特許第6237928号(P6237928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237928
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】鋼板の製造方法および鋼板の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/18 20060101AFI20171120BHJP
   C21D 9/54 20060101ALI20171120BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20171120BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20171120BHJP
   B21B 45/02 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   C21D1/18 Q
   C21D1/18 D
   C21D9/54
   !C22C38/00 301W
   !C22C38/04
   !B21B45/02 320U
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-557701(P2016-557701)
(86)(22)【出願日】2015年10月22日
(86)【国際出願番号】JP2015079873
(87)【国際公開番号】WO2016072285
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2017年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-225008(P2014-225008)
(32)【優先日】2014年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明石 透
(72)【発明者】
【氏名】田中 将樹
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−137828(JP,A)
【文献】 特開平10−263671(JP,A)
【文献】 特開平11−347619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/18
C21D 9/54
B21B 45/02
C22C 38/00 − 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト相からマルテンサイト相に相変態する鉄鋼材料からなる熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を選択的に拡大する工程を備える鋼板の製造方法であって、
前記板幅が所定幅よりも小さい箇所の板幅を選択的に拡大する工程は、前記熱延材の前記板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記熱延材の板厚方向の変位を拘束した状態で、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域からマルテンサイト変態開始温度未満まで、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上で冷却する冷却工程を含む鋼板の製造方法
【請求項2】
前記熱延材は、熱延ラインにおけるコイラーで巻き取られたものであり、前記板幅が所定幅よりも小さい箇所は、前記コイラーによって巻き取られる前記熱延材に前記コイラーによって最初に張力が加えられた際に発生する過張力によって板幅が小さくなった熱延鋼板先端部分である請求項1記載の鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記熱延材の長手方向において前記熱延材に張力をかけた状態で、前記熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を前記熱延材の板幅にわたって前記熱延材の通板方向に平行な面から前記熱延材の板厚方向のうちの少なくとも一方向側に突き出すことによって前記熱延材の板厚方向の変位を拘束する請求項1または2記載の鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記熱延材の前記板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記オーステナイト温度域まで選択的に加熱する加熱工程をさらに備え、前記加熱工程に続いて前記冷却工程を実施する請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程においては、前記熱延材の通板速度をV(m/sec)としたときに、前記熱延材の板厚方向の変位を前記熱延材の長手方向で(5V/14)m以上にわたって拘束した状態で、140℃/sec以上の冷却速度で冷却する請求項から請求項までのいずれか一項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記冷却工程を複数回繰り返し実施する請求項から請求項までのいずれか一項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延材の長手方向において板幅を測定する工程をさらに備える請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項8】
オーステナイト相からマルテンサイト相に相変態する鉄鋼材料からなる熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を選択的に拡大する拡大手段を備える鋼板の製造装置であって、
前記拡大手段は、
前記鉄鋼材料からなる熱延材の板厚方向の変位を拘束する拘束手段と、
前記熱延材を冷却する冷却手段と、
前記拘束手段と前記冷却手段とを制御する制御手段と、を備え
前記制御手段は、前記熱延材の長手方向における板幅に関するデータに基づき、前記熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記熱延材の板厚方向の変位を拘束した状態で、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域からマルテンサイト変態開始温度未満まで、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上で選択的に冷却するように前記拘束手段と前記冷却手段とを制御する鋼板の製造装置
【請求項9】
前記熱延材は、熱延ラインにおけるコイラーで巻き取られたものであり、前記板幅が所定幅よりも小さい箇所は、前記コイラーによって巻き取られる前記熱延材に前記コイラーによって最初に張力が加えられた際に発生する過張力によって板幅が小さくなった熱延鋼板先端部分である請求項記載の鋼板の製造装置。
【請求項10】
前記熱延材の長手方向において前記熱延材の板幅を測定する板幅測定手段をさらに備え、前記制御手段は、前記板幅測定手段からの前記熱延材の長手方向における板幅に関するデータに基づき、前記冷却を行うように前記拘束手段と前記冷却手段とを制御する請求項8または9記載の鋼板の製造装置。
【請求項11】
前記熱延材を前記オーステナイト温度域まで加熱する加熱手段をさらに備え、前記制御手段は、前記加熱手段も制御する制御手段であり、
前記制御手段は、前記熱延材の長手方向における板幅に関するデータに基づき、前記熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記オーステナイト温度域まで選択的に加熱し、前記加熱に続いて前記冷却を実施するように前記拘束手段と前記冷却手段と前記加熱手段とを制御する請求項8から請求項10までのいずれか一項に記載の鋼板の製造装置。
【請求項12】
前記拘束手段は、
前記熱延材の長手方向において前記熱延材に張力を印加する張力印加手段と、
前記熱延材の板幅にわたって前記熱延材の通板方向に平行な面から前記熱延材の板厚方向のうちの少なくとも一方向側に前記熱延材を突き出す突き出し手段と、を備える請求項から請求項11までのいずれか一項に記載の鋼板の製造装置。
【請求項13】
前記突き出し手段は、内部冷却機構を有しているロールである請求項12記載の鋼板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、鋼板の製造方法および鋼板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の中で、薄鋼板は、例えば板厚が0.4〜6mmであり、自動車、電気機器、建材等の素材として広く使用されている。
【0003】
上述の薄鋼板としては、鋳片を熱間圧延する熱延工程により所定厚さの熱延材(熱延コイル)を得て、この熱延材(熱延コイル)をそのまま製品として出荷されるもの、あるいは、この熱延材(熱延コイル)に対してさらに冷間圧延工程や熱処理工程を実施することによって製造されるものがある。
【0004】
上述の熱延材においては、熱延工程における圧延時に板幅に変動が生じることがある。そこで、製品の板幅を確保するために、上述の板幅変動を考慮して、熱延材の板幅を製品の板幅よりも広く設定している。この場合、最終製品を所定の板幅とするために、後工程において板幅端部を除去することになるが、板幅を必要以上に広く設定していると、製造歩留が低下してしまう。一方、製造歩留を向上させるために熱延材の板幅を狭く設定しておくと、板幅変動により最終製品において板幅が不足してしまうおそれがある。
【0005】
例えば日本国特開平08−132104号公報には、鋼板の板幅を拡大させることが可能な圧延方法が提案されている。この日本国特開平08−132104号公報においては、複数の溝部が形成された凹凸断面形状の圧延ロールと平坦ロールとで圧延することにより、複数の未圧延部及び圧延部が板幅方向に混在された板材を得て、この板材に対して平坦ロールで圧延を行うことにより、板材の未圧延部のみを圧延し、さらに、平坦ロールを用いて板材の全幅を圧延している。
【0006】
日本国特開平08−132104号公報においては、複数の溝部が形成された凹凸断面形状の圧延ロールを用いていることから、圧延ロールの断面形状の維持にコストが掛かるといった問題があった。また、圧延材の全長にわたって板幅を精度良く制御することは困難であった。さらに、上述の圧延によって板幅を拡大した場合であっても、所定の板幅の最終製品を得ることができる板幅を確保する必要があるため、板幅の変動を考慮して拡大後の板幅を設定することになり、やはり、製造歩留が低下してしまうといった問題があった。
【開示の概要】
【0007】
本明細書の実施の形態は、安価に歩留良く鋼板を製造することが可能な鋼板の製造方法、および鋼板の製造装置を提供することを目的とする。
【0008】
本明細書の一態様によれば、オーステナイト相からマルテンサイト相に相変態する鉄鋼材料からなる熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を選択的に拡大する工程を備える鋼板の製造方法であって、
前記板幅が所定幅よりも小さい箇所の板幅を選択的に拡大する工程は、前記熱延材の前記板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記熱延材の板厚方向の変位を拘束した状態で、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域からマルテンサイト変態開始温度未満まで、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上で冷却する冷却工程を含む鋼板の製造方法が提供される。
【0009】
本明細書の他の態様によれば、オーステナイト相からマルテンサイト相に相変態する鉄鋼材料からなる熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を選択的に拡大する拡大手段を備える鋼板の製造装置であって、
前記拡大手段は、
前記鉄鋼材料からなる熱延材の板厚方向の変位を拘束する拘束手段と、
前記熱延材を冷却する冷却手段と、
前記拘束手段と前記冷却手段とを制御する制御手段と、を備え
前記制御手段は、前記熱延材の長手方向における板幅に関するデータに基づき、前記熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記熱延材の板厚方向の変位を拘束した状態で、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域からマルテンサイト変態開始温度未満まで、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上で選択的に冷却するように前記拘束手段と前記冷却手段とを制御する鋼板の製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本明細書の第1の実施形態に係る薄鋼板の製造方法を実施する熱延ラインの概略構成を示す説明図である。
図2】第1の実施形態に係る拘束冷却装置の概略構成を示す説明図である。
図3図2に示す拘束冷却部の拡大説明図である。
図4】第1の実施形態における鉄鋼材料の連続冷却変態線図(CCT線図)である。
図5】本明細書の第2の実施形態に係る薄鋼板の製造方法を実施する熱延ラインの概略構成を示す説明図である。
図6】第2の実施形態に係る拘束冷却装置の概略構成を示す説明図である。
図7】実施例における熱延材の板幅の拡大比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らが、鋭意研究した結果、以下の知見を得た。
(1)熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を選択的に拡大することにより、安価に歩留良く鋼板を製造することができる。
(2)高温状態の熱延材に対して、板厚方向の変位を拘束した状態で急冷することにより、熱延材の板幅が拡大する。
【0012】
本明細書の実施の形態は、上記知見に基づくものであり、実施の形態の一態様によれば、鉄鋼材料からなる熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を選択的に拡大する工程を備える鋼板の製造方法が提供される。この製造方法によれば、熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を選択的に拡大するので、最終製品を所定の板幅とするために必要な熱延材の板幅を小さく設定することが可能となる。その結果、製造歩留の向上を図ることが可能となり、安価に鋼板を製造することができる。
【0013】
板幅が拡大した箇所では、塑性ひずみによる板幅の拡大に応じて板厚は減少することになる。そこで、この板幅の拡大と板厚の減少を利用することで、板幅変動、板厚変動、波形状(板厚方向の変位)、蛇行(板幅方向の変位)等の形状変動を局所的に矯正することができ、形状精度に優れた鋼板を製造することが可能となる。
【0014】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造方法では、前記熱延材は、熱延ラインにおけるコイラーで巻き取られたものであり、前記板幅が所定幅よりも小さい箇所は、前記コイラーによって巻き取られる前記熱延材に前記コイラーによって最初に張力が加えられた際に発生する過張力によって板幅が小さくなった熱延鋼板の先端部分であるようにしてもよい。コイラーによって最初に張力が加えられた際に発生する過張力によって板幅が小さくなった部分を選択的に拡大することにより、最終製品を所定の板幅とするために、熱延材の板幅を必要以上に大きくする必要がなくなり、歩留良く鋼板を製造することができる。
【0015】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造方法では、前記板幅が所定幅よりも小さい箇所の板幅を選択的に拡大する工程は、前記熱延材の前記板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記熱延材の板厚方向の変位を拘束した状態で、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域からマルテンサイト変態開始温度未満まで、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上で冷却する冷却工程を含んでいてもよい。
オーステナイト温度域やマルテンサイト変態開始温度、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度は、熱延材を構成する鉄鋼材料のCCT図(連続冷却変態図)から特定される。
【0016】
この構成の鋼板の製造方法によれば、熱延材を、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域からマルテンサイト変態開始温度未満まで、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上の冷却速度で冷却しているので、オーステナイト相がマルテンサイト相に相変態し、これにより変態膨張が発生する。熱延材を、板厚方向の変位を拘束した状態で冷却しているので、上述の変態膨張によって板幅方向に塑性ひずみが発生することになり、熱延材の板幅を拡大することが可能となる。よって、最終製品を所定の板幅とするために、熱延材の板幅を必要以上に大きくする必要がなくなり、製造歩留の向上を図ることが可能となる。
【0017】
前記冷却工程においては、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域からマルテンサイト変態終了温度未満まで冷却することが好ましく、冷却速度を、全体がマルテンサイトとなる上部臨界冷却速度以上とすることが好ましい。
【0018】
板厚方向の変位の拘束は、拘束冷却装置における熱延材の通板速度をVm/secとしたときに、熱延材(鋼板)の長手方向に(5V/14)m以上にわたって行うことが望ましい。
【0019】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造方法では、前記冷却工程においては、前記熱延材の通板速度をV(m/sec)としたときに、前記熱延材の板厚方向の変位を前記熱延材の長手方向で(5V/14)m以上にわたって拘束した状態で、140℃/sec以上の冷却速度で冷却するようにしてもよい。
【0020】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造方法においては、前記熱延材を製造する仕上圧延工程を有し、この仕上圧延工程後の前記熱延材の温度を前記オーステナイト温度域とし、前記仕上圧延工程に続いて前記冷却工程を実施する構成としてもよい。
この構成の鋼板の製造方法によれば、熱延材をオーステナイト温度域まで加熱する必要がなくなり、消費エネルギーの低減を図ることができ、鋼板の製造コストを削減することができる。また、仕上圧延工程と冷却工程とを連続して実施することから、生産効率を向上させることができる。
【0021】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造方法においては、前記熱延材の長手方向において前記熱延材に張力をかけた状態で、前記熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を前記熱延材の板幅にわたって前記熱延材の通板方向に平行な面から前記熱延材の板厚方向のうちの少なくとも一方向側に突き出すことによって前記熱延材の板厚方向の変位を拘束するようにしてもよい。このようにすれば、簡単な構造で熱延材の板厚方向の変位を拘束することができる。前記熱延材の板幅にわたって前記熱延材の通板方向に平行な面から前記熱延材の板厚方向のうちの少なくとも一方向側に突き出す部材には、ロールを用いてもよい。
【0022】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造方法は、前記熱延材の前記板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記オーステナイト温度域まで選択的に加熱する加熱工程をさらに備え、前記加熱工程に続いて前記冷却工程を実施してもよい。
この構成の鋼板の製造方法によれば、前記熱延材を前記オーステナイト温度域まで加熱する加熱工程を備えているので、冷却前の前記熱延材の温度を比較的自由に設定することができ、冷却工程の条件を最適化して板幅変動、板厚変動、波形状、蛇行等の形状変動を精度良く矯正することが可能となる。
【0023】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造方法においては、前記冷却工程を複数回繰り返し実施するようにしてもよい。
この鋼板の製造方法によれば、冷却工程を複数回行うことにより、板幅方向への塑性ひずみが大きくなり、板幅をさらに拡大することができる。また、板幅の拡大に伴って板厚も減少することから、この板幅の拡大と板厚の減少を利用することで、板幅変動、板厚変動、波形状、蛇行等の形状変動を確実に矯正することが可能となる。
【0024】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造方法は、前記熱延材の長手方向において板幅を測定する工程をさらに備えていてもよい。
【0025】
本明細書の実施の形態の他の態様によれば、鉄鋼材料からなる熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を選択的に拡大する拡大手段を備える鋼板の製造装置が提供される。
この鋼板の製造装置によれば、熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を選択的に拡大するので、最終製品を所定の板幅とするために必要な熱延材の板幅を小さく設定することが可能となる。その結果、製造歩留の向上を図ることが可能となり、安価に鋼板を製造することができる。
【0026】
板幅が拡大した箇所では、塑性ひずみによる板幅の拡大に応じて板厚は減少することになる。そこで、この板幅の拡大と板厚の減少を利用することで、板幅変動、板厚変動、波形状、蛇行等の形状変動を局所的に矯正することができ、形状精度に優れた鋼板を製造することが可能となる。
【0027】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置では、前記熱延材は、熱延ラインにおけるコイラーで巻き取られたものであり、前記板幅が所定幅よりも小さい箇所は、前記コイラーによって巻き取られる前記熱延材に前記コイラーによって最初に張力が加えられた際に発生する過張力によって板幅が小さくなった熱延鋼板の先端部分であるようにしてもよい。コイラーによって最初に張力が加えられた際に発生する過張力によって板幅が小さくなった部分を選択的に拡大することにより、最終製品を所定の板幅とするために、熱延材の板幅を必要以上に大きくする必要がなくなり、歩留良く鋼板を製造することができる。
【0028】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置の前記拡大手段は、
鉄鋼材料からなる熱延材の板厚方向の変位を拘束する拘束手段と、
前記熱延材を冷却する冷却手段と、
前記拘束手段と前記冷却手段とを制御する制御手段と、を備え
前記制御手段は、前記熱延材の長手方向における板幅に関するデータに基づき、前記熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記熱延材の板厚方向の変位を拘束した状態で、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域からマルテンサイト変態開始温度未満まで、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上で選択的に冷却するように前記拘束手段と前記冷却手段とを制御するようにしてもよい。
【0029】
この鋼板の製造装置の拡大手段は、前記熱延材の板厚方向の変形を拘束する拘束手段と、前記熱延材を冷却する冷却手段と、前記拘束手段と前記冷却手段とを制御する制御手段と、を備え、前記熱延材の板厚方向の変位を拘束した状態で、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域からマルテンサイト変態開始温度未満まで、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上で冷却するように前記拘束手段と前記冷却手段とが制御されるので、前記熱延材において板幅方向に塑性ひずみを発生させることができ、板幅を拡大することが可能となる。また、上述の塑性ひずみを利用することで、板幅変動、板厚変動、波形状、蛇行等の形状変動を矯正することが可能となる。
【0030】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置は、前記熱延材の長手方向において前記熱延材の板幅を測定する板幅測定手段をさらに備え、前記制御手段は、前記板幅測定手段からの前記熱延材の長手方向における板幅に関するデータに基づき、前記冷却を行うように前記拘束手段と前記冷却手段とを制御してもよい。
この構成の鋼板の製造装置によれば、板幅測定手段の測定データに基づいて、前記熱延材に対して冷却を実施することにより、局所的に板幅を拡大することができ、鋼板を歩留良く製造することが可能となる。
【0031】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置は、前記熱延材の板厚方向の変形を拘束する拘束手段と、前記熱延材を冷却する冷却手段と、前記拘束手段と前記冷却手段とを制御する制御手段と、前記熱延材の長手方向において、板幅、板厚、波形状、蛇行量から選択される少なくとも一つの板形状情報を測定する形状測定手段と、を備えており、前記制御手段は、前記形状測定手段による測定データに基づいて、前記拘束手段と前記冷却手段とを制御し、前記熱延材に対して冷却を行うようにしてもよい。
この構成の鋼板の製造装置によれば、形状測定手段の測定データに基づいて、前記熱延材に対して冷却を実施することにより、板幅を拡大するとともに板厚を減少させ、板幅、板厚、波形状、蛇行量を局所的に矯正することができ、高品質な鋼板を歩留良く製造することが可能となる。
【0032】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置は、前記熱延材を前記オーステナイト温度域まで加熱する加熱手段をさらに備え、前記制御手段は、前記加熱手段も制御する制御手段であり、前記制御手段は、前記熱延材の長手方向における板幅に関するデータに基づき、前記熱延材の板幅が所定幅よりも小さい箇所を、前記オーステナイト温度域まで選択的に加熱し、前記加熱に続いて前記冷却を実施するように前記拘束手段と前記冷却手段と前記加熱手段とを制御するようにしてもよい。
この構成の鋼板の製造装置によれば、加熱手段によって冷却前の前記熱延材の温度を比較的自由に設定することができ、冷却の条件を最適化して板幅変動、板厚変動、波形状、蛇行等の形状変動を精度良く矯正することが可能となる。
【0033】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置では、前記拘束手段は、前記熱延材の長手方向において前記熱延材に張力を印加する張力印加手段と、前記熱延材の板幅にわたって前記熱延材の通板方向に平行な面から前記熱延材の板厚方向のうちの少なくとも一方向側に前記熱延材を突き出す突き出し手段と、を備えていてもよい。このようにすれば、簡単な構造で熱延材の板厚方向の変位を拘束することができる。
【0034】
前記熱延材の板幅にわたって前記熱延材の通板方向に平行な面から前記熱延材の板厚方向のうちの少なくとも一方向側に突き出す部材には、ロールを用いてもよい。
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置では、前記突き出し手段は、内部冷却機構を有しているロールであってもよい。この構成の鋼板の製造装置によれば、ロールに接触した箇所においても、前記熱延材を冷却することができ、マルテンサイト変態が発生する冷却速度以上で確実に冷却することが可能となる。
【0035】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置では、前記ロールは、前記熱延材の一方の面と他方の面とで通板方向に互い違いに配置されている構成としてもよい。
この構成の鋼板の製造装置によれば、前記熱延材の一方の面と他方の面とで通板方向に互い違いに配置されたロールによって、板厚方向の変位を確実に抑制することができ、変態膨張により板幅方向に塑性ひずみを確実に発生させることが可能となる。
【0036】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置では、前記ロールは、大径ロールと、この大径ロールの通板方向両側に位置する押さえロールと、を備えており、前記押さえロールによって前記熱延板を前記大径ロールの外周面に押し付けることにより、前記熱延材の板厚方向の変位を拘束する構成とされていてもよい。
この構成の鋼板の製造装置によれば、大径ロールの通板方向両側に位置する押さえロールによって、前記熱延材が大径ロールの外周面に沿うように押し付けられることにより、前記熱延材の板厚方向の変位を抑制することが可能となる。よって、変態膨張により板幅方向に塑性ひずみを確実に発生させることが可能となる。
【0037】
本明細書の実施の形態の鋼板の製造装置では、前記ロールは、ロール表面に突起を備えていてもよい。この構成の鋼板の製造装置によれば、熱延材のロールとの接触が均一化され、熱延材の板厚方向の変位を確実に抑制することができる。
【0038】
以下に、添付した図面を参照して、本明細書の実施形態である鋼板の製造方法及び製造装置について具体的に説明する。
【0039】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、冷却の過程でオーステナイト相からマルテンサイト相に相変態する炭素鋼からなる鋼板が製造される。具体的には、図1に示す熱延ラインを用いて製造された熱延材5から薄鋼板(板厚:0.4〜6mm)が製造される。
【0040】
図1に示す熱延ライン10は、スラブ1を加熱する加熱炉11と、加熱されたスラブ1を粗圧延して粗圧延材3とする粗圧延機12と、粗圧延材3を圧延して所定厚さ(本実施形態では、1.2〜6mm)の熱延材5を製造する仕上圧延機13と、仕上圧延後の熱延材5を所定温度に冷却する冷却装置14と、を備えている。なお、冷却装置14の前段に第1コイラー15が、冷却装置14の後段に第2コイラー16がそれぞれ配置されている。
【0041】
仕上圧延機13は、図1に示すように、複数の圧延スタンド13aを備えており、仕上圧延機13の出側には、熱延材5の板幅を測定する板幅計17と熱延材5の温度を測定する温度計18が配設されている。これら板幅計17及び温度計18によって測定された板幅データ及び温度データは、計算機19に伝送される。これにより、計算機19には、熱延材5の長手方向位置毎における板幅データが蓄積されることになる。
【0042】
この熱延ライン10で製造された熱延材5は、仕上圧延機13で圧延後に第1コイラー15で巻き取られるか、あるいは、冷却装置14によって所定温度に冷却された後に第2コイラー16で巻き取られる。
このように第1コイラー15又は第2コイラー16で巻き取られた熱延材5(熱延コイル)は、コイルカー(図示無し)やクレーン(図示無し)等で、図2に示す拘束冷却装置20に搬送される。
【0043】
拘束冷却装置20は、図2に示すように、熱延材5のコイルが装着されるアンコイラー21と、熱延材5を加熱する加熱部22と、加熱された熱延材5を拘束冷却する拘束冷却部30と、拘束冷却された熱延材5を巻き取るコイラー23と、を備えている。なお、コイラー23とアンコイラー21とによって、熱延材5が加熱部22及び拘束冷却部30に搬送される構成とされている。コイラー23とアンコイラー21とによって、熱延材5の長手方向51において熱延材5に張力がかけられている。コイラー23およびアンコイラー21は、張力印加手段の一例である。また、コイラー23とアンコイラー21とによって、熱延材5は通板方向52に搬送される
【0044】
また、本実施形態である拘束冷却装置20においては、加熱部22の入側及び出側に温度計26a、26bが配置されており、拘束冷却部30の出側に板幅計27及び温度計28が配置されている。
【0045】
拘束冷却部30は、図3に示すように、熱延材5の板厚方向の変位を拘束する拘束ロール31と、拘束された熱延材5を冷却する冷却部材37と、を備えている。
【0046】
本実施形態では、拘束ロール31は、大径ロール32と、この大径ロール32の通板方向両側に位置する押さえロール35と、を備えている。
【0047】
コイラー23とアンコイラー21とによって、熱延材5の長手方向51において熱延材5に張力がかけられている。このように張力がかけられている状態で、熱延材5の通板方向52に平行な面から熱延材5の板厚方向53の一方向(本実施の形態では、熱延材5の上面方向(紙面上側方向))側に熱延材5を大径ロール32によって突き出すことによって、熱延材5の板厚方向の変位を熱延材5の板幅にわたって拘束している。大径ロール32は、突出し手段の一例である。この構成の拘束ロール31においては、さらに、大径ロール32の通板方向両側に位置する押さえロール35によって、熱延材5を大径ロール32の外周面に押し付けることにより、熱延材5の板厚方向の変位をより一層拘束している。
【0048】
また、大径ロール32には、内部冷却機構33が設けられており、外周面に押し付けられた熱延材5に対して冷媒(本実施形態では冷却水)を噴射し、熱延材5を冷却可能な構成とされている。さらに、大径ロール32の外周面には、熱延材5との接触が均一化されるように、複数の突起(図示無し)が形成されている。
【0049】
冷却部材37は、大径ロール32の外周側に複数配置され、大径ロール32に押し付けられた熱延材5に対して冷媒(本実施形態では冷却水)を噴射する冷却ノズルを備えている。
【0050】
そして、本実施形態の拘束冷却装置20は、アンコイラー21、コイラー23、加熱部22、拘束ロール31、冷却手段37の動作を制御し、熱延材5の搬送速度、加熱部22による加熱状態、拘束冷却部30における拘束状態、冷却状態を調整する制御部24を備えている。
【0051】
この制御部24は、上述した熱延ライン10の計算機19に蓄積された熱延材5の長手方向位置毎における板幅データに基づいて、アンコイラー21、コイラー23、加熱部22、拘束ロール31、冷却手段37の動作を制御するように構成されている。
【0052】
次に、上述の熱延ライン10及び拘束冷却装置20を用いた本実施形態である薄鋼板の製造方法について説明する。
【0053】
本実施形態において製造される薄鋼板は、オーステナイト相からマルテンサイト相に相変態する炭素鋼で構成されている。
【0054】
図4に、本実施形態における薄鋼板(熱延材5)を構成する炭素鋼の連続冷却変態線図(CCT線図)の一例を示す。この連続冷却変態線図(CCT線図)によれば、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域が800℃以上である。また、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)が220℃である。
【0055】
冷却過程における平均冷却速度が25℃/sec.よりも大きくなると、マルテンサイト変態が発生してマルテンサイト組織を有することになり、冷却過程における平均冷却速度が140℃/sec.よりも大きい場合には、ほぼ全面がマルテンサイト組織となる。すなわち、下部臨界冷却速度が25℃/sec.、上部臨界冷却速度が140℃/sec.である。なお、図4の炭素鋼の連続冷却変態線図(CCT線図)は、以下の第2の実施形態でも共通である。
【0056】
製造される鋼板を構成する鉄鋼材料の成分組成によって、オーステナイト温度域、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)、マルテンサイト変態終了温度(Mf点)、下部臨界冷却速度、上部臨界冷却速度は、異なるため、製造される薄鋼板を構成する鉄鋼材料の成分組成に応じて、CCT線図を元に、熱延材5の拘束冷却処理における冷却温度帯、冷却速度を設定する。
【0057】
本実施形態である薄鋼板の製造方法においては、まず、熱延ライン10の仕上圧延機13により、所定厚さの熱延材5を得る。このとき、仕上圧延機13の出側に設置された板幅計17及び温度計18により、熱延材5の長手方向位置毎に板幅及び温度を測定し、計算機19にその測定結果を伝送する。
【0058】
計算機19では、測定された板幅データを温度データで補正することにより、熱延材5の長手方向位置毎の板幅を算出し、製品の目標板幅サイズに対して板幅が不足している熱延材5の長手方向位置(以下、板幅不足位置)及び板幅の不足量を特定する。
【0059】
仕上圧延機13で圧延された熱延材5は、第1コイラー15あるいは冷却装置14を通過後に第2コイラー16で巻き取られて熱延コイルとされ、コイルカー(図示無し)やクレーン(図示無し)等で搬送され、図2に示す拘束冷却装置20のアンコイラー21に装着される。
アンコイラー21に装着された熱延コイルは、巻き解されて拘束冷却装置20の加熱部22に搬送される。
【0060】
ここで、拘束冷却装置20の制御部24には、熱延ライン10の計算機19に蓄積された板幅データ、温度データから算出された上述の板幅不足位置、及び、板幅の不足量の情報が伝送されている。
【0061】
制御部24は、熱延材5の板幅不足位置が加熱部22を通過する際に、加熱部22を作動させて熱延材5の板幅不足位置を局所的に(選択的に)加熱する。このとき、加熱温度はオーステナイト温度域とされており、本実施形態では、800℃以上950℃以下に設定されている。なお、本実施形態では、加熱部22の入側に温度計26aが配置されているので、この温度データに基づいて、板幅不足位置の温度が800℃以上950℃以下となるように加熱する。
【0062】
加熱部22を通過した熱延材5は、拘束冷却部30へと搬送される。制御部24は、熱延材5の板幅不足位置が拘束冷却部30を通過する際に、熱延材5の拘束冷却処理を実施するように、拘束ロール31及び冷却手段37に指令を与える。具体的には、アンコイラー21およびコイラー23によって熱延材5の長手方向41において熱延材5に張力を書けた状態で、押さえロール35によって大径ロール32の表面に熱延材5を押し付けて熱延材5の板厚方向の変位を抑制した状態とし、冷却手段37及び大径ロール32の内部冷却機構33により、熱延材5の冷却を行う。
【0063】
熱延材5を大径ロール32に押しつけて熱延材5の板厚方向の変位を抑制するに際しては、板厚方向の変位を拘束する長さ即ち大径ロール32と熱延材5の接触長さを(5V/14)m以上(但しVは熱延材の拘束冷却装置20における通板速度(m/sec))確保することが望ましい。接触長さをこれ以上確保することで、板厚方向の変位を効果的に抑制し、板幅を拡大することが可能となる。その理由は以下のとおりである。
【0064】
マルテンサイト変態は、熱延材5を冷却すると、熱延材5の温度がMS点となった時点で開始して、熱延材5の温度がMF点となった時点で終了する。MS点とMF点の差は通常50℃程度であり、この間の冷却速度は図4に示すように望ましくは140℃/sec以上である。この間に、板厚方向の変位を拘束して冷却することで、オーステナイト相がマルテンサイト相に変態した際の変態膨張によって板幅方向に塑性歪が発生し、熱延材5の板幅を拡大できる。
【0065】
従って、熱延材5の板幅不足位置が拘束冷却部30を通過する際に、熱延材5の拘束冷却処理を実施するようにすれば、熱延材5の板幅不足位置の板幅を選択的に拡大することができる。
【0066】
MS点からMF点までの間の一時期の板厚方向変位を拘束すれば、熱延材5の板幅の拡大効果を奏することは出来るが、板幅拡大効果を最大限奏せしめるにはMS点からMF点までの全ての時間帯に亘って拘束するのが望ましい。したがって、拘束冷却装置20の通板速度をVm/secとすると、熱延材がMS点からMF点となるまでの時間は、最大(50℃÷140℃/sec)=(5/14)secであるので、板厚方向の変位をこの時間以上拘束していることが望ましい。
以上のことから、本実施形態においては、拘束冷却装置20の大径ロール32と熱延材5の接触長さは、(Vm/sec)×(5/14)sec=(5V/14)m以上とするのが望ましい。
【0067】
なお、このとき、冷却速度は、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上とされており、本実施形態では、25℃/sec.以上、好ましくは25℃/sec.以上250℃/sec.未満の範囲内とされている。250℃/sec未満としたのは、水冷を行う場合にこれ以上の冷却速度とするのが困難であったからである。また、冷却手段37における冷却速度は、上記のように、全体がマルテンサイト組織となる上部限界冷却速度以上(図4では140℃/sec以上)とすることが好ましい。
【0068】
拘束冷却部30を通過した熱延材5は、コイラー23によって巻き取られる。ここで、拘束冷却部30の出側に設置された板幅計27及び温度計28により、熱延材5の長手方向位置毎に板幅及び温度を測定し、計算機29にその測定結果を伝送する。
【0069】
計算機29では、測定された板幅データを温度データで補正することにより、熱延材5の長手方向位置毎の板幅を算出し、製品の目標板幅サイズに対して板幅が不足している箇所があるか否かを判定するとともに、板幅が不足する場合には、板幅が不足する熱延材5の長手方向位置(板幅不足位置)及び板幅の不足量を特定する。
【0070】
製品の目標板幅サイズに対して板幅が不足している箇所が存在していた場合には、コイラー23で巻き取った熱延コイルを再度アンコイラー21に装着し、熱延材5の全長において所定の板幅を得るまで、上述の拘束冷却処理を複数回繰り返し実施する。
【0071】
このようにして得られた熱延材5に対して、その後、冷間圧延工程、熱処理工程等が実施されることにより、所定の板厚、板幅を有する薄鋼板が製造される。
【0072】
以上のような構成とされた本実施形態である薄鋼板の製造方法及び拘束冷却装置20によれば、熱延材5を、オーステナイト温度域(本実施形態では800℃以上950℃以下)からマルテンサイト変態開始温度未満、好ましくはマルテンサイト変態終了温度未満(本実施形態では250℃)まで、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上の冷却速度(本実施形態では25℃/sec.以上)で冷却しているので、冷却過程において、オーステナイト相がマルテンサイト相に相変態することにより変態膨張が発生する。ここで、本実施形態である薄鋼板の製造方法においては、熱延材5の板厚方向の変位を拘束した状態で冷却していることから、上述の変態膨張によって板幅方向に塑性ひずみが発生し、熱延材5の板幅が拡大することになる。
【0073】
これにより、薄鋼板の板幅を確保するために熱延材5の板幅を過度に大きくする必要がなくなり、製造歩留の向上を図ることが可能となる。
【0074】
また、熱延材5の板幅不足位置を選択的に拘束冷却処理しているので、熱延材5の板幅不足位置の板幅を選択的に拡大することができ、その結果、安価に鋼板を製造することが可能になる。
【0075】
なお、熱延材5は、図1に示す熱延ライン10におけるコイラー15またはコイラー16で巻き取られたものであり、コイラー15またはコイラー16によって巻き取られる熱延材5にコイラー15またはコイラー16によって最初に張力が加えられた際に発生する過張力によって熱延鋼板先端部分において板幅不足が生じやすいので、少なくともこのようにして生じる板幅不足位置を選択的に拘束冷却することが好ましい。
【0076】
また、本実施形態の薄鋼板の製造方法及び拘束冷却装置20では、拘束冷却装置20の加熱部22により、熱延材5をオーステナイト温度域(800℃以上950℃以下)に加熱しているので、拘束冷却処理の条件を最適化することができ、板幅を精度良く矯正することが可能となる。また、熱延材5の板幅不足位置を選択的に加熱すれば、安価に鋼板を製造することができる。
【0077】
さらに、本実施形態の薄鋼板の製造方法及び拘束冷却装置20では、仕上圧延機13の出側に配置された板幅計17及び温度計18の測定データを計算機19に伝送し、計算機19において、測定された板幅データを温度データで補正することにより、熱延材5の板幅不足位置及び板幅の不足量を特定し、拘束冷却装置20においては、この板幅不足位置を加熱及び拘束冷却する構成としているので、熱延材5の板幅不足位置において板幅を確実に拡大させることができ、最終製品を所定の板幅とするために必要な熱延材5の板幅を小さくすることが可能となる。
【0078】
さらに、本実施形態の薄鋼板の製造方法及び拘束冷却装置20では、拘束冷却部30の出側に設置された板幅計27及び温度計28により、熱延材5の長手方向位置毎に板幅及び温度を測定し、これらの測定データから熱延材5の長手方向位置毎の板幅を算出し、製品の目標板幅サイズに対して板幅が不足している箇所がある場合には、拘束冷却処理を複数回繰り返し実施する構成とされているので、熱延材5の全長において所定の板幅を得ることが可能となり、最終製品を所定の板幅とするために必要な熱延材5の板幅をさらに小さくすることが可能となる。
【0079】
また、本実施形態である拘束冷却装置20においては、拘束冷却部30に備えられた拘束ロール31が、大径ロール32と、この大径ロール32の通板方向両側に位置する押さえロール35と、で構成されたものとされているので、大径ロール32の通板方向両側に位置する押さえロール35によって熱延材5を大径ロール32の外周面に沿うように押し付けることにより、熱延材5の板厚方向の変位を抑制することができ、変態膨張によって板幅方向に塑性ひずみを確実に発生させて板幅を拡大することが可能となる。
【0080】
さらに、本実施形態である拘束冷却装置20においては、大径ロール32が内部冷却機構33を有しているので、大径ロール32の外周面に沿うように押し付けられた熱延材5をマルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上で冷却することができ、変態膨張によって板幅方向に塑性ひずみを確実に発生させて板幅を拡大することが可能となる。
また、本実施形態である拘束冷却装置20においては、大径ロール32の外周面に複数の突起が形成されているので、大径ロール32と熱延材5との接触が均一化され、熱延材5の板厚方向の変位を確実に抑制することが可能となる。
【0081】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態である薄鋼板の製造方法及び拘束冷却装置について説明する。
第2の実施形態である薄鋼板の製造方法は、第1の実施形態と同様に、冷却の過程でオーステナイト相からマルテンサイト相に相変態する炭素鋼からなる鋼板を製造する。具体的には、図5に示す熱延ライン110を用いて製造された熱延材5から薄鋼板(板厚:0.4〜6mm)を製造する。
【0082】
図5に示す熱延ライン110は、スラブ1を加熱する加熱炉111と、加熱されたスラブ1を粗圧延して粗圧延材3とする粗圧延機112と、粗圧延材3を圧延して所定厚さ(本実施形態では、1.2〜6mm)の熱延材5を製造する仕上圧延機113と、仕上圧延後の熱延材5を拘束冷却処理する拘束冷却装置120と、拘束冷却装置120の後段に配置されたコイラー116と、を備えている。
【0083】
拘束冷却装置120は、図6に示すように、熱延材5の板厚方向の変位を抑制する拘束ロール131と、熱延材5を冷却する冷却手段137と、を備えている。
拘束ロール131は、熱延材5の一方の面と他方の面とで通板方向に互い違いに配置されており、いわゆる千鳥状に配置されている。
冷却手段137は、拘束ロール131間に配置された冷却ノズルであり、熱延材5に対して冷媒(本実施形態では冷却水)を噴射することにより、熱延材5を冷却する。
【0084】
次に、上述の構成とされた熱延ライン110及び拘束冷却装置120を用いた本実施形態である薄鋼板の製造方法について説明する。
本実施形態において製造される薄鋼板は、第1の実施形態と同様に、オーステナイト相からマルテンサイト相に相変態する炭素鋼で構成されており、図4に示す連続冷却変態線図(CCT線図)を有する。
【0085】
本実施形態である薄鋼板の製造方法においては、まず、熱延ライン110の仕上圧延機113による仕上圧延により、所定厚さの熱延材5を得る。ここで、仕上圧延機113から搬出される熱延材5の温度は、オーステナイト単相となるオーステナイト温度域(本実施形態では800℃以上950℃以下)である。
【0086】
仕上圧延機113で圧延された熱延材5は、拘束冷却装置120へと搬送される。拘束冷却装置120においては、通過する熱延材5の一方の面及び他方の面を拘束ロール131によって支持することにより、熱延材5の板厚方向の変位を抑制した状態とし、冷却手段137によって熱延材5の冷却を行う。この場合は、最初の拘束ロール131から最後の拘束ロール131までの鋼板(熱延材5)の板厚方向の変位が拘束されている。
このとき、冷却手段137においては、熱延材5の冷却速度が、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上とされており、本実施形態では、25℃/sec.以上、好ましくは25℃/sec.以上250℃/sec.未満の範囲内とされている。250℃/sec未満としたのは、水冷を行う場合にこれ以上の冷却速度とするのが困難であったからである。また、冷却手段137における冷却速度は、全体がマルテンサイト組織となる上部限界冷却速度以上とすることが好ましい。
【0087】
そして、拘束冷却装置120を通過した熱延材5は、コイラー116によって巻き取られる。
このようにして得られた熱延材5に対して、その後、冷間圧延工程、熱処理工程等が実施されることにより、所定の板厚、板幅を有する薄鋼板が製造される。
【0088】
以上のような構成とされた本実施形態である薄鋼板の製造方法及び拘束冷却装置120によれば、第1の実施形態と同様に、オーステナイト温度域(本実施形態では800℃以上950℃以下)からマルテンサイト変態開始温度未満、好ましくはマルテンサイト変態終了温度未満(本実施形態では250℃)まで、熱延材5の板厚方向の変位を拘束した状態とし、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度以上の冷却速度(本実施形態では25℃/sec.以上)で、冷却しているので、マルテンサイト相への変態に伴う変態膨張によって板幅方向に塑性ひずみを発生させ、熱延材5の板幅を拡大させることが可能となる。
さらに、本実施形態では、熱延材5の全長で拘束冷却処理を実施しているので、熱延材5の全長にわたって板幅を拡大することが可能となる。
【0089】
また、本実施形態では、仕上圧延機113によって圧延された熱延材5の温度が、オーステナイト温度域(本実施形態では800℃以上950℃以下)とされており、熱延ライン110の仕上圧延機113の後段に設置された拘束冷却装置120によって拘束冷却処理が実施される構成とされているので、熱延材5を再加熱する必要がなくなり、消費エネルギーの低減を図ることができ、薄鋼板の製造コストを削減することができる。また、仕上圧延工程と拘束冷却処理とを連続して実施することから、生産効率を向上させることができる。
【0090】
上記実施の形態においては、図4に示す連続冷却変態線図(CCT線図)を有する炭素鋼を対象として説明したが、これに限定されることはなく、オーステナイト相からマルテンサイト相に相変態する他の鉄鋼材料を対象としてもよい。この場合、対象となる鉄鋼材料の連続冷却変態線図(CCT線図)を用いて、オーステナイト温度域、マルテンサイト変態開始温度(Ms)、マルテンサイト変態終了温度(Mf)、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度、全体がマルテンサイト組織となる上部臨界冷却速度等を特定し、熱延材の冷却開始温度、冷却終了温度、冷却速度を規定すればよい。
【0091】
また、上記実施形態では、図1及び図5に示す熱延ラインを用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の構成の熱延ラインによって熱延材を製造し、この熱延材に対して拘束冷却処理を行う構成としてもよい。
【0092】
さらに、第1の実施形態においては、熱延材の板幅を測定し、この測定データに基づいて拘束冷却処理を実施するものとして説明したが、これに限定されることはなく、板厚、波形状、蛇行量等の他の形状情報を測定し、この測定データに基づいて拘束冷却処理を実施するものとしてもよい。この場合、板幅の拡大及び板厚の減少を利用することにより、板厚変動、波形状、蛇行等を精度良く矯正することが可能となる。
【実施例】
【0093】
第1の実施形態で説明した熱延ライン10及び拘束冷却装置を用いて、熱延材の製造を行い、板幅の拡大比率を確認した。
鋼種としてS45(C:0.45mass%、Mn:0.5mass%、P:0.025mass%、S:0.025mass%)を用いた。なお、このS45のオーステナイト温度域は900℃以上、マルテンサイト変態開始温度(Ms)は420℃、マルテンサイト変態終了温度(Mf)は270℃である。また、マルテンサイト変態が発生する下部臨界冷却速度は、100℃/sec.、全体がマルテンサイト組織となる上部臨界冷却速度は、250℃/sec.である。
【0094】
板厚1.2〜6mm、板幅550〜2500mmのサイズの熱延材を通板速度100〜1200mpmで製造し、板厚と拘束冷却処理による板幅の拡大比率との関係を確認した。この場合の大径ロールと熱延材5の接触長さは8mとした。なお、板幅の拡大比率は、(板幅の拡大量)/(拘束冷却処理前の板幅)で求めた。結果を図7に示す。
【0095】
拘束冷却処理により、0.3〜0.5%の範囲で板幅が拡大されていることが確認される。
【0096】
2014年11月5日に出願された日本国特許出願2014−225008号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【0097】
以上、種々の典型的な実施の形態を説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、次の請求の範囲によってのみ限定されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7