(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
FTIR(フーリエ変換型赤外分光光度計:Fourier Transform Infrared spectroscope)では、赤外光源からの赤外光をビームスプリッタで2つに分割して一方を固定鏡、もう一方を移動鏡に照射し、それら反射光を再び同一光路に導き、干渉させる。この干渉光を測定対象の試料に照射し、その透過光又は反射光を検出してフーリエ変換することによりスペクトルを作成し、このスペクトルのピーク波長、ピーク強度等から該試料の定性分析や定量分析を行う。
【0003】
FTIRでは、通常、試料に照射するための測定光(赤外光)の上記光学系とは別の光学系としてコントロール干渉系を備える。コントロール干渉系は、ビームスプリッタ、固定鏡、移動鏡を測定光の光学系と共有し、コントロール干渉系のためのレーザ光源及びレーザ光用検出器を有しており、測定光と同じ干渉系にレーザ光を通過させることで干渉光を生成する。このレーザ光の干渉信号に基づき、移動鏡の現在位置及び速度を算出する。
【0004】
移動鏡は、ガイド上を往復運動可能な可動部に固定され、該可動部は駆動用モータにより駆動される。駆動用モータから可動部に駆動力を加えたとき、可動部とガイド部の摺動部分では摩擦力や潤滑剤の粘性抵抗等による、移動を妨げる力(移動抵抗)が生じる。従って、駆動用モータの電圧を変えることで可動部への駆動力を変え、その移動速度を調整する。
【0005】
このような移動鏡の速度の制御方法として、特許文献1のようにフィードバック制御を用いることがある。特許文献1では
図6に示すように、レーザ光源551からの光を移動鏡541及び固定鏡544により干渉させ、その干渉光の強度をフォトダイオード552で測定して、移動鏡541の現在位置及び速度を算出する。そして制御部530が該測定速度と目標速度の偏差等を基にPID制御(Proportional-Integral-Derivative Control)によるフィードバック制御で駆動電圧を駆動用モータ520へ印加し、移動鏡541の速度調整を行っている。
【0006】
試料の分光特性を測定する場合において、精度の良い測定を行うためには正確なスペクトルデータを取得することが重要である。FTIRではコントロール干渉系により移動鏡が特定の位置を通過する毎に出力信号が出力され、各出力位置の間、赤外干渉光の検出信号が検出器内に蓄積され、スペクトルデータとして取り出される。従って、移動鏡が一定速度で動作することにより、データ毎の蓄積時間が均等になり、安定したスペクトルデータが取得できるようになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
移動鏡の速度は摺動部分に微小な埃などの異物が侵入することにより変化する場合がある。摺動部分に異物が侵入した場合、可動部が異物に接触して乗り越える際に移動抵抗が増加し、一時的に移動鏡の速度が低下する。すると、目標速度との差が大きくなるため、フィードバック制御を行っている制御装置は駆動用モータの駆動電圧を上昇させ、移動鏡の速度を目標速度に戻そうとする。一方、可動部が異物を乗り越えると移動抵抗が低下し、駆動用モータからの力が移動抵抗よりも大きくなって移動鏡が加速する。これにより移動鏡の速度が目標速度を超えると、制御装置は移動鏡を減速させるために駆動用モータの電圧を下げる。
これらの間、フィードバック制御がこのような速度変化に対応しきれない場合には、一時的に移動鏡が停止したり、制御が発散するなどの問題があった。
【0009】
また、検出器における検出信号の蓄積時間を長くすると大きな信号データが得られ、S/N比の高いスペクトルデータが得られることから、移動鏡の移動速度を低速に設定することがある。この場合、潤滑剤の粘性抵抗が小さくなり可動部は小さな力で移動させることができるため、駆動用モータを低電圧で動作させることが多い。このような場合には、摺動部分に小さな異物が侵入した場合でも元の電圧に対する電圧の変化量が相対的に大きくなり、上述のフィードバック制御の問題が特に顕著に現れる。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、移動鏡の速度を安定して制御し、高精度の測定を行うことができるフーリエ変換型分光光度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係るフーリエ変換型分光光度計は、
a) 移動鏡が固定された可動部と、
b) 前記可動部に、該可動部の移動抵抗よりも大きい外力を
常に加える外力付与手段と、
c) 前記可動部に、該可動部の移動方向に沿った正又は負の駆動力を加える駆動源と、
d) 前記可動部の移動速度を測定する速度測定部と、
e) 前記移動速度に基づき、前記可動部が所定の態様で移動するように、前記駆動源の駆動力を制御する駆動力制御部と
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るフーリエ変換型分光光度計では、可動部には移動抵抗と外力付与手段からの外力と駆動源からの駆動力が付与され、これらの合力が可動部を移動させる。このうち、外力は移動抵抗よりも大きいため、駆動力が無い場合、可動部は常に外力により加速される。なお、従来のフーリエ変換型分光光度計では、可動部にはこのような外力が与えられていなかったため、常態では移動抵抗により可動部は停止している。
駆動力制御部は、速度測定部の測定結果に基づき、その移動抵抗と外力の合力に対して制御した駆動力を加え、可動部の移動が所定の態様となるようにする。例えば、外力の方向と反対の方向の駆動力を付与することにより合力をゼロとし、可動部の静止状態を維持し、又は定速で移動させる。或いは、そのような合力ゼロの状態から、駆動力を強め又は弱めることにより、可動部を静止状態から移動状態に遷移させる。可動部が定速移動状態にあるときも同様に、駆動力を強め又は弱めることにより可動部を加速し又は減速して、例えば往復運動をさせるようにする。この場合に可動部に加えられる駆動力は、可動部の移動の方向と同じである場合もあり、反対である場合もある。前者の場合が正の駆動力であり、後者の場合が負の駆動力である。
このような構成にすることで、可動部を定速で移動させるために必要な駆動力は、移動鏡の移動範囲の一部または全部で、従来技術の駆動力と比較して外力の影響により大きくなる。従って、何らかの原因で可動部が移動する速度に急な変動が生じても、該調整による駆動力の変化量を相対的に小さくすることができる。
【0013】
前記外力付与手段として、重力を用いることができる。これは、前記可動部の移動の方向を重力に関して上下となる方向にしておき、前記駆動源が前記可動部へ付与する駆動力の方向を重力に逆らう方向となるように構成しておくことにより実現することができる。従って、上記課題を解決するために成された本発明に係るフーリエ変換型分光光度計は、
a) 移動鏡が固定された、ガイド上を移動可能な可動部と、
b) 前記ガイドを、前記可動部の重力の該ガイドに沿う方向の分力が該可動部の該ガイド上での移動抵抗よりも大きくなるように傾斜させる傾斜手段と、
c) 前記可動部の該ガイド上での移動方向に沿った正又は負の駆動力を加える駆動源と、
d) 前記可動部の移動速度を測定する速度測定部と、
e) 前記移動速度に基づき、前記可動部が前記ガイド上を所定の態様で移動するように、前記駆動源の駆動力を制御する駆動力制御部と
を有する構成とすることができる。
【0014】
この構成では、前記可動部が前記ガイド上を移動可能となっており、その前記ガイドが傾斜しているため、前記可動部にはその自重(重力)の前記ガイドに沿う方向の分力が常にガイドに沿って下方に付与される。これが、前記外力となる。また、このガイドの傾斜角を変化させることにより、前記可動部に付与される前記外力を調整することができる。
【0015】
その他の外力付与手段として、可動部又は駆動源内の可動部分を弾性部材で付勢するという構成を用いることもできる。この構成では弾性部材から可動部等に付与される力が外力となる。ここで、弾性部材の弾性係数(例えばバネを用いた場合には使用するバネのバネ定数)を適切に選択することにより、可動部等に付与される外力を調整することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るフーリエ変換型分光光度計では、可動部に外力付与手段からの外力を加えることにより駆動源の駆動力を調整する。従って、異物の侵入などによる速度変動が起きた場合でも、移動鏡の移動範囲の一部または全部で、速度変動前の駆動力に対する相対的な変化量を小さくすることで、フィードバック制御が従来よりも安定し、制御の発散を抑えることができる。また、フィードバック制御が安定することにより、可動部の速度変化が小さくなるため移動鏡の速度を一定に保つことが容易になるとともに、急激な速度変化がなくなるために装置寿命が長くなる。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
以下、本発明に係るフーリエ変換型分光光度計の第1の実施例について、
図1及び
図2を参照して説明する。本実施例におけるフーリエ変換型分光光度計では
図1に示すように、赤外光源143からの赤外光をビームスプリッタ142で2つに分割して、固定鏡144と移動鏡141に照射し、それらの反射光を再び同一光路に導き、干渉させる。この干渉光を試料室145で試料に照射し、その透過光を赤外光検出器146で検出して、検出した信号を分析装置147でフーリエ変換することによりスペクトルを作成し、このスペクトルデータから試料の分析を行う。また、レーザ光源151から照射されたレーザ光は赤外光と同一光路で干渉光となる。この干渉光をレーザ光検出器152で検出し、検出されたデータに基づいて制御装置130の速度測定部132で移動鏡141の移動速度及び現在位置を算出する。算出された移動速度及び現在位置は、制御装置130の駆動制御部131におけるボイスコイルモータ120の駆動電圧の制御と、分析装置147のスペクトルデータ作成に使用される。
【0019】
直動機構110はリニアガイド112と、該リニアガイド112上を往復運動する可動部111からなる。該可動部111には前記移動鏡141が固定されており、前記ボイスコイルモータ120により移動する。
【0020】
本実施例におけるフーリエ変換型分光光度計の動作について
図2を参照しながら説明する。
図2は直動機構110、ボイスコイルモータ120、傾斜付与部160のみを記載している。これ以外の構成については従来技術と同様であるため、これらの動作についての説明は適宜省略する。
【0021】
本実施例では
図2(a)に示すように、前記リニアガイド112を傾斜付与部160の上に設置し、水平方向を基準に30°傾けた状態とする。従って、可動部111は前記リニアガイド112に沿って、水平方向から30°だけ傾斜した面の上を重力に関して上方及び下方に向かって往復運動を行う。なお、本実施例では傾きを30°としているが、可動部111及び移動鏡141の質量に応じて傾きθを-90°から90°までの範囲(0°を除く)で適宜変更が可能である。
【0022】
移動鏡141と可動部111には自重による力(重力)Fgが鉛直方向にかかるが、リニアガイド112を傾けて設置しているため、移動鏡141の移動方向にはリニアガイド112の傾きθに応じて、ボイスコイルモータ120にFgの分力Fg1が常に付加される。
【0023】
試料の分光特性の測定が開始されると駆動制御部131はボイスコイルモータ120に電圧を加え、移動鏡141を移動させる。例えば、水平方向に対して上方に移動鏡141を移動させる場合、
図2(b)に示すように、外力Fg1と移動抵抗Ffが発生するため、ボイスコイルモータ120から加えられる力Fmがこれらの力の和と等しくなるように駆動電圧を調整することで、移動鏡141が一定速度で動く。逆に水平方向に対して下方に移動鏡141を移動させる場合、
図2(c)に示すように移動抵抗Ffが逆方向になるため、ボイスコイルモータ120から加えられる力FmがFg1とFfの差と等しくなるように駆動電圧を調整することで、移動鏡141が一定速度で動く。この場合、ボイスコイルモータの駆動力Fmは移動鏡が上方へ動く場合よりも小さくなる。従って、ボイスコイルモータからの駆動力Fmを、従来技術(水平方向に移動する場合)において一定速度で移動するために必要な駆動力Fm’よりも常に大きくするために、外力Fg1>2×Ffとなるような傾斜を設けることが好ましい。
【0024】
摺動部分へ異物が侵入していない場合、ボイスコイルモータ120から可動部111へ加えられる力は一定であるため、フィードバック制御は容易である。また、移動鏡141の可動範囲の両端部では、移動方向の切り替えを行うための減速および加速が必要となるが、その電圧変化量は従来技術の場合と同じであるため、従来と同様なフィードバック制御で制御が可能である。
【0025】
一方、リニアガイド112と可動部111の間に異物が入ると、その部分の移動抵抗が増加するため、移動鏡141は一時的に減速する。速度測定部132はレーザ干渉系150の出力信号から移動鏡141の現在の速度を算出し、目標速度との差分に応じてボイスコイルモータ120へ供給する駆動電圧を増加させる。
【0026】
このときの駆動電圧の増加量は、従来のようにリニアガイド112を水平方向に設置して同じ異物が入った場合と同じである。一方で、本実施例における異物が侵入していない状態(定常状態)のボイスコイルモータ120の駆動電圧は、従来の場合と比較して大きい。従って、定常状態の駆動電圧に対する異物侵入時の電圧上昇の割合、つまり駆動電圧の変動率は従来よりも小さくなる。これによりフィードバック制御が従来よりも安定し、移動鏡141を一定速度で移動させることができる。
【0027】
このようにリニアガイド112を傾けて設置することにより、移動鏡141に予め外力を加え、ボイスコイルモータ120の駆動電圧を従来よりも上げておくことができるため、異物が侵入した場合でもフィードバック制御を安定させることが可能である。また、このときの外力Fg1はリニアガイド112の傾きや、可動部111又は移動鏡141の質量を変更することにより調整可能である。
【実施例2】
【0028】
次に第2の実施例について
図3を参照しながら説明する。本実施例では
図3に示すように、リニアガイド212は水平に設置し、可動部211と弾性部材固定部270の間にコイルスプリング261を挿入している。その他の構成は上述の第1の実施例と同様であるため、符号の下二桁を上述の実施例と同じ番号を付与し、これらの説明については適宜省略する。
【0029】
本実施例におけるフーリエ変換型分光光度計の動作について
図3を参照しながら説明する。コイルスプリング261はそのバネ定数とバネの伸びに比例する外力Fsを可動部211へ付与する。従って、
図3(a)に示すように、可動部211がビームスプリッタ242に近いほどコイルスプリング261による外力Fsが強くなり、ビームスプリッタ242から遠くなると
図3(b)に示すように外力Fsが弱くなる。なお、従来技術において移動鏡を一定速度で移動させるために必要な駆動力Fm’と比較して、本発明における駆動力Fmを大きくするために、移動鏡の可動範囲全体でコイルスプリング261による外力Fs>2×Ffとなるようにコイルスプリング261を設置することが好ましい。
【0030】
試料の分光特性の測定が開始されると駆動制御部231はボイスコイルモータ220に電圧を加え、移動鏡241を移動させる。例えば、ビームスプリッタ242へ近づく方向へ移動鏡241を移動させる場合、
図3(a)に示すように、外力Fsと移動抵抗Ffが発生するため、ボイスコイルモータ220から加えられる力Fmがこれらの力と等しくなるように電圧を調整することで、移動鏡241が一定速度で動く。逆にビームスプリッタ242から遠ざかる方向へ移動鏡241が移動する場合、
図3(b)に示す方向に移動抵抗Ffが発生するため、ボイスコイルモータ220から加えられる力FmがFsとFfの差と等しくなるように駆動電圧を調整することで、移動鏡241が一定速度で動く。
【0031】
摺動部分へ異物が侵入していない場合、ボイスコイルモータ220から可動部211へ加えられる力は、外力Fsの変動に応じて連続的に増減させることが必要であるが、異物侵入時のような急激な変化は起こらないため、フィードバック制御は容易である。また、移動鏡241の可動範囲の両端部では、移動方向の切り替えを行うための減速および加速が必要となるが、その電圧変化量は従来技術の場合とほぼ同じであるため、従来と同様なフィードバック制御で制御が可能である。
【0032】
また、リニアガイド212と可動部211の摺動部分に異物が侵入した場合でも、コイルスプリング261の外力Fsによりボイスコイルモータ220の駆動電圧が従来の場合よりも上昇していることから、第1の実施例と同様に安定したフィードバック制御が可能である。
【0033】
このような構成とすることで、コイルスプリング261のバネ定数により可動部211へ付与する外力が決まるため、コイルスプリング261を取り替えることで外力を調整し、移動鏡241を一定速度で移動させるのに必要なボイスコイルモータ220の駆動電圧を調整することができる。
【0034】
また、本実施例ではボイスコイルモータ側に外力が付与されるようにコイルスプリングを設けたが、ビームスプリッタ側に外力が付与されるようにコイルスプリングを設けてもよい。この場合、ボイスコイルモータ220の駆動電圧の極性は本実施例とは逆になるが、その大きさは変わらず、制御方法も同様に行うことで安定したフィードバック制御とすることができる。
【0035】
上記実施例ではコイルスプリングが常に伸びた状態としたが、コイルスプリングが常に圧縮された状態で使用してもよい。この場合、Fsの向きは
図3に示したものとは逆方向となるため、ボイスコイルモータによる駆動力の向きも逆方向となり、その大きさもコイルスプリングが圧縮されるほど大きくなる。このように外力Fsの方向や大きさは異なるが、外力が加わることにより駆動力を大きくできるため、フィードバック制御を安定させることができる。
【0036】
さらに、コイルスプリングが伸びた状態と圧縮された状態の両方を用いる構成としてもよい。例えば、
図3の構成において、移動鏡の可動範囲の中央でコイルスプリングによる外力Fsがゼロになるように配置した場合、可動部がビームスプリッタ側に移動すると、コイルスプリングが伸びて外力Fsはボイスコイルモータ側に働く。逆に可動部がボイスコイルモータ側に移動すると、コイルスプリングが圧縮されて外力Fsはビームスプリッタ側に働く。このような構成では可動部が中央付近に位置するときは外力Fsが小さいが、移動範囲の端部に近いほど外力Fsが大きくなるため、可動部が端部に近くなるほど安定したフィードバック制御が可能となる。
【0037】
また、本実施例では1つのコイルスプリングを使用したが、2つ以上のコイルスプリングを直列又は並列に並べて使用してもよい。
【実施例3】
【0038】
次に本発明に係るフーリエ変換型分光光度計の第3の実施例について
図4を参照して説明する。上述の第2の実施例では、可動部と弾性部材固定部の間にコイルスプリングを一つ挿入し、可動部に対して一方向にだけ外力が付与される構成としたが、本実施例のように2つのコイルスプリングを挿入し、可動部に対して二方向に外力が付与される構成とすることも可能である。コイルスプリングが2つあること以外は第2実施例と同じ構成であるため、その他の構成については符号の下二桁を上述の実施例と同じ番号を付与し、これらの説明については適宜省略する。
【0039】
本実施例の動作について
図4を参照しながら説明する。第1及び第2コイルスプリング361、362は長さとバネ定数が同じものを用いる。また、第1及び第2コイルスプリング361、362は、移動鏡が移動する全ての範囲において常に伸びた状態とする。そして移動鏡341の位置が移動範囲の中央にあるときに第1及び第2コイルスプリング361、362がそれぞれ可動部311に与える外力Fs1とFs2が等しくなるように調整する。
【0040】
移動鏡341がビームスプリッタ342に近づく方向に移動する際には、
図4(b)に示すように第2コイルスプリング362の伸びが大きくなり、第1コイルスプリング361の伸びは小さくなるため、Fs1<Fs2となる。従って、ボイスコイルモータ320による力FmがFm=Fs2-Fs1+Ffとなるように駆動電圧を調整することで、移動鏡を一定速度で移動させることができる。このとき、第2コイルスプリング362からの外力Fs2は、移動鏡341がビームスプリッタ342に近づくほど大きくなり、逆に第1コイルスプリング361からの外力Fs1は小さくなるため、ボイスコイルモータ320の駆動電圧も徐々に上昇させる必要がある。これらの外力Fs2及び外力Fs1の変化は移動距離に応じて徐々に変化するものであるため、フィードバック制御で安定した制御は可能である。
【0041】
移動鏡341がビームスプリッタ342から遠ざかる方向に移動する際には上述とは逆に外力Fs1が徐々に大きくなる(
図4(c))。従って、上述のビームスプリッタ
342へ近づく場合と比較してその方向は異なるが、その変化量は同様であるため上述と同じ制御方法で容易に制御可能である。
【0042】
したがって、本実施例においても移動鏡341に予め外力を付与し、ボイスコイルモータの駆動電圧を上げておくことができる。従って、摺動部分に異物が侵入してもフィードバック制御を安定させることが可能である。
【0043】
本実施例では第1及び第2コイルスプリングが常に伸びた状態としたが、常に圧縮された状態としてもよい。この場合、外力Fs1及びFs2の方向は
図4とは反対方向となり、その大きさはコイルスプリングが圧縮されるほど大きくなる。このように外力Fs1及びFs2の方向や大きさは異なるが、外力が加わることにより駆動力を大きくできるため、フィードバック制御を安定させることができる。
【0044】
また、コイルスプリングが伸びた状態と圧縮された状態の両方を用いる構成としてもよい。例えば、
図4の構成において、移動鏡の可動範囲の中央で第1及び第2コイルスプリングによる外力Fs1及びFs2がそれぞれゼロになるように配置した場合、可動部がボイスコイルモータ側に移動すると、外力Fs1及びFs2は両方ともビームスプリッタ側に働く。逆に可動部がビームスプリッタ側に移動すると、外力Fs1及びFs2は両方ともボイスコイルモータ側に働く。従って、可動部が中央付近に位置するときは外力Fsが小さいが、移動範囲の端部に近いほどFs1とFs2の合力の大きさが大きくなり、安定したフィードバック制御が可能となる。
【0045】
さらに、本実施例では第1及び第2コイルスプリングの長さとバネ定数を同じものとしたが、別のものを使用してもよい。この場合は外力Fs1とFs2の大きさが異なるため、移動鏡が動く方向によって必要な駆動電圧が異なるが、その電圧が連続的に変化することは上述の実施例と同じであるため、安定した制御は可能である。また、本実施例では可動部材の両側にコイルスプリングを1つずつ挿入したが、2つ以上コイルスプリングを用いてもよい。
【実施例4】
【0046】
次に本発明に係るフーリエ変換型分光光度計の第4の実施例について
図5を参照しながら説明する。本実施例では
図5(a)に示すように可動部411と弾性部材固定部470の間に板バネ460を挿入している。その他の構成は上述の第3の実施例と同様であるため、符号の下二桁を上述の実施例と同じ番号を付与し、これらの説明については適宜省略する。
【0047】
本実施例では第3の実施例と同様に、移動鏡441の可動範囲の中心からの移動距離に応じて徐々に板バネ460からの外力Fsが増加する。移動鏡がビームスプリッタへ近づく方向に移動すると、
図5(b)に示すように、板バネ460による外力Fsが進行方向とは逆の方向に発生する。また、ビームスプリッタ442から遠ざかる方向に移動鏡441が移動した場合にも進行方向とは逆の方向に板バネ460による外力Fsが発生する(
図5(c))。従って、ボイスコイルモータ420から加えられる力Fm=Fs+Ffとなるように駆動電圧を調整することにより、移動鏡441を一定速度で移動させることができる。
【0048】
本実施例では従来と比較して板バネ460による外力Fsだけボイスコイルモータ420から大きな力が必要となるため、ボイスコイルモータ420の駆動電圧は従来技術の構成よりも大きくなる。従って、摺動部分に異物が侵入してもフィードバック制御を安定させることが可能である。
【0049】
本実施例では板バネ460のバネ定数により可動部411へ付加する外力が決まるため、板バネ460を取り替えることで外力Fsを調整し、移動鏡441を一定速度で移動させるのに必要なボイスコイルモータ420の駆動電圧を調整することができる。
【0050】
なお、上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜変形や修正を行えることは明らかである。例えば、上記実施例では移動鏡を動かす駆動源としてボイスコイルモータを用いたが、これ以外のモータや油圧装置等により移動させることもできる。また、本実施例2から4ではコイルスプリング及び板バネを使用したが、ゴムなど他の弾性体を使用しても同様な効果が得られる。また光源として赤外光源を用いたが、可視光や紫外光などの波長の光源を使用することもできる。