を用いる工程を削減することができる。以上のことから、第4実施形態によれば、組立性が向上したトランスファ20が提供される。また、生産性に優れたトランスファ20の製造方法が提供される。
【0092】
<第5実施形態>
次に、図18図22を参照して、本発明の第5実施形態を説明する。第4実施形態と同じ又は類似する構成要素には同じ符号を用い、第4実施形態と相違する構成のみ説明を加え、第4実施形態と同様の構成は説明を省略する。
【0093】
この第5実施形態は、第2連結工程において内筒223aと第1軸部材221とを櫛歯で一体に連結するのではなく中間スリーブ223jを介して一体に連結する点で、第4実施形態と構成が相違する。ただし、外筒223bに外周スプライン223zが設けられ、第2軸部材222に内周スプライン222aが設けられる点、及び、トランスファ20の製造方法が第1連結工程(図21)と第2連結工程(図22)とを有する点は、第4実施形態と構成が同様である。
【0094】
図18及び図19に示すように、中間スリーブ223jは軸方向に短寸の円筒状の部材であり、その外周面及び内周面にスプライン223m,223nが設けられている。外周面のスプライン223mは第2軸部材222の内周面に設けられたスプライン222b(図20参照)と遊嵌合するスプラインである。すなわち、中間スリーブ223jの外周面の遊嵌合スプライン223mと第2軸部材222の内周面の遊嵌合スプライン222bとは相互に周方向に相対回転可能に連結されている。
【0095】
中間スリーブ223jの内周面のスプライン223nは内筒223aの外周面の左端部に設けられたスプライン223s(図20参照)と一体に連結するスプラインである。すなわち、中間スリーブ223jの内周面の連結スプライン223nと内筒223aの外周面の連結スプライン223sとは相互に周方向に相対回転不能に連結されている。また、中間スリーブ223jの内周面のスプライン223nは第1軸部材221の外周面の右端部に設けられたスプライン221b(図22参照)と一体に連結するスプラインである。すなわち、中間スリーブ223jの内周面の連結スプライン223nと第1軸部材221の外周面の連結スプライン221bとは相互に周方向に相対回転不能に連結されている。以下、図20図22の組立工程図に基き、第5実施形態に係るトランスファ20の製造方法を説明することにより、上記点をさらに詳しく説述する。
【0096】
まず、図20に示すように、ワッシャ223iを介して、中間スリーブ223jを第2軸部材222の内部に第2軸部材222の右端部から挿入する。その際、中間スリーブ223jの遊嵌合スプライン223mと第2軸部材222の遊嵌合スプライン222bとを相互に遊嵌合させる。
【0097】
次いで、図20に示すように、ダンパ機構223の内筒223aを連結スプライン223sが左に位置するようにセットし、第2軸部材222の内部に第2軸部材222の右端部から挿入する。その際、内筒223aの連結スプライン223sと中間スリーブ223jの連結スプライン223nとを相互に嵌合させる。これにより、内筒223aと中間スリーブ223jとが一体に連結される。
【0098】
次いで、図21に示すように、ダンパ機構223の外筒223bを外周スプライン223zが右に位置するようにセットし、第2軸部材222の内部に第2軸部材222の右端部から挿入する。その際、外筒223bの外周スプライン223zと第2軸部材222の内周スプライン222aとを相互に嵌合させる。これにより、外筒223bと第2軸部材222とが一体に連結される(第1連結工程)。
【0099】
次いで、図21に示すように、ゴム部材223cを内筒押圧壁部223xと外筒押圧壁部223yとの間に介装する。上述したように、ゴム部材223cは若干圧縮された状態で内筒押圧壁部223xと外筒押圧壁部223yとの間に介装される。そのため、ゴム部材223cの介装により、内筒223aの周方向の位置が決まる。この内筒223aの周方向の位置は、第1連結工程における外周スプライン223z及び内周スプライン222aの周方向の位置に応じて所定の位置に設定することが可能である。
【0100】
ここで、内筒223aの周方向の位置が決まることにより、内筒223aと一体に連結された中間スリーブ223jの周方向の位置も決まる。これにより、中間スリーブ223jの遊嵌合スプライン223mと第2軸部材222の遊嵌合スプライン222bとが互いに他方のスプライン谷部の周方向中央に位置する。すなわち、中間スリーブ223jと第2軸部材222との連結部(遊嵌合スプライン223m,222b)に規制部が設けられる。外筒223bの外周スプライン223z及び第2軸部材222の内周スプライン222aは、予め、上記規制部が設けられるように形成されているのである。
【0101】
次いで、図21に示すように、ダンパ機構223の右端部を塞ぐためのワッシャ223gをスナップリング223hで固定する。これにより、ダンパ機構223が第2軸部材222の内周面に組み付けられる。
【0102】
次いで、図22に示すように、第1軸部材221を連結スプライン221bが右に位置するようにセットし、第2軸部材222の内部に第2軸部材222の左端部から挿入する。その際、第1軸部材221の連結スプライン221bと中間スリーブ223jの連結スプライン223nとを相互に嵌合させる。これにより、第1軸部材221と中間スリーブ223jとが一体に連結され、ひいては、内筒223aと第1軸部材221とが中間スリーブ223jを介して一体に連結される(第2連結工程)。
【0103】
したがって、この第5実施形態によれば、内筒223aと第1軸部材221とを一体に連結する第2連結工程の前に規制部が設けられる。より詳しくは、外筒223bと第2軸部材222とを一体に連結する第1連結工程の後、ゴム部材223cを内筒押圧壁部223xと外筒押圧壁部223yとの間に介装する段階で規制部が設けられる。そのため、第4実施形態よりも早い段階で規制部が適正に形成されたか否かを確認することができ、第4実施形態よりもさらに組立性が向上したトランスファ20、及び第4実施形態よりもさらに生産性に優れたトランスファ20の製造方法が提供される。
【0104】
以上のように、本明細書は、本発明の様々な態様を開示する。それらのうちの主なものを以下にまとめる。
【0105】
すなわち、本発明の一態様は、動力源に連絡されたトランスファ入力軸と、上記トランスファ入力軸と直交する方向に延びるトランスファ出力軸と、上記トランスファ入力軸の外周に設けられたトランスファドライブギヤと、上記トランスファ出力軸の外周に設けられ、上記トランスファドライブギヤと噛み合うトランスファドリブンギヤとを有し、前輪側から後輪側又は後輪側から前輪側へ動力を伝達する動力伝達装置であって、上記トランスファ入力軸に入力される動力源側からのトルクの変動を吸収するダンパ機構が備えられ、上記ダンパ機構は、少なくともその一部が平面視で上記トランスファ出力軸の延設方向に上記トランスファドリブンギヤとオーバーラップするように配置されていることを特徴とする。
【0106】
この構成によれば、ダンパ機構の少なくとも一部が平面視でトランスファ出力軸の延設方向にトランスファドリブンギヤとオーバーラップしているので、例えば、上記特許文献1のように、ダンパ機構とトランスファドリブンギヤとがトランスファ入力軸の軸方向に並んで配置される場合と比べて、動力伝達装置の上記軸方向の長大化が抑制される。そのため、車載性の低下が抑制されるだけでなく、ダンパ機構を備えない動力伝達装置との間でトランスファケースの互換性が保たれるという利点がある。また、上記構成によれば、トランスファケースを軸方向に大きくすることなく、ダンパ機構のレイアウトスペースを確保することができる。そのため、トランスファドライブギヤとトランスファドリブンギヤとの間の歯打ち音の発生をコンパクトな構成で抑制できる。以上のことから、本発明によれば、軸方向寸法の大型化が抑制された動力伝達装置が提供される。
【0107】
すなわち、ダンパ機構を備えない場合の動力伝達装置の占有スペースからはみ出すことなくダンパ機構を動力伝達装置に備えることができる。言い換えると、ダンパ機構のレイアウトスペースを確保するためにトランスファ入力軸を軸方向に長くすることがない。そのため、トランスファケースの軸方向の大型化が回避される。
【0108】
本発明の他の一態様においては、上記ダンパ機構は、上記トランスファ入力軸を挿通する車軸の外周と上記トランスファ入力軸の内周との間の空間に設けられている。
【0109】
本発明によれば、ダンパ機構がトランスファ入力軸の内部空間に設けられるので、ダンパ機構がトランスファ入力軸の外周に配設される場合と比べて、トランスファケースを径方向外側に大きくすることなく、ダンパ機構のレイアウトスペースをトランスファ入力軸の内部空間を利用して確保することができる。そのため、上記トランスファドライブギヤとトランスファドリブンギヤとの間の歯打ち音の発生をコンパクトな構成で抑制できる。
【0110】
しかも、トランスファ入力軸の内部空間にはトランスファドライブギヤのような部材が配設されていないので、ダンパ機構を軸方向に十分長くすることができ、ダンパ機構に負荷される応力を十分低減することができる。
【0111】
以上のことから、本発明によれば、トランスファ入力軸の内部空間を利用してダンパ機構を動力伝達装置にコンパクトに備えることができる。その結果、トランスファケースの大型化を招くことなく、ダンパ機構を十分大きくして、ギヤ間の歯打ち音の発生を十分抑制することが可能な動力伝達装置が提供される。
【0112】
本発明の他の一態様においては、上記トランスファ入力軸は、エンジン側からのトルクが入力される第1軸部材と、上記第1軸部材の一端部から軸方向に延び、上記第1軸部材と周方向に相対回転可能に連結され、上記トランスファドライブギヤが外周に設けられた第2軸部材とを含み、上記ダンパ機構は、上記第2軸部材の径方向内側で上記第1軸部材の一端部から軸方向に延び、上記第1軸部材と一体に連結された内筒と、上記第2軸部材の内周面に上記第2軸部材と一体に連結された外筒と、上記内筒と上記外筒との間に介設された弾性部材とを含む。
【0113】
この構成によれば、トランスファ入力軸の第1軸部材と第2軸部材とが弾性部材を介して相対回転可能に連結されるので、弾性部材の回転方向の捩り変位によって、エンジン側からのトルク変動が吸収される。また、弾性部材を軸方向に長くすることができ、弾性部材に負荷される応力を低減することができる。このとき、第1軸部材に入力されたトルクは、トランスファ入力軸の内部空間で軸方向に流れてダンパ機構の内筒に伝達された後、ダンパ機構の弾性部材及び外筒を径方向に流れて第2軸部材に伝達される。このトルクの流れの向きは、ダンパ機構がトランスファ入力軸の外周に設けられた上記特許文献1のトルクの流れの向きと大幅に異なるものである。
【0114】
本発明の他の一態様においては、上記第1軸部材と上記第2軸部材との連結部に、両部材が所定の基準角度を超えて相対回転することを規制する規制部が設けられている。
【0115】
この構成によれば、弾性部材の過度の捩り変位が防止される。そのため、弾性部材の破損が抑制され、結果として、ダンパ機構の耐久性が向上する。
【0116】
本発明の他の一態様においては、上記第1軸部材と上記第2軸部材とはスプライン係合により連結され、第1軸部材のスプライン歯と第2軸部材のスプライン歯との間に回転方向に所定の基準量の間隙が形成され、第1軸部材と第2軸部材とが上記基準角度相対回転したときは第1軸部材のスプライン歯と第2軸部材のスプライン歯とが相互に当接することにより、上記規制部が構成されている。
【0117】
この構成によれば、スプライン歯同士の当接により、第1軸部材と第2軸部材とが上記基準角度を超えて相対回転することが安定、確実に規制される。また、スプライン歯を軸方向に長くすることができ、スプライン歯に負荷される応力を低減することができる。スプライン歯同士が当接しているとき、第1軸部材に入力されたトルクは、トランスファ入力軸の内部空間で第1軸部材と第2軸部材とのスプライン係合部を径方向に流れて第2軸部材に伝達される。このトルクの流れの向きもまた、ダンパ機構がトランスファ入力軸の外周に設けられた上記特許文献1のトルクの流れの向きと大幅に異なるものである。
【0118】
本発明の他の一態様においては、上記外筒の外周面に第1嵌合部が設けられ、上記第2軸部材の内周面に第2嵌合部が設けられ、上記第1嵌合部と上記第2嵌合部とが相互に嵌合することにより、上記外筒を含むダンパ機構の内筒に上記第1軸部材が一体に連結されたときに上記第1軸部材と上記第2軸部材との連結部に上記規制部が設けられるように、上記外筒と上記第2軸部材とが一体に連結されている。
【0119】
この構成によれば、動力伝達装置の製造工程において、治具を用いることなく、トランスファ入力軸の第1軸部材と第2軸部材との周方向の位相が合わせられるので、治具を用いる工程を削減することができる。すなわち、この構成によれば、外筒に設けられた第1嵌合部と、第2軸部材に設けられた第2嵌合部とにより、最終的に第1軸部材と第2軸部材との周方向の位相を合わせることができるので、治具を用いる工程を削減することができる。以上のことから、この構成によれば、組立性が向上した動力伝達装置が提供される。
【0120】
本発明の他の一態様においては、上記ダンパ機構は、少なくともその一部が平面視で上記トランスファ出力軸の延設方向に上記トランスファ出力軸とオーバーラップするように配置されている。
【0121】
この構成によれば、動力伝達装置の軸方向寸法のより一層のコンパクト化が図られる。
【0122】
本発明の他の一態様においては、上記ダンパ機構は、上記トランスファ入力軸の外周に設けられている。
【0123】
この構成によれば、ダンパ機構をトランスファ入力軸の内部空間に設けるよりも、組立てが容易という利点がある。
【0124】
本発明の他の一態様においては、上記ダンパ機構の上記トランスファ入力軸の軸方向の一方の側に差動装置が配置され、他方の側に上記トランスファドライブギヤが配置されている。
【0125】
この構成によれば、ダンパ機構を、平面視で差動装置とトランスファドライブギヤとの間に配置されるトランスファドリブンギヤと容易にオーバーラップさせることができる。
【0126】
本発明の他の一態様においては、上記ダンパ機構は、その外周端部が上記トランスファドライブギヤの内周端部よりも径方向内側に配置されている。
【0127】
この構成によれば、ダンパ機構及びその周辺の径方向のコンパクト化が図られる。
【0128】
本発明の他の一態様においては、上記ダンパ機構は、上記トランスファ入力軸の外周面に上記トランスファ入力軸と一体に連結された内筒と、上記トランスファドライブギヤの内周面に上記トランスファドライブギヤと一体に連結された外筒と、上記内筒と上記外筒との間に介設された弾性部材とを含み、上記トランスファ入力軸の外周面に第1係合部が設けられ、上記トランスファドライブギヤの内周面に第2係合部が設けられ、上記第1係合部と上記第2係合部とが相互に周方向に相対回転可能に連結され、上記第1係合部と上記第2係合部とが所定の基準角度を超えて相対回転することを規制する規制部が設けられている。
【0129】
この構成によれば、トランスファドライブギヤを利用して、トランスファ入力軸とトランスファドライブギヤとが上記基準角度を超えて相対回転することを規制する規制部が構成され、弾性部材の過度の捩り変位が防止される。そのため、弾性部材の破損が抑制され、結果として、ダンパ機構の耐久性が向上する。
【0130】
また、本発明のさらに他の一態様は、上記動力伝達装置の製造方法であって、上記第1嵌合部と上記第2嵌合部とを相互に嵌合させることにより上記外筒と上記第2軸部材とを一体に連結する第1連結工程と、上記第1連結工程の後、上記第1軸部材と上記第2軸部材との連結部に上記規制部が設けられるように、上記外筒を含むダンパ機構の内筒と上記第1軸部材とを一体に連結する第2連結工程とを有することを特徴とする。
【0131】
この構成によれば、動力伝達装置の製造工程において、治具を用いることなく、トランスファ入力軸の第1軸部材と第2軸部材との周方向の位相が合わせられるので、治具を用いる工程を削減することができる。すなわち、この構成によれば、外筒に設けられた第1嵌合部と、第2軸部材に設けられた第2嵌合部とにより、最終的に第1軸部材と第2軸部材との周方向の位相を合わせることができるので、治具を用いる工程を削減することができる。以上のことから、この構成によれば、生産性に優れた動力伝達装置の製造方法が提供される。
【0132】
この出願は、2014年3月27日に出願された日本国特許出願特願2014−066678を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0133】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ充分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、そのような変更形態又は改良形態は、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上のように、本発明は、軸方向寸法の大型化が抑制された動力伝達装置、組立性が向上した動力伝達装置、及び生産性に優れた動力伝達装置の製造方法を提供するので、動力伝達装置の産業上の広範な利用可能性を有する。
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