(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から
図3に基づいて本発明の一実施例に係る内燃機関の可変圧縮比装置を説明する。
【0018】
図1には本発明の一実施例に係る内燃機関の可変圧縮比装置の要部を説明する外観状況、
図2にはコネクティングロッドを分解して表す外観状況、
図3(a)には高圧縮比の状態のコネクティングロッドの断面、
図3(b)には低圧縮比の状態のコネクティングロッドの断面を示してある。
【0019】
図1に示すように、内燃機関のシリンダブロック(下部ブロック2だけを示してある)にはクランクシャフト3のクランクジャーナル4が回転自在に支持される。
【0020】
図1、
図2に示すように、クランクシャフト3のクランクピン5(支持軸)には、コネクティングロッド10の大端部6が回転自在に支持される。即ち、コネクティングロッド10の大端部6の支持穴が支持軸に枢支される。コネクティングロッド10の小端部7には、気筒内を往復移動するピストン8の支持軸が回転自在に支持される。即ち、ピストン8の支持軸にコネクティングロッド10の小端部7の支持穴が枢支される。
【0021】
ピストン8が気筒内を往復移動することにより、コネクティングロッド10を介してクランクシャフト3がクランクジャーナル4を中心に回転する。つまり、コネクティングロッド10により、ピストン8の往復移動がクランクシャフトの回転力として伝えられる。
【0022】
コネクティングロッド10の大端部6の支持穴には、偏心スリーブ11の外周面が回転自在に支持され、偏心スリーブ11の内周面は、クランクシャフト3のクランクピン5の外周面に回転自在に支持されている。偏心スリーブ11は、厚肉部11aと薄肉部11bが周方向に対向して設けられ、肉厚が徐々に変化している。
【0023】
コネクティングロッド10の大端部6には、偏心スリーブ11を回転駆動させるアクチュエータ12が内蔵されている。具体的には後述するが、アクチュエータ12により偏心スリーブ11を回転させることにより、クランクシャフト3のクランクピン5の中心と、コネクティングロッド10の大端部6の中心が偏心し、ピストン8(
図1参照)の移動状態が高圧縮比の状態、もしくは、低圧縮比の状態に切換えられる。
【0024】
即ち、熱効率向上、燃費向上のため、高圧縮比での運転が有利となる一方、高負荷運転時に高圧縮比で運転を行うとノッキングの発生が生じる虞があるため、主に、低負荷運転時の際に高圧縮比で運転できるようになっている。このため、運転状態に応じて、アクチュエータ12を駆動して偏心スリーブ11を回転させることで、
図3に示すように、高圧縮比の状態、もしくは、低圧縮比の状態に切換えられる。
【0025】
図3(a)に示すように、厚肉部11aが上方にある状態の偏心スリーブ11の回転位置が高圧縮比の状態となっている。
図3(b)に示すように、薄肉部11bが上方にある状態の偏心スリーブ11の回転位置が低圧縮比の状態となっている。
【0026】
つまり、
図3に示すように、偏心スリーブ11の厚肉部11aが上方にある高圧縮比の状態(a)は、偏心スリーブ11の薄肉部11bが上方にある低圧縮比の状態(b)に比べ、ピストン8の上死点の位置(移動状態)が高さhだけ高い位置になる。
【0027】
例えば、低圧縮比の状態は高負荷運転の時とされているため、高圧縮比の状態から低圧縮比の状態への切換えの場合、低負荷運転から高負荷運転への変化であり、高い応答性が要求されている。
【0028】
このため、高圧縮比の状態から低圧縮比の状態へ切換える場合、クランクシャフト3の回転により連れ回りする力が働く方向に偏心スリーブ11を回転させ、応答性が高い状態で偏心スリーブ11を回転させるようにしている。そして、低圧縮比の状態から高圧縮比の状態に切換える際には、高い応答性は要求されないので、アクチュエータ12の作動範囲を必要以上に広げることなく、クランクシャフト3の回転方向に対し逆方向に偏心スリーブ11を回転させるようにしている。
【0029】
アクチュエータ12を駆動して偏心スリーブ11を回転させるため、偏心スリーブ11の回転位置を確実に所望の回転位置に制御することが可能になる。
【0030】
図2及び
図4、
図5に基づいてアクチュエータ12、偏心スリーブ11の回転を制御する制御手段を具体的に説明する。
【0031】
図4にはコネクティングロッドの大端部の断面、
図5には油圧回路の概略系統を示してある。
【0032】
図2、
図4に示すように、コネクティングロッド10の大端部6には、偏心スリーブ11を回転駆動させるアクチュエータ12の油圧室13が設けられている。即ち、コネクティングロッドの大端部6は、ロッド側の端部に形成され、支持穴の上側の半分を形成する(半円状体に形成される)ロッド側端部15と、支持穴の下側の半分を形成しロッド側端部15に固定される半円状体のキャップ16とで構成されている。
【0033】
そして、キャップ16の内側(支持穴)に断面がコ字型(
図2参照)の油圧室13が設けられている。油圧室13はキャップ16の内側の周方向の両端部に亘って設けられている。つまり、油圧室13は、コネクティングロッド10の大端部6のロッド側端部15とキャップ16との分割部位を除く部位に形成されている。
【0034】
コネクティングロッド10の大端部6のロッド側端部15とキャップ16との分割部位を除く部位に油圧室13が形成されているので、加工が容易な分割部位に、油圧室13への圧油の供給路、排出路を形成することができる。また、キャップ16に油圧室13が形成されているので、ロッド側端部15に油圧室を形成する必要がなく、大端部6に油圧室13を設けた場合であっても、ロッド側端部15のロッド部との境界部の補強等を行うことなく剛性を維持することができる。
【0035】
そして、油圧室13はキャップ16の内側の周方向の両端部に亘って設けられているので、アクチュエータ12により偏心スリーブ11を略180度の角度で回転駆動させることができる。このため、偏心スリーブ11の偏心量を広い回転範囲で設定することができる。
【0036】
尚、油圧室13をキャップ16の両端部に亘って形成したが、偏心スリーブの偏心状況に応じて、キャップ16の任意の周長の長さの油圧室とすることができる。また、ロッド側端部15に油圧室を設けることも可能であり、キャップ16とロッド側端部15とに亘り油圧室を設けることも可能である。更に、偏心スリーブ11側に油圧室を設けることも可能である。
【0037】
偏心スリーブ11の外周部の厚肉部11aと薄肉部11bの境目に該当する部位には、伝達手段としてのベーン17が設けられている。ベーン17は油圧室13の断面形状に応じたコ字型に形成されて油圧室13に配され、ベーン17により油圧室13が二室に仕切られている。
【0038】
一方の室に油圧を供給すると共に他方の室から油圧を排出することにより偏心スリーブ11が一方向に回転し、他方の室に油圧を供給すると共に他方の室から油圧を排出することにより偏心スリーブ11が他方向に回転する。
【0039】
つまり、伝達手段であるベーン17がシリンダーのピストンの役割を果たし、ベーン17を挟んだ一方の油圧室13に油圧を供給すると同時に他方の油圧室13から油圧を排出し、排出状況を制御することにより、偏心スリーブ11の回転位置の制御が実施される。言い換えれば、油圧室13およびベーン17がキャップ16に内蔵されてアクチュエータ12を構成し、偏心スリーブ11の回転位置の制御が実施される。
【0040】
クランクシャフト3(
図1参照)の回転方向が、
図4中で時計回り方向である場合(クランクピン5の移動方向が図中白抜き矢印方向である場合)、偏心スリーブ11の厚肉部11aが図中右半分を回転して上下に配されると共に薄肉部11bが図中左半分を回転して上下に配される状態で、ベーン17が油圧室13に配される。
【0041】
図4に示すように、ベーン17から厚肉部11a側の図中右側の油圧室(一方の油圧室13a)に油圧を供給すると同時に、ベーン17から図中左側の薄肉部11b側の油圧室(他方の油圧室13b)から油圧が排出されることで、偏心スリーブ11が図中時計回り方向に回転して薄肉部11bが上方になる低圧縮比の状態にされる。
【0042】
つまり、高圧縮比の状態から低圧縮比の状態への切換える場合に、クランクシャフト3(
図1参照)の回転により連れ回りする力が働く方向に偏心スリーブ11を回転させ、応答性が高い状態で偏心スリーブ11を回転させている。
【0043】
逆に、他方の油圧室13bに油圧を供給すると同時に、一方の油圧室13aから油圧が排出されることで、偏心スリーブ11が図中反時計回り方向、即ち、クランクシャフト3(
図1参照)の回転方向に対し逆方向に回転して厚肉部11aが上方になる高圧縮比の状態にされる。
【0044】
つまり、低圧縮比の状態から高圧縮比の状態に切換える際には、高い応答性は要求されないので、クランクシャフト3(
図1参照)の回転方向に対し逆方向に偏心スリーブ11を回転させている。
【0045】
図4に示すように、ロッド側端部15には固定ピン28が支持穴側に突出付勢された状態で設けられている。つまり、固定ピン28の先端が偏心スリーブ11の周面に摺接した状態でロッド側端部15に固定ピン28が設けられている。偏心スリーブ11の外周面には、固定ピン28の先端が嵌合する嵌合溝29が形成されている。
【0046】
偏心スリーブ11の厚肉部11aが上方になる高圧縮比の状態にされる時に、嵌合溝29aが固定ピン28に対向して固定ピン28が嵌合溝29aに嵌合して高圧縮比の状態が固定される。偏心スリーブ11の薄肉部11bが上方になる高圧縮比の状態にされる時に、嵌合溝29bが固定ピン28に対向して固定ピン28が嵌合溝29bに嵌合して低圧縮比の状態が固定される。
【0047】
圧縮比を変更する場合、図示しない機構により、一方の嵌合溝29(嵌合溝29a)から固定ピン28の嵌合を解除する。そして、偏心スリーブ11を回転させることで、他方の嵌合溝29(嵌合溝29b)に固定ピン28を嵌合させて変更後の圧縮比の状態を固定する。
【0048】
図1及び
図4、
図5に基づいて偏心スリーブ11の回転を制御するための機構を具体的に説明する。
【0049】
図4、
図5に示すように、一方の油圧室13a側の油圧室13の端部には第1排出口21が連通し、他方の油圧室13b側の油圧室13の端部には第2排出口22が連通している。また、一方の油圧室13a側の油圧室13の端部には第1供給口25が連通し、他方の油圧室13b側の油圧室13の端部には第2供給口26が連通している。
【0050】
第1排出口21が閉じられて第1供給口25から油圧が一方の油圧室13aに供給されると、第2排出口22から油圧が排出されて偏心スリーブ11が
図4中時計回り方向に回転する。第2排出口22が閉じられて第2供給口26から油圧が他方の油圧室13bに供給されると、第1排出口21から油圧が排出されて偏心スリーブ11が
図4中反時計回り方向に回転する。
【0051】
図5に示すように、第1供給口25と第2供給口26の切換えを行う供給切換え弁31が備えられている。また、第1排出口21と第2排出口22の切換えを行う排出切換え弁32が備えられている。供給切換え弁31及び排出切換え弁32の切換えは制御手段33の指令により制御される。制御手段33には運転状態(高負荷時等の低圧縮比で運転する状態、低負荷時等の高圧縮比で運転する状態)の情報が入力される。
【0052】
つまり、車両の運転状態に応じて、供給切換え弁31及び排出切換え弁32が切換え制御され、油圧の供給が第1供給口25もしくは第2供給口26から実施されることが切換えられ、油圧の排出が第1排出口21もしくは第2排出口22から実施されることが切換えられる。即ち、偏心スリーブ11の回転方向が供給切換え弁31及び排出切換え弁32の切換えにより制御される。
【0053】
供給切換え弁31には油圧ポンプ35からの供給路36が接続され、排出切換え弁32にはタンク37に繋がる排出路38が接続されている。
【0054】
図1に示すように、供給切換え弁31及び排出切換え弁32は、シリンダブロックの下部ブロック2に設けられたバルブブロック41に配されている。バルブブロック41から、クランクシャフト3のクランクジャーナル4、クランクピン5を介して油圧の供給・排出が実施される。
【0055】
図6、
図7に基づいて高圧縮比と低圧縮比の切換えの状況を具体的に説明する。
【0056】
図6には高圧縮比の状態から低圧縮比の状態への切換えの動作説明、
図7には低圧縮比の状態から高圧縮比の状態への切換えの動作説明を示してあり、各図の(a)は切換え前の状態、各図の(b)は切換え途中での状態、各図の(c)は切換えが終了した状態である。
【0057】
図6(a)に示すように、高圧縮比の状態では、偏心スリーブ11は、厚肉部11aが上部に位置し、ベーン17が図中右側の端部に位置する状態に回転位置が固定されて、他方の油圧室13bに油圧が満たされている。低圧縮比に切換えが行われる場合、第1排出口21が閉じられると共に第2排出口22が開かれる。この状態で、第1供給口25から一方の油圧室13aに油圧が供給される。
【0058】
図6(b)に示すように、他方の油圧室13bの油圧が第2排出口22から排出され、一方の油圧室13aの容積の増加によりベーン17が押されて偏心スリーブ11が図中時計回り方向に回転する。
【0059】
図6(c)に示すように、第1供給口25から一方の油圧室13aに油圧が供給され続けることにより、他方の油圧室13bの油圧が第2排出口22から全て排出され、ベーン17が押されて偏心スリーブ11が図中時計回り方向に回転し、薄肉部11bが上部に位置して低圧縮比の状態に切換えられる。
【0060】
従って、高圧縮比の状態から低圧縮比の状態に切換える場合には、アクチュエータ12を駆動して、クランクシャフト3(
図1参照)の回転により(クランクピン5の白抜き矢印方向への移動により)連れ回りする力が働く方向に偏心スリーブ11を回転させている。
【0061】
この結果、応答性が必要とされる低圧縮比の状態への切換えの際に、応答性が高い状態で偏心スリーブ11を回転させることができる。
【0062】
図7(a)に示すように、低圧縮比の状態では、偏心スリーブ11は、薄肉部11bが上部に位置し、ベーン17が図中左側の端部に位置する状態に回転位置が固定されて、一方の油圧室13aに油圧が満たされている。高圧縮比に切換えが行われる場合、第2排出口22が閉じられると共に第1排出口21が開かれる。この状態で、第2供給口26から他方の油圧室13bに油圧が供給される。
【0063】
図7(b)に示すように、一方の油圧室13aの油圧が第1排出口21から排出され、他方の油圧室13bの容積の増加によりベーン17が押されて偏心スリーブ11が図中反時計回り方向に回転する。
【0064】
図7(c)に示すように、第2供給口26から他方の油圧室13bに油圧が供給され続けることにより、一方の油圧室13aの油圧が第1排出口21から全て排出され、ベーン17が押されて偏心スリーブ11が図中反時計回り方向に回転し、厚肉部11aが上部に位置して高圧縮比の状態に切換えられる。
【0065】
従って、低圧縮比の状態から高圧縮比の状態に切換える場合には、高い応答性は要求されないので、アクチュエータ12を駆動して、クランクシャフト3(
図1参照)の回転(クランクピン5の白抜き矢印方向への移動)に対し逆方向に偏心スリーブ11を回転させている。
【0066】
上述した内燃機関の可変圧縮比装置は、油圧室13に対して油圧を供給・排出するアクチュエータ12によりベーン17を介して偏心スリーブ11を回転させるので、大端部6の支持穴とクランクピン5との位置を偏心させ、ピストン8の移動状態を高圧縮比の状態もしくは低圧縮比の状態に切換えることができる。このため、偏心スリーブ11の回転位置を確実に高圧縮比の状態もしくは低圧縮比の状態の位置(所望の回転位置)に制御することが可能になる。
【0067】
そして、高圧縮比の状態から低圧縮比の状態への切換える場合、クランクシャフト3の回転により連れ回りする力が働く方向に偏心スリーブ11を回転させているので、応答性が高い状態で偏心スリーブ11を低圧縮比の状態の位置(所望の回転位置)に制御することが可能になる。また、高圧縮比の状態に切換える際には、高い応答性は要求されないので、クランクシャフト3の回転方向に対し逆方向に偏心スリーブ11を回転させることで、アクチュエータ12の作動範囲を必要以上に広げることを無くすことが可能になる。
【0068】
尚、上述した実施例では、油圧室13に油圧を供給してベーン17を介して偏心スリーブ11を回転させるアクチュエータ12を用いた構成を例に挙げて説明したが、回転モータを用いて偏心スリーブ11を回転させるアクチュエータや、電動で偏心スリーブ11を回転させるアクチュエータを用いることも可能である。