(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項10に記載の製造方法において、溶融亜鉛めっき処理後、さらに480〜560℃の温度域で5〜60sの合金化処理を行うことを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献3に記載の製造方法では、TiやNbの多量添加が必要でコスト的に不利となり、さらにA
3点以上の高い焼鈍温度および冷却途中での保持が必要となり、製造性での課題も大きい。また、特許文献3で開示されている鋼板の引張強度は700MPa以下であり、自動車の軽量化にはさらなる高強度化が必要となっている。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、自動車部品用素材として優れた耐疲労特性を有し、かつTSが590MPa以上である薄鋼板とその製造方法を提供することを目的とするとともに、上記薄鋼板をめっきしためっき鋼板を提供すること、上記薄鋼板を得るために必要な熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、めっき鋼板の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した課題を達成し、連続焼鈍ラインや連続溶融亜鉛めっきラインを用いて耐疲労特性に優れる薄鋼板を製造するため、鋼板の成分組成およびミクロ組織の観点から鋭意研究を重ねた。その結果、面積率で、50%以上のフェライトと10%以上のマルテンサイト有し、鋼板組織のナノ硬さの標準偏差を1.50GPa以下とすることにより、優れた耐疲労特性を有する薄鋼板を得ることが可能であることを見出した。
【0010】
ここでナノ硬さとは、Hysitron社のTRIBOSCOPEを用いて、荷重1000μNで測定する硬さである。具体的には、5μmピッチで7点を7列程度の計50点前後測定し、その標準偏差を求めた。詳細は実施例で述べる。
【0011】
ミクロ組織の硬さ測定手法としてはビッカース硬度が有名である。しかし、ビッカース硬度測定では負荷荷重の最小値が0.5gf程度であり、硬質なマルテンサイトでも圧痕サイズは1〜2μmとなるため、微細な相の硬さ測定は困難である。すなわち、ビッカース硬度測定では各相毎の硬さの測定が難しいため、マルテンサイトとフェライトといった、軟質相と硬質相の両方の相を含んだ硬度測定となる。これに対して、ナノ硬さ測定は微細な相の硬さ測定が可能であるため、各相毎の硬さの測定が可能となる。本発明者らが鋭意検討した結果、ナノ硬さの標準偏差を小さくする、すなわち軟質相の硬さを上昇させ組織内の硬さ分布を均一にすることにより、疲労強度が向上することを見出した。
【0012】
本発明は、上記した知見に基づくものであり、その構成は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.04%以上0.15%以下、Si:0.3%以下、Mn:1.0%以上2.6%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上0.1%以下、N:0.015%以下であり、かつTi、Nbのうち1種または2種を合計で0.01%以上0.2%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、鋼板全体に対する面積率で、50%以上のフェライトと10%以上50%以下のマルテンサイトを有し、鋼組織のナノ硬さの標準偏差が1.50GPa以下である鋼組織とを有し、引張強度が590MPa以上であることを特徴とする薄鋼板。
[2]前記成分組成は、さらに、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、V:0.01%以上1.0%以下から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする[1]に記載の薄鋼板。
[3]前記成分組成は、さらに、質量%で、B:0.0003%以上0.005%以下を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の薄鋼板。
[4]前記成分組成は、さらに、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、Sb:0.003%以上0.03%以下から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の薄鋼板。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の薄鋼板の表面にめっき層を備えることを特徴とするめっき鋼板。
[6][5]に記載のめっき層が溶融亜鉛めっき層であることを特徴とするめっき鋼板。
[7][6]に記載の溶融亜鉛めっき層が合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とするめっき鋼板。
[8][1]〜[4]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブを800℃以上1350℃以下の温度に加熱して800℃以上の仕上げ圧延温度で仕上げ圧延を行った後、400℃以上650℃以下の巻取温度で巻き取ることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
[9][8]に記載の製造方法で得られた熱延鋼板を、冷間圧下率を30〜95%で冷間圧延することを特徴とする冷延フルハード鋼板の製造方法。
[10][9]に記載の製造方法で得られた冷延フルハード鋼板を、600℃以上の温度域での露点を−40℃以下とし、500℃〜Ac
1変態点における平均加熱速度を10℃/s以上で730〜900℃まで加熱し10秒以上保持した後、冷却過程において750℃から550℃までの平均冷却速度を3℃/s以上で冷却することを特徴とする薄鋼板の製造方法。
[11][10]に記載の製造方法で得られた薄鋼板にめっき処理を施すことを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
[12][11]に記載の製造方法において、めっき処理は溶融亜鉛めっき処理であることを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
[13][12]に記載の製造方法において、溶融亜鉛めっき処理後、さらに480〜560℃の温度域で5〜60sの合金化処理を行うことを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、引張強度が590MPa以上の高強度で疲労特性に優れる薄鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
本発明は、薄鋼板およびめっき鋼板、並びに、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、薄鋼板の製造方法およびめっき鋼板の製造方法である。先ず、これらの関係について説明する。
【0017】
本発明の薄鋼板は、スラブ等の鋼素材から出発して、熱延鋼板、冷延フルハード鋼板となる製造過程を経て薄鋼板となる。さらに、本発明のめっき鋼板は上記薄鋼板をめっきしてめっき鋼板になる。
【0018】
また、本発明の熱延鋼板の製造方法は、上記過程の熱延鋼板を得るまでの製造方法である。
【0019】
本発明の冷延フルハード鋼板の製造方法は、上記過程において熱延鋼板から冷延フルハード鋼板を得るまでの製造方法である。
【0020】
本発明の薄鋼板の製造方法は、上記過程において冷延フルハード鋼板から薄鋼板を得るまでの製造方法である。
【0021】
本発明のめっき鋼板の製造方法は、上記過程において薄鋼板からめっき鋼板を得るまでの製造方法である。
【0022】
上記関係があることから、熱延鋼板、冷延フルハード鋼板、薄鋼板、めっき鋼板の成分組成は共通し、薄鋼板、めっき鋼板の鋼組織が共通する。以下、共通事項、熱延鋼板、薄鋼板、めっき鋼板、製造方法の順で説明する。
【0023】
<薄鋼板、めっき鋼板の成分組成>
薄鋼板、めっき鋼板の成分組成は、質量%で、C:0.04%以上0.15%以下、Si:0.3%以下、Mn:1.0%以上2.6%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上0.1%以下、N:0.015%以下であり、かつTi、Nbのうち1種または2種を合計で0.01%以上0.2%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
【0024】
さらに、上記成分組成は、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、V:0.01%以上1.0%以下から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0025】
さらに、上記成分組成は、質量%で、B:0.0003%以上0.005%以下を含有してもよい。
【0026】
さらに、上記成分組成は、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、Sb:0.003%以上0.03%以下から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0027】
以下、各成分について説明する。下記の説明において成分の含有量を表す「%」は「質量%」を意味する。
【0028】
C:0.04%以上0.15%以下
Cはマルテンサイトを生成させDP組織とするために必要な元素である。C含有量が0.04%未満では所望のマルテンサイト量が得られず、一方、0.15%を超えると溶接性の低下を招く。そのため、C含有量は0.04%以上0.15%以下の範囲に制限する。下限は、好ましくは0.06%以上である。上限は、好ましくは0.12%以下である。
【0029】
Si:0.3%以下
Siは鋼の強化に有効な元素である。しかし、Si含有量が0.3%を超えると熱延時に発生する赤スケールに起因して、焼鈍後の鋼板の疲労特性の低下につながる。そのため、Si含有量は0.3%以下とする。好ましくは0.1%以下である。
【0030】
Mn:1.0%以上2.6%以下
Mnは、鋼の強化に有効な元素である。また、オーステナイトを安定化させる元素であり、焼鈍後の冷却時にパーライトの生成を抑制しマルテンサイトの生成に有効に働く。このため、Mnは1.0%以上の含有が必要である。一方、2.6%を超えて過剰に含有すると、マルテンサイトが過度に生成して成形性の低下を招く。したがって、Mn含有量は1.0%以上2.6%以下とする。下限は、好ましくは1.4%以上である。上限は、好ましくは2.2%以下であり、より好ましくは2.2%未満であり、さらに好ましくは2.1%以下である。
【0031】
P:0.1%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、0.1%を超えて過剰に含有すると、加工性や靱性の低下を招く。したがって、P含有量は0.1%以下とする。
【0032】
S:0.01%以下
Sは、MnSなどの介在物となって成形性の低下を招くので極力低い方がよいが、製造コストの面からS含有量は0.01%以下とする。
【0033】
Al:0.01%以上0.1%以下
Alは脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸工程で含有することが好ましい。ここで、Al含有量が0.01%に満たないとその効果に乏しくなるので、下限を0.01%とする。しかしながら、Alの過剰な含有は製鋼時におけるスラブ品質を劣化させる。したがって、Al含有量は0.1%以下とする。
【0034】
N:0.015%以下
Nが0.015%を超えると鋼板内部に粗大なAlNが増加し疲労特性が低下する。そのためN含有量は0.015%以下とする。好ましくは0.010%以下である。
【0035】
Ti、Nbのうち1種または2種を合計で0.01%以上0.2%以下
Ti、Nbは炭窒化物を形成して鋼を析出強化により高強度化する作用を有する。さらに、TiCやNbCの析出によりフェライトの再結晶が抑制され、それが後述するような疲労特性の向上につながる。このような効果はTiとNbの含有量の合計が0.01%以上で得られる。しかし、TiとNbの含有量の合計が0.2%を超えるとその効果が飽和するだけでなく成形性の低下を招く。このため、TiとNbの含有量の合計は0.01%以上0.2%以下とする。下限は、好ましくは0.03%以上である。上限は、好ましくは0.1%以下である。
【0036】
本発明における薄鋼板、めっき鋼板は、上記の成分組成を基本成分とする。
【0037】
本発明では、必要に応じて、Cr、Mo、Vから選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0038】
Cr:0.05%以上1.0%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、V:0.01%以上1.0%以下
Cr、Mo、Vは焼き入れ性を上げ、鋼の強化に有効な元素である。その効果は、Cr:0.05%以上、Mo:0.05以上、V:0.01%以上で得られる。しかしながら、それぞれCr:1.0%、Mo:1.0%、V:1.0%を超えて過剰に含有すると、成形性が低下する。したがって、これらの元素を含有する場合には、上限はそれぞれ1.0%以下とする。Cr含有量については、下限はさらに好ましくは0.1%以上であり、上限はさらに好ましくは0.5%以下である。Mo含有量については、下限はさらに好ましくは0.1%以上であり、上限はさらに好ましくは0.5%以下である。V含有量については、下限はさらに好ましくは0.02%以上であり、上限はさらに好ましくは0.5%以下である。
【0039】
さらに必要に応じて、Bを含有してもよい。
【0040】
B:0.0003%以上0.005%以下
Bは焼入れ性を向上する作用を有する元素であり、必要に応じて含有することができる。このような作用はB含有量が0.0003%以上で得られる。しかし、0.005%を超えて含有するとその効果が飽和してコストアップになる。したがって、含有する場合は0.0003%以上0.005%以下とする。下限は、さらに好ましくは0.0005%以上である。上限は、さらに好ましくは0.003%以下である。
【0041】
さらに必要に応じて、Ca、Sbから選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0042】
Ca:0.001%以上0.005%以下
Caは硫化物の形状を球状化し成形性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。この効果を得るためには、0.001%以上必要である。しかしながら、過剰な含有は、介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥などを引き起こす。したがって、Caを含有する場合は、その含有量を0.001%以上0.005%以下とする。
【0043】
Sb:0.003%以上0.03%以下
Sbは鋼板表層部に生じる脱炭層を抑制し疲労特性を向上させる効果を有する。このような効果の発現のためには、Sb含有量を0.003%以上とすることが好ましい。しかし、Sb含有量が0.03%を超えると鋼板製造時に圧延荷重の増大を招き、生産性の低下が懸念される。したがって、Sbを含有する場合には、その含有量を0.003%以上0.03%以下とする。下限は、さらに好ましくは0.005%以上である。上限は、さらに好ましくは0.01%以下である。
【0044】
残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
【0045】
次に、薄鋼板、めっき鋼板の鋼板組織について説明する。
【0046】
フェライトの面積率:50%以上
良好な延性を確保するためには、フェライトは、鋼板全体に対する面積率で50%以上必要である。好ましくは60%以上である。
【0047】
マルテンサイトの面積率:10%以上50%以下
マルテンサイトは鋼の高強度化に働き、所望の強度を得るためには、鋼板全体に対する面積率で10%以上必要である。しかし、面積率で50%を超えると過度に強度が上昇し成形性が低下する。そのためマルテンサイトの面積率は10%以上50%以下とする。下限は、好ましくは15%以上である。上限は、好ましくは40%以下である。
【0048】
フェライトとマルテンサイトの合計は、85%以上とすることが好ましい。
【0049】
本発明では上記相構成を満足していればよく、上記以外の相として、ベイナイト、残留オーステナイトまたはパーライトなどの相を含んでも構わない。ただし、残留オーステナイトは、3.0%未満が好ましく、2.0%以下とすることがより好ましい。
【0050】
鋼板組織のナノ硬さの標準偏差が1.50GPa以下
ナノ硬さの標準偏差が1.50GPaを超えると所望の疲労特性が得られないため、1.50GPa以下とする。好ましくは1.3GPa以下である。なお、標準偏差σは、n個の硬さデータxに対し、式(1)により求める。
σ=√((nΣx
2−(Σx)
2)/(n(n−1)))・・・(1)
<薄鋼板>
薄鋼板の成分組成および鋼組織は上記の通りである。また、薄鋼板の厚みは特に限定されないが、通常、0.7〜2.3mmである。
【0051】
<めっき鋼板>
本発明のめっき鋼板は、本発明の薄鋼板上にめっき層を備えるめっき鋼板である。めっき層の種類は特に限定されず、例えば、溶融めっき層、電気めっき層のいずれでもよい。また、めっき層は合金化されためっき層でもよい。めっき層は亜鉛めっき層が好ましい。亜鉛めっき層はAlやMgを含有してもよい。また、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき(Zn−Al−Mgめっき層)も好ましい。この場合、Al含有量を1質量%以上22質量%以下、Mg含有量を0.1質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。さらに、Si、Ni、Ce、Laから選ばれる1種以上を合計で1%以下含有していても良い。なお、めっき金属は特に限定されないため、上記のようなZnめっき以外に、Alめっき等でもよい。
【0052】
また、めっき層の組成も特に限定されず、一般的なものであればよい。例えば、片面あたりのめっき付着量が20〜80g/m
2の溶融亜鉛めっき層、これがさらに合金化された合金化溶融亜鉛めっき層を有することが好ましい。また、めっき層が溶融亜鉛めっき層の場合にはめっき層中のFe含有量が7質量%未満であり、合金化溶融亜鉛めっき層の場合にはめっき層中のFe含有量は7〜15質量%である。
【0053】
<熱延鋼板の製造方法>
次に製造条件について説明する。
【0054】
本発明の熱延鋼板の製造方法は、上記の「薄鋼板、めっき鋼板の成分組成」で説明した成分組成を有する鋼を転炉などで溶製し、連続鋳造法等でスラブとする。このスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とした後、酸洗し、冷間圧延を施し製造した冷延フルハード鋼板に連続焼鈍を施す。鋼板の表面にめっきを施さない場合は連続焼鈍ライン(CAL)にて焼鈍を行い、溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきを施す場合は連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)にて焼鈍を行う。
【0055】
以下、各条件について説明する。なお、以下の説明において、温度は特に断らない限り鋼板表面温度とする。鋼板表面温度は放射温度計等を用いて測定し得る。また、平均冷却速度は、(冷却前の表面温度−冷却後の表面温度)/冷却時間とする。
【0056】
鋼スラブの製造
上記鋼スラブ製造のための、溶製方法は特に限定されず、転炉、電気炉等、公知の溶製方法を採用することができる。また、真空脱ガス炉にて2次精錬を行ってもよい。その後、生産性や品質上の問題から連続鋳造法によりスラブ(鋼素材)とするのが好ましい。また、造塊−分塊圧延法、薄スラブ連鋳法等、公知の鋳造方法でスラブとしてもよい。
【0057】
熱間圧延条件
本発明の熱間圧延条件は、鋼スラブを1200℃以上1350℃以下の温度に加熱して800℃以上の仕上げ圧延温度で仕上げ圧延を行った後、400℃以上650℃以下の巻取温度で巻き取る方法である。
【0058】
スラブ加熱温度:1200℃以上1350℃以下
スラブの状態ではTiおよびNbは粗大なTiCやNbCとして存在しており、それを一旦溶かして熱延時に微細に再析出させる必要がある。そのためにはスラブ加熱温度を1200℃以上とする必要があり、加熱温度が1350℃を超えるとスケールの過度な生成により歩留りが低下するため、スラブ加熱温度は1200℃以上1350℃以下とする。下限は、好ましくは1230℃以上である。上限は、好ましくは1300℃以下である。
【0059】
仕上げ圧延温度:800℃以上
仕上げ圧延温度が800℃を下回ると、圧延中にフェライトが生成することで、それに伴い析出するTiCやNbCの粗大化により鋼組織のナノ硬さの標準偏差を1.50GPa以下とすることができない。したがって、仕上げ圧延温度は800℃以上とする。好ましくは830℃以上である。
【0060】
巻取温度:400℃以上650℃以下
巻取温度が400℃以上650℃以下の範囲内とすることにより、鋼組織のナノ硬さの標準偏差が1.50GPa以下とすることができる。巻取温度が650℃を超えると、再析出したTiCやNbCが粗大化して焼鈍時のフェライトの再結晶抑制に有効に働かなくなり、また巻取温度が400℃未満では熱延板の形状が悪化したり、熱延板の焼入れ状態が過度になり、併せて不均一になるため、いずれの場合でも、鋼組織のナノ硬さの標準偏差が1.50GPa以下とすることができない。したがって、巻取温度は400℃以上650℃以下とする。下限は、好ましくは450℃以上である。上限は、好ましくは600℃以下である。
【0061】
<冷延フルハード鋼板の製造方法>
本発明の冷延フルハード鋼板の製造方法は、上記製造方法で得られた熱延鋼板を冷間圧延する冷延フルハード鋼板の製造方法である。
【0062】
冷間圧延条件は、組織を均一化し鋼組織のナノ硬度の標準偏差を1.50GPa以下とするために冷間圧下率を30%以上とする必要がある。ただし、冷間圧下率が95%を超えると圧延の負荷が過度に増大し生産性を阻害する。したがって、冷間圧下率は30〜95%とする。下限は、好ましくは40%以上である。上限は、好ましくは70%以下である。
【0063】
なお、上記冷間圧延の前に酸洗を行ってもよい。酸洗条件は適宜設定すればよい。
【0064】
<薄鋼板の製造方法>
本発明の薄鋼板の製造方法は、上記製造方法で得られた冷延フルハード鋼板を、600℃以上の温度域での露点を−40℃以下とし、500℃〜Ac
1変態点における平均加熱速度を10℃/s以上で730〜900℃まで加熱し10秒以上保持した後、冷却過程において750℃から550℃までの平均冷却速度を3℃/s以上で冷却する方法である。
【0065】
500℃〜Ac
1変態点における平均加熱速度を10℃/s以上
本発明の鋼における再結晶温度域である500℃からAc
1変態点における平均加熱速度を10℃/s以上とすることで、加熱昇温時のフェライトの再結晶が抑制されたままα→γの逆変態が生じる。その結果、焼鈍時の組織は未再結晶フェライトとオーステナイトの二相組織となり、焼鈍後は未再結晶フェライトとマルテンサイトとのDP組織となる。このような未再結晶フェライトは再結晶フェライトに比べて粒内に転位を多く含み硬度が高くなることでナノ硬度の標準偏差が小さくなり、耐疲労特性が向上する。DP組織におけるフェライトの強化により、疲労亀裂の発生とその進展が抑制され、疲労特性の向上に有効に働く。500℃〜Ac
1変態点における平均加熱速度は、好ましくは15℃/s以上である。さらに好ましくは20℃/s以上である。
【0066】
730〜900℃まで加熱し10秒以上保持
加熱温度が730℃未満あるいは保持時間が10秒未満では再オーステナイト化が不十分となり焼鈍後に所望のマルテンサイト量が得られない。一方、900℃を上回ると再オーステナイト化が過度に進むことで未再結晶フェライトが減少し、焼鈍後の鋼板の耐疲労特性が低下する。そのため、加熱条件は730〜900℃で10秒以上とする。好ましくは760〜850℃で30秒以上である。
【0067】
なお、Ac
1変態点以上の温度域における加熱速度について、特に限定されない。
【0068】
750℃から550℃までの平均冷却速度を3℃/s以上
平均冷却速度が3℃/s未満では冷却時にパーライトが生成し焼鈍後に所望の量のマルテンサイトが得られなくなるため、平均冷却速度は3℃/s以上とする。好ましくは5℃/s以上である。
【0069】
600℃以上の温度域での露点を−40℃以下
また、600℃以上の温度域での露点を−40℃以下とすることにより、焼鈍中の鋼板表面からの脱炭を抑制することができ、本発明で規定する590MPa以上の引張強度を安定的に製造することができる。600℃以上の温度域での露点が−40℃を超える高露点の場合は、前記した鋼板表面からの脱炭により鋼板の強度が前記した基準を下回る場合がでる。よって、600℃以上の温度域での露点は−40℃以下と定める。雰囲気の露点の下限は特に規定はしないが、−80℃未満では効果が飽和し、コスト面で不利となるため−80℃以上が好ましい。なお、上記温度域の温度は鋼板表面温度を基準とする。即ち、鋼板表面温度が上記温度域にある場合に、露点を上記範囲に調整する。
【0070】
<めっき鋼板の製造方法>
本発明のめっき鋼板の製造方法は、薄鋼板にめっきを施す方法である。例えば、めっき処理としては、溶融亜鉛めっき処理、溶融亜鉛めっき後に合金化を行う処理を例示できる。また、焼鈍と亜鉛めっきを1ラインで連続して行ってもよい。その他、Zn−Ni電気合金めっき等の電気めっきにより、めっき層を形成してもよいし、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっきを施してもよい。また、上述のめっき層の説明で記載の通り、Znめっきが好ましいが、Alめっき等の他の金属を用いためっき処理でもよい。
【0071】
なお、めっき処理条件については特に限定されないが、溶融亜鉛めっき処理を行う場合、溶融亜鉛めっき後の合金化処理条件は、480〜560℃の温度域で5〜60sとすることが好ましい。温度が480℃未満、あるいは時間が5s未満ではめっきの合金化が十分進まず、逆に温度が560℃を超えたり、時間が60sを超えると過度に合金化が進みめっきのパウダリング性が低下する。そのため合金化条件は480〜560℃で5〜60sとする。好ましくは500〜540℃で10〜40sである。
【0072】
また、CGLの加熱および保持帯の露点については、めっき性の観点から−20℃以下とすることが好ましい。
【実施例1】
【0073】
表1に示す成分組成を有する鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にてスラブとした。得られたスラブを表2に示す条件で板厚3.0mmまで熱間圧延した。次いで、酸洗後、板厚1.4mmに冷間圧延し冷延鋼板を製造し焼鈍に供した。焼鈍は非めっき鋼板については連続焼鈍ライン(CAL)にて行い、溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板については連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)にて行った。CALおよびCGLの通板条件を表2に示す。溶融亜鉛めっき処理の条件は、浴温475℃のめっき浴に鋼板を浸漬した後、引き上げ、ガスワイピングによりめっきの付着量を種々調整した。また、一部の鋼板については表2に示す条件で合金化処理を行った。Ac
1変態点は日本金属学会編「鉄鋼材料」p43(1985、丸善)に記載の下記式より求めた。
Ac1(℃)=723−10.7×(%Mn)+29.1×(%Si)+16.9×(%Cr)
なお、上記式において、(%Mn)、(%Si)、(%Cr)は各成分の含有量を示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
上記のように得られた鋼板について、引張特性、疲労特性、鋼板組織、ナノ硬度を以下の要領で測定した。
【0077】
引張特性は、鋼板の圧延方向と直角方向から採取したJIS5号試験片を用いて、歪速度10
−3/sで引張試験を行い、引張強度(TS)、伸び(El)を測定した。TSが590MPa以上、TSとELの積が15000MPa・%以上を合格とした。
【0078】
疲労特性は周波数20Hzの両振り平面曲げ試験法により疲労限(FL)を測定し、引張強度(TS)との比(FL/TS)により疲労特性を評価した。FL/TSが0.48以上を合格とした。
【0079】
鋼板断面組織は1%ナイタール溶液で組織を現出し、板厚1/4位置(表面から板厚の4分の1に相当する深さの位置)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率3000倍で観察し、撮影した組織写真からフェライトとマルテンサイトの面積率を定量化した。
【0080】
ナノ硬さは表面から板厚1/4位置(表面から板厚の4分の1に相当する深さの位置)で測定を行い、Hysitron社のTRIBOSCOPEを用いて3〜5μm間隔で7点×7〜8点で49〜56点測定した。圧痕は1辺が300〜800nmの三角形となるように、負荷荷重を主として1000μNとし、一部圧痕が800nmを超えるような場合には500μNとした。測定は結晶粒界や異相境界を除く位置で行った。標準偏差σはn個の硬さデータxに対し、前述の式(1)により求めた。
【0081】
結果を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に示すように、本発明例はいずれも、引張強度が590MPa以上の高強度で疲労特性に優れる。また、鋼板組織のナノ硬さの標準偏差とFL/TSとの関係を
図1に示す。
図1に示すように、本発明例はFL/TSが0.48以上であり疲労特性に優れることがわかる。さらに、500℃〜Ac
1変態点における平均加熱速度を20℃/s以上の発明例は、FL/TSが高く、疲労特性にさらに優れることがわかる。
【0084】
なお、地鉄表層も同様の測定を行った結果、本発明例ではナノ硬さの標準偏差σは1.50GPa以下であった。一方、露点が−40℃超えとなる条件では、表面のナノ硬さの標準偏差σは1.50GPa超えであった。
自動車部品用素材として優れた耐疲労特性を有し、かつTSが590MPa以上である薄鋼板とその製造方法、上記薄鋼板をめっきしためっき鋼板、上記薄鋼板を得るために必要な熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする
質量%で、C:0.04%以上0.15%以下、Si:0.3%以下、Mn:1.0%以上2.6%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上0.1%以下、N:0.015%以下であり、かつTi、Nbのうち1種または2種を合計で0.01%以上0.2%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、鋼板全体に対する面積率で、50%以上のフェライトと10%以上50%以下のマルテンサイトを有し、鋼組織のナノ硬さの標準偏差が1.50GPa以下である鋼組織とを有し、引張強度が590MPa以上であることを特徴とする薄鋼板。