(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定の深さが、前記pn接合から前記第1主面に向かって前記第2半導体層の不純物濃度を積分した値が前記第2半導体層の臨界積分濃度となる位置であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
前記pn接合から前記第1主面側に向かって前記所定の深さまでの長さが、前記第2半導体層における第1導電型キャリアの拡散長であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
前記第3工程では、前記第2主面にペースト状の前記白金を塗布し、熱処理により前記第2半導体層の内部に前記白金を拡散させて前記アルゴン導入領域に局在化させることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
前記第2工程では、前記アルゴンの飛程が、前記第2半導体層の前記第1主面からの深さの1/2の深さから前記pn接合の深さまでの範囲に位置することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
前記第2工程では、前記pn接合から前記第1主面に向かって前記第2半導体層の不純物濃度を積分した値が前記第2半導体層の臨界積分濃度となる位置までの間に前記アルゴンの飛程が位置するように、前記アルゴンのイオン注入の加速エネルギーを調整することを特徴とする請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
前記第1工程では、前記第1主面上に、前記第2半導体層の形成領域に対応する部分を露出した開口部を有するマスク部材を形成し、前記マスク部材の開口部からイオン注入した第2導電型不純物を拡散させることで前記第2半導体層を形成することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
前記第1工程では、前記第2工程でイオン注入される前記アルゴンが貫通しない厚さに前記マスク部材を形成することを特徴とする請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
前記第1工程では、pn接合ダイオードのアノード層、絶縁ゲート型電界効果トランジスタのボディダイオードのアノード層、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタのベース層、逆導通絶縁ゲート型バイポーラトランジスタのダイオード部のアノード層、または、活性領域の周囲を囲む終端領域において耐圧構造を構成するガードリング層として、前記第2半導体層を形成することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
前記第2半導体層は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のpベース層であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
前記半導体装置は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、または、RC−IGBT(Reverse Conducting−Insulated Gate Bipolar Transistor)であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
前記第3工程では、前記アルゴン導入領域で最大濃度となる白金濃度分布を有するように前記白金を局在化させることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【背景技術】
【0002】
白金(元素記号はPt)は逆回復特性の改善と漏れ電流の低減を図るためのライフタイムキラーとして有用であり、ダイオード製品などに多く適用されている。従来の半導体装置の製造方法(製造工程)について、p−i−nダイオードを製造する場合を例に説明する(従来の製造工程1)。
図9は、従来の半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図9には、
図10のp−i−nダイオード500の製造プロセスにおいて、ライフタイムキラーである白金原子61を導入する工程を示す。
【0003】
図10は、従来のp−i−nダイオード500の製造プロセス途中の状態を示す説明図である。
図10(a)は従来のp−i−nダイオード500の要部断面図であり、
図10(b)は半導体基体の白金濃度分布図である。
図10(a)には、白金原子61の蒸着またはスパッタの状態も示し、製造プロセス途中の実線で示される断面図に、その後の製造プロセスで形成される部位(アノード電極であるおもて面電極62、カソード電極である裏面電極63)を点線で図示した。以下の説明において括弧内の数字は、
図9の括弧内の数字であり、製造工程の順番を示す。
【0004】
図9の(1)は、マスク部材形成工程(ステップS81)である。n
+半導体基板51のおもて面上に配置されたn
-半導体層52の表面(n
+半導体基板51側に対して反対側の表面)に開口部53を有するマスク部材を形成する。以下、n
+半導体基板51上にn
-半導体層52を積層した積層体を半導体基体とする。マスク部材としては保護膜となる絶縁膜54である酸化膜が一般的である。n
+半導体基板51はn
+カソード層55になり、n
-半導体層52はn
-ドリフト層56になる。
【0005】
図9の(2)は、p
+半導体層形成工程(ステップS82)である。n
-半導体層52の表面から絶縁膜54の開口部53を通してp型不純物をイオン注入し、熱拡散によりn
-半導体層52の表面層に選択的にp
+半導体層であるp
+アノード層57を形成する。
【0006】
図9の(3)は、白金成膜工程(ステップS83)である。基体おもて面側から絶縁膜54の開口部53に露出するp
+アノード層57の表面に、ライフタイムキラーとなる白金原子61を蒸着またはスパッタして付着させる。このとき、n
-半導体層52の表面のp
+アノード層57以外の個所を被覆しているマスク部材の働きをする絶縁膜54の表面にも白金原子61が付着し被覆される。
【0007】
図9の(4)は、白金拡散工程(ステップS84)である。800℃以上の温度で熱処理して、白金原子61をn
+カソード層55,n
-ドリフト層56,p
+アノード層57中に拡散する。このとき、絶縁膜54中にも白金原子61が拡散される。
【0008】
図9の(5)は、電極形成工程(ステップS85)である。絶縁膜54の開口部53を埋め込むようにp
+アノード層57に接するおもて面電極62を形成し、n
+半導体基板51の裏面に裏面電極63を形成する。このようにしてライフタイムキラーが導入されたp−i−nダイオード500が完成する。
【0009】
このライフタイムキラーを導入することで、n
-ドリフト層56に蓄積した過剰キャリアが速やかに消滅する。この速やかな消滅により、逆回復電流IRRが小さくなり、逆回復時間trrが短縮されて、スイッチングスピードが速いp−i−nダイオード500になる。
【0010】
ステップS84の白金拡散工程では、白金原子は、シリコンの格子間を拡散し、800℃から1000℃程度の拡散温度で、短時間にシリコン結晶全体に拡散し平衡状態に達する。この格子間の白金原子は、シリコン結晶の空格子を介して、シリコン格子位置に配置されるか、または格子位置のシリコン原子と置換されて、格子位置の白金原子として安定化する。この格子位置の白金原子がライフタイムキラーあるいはアクセプタとなると考えられる。一般的に空格子密度は、
図10(b)で示すように、シリコンウエハの表面で高くなるため、格子位置の白金密度は表面付近で高いU字型分布(バスタブ曲線)を取ることは周知である。
【0011】
白金濃度分布とダイオードの電気的特性との関係については以下のようになる。シリコン結晶内部へ拡散した白金原子61は拡散係数が大きく、シリコン結晶の厚さ方向全体に拡散する。白金原子がシリコン結晶の表面に偏析する傾向があるため、特にn
+カソード層51とp
+アノード層57で白金濃度が高くなる。これに対して、n
-ドリフト層56ではp
+アノード層57に比べて白金濃度は低くなる。p
+アノード層57とn
-ドリフト層56との境界付近の白金濃度が高いため、逆回復電流IRR(逆回復電流IRRのピーク値IRPも含めて)が小さく、逆回復時間trrが短い。
【0012】
さらに、白金原子を素子形成領域である基体おもて面側からではなく、基体裏面(半導体基板の裏面)側から拡散させる方法もある(従来の製造工程2)。
図11は、従来の半導体装置の製造方法の別の一例の概要を示すフローチャートである。
図11には、
図12のp−i−nダイオード600の製造プロセスにおいて、基体裏面からライフタイムキラーである白金原子を導入する工程を示す。
図12は、従来のp−i−nダイオード600の製造プロセス途中の状態を示す説明図である。
図12(a)は従来のp−i−nダイオード600の要部断面図であり、
図12(b)は半導体基体の白金濃度分布図である。また、
図12(a)には、白金ペースト60をn
+カソード層55の表面(n
+半導体基板51の裏面)55aに塗布した状態も示す。また、製造プロセス途中の実線で示される断面図に、その後のプロセスで形成される部位(アノード電極であるおもて面電極62、カソード電極である裏面電極63)を点線で図示している。
【0013】
図11の(1)は、マスク部材形成工程(ステップS91)である。n
+半導体基板51のおもて面上に配置されたn
-半導体層52の表面に開口部53を有するマスク部材54を形成する。マスク部材としては保護膜となる絶縁膜54である酸化膜が一般的である。n
+半導体基板51はnカソード層55になり、n
-半導体層52はn
-ドリフト層56になる。
【0014】
図11の(2)は、p
+半導体層形成工程(ステップS92)である。n
-半導体層52の表面から絶縁膜54の開口部53を通してp型不純物をイオン注入し、熱拡散によりn
-半導体層52の表面層に選択的にp
+半導体層であるp
+アノード層57を形成する。
【0015】
図11の(3)は、白金ペースト塗布工程(ステップS93)である。n
+カソード層55の表面(n
+半導体基板51の裏面)55aに白金ペースト60を塗布する。白金ペースト60は白金を含有したシリカ(SiO
2)源でペースト状になっている。
【0016】
図11の(4)は、白金拡散工程(ステップS94)である。800℃以上の温度で熱処理して、白金原子61をn
+カソード層55,n
-ドリフト層56,p
+アノード層57に拡散する。このとき、絶縁膜54中にも白金原子61が拡散される。
【0017】
図11の(5)は、電極形成工程(ステップS95)である。絶縁膜54の開口部53を埋め込むようにp
+アノード層57に接するおもて面電極62を形成し、基体裏面にn
+カソード層55に接する裏面電極63を形成する。このようにしてライフタイムキラーが導入されたp−i−nダイオード600が完成する。
【0018】
下記特許文献1では、半導体ウエハ内に重金属を拡散させるのに先立ち、半導体ウエハ内にまず、不活性元素であるアルゴン(Ar)を注入する。アルゴンの注入は、半導体ウエハにおけるpn接合が形成された位置上の半導体ウエハ表面から行う。そしてその後に、重金属の拡散を行う。アルゴンのイオン注入により、半導体ウエハの表面層にアモルファス構造が形成され、このアモルファス構造により重金属の拡散が均等に偏りなく行われる。そのため、少数キャリアのライフタイムがウエハ内で均一に短縮されるという効果が記載されている。
【0019】
また、下記特許文献2では、半導体基板内に重金属を拡散した後に、この半導体基板内に荷電粒子を照射し、さらに650℃以上の熱処理を加えることにより半導体基板内に高温でも安定な低ライフタイムの所定の領域を設けることが記載されている。また、その後、650℃までのその後のウェーハプロセス、組立工程の熱処理または使用温度が制限されることはないことが記載されている。
【0020】
また、下記特許文献3では、p/n
-/n
+基板の構造の半導体整流装置で、特にスイッチング素子において高速動作を実現するために、白金や金等のライフタイムキラーを拡散で導入する場合が記載されている。特に、金や白金を拡散して再結合中心を形成するとともに、N
-層に基板の裏面からプロトンまたはヘリウムまたはデュートロンを照射して局所的に再結合中心を形成する。このことで、適切な順方向電圧降下と逆回復特性の関係を得ることが記載されている。
【0021】
また、下記特許文献4では、アクセプタとなる白金を半導体基板の最表層で高濃度化するために、格子欠陥を導入して空格子を形成し、白金を格子間から格子位置に置換させてアクセプタ化を増強させる方法が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。下記実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型とする。
【0043】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図1は、実施の形態1に係る半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図1には、
図2の実施の形態1に係る半導体装置100であるp−i−nダイオード100aの製造プロセスを示す。また、
図2は、実施の形態1に係る半導体装置100の製造プロセス途中の状態を示す説明図である。
図2(a)は実施の形態1に係る半導体装置100の要部断面図である。
図2(b)は
図2(a)の切断線A−A線における白金濃度分布図である。
図2(c)は
図2(a)の切断線A−A線におけるアルゴン濃度分布図である。
図2(b),2(c)の横軸はp
+アノード層7表面(基体おもて面)から半導体基体の内部への深さであり、縦軸はそれぞれの濃度である。縦軸のスケールは
図2(b),2(c)ともに常用対数である。
図2(a)には、アルゴン(Ar)8のイオン注入8a、欠陥層9、基体裏面に塗布された白金ペースト10なども示した。また、製造プロセス途中の実線で示される断面図に、その後の製造プロセスで形成される部位(アノード電極であるおもて面電極12、カソード電極である裏面電極13)を点線で図示した。
【0044】
図1および
図2(a)について説明する。以下の説明において括弧内の数字は、
図1の括弧内の数字であり、製造工程の順番を示す。
【0045】
図1の(1)は、マスク部材形成工程(ステップS1)である。n
+半導体基板1のおもて面上に形成されたn
-半導体層2の表面(n
+半導体基板1側に対して反対側の表面)に開口部3を有するマスク部材であり、保護膜である絶縁膜4を形成する。絶縁膜4としては酸化膜が一般的である。絶縁膜4は、後述するアルゴンイオン注入工程においてイオン注入8aされるアルゴン8が貫通しない厚さに形成される。n
+半導体基板1はn
+カソード層5になり、n
-半導体層2はn
-ドリフト層6になる。
図2(a)では、n
-半導体層2をn
+半導体基板1のおもて面上に成長させたエピタキシャル成長層とした場合を示した。拡散法で素子構造の各部を形成する場合には、n
-半導体基板の裏面全体の表面層にn
+カソード層5を拡散で形成し、n
-半導体基板のおもて面の表面層に後述するようにp
+アノード層7を拡散で選択的に形成する。n
+カソード層5とp
+アノード層7が形成されないn
-半導体基板の個所がn
-ドリフト層6になる。以下、n
+カソード層5からn
-半導体層2およびp
+アノード層7までを半導体基体とする。
【0046】
n
+半導体基板1は例えば砒素(As)をドープした半導体基板であり、n
-半導体層2はn
+半導体基板1上にエピタキシャル成長させた例えばリン(P)をドープした半導体層である。また、n
+半導体基板1の厚さは500μm程度であり、その不純物濃度は2×10
19cm
-3程度である。また、n
-ドリフト層6であるn
-半導体層2の厚さは8μm程度であり、その不純物濃度は2×10
15cm
-3程度である。絶縁膜4である酸化膜は熱酸化で形成し、絶縁膜4の厚さは1μm程度である。なお、半導体基体は、バルク切り出しの基板であってもよい。バルク切り出しの基板は、例えばCZ(Czochralski:チョクラルスキー)法、MCZ(Magnetic field applied CZ:磁場印加チョクラルスキー)法、FZ(Floating Zone:フロートゾーン法)などにより作製したシリコンなどのインゴットを、スライスし鏡面仕上げをした基板である。半導体基体として例えばMCZ基板を用いた場合には、MCZ基板のn型不純物濃度は、n
-ドリフト層6の不純物濃度とする。n
+カソード層5は、MCZ基板の裏面をバックグラインド、エッチング等により研削してMCZ基板を薄厚化したのち、研削面にイオン注入およびアニール(熱処理、レーザーアニール等)で活性化してもよい。
【0047】
図1の(2)は、p
+半導体層形成工程(ステップS2)である。n
-半導体層2の表面から絶縁膜4の前記開口部3を通してp型不純物をイオン注入し、熱拡散によりn
-半導体層2の表面層に選択的にp
+半導体層であるp
+アノード層7を形成する。例えば、ドーパントとしてボロン(B)を用いた場合、p
+アノード層7を形成するためのイオン注入のドーズ量は例えば1×10
13cm
-2程度(1.3×10
12cm
-2〜1×10
14cm
-2)であり、加速エネルギーは例えば100keV程度(30keV〜300keV)であってもよい。また、拡散温度は1000℃以上程度(1000℃〜1200℃)であってもよい。これにより、p
+アノード層7の拡散深さ(厚さ)は例えば3μm(2μm〜5μm)程度とする。p
+アノード層7の表面濃度は例えば2×10
16cm
-3程度(1×10
16cm
-3〜1×10
17cm
-3)とする。
【0048】
図1の(3)は、アルゴンイオン注入工程(ステップS3)である。絶縁膜4をマスクとして基体おもて面(p
+アノード層7の表面)からアルゴン8(元素記号はAr)をイオン注入8aして、p
+アノード層7内に欠陥層(アルゴン導入領域)9を形成する。具体的には、欠陥層9には、
図2(c)のように、アルゴン原子がアルゴン8の飛程Rpで最大濃度としてのピーク値を有するとともに、当該飛程Rpを中心にストラグリングΔRpの幅で、最大濃度の半値程度の濃度のアルゴン原子が分布する。アルゴン原子の濃度分布が欠陥層9のカソード側でRp+ΔRpとなる位置が、p
+アノード層7の拡散深さXjより浅くてもよい。アルゴン8の飛程Rpはp
+アノード層7の拡散深さXjの1/2以上で、かつp
+アノード層7の拡散深さXj以下程度の範囲に設定する。p
+アノード層7の拡散深さXjを1μm〜10μmにした場合、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを0.5MeV〜30MeVの範囲にするとアルゴン8の飛程Rpを前記の範囲に設定することができる。例えば、p
+アノード層7の拡散深さXjが5μmの場合には、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーを4MeV〜10MeV程度にするとよい。アルゴン8の飛程Rpまたはアルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーと、p
+アノード層7の拡散深さXjとの関係については後述する。
【0049】
図1の(4)は、白金ペースト塗布工程(ステップS4)である。n
+カソード層5の表面(n
+半導体基板1の裏面)5aに白金ペースト10を塗布する。白金ペースト10は白金原子11を含有したシリカ(SiO
2)源でペースト状になっている。n
+カソード層5の表面5aから白金原子11を拡散するため、基体おもて面側の絶縁膜4中に白金原子11が拡散されない。なお、
図2において、白金原子11を丸印で示しているが、これは白金原子11の存在を便宜的に示したものであり、実際の白金原子11がこの丸印の位置に丁度存在していることを示すものではない。実際の白金原子11は、図の斜線でハッチングした白金局在領域35において、所定の不純物濃度および所定の幅を含む深さで分布するとともに、半導体基体全体においても、白金局在領域35よりも低い不純物濃度で分布している。特に、
図2(b)のように、半導体基体の深さ方向では、白金原子11は、欠陥層9のうちアルゴン8のほぼ飛程Rpの部分で最も高いピークを示し、裏面電極13との境界で高くなる以外はほぼ平坦な濃度分布で分布している。
【0050】
図1の(5)は、白金拡散工程(ステップS5)である。例えば800℃以上程度の温度で熱処理して、基体裏面側から白金原子11をn
+カソード層5、n
-ドリフト層6を通して、p
+アノード層7内まで半導体基体の深さ方向全体にわたって拡散させる。このとき、ステップS3のアルゴン8のイオン注入8aで形成された欠陥層9のうち、アルゴン原子が局在する領域(Rp±ΔRp)を中心に白金原子11が偏析する。これは、アルゴン8のイオン注入8aにより、空孔や複空孔といった点欠陥が多数形成され、この点欠陥に白金原子11が集まるからである。これにより、点欠陥が形成された位置に、白金原子11が入り込み、結果として白金原子11が入った位置の点欠陥は消滅するが、アルゴン原子はシリコン原子の格子間位置などに残留する。以上により、欠陥層9に白金原子11が集められ、欠陥層9のうち、アルゴン原子が局在する領域に白金原子11が局在化する。一方、
図2(a)に示すように、半導体基体の絶縁膜4で覆われた表面(おもて面)にはアルゴン8がイオン注入8aされないため、白金原子11は半導体基体のおもて面の表面層に偏析し局在化する。
【0051】
ステップS5の白金拡散工程の熱処理温度は、例えば、800℃以上で1000℃以下が好ましい。その理由は、次の通りである。白金拡散工程の熱処理温度が、例えば上記特許文献1のように1000℃を超えると、白金原子11の拡散速度が早く、アルゴン8のイオン注入8aによる欠陥層9で白金原子11を捕獲できなくなるからである。欠陥層9で白金原子11を捕獲できない場合、白金原子11はn
-ドリフト層6全体に拡散されて、白金原子11の濃度分布が広がり局在化が弱まるので好ましくない。白金拡散工程の熱処理温度が800℃以下では、白金原子11が半導体基体全体に拡散しなくなるからである。白金拡散工程の熱処理温度は、さらに、好ましくは、900℃程度がよい。
【0052】
図1の(6)は、電極形成工程(ステップS6)である。絶縁膜4の開口部3を埋め込むようにp
+アノード層7に接するおもて面電極12を形成し、基体裏面にn
+カソード層5に接する裏面電極13を形成する。このようにしてライフタイムキラーとなる白金原子11がp
+アノード層7内に局在化して導入されたp−i−nダイオード100aである半導体装置100が完成する。
【0053】
以上の工程により、上述したように、白金濃度は欠陥層9のうちアルゴン原子が局在する領域で最も高くなる(
図2(b))。白金原子11は、アルゴン8のイオン注入8aによる欠陥層9のカソード側の部分に局在し、p
+アノード層7の基体おもて面側の表面層に偏析する度合いが小さくなる。なお、基体おもて面(n
-ドリフト層6の表面)の絶縁膜4に接する部分には、アルゴン8はイオン注入8aされないので、従来(
図10,12)と同様に半導体基体のおもて面の表面層に白金原子11が偏析する。p
+アノード層7が形成された領域を活性領域とし、活性領域の周囲を囲む外周部をエッジ終端領域とした場合、半導体基体のおもて面の表面層のライフタイムが活性領域よりもエッジ終端領域で短くなる。そのため、逆回復時に、エッジ終端領域へのキャリア(正孔、電子)の集中が緩和され、逆回復耐量が向上する効果を奏する。活性領域とは、オン状態のときに電流が流れる(電流駆動を担う)領域である。エッジ終端領域とは、ドリフト層の基体おもて面側の電界を緩和し耐圧を保持する領域である。
【0054】
次に、p
+アノード層7の拡散深さXj、アルゴン8のイオン注入8aの飛程Rp、および白金原子11の局在位置の関係について説明する。
図13は、この発明の実施の形態1に係る半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の不純物濃度分布を示す特性図である。
図13(a)の横軸が、p
+アノード層7表面(基体おもて面)から半導体基体の内部への深さであり、縦軸がドーピングおよび電子の濃度である。
図13(b)の横軸は、
図13(a)の横軸に対応し、縦軸がアルゴン濃度32および白金濃度33である。縦軸のスケールは
図13(a),13(b)ともに常用対数である。
図13(a)において、ドーピング濃度31(ネットドーピング濃度)と、p−i−nダイオード100aが順方向導通時の電子濃度30と、を示す。p−i−nダイオード100aに順方向の電圧を印加すると、p
+アノード層7からn
-ドリフト層6を経由して基体裏面側のn
+カソード層5に正孔が注入され、n
+カソード層5からはn
-ドリフト層6を経由してp
+アノード層7に電子が注入される。特に、おもて面電極12(アノード電極)における正孔の注入効率は、p
+アノード層7に注入される電子の拡散長に依存する。順方向電流IFが定格電流密度J
rated(例えば300A/cm
2等)の1%、10%、100%のときには、
図13(a)のように、電子濃度30は、n
-ドリフト層6でほぼ平坦で、かつp
+アノード層7のn
-ドリフト層6との境界付近で急峻に減少し熱平衡濃度n
0に達する濃度分布となる。このとき、p
+アノード層7に進入する電子の拡散長を短くすれば、正孔の注入効率は低減され、逆回復電流IRRを小さくすることができる。
【0055】
そこで、p
+アノード層7において、p
+アノード層7とn
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpn(拡散深さXjと同じ値)から、電子濃度30が熱平衡濃度n
0に達する位置までの領域を電子進入領域34とし、この電子進入領域34の範囲内で白金原子11を局在させる。そのためには、上記ステップS3の製造工程において、アルゴン8のイオン注入8aの飛程Rpを電子進入領域34の内部とし、電子進入領域34にアルゴン8を局在させる。これにより、アルゴン8の局在する領域に、格子欠陥、特に空格子(空孔、複空孔など)が局在する。そして、上記ステップS5の製造工程で白金原子11を拡散させると、アルゴン8とともに局在する空格子に白金原子11が捕獲され、局在する。すなわち、電子進入領域34に白金原子11を局在させることができる。
【0056】
通電する電流密度Jにより電子濃度30が変化するため、厳密には電子進入領域34は電流密度Jに依存する。そこで、電子進入領域34の等価的な定義を以下の2点とする。一つ目は、電子進入領域34の深さ範囲(厚さ)を、p
+アノード層7とn
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpnからp
+アノード層7内における電子の拡散長Lnとする。電子の拡散長Lnは、(Dnτn)
0.5であり、Dnは電子の拡散係数、τnは電子のライフタイムである。二つ目は、p
+アノード層7とn
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpnから基体おもて面側へp
+アノード層7のドーピング濃度(アクセプタ濃度)を積分して、当該位置Xpnから、当該位置Xpnからのp
+アノード層7の積分値が臨界積分濃度nc(約1.3×10
12cm
-2)となる位置Xncまでの範囲を電子進入領域34とする。逆バイアス時に、p
+アノード層7とn
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpnからp
+アノード層7内に空乏層が広がる。この逆バイアス電圧が増加して、アバランシェ降伏が発生するときは、シリコン(Si)の場合は電界強度がほぼ2×10
5V/cm〜3×10
5V/cmである。このため、p
+アノード層7の上記積分値はほぼ一定の臨界積分濃度nc(約1.3×10
12cm
-2)となる。これは、半導体の物質によって決まるので、例えばシリコンカーバイド(SiC)なら10倍の約1.3×10
13cm
-2となる。窒化ガリウム(GaN)もSiCと同じ10
13cm
-2オーダーの値である。p−i−nダイオード100aでは、p
+アノード層7が全て空乏化すると漏れ電流が急増するので、アバランシェ降伏が発生するときにはp
+アノード層7が全て空乏化しないようにしなければならない。よって、p
+アノード層7の積分濃度は臨界積分濃度ncよりも高くする。すなわち、p
+アノード層7の全拡散深さは、p
+アノード層7とn
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpnから基体おもて面側へ向う方向のp
+アノード層7の積分濃度が臨界積分濃度ncとなる位置(以下、p
+アノード層7の臨界積分濃度位置とする)Xncよりもカソード側に深くならなければならない。言い換えると、電流密度Jが定格電流密度程度に十分高い場合は、順バイアス時にカソード側からp
+アノード層7に進入する電子は、n
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpnから少なくともp
+アノード層7の臨界積分濃度位置Xncまではp
+アノード層7中に進入するようになる。よって、このp
+アノード層7とn
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpnからp
+アノード層7の臨界積分濃度位置Xncまでの領域を電子進入領域34とし、この領域に白金原子11を局在させることが好ましい。そのためには、アルゴン8のイオン注入8aの飛程Rpを、電子進入領域34であるp
+アノード層7とn
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpnからp
+アノード層7の臨界積分濃度位置Xncまでの間の領域にするとよい。
【0057】
次に、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArの好ましい値について説明する。上述の電子進入領域34に白金原子11を局在させるには、例えば、p
+アノード層7の拡散深さXj近傍のp
+アノード層7内にアルゴン8の飛程Rpが位置するようにアルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを決めるとよい。例えば、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを0.5MeV〜10MeVの範囲とするとよい。また、アルゴン8のイオン注入8aのドーズ量DArとしては1×10
14cm
-2〜1×10
16cm
-2が好ましい。その理由は、次の通りである。アルゴン8のイオン注入8aのドーズ量DArが1×10
14cm
-2未満では、欠陥層9の欠陥量が少なくなり過ぎる。その結果、白金局在領域35の白金濃度が低くなり過ぎて、逆回復電流IRRが大きくなり過ぎるからである。また、アルゴン8のイオン注入8aのドーズ量DArが1×10
16cm
-2超では、白金局在領域35の白金濃度が高くなり過ぎて順電圧降下VFが高くなり過ぎるからである。
【0058】
図14は、シリコン基板へのアルゴンのイオン注入特性を示す特性図である。
図14には、アルゴン8のイオン注入8aにおいて、シリコン基板中におけるアルゴン8の飛程Rpと飛程Rpのストラグリング(飛程Rpのばらつき)ΔRpの、イオン注入8aの加速エネルギーPArに対する依存性を示す。p
+アノード層7の拡散深さが3.0μmで表面濃度を2×10
16cm
-3程度とする場合、p
+アノード層7とn
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpnから基体おもて面側へ向う方向のp
+アノード層7の積分濃度が臨界積分濃度ncとなるのは、当該位置Xpnから基体おもて面側へ向う方向のp
+アノード層7の積分濃度が約1×10
16cm
-3となる位置である。このときのp
+アノード層7の臨界積分濃度位置Xncはp
+アノード層7とn
-ドリフト層6との間のpn接合の位置Xpnから約1.5μmであり、半導体基板のおもて面(p
+アノード層7とおもて面電極12との界面)からは約1.5μmである。よって、電子進入領域34は、p
+アノード層7とおもて面電極12との界面から1.5μmから3.0μmまでの範囲内に位置する。このとき、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArは、例えば、アルゴン8の飛程Rpを1.5μmとする場合は2MeV、アルゴン8の飛程Rpを3.0μmとする場合は5MeVである。よって、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArは、好ましくは2MeV〜5MeVであるとよい。
【0059】
次に、電子進入領域34に白金原子11を局在させたときのライフタイム分布について説明する。p
+アノード層7の欠陥層9に白金原子11が集まり(偏析し)、高い濃度でp
+アノード層7に局在化する。そのため、p
+アノード層7内のライフタイムは短い。また、白金原子11はp
+アノード層7の欠陥層9に吸い取られるのでn
-ドリフト層6の白金濃度は低い。そのためn
-ドリフト層6内のライフタイムは長い。
【0060】
アルゴン8のイオン注入8aを異なる加速エネルギーPArで行ったときの各白金濃度分布について検証した。
図3は、実施例1に係るp−i−nダイオード100aの製造プロセス途中の状態を示す説明図である。
図3(a)はp−i−nダイオード100aの要部断面図であり、
図3(b)は
図3(a)の切断線A−A線における白金濃度分布図である。
図3(b)には、アルゴン8のイオン注入8aのドーズ量DArが1×10
16cm
-2で、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArが0.5MeV,1MeV,10MeVの場合の白金濃度分布を実線で示す(以下、実施例1とする)。一方、アルゴン8をイオン注入しない従来(
図9〜12参照)の場合の白金濃度分布を破線で示す(以下、従来例とする)。実施例1において、アルゴン8の飛程Rpはp
+アノード層7の拡散深さXjより浅くなるように設定する。
図3(b)に示すように、従来例においては、p
+アノード層7のカソード側端部(拡散深さXj)付近の白金濃度が、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArが高くなるにつれて増大する。これは、p
+アノード層7の拡散深さXj近傍のライフタイムが短くなることを示す。その結果、逆回復電流IRRのピーク値IRPが減少する。一方、白金濃度はp
+アノード層7内に殆ど局在化しており、n
-ドリフト層6内の白金原子11はアルゴン8のイオン注入8aで形成された欠陥層9のうちアルゴン原子が局在する領域に偏析する。その結果、アルゴン8のイオン注入8aを行わない従来例の白金濃度分布と比べて、n
-ドリフト層6内の白金濃度は低下する。また、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを変えてもn
-ドリフト層6内の白金濃度が従来例よりも低い値で維持され変化しない。すなわち、実施例1は、従来例と比べてn
-ドリフト層6内のライフタイムが高くなる。そのため、実施例1においては、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを変えても順電圧降下VFはそれほど変化しない。その結果、逆回復電流IRRのピーク値IRPと順電圧降下VFとのトレードオフは、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを大きくすることで改善される。さらに、n
-ドリフト層6の白金濃度が低くライフタイムが長くなるため、逆回復電流波形のソフトリカバリー化を図ることができる。
【0061】
次に、アルゴン8のイオン注入8aのドーズ量DArおよび加速エネルギーPArをパラメータにして、逆回復電流IRRのピーク値IRPと順電圧降下VFとの関係について検証した。
図4は、実施例2に係るp−i−nダイオード100aの電気的特性を示す特性図である。上述した実施の形態1に係る半導体装置の製造工程にしたがい、p−i−nダイオード100aを作製した(以下、実施例2とする)。アルゴン8のイオン注入8aのドーズ量DArを1×10
14cm
-2〜1×10
16cm
-2の範囲とし、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを0.5MeV〜10MeVの範囲で可変した。900℃の拡散温度でn
+カソード層5の表面(n
+半導体基板1の裏面)5aから白金原子11を導入した。
図4に示す結果より、アルゴン8のイオン注入8aのドーズ量DArを多くすると、逆回復電流IRRのピーク値IRPが大きくなり、順電圧降下VFは低くなる。これは、アルゴン8のイオン注入8aのドーズ量DArを多くすると、白金原子11がp
+アノード層7に形成された欠陥層9に吸い取られ、n
-ドリフト層6の白金濃度が低下するためである。また、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを高くすると、逆回復電流IRRのピーク値IRPは小さくなる方向へ移動する。これは、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを高くするとアルゴン8の飛程Rpが伸びてp
+アノード層7の拡散深さXj付近に達し、p
+アノード層7の拡散深さXj付近の白金濃度が上昇するためである。そのため、アルゴン8のイオン注入8aの加速エネルギーPArを高くすると、逆回復電流IRRのピーク値IRPと順電圧降下VFとのトレードオフが改善される。
【0062】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、pアノード層の内部に、n
-ドリフト層とのpn接合付近を飛程として基体おもて面からアルゴンをイオン注入した後、基体裏面から白金原子をpアノード層の内部に拡散させることで、pアノード層にライフタイムキラーとなる白金原子を局在化させることができる。これにより、pアノード層の、おもて面電極との境界付近に白金原子が局在化することを防止することができる。このため、逆回復電流を小さくし、逆回復時間を短縮し、かつ順電圧降下を低減させることができる。
【0063】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図5は、この発明の実施の形態2に係る半導体装置の製造方法で製造された半導体装置の要部断面図である。実施の形態2に係る半導体装置の製造方法は、実施の形態1に係る半導体装置の製造方法をMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)200のボディダイオード(寄生ダイオード)200aのpアノード層7aに適用した製造プロセスである。
図5には、ステップS3のアルゴンイオン注入工程を示す。また、
図5には、その後の製造プロセスで形成される部位(ソース電極およびアノード電極を兼ねるおもて面電極16、ドレイン電極およびカソード電極を兼ねる裏面電極)を点線で図示した。
図5に示すように、MOSFET200のボディダイオード200aはpアノード層7a,n
-ドリフト層6a,n
+カソード層5bで構成される。
【0064】
pアノード層7aはMOSFETのpウェル層(pベース層)15であり、n
+カソード層5bはMOSFETのn
+ドレイン層20である。まず、n
+ドレイン層20となるn
+半導体基板のおもて面上にn
-ドリフト層6aをエピタキシャル成長させた半導体基体を用意する。n
-ドリフト層6aとなるバルク切り出しの基板の裏面全体にn
+ドレイン層20を拡散法で形成した半導体基体を用意してもよい。次に、一般的な方法により、n
-ドリフト層6aの基体おもて面側に、MOSFETのpウェル層15、n
+ソース層19、ゲート絶縁膜、ポリシリコンゲート電極17および層間絶縁膜18を形成する。次に、層間絶縁膜18を深さ方向に貫通するコンタクトホールを形成して、コンタクトホールにpウェル層15およびn
+ソース層19を露出させる。そして、アルゴン8のイオン注入8aは、ソース電極となるおもて面電極16の形成前に、ポリシリコンゲート電極17および層間絶縁膜18をマスクに行う。アルゴン8の飛程Rpは、実施の形態1と同様に、pアノード層7aの拡散深さXjより浅くなるように設定する。すなわち、アルゴン8のイオン注入8aの条件は、実施の形態1のアルゴンイオン注入工程(ステップS3)と同様である。その後、実施の形態1と同様に、白金ペースト塗布工程(ステップS4)、白金拡散工程(ステップS5)、電極形成工程(ステップS6)を順に行うことで、MOSFET200が完成する。
【0065】
MOSFET200のボディダイオード200aのpアノード層7aの白金濃度を高くすることで、ボディダイオード200aの逆回復電流IRRを小さくし、逆回復時間trrを短縮し、順電圧降下VFを低減することができる。また、MOSFET200のpウェル層15(ボディダイオード200aのpアノード層7a)に蓄積するキャリア濃度が低減する。これにより、n
+ソース層19、pウェル層15、n
-ドリフト層6aで構成される寄生npnトランジスタ200bの動作を抑制する効果がある。
【0066】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、MOSFETに適用した場合においても実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0067】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図6は、この発明の実施の形態3に係る半導体装置の製造方法で製造された半導体装置の要部断面図である。実施の形態3に係る半導体装置の製造方法は、実施の形態1に係る半導体装置の製造方法をIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)300のpベース層21に適用した製造プロセスである。
図6には、ステップS3のアルゴンイオン注入工程を示す。また、
図6には、その後の製造プロセスで形成される部位(エミッタ電極であるおもて面電極、コレクタ電極である裏面電極)を点線で図示した。実施の形態3に係る半導体装置の製造方法は、実施の形態2に係る半導体装置の製造方法において、n
+ソース層に代えてnエミッタ層24を形成し、n
+ドレイン層に代えてpコレクタ層25を形成すればよい。
【0068】
実施の形態3においても、アルゴン8の飛程Rpは、実施の形態1と同様に、基体おもて面側のp半導体層であるpベース層21の拡散深さXjより浅くなるように設定する。pベース層21に白金原子11を局在化させることで、pベース層21に蓄積される過剰キャリアを減少させ、nドリフト層22へのキャリアの注入を抑制してターンオフ時間の短縮を図ることができる。また、nドリフト層22内の白金濃度が低くなるのでオン電圧(ダイオードの順電圧降下に相当する)を低くできる。さらに、pベース層21の白金濃度を高くすることで、nドリフト層22へのキャリアの注入が抑制され、寄生npnpサイリスタ23動作を抑制することができる。寄生npnpサイリスタ23は、nエミッタ層24、pベース層21、nドリフト層22およびpコレクタ層25で構成される。
【0069】
以上、説明したように、実施の形態3によれば、IGBTに適用した場合においても実施の形態1,2と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図7は、この発明の実施の形態4に係る半導体装置の製造方法で製造された半導体装置の要部断面図である。実施の形態4に係る半導体装置の製造方法は、実施の形態1に係る半導体装置の製造方法を逆導通型のIGBT(Reverse Conducting−IGBT)である逆導通IGBT400のダイオード部400aのpアノード層26に適用した製造プロセスである。pアノード層26はIGBTのpベース層27でもある。
図7には、ステップS3のアルゴンイオン注入工程を示す。また、
図7には、その後の製造プロセスで形成される部位(エミッタ電極およびアノード電極を兼ねるおもて面電極、コレクタ電極およびカソード電極を兼ねる裏面電極)を点線で図示した。実施の形態4に係る半導体装置の製造方法は、実施の形態3に係る半導体装置の製造方法において、基体裏面側にn型カソード層を形成する工程を追加すればよい。例えば、n型カソード層は、基体裏面の全面に形成されたpコレクタ層のダイオード部400aに対応する部分をn型不純物のイオン注入によりn型に反転させることで形成される。
【0071】
実施の形態4においても、実施の形態1と同様に、アルゴン8の飛程Rpをpアノード層26のXjより浅く設定する。ダイオード部400aのpアノード層26の白金濃度を高くすることで、実施の形態1と同様に、ダイオード部400aの逆回復電流IRRを小さくし、逆回復時間trrを短縮し、順電圧降下VFを低減することができる。図示しないが、ダイオード部400aのpアノード層26をIGBTのpベース層27と離して独立して形成する場合もある。この場合はアルゴン8のイオン注入8aをpアノード層26のみに行ってもよいし、IGBTのpベース層27を含めて行ってもよい。
【0072】
以上、説明したように、実施の形態4によれば、逆導通IGBTに適用した場合においても実施の形態1〜3と同様の効果を得ることができる。
【0073】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図8は、この発明の実施の形態5に係る半導体装置の製造方法で製造された半導体装置の要部断面図である。実施の形態5に係る半導体装置の製造方法は、実施の形態1に係る半導体装置の製造方法をp−i−nダイオード100a(
図2参照)の耐圧構造14を構成するpガードリング100bに適用した製造プロセスである。
図8には、ステップS3のアルゴンイオン注入工程を示す。また、
図8には、その後の製造プロセスで形成される部位(アノード電極であるおもて面電極12、カソード電極である裏面電極13)を点線で図示した。実施の形態5に係る半導体装置の製造方法は、実施の形態1に係る半導体装置の製造方法において、活性領域の周囲を囲むエッジ終端領域に、p型不純物のイオン注入により耐圧構造14を構成するpガードリング100bを形成し、アルゴンのイオン注入によりpガードリング100bの内部に欠陥層9を形成すればよい。pガードリング100bは、例えば、n
+カソード層5の周囲を囲む同心円状に複数形成される。
【0074】
実施の形態5においても、実施の形態1と同様に、アルゴン8の飛程Rpを基体おもて面側のp半導体層であるpガードリング100bの拡散深さXj1より浅く設定する。通常、pガードリング100bの拡散深さXj1はp
+アノード層7の拡散深さXjより深く設定する場合が多い。このため、pガードリング100bの拡散深さXj1に応じてアルゴン8の飛程を設定する。pガードリング100bへのアルゴン8のイオン注入8aの条件は、pガードリング100bの拡散深さXj1に応じてアルゴン8の飛程を設定する以外は、実施の形態1のアルゴンイオン注入工程(ステップS3)と同様である。pガードリング100bへの白金局在領域35の形成方法は、実施の形態1の白金ペースト塗布工程(ステップS4)および白金拡散工程(ステップS5)と同様である。
【0075】
ここでは活性領域に作製する素子として
図2に示すp−i−nダイオード100aの例を挙げたが、これに限ることはなく、実施の形態2〜4に記載した各種半導体素子の耐圧構造を構成するガードリングにも適用可能である。pガードリング100bにアルゴン8をイオン注入8aし、n
+カソード層5の表面(n
+半導体基板1の裏面)5aから白金原子11を拡散することで、pガードリング100b下(pガードリング100bのカソード側)のn
-ドリフト層6の白金濃度を低下させることができる。その結果、pガードリング100b下のn
-ドリフト層6内の白金原子11で形成される再接合中心の濃度(ライフタイムキラー濃度)が低下して、耐圧構造14での漏れ電流Iroを低下させることができる。また、アルゴン8のイオン注入8aをpガードリング100bの空乏層が広がらない個所に行うことが好ましい。また、pガードリング100b上をマスクしてアルゴン8のイオン注入8aを行わずに、白金ペースト塗布工程および白金拡散工程によりpガードリング100bの基体おもて面側の表面層に白金原子11を拡散させてもよい。
【0076】
以上、説明したように、実施の形態5によれば、実施の形態1〜4と同様の白金濃度分布を有する耐圧構造を形成することができる。これにより、耐圧構造での漏れ電流を低下させることができる。
【0077】
(実施の形態6)
次に、実施の形態6に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図15は、この発明の実施の形態6に係る半導体装置の製造方法で製造された半導体装置の要部断面図である。実施の形態6に係る半導体装置の製造方法で製造された半導体装置は、MPS(Merged PiN/Schottky)ダイオード(MPSダイオード)700である。
図15(a)はMPSダイオード700の要部断面図であり、
図15(b)は
図15(a)の切断線A−Aにおける白金濃度分布図である。実施の形態6に係る半導体装置の製造方法で製造された半導体装置が実施の形態1に係る半導体装置の製造方法で製造された半導体装置と異なる点は、基体おもて面側にp
+アノード層7を選択的に形成してn
-ドリフト層6を表面に露出させ、露出したn
-ドリフト層6とおもて面電極12とをショットキー接触させた点である。
【0078】
例えば、従来例(
図10,12参照)をMPSダイオードに適用した場合、従来例の白金濃度分布では基体おもて面の最表面に白金原子が偏析するため、この基体最表面に偏析した白金原子により、ショットキー接触面に欠陥が発生し、漏れ電流発生の原因となる虞がある。それに対して、本発明の実施の形態6に係るMPSダイオード700においては、ステップS3のアルゴンイオン注入工程により、白金原子11の最大濃度の深さ位置を、半導体基体おもて面の最表面よりも深いアルゴンの飛程付近に移動させることができる。これにより、ショットキー接触面での白金濃度をMPSダイオードに従来例を適用した場合よりも低減させて白金原子11が基体おもて面の表面層に局在することによる欠陥を抑え、漏れ電流発生を抑えることができる。したがって、歩留りを改善させることができる。
【0079】
以上、説明したように、実施の形態6によれば、実施の形態1〜4と同様の白金濃度分布を有するMPSダイオードを作製することができる。これにより、MPSダイオードの漏れ電流を低下させることができる。
【0080】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。