(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1導電型半導体基板の一方の主面に選択的に前記半導体基板より低抵抗の第2導電型領域を有するデバイスがダイオードまたはダイオードを含む半導体装置であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【背景技術】
【0002】
還流ダイオードは、高電圧・大電流の電力変換装置などに使用される半導体装置である。還流ダイオードのスイッチング時に要求される電気特性は、スイッチング損失の低減とソフトリカバリ特性である。ソフトリカバリ特性は、パワーエレクトロニクス機器から発生する電磁ノイズを抑制するために、特に、近年、環境問題対策として要望される特性である。
【0003】
図5は、従来のダイオードの層構造とライフタイム制御領域を示す半導体基板の要部断面図である。
図5に示すように、還流ダイオードとして使用される縦型パワーダイオード100は、高抵抗のn型ドリフト層101の上面に設けられるアノード電極102と、n型ドリフト層101の下面に設けられるカソード電極103と、を備える。
【0004】
アノード電極102は、n型ドリフト層101の上面側の中心部に選択的に形成されるp型アノード層104にオーミック接触する。カソード電極103は、n型ドリフト層101の下面側の全面に形成されるn型カソード層105にオーミック接触する。アノード電極102が接触するアノード層104は、主電流に係わる領域であり、活性部109と称される。
【0005】
n型ドリフト層101において、アノード電極102やアノード層104と同じ上面側であって、アノード層104を取り巻く外周には、エッジ終端部110が配置される。このエッジ終端部110は、ガードリング107およびフィールドプレート(図示を省略する)を備える。ガードリング107は、アノードを負極とする逆電圧印加時に、pn接合106の外周基板の表面に生じる高電界を緩和させる機能を有する。フィールドプレートは、例えば外部電荷の影響により静電ポテンシャルが変化するのを防ぐ機能を有する。
【0006】
エッジ終端部110は、ガードリング107やフィールドプレートの他に、絶縁膜108を有する。絶縁膜108は、pn接合のエッジ終端表面とその外周側の高電界のシリコン(Si)基板表面とを保護する。エッジ終端部110は、ハッチングで示されるライフタイム制御領域111が、高抵抗のn型ドリフト層101のアノード層104近辺に設けられる。
【0007】
図6は、一般的なIGBTとダイオードのチョッパ回路図である。ダイオードとIGBT、中間コンデンサを結ぶ閉回路には浮遊のインダクタンスLstrayが存在するが、
図6においては、便宜上、Lstrayを回路上の一部に示している。
図7は、一般的なダイオードのスイッチング時の電圧電流の時間推移を示す逆回復電圧電流波形図である。
図7においては、
図6に示す回路で動作するダイオードをターンオフさせる際の逆回復電圧と電流の時間(μs)推移を表す逆回復電圧電流波形を示している。
【0008】
図7に示すように、アノード電流Iakは、順方向電流Ifから減少率di/dtで減少し、逆方向に転流してさらに逆方向電流が増加する。アノード電流Iakは、逆回復ピーク電流Irpに達してからは、電流減少率dIr/dtで減少し、電流値0に収束する。
図7においては、アノード・カソード間電圧Vakは、見やすくするために、アノードに対してカソードが正となるVkaの向きで表示している。
【0009】
アノード・カソード間電圧Vakは、順電圧VF(図示せず)からアノード電流Iakの減少に対応して逆向きの電圧に転じ、アノード・カソード間電圧Vakは負(Vkaが正)となる。その後、アノード電流Iakが逆回復ピーク電流Irpに達するときに、カソード・アノード間電圧Vkaは、電源電圧Vccと同じ値となる。その後、アノード電流Iakの電流減少率dIr/dtと浮遊のインダクタンスLstrayとの積(Lstray×dIr/dt)だけ、Vccよりも高い電圧が発生する。これがサージ電圧となり、dIr/dtの絶対値が最大となるときに、Vkaもサージ電圧の最大値Vsとなる。その後は、Vccに収束する。
【0010】
ダイオード100においては、
図7の逆回復電流電圧波形図に示すように、ダイオードのスイッチング時に順方向電流(アノード電流)が流れている状態から逆方向の電圧阻止状態に切り換る際には、スイッチングが完了する間、逆方向に電流が流れる。これは、キャリアの導電度変調によってダイオード100内に蓄えられたキャリアが、電圧の印加方向が逆方向になっても残留キャリアとして残り、再結合消滅または外部に排出される間、逆方向電流となるからである。
【0011】
この逆方向電流は、ダイオードのリカバリ電流(逆回復電流)といわれる。この逆回復電流のピーク値Irpは、順電流の電流減少速度(dIr/dt)が急激になるほど大きくなる。逆回復電流のピーク値Irpが大きくなると、スイッチング損失が大きくなる。この逆回復電流が増加する過程で、少し遅れてpn接合106から空乏層が伸び始めて逆電圧(阻止電圧)が大きくなる。その後、大きくなった逆電圧はやがて、外部から印加される逆バイアス電圧値へと収束する。一方、n型ドリフト層101内の残留過剰電子はカソード層105を経てカソード電極103から排除され、残留ホールはアノード層104を経てアノード電極102から排除される。このとき、ホールのキャリア移動度が電子より小さいので、逆回復電流の減少速度dIr/dtは残留ホールの排除速度で決まると考えてよい。
【0012】
ダイオードが順電流状態から逆阻止電圧状態に切り換る際、その電流減少率が大きいほど、ダイオード逆電圧上昇率が増大し、前述の電磁ノイズ発生の原因となる。この理由は、電流減少率を維持するために、ダイオードの逆電圧をより急速に上昇させて残留ホールを速やかに排除する必要があるためである。
【0013】
図7に示した逆回復電圧電流波形図では、横軸の時間軸(μs)について、大きく2つの領域に分けることができる。一つは、順電流がゼロに至ったときから、逆回復電流のピーク値Irpに達するまでのA領域である。順電流は、定常電流から、IGBTの駆動周波数などで決まる電流減少率di/dtで減少する。
【0014】
その際、n型ドリフト層101に残留するホールがアノード電極102から排除されるときの電流が、すなわち逆回復電流となる。この逆回復電流は、逆バイアス電圧の増大と共に増加して逆回復電流のピーク値Irpに達する。もう一つの領域は、逆回復電流のピーク値Irpから、残留ホールがアノード電極102から減少速度(dIr/dt)での排除および再結合により、逆電流がゼロになるまでのB領域である。
【0015】
還流ダイオードに求められるスイッチング損失の低減とソフトリカバリ特性は、相互にトレードオフの関係にあるので、通常、両立させることは容易ではない。例えば、スイッチング損失の低減は、アノード層104からのホールの注入量を減らして逆回復電流のピーク値Irpを低減するとともに、電流減少率dIr/dtを大きくして逆回復時間(trr)を短くすることによって得られる。しかし、ソフトリカバリ特性は、逆に、B領域における逆回復電流減少率dIr/dtを小さくして逆回復時間(trr)を長くすることにより得られる。このように、スイッチング損失の低減とソフトリカバリ特性とは、両者の対策が相反するため、両立させることは容易ではない。
【0016】
逆回復時のスイッチング損失を低減する方法としては、従来、デバイスの耐圧を損なわない範囲でn型高抵抗ドリフト層を薄くして残留キャリア(ホール)を減少させる方法もある。しかし、この場合、逆回復時のカソード側蓄積キャリアも減らすこととなり、カソード側の残留キャリアの消滅が速く(逆回復電流の減少速度dIr/dtが大)なるため、結果として、サージ電圧が大きくなり発振し易くなる。つまり、逆回復電流の減少速度dIr/dtが大きいとハードリカバリ特性を示しやすくなり、逆回復電流の減少速度dIr/dtが小さすぎると損失が大きくなる。このため、通常は、ソフトリカバリ特性を維持しながらスイッチング損失を低減することは極めて困難である。
【0017】
このように、スイッチング損失の低減とソフトリカバリ特性(低ノイズ)を両立するためには、アノード層からのホール注入量を少なくして、逆回復電流のピーク値Irpを小さくするだけでなく、注入されたホールの寿命(ライフタイム)を適切に制御することが必要である。
【0018】
従来、残留キャリア(ホール)の制御を効果的に行うには、例えば、Si半導体基板の厚さ方向で所望の深さ範囲にライフタイムの短い領域を形成することが知られている。そのようなライフタイム制御方法には、放射線を半導体に照射または注入することにより形成される結晶欠陥を、キャリアの再結合中心として利用する方法がある。この結晶欠陥は、200℃〜400℃の熱処理により大部分は回復するが、酸素がかかわる複合欠陥は残る。従来、この複合欠陥を制御することによってライフタイムを所望値となるように制御する方法が既に開発されている。
【0019】
また、従来、白金などの重金属を半導体に熱拡散させる方法が知られている。この方法は、半導体基板内に結晶欠陥を形成し、その結晶欠陥がSiバンドギャップ中に不純物準位を形成するので、これをライフタイム制御に利用する方法である。しかしながら、重金属を用いるライフタイム制御方法は、Si/酸化膜界面の結晶欠陥や高ドーピング領域内の結晶欠陥に偏析する傾向がある。このため、これらの場所に少数キャリアライフタイムの短い領域を形成することは可能であるが、任意の場所に形成することは困難である。
【0020】
ライフタイムの制御に用いる放射線の種類には、ヘリウム照射、プロトン照射、電子線照射などがある。そのうち、ヘリウム照射、プロトン照射は、半導体内での飛程が短いので、所定の深さ範囲にライフタイムを短く制御した領域を局所的に形成することができる。その一方で、高エネルギーの照射装置は極めて高価であり、また、飛程の深さ制御を金属遮蔽板の厚さを利用する場合、深さ制御の精度面からの実用性はあまり高くない。
【0021】
また、電子線照射はコストや生産性に優れるが、半導体内での飛程が長いので、半導体基板の厚さ方向全体で一様のライフタイムになり、局所的なライフタイム領域の形成は困難である。ただし、半導体基板内に予め局所的に高濃度酸素領域を形成した後、高濃度酸素領域以外の半導体領域にはライフタイム制御に有効な結晶欠陥が形成されない程度の電子線を照射する。このことにより、電子線照射によっても局所的ライフタイム制御がある程度可能である(例えば、下記特許文献1を参照)。
【0022】
その他、このようなスイッチング損失の低減とソフトリカバリ化に関する文献には、次のようなものがある。具体的には、従来、例えば、高抵抗領域の中間領域近傍にキャリア捕獲層を設けることにより、逆回復時の損失を低減し、空乏層の進展を抑える記載がある(特許文献2)。また、具体的には、従来、例えば、酸素を導入し、アノード側表面からプロトンを照射して結晶欠陥を導入し、結晶欠陥を回復させてネットドーピング濃度を高くすることにより、低損失、ソフトリカバリ特性を得る記載がある(例えば、下記特許文献3を参照)。さらに、具体的には、従来、例えば、高抵抗n層に白金を拡散し、ヘリウムイオンを照射して低ライフタイム領域とすることにより、ソフトリカバリ化を図る記載がある(例えば、下記特許文献4を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された従来の技術は、厚み方向全体に結晶欠陥を形成する電子線照射のみの場合に比べると、動作抵抗(順電圧降下値Vf)への影響が小さいままで、スイッチング損失を小さくすることができるという趣旨の記載がある。すなわち、アノード側に近いキャリアのライフタイムのみを短縮して逆回復電流のピーク値Irpを小さくし、それ以外の残留キャリアはそのままにすることにより、動作抵抗への影響を小さくして損失を低減する技術と考えられる。
【0025】
図8は、電子線照射により半導体基板を一様にライフタイム制御したダイオードの逆回復特性を示す図である。
図8においては、
図7に加えて、さらにアノード電流(Ia)×アノード・カソード間電圧(Vak)の時間推移波形を破線で加えて示している。
図8において、破線で示す波形の横軸の時間で積分した面積分は、電力エネルギー量、すなわち、スイッチング損失を示す。
【0026】
図8によれば、逆回復電流によるスイッチング損失には、2つのピークが見られる。1つめのピークは、逆回復電流のピーク値Irpに起因する時間幅の狭いスパイク状電圧のピークであり、2つめのピークは、Irpより後の逆電流のテール(dIr/dt)部分に相当する時間幅の広いピークである。時間積分で比較すると、時間幅の狭いピークより時間幅の広いピークの時間積分による面積の方が2倍以上大きい。
【0027】
すなわち、スイッチング損失の低減はIrpの低減によるよりも、dIr/dtを大きく(速く)することの方が効果が大きい。言い換えると、上述した特許文献1に記載のように逆回復電流のピーク値Irpを小さくするだけでは、スイッチング損失の低減には限界があるという問題があった。
【0028】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、スイッチング損失の低減とソフトリカバリ特性との両立が安価で簡単なプロセスで得ることができる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、第1導電型の半導体基板と、前記半導体基板の第1主面側に形成された第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層に沿って選択的に形成され、前記ドリフト層より低抵抗の第2導電型アノード層と、前記半導体基板の第2主面側の表面層に形成され、前記ドリフト層と接する第1導電型のカソード層と、空孔と酸素との複合欠陥で形成された空孔−酸素複合欠陥領域と、を備える。また、この発明にかかる半導体装置の前記空孔−酸素複合欠陥領域は、前記カソード層と前記ドリフト層との境界面から前記半導体基板の第1主面に向かう方向の深さがRであり、前記半導体基板の比抵抗をρ、前記アノード層と前記ドリフト層とのpn接合から前記カソード層までの厚さをt、前記pn接合に印加される逆バイアス電圧Vで前記pn接合から前記ドリフト層内に拡がる空乏層幅が0.54×√(ρ×V)であるWに対して、0<R≦t−Wで表される深さに設けられていることを特徴とする。
【0030】
また、この発明にかかる半導体装置は、上記の発明において、前記空孔−酸素複合欠陥領域は、VV欠陥とVO欠陥との複合欠陥により形成されていることを特徴とする。
【0031】
また、この発明にかかる半導体装置は、上記の発明において、前記空孔−酸素複合欠陥領域は、前記空孔−酸素複合欠陥領域に重金属を拡散させて形成される再結合中心として機能する複合欠陥を備えていることを特徴とする。
【0032】
また、この発明にかかる半導体装置は、上記の発明において、前記重金属拡散は、白金拡散であることを特徴とする。
【0033】
また、この発明にかかる半導体装置は、上記の発明において、前記第1導電型半導体基板の一方の主面に選択的に前記半導体基板より低抵抗の第2導電型領域を有するデバイスがダイオードまたはダイオードを含む半導体装置であることを特徴とする。
【0034】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、第1導電型の半導体基板と、前記半導体基板の第1主面側に形成された第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層に沿って選択的に形成され、前記ドリフト層より低抵抗の第2導電型アノード層と、前記半導体基板の第2主面側の表面層に形成され、前記ドリフト層と接する第1導電型のカソード層と、空孔と酸素との複合欠陥で形成された空孔−酸素複合欠陥領域と、を備えた半導体装置の製造方法である。前記空孔−酸素複合欠陥領域は、前記カソード層と前記ドリフト層との境界面から前記半導体基板の第1主面に向かう方向の深さがRであり、前記半導体基板の比抵抗をρ、前記アノード層と前記ドリフト層とのpn接合から前記カソード層までの厚さをt、前記pn接合に印加される逆バイアス電圧Vで前記pn接合から前記ドリフト層内に拡がる空乏層幅が0.54×√(ρ×V)であるWに対して、0<R≦t−Wで表される深さに設けられている。この発明にかかる半導体装置の製造方法は、前記空孔−酸素複合欠陥領域を、局所的に高濃度である酸素を含む高濃度酸素領域を酸素のイオン注入により所定の位置に形成した後、電子線照射によりライフタイムを低下させることによって形成することを特徴とする。
【0035】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、第1導電型の半導体基板と、前記半導体基板の第1主面側に形成された第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層に沿って選択的に形成され、前記ドリフト層より低抵抗の第2導電型アノード層と、前記半導体基板の第2主面側の表面層に形成され、前記ドリフト層と接する第1導電型のカソード層と、空孔と酸素との複合欠陥で形成された空孔−酸素複合欠陥領域と、を備えた半導体装置の製造方法である。前記空孔−酸素複合欠陥領域は、前記カソード層と前記ドリフト層との境界面から前記半導体基板の第1主面に向かう方向の深さがRであり、前記半導体基板の比抵抗をρ、前記アノード層と前記ドリフト層とのpn接合から前記カソード層までの厚さをt、前記pn接合に印加される逆バイアス電圧Vで前記pn接合から前記ドリフト層内に拡がる空乏層幅が0.54×√(ρ×V)であるWに対して、0<R≦t−Wで表される深さに設けられている。この発明にかかる半導体装置の製造方法は、前記空孔−酸素複合欠陥領域を、局所的に高濃度である酸素を含む高濃度酸素領域を酸素のイオン注入により所定の位置に形成した後、重金属拡散を行いライフタイムを低下させることによって形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、スイッチング損失の低減とソフトリカバリ特性との両立が安価で簡単なプロセスで得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。以下の実施の形態(明細書および添付図面)において、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+は、相対的に不純物濃度が高いことを意味し、nやpに付す−は、相対的に不純物濃度が高いまたは低いことを意味する。
【0039】
なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、実施の形態で説明される添付図面は、見易くまたは理解し易くするため、正確なスケール、寸法比で描かれていない。さらに、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
【0040】
(実施の形態1)
まず、この発明にかかる実施の形態1の半導体装置であるダイオードの構成について説明する。
図1は、この発明にかかる実施の形態1のダイオードの要部断面図である。
図1において、この発明にかかる実施の形態1のダイオード20は、縦型パワーダイオードであって、pin構造を有している。
図1においては、例えば、耐圧クラスが1200Vであるダイオード20を示している。
【0041】
ダイオード20は、
図1の要部断面図に示すように、高抵抗のn型ドリフト層1を備えている。実施の形態1においては、n型ドリフト層1によって、この発明にかかる第1導電型のドリフト層を実現することができる。n型ドリフト層1は、半導体基板(
図4における符号50を参照)によって実現される。半導体基板は、シリコン(Si)を用いることができる。ダイオード20においては、シリコンに代えて、シリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga
2O
3)、ダイアモンド(C)等を半導体基板として用いてもよい。
【0042】
ダイオード20は、n型ドリフト層1の上面(第1主面、おもて面)に設けられたアノード電極2を備える。アノード電極2は、n型ドリフト層1の上面側の中心部に選択的に形成されるp型アノード層4にオーミック接触する。実施の形態1においては、p型アノード層4によって、この発明にかかる第2導電型アノード層を実現することができる。p型アノード層4とn型ドリフト層1との界面には、pn接合6が形成されている。
【0043】
また、ダイオード20は、n型ドリフト層1の下面(第2主面裏面)に設けられたカソード電極3を備える。カソード電極3は、下面側の全面に形成されるn型カソード層5にオーミック接触する。n型カソード層5は、n型ドリフト層1の下面側の表面層に形成され、n型ドリフト層1と接している。実施の形態1においては、n型カソード層5によって、この発明にかかる第1導電型のカソード層を実現することができる。
【0044】
n型ドリフト層1の上面側であって、アノード層4を取り巻く外周には、エッジ終端部10が配置される。エッジ終端部10は、pn接合6のエッジ終端6aの表面およびその外周側の高電界の半導体基板(n型ドリフト層1)の表面を絶縁保護するための絶縁膜8を有する領域である。エッジ終端部10は、環状のp型層であるガードリング7を有し、逆電圧印加時に、pn接合6を取り巻く基板の外周表面に生じる高電界を緩和させる機能を有する。ガードリング7は、フィールドプレート30を有していてもよい。フィールドプレート30は、導電性の膜であり、ポリシリコンや、アルミニウム等の金属膜からなる。
【0045】
n型ドリフト層1の下面側には、少数キャリアのライフタイムが周辺よりも低減された空孔−酸素複合欠陥領域11が形成されている。空孔−酸素複合欠陥領域11は、半導体基板(n型ドリフト層1)において、n型カソード層5とn型ドリフト層1との境界面から半導体基板(n型ドリフト層1)の上面側であって、当該境界面からの深さがRとなる位置に形成されている。
【0046】
空孔−酸素複合欠陥領域11は、後述するように、イオン注入によってn型ドリフト層1の特定の深さに局所的に導入された酸素と、電子線照射によってn型ドリフト層1全体に導入された空孔との複合欠陥が形成された領域である。n型ドリフト層1に導入された酸素と空孔は、熱処理により複合的な欠陥となり、空孔−酸素欠陥(Vacancy−Oxygen defect、VO欠陥、以下VO)、または、複空孔(divacancy、VV欠陥、以下VV)の複合体となる。VO、VVは、それぞれ、キャリアの再結合中心の機能を有し、キャリアのライフタイムを低くする効果を有する。ダイオード20は、上述した従来の縦型パワーダイオード100と同様の構成を有し、その製法についても、従来と同様の製造方法とすることができる。
【0047】
(空孔−酸素複合欠陥領域11の層構造および特性分布)
次に、ダイオード20に特有の空孔−酸素複合欠陥領域11の層構造および特性分布について説明する。
図2は、この発明にかかる実施の形態1のダイオード20の活性部9における層構造および特性分布を示す説明図である。
図2(a)においては、ダイオード20の活性部9における層構造の要部断面図を示している。
【0048】
図2(a)において、符号dは、空孔−酸素複合欠陥領域11のpn接合6からの深さを示している。また、
図2(a)において、符号15は、n型ドリフト層1内に広がる空乏層を示している。また、
図2(a)において、符号Wは、ダイオード20への電源電圧Vccの電圧印加によってカソード・アノード間電圧VkaがVccとなったときの、n型ドリフト層1内に広がる空乏層15の深さ方向の厚さを示している。また、
図2(a)において、符号tは、n型ドリフト層1の深さ方向の厚さを示している。n型ドリフト層1の深さ方向の厚さtは、pn接合6からn型カソード層5までの距離である。空孔−酸素複合欠陥領域11は、空乏層15の厚さWよりもさらにn型カソード層5の方向に離れている。
【0049】
図2(b)においては、
図2(a)の断面に示すようにダイオード20を所定の箇所で切断したときのライフタイム分布を示している。
図2(b)において、横軸のライフタイムの値は、対数スケールであり、縦軸の深さ方向Xと交差する点は、ライフタイムの値がゼロであるわけではない。
【0050】
特にライフタイム制御を施さない場合のダイオードのライフタイムをτ
0とすると、τ
0の値は10〜100μs程度である。τ
0の値は、例えば、20μsでもよい。これに対して、電子線照射等により空孔を主体とした点欠陥が半導体基板の全体に導入されると、ライフタイムは、τ
0から低下した値τ
1となる。このτ
1は、ダイオードの所定の特性を得るために、例えば電子線の照射量や結晶性回復のためのアニール処理温度等で、0.01〜5μs程度に適宜制御される。
【0051】
この実施の形態1においては、さらに所定の深さに、空孔−酸素複合欠陥領域11を形成するため、空孔−酸素複合欠陥領域11の形成箇所のライフタイムは、局所的にτ
2の値まで低下する。τ
2の値は、0.001〜0.1μs程度である。なお、高濃度にドーパントがドーピングされているp型アノード層4とn型カソード層5とは、ライフタイムがτ
0から低下している。
【0052】
図2(c)においては、
図2(a)の断面に示すようにダイオード20を所定の箇所で切断したときの欠陥濃度分布を示している。
図2(c)において、横軸の濃度は、対数スケールであり、縦軸の深さ方向Xと交差する点は、濃度がゼロであるわけではない。
図2(c)に示すように、ダイオード20においては、後述する方法によって半導体基板に導入された酸素(O)は、所定の深さで局所的に増加している。
【0053】
一方、ダイオード20において、電子線照射によって導入された空孔によるVV欠陥は、半導体基板の深さ方向全体に分布する。熱処理等により、空孔と酸素によるVO欠陥が形成され、局所的にVO欠陥の濃度が増加した分布となる。また、VV欠陥も酸素が導入された位置(深さd)で濃度が増加する。このように、空孔−酸素複合欠陥領域11は、VV欠陥とVO欠陥の複合欠陥領域である。
【0054】
なお、空孔−酸素複合欠陥領域11におけるVV、VO、Oの濃度関係は、
図2(c)に示したものに限るものではない。空孔−酸素複合欠陥領域11におけるVV、VO、Oの相対的な濃度関係は、形成条件により変化してもよい。例えば、VV欠陥がVO欠陥より高濃度となってもよい。また、VO欠陥がドナーとなり、n型ドリフト層1のドーピング濃度が局所的に増加してもよい。この場合、VO欠陥のドナーにより局所的にドーピング濃度が増加する箇所は、n型フィールドストップ層としてもよい。このn型フィールドストップ層は、空乏層の広がりを抑制する効果を有する。
【0055】
本発明の空孔−酸素複合欠陥領域11は、さらにその形成位置に特徴を有する。ダイオード20にかかるn型半導体基板の比抵抗をρ、pn接合6の逆バイアス電圧をV、n型半導体基板と同じ状態の基板からなるn型ドリフト層1のpn接合6からの厚さをt、空孔−酸素複合欠陥領域11のpn接合6からの深さをdとすると、n型カソード層5から空孔−酸素複合欠陥領域11に至る長さRは、R=t−dである。
【0056】
pn接合6からn型ドリフト層1内に拡がる空乏層15の幅Wが、W=0.54×√(ρ×V)で表されるとき、W、d、tの関係は、W≦d<tで表される。n型カソード層5から空孔−酸素複合欠陥領域11に至る長さRは、0<R≦t−Wで表される。このn型カソード層5からの深さRの位置を中心に、空孔−酸素複合欠陥領域11が設けられることにより、スイッチング損失を充分に低減し、ソフトリカバリ特性も得られるダイオード20を実現することができる。
【0057】
なお、空孔−酸素複合欠陥領域11は、典型的には
図2に示すように、半導体基板の深さ方向に幅Dを有する領域である。この幅Dは、後述するように空孔−酸素複合欠陥領域11における酸素濃度の分布幅であってもよく、酸素濃度がガウス分布等であれば、半値全幅(Full Width Half Maximum、FWHM)であってもよい。
【0058】
特許文献1に記載された従来のライフタイム制御のように、逆回復電流のピーク値Irpの低減だけによってスイッチング損失の低減を図ると、ソフトリカバリ化を図ることはできるが、充分なスイッチング損失の低減を得ることは難しい。本発明は、そこでさらに改良して、逆回復電流のピーク値Irpを小さくするとともに、注入されたホールの寿命(ライフタイム)を適切に制御することが必要であるとの考えのもとになされている。
【0059】
上述した
図8において説明したように、順電流Ia×逆電圧Vakの波形を時間積分で比較すると、時間幅の狭いピークより時間幅の広いピークの時間積分による面積の方が2倍以上大きい。すなわち、スイッチング損失の低減はIrpの低減だけでなく、上述した
図7に示したB領域における逆電流減少速度dIr/dtを少し大きく(速く)すると、スイッチング損失をさらに低減することができる。
【0060】
これにより、上述した
図7に示したB領域の逆電流減少速度dIr/dtを大きく(速く)するために、スイッチングの際のB領域の残留ホールを少なくすればよい。一方で、B領域の残留ホールを少なくし過ぎると、動作抵抗(順電圧Vf)が大きくなることがある。このため、ダイオード20においては、ダイオードの定格電圧における最大の空乏層幅の外側に位置する残留ホールのみライフタイムを短くして、残留ホールを少なくするように調節する。これにより、ダイオード20は、スイッチング損失を十分に低減し、ソフトリカバリ特性も得られ、順電圧(Vf)も大きくなり難いという効果を奏する。
【0061】
(ダイオード20の製造方法)
次に、この発明にかかる半導体装置の製造方法として、実施の形態1のダイオード20の製造方法について説明する。
図4は、この発明にかかる実施の形態1のダイオード20の製造フローを示す断面図である。実施の形態1において、ダイオード20の定格電圧は1200Vとするが、この定格電圧に限るものではない。以下、工程の順序に沿って製造方法を説明する。
【0062】
まず、
図4(a)に示すように、シリコン製の半導体基板50を用意する。半導体基板50は、例えば、厚さが130μm、比抵抗が55Ωcmの、FZ(フロートゾーン)法により製造されたn型のSi半導体基板を用いる。半導体基板50は、n型ドリフト層1を実現する。半導体基板50は、FZ法により製造されたものに限らず、CZ(チョクラルスキー)法、MCZ(磁場印加型チョクラルスキー)法により製造されたものでもよい。実施の形態1においては、半導体基板50によって、この発明にかかる第1導電型の半導体基板を実現することができる。
【0063】
8インチ以上の口径の半導体基板には、MCZ法が容易かつ濃度分布を精度よく製造でき、有利である。特に、CZ法、MCZ法により製造された半導体基板は、FZ法により製造された半導体基板よりも酸素を多く含む。FZ法により製造された半導体基板の平均酸素濃度は1×10
15/cm
3以下であるが、CZ法、MCZ法により製造された半導体基板の平均酸素濃度は1×10
16/cm
3以上である。特にMCZ法により製造された半導体基板では、平均酸素濃度が1×10
17/cm
3以上である。このため、この発明にかかる実施の形態1のダイオード20における空孔−酸素複合欠陥領域11を形成しやすい。
【0064】
次に、
図4(b)に示すように、半導体基板50の表面50aに、p型アノード層とエッジ終端部10とを形成する。エッジ終端部10の表面には、熱酸化あるいは堆積法により、絶縁膜の機能を有する酸化膜8を形成する。さらに、p型アノード層4と接触するアノード電極2、表面パシベーション膜等を形成し、表面構造を完成させる。
【0065】
次に、
図4(c)に示すように、半導体基板50の厚さを薄くする。半導体基板50は、半導体基板50の裏面50bから、バックグラインドによる研削、裏面エッチングあるいはこれらの組合せ等の方法によって厚さを薄くする。これにより、半導体基板50は、薄くする前の裏面50bから、
図4(c)において矢印51で示す方向に、符号52で示す研削面まで薄くされる。
【0066】
次に、
図4(d)に示すように、高濃度酸素領域54を形成する。高濃度酸素領域54は、例えば、半導体基板50の研削面52から、符号53で示すように、半導体基板50の内部に酸素をイオン注入して導入することにより形成する。
【0067】
次に、
図4(e)に示すように、空孔形成領域55を半導体基板50の全体に形成する。空孔形成領域55は、例えば、半導体基板50の表面から電子線照射12を行うことによって形成することができる。電子線照射12は、半導体基板50の裏面から行ってもよい。
【0068】
次に、
図4(f)に示すように、空孔−酸素複合欠陥領域11を形成する。空孔−酸素複合欠陥領域11は、例えば、半導体基板50を300〜400℃の範囲の所定温度で熱処理(アニール)することによって形成する。この場合、
図4(f)に示す酸素通過領域56は、酸素が通過していないn型ドリフト層1よりも酸素濃度が多い場合があり、n型ドリフト層1よりもVO欠陥が若干高くなる場合がある。
【0069】
図4(f)に示した工程においては、さらに、n型ドリフト層1より高濃度のn型カソード層5を形成する。n型ドリフト層1より高濃度のn型カソード層5は、例えば、研削面52にリン等のn型ドーパントをイオン注入により導入し、レーザーアニール等により電気的に活性化させることにより形成する。
【0070】
最後に、
図4(g)に示すように、研削面52にカソード電極3を形成する。カソード電極3は、研削面52のn型カソード層5に接するように形成する。
【0071】
定格耐圧1200Vのダイオード20は、例えば、電源電圧600Vの電力変換装置に用いられる。このため、比抵抗ρ=55Ωcm、V=600Vとすると、p型アノード層4底部からn型ドリフト層1内に拡がる空乏層15の幅Wは、式)W=0.54×√(ρ×V)から、W=0.54×√(55×600)=98μmとなる。pn接合6面からの、n型ドリフト層1の厚さをtとし、空孔−酸素複合欠陥領域11の深さをdとすると、空孔−酸素複合欠陥領域11が形成される深さは、W≦d<tで表される。
【0072】
これをこの発明にかかる実施の形態1のダイオード20に適用すると、空孔−酸素複合欠陥領域11が設けられる深さは、p型アノード層4底部(pn接合6)から98μm以上130μm以内の範囲となる。
図2に示したダイオード20では、4×10
17cm
3の酸素濃度を有する空孔−酸素複合欠陥領域11を、p型アノード層4の底部(pn接合6のこと)から110μmの深さに幅5μmの酸素のイオン注入により形成した。
【0073】
研削面52からの酸素の注入深さは20μm(130−110μm)となるので、酸素をイオン注入するときの加速エネルギーは、約30MeVである。このような加速エネルギーは、線形加速器、サイクロトロン加速器等で得ることができる。このとき、深さ方向(注入方向)のFWHMは0.7μmである。ただし、熱処理により若干酸素が拡散するので、酸素の分布幅は約1.0μmとなる。よって、空孔−酸素複合欠陥領域11の幅Dは、約1.0〜2.0μmとなる。
【0074】
なお、酸素のイオン注入により、半導体基板の裏面から、酸素が通過するn型カソード層5、n型ドリフト層1、および、空孔−酸素複合欠陥領域11は、格子欠陥にダメージが導入されるため、空孔−酸素複合欠陥領域11の幅Dはさらに広がり、約2.0〜10μmと考えても構わない。
【0075】
また、イオン注入する酸素のドーズ量は、例えば1×10
11/cm
2〜1×10
14/cm
2であってもよい。この場合、n型カソード層5から深さRにおける空孔−酸素複合欠陥領域11の最大酸素濃度は、1×10
16/cm
2〜1×10
19/cm
2であってもよい。また、VO欠陥の濃度は、酸素濃度と同程度か、あるいは空孔と結合しているため酸素濃度よりも低くなり、例えば1×10
14/cm
2〜1×10
17/cm
2であってもよい。さらに、空孔−酸素複合欠陥領域11のVV欠陥の濃度は、例えば1×10
14/cm
2〜1×10
17/cm
2であってもよい。また、空孔−酸素複合欠陥領域11のVV欠陥の濃度は、VO欠陥の濃度より低くてもよく、あるいは高くてもよい。
【0076】
図4に示した工程では説明を省いたが、ダイオード20において、p型のガードリング7は、図示しない酸化膜をマスクとしてボロンを加速電圧50kVで、ドーズ量1.3×10
13cm
-2のイオン注入とドライブ拡散により形成した。また、ダイオード20において、pアノード層4を図示しない酸化膜をマスクとしてボロンを加速電圧は50kVで、ドーズ量1×10
13cm
-2のイオン注入とドライブ拡散により形成した。このpアノード層4とpガードリング7の深さはそれぞれ約3μm、4μmとした。
【0077】
また、p型アノード層4とn型ドリフト層1の境界には、pn接合6が形成される。Si半導体基板表面と交わるpn接合のエッジ終端6aの外側には、p型アノード層4を取り巻くように、所定の間隔を置いて複数p型のガードリング7を設ける。pn接合のエッジ終端を6aとガードリング7との間、およびガードリング間の表面には、酸化膜8が被覆される。
【0078】
その後、ライフタイムを調整するために、電子線照射12と熱処理を施した。電子線照射量は加速電圧4.2MeVで60kGyで、結晶欠陥の緩和のための熱処理を360℃、1時間とした。なお、電子線照射の加速電圧は1〜8MeV程度であってもよく、電子線照射量は20〜600kGy程度であってもよい。n型カソード層5は裏面からリンを1×10
15cm
2のドーズ量でイオン注入した後、0.5μmの深さに拡散して形成した。
【0079】
アノード電極2をAl−Si膜で、カソ−ド電極3をTi、NiおよびAuで、それぞれ真空蒸着により形成した。図示されないが、酸化膜8の開口部を介してガードリング7のそれぞれの表面に接するアノード電極膜と同時形成によるフィールドプレート30が設けられることも好ましい。空孔−酸素複合欠陥領域11以外の領域および層、電極膜などは前述の説明以外の他の公知の技術により適宜形成することもできる。
【0080】
図3は、この発明にかかる実施の形態1の製造方法により製造したダイオード20の逆回復特性を示す説明図である。
図9は、比較例ダイオードの逆回復特性を示す説明図である。比較例ダイオードは、ダイオード20との比較のため、高濃度酸素領域をp型アノード層4の下方5μmの位置に形成し電子線照射12により空孔−酸素複合欠陥領域として形成されている。
【0081】
比較用ダイオードのその他の製造条件は、ダイオード20と同じにした。
図3および
図9に示すように、比較例ダイオードのスイッチング損失は42mJであるのに対し、ダイオード20のスイッチング損失は26mJであった。ダイオード20および比較例ダイオードは、ともに、スパイク状のサージ電圧が抑えられ、かつソフトリカバリ特性も得られているが、ダイオード20では、比較例ダイオードに比べて、スイッチング損失がいっそう低減していることが判る。さらに、ダイオード20においては、順電圧降下(Vf)不良の発生がないことも確認された。
【0082】
(実施の形態2)
次に、この発明にかかる実施の形態2のダイオードについて説明する。この発明にかかる実施の形態2のダイオードは、上述した実施の形態1に記載のダイオード20における空孔−酸素複合欠陥領域11を、電子線照射から白金の熱拡散に代えて製造されている。白金の熱拡散工程前は、上述した実施の形態1と同じとしてよい。
【0083】
実施の形態2のダイオードの製造に際しては、半導体基板50の裏面にn型カソード層5を形成する前に、白金を1重量%含有したペーストを塗布し、1000℃で3時間の熱処理を行うことによって、半導体基板50に白金を熱拡散させた。この熱拡散により、白金が、半導体基板50の裏面から25μm程度拡散し、裏面から20μm程度の位置に形成されている高濃度酸素領域に結晶欠陥を形成するため、空孔−酸素複合欠陥領域11とすることができる。
【0084】
実施の形態2に示す方法によって製造された、空孔−酸素複合欠陥領域11を備えるダイオード20は、スイッチング損失が28mJであり、ソフトリカバリ特性も示すことができた。また、実施の形態2に示す方法によって製造されたダイオードにおいては、順電圧降下(Vf)不良が発生していないことを確認した。
【0085】
以上説明したように、実施の形態1、2に記載のダイオード20によれば、動作抵抗を大きくすることなく、スイッチング損失の低減とソフトリカバリ特性との両立が図られたダイオード20を、安価で簡単なプロセスで得ることができる。