特許第6237960号(P6237960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6237960薄鋼板およびめっき鋼板、並びに、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、薄鋼板の製造方法およびめっき鋼板の製造方法
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  • 特許6237960-薄鋼板およびめっき鋼板、並びに、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、薄鋼板の製造方法およびめっき鋼板の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6237960
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】薄鋼板およびめっき鋼板、並びに、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、薄鋼板の製造方法およびめっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20171120BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20171120BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20171120BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20171120BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20171120BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C22C38/06
   C22C38/60
   C21D9/46 J
   C21D9/46 S
   !C22C18/04
   !C22C18/00
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-525419(P2017-525419)
(86)(22)【出願日】2017年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2017001237
【審査請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-70746(P2016-70746)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-219338(P2016-219338)
(32)【優先日】2016年11月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】中垣内 達也
(72)【発明者】
【氏名】船川 義正
(72)【発明者】
【氏名】小野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−221198(JP,A)
【文献】 特開2012−012703(JP,A)
【文献】 特開2011−208181(JP,A)
【文献】 特開2011−195957(JP,A)
【文献】 特開2011−132576(JP,A)
【文献】 特開2010−255100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.08%以上0.3%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:2.0%以上3.5%以下、
P:0.1%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.01%以上0.1%以下、
N:0.015%以下を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、
鋼板全体に対する面積率で、マルテンサイトの面積率が50%以上90%以下でフェライトとベイナイトの面積率の合計が10〜50%であり、
地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度が板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度の60%以上である鋼組織とを有することを特徴とする薄鋼板。
【請求項2】
前記成分組成は、さらに、質量%で、
Ti:0.01%以上0.2%以下、
Nb:0.01%以上0.2%以下から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の薄鋼板。
【請求項3】
前記成分組成は、さらに、質量%で、
Cr:0.05%以上1.0%以下、
Mo:0.05%以上1.0%以下、
V:0.01%以上1.0%以下から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の薄鋼板。
【請求項4】
前記成分組成は、さらに、質量%で、
B:0.0003%以上0.005%以下を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄鋼板。
【請求項5】
前記成分組成は、さらに、質量%で、
Ca:0.001%以上0.005%以下、
Sb:0.003%以上0.03%以下から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の薄鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の薄鋼板の表面にめっき層を備えることを特徴とするめっき鋼板。
【請求項7】
請求項6に記載のめっき層が溶融亜鉛めっき層であることを特徴とするめっき鋼板。
【請求項8】
請求項7に記載の溶融亜鉛めっき層が合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とするめっき鋼板。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブに熱間圧延を施すにあたり、巻取温度を350℃以上550℃以下で巻き取ることで熱延鋼板を製造し、
前記熱延鋼板を、冷間圧下率を30〜95%で冷間圧延することで冷延フルハード鋼板を製造し、
前記冷延フルハード鋼板を、500〜750℃における平均加熱速度を20℃/s以下で800〜900℃まで加熱し10秒以上保持し、その際、750℃以上の温度域での露点を−40℃以下として焼鈍し、その後、3℃/s以上の平均冷却速度で550℃以下まで冷却することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の薄鋼板の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で得られた薄鋼板にめっき処理を施すことを特徴とする請求項6に記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法において、めっき処理は溶融亜鉛めっき処理であることを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法において、溶融亜鉛めっき処理後、さらに480〜560℃の温度域で5〜60sの合金化処理を行うことを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄鋼板およびめっき鋼板、並びに、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、薄鋼板の製造方法およびめっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全の見地から、自動車の燃費向上が重要な課題となっている。このため、車体材料の高強度化により薄肉化を図り、車体そのものを軽量化しようとする動きが活発となってきている。しかしながら、鋼板の高強度化は延性の低下、即ち成形加工性の低下を招くことから、高強度と高加工性を併せ持つ材料の開発が望まれている。このような要求に対して、これまでにフェライト、マルテンサイト二相鋼(DP鋼)が開発されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では高い延性を有するDP鋼が開示されており、さらに特許文献2では延性だけでなく伸びフランジ成形性に優れたDP鋼が開示されている。
【0004】
しかしながら、このようなDP鋼は硬質相と軟質相の複合組織を基本組織としているため疲労特性が劣るという問題点を有しており、疲労特性が必要となる部位での実用化に対する障害となっていた。
【0005】
このような問題に対して、特許文献3にはTiおよびNbを多量に添加して焼鈍時のフェライトの再結晶を抑制してA変態点以上の温度まで加熱した後、冷却時にフェライト−オーステナイトの二相域で60秒以上保持後Ms点以下まで冷却することで、微細なDP組織とし、DP鋼の耐疲労特性を向上させる技術を開示している。また、特許文献4には成分組成を適正範囲に調整し、組織をフェライトを主相としマルテンサイトまたはマルテンサイトおよび残留オーステナイトを第2相とする複合組織とし、フェライト中のCu粒子のサイズを規定した疲労特性に優れた高強度鋼板およびその製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−22332号公報
【特許文献2】特開平11−350038号公報
【特許文献3】特開2004−149812号公報
【特許文献4】特開平11−199973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3や特許文献4に記載の鋼板は引張強度(TS)が1100MPa以下であり、自動車の軽量化にはさらなる高強度化が必要である。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、自動車部品用素材として優れた耐疲労特性を有し、かつTSが1180MPa以上である薄鋼板とその製造方法を提供することを目的とするとともに、上記薄鋼板をめっきしためっき鋼板を提供すること、上記薄鋼板を得るために必要な熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、めっき鋼板の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した課題を達成し、連続焼鈍ラインや連続溶融亜鉛めっきラインを用いて耐疲労特性に優れる薄鋼板を製造するため、鋼板の組成およびミクロ組織の観点から鋭意研究を重ねた。その結果、地鉄表層のフェライト中の平均固溶Mn濃度の低下がTS1180MPa以上の鋼板の疲労特性を低下させることが分かった。
【0010】
鋼板の疲労強度は地鉄表層の影響を大きく受け、特に軟質相であるフェライトを含む複合組織鋼では表層のフェライトの強化が鋼板の疲労特性の向上に有効であることが知られている。フェライトの強化としてはMnなどによる固溶強化が代表的な強化方法となるが、MnはFeよりも酸化しやすい元素であり、熱間圧延の巻取り時や焼鈍時に鋼板表層付近で外部酸化や内部酸化によりMn系の酸化物を形成し、その結果、フェライト中の固溶Mn濃度が低下する。このような地鉄表層付近のフェライト中の固溶Mn濃度の低下により鋼板の疲労特性が低下し、特にTSが1180MPa以上の鋼板ではその低下が顕著となる。
【0011】
本発明者らは、TS1180MPa以上の薄鋼板において、地鉄表層(本発明では、地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域とする。)のフェライト中の平均固溶Mn濃度を、板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度の60%以上とすることにより、耐疲労特性が大幅に改善することを見出した。
【0012】
本発明は、上記した知見に基づくものであり、その構成は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.08%以上0.3%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以上3.5%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上0.1%以下、N:0.015%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、鋼板全体に対する面積率で、マルテンサイトの面積率が50%以上90%以下でフェライトとベイナイトの面積率の合計が10〜50%であり、地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度が板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度の60%以上である鋼組織とを有することを特徴とする薄鋼板。
[2]前記成分組成は、さらに、質量%で、Ti:0.01%以上0.2%以下、Nb:0.01%以上0.2%以下から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする[1]に記載の薄鋼板。
[3]前記成分組成は、さらに、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、V:0.01%以上1.0%以下から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の薄鋼板。
[4]前記成分組成は、さらに、質量%で、B:0.0003%以上0.005%以下を含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の薄鋼板。
[5]前記成分組成は、さらに、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、Sb:0.003%以上0.03%以下から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の薄鋼板。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の薄鋼板の表面にめっき層を備えることを特徴とするめっき鋼板。
[7][6]に記載のめっき層が溶融亜鉛めっき層であることを特徴とするめっき鋼板。
[8][7]に記載の溶融亜鉛めっき層が合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とするめっき鋼板。
[9][1]〜[5]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブに熱間圧延を施すにあたり、巻取温度を350℃以上550℃以下で巻き取ることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
[10][9]に記載の製造方法で得られた熱延鋼板を、冷間圧下率を30〜95%で冷間圧延することを特徴とする冷延フルハード鋼板の製造方法。
[11][10]に記載の製造方法で得られた冷延フルハード鋼板を、500〜750℃における平均加熱速度を20℃/s以下で800〜900℃まで加熱し10秒以上保持し、その際、750℃以上の温度域での露点を−40℃以下として焼鈍し、その後、3℃/s以上の平均冷却速度で550℃以下まで冷却することを特徴とする薄鋼板の製造方法。
[12][11]に記載の製造方法で得られた薄鋼板にめっき処理を施すことを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
[13][12]に記載の製造方法において、めっき処理は溶融亜鉛めっき処理であることを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
[14][13]に記載の製造方法において、溶融亜鉛めっき処理後、さらに480〜560℃の温度域で5〜60sの合金化処理を行うことを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、引張強度が1180MPa以上の高強度で疲労特性に優れる薄鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度に対する地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度の割合とFL/TSとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
本発明は、薄鋼板およびめっき鋼板、並びに、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、薄鋼板の製造方法およびめっき鋼板の製造方法である。先ず、これらの関係について説明する。
【0017】
本発明の薄鋼板は、スラブ等の鋼素材から出発して、熱延鋼板、冷延フルハード鋼板となる製造過程を経て薄鋼板となる。さらに、本発明のめっき鋼板は上記薄鋼板をめっきしてめっき鋼板になる。
【0018】
また、本発明の熱延鋼板の製造方法は、上記過程の熱延鋼板を得るまでの製造方法である。
【0019】
本発明の冷延フルハード鋼板の製造方法は、上記過程において熱延鋼板から冷延フルハード鋼板を得るまでの製造方法である。
【0020】
本発明の薄鋼板の製造方法は、上記過程において冷延フルハード鋼板から薄鋼板を得るまでの製造方法である。
【0021】
本発明のめっき鋼板の製造方法は、上記過程において薄鋼板からめっき鋼板を得るまでの製造方法である。
【0022】
上記関係があることから、熱延鋼板、冷延フルハード鋼板、薄鋼板、めっき鋼板の成分組成は共通し、薄鋼板、めっき鋼板の鋼組織が共通する。以下、共通事項、熱延鋼板、薄鋼板、めっき鋼板、製造方法の順で説明する。
【0023】
<薄鋼板、めっき鋼板の成分組成>
薄鋼板、めっき鋼板の成分組成は、質量%で、C:0.08%以上0.3%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以上3.5%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上0.1%以下、N:0.015%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
【0024】
さらに、上記成分組成は、質量%で、Ti:0.01%以上0.2%以下、Nb:0.01%以上0.2%以下から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0025】
さらに、上記成分組成は、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、V:0.01%以上1.0%以下から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0026】
さらに、上記成分組成は、質量%で、B:0.0003%以上0.005%以下を含有してもよい。
【0027】
さらに、上記成分組成は、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、Sb:0.003%以上0.03%以下から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0028】
以下、各成分について説明する。下記の説明において成分の含有量を表す「%」は「質量%」を意味する。
【0029】
C:0.08%以上0.3%以下
Cはマルテンサイトを生成させ所望の強度を確保するために必須の元素であり、そのためには0.08%以上必要である。一方、0.3%を超えると溶接性の低下を招く。そのため、C含有量は0.08%以上0.3%以下の範囲に制限する。下限は、好ましくは0.1%以上である。上限は、好ましくは0.25%以下である。
【0030】
Si:1.0%以下
Siは鋼の強化に有効な元素である。しかし、Si含有量が1.0%を超えると化成処理性やめっき性が低下する。そのため、Si含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.6%以下であり、より好ましくは0.5%以下である。
【0031】
Mn:2.0%以上3.5%以下
Mnは、鋼の強化に有効な元素であり、所望の強度を確保するために2.0%以上必要である。一方、3.5%を超えて過剰に含有すると溶接性や成形性の低下を招く。したがって、Mn含有量は2.0%以上3.5%以下とする。下限は、好ましくは2.2%以上である。上限は、好ましくは2.8%以下である。
【0032】
P:0.1%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、0.1%を超えて過剰に含有すると、加工性や靱性の低下を招く。したがって、P含有量は0.1%以下とする。
【0033】
S:0.01%以下
Sは、MnSなどの介在物となって成形性の低下を招くので極力低い方がよいが、製造コストの面からS含有量は0.01%以下とする。
【0034】
Al:0.01%以上0.1%以下
Alは脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸工程で含有させることが好ましい。ここで、Al含有量が0.01%に満たないとその効果に乏しくなるので、下限を0.01%とする。しかしながら、Alの過剰な含有は製鋼時におけるスラブ品質を劣化させる。したがって、Al含有量は0.1%以下とする。
【0035】
N:0.015%以下
N含有量が0.015%を超えると鋼板内部に粗大なAlNが増加し疲労特性が低下する。そのため、N含有量は0.015%以下とする。好ましくは0.010%以下である。
【0036】
本発明における薄鋼板、めっき鋼板は、上記の成分組成を基本成分とする。
【0037】
本発明では、必要に応じて、Ti、Nbから選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0038】
Ti:0.01%以上0.2%以下、Nb:0.01%以上0.2%以下
Ti、Nbは析出強化により鋼を高強度化する目的で含有する。所望の強度を確保するためには各々の元素含有量の下限を0.01%とすることが好ましい。一方、各々の元素が0.2%を超えて含有すると効果が飽和するだけでなく成形性の低下につながる。このため、各々の元素含有量の上限は0.2%とすることが好ましい。Ti含有量については、下限はさらに好ましくは0.03%以上であり、上限はさらに好ましくは0.1%以下である。Nb含有量については、下限はさらに好ましくは0.03%以上であり、上限はさらに好ましくは0.1%以下である。
【0039】
さらに必要に応じて、Cr、Mo、Vから選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0040】
Cr:0.05%以上1.0%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、V:0.01%以上1.0%以下
Cr、Mo、Vは焼き入れ性を上げ、鋼の強化に有効な元素である。その効果は、Cr:0.05%以上、Mo:0.05以上、V:0.01%以上で得られる。しかしながら、それぞれCr:1.0%、Mo:1.0%、V:1.0%を超えて過剰に含有すると、成形性が低下する。したがって、これらの元素を含有する場合には、Cr:0.05%以上1.0%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、V:0.01%以上1.0%以下であることが好ましい。Cr含有量については、下限はさらに好ましくは0.1%以上であり、上限はさらに好ましくは0.5%以下である。Mo含有量については、下限はさらに好ましくは0.1%以上であり、上限はさらに好ましくは0.5%以下である。V含有量については、下限はさらに好ましくは0.02%以上であり、上限はさらに好ましくは0.5%以下である。
【0041】
さらに必要に応じて、Bを含有してもよい。
【0042】
B:0.0003%以上0.005%以下
Bは焼入れ性を向上する作用を有する元素であり、必要に応じて含有することができる。このような作用はB含有量が0.0003%以上で得られる。しかし、0.005%を超えて含有すると、その効果が飽和してコストアップになる。したがって、含有する場合は0.0003%以上0.005%以下とする。下限は、さらに好ましくは0.0005%以上である。上限は、さらに好ましくは0.003%以下である。
【0043】
さらに必要に応じて、Ca、Sbから選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0044】
Ca:0.001%以上0.005%以下
Caは硫化物の形状を球状化し成形性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。この効果を得るためには0.001%以上必要である。しかしながら、過剰な含有は、介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥などを引き起こす。したがって、Caを含有する場合は、その含有量を0.001%以上0.005%以下とする。
【0045】
Sb:0.003%以上0.03%以下
Sbは鋼板表層部に生じる脱炭層を抑制し疲労特性を向上させる効果を有する。このような効果の発現のためには、Sb含有量を0.003%以上とすることが好ましい。しかし、Sb含有量が0.03%を超えると鋼板製造時に圧延荷重の増大を招き、生産性の低下が懸念される。したがって、Sbを含有する場合は、その含有量を0.003%以上0.03%以下とする。下限は、さらに好ましくは0.005%以上である。上限は、さらに好ましくは0.01%以下である。
【0046】
残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
【0047】
次に、薄鋼板、めっき鋼板の鋼板組織について説明する。
【0048】
マルテンサイトの面積率:50%以上90%以下
マルテンサイトは鋼の高強度化に働く。所望の強度を得るためには鋼板全体に対する面積率で50%以上必要である。しかし、面積率で90%を超えると成形性が低下する。そのため、マルテンサイトの面積率は50%以上90%以下とする。好ましくは50%以上80%以下である。
【0049】
フェライトとベイナイトの面積率の合計:10〜50%
良好な延性を確保するためには、フェライトとベイナイトの面積率の合計を、鋼板全体に対する面積率で、10%以上とすることが必要である。一方、フェライトとベイナイトの合計の面積率が50%を超えると所望の強度を得ることが困難になる。そのため、フェライトとベイナイトの面積率の合計は10〜50%とする。下限は、好ましくは20%以上である。上限は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは40%未満であり、さらに好ましくは38%以下である。
【0050】
本発明では上記相構成を満足していればよく、上記以外の相として、残留オーステナイトなどの相を含んでも構わない。
【0051】
地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度が、板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度の60%以上
地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度が、板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度に対して60%未満となると、所望の疲労特性が得られない。そのため、地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度は、板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度の60%以上とする。好ましくは80%以上である。上記のように地鉄表面の固溶Mn濃度の低下を抑制するためには、熱間圧延での巻取温度や焼鈍時の露点を適切な条件に制御する必要がある。
【0052】
<薄鋼板>
薄鋼板の成分組成および鋼組織は上記の通りである。また、薄鋼板の厚みは特に限定されないが、通常、0.7〜2.3mmである。
【0053】
<めっき鋼板>
本発明のめっき鋼板は、本発明の薄鋼板上にめっき層を備えるめっき鋼板である。めっき層の種類は特に限定されず、例えば、溶融めっき層、電気めっき層のいずれでもよい。また、めっき層は合金化されためっき層でもよい。めっき層は亜鉛めっき層が好ましい。亜鉛めっき層はAlやMgを含有してもよい。また、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき(Zn−Al−Mgめっき層)も好ましい。この場合、Al含有量を1質量%以上22質量%以下、Mg含有量を0.1質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。さらに、Si、Ni、Ce、Laから選ばれる1種以上を合計で1%以下含有していても良い。なお、めっき金属は特に限定されないため、上記のようなZnめっき以外に、Alめっき等でもよい。
【0054】
また、めっき層の組成も特に限定されず、一般的なものであればよい。例えば、片面あたりのめっき付着量が20〜80g/mの溶融亜鉛めっき層、これがさらに合金化された合金化溶融亜鉛めっき層を有することが好ましい。また、めっき層が溶融亜鉛めっき層の場合にはめっき層中のFe含有量が7質量%未満であり、合金化溶融亜鉛めっき層の場合にはめっき層中のFe含有量は7〜15質量%である。
【0055】
<熱延鋼板の製造方法>
次に製造条件について説明する。
【0056】
本発明の熱延鋼板の製造方法は、上記の「薄鋼板、めっき鋼板の成分組成」で説明した成分組成を有する鋼を転炉などで溶製し、連続鋳造法等でスラブとする。このスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とした後、酸洗し、冷間圧延を施し製造した冷延フルハード鋼板に連続焼鈍を施す。鋼板の表面にめっきを施さない場合は連続焼鈍ライン(CAL)にて焼鈍を行い、溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきを施す場合は連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)にて焼鈍を行う。
【0057】
以下、各条件について説明する。なお、以下の説明において、温度は特に断らない限り鋼板表面温度とする。鋼板表面温度は放射温度計等を用いて測定し得る。また、平均冷却速度は、(冷却前の表面温度−冷却後の表面温度)/冷却時間とする。
【0058】
鋼スラブの製造
上記鋼スラブ製造のための、溶製方法は特に限定されず、転炉、電気炉等、公知の溶製方法を採用することができる。また、真空脱ガス炉にて2次精錬を行ってもよい。その後、生産性や品質上の問題から連続鋳造法によりスラブ(鋼素材)とするのが好ましい。また、造塊−分塊圧延法、薄スラブ連鋳法等、公知の鋳造方法でスラブとしてもよい。
【0059】
鋼スラブの加熱
鋼スラブを熱間圧延するには、スラブを加熱後圧延する方法、連続鋳造後のスラブを加熱することなく直接圧延する方法、連続鋳造後のスラブに短時間加熱処理を施して圧延する方法などで行える。スラブ加熱温度は1100〜1320℃とすればよい。
【0060】
熱間圧延条件
熱間圧延条件は、熱延圧延時の巻取温度を350℃以上550℃以下の範囲内とすることにより、地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度が、板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度の60%以上とすることができる。なお、巻取温度の上限は好ましくは500℃未満であり、より好ましくは480℃以下である。
【0061】
<冷延フルハード鋼板の製造方法>
本発明の冷延フルハード鋼板の製造方法は、上記製造方法で得られた熱延鋼板を冷間圧延する冷延フルハード鋼板の製造方法である。
【0062】
冷間圧延条件は、焼鈍時に再結晶フェライトを生成させ加工性を確保するために、冷間圧下率を30%以上とする必要がある。ただし、冷間圧下率が95%を超えると圧延の負荷が過度に増大し生産性を阻害する。したがって、冷間圧下率は30〜95%とする。下限は、好ましくは40%以上である。上限は、好ましくは70%以下である。
【0063】
なお、上記冷間圧延の前に酸洗を行ってもよい。酸洗条件は適宜設定すればよい。
【0064】
<薄鋼板の製造方法>
本発明の薄鋼板の製造方法は、上記製造方法で得られた冷延フルハード鋼板を、500〜750℃における平均加熱速度を20℃/s以下で800〜900℃まで加熱し10秒以上保持し、その際、750℃以上の温度域での露点を−40℃以下として焼鈍し、その後、3℃/s以上の平均冷却速度で550℃以下まで冷却する方法である。
【0065】
500〜750℃における平均加熱速度を20℃/s以下
500〜750℃における平均加熱速度が20℃/sを超えると加熱時の回復や再結晶が不十分となり、冷間圧延で鋼板中に導入された転位が残存する。その結果、鋼板表層付近でのMnやSiの酸化が促進され、表層付近のフェライト中の固溶Mn濃度やSi濃度の低下が生じ、鋼板の疲労特性が低下する。したがって、500〜750℃における平均加熱速度を20℃/s以下とする。好ましくは15℃/s以下である。
【0066】
800〜900℃まで加熱し10秒以上保持
加熱温度が800℃未満あるいは保持時間が10秒未満では、再オーステナイト化が不十分となり焼鈍後に所望のマルテンサイト量が得られない。一方、900℃を上回ると表層でのMnやSiの酸化が生じ、疲労特性が低下する。そのため、加熱条件は800〜900℃で10秒以上とする。好ましくは830〜880℃で30秒以上である。
【0067】
なお、750℃以上の温度域における加熱速度については、特に限定されない。
【0068】
750℃以上の温度域での露点を−40℃以下
焼鈍時の露点を低下させることで焼鈍工程での酸素ポテンシャルが低下し、それに伴い易酸化性元素であるMnやSiの鋼板表層部における活量が低下する。そして、これらの元素の鋼板表層付近での酸化が抑制され疲労特性の向上に有効に働く。そのような効果は露点が−40℃以下で得られることから、750℃以上の温度域での露点を−40℃以下とする。好ましくは−55℃以下である。雰囲気の露点の下限は特に規定はしないが、−80℃未満では効果が飽和し、コスト面で不利となるため−80℃以上が好ましい。なお、上記温度域の温度は鋼板表面温度を基準とする。即ち、鋼板表面温度が上記温度域にある場合に、露点を上記範囲に調整する。
【0069】
3℃/s以上の平均冷却速度で550℃以下まで冷却
平均冷却速度が3℃/s未満では、冷却時に過度なフェライトの生成やパーライトの生成により所望の強度が得られなくなるため、平均冷却速度は3℃/s以上とする。平均冷却速度の上限は特に規定しないが、冷却速度が速くなりすぎると鋼板の形状が悪くなるため100℃/s以下とすることが好ましい。下限は、さらに好ましくは5℃/s以上である。上限は、さらに好ましくは50℃/s以下である。
【0070】
<めっき鋼板の製造方法>
本発明のめっき鋼板の製造方法は、薄鋼板にめっきを施す方法である。例えば、めっき処理としては、溶融亜鉛めっき処理、溶融亜鉛めっき後に合金化を行う処理を例示できる。また、焼鈍と亜鉛めっきを1ラインで連続して行ってもよい。その他、Zn−Ni電気合金めっき等の電気めっきにより、めっき層を形成してもよいし、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっきを施してもよい。また、上述のめっき層の説明で記載の通り、Znめっきが好ましいが、Alめっき等の他の金属を用いためっき処理でもよい。
【0071】
なお、めっき処理条件については特に限定されないが、溶融亜鉛めっき処理を行う場合、溶融亜鉛めっき後の合金化処理条件は、480〜560℃の温度域で5〜60sとすることが好ましい。温度が480℃未満、あるいは時間が5s未満ではめっきの合金化が十分進まず、逆に温度が560℃を超えたり時間が60sを超えると過度に合金化が進みめっきのパウダリング性が低下する。そのため、合金化条件は480〜560℃で5〜60sとすることが好ましい。さらに好ましくは、500〜540℃で10〜40sである。
【実施例1】
【0072】
表1に示す成分組成を有する鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にてスラブとした。得られたスラブを表2に示す条件で板厚3.0mmまで熱間圧延した。次いで、酸洗後、板厚1.4mmに冷間圧延し冷延鋼板を製造し焼鈍に供した。焼鈍は非めっき鋼板については連続焼鈍ライン(CAL)にて行い、溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板については連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)にて行った。CALおよびCGLの通板条件を表2に示す。溶融亜鉛めっき処理の条件は、浴温475℃のめっき浴に鋼板を浸漬した後、引き上げ、ガスワイピングによりめっきの付着量を種々調整した。また、一部の鋼板については表2に示す条件で合金化処理を行った。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
上記のように得られた鋼板について、引張特性、疲労特性、鋼板組織、フェライト中の平均固溶Mn濃度を以下の要領で測定した。
【0076】
引張特性は、鋼板の圧延方向と直角方向から採取したJIS5号試験片を用いて、歪速度10−3/sで引張試験を行い、引張強度(TS)、伸び(El)を測定した。TSが1180MPa以上、ELが10%以上を合格とした。
【0077】
疲労特性は周波数20Hzの両振り平面曲げ試験法により疲労限(FL)を測定し、引張強度(TS)との比(FL/TS)により疲労特性を評価した。FL/TSが0.47以上を合格とした。
【0078】
鋼板断面組織は1%ナイタール溶液で組織を現出し、板厚1/4位置(表面から板厚の4分の1に相当する深さの位置)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率3000倍で観察し、撮影した組織写真からマルテンサイト、フェライトおよびベイナイトの面積率を定量化した。
【0079】
フェライト中の平均固溶Mn濃度は、FIB加工した薄膜断面試料を用いてTEM−EDSで分析を行い測定した。測定は鋼板表面から0.5μmまでの領域と、板厚1/4位置について、それぞれ任意の10点について測定を行い、その平均値を地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度と、板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度とした。そして、板厚1/4位置のフェライト中の固溶Mn濃度に対する地鉄表面のフェライト中の固溶Mn濃度の割合を求めた。なお、めっき鋼板については、めっきと母材との界面から母材側0.5μmまでの領域を鋼板表面として平均固溶Mn濃度を求めた。
【0080】
結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すように、発明例はいずれも、引張強度が1180MPa以上の高強度で疲労特性に優れる。また、板厚1/4位置のフェライト中の固溶Mn濃度に対する地鉄表面のフェライト中の固溶Mn濃度の割合とFL/TSとの関係を図1に示す。図1に示すように、地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度が板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度の60%以上のものは、FL/TSが0.47以上であり疲労特性に優れることがわかる。さらに、露点が−55℃以下である発明例は、FL/TSが高く、疲労特性にさらに優れることがわかる。
【要約】
自動車部品用素材として優れた耐疲労特性を有し、かつTSが1180MPa以上である薄鋼板とその製造方法、上記薄鋼板をめっきしためっき鋼板、上記薄鋼板を得るために必要な熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法、めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする
質量%で、C:0.08%以上0.3%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以上3.5%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上0.1%以下、N:0.015%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、鋼板全体に対する面積率で、マルテンサイトの面積率が50%以上90%以下でフェライトとベイナイトの面積率の合計が10〜50%であり、地鉄表面から深さ0.5μmまでの領域のフェライト中の平均固溶Mn濃度が板厚1/4位置のフェライト中の平均固溶Mn濃度の60%以上である鋼組織とを有することを特徴とする薄鋼板。
図1