(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本実施形態に係るナノカーボンの分離方法及び精製方法、並びに分散液について説明する。本実施形態において、ナノカーボン材料とは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノツイスト、グラフェン、フラーレンなどを含めた主に炭素により構成されている炭素材料を意味する。ナノカーボンの一例として、単層カーボンナノチューブを包含する分散液から半導体型を持つ単層カーボンナノチューブと、金属型を持つ単層カーボンナノチューブと、を分離する場合について詳述する。
【0013】
(1)単層ナノカーボンチューブ
単層カーボンナノチューブは、チューブの直径、巻き方によって金属型と半導体型という2つの異なる性質に分かれることが知られている。現在知られている製造方法を用いて単層カーボンナノチューブを合成すると、金属的な性質を有する単層カーボンナノチューブ(以下、金属型の単層カーボンナノチューブと記す)と半導体的な性質を有する単層カーボンナノチューブ(以下、半導体型の単層カーボンナノチューブと記す)が統計的に1:2の割合で含まれる単層カーボンナノチューブの混合材料が得られる。
【0014】
なお、以下では、金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブとが混合した単層カーボンナノチューブことを、単層カーボンナノチューブ混合物と記す。単層カーボンナノチューブ混合物は、金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブとを含むものであれば特に制限されない。また本実施形態における単層カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ単体であってもよいし、一部の炭素が任意の官能基で置換された単層カーボンナノチューブや、任意の官能基で修飾された単層カーボンナノチューブであってもよい。
以降では、単層カーボンナノチューブ混合物が分散媒に分散した分散液を、半導体型を持つ単層カーボンナノチューブと、金属型を持つ単層カーボンナノチューブと、に分離する一例について詳述する。
【0015】
(2)単層カーボンナノチューブ混合物の分散液
本実施形態における単層カーボンナノチューブ混合物の分散液は、単層カーボンナノチューブ混合物が分散媒に分散した液体である。分散液の分散媒には、水もしくは重水を用いることが好適である。しかし、単層カーボンナノチューブを分散させることができる分散媒であれば、有機溶媒、イオン液体などの分散媒を用いても良い。分散媒中に単層カーボンナノチューブ混合物を分散させる補助材料として、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、その他の分散補助剤などを用いてもよい。特に、非イオン性界面活性剤を用いることが好適である。非イオン性界面活性剤については後述する。分散液の調製方法についても後述する。
【0016】
次に、本実施形態において使用する分離装置について説明する。
図1は、本実施形態における分離装置である。この分離装置は、I字型構造を有する電気泳動槽10と、電気泳動槽10内の上部に配置された電極20と、電気泳動槽10内の下部に配置された電極30と、電気泳動槽10内に液体を注入する注入口40と、液体を電気泳動槽10から回収する回収口50と、を有する。
【0017】
電気泳動槽10は、液体を収容可能な空間を有する。電気泳動槽10内に分離対象である単層カーボンナノチューブ混合物の分散液を注入し、カーボンナノチューブ混合物の分離を行う。電気泳動槽10の材質は、絶縁性の材質であればよい。例えば、電気泳動槽10の材質として、ガラス、石英、アクリル樹脂等を用いることができる。
【0018】
電極20と電極30とに電圧を印加すると、単層カーボンナノチューブ混合物が、金属型の単層カーボンナノチューブと、半導体型のカーボンナノチューブと、に分離する。金属型の単層カーボンナノチューブは、陰極近傍に集まる。一方、半導体型の単層カーボンナノチューブは陽極近傍に集まる。このため、電極20及び電極30を、電気泳動槽10の上端部と下端部とに配置することが望ましい。電気泳動槽10の下部に陽極を配置し、電気泳動槽10の上部に陰極を配置することがより好ましい。電極30を陽極、電極20を陰極とした場合、電界Zが電気泳動槽10の下方から上方へ向かう。一方、電気泳動槽10の下部に配置された電極30を陰極、電気泳動槽10の上部に配置された電極20を陽極とした場合、電界Zが電気泳動槽10の上方から下方へ向かう。ここで、上下とは、分離装置1を使用可能な状態で設置した場合での、重力方向の上を上、重力方向の下を下と示す。電極20、30の材料は、白金などを用いることができる。
【0019】
注入口40は、電気泳動槽10内に液体を注入するための開口である。本実施形態における注入口40は電気泳動槽10の上端に設けられた開口である。
回収口50は、液体を電気泳動槽10から回収するための開口である。回収口50は電気泳動槽10の下端に設けてもよい。回収口50を複数有する場合、それぞれの回収口は電極20、30の近傍に設けることが好ましい。分離された金属型の単層カーボンナノチューブは陰極近傍に移動し、半導体型の単層カーボンナノチューブは陽極近傍に移動するので、移動した単層カーボンナノチューブを効率的に回収することができる。
【0020】
図1に示す一例では注入口40と回収口50とを有する構成を示したが、分離装置1の構成はこれに限定されるものではない。例えば、注入口40は、回収口50を兼ねてもよい。
【0021】
次に、本実施形態に係る分離方法を説明する。
図2は、本実施形態における分離方法のフローチャートである。
【0022】
まず、第1のステップ(S1)では、互いに比重の異なる複数の液体を準備する。複数の液体のうち少なくとも1つは、単層カーボンナノチューブ混合物の分散液である。比重の異なる複数の液体は、所定の溶質が所定の溶媒に含有された液体である。所定の溶質としては、例えば、界面活性剤を用いることができる。また、所定の溶媒としては、水、重水を用いることができる。溶質である界面活性剤の濃度を調整することによって、比重の調製ができる。例えば、分散媒に重水を、溶質として界面活性剤として非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(Brij700[商品名])を用いることができる。この場合、室温(25℃)においてBrij700の1wt%水溶液は、Brij700の0.5wt%水溶液よりも比重が大きくなる。
次に、単層カーボンナノチューブ混合物の分散液を得る方法は特に限定されず、既知の方法を適用することができる。例えば、単層カーボンナノチューブ混合物と分散媒を混合し、超音波処理を行うことで単層カーボンナノチューブ混合物を分散媒に分散させる。または、機械的なせん断力により単層カーボンナノチューブを分散媒に分散させることもできる。分散液は、単層カーボンナノチューブ混合物と分散媒との他に界面活性剤等の分散補助剤を含んでもよい。
【0023】
次に、第2のステップ(S2)では、液体の比重が重力方向の下から上へ向かって減少するように、第1のステップで準備した液体を電気泳動槽10へ注入する。その際、液体が単層カーボンナノチューブを含むか否かに拘わらない。
具体的には、準備した液体のうち、比重が最大の液体を電気泳動槽10へ注ぐ。次に、準備した液体のうち2番目に比重が大きい液体を電気泳動槽10へ注ぐ。以下、比重の大きい液体から順に電気泳動槽10へ注ぐ。これにより、電気泳動槽中に、液体の比重が重力方向の下から上へ向かって減少する比重勾配を形成することができる。
【0024】
第3のステップ(S3)では、電気泳動槽へ直流電圧を印加する。液体中に分散したカーボンナノチューブ混合物のうち金属型の単層カーボンナノチューブが陰極近傍に移動し、半導体型の単層カーボンナノチューブが陽極側に移動する。この結果、液体中に分散したカーボンナノチューブ混合物を金属型と半導体型とに分離することができる。非イオン性界面活性剤が溶解した液体を用いる場合、金属型の単層カーボンナノチューブは液体中で正電荷を帯び、半導体型の単層カーボンナノチューブは極めて弱い負電荷を持つ。また、電圧印加後には、半導体型の単層カーボンナノチューブは金属型の単層カーボンナノチューブに比べ比重が大きくなる傾向にある。この比重の差によって生じる移動力と、電界と電荷とにより生じる電気泳動力と、の合力により単層カーボンナノチューブ混合物が金属型と半導体型とに分離される。
印加する電圧は、分散媒の組成及び単層カーボンナノチューブ混合物の電荷量により最適な値を決定する必要がある。水及び重水などを分散媒として用いた場合、最も離れた電極間に加える印加電圧は0Vより大きく、1000V以下(0〜1000V)の間の任意の値とすることが可能である。特に水・重水では電気分解の効果を抑えるため、0Vより大きく、120V以下(0〜120V)の範囲において電圧を印加することが望ましい。
【0025】
最後に、第4のステップ(S4)では、分離後の液体を回収する。電圧を印加した状態で、回収口50から回収を行う。なお、回収はそれぞれの試料を拡散混合しないならば、どのような手段を用いても良い。例えば、電圧の印加をやめ、静かにピペットにより1mL毎に吸い出す方法、分離流路に対して仕切り板を挿入し各ブロックの液体を回収する方法を用いてもよい。
【0026】
以上により単層カーボンナノチューブ混合物を、金属型の単層カーボンナノチューブと、半導体型の単層カーボンナノチューブと、に分離することができる。なお、第4のステップで得た回収液を用いて、第1のステップから第4のステップを繰り返し実行してもよい。繰り返し行うことにより、金属型の単層カーボンナノチューブおよび半導体型の単層カーボンナノチューブの純度を向上させることができる。
【0027】
なお、以上では単層カーボンナノチューブ混合物を、金属型の単層カーボンナノチューブと、半導体型の単層カーボンナノチューブと、に分離する一例について説明したがこれに限定されるものではない。例えば、電気泳動槽10内で分離させた後、目的の性質を持つ単層カーボンナノチューブのみを回収する、単層カーボンナノチューブの精製方法として行ってもよい。
【0028】
回収した試料の分離効率は、顕微Raman分光分析法(Radial Breathing Mode(RBM)領域のRamanスペクトルの変化、BWF領域のRamanスペクトル形状の変化)、及び紫外可視近赤外吸光光度分析法(吸収スペクトルのピーク形状の変化)などの手法により評価することができる。また、単層カーボンナノチューブの電気的特性について評価することによっても分離効率を評価することが可能である。例えば、電界効果トランジスタを作製して、そのトランジスタ特性を測定することによって試料の評価を行うことができる。
【0029】
上記の説明では非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(Brij700[商品名])を用いる例を説明した。しかし、非イオン性界面活性剤はこれに限定させるものではない。
非イオン性界面活性剤として、イオン化しない親水性部位とアルキル鎖など疎水性部位で構成されている非イオン性界面活性剤を1種類もしくは複数組み合わせて用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤や、アルキルグルコシド系非イオン性界面活性剤などを用いることができる。また、ポリオキシエチレン(n)アルキルエーテル(nが20以上100以下、アルキル鎖長がC12以上C18以下)で規定される非イオン性界面活性剤が好適に用いられる。例えば、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(Brij35[商品名])、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij58[商品名])、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(Brij78[商品名])、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル(Brij97[商品名])、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij56[商品名])、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル(Brij76[商品名])、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル(Brij98[商品名])、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(Brij700[商品名])などを用いることができる。
【0030】
図3から
図5に分離装置1の変形例を示す。
図3に示す分離装置1Aは、I字型構造を有する電気泳動槽10と、電気泳動槽10内の上部に配置された電極20と、電気泳動槽10内の下部に配置された電極30と、注入口40と、電極20の近傍に設けられた回収口50と、電極30の近傍に設けられた回収口60と、を有する。注入口40は、電気泳動槽10の高さ方向半分より上側であって、回収口50よりも下側の位置に設けられる。
【0031】
図4に示す分離装置1Bは、注入口40を電気泳動槽10の高さ方向半分より下側であって回収口60よりも上側の位置に有する。回収口50は電極20の近傍に配置するのが好ましく、回収口60は電極30の近傍に配置するのが好ましい。また、回収口50あるいは回収口60を用いず、電気泳動槽10の下方に設けた注入口40を用いて回収してもよい。その際は、まず半導体型単層カーボンナノチューブ層が回収され、ついで金属型単層カーボンナノチューブ層が回収される。
【0032】
図5に示す分離装置1Cは、U字型構造を有する。分離装置1Cの電気泳動槽10Aは、両端が上方に開口したU字型構造の電気泳動槽10Aを有する。電気泳動槽10Aの両端開口が、注入口40、回収口50となる。U字の一方に電極20を有し、反対側に電極30を有する。なお、一方の電極の高さ位置が、他方の電極の高さ位置よりも高いことが好ましい。陽極が下方に、陰極が上方になるように配置することがより好ましい。
【0033】
以上、単層カーボンナノチューブの金属型および半導体型分離に対して適用できる実施形態を説明したが、他のナノカーボン、すなわち多層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、グラフェンなどにも適用できる。
【0034】
本実施形態に係る分離方法を用いることにより、性質の異なるナノカーボンの分離において、分離効率を向上させることができる。
また、本実施形態に係る分離方法を用いることにより、電気泳動槽内で分散液が安定となる。この結果、分離されたナノカーボンの純度を高めることができる。
【0035】
以下に実施形態を示す。以下の実施形態は例示であり、以下の実施形態に発明が限定されるものではない。
(
実施形態1)
図6Aは、本実施形態に示す電気泳動条件の一例を示す概略図である。以下では、
図6Aを参照して説明する。
(1)分離用の液体の調製
分散媒として、水に、非イオン性界面活性剤であるBrij700を1wt%溶解した水溶液を準備した。この分散媒に対して、単層カーボンナノチューブ混合物(eDIPS単層カーボンナノチューブ)を単分散させた。単分散させた液体に対して、ホーン型超音波破砕機(出力約300W、30分間)による超音波分散処理を行った。その後、超遠心分離操作を行い、上澄み50%を分散液(以下、CNT分散液と記す)として得た。
また、水に非イオン性界面活性剤であるBrij700を2wt%溶解した水溶液(以下、Brij2wt%水溶液と記す)と、水を用意した。
液体の比重は、Brij2wt%水溶液が最も大きく、次いでCNT分散液であり、水の比重が最も小さかった。
【0036】
(2)液体の注入
調製した液体を、
図6Aに示す分離装置100の電気泳動槽101に注入した。まず、Brij2wt%水溶液を電気泳動槽101内に注いだ。注いだBrij2wt%水溶液によりBrij2wt%層106が形成された。次いで、Brij2wt%層106の上にCNT分散液105層が積層するように、CNT分散液を分離装置100の電気泳動槽101に静かに注入した。最後に、CNT分散液105層の上に水層104が積層するように、水を分離装置100の電気泳動槽101に静かに注入した。以上により、電気泳動槽101内の液体に、重力方向下から上に向かって減少する比重勾配を形成した。
【0037】
(3)分離操作
分離装置100の下側の電極103(陽極)と上側の電極102(陰極)間に直流電圧(30V)を印加した。
電圧印加終了後、電気泳動槽101における層の形成について確認を行った。分離操作前後の電気泳動槽101の写真を
図7A、
図7Bに示す。終状態では、金属型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(301、401)と透明な領域(302、402)、半導体型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(303、403)の3層を形成した状態となった。
【0038】
電圧印加終了後、電気泳動槽101の上部より約1mL毎に7フラクションとなるよう回収した。各フラクションは電気泳動槽101の陰極側(上部)から#1、#2、…、#7とした。得られたフラクションについて、後述する屈折率とpHの測定を行なった。
【0039】
(
実施形態1の比較例)
図6Bは、
図6Aと比較する電気泳動条件を示す概略図である。以下では、
図6Aを参照して説明する。
図6Bに示す分離装置200の電気泳動槽101に、実験例1と同じCNT分散液のみを注入した以外は実施形態1と同様の操作を行った。
【0040】
実施形態1及びその比較例について電圧印加による、電気泳動槽101中の液体の変化を確認した。分離操作前後の分離装置の写真を
図7A、
図7Bに示す。
図7Aは
実施形態1の分離操作前後の電気泳動槽101の写真であり、
図7Bは
実施形態1の比較例の分離操作前後の電気泳動槽101の写真である。
図7A、
図7B、いずれの場合も、分離操作の終状態では、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(301、401)と透明な領域(302、402)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(303、403)の3層を形成した状態となった。
図7A、
図7Bによれば、
実施形態1では、その比較例に比べて、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(301)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(303)が、それぞれ上側の電極102(陰極)及び下側の電極103(陽極)の近傍に片寄って形成された。また、それぞれの濃度も高くなった。
【0041】
CNT分散液(Pristine)、陽極側で回収した液体(semicon)、陰極側で回収した液体(metal)に対して、吸光度スペクトル分析と顕微Ramanスペクトル分析とを行った。分析した結果から、
実施形態1及びその比較例について、金属型・半導体型の分離傾向について評価した。
【0042】
吸収スペクトルの結果を、
図8A(
実施形態1)、
図8B(
実施形態1の比較例)に示す。図中のSは半導体型の単層カーボンナノチューブ由来の吸収ピークであり、図中のMは金属型の単層カーボンナノチューブ由来の吸収ピークである。半導体型及び金属型の単層カーボンナノチューブ由来のピークにおける面積から、半導体型及び金属型の単層カーボンナノチューブの含有率を計算することができる。
図8A、
図8Bから、
実施形態1のほうが比較例1よりも高純度に分離できたことが分かった。
【0043】
Ramanスペクトルの結果を、
図9A(
実施形態1)、
図9B(
実施形態1の比較例)に示す。
図9A、
図9Bおいて、左側のグラフは波数が100〜300cm
−1の範囲の結果を、右側のグラフは波数が1200〜1680cm
−1の範囲の結果を、それぞれ表わしている。励起光としては633nmを用いた。
RBM領域のRamanスペクトルは、ナノチューブの直径が振動するモードであり、100−300cm
−1の低波数領域にあらわれる。
G−bandのRamanスペクトルは、1590cm
−1付近に観測され、グラファイトの物質に共通してあらわれるスペクトルである。グラファイトの場合には、1585cm
−1付近に観測されるが、カーボンナノチューブの場合にはG−bandが2つに分裂し、G+とG−に分裂する。したがって、G−bandが2つのピークをもつように見えればナノチューブがあると判断できる。また、金属型ナノチューブの場合には、半導体型ナノチューブに比べて、G−の振動数が1550cm
−1と大きくずれる。
D−bandのRamanスペクトルは、1350cm
−1付近に観測され、欠陥に起因するスペクトルである。
ゆえに、
図9A、
図9Bの左側のグラフからは、RBM(ラジアルブリージングモード)領域のRamanスペクトルが、
図9A、
図9Bの右側のグラフからは、G−bandのRamanスペクトル、及びD−bandのRamanスペクトルが、それぞれ読み取ることができる。
【0044】
図9A(
実施形態1)と
図9B(
実施形態1の比較例)から、実施形態1の方が比較例に比べて、陰極側(metal)及び陽極側(semicon)のピークが何れも高いことが分かった。このことは、
実施形態1の方が比較例よりも金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブを高純度に分離できたことを示す。
【0045】
分離操作の終状態において、電気泳動槽101の上部より約1mL毎に7フラクションとなるよう回収した。各フラクションは電気泳動槽101の陰極側(上部)から#1、#2、…、#7とした。
実施形態1及びその比較例における分離後試料(各フラクション)について、屈折率とpHと泳動電流を評価した。
図10(A)、
図10(B)、
図10(C)は順に、
実施形態1における分離後試料の屈折率分布、pH分布、泳動電流を示すグラフである。
図11(A)、
図11(B)、
図11(C)は順に、
実施形態1の比較例における分離後試料の屈折率分布、pH分布、泳動電流を示すグラフである。
【0046】
図10(A)より、
実施形態1においては、フラクション#1からフラクション#7にかけて屈折率から割り出される界面活性剤(Brij700)の濃度について0wt%から2wt%まで濃度勾配が認められる。これに対して、
図11(A)より、比較例においては、濃度勾配が殆ど認められない。
同様に、
図10(B)より、
実施形態1においては、フラクション#1からフラクション#7にかけてpHがアルカリ性から酸性へとpHの減少が認められる。これに対して、
図11(B)においては、pHの変化は殆ど認められない。
【0047】
以上より、
実施形態1においては、対流が抑制されて金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離が安定的に行なわれているのに対し、比較例においては、対流が発生して分散液が全体的に撹拌され、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離が安定的に行なわれなかったことが推察される。すなわち、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブが安定的に分離されないとき(比較例2)には、分離に有効な界面活性剤(Brij700)の濃度勾配が形成されていないことになる。
【0048】
また、
図10(C)より、
実施形態1においては、泳動電流が時間の経過とともに安定的に漸減していることが分かる。これに対して、
図11(C)より、比較例においては、泳動電流の電流値が
実施形態1[
図10(C)]に比較して高く、かつ不安定である。このことから、
実施形態1においては、比較例に比べて電気泳動槽101内の対流が抑制されていることが推察される。
【0049】
(
実施形態2)
(1)分離用の液体の調製
分散媒として、水に、非イオン性界面活性剤であるBrij700を0.25wt%溶解した水溶液を準備した。この分散媒に対して、単層カーボンナノチューブ混合物(eDIPS単層カーボンナノチューブ)を単分散させた。単分散させた液体に対して、ホーン型超音波破砕機(出力約300W、30分間)による超音波分散処理を行った。その後、超遠心分離操作を行い、上澄み50%を分散液(以下、CNT分散液
Brij0.25wt%と記す)として得た。
同様に、水にBrij700を1.5wt%溶解した分散媒に単層カーボンナノチューブ混合物を分散させた分散液(以下、CNT分散液
Brij1.5wt%と記す)を調製した。CNT分散液
Brij1.5wt%の方が、CNT分散液
Brij0.25wt%よりも比重が大きい。
【0050】
(2)分散液の注入
調製した分散液を、
図12Aに示す分離装置100Bの電気泳動槽101に注入した。まず、CNT分散液
Brij1.5wt%を電気泳動槽101内に注いだ。注いだCNT分散液
Brij1.5wt%によりCNT分散液
Brij1.5wt%層106Bが形成された。次いで、CNT分散液
Brij1.5wt%層106Bの上にCNT分散液
Brij0.25wt%層105Bが積層するように、CNT分散液
Brij0.25wt%を分離装置100Bの電気泳動槽101に静かに注入した。以上により、電気泳動槽101内の液体に、重力方向下から上に向かって減少する比重勾配を形成した。
【0051】
(3)分離操作
分離装置100Bの下側の電極103(陽極)と上側の電極102(陰極)間に直流電圧(50V)を印加した。同様に、分離装置200Bにおいても直流電圧(50V)を印加した。
【0052】
(
実施形態2の比較例)
分散媒として、水にBrij700を1wt%溶解した水溶液を準備した。準備した分散媒に、単層カーボンナノチューブ混合物を分散させた分散液(以下、CNT分散液
Brij1wt%と記す)を調製した。
図12Bに示すように、電気泳動槽101にCNT分散液
Brij1wt%のみを注入した。それ以外は、
実施形態2と同様にした。
【0053】
実施形態2及びその比較例について電圧印加による、電気泳動槽101中の液体の変化を確認した。
図13Aに、
実施形態2の分離操作前後の分離装置の写真を示す。
図13Bに、
実施形態2の比較例の分離操作前後の分離装置の写真を示す。分離操作の終状態では、電気泳動槽101中の液体が、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(301B、401B)と透明な領域(302B、402B)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(303B、403B)の3層を形成した。
図13A、
図13Bより、
実施形態2は比較例に比べて、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(301B)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(303B)が、それぞれ上側の電極102(陰極)側及び下側の電極103(陽極)側に片寄って形成され、それぞれの濃度も高くなっていることが分かった。
【0054】
分離操作の終状態において、電気泳動槽101の上部より約1mL毎に10フラクションとなるよう回収した。各フラクションは電気泳動槽101の陰極側(上部)から#1、#2、…、#10とした。
実施形態2及びその比較例における分離後試料(各フラクション)について、屈折率とpHと泳動電流を評価した。
図14(A)、
図14(B)、
図14(C)は順に、
実施形態2における分離後試料の屈折率分布、pH分布、泳動電流を示すグラフである。
図15(A)、
図15(B)、
図15(C)は順に、
実施形態2の比較例における分離後試料の屈折率分布、pH分布、泳動電流を示すグラフである。
【0055】
図14(A)より、
実施形態2においては、フラクション#1からフラクション#10にかけて屈折率から割り出される界面活性剤(Brij700)の濃度について0.5wt%から1.5wt%まで濃度勾配が認められる。これに対して、
図15(A)より、比較例においては、濃度勾配が殆ど認められない。
同様に、
図14(B)より、
実施形態2においては、フラクション#1からフラクション#10にかけてpHの減少が認められる。これに対して、
図15(B)より、比較例では、pHの変化は殆ど認められない。
以上のことから、
実施形態2においては、対流が抑制されて金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が比較的安定的に行なわれていることが推察される。
【0056】
また、
図14(C)より、
実施形態2においては、泳動電流が時間の経過とともに安定的に漸減することが分かった。これに対して、
図15(C)より、比較例では、泳動電流の電流値が
実施形態2に比較して高く、かつ漸減が認められない。このことから、
実施形態2では、比較例に比べて電気泳動槽101内の対流が抑制されていることが推察される。
【0057】
(
実施形態3)
(1)分離用の液体の調製
分散媒として、水にBrij700を1wt%溶解した水溶液を準備した。準備した分散液に、直径が1.3nmである単層カーボンナノチューブ混合物(
eDIPS単層カーボンナノチューブ)を分散させた分散液を調製した。
【0058】
(2)液体の注入
分離装置として、
図5に示すU字形状に形成され両端が上方に開口したU字型構造の分離装置1Cを用いた。分離装置1Cの電気泳動槽10Aに、液体を注入した。まず、電気泳動槽10Aの開口部10Abから水を注いだ。これにより、電極30から開口10Abまでを水で満たした
。次に、電気泳動槽10Aの開口部10Aaから上記(1)で調製した分散液を注いだ。そして、電気泳動槽10Aの開口部10Aaから静かに水を注入し、分散液の上に水を積層させた。
【0059】
(3)分離操作
分離装置1Cの電極30(陽極)と電極20(陰極)間に直流電圧を印加した。後、電気泳動槽10Aにおける層の形成について確認を行った。分離操作前後の電気泳動槽10Aの写真を
図16に示す。分離操作の終状態では、電極30(陽極)から底面付近まで水の領域501、電極20(陰極)の直下付近に金属型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域502が形成され、その下部には底面付近まで透明な領域503があり、底面付近に半導体型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域504を形成していた。領域502と領域504において
それぞれ金属型単層カーボンナノチューブと
半導体型単層カーボンナノチューブが分離されたことを確認した。
【0060】
(
実施形態4)
(1)分離用の液体の調製
Brij700を0.5wt%溶解した水溶液に単層カーボンナノチューブ混合物を単分散させた分散液を準備した(以下、CNT分散液
Brij0.5wt%と記す)。次に、水に非イオン性界面活性剤であるBrij700を2wt%溶解した水溶液(以下、
Brij2wt%と記す)と、水を用意した。
【0061】
(2)液体の注入
準備した液体を、
図17Aに示す分離装置100Cの電気泳動槽101に注
入した。まず、Brij2wt%を電気泳動槽101内に注いだ。これにより、電気泳動槽101内に比重の重いBrij700−2wt%層106Cが形成された。次に、CNT分散液
Brij0.5wt%を静かに注いだ。このとき、Brij2wt%とCNT分散液
Brij0.5wt%とが拡散されないように、CNT分散液
Brij0.5wt%をBrij2wt%の液面付近で静かに注いだ。Brij700−2wt%層106Cの上にCNT分散液
Brij0.5wt%層105Cが積層した。そして、水を静かに注入した。CNT分散液
Brij0.5wt%層105Cの上に水の層104Cが積層した。
【0062】
(3)分離操作
分離装置100Cの下側の電極102(陰極)と上側の電極103(陽極)間に直流電圧(50V)を印加した。同様に、後述する比較例の分離装置200C(
図17B)においても直流電圧(50V)を印加した。すなわち、直流
電界が重力方向における上方から下方に向けて印加される。
【0063】
(
実施形態4の比較例)
図17Bに示すように、分離用の液体としてBrij700を1wt%溶解した水溶液に単層カーボンナノチューブ(
eDIPS単層カーボンナノチューブ)を単分散させた分散液(CNT)のみを用いた以外は
実施形態4と同様に行った。
【0064】
電圧印加終了後、電気泳動槽101における層の形成について確認を行った。
実施形態4及びその比較例における分離操作前後の電気泳動槽101の写真を
図18A、
図18Bにそれぞれ示す。分離操作の終状態では、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(301C、401C)と透明な領域(302C、402C)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(303C、403C)の3層を形成した状態となった。
図18A、
図18Bによれば、
実施形態4においては、比較例に比べて、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(301C)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(303C)が、それぞれ下側の電極102(陰極)及び上側の電極103(陽極)の近傍に片寄って形成され、それぞれの濃度も高くなっている。
【0065】
電圧印加終了後、電気泳動槽101の上部より約1mL毎に11フラクションとなるよう回収した。各フラクションは電気泳動槽101の陽極側(上部)から#1、#2、…、#11とした。
実施形態4及びその比較例における分離後試料(各フラクション)について、屈折率とpHと泳動電流を評価した。
図19(A)、
図19(B)、
図19(C)は順に、
実施形態4における分離後試料の屈折率分布、pH分布、泳動電流を示すグラフである。
図20(A)、
図20(B)、
図20(C)は順に、
実施形態4の比較例における分離後試料の屈折率分布、pH分布、泳動電流を示すグラフである。
【0066】
図19(A)より、
実施形態4においては、フラクション#1からフラクション#11にかけて屈折率から割り出される界面活性剤(Brij700)の濃度について0.25wt%から1.5wt%まで濃度勾配が認められる。これに対して、
図20(A)より、比較例においては、濃度勾配が殆ど認められない。
同様に、
図19(B)より、
実施形態4においては、フラクション#1からフラクション#11にかけてpHが酸性からアルカリ性へとpHの増加が認められる。これに対して、
図20(B)より、比較例においては、pHの変化は殆ど認められない。これより、直流
電界が重力方向における上方から下方に向けて印加される状態であっても、
実施形態4では、電気泳動槽内の対流が抑制されて金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が安定的に行なわれたことが推察される。一方、比較例では、対流が発生して分散液が全体的に撹拌され、金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が安定的に行なわれなかったことが推察される。すなわち、金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブが安定的に分離されないとき(比較例)には、分離に有効な界面活性剤(Brij700)の濃度勾配が形成されていないことになる。
【0067】
また、
図19(C)より、
実施形態4においては、泳動電流が時間の経過とともに安定的に漸減することが分かった。これに対して、
図20(C)より、比較例では、泳動電流の電流値が
実施形態4に比較して高く、かつ不安定である。このことから、
実施形態4では、比較例に比べて電気泳動槽101内の対流が抑制されていることが推察される。
【0068】
図21Aは、
図17Aの例における分離後試料の
吸収スペクトルである。
図21Aには、回収したフラクション#3(F03)、#10(F10)、分離前の液体(Pristine)の測定結果を示した。
図21Bは、310nm、640nm、937nm励起時における各フラクション#1、・・・、#11についての
吸収スペクトルを示す。
【0069】
図21A中のSは半導体型の単層カーボンナノチューブ由来の吸収ピークであり、Mは金属型の単層カーボンナノチューブ由来の吸収ピークである。半導体型及び金属型の単層カーボンナノチューブ由来のピークにおける面積から、各フラクションにおける半導体型及び金属型の単層カーボンナノチューブの含有率を計算することが可能である。
図21Bから、陰極側(metal)におけるフラクション#10においては金属型の単層カーボンナノチューブの吸収率が高く、陽極側(semicon)におけるフラクション#3においては半導体型の単層カーボンナノチューブの吸収率が高く分離が高純度化されていることが確認できる。
【0070】
図22は、電気泳動時の経過時間に対する分散液の界面活性剤の密度分布の変化を示すグラフである。非イオン性界面活性剤であるBrij700は、負極性の電荷を有している。このため、
図22に示すように、電気泳動槽101において直流電圧を印加すると、その電界によってBrij700が電気泳動する。
【0071】
従って、重力方向における下方を陽極、上方を陰極とした場合、Brij700が陽極に向かって泳動する。この結果、時間の経過とともに重力方向における下方から上方に向かって濃度勾配が形成され、金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が促進されていた。本実施例においては、電気泳動槽101内において、予め重力方向における下方から上方に向かって濃度勾配を形成するように分散液を積層しているために、直流電圧の印加方向によらず金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が促進される結果となった。
【0072】
以上、実施形
態を参照して本発明を説明したが、本発明は実施形
態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
金属型と半導体型のナノカーボンの分離効率と分離速度をさらに向上させる、ナノカーボンの分離方法、カーボンナノチューブの精製方法及び分散液を提供する。ナノカーボンの分離方法は、ナノカーボンが分散した分散液を用意する工程と、液体の比重が重力方向の下から上へ向かって減少するように、電気泳動槽へ前記分散液を含む液体を注入する工程と、電気泳動槽の上部と下部とに配置された電極に直流電流を印加する工程と、を有する。