(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238043
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】地盤−構造物系の液状化時の残留変形簡易算定方法
(51)【国際特許分類】
G06F 17/50 20060101AFI20171120BHJP
G06F 19/00 20110101ALI20171120BHJP
【FI】
G06F17/50 612H
G06F19/00 110
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-85650(P2013-85650)
(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2014-206959(P2014-206959A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】福武 毅芳
【審査官】
合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−291572(JP,A)
【文献】
特開2007−009558(JP,A)
【文献】
特開2003−278171(JP,A)
【文献】
特開2011−012510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
G06F 19/00
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象とする地盤と構造物の地震時に発生した液状化後の残留変形を、コンピュータが有限要素法要素モデルによる線形自重解析によって求める簡易算定方法であって、
地表面水平変位Dcy値をもとに液状化後の一次元水平地盤モデルの沈下量δvを算出するステップと、
前記解析対象の地盤各層の要素における補正N値との関係から設定された最大せん断ひずみ値γmaxから液状化後の地盤剛性を算定し、該地盤剛性と初期ポアソン比νとを入力値として用いた前記地盤と構造物とを要素モデルとした有限要素法による線形自重解析における遠方地盤での沈下量δrを算定するステップと、
前記δvとδrとを比較し、(ν+Δν)<0.5の条件の下で、
δv<δrの場合に、前記νを入力値(ν+Δν)
δv>δrの場合に、前記νを入力値(ν−Δν)
に再設定して前記線形自重解析をδvとδrとの差があらかじめ設定した閾値以下、すなわちδv≒δrとなるまで差分Δνを用いた繰り返し演算を行うステップと、
前記繰り返し演算結果をもとに前記要素モデルにおける解析対象の地盤、構造物の残留変形を決定するステップを実行する
ことを特徴とする地盤−構造物系の液状化時の残留変形簡易算定方法。
【請求項2】
前記遠方地盤での沈下量δrは、前記要素モデルの前記構造物の挙動の影響を受けない前記要素モデルの側方境界節点での沈下量を用いる、請求項1に記載の地盤−構造物系の液状化時の残留変形簡易算定方法。
【請求項3】
前記解析対象の各要素の最大せん断ひずみ値γmaxは、有効応力解析結果から作用せん断応力を用いて算定する、請求項1に記載の地盤−構造物系の液状化時の残留変形簡易算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤−構造物系の液状化時の残留変形簡易算定方法に係り、適正入力値を設定するために、簡易なトライアル解析を行って、実際の現象に近い解析結果を得ることができるようにした地盤−構造物系の液状化時の残留変形簡易算定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限要素法等の設計手法によって地盤と構造物とを一体とした解析モデルを作成し、地盤液状化による地盤、構造物の変形挙動を解析する耐震設計作業が行われている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)。この解析モデルを用いた設計作業においては、解析モデルの作成に時間と手間がかかる上に、土質パラメータ等の入力データが不足していて、複雑な解析モデルによる高精度の解析が実施できない場合が多々ある。
【0003】
特許文献1に記載の地盤・構造物変形量予測方法は、出願人が開発した、三次元解析モデルに所定の地震波入力データを入力し、地震発生経過に伴う地盤変形挙動を高精度に再現できる解析ソフトウエアの発明である。このような高精度の解析ソフトウエアを用いた設計手法に対して、実際の設計業務においては、液状化後の地盤の概略的な変形状態(残留変形)を得るためには、特許文献1に示したような大がかりで手間がかかる解析モデルでなく、簡易な解析モデルで、おおよその解析結果を得られるような解析手法も必要である。
【0004】
たとえば、液状化後の地盤や構造物の残留変形を、簡便に求める解析(たとえば2次元有限要素法解析)を行う際、液状化後の解析モデルとして、地盤要素を地盤剛性が低下した線形弾性体と仮定して静的自重解析を行い、地盤や構造物の残留変形を求める手法が行われている。このとき、液状化後の地盤特性を適正に設定するためには、地盤剛性とポアソン比の2つの入力値を適正に設定することが重要である。このときの剛性低下した状態の地盤剛性は、既往の設計指針(非特許文献2)や研究成果(非特許文献3、非特許文献4)に開示されたグラフ等(例えば
図3、
図4、
図5)を参照して、所定の剛性低下率を考慮したり、FL値や最大せん断ひずみγ
maxをもとに設定できることが知られている。なお、以下の実施形態の説明で、上述の各非特許文献(具体的には下記一覧)に開示されたグラフ等を引用して説明する場合、単に「文献1」等と記す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4640671号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】安田進他、“ALID研究会”、[online]、2010年4月5日、2次元液状化流動解析プログラムALID/Winの紹介、[2013年4月1日検索]、インターネット<http://www.jibansoft.com/alid_lab.htm>
【非特許文献2】日本建築学会編、“建築基礎構造設計指針”、日本建築学会発行、2001年10月刊、pp.61−72
【非特許文献3】規矩大義他3名、“繰返し載荷時のせん断履歴が液状化後の流動特性に与える影響”、地震時の地盤・土構造物の流動性と永久変形に関するシンポジウム、地盤工学会、1998年、pp.325、328、
【非特許文献4】Ishihara,K,andYoshimine.M.:“Evaluation of settlements in sand deposits following liquefaction during earthquakes, SOILS&FOUNDATIONS, Vol.32,No.1, pp.173-188, 1992(4)効果
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、他の入力値であるポアソン比νに関しては、従来、適切な設定方法がなく、経験的な入力値を用いていた。よって、解析結果として得られた地盤沈下量や構造物の傾斜量の信頼性は高いとは言えなかった。
【0008】
液状化状態を現象面から考察すると、地震時に軟弱な砂質層が液状化すると過剰間隙水圧が上昇し、砂質層が液体状に近くなる。このような仮定ではポアソン比νの値は0.5にごく近い値(例えば0.499…)となると考えられる。このとき、砂質層の変形は非排水・等体積条件となる。この場合、
図1に示した解析モデル(説明のためメッシュを省略表示している。)のように、解析対象の砂質層上に建物等の構造物や盛土などの土構造物が構築されている例では、その構造物は同図(2)に示したように、自重により沈下するが、このとき等体積条件での解析なので、沈下した地盤体積分だけ周辺の地盤が盛り上がってしまう変形モード結果となってしまう。この解析結果は、実際の構造物の沈下、地盤変形の実情と異なる。すなわち、構造物の周辺地盤も、実際には液状化後の過剰間隙水圧の消散に伴い、体積圧縮して沈下(圧密沈下に近い現象)するためである。
【0009】
この解析結果と実情とを整合させるための対応策として、
図1に示した解析モデルの各節点での解析結果に圧密解析による各節点位置での沈下量を重ね合わせる手法も行われる。しかし、この圧密解析は、地震時に発生する過剰間隙水圧量とその消散仮定とを合わせて時々刻々解析する必要があり、解析が複雑で手間がかかる。よって、上述したような簡易設計の実務の観点からは使いやすい設計手法とは言えない。また線形自重解析において、ポアソン比νとして根拠無く低減させた値を用いることは、その沈下量に物理的意味がなくなる。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、地盤液状化後の線形自重解析に用いるポアソン比νを、適切な方法で設定する設計手法を提案し、それにより地盤−構造物系の液状化時の残留変形を簡易に評価できる手法を構築することにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、既往の設計指針をもとにした簡易な液状化判定の計算を経て、線形自重解析のみで、液状化による地盤剛性低下による変形と、過剰間隙水圧の消散による圧密変形の両方を考慮した残留変形を簡易に求めることができる。これにより、構造物を含む地盤沈下量や傾斜量が適切かつ簡便に評価できるという効果を奏する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は解析対象とする地盤と構造物の地震時に発生した液状化後の残留変形を、コンピュータ
が有限要素法要素モデルによる線形自重解析によって求める簡易算定方法であって、地表面水平変位Dcy値をもとに液状化後の一次元水平地盤モデルの沈下量δvを算出するステップと、前記解析対象の地盤各層の要素における補正N値との関係から設定された最大せん断ひずみ値γ
maxから液状化後の地盤剛性を算定し、該地盤剛性と初期ポアソン比νとを入力値として用いた前記地盤と構造物とを要素モデルとした有限要素法による線形自重解析における遠方地盤での沈下量δrを算定するステップと、前記δvとδrとを比較し、(ν+Δν)<0.5の条件の下で、
δv<δrの場合に、前記νを入力値(ν+Δν)
δv>δrの場合に、前記νを入力値(ν−Δν)
に再設定して前記線形自重解析をδvとδrとの差があらかじめ設定した閾値以下、すなわちδv≒δrとなるまで差分Δνを用いた繰り返し演算を行うステップと、前記繰り返し演算結果をもとに前記要素モデルにおける解析対象の地盤、構造物の残留変形を決定するステップを実行することを特徴とする。
【0012】
前記遠方地盤での沈下量δrは、前記解析モデルの前記構造物の挙動の影響を受けない側方境界節点での沈下量を用いることが好ましい。
【0014】
前記解析対象の各要素の最大せん断ひずみ値γ
maxは、前記補正N値との関係から導くのでなく、有効応力解析結果から作用せん断応力を用いて算定してもよい。この場合、より高精度の値が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による地盤−構造物系の液状化時の残留変形簡易算定方法(線形自重解析)の手法について示した模式解析モデル図。
【
図2】本発明による地盤−構造物系の液状化時の残留変形簡易算定方法における解析フローの一実施形態を示した解析フロー図。
【
図3】本発明の解析過程において用いる限界残留せん断ひずみγ
maxの算出グラフ(文献2掲載図表に加筆)。
【
図4】地震時の最大せん断ひずみと液状化後の剛性低下率との関係を示した文献3に掲載のグラフ。
【
図5】地震時の最大せん断ひずみγ
maxと液状化後の各要素の体積ひずみε
vの関係を示した文献4に掲載のグラフ。
【
図6】FL値と液状化後の剛性低下率との関係を示した既往文献に記載のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の地盤−構造物系の液状化時の残留変形簡易算定方法の実施するための形態として、以下の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0017】
[基本解析]
対象地盤に液状化が生じた後の変形状態の解析手法について説明する。解析
手法はコンピュータ
が行う有限要素法(FEM)線形自重解析による。本発明の特徴は、解析入力値としての適正なポアソン比νの設定方法を提案するもので、その入力値をもとにして行う線形自重解析の解析フローについて、以下説明する。
図2は、コンピュータ
が行う、各入力値の設定から残留変形を得るまでの一連の線形自重解析の概略手順を示した解析フロー図である。
【0018】
まず、対象地盤の地表面最大加速度α
maxを想定し、外力としての作用せん断応力と、対象地盤の密度、N値、粒度分布の入力データを設定する。これらをもとに
図3のグラフ(文献2掲載図表に加筆)により、各層の最大せん断ひずみγ
maxを求める。同様に繰り返しせん断ひずみγ
cyから、文献2の掲載図表を参照してD
cy値(液状化に伴う水平変位量)を設定し、その値から対象地盤水平地盤の沈下量を求める。この沈下現象は過剰間隙水圧の消散による体積ひずみに対応する沈下と考えられ、圧密成分に相当する。
【0019】
一方、γ
maxから
図4のグラフ(文献3記載図表)により、液状化後の剛性低下を考慮した地盤剛性を算定する。この地盤剛性値と初期に仮定したポアソン比ν(=0.490)を用いて、二次元または三次元のFEM線形自重解析を行う。このときの解析モデルの地盤側方境界は、構造物から十分遠くまで設定し、地表面の沈下分布が一様になる程度までの範囲を設定することが好ましい。この場合、解析結果の遠方地盤の解析結果は、構造物の影響を受けない自由地盤と見なせる。よって、遠方地盤の沈下量δrが水平自由地盤(一次元地盤)の沈下量δvと一致するように、ポアソン比νの値を決定する。このためにポアソン比νの値を変化させたトライアルによる線形自重解析を行う。すなわち、1回目の解析のνを0.490に設定し、解析モデルでの遠方地盤の沈下量δrと一次元(1D)水平地盤の沈下量δvとを比較し、δr>δvであれば、初期ポアソン比νを0.5に近い値に大きく(ν+Δν)し、小さければνを小さく(ν−Δν)する。そのときの差分Δνは0.001〜0.005程度に設定することが好ましい。
遠方地盤の沈下量δrが水平自由地盤(一次元地盤)の沈下量δvと一致する条件としてはδrとδvとの差が所定の閾値未満となるように設定し、その結果が得られるまで繰り返し演算を行う。以上の一連のトライアル解析は線形自重解析なので、非常に簡便で演算時間も短かくてすむ。このため地盤−構造物系の一体的な沈下量、構造物の傾斜角等を容易に算出することができる。
【0020】
以下、解析対象地盤において、他の解析結果があれば、その解析結果を援用してより精度の高い結果を得ることができるオプション解析も可能である。以下、その内容について簡単に説明する。
【0021】
[オプション解析(1)]
対象地盤の地盤応答解析結果があれば、上述の基本解析において想定した地表面加速α
maxに代えて、作用せん断応力τを利用し、また入力地震波形の相違による影響を考慮した残留変形の予測ができる。
【0022】
[オプション解析(2)]
対象地盤の一次元地盤モデルによる有効応力解析結果があれば、各要素のγ
maxを利用し、さらに精度を向上させることもできる。例えば、
図5のグラフ(文献4掲載図表)を用いて、有効応力解析結果の各要素の最大せん断ひずみγ
maxから液状化後の各要素の体積ひずみε
vを求めて圧密沈下量を算定することができる。
【0023】
[オプション解析(3)]
さらに、文献1において開示されている「2次元液状化流動解析プログラムALID/Win」において適用されている、FL値と液状化後の剛性低下率との関係を示すグラフ(
図6)を用いて液状化後の地盤剛性の算定(地盤の剛性低下率)を求めることも可能である。
【0024】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
δr 遠方地盤の沈下量
δv 水平地盤の沈下量