(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237935
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】晶析槽のスクレーパー装置
(51)【国際特許分類】
B01D 9/02 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
B01D9/02 614
B01D9/02 603B
B01D9/02 625Z
B01D9/02 601A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-570136(P2016-570136)
(86)(22)【出願日】2016年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2016004337
(87)【国際公開番号】WO2017056472
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-192441(P2015-192441)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】大矢 健市
(72)【発明者】
【氏名】大野 正勝
(72)【発明者】
【氏名】豊田 博
(72)【発明者】
【氏名】高田 基樹
【審査官】
関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−000651(JP,A)
【文献】
特開2012−246263(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/023778(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 9/02
C25D 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の晶析槽の内面に付着した晶析物を掻き落すために、晶析槽内の溶液を攪拌する攪拌機の槽半径方向先端に設置されたスクレーパー装置であって、晶析槽の内面の凸部に付着した晶析物を掻き落すための凸部用スクレーパーと、晶析槽の内面の凹部に付着した晶析物を掻き落すための凹部用スクレーパーとを備え、
前記凹部用スクレーパーが反り変形した後に復元できるようにするためのステンレスバネ鋼製で厚さが0.2〜0.6mmの凹部用スクレーパーサポート部材が取り付けられ、
前記凸部用スクレーパーが反り変形した後に復元できるようにするための硬質テフロン(登録商標)製で厚さ1〜6mmの凸部用スクレーパーサポート部材が取り付けられていることを特徴とする晶析槽のスクレーパー装置。
【請求項2】
前記凸部用スクレーパー、前記凸部用スクレーパーサポート部材、前記凹部用スクレーパー、前記凹部用スクレーパーサポート部材、の4部材が重ね合されてボルト・ナットで撹拌翼に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の晶析槽のスクレーパー装置。
【請求項3】
前記凸部用スクレーパーは、前記凸部の中で晶析槽の中心軸からの距離が最も短い位置における晶析槽の内面とのクリアランスが0mm〜1.5mmとなるように構成され、前記凹部用スクレーパーは、前記凹部の中で晶析槽の中心軸からの距離が最も長い位置における晶析槽の内面とのクリアランスが0mm〜1.5mmとなるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の晶析槽のスクレーパー装置。
【請求項4】
晶析槽内の溶液は、鋼板に錫をめっきする際に使用したメタンスルホン酸溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の晶析槽のスクレーパー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みめっき液を再生するため等に用いる晶析槽において、晶析槽の内面に付着した晶析物(結晶)を掻き落すスクレーパー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板に錫をめっきする際に使用しためっき液(例えば、メタンスルホン酸溶液)中には、鉄分、水分、スラッジが混入している。これらの混合物(鉄分、水分、スラッジ)を除去することによって、めっき液を再生するために、めっき液再生設備(例えば、メタンスルホン酸再生設備)が用いられる。
【0003】
このめっき液再生設備においては、使用済みめっき液を濃縮装置で所定の濃度(例えば4倍の濃度)に濃縮にした後、その濃縮しためっき液を晶析槽(結晶缶)と呼ばれる円筒形状のタンクに送液し、晶析槽でめっき液を所定の温度(例えば−4℃)に冷却して、めっき液中に溶け込んでいた鉄分を晶析させる。そして、めっき液中に晶析した鉄の結晶を固液分離装置でめっき液から分離するようにしている。
【0004】
その際に、晶析槽においては、晶析槽の外面に冷却装置を設置して、晶析槽内の溶液を所定の温度に冷却している。この溶液から晶析した結晶(晶析物)の一部が、晶析槽の内面に付着して、冷却装置からの伝熱効率が低下し、晶析槽内の溶液を所定の温度に冷却・保持できなくなる可能性がある。晶析槽内の溶液を所定の温度に冷却・保持できなくなった場合、設備保全や品質確保の観点から、晶析槽への送液停止や晶析槽以降の装置の稼動停止となる。
【0005】
そこで、通常、晶析槽では、晶析槽の内面に付着した結晶を掻き落すために、晶析槽内の溶液を攪拌する攪拌機の先端にスクレーパー(ワイパー)が設置されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−11986号公報
【特許文献2】特開2012−246263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1、2に記載のように、晶析槽では、晶析槽の内面に付着した結晶を掻き落すために、晶析槽内の溶液を攪拌する攪拌機の槽半径方向先端にスクレーパーが設置されている。
【0008】
晶析槽の内面が真円の場合は、スクレーパーが晶析槽の内面に全周均一に接触するので問題ない。しかし、晶析槽の経年変化等(槽に取り付けられた配管の重みによる変形等)によって、晶析槽の内面が真円でなくなり、晶析槽の内面に凸部と凹部が生じた場合は、スクレーパーが晶析槽の内面に全周均一には接触できなくなって、スクレーパーが凸部を通過する時等に大きく反り変形して復元できなくなり、晶析槽の内面に付着した結晶を的確に掻き落すことができず、付着した結晶の掻き残しが発生するようになる。
【0009】
その結果、晶析槽の内面に付着した結晶が成長して、結晶層の厚さが厚くなり(例えば10mm程度)、冷却装置からの伝熱効率が低下して、晶析槽内の溶液を所定の温度に冷却・保持できなくなる。そうなると、品質確保や設備保全の観点から、晶析槽への送液停止や晶析槽以降の装置の稼動停止になってしまう。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、晶析槽の内面に凸部と凹部が生じた場合でも、晶析槽の内面に付着した晶析物(結晶)を的確に掻き落すことができる晶析槽のスクレーパー装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0012】
[1]円筒形状の晶析槽の内面に付着した晶析物を掻き落すために、晶析槽内の溶液を攪拌する攪拌機の槽半径方向先端に設置されたスクレーパー装置であって、晶析槽の内面の凸部に付着した晶析物を掻き落すための凸部用スクレーパーと、晶析槽の内面の凹部に付着した晶析物を掻き落すための凹部用スクレーパーとを備えていることを特徴とする晶析槽のスクレーパー装置。
【0013】
[2]前記凹部用スクレーパーが反り変形した後に復元できるようにするための凹部用スクレーパーサポート部材が取り付けられていることを特徴とする[1]に記載の晶析槽のスクレーパー装置。
【0014】
[3]前記凸部用スクレーパーが反り変形した後に復元できるようにするための凸部用スクレーパーサポート部材が取り付けられていることを特徴とする[1]または[2]に記載の晶析槽のスクレーパー装置。
【0015】
[4]前記凸部用スクレーパー、前記凸部用スクレーパーサポート部材、前記凹部用スクレーパー、前記凹部用スクレーパーサポート部材、の4部材が重ね合わされてボルト・ナットで攪拌翼に固定されていることを特徴とする[1]〜[3]に記載の晶析槽のスクレーパー装置。
【0016】
[5]前記凸部用スクレーパーは、前記凸部の中で晶析槽の中心軸からの距離が最も短い位置における晶析槽の内面とのクリアランスが0mm〜1.5mmとなるように構成され、前記凹部用スクレーパーは、前記凹部の中で晶析槽の中心軸からの距離が最も長い位置における晶析槽の内面とのクリアランスが0mm〜1.5mmとなるように構成されていることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の晶析槽のスクレーパー装置。
【0017】
[6]晶析槽内の溶液は、鋼板に錫をめっきする際に使用したメタンスルホン酸溶液であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の晶析槽のスクレーパー装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、晶析槽の内面に凸部と凹部が生じた場合でも、晶析槽の内面に付着した晶析物(結晶)を的確に掻き落すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態における晶析槽を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における晶析槽を示す横断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるスクレーパーの平面形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、ここでは、めっき液再生設備(例えば、メタンスルホン酸再生設備)における晶析槽を念頭において述べる。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態における晶析槽を示す縦断面図であり、
図2は本発明の一実施形態における晶析槽を示す横断面図である。
【0022】
図1、
図2に示すように、本発明の一実施形態における晶析槽1は、円筒形状であり、外筒2と、外筒2の内側に設けられた内筒3と、外筒2と内筒3の上部を覆う天井5aと、外筒2と内筒3の下部に位置する床5bとを備えている。晶析槽1は、例えばSUS304製で、板厚は2〜6mmである。
【0023】
そして、内筒3内に供給された再生対象のめっき液30を冷却するために、外筒2と内筒3の間隙には冷却液4が供給されている。
【0024】
また、内筒3内に供給された再生対象のめっき液30を攪拌するために、攪拌機6が設置されている。攪拌機6は、天井上部に設置されたモータ7と、モータ7から内筒3内を下方に延びる回転軸8と、回転軸8から槽半径方向に延びる攪拌翼9とを備えている。攪拌翼9は、回転軸8を中心に回転する。
【0025】
これによって、この晶析槽1においては、内筒3内に供給された再生対象のめっき液30が攪拌機6で攪拌されながら、内筒3を介して冷却液4で所定の温度に冷却されることによって、めっき液30中に溶け込んでいた鉄分が晶析物31としてめっき液30中に晶析する。
【0026】
ここで、この晶析槽1では、経年変化等によって、
図2に示すように、晶析槽1の内面(内筒3の内面3a)に凸部3Aと凹部3Bが生じている。凸部3Aは、晶析槽1の中心軸(回転軸8の軸心8a)から晶析槽1の内面(内筒3の内面3a)までの距離が相対的に短い部分である。凹部3Bは、晶析槽1の中心軸(回転軸8の軸心8a)から晶析槽1の内面(内筒3の内面3a)までの距離が相対的に長い部分である。例えば、回転軸8の軸心8aから内筒3の内面3aまでの距離の平均値を基準値として、回転軸8の軸心8aから内筒3の内面3aまでの距離が基準値未満の部分を凸部3Aとし、回転軸8の軸心8aから内筒3の内面3aまでの距離が基準値以上の部分を凹部3Bとする。
【0027】
そこで、この実施形態においては、内筒3の内面3aに付着した晶析物32(
図1では省略)を掻き落すために、凸部3Aに付着した晶析物32を掻き落すための凸部用スクレーパー12と、凹部3Bに付着した晶析物32を掻き落すための凹部用スクレーパー14とを備えたスクレーパー装置10が、攪拌機6の槽半径方向先端に設置されている。
【0028】
すなわち、詳しく述べると以下の如くである。
【0029】
スクレーパー装置10は、晶析槽1の天井5a近傍から床5b近傍までに渡って設置されており、攪拌機6の攪拌翼9の槽半径方向先端に配置されたスクレーパー取り付け板11と、攪拌機6の回転方向Sの前方から後方に向かって凸部用スクレーパー、凸部用スクレーパーサポート板、凹部用スクレーパー、凹部用スクレーパーサポート板の順で重ねてボルト・ナット16でスクレーパー取り付け板11に取り付けられた、凸部用スクレーパー12と、凸部用スクレーパーサポート板13と、凹部用スクレーパー14と、凹部用スクレーパーサポート板15とを備えている。
【0030】
図3は、凸部用スクレーパー12、凸部用スクレーパーサポート板13、凹部用スクレーパー14、凹部用スクレーパーサポート板15の平面形状を示す平面図である。いずれも平面形状は矩形であり、縦方向の長さは同一であるが、先端方向の長さはそれぞれで異なっている。そして、先端方向の取り付け位置を変更・調整できるように、ボルト・ナット16用取り付け穴17が長穴になっている。
【0031】
そして、凸部用スクレーパー12は、凸部3Aに付着した晶析物32を掻き落すためのスクレーパーである。例えば、硬質テフロン(登録商標)製で厚さが0.5〜3mmである。凸部用スクレーパーサポート板13は、凸部用スクレーパー12が凸部3Aに付着した晶析物32を掻き落す際に晶析物32からの抵抗力で反り変形しても復元できるようにするためのサポート板である。例えば、硬質テフロン(登録商標)製で厚さが1〜6mmである。
【0032】
一方、凹部用スクレーパー14は、凹部3Bに付着した晶析物32を掻き落すためのスクレーパーである。例えば、硬質テフロン(登録商標)製で厚さが1〜4mmである。凹部用スクレーパーサポート板15は、凹部用スクレーパー14が凸部3Aを通過する際に大きく反り変形した後に復元できるようにするためのサポート板である。例えば、ステンレスバネ鋼製で厚さが0.2〜0.6mmである。
【0033】
そして、冷却液4からの伝熱効率の保持の観点と、スクレーパー装置10の損耗抑制や攪拌機6の過負荷防止の観点とに基づいて、凸部用スクレーパー12と内筒3の内面3aとのクリアランスについては、凸部3Aの中で回転軸8の軸心8aから内筒3の内面3aまでの距離が最も短い位置において、クリアランスが0mm〜1.5mmになるようにし、凹部用スクレーパー14と内筒3の内面3aとのクリアランスについては、凹部3Bの中で回転軸8の軸心8aから内筒3の内面3aまでの距離が最も長い位置において、クリアランスが0mm〜1.5mmになるようにするのが好ましい。
【0034】
上記のように構成することによって、この実施形態においては、晶析槽1の内面(内筒3の内面3aに凸部3Aと凹部3Bが生じた場合でも、晶析槽1の内面(内筒3の内面3a)に付着した晶析物(結晶)を的確に掻き落すことができる。
【0035】
晶析槽1の内面に押し付けるタイプのスクレーパーでは、内筒3の凹凸にスクレーパーを追従させることが難しい。一方、本発明では凹凸に合わせて内筒3の内面3aとのクリアランスを調整することで、内筒3の凹凸にスクレーパーを追従させることが容易に出来る。
【0036】
なお、上記の実施形態では、攪拌機6の回転方向Sの前方に凸部用スクレーパー12を設置し、攪拌機6の回転方向Sの後方に凹部用スクレーパー14を設置しているが、その設置順序を逆にしてもよい。
【0037】
また、上記の実施形態では、めっき液再生設備(例えば、メタンスルホン酸再生設備)における晶析槽を念頭においているが、本発明は、それ以外の用途の晶析槽についても適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 晶析槽
2 外筒
3 内筒
3a 内筒の内面
3A 凸部
3B 凹部
4 冷却液
5a 天井
5b 床
6 攪拌機
7 モータ
8 回転軸
8a 回転軸の軸心
9 攪拌翼
10 スクレーパー装置
11 スクレーパー取り付け板
12 凸部用スクレーパー
13 凸部用スクレーパーサポート板
14 凹部用スクレーパー
15 凹部用スクレーパーサポート板
16 ボルト・ナット
17 ボルト・ナット用取り付け穴(長穴)
30 めっき液
31 めっき液中の晶析物
32 晶析槽内面に付着した晶析物